以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に示す技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。
(特徴1)制御装置は、作成された実効速度情報において、第1の実効速度が第2の実効速度よりも大きく、かつ、第1の実効速度と第2の実効速度との差が特定の閾値よりも大きいことが示され、さらに、2個以上の無線端末のうちの少なくとも1個の無線端末が、第1のエリアの外側であって第2のエリアを除くエリアである第3のエリアから第1のエリア内に移動する場合である第1の場合に、補正制御を開始するようにしてもよい。
この構成によると、制御装置は、少なくとも1個の無線端末が第3のエリアから第1のエリア内に移動する場合に、補正制御を開始することができる。即ち、制御装置は、少なくとも1個の無線端末が第3のエリアから第1のエリアを経由して第2のエリア内に移動する可能性が比較的高い場合に、補正制御を開始することができる。従って、制御装置は、必要性の低いタイミングで無駄に補正制御を行うことを抑制することができる。
(特徴2)制御装置は、補正制御が開始された後に新たに作成された実効速度情報において、第1の実効速度と第2の実効速度との差が特定の閾値以下であることが示される第2の場合に、補正制御を終了するようにしてもよい。
この構成によると、制御装置は、例えば第2のエリア内における電波状況が改善する等の要因によって、第1の実効速度と第2の実効速度との差が特定の閾値以下となる場合に、補正制御を終了することができる。これにより、第1のエリアにおける設定通信速度の低下の制御が終了するため、第1の実効速度を補正制御前の状態に戻すことができる。第1のエリア内で高い実効速度を実現することができる。
(特徴3)第2のエリアは、アクセスポイントの通信範囲内のうち、当該エリアに関係する位置関係情報を含む通信実績情報が受信されなかったエリアを含んでもよい。
制御装置が、アクセスポイントの通信範囲内のうちの特定のエリアについて、当該エリアを示す位置関係情報を含む通信実績情報が受信されなかった場合、当該エリア内に無線端末が存在していなかったことと、当該エリア内に存在した無線端末がアクセスポイントを介して通信できなかったことと、のどちらかである可能性が高い。この構成によると、制御装置は、第2のエリア内に存在した無線端末がアクセスポイントを介して通信できなかった可能性がある場合にも、補正制御を行うことができる。無線端末が、アクセスポイントを介した無線通信を実行できない状況が発生することをより適切に抑制し得る。
(特徴4)位置関係情報は、2個以上の無線端末のそれぞれとアクセスポイントに対する方位と、2個以上の無線端末のそれぞれとアクセスポイントとの間の距離と、のうちの少なくとも一方に関係する情報を含んでもよい。
この構成によると、無線端末が位置測定のための専用のデバイス(例えばGPS(Global Positioning Systemの略)受信機など)を備えない場合においても、制御装置は、無線端末とアクセスポイントに対する方位と、無線端末とアクセスポイントとの間の距離と、のうちの少なくとも一方に関係する情報に基づいて、アクセスポイントと無線端末との間の位置関係を計算し、無線端末の位置を把握することができる。
(特徴5)制御装置は、メモリをさらに備えてもよい。制御装置は、2個以上の無線端末のそれぞれから通信実績情報を受信する毎に、通信実績情報をメモリに記憶させ、メモリに記憶された通信実績情報を利用して、実効速度情報を作成するようにしてもよい。
この構成によると、制御装置は、これまでに受信され、メモリに蓄積されている通信実績情報を利用して実効速度情報を作成することができる。より精度の高い実効速度情報を作成し得る。
(第1実施例)
(システムの構成;図1)
図1に示される無線通信システム2は、AP(Access Pointの略)10の通信範囲内である倉庫4内の各エリアにおいて、無線端末50、80、90がAP10を介した無線通信を実行できない事態が発生することを防止するために、AP10の設定通信速度を制御するシステムである。図1に示されるように、無線通信システム2は、AP10と、サーバ100と、無線端末50、80、90と、を備える。AP10は、AP10の通信範囲内である倉庫4内に設置されている。無線端末50、80、90は、それぞれ、倉庫4内での作業に従事するユーザによって携帯されている。無線端末50、80、90は、それぞれ、AP10を介して、他の機器(例えば、サーバ100、他の無線端末等)とWi−Fi通信を実行可能である。図1の例では、無線端末50、80、90のみが示されているが、実際には、無線通信システム2には、これら以外の無線端末が含まれていてもよい。サーバ100は、倉庫4外に設置されているとともに、AP10と有線接続されており、AP10との間で有線通信を実行可能である。
(無線端末50の構成;図2)
図2に示される無線端末50は、携帯型の端末装置であり、例えば、バーコード、2次元コード等の各種情報コードに記録されたデータを読み取るための情報コード読取装置である。例えば、無線端末50は、倉庫4内に存在する荷物等に付された情報コードに記録されたデータを読み取り、読み取られたデータを、AP10を介して外部装置に送信するための装置である。本実施例では、無線端末50は、倉庫4内での使用が想定されている。なお、他の例では、無線端末50は、情報コード読取装置に限られず、携帯電話(例えばスマートフォン)、PDA、ノートPC、タブレット端末、RFID(Radio Frequency Identificationの略)リーダライタ等、Wi−Fi通信を実行可能な任意の携帯型の端末装置であってもよい。
