以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<<自動二輪車>>
図1を参照して、第一実施形態に係る変速装置13を備える自動二輪車1について説明する。X方向は、自動二輪車1の前後方向を示す。Y方向は、自動二輪車1の上下方向を示す。Z方向は、自動二輪車1の車幅方向を示す。図1において、Z方向は、紙面手前−奥行方向である。
自動二輪車1は、鞍乗型車両の一例である。鞍乗型車両とは、運転者がサドルに跨って着座する形式の車両をいう。なお、自動二輪車としては、スクータ型、モペット型、オフロード型、オンロード型の自動二輪車が挙げられる。また、鞍乗型車両は、自動二輪車に限定されず、例えば、ATV(All Terrain Vehicle)と称される三輪又は四輪バギー、スノーモービル等であってもよい。
自動二輪車1は、シート2と、ハンドル3と、前輪4と、後輪5と、エンジンユニット6と、クラッチレバー7と、ECU(Engine Control Unit)8と、シフトペダル501とを備えている。エンジンユニット6は、エンジン11と、変速装置13とを備えている。クラッチレバー7は、運転者の手によって操作されるようにハンドル3に設けられる。シフトペダル501は、運転者の足によって操作されるように設けられている。シフトペダル501に対する運転者の操作が、シフト操作として、変速装置13に入力される。
シフトペダル501は、変速装置13に対してシフト操作を入力するための操作子の一例である。変速装置に対してシフト操作を入力するための操作子としては、この例に限定されず、ボタン、スイッチ、レバー等が挙げられる。変速装置13に対してシフト操作を入力するための操作子は、運転者によって操作されるように構成されており、例えば、運転者の足で操作されるように構成されていてもよく、運転者の手で操作されるように構成されていてもよい。前記操作子が設置される位置は、特に限定されず、操作子の種類等に応じて適宜設定され得る。
また、前記操作子に入力されたシフト操作は、本実施形態のように、機械的に伝達されることにより変速装置に入力されてもよい。また、操作子に入力されたシフト操作は、センサ等により検知され、検知結果に応じて動作するアクチュエータにより変速装置に入力されてもよい。さらに、シフト操作は、必ずしも、運転者によって入力される必要はなく、鞍乗型車両に搭載された制御装置(例えばECU)により制御されるアクチュエータにより変速装置に入力されてもよい。シフト操作を変速装置へ入力する機構については、特に限定されない。
<<変速装置の全体構成>>
図2〜図8も参照して、本実施形態に係る変速装置13の全体構成について説明する。
エンジンユニット6は、図2及び図6に示すように、エンジン11と、変速装置13とを備えている。エンジンユニット6では、エンジン11の動力が、変速装置13の出力軸30(図4及び図21参照)へ伝達される。出力軸30に伝達された動力は、ドライブスプロケット9とドライブチェーン10と後輪駆動用スプロケット5a(図1参照)とを介して、後輪5(図1参照)に伝達される。これにより、後輪5が駆動され、自動二輪車1が走行する。
また、変速装置13は、図4及び図7に示すように、エンジン11のケーシング14内に設けられている。図4には、変速装置13の一部として、シフトアーム83とガイドプレート135とアイドルギア62、64と従動ギア47とが示されている。また、ケーシング14の内部には、オイルポンプ200が設けられている。オイルポンプ200は、図4に示すように、変速装置13が搭載された自動二輪車1が直立状態である時に、入力軸20及び出力軸30よりも下方に位置する。オイルポンプ200は、図4に示すように、入力軸20及び出力軸30の軸線方向(即ち方向Z)に見て、入力軸20及び出力軸30の少なくとも一方の軸と、部分的又は全体的に、上下方向に重なり合うように配置されている。また、図4における入力軸20の手前側には、オイルポンプ駆動ギア18が回転可能に設けられている。オイルポンプ駆動ギア18は、チェーンスプロケットである。オイルポンプ駆動ギア18には、オイルポンプ200を駆動するためのポンプ駆動チェーン16が巻き掛けられている。ポンプ駆動チェーン16は、カバー部材15に設けられたチェーンガイド部17によって、屈曲している。ポンプ駆動チェーン16は、出力軸30の端部に設けられたギア(例えば従動ギア47)との干渉を避けるように屈曲している。ポンプ駆動チェーン16は、後述する同期機構150との干渉を避けるように屈曲している。チェーンガイド部17は、ポンプ駆動チェーン16のスラックサイドを屈曲させている。なお、図3内のL−M線断面と、図5内のA−B−C−D−(E)−F−G−C’線断面とは、後述する図20に示される。
図8に示すように、変速装置13は、入力軸20と、出力軸30とを備える。入力軸20は、回転可能に配置され、クランク軸90(図20参照)の動力が入力されるように構成されている。具体的に、入力軸20には、クラッチ12(図示せず)が接続状態である時に、クランク軸90の動力が入力される。クラッチ12は、図8に描かれていないが、図8における入力軸20の左端部に設けられている。クラッチ12については、後に、図20〜図21を参照して説明する。
図8に示すように、入力軸20には、複数の駆動ギア241〜246が設けられている。複数の駆動ギア241〜246は、図8における入力軸20の左端部から、第1速駆動ギア241、第3速駆動ギア243、第5速駆動ギア245、第6速駆動ギア246、第4速駆動ギア244、第2速駆動ギア242の順に並んでいる。第1速駆動ギア241と第3速駆動ギア243と第5速駆動ギア245とは、奇数段の駆動ギアである。第6速駆動ギア246と第4速駆動ギア244と第2速駆動ギア242とは、偶数段の駆動ギアである。
出力軸30は、入力軸20と平行な軸線上に配置されている。出力軸30には、複数の被駆動ギア341〜346が設けられている。複数の被駆動ギア341〜346は、図8における出力軸30の左端部から、第1速被駆動ギア341、第3速被駆動ギア343、第5速被駆動ギア345、第6速被駆動ギア346、第4速被駆動ギア344、第2速被駆動ギア342の順に並んでいる。第1速被駆動ギア341と第3速被駆動ギア343と第5速被駆動ギア345とは、奇数段の被駆動ギアである。第6速被駆動ギア346と第4速被駆動ギア344と第2速被駆動ギア342とは、偶数段の被駆動ギアである。駆動ギア241〜246と被駆動ギア341〜346とが、変速段の組ごとに、入力軸20及び出力軸30の軸線方向における同じ位置において、互いに噛み合うように設けられている。
入力軸20及び出力軸30の軸線方向において、偶数段ギア群は、入力軸20及び出力軸30の一端側(図8における右端側)に設けられ、奇数段ギア群は、入力軸20及び出力軸30の他端側(図8における左端側)に設けられている。
また、奇数段ギア群及び偶数段ギア群の各々において、各変速段のギアは、低変速段のギアから高変速段のギアの順に軸線方向に並ぶように配置されている。さらに、奇数段ギア群及び偶数段ギア群の各々において、各変速段のギアは、変速段がより低いギアが、入力軸20及び出力軸30の端により近い位置に配置されている。なお、本実施形態において、奇数段ギア群は、奇数段の駆動ギア241、243、245及び被駆動ギア341、343、345からなる。偶数段ギア群は、偶数段の駆動ギア242、244、246及び被駆動ギア342、344、346からなる。
変速装置13は、いずれか1つの変速段の組における駆動ギア及び被駆動ギアを介した入力軸20から出力軸30への動力伝達を有効に設定するように構成されている。変速装置13は、シフト機構80と、変速段設定機構と、同期機構150とを備える。変速段設定機構は、ドグ係合機構70と、ラチェット機構400とを含む。これらの機構については、後で図面を参照しながら詳述するが、概要は、次の通りである。
図8に示すように、シフト機構80は、運転者により入力されたシフト操作(荷重)を、シフトロッドアセンブリ500(図9参照)を介して受け入れ、ドグ係合機構70に伝達する。シフト機構80では、シフト操作がシフトアーム81に伝達されると、シフトアーム81は、シフトシャフト82を中心として回動する。シフトアーム81の回動は、シフトシャフト82を介して、シフトアーム83に伝達され、シフトアーム83が回動する。これにより、インデックスカム130が、所定角度、回動する。インデックスカム130の回動が、ドグ係合機構70に伝達される。
ドグ係合機構70は、シフト機構80により入力されるシフト操作に応じて動作し、いずれか1つの変速段における駆動ギア及び被駆動ギアを介した入力軸20から当該被駆動ギアへの動力伝達を有効に設定する。図8、図10および図21において、フォークガイド軸60と、フォークガイド軸60に摺動可能に設けられたシフトフォーク53b、53cとは、ドグ係合機構70の構成部品である。また、シフトフォーク53a、53dも、ドグ係合機構70の構成部品である。ドグリング23a、23b、32a、32bも、ドグ係合機構70の構成部品であり、駆動ギア又は被駆動ギアの側面に形成されたドグ(凸部)と係合可能である。なお、ドグ係合の態様は、この例に限定されない。例えば、駆動ギア又は被駆動ギアの側面に凹部が形成されており、ドグリングは、ドグリングの側面(駆動ギア又は被駆動ギアと対向する面)に形成されたドグ(凸部)が前記凹部とドグ係合するように構成されていてもよい。
図8、図12において、同期機構150は、ラチェット機構400の動作をドグ係合機構70の動作と同期させるように、運転者によって入力されたシフト操作を機械的にラチェット機構400に伝達する。同期機構150は、アイドルギア62、64と、従動ギア47とを含む。
アイドルギア62、64は、それぞれ、径の異なる二枚の円盤状ギアからなる二段ギアである(図12及び図21参照)。アイドルギア62は、小径のギアが、インデックスカム130が備える円環部130aの外周に設けられたギア部130dと噛み合い、大径のギアが、アイドルギア64が備える小径のギアと噛み合うように構成されている。アイドルギア64は、小径のギアが、アイドルギア62が備える大径のギアと噛み合い、大径のギアが、従動ギア47と噛み合うように構成されている。従って、アイドルギア62、64は、増速ギアとして機能する。
従動ギア47の回転は、ラチェット機構400に伝達される。このように、同期機構150は、同期機構150に入力されたシフト操作を、同期機構150内において機械的に伝達し、ラチェット機構400に伝達する。
ラチェット機構400は、シフト操作に応じて動作し、奇数段の被駆動ギア又は偶数段の被駆動ギアのいずれかの被駆動ギアから出力軸30への動力伝達を有効に設定する。
このように、変速装置13では、シフト機構80に対して運転者によって入力されたシフト操作(荷重)が、ドグ係合機構70に伝達されるとともに、同期機構150を介して、ラチェット機構400に伝達される。これにより、ドグ係合機構70とラチェット機構400との動作が同期する。ドグ係合機構70は、いずれか1つの変速段における駆動ギア及び被駆動ギアを介した入力軸20から当該被駆動ギアへの動力伝達を有効に設定する。ラチェット機構400は、奇数段の被駆動ギア又は偶数段の被駆動ギアのいずれかの被駆動ギアから出力軸30への動力伝達を有効に設定する。その結果、運転者はシフト操作を入力することによって、常時噛み合い式の変速装置13の変速比(入力軸20と出力軸30との回転比)を切り替えて運転することができる。
上述したように、同期機構150は、ラチェット機構400の動作とドグ係合機構の動作70とを機械的に同期させる。なお、ラチェット機構400の動作とドグ係合機構70の動作との同期とは、入力されたシフト操作に応じた変速を行うために、シフト操作に応じてラチェット機構400とドグ係合機構70とが協調して動作することをいう。従って、ラチェット機構の動作とドグ係合機構の動作とは、同じシフト操作に応じて行われればよく、必ずしも、同じタイミングで行われる必要はなく、異なるタイミングで行われてもよい。
<<シフト機構>>
図9〜図19を参照して、シフト機構80について説明する。なお、シフト機構80及びシフトロッドアセンブリ500は、シフト操作を変速装置13へ入力するための機構の一例である。シフト操作を変速装置13へ入力するための機構は、この例に限定されない。
<シフト機構の構成>
図9は、シフト機構80とともに、シフトロッドアセンブリ500を示している。シフトロッドアセンブリ500は、運転者によるシフトペダル501に対する操作によって入力される荷重を受け入れ、シフト機構80に伝達する。シフトロッドアセンブリ500は、シフトペダル501と、ペダルピボット502と、ピロボール503、505(スフェリカル・ジョイント)と、シフトロッド504と、シフト荷重センサ730とを備えている。
シフトペダル501は、図9に示すように、ペダルピボット502によって、ペダルピボット502を中心として、搖動可能に支持されている。シフトペダル501は、図中、時計回り又は反時計回りに搖動可能である。シフトペダル501の一端部501a(図中、右端部)は、運転者の足によって初期位置から時計回り又は反時計回りのいずれにも操作可能であり且つ操作が終了すると初期位置に戻るように構成されている。
シフトペダル501の他端部501b(図中、左端部)は、ピロボール503を介して、シフトロッド504の一端部504a(図中、下端部)に連結されている。シフトロッド504は、シフトロッド504の長手方向に移動可能に構成されている。シフトロッド504の他端部504b(図中、上端部)は、ピロボール505を介して、シフトアーム81に連結されている。
シフトアーム81は、図9、図10及び図12に示すように、シフトシャフト82とともにシフトシャフト82を中心として回動可能に構成されている。図9に示すように、シフトロッド504の一端部504aと他端部504bとの間には、シフト荷重センサ730が設けられている。シフト荷重センサ730は、運転者によってシフトペダル501を介してシフトロッド504に加えられる荷重を検出するように構成されている。
運転者の足によって、シフトペダル501の一端部501aが、図9における下から上に操作されると、シフトペダル501の他端部501bは、ペダルピボット502を中心として、図中、反時計回りに回動する。ペダルピボット502の反時計回りの回動は、ピロボール503によって、シフトロッド504の長手方向における下方への移動に変換される。シフトロッド504に加えられる荷重は、シフト荷重センサ730によって検出される。シフトロッド504が長手方向における下方への移動は、ピロボール505によって、シフトアーム81の下方へ(反時計回り)の回動に変換される。なお、シフトペダル501に対する運転者の操作が解除されると、各要素は元の位置に戻る。
運転者の足によってシフトペダル501の一端部501aが上から下に操作されると、シフトペダル501の他端部501bは、ペダルピボット502を中心として、図中、時計回りに回動する。ペダルピボット502の時計回りの回動は、ピロボール503によって、シフトロッド504の長手方向における上方への移動に変換される。シフトロッド504に加えられる荷重は、シフト荷重センサ730によって検出される。シフトロッド504が長手方向における上方への移動は、ピロボール505によって、シフトアーム81の上方へ(時計回り)の回動に変換される。なお、シフトペダル501に対する運転者の操作が解除されると、各要素は元の位置に戻る。
このように、シフトロッドアセンブリ500は、運転者の足によりシフトペダル501に入力されたシフト操作を、シフト機構80に伝達する。なお、本実施形態では、シフト操作が、ロッドで伝達されているが、例えば、ワイヤで伝達されてもよい。上述したように、シフト操作を変速装置へ入力する機構については、特に限定されない。
シフト機構80では、図9及び図12に示すように、シフトシャフト82を中心としたシフトアーム81の上方又は下方への回動が、シフトシャフト82に回転力(トルク)として伝達される。シフトシャフト82は、一端部にシフトアーム81を備え、他端部にシフトアーム83を備えている。シフトアーム83は、図11及び図12に示すように、シフトシャフト82と直交する方向に拡がり且つシフトシャフト82の直径方向に延びる平板形状を有する。シフトアーム83の一端部83aには、ピン84が挿通される開口83cが形成されている。ピン84は、図9に示すように、ケーシング14に固定されており、ケーシング14に対して相対移動しない。
シフトアーム83の開口83cは、図12に示すように、シフトシャフト82の周方向に拡がる扇形の形状を有しており、ピン84が開口83cに挿通された状態でシフトシャフト82を中心としたシフトアーム83の回動を許容するように形成されている。シフトアーム83の他端部83bには、開口83dが形成されている。開口83bには、ロータ133の突起部133cが、突起部133cに取り付けられたカラー134と共に挿通されている。シフトアーム83の開口83dは、シフトシャフト82の径方向に延びる形状を有しており、シフトシャフト82を中心としたシフトアーム83の回動時に、突起部133cがカラー134と共に、開口83d内を移動しつつ、ロータ133がシフトアーム83の回転方向と反対の向きに回動されるように形成されている。
シフトシャフト82には、図9、図11及び図12に示すように、蓄勢部としてのトーションスプリング85が設けられている。トーションスプリング85は、図11に示すように、コイル部85cと、コイル部85cより延出する一方の端部により構成される第一係止部85aと、コイル部85cより延出する他方の端部により構成される第二係止部85bとを含む。シフトシャフト82は、コイル部85cの内径内に嵌め込まれ、これにより、トーションスプリング85は、シフトシャフト82に回動自在に支持されている。シフトアーム83は開口83c内にピン84と平行に係止部83eが設けてあり、係止部83eと、ケーシング14に固定されたピン84とは、図12および図13に示すように、シフトシャフト82の周方向において、第一係止部85aと第二係止部85bとによって初期張力を負荷して挟まれている。
図12を参照して、シフトアーム83が、シフトシャフト82に回転力が加わることに伴って、シフトシャフト82の周方向に回転すると、係止部83eとピン84との相対的な回転移動によって、第一係止部85aと第二係止部85bとの間隔が広げられる。その結果、トーションスプリング85では、初期張力に加えて第一係止部85aと第二係止部85bとの間隔を縮めるように付勢力が生じる。シフトシャフト82にシフト操作入力による回転力が加わらなくなった時、その付勢力によって、シフトアーム83は、トーションスプリング85とともに、元の位置に戻る。
また、シフトアーム83が、シフトシャフト82に回転力が加わることに伴って、シフトシャフト82の周方向に回転すると、シフトアーム83の他端部83bに形成された開口83dに案内されて、突起部133cがカラー134と共に開口83d内を移動しつつ、ロータ133がシフトアーム83の回転方向と反対の向きに回動する。
ロータ133は、図11に示すように、後述するシャフト131の軸線方向に延びる貫通孔133dを有する。貫通孔133dにシャフト131が受け入れられることにより、ロータ133は、シャフト131に回転可能に設けられる。ロータ133の突起部133cは、シャフト131からシャフト131の径方向に離れた位置において、シャフト131の軸線方向と平行に突出するように設けられている。突起部133cは、図12に示すように、カラー134と共に、開口83dに挿通されている。突起部133cが開口83d内を移動する時、ロータ133は、上述したように、シャフト131を中心として、シフトアーム83の回転方向と反対の向きに回動する。
