本発明の第一実施形態は、導電性ダイヤモンドを含むガス拡散層である。
例えば、PEFCでは、アノードへの燃料(H2)供給不足時には、H2スタベーションといわれる現象が発生し、上述のようにアノード触媒層中に存在するカーボン担体の腐食が生ずる。触媒層の腐食が進行すると、隣接して配置されるガス拡散層、特に触媒層と隣接して配置されるガス拡散層部材(例えば、ガス拡散多孔層(MPL層、マイクロポーラス層、微多孔層または微細多孔層とも呼ばれる))におけるカーボン担体も腐食が生じる。それに伴い、触媒層−ガス拡散多孔層間の電気的接触が悪化し、急激なセル抵抗の増大がみられる。
かような問題を解決するため、上記特許文献1では、耐腐食耐性の高い導電性セラミックを用いている。しかしながら、単純に耐久性のみを上げると、ガス拡散層部材として用いた場合に、導電性の点で問題が生ずることを本発明者は見出した。特に、移動体用駆動源や定置用電源として燃料電池を用いる場合、非常に高い発電性能が希求されるため、燃料電池に用いられる部材としての導電性は非常に重要である。
また、導電性セラミックの場合、低電位において変質が生ずる場合があり、電位窓が広くないという問題もあった。さらには、ガス拡散層部材として用いた場合に、割れやすいため、破断の可能性もあった。
また、カソード側においても、燃料電池の長時間の連続運転や起動停止などさまざまな原因によって電位は大きく変化する。例えば、起動停止状態では、アノードガス流路およびカソードガス流路の双方に空気(O2)が含まれている状態であり、起動時にH2をアノードに供給すると、H2が供給された部分とH2が到達していない部分との間に電位差が発生する。この電位差により、対極であるカソードがH+の供給を強いられ、カソード側のH+の供給部分が高電位に曝される。このような電位の変化により、カーボンを主成分とする触媒担体の腐食が発生する。それによって、電極性能が経時的に低下し、燃料電池の性能が劣化する主な原因となっている。
一方、本実施形態においては、ガス拡散層に導電性ダイヤモンドを用いる。これにより、導電性が確保されたガス拡散層となるとともに、耐久性の高いガス拡散層となる。また、炭素材料であるため、低電位における変質も少ない。さらに、従来の炭素材料(例えば、カーボンブラック)で形成された微多孔層と同様に微多孔層を形成することができることから、導電性セラミックを用いることで懸念されるガス拡散層の破断の可能性も低くなる。上記効果を奏する詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように考えられる。導電性ダイヤモンドは、ラマン分光スペクトルにおいて、ダイヤモンド結合に起因するsp3結合およびグラファイト結合に起因するsp2結合を有し、ダイヤモンドの性質と、黒鉛の性質とを併せ持つ。したがって、導電性ダイヤモンドは、ダイヤモンドが有する高い耐久性と、黒鉛が有する高い導電性とを併せ持つと考えられ、これをガス拡散層に適用した場合には、高い耐久性をもち、また、導電性もガス拡散層として十分なものになると考えられる。第一実施形態のガス拡散層の耐久性は非常に高いため、特に、水素スタベーションにより、より高電位に曝されやすいアノード側に用いた場合に、その効果が一層発揮される。
ゆえに、第一実施形態のガス拡散層を膜電極接合体(MEA)、さらには燃料電池に適用した場合には、発電性能および耐久性に優れた燃料電池となる。したがって、本発明の他の一実施形態は、第一実施形態のガス拡散層を含む、膜電極接合体(MEA)である。さらには、本発明の他の実施形態は、第一実施形態のガス拡散層を含む、燃料電池である。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明のガス拡散層の一実施形態、並びにこれを使用した燃料電池の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で行う。
まず、本形態のガス拡散層が適用され得る固体高分子形燃料電池の基本的な構成を、図面を用いて説明する。
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC 1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
PEFC 1において、MEA 10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA 10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC 1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA 10と接触している。これにより、MEA 10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC 1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC 1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
なお、図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
また、燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。第一実施形態のガス拡散層を適用した燃料電池は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、第一実施形態のガス拡散層を適用した燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。したがって、本発明の他の実施形態は、上記燃料電池を有する車両である。
以下、燃料電池を構成する各部材について説明する。
[(燃料電池用)ガス拡散層]
第一実施形態のガス拡散層は、導電性が高いとともに長時間使用してもその性能の低下が少ない(耐腐食耐性が高い)。このため、第一実施形態のガス拡散層を用いた燃料電池は、発電性能に優れ、また、高い発電性能が維持される。
導電性ダイヤモンドとは、ダイヤモンドライクカーボンとも称され、実施例に記載のラマン分光スペクトルにおいてsp3結合(sp3軌道由来のピーク)およびsp2結合(sp2軌道由来のピーク)を有するカーボンのうち導電性を有するものを指す。また、導電性ダイヤモンドは、アモルファス構造をとることが好ましい。なお、「アモルファス構造をとる」とは、全てがアモルファス構造を有するものに限定されず、アモルファス構造以外に部分的にグラファイト構造などを有するものも含む。ここで、導電性を有するとは、後述の実施例に記載の方法により測定した粉末比抵抗が、1000Ω・cm以下であることを指す。
なお、従来ガス拡散微多孔層に用いられてきたケッチェンブラックのような炭素材料はsp3軌道由来のピークエリア=0である。
したがって、導電性ダイヤモンドをガス拡散層に用いることで、導電性および耐腐食耐性の両立を図ることができ、よって第一実施形態のガス拡散層を用いた燃料電池は、発電性能に優れ、高い耐久性を有する。
導電性ダイヤモンドを含むガス拡散層の抵抗は、ガス拡散層として十分な導電性を有していればよく、具体的には、20mohm・cm2以下であることが好ましく、10mohm・cm2以下であることがより好ましい。なお、ガス拡散層の抵抗は低ければ低いほどよいため、その下限は0mohm・cm2であるが、通常は3mohm・cm2以上とはなる。なお、導電性ダイヤモンドを含むガス拡散層の抵抗値は、後述の実施例に記載の方法(ガス拡散層の電気抵抗測定)にしたがって測定した値である。
ガス拡散層を燃料電池に組み込んだ場合には、少なくともアノード側のガス拡散層として第一実施形態のガス拡散層を用いることが好ましい。すなわち、本発明の好適な他の形態は、第一実施形態のガス拡散層を少なくともアノード側に用いる、燃料電池である。起動停止や負荷変動といった非定常な運転において、炭素材料が高電位に曝されることで炭素材料の腐食が発生する。このような腐食は、カソード側およびアノード側の双方で生じ得る。この際、カソード側も高電位となるが、せいぜい1.5V程度であるのに対し、H2スタベーションの場合には、アノード側の電位上昇は際限なく進み、アノード側はより高電位に曝されうる。このため、アノード側のガス拡散層は、一層の耐久性が要求される。このため、少なくとも燃料電池のアノード側に第一実施形態のガス拡散層を設けることで、耐久性が顕著に向上する。なお、耐久性の向上の観点から、カソード側に第一実施形態のガス拡散層を設けてもよく、さらにアノード側およびカソード側の双方に第一実施形態のガス拡散層を設けてもよい。