図2に示されるように、無線端末50は、操作部52と、表示部54と、Wi−Fiインターフェース56と、GPS(Global Positioning Systemの略)受信機58と、撮影部59と、制御部60と、メモリ62と、を備える。以下では、インターフェースのことを「I/F」と記載する。操作部52は、複数個のキーを備える。ユーザは、操作部52を操作して様々な指示を無線端末50に入力することができる。表示部54は、様々な情報を表示するためのディスプレイである。Wi−FiI/F56は、Wi−Fi方式に従った無線通信(以下では「Wi−Fi通信」と呼ぶ)を実行するためのI/Fである。Wi−Fi方式は、Wi-Fi Allianceによって策定された規格に準拠した無線通信方式であり、例えば、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.の略)802.11の規格、及び、それに準ずる規格(例えば、802.11a,11b,11g,11n等)に基づく無線通信方式である。本実施例では、無線端末50は、AP10を介してIEEE802.11g規格に基づくWi−Fi通信を実行する。他の例では、無線端末50は、AP10を介して、他の規格に基づくWi−Fi通信を実行してもよい。無線端末50は、Wi−Fi方式に従ってAP10と無線接続(以下では「Wi−Fi接続」と呼ぶ)を確立することによって、AP10を介して他の機器との間でWi−Fi通信を実行することができる。
GPS受信機58は、上空に存在するGPS衛星からの信号を受信することにより、無線端末50自身の現在位置を特定するための機器である。本実施例のGPS受信機58には、周知のGPS受信機が用いられる。
撮影部59は、バーコードや2次元コード等の各種情報コードの画像を撮影することができる撮影手段である。制御部60は、撮影部59によって撮影された情報コードの画像に基づいて、情報コードに記録されたデータを読み取る(即ちデコードする)ことができる。
制御部60は、メモリ62に記憶されているプログラムに従って、後述の端末処理(図5参照)を含む様々な処理を実行する。また、メモリ62は、無線端末50を識別するためのIDを記憶している。さらに、メモリ62は、後述の端末処理に伴って取得される様々な情報を記憶するための領域、及び、情報コードから読み取られたデータを一時的に記憶するための領域を有する。
以上、無線端末50の構成を例として説明したが、無線端末80、90も無線端末50と同様の構成を有している。
(サーバ100の構成;図3)
図3に示すサーバ100は、無線通信システム2の管理者によって設置されるサーバである。本実施例では、サーバ100は、AP10の設定通信速度を制御するための装置として動作する。図3に示すように、サーバ100は、有線通信I/F102と、制御部110と、メモリ112と、を備える。
有線通信I/F102は、AP10と有線接続されており、AP10と有線通信を実行するためのI/Fである。なお、他の例では、サーバ100は有線通信I/F102に代えてWi−FiI/Fを備え、AP10とWi−Fi通信を実行するようにしてもよい。
制御部110は、メモリ112に記憶されているプログラムに従って、後述のサーバ処理(図6参照)を含む様々な処理を実行する。また、メモリ112は、倉庫4内の各無線端末から受信された実績情報を記憶するための実績情報記憶領域120を備える。実績情報記憶領域120には、過去の所定期間(例えば過去3時間)に各無線端末から受信された実績情報が時系列順に記憶される。実績情報については後で詳しく説明する。さらに、メモリ112は、通信レベル対応表122(図4参照)と、ハザードマップ124(図7、図10、図13参照)と、補正マップ126(図8、図11、図14参照)と、補正制御情報128(図9、図12、図15参照)と、を記憶している。
通信レベル対応表122は、図4に示されるように、RSSI(Received Signal Strength Indicationの略)値と、実効速度と、通信レベルと、が対応付けられた表である。図4の通信レベル対応表122は、IEEE802.11gの規格に従ってWi−Fi通信が実行される場合のRSSI値と実効速度と通信レベルとの対応関係を示すものであり、サーバ10の管理者によって予め準備されてメモリ112に記憶されている。「RSSI値」は、無線端末50等がAP10から電波を受信した際の電波強度を示す値である。測定されるRSSI値が大きいほど、電波強度が大きいことを意味する。一般的に、Wi−Fi通信においては、AP10からの距離が大きくなるほど、無線端末50等において測定されるRSSI値は小さくなる。「実効速度」は、無線端末50等がAP10を介して他の機器とWi−Fi通信を実行する際における実際のデータ伝送速度を示す。実効速度は、電波強度に比例して速くなる。「通信レベル」は、実効速度のレベルを数値で示している。従って、図4の通信レベル対応表122においては、無線端末50等がAP10から電波を受信した際のRSSI値(電波強度)が「−82dBm」である場合、実効速度は「6Mbps」であり、通信レベルは「1」であることを意味する。通信レベル対応表122は、後述のサーバ処理(図6参照)において、制御部110によって参照される。
一方、ハザードマップ124、補正マップ126、及び、補正制御情報128は、制御部110が後述のサーバ処理(図6参照)を実行することによって作成される。ハザードマップ124、補正マップ126、及び、補正制御情報128は、サーバ処理において新たに作成される毎に、新たに作成されたものが、既にメモリ112に記憶されている古いものに代わってメモリ112に記憶される(即ち更新される)。
ハザードマップ124(図7、図10、図13参照)は、倉庫4内を複数個のエリア(図1参照)に区画した場合における、各エリア内に存在する無線端末50等がWi−Fi通信を実行する場合の実効速度の平均値(以下では「平均実効速度」と呼ぶ場合がある)を表すマップである。本実施例では、図1のように、倉庫4内は、倉庫4内を平面視した場合において、列A〜Eと行1〜6によって定義される30個のエリアに区画される。以下では、図1の「列A、行1」に対応するエリア(マス)のことを「エリアA1」、「列B、行2」に対応するエリアのことを「エリアB2」のように呼ぶ。以下、他の図(図7〜図15)を参照する説明部分においても同様の方法で各エリアのことを呼称する。