ロータ133は、図13(a)に示すように、シャフト131からシャフト131の径方向に離れた位置に、ロータ133の径方向の外縁が径方向内方に凹むように第一凹部133a及び第二凹部133bを有する。第一凹部133a及び第二凹部133bは、貫通孔133dの中心線と突起部133cの中心線を含む平面において面対称を成している。第一凹部133a内には、第一爪部136aが、第一爪部136aの一端部を軸として揺動可能であるように設けられている。第二凹部133b内には、第二爪部136bが、第二爪部136bの一端部を軸として揺動可能であるように設けられている。なお、第一爪部136a及び第二爪部136bの一端部を、軸部とも称する。第一爪部136a及び第二爪部136bの他端部を、先端部とも称する。
第一爪部136a及び第二爪部136bの軸部は、シャフト131の軸線方向と平行である。第一凹部133a内には、図13(a)に示すように、キャップ137付きの圧縮スプリング138が、第一爪部136aの先端部をシャフト131からシャフト131の径方向外方に付勢するように設けられている。また、第二凹部133b内には、キャップ137付きの圧縮スプリング138が、第二爪部136bの先端部をシャフト131からシャフト131の径方向外方に付勢するように設けられている。
第一爪部136aは、圧縮スプリング138によって付勢される時に、第一爪部136aの軸部を中心として、図13(a)において時計回りに揺動し、図13(a)に示すように、シャフト131の径方向外方に向けて起立する。一方、第二爪部136bは、圧縮スプリング138によって付勢される時に、第二爪部136bの軸部を中心として、図13(a)において反時計回りに揺動し、図13(a)に示すように、シャフト131の径方向外方に向けて起立する。このように、第二爪部136bは、第一爪部136aの揺動方向と反対方向に揺動するように構成されている。
ロータ133は、図12に示すように、第一爪部136a及び第二爪部136bとともに、インデックスカム130の円環部130a内に受け入れられるとともに、ガイドプレート135の開口135a内に受け入れられる。第一爪部136a及び第二爪部136bは、シャフト131の軸線方向において、ガイドプレート135とインデックスカム130の円環部130aとに跨るように設けられている。
インデックスカム130は、図9に示すように、シフトカム50の一端部に、シャフト131を介して、シフトカム50と同一軸心で固定されている。なお、図9に示すように、シフトカム50の一端部は、ベアリング51Rを介してケーシング14に回動可能に支持されている。シフトカム50とインデックスカム130とは、シフトカム50及びインデックスカム130の軸線方向に設けられるピン132により、周方向における互いの相対回転が規制されている。従って、シフトカム50は、シャフト131を中心として、インデックスカム130と共に回転する。
また、シフトカム50の他端部は、ベアリング51Lを介してケーシング14に回動可能に支持されている。さらに、シフトカム50の他端部には、シフトカム50と同一軸心で被検出用シャフト50aが設けられている。ケーシング14では、シフトカム50の他端部からシフトカム50の軸線方向に離れた位置に、シフトカム位相センサ720が設けられている。シフトカム位相センサ720は、被検出用シャフト50aを検出することにより、シフトカム50の位相(周方向における回転位置)を検出するように構成されている。
インデックスカム130は、図12に示すように、円環形状を有する円環部130aと、星型形状を有する星型部130bとからなる。円環部130aと星型部130bとはシャフト131の軸線方向に互いに隣接するように固定されている。円環部130aの径方向内周面には、複数の凹部130cが、周方向に一定の間隔をあけて配置されている。
また、円環部130aの径方向外周面の全周にわたって、ギア部130dが形成されている。ギア部130dは、同期機構150のアイドルギア62と噛み合うように設けられている。ギア部130dの回転は、同期機構150が備えるアイドルギア62、64と従動ギア47とを経て、ラチェット機構400に伝達される。
星型部130bの径方向外周面は、周方向に連続し且つ径方向に凹凸するように構成された凹凸形状を有している。凹凸形状における凹状部分を構成する複数の凹部130eの位置が、シフトカム50における各変速段の変速段位置となっている。各変速段位置は、各ギアポジションに対応している。本実施形態では、変速装置13は、6段変速のボトムニュートラル式の変速装置である。第6速ギアポジションが、最高速のギアポジションである。後述する位相保持機構145によりボール140が凹部130eに押し付けられることにより、シフトカム50が、その凹部130eに対応する変速段位置で保持される。すなわち、凹部130eは、変速段に応じたシフトカム50の位相を規定するように設けられている。
図13(a)〜図19(d)において、各凹部130eには、変速段に対応した符号「N」,「1」,「2」,「3」,「4」,「5」,「6」が付されている。「N」は、ニュートラルポジションを示す。
本実施形態に係る変速装置のシフトパターンにおいて、ニュートラルポジションは、第1速ギアポジションの下側に位置する。そのため、図13(a)に示すように、複数の凹部130eは、インデックスカム130の星型部130bの外周部において、時計回りに、ニュートラルポジション、第1速ギアポジション、第2速ギアポジション、第3速ギアポジション、第4速ギアポジション、第5速ギアポジション、第6速ギアポジションの順に、各ギアポジションと対応付けられている。
図13(a)に示すように、インデックスカム130では、各変速段位置間の回転角度は、同じである。
また、これらの回転角度よりも、第6速の変速段位置とニュートラルの変速段位置との間の角度は小さい。言い換えると、複数の凹部130eにおいて、隣り合う一対の凹部130eが成す回転角度(R2)は、同じであり、回転角度(R2)よりも、最高速段の変速段位置とニュートラルの変速段位置との間の角度(R1)は小さい。なお、本発明に係るボトムニュートラル式の変速装置に関し、インデックスカム130の星型部130bにおいて、複数の凹部130c、130eに関して、ニュートラルから第1速段を経て最高速段に至る周方向で、角度(R1)と回転角度(R2)とは、下記式(3)、(4)で表される。
M=Q×K−S…(1)
P=360°÷M…(2)
R2=P×Q…(3)
R1=P×S…(4)
但し、Kは、インデックスカム130の星型部130bの外周面に配置される凹部130eの数を表す。Kは、変速装置13の変速段数に相当する。ここでいう変速段数は、ニュートラルポジションを含む。Mは、インデックスカム130の星型部130bの内周面に配置される凹部130cの数を表す。360°は、シフトカムの1周の角度である。Pは、凹部130eが周方向に配置される間隔の角度を表す。Qは、各1段の変速でインデックスカム130が回転する角度が、凹部130cの配置の間隔で何個分に相当するか、を表す自然数である。言い換えると、Qは、第一爪部136a又は第二爪部136bが各1段の変速において移動する距離を、当該距離に相当する凹部130cの数で表している。Qは、特に限定されないが、Q=2であることが好ましい。Sは、角度R1に含まれる凹部130cの数を表す。Sは、Qより小さい自然数である。Q=2である場合、S=1である。
本実施形態において、各変数は、次の通りである。Q=2である。K=6+1=7である。S=1である。従って、式(1)により、M=2×7−1=13である。式(2)により、P=360°÷13=27.69°である。式(3)により、R2=27.69°×2=55.38°である。式(4)により、R1=27.69°×1=27.69°である。
凹部130cは、ロータ133が回転する時に、ロータ133において起立している第一爪部136a又は第二爪部136bの先端部と係合する。これにより、ロータ133の回転に伴って、インデックスカム130が回転する。本実施形態において、凹部130cの数(M)は13である。
M個の凹部130cが、互いに周方向に等間隔を空けて配置される。各1段の変速において、インデックスカム130は、Q個の凹部130cに対応する回転角度、回転する。これにより、ボール140が押し付けられる凹部130eが、隣り合う凹部130eに変更される。
図13(a)に示すように、シャフト131の径方向において、インデックスカム130の星型部130bの外方には、位相保持機構145が設けられている。位相保持機構145は、インデックスカム130の位相を保持するための機構である。位相保持機構145は、シフトカム50を、非変速時に、一定の回転角度ごとの位相、即ち変速段位置に保持する。位相保持機構145は、図9に示すように、ボール140と、リテーナ141と、圧縮スプリング142と、プラグ143とを備える。
位相保持機構145が、いずれか一つの変速段に対応する変速段位置でシフトカム50を保持している非変速時、コントロールカム軸40は、位相保持機構145によって、同期機構150を介して、前記一つの変速段に対応する奇数段位置又は偶数段位置で保持される。ドグ係合機構70による変速段の保持と、ラチェット機構400における各ポール35a〜35dの起伏状態の保持とが、同期機構150によって、互いに同期するように機械的に実現される。これにより、変速装置13の動作に関するロバスト性が、より確保される。同期機構150により、各ポール35a〜35dの起伏が保持される。同期機構150がポール35a〜35dの姿勢保持機能を兼ねるので、構造の複雑さが抑制される。
圧縮スプリング142は、図9に示すように、ケーシング14に形成された穴部14a内に設けられている。穴部14aは、インデックスカム130の星型部130b(図13(a)参照)の外周面に向かって開口し、シフトカム50の回転軸線に交差(直交)するように形成されている。穴部14aは、穴部14a内に圧縮スプリング142が位置するようにプラグ143によりケーシング14の外側から閉じられている。圧縮スプリング142の一端は、プラグ143と当接する。一方、圧縮スプリング142の他端には、リテーナ141が、圧縮スプリング142の伸縮方向に、圧縮スプリング142の伸縮と共に移動可能に設けられている。
リテーナ141と、星型部130bが有する凹凸形状の外周面との間には、ボール140が設けられている。ボール140は、リテーナ141を介して圧縮スプリング142によりシフトカム50の回転軸線に向けて付勢されている。ボール140と、リテーナ141と、圧縮スプリング142と、凹部130e及び山部130fとによって、シフトカム50の位相を保持することが可能となっている。
ガイドプレート135は、図11及び図12に示すように、シャフト131の径方向と平行に配置される板状体であり、ケーシング14(例えば図4参照)に対する相対的な位置関係が変化しないようにケーシング14に固定されている。従って、ガイドプレート135は、ロータ133及びインデックスカム130の回転に伴って変位しない。また、ガイドプレート135は、シフトアーム83の回動に伴って変位しない。
ガイドプレート135には、図11及び図12に示すように、径方向内側に凹んだ開口135aが形成されている。開口135aには、ロータ133が第一爪部136a及び第二爪部136bと共に回転可能に受け入れられる。ガイドプレート135の開口135aに臨む内周面は、図12に示すように、第一案内面135b1と第一許容面135c1と第一停止面135d1とを有するとともに、第二案内面135b2と第二許容面135c2と第二停止面135d2とを有する。
第一許容面135c1は、図12に示すように、第一爪部136aが第一許容面135c1と対応する位置に位置する時に第一爪部136aが圧縮スプリング138によってシャフト131の径方向に押し出されることにより起立することを許容するように構成されている。第一許容面135c1は、第一案内面135b1及び第一停止面135d1よりもシャフト131の径方向において外方に位置している。
また、第二許容面135c2は、第二爪部136bが第二許容面135c2と対応する位置に位置する時に第二爪部136bが圧縮スプリング138によってシャフト131の径方向に押し出されることにより起立することを許容するように構成されている。第二許容面135c1は、第二案内面135b2及び第二停止面135d2よりもシャフト131の径方向において外方に位置している。
第一案内面135b1は、図12に示すように、ロータ133の回転によって第一爪部136aが第一許容面135c1と対応する位置から第一案内面135b1と対応する位置に移動する時に、第一爪部136aと接触して第一爪部136aをシャフト131の径方向内方に伏倒させるように構成されている。
第二案内面135b2は、ロータ133の回転によって第二爪部136bが第二許容面135c2と対応する位置から第二案内面135b2と対応する位置に移動する時に、第二爪部136bと接触して第二爪部136bをシャフト131の径方向内方に伏倒させるように構成されている。
第一停止面135d1は、図12に示すように、ロータ133の回転によって第一爪部136aが第一許容面135c1と対応する位置から第一停止面135d1に対応する位置に移動する時に、ガイドプレート135に対するロータ133の相対的回転が停止するように、起立した第一爪部136aの先端部と当接するように構成されている。
また、第二停止面135d2は、ロータ133の回転によって第二爪部136bが第二許容面135c2と対応する位置から第二停止面135d2に対応する位置に移動する時に、ガイドプレート135に対するロータ133の相対的回転が停止するように、起立した第二爪部136bの先端部と当接するように構成されている。
<シフト機構の動作>
次に、図13(a)〜図19(d)を参照して、シフト機構80の動作について説明する。図13(a)〜図19(d)において、(a)が付された図面は、シフト機構80を軸線方向に見た時のインデックスカム130の星型部130bと位相保持機構145とを含む位置における断面図であり、図20における断面Z1に対応している。(b)が付された図面は、シフト機構80を軸線方向に見た時のロータ133の第一爪部136a及び第二爪部136bとガイドプレート135とを含む位置における断面図であり、図20における断面Z2に対応している。(c)が付された図面は、シフト機構80を軸線方向に見た時のトーションスプリング85を含む位置における断面図であり、図20における断面Z3に対応している。(d)が付された図面は、シフト機構80を軸線方向に見た時のシフトアーム83を含む位置における断面図であり、図20における断面Z4に対応している。なお、図13(a)〜図19(d)において、同じ数が付された図面は、同じ瞬間での各断面を示す。また、既に図9〜図12を参照して説明した構成の一部については、図面に符号が付されているが、ここでの説明は省略されている。
図13(a)〜図19(d)は、第2速から第3速への変速過程でのシフト機構80の説明図である。具体的には、図13(a)〜図19(d)は、第2速中立状態から第3速中立状態までの変速動作を示す。なお、第2速中立状態とは、インデックスカム130が第2速「2」の凹部130eで位相を保持され、且つシフトアーム81、83とシフトシャフト82とが変速動作を開始する前の中立位置に位置する状態をいう。また、第3速中立状態とは、インデックスカム130が第3速「3」の凹部130eで位相を保持され、且つシフトアーム81、83とシフトシャフト82とが変速動作を開始する前の中立位置に位置する状態をいう。
図13(a)〜図13(d)は、第2速中立状態を示す。第2速中立状態では、図13(a)に示すように、位相保持機構145により、ボール140が、第2速「2」の凹部130eに押し付けられている。これにより、インデックスカム130が、第2速ギアポジションで保持されている。
ロータ133は、図13(c)に示すように、シャフト131とシフトシャフト82との間に突起部133cが位置するように配置されている。ロータ133の突起部133cは、図13(d)に示すように、シフトアーム83に形成され且つシフトシャフト82の径方向に延びる形状を有する開口83d内において、シフトシャフト82に近い位置に位置している。ピン84は、図13(d)に示すように、開口83a内において、シフトシャフト82の周方向における略中央に位置している。
係止部83eとピン84とは、図13(c)に示すように、トーションスプリング85の第一係止部85aと第二係止部85bとに付与された初期張力によって、シフトシャフト82の周方向に挟まれている。第一爪部136aは、図13(a)、(b)に示すように、第一許容面135c1に対応する位置において、圧縮スプリング138により径方向外方に押し出されることにより、起立している。第一爪部136aの先端部は、凹部130cに係合している。第二爪部136bは、図13(a)、(b)に示すように、第二許容面135c2に対応する位置において、圧縮スプリング138により径方向外方に押し出されることにより、起立している。第二爪部136bの先端部は、別の凹部130cに係合している。このように、第一爪部136a及び第二爪部136bは、各々の先端部が、同時に、互いに異なる凹部130cに係合するように配置されている。
図14(a)〜図14(d)は、シフトアーム83が第2速中立状態から時計回りに若干回動した状態を示す。図14(d)に示すように、シフトアーム83が、シフトシャフト82を中心として時計回りに回転する。ピン84はケーシング14に固定されているので、図14(c)に示すように、シフトアーム83の回転に伴い係止部83eがピン84から相対変位することによって、トーションスプリング85の第一係止部85aと第二係止部85bとの間隔が広くなる。これにより、トーションスプリング85には、第一係止部85aと第二係止部85bとの間隔を縮めようとする付勢力(トルク)が蓄積される。
ロータ133の突起部133cは、図14(d)に示すように、時計回りに回転するシフトアーム83の開口83dによって案内され、シフトアーム83の開口83d内において、カラー134と共に移動する。このとき、ロータ133は、図14(c)に示すように、シャフト131を軸として、反時計回りに回転する。第一爪部136aの先端部は、第一許容面135c1と対応する位置において、凹部130cに係合している。そのため、ロータ133が反時計回りに回転するにつれて、インデックスカム130は、反時計回りに回転する。
第二爪部136bは、ロータ133が反時計回りに回転するにつれて、第二許容面135c2に対応する位置から第二案内面135b2と対応する位置に移動し、第二案内面135c2と接触し、第二案内面135c2によってシャフト131の径方向内方に伏倒する。その結果、第二爪部136bと凹部130cとの係合が解除される。インデックスカム130が反時計回りに回転するにつれて、図14(a)に示すように、インデックスカム130の星型部130bの外周面では、「2」の凹部130eと「3」の凹部130eとの間に位置する山部130fが、周方向に移動して、ボール140と接触する位置に近づく。この時、ボール140が、「2」の凹部130eと「3」の凹部130eとの間に位置する山部130fによって、シャフト131の径方向外方に押し出される。
