図1は、入射光の進路を自在に偏向させるための液晶素子の原理的構成について説明するための模式的な平面図である。また、図2は、入射光の進路を自在に偏向させるための液晶素子の原理的構成について説明するための模式的な断面図である。
図1に示す液晶素子において、各電極1a、1bは、それぞれ折線状にパターン形成された部位を有しており、お互いの折線状部位を噛み合わせて配置されている。電極2は、各電極1a、1bの少なくとも上記した折線状部位と重なるように配置されている。各電極1a、1b、電極2は、それぞれ、例えばガラス基板5、6の一面上に設けられている。図示の例では、各電極1a、1bの折線状部位は、その幅(図中上下方向の長さ)が段階的に大きくなっている。
また、各電極1a、1bと電極2の間には液晶層3が設けられている。液晶層3は、例えば負の誘電率異方性を有するネマティック液晶材料を用いて構成されている。各基板5、6にはラビング処理などの一軸配向処理が施されており、一方向への配向規制力を有する。これにより、液晶層3は、各基板面に対して比較的高い(例えば88.5°〜89.9°程度)のプレティルト角を有して、各電極1a、1bと電極2との間で略垂直配向している。図2に示すように、各基板5、6は、配向規制力の方向が互い違い(アンチパラレル)となるように配置されている。
このような液晶素子に対して、各基板5、6の端部に設けられた光入射口7から両基板間の液晶層3に対して、両基板の基板面と略平行方向にレーザなどの光Lを入射させる。このとき、光Lの入射方向は、図1に示すように各電極1a、1bの折線状部位の電極エッジに対して垂直ではない方向に設定する。別言すれば、各電極1a、1bの折線状部位は、光入射口7から入射させる光の主進行方向(図中では左右方向)に対して平面視において斜交する電極エッジを1つ以上有するように構成される。そして、各電極1a、1bと電極2の間に印加する電圧によって液晶層3の液晶分子の配向状態を変化させることで屈折率分布を形成し、その部分を透過する光Lの進路をスネルの法則により制御することができる。
詳細には、各電極1a、1bと電極2の間に印加する電圧が0Vである場合(電圧OFF)には、液晶層3は初期状態である略垂直配向となっているので、屈折率としては液晶層3の層厚方向(セル厚方向)に縦長の屈折率楕円体となる(図2(A)参照)。これに対して、例えば電極1aと電極2の間に液晶材料のしきい値電圧を超える電圧を印加し、電極1bは電極2と同電位とした場合(電圧ON)には、誘電率異方性が負の液晶材料を用いていることから、液晶層3の電極1aと電極2に挟まれた領域では極角方向としては液晶分子の長軸が電界と直交方向へ向かうように液晶層3の配向方向が変化する(図2(B)参照)。液晶分子の傾斜方向は一軸配向処理の方向(配向規制力の方向)に一致する。このとき、液晶層3の液晶分子の配向状態が互いに異なる領域同士の境界8が生じる。この境界8は、平面視においては、光入射口7から入射させる光の主進行方向に対して斜交する境界となる(図1参照)。
図3は、液晶素子への入射光の状態を示す模式的な断面図である。ここでは、液晶素子内に光入射口7から入射されるレーザ光Lが図示のように液晶層3の層厚方向と同じ方向に偏光しているものとする。図3に示すように、電極1aと電極2の間での電圧印加によって液晶層3の配向状態が水平配向かそれに近い状態となっている領域では、レーザ光Lに対する屈折率は相対的に小さい(図中「n小」と表記する)。また、電圧無印加で液晶層3の配向状態が初期の略垂直配向となっている領域では、レーザ光Lに対する屈折率は相対的に大きい(図中「n大」と表記する)。図示のように、屈折率が相対的に大きい領域と相対的に小さい領域との間には境界8が生じる。また、液晶層3を挟んで光入射口7と対向する他端側には、液晶層3から各基板面と略平行方向に光を出射させるための光出射口9が設けられている。液晶層3を通過した光はこの光出射口9から出射する。