補正マップ126(図8、図11、図14参照)は、ハザードマップ124内に、隣接するエリアよりも実効速度が極端に遅いエリア(以下では「危機エリア」と呼ぶ場合がある)が存在する場合に、当該危機エリアの周辺のエリア(以下では「補正エリア」と呼ぶ場合がある)の実効速度を低下させるように設定通信速度を低下させる補正制御を実行するために作成されるマップである。
補正制御情報128は、補正マップ126に基づいて作成される情報であって、AP10に対して、設定通信速度の補正(低下)が行われるべきエリアと、当該エリアにおける設定通信速度とを指定するための情報である。AP10は、サーバ100から受信された補正制御情報によって示されるエリアにおける設定通信速度を、当該エリアに対して指定された速度に低下させるように、当該エリアへ出力する電波の強度を調整する(即ち、Wi−Fi通信の実効速度を調整する)。
上記したハザードマップ124、補正マップ126、及び、補正制御情報128については、後で詳しく説明する。
(AP10の構成;図1、図3)
AP10は、無線アクセスポイント又は無線LANルータと呼ばれる通常のAPである。AP10の通信範囲(即ち電波が届く範囲)は図1の倉庫4内の全域である。AP10は、倉庫4内を30個のエリアのそれぞれについて、サーバ100から指定された設定通信速度に従って通信(即ちデータ伝送)を実行することができる。詳細には、AP10は、サーバ100から受信された補正制御情報によって示されるエリアにおける設定通信速度を、当該エリアに対して指定された速度に低下させるように、当該エリアへ出力する電波の強度を調整する(即ち、Wi−Fi通信の実効速度を調整する)。
(端末処理(図5)及びサーバ処理(図6)の前提事項)
無線端末50の制御部60が実行する端末処理(図5)及びサーバ100の制御部110が実行するサーバ処理(図6)の内容を説明する前に、これらの処理が実行される前提となる事項について説明しておく。一般的に、Wi−Fi通信では、APの設定通信速度が高速であると、データの伝送効率は向上するが、電波状況の悪化等の影響を受け易くなる。その場合、設定通信速度に対応する実効速度(即ち実際の通信速度)が確保されず、無線端末が当該APを介したWi−Fi通信を実行できない状況が発生する場合がある。一方、設定通信速度が低速であれば、データの伝送効率は低下するが、電波状況の悪化等の影響を受け難くなるため、設定通信速度に対応する実効速度が確保され易くなり、無線端末がアクセスポイントを介した無線通信を実行できない状況が発生し難くなる。そのため、通常、APは、電波状況の悪化等が発生する場合に、設定通信速度を低下させる制御(いわゆるフォールバック制御)を行い、無線端末がAPを介したWi−Fi通信を実行できない状況の発生の抑制を図っている。
しかしながら、APの通信範囲内に障害物が設置される等の要因により、通信範囲内の一部のエリアにおける電波状況が、隣接する他のエリアにおける電波状況よりも極端に悪化する場合がある。そのような場合に、例えば、携帯型の無線端末を所持するユーザが、上記の隣接する他のエリアから電波状況が極端に悪いエリア内へと移動すると、APとの間の通信の実効速度が急激に低下する。この結果、APによるフォールバック制御が間に合わず、APの設定通信速度に対応する実効速度が確保されなくなり、無線端末がAPを介したWi−Fi通信を実行できない状況が発生するおそれがある。
以下で説明する端末処理及びサーバ処理は、そのような状況の発生を抑制し、無線端末50がAP10を介したWi−Fi通信を実行できる状態を確保するために実行される処理である。
(端末処理;図5)
図5を参照して、無線端末50の制御部60が実行する端末処理の内容を説明する。ここでは、無線端末50の制御部60が実行する処理を例に説明するが、無線端末80、90(図1参照)も同様の処理を実行する。倉庫4内で無線端末50の電源がオンされると、制御部60は、図5の処理を開始する。
S10では、制御部60は、所定のタイミングが到来すること(例えば前回S10でYESと判断されてから1時間が経過すること)を監視する。所定のタイミングは、システムの管理者が任意に設定することができる。他の例では、所定のタイミングは、上記以外のタイミングであってもよい。所定のタイミングが到来する場合、制御部60は、S10でYESと判断し、S12に進む。
S12では、制御部60は、この時点のAP10との通信状況に基づいて実績情報を作成する。実績情報は、AP10から受信される電波の強度を示すRSSI値と、AP10とのWi−Fi通信の実効速度値と、無線端末50自身の位置情報と、現在時刻と、を含む。具体的には、S12では、まず制御部60は、この時点においてAP10から受信される電波の強度を測定してRSSI値を特定する。そして、制御部60は、この時点でAP10との間で行われているWi−Fi通信の速度(データ伝送速度)を測定し、測定された速度を実効速度として特定する。さらに、制御部60は、GPS受信機58からこの時点の無線端末50の位置情報を取得する。さらに、制御部60は、現在時刻を特定する。次いで、制御部60は、これらのRSSI値、実効速度、位置情報、及び現在時刻を含む実績情報を作成する。なお、電波状況の悪化等の要因によって、この時点で無線端末50がAP10とのWi−Fi通信を実行できない場合には、S12では、制御部60は、位置情報及び現在時刻のみを含み、RSSI値及び実効速度を含まない実績情報を作成することになる。
続くS14では、制御部60は、S12で作成された実績情報を、AP10を介してサーバ100に送信する。なお、電波状況の悪化等の要因によって、この時点で無線端末50がAP10とのWi−Fi通信を実行できない場合には、S14では、制御部60は、実績情報を送信できないことになる。S14を終えると、制御部60は再びS10の監視に戻る。
(サーバ処理;図6)
