JP6764210B1 - 卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物及び成形品 - Google Patents

卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物及び成形品 Download PDF

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Abstract

【課題】熱可塑性樹脂中に卵殻粉末が高充填されている一方で、その偏在が抑制され、外観及び機械的特性が良好な成形品を製造し得る熱可塑性樹脂組成物、及びこれを用いた成形品を提供する。【解決手段】熱可塑性樹脂と卵殻粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物において、卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物全体に対する卵殻粉末の質量比が50/100以上であり、卵殻粉末のBET比表面積が、0.1m2/g以上10.0m2/g以下であり、卵殻粉末の真円度が、0.50以上0.95以下であり、卵殻粉末は、平均粒子径が0.7μm以上2.2μm未満の卵殻粉末群と、平均粒子径が2.2μm以上6.0μm未満の卵殻粉末群との少なくとも2群の粒子群を含むことを特徴とする卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物、及びこれを用いた成形品である。【選択図】なし

Description

本発明は、卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物及び成形品に関する。詳しく述べると、本発明は、卵殻粉末が高充填されているにも拘らず、その偏在が抑制され、外観、機械的特性が良好な成形品を製造するのに適した熱可塑性樹脂組成物、及びこれを用いた成形品に関する。
従来より、熱可塑性樹脂は、工業用及び家庭用の各種成形品、食品包装や一般用品の成形包装等の材料として、森林資源を源とする紙資材と共に広く用いられてきたが、環境保護が国際的な問題となって来た現在、これらを無毒で、リサイクル可能とする、焼却できるといった観点と並行して、熱可塑性樹脂ならびに紙資材の消費量を低減することも大いに検討されている。このような点から、炭酸カルシウムを始めとする無機物質粉末を熱可塑性樹脂中に高充填してなる、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物が提唱され、実用化されている(例えば、特許文献1等参照)。
同様に環境保護の観点から、産業廃棄物の再利用やバイオマス材料の活用についても、検討が進められている。例えば卵殻や貝殻を原料とする炭酸カルシウム粉末を含む樹脂組成物が、特許文献2〜7に記載されている。卵殻は紛れもないバイオマス材料であるが、食品加工工場等から廃棄される量は毎年20万トン以上に上っており、その有効活用が望まれる。卵殻は90%以上、多くの場合95%以上が炭酸カルシウムで構成され、カルシウム源として有用な上、魚や動物の骨に比べてリン等の不純物が少ない利点も有する。卵殻由来の炭酸カルシウム粉末はまた、多孔質であり、その点を活かした機能性材料としても検討されている。例えば特許文献2には、上記のような細孔構造に由来する有害ガス吸収作用を活用し、卵殻粉末含有樹脂組成物を食品用包装材として使用することが開示されている。また、卵殻粉末は同じ粒子径の汎用炭酸カルシウムに比べ、多孔質であるが故に比表面積が大きく、樹脂組成物の補強作用も期待できる。
しかしながら、卵殻粉末を特に調整することなく用いても、熱可塑性樹脂に多量充填することはできず、無理に高充填した樹脂組成物を汎用の成形機を用いてシートやフィルム等に成形しても、良物性を得ることはできない。一般に卵殻粉末を50質量%以上高充填した成形品では、卵殻粉末が偏在し、機械特性の低下や外観不良が発生する問題がある。特許文献2及び3記載の樹脂組成物においても、成形品の強度低下や外観の悪化等を考慮し、卵殻粉末の含有量は樹脂100重量部に対して50重量部以下、すなわち組成物全体の1/3以下に止められている。特に粒子径の小さい卵殻粉末は、比表面積が大きいために補強性を示す反面、樹脂組成物の溶融粘度を上昇させてしまう。その結果、成形性の低下や、混練・成形時の発熱による成形品の物性悪化の問題が生じるため、樹脂への高充填は困難である。特許文献4では、平均粒子径が3μm以下の卵殻粉末を1〜50重量%含有する樹脂組成物について言及されているが、実施例で実際に調製されているのは、卵殻粉末量が10重量%の樹脂組成物のみである。特許文献5では、卵殻粉末の炭酸カルシウムを46〜65質量%含有する樹脂組成物について言及されているが、そうした樹脂組成物を実際に成形した実施例は全く記載されていない。
特許文献6及び7には、特定のプロピレン系共重合体15〜60重量%と、卵殻粉末等のフィラー85〜40重量%とからなるプロピレン系複合樹脂組成物が開示され、実施例でも50質量%を超える量の卵殻粉末が充填されている。しかし、これら特許文献記載の実施例で用いられている卵殻粉末は、粒径が20μmの粗いものである。尚、前述の特許文献5でも、炭酸カルシウム微粉末の粒径は80〜100μmと記載されている。こうした粒子径の大きな粉末は、樹脂組成物中でしばしば偏在し、物性の低下を招く。粒子径の大きな粉末を含有する樹脂組成物ではまた、例えばシート状の成形品を形成した場合に、成形品表面より粉末が突出して、当該粉末が脱落したり、表面性状や機械強度等を損なうおそれがある。以上のような理由から、卵殻粉末を高充填しつつ、偏在を抑制し、外観及び機械的特性が良好な樹脂組成物及び成形品を製造することは困難であった。
特開2013−10931号公報 特開平2−142840号公報 特表2019−503411号公報 特開2011−256260号公報 特開2018−62579号公報 特開2009−275087号公報 特開2009−299024号公報
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、卵殻粉末が高充填されている一方で、その偏在が抑制され、外観及び機械的特性が良好な成形品を製造し得る熱可塑性樹脂組成物、及びこれを用いた成形品を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決する上で鋭意検討を行った結果、特定の卵殻粉末を使用することによって熱可塑性樹脂への高充填が可能となり、偏在が抑制され、外観及び機械的特性が良好な成形品が得られることを見出した。すなわち、熱可塑性樹脂中に卵殻粉末を高充填するにおいて、所定のBET比表面積及び真円度を有し、かつ所定の平均粒子径の範囲内において、異なる粒径分布、すなわち異なる平均粒子径を有する少なくとも2群の卵殻粉末群を用いることで、上記の問題が解決され、外観及び機械的特性が良好な成形品が得られるとの知見により本発明に到達したものである。
すなわち、熱可塑性樹脂と卵殻粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物において、
