JP6757341B2 - アスペルギルス属微生物が生産するタンパク質のn型糖鎖構造を改変する方法 - Google Patents
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タンパク質を、異種タンパク質の発現宿主で発現させると、その生物活性が変化することがある。この理由は、真核生物において生体内で重要な機能を持つタンパク質の多くは糖鎖を持った糖タンパク質であり、当該タンパク質を異種タンパク質の発現宿主で発現すると、タンパク質に糖鎖が全く結合されなかったり、タンパク質に結合する糖鎖の構造が変化したりするので、本来の生物活性を示さなくなるから、と考えられている。
糖鎖の生合成は、まず小胞体(ER)で始まり、その後ゴルジ体でさらに糖鎖の修飾が起こる。このうちERで生成する糖鎖は真菌も哺乳類細胞も基本的には同じであることが判明している。その糖鎖は8分子のマンノース(Man)と2分子のNアセチルグルコサミン(GlcNAc)からなるコア構造(Man8GlcNAc2)を構成している。このコア構造糖鎖を持つタンパク質はゴルジ体に輸送されて、種々の修飾を受ける。
酵母において、ERでの糖鎖の生成過程は、algファミリー遺伝子に基づいて合成される酵素によって制御される。まず、alg7,alg13,alg14の働きによってタンパク質にGlcNAcが付加され、次いで、alg1,alg2,alg11,alg3,alg9の働きによってマンノースが付加されてコア構造を生成する。次に、ゴルジ体に運ばれた糖タンパク質はoch1の働きによって前記コア構造にマンノースが付加された後、Mnn1,Mnn4,Mnn6の働きによってさらに多量のマンノースが付加されて、ハイパーマンノース型の糖鎖となる。
他方、糸状菌においては、alg1,alg2を人為的に破壊したという報告は無い。非特許文献3によると、酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいて、alg2のG377R変異体は温度感受性になり、且つ糖鎖鎖長も大幅に低減することが調べられているが、完全なalg2破壊株は取得することが出来ないことが言及されている。糸状菌においては、非特許文献4においてRhizomucor pusillusにおいて、alg2の変異体を取得したことが報告されており、5bpの挿入変異によってalg2の機能が低下した変異体においてN型糖鎖の殆どが、Man1GlcNAc2若しくは、Man2GlcNAc2の構造を有することが調べられているが、人為的に遺伝子を破壊して取得した変異体ではない。
また、alg1については、非特許文献5において酵母では破壊することによって致死となることが記されており、糸状菌においてもその遺伝子破壊に関する報告は無く、糸状菌において糖鎖組成を改変することは限度があった。
項1.
アスペルギルス属微生物に異種タンパク質を発現させる場合において、宿主であるアスペルギルス属微生物のゲノムDNAのうちalg1、alg2、alg3またはoch1に相当する部分をコードするDNAに改変を加えることにより、前記alg1、alg2、alg3またはoch1に相当する部分がコードする糖鎖合成酵素の機能を低減若しくは完全に停止させた宿主微生物を培養する工程を含む前記異種タンパク質の製造方法。
項2.
改変前のalg1、alg2、alg3またはoch1に相当する部分をコードするDNAが、次の(1)〜(4)のいずれかである、項1に記載の方法。
(1)配列番号1から4のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNA
(2)配列番号1から4のいずれかのアミノ酸配列と68%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするDNAであり、かつ、alg1、alg2、alg3またはoch1の機能を有するタンパク質をコードするDNA
(3)配列番号5から8のいずれかのDNA
(4)配列番号5から8のいずれかのDNA配列と68%以上の同一性を有するDNAであり、かつ、alg1、alg2、alg3またはoch1の機能を有するタンパク質をコードするDNA
項3.