次いで、図6を参照して、サーバ100の制御部110が実行するサーバ処理の内容を説明する。S20では、制御部110は、倉庫4内の各無線端末から、実績情報を受信することを監視する。上記の通り、倉庫4内の各無線端末(無線端末50等)は、所定のタイミングが到来する毎に、実績情報を作成し、サーバ100に送信する(図5のS10〜S14参照)。制御部110は、倉庫4内の各無線端末から、AP10を介して実績情報を受信すると、S20でYESと判断してS22に進む。
S22では、制御部110は、新たに受信された各実績情報をメモリ112の実績情報記憶領域120に記憶させる。上記の通り、実績情報記憶領域120には、過去の所定期間(例えば過去3時間)に各無線端末から受信された実績情報が時系列順に記憶(蓄積)される。そのため、S22では、制御部110は、新たに受信された実績情報をメモリ112の実績情報記憶領域120に記憶させるとともに、最も前に受信された実績情報(即ち最も古い実績情報)を実績情報記憶領域120から削除する。
続くS24では、制御部110は、実績情報記憶領域120内の各実績情報を利用して、メモリ112内のハザードマップ124を更新する。具体的には、S24では、制御部110は、実績情報記憶領域120内の各実績情報を利用してハザードマップを新たに作成し、新たに作成されたハザードマップを、メモリ112内に既に記憶されている古いハザードマップ124に代えてメモリ112に記憶させる。
制御部110がハザードマップを作成する手法について説明する。まず、制御部110は、図1の30個のエリアのうちの1個のエリア(以下では「対象エリア」と呼ぶ)を特定する。そして、制御部110は、実績情報記憶領域120内の各実績情報を参照し、当該対象エリアに対応する位置を示す位置情報を含む1個以上の実績情報(以下では「対象実績情報」と呼ぶ)を特定する。そして、制御部110は、特定された1個以上の対象実績情報に含まれる各実効速度の平均値(以下では「平均実効速度」と呼ぶ)を算出する。なお、制御部110は、実績情報記憶領域120内から対象実績情報を特定できなかった場合(即ち、対象エリアに無線端末が存在した実績がない場合、又は、対象エリアにおいてWi−Fi通信が実行不可能な状態であった場合)には、制御部110は当該対象エリアの平均実効速度を算出しない。次いで、制御部110は、図1の30個のエリアのうちの他の1個のエリアを新たに対象エリアとして特定し、当該対象エリアの平均実効速度を算出する。これを繰り返し、すべてのエリアについての平均実効速度が算出されると、各エリアにおける平均実効速度を示すハザードマップ(図7、図10、図13参照)が完成する。本実施例では、例えば図7に示すように、ハザードマップは、図1の30個のエリア(即ちエリアA1〜E6)と同様の30個のエリアを有する。ハザードマップにおける各エリアには、当該エリアにおける平均実効速度が示されている。
上記の通り、制御部110は、新たに作成されたハザードマップを、メモリ112内に既に記憶されている古いハザードマップ124に代えてメモリ112に記憶させる(即ち更新する)。
続くS26では、制御部110は、S24で更新されたハザードマップ124に含まれる30個のエリアのうち、1個のエリア(以下では「特定エリア」と呼ぶ)を特定する。
続くS28では、制御部110は、S26で特定された特定エリアの通信レベルが、特定エリアに隣接するエリア(以下では「隣接エリア」と呼ぶ)の通信レベルよりも3レベル以上小さいか否かを判断する。ここで、隣接エリアとは、特定エリアを取り囲む各エリア(即ち、特定エリアの上下左右、斜め上、斜め下の各エリア)を指す。例えば特定エリアが「A1」である場合、隣接エリアは「A2」「B1」「B2」の3エリアである。また、例えば特定エリアが「C4」である場合、隣接エリアは「B3」「B4」「B5」「C3」「C5」「D3」「D4」「D5」の8エリアである。S28では、まず、制御部110は、メモリ112内の通信レベル対応表122(図4参照)を参照し、ハザードマップ124における特定エリアの平均実効速度の通信レベルを特定する。例えば、ハザードマップ124における特定エリアの平均実効速度が「24」(単位は[Mbps])である場合、制御部110は、特定エリアの通信レベル「5」を特定する。なお、本実施例では、特定エリアの平均実効速度が存在していない場合(図13のエリアC5、C6参照)、制御部110は、特定エリアの通信レベルとして「0」を特定する。制御部110は、同様の手法によって、各隣接エリアの通信レベルも特定する。そして、制御部110は、特定エリアの通信レベルと、各隣接エリアの通信レベルと、を比較し、レベルの差が3以上であるか否かを判断する。特定エリアの通信レベルが、各隣接エリアの通信レベルのうちの少なくとも1つよりも3レベル以上小さい場合、制御部110は、S28でYESと判断し、S30に進む。S28でYESと判断される場合は、特定エリアの通信レベルが、少なくとも1つの隣接エリアの通信レベルよりも極端に小さい(即ち、特定エリアの平均実効速度が少なくとも1つの隣接エリアの平均実効速度よりも極端に遅い)ことを意味する。一方、特定エリアの通信レベルが、各隣接エリアの通信レベルよりも3レベル以上小さくない場合、制御部110は、S28でNOと判断し、S32に進む。
S30では、制御部110は、特定エリアを危機エリア(即ち、隣接エリアに比べて実効速度が極端に遅いエリア)として特定する。S30を終えると、制御部110は、S36に進む。
一方、S32では、制御部110は、特定エリアの通信レベルが、隣接エリアの通信レベルよりも3レベル以上大きいか否かを判断する。特定エリアの通信レベルが、各隣接エリアの通信レベルのうちの少なくとも1つよりも3レベル以上大きい場合、制御部110は、S32でYESと判断し、S34に進む。S32でYESと判断される場合は、少なくとも1つの隣接エリアの通信レベルが、特定エリアの通信レベルよりも極端に小さい(即ち、少なくとも1つの隣接エリアの平均実効速度が特定エリアの平均実効速度よりも極端に遅い)ことを意味する。一方、特定エリアの通信レベルが、各隣接エリアの通信レベルよりも3レベル以上大きくない場合、制御部110は、S32でNOと判断し、S36に進む。