前記卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物全体に対する前記卵殻粉末の質量比が50/100以上であり、
前記卵殻粉末のBET比表面積が、0.1m/g以上10.0m/g以下であり、
前記卵殻粉末の真円度が、0.50以上0.95以下であり、
前記卵殻粉末は、平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群を含み、かつ
前記した平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群として、空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上2.2μm未満の卵殻粉末群と、空気透過法による平均粒子径が2.2μm以上6.0μm未満の卵殻粉末群とを質量比1:1〜5:1で含有しているものであることを特徴とする卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物である。
本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の一態様においては、平均粒子径が小さい卵殻粉末群Aの平均粒子径をaとし、平均粒子径が大きい卵殻粉末群Bの平均粒子径をbとした場合に、a/b比率が0.85以下となる卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物が示される。
本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の一態様においては、卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物中における熱可塑性樹脂と卵殻粉末の質量比が、50:50〜30:70である卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物が示される。
本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の一態様においては、熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂である卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物が示される。
本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の一態様においては、乳酸、重量平均分子量3,000以下の乳酸オリゴマー、及び分岐状ポリ乳酸からなる群より選択される可塑剤をさらに含有する卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物が示される。
本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の一態様においては、卵殻粉末が未焼成の卵殻粉末である卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物が示される。
本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の一態様においては、卵殻粉末が表面処理されていない卵殻粉末である卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物が示される。
上記課題を解決する本発明はまた、上記の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物からなる成形品である。
本発明に係る成形品の一態様においては、成形品が食品容器である。
本発明によれば、熱可塑性樹脂中に卵殻粉末が質量比50:50〜10:90の割合で高充填されている一方で、その偏在が抑制され、外観及び機械強度等の物性が良好な成形品を製造することができる。
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
≪卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物≫
本発明の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と卵殻粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有するものであり、配合される卵殻粉末として以下に詳述するような所定の粒子径分布、BET比表面積、及び真円度を有する卵殻粉末を用いたものである。以下、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物を構成する各成分につき、それぞれ詳細に説明する。
≪熱可塑性樹脂≫
本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物において用いられ得る熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではなく、当該組成物のその用途、機能等に応じて、各種のものが用いられ得る。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂;アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン(AS)共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテル系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの熱可塑性樹脂のうち、その成形容易性、性能面及び経済面等からポリオレフィン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
ここで、ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂であり、具体的には、上記したポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、その他、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体など、さらにそれらの2種以上の混合物などが挙げられる。なお、上記「主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上含まれることを意味し、その含有量は好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、酸素、過酸化物等のラジカル開始剤等を用いる方法等のいずれによって得られたものであっても良い。