図15(a)〜図15(d)は、シフトアーム83が時計回りに更に回動した状態を示す。図15(c)に示すように、シフトアーム83が更に回転すると、トーションスプリング85の第一係止部85aと第二係止部85bとの間隔が更に広がる。これにより、トーションスプリング85に蓄積される付勢力が大きくなる。
ロータ133は、図15(c)に示すように、シャフト131を軸として、反時計回りに更に回転する。第一爪部136aの先端部は、インデックスカム130を反時計回りに更に回転させる。第二爪部136bは、第二案内面135c2によってシャフト131の径方向内方に伏倒した状態で、図15(b)に示すように、反時計回りに更に回転する。
インデックスカム130が反時計回りに更に回転すると、図15(a)に示すように、インデックスカム130の星型部130bの外周面では、「2」の凹部130eと「3」の凹部130eとの間に位置する山部130fが、周方向に移動して、ボール140と接触する位置を通過する。この時、ボール140は、「2」の凹部130eと「3」の凹部130eとの間に位置する山部130fを乗り越え、「3」の凹部130eに近づくように、シャフト131の径方向内方に移動する。
図16(a)〜図16(d)は、シフトアーム83が可動域の最大限度まで回転した状態を示している。シフトアーム83が更に時計回りに回転すると、図16(d)に示すように、ケーシング14に固定されたピン84は、シフトアーム83の開口83aの内周縁に当接する。シフトアーム83の回転が、可動域の最大限度に到達したので、シフトアーム83の時計回りの回転が停止する。この時、トーションスプリング85には、第一係止部85aと第二係止部85bとの間隔を縮めようとする付勢力が蓄積されている。
図16(b)に示すように、第一爪部136aがロータ133の回転によって第一許容面135c1と対応する位置から第一停止面135d1に対応する位置に移動する。この時、第一爪部136aの先端部は、ガイドプレート135に対するロータ133の相対的回転が停止するように、第一停止面135d1に当接する。インデックスカム130の星型部130bの外周面では、図16(a)に示すように、「3」の凹部130eが、周方向に移動して、ボール140と接触する位置に到達する。ボール140は、シャフト131の径方向内方に移動し、「3」の凹部130eに保持される。
その後、シフトペダル501へ入力される荷重、即ちシフト操作が解除されると、シフトアーム83は、図17(d)、図18(d)及び図19(d)に示すように、トーションスプリング85に蓄積された付勢力により、反時計回りに回転する。これにより、トーションスプリング85の第一係止部85aと第二係止部85bとの間の間隔が縮む。
ロータ133の突起部133cは、図17(d)、図18(d)及び図19(d)に示すように、反時計回りに回転するシフトアーム83の開口83dによって案内され、シフトアーム83の開口83d内において、カラー134と共に移動する。このとき、ロータ133は、図17(c)、図18(c)及び図19(c)に示すように、シャフト131を軸として、時計回りに回転する。
第一爪部136aは、図17(b)、図18(b)及び図19(b)に示すように、第一許容面135c1と対応する位置において、圧縮スプリング138により径方向外方に押し出され、起立している。しかし、ロータ133が時計回りに回転する時、第一爪部136aの先端部は圧縮スプリング138の付勢によって凹部130cの起伏に沿って変位しながらロータ133とともに回転して、第一爪部136aの先端部と凹部130cとは係合しない。第二爪部136bは、図17(b)及び図18(b)に示す状況下では、第二案内面136c2によってシャフトの径方向内方に伏倒した状態で、時計回りに回転する。
ロータ133が時計回りに更に回転した時、第二爪部136bは、図19(b)に示すように、第二案内面136c2と対応する位置から、第二許容面135c2と対応する位置に移動する。この時、第二爪部136bは、圧縮スプリング138により径方向外方に押し出され、起立する。第二爪部136bが起立した時点でロータ133の回転が停止するので、凹部130cと係合した状態での第二爪部136bの回転は行われない。
このように、シフトアーム83が可動域の最大限度まで回転した状態(図16(a)〜図16(d))から中立位置(図19(a)〜図19(d))に戻るまでの過程では、第一爪部136a及び第二爪部136bのいずれもが凹部130cと係合せずに、ロータ133が回転する。そのため、シフトアーム83が可動域の最大限度まで回転した状態から中立位置に戻るまでの過程では、ロータ133からインデックスカム130への回転力の伝達が行われない。従って、インデックスカム130は、位相保持機構145によりボール140が第3速「3」の凹部130eに押し付けられた状態で保持される。即ち、インデックスカム130は、第3速ギアポジションで保持される。
以上に示すように、変速時に、シフト機構80では、先ず、シフトアーム83が、中立位置から、可動域の最大範囲まで移動する。この時、シフト機構80は、ロータ133を回転させるとともに、ロータ133の回転を、第一爪部136a(又は第二爪部136b)を介してインデックスカム130に伝達させることにより、インデックスカム130を所定角度回転させる。その結果、シフトカム50が所定角度回転する。
次に、シフト機構80では、シフトアーム83が、可動域の最大範囲から、中立位置まで戻る。この時、シフト機構80は、ロータ133を中立位置に戻すようにロータ133を逆方向に回転させるが、ロータ133の回転は、インデックスカム130に伝達されない。インデックスカム130及びシフトカム50の位相は、位相保持機構145によって保持される。
このようにして、シフト機構80の各構成は、ギア段を変速した後、中立位置に戻り、待機状態となる。なお、第1速→第2速→第3速→第4速→第5速→第6速のそれぞれの変速段間のシフトアップ動作は、上述した第2速→第3速のシフトアップ動作と同様に行われる。また、第6速→第5速→第4速→第3速→第2速→第1速→Nへのシフトダウン動作は、シフト機構80の各構成が、シフトアップ動作時における動作と逆方向に動作することにより、行われる。
<<入力軸及び出力軸等>>
次に、図20〜図22を参照して、各軸及びその周辺構成について説明する。図20は、図3におけるL−M線と、図5におけるA−B−C−D−(E)−F−G−C’線とに係る断面展開図である。図21は、図20におけるF4B領域の部分拡大図である。図22は、図20におけるF4C領域の部分拡大図である。なお、図22では、ハブ32bに設けられた構成に対して、当該構成の符号が付されるとともに、ハブ32aに設けられた、当該構成に対応する構成の符号が括弧書きで付されている。また、以下の説明では、各軸の分解斜視図である図23〜図28も参照される。
図20における入力軸20の右端部には、クラッチ12が設けられている。クラッチ12は、多板摩擦クラッチである。クラッチ12は、クラッチハウジング121と、クラッチボス122と、複数の摩擦板123と、複数のクラッチ板124と、圧力板125とを備えている。また、クラッチ12は、エンジン11のクランク軸90に形成されたギア90aと噛み合うクラッチ駆動ギア129を備えている。
クラッチ駆動ギア129は、クラッチ接続時に、クランク軸90から入力される動力を入力軸20へ伝達する。クラッチ駆動ギア129は、ニードルベアリング111を介して、入力軸20の外周に設けられたカラー110に支持されている。カラー110は、入力軸20の外周に嵌められている。クラッチ駆動ギア129は、入力軸20と同一軸心で配置され、入力軸20に対して回転可能である。クラッチ駆動ギア129は、クランク軸90のギア90aと噛み合っており、クランク軸90と共に回転する。クラッチハウジング121は、クラッチ駆動ギア129と共に回転するように構成されている。そのため、クラッチハウジング121は、クランク軸90と共に回転する。
クラッチハウジング121は、有底筒形状を有している。クラッチハウジング121は、入力軸20と同軸であり且つ入力軸20と相対回転可能に設けられている。クラッチハウジング121の内周面には、入力軸20の軸線方向に延びる複数の溝(図示せず)が、入力軸20の周方向に並ぶように、互いに間隔を空けて形成されている。クラッチハウジング121の径方向内側に、複数の摩擦板123が設けられている。複数の摩擦板123の各々は、円環板形状を有している。
各摩擦板123の外周には、入力軸20の周方向に並ぶように互いに間隔を空けて複数の歯(図示せず)が形成されている。各摩擦板123は、外周の歯が、クラッチハウジング121の内周面に形成された複数の溝と係合することにより、クラッチハウジング121と共に回転する。また、各摩擦板123は、クラッチハウジング121に対して、入力軸20の軸線方向に移動可能に設けられている。
クラッチボス122は、筒形状を有している。クラッチボス122は、入力軸20の径方向において、クラッチハウジング121よりも内側に設けられている。クラッチボス122は、入力軸20と共に回転する。クラッチボス122の外周面には、入力軸20の軸線方向に延びる複数の溝(図示せず)が、入力軸20の周方向に並ぶように、互いに間隔を空けて形成されている。クラッチボス122の径方向外側に、複数のクラッチ板124が設けられている。各クラッチ板124は、円環板形状を有している。
各クラッチ板124は、内周に形成された複数の歯(図示せず)が、クラッチボス122の外周面に形成された複数の溝と係合することにより、クラッチボス122と共に回転するように構成されている。また、各クラッチ板124は、クラッチボス122に対して、入力軸20の軸線方向に移動可能に設けられている。
各摩擦板123は、摩擦板123の盤面が入力軸20の軸線方向に対して実質的に直角を成すようにクラッチハウジング121に設けられている。各クラッチ板124は、クラッチ板124の盤面が入力軸20の軸線方向に対して実質的に直角を成すようにクラッチボス122に設けられている。各摩擦板123と各クラッチ板124とは、入力軸20の軸線方向に互いに交互に設けられている。
圧力板125は、入力軸20の軸線方向において、クラッチボス122と間隔を空けて配置されている。圧力板125は、クラッチスプリング125aによって、クラッチボス122(図20における左方向)へ向けて付勢されている。圧力板125は、ベアリング126を介して、プルロッド127に支持されている。プルロッド127は、レリーズシャフト112を回転することによって、入力軸20の軸線方向に移動するように構成されている。レリーズシャフト112は、クラッチレバー7(図1参照)が運転者に操作されることによって回転する。
プルロッド127が、レリーズシャフト112の回動によって、クラッチスプリング125aの付勢力に反して、クラッチボス122から離れる方向(図20における右方向)に移動すると、圧力板125は、クラッチボス122から離れる方向に移動する。これにより、圧力板125が、摩擦板123とクラッチ板124とを互いに押し付ける力が無くなる。その結果、クラッチ12は遮断される。クラッチ12が遮断されている時、クランク軸90からの動力は入力軸20に入力されない。
プルロッド127が、レリーズシャフト112の回動が解除されて、クラッチスプリング125aの付勢力により、クラッチボス122へ向けて移動すると、圧力板125は、クラッチボス122へ向けて移動する。これにより、圧力板125は、摩擦板123とクラッチ板124とを互いに押し付ける。その結果、クラッチ12は接続される。クラッチ12が接続されている時、クランク軸90からの動力は、クラッチ12を介して、入力軸20に入力される。
図21に示すように、入力軸20は、ベアリング21L、21Rを介して、ケーシング14に、回転可能に支持されている。なお、ベアリング21Rは、図21に示すように、ベアリングハウジング97内に設けられている。ベアリングハウジング97は、ケーシング14に嵌め込まれている。入力軸20は、クランク軸90(図20参照)と平行な軸線上に回転可能に配置されている。
入力軸20には、入力軸20と同一軸心で、オイルポンプ駆動ギア18が設けられている。オイルポンプ駆動ギア18は、入力軸20の軸線方向において、よりクラッチ12に近いベアリング21Rと、クラッチ駆動ギア129との間に配置されている。オイルポンプ駆動ギア18は、クラッチ駆動ギア129と共に回転するように、クラッチ駆動ギア129と連結されている。
入力軸20の外周には、ハブ22が、スプライン嵌合により設けられている。ハブ22は、入力軸20に対して相対回転せず、入力軸20と共に回転する。ハブ22は省略されてもよい。ハブ22の外周には、ドグリング23a、23bが、軸線方向に移動可能に設けられている。ドグリング23a、23bは、第5速駆動ギア245と第6速駆動ギア246との間に設けられている。第5速駆動ギア245は、ドグリング23bと隣り合う側面に、ドグリング23bと係合可能なドグを有している。第6速駆動ギア246は、ドグリング23aと隣り合う側面に、ドグリング23aと係合可能なドグを有している。
入力軸20には、複数(6個)の駆動ギア241〜246が設けられている(図27及び図28参照)。第1速駆動ギア241は、入力軸20と一体的に設けられている。即ち、駆動ギア241は、入力軸20と共に回転するように入力軸20に固定されている。第2速駆動ギア242、第3速駆動ギア243及び第4速駆動ギア244は、スプライン嵌合により入力軸20に設けられている。これにより、駆動ギア241〜244は、入力軸20と共に回転するように入力軸20に係合されている。なお、カラー93bが、第2速駆動ギア242と隣接するように設けられている。カラー93bと第4速駆動ギア244との間に、クロウワッシャー96a、96bが設けられている。カラー93cが、第3速駆動ギア243と隣接するように設けられている。
第5速駆動ギア245は、メタルベアリング245aを介して、ハブ22に相対回転可能に設けられている。第6速駆動ギア246は、メタルベアリング246aを介して、ハブ22に相対回転可能に設けられている。なお、ハブ22は、入力軸20と相対回転せず、入力軸20と共に回転するので、駆動ギア245、246と入力軸20との関係に関して、ハブ22に相対回転可能に設けられることは、入力軸20に相対回転可能に設けられることと実質的に同じである。以下においては、ハブ22に設けられることを、入力軸20に設けられるともいう場合がある。
第6速駆動ギア246は、ドグリング23aが第6速駆動ギア246のドグと係合することにより、入力軸20と共に回転する。言い換えると、第6速駆動ギア246は、ドグリング23aにより、入力軸20と共に回転するように入力軸20に係合される。第5速駆動ギア245は、ドグリング23bが第5速駆動ギア245のドグと係合することにより、入力軸20と共に回転する。言い換えると、第5速駆動ギア245は、ドグリング23bにより、入力軸20と共に回転するように入力軸20に係合される。なお、ワッシャー92fが、第6速駆動ギア246と隣接するように設けられている。ワッシャー92gが、第5速駆動ギア245と隣接するように設けられている。
出力軸30は、図21に示すように、ベアリング31L、31Rを介して、ケーシング14に、回転可能に、支持されている。出力軸30は、入力軸20と平行な軸線上に回転可能に配置されている。図21及び図26〜図28に示すように、出力軸30の外周には、ハブ32a、32bが設けられる。ハブ32a、32bは、筒形状を有している。ハブ32a、32bは、出力軸30を径方向内側に受け入れている。ハブ32a、32bは、出力軸30と同一軸心で出力軸30に回転可能に支持されている。ハブ32a、32bは、互いの軸線方向の端面が、軸線方向において対向するように、相互に相対回転可能に設けられている。なお、出力軸30の径方向外側において、出力軸30の軸線方向におけるベアリング31Rとハブ32bとの間には、フランジ31(図22及び図28参照)が設けられている。
ハブ32aには、ドグリング33aが、第2速被駆動ギア342と、第4速被駆動ギア344との間において、軸線方向に移動可能に設けられている(図27及び図28参照)。第2速被駆動ギア342は、ドグリング33aと隣り合う側面に、ドグリング33aと係合するドグを有している。第4速被駆動ギア344は、ドグリング33aと隣り合う側面に、ドグリング33aと係合するドグを有している。なお、ワッシャー92bが、第2速被駆動ギア342に隣接するように設けられている。ワッシャー92cが、第4速被駆動ギア344に隣接するように設けられている。ハブ32aは、「偶数段ハブ」であり、偶数の変速段に対応している。高速側の奇数段との間で変速が行われる場合、ハブ32aは「第一ハブ」に相当する。低速側の奇数段との間で変速が行われる場合、ハブ32aは「第二ハブ」に相当する。
ハブ32bには、ドグリング33bが、第1速被駆動ギア341と、第3速被駆動ギア343との間において、軸線方向に移動可能に設けられている(図27及び図28参照)。第1速被駆動ギア341は、ドグリング33bと隣り合う側面に、ドグリング33bと係合するドグを有している。第3速被駆動ギア343は、ドグリング33bと隣り合う側面に、ドグリング33bと係合するドグを有している。なお、ワッシャー92eが、第1速被駆動ギア341に隣接するように設けられている。ワッシャー92dが、第3速被駆動ギア343に隣接するように設けられている。ハブ32bは、「奇数段ハブ」であり、奇数の変速段に対応している。高速側の偶数段との間で変速が行われる場合、ハブ32bは「第一ハブ」に相当する。低速側の偶数段との間で変速が行われる場合、ハブ32bは「第二ハブ」に相当する。
出力軸30の一端部30aは、ベアリング31Lを貫通して、ケーシング14の外へ突出している。出力軸30の一端部30aには、ドライブスプロケット9が設けられている。ドライブスプロケット9は、動力出力部の一例である。一方、出力軸30の他端部30b側には、従動ギア47を含む同期機構150が設けられている。出力軸30の各端側に、ドライブスプロケット9と、同期機構150とが別個に設けられることにより、変速装置13の大型化が抑制されるとともに、構造の複雑さが抑制される。
ドライブスプロケット9には、ドライブチェーン10が巻き掛けられている。ドライブチェーン10は、後輪5のスプロケット5a(図1参照)に巻き掛けられている。出力軸30の回転動力は、ドライブチェーン10を介して、後輪5に伝達される。これにより、自動二輪車1が走行する。なお、出力軸30の一端部30aにおいて、ドライブスプロケット9の各側には、ワッシャー92aとカラー93aとがそれぞれ設けられている。また、出力軸30の一端部30aには、ワッシャー92aに隣接するようにナット91が設けられている。