S34では、制御部110は、特定エリアを補正エリア(即ち、隣接エリアの実効速度が極端に遅いため、設定通信速度の補正が必要なエリア)として特定する。S34を終えると、制御部110は、S36に進む。
S36では、制御部110は、S24で更新されたハザードマップ124に含まれる30個のエリアをすべて特定したか否かを判断する。この時点でまだ未特定のエリアが存在する場合、制御部110は、S36でNOと判断し、S26に戻り、未特定のエリアのうちから1個のエリアを新たに特定エリアとして特定し、S28以降の処理を再度実行する。一方、この時点ですべてのエリアが特定済みである場合、制御部110は、S36でYESと判断してS38に進む。
S38では、制御部110は、メモリ112内の補正マップ126を更新する。具体的には、S38では、S26〜S36の各処理の結果を利用して補正マップを新たに作成し、新たに作成された補正マップを、メモリ112内に既に記憶されている古い補正マップ126に代えてメモリ112に記憶させる。
制御部110が補正マップを作成する手法について説明する。まず、制御部110は、S24で更新されたハザードマップ124をコピーしたコピーマップを作成する。そして、制御部110は、コピーマップに含まれ、S26〜S36の各処理において特定された1個以上の補正エリアのうちから、1個の補正エリア(以下では「特定補正エリア」と呼ぶ)を特定する。そして、制御部110は、コピーマップの特定補正エリアに対応する平均実効速度の値を、隣接する危機エリアの平均実効速度とのレベル差が2以下になるように低下させる補正を行う。例えば、補正エリアの平均実効速度が「24」(通信レベル「5」)であり、危機エリアの平均実効速度が「6」(通信レベル「1」)である場合、制御部110は、補正エリアの平均実効速度の値が「12」(通信レベル「3」)に低下するように補正する。これにより、補正エリアと危機エリアとの通信レベルの差が2以下になる。次いで、制御部110は、コピーマップに含まれる未特定の補正エリアのうちの他の1個の補正エリアを新たに特定エリアとして特定し、同様に平均実効速度を低下させるように補正する。制御部110は、すべての補正エリアの補正が完了すると、コピーマップ内に、補正を行ったことにより通信レベルの差が3以上になっている箇所が新たに発生したか否かを判定する。コピーマップ内に、補正を行ったことによって通信レベルの差が3以上になっている箇所が存在すると判定される場合には、制御部110は、当該箇所に対応するエリア(即ち、通信レベルが高いエリア)の平均実効速度を低下させるようにさらに補正する。
このような補正及び判定を繰り返し、コピーマップ内に、通信レベルの差が3以上になっている箇所が存在しないと判定された場合には、制御部110は、この時点のコピーマップ(即ち補正後のコピーマップ)を新たな補正マップ(図8、図11、図14参照)として完成させる。補正マップでは、上記コピーマップにおける各エリアの平均実効速度の値(補正後の値も含む)が、AP10に指示するための設定通信速度にそのまま置き換わる。例えば図8に示すように、本実施例の補正マップでは、各エリアには、AP10に指示するための設定通信速度が示されている。このうち、上記の補正が行われたエリア(例えば、図8のB4〜B6、C4、D4〜D6)には、補正が行われたエリアであることを示すフラグが対応付けられる。図8では、各エリア内の設定通信速度の値に付されている下線がフラグを示す。
上記の通り、制御部110は、新たに作成された補正マップを、メモリ112内に既に記憶されている古い補正マップ126に代えてメモリ112に記憶させる(即ち更新する)。
続くS40では、制御部110は、S38で更新された補正マップ126に基づいて、メモリ112内の補正制御情報128を更新する。具体的には、S40では、制御部110は、S38で更新された補正マップ126において、補正が行われた各エリア(即ち、上記のフラグが対応付けられているエリア)と、当該エリアにおける設定通信速度(即ち補正後の設定通信速度)と、を対応付けることにより、新たな補正制御情報(例えば、図9、図12、図15)を作成する。例えば図9の例では、補正制御情報は「B4=12」「B5=12」のように、補正が行われた各エリアと、当該エリアにおける設定通信速度とが対応付けられている。制御部110は、新たに作成された補正制御情報を、メモリ112内に既に記憶されている古い補正制御情報128に代えてメモリ112に記憶させる(即ち更新する)。
続くS42では、制御部110は、S40で更新された補正制御情報128を含む補正指示をAP10に送信する。AP10は、サーバ100から補正指示を受信すると、補正指示に含まれる補正制御情報によって示されるエリアにおける設定通信速度を、当該エリアに対して指定された速度に低下させるように、当該エリアへ出力する電波の強度を調整する(即ち、Wi−Fi通信の実効速度を調整する)。S42を終えると、制御部110は、S20に戻り、再び各無線端末から実績情報を受信することを監視する。
(具体的なケース;図7〜図15)
続いて、図7〜図15を参照し、図5、図6の処理によって実現される具体的なケースA及びBを説明する。
(ケースA;図7〜図12)
ケースAでは、何らかの要因によってエリアC5、C6において平均実効速度が極端に低下し(図7〜図9)、その後、エリアC5、C6の平均実効速度が回復する(図10〜図12)例を説明する。
(エリアC5、C6において平均実効速度が極端に低下;図7〜図9)
倉庫4内の各無線端末(無線端末50等)は、図5の端末処理を実行しており、所定のタイミング毎にAP10を介してサーバ100に実績情報を繰り返し送信している。
サーバ100の制御部110は、各無線端末から実績情報を受信すると(図6のS20でYES)、受信された各実績情報を実績情報記憶領域120に記憶させ(S22)、ハザードマップ124を更新する(S24)。