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、プロピレン単独重合体、又はプロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。プロピレンと共重合可能な他のα−オレフィンとしては、例えば、エチレンや、1−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ヘキセンなどの炭素数4〜10のα−オレフィンが例示される。プロピレン単独重合体としては、アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック及び種々の立体規則性を示す直鎖又は分枝状ポリプロピレン等のいずれもが包含される。また上記共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよく、さらに二元共重合体のみならず三元共重合体であっても良い。具体的には、例えば、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ブテン−1−プロピレンランダム共重合体、エチレン−ブテン−1−プロピレンランダム3元共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体などを例示できる。なお、上記共重合体中のプロピレンと共重合可能な他のオレフィンは、卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成全体の質量を100質量%とした場合に、25質量%以下、特に15質量%以下の割合で含有されていることが好ましく、下限値としては0.3質量%であることが好ましい。また、これらのポリプロピレン系樹脂は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
また、前記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン1共重合体、エチレン−ブテン1共重合体、エチレン−ヘキセン1共重合体、エチレン−4メチルペンテン1共重合体、エチレン−オクテン1共重合体等、さらにそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
前記したポリオレフィン系樹脂の中でも、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂、特に、機械的強度と耐熱性とのバランスに特に優れることからポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
≪卵殻粉末≫
本発明においては、熱可塑性樹脂組成物中に配合する卵殻粉末として、平均粒子径等の特性が規定されたものを使用する。すなわち、本発明で用いる卵殻粉末は、所定のBET比表面積及び真円度を有し、且つ平均粒子径分布の異なる少なくとも2つの粒子群を含む。平均粒子径分布の異なるものであれば、2群の組合せに限られず、3群又はそれ以上の群の組合せであっても良い。
特に限定されるものではないが、平均粒子径が異なる卵殻粉末群は、それぞれ別々に製造し、その後、樹脂材料に混練することが望ましい。また、平均粒子径の異なる少なくとも2群の卵殻粉末群を混ぜるのは、粉体の段階で混ぜても、樹脂へ別々に添加して混練後混ぜても良いが、粉体の段階で混ぜるのが均一分散の点でより好ましい。
卵殻粉末を添加してなる卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物より形成される成形品の外観、機械的強度、あるいは熱可塑性樹脂組成物混練時の粘度等の物性は、添加される卵殻粉末の平均粒子径等により影響を受けるものである。成形品の外観は卵殻粉末の平均粒子径が小さくなるほど、向上する傾向があるが、混練時の粘度は平均粒子径が小さくなるほど高まる傾向がある。用途にもよるが、熱可塑性樹脂組成物混練時の粘度が高いと成形自体が困難となったり、あるいは樹脂本来の物性が発揮されにくくなり、特に高含有量で配合する場合にあってはその傾向が顕著となる。一方で、卵殻粉末の平均粒子径が大きくなるほど、熱可塑性樹脂組成物中への混練は概して容易となり、また粒子の単位質量あたりのコストも低いものとなるため経済的にも有利であるものの、樹脂組成物中での粒子の偏在が生じやすく、かつ配合量を高めることが困難となり、また、当該卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物により成形品を形成した場合に、成形品の外観が低下する虞れがある。ゆえに、本発明は、卵殻粉末の平均粒子径が異なる複数の粒子群を熱可塑性樹脂組成物中に配合し混練することで卵殻粉末の外径の小さいものの性質と、大きいものとの性質の優れた性質を双方に発揮させるものである。
例えば、ある平均粒子径を有する卵殻粉末群Aに、これよりも大きい平均粒子径を有する卵殻粉末群Bを混ぜると、卵殻粉末群Bが単独で熱可塑性樹脂中に粗く分散する複合状態のものにおいて、卵殻粉末群Bの卵殻粉末と樹脂との空間を、卵殻粉末群Aの卵殻粉末により埋めることができ、これによって、卵殻粉末の偏在が抑制され、その添加量を効果的に向上させることができる。また、卵殻粉末群Bの卵殻粉末が分散した隙間に卵殻粉末群Aの卵殻粉末を分散させることにより、樹脂組成物中における卵殻粉末の分布の緻密化と、粒子相互の三次元的な配置関係の複雑化がなされ、力学的な強度も増大する。
本発明で用いられる卵殻粉末としては、上記したように平均粒子径分布が異なる少なくとも2群の卵殻粉末群を用いるものであるが、各粉末群の平均粒子径がいずれも0.7μm以上6.0μm以下の範囲内にあることが望まれる。これは、平均粒子径分布が異なる少なくとも複数群の卵殻粉末群を用いたとしても、極端に微細あるいは極端に粗大な粉末群を配合すると、卵殻粉末の所期の偏在の抑制や、成形品の外観の向上が困難となるためである。
また、特に限定されるわけではないが、平均粒子径が小さい卵殻粉末群Aの平均粒子径をaとし、平均粒子径が大きい卵殻粉末群Bの平均粒子径をbとした場合に、a/b比率が0.85以下、より好ましくは0.10〜0.70、さらに好ましくは0.10〜0.50程度となるように大別できるものであることが望ましい。このようなある程度明確な平均粒子径の差をもったものを併用することで、特に優れた効果が期待できるためである。
また、本発明で用いられるそれぞれの卵殻粉末群は、その粒子径(μm)の分布の変動係数(Cv)が0.01〜0.10程度であることが望ましく、特に0.03〜0.08程度であることが望ましい。粒子径の変動係数(Cv)が0.01〜0.10程度の卵殻粉末群を用いた卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物では、該変動係数(Cv)で規定される粒子径のばらつきにおいて、平均粒子径の小さな卵殻粉末群と平均粒子径の大きな卵殻粉末群との各粒子が、該卵殻粉末を用いた卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物における、上記したような粒子の偏在の抑制、成形品の外観及び機械的強度の向上等の作用をもたらす上で、各粉末群がより相補的に効果を与えるためと考えられる。