図21に示すように、出力軸30には、被駆動ギア341〜346が設けられている。第1速被駆動ギア341及び第3速被駆動ギア343は、ハブ32bを径方向内側に受け入れ、ハブ32bと同一軸心でハブ32bに回転可能に設けられている。第5速被駆動ギア345は、ハブ32bを径方向内側に受け入れ、ハブ32bと同一軸心で回転するように設けられている。第1速被駆動ギア341は、メタルベアリング341aを介して、ハブ32bに相対回転可能に設けられている。第1速被駆動ギア341は、ドグリング33bが第1速被駆動ギア341のドグと係合することにより、ハブ32bとの相対回転が規制され、これにより、ハブ32bに係合された第1速被駆動ギア341として設定される。第3速被駆動ギア343は、メタルベアリング343aを介して、ハブ32bに回転可能に設けられている。第3速被駆動ギア343は、ドグリング33bが第3速被駆動ギア343のドグと係合することにより、ハブ32bとの相対回転が規制され、これにより、ハブ32bに係合された第3速被駆動ギア343として設定される。第5速被駆動ギア345は、スプライン嵌合により、ハブ32bに設けられている。これにより、第5速被駆動ギア345は、ハブ32bに係合され、ハブ32bとの相対回転が規制されるとともに、ハブ32bと共に回転可能である。
第2速被駆動ギア342及び第4速被駆動ギア344は、ハブ32aを径方向内側に受け入れ、ハブ32aと同一軸心でハブ32aに回転可能に設けられている。第6速被駆動ギア346は、ハブ32aを径方向内側に受け入れ、ハブ32aと同一軸心で回転するように設けられている。第2速被駆動ギア342は、メタルベアリング342aを介して、ハブ32aに回転可能に設けられている。第2速被駆動ギア342は、ドグリング33aが第2速被駆動ギア342のドグと係合することにより、ハブ32aとの相対回転が規制され、これにより、ハブ32aに係合された第2速被駆動ギア342として設定される。第4速被駆動ギア344は、メタルベアリング344aを介して、ハブ32aに回転可能に設けられている。第4速被駆動ギア344は、ドグリング33aが第4速被駆動ギア344のドグと係合することにより、ハブ32aとの相対回転が規制され、これにより、ハブ32aに係合された第4速被駆動ギア344として設定される。第6速被駆動ギア346は、スプライン嵌合により、ハブ32aに設けられている。これにより、第6速被駆動ギア346は、ハブ32aに係合され、ハブ32aとの相対回転が規制されるとともに、ハブ32aと共に回転可能である。
<<ラチェット機構の構造>>
ラチェット機構400は、出力軸30とハブ32a、32bとの相対回転を選択的に規制するように構成されている。ラチェット機構400は、ポール35a〜35dと、ラチェット制御機構とを備える。ラチェット制御機構は、シフトアップ時又はシフトダウン時に、ポール35a〜35dの起立又は伏倒の切換を機械的に行うように構成されている。ラチェット機構へ入力される動力がラチェット機構内において機械的に伝達されることにより各ポール35a〜35dの起立又は伏倒の切換を行う。ラチェット制御機構は、ガイド軸41と、コントロールカム軸40と、スライダ43、43a〜43dと、係合ピン46、46a〜46dと、ボール38a〜38dとを備える。
出力軸30の外周とハブ32aの内周との間には、複数の偶数段加速用ポール35aからなる偶数段加速用ポール群と、複数の偶数段減速用ポール35bからなる偶数段減速用ポール群とが設けられている。複数の偶数段加速用ポール35aは、出力軸30の周方向において互いに全体的に又は部分的に重なり合うように配置されている。複数の偶数段減速用ポール35bは、出力軸30の周方向において互いに全体的に又は部分的に重なり合うように配置されている。出力軸30の外周とハブ32aの内周との間には、3つのカラー36a〜36cが軸線方向に間隔を空けて設けられている。ポール35a、35bの各々は、カラー36a〜36cの間に設けられている。
出力軸30の外周とハブ32bの内周との間には、複数の奇数段加速用ポール35cからなる奇数段加速用ポール群と、複数の奇数段減速用ポール35dからなる奇数段減速用ポール群とが設けられている。複数の奇数段加速用ポール35cは、出力軸30の周方向において互いに全体的に又は部分的に重なり合うように配置されている。複数の奇数段減速用ポール35dは、出力軸30の周方向において互いに全体的に又は部分的に重なり合うように配置されている。出力軸30の外周とハブ32bの内周との間には、3つのカラー36d〜36fが軸線方向に間隔を空けて設けられている。ポール35c、35dの各々は、カラー36d〜36fの間に設けられている。
偶数段加速用ポール群と偶数段減速用ポール群と奇数段加速用ポール群と奇数段減速用ポール群とについて、各ポール群は、互いに出力軸30の軸線方向において異なる位置に配置されている。さらに、各ポール群を構成する複数のポール35a〜35dは、それぞれ出力軸30の周方向に並ぶように配置されている。なお、本実施形態において、各ポール群は、5つのポールを有しているが、ポールの数は、特に限定されない。ポール35a〜35dの各々には、サークリップ37a〜37dが設けられている。サークリップ37a〜37dは、ポール35a〜35dを起立させるための径方向内側へ向かう力をポール35a〜35dに付与するように構成されている。1つのサークリップは、1つのポール群を構成する複数のポールに対して、ポールを起立させるための力を付与する。
出力軸30には、図22に示すように、ポール35a〜35dに対応する位置に、径方向に貫通する孔39a〜39dが形成されている。各孔39a〜39dには、ボール38a〜38dが、出力軸30の径方向に移動可能に設けられている。また、ボール38a〜38dは、出力軸30の径方向における位置に関らず、孔39a〜39d内で転動可能であり、出力軸30の回転を阻害しない。
ガイド軸41(外軸)は、筒形状を有している(図26)。ガイド軸41は、図21及び図22に示すように、出力軸30の径方向内側に受け入れられ、カバー部材15を介して、ケーシング14に対して回転を規制されている。ガイド軸41とカバー部材15との間には、円筒形状のブッシュ15aが設けられている。これにより、カバー部材15に対するガイド軸41の周方向位置(位相)が固定されている。また、ブッシュ15aの径方向内側には、Oリング15bが設けられている。Oリング15bにより、ブッシュ15aとガイド軸41との間がシールされる。ガイド軸41の径方向外側と、出力軸30の径方向内側との間には、出力軸30とガイド軸41との相対回転を可能とするためのベアリング41L、41Rが設けられており、出力軸30の径方向内側に、サークリップ98aが設けられている。これによりガイド軸41は、出力軸30に対する軸線方向の位置を規制されている。
ガイド軸41の径方向内側には、コントロールカム軸40(内軸)が受け入れられる(図24)。変速装置13において、ハブ32a、32bの動力を出力軸30に伝達する制御は、コントロールカム軸40の回動によって行われる。コントロールカム軸40は、ロータリーカムの一例である。
コントロールカム軸40は、ガイド軸41の内周面に対して回転可能に設けられている。ガイド軸41は、出力軸30の径方向内側に設けられている。コントロールカム軸40と、ガイド軸41と、出力軸30とは同一軸心を有している。図31(c)に示すように、シフトアップ時におけるコントロールカム軸40の回転方向は、シフトダウン時におけるコントロールカム軸40の回転方向と反対である。
コントロールカム軸40の外周面には、カム溝42、42a〜42dが形成されている(図31(b))。カム溝42a〜42dは、各ポール35a〜35dに対応している。なお、カム溝は、カム部の一例である。カム部は、カム溝に限定されない。カム部の形状は、特に限定されない。カム部は、例えば、カム突起であってもよい。
また、ガイド軸41には、ガイド孔44、44a〜44dが形成されている(図35)。ガイド孔44、44a〜44dの各々は、カム溝42、42a〜42dと対応する位置に形成されている。ガイド孔44a〜44dでは、軸線方向に長い長円が形成されている(図31(b))。
ガイド軸41の外周には、円環形状を有するスライダ43、43a〜43dが設けられている(図22及び図24)。スライダ43、43a〜43dの各々には、スライダ43、43a〜43dを径方向に貫通する孔(図示せず)が形成されている。スライダ43、43a〜43dの孔には、径方向に延びる係合ピン46、46a〜46dの一端が嵌合されている。これにより、スライダ43、43a〜43dに、係合ピン46、46a〜46dの一端が固定されている。係合ピン46、46a〜46dの他端は、ガイド孔44、44a〜44dを通って、カム溝42、42a〜42dに受け入れられる(図22及び図24)。
係合ピン46a〜46dがガイド孔44a〜44dの中を移動することにより、スライダ43a〜43dは、ガイド軸41の軸線方向に移動する(図24及び図31(b))。なお、係合ピンは、スライダが有する被ガイド部の一例である。係合ピンは、スライダと別体であり、スライダに取り付けられる。被ガイド部は、この例に限定されず、例えば、スライダと一体的に形成されていてもよい。
ボール38a〜38dは、出力軸30を径方向に貫通するように出力軸30に形成された孔39a〜39dに受け入れられる。ボール38a〜38dは、孔39a〜39dを径方向に移動可能である。ポール35a〜35dの各々は、出力軸30において、それぞれボール38a〜38dと対応する位置に搖動可能に設けられている。孔39aにおいてボール38aが径方向内側に位置する時、ポール35aは径方向外方に起立する。孔39aにおいてボール38aが径方向外側に位置する時、ポール35aは径方向内方に伏倒される。他のポール35b〜35dについても同様である。ラチェット機構の動作については、後述する。
図22に示すように、出力軸30の他端部30bにおいて、出力軸30の径方向外側には、ベアリング31Rが設けられている。ケーシング14には、カバー部材15が設けられている。カバー部材15は、ベアリング31Rとその内径の孔との少なくとも一部を、ケーシング14の外側から覆うように設けられている。カバー部材15とベアリング31Lとの間には、空間15sが形成されている。ケーシング14には、空間15sに開口する油路14gが形成されている。油路14gは、例えば、ケーシング14の表面に形成された溝である。油路14gは、カバー部材15に覆われていない位置から、カバー部材15に覆われた位置まで延在している。なお、油路の形状については、特に限定されない。例えば、ケーシングが複数の部材からなる分割構造を有する場合において、前記油路は、部材の合わせ面に沿って形成される。また、例えば、ケーシングが分割構造を有するエンジンのクランクケースである場合において、前記油路は、クランクケースの合わせ面に沿って形成される。また、油路は、必ずしもケーシングに形成される必要はなく、例えば、カバー部材に形成されてもよい。
コントロールカム軸40には、図22に示すように、導油孔40p、40q、40rが形成されている。ガイド軸41には、導油孔41p、41rが形成されている。導油孔40pは、導油孔41p、40qと連通するように、コントロールカム軸40の径方向に形成されている。導油孔40qは、導油孔40p、40rと連通するように、コントロールカム軸40の軸線方向に形成されている。導油孔40rは、導油孔41r、40qと連通するように、コントロールカム軸40の径方向に形成されている。導油孔41pは、空間15s及び導油孔40pと連通するように、コントロールカム軸40の径方向に形成されている。導油孔41rは、導油孔40rと連通するとともに、ガイド軸41の径方向外側へ向けて開放されている。潤滑油は、油路14gから、空間15sと導油孔41p、40p、40q、40r、41rとを順に通って、出力軸30の周りに分配される。このように、コントロールカム軸40及びガイド軸41は、油路14gから空間15sを通って供給される潤滑油を出力軸30の周りに分配するように形成された導油路40p、40q、40r、41p、41rを有している。なお、コントロールカム軸40及びガイド軸41は、図22に示すように、出力軸30の他端側(出力軸30の他端部30bが位置する側)から出力軸30の軸線方向に突出している。
<<同期機構>>
同期機構150は、アイドルギア62、64と、従動ギア47とを含む。図21及び図26に示すように、コントロールカム軸40の一端部40aには、従動ギア47が回転可能に設けられている。図21に示すように、コントロールカム軸40の一端部40aは、ケーシング14から突出している。なお、従動ギア47は、コントロールカム軸40とスプライン嵌合されており、従動ギア47と隣接するようにサークリップ98eがコントロールカム軸40に設けられることにより、コントロールカム軸40に固定されている。従動ギア47には、フォークガイド軸60に取り付けられたアイドルギア62が噛み合っている。
図26に示すように、フォークガイド軸60には、アイドルギア62と隣接するようにワッシャー92hが設けられ、ワッシャー92と隣接するようにサークリップ98bが設けられている。これにより、アイドルギア62が、フォークガイド軸60に対して回転可能に設けられている。増速ギアとしてのアイドルギア62、64のうち、アイドルギア62が、フォークガイド軸60と同一軸心で配置されている。これにより、構造の複雑さが抑制されている。なお、本発明は、この例に限定されない。例えば、変速装置が複数のフォークガイド軸を備えている場合において、複数のアイドルギアの各々が、フォークガイド軸に設けられてもよい。
アイドルギア62には、アイドル軸63に取り付けられたアイドルギア64が噛み合っている。図26に示すように、アイドル軸63は、カバー部材15に取り付けられている。カバー部材15は、スクリュー89a、89b、89cにより、ケーシング14(図21参照)に取り付けられている。アイドル軸63の略中央(図26における略中央)には、サークリップ98eが設けられている。サークリップ98eがケーシング14とカバー部材15とに挟まれることにより、アイドル軸63は軸線方向においてケーシング14に対して固定されている。また、アイドルギア64は、アイドル軸63の他端側(図26における左端側)に設けられている。アイドル軸63の他端側には、アイドルギア64と隣接するようにワッシャー92iが設けられ、ワッシャー92iと隣接するようにサークリップ98cが設けられている。これにより、アイドルギア64が、アイドル軸63に対して回転可能に設けられている。
アイドルギア64は、シフト機構80のインデックスカム130の間欠的な回転が伝達されるように構成されている。即ち、インデックスカム130の間欠的な回転は、アイドルギア64、62を介して、従動ギア47に伝達される。これにより、コントロールカム軸40は、シフト機構80の動作に応じて間欠的に回転する。
<<ドグ係合機構の構造>>
ドグ係合機構70は、カム溝52a〜52dが外周面に形成されたシフトカム50と、カム溝52a〜52dの各々に部分的に受け入れられるシフトフォーク53a〜53dと、シフトフォーク53a、53dを軸線方向に移動可能に支持するフォークガイド軸60と、シフトフォーク53a、53dの各々とそれぞれ連結されるドグリング23a、23bと、シフトフォーク53b、53cを軸線方向に移動可能に支持するフォークガイド軸65と、シフトフォーク53b、53cの各々とそれぞれ連結されるドグリング33a、33bとを備える。なお、ドグリング33b、33a、23b、23aは、それぞれ第一ドグリング〜第四ドグリングの一例である。シフトフォーク53d、53c、53b、53aは、それぞれ第一シフトフォーク〜第四シフトフォークの一例である。(図21参照)
シフトカム50は、ベアリング51L、51Rを介して、ケーシング14に回転可能に支持されている。シフトカム50の外周面には、カム溝52a〜52dが形成されている(図35(b)参照)。シフトカム50の一端部(図21での右端部)には、シフト機構80のインデックスカム130が設けられている。シフトカム50は、シフト機構80の駆動に応じて間欠的に回転する。シフトカム50は、入力軸20および出力軸30と平行である。
シフトカム50は、ドグ係合機構70に含まれている。ドグ係合機構70は、一つの奇数段に係る入力軸20からハブ32bまでの動力伝達、又は一つの偶数段に係る入力軸20からハブ32aまでの動力伝達を、ドグ係合により選択的に、有効に設定する。奇数段に関して、ドグ係合機構70は、入力軸20と奇数段駆動ギア245との相対回転、又は奇数段被駆動ギア341、343のいずれか1つとハブ32bとの相対回転のいずれか一つを規制することにより、一つの奇数段に係る入力軸20からハブ32bまでの動力伝達を有効に設定する。偶数段に関して、ドグ係合機構70は、入力軸20と偶数段駆動ギア246との相対回転、又は偶数段被駆動ギア342、344のいずれか1つとハブ32aとの相対回転のいずれか一つを規制することにより、一つの偶数段に係る入力軸20からハブ32aまでの動力伝達を有効に設定する。なお、ドグ係合機構70では、変速動作中において、一つの奇数段に係る入力軸20からハブ32bまでの動力伝達と、一つの偶数段に係る入力軸20からハブ32aまでの動力伝達との両方が有効に設定される期間が一時的に生じる。しかし、ラチェット機構400が、ハブ32a又は32bから出力軸30までの動力伝達を、選択的に、有効に設定する。結果として、いずれか一つの変速段に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介した入力軸20から出力軸30までの動力伝達が有効に設定される。
カム溝52a〜52dには、それぞれシフトフォーク53a〜53dの一部が、シフトカム50の回転に伴ってシフトフォーク53a〜53dがカム溝52a〜52dに案内されて軸線方向に移動するように受け入れられる(図21参照)。シフトフォーク53a、53dは、フォークガイド軸60上を軸線方向に移動可能に配置され、それぞれ出力軸30のドグリング33a、33bに連結されている。シフトフォーク53b、53cは、フォークガイド軸65上を軸線方向に移動可能に配置され、それぞれ入力軸20のドグリング23a、23bに連結されている。フォークガイド軸60、65は、シフトカム50と平行に配置されている(例えば図29参照)。
変速装置13では、複数の駆動ギア241〜246と複数の被駆動ギア341〜346とが常時噛み合う。変速装置13は、常時噛み合い式変速装置である。変速装置13において、動力を伝達する駆動ギアと被駆動ギアとの組合せの選択は、シフト機構80におけるシフトカム50の回動によって行われる。
シフトカム50が回転すると、シフトフォーク53a〜53dが、カム溝52a〜52dに応じて軸線方向に移動する。これにより、ドグリング23a、23b、33a、33bが、シフトフォーク53a〜53dと共に軸線方向に移動する。
ドグリング23aは、軸線方向に移動することにより、第6速駆動ギア246のドグと噛み合う又は噛み合わないように構成されている。ドグリング23bは、軸線方向に移動することにより、第5速駆動ギア245のドグと噛み合う又は噛み合わないように構成されている。なお、図29は、第6速駆動ギア246の側面に形成されたドグ246dとドグリング23aとの係合を示している。
ドグリング33aは、軸線方向に移動することにより、第2速被駆動ギア342のドグと噛み合うか、第4速被駆動ギア344のドグと噛み合うか、又は第2速被駆動ギア342若しくは第4速被駆動ギア344の何れにも噛み合わないように構成されている。ドグリング33bは、軸線方向に移動することにより、第1速被駆動ギア341のドグと噛み合うか、第3速被駆動ギア343のドグと噛み合うか、又は第1速被駆動ギア341若しくは第3速被駆動ギア343の何れにも噛み合わないように構成されている。なお、図29は、第3速被駆動ギア343の側面に形成されたドグ343dと、ドグリング33bとの係合を示している。