図7は、この時点で制御部110が作成するハザードマップ124である。この時点のエリアC5、C6の平均実効速度はともに「6」であり、周囲のエリアB4〜B6、C3、D4〜D6の平均実効速度「24」又は「18」である。即ち、エリアC5、C6の通信レベルは「1」であり、周囲のエリアB4〜B6、C4、D4〜D6の通信レベル「5」又は「4」よりも3レベル以上小さい(図4参照)。そのため、制御部110は、エリアC5、C6を危機エリア(図中の濃いグレー部分参照)として特定し、エリアB4〜B6、C4、D4〜D6を補正エリア(図中の薄いグレー部分参照)として特定する(図6のS26〜S36)。すなわち、図7のハザードマップ124は、何らかの要因によってエリアC5、C6において平均実効速度が極端に低下しており、周囲のエリアの設定通信速度に補正が必要であることを示している。
続いて、制御部110は、補正マップ126を更新する(図6のS38)。図8は、この時点で制御部110が作成する補正マップ126である。この補正マップ126では、図7で補正エリアとして特定されたエリアB4〜B6、C4、D4〜D6の設定通信速度が「12」(即ち通信レベル「3」)に補正されている。これにより、危機エリアC5、C6との設定通信速度のレベル差が2(即ち3より小さい)になる。
続いて、制御部110は、補正制御情報128を更新する(図6のS40)。図9は、この時点で制御部110が作成する補正制御情報128である。この補正制御情報128では、「B4=12」「B5=12」・・・「D6=12」のように、補正が行われた各エリアと、当該エリアにおける設定通信速度とが対応付けられている。
続いて、制御部110は、図9の補正制御情報128を含む補正指示をAP10に送信する。これにより、AP10は、補正制御情報128によって示される各エリアB4〜B6、C4、D4〜D6における設定通信速度を、当該エリアに対して指定された速度(即ち12Mbps)に低下させるように、当該エリアへ出力する電波の強度を調整する(即ち、Wi−Fi通信の実効速度を調整する)。
この結果、例えば、倉庫4内で、無線端末50がエリアC4に入ると、その時点で、無線端末50のWi−Fi通信の実効速度は、補正後の設定通信速度(即ち12Mbps)に対応した速度へと移行する。そして、その後、無線端末50がエリアC4からエリアC5に移動しても、エリアC4における実効速度の通信レベルとエリアC5における実効速度の通信レベルの差は2以下であるため、無線端末50がエリアC4からエリアC5に移動した際に、実効速度が急激に低下する事態の発生を抑制することができる。そのため、本実施例の無線通信システム2によると、無線端末50が、危機エリアの周辺エリアから危機エリアへと移動する場合であっても、無線端末50がAP10を介したWi−Fi通信を実行することができる。従って、本実施例の無線通信システム2によると、無線端末50が、AP10を介したWi−Fi通信を実行できない状況が発生することを抑制することができる。
(その後エリアC5、C6において平均実効速度が回復;図10〜図12)
その後、サーバ100の制御部110は、各無線端末から再び実績情報を受信すると(図6のS20)、ハザードマップ124を更新する(S24)。図10は、この時点で制御部110が作成するハザードマップ124である。この時点のエリアC5、C6の平均実効速度はともに「12」に回復している。また、周囲のエリアB4〜B6、C4、D4〜D6の平均実効速度は、実行中の補正の影響で「12」である。即ち、以前に作成されたハザードマップ(図7参照)で危機エリアとして特定されたエリアC5、C6の平均実行速度が、その後回復したことを意味する。
続いて、制御部110は、図10のハザードマップ124内に危機エリア及び補正エリアが存在しないと判断する(図6のS26、S28、S32、S36)。
続いて、制御部110は、補正マップ126を更新する(S38)。図11は、この時点で制御部110が作成する補正マップ126である。上記の通り、図10のハザードマップ124内に危機エリア及び補正エリアが存在しないため、図11の補正マップ126は、図10のハザードマップ124の同様の内容であり、補正されたエリアを含まない(即ち、いずれのエリアでも補正が行われない)。
続いて、制御部110は、補正制御情報128を更新する(図6のS40)。図12は、この時点で制御部110が作成する補正制御情報128である。上記の通り、図11の補正マップ126において補正されたエリアが存在しないため、図12の補正制御情報128は、補正が行われたエリアと当該エリアにおける設定通信速度を示す情報が全く含まれない。
続いて、制御部110は、図12の補正制御情報128を含む補正指示をAP10に送信する。上記の通り、図12の補正制御情報128は、補正が行われたエリアと当該エリアにおける設定通信速度を示す情報が全く含まれない。そのため、AP10は、すべてのエリアにおいて電波の強度を調整することなく出力する。
この結果、サーバ100は、以前に危機エリアとして特定されたエリアC5、C6における電波状況が改善する等の要因によって、エリアC5、C6が危機エリアではなくなった場合、周囲のエリア(エリアC4等)の設定通信速度を低下させる補正を終了させることができる。これにより、周囲のエリアの実効速度を補正前の状態に戻ることができる。周囲のエリア内で高い実効速度を実現することができる。
(ケースB;図13〜図15)
ケースBでは、サーバ100の制御部110が、各無線端末から、エリアC5、C6を示す位置情報を含む実績情報を受信しなかった例を説明する。
本ケースでも、倉庫4内の各無線端末は、図5の端末処理を実行しており、所定のタイミング毎にAP10を介してサーバ100に実績情報を繰り返し送信している。ただし、本ケースでは、エリアC5、C6に存在する無線端末は、通信状況の悪化等の要因によって、AP10を介したWi−Fi通信を実行できない。そのため、エリアC5、C6に存在する無線端末は、所定のタイミングが到来する場合であっても、AP10を介してサーバ100に実績情報を送信することができない。