本発明において用いられる平均粒子径分布が異なる少なくとも2群の卵殻粉末群としては、平均粒子径が0.7μm以上2.2μm未満の卵殻粉末群と、平均粒子径が2.2μm以上6.0μm未満の卵殻粉末群との組み合わせである限りにおいて特に限定されないが、より好ましくは1.0μm以上1.9μm未満の卵殻粉末群Aと、2.5μm以上5.0μm以下の卵殻粉末群Bとを組合せることが好ましく、両者を実質的に混合均質化してなる混合物とすることが好ましい。両者を混ぜ合わせることで、平均粒子径の小さい卵殻粉末群Aだけ、又は平均粒子径の大きい卵殻粉末群Bだけを単独で用いるより、良好な高い充填性において、卵殻粉末の偏在を抑制でき、外観及び、破断伸び等の機械的特性が良好な成形品を得ることができ、また樹脂組成物からなる成形品からの複合材からの卵殻粉末の脱落を低減することが可能である。
なお、本明細書において述べる卵殻粉末の平均粒子径は、JIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。上記のように卵殻粉末は多孔質であるが、気体透過法では流体の流れに影響しない細孔は測定されないので、汎用炭酸カルシウム粉末と同等の粒子径の卵殻粉末は、空気透過法による計測で同等の結果を与える。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS−100型を好ましく用いることができる。
本発明において、平均粒子径の小さな卵殻粉末群Aと平均粒子径の大きい卵殻粉末群Bとの平均粒子径の境界値を2.2μmとするのは、本発明者らが鋭意検討し多くの実験を行った結果、この値より大きい粒子群と小さい粒子群とを組み合わせることで、添加された卵殻粉末の偏在を最も効果的に抑制し、外観及び機械的特性の良好な成形品をできることができるとの結論を得たことに基づくものである。
また、平均粒子径の小さい卵殻粉末群Aとしてその平均粒子径が0.7μm以上とするのは、平均粒子径が小さくなり過ぎると、平均粒子径の大きい卵殻粉末群Bと組み合わせた場合であっても、前述した熱可塑性樹脂と混練した際に粘度が大きく上昇し、成形品の製造が困難となる虞れがあるためである。
一方、平均粒子径の大きい卵殻粉末群Bとしてその平均粒子径を6.0μm以下のものとするのは、平均粒子径が大きくなり過ぎると、平均粒子径の小さな卵殻粉末群Aと組み合わせた場合であっても、前述した熱可塑性樹脂と混練した際に粒子の偏在が生じたり、得られる成形品の外観が低下する虞れがあるためである。
なお、本発明において、平均粒子径分布が異なる卵殻粉末群として3つ以上のものを用いる実施形態においても、相対的に平均粒子径の小さい卵殻粉末群の1つは、その平均粒子径が2.2μm未満であり、また相対的に平均粒子径の大きい卵殻粉末群の1つは、その平均粒子径が2.2μm以上であるものとすることが望ましい。
上記したように、本発明においては、平均粒子径分布が異なる少なくとも2群の卵殻粉末群を用いるが、用いられる卵殻粉末の全体として、特に、その粒径分布において、粒子径50μmを超える粒子を実質的に含有しないことが好ましい。一方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した熱可塑性樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形品の製造が困難になる虞れがある。そのため、その粒子径は0.5μm未満の粒子も実質的に含有しないことがが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、当該粒子径の粒子が、例えば、全粒子質量の0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満しか含まれないような態様を意味する。
さらに、本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物において、前記の平均粒子径分布の異なる少なくとも2群の卵殻粉末群の配合割合としては、単独の卵殻粉末群を使用した場合と比較して、上記したような卵殻粉末の偏在の抑制、得られる成形品における外観の向上、機械的強度の向上、さらには組成物混練時における粘度の低下、成形品からの卵殻粉末の脱落の低減等の効果が得られる限り、必ずしも限定されるものではないが、上記したような平均粒子径が小さい卵殻粉末群Aと平均粒子径が大きい卵殻粉末群Bとに分けた場合に質量比で、A:Bが1:1〜5:1程度とする。特に、3:1〜5:1程度であることが望ましい。このような配合割合とすることで、特に優れた効果が期待できるためである。
本発明においては、卵殻粉末はまた、0.1m/g以上10.0m/g以下のBET比表面積を有する。ここでいうBET吸着法とは窒素ガス吸着法によるものである。比表面積は平均粒子径によっても左右され、また、粒子径が同じでも卵殻粉末は概して大きな比表面積を有するが、比表面積がこの範囲内にあると、卵殻粉末を多量配合することによる樹脂組成物の加工性の低下を抑制することができる。特に、卵殻粉末として平均粒子径が、0.7μm以上2.2μm未満のものである場合には、0.1m/g以上3.5m/g未満程度、また、卵殻粉末として平均粒子径が、2.2μm以上6.0μm未満のものである場合には、0.3m/g以上3.5m/g以下程度であることが望ましい。
また、卵殻粉末は球形化の度合いがある程度低いことが好ましく、具体的にはその真円度が0.50以上0.95以下、好ましくは0.55以上0.93以下、より好ましくは0.60以上0.90以下である。卵殻粉末の真円度がこの範囲内にあると、熱可塑性樹脂組成物中に卵殻粉末を配合して成形品を形成した場合に、製品としての強度や成形加工性も適度なものとなる。
なお、ここで、真円度とは、(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)で表せるものである。真円度の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、顕微鏡写真から粒子の投影面積と粒子の投影周囲長とを測定し、各々(A)と(PM)とし、粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の半径を(r)とすると、
PM=2πr (1)
であり、粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積を(B)とすると、
B=πr (2)
である。(1)式を変形すると、r=PM/2π (3)
となるから、(2)式に(3)式を代入すると、
B=π×(PM/2π) (4)
となり、真円度=A/B=A×4π/(PM)
となる。測定する粒子は、粉末の粒度分布を代表するように、サンプリングを行う。測定粒子の数が多い程、測定値の信頼性は増すが、測定時間も考慮して、一般に100個程度の粒子の平均値で表すものとされており、本明細書においても100個の粒子の平均値とした。これらの測定は走査型顕微鏡や実体顕微鏡などで得られる各粒子の投影図を一般に商用されている画像解析ソフトによってすることによって真円度を求めることが可能である。
