以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1及び図2は、本発明の一実施形態によるハンマー装置を適用した電子ピアノの鍵盤装置の一部を、離鍵状態において示している。両図に示すように、この鍵盤装置1は、電子ピアノの左右方向に並んだ多数の鍵2(図1では8つの白鍵2a、5つの黒鍵2bを図示)と、これらの鍵2を支持する鍵盤シャーシ3と、この鍵盤シャーシ3の後端部に連結されたハンマーサポート4と、鍵2ごとに設けられ、押鍵された鍵2に連動して回動する多数のハンマー5(図1では、8つの白鍵用ハンマー5a、5つの黒鍵用ハンマー5bを図示)と、ハンマー5ごとに設けられ、鍵2の押鍵時にレットオフ感を付与するための多数のレットオフ部品6(図2において1つのみ図示)と、鍵2の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ7などで構成されている。
鍵盤シャーシ3は、左右方向に延びる前レール9a、中レール9b及び後レール9cから成る3本の支持レール9と、前後方向に延びる複数の補強用のリブ10とを、井桁状に組み立てたものであり、棚板(図示せず)上に固定されている。これらの支持レール9及びリブ10はいずれも、プレスによる打抜き及び折曲げ加工によって所定の形状に形成された金属板で構成されている。
前レール9aの下面及び中レール9bの上面にはそれぞれ、筬前11及び筬中12が固定されている。筬前11及び筬中12は、合成樹脂(例えばABS樹脂)から成る肉厚の板状のものであり、前レール9a及び中レール9bの全体にわたって左右方向に延びている。筬中12には、白鍵2a及び黒鍵2bに対応する前後の位置に、多数のバランスピン13(図1では8つの白鍵用バランスピン13a、5つの黒鍵用バランスピン13bを図示)が、左右方向に並んだ状態で立設されている。また、筬前11には、多数のフロントピン14が、左右方向に並んだ状態で立設されている。
図3は、フロントピン14が立設された筬前11の一部を示している。同図に示すように、筬前11は、左右方向に延びる複数(例えば2〜5つ)の成形品(以下「筬前成形品」という)15を、互いに左右方向に連結することによって構成されている。各筬前成形品15には、その長さ方向に沿って、フロントピン14の下端部が嵌入される多数のピン孔15aが形成されるとともに、筬前成形品15自体を前レール9aにねじ止めするための複数の取付け孔15bが形成されている。これらの取付け孔15bはいずれも、筬前成形品15の長さ方向(左右方向)に延びる長孔状に形成されている。また、互いに隣接する筬前成形品15、15は、次のように連結されている。
図4は、2つの筬前成形品15、15の連結部分を底面側から見たときの状態を示しており、(a)は連結した状態、(b)は連結前の状態を示している。両図に示すように、各筬前成形品15の底面には、多数の前記ピン孔15aにそれぞれ対応して、下方(図4では上方)に突出しかつ所定の径を有する凸状の多数のボス16が形成されている。また、一方(図4(b)の右側)の筬前成形品15の端部(左端部)には、他方(図4(b)の左側)の筬前成形品15の端部(右端部)のボス16に嵌合する嵌合孔17が形成されている。
上記のように、合成樹脂製の複数の筬前成形品15が互いに連結されることによって構成された筬前11では、電子ピアノの使用環境の温度変化などによって、筬前11が長さ方向(左右方向)に伸縮することがある。この場合、合成樹脂製の筬前11は、金属製の前レール9aよりも変化量が大きく、また、上述した筬前成形品15の連結構造によって、以下のように、互いに隣接する筬前成形品15、15のピン孔15a、15a間の距離の変化を抑制することができる。
図5(a)〜(c)は、本実施形態における筬前成形品15A、15Bが互いに連結し、前レール9aにねじ止めされた状態において、収縮するときの状態を模式的に示している。同図(a)に示す2つの筬前成形品15A、15Bは、前述したように、左側の筬前成形品15Aの右端のボス16を、右側の筬前成形品15Bの嵌合孔17に嵌合させた状態で連結される(同図(b))。この状態において、筬前成形品15A及び15Bが収縮すると、それらのピン孔15a、15a間の距離αは、若干縮まるものの、ほぼ同程度の距離βとなる(同図(c))。