サーバ100の制御部110は、各無線端末から実績情報を受信すると(図6のS20でYES)、ハザードマップ124を更新する(S24)。図13は、この時点で制御部110が作成するハザードマップ124である。この時点のエリアC5、C6の平均実効速度はともに「−」(即ち平均実効速度が存在しない)であり、周囲のエリアB4〜B6、C4、D4〜D6の平均実効速度「24」又は「18」である。即ち、エリアC5、C6の通信レベルは「0」であり、周囲のエリアB4〜B6、C4、D4〜D6の通信レベル「5」又は「4」よりも3レベル以上小さい(図4参照)。そのため、本ケースでも、制御部110は、エリアC5、C6を危機エリア(図中の濃いグレー部分参照)として特定し、エリアB4〜B6、C4、D4〜D6を補正エリア(図中の薄いグレー部分参照)として特定する(図6のS26〜S36)。すなわち、図13のハザードマップ124は、エリアC5、C6から実績情報が受信されない状態(即ち、エリアC5、C6に無線端末が存在しない状態と、エリアC5、C6に存在した無線端末がAP10を介して通信できない状態とのうちの少なくとも一方の状態)であって、周囲のエリアの設定通信速度に補正が必要であることを示している。
続いて、制御部110は、補正マップ126を更新する(図6のS38)。図14は、この時点で制御部110が作成する補正マップ126である。この補正マップ126では、図11で補正エリアとして特定されたエリアB4〜B6、C4、D4〜D6の設定通信速度が「9」(即ち通信レベル「2」)に補正されている。さらに、この補正に伴って、補正エリアのさらに外側のエリアであるエリアA3〜A6、B3、C3、D3、E3〜E6の設定通信速度も「18」(即ち通信レベル「4」)に補正されている。従って、補正マップ126には、隣接するエリア間の設定通信速度のレベル差が3以上になる箇所が存在しない。
続いて、制御部110は、補正制御情報128を更新する(図6のS40)。図15は、この時点で制御部110が作成する補正制御情報128である。この補正制御情報128では、「A3=18」「A4=18」・・・「E6=18」のように、補正が行われた各エリアと、当該エリアにおける設定通信速度とが対応付けられている。
続いて、制御部110は、図15の補正制御情報128を含む補正指示をAP10に送信する。これにより、AP10は、補正制御情報128によって示される各エリアA3・・・E6における設定通信速度を、当該エリアに対して指定された速度に低下させるように、当該エリアへ出力する電波の強度を調整する(即ち、Wi−Fi通信の実効速度を調整する)。
この結果、例えば、倉庫内で、倉庫4内で、無線端末50がエリアC3に入ると、その時点で、無線端末50のWi−Fi通信の実効速度は、補正後の設定通信速度(即ち18Mbps)に対応した速度へと移行する。そして、その後、無線端末50がエリアC3からエリアC4を経てエリアC5に移動しても、各エリア間における実効速度の通信レベルの差は2以下であるため、無線端末50がエリアC4からエリアC5に移動した際に、実効速度が急激に低下する事態の発生を抑制することができる。そのため、無線端末50がエリアC4からエリアC5に移動した場合であっても、無線端末50がAP10を介したWi−Fi通信を実行することができる可能性が高くなる。従って、本実施例の無線通信システム2によると、無線端末50が、AP10を介したWi−Fi通信を実行できない状況が発生することを抑制することができる。
上記のケースでは、サーバ100の制御部110は、エリアC5、C6を示す位置情報を含む実績情報を受信しない。この場合、制御部110は、エリアC5、C6に無線端末が存在しない状態と、エリアC5、C6に存在した無線端末がAP10を介して通信できない状態と、のどちらであるのかを判断することができない。本実施例では、このような場合であっても、制御部110は、エリアC5、C6の周囲のエリアの設定通信速度を補正する。これにより、エリアC5、C6に存在した無線端末がAP10を介して通信できない状態であった場合に、無線端末50が、AP10を介した無線通信を実行できない状況が発生することをより適切に抑制し得る。
なお、本実施例の構成によると、仮に、実際はエリアC5、C6に無線端末が存在しない状態であった場合にも、エリアC5、C6の周囲のエリアの設定通信速度が低下してしまうことになる。しかしながら、その場合であっても、エリアC5、C6の周囲のエリアの設定通信速度が一時的に低下するに留まる上、倉庫4内で用いられる無線端末50等が高速で大容量のデータ通信を実行する機会は少ないため、大きな影響はない。
なお、その後、危機エリアとして特定されたエリアC5、C6における電波状況が改善する等してエリアC5、C6が危機エリアではなくなった場合におけるサーバ100の制御部110の動作は、上記のケースAの後半部分(図10〜図12)と同様であるため、詳しい説明は省略する。
(本実施例の作用効果)
以上、本実施例の無線通信システム2の構成及び動作を説明した。上記の通り、本実施例の無線通信システム2によると、無線端末50が、AP10を介したWi−Fi通信を実行できない状況が発生することを抑制することができる。
また、本実施例では、サーバ100は、メモリ112の実績情報記憶領域120に記憶されている実績情報を利用してハザードマップを作成する(図6のS24)。そのため、本実施例によると、より精度の高いハザードマップを作成することができる。
本実施例と請求項の対応関係を説明しておく。サーバ100が「制御装置」の一例である。実績情報が「通信実績情報」の一例である。実績情報に含まれるRSSI値及び実効速度が「速度関係情報」の一例である。実績情報に含まれる位置情報が「位置関係情報」の一例である。ハザードマップ124が「実効速度情報」の一例である。危機エリアが「第2のエリア」の一例であり、補正エリアが「第1のエリア」の一例である。図6のS38〜S42の処理が「補正制御」の一例である。図7及び図13に示すハザードマップ124が作成される場合が「第1の場合」の一例であり、その後で図10に示すハザードマップ124が作成される場合が「第2の場合」の一例である。
(第2実施例)
本実施例では、サーバ100の制御部110は、少なくとも1個の無線端末(例えば無線端末50)が、設定通信速度が補正されていないエリアから補正されているエリアに移動するタイミングで、AP10に補正指示を送信する点が第1実施例と異なる。以下、これに伴って第1実施例とは異なる点を中心に説明する。