上記のような卵殻粉末は、慣用の製造方法を用いて調製することができる。卵殻粉末は市販もされており、例えばキューピー株式会社製のカルホープ(登録商標)、三州食品株式会社製の卵殻カルシウム等の市販品を微粉砕して所望の粒子径に調整しても良い。尚、卵殻原料はどのような動物の卵であっても良いが、入手の容易性や品質の安定性の観点から、鶏卵の使用が推奨される。卵殻から粉末を調製する場合は、先ず卵液採取後の卵殻から卵殻膜を除去し、次いで粉砕する。具体的には卵殻を熱水中で攪拌して卵殻膜を除去し、次いで粗粉砕した後、再度洗浄し、真空下20〜200℃の温度で、又は常圧下100〜400℃程度の温度で数分間乾燥した後、所望の粒子径に微粉砕することにより、卵殻粉末を製造することができる。卵殻膜の除去や洗浄の際にアルカリ処理等を行うと、タンパク質等の不純物の除去が容易となる。また、熱水中での攪拌の代わりに、例えば200〜500℃に加熱することによって卵殻膜を除去することもできる。さらに高温、例えば500〜800℃に加熱して卵殻膜等の有機物を完全に除去し、粉末表面の一部を酸化させても良い。このようにして粉末表面が部分的に酸化され、一部に酸化カルシウムの組成を含むものとした場合、生分解性やハロゲン吸着等の機能を付すこともでき、例えば含ハロゲン樹脂からのハロゲン系ガスの放出を防止することも可能となる。
しかしながら本発明においては、卵殻粉末は未焼成のものであることが好ましい。卵殻は一般に不純物が少ないため、焼成等の処理をせずとも純度の高い炭酸カルシウム原料として、熱可塑性樹脂に混練することが可能である。未焼成の卵殻粉末を使用すれば、焼成にエネルギーと時間を費やす必要がなくなり、環境保全と経済性の両面で有利である。未焼成とすることによって、卵殻粉末中の細孔に由来する補強効果や、有害ガス吸収作用等の機能発現も期待できる。
なお、卵殻粉末を得る上での粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、経済的には乾式法が、水洗浄も同時に行える点では湿式法が好ましい。例えば乾式法と湿式法とを組み合わせ、粗粉砕を乾式法で行った後、湿式法で微粉砕することもでき、その逆の組み合わせとすることも可能である。粉砕後、市販の異物除去装置等を用いて、異物を除去しても良い。粉砕機に関しても特に限定されるものではなく、衝撃式粉砕機、ボールミル等の粉砕メディアを用いた粉砕機、ローラーミル等が使用できる。また、分級も空気分級、湿式サイクロン、デカンターなどを利用した分級で良い。
また、卵殻粉末の熱可塑性樹脂中への分散性を高めるために、卵殻粉末の表面をあらかじめ常法に従い表面改質しておいても良い。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するものなどが例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性のいずれのものであってもよく、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
しかしながら、本発明の好ましい実施形態においては、用いられる卵殻粉末として、化学的処理剤を用いた表面処理、少なくとも、上記した脂肪酸系化合物による表面処理をしていないものを用いることが好ましい。卵殻粉末として、表面処理をしていないものを用いることで、成形時において卵殻粉末表面に付着していた表面処理剤が熱分解して、わずかながらでも臭気の要因となることを排除できるためである。従って、本発明の特に好ましい一実施形態においては、卵殻粉末として表面処理をしていないものが好ましく使用される。
本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物においては、上記したような平均粒子径の異なる少なくとも2つの卵殻粉末群を用いることによる作用及び効果を実質的に損なうことのない限りにおいて、上記した少なくとも2つの卵殻粉末群以外に、必要に応じて、その他の無機物質粉末を添加することにより、樹脂組成物の色調や機械的特性等を改質することも可能である。
これらの卵殻粉末以外のその他の無機物質粉末としては、特に限定されるものではないが、例えば、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、ドロマイト、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ワラストナイト等が挙げられる。
本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物においては、上記した卵殻粉末が、卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物全100質量%に対して50質量%以上含有される。また、上記した熱可塑性樹脂と、卵殻粉末との配合比(質量%)は、50:50〜10:90の比率であれば特に限定されないが、40:60〜10:90の比率であることが好ましく、35:65〜20:80の比率であることがさらに好ましい。なお、上記した重質又は軽質炭酸カルシウムの如く他の無機物質粉末を添加する場合、それら他の無機物質粉末と少なくとも2つの卵殻粉末群との総量が、熱可塑性樹脂の配合量に対して上記の質量比であることが好ましい。熱可塑性樹脂と全無機物質粉末との配合比において、卵殻粉末を含む無機物質粉末総量の割合が50質量%より低いものであると、卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の所定の質感、耐衝撃性等の物性が得難く、一方90質量%よりも高いものであると、押出成形、真空成形等による成形加工が困難となるためである。
≪その他の添加剤≫
本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤としては、例えば、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤等を配合しても良い。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。また、これらは、後述の混練工程において配合してもよく、混練工程の前にあらかじめ卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物に配合していても良い。本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物において、これらのその他の添加剤の添加量は、上記した熱可塑性樹脂と、平均粒子径の異なる少なくとも2つの卵殻粉末群との配合による所望の効果を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100%とした場合に、これらその他の添加剤はそれぞれ0〜5質量%程度の割合で、かつ当該その他の添加剤全体で10質量%以下となる割合で配合されることが望まれる。
以下に、これらのうち、重要と考えられるものについて例を挙げて説明するが、これらに限られるものではない。
可塑剤としては、例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチル・トリエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−2−メトキシエチル、酒石酸ジブチル、o−ベンゾイル安息香酸エステル、ジアセチン、エポキシ化大豆油、さらには乳酸、重量平均分子量3,000以下の乳酸オリゴマー、分岐状ポリ乳酸(例えば、国際公開WO2010/082639号明細書等を参照。)等が挙げられる。これら可塑剤は通常、熱可塑性樹脂に対して数質量%程度配合されるが、その量はこれら範囲に限定されず、成形品の目的によってはエポキシ化大豆油等を20〜50質量部程度配合することも可能である。しかしながら本発明の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物においては、乳酸、重量平均分子量3,000以下の乳酸オリゴマー、又は分岐状ポリ乳酸を可塑剤として配合するのが好ましく、その配合量は熱可塑性樹脂100質量部に対し0.5〜10質量部、特に1〜5質量部程度とするのが好ましい。