一方、図5(d)〜(f)は、比較例における筬前成形品15C、15Dが互いに当接し、前レール9aにねじ止めされた状態において、収縮するときの状態を模式的に示している。同図(d)に示す2つの筬前成形品15C、15Dは、互いに対向する面が当接している(同図(e))。この場合、両筬前成形品15C、15Dの互いに最も近いピン孔15a、15a間は、他のピン孔15同士の間の距離と同様、距離αに設定されている。この状態において、筬前成形品15C及び15Dが収縮すると、それぞれの筬前成形品15C、15Dにおけるピン孔15同士の間は、前述した本実施形態の筬前成形品15A、15Bと同様、距離βとなる。しかし、筬前成形品15C、15Dの互いに最も近いピン孔15a、15a間は、距離α、βよりも大きい距離γ(>α、β)となる。この場合には、筬前成形品15C、15Dの端部のフロントピン14にそれぞれ係合し、互いに隣り合う2つの鍵2、2の間に、他の鍵2同士よりも大きな隙間が生じてしまう。
以上のように、本実施形態における筬前成形品15A、15Bの連結構造では、比較例における筬前成形品15C、15Dと異なり、筬前11が収縮した場合でも、ピン孔15a、15a同士の距離βを、収縮前とほぼ同程度の距離αに保つことができる。これにより、比較例の筬前成形品15C、15Dを用いた場合の上述した不具合、すなわち、互いに隣り合う2つの鍵2、2の間に大きな隙間が生じるという不具合を防止することができる。
図6は、白鍵2a及び黒鍵2bを示している。同図に示すように、鍵2は、前後方向に延びるとともに矩形状の横断面を有する木製の鍵本体21と、その前半部の上面及び前面に接着された合成樹脂製の鍵カバー22とを有している。鍵本体21の長さ方向の中央付近には、バランスピン孔23が形成されており、鍵2は、このバランスピン孔23を介して、筬中12に立設されたバランスピン13に揺動自在に支持されている。
なお、各バランスピン孔23は、鍵本体21の下面付近にほぼ円形の孔が形成されるとともに、その孔に連なる上部全体が、鍵本体21の長さ方向に延びる長孔状に形成されている。また、バランスピン孔23の左右の内面には、鍵2が揺動する際に、バランスピン13に対して円滑に摺動させるために、フェルトが23aが設けられている。なお、鍵本体21の上面には、バランスピン孔23の後ろ側にクッション20が接着されており、このクッション20により、演奏時やメンテナンス時などに、ハンマー5の前端部が鍵2に直接当たることが防止される。
また、鍵本体21の前部の所定位置には、下方に開放するフロントピン孔24(図2参照)が形成されており、このフロントピン孔24が、筬前11に立設されたフロントピン14に係合することによって、鍵2が揺動する際の左右方向のぶれが防止される。
さらに、図6に示すように、白鍵2a及び黒鍵2bの後端部には、離鍵状態におけるハンマー5の後述する鍵当接部56の下端が鍵2に当接する高さを所定高さに規定するためのハンマー当接高さ規定部25が取り付けられている。このハンマー当接高さ規定部25は、硬質の合成樹脂(例えばABS樹脂)から成る所定形状の成形品で構成されている。
具体的には、図7及び図8に示すように、ハンマー当接高さ規定部25は、前後方向に所定長さ延びる上片31と、この上片31の後端部に連なり下方に延びる後片32と、この後片32の下端部に連なり前方に所定長さ延びる下片33とにより、側面形状がコ字状に形成されている。また、ハンマー当接高さ規定部25の左側面には、上片31及び後片32に連なる側壁34が設けられている。