ドグリング23a、23b、33a、33bの何れかのドグリングと、当該ドグリングと隣接する変速ギア(駆動ギア245、246、被駆動ギア341〜344)のドグとが噛み合うことにより、動力が伝達する一対のギアが選択される。選択された一対のギアを介して、入力軸20の動力が、ハブ32a又はハブ32bに伝達される。なお、変速段がニュートラルである場合、いずれのドグリング23a、23b、33a、33bも、駆動ギア245、246又は被駆動ギア341〜344と噛み合わない。
<<ラチェット機構の動作>>
ラチェット機構の動作は、以下の通りである。コントロールカム軸40は、従動ギア47の回転に伴って回転する。従動ギア47から伝達される動力が、ラチェット制御機構に入力される動力である。コントロールカム軸40が回転すると、係合ピン46a〜46dがカム軸42a〜42dに案内されてガイド孔44a〜44dの中を移動する(図31(b))。その結果、スライダ43a〜43dが係合ピン46a〜46dと共に軸線方向に移動する。スライダ43a〜43dが軸線方向に移動することにより、ボール38a〜38dが、孔39a〜39d内において径方向外方又は内方に移動する。その結果、ポール35a〜35dが径方向外方に起立するか又は径方向内方に伏倒される。ポール35a〜35dのいずれかと、ハブ32a又は32bとが係合することにより、出力軸30とハブ32a、32bとの相対回転が選択的に規制される。ポール35a〜35dによる動力伝達については、後述する(図30(a)〜(b)参照)。このように、ラチェット制御機構は、ラチェット制御機構に入力される動力をラチェット制御機構内において機械的に伝達し、機械的に各ポール35a〜35dを個別に動作させる。
図30(a)は、ポール35cの伏倒時の様子を模式的に示す断面図である。図30(b)は、ポール35cの起立時の様子を模式的に示す断面図である。ハブ32b及び出力軸30に関し、図中、時計回りが、正転方向である。
ハブ32bと出力軸30との相対回転が規制されている非変速時には、ハブ32bと出力軸30との間で動力伝達が行われている。この時には、ハブ32b及び出力軸30は、正転方向(図中、時計回り)に、互いに略同じ速度で、回転する。
ラチェット機構400(図23〜図25参照)の動作により、スライダ43cがボール38cを径方向外方へ押圧して、ボール38cが、孔39c内において径方向外方に移動すると、図30(a)に示すように、ボール38cは、ポール35cの基端部35cbを径方向外方に押す。これにより、ポール35cは、軸35caを支点として、図中反時計回りに、搖動する。
その結果、ポール35cの先端部35ccは、径方向内方に伏倒する。この時、ポール35cの先端部35ccは、ハブ32bの係合凸部351cと係合しない。ポール35cとハブ32bとの係合は解除されているので、ハブ32bが、出力軸30に対して相対的に、加速方向(図中時計回り)に回転しても、ハブ32bの回転動力は、出力軸30に伝達されない。
一方、ラチェット機構400(図23〜図25参照)の動作により、スライダ43cがボール38cを径方向外方へ押圧することが解除されて、ボール38cが、孔39c内において径方向内方に移動可能になると、ポール35cの基端部35cbも径方向内方に移動可能となる。この時、サークリップ37c(図29参照)による付勢力と、ポール35cに加わる遠心力とにより、図30(b)に示すように、ポール35cの先端部35ccは径方向外方に起立する。それと共に、ポール35cの基端部35cbは径方向内方に移動する。これにより、ポール35cは、軸35caを支点として、図中時計回りに、搖動する。その結果、ポール35cの先端部35ccは、ハブ32bの係合凸部351cと係合可能となる。
図30(b)に示す状況下において、ハブ32bが、出力軸30に対して相対的に、加速方向(出力軸から見て時計回り)に回転する時、ポール35cの先端部35ccは、ハブ32bの係合凸部351cと係合する。ポール35cがハブ32bと係合することにより、ハブ32bの動力(加速する向きのトルク)は、出力軸30に伝達される。一方、ハブ32bが、出力軸30に対して相対的に、減速方向(出力軸から見て反時計回り)に回転する時には、ハブ32bの内周面によってポール35cが伏倒されるため、ポール35cの先端部35ccは、ハブ32bの係合凸部351cと係合しない。ポール35cとハブ32bとの係合が解除されることにより、ハブ32bの動力(トルク)は、出力軸30に伝達されない。以上のように、奇数段加速用ポール35cは、起立時に奇数段ハブ32bと出力軸30との間で加速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しない。
図30(a)〜(b)では、奇数段加速用ポール35cが例示されたが、他のポール35a,35b,35dの起立及び伏倒の動作態様は、ポール35cと同様である。即ち、偶数段加速用ポール35aは、起立時に偶数段ハブ32aと出力軸30との間で加速する向きの動力(トルク)を伝達する一方、伏倒時に動力(トルク)を伝達しない。偶数段減速用ポール35bは、起立時に偶数段ハブ32aと出力軸30との間で減速する向きの動力(トルク)を伝達する一方、伏倒時に動力(トルク)を伝達しない。奇数段減速用ポール35dは、起立時に奇数段ハブ32bと出力軸30との間で加速する向きの動力(トルク)を伝達する一方、伏倒時に動力(トルク)を伝達しない。なお、加速する向きの動力(トルク)は、鞍乗型車両を加速させる動力(トルク)である。減速する向きの動力(トルク)は、鞍乗型車両を減速させる動力(トルク)である。
起立した偶数段加速用ポール35aは、ハブ32aが出力軸30に対して相対的に加速方向に回転する時に、ハブ32aと係合し、これにより、ハブ32aの動力を出力軸30に伝達する。しかし、ハブ32aが出力軸30に対して相対的に減速方向に回転する時には、起立した偶数段加速用ポール35aとハブ32aとの係合が解除され、これにより、ハブ32aの動力は出力軸30に伝達されない。
起立した偶数段減速用ポール35bは、ハブ32aが出力軸30に対して相対的に減速方向に回転する時に、ハブ32aと係合し、これにより、ハブ32aの動力を出力軸30に伝達する。しかし、ハブ32aが出力軸30に対して相対的に加速方向に回転する時には、起立した偶数段減速用ポール35bとハブ32aとの係合が解除され、これにより、ハブ32aの動力は出力軸30に伝達されない。
起立した奇数段減速用ポール35dは、ハブ32bが出力軸30に対して相対的に減速方向に回転する時に、ハブ32bと係合し、これにより、ハブ32bの動力を出力軸30に伝達する。しかし、ハブ32bが出力軸30に対して相対的に加速方向に回転する時には、起立した奇数段減速用ポール35dとハブ32bとの係合が解除され、これにより、ハブ32bの動力は出力軸30に伝達されない。また、ポール35a〜35dは、伏倒した時に、ハブ32a、32bの動力を出力軸30に伝達しない。
また、本実施形態では、ポール35a〜35dは、伏倒時に、ボール38a〜38dにより伏倒するように固定される。その一方で、ポール35a〜35dは、起立時に、サークリップ37a〜dの付勢力とポール35a〜35dに加わる遠心力とにより起立する。変速時又は非変速時のいずれにおいても、ポール35a〜35dの起立姿勢は機械的構成により固定されない。つまり、起立しているポール35a〜35dに対して、ポール35a〜35dを伏倒させるように力が加わった場合に、ポール35a〜35dは伏倒できる。つまり、ラチェット制御機構は、ポール35a〜35dの伏倒姿勢を、機械的構成(例えばボール38a〜38d)をポール35a〜35dに接触させることにより固定するが、ポール35a〜35dの起立姿勢を機械的構成により固定しない。これにより、ラチェット制御機構を構成する部材(例えば、ボール38a〜38dを支持するスライダ43a〜43dや係合ピン46a〜46d)に、変位や脱調、或いは変形や摩耗が生じることを抑制できる。
<<ラチェット制御機構の動作>>
図31(a)は、コントロールカム軸及びガイド軸を模式的に示す断面図である。図31(b)は、コントロールカム軸のカム溝の形状を模式的に示す展開図である。図31(c)は、コントロールカム軸の動作について説明するための模式図である。
図31(a)に示すように、ラチェット機構400において、筒形状を有するガイド軸41と、ガイド軸41の径方向内側に受け入れられたコントロールカム軸40とは、同一軸心を有するように設けられている。ガイド軸41は、図21に示すように、ケーシング14に固定されており、回転しない。一方、コントロールカム軸40は、回転可能である。従って、コントロールカム軸40は、ガイド軸41に対して相対回転可能である。
図31(b)は、コントロールカム軸40の外周面に形成されるカム溝42、42a〜42d及びガイド孔44、44a〜44dと、係合ピン46、46a〜46dとを概略的に示している。係合ピン46、46a〜46dの各々は、上述したように、スライダ43、43a〜43dに設けられている。なお、図中、ESHは「偶数段ハブ」を示す。OSHは「奇数段ハブ」を示す。Accは「加速用」を示す。Decは「減速用」を示す。Enは、起立位置を示す。Reは、伏倒位置を示す。ガイド軸41がコントロールカム軸40に対して相対的に回転すると、ガイド孔44、44a〜44dは、カム溝42、42a〜42dに対して相対的に移動する。図中においては、ガイド孔44、44a〜44dは、上下方向に移動する。
図31(c)に示すように、奇数段位置「OSP」と偶数段位置「ESP」との間のコントロールカム軸40とガイド軸41との相対的な回転角度は180°である。奇数段位置と偶数段位置とが、コントロールカム軸40の外周面において、周方向に180度、離れている。変速1段に相当するコントロールカム軸40の周長が長く確保される。よって、コントロールカム軸40による各ポール35a〜35dの動作制御の安定性が確保されつつ、コントロールカム軸40の小径化が可能である。車両搭載性をより向上させつつ、ロバスト性をより確保できる。奇数段位置が低速側の奇数段に対応し且つ偶数段位置が高速側の偶数段に対応する場合、奇数段位置は「第n速位置」に相当し、偶数段位置は「第n+1速位置」に相当する。偶数段位置が低速側の偶数段に対応し且つ奇数段位置が高速側の奇数段に対応する場合、偶数段位置は「第n速位置」に相当し、奇数段位置は「第n+1速位置」に相当する。
図31(b)において、奇数段位置「OSP」と偶数段位置「ESP」との間の一目盛りは、回転角30°に相当する。また、シフトアップ時とシフトダウン時とではガイド軸41に対するコントロールカム軸40の回転方向が異なる。図31(c)において、コントロールカム軸40の回転方向は、シフトアップ時に時計回りであり、シフトダウン時に反時計回りである。なお、図31(b)では、コントロールカム軸40の回転方向に関して、図中下方が、シフトアップ方向に相当し、図中上方が、シフトダウン方向に相当する。また、図31(b)、(c)において、AR1は、第一領域を示し、AR2は、第二領域を示す。第一領域AR1は、コントロールカム軸40の周方向における偶数段位置ESPからシフトアップ方向へ奇数段位置OSPまで拡がる領域である。第二領域AR2は、コントロールカム軸40の周方向における偶数段位置ESPからシフトダウン方向へ奇数段位置OSPまで拡がる領域である。
カム溝42はコントロールカム40の軸線方向に変化しない周方向に一定の溝であり、係合ピン46はガイド孔44及びスライダ43によってガイド孔44に固定されている。これにより、コントロールカム軸40はガイド軸41に対して軸線方向の移動が規制されている。
カム溝42a、ガイド孔44a及び係合ピン46aは、スライダ43aをコントロールカム軸40の軸線方向に移動させることにより、「偶数段ハブ」であるハブ32aにおける偶数段加速用ポール35aの起伏を制御する。
カム溝42b、ガイド孔44b及び係合ピン46bは、スライダ43bをコントロールカム軸40の軸線方向に移動させることにより、「偶数段ハブ」であるハブ32aにおける偶数段減速用ポール35bの起伏を制御する。
カム溝42c、ガイド孔44c及び係合ピン46cは、スライダ43cをコントロールカム軸40の軸線方向に移動させることにより、「奇数段ハブ」であるハブ32bにおける奇数段加速用ポール35cの起伏を制御する。
カム溝42d、ガイド孔44d及び係合ピン46dは、スライダ43dをコントロールカム軸40の軸線方向に移動させることにより、「奇数段ハブ」であるハブ32bにおける奇数段減速用ポール35dの起伏を制御する。
ガイド軸41がコントロールカム軸40に対して相対的に回転することにより、コントロールカム軸40の径方向においてカム溝42a〜42dとガイド孔44a〜44dとが重なり合う位置が変化する。係合ピン46a〜46dは、当該重なり合う位置へ移動するように、カム溝42a〜42d及びガイド孔44a〜44dによって案内される。その結果、スライダ43a〜43dは、コントロールカム軸40の軸線方向に移動し、各ポール35a〜35dの起伏が制御される。
図31(b)において、係合ピン46a〜46dが、起立位置Enに位置する時、当該係合ピンに対応するポールは起立し、これにより、当該ポールと対応するハブと出力軸30との動力伝達が可能となる。一方、係合ピン46a〜46dが、伏倒位置Reに位置する時、当該係合ピンと対応するポールは伏倒する。この時、当該ポールと対応するハブと出力軸30との動力伝達は行われない。より詳細については、図36〜図49を用いて説明する。
次に、コントロールカム軸40のカム溝42a〜42dに対する係合ピン46a〜46dの移動経路及び移動タイミングについて、図32〜図34も参照して説明する。なお、スライダ43a〜43dは、係合ピン46a〜46dを備えており(図24参照)、係合ピン46a〜46dと共に移動する。従って、係合ピンが起立位置に移動する時、スライダも起立位置に移動する。係合ピンが伏倒位置に移動する時、スライダも伏倒位置に移動する。
<偶数段が選択されている非変速時>
偶数段が選択されている非変速時には、図32に示すように、係合ピン46a〜46dは、偶数段位置ESPに位置する。図36(g)及び図49(g)にも、係合ピン46a〜46dの位置が示されている。この時、選択された偶数段に対応する係合ピン46a、46bは、起立位置Enに位置する。選択されていない奇数段に対応する係合ピン46c、46dは、伏倒位置Reに位置する。これにより、ポール35a〜35dが偶数段状態となる。偶数段状態では、偶数段加速用ポール35a及び偶数段減速用ポール35bが起立する一方、奇数段加速用ポール35c及び奇数段減速用ポール35dが伏倒する。高速側の奇数段との間で変速が行われる場合、偶数段状態は「第n速状態」に相当する。また、低速側の奇数段との間で変速が行われる場合、偶数段状態は「第n+1速状態」に相当する。
<奇数段が選択されている非変速時>
奇数段が選択されている非変速時には、係合ピン46a〜46dは、奇数段位置OSPに位置する。図42(g)及び図43(g)にも、係合ピン46a〜46dの位置が示されている。この時、選択された奇数段に対応する係合ピン46c、46dは、起立位置Enに位置する。選択されていない偶数段に対応する係合ピン46a、46bは、伏倒位置Reに位置する。これにより、ポール35a〜35dが奇数段状態となる。奇数段状態では、奇数段加速用ポール35c及び奇数段減速用ポール35dが起立する一方、偶数段加速用ポール35a及び偶数段減速用ポール35bが伏倒する。高速側の偶数段との間で変速が行われる場合、奇数段状態は「第n速状態」に相当する。また、低速側の偶数段との間で変速が行われる場合、奇数段状態は「第n+1速状態」に相当する。
<非変速時全般>
このように、複数のカム溝42a〜42dは、奇数段が選択されている非変速時(図42及び図43参照)又は偶数段が選択されている非変速時(図36及び図49参照)のいずれにおいても、下記(I)及び(II)のように、係合ピン46a〜46dを位置させる。
(I) 複数のスライダ43a〜43d(図24参照)が、選択された変速段に対応する加速用ポール及び減速用ポールを起立させる。
(II) 複数のスライダ43a〜43d(図24参照)が、選択されていない変速段に対応する加速用ポール及び減速用ポールを伏倒させる。
<偶数段から奇数段へのシフトアップ時>
偶数段から奇数段にシフトアップする時、当該シフトアップがパワーオンアップシフト又はパワーオフアップシフトのいずれであっても、係合ピン46a〜46dは、同時に、偶数段位置ESPから、図32における下側の奇数段位置OSPへ、第一領域AR1内の経路Pa1〜Pd1を通って、図32における下方へ向けて移動する。図33にも、経路Pa1〜Pd1が示されている。係合ピン46a〜46dが経路Pa1〜Pd1を通過する過程では、下記(i)〜(iii)の順に、係合ピン46a〜46dがカム溝42a〜42dに案内される。その結果、以下のように第一ラチェット動作が実行される。
(i) 係合ピン46bが、カム溝42bの伏倒方向駆動面42b2に案内されることにより、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する(Pb1参照)。これにより、偶数段減速用ポール35bが伏倒する。なお、偶数段減速用ポール35bは、移動元の偶数段に対応している。ポール35bは、減速用であり、減速用ポール35bは、パワーオン状態において動力伝達を行わないポールである。なお、パワーオフ状態においてシフトアップする場合には、減速用ポール35bを伏倒させる前に、減速用ポール35bに一時的に動力伝達を行わせないための制御が行われる。当該制御は、例えば、エンジン11のトルクを一時的に正トルクとする制御である。前記制御により、減速用ポール35bが、動力伝達を行わないポールとなった後に、減速用ポール35bが伏倒される。前記制御は、減速用ポール35bの係合が解除された後に終了する。
(ii) 係合ピン46cが、カム溝42cの起立方向駆動面42c1に案内されることにより、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する(Pc1参照)。さらに、係合ピン46dが、カム溝42dの起立方向駆動面42d1に案内されることにより、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する(Pd1参照)。これにより、奇数段加速用ポール35c及び奇数段減速用ポール35dが起立する。なお、奇数段加速用ポール35c及び奇数段減速用ポール35dは、移動先の奇数段に対応している。
(iii) 係合ピン46aが、カム溝42aの伏倒方向駆動面42a2に案内されることにより、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する(Pa1参照)。これにより、偶数段加速用ポール35aが伏倒する。なお、偶数段加速用ポール35aは、移動元の偶数段に対応するポールのうち、上記(i)で伏倒しなかったポールである。
<奇数段から偶数段へのシフトダウン時>
奇数段から偶数段にシフトダウンする時、当該シフトダウンがパワーオンダウンシフト又はパワーオフダウンシフトのいずれであっても、係合ピン46a〜46dは、同時に、図32における下側の奇数段位置OSPから偶数段位置ESPへ、第一領域AR1内の経路Pa2〜Pd2を通って、図32における上方へ向けて移動する。図34にも、経路Pa2〜Pd2が示されている。係合ピン46a〜46dが経路Pa2〜Pd2を通過する過程では、下記(i)〜(iii)の順に、係合ピン46a〜46dがカム溝42a〜42dに案内される。その結果、以下のように第二ラチェット動作が実行される。