色剤としては、公知の有機顔料又は無機顔料あるいは染料のいずれをも用いることができる。具体的には、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオオサジン系、ペリノン系、キノフタロン系、ペリレン系顔料などの有機顔料や群青、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、酸化クロム、亜鉛華、カーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系滑剤、脂肪族アルコール系滑剤、ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド、リシノールアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、メチレンビスステアロアミド、メチレンビスステアロベヘンアミド、高級脂肪酸のビスアミド酸、複合型アミド等の脂肪族アマイド系滑剤、ステアリン酸−n−ブチル、ヒドロキシステアリン酸メチル、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス等の脂肪族エステル系滑剤、脂肪酸金属石鹸系滑剤等を挙げることができる。
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトール系酸化防止剤が使用できる。リン系、より具体的には亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系酸化防止安定剤が好ましく用いられる。亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。これらリン系酸化防止剤は単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いても良い。
フェノール系の酸化防止剤としては、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネイト、2−t−ブチル−6−(3'−t−ブチル−5'−メチル−2'−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネイトジエチルエステル、及びテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン等が例示され、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン系難燃剤や、あるいはリン系難燃剤や金属水和物などの非リン系ハロゲン系難燃剤を用いることができる。ハロゲン系難燃剤としては、具体的には例えば、ハロゲン化ビスフェニルアルカン、ハロゲン化ビスフェニルエーテル、ハロゲン化ビスフェニルチオエーテル、ハロゲン化ビスフェニルスルフォンなどのハロゲン化ビスフェノール系化合物、臭素化ビスフェノールA、臭素化ビスフェノールS、塩素化ビスフェノールA、塩素化ビスフェノールSなどのビスフェノール−ビス(アルキルエーテル)系化合物等が、またリン系難燃剤としては、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、リン酸トリアリールイソプロピル化物、クレジルジ2、6−キシレニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が、金属水和物としては、例えば、アルミニウム三水和物、二水酸化マグネシウム又はこれらの組み合わせ等がそれぞれ例示でき、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。難燃助剤として働き、より効果的に難燃効果を向上させることが可能となる。さらに、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を難燃助剤として併用することも可能である。
発泡剤は、溶融混練機内で溶融状態にされている原料である卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物に混合、又は圧入し、固体から気体、液体から気体に相変化するもの、又は気体そのものであり、主として発泡シートの発泡倍率(発泡密度)を制御するために使用される。原料となる卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物に溶解した発泡剤は、常温で液体のものは樹脂温度によって気体に相変化して溶融樹脂に溶解し、常温で気体のものは相変化せずそのまま溶融樹脂に溶解する。溶融樹脂に分散溶解した発泡剤は、溶融樹脂を押出ダイからシート状に押出した際に、圧力が開放されるのでシート内部で膨張し、シート内に多数の微細な独立気泡を形成して発泡シートが得られる。発泡剤は、副次的に原料樹脂組成物の溶融粘度を下げる可塑剤として作用し、原料樹脂組成物を可塑化状態にするための温度を低くする。
発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;クロロジフルオロメタン、ジフロオロメタン、トリフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロメタン、ジクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロメタン、クロロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、テトラクロロジフルオロエタン、パーフルオロシクロブタンなどのハロゲン化炭化水素類;二酸化炭素、チッ素、空気などの無機ガス;水などが挙げられる。
発泡剤としては、さらに、例えば、キャリアレジンに発泡剤の有効成分が含まれるものを好ましく用いる事ができる。キャリアレジンとしては、結晶性オレフィン樹脂等が挙げられる。これらのうち、結晶性ポリプロピレン樹脂が好ましい。また、有効成分としては、炭酸水素塩等が挙げられる。これらのうち、炭酸水素塩が好ましい。結晶性ポリプロピレン樹脂をキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む発泡剤コンセントレートであることが好ましい。
成形工程において発泡剤に含まれる発泡剤の含有量は熱可塑性樹脂、重質炭酸カルシウム粒子の量等に応じて、適宜設定することができ、卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の全質量に対して0.04〜5.00質量%の範囲とすることが好ましい。
<卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、通常の方法を使用することができ、成形方法(押出成形、射出成形、真空成形等)に応じて適宜設定してよく、例えば、成形機にホッパーから投入する前に熱可塑性樹脂と平均粒子径の異なる少なくとも2つの卵殻粉末群とを混練溶融してもよく、成形機と一体で成形と同時に熱可塑性樹脂と前記卵殻粉末群とを混練溶融しても良い。溶融混練は、熱可塑性樹脂に卵殻粉末を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましく、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。
本発明の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物の製造方法において、卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物はペレットの形態であってもよく、ペレットの形態でなくても良いが、ペレットの形態である場合、ペレットの形状は特に限定されず、例えば、円柱、球形、楕円球状等のペレットを成形しても良い。
ペレットのサイズは、形状に応じて適宜設定すれば良いが、例えば、球形ペレットの場合、直径1〜10mmであって良い。楕円球状のペレットの場合、縦横比0.1〜1.0の楕円状とし、縦横1〜10mmであって良い。円柱ペレットの場合は、直径1〜10mmの範囲内、長さ1〜10mmの範囲内であって良い。これらの形状は、後述する混練工程後のペレットに対して成形させて良い。ペレットの形状は、常法に従って成形させて良い。
≪成形品≫
本発明に係る成形品は、上記した卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物を用いて成形された成形品である。
本発明に係る成形品の形状等においては特に限定されるものではなく、各種の形態のものであっても良いが、例えば、シート、食品容器及びその他の容器体等の各種成形品等として成形され得る。本発明の成形品は卵殻という、主に食品メーカーから出される衛生管理された廃棄物を原料として含有しているので、食品容器としての使用に好適である。
本発明に係る成形品の肉厚としては特に限定されるものではなく、その成形品の形態に応じて、薄肉のものから厚肉のものまで種々のものであり得るが、例えば、肉厚40μm〜5,000μm、より好ましくは肉厚50μm〜1,000μmである成形品が示される。この範囲内の肉厚であれば、成形性、加工性の問題なく、偏肉を生じることなく均質で欠陥のない成形品を形成することが可能である。
特に、成形品の形態が、シートである場合には、より好ましくは、肉厚50μm〜1,000μm、さらに好ましくは肉厚50μm〜400μmであることが望ましい。このような範囲内の肉厚を有するシートであれば、一般的な印刷・情報用、及び包装用の用途の紙あるいは合成紙に代えて、好適に使用できるものである。
≪成形品の製造方法≫
本発明の成形品の製造方法としては、所望の形状に成形できるものであれば特に限定されず、従来公知の押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、カレンダー成形等のいずれの方法によっても成形加工可能である。さらにまた、本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物が発泡剤を含有し、発泡体である態様の成形品を得る場合においても、所望の形状に成形できるものであれば発泡体の成形方法として従来公知の、例えば、射出発泡,押出発泡,発泡ブロー等の液相発泡法、あるいは、例えば、ビーズ発泡,バッチ発泡,プレス発泡,常圧二次発泡等の固相発泡法のいずれを用いることも可能である。前記した、結晶性ポリプロピレンをキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む熱可塑性組成物の一態様においては、射出発泡法及び押出発泡法が望ましく用いられ得る。
なお、成形時における成形温度としては、その成形方法や使用する熱可塑性樹脂の種類等によってもある程度異なるため、一概には規定できるものではないが、例えば、180〜260℃、より好ましくは190〜230℃の温度であれば、本発明に係る卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物が、良好なドローダウン特性、延展性を持って、かつ組成物が局部的にも変性を生じることなく所定形状に成形できる。
<シートの製造方法>
本発明に係る成形品がシートである態様において、その製造方法としても、シート状にする方法であれば特に限定されず、上記したような従来の公知の成形方法を用いることができるが、特に、シート表面の平滑性を考慮すると、押出機で押出成形してシートを作る方式を採用することが好ましい。
成形は、混練する工程と、シート状に成形する工程とを連続的に行う直接方法を用いてもよく、例えば、Tダイ方式の二軸押出し成形機を使用する方法を用いても良い。
さらに、シート状に成形する場合においては、その成形時あるいはその成形後に一軸方向又は二軸方向に、ないしは、多軸方向(チューブラー法による延伸等)に延伸することが可能である。二軸延伸の場合には、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸であっても良い。
成形後のシートに対し、延伸(例えば、縦及び/又は横延伸)を行うと、シートの密度が低下する。密度が低下することによりシートの白色度が良好なものとなる。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1、2、比較例1〜5]
下記の原材料を用いて各種卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物のシートを作製し、押出時の状態を評価すると共に、外観や平滑性、機械強度を評価した。
・熱可塑性樹脂A: ポリプロピレン単独重合体((株)プライムポリマー製:プライムポリプロ(商品名)E111G、融点160℃)
・卵殻粉末−O: 卵殻微粉末(三州食品(株)製:卵殻カルシウム(商品名)、粒子径35μm以下)
・卵殻粉末−A: 平均粒子径1.0μmの卵殻微粉末(上記卵殻粉末−Oを微粉砕・分級したもの)
・卵殻粉末−B: 平均粒子径3.6μmの卵殻微粉末(上記卵殻粉末−Oを微粉砕・分級したもの)
・軽質炭カル粉末: 平均粒子径1.0μmの軽質炭酸カルシウム粒子
・可塑剤: 分岐状ポリ乳酸
・帯電防止剤: ラウリン酸ジエタノールアミド
・酸化防止剤F1: ヒンダードフェノール系酸化防止剤(ペンタエリスリトール テトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
・酸化防止剤F2: トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト
(卵殻粉末)
尚、上記卵殻粉末−A及びBは、卵殻粉末−Oをボールミルでそれぞれ3時間、30分間湿式粉砕し、さらに噴霧乾燥に付して調製した。各卵殻粉末の特性値を、それぞれ以下の方法により評価した。結果を表1に示す。
(卵殻粉末の平均粒子径)