上片31は、その前半部を構成するとともに、上片31自体を鍵2の上面後端部に固定するための上片固定部31aと、上片31の後半部を構成するとともに、上面が平坦に形成され、ハンマー5の鍵当接部56を下方から支持した状態で受けるハンマー受け部31bとを有している。上片固定部31aの大部分は、ハンマー受け部31bよりも厚さが薄く形成されており、コ字状の固定金具35が上片固定部31aに外側から打ち込まれることによって、上片31が鍵2の上面後端部に固定されている。
後片32は、上片31のハンマー受け部31bに連なり、後方に凸状に形成された後片上部32aと、この後片上部32aに連なって下方に延び、厚さが薄く形成された後片固定部32bと、この後片固定部32bの下端部に連なり、後方に凸状に形成された後片下部32cとを有している。このように構成された後片32は、コ字状の固定金具36が後片固定部32bに外側から打ち込まれることによって、鍵2の後端面に固定されている。
下片33は、後片32の下端部から前方に斜め上がりに延びており、その上面前端部に、鍵2の下面後端部に当接する下片凸部33aが設けられている。また、下片33は、後片32との接続部分を支点として上下方向に撓むことが可能なばね性を有している。
側壁34は、図8(a)に示すように、上片31の下面左端部及び後片32の前面左端部に連なるとともに内方に突出し、側面形状がL字状に形成されている。なお、ハンマー当接高さ規定部25では、成形時の樹脂量の少量化及び成形品の軽量化を図るとともに、成形時のヒケや変形を防止するために、上片31のハンマー受け部31b、並びに後片32の後片上部32a及び後片下部32cに適宜、右方に開放する空洞が形成されている。
以上のように構成されたハンマー当接高さ規定部25は、上片31の下面、後片32の前面及び側壁34の三面がそれぞれ、鍵2の後端部における上面、後端面及び左側面の三面にぴったりと接するとともに、下片33の下片凸部33aが鍵2の下面後端部に当接した状態で、鍵2の後端部に取り付けられている。なお、各鍵2へのハンマー当接高さ規定部25の取付けの際には、ハンマー当接高さ規定部25の上記三面に接着剤を塗布し、ハンマー当接高さ規定部25を鍵2の後端部に仮止めした状態で、2つの固定金具35、36をそれぞれ、鍵2の上方及び後方から打ち込むことによって、ハンマー当接高さ規定部25が鍵2に強固に固定される。
ハンマー当接高さ規定部25が取り付けられた鍵2は、図2に示すように、離鍵状態において、ハンマー当接高さ規定部25の後片下部32cが、後レール9c上に固定されたクッション38に載置される。これにより、離鍵状態における全ての鍵2では、ハンマー当接高さ規定部25のハンマー受け部31bの高さが同じ高さになる。
図9及び図10は、ハンマーサポート4を示している。同図に示すように、ハンマーサポート4は、合成樹脂で構成され、例えば1オクターブ分の複数の成形品を互いに左右方向に連結したものであり、全てのハンマー5にわたるように左右方向に延びるとともに、鍵盤シャーシ3の後レール9cにねじ止めされている。ハンマーサポート4は、後レール9c付近から直立するハンマー支持部41と、その上端部から前方に斜め上がりに延びるスイッチ取付部42などで構成されている。ハンマー支持部41の上端部には、各ハンマー5を回動自在に支持するためのハンマー支点軸43が設けられている。
また、ハンマーサポート4は、互いに左右方向に所定間隔を隔てた状態で、隣り合うハンマー5を仕切る複数の仕切壁44を有しており、隣り合う仕切壁44、44の間に、前記ハンマー支点軸43が左右方向に延びている。このハンマー支点軸43は、図9(b)に示すように、ハンマー支点軸43の軸心を中心とする円の前後2カ所を切り欠いた、いわゆる小判形の断面形状を有している。
具体的には、このハンマー支点軸43の外周面は、上下一対の曲面部43a、43aと、これらの曲面部43a、43aの間に延びる前後一対の平面部43b、43bとで構成されている。このように構成されたハンマー支点軸43では、上下の曲面部43a、43aが、長さL1の直径を有する円弧に設定される一方、前後の平面部43b、43b間が、上記の長さL1よりも短い長さL2に設定されている。