導電性ダイヤモンドは、容易に空孔を形成できることから、粒子であることが好ましい。粒子の大きさは、特に限定されないが、平均粒子径(直径)が好ましくは5〜2000nm、より好ましくは10〜200nm、特に好ましくは20〜100nm程度とするのがよい。「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒子径(直径)」とは、粒子の中心を通りかつ粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
導電性ダイヤモンドのBET比表面積は、ガス拡散性の観点で充分な比表面積であればよいが、好ましくは10m2/g以上、より好ましくは20〜200m2/gである。
なお、本明細書において、「BET比表面積」は、窒素吸着法により測定される。詳細には、サンプル 約0.04〜0.07gを精秤し、試料管に封入する。この試料管を真空乾燥器で90℃×数時間予備乾燥し、測定用サンプルとする。秤量には、株式会社島津製作所製電子天秤(AW220)を用いる。次に、下記測定条件にて、BET比表面積を測定する。吸着・脱着等温線の吸着側において、相対圧(P/P0)約0.00〜0.45の範囲から、BETプロットを作成することで、その傾きと切片からBET比表面積を算出する。
導電性ダイヤモンドは、以下の(1)および(2)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。(1)ラマン分光スペクトルで測定されるsp2軌道由来のピークエリアに対するsp3軌道由来のピークエリアの比が0を超えて0.2以下である。(2)ラマン分光スペクトルで測定されるsp2軌道由来のピーク強度に対するsp3軌道由来のピーク強度の比が0を超えて0.9以下である。好適には、導電性ダイヤモンドが(1)および(2)を満たすことが好ましい。
以下、ラマン分光スペクトルで測定されるsp2軌道由来のピークエリアに対するsp3軌道由来のピークエリアの比(sp3軌道由来のピークエリア/sp2軌道由来のピークエリア)を単にピークエリア比とも称する。また、ラマン分光スペクトルで測定されるsp2軌道由来のピーク強度に対するsp3軌道由来のピーク強度の比(sp3軌道由来のピーク強度/sp2軌道由来のピーク強度)を単にピーク強度比とも称する。
ピークエリア比を0.2以下、またはピーク強度比を0.9以下とすることで、導電性が顕著に向上する。一方で、sp3結合を有する導電性ダイヤモンド(ピーク強度比およびピークエリア比が0を超える)を用いることで、耐久性が顕著に向上する。導電性ダイヤモンドのピークエリア比またはピーク強度比を上記のように、グラファイト結合に上記割合でダイヤモンド結合を有する構造とすることで、より十分な導電性を有し、かつ耐久性もより高い電極触媒が得られる。
導電性ダイヤモンドのピークエリア比は、好ましくは、耐久性の観点からは、0.01以上である。また、導電性ダイヤモンドのピークエリア比は、より好ましくは0.02以上0.15以下である。導電性ダイヤモンドのピークエリア比を上記のように、グラファイト結合に上記割合でダイヤモンド結合を有する構造とすることで、より十分な導電性を有し、かつ耐久性もより高い電極触媒が得られる。
導電性ダイヤモンドのピーク強度比は、好ましくは、耐久性の観点からは、0.01以上である。また、導電性ダイヤモンドのピーク強度比は、より好ましくは0.02以上0.75以下である。導電性ダイヤモンドのピーク強度比を上記のように、グラファイト結合にわずかにダイヤモンド結合を有する構造とすることで、十分な導電性を有し、かつ耐久性も高い電極触媒が得られる。
sp3軌道由来のピークは、ラマン散乱分析で1290〜1350cm−1付近に観測されるダイヤモンド結合に起因するシャープなピークである。また、sp2軌道由来のピークは、ラマン散乱分析で1580cm−1付近に観測されるグラファイト結合(炭素原子の六角格子内振動)に起因するピークである。
本明細書において、ピークエリア比およびピーク強度比は、実施例に記載の装置、条件、およびソフトウェアを用いて、sp3軌道由来のピークエリア/ピーク強度およびsp2軌道由来のピークエリア/ピーク強度を測定する。そして、この値を基にピークエリア比およびピーク強度比を算出した値を採用する。また、いわゆるDバンドと、sp3軌道由来のピークとは、重複する部分があるが、上記ソフトウェアにより明確に分離することができる。
導電性ダイヤモンドの比抵抗は、1Ω・cm以下であることが好ましい。導電性ダイヤモンドの比抵抗がかような値であることで、十分な導電性を確保することができる。導電性ダイヤモンドの比抵抗は、0.8Ω・cm以下であることがより好ましく、0.6Ω・cm以下であることがさらに好ましい。なお、比抵抗は低ければ低いほど好ましいため、その下限は0Ω・cmである。比抵抗は、JIS K1469:2003の電気抵抗率に準じて測定された値を採用する。
導電性ダイヤモンドのピークエリア比、ピーク強度比および比抵抗は、製造段階で導電性ダイヤモンドのピークエリア比、ピーク強度比および比抵抗がわかる場合には、その値を採用する。または、ガス拡散層において、導電性ダイヤモンドを抽出し、該導電性ダイヤモンドのピークエリア比、ピーク強度比および比抵抗を測定してもよい。
導電性ダイヤモンドの製造方法は特に限定されるものではないが、いわゆる爆轟法による得ることができる。上記特定のピークエリア比、および/または、ピーク強度比を有する導電性ダイヤモンドについても爆轟法により得ることができる。
爆轟法とは、爆薬組成物を炭素原料として、通常密閉容器内もしくは水中等で爆発させることにより合成する方法である。このような爆轟法は、例えば、特開2005−289677号公報など、研磨剤などに使用されるナノダイヤモンドの製造法として公知であるが、爆轟法によれば、ナノダイヤモンド以外に、完全なダイヤモンド構造を有していない炭素分が存在しうる。本発明においては、完全なダイヤモンド構造を有していない炭素分から、導電性ダイヤモンド、または上記ピークエリア比またはピーク強度比を有する導電性ダイヤモンドを選択することができる。また、爆轟法において、爆轟時の圧力を低くする、衝撃波が伝達しにくい容器内の箇所からサンプリングする、爆轟のエネルギーを小さくする(火薬の量を少なくする等)、衝撃波が伝わりにくくなるようサンプルを配置するなどによって、導電性ダイヤモンドを選択的に形成させることができる。
密閉容器の大きさは、特に限定は無いが、合成ダイヤモンドの回収等の容易さ等から、例えば爆薬100g〜200gに対して、5〜50リッター程度、より好ましくは10〜30リッター程度の爆発に耐えうる容器が好ましい。具体的には、密閉容器として、特開2005−289677号公報の図1に記載の密閉容器などを用いることができる。密閉容器を使用する場合には、爆轟に際して、雰囲気が実質的に酸素を含まないようにすれば、炭素分の酸化反応を抑制できるため、収率を向上することができる。このような雰囲気を得るには、例えば、窒素ガスやアルゴンガス、炭酸ガスなどの不活性ガスで置換すればよい。
爆発は通常の爆薬の爆発と同様に、雷管や導爆線を用いて起爆すればよい。この際、伝爆薬を用いてもよい。
爆薬組成物における爆薬成分としては、爆速6,000m/s以上のものが好ましく、7,000m/s以上のものが好ましく、通常現在使用されているものは爆速10,000m/s以下程度である。
爆薬成分としては、ニトロ基を含む化合物、好ましくはニトロ基を3個以上含む化合物、例えば、芳香族ニトロ化合物(好ましくはアミノ基又は/及びメチル基で置換されていてもよいトリ又はテトラニトロベンゼン)、ニトロアミン(好ましくはC3〜C6アルキル(3〜6ニトロ)アミン)、硝酸エステルが挙げられる。具体的には、トリニトロトルエン(TNT)、トリニトロベンゼン(TNB)、トリメチレントリニトロアミン(RDX)、テトラメチレンテトラニトロアミン(HMX)、テトラニトロメチルアニリン(テトリル)、トリアミノトリニトロベンゼン(TATB)、ジアミノトリニトロベンゼン(DATB)、ヘキサニトロスチルベン(HNS)、ヘキサニトロアゾベンゼン(HNAB)、ヘキサニトロジフェニルアミン(HNDP)、ピクリン酸、ピクリン酸アンモニウム、ベンゾトリアゾール(TACOT)、エチレンジニトラミン(EDNA)、ニトログアニジン(NQ)やペンタエリスリトールテトラナイトレート(PETN)およびこれらの混合爆薬であるペントライト、サイクロトール、オクトールなどが挙げられる。これらは単独で用いても、2種類以上併用してもよい。