改変が次の(a)から(c)のいずれかである、項1または2に記載の方法。
(a)alg1、alg2、alg3またはoch1に相当する部分をコードするDNAの全部または一部を除去する。
(b)alg1、alg2、alg3またはoch1に相当する部分をコードするDNAに、1または数個の置換、欠失もしくは付加する。
(c)alg1、alg2、alg3またはoch1に相当する部分をコードするDNAを、改変前のDNA配列との同一性が80%未満であるDNA配列と置き換える。
(1)配列番号1から4のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNA
(2)配列番号1から4のいずれかのアミノ酸配列と68%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするDNAであり、かつ、alg1、alg2、alg3またはoch1の機能を有するタンパク質をコードするDNA
(3)配列番号5から8のいずれかのDNA
(4)配列番号5から8のいずれかのDNA配列と68%以上の同一性を有するDNAであり、かつ、alg1、alg2、alg3またはoch1の機能を有するタンパク質をコードするDNA
上記(1)〜(4)において、配列番号1は、アスペルギルス・オリゼにおけるalg1タンパク質のアミノ酸配列である。配列番号2はalg2タンパク質のアミノ酸配列である。配列番号3はalg3タンパク質のアミノ酸配列である。配列番号4はoch1タンパク質のアミノ酸配列である。
上記(1)〜(4)において、配列番号5は、アスペルギルス・オリゼにおけるalg1タンパク質をコードするDNA配列である。配列番号6はalg2タンパク質をコードするDNA配列である。配列番号7はalg3タンパク質をコードするDNA配列である。配列番号8はoch1タンパク質をコードするDNA配列である。
上記(2)において、アミノ酸配列の同一性は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
上記(4)において、塩基配列の同一性は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
本明細書では、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、アミノ酸配列や塩基配列の同一性を算出する。
例えば、次の(a)から(c)のいずれかの改変が例示できる。
(a)alg1、alg2、alg3またはoch1に相当する部分をコードするDNAの全部または一部を除去する。
(b)alg1、alg2、alg3またはoch1に相当する部分をコードするDNAに、1または数個の置換、欠失もしくは付加する。
(c)alg1、alg2、alg3またはoch1に相当する部分をコードするDNAを、改変前のDNA配列との同一性が80%未満であるDNA配列と置き換える。
アスペルギルス・オリゼ由来糖鎖合成関連遺伝子の選抜は、糖鎖合成関連遺伝子がよく研究されている、酵母サッカロマイセス・セレビシエの遺伝子情報から相同性が高い配列を選抜することにより行った。選抜した遺伝子がコードすると推定されるアミノ酸をそれぞれ、配列番号1、2、3、4に示す。選抜した遺伝子がコードすると推定されるアミノ酸配列情報を元に、同アスペルギルス属においてホモロジー検索を行った結果を図1に示す。図1によると、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・フミガタス、アスペルギルス・ニドランスにおいて、68%から78%の相同性を示すアミノ酸配列をコードする遺伝子が存在しており、これら遺伝子群はアスペルギルス属において高度に保存されていると考えられる。
1.で示された、アスペルギルス・オリゼ由来糖鎖合成関連遺伝子であるalg1, alg2,alg3,och1遺伝子の破壊カセットを以下のようにして構築した。
まず、各糖鎖合成関連遺伝子の開始コドンから上流約2kbpの位置と、各糖鎖合成関連遺伝子の終始コドンから下流約2kbpの位置にプライマーを設計し、アスペルギルス・オリゼのゲノムDNAをテンプレートとしてPCRを行った。PCRによって増幅されたPCR産物を東洋紡社製のTarget clone plusによってTAクローニングした。次に、各糖鎖合成関連遺伝子のORF部分を除去するため、東洋紡社製のKOD plus mutagenesis kitを用いてInversePCRを行い、さらに、得られたプラスミドを制限酵素処理して、アスペルギルス・ニドランス由来のsCマーカー(ATPスルフリラーゼ)カセットを挿入することにより遺伝子破壊カセットを構築した。alg1遺伝子の破壊コンストラクトの作製に用いたプライマー配列を配列番号9,10、11、12に、alg2遺伝子の破壊コンストラクトの作製に用いたプライマーを配列番号13,14、15,16にalg3遺伝子の破壊コンストラクトの作製に用いたプライマー配列を配列番号17,18、19,20に、och1遺伝子の破壊コンストラクトの作製に用いたプライマー配列を21,22、23,24にそれぞれ示した。
組換え宿主には麹菌アスペルギルス・オリゼ NS4株を使用した。本菌株は、独立行政法人酒類総合研究所にて取得された変異体であり、同研究所から分譲されている。NS4株はSO4資化性とNO3資化性がそれぞれsC遺伝子とniaD遺伝子の欠損により失われており、同遺伝子を用いて形質転換を行い、SO4資化性とNO3資化性によって形質転換体を選抜することが可能である。上述の通り作製した、遺伝子破壊はカセットを用いて、NS4株を宿主にプロトプラスト−PEG法により、形質転換を行った。遺伝子破壊の原理については図2に示す。得られた形質転換体の中から目的の遺伝子破壊株を、PCRによって確認して選抜した。