図11は、白鍵用及び黒鍵用のハンマー5(5a及び5b)を示している。同図に示すように、白鍵用ハンマー5a及び黒鍵用ハンマー5bは、全体としてほぼ同様に構成されており、以下の説明では、白鍵用のハンマー5(5a)を代表して説明するものとする。
図11及び12(a)に示すように、ハンマー5は、前後方向に延びるアーム状のハンマー本体51と、その左右の側面の前端部に、リベット50を介して取り付けられた2つの錘板52、52とを有している。ハンマー本体51は硬質の合成樹脂で構成され、錘板52は、比重が比較的大きな鉄などの金属材料で構成されている。なお、白鍵用及び黒鍵用のハンマー本体51の側面にはそれぞれ、「W」及び「B」の刻印が付されている。
ハンマー本体51の後端部には、ハンマーサポート4のハンマー支点軸43に係合する係合部53が設けられている。この係合部53には、側面形状がC字状に形成された円弧状の軸穴54が形成されており、その開口部に、外方に向かって広がるように形成された前後のガイド面55、55が設けられている。軸穴54は、ハンマー支点軸43の上下の曲面部43a、43aによる直径(長さL1)よりも若干大きな直径を有するとともに、開口部の幅L3が、ハンマー支点軸43の前後の平面部43b、43b間の長さL2よりも若干大きくかつ上記の長さL1よりも小さくなっている。そして、ハンマー5は、軸穴54の開口部を介して、ハンマーサポート4のハンマー支点軸43に対して着脱可能になっており、軸穴54がハンマー支点軸43に嵌合することによって、ハンマーサポート4に回動自在に支持されている。
また、図12(a)に示すように、ハンマー5の底面後部の所定位置には、下方に突出し、鍵2の前述したハンマー当接高さ規定部25に上方から当接する鍵当接部56が設けられている。この鍵当接部56は、ハンマー5のハンマー本体51と一体に成形された当接凸部57と、この当接凸部57を覆った状態に、ハンマー本体51に取り付けられた凸部カバー58とで構成されている。
図12(b)に示すように、鍵当接部56の当接凸部57は、下方に突出し、下面が円弧状に形成されている。また、ハンマー本体51には、当接凸部57の前側上部に、凸部カバー58の後述するフック62が係合するフック受け部59が形成されている。フック受け部59は、下方に開放する凹状に形成されており、その上端部に係止凹部59aを有している。
一方、凸部カバー58は、所定の弾性材料(例えばエラストマー)から成り、所定形状の成形品で構成されている。具体的には、図12(b)及び(c)に示すように、凸部カバー58は、上方に開放し、上記当接凸部57を覆った状態で収容するカバー本体61と、このカバー本体61の前端部から上方に延び、ハンマー本体51のフック受け部59に係合するフック62とを有している。カバー本体61は、ハンマー本体51の当接凸部57と同様、底面が円弧状に形成されている。また、フック62の上端部には、爪部62aが設けられており、この爪部62aがフック受け部59の係止凹部59aに係止されることにより、凸部カバー58は、当接凸部57に装着された状態で、ハンマー本体51にしっかりと取り付けられる。
なお、凸部カバー58の底面には、互いに平行に延び、下方に開放する2つの溝61a、61aが形成されている(図12(c)参照)。これらの溝61aは、凸部カバー58の底面に塗布された粘性の低い潤滑油を長期間にわたって保留するためのものであり、この潤滑油により、鍵当接部56と、ハンマー当接高さ規定部25のハンマー受け部31bとの間の摩擦を大幅に低減し、両者56、31bの間の滑性が高められている。
また、ハンマー5には、その軸穴54とハンマーサポート4のハンマー支点軸43との間に、グリスなど、粘性が比較的高い潤滑剤が塗布されている。それにより、ハンマー5が回動する際のがたつきやノイズの発生を防止しながら、ハンマー5の円滑な回動が確保されるようになっている。