本実施例では、倉庫4内に存在する各無線端末(無線端末50等)は、自機の位置情報をサーバ100に常時送信している。サーバ100の制御部110は、倉庫4内に存在する各無線端末の倉庫4内での位置を常時把握している。
制御部110が実行するサーバ処理の内容は、基本的には第1実施例と共通する。ただし、本実施例では、制御部110は、補正制御情報128を更新した後(図6のS40)、直ぐにAP10に補正指示を送信しない点で第1実施例とは異なる。本実施例では、制御部110は、補正制御情報128を更新した後、少なくとも1個の無線端末が、補正制御情報128に含まれる補正後のエリアに入る場合に、補正指示をAP10に送信する。
この際、補正指示には、補正制御情報128に含まれる情報のうち、当該無線端末が入った補正後のエリアに対応する設定通信速度を示す情報のみが含まれる。
AP10は、サーバ100から補正指示を受信すると、補正指示に含まれる情報によって指定されるエリアの設定通信速度のみを低下させる。これにより、無線端末が存在するエリア内の実効速度のみが調整される。
本実施例の構成によると、サーバ100は、設定通信速度が補正されていないエリアから補正されているエリアに移動する場合(即ち、その後、危機エリア内へ移動する可能性が比較的高い場合)に、AP10に補正指示を送信することができる。従って、サーバ100は、必要性の低いタイミングで無駄に補正を行うことを抑制することができる。なお、本実施例における「設定通信速度が補正されていないエリア」が「第3のエリア」の一例である。
(第3実施例)
本実施例では、無線端末50がGPS受信機(図1の符号58参照)を備えない点が第1実施例とは異なる。本実施例では、無線端末50の制御部60は、AP10から受信する電波の電波強度(即ちRSSI値)、及び、電波を受信した方位に基づいて、AP10と無線端末50との距離及びAP10に対する無線端末50の方位を示す位置関係情報を作成してもよい。無線端末50の制御部60は、所定のタイミング毎に、第1実施例の位置情報(即ちGPS受信機から取得される情報)に代えて、上記の位置関係情報を含む実績情報をサーバ100に送信する。無線端末50を例として説明したが、他の無線端末(無線端末80、90等)についても同様である。
サーバ100の制御部110は、無線端末50から受信された実績情報に含まれる位置関係情報が示す距離及び方位に基づいて、無線端末50の倉庫4内における位置を特定する。
本実施例によると、無線端末50が位置測定のための専用のデバイス(例えばGPS受信機など)を備えない場合においても、サーバ10は、無線端末50とAP10との位置関係に基づいて、無線端末50の倉庫4内における位置を把握することができる。
以上、本明細書で開示する技術の具体例を説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。上記の実施例の変形例を以下に列挙する。
(変形例1)上記の各実施例では、制御部110は、実績情報記憶領域120内の各実績情報を利用して、メモリ112内のハザードマップ124を更新する(図6のS24)。これに限られず、制御部110は、新たに受信された各実績情報のみに基づいて、ハザードマップ124を更新するようにしてもよい。
(変形例2)倉庫4内における各無線端末の位置を特定するための手法は、上記の各実施例で説明された手法に限られず、任意の手法を用いることができる。
(変形例3)無線端末50の制御部60がサーバ100に送信する実績情報には現在時刻が含まれていなくてもよい。
(変形例4)また、実績情報には、RSSI値と実効速度のうちの一方のみが含まれていてもよい。実績情報にRSSI値が含まれ、実効速度が含まれない場合には、サーバ100の制御部110は、通信レベル対応表122(図4)を参照し、RSSI値に対応する実効速度及び通信レベルを特定するようにしてもよい。
(変形例5)上記の各実施例では、制御部110がハザードマップを作成する場合、各エリアにおける平均実効速度を算出している。これに限られず、制御部110は、ハザードマップを作成する場合に、最高実効速度(即ち実効速度の最高値)や最低実効速度(即ち実効速度の最低値)を特定するなど、任意の手法で各エリアの実効速度を特定するようにしてもよい。
(変形例6)上記の各実施例では、制御部110は、特定エリアと隣接エリアとの通信レベルの差が3以上である場合に、特定エリアを危機エリアとして特定し(図6のS28でYES、S30)、補正マップ126の作成時には、危機エリアと補正エリアとの通信レベルの差が2以下になるように補正を行う。しかしながら、閾値となる通信レベルの差は「3」に限られず、任意の値とすることができる。また、閾値は通信レベルに限られず、通信速度、RSSI値等であってもよい。これらの変形例における閾値も「特定の閾値」の一例である。
(変形例7)上記の各実施例では、制御部110は、補正制御情報128の少なくとも一部を含む補正指示をAP10に送信することによって、AP10に設定通信速度の調整を実行させる。これに限られず、制御部110は、作成した補正マップ126を含む補正指示をAP10に送信してもよい。その場合、AP10は、各エリアにおける設定通信速度を、補正マップ126によって指示された速度に設定して電波を出力するようにしてもよい。
(変形例8)制御部110は、ハザードマップ124(図7、図10、図13)を作成する以外の方法によって、各エリアにおける平均実効速度を把握するようにしてもよい。例えば、制御部110は、マップ形式ではない数値形式で、各エリアに平均実効速度を把握するようにしてもよい。
(変形例9)上記の各実施例では、サーバ100とAP10とは別個に構成されている。これに限られず、サーバ100の各機能がAP10に搭載されていてもよい。即ち、サーバとAPとが一体に構成されていてもよい。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。