爆薬成分としては、粉体状のトリニトロトルエン(TNT)、トリメチレントリニトロアミン(RDX)、テトラメチレンテトラニトロアミン(HMX)などのニトロ基を3個以上含む化合物や、ペンタエリスリトールテトラナイトレート(ペンスリット)のような硝酸エステルが、担体の得やすさ(ピークエリア比/ピーク強度比の制御のしやすさ)、性能面、取扱上の安全性の観点から好ましい。これらの爆薬は単独で用いても2種以上併用してもよい。粉末状の爆薬成分の粒子径は10〜200μmの範囲、好ましくは30〜120μmの範囲である。粒子径の異なる複数の爆薬成分を混合して使用することも可能である。
また、爆薬組成物には、爆薬成分の他、特開2005−289677号に記載の高分子結合剤を用いてもよい。高分子結合剤としては、ポリブタジエン系(ポリブタジエン:密度0.91g/cc、酸素バランス−3.23g)、ポリウレタン系(ポリウレタン:密度1.50g/cc、酸素バランス−2.13g)、ポリエーテル系(ポリエチレングリコール:密度1.12g/cc、酸素バランス−1.78g)等の高分子物質、グリシジルアジドポリマ(GAP:密度1.29g/cc、酸素バランス−1.21g、爆発熱2500kJ/kg)等のアジドポリマ、ポリニトラトメチルメチルオキセタン(polyNIMMO:密度1.26g/cc、酸素バランス−1.14g、爆発熱818kJ/kg)等のオキセタンポリマおよびポリグリシジルナイトレート(polyGLYN:密度1.46g/cc、酸素バランス−0.61g、爆発熱2661kJ/kg)等のオキシランポリマを挙げることができる。尚、爆発熱は反応物質と爆発生成物質の生成エネルギーの差で定義される。
爆薬組成物の密度は1.4g/cc以上であることが好ましい。爆薬組成物の爆轟圧は、比較的低い方が好ましく、15〜35GPaであることが好ましい。
爆轟法により得られた残渣中には、容器の残骸や導線・ワイヤなどの爆破瓦礫を含むことがある。そのような場合には、爆轟工程で得られた残渣から瓦礫を除去して、導電性ダイヤモンドを回収する工程を設けることが好ましい。得られた残渣においてサンプルを数点採取し、各サンプルにおいてラマン分光スペクトルを測定することで、導電性ダイヤモンドを選別することができる。または、得られた残渣においてサンプルを数点採取し、各サンプルにおいてラマン分光スペクトルを測定することで、所望のピークエリア比/ピーク強度比を有する導電性ダイヤモンドを選択することができる。
本実施形態においては、導電性ダイヤモンドを含有する限り、導電性ダイヤモンドの含有形態は特に限定されない。例えば、導電性ダイヤモンドがガス拡散層全体に分散して存在する形態(例えば、導電性ダイヤモンドを含むガス拡散多孔層がガス拡散層である形態);ガス拡散層が、2層以上から構成され、少なくとも最外層に導電性ダイヤモンドを含む形態などが挙げられる。中でも、ガス拡散層が、2層以上から構成され、少なくとも最外層に導電性ダイヤモンドを含む形態であることが好ましく、少なくとも触媒層側の最外層に導電性ダイヤモンドを含む形態であることがより好ましい。カーボン腐食は電気化学的腐食であるため、イオンの輸送媒体を有する触媒層側に隣接し、かつ、水が多く存在するガス拡散層の触媒層側は腐食がより深刻である。このため、最外層、特に触媒層側の最外層に耐腐食性の高い導電性ダイヤモンドを含む層を配置することで、ガス拡散層全体の耐腐食性が顕著に向上する。
したがって、ガス拡散層を燃料電池に組み込んだ場合には、第一実施形態のガス拡散層における導電性ダイヤモンドを含む層が、触媒層と隣接して配置されてなることが好ましい。すなわち、本発明の好適な他の形態は、第一実施形態のガス拡散層内の導電性ダイヤモンドを含む層が、触媒層と隣接して配置されてなる、燃料電池である。
また、従来の炭素材料(例えば、カーボンブラック)で形成された微多孔層と同様に微多孔層を形成することができ、機械的強度を確保しやすいことから、ガス拡散多孔層が導電性ダイヤモンドを含むことが好ましい。
ガス拡散層が2層以上から構成される場合、接触抵抗を低くするといった観点や生産性の観点から、2〜5層であることが好ましく、2〜3層であることがより好ましい。ガス拡散層が2層以上で構成される形態としては、ガス拡散層基材および基材上に隣接されて配置されるガス拡散多孔層(単層または複数層)を有する形態;複数のガス拡散多孔層から構成される形態などが挙げられる。
中でも、ガス拡散性および電気抵抗の観点から、ガス拡散層がガス拡散層基材および基材上に隣接されて配置されるガス拡散多孔層を有する形態であることが好ましい。かような形態においては、触媒層とガス拡散層基材との接触抵抗を下げることができるため、ガス拡散多孔層が触媒層側に配置されることが好ましい。また、触媒層側の腐食が深刻になりやすいことから、ガス拡散層基材および基材上に隣接されて配置されるガス拡散多孔層を有する形態においては、ガス拡散多孔層が導電性ダイヤモンドを含むことが好ましい。このような形態において、ガス拡散多孔層は単層であっても複数層であってもよいが、触媒層側の腐食が顕著になりやすいことから、少なくとも、ガス拡散層基材と相対する側の最外層が導電性ダイヤモンドを含むことが好ましい。ガス拡散多孔層が複数層である場合は、2〜5層であることが好ましく、2〜3層であることがより好ましい。
図2は、ガス拡散層(4a、4c)の一実施形態を示す拡大断面模式図である。図2において、ガス拡散層は、ガス拡散層基材20と、基材上に隣接して配置されるガス拡散多孔層21と、からなる。ガス拡散多孔層21は、図1の触媒層(3a、3c)側に配置される。本形態においては、ガス拡散多孔層21が導電性ダイヤモンドを含む。
ガス拡散層は、上記図2の形態に限定されず、ガス拡散層基材と、ガス拡散多孔層との間に中間層を設けてもよいが、図2のガス拡散層基材上に直接ガス拡散多孔層が配置されてなる形態が好ましい。すなわち、ガス拡散層基材および前記基材上に隣接して配置されるガス拡散多孔層を有する、ガス拡散層であることが好ましい。
また、ガス拡散多孔層は、アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層のいずれか一方に設けられてもよく、また、双方に設けられてもよい。
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層(4a、4c)の基材(ガス拡散層基材)を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等の炭素繊維で形成された炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料;ならびに金網、発泡金属、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチングプレート、精密プレス加工プレート、金属メッシュ、金属細線焼結体、金属不織布などが挙げられる。
ガス拡散層基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層基材は、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの従来公知の撥水剤を用いてもよい。撥水処理方法は特に制限されず、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、ガス拡散層に用いられる基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔体に炭素材料を含浸させて焼結させたシート体を用いてもよい。シート体とすることによって、製造工程が簡易になり、また、燃料電池1の各部材を積層する際の取り扱い及び組み立てが容易になる。この炭素材料として導電性ダイヤモンドを用いてもよい。
ガス拡散多孔層は微細孔を多数有する微多孔層を指し、通常導電性材料の集合体である。本形態においては、該導電性材料として、導電性ダイヤモンドを用いることが好ましい。図2における形態においてガス拡散多孔層は単層であるが、ガス拡散多孔層は複数層から形成されていてもよい。