島津製作所社製の比表面積測定装置SS−100型を用い、JIS M−8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した。
(卵殻粉末の比表面積)
マイクロトラック・ベル社製、BELSORP−miniを用い、窒素ガス吸着法によって求めた。
(卵殻粉末の真円度)
卵殻粉末の粒度分布を代表するように、100個の粒子のサンプリングを行い、光学顕微鏡を用いてこれらの各粒子の投影図を得た。画像を市販の画像解析ソフトを用いて粒子の投影面積と投影周囲長とを計測し、上記した測定原理により真円度を求めた。
Figure 0006764210
(卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物・シートの作製)
表2に示す配合量(質量部)の熱可塑性樹脂A及び各種卵殻粉末等を、1質量部の可塑剤(分岐状ポリ乳酸)、2質量部の帯電防止剤、並びに各0.5質量部の酸化防止剤F1及びF2と共に、二軸スクリューを装備した押出成形機(東洋精機製作所製Tダイ押出成形装置(φ20mm、L/D=25)に投入し、200℃で混練した。得られた卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物を、220℃(ダイ温度)でTダイからシートに押出し、東洋精機製フィルム・シート引き取り機で巻き取り、肉厚200μm前後のシートに成形した。
(評価方法)
上記のようにして得られた各シートを、以下の方法により評価した。その結果を、配合及び製造時の状態と共に、表2に示す。
(外観・表面平滑性)
シート外観を目視観察し、黄変や凹凸、傷の有無を観察した。また、下記の評価基準に従い、成形品表面の平滑性を目視及び触感により評価した。
[評価基準]
○:表面に凹凸、傷等が認められず良好な平滑性を有する。
△:表面に僅かに凹凸が認められる。
×:表面に凹凸が数多く認められる。
(引張強度、伸び)
引張強度、伸びは、JIS K 7161−2:2014に準じて、23℃、50%RHの条件下で、オートグラフAG−100kNXplus(株式会社島津製作所)を用いて測定した。試験片としては、得られた各シートより切り出したダンベル形状とした。延伸速度は10mm/分であった。
Figure 0006764210
表2に示す結果から示されるように、本発明に係る実施例1及び2の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物では、卵殻粉末が70質量部以上高充填されていても押出時に問題を生じず、表面が平滑で機械強度(引張強度、伸び)の高いシートが得られた。一方、粒子径の細かい卵殻粉末−Aのみを同量配合した比較例2及び3の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物では、溶融粘度が上昇して押出が困難又は不可能となり、シートが得られた場合も外観に凹凸が生じていた。粒子径の粗い卵殻粉末−Oや卵殻粉末−Bを配合した比較例1及び4の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物では、得られたシートは平滑性に劣り、機械強度(引張強度、伸び)も低いものであった。また、粒子径の細かい炭酸カルシウム粉末として卵殻粉末−Aの代わりに軽質炭酸カルシウム粉末を用いた比較例5では、平滑性には問題がなかったものの、機械強度(引張強度、伸び)が若干劣る結果となった。多孔質の卵殻粉末は、一般的な軽質炭酸カルシウムに比べて高い補強作用を発現することが示された。
以上より、本発明に従い所定のBET比表面積及び真円度を有し、かつ所定の平均粒子径の範囲内において、異なる粒径分布を有する少なくとも2群の卵殻粉末群を用いることで、卵殻粉末が高充填されていながら、外観及び機械的特性が良好な成形品を製造できることが判明した。

Claims (9)

  1. 熱可塑性樹脂と卵殻粉末とを質量比50:50〜10:90の割合で含有する卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物において、
    前記卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物全体に対する前記卵殻粉末の質量比が50/100以上であり、
    前記卵殻粉末のBET比表面積が、0.1m/g以上10.0m/g以下であり、
    前記卵殻粉末の真円度が、0.50以上0.95以下であり、
    前記卵殻粉末は、平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群を含み、かつ
    前記した平均粒子径の異なる少なくとも2群の粒子群として、空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上2.2μm未満の卵殻粉末群と、空気透過法による平均粒子径が2.2μm以上6.0μm未満の卵殻粉末群とを質量比1:1〜5:1で含有しているものであることを特徴とする卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物。
  2. 平均粒子径が小さい卵殻粉末群Aの平均粒子径をaとし、平均粒子径が大きい卵殻粉末群Bの平均粒子径をbとした場合に、a/b比率が0.85以下となることを特徴とする請求項1に記載の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物。
  3. 前記卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物中における前記熱可塑性樹脂と前記卵殻粉末の質量比が、50:50〜30:70である請求項1又は2に記載の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物。
  4. 前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂である請求項1〜3の何れか1つに記載の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物。
  5. 乳酸、重量平均分子量3,000以下の乳酸オリゴマー、及び分岐状ポリ乳酸からなる群より選択される可塑剤をさらに含有する、請求項1〜3の何れか1つに記載の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物。
  6. 前記卵殻粉末が未焼成の卵殻粉末である請求項1〜5の何れか1つに記載の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物。
  7. 前記卵殻粉末が表面処理されていない卵殻粉末である請求項6に記載の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物。
  8. 請求項1〜7の何れか1つに記載の卵殻粉末含有熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
  9. 食品容器である、請求項8に記載の成形品。
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