3で取得した形質転換体から105個/ml濃度に調整した作製し、DP寒天培地(2%デキストリン、1%ポリペプトン、0.5%リン酸1カリウム、0.1%硫酸マグネシウム7水和物、1.5%寒天、pH6.0)、DP+0.8M NaCl培地、DP+1.4Mソルビトール培地にそれぞれの分生子懸濁液を0.01ml分植菌して、30℃で3日間静置培養した。培養の結果を図3に示す。図3に示すとおり、alg1破壊株及び、alg2破壊株はDP培地上で基底菌糸の生育が見られず、分生子能が大きく低下していた。一方で、DP培地にNaCl又はソルビトールを添加した、DP+0.8M NaCl培地及びDP+1.4M ソルビトール培地ではalg1破壊株及びalg2破壊株で基底菌糸の生育が回復し、分生子形成能も僅かに回復した。
4.で作製した各遺伝子破壊株の分生子懸濁液(105-個/ml)を200ml容バッフル付三角フラスコを用いて、60mlのDP+0.8M NaCl培地(2%デキストリン、1%ポリペプトン、0.5%リン酸1カリウム、0.1%硫酸マグネシウム7水和物、0.8M NaCl、pH6.0))に0.6ml植菌し、30℃、72時間培養し、培養液を回収した。培養液を3000rpm,10min遠心分離して上清を回収し、Amicon Ultra Centrifugal Filters Ultracel 30K(メルク・ミリポア社製)にアプライし、3000rpm,30min遠心して培養液上清を濃縮した。濃縮液に20mMリン酸カリウムバッファー(pH6.0)を10ml加えて濃縮し、この操作を3回繰り返すことによって、低分子を除去し、バッファー置換を行って加水濃縮液とした。得られた加水濃縮液を Nu−PAGE 4−12% Bis−Tris Gel(Invitrogen社製)を用いたSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動することにより、分泌タンパク質の分子量を求めた。結果を図4に示す。図4からわかるように、遺伝子組み換え宿主であるNS4株では約53kDa付近にαアミラーゼと推測されるバンドが検出されるのに対し、alg1、alg2、alg3、och1破壊株では、50〜52kDa程度の位置にαアミラーゼと推測されるバンドが出現しており、NS4株に比べて糖鎖含量が少ないαアミラーゼが生産されていると考えられた。
5.で調製した培養液上清の加水濃縮液を用いて、糖鎖構造解析を行った。具体的には、加水濃縮液をpNGase(Roche社製)により糖鎖を遊離させた後、トリプシン(Promega社製)によってタンパク質を分解し、BlotGlyco(住友ベークライト社製)によって遊離糖鎖を精製した。手法については、BlotGlycoに付属のマニュアルに従って操作し、MALDI−TOF MS解析用サンプルを調製した。精製した遊離糖鎖をMALDI−TOF MS解析した結果を図5に示す。
糖鎖解析の結果、宿主菌株であるNS4株の培養液上清加水濃縮液からは複数のピークが検出された。これらのピークはHexNAc2Hex(5〜11)の構造を有していると推定された。
alg2破壊株からはメインピークは2つ検出されたが、MALDI TOF−MS解析の結果からはこれらのピークの構造を推定することは出来なかった。上記と同様に糖鎖の構造を決定するためMS/MS解析を行ったところ、m/z=1443のピークに関しては、還元末端からHexNAcを2つ、Hexを少なくとも1つ有する構造であることが推定された。
alg3の破壊株からは複数のピークが検出されたが、これらのピークはHexNAc2Hex(2〜5)の構造を有していると推定され、NS4株から取得された糖鎖構造と比較してHexの数が大幅に低減されていることが推定された。
och1の破壊株からも複数のピークが検出されたが、これらのピークはHexNAc2Hex(5〜10)の構造を有していると推定され、NS4株から取得された糖鎖構造と比較してHexの数がやや低減されていることが推定された。
以上の結果から、麹菌アスペルギルス・オリゼにおいてalg1、alg2、alg3、och1遺伝子を破壊した菌株では、宿主株であるNS4株に比べて糖鎖構造が変化し、鎖長が短い糖鎖が付加されたタンパク質が分泌生産されていることが明らかとなった。
Claims (4)
- アスペルギルス・オリゼを宿主として異種タンパク質を発現させることによる異種タンパク質の製造方法であって、アスペルギルス・オリゼのゲノムDNAのうちalg2をコードする、次の(1)〜(4)のいずれかのDNAに改変を加えることにより、前記alg2がコードする糖鎖合成酵素の機能を完全に停止させた宿主を培養する工程を含むことによりヘキソース量を低減された異種タンパク質の製造方法。
(1)配列番号2のアミノ酸配列をコードするDNA
(2)配列番号2のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするDNAであり、かつ、alg2の機能を有するタンパク質をコードするDNA
(3)配列番号6のDNA
(4)配列番号6のDNA配列と95%以上の同一性を有するDNAであり、かつ、alg2の機能を有するタンパク質をコードするDNA - 改変が次の(a)から(c)のいずれかである、請求項1に記載の方法。
(a)alg2をコードするDNAの全部または一部を除去する
(b)alg2をコードするDNAに、1または数個の置換、欠失もしくは付加する
(c)alg2をコードするDNAを、改変前のDNA配列との同一性が90%未満であるDNA配列と置き換える - 配列番号13,14,15および16に記載の塩基配列からなるプライマーを用いて、alg2遺伝子破壊コンストラクトを作製する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
- 宿主として、アスペルギルス・オリゼ NS4株を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
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