図3は、ガス拡散層(4a、4c)の他の実施形態を示す拡大断面模式図である。図3において、ガス拡散層は、ガス拡散層基材20と、基材上に隣接して配置されるガス拡散多孔層21と、からなる。ガス拡散多孔層21は、図1の触媒層(3a、3c)側に配置される。さらに、図3の形態においては、ガス拡散多孔層21は層21aおよび層21bの2層から構成される。図3の形態においては、層21a、層21bのどちらに導電性ダイヤモンドを含んでいてもよい。このように、ガス拡散多孔層が複数層から形成される場合、導電性ダイヤモンドは、いずれの層に含有されていてもよい。耐久性がより求められることから、少なくとも、触媒層側、すなわち、基材と相対する最外層(本形態においては層21a)が導電性ダイヤモンドを含むことが好ましい。さらには、図3の形態においては、層21aおよび層21bの双方が、導電性ダイヤモンドを含むことが耐久性のさらなる向上の点から好ましい。すなわち、ガス拡散多孔層を構成する全ての層が、導電性ダイヤモンドを含むことが好ましい。また、ガス拡散多孔層が複数層から構成される場合、各層を構成する材料および組成比は同じであっても異なるものであってもよい。例えば、各層を構成する材料の組成比が異なる形態としては、特開2013−20940号公報に記載のように、ガス拡散層基材側に位置するガス拡散多孔層におけるバインダ含有量がこれ以外のガス拡散多孔層におけるバインダ含有量よりも少ない形態などが挙げられる。
ガス拡散多孔層は撥水剤を含んでいることが好ましい。ガス拡散多孔層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。撥水処理方法は特に制限されず、従来のカーボン材料に対する一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、後述のガス拡散層の製造方法における工程(1)および工程(2)のような方法が挙げられる。
ガス拡散多孔層における導電性材料(好適には導電性ダイヤモンド)と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、重量比で95:5〜40:60(導電性材料:撥水剤)程度とするのがよい。
また、ガス拡散多孔層では、導電性材料がバインダにより結着されていてもよい。バインダは、上記撥水剤を兼ねていてもよい。バインダとしては具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。好ましくは、撥水性を有するバインダを使用する。中でも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられ、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。撥水性を有するバインダを用いることにより、ガス拡散多孔層内の細孔(カーボン粒子間)に撥水性が付与され、水の排出性を向上させることができる。なお、これらのバインダは1種類単独で用いてもよいし、または2種類以上併用してもよい。また、これら以外の高分子が用いられてもよい。バインダ(撥水性を有するバインダを含む)の含有量は、ガス拡散多孔層固形分に対して1〜40重量%であることが好ましい。
ガス拡散多孔層の厚さは、特に制限されず、ガス拡散性および抵抗を考慮して適宜決定すればよい。ガス拡散多孔層の厚さ(トータル膜厚)は、好ましく3〜500μmであり、より好ましくは5〜300μmである。かような範囲にあれば、機械的強度とガスおよび水などの透過性とのバランスが適切に制御できる。また、ガス拡散多孔層が複数層から構成される場合、各層の厚さは同じであっても異なるものであってもよい。
ガス拡散多孔層における導電性材料としては、上記導電性ダイヤモンドの他、カーボン粒子を用いてもよい。ただし、耐腐食耐性の観点から、導電性材料中、50重量%以上(上限100重量%)が導電性ダイヤモンドであることが好ましく、80重量%以上が導電性ダイヤモンドであることが好ましく、90重量%以上が導電性ダイヤモンドであることがより好ましい。
カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、繊維状黒鉛、鱗片状黒鉛、球状黒鉛などの黒鉛、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、溶媒に対する分散性が良好であり、ガス拡散性が向上するなどの理由から、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、鱗片状黒鉛を用いることが好ましく、粒子あたりの表面積が小さく、粒子径が均一であるために、溶媒に対する分散性がより良好であることから、アセチレンブラック、鱗片状黒鉛を用いることがより好ましい。また、耐食性などを向上させるために、前記カーボン粒子に黒鉛化処理などの加工を行ってもよい。カーボン粒子は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
カーボン粒子の平均粒子径(直径)は、特に制限されないが、ガス透過性、導電性などを考慮すると、カーボン粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は、2〜250nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましい。このような範囲であれば、ガス拡散係数が向上し、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
また、カーボン粒子の平均粒子径(平均二次粒子径)は、0.5〜25μm程度とするのがよい。これにより、ガス拡散係数が向上し、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
また、カーボン粒子の比表面積は、表面積が小さいことが好まれることから、1〜100m2/gであることが好ましく、5〜50m2/gであることがより好ましい。
ガス拡散層は、その他の添加剤を有していてもよい。添加剤としては、導電性カーボン、分散剤、分散助剤などが挙げられる。
[ガス拡散層の製造方法]
ガス拡散層の製造方法としては、特に限定されるものではないが、以下、一例として、導電性ダイヤモンドを含むガス拡散多孔層およびガス拡散層基材から構成されるガス拡散層の製造例について説明する。
ガス拡散多孔層の製造方法の好適な一実施形態は、導電性材料(好適には導電性ダイヤモンド)、撥水剤および溶媒を混合して混合物を得る工程(1)と、該混合物を塗布基材上に塗布し、その後乾燥して塗布基材上にガス拡散多孔層を形成する工程(2)と、塗布基材からガス拡散多孔層を剥離した後、ガス拡散多孔層をガス拡散層基材と接合する工程(3)と、を含む。
(工程(1))
工程(1)では、導電性ダイヤモンドを含む導電性材料および溶媒を混合して混合物を得る。
工程(1)において用いられる導電性材料、撥水剤の種類は上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
工程(1)において用いられる溶媒としては、用いられる撥水剤によって適宜選択すればよい。具体的には、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレン、2−メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒などの石油系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、プロピレンカーボネート、トリメチルリン酸、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸等のカルボン酸溶媒、アニソール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒あるいはこれらの混合物が挙げられる。中でも、水、アルコール系溶媒などが好ましい。これらの溶媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