しかし、電子ピアノの使用環境などにより、上記の潤滑剤が、ハンマー5の軸穴54とハンマー支点軸43との間から流出することがある。この流出した潤滑剤が、ハンマー5の側面を伝って、軸穴54の前方の鍵当接部56に付着すると、すなわち、潤滑油があらかじめ塗布されている鍵当接部56に、上記の流出した潤滑剤が付着すると、それらの潤滑油及び潤滑剤の特性変化により、ハンマー5側の鍵当接部56と、鍵2側のハンマー当接高さ規定部25(ハンマー受け部31b)との間の摩擦が変化し、その結果、押鍵時におけるハンマー5の回動特性が変化してしまう。このような不具合を回避するために、ハンマー本体51の左右の側面には、後端部の係合部53の直ぐ前側にかつ鍵当接部56の後ろ側に、左右対称の2つの潤滑剤阻止部65(図11、12(a)では、右側のもののみ図示)が設けられている。各潤滑剤阻止部65は、係合部53を囲う円弧状に、かつハンマー本体51の側方に開放する凹状に形成されている。
このように、ハンマー本体51の左右の側面に、潤滑剤阻止部65が形成されることにより、係合部53側からの潤滑剤がハンマー本体51の側面を伝って流れる場合であっても、その潤滑剤が凹状の潤滑剤阻止部65を越えるのを効果的に防止することができる。
また、図11及び図12(a)に示すように、ハンマー本体51には、後端部の係合部53の前側上部に、押鍵時に鍵スイッチ7を押圧することによって作動させるためのアクチュエータ部66が設けられている。さらに、ハンマー本体51には、その上面の前後方向の中央付近に、押鍵時にレットオフ部品6に係合する板状の係合突起67が設けられている。
図2に示すように、レットオフ部品6は、所定の弾性材料の成形品で構成されており、ハンマーサポート4のスイッチ取付部42に取り付けられている。レットオフ部品6は、スイッチ取付部42から斜め後ろ下がりに延びており、その先端部には、くびれ部を介して頭部6aが形成されている。この頭部6aは、離鍵状態において、ハンマー5の係合突起67に対向している。
また、図1及び図2に示すように、鍵スイッチ7は、プリント基板から成るスイッチ基板7aと、このスイッチ基板7aの下面に、鍵2ごとに設けられたゴムスイッチから成るスイッチ本体7bで構成されている。スイッチ基板7aは、その後端部がハンマーサポート4のスイッチ取付部42に差し込まれるとともに、中央部がスイッチ取付部42にねじ止めされている。また、スイッチ本体7bは、離鍵状態において、ハンマー5のアクチュエータ部66に隙間を隔てて対向している。
さらに、図1及び図2に示すように、ハンマーサポート4のスイッチ取付部42には、前端部の底面に、ハンマー5の上方への回動を規制するハンマーストッパ68が設けられている。このハンマーストッパ68は、発泡ウレタンなどで構成されており、左右方向に延びるように、スイッチ取付部42に取り付けられている。
ここで、上述した鍵盤装置1における白鍵用ハンマー5aと、黒鍵用ハンマー5bとの相違点について、図13及び図14を参照して説明する。図13(a)及び(b)はそれぞれ、離鍵状態における黒鍵用ハンマー5b及び白鍵用ハンマー5aを示している。両図に示すように、離鍵状態では、ハンマー5の鍵当接部56の下端と、ハンマー5の前端部の錘板52の上端との間は、黒鍵用ハンマー5bの高さH1が、白鍵用ハンマー5aの高さH2よりも所定高さ、高くなっている。これにより、鍵2の押鍵に伴って回動し、ハンマーストッパ68に当接するハンマー5では、黒鍵用ハンマー5bの回動角度が、白鍵用ハンマー5aのそれよりも小さくなり、その結果、黒鍵2bの押鍵ストローク(例えば9mm)が、白鍵2aの押鍵ストローク(例えば10mm)よりも短くなる。
また、図13(c)は、ハンマーサポート4のハンマー支点軸43と、離鍵状態において、ハンマー支点軸43に係合する黒鍵用ハンマー5b(実線)及び白鍵用ハンマー5a(2点鎖線)の後端部における係合部53を拡大して示している。同図に示すように、白鍵用ハンマー5aの軸穴54の開口部において、互いに外方に向かって広がるように形成された前後のガイド面55a、55aは、黒鍵用ハンマー5bのガイド面55b、55bに対し、同図の時計方向に若干傾斜した状態に形成されている。このようなガイド面55の差異により、メンテナンス時などにおけるハンマーサポート4からのハンマー5の取外し角度が、黒鍵用ハンマー5bと白鍵用ハンマー5aとで以下のように異なっている。なお、ハンマー5を取り外す際には、対応する鍵2を鍵盤シャーシ3から取り外した状態で行われる。