(i) 係合ピン46cが、カム溝42cの伏倒方向駆動面42c2に案内されることにより、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する(Pc2参照)。これにより、奇数段加速用ポール35cが伏倒する。なお、奇数段加速用ポール35cは、移動元の奇数段に対応している。ポール35cは、加速用であり、加速用ポール35cは、パワーオフ状態において動力伝達を行わないポールである。なお、パワーオン状態においてシフトダウンする場合には、加速用ポール35cを伏倒させる前に、加速用ポール35cに一時的に動力伝達を行わせないための制御が行われる。当該制御は、例えば、エンジン11のトルクを負トルクとする制御である。前記制御により、加速用ポール35cが、動力伝達を行わないポールとなった後に、加速用ポール35cが伏倒される。前記制御は、加速用ポール35cの係合が解除された後に終了する。
(ii) 係合ピン46aが、カム溝42aの起立方向駆動面42a1に案内されることにより、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する(Pa2参照)。さらに、係合ピン46bが、カム溝42bの起立方向駆動面42b1に案内されることにより、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する(Pb2参照)。これにより、偶数段加速用ポール35a及び偶数段減速用ポール35bが起立する。なお、偶数段加速用ポール35a及び偶数段減速用ポール35bは、移動先の偶数段に対応している。
(iii) 係合ピン46dが、カム溝42dの伏倒方向駆動面42d2に案内されることにより、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する(Pd2参照)。これにより、奇数段減速用ポール35dが伏倒する。なお、奇数段減速用ポール35dは、移動元の奇数段に対応するポールのうち、上記(i)で伏倒しなかったポールである。
<偶数段から奇数段へのシフトダウン時>
偶数段から奇数段にシフトダウンする時、当該シフトダウンがパワーオンダウンシフト又はパワーオフダウンシフトのいずれであっても、係合ピン46a〜46dは、同時に、偶数段位置ESPから図32における上側の奇数段位置OSPへ、第二領域AR2内の経路Pa3〜Pd3を通って、図32における上方へ向けて移動する。図34にも、経路Pa3〜Pd3が示されている。係合ピン46a〜46dが経路Pa3〜Pd3を通過する過程では、下記(i)〜(iii)の順に、係合ピン46a〜46dがカム溝42a〜42dに案内される。その結果、以下のように第二ラチェット動作が実行される。
(i) 係合ピン46aが、カム溝42aの伏倒方向駆動面42a2に案内されることにより、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する(Pa3参照)。これにより、偶数段加速用ポール35aが伏倒する。なお、偶数段加速用ポール35aは、移動元の偶数段に対応している。ポール35aは、加速用であり、加速用ポール35aは、パワーオフ状態において動力伝達を行わないポールである。なお、パワーオン状態においてシフトダウンする場合には、加速用ポール35aを伏倒させる前に、加速用ポール35aに一時的に動力伝達を行わせないための制御が行われる。当該制御は、上述した加速用ポール35cに一時的に動力伝達を行わせないための制御と同様である。
(ii) 係合ピン46cが、カム溝42cの起立方向駆動面42c1に案内されることにより、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する(Pc3参照)。さらに、係合ピン46dが、カム溝42dの起立方向駆動面42d1に案内されることにより、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する(Pd3参照)。これにより、奇数段加速用ポール35c及び奇数段減速用ポール35dが起立する。なお、奇数段加速用ポール35c及び奇数段減速用ポール35dは、移動先の奇数段に対応している。
(iii) 係合ピン46bが、カム溝42bの伏倒方向駆動面42b2に案内されることにより、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する(Pb3参照)。これにより、偶数段減速用ポール35bが伏倒する。なお、偶数段減速用ポール35bは、移動元の減速段に対応するポールのうち、上記(i)で伏倒しなかったポールである。
<奇数段から偶数段へのシフトアップ時>
奇数段から偶数段にシフトアップする時、当該シフトアップがパワーオンアップシフト又はパワーオフアップシフトのいずれであっても、係合ピン46a〜46dは、同時に、図32における上側の奇数段位置OSPから偶数段位置ESPへ、第二領域AR2内の経路Pa4〜Pd4を通って、図32における下方へ向けて移動する。図33にも、経路Pa4〜Pd4が示されている。係合ピン46a〜46dが経路Pa4〜Pd4を通過する過程では、下記(i)〜(iii)の順に、係合ピン46a〜46dがカム溝42a〜42dに案内される。その結果、以下のように第一ラチェット動作が実行される。
(i) 係合ピン46dが、カム溝42dの伏倒方向駆動面42d2に案内されることにより、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する(Pd4参照)。これにより、奇数段減速用ポール35dが伏倒する。なお、奇数段減速用ポール35dは、移動元の奇数段に対応している。ポール35dは、減速用であり、減速用ポール35dは、パワーオン状態において動力伝達を行わないポールである。なお、パワーオフ状態においてシフトアップする場合には、減速用ポール35dを伏倒させる前に、減速用ポール35dに一時的に動力伝達を行わせないための制御が行われる。当該制御は、上述した減速用ポール35bに一時的に動力伝達を行わせないための制御と同様である。
(ii) 係合ピン46aが、カム溝42aの起立方向駆動面42a1に案内されることにより、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する(Pa4参照)。さらに、係合ピン46bが、カム溝42bの起立方向駆動面42b1に案内されることにより、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する(Pb4参照)。これにより、偶数段加速用ポール35a及び偶数段減速用ポール35bが起立する。なお、偶数段加速用ポール35a及び偶数段減速用ポール35bは、移動先の偶数段に対応している。
(iii) 係合ピン46cが、カム溝42cの伏倒方向駆動面42c2に案内されることにより、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する(Pc4参照)。これにより、奇数段加速用ポール35cが伏倒する。なお、奇数段加速用ポール35cは、移動元の奇数段に対応するポールのうち、上記(i)で伏倒しなかったポールである。
<偶数段と奇数段との間での変速全般>
図32〜図34に示すように、偶数段から奇数段へのシフトアップ時における係合ピン46a〜46dの移動経路Pa1〜Pd1と、奇数段から偶数段へのシフトダウン時における係合ピン46a〜46dの移動経路Pa2〜Pd2とは、同じ第一領域AR1を通過するが、異なっている。具体的には、移動経路Pa1、Pa2が互いに異なっている。また、移動経路Pd1、Pd2が互いに異なっている。
また、図32〜図34に示すように、偶数段から奇数段へのシフトアップ時における係合ピン46a〜46dの移動経路Pa3〜Pd3と、奇数段から偶数段へのシフトダウン時における係合ピン46a〜46dの移動経路Pa4〜Pd4とは、同じ第二領域AR2を通過するが、異なっている。具体的に、移動経路Pb3、Pb4が互いに異なっている。また、移動経路Pc3、Pc4が互いに異なっている。
このように、複数のカム溝42a〜42dは、シフトアップ時とシフトダウン時とで、カム溝42a〜42dに対する係合ピン46a〜46dの移動経路を異ならせるように形成されている。これにより、シフトアップ又はシフトダウンのいずれを行う時であっても、係合ピン46a〜46dは、下記(i)〜(iii)の順序で、カム溝42a〜42dに案内される。
(i) 移動元の変速段に対応する加速用ポール及び減速用ポールのうち、動力伝達を行わないポールに対応する係合ピンが、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する。
(ii) 移動先の変速段に対応する加速用及び減速用のポールに対応する係合ピンが、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する。
(iii) 移動元の変速段に対応する加速用ポール及び減速用ポールのうち、上記(i)に係るポールと異なるポールに対応する係合ピンが、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する。
移動経路Pa1〜Pd1と、移動経路Pa2〜Pd2と、移動経路Pa3〜Pd3と、移動経路Pa4〜Pd4とは、上記(i)〜(iii)の順序で係合ピンが移動するという共通点を有する。即ち、カム溝42a〜42dは、移動経路Pa1〜Pd1と、移動経路Pa2〜Pd2と、移動経路Pa3〜Pd3と、移動経路Pa4〜Pd4とが上記共通点を有するように形成されている。
従って、ラチェット機構400は、ポールの動作順序に関して、上記(i)〜(iii)のシーケンスを、往路と復路とが異なる被ガイド部の移動経路により可能となる可逆のシーケンスとして実行できる。即ち、1つのコントロールカム軸40をシフトアップ方向又はシフトダウン方向のいずれの方向に回転させても、上記(i)〜(iii)のシーケンスを実行できる。上記(i)〜(iii)のシーケンスにより、パワーオンアップシフト及びパワーオフダウンシフトの各々をシームレスで行うことが可能である。さらに、上記(i)〜(iii)のシーケンスは、パワーオフアップシフト及びパワーオンダウンシフトにも適用され得る。従って、シフトアップ時又はシフトダウン時において、変速動作中に加速と減速とが変更された場合であっても、変速動作を継続できる。機械的な構成により、各変速パターンにおけるポールの動作順序が共通化されるので、変速動作の制御が容易になる。
<<ドグ係合機構の動作>>
図35(a)は、シフトカムを模式的に示す断面図である。図35(b)は、シフトカムが有するカム溝の形状を模式的に示す展開図である。図35(c)は、シフトカムの動作について説明するための模式図である。
図35(a)に示すシフトカム50の外周面に、図35(b)に示すカム溝52a〜52dが形成されている。図35(c)に示すように、シフトアップ時に、シフトカム50は、反時計回りに回転する。シフトダウン時に、シフトカム50は、時計回りに回転する。このように、シフトアップ時のシフトカム50の回転方向と、シフトダウン時のシフトカム50の回転方向とは、反対である。
また、図35(c)に示すように、シフトカム50の外周面には、周方向に、各変速段に対応する変速段位置が設定されている。各変速段位置は、シフトカム50の一周の回転角360度内に設けられている。各変速段位置は、シフトカム50の周方向において変速段の高低順に設けられている。上述したように、ニュートラルポジションから第6速に至る間の各変速段間の回転角は、55.38°であり、第6速とニュートラルポジションとの間の角度は27.69°である。このように、本実施形態において、各変速段位置間の角度は同じである。
図35(b)において、ニュートラルポジションから第6速に至る間の各変速段間の一目盛りは、各変速段間の回転角の1/3である。なお、同期機構150は、シフトカム50が、1つの変速段に相当する角度(55.38°)回転した時に、コントロールカム軸40が、1つの変速段に相当する角度(180°)回転するように、コントロールカム軸40へ回転を伝達させる。
図35(b)に示すように、シフトフォーク53a〜53dの各々は、シフトカム50の軸線方向に移動するように、カム溝52a〜52dによって案内される。シフトフォーク53a〜53dがシフトカム50の軸線方向に移動することにより、ドグリング33a、23a、23b、33bは、シフトカム50の軸線方向に移動する。
シフトフォーク53aがカム溝52aに沿って移動する過程において、シフトフォーク53aが「2」に位置する時、シフトフォーク53aは、ドグリング33aを、第2速被駆動ギア342のドグと噛み合わせる。シフトフォーク53aが「4」に位置する時、シフトフォーク53aは、ドグリング33aを、第4速被駆動ギア344のドグと噛み合わせる。シフトフォーク53aが、「2」と「4」との間の「N」に位置する時、ドグリング33aを、第2速被駆動ギア342又は第4速被駆動ギア344のいずれにも噛み合わせない。
シフトフォーク53bがカム溝52bに沿って移動する過程において、シフトフォーク53bが「6」に位置する時、シフトフォーク53bは、ドグリング23aを、第6速駆動ギア246のドグと噛み合わせる。シフトフォーク53bが「N」に位置する時、シフトフォーク53bは、ドグリング23aを、第6速駆動ギア246に噛み合わせない。
シフトフォーク53cがカム溝52cに沿って移動する過程において、シフトフォーク53cが「5」に位置する時、シフトフォーク53cは、ドグリング23bを、第5速駆動ギア245のドグと噛み合わせる。シフトフォーク53cが「N」に位置する時、シフトフォーク53cは、ドグリング23bを、第5速駆動ギア245に噛み合わせない。
シフトフォーク53dがカム溝52dに沿って移動する過程において、シフトフォーク53dが「1」に位置する時、シフトフォーク53dは、ドグリング33bを、第1速被駆動ギア341のドグと噛み合わせる。シフトフォーク53dが「3」に位置する時、シフトフォーク53dは、ドグリング33bを、第3速被駆動ギア343のドグと噛み合わせる。シフトフォーク53dが、「1」と「3」との間の「N」に位置する時、ドグリング33bを、第1速被駆動ギア341又は第3速被駆動ギア343のいずれにも噛み合わせない。
図35(b)において、各シフトフォーク53a〜53dが、各カム溝52a〜52dにおいて、図中下側から上方へ移動すると、以下のように、ドグ係合が行われる。
各シフトフォーク53a〜53dがニュートラルポジションに位置する時、シフトフォーク53a〜53dは、「N」に位置する。各シフトフォーク53a〜53dがニュートラルポジションから第1速の変速段位置に移動する時、シフトフォーク53dは、「1」に移動することにより、ドグリング33bを、第1速被駆動ギア341と係合させる。各シフトフォーク53a〜53dが第1速の変速段位置に位置する時、シフトフォーク53dは、「1」に位置し、ドグリング33bは、第1速被駆動ギア341と係合する。
各シフトフォーク53a〜53dが第1速の変速段位置から第2速の変速段位置に移動する時、シフトフォーク53aは、「N」から「2」に移動することにより、ドグリング33aを、第2速被駆動ギア342と係合させる。さらに、シフトフォーク53dは、「1」から「N」に移動することにより、ドグリング33bと第1速被駆動ギア341との係合を解除する。図35(b)に示すように、第1速から第2速への変速時に、ドグリング33bと第1速被駆動ギア341とが係合し且つドグリング33aと第2速被駆動ギア342とが係合する期間が存在する。
各シフトフォーク53a〜53dが第2速の変速段位置に位置する時、シフトフォーク53aは、「2」に位置し、ドグリング33aは、第2速被駆動ギア342と係合する。
各シフトフォーク53a〜53dが第2速の変速段位置から第3速の変速段位置に移動する時、シフトフォーク53dは、「N」から「3」に移動することにより、ドグリング33bを、第3速被駆動ギア343と係合させる。さらに、シフトフォーク53aは、「2」から「N」に移動することにより、ドグリング33aと第2速被駆動ギア342との係合を解除する。図35(b)に示すように、第2速から第3速への変速時に、ドグリング33aと第2速被駆動ギア342とが係合し且つドグリング33bと第3速被駆動ギア343とが係合する期間が存在する。
各シフトフォーク53a〜53dが第3速の変速段位置に位置する時、シフトフォーク53dは、「3」に位置し、ドグリング33bは、第3速被駆動ギア343と係合する。
各シフトフォーク53a〜53dが第3速の変速段位置から第4速の変速段位置に移動する時、シフトフォーク53aは、「N」から「4」に移動することにより、ドグリング33aを、第4速被駆動ギア344と係合する。さらに、シフトフォーク53dは、「3」から「N」に移動することにより、ドグリング33bと第3速被駆動ギア343との係合を解除する。図35(b)に示すように、第3速から第4速への変速時に、ドグリング33bと第3速被駆動ギア343とが係合し且つドグリング33aと第4速被駆動ギア344とが係合する期間が存在する。
各シフトフォーク53a〜53dが第4速の変速段位置に位置する時、シフトフォーク53aは、「4」に位置し、ドグリング33aは、第4速被駆動ギア344と係合する。
各シフトフォーク53a〜53dが第4速の変速段位置から第5速の変速段位置に移動する時、シフトフォーク53cは、「N」から「5」に移動することにより、ドグリング23bを、第5速駆動ギア245と係合する。さらに、シフトフォーク53aは、「4」から「N」に移動することにより、ドグリング33aと第4速被駆動ギア344との係合を解除する。図35(b)に示すように、第4速から第5速への変速時に、ドグリング33aと第4速被駆動ギア344とが係合し且つドグリング23bと第5速駆動ギア245とが係合する期間が存在する。
各シフトフォーク53a〜53dが第5速の変速段位置に位置する時、シフトフォーク53cは、「5」に位置し、ドグリング23bは、第5速駆動ギア245と係合する。
各シフトフォーク53a〜53dが第5速の変速段位置から第6速の変速段位置に移動する時、シフトフォーク53bは、「N」から「6」に移動することにより、ドグリング23aを、第6速駆動ギア246と係合する。さらに、シフトフォーク53cは、「5」から「N」に移動することにより、ドグリング23bと第5速駆動ギア245との係合を解除する。図35(b)に示すように、第5速から第6速への変速時に、ドグリング23bと第5速駆動ギア245とが係合し且つドグリング23aと第6速駆動ギア246とが係合する期間が存在する。
各シフトフォーク53a〜53dが第6速の変速段位置に位置する時、シフトフォーク53bは、「6」に位置し、ドグリング23aは、第6速駆動ギア246と係合する。
このように、ドグ係合機構70は、シフトカム50に形成されたカム溝52a〜52dの形状と、シフトカム50の位相角度とによって、奇数段及び偶数段の各々において動力伝達を有効にする変速段を順次的に設定するように構成されている。
図31(a)〜(c)及び図35(a)〜(c)に示すように、ドグ係合機構70の動作と、ラチェット機構400における各ポール35a〜35dの起伏との各々が、シフトカム50及びコントロールカム軸40という機械要素によって、機械的に制御される。