上記混合物は、その他、界面活性剤などの分散助剤、造孔剤、粘度調整剤などの添加剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリンなどのアミン塩型や、アルキルトリメチルアンモニム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、塩化ベンゼトニウムなどの4級アンモニウム塩型のカチオン性界面活性剤、脂肪酸アミド誘導体、多価アルコール誘導体などの非イオン界面活性剤、アラニン、ドデシルジ(アミノエチル)グリシン、ジ(オクチルアミノエチル)グリシンやN−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウムベタインなどの両性界面活性剤などが挙げられ、また、フルオロアルキル基を有するアニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤も使用することができる。
本工程において、撥水剤、導電性材料、および溶媒の添加順序は、特に制限されず、全成分を一括して混合する;上記いずれかの成分を混合した後、残りの部分を添加する;上記いずれかの成分を順次混合する、のいずれでもよい。好ましくは、導電性材料の分散液に撥水剤分散液を添加することが好ましい。これにより、撥水剤が容易にかつ均一に溶媒に溶解できる。
工程(1)において混合物中の固形分濃度は、導電性材料および撥水剤が均一に分散され、また、塗膜厚が容易に確保されるような固形分濃度となるように適宜設定すればよい。
また、工程(1)の混合物中の撥水剤および導電性材料の混合比は、得られるガス拡散多孔層の双方の含有重量比を考慮して適宜設定されるが、重量比で導電性材料:撥水剤=95:5〜40:60であることが好ましい。
上記したようにして撥水剤、導電性材料および溶媒を混合する際、または混合した後、必要により、均質化を目的として、攪拌(攪拌)処理を行ってもよい。このうち、攪拌(混錬)処理に用いられる機械としては、以下に制限されないが、自公転式攪拌脱泡ミキサー、真空攪拌脱泡ミキサー、可変速攪拌脱泡ミキサー、攪拌子(スターラー)、超音波分散器などを用いることができる。
(工程(2))
工程(2)では、工程(1)で得た混合物を塗布基材上に塗布し、その後乾燥して塗布基材上に多孔層を形成する。
混合物を塗布基材に塗布した後、乾燥することで、導電性材料に撥水剤が吸着し、スラリー中の溶媒が揮発することで、層内が多孔となると考えられる。
用いられる塗布基材は特に限定されるものではない。塗布基材としては具体的には、ポリイミドフィルムなどが挙げられる。
塗布基材の厚みとして特に限定されるものではないが、通常5〜500μm程度である。
塗布基材への混合物の塗布方法としては、特に限定されず、スプレーコート、スピンコート、バーコート、ドクターブレード等の従来公知の方法を用いることができる。
混合物の塗布厚みは特に限定されるものではないが、乾燥後の厚みで10〜150μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。
混合物を塗布基材上に塗布した後、好適には乾燥する。乾燥条件としては、混合物中の溶媒が揮発する条件であれば特に制限されず、適宜設定すればよい。
ここで、混合物を塗布基材上に塗布、乾燥後、さらに熱プレスを行ってもよい。熱プレスの条件としては、特に制限されるものではなく、塗布基材の種類、撥水剤種、および導電性材料含有量などを考慮して適宜設定すればよい。
また、工程(1)において、乾燥後、特にフッ素系の高分子材料を用いた場合には、焼成工程を行ってもよい。焼成工程とは、250〜400℃の温度で処理する工程を指す。
(工程(3))
工程(3)は、塗布基材からガス拡散多孔層を剥離した後、ガス拡散多孔層をガス拡散層基材と接合する工程である。
剥離方法としては、特に限定されず、手であるいは機械を用いて物理的に剥がす、水中に浸漬後減圧処理または超音波振動を加えることにより、ガス拡散多孔層と基材の間に気泡を生じさせ、物理的に剥離するなどの方法が挙げられる。
かようにして得られたガス拡散多孔層は、ガス拡散層基材と接合することにより、ガス拡散層とすることができる。ガス拡散層基材およびガス拡散多孔層の接合方法としては、特に限定されず、プレス接合などが挙げられる。
[電解質膜−電極接合体(MEA)]
MEAは、電解質膜、上記電解質膜の両面に順次形成されるアノード触媒層およびアノードガス拡散層ならびにカソード触媒層およびカソードガス拡散層から構成される。
[触媒層]
触媒層(アノード触媒層3a、カソード触媒層3c)は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層3aでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層3cでは酸素の還元反応が進行する。
触媒層は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体(導電性担体)、および電解質を含む。以下、触媒担体に触媒成分が担持されてなる複合体を「電極触媒」とも称する。
触媒金属は、電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。アノード触媒層に用いられる触媒金属は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒金属もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。触媒金属としては、具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、銅、銀、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。すなわち、触媒金属は、白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含むことが好ましく、白金または白金含有合金であることがより好ましい。このような触媒金属は、高い活性を発揮できる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本明細書ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒金属およびカソード触媒層に用いられる触媒金属は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒金属についての説明は、両者について同様の定義である。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒金属は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。例えば、触媒成分の形状は、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜10nm、さらに好ましくは1〜5nm、特に好ましくは2〜4nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
上述した触媒成分は好適には導電性担体に担持された電極触媒として触媒層に含まれる。
導電性担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。また、耐食性に優れることから、カーボンは黒鉛化カーボンも好ましく用いられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gとするのがよい。比表面積が上記したような範囲であれば、導電性担体への触媒成分および高分子電解質が十分分散して十分な発電性能が得られ、また、触媒成分および高分子電解質を十分有効利用できる。
また、導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
また、担体における触媒の担持量(担持率とも称する場合がある)は、触媒担体(つまり、担体および触媒)の全量に対して、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは10〜60重量%とするのがよい。担持量が前記範囲であれば、十分な触媒成分の担体上での分散度、発電性能の向上、経済上での利点、単位重量あたりの触媒活性が達成できるため好ましい。
単位触媒塗布面積当たりの触媒金属の含有量(mg/cm2)は、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01〜1mg/cm2である。ただし、触媒が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.5mg/cm2以下であることが好ましい。白金(Pt)や白金合金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01mg/cm2以上である。より好ましくは、当該白金含有量は0.02〜0.4mg/cm2である。
なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、スラリーの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
触媒層には、電極触媒に加えて、イオン伝導性の高分子電解質が含まれる。
高分子電解質は、特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。
フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、ホスホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。
なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
プロトンの伝達を担う高分子電解質においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、高分子電解質のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、触媒層は、EWの小さい高分子電解質を含むことが好ましい。具体的には、触媒層は、好ましくはEWが1500g/eq.以下の高分子電解質を含み、より好ましくは1200g/eq.以下の高分子電解質を含む。
一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。かような観点から、高分子電解質のEWは600以上であることが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりの高分子電解質の乾燥重量であり、「g/eq」の単位で表される。
触媒層は、触媒と高分子電解質との間に、触媒と高分子電解質とをプロトン伝導可能な状態に連結しうる液体プロトン伝導材を含んでもよい。液体プロトン伝導材が導入されることによって、触媒と高分子電解質との間に、液体プロトン伝導材を介したプロトン輸送経路が確保され、発電に必要なプロトンを効率的に触媒表面へ輸送することが可能となる。これにより、触媒の利用効率が向上するため、発電性能を維持しながら触媒の使用量を低減することが可能となる。この液体プロトン伝導材は触媒と高分子電解質との間に介在していればよく、触媒層内の多孔質担体間の空孔(二次空孔)や多孔質担体内の空孔(メソ孔等:一次空孔)内に配置されうる。
液体プロトン伝導材としては、イオン伝導性を有し、触媒と高分子電解質と間のプロトン輸送経路を形成する機能を発揮しうる限り、特に限定されることはない。具体的には水、プロトン性イオン液体、過塩素酸水溶液、硝酸水溶液、ギ酸水溶液、酢酸水溶液などを挙げることができる。
液体プロトン伝導材として水を使用する場合には、発電を開始する前に少量の液水か加湿ガスにより触媒層を湿らせることによって、触媒層内に液体プロトン伝導材としての水を導入することができる。また、燃料電池の作動時における電気化学反応によって生じた生成水を液体プロトン伝導材として利用することもできる。したがって、燃料電池の運転開始の状態においては、必ずしも液体プロトン伝導材が保持されている必要はない。例えば、触媒と電解質との表面距離を、水分子を構成する酸素イオン径である0.28nm以上とすることが望ましい。このような距離を保持することによって、触媒と高分子電解質との非接触状態を保持しながら、触媒と高分子電解質の間(液体伝導材保持部)に水(液体プロトン伝導材)を介入させることができ、両者間の水によるプロトン輸送経路が確保されることになる。
イオン性液体など、水以外のものを液体プロトン伝導材として使用する場合には、触媒インク作製時に、イオン性液体と高分子電解質と触媒とを溶液中に分散させることが望ましいが、触媒を触媒層基材に塗布する際にイオン性液体を添加してもよい。
アノード触媒層は、水電解活性触媒を含むことが好ましい。水電解活性触媒(以下、水電解触媒とも称する)とは、白金よりも高い水電解反応活性を有する触媒を指す。ここで、水電解反応活性は、例えば、回転電極(RDE)法により測定することができる。
水電解活性触媒の水電解開始電位は、標準水素電極(SHE)基準で1.40V以下、好ましくは1.25〜1.40Vである。これは、単身のPtでは1.40V(SHE基準)で十分な水電解反応が起こらないが、Ptよりも高い水電解反応活性を有する水電解活性触媒では、1.40V(SHE基準)で十分な水電解反応を起こすことができる。これにより、水電解反応を促進し、カーボン材料の腐食を低減することができる。
水電解活性触媒の水の電気分解を促進する作用について説明する。詳細には、電池の発電/停止及び負荷変動時におけるセル電圧の大幅な変化(上昇)により、水の分解電圧に達すると、酸化剤極側電極(触媒層)に残存している水は、水電解活性触媒を介して下記化学式1に示す反応により電気分解される。
上述のように電池の負荷変動によるセル電圧変化に伴い水が電気分解されるため、電池の負荷が急激に変動した際に起こる導電性担体の腐食を防止することができる。つまり、導電性担体の腐食の原因である負荷の変動を逆に利用することによって、導電性担体の腐食を防止することができる。
特に、カーボン腐食が生じるセル電圧よりも、上記化学式1の水電解開始電位の方が低くなるような水電解活性触媒を選択することで、当該水電解活性触媒がカーボン腐食に必要な水を優先的に分解し、カーボン腐食を大幅に低減させることができるものである。
このように、アノード触媒層に水電解活性触媒を用いることで、アノード触媒層の耐久性が向上し、第一実施形態のガス拡散層と組み合わせることで、一層の耐久性向上効果を図ることができる。
水電解活性触媒は、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)および銀(Ag)よりなる群から選ばれた少なくとも1種(以下、ベース金属ともいう)を含有する化合物(以下、ベース金属含有化合物ともいう)もしくはそれらの複合物(ベース金属含有複合物)で構成されることが好ましい。これは、Ir、Ru、Agをベース金属とすると水電解活性が高く、水電解反応を促進し、カーボン材料の腐食を低減することができるためである。なお、これらの水電解活性触媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
上記ベース金属含有化合物としては、Ptよりも高い水電解反応活性を有するものであればよく、特に制限されるものではない。例えば、1種のベース金属で構成される金属元素、2種以上のベース金属からなる合金、1又は2種以上のベース金属からなる金属元素または合金の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。具体的には、Ir、Ru、Ag、Ir−Ru、Ir−Ag、Ru−Ag、Ir−Ru−Ag、これら金属元素または合金の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。
上記ベース金属含有複合物としては、Ptよりも高い水電解反応活性を有するものであればよく、特に制限されるものではない。具体的には、例えば、(a)ベース金属と貴金属(但し、ベース金属を除く。)とからなる合金(以下、ベース金属−貴金属合金ともいう)、これらベース金属−貴金属合金の酸化物、窒化物、炭化物;(b)ベース金属と貴金属(但し、ベース金属を除く。)と少なくとも1種の卑金属とからなる合金(以下、ベース金属−貴金属−卑金属合金ともいう)、これらベース金属−貴金属−卑金属合金の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。なかでも、Ir、Ir含有合金ないしそれらの酸化物(IrO2など)であることが好ましい。Ir、Ir含有合金(特にPt等の貴金属との合金)は水の電気分解を早い速度で進行させることが可能である上に、酸性雰囲気化下でも安定なためである。