図14(a)及び(b)はそれぞれ、黒鍵用ハンマー5b及び白鍵用ハンマー5aをハンマーサポート4のハンマー支点軸43から取り外す際の状態を示している。なお、同図に2点鎖線で示す黒鍵用ハンマー5b及び白鍵用ハンマー5aは、離鍵状態における位置を示している。図14(a)に示すように、黒鍵用ハンマー5bは、離鍵状態の位置から前端部が黒鍵用バランスピン13bの上端付近に到達するように回動したときに、後端部の係合部53における前側のガイド面55bが、ハンマー支点軸43の前側の平面部43bと平行な状態(鉛直)になり、黒鍵用ハンマー5bの軸穴54とハンマーサポート4のハンマー支点軸43の上側の曲面部43aとの接触が解除される。それにより、黒鍵用ハンマー5bは、ハンマー支点軸43から取り外し可能になる。
一方、図14(b)に示すように、白鍵用ハンマー5aに対応する白鍵2aを支持する白鍵用バランスピン13aは、黒鍵用バランスピン13bよりも前方に位置している。このため、白鍵用ハンマー5aは、黒鍵用バランスピン13bの上端より下方に大きく回動しても、白鍵用バランスピン13aに干渉することはない。また、前述したように、白鍵用ハンマー5aの後端部のガイド面55aと、黒鍵用ハンマー5bのガイド面55bとの差異により、白鍵用ハンマー5aは、黒鍵用ハンマー5bよりも下方に大きく回動したときに、後端部の前側のガイド面55aが、ハンマー支点軸43の前側の平面部43bと平行な状態(鉛直)になり、前述した黒鍵用ハンマー5bと同様、白鍵用ハンマー5aが、ハンマー支点軸43から取り外し可能になる。
以上のように、白鍵用ハンマー5aは、黒鍵用ハンマー5bに比べて、下方に大きく回動した状態で、ハンマー支点軸43から取り外し可能になる。換言すると、白鍵用ハンマー5aは、黒鍵用ハンマー5bに比べて、ハンマー支点軸43に対し、後端部の係合部53が大きい角度範囲で、取り外し不能な状態に係合している。このため、離鍵状態において、白鍵用ハンマー5aは、その前端部の高さが、黒鍵用ハンマー5bのそれに比べて低いものの、黒鍵用ハンマー5bと同様、ハンマー支点軸43にしっかりと係合するので、回動する際のがたつきやノイズの発生を効果的に防止することができる。加えて、白鍵用ハンマー5aの設計の自由度を高めることもできる。
次に、以上のように構成された鍵盤装置1の動作について説明する。図1及び図2に示す離鍵状態から鍵2が押鍵されると、鍵2は、バランスピン13を中心として、図2の反時計方向に回動し、それに伴い、ハンマー5は、鍵当接部56を介して押し上げられ、ハンマー支点軸43を中心として、上方(図2の時計方向)に回動する。
このハンマー5の回動の途中で、その係合突起67が、レットオフ部品6の頭部6aに係合し、頭部6aを介してレットオフ部品6を圧縮させながら押圧することにより、レットオフ部品6からハンマー5に作用する反力が増大する。ハンマー5の回動が進むと、係合突起67が頭部6aから外れることで、レットオフ部品6からの反力が急激に消失する。このようなレットオフ部品6の反力の増大と消失によって、アコースティックピアノに近似したレットオフ感が得られる。
その後、ハンマー5の前端部が、上方のハンマーストッパ68に当接することによって、ハンマー5の上方への回動が終了する。また、ハンマー5の上方への回動の間、そのアクチュエータ部66が鍵スイッチ7のスイッチ本体7bを押圧し、鍵スイッチ7をONすることによって、ハンマー5の回動量に応じた鍵2の押鍵情報が検出され、発音制御装置(図示せず)に出力される。そして、この発音制御装置により、検出された押鍵情報に基づいて、電子ピアノの発音が制御される。
その後、鍵2が離鍵されると、鍵2は押鍵時と反対方向に回動し、図1及び図2に示す離鍵状態に復帰し、それに伴い、ハンマー5も、下方に回動し、離鍵状態に復帰する。