さらに、上述したように、ドグ係合機構70では、各シフトフォーク53a〜53dが変速元の変速段位置から変速先の変速段位置へ移動する時、変速元の変速段に係る駆動ギア又は被駆動ギアに対するドグ係合と、変速先の変速段に係る駆動ギア又は被駆動ギアに対するドグ係合との両方を行う期間が生じる。この期間では、一つの奇数段及び一つの偶数段に係る、二つの変速段の相対回転が規制されている。即ち、ドグ係合機構70は、変速時においては、同時に、最大で、一つの奇数段及び一つの偶数段に係る、二つの変速段の相対回転を規制する。
<<ドグ係合機構及びラチェット機構の動作>>
次に、図36(a)〜図49(h)を参照して、ドグ係合機構70及びラチェット機構400の動作について説明する。具体的には、パワーオン状態で第2速から第3速へシフトアップした後に、パワーオフ状態で第3速から第2速へシフトダウンする過程におけるドグ係合機構70及びラチェット機構400の動作について説明する。この例では、第2速が「第n速」に相当し、第3速が「第n+1速」に相当する。ここでは、図50(a)〜図51(b)も参照される。
図36(a)〜図49(h)において、(a)が付された図面は、変速装置の断面図を示す。変速装置の断面図は、図20〜図22にも示されており、各構成の符号は、図20〜図22に付されているので、ここでの符号は省略されている。また、(b)が付された図面は、インデックスカム130の星型部130bを示している。インデックスカム130の星型部130bは、図13(a)等にも示されており、各構成の符号は、図13(a)等に付されているので、ここでの符号は省略されている。
また、(c)〜(f)が付された図面は、それぞれラチェット機構400を模式的に示す断面図である。(c)が付された図面は、偶数段加速用ポール35aを含む位置での断面図である。(d)が付された図面は、奇数段加速用ポール35cを含む位置での断面図である。(e)が付された図面は、偶数段減速用ポール35bを含む位置での断面図である。(f)が付された図面は、奇数段減速用ポール35dを含む位置での断面図である。(g)が付された図面は、カム溝42、42a〜42dとガイド孔44、44a〜44dと係合ピン46、46a〜46bとの位置関係を示す。(h)が付された図面は、カム溝52a〜52dとシフトフォーク53a〜53dとの位置関係を示す。
なお、図36(a)〜図49(h)において、同じ数が付された図面は、同じ瞬間での状態を示す。また、図36(a)〜図49(h)では、第2速から第3速への変速過程、及び第3速から第2速への変速過程が、それぞれ0段階〜6段階の7つに分けて示されている。
パワーオン状態における第2速から第3速への変速過程の0段階では、図36(b)に示すように、インデックスカム130の位相が、ボール140により「2」に保持されている。この時、図36(g)に示すように、係合ピン46a〜46dの各々が、周方向(図中上下方向)において、カム溝42a〜42dの偶数段位置ESPに位置する。この例では、偶数段位置が「第n速位置」に相当する。軸線方向(図中左右方向)において、係合ピン46a、46bは、起立位置Enに位置し、係合ピン46c、46dは、伏倒位置Reに位置する。従って、図36(c)及び図36(e)に示すように、偶数段加速用ポール35a及び偶数段減速用ポール35bは、起立している。図36(d)及び図36(f)に示すように、奇数段加速用ポール35c及び奇数段減速用ポール35dは、伏倒されている。この例では、図36(c)〜(f)に示される各ポール35a〜35dの状態が「第n速状態」に相当する。
また、図36(h)に示すように、シフトフォーク53a〜53dの各々が、周方向(図中上下方向)において、カム溝52a〜52dの「2」に位置する。軸線方向(図中左右方向)において、シフトフォーク53aは、「2」に位置し、シフトフォーク53b〜53dは、「N」に位置する。従って、図36(a)に示すように、シフトフォーク53aは、ドグリング33aを、第2速被駆動ギア342のドグと噛み合わせている。一方、シフトフォーク53b〜53dは、ドグリング23a、23b、33bを、いずれのギアのドグにも噛み合わせていない。
パワーオン状態における第2速から第3速への変速過程の0段階では、入力軸20へ入力された回転力が、第2速駆動ギア242と、ドグリング33aと噛み合っている第2速被駆動ギア342とを介して、偶数段ハブ32aに伝達される。偶数段ハブ32aは、出力軸30に設けられている、起立した偶数段加速用ポール35aと係合している。これにより、偶数段ハブ32aに伝達された回転力(トルク)が、出力軸30に伝達される。
パワーオン状態における第2速から第3速への変速過程の0段階から、1〜5段階を経て、6段階へ至る過程では、図37(b)、図38(b)、図39(b)、図40(b)、図41(b)及び図42(b)に示すように、インデックスカム130の位相が「2」から「3」へ移動する。この時、図37(g)、図38(g)、図39(g)、図40(g)、図41(g)及び図42(g)に示すように、係合ピン46a〜46dの各々が、周方向において、カム溝42a〜42dの偶数段位置ESPから奇数段位置OSPに移動する。その移動過程において、0段階から2段階まで、係合ピン46a〜46dは、上述した0段階時の状態を維持する。2段階から3段階で、係合ピン46bは、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する。3段階から4段階で、係合ピン46cは、伏倒位置Reから起立位置Enに移動し、係合ピン46dは、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する。4段階から5段階で、係合ピン46aは、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する。
また、図37(h)、図38(h)、図39(h)、図40(h)、図41(h)及び図42(h)に示すように、シフトフォーク53a〜53dの各々が、周方向において、カム溝52a〜52dの「2」から「3」に移動する。その移動過程において、0段階から2段階で、シフトフォーク53dは、軸線方向において「N」から「3」に移動する。4段階から6段階で、シフトフォーク53aは、軸線方向において「2」から「N」に移動する。なお、シフトフォーク53b、53cは、「N」に保持される。
従って、図50(a)及び図51(a)にも示されるように、第2速から第3速へのシフトアップ過程では、先ず、0段階から2段階で、シフトフォーク53dが、ドグリング33bを、第3速被駆動ギア343のドグに噛み合わせる。これにより、変速先の変速段(第3速)に係るドグが係合する。次に、2段階から3段階で、変速元の変速段(第2速)に係る偶数段減速用ポール35bが伏倒される。次に、3段階から4段階で、変速先の変速段(第3速)に係る奇数段加速用ポール35c及び奇数段減速用ポール35dが起立する。次に、4段階から5段階で、変速元の変速段(第2速)に係る偶数段加速用ポール35aが伏倒される。また、4段階から6段階で、シフトフォーク53aが、ドグリング33aを、第2速被駆動ギア342のドグから外す。これにより、変速元の変速段(第2速)に係るドグの係合が解除される。これにより、第2速から第3速への変速が完了する。
即ち、図50(a)及び図51(a)に示されるように、偶数段から奇数段へシフトアップする時、先ず、ドグ係合機構70は、奇数段に係るギアの相対回転をドグ係合により規制する(ステップS1)。次に、ラチェット機構400は、第一ラチェット動作を実行する(ステップS2)。次に、ドグ係合機構70は、偶数段に係る相対回転を規制するドグ係合を解除する(ステップS3)。
第3速から第2速への変速過程の0段階は、図43(a)〜図43(h)に示されている。なお、パワーオフ状態における第3速から第2速への変速過程の0段階は、図42(a)〜図42(h)に示される、第2速から第3速への変速過程の6段階と同じである。この状態では、図43(b)に示すように、インデックスカム130の位相が、ボール140により「3」に保持されている。この時、図43(g)に示すように、係合ピン46a〜46dの各々が、周方向(図中上下方向)において、カム溝42a〜42dの偶数段位置OSPに位置する。この例では、奇数段位置が「第n+1速位置」に相当する。軸線方向(図中左右方向)において、係合ピン46a、46bは、伏倒位置Reに位置し、係合ピン46c、46dは、起立位置Enに位置する。
従って、図43(d)及び図43(f)に示すように、奇数段加速用ポール35c及び奇数段減速用ポール35dは、起立している。図43(c)及び図43(e)に示すように、偶数段加速用ポール35a及び偶数段減速用ポール35bは、伏倒されている。この例では、図43(c)〜(f)に示される各ポール35a〜35dの状態が「第n+1速状態」に相当する。
また、図43(h)に示すように、シフトフォーク53a〜53dの各々が、周方向(図中上下方向)において、カム溝52a〜52dの「3」に位置する。軸線方向(図中左右方向)において、シフトフォーク53dは、「3」に位置し、シフトフォーク53a〜53cは、「N」に位置する。従って、図43(a)に示すように、シフトフォーク53dは、ドグリング33bを、第3速被駆動ギア343のドグと噛み合わせている。しかし、シフトフォーク53a〜53cは、ドグリング33a、23a、23bを、いずれのギアのドグにも噛み合わせていない。
パワーオフ状態における第3速から第2速への変速過程の0段階では、入力軸20へ入力された回転力が、第3速駆動ギア243と、ドグリング33bと噛み合っている第3速被駆動ギア343とを介して、奇数段ハブ32bに伝達される。奇数段ハブ32bは、出力軸30に設けられ、且つ起立した奇数段減速用ポール35dと係合している。これにより、奇数段ハブ32bに伝達された回転力が、出力軸30に伝達される。
パワーオフ状態における第3速から第2速への変速過程の0段階から、1〜5段階を経て、6段階へ至る過程では、図44(b)、図45(b)、図46(b)、図47(b)、図48(b)及び図49(b)に示すように、インデックスカム130の位相が「3」から「2」へ移動する。この時、図44(g)、図45(g)、図46(g)、図47(g)、図48(g)及び図49(g)に示すように、係合ピン46a〜46dの各々が、周方向において、カム溝42a〜42dの奇数段位置OSPから偶数段位置ESPに移動する。その移動過程において、0段階から2段階まで、係合ピン46a〜46dは、上述した0段階時の状態を維持する。2段階から3段階で、係合ピン46cは、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する。3段階から4段階で、係合ピン46a、46bは、伏倒位置Reから起立位置Enに移動する。4段階から5段階で、係合ピン46dは、起立位置Enから伏倒位置Reに移動する。
また、図44(h)、図45(h)、図46(h)、図47(h)、図48(h)及び図49(h)に示すように、シフトフォーク53a〜53dの各々が、周方向において、カム溝52a〜52dの「3」から「2」に移動する。その移動過程において、0段階から2段階で、シフトフォーク53aは、軸線方向において「N」から「2」に移動する。4段階から6段階で、シフトフォーク53aは、軸線方向において「3」から「N」に移動する。なお、シフトフォーク53b、53cは、「N」に保持される。
従って、図50(b)及び図51(b)にも示されるように、第3速から第2速へのシフトダウン過程では、先ず、0段階から2段階で、シフトフォーク53aが、ドグリング33aを、第2速被駆動ギア342のドグに噛み合わせる。これにより、変速先の変速段(第2速)に係るドグが係合する。次に、2段階から3段階で、変速元の変速段(第3速)に係る奇数段加速用ポール35cが伏倒される。次に、3段階から4段階で、変速先の変速段(第2速)に係る偶数段加速用ポール35a及び偶数段減速用ポール35bが起立する。次に、4段階から5段階で、変速元の変速段(第3速)に係る奇数段減速用ポール35dが伏倒される。また、4段階から6段階で、シフトフォーク53dが、ドグリング33bを、第3速被駆動ギア343のドグから外す。これにより、変速元の変速段(第3速)に係るドグの係合が解除される。これにより、第3速から第2速への変速が完了する。
即ち、図50(b)及び図51(b)に示されるように、奇数段から偶数段へシフトダウンする時、先ず、ドグ係合機構70は、偶数段に係るギアの相対回転をドグ係合により規制する(ステップS1)。次に、ラチェット機構400は、第二ラチェット動作を実行する(ステップS2)。次に、ドグ係合機構70は、奇数段に係る相対回転を規制するドグ係合を解除する(ステップS3)。
なお、上述した例では、第2速から第3速へのシフトアップと、第3速から第2速へのシフトダウンとについて説明したが、他の変速段に係るシフトアップ及びシフトダウンについても、対応する機構及び部材により同様に行われる。奇数段から偶数段へシフトアップする時、先ず、ドグ係合機構70は、奇数段に係るギアの相対回転をドグ係合により規制し、次に、ラチェット機構400は、第一ラチェット動作を実行し、次に、ドグ係合機構70は、奇数段に係る相対回転を規制するドグ係合を解除する。また、偶数段から奇数段へシフトダウンする時、先ず、ドグ係合機構70は、偶数段に係るギアの相対回転をドグ係合により規制し、次に、ラチェット機構400は、第二ラチェット動作を実行し、次に、ドグ係合機構70は、奇数段に係る相対回転を規制するドグ係合を解除する。
このように、変速装置13では、図50(a)、(b)及び図51(a)、(b)に示すように、ラチェット機構400及びドグ係合機構70が、ドグ係合による、変速先の変速段に係るギアの相対回転の規制(ステップS1)、第一ラチェット動作又は第二ラチェット動作(ステップS2)、変速元の変速段に係る相対回転を規制するドグ係合の解除(ステップS3)の順に動作する。動作順序が共通化されているので、シフトアップ時における変速パターンの変更、及びシフトダウン時における変速パターンの変更が可能である。また、ドグ係合機構70及びラチェット機構400の動作順序が共通化されているので、変速装置13は、構造の複雑化を抑制しつつ、全変速パターンに対応できる。なお、図50(a)、(b)及び図51(a)、(b)において、太線は、動力伝達を行っているポールを示す。図50(a)、(b)に示すように、パワーオンアップシフトとパワーオフダウンシフトとが、シームレスで実行される。また、図51(a)に示すように、パワーオフアップシフトが、図50(a)に示されるパワーオンアップシフトと同じシーケンスで実行される。さらに、図51(b)に示すように、パワーオンダウンシフトが、図50(b)に示されるパワーオフダウンシフトと同じシーケンスで実行される。
本実施形態では、ステップS2が完了する前に、ステップS3が開始されているが、この例も、ステップS2、S3の順に動作が行われていることに該当する。このように、ステップS1〜S3については、ステップS1が完了する前にステップS2を開始してもよく、ステップS2が完了する前にステップS3を開始してもよい。また、ステップS2における第一及び第二ラチェット動作には、変速先の変速段に係る加速用ポール及び減速用ポールを起立させる動作が含まれている。この動作よりも先に、ステップS1に係るドグ係合機構70の動作が完了する。また、この動作よりも後に、ステップS3に係るドグ係合機構70の動作が開始される。
<変速装置全体における動力伝達>
次に、図52〜図58を参照して、変速装置13全体としての構成及び動作について説明する。
図52に示すように、変速装置13は、入力軸20と、複数の駆動ギア241〜246と、出力軸30と、奇数段ハブ32b及び偶数段ハブ32aと、複数の奇数段被駆動ギア341、343、345と、複数の偶数段被駆動ギア342、344、346と、ドグ係合機構70と、ラチェット機構400とを備える。さらに、本実施形態の変速装置13は、シフト機構80と、同期機構150とを備える。
変速装置13にシフト操作SOが入力されると、シフト操作SOは、ドグ係合機構70に伝達される。これにより、ドグ係合機構70が、ドグリング23a、23b、33a、33bを移動させる。ドグ係合機構70は、いずれか1つの変速段に対応する駆動ギア及び被駆動ギアを介して入力軸20からハブ32a又は32bまでの動力伝達を有効に設定する。ラチェット機構400は、ハブ32a又は32bから出力軸30までの動力伝達を有効に設定する。
また、同期機構150は、シフト機構80に入力されたシフト操作SOを、ラチェット機構400に伝達する。これにより、ラチェット機構400が有するポール35a〜35dが、起立又は伏倒する。同期機構150は、入力されたシフト操作SOに応じた変速を行うように、ラチェット機構400とドグ係合機構70とを協調して動作させる。
<ニュートラル>
図52は、ニュートラルポジションが選択されている時の変速装置13における動力伝達を示す。
入力軸20と第1速駆動ギア241とは共に回転するが、第1速被駆動ギア341とハブ32bとの相対回転は規制されない。従って、入力軸20の回転は、ハブ32bに伝達されない。入力軸20と第2速駆動ギア242とは共に回転するが、第2速被駆動ギア342とハブ32aとの相対回転は規制されない。従って、入力軸20の回転は、ハブ32aに伝達されない。入力軸20と第3速駆動ギア243とは共に回転するが、第3速被駆動ギア343とハブ32bとの相対回転は規制されない。従って、入力軸20の回転は、ハブ32bに伝達されない。入力軸20と第4速駆動ギア244とは共に回転するが、第4速被駆動ギア344とハブ32aとの相対回転は規制されない。従って、入力軸20の回転は、ハブ32aに伝達されない。
入力軸20と第5速駆動ギア245との相対回転は規制されない。従って、入力軸20の回転は、第5速駆動ギア245、第5速被駆動ギア345及びハブ32bに伝達されない。入力軸20と第6速駆動ギア246との相対回転は規制されない。従って、入力軸20の回転は、第6速駆動ギア246、第6速被駆動ギア346及びハブ32aに伝達されない。このように、ニュートラルポジションが選択されている時、入力軸20の回転は、ハブ32a又は32bのいずれにも伝達されない。
また、ラチェット機構400において、偶数段に係るポール35a、35bが起立することにより、ハブ32aと出力軸30との動力伝達が有効に設定され、奇数段に係るポール35c、35dが伏倒することにより、ハブ32bと出力軸30との動力伝達が有効に設定されない。このように、ラチェット機構400は、変速段をニュートラルポジションに設定するための変速動作として、変速段を偶数段に設定するための変速動作を行う。但し、上述したように、ニュートラルポジションが選択されている時には、入力軸20の回転が、ハブ32a又はハブ32bのいずれにも伝達されないので、結果として、出力軸30に、入力軸20の回転は伝達されない。ラチェット機構400は、変速段を奇数段又は偶数段に設定するための変速動作を行う機械的機構に加えて、変速段をニュートラルポジションに設定するための変速操作を行う機械的機構を備える必要がない。これにより、構造の複雑さが低減され得る。