上記ベース金属−貴金属合金、ベース金属−貴金属−卑金属合金、及びこれら合金の酸化物、窒化物、炭化物等に用いることのできる貴金属(但し、ベース金属を除く。)としては、ベース金属と合金化することにより、Ptよりも高い水電解反応活性を有するものであればよく、特に制限されるものではない。具体的には、Au、Pt、Pd、Rh、Osの5つの元素であるが、好ましくは、Ptである。Ptとの合金化が特に水電解活性が高いためである。かかる観点から、ベース金属−貴金属合金としては、Ir−Pt、Ru−Pt、Ag−Pt、Ir−Ru−Pt、Ir−Ag−Pt、Ru−Ag−Pt、Ir−Ru−Ag−Pt等の合金が好ましく、なかでもPt−Ir、Pr−Ru、Pt−Ir−Ruが望ましい。但し、これらの合金に何ら制限されるものではない。上記ベース金属−貴金属合金における貴金属の含有量は、5〜60重量%であることが好ましい。貴金属の含有量が60重量%以下であれば、合金化させた貴金属量に見合うだけの作用効果を十分に得ることができ、ベース金属(Irなど)も必要量を確保することができ、燃料電池の運転状況に応じて発電性能及び水電解機能を有効に発揮させることができる。貴金属の含有量が5重量%以上であれば、貴金属を合金化させたことによる作用効果を十分に発現させることができる。
また、上記ベース金属−貴金属−卑金属合金、及びこれら合金の酸化物、窒化物、炭化物等に用いることのできる卑金属としては、ベース金属及び貴金属元素(好ましくはPt)と合金化することにより、Ptよりも高い水電解反応活性を有するものであればよい。酸素還元活性の観点からは、卑金属としては、Co、Fe、Ni、V、Snなどが好ましい。上記卑金属の含有量は、ベース金属、貴金属および卑金属合計に対して、0〜20重量%、好ましくは3〜15重量%の範囲である。卑金属の含有量が20重量%以下であれば、合金化させた卑金属量に見合うだけの作用効果を十分に得ることができ、ベース金属(Irなど)、更には貴金属(Ptなど)も必要量を確保することができ、燃料電池の運転状況に応じて発電性能及び水電解機能を有効に発揮させることができる。また、卑金属の含有量の下限値は、特に制限されるものではないが、卑金属との合金化による酸素還元活性の観点から、卑金属を用いる場合には3重量%以上を含有させるのが望ましい。
上記ベース金属−貴金属(好ましくはPt)−卑金属合金としては、例えば、Ir−Pt−Co、Ru−Pt−Co、Ag−Pt−Co、Ir−Pt−Fe、Ru−Pt−Fe、Ag−Pt−Feなどの合金が挙げられる。なかでもIr−Pt−Coが酸素還元活性の観点から望ましい。少なくともベース金属(なかでもIr)と、貴金属(なかでもPt)とを含む合金(例えば、Ir−Pt合金など)やそれらの酸化物(ベース金属酸化物、ベース金属−貴金属合金酸化物;例えば、IrO2など)等を水電解活性触媒として用いることが好ましい。これにより、下記化学式2に示す発電のための酸素還元反応を促進させることができ、水の電気分解の効果と併せて燃料電池の発電の効果も向上させることができる。
また、導電性担体の腐食反応が進行するのは低負荷から高負荷への移行が瞬時に行われた場合であり、そのような環境下では、Ir等のベース金属は、酸素還元反応ではなく水電解反応を促進させることができる。このため、通常の発電時には化学式2に示す反応が促進され、低負荷から高負荷への移行が瞬時に行われた場合には上記化学式1に示す反応が優先される。
ベース金属−貴金属合金(例えば、Ir−Pt合金)やそれらの酸化物(ベース金属酸化物、ベース金属−貴金属合金酸化物;例えば、IrO2など)において、水の電気分解効果の点から、ベース金属(Ir等)含有量が50重量%以上であると好ましい。
好ましい水電解活性触媒としては、上記ベース金属−貴金属合金もしくはベース金属の酸化物である。これはベース金属に対し、貴金属、特にPtとの合金化や酸化物が特に水電解活性が高く、水電解反応を促進し、カーボン材料の腐食を大幅に低減することができるためである。
上記水電解活性触媒として酸化物(例えば、ベース金属やその合金の酸化物)を用いる場合、当該酸化物中の酸素含有量は、ベース金属の価数にもよるが、モル比で0.5〜3、好ましくは0.75〜2.75である。酸化物中の酸素含有量が、モル比で0.5〜3の範囲内であれば、十分な水電解活性を得ることができ、また水電解活性触媒の溶出を抑制することができる点で望ましい。水電解活性触媒である酸化物中の酸素含有量は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光法により測定することができる。
水電解活性触媒の形態としては、特に制限されるものではない。導電性担体に担持させる場合には、製造条件にもよるが、表面積(=反応活性面積)を高めることができることから、通常、(微)粒子形態である。なかには、導電性担体表面(細孔内表面を含む)の極一部を被覆するような膜形態(例えば、合金粒子が溶融等により広がって膜化した形態等)が含まれていてよい。
水電解活性触媒の粒子形状としては、特に制限されるものではなく、球状、断面楕円形状、柱状(棒状)、不定形状などが適宜利用可能であるが、これらに何ら制限されるものではない。水電解活性触媒の形態・形状は、例えば、SEM観察、TEM観察などにより特定することができる。
水電解活性触媒の平均粒子径としては、2〜15nmが好ましく、2〜10nmであり、さらに好ましくは2〜8nmであり、特に好ましくは2〜5nmである。平均粒子径が上記範囲内であると十分な比表面積を確保することができ、少量の水電解活性触媒で十分な効果を得ることができる。
水電解活性触媒の導電性担体への担持濃度は、触媒全体に対して、1〜70重量%が好ましく、より好ましくは5〜60重量%である。水電解活性触媒の担持濃度が1重量%以上であると水電解性に優れ、燃料電池の運転中に触媒層(電極)が高い電位(1.4Vvs.SHE以上)にさらされた際に、高い水電解反応活性を有効かつ優先的に発現することができる。また、70重量%以下であると添加量に見合った効果が得られ、活性触媒の担持量を相対的に高めることができるため、高い発電性能と高い耐久性を両立させることができる点で好ましい。
なお、水電解活性触媒金属と、Ptなどの活性触媒金属とは導電性担体上に共担持させてもよいし、異なる導電性担体に担持させてもよい。
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水剤、界面活性剤などの分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などの増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
触媒層の膜厚(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記は、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかしながら、カソード触媒層およびアノード触媒層は、同じであってもあるいは異なってもよい。
触媒層は従来公知の方法により製造可能である。
[電解質膜]
電解質膜は、例えば、固体高分子電解質膜から構成される。この固体高分子電解質膜は、例えば、燃料電池(PEFC等)の運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
固体高分子電解質膜を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、上記触媒層にて高分子電解質として説明したフッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を同様にして用いることができる。この際、触媒層に用いた高分子電解質と必ずしも同じものを用いる必要はない。
電解質膜の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質膜の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質膜の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
[電解質膜−電極接合体の製造方法]
電解質膜−電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層のマイクロポーラス層側(マイクロポーラス層を含まない場合には、基材層の片面)に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
[セパレータ]
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して電解質膜−電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