以上詳述したように、本実施形態によれば、鍵2の後端部に、合成樹脂製のハンマー当接高さ規定部25が設けられ、離鍵状態において、ハンマー5は、下方に突出する鍵当接部56を介してハンマー当接高さ規定部25のハンマー受け部31bに上方から当接した状態で載置される。この場合、上記のハンマー当接高さ規定部25により、ハンマー受け部31bの高さが常に同じ高さになるので、ハンマー5には、従来と異なり、キャプスタンスクリューが不要になる。したがって、本実施形態では、従来のキャプスタンスクリューを省略できることで、その取付け及び調整作業を不要することができ、その分、電子ピアノの製造コストの低減を図ることができる。
また、離鍵状態において、全ての鍵2のハンマー当接高さ規定部25は、その後片下部32cが、後レール9c上のクッション38に載置されている。この場合、鍵2の後端部の上下方向の厚さにばらつきが生じている場合でも、離鍵状態におけるハンマー当接高さ規定部25のハンマー受け部31bの高さは、ハンマー当接高さ規定部25がクッション38に載置されているときの状態で決まる。したがって、全ての鍵2の後端部にハンマー当接高さ規定部25が設けられることにより、鍵2の後端部の厚さのばらつきを吸収しながら、全てのハンマー当接高さ規定部25のハンマー受け部31bの高さを、一定の所定高さにすることができる。
また、ハンマー5では、ハンマー本体51の当接凸部57に、弾性材料から成る凸部カバー58が取り付けられることによって、鍵当接部56が構成されているので、押鍵時に、ハンマー5の鍵当接部56が、ハンマー当接高さ規定部25のハンマー受け部31bから一旦離れた後に再度当接したり、ハンマー受け部31bに対して摺動したりしても、それらの際のノイズの発生を十分に抑制することができる。また、凸部カバー58は、フック62を介して、ハンマー本体51にしっかりと取り付けられるので、押鍵に伴い、ハンマー5が繰り返し突き上げられても、凸部カバー58が当接凸部57から脱落することはない。また、凸部カバー58をハンマー本体51から簡単に取り外すことができ、必要に応じて、凸部カバー58の交換を容易に行うことができる。
さらに、ハンマー本体51の下方に開放するフック受け部59は、ハンマー本体51の当接凸部57の前側上部に設けられている。これにより、例えば、上記のフック受け部59が、ハンマー本体51の当接凸部57の後ろ側上部、すなわち、ハンマー5の回動支点により一層近い位置に設けられる場合に比べて、押鍵時にハンマー本体51の当接凸部57の基部付近に作用する応力を低減することができる。その結果として、押鍵に伴い、ハンマー5が鍵当接部56を介して繰り返し突き上げられても、ハンマー5(ハンマー本体51)の損傷を防止することができる。
また、ハンマー5には、ハンマー本体51の左右の側面に、側方に開放する凹状の潤滑剤阻止部65が形成されているので、ハンマー5の軸穴54とハンマーサポート4のハンマー支点軸43との間に塗布された潤滑剤が、前方の鍵当接部56に流出するのを阻止することができる。これにより、ハンマー5の鍵当接部56と、これが当接するハンマー当接高さ規定部25のハンマー受け部31bとの間の摩擦が変化するのを防止でき、その結果として、押鍵時におけるハンマー5の良好な回動特性を維持することができる。
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、ハンマー本体51の当接凸部57に、弾性材料から成る凸部カバー58を取り付けたが、押鍵時に、当接凸部57と、ハンマー当接高さ規定部25のハンマー受け部31bとの間で、ノイズの発生を防止できるとともに十分な滑性を確保できる場合には、凸部カバー58を省略してもよく、また、ハンマー当接高さ規定部25のハンマー受け部31bに弾性材料から成る部材を配置してもよい。
また、実施形態で示した鍵盤装置1、鍵2及びハンマー5の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。