次に、第1速〜第6速が選択された時の動力伝達について説明するが、ここでは、ニュートラルポジションが選択された時の動力伝達との相違について主に説明する。なお、図53〜図58において、太線の矢印は、動力が伝達される経路を模式的に示す。また、図中では、ハブ32aと出力軸30との間の動力伝達経路として、ポール35a、35bが示されているが、これは、加速時に、ポール35aを介した動力伝達が行われ、減速時に、ポール35bを介した動力伝達が行われることを意味する。同様に、ハブ32bと出力軸30と間の動力伝達経路として、ポール35c、35dが示されているが、これは、加速時に、ポール35cを介した動力伝達が行われ、減速時に、ポール35dを介した動力伝達が行われることを意味する。
<第1速>
第1速が選択されている時には、図53に示すように、入力軸20と第1速駆動ギア241とが共に回転し、且つ第1速被駆動ギア341とハブ32bとの相対回転がドグリング33bにより規制される。従って、入力軸20の回転が、ハブ32bに伝達される。また、ラチェット機構400において、偶数段に係るポール35a、35bが伏倒することにより、ハブ32aと出力軸30との動力伝達が有効に設定されず、奇数段に係るポール35c、35dが起立することにより、ハブ32bと出力軸30との動力伝達が有効に設定される。その結果、入力軸20の回転が、第1速駆動ギア241と第1速被駆動ギア341と奇数段ハブ32bとを介して、出力軸30に伝達される。
<第2速>
第2速が選択されている時には、図54に示すように、入力軸20と第2速駆動ギア242とが共に回転し、且つ第2速被駆動ギア342とハブ32aとの相対回転がドグリング33aにより規制される。従って、入力軸20の回転が、ハブ32aに伝達される。また、ラチェット機構400において、偶数段に係るポール35a、35bが起立することにより、ハブ32aと出力軸30との動力伝達が有効に設定され、奇数段に係るポール35c、35dが伏倒することにより、ハブ32bと出力軸30との動力伝達が有効に設定されない。その結果、入力軸20の回転が、第2速駆動ギア242と第2速被駆動ギア342と偶数段ハブ32aとを介して、出力軸30に伝達される。
<第3速>
第3速が選択されている時には、図55に示すように、入力軸20と第3速駆動ギア243とが共に回転し、且つ第3速被駆動ギア343とハブ32bとの相対回転がドグリング33bにより規制される。従って、入力軸20の回転が、ハブ32bに伝達される。また、ラチェット機構400において、偶数段に係るポール35a、35bが伏倒することにより、ハブ32aと出力軸30との動力伝達が有効に設定されず、奇数段に係るポール35c、35dが起立することにより、ハブ32bと出力軸30との動力伝達が有効に設定される。その結果、入力軸20の回転が、第3速駆動ギア243と第3速被駆動ギア343と奇数段ハブ32bとを介して、出力軸30に伝達される。
<第4速>
第4速が選択されている時には、図56に示すように、入力軸20と第4速駆動ギア244とが共に回転し、且つ第4速被駆動ギア344とハブ32aとの相対回転がドグリング33aにより規制される。従って、入力軸20の回転が、ハブ32aに伝達される。また、ラチェット機構400において、偶数段に係るポール35a、35bが起立することにより、ハブ32aと出力軸30との動力伝達が有効に設定され、奇数段に係るポール35c、35dが伏倒することにより、ハブ32bと出力軸30との動力伝達が有効に設定されない。その結果、入力軸20の回転が、第4速駆動ギア244と第4速被駆動ギア344と偶数段ハブ32aとを介して、出力軸30に伝達される。
<第5速>
第5速が選択されている時には、図57に示すように、入力軸20と第5速駆動ギア245との相対回転がドグリング23bにより規制され、且つ第5速被駆動ギア345とハブ32bとが共に回転する。従って、入力軸20の回転が、ハブ32bに伝達される。また、ラチェット機構400において、偶数段に係るポール35a、35bが伏倒することにより、ハブ32aと出力軸30との動力伝達が有効に設定されず、奇数段に係るポール35c、35dが起立することにより、ハブ32bと出力軸30との動力伝達が有効に設定される。その結果、入力軸20の回転が、第5速駆動ギア245と第5速被駆動ギア345と奇数段ハブ32bとを介して、出力軸30に伝達される。
<第6速>
第6速が選択されている時には、図58に示すように、入力軸20と第6速駆動ギア246との相対回転がドグリング23aにより規制され、且つ第6速被駆動ギア346とハブ32aとが共に回転する。従って、入力軸20の回転が、ハブ32aに伝達される。また、ラチェット機構400において、偶数段に係るポール35a、35bが起立することにより、ハブ32aと出力軸30との動力伝達が有効に設定され、奇数段に係るポール35c、35dが伏倒することにより、ハブ32bと出力軸30との動力伝達が有効に設定されない。その結果、入力軸20の回転が、第6速駆動ギア246と第6速被駆動ギア346と偶数段ハブ32aとを介して、出力軸30に伝達される。
本実施形態の変速装置13は、5つ以上の変速段を有しているが、上述したように、加減速に係る4種類のポール35a〜35dを有するラチェット機構400と、ドグ係合機構70とにより、パワーオンアップシフト及びパワーオフダウンシフトをシームレスで行うとともに、パワーオンアップシフト及びパワーオフダウンシフトと同じシーケンスで、パワーオンダウンシフト及びパワーオフアップシフトを実現できる。従って、入力軸20内の部品点数が低減され得るとともに、入力軸20内の構造の複雑さが低減され得る。その結果、変速装置13全体としての大型化が抑制されつつ、入力軸20内の部品の大きさが確保され易い。よって、変速装置13によれば、全変速パターンへの対応と、車両搭載性の確保と、構造の複雑さの低減とを満足させることができる。構造の複雑さが低減されるので、製造過程の煩雑さの抑制と、ロバスト性の確保とが実現され得る。
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されない。
本実施形態では、複数の駆動ギア241〜246及び被駆動ギア341〜346が、以下のように構成されている。第1速被駆動ギア341及び第3速被駆動ギア343の各々とハブ32bとの相対回転が可能である。第2速被駆動ギア342及び第4速被駆動ギア344の各々とハブ32aとの相対回転が可能である。第5速駆動ギア245と入力軸20との相対回転が可能である。第6速駆動ギア246と入力軸20との相対回転が可能である。また、ドグ係合機構70は、これらの相対回転の各々をドグ係合により個別に規制できるように構成されている。しかし、各変速段において、駆動ギアと入力軸とが相対回転可能となるか、又は被駆動ギアとハブ(奇数段ハブ若しくは偶数段ハブ)とが相対回転可能となるかについては、本実施形態の例に限定されない。本発明は、例えば、図59に示される構成を採用することも可能である。
図59は、第二実施形態に係る変速装置を模式的に示す説明図である。なお、図59においては、上述した第一実施形態の変速装置が備える構成と同一の構成又は対応する構成には、上述した第一実施形態において付された符号と同じ符号が付されている。また、以下においては、上述した第一実施形態との相違点について、主に説明する。
図59に示す実施形態では、複数の駆動ギア241〜246及び被駆動ギア341〜346が、以下のように構成されている。第1速被駆動ギア341及び第3速被駆動ギア343の各々とハブ32bとの相対回転が可能である。第2速被駆動ギア342及び第4速被駆動ギア344の各々とハブ32aとの相対回転が可能である。第5速被駆動ギア345とハブ32bとの相対回転が可能である。第6速被駆動ギア346とハブ32aとの相対回転が可能である。また、ドグ係合機構70は、これらの相対回転の各々をドグ係合により個別に規制できるように構成されている。図59に示すように、変速装置は、駆動ギアと入力軸とが相対回転可能となる変速段を有しておらず、被駆動ギアとハブとが相対回転可能となる変速段を有している。
上述した各実施形態では、ドグリング33a、33bの各々が、二つの変速段に係るギアの相対回転をドグ係合により選択的に規制可能である。また、ドグリング23a、23bの各々が、一つの変速段に係るギアの相対回転をドグ係合により規制可能である。但し、本発明において、各ドグリングが、どの変速段に係るギアの相対回転を規制するかについては、特に限定されない。また、シフトフォークについても、各シフトフォークが、どの変速段に係るギアの相対回転を規制するかについては、特に限定されない。また、上述した実施形態では、2本のフォークガイド軸が設けられているが、本発明において、フォークガイド軸の本数は、1本であってもよく、特に限定されない。
第一実施形態及び第二実施形態の変速装置では、変速段設定機構が、ドグ係合機構と、ラチェット機構とを備えている。また、被駆動ギアと出力軸との間に、ハブが設けられている。入力軸から出力軸までの動力伝達経路は、「入力軸」→「駆動ギアのうちいずれか1つ」→「その駆動ギアに対応する被駆動ギア」→「その被駆動ギアに対応するハブ」→「出力軸」である。駆動ギアが入力軸と共に回転するように構成された変速段では、被駆動ギアがハブと相対回転可能であるように構成されている。また、駆動ギアが入力軸と相対回転可能であるように構成された変速段では、被駆動ギアがハブと共に回転するように構成されている。ドグ係合機構は、選択された変速段について、入力軸と駆動ギアとの相対回転、又は被駆動ギアとハブとの相対回転のいずれか一方を規制する。これにより、ドグ係合機構は、いずれか1つの変速段が選択されている非変速時、「入力軸」→「選択された変速段に対応する駆動ギア」→「選択された変速段に対応する被駆動ギア」→「その被駆動ギアに対応するハブ」の経路における動力伝達を有効に設定する。一方、ラチェット機構は、「その被駆動ギアに対応するハブ」→「出力軸」の経路における動力伝達を有効に規制する。このように、第一実施形態及び第二実施形態では、変速段設定機構が、ラチェット機構以外の動力伝達機構として、ドグ係合機構を備えている。ドグ係合機構は、前記ラチェット機構以外の動力伝達機構の一例である。前記ラチェット機構以外の動力伝達機構は、ドグ係合機構に限定されない。また、変速段設定機構は、必ずしも、前記ラチェット機構以外の動力伝達機構を備えていなくてもよい。本発明は、例えば、図60〜図68に示される構成を採用することも可能である。
図60は、第三実施形態に係る変速装置を模式的に示す説明図である。なお、第三実施形態に係る図60〜図68においては、第一及び第二実施形態の変速装置が備える構成と同一の構成又は対応する構成には、第一及び第二実施形態において付された符号と同一の符号が付されている。また、以下においては、第一及び第二実施形態との相違点について、主に説明する。
第三実施形態に係る変速装置13では、複数の駆動ギア241〜246が、入力軸20と共に回転するように入力軸20に設けられている。また、複数の被駆動ギア341〜346の各々が、出力軸30と相対回転可能であるように出力軸30に設けられている。第三実施形態に係る変速装置13は、第一及び第二実施形態と異なっており、被駆動ギア341〜346と出力軸30との間に、ハブを備えていない。
出力軸30には、ラチェット機構400が設けられている。ラチェット機構400は、各被駆動ギア341〜346に対応する加速用ポール3501a〜3506aと減速用ポール3501b〜3506bとを備えている。
被駆動ギア341に関し、加速用ポール3501aは、起立時に出力軸30と第1速被駆動ギア341との間の動力伝達経路で加速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しないように、搖動可能に構成されている。減速用ポール3501bは、起立時に出力軸30と第1速被駆動ギア341との間の動力伝達経路で減速する向きの動力を伝達する一方、伏倒時に動力を伝達しないように、搖動可能に構成されている。図60では、第1速被駆動ギア341に係る加速用ポール3501aと減速用ポール3501bとが、出力軸30の軸線方向において互いに異なる位置に配置されているが、本発明は、この例に限定されない。他の被駆動ギア342〜346に設けられる加速用ポール3502a〜3506aと減速用ポール3502b〜3506bとについても同様である。なお、図60に係る変速装置13が備えるロータリーカムでは、外周面における周方向に、各変速段(ニュートラルポジション及び第1速〜第6速)に対応する変速段位置が設定される。
次に、図61〜図68を参照して、第三実施形態に係る変速装置13におけるラチェット機構400の動作について説明する。具体的には、第2速と第3速との間での変速時におけるラチェット機構400の動作について説明する。太線の矢印は、動力が伝達される経路を模式的に示す。
第2速が選択されている非変速時では、図61に示すように、第2速に係る加速用ポール3502a及び減速用ポール3502bが起立している。一方、第3速に係る加速用ポール3503a及び減速用ポール3503bは伏倒している。他の変速段に係る加速用ポール及び減速用ポールも伏倒している。入力軸20の回転が、第2速の駆動ギア242及び被駆動ギア342を介して出力軸30に伝達される。なお、図中では、ポール3502a、3502bの両方が、被駆動ギア342から出力軸30への動力伝達経路として示されているが、これは、加速時に、ポール3502aを介した動力伝達が行われ、減速時に、ポール3502bを介した動力伝達が行われることを意味する。
加速時に第2速から第3速へ変速される過程では、先ず、図62に示すように、第2速に係る加速用ポール3502aが起立した状態で、減速用ポール3502bが伏倒する。第3速に係る加速用ポール3503a及び減速用ポール3503bは伏倒している。他の変速段に係る加速用ポール及び減速用ポールも伏倒している。入力軸20の回転が、駆動ギア242及び被駆動ギア342と加速用ポール3502aとを介して、出力軸30に伝達される。
次に、図63に示すように、第3速に係る加速用ポール3503a及び減速用ポール3503bが起立する。これにより、動力伝達経路が切り替わり、加速中における入力軸20の回転は、駆動ギア243及び被駆動ギア343と加速用ポール3503aとを介して、出力軸30に伝達される。
最後に、図64に示すように、第2速に係る加速用ポール3502aが伏倒する。これにより、第3速に係るポール3503a、3503bが起立した状態となり、第2速に係るポール3502a、3502bが伏倒した状態となる。第2速から第3速への変速が完了する。
第3速が選択されている非変速時では、図65に示すように、第3速に係る加速用ポール3503a及び減速用ポール3503bが起立している。一方、第2速に係る加速用ポール3502a及び減速用ポール3502bが伏倒している。他の変速段に係る加速用ポール及び減速用ポールも伏倒している。入力軸20の回転は、第3速の駆動ギア243及び被駆動ギア343を介して出力軸30に伝達される。なお、図中では、ポール3503a、3503bの両方が、被駆動ギア343から出力軸30への動力伝達経路として示されているが、これは、加速時に、ポール3503aを介した動力伝達が行われ、減速時に、ポール3503bを介した動力伝達が行われることを意味する。
減速時に第3速から第2速へ変速される過程では、先ず、図66に示すように、第3速に係る減速用ポール3503bが起立した状態で、加速用ポール3503aが伏倒する。第2速に係る加速用ポール3502a及び減速用ポール3502bは伏倒している。他の変速段に係る加速用ポール及び減速用ポールも伏倒している。入力軸20の回転が、駆動ギア243及び被駆動ギア343と減速用ポール3503bとを介して、出力軸30に伝達される。
次に、図67に示すように、第2速に係る加速用ポール3502a及び減速用ポール3502bが起立する。これにより、動力伝達経路が切り替わり、減速中における入力軸20の回転は、駆動ギア242及び被駆動ギア342と減速用ポール3502bとを介して、出力軸30に伝達される。
最後に、図68に示すように、第3速に係る減速用ポール3503bが伏倒する。これにより、第2速に係るポール3502a、3502bが起立した状態となり、第3速に係るポール3503a、3503bが伏倒した状態となる。第3速から第2速への変速が完了する。
上述した第一〜第三実施形態の変速装置のいずれも、ポールの動作順序に関して、第一実施形態において詳述したように、往路と復路とが異なる被ガイド部の移動経路により可能となる可逆のシーケンスを実行するように構成されている。これにより、第一〜第三実施形態の変速装置は、変速段設定機構、特にラチェット機構の構造の複雑さを低減でき、ロバスト性を確保し易い。
本実施形態の変速装置は、6つの変速段を有するが、本発明の変速装置が有する変速段は、特に限定されず、例えば、5以上であることが好ましい。各変速段のギアは、奇数段ギア群と偶数段ギア群とに、軸線方向に分けて設けられることが望ましい。奇数段ギア群は、3つ以上の変速段を有する。偶数段ギア群は、2つ以上の変速段を有する。入力軸及び出力軸の軸線方向において駆動ギア及び被駆動ギアが配置される順序としては、例えば、以下の例が挙げられる。なお、以下の例において、各数字は、変速段を示す。
1−3−5−4−2
1−3−5−6−4−2(本実施形態)
1−3−5−7−6−4−2
1−3−5−7−8−6−4−2
本実施形態では、ポールが、出力軸に取り付けられ、起立時にハブと係合するように構成されているが、本発明は、この例に限定されない。ポールが、ハブに取り付けられ、起立時に出力軸と係合するように構成されていてもよい。また、変速装置がハブを備えていない場合には、ポールが、出力軸に取り付けられ、起立時に被駆動ギアと係合するように構成されていてもよい。また、ポールが、被駆動ギアに取り付けられ、起立時に出力軸と係合するように構成されていてもよい。また、ラチェット機構は、出力軸と平行な軸線を中心として搖動可能であり且つ出力軸の径方向に起立又は伏倒可能なポールを備えている。また、ラチェット機構は、ポールの起立又は伏倒を、シフト操作に応じて機械的に切り替える。
本実施形態では、コントロールカム軸40(ロータリーカム)が、径方向内側に配置され、ガイド軸41が、径方向外側に配置されているが、本発明は、この例に限定されない。ロータリーカムが径方向外側に配置され、ガイド軸が径方向内側に配置されてもよい。この場合、ロータリーカムには、カム部として、例えば、ロータリーカムの周方向に延び且つロータリーカムの径方向にロータリーカムを貫通するカム溝が形成される。
本実施形態の変速装置は、ボトムニュートラル式の変速装置であるが、本発明の変速装置は、ボトムニュートラル式に限定されない。本発明の変速装置は、ハーフニュートラル式(ボトムロー式)の変速装置であってもよい。なお、ボトムニュートラル式とは、ニュートラルポジションが第1速の下に位置するシフトパターンをいう。ハーフニュートラル式とは、ニュートラルポジションが第1速と第2速との間に位置するシフトパターンをいう。
本実施形態の変速装置は、リターン式の変速装置であるが、本発明の変速装置は、リターン式に限定されない。本発明の変速装置は、ロータリー式であってもよい。
ここに用いられた用語及び表現は、説明のために用いられたものであって限定的に解釈するために用いられたものではない。ここに示され且つ述べられた特徴事項の如何なる均等物をも排除するものではなく、本発明のクレームされた範囲内における各種変形をも許容するものであると認識されなければならない。本発明は、本願明細書に記載された実施形態に限定されるものではない。