上述したPEFCや電解質膜−電極接合体は、導電性および耐久性に優れるガス拡散層を用いている。したがって、当該PEFCや電解質膜−電極接合体は発電性能および耐久性に優れる。
本実施形態のPEFCやこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限りは、各操作は、室温(25℃)/相対湿度40〜50RH%の条件で行われる。
(ラマン分光スペクトルの測定)
ラマンス分光ペクトルの測定は以下の装置・条件で行った。
測定装置:Renishaw社 inViaラマンマイクロスコープ
照射レーザー波長:325nm(He−Cdレーザー)
対物レンズ:x40NU
レーザーパワー:5%
積算:1回
スペクトル範囲:−432.53cm−1〜3203.72cm−1
グレーティング:2400l/mm(UV)
照射時間:40s
解析に用いたソフトウェア:WiRE ver.4.0(inVia搭載)。
カーブフィッティングは、スペクトルの画面上でピーク位置を任意で指定することにより自動的に行った。視認により実測スペクトルとシミュレーションスペクトルの誤差が大きいときはピーク数を加除あるいは位置の移動を行って誤差が小さくなるまで繰り返した。
参考例1〜3
特開2005−289677号の実施例1に記載の爆薬組成物を特開2005−289677号の[0037]〜[0039]に記載のように起爆させた後、爆轟残渣を数点サンプリングし、各サンプルを水洗し、乾燥した。その後、各サンプルについて塩酸で金属不純物を溶解させ、沈殿物を濾過した。濾紙に残ったサンプルを水洗し、乾燥させ、各サンプルを得た。
このようにして得られた各サンプルを下記ラマン分光スペクトルの測定に沿ってスペクトルを測定した。この中から、導電性ダイヤモンドA〜Cを得た。
導電性ダイヤモンドAは、ピークエリア比が0.02、ピーク強度比が0.07であり、平均粒子径(直径)は、約40nm、BET比表面積は、約50m2/gであった。導電性ダイヤモンドAの比抵抗は、0.1Ω・cm未満であった。なお、比抵抗は、JIS K1469:2003の電気抵抗率に準じて測定した。
導電性ダイヤモンドBは、ピークエリア比が0.05、ピーク強度比が0.16であり、平均粒子径(直径)は、約40nm、BET比表面積は、約50m2/gであった。導電性ダイヤモンドBの比抵抗は0.1Ω・cm未満であった。
導電性ダイヤモンドCは、ピークエリア比が0.14、ピーク強度比が0.59であり、平均粒子径(直径)は、約65nm、BET比表面積は、約50m2/gであった。導電性ダイヤモンドCの比抵抗は0.6Ω・cmであった。
実施例1
純水95gと界面活性剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王社製、エマルゲン709)0.5gを容器に入れ、撹拌した後、導電性ダイヤモンドB 5gを加えて、再度撹拌した。ここに、PTFE分散液(ダイキン工業社製ポリフロン(登録商標)D−210C、PTFE60重量%)を、導電性ダイヤモンド:PTFE=7:3(重量比)となるように加え、再度撹拌して第2層用インクを調製した。一方、導電性ダイヤモンド:PTFE=9:1(重量比)である第1層用インクも同様にして作製した。
厚さ50μmのポリイミドフィルムから成る耐熱性保持シート上に、第1層用インクをドクターブレードを用いて塗布して、自然乾燥させた後、その上に第2層用インクをドクターブレードを用いて塗布し、80℃で乾燥した後、350℃で焼成を行なった。これにより、耐熱性保持シート上に、合計厚さ30μm(乾燥後の厚み)のガス拡散多孔層を形成した(乾燥膜厚:第1層10μm、第2層20μm)。
次に、保持シートから2層のガス拡散多孔層シートを剥がし、ガス拡散層基材である厚さ200μmのカーボンペーパー(SGL社製、25BA、5重量%PTFEで疎水化)上に第2層が基材と接するようにホットプレス(80℃、2MPa、3分)して接合し、ガス拡散層(GDL)を得た。
比較例1
導電性ダイヤモンドを含まないガス拡散層として、ガス拡散多孔層付きのカーボンペーパー(25BC、SGL社製、厚さ211μm)をガス拡散層とした。また、ガス拡散多孔層の厚みは約20μmであった。
評価1.ガス拡散層の電気抵抗測定
測定に当たっては、面積0.95cm2のガス拡散層の両面を金箔で挟み、荷重をかけた状態で通電して測定した。電流値は1Aで、5MPaまでを1サイクルとし、2サイクル目の1MPaにおける値を比較した。
実施例1の結果は7.05mohm・cm2、比較例1の結果は5.72mohm・cm2であった。
実施例2
ケッチェンブラックEC300J(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製)を、アルゴン雰囲気下、2000〜3000℃で5〜20時間、熱処理することによって、グラファイトケッチェンブラック(粒子径:30〜60nm)を担体として作製した。この担体を用い、これに触媒金属として平均粒子径2.3nmの白金(Pt)を担持率が30重量%となるように担持させて、触媒粉末を得た。すなわち、白金濃度4.6重量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体を46g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体に担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持率が30重量%の触媒粉末を得た。
この触媒粉末と、高分子電解質としてのアイオノマー分散液(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/mol、DuPont社製)と、溶媒(水およびノルマルプロピルアルコールの混合溶媒、水:ノルマルプロピルアルコール=1:1(重量比))と、をカーボン担体に対するアイオノマーの重量比が1.3となるよう混合して、アノード触媒インクを得た。
アセチレンブラックに触媒金属として平均粒子径2.3nmの白金(Pt)を担持率が50重量%となるようにアノード触媒と同様の方法で担持させて、触媒粉末を得た。
この触媒粉末と、高分子電解質としてのアイオノマー分散液(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/mol、DuPont社製)と、溶媒(水およびノルマルプロピルアルコールの混合溶媒、水:ノルマルプロピルアルコール=1:1(重量比))と、をカーボン担体に対するアイオノマーの重量比が0.9となるよう混合して、カソード触媒インクを得た。
高分子電解質膜(Dupont社製、NAFION NR211、厚み:25μm)の片面にアノード触媒インクをPt重量が0.02mg/cm2となるようスプレイ塗布・乾燥した。その後、高分子電解質膜のアノード触媒インク塗布面とは反対側の面にてカソード触媒インクをPt重量が0.15mg/cm2となるようスプレイ塗布・乾燥して、膜−触媒接合体(CCM)を得た。
ガス拡散多孔層面が触媒層面に接するようにCCMをガス拡散層で挟持し、試験用セルを得た。この際、アノード側のガス拡散層として上記実施例1で得られたガス拡散層を、カソード側のガス拡散層としてガス拡散多孔層付きカーボンペーパー(25BC、SGL社製、厚さ215μm)を用いた。
比較例2
アノード側のガス拡散層としてガス拡散多孔層付きカーボンペーパー(25BC、SGL社製、厚さ215μm)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして試験用セルを得た。
評価2.耐久性試験
セル温度を30℃に、アノードに100%に加湿したN2を、カソードに100%に加湿したAirを流通させ、0.2A/cm2の電流密度で1秒間電流をながし、アノードでのスタベーションの状況を模擬した。その際の電圧をモニターしながら、そのまま3分放置して、再度電流を流す操作を繰り返し行い、セル電圧が−2.0Vに達するまでの回数を測定した。
その結果、実施例2では、90回、比較例2では65回であった。
以上の結果より、導電性ダイヤモンドを用いたガス拡散層は、アノードスタベーションという過酷な環境下であっても耐久性に非常に優れ、かつ、ガス拡散層としての導電性は維持されたものであることが示された。
また、導電性ダイヤモンドAおよび導電性ダイヤモンドCについても実施例2と同様に試験用セルを作製し、試験を行った結果、比較例2の結果を超える耐久性を有するものであった。