図4は、上記した屈折率分布と入射光の偏向について概念的に示した平面図である。図示の電極1aは1つの折線状部位(三角形状部位)を有している。そして、電極2は、少なくとも電極1aの折線状部位と平面視で重なるようにして配置されている。この電極1aと電極2の間に電圧を印加すると、両者の重なる領域において液晶層3に配向変化を生じ、当該領域の屈折率が相対的に低くなる。図示のように、屈折率の大きさが相対的に異なる境界8が二ヶ所存在する。このような境界8にレーザ光Lを入射させた場合には、境界8がレーザ光Lの主進行方向に対して平面視で斜交していることから、境界8を挟んで生じた屈折率差によってレーザ光Lの進行方向を曲げること(偏向すること)ができる。上述した図1に示した構成の液晶素子では、このような屈折率差を生じる境界8が多数得られるので、各境界8を通過するたびにレーザ光Lの進行方向が曲げられることになり、全体としてレーザ光Lの進路を大きく曲げることが可能になる。
なお、入射光であるレーザ光の波長は、液晶層3に用いる液晶材料の光学特性に合わせて選定することが望ましい。別言すれば、レーザ光の波長に合わせて液晶材料を選定することが望ましい。具体的には、液晶材料による光の吸収が少ないほど望ましい。一般的な液晶材料では、赤外の長波長側や、紫外の短波長側で吸収が大きいので、可視光から近赤外光の領域が望ましく、例えば、850nm、905nm、970nmなどが望ましい。
図5は、一実施形態の液晶素子の構成を示す平面図である。また、図6は、液晶素子の構成を示す断面図である。なお、図6の断面図は、図5に示すA−A線方向の断面を示している。また、図5では、説明の便宜上、一部構成を点線によって示している。
第1基板11および第2基板12は、それぞれ例えばガラス基板であり、互いの一面側を対向させて配置されている。電極13a、電極13bは、それぞれ第1基板11の一面に設けられている。電極14は、第2基板12の一面に設けられている。
電極13aは、平面視において複数(図示の例では5つ)の鋭角な下向きの凸部を有した鋸波状部位33aと、この鋸波状部位33aと接続された配線部とを有する。同様に、電極13bは、平面視において複数(図示の例では5つ)の鋭角な上向きの凸部を有した鋸波状部位33bと、この鋸波状部位33bと接続された配線部とを有する。そして、電極13aと電極13bとは、互いの鋸波状部位33a、33bを噛み合わせて、各々の鋭角な凸部が1つずつ交互に並ぶように配置されている。両者の鋸波状部位の相互間には、絶縁のための隙間が設けられている。
低屈折率膜15は、第1基板11の一面において各電極13a、13bを覆って設けられている。同様に、低屈折率膜16は、第2基板12の一面において電極14を覆って設けられている。これらの低屈折率膜15、16は、液晶層19の液晶材料の屈折率よりも相対的に低い屈折率を有する膜である。
配向膜17は、第1基板11の一面において低屈折率膜15を覆って設けられている。同様に、配向膜18は、第2基板12の一面において低屈折率膜16を覆って設けられている。各配向膜17、18は、ラビング処理などの一軸配向処理が施されており、一方向への配向規制力を有する。図示の例では、各配向膜17、18は、平面視においてシール材20よりも内側の領域にのみ設けられている。
液晶層19は、第1基板11と第2基板12の間に設けられており、各配向膜17、18と接して各々からの配向規制力を受けて液晶分子の初期配向状態(電圧無印加時の配向状態)が設定されている。本実施形態の液晶層19は、誘電率異方性が負の液晶材料を用いて構成されており、初期配向状態が略垂直配向状態に設定されている。
シール材20は、液晶層19を封止するためのものであり、第1基板11と第2基板12の間に設けられている。本実施形態のシール材20は、平面視において枠状に形成されており、かつ、少なくとも各電極13a、13bの鋸波状部位33a、33bを包含するように形成されている。また、シール材20の一部(図示の例では左辺中央)に注入口(開口)21が設けられており、液晶層19の形成時にはこの注入口21から液層材料が注入される。
エンドシール材22は、注入口21を塞ぎ、かつ光ファイバ23を固定するためのものであり、第1基板11と第2基板12の端部であって注入口21の近傍に設けられている。エンドシール材22は、例えば紫外線硬化性樹脂である。
光ファイバ23は、その一端側が注入口21の内部に配置されており、他端側は外部に露出している。この光ファイバ23は、第1基板11および第2基板12の端部から液晶層19に対して、その層厚方向と垂直な方向から光を入射させるためのものである。
なお、本実施形態では、この光ファイバ23と上記の注入口21およびエンドシール材22が「光入射口」に対応しており、この光入射口と平面視で対向する第1基板11と第2基板12の他端側の一部が「光出射口」に対応する。
図7および図8は、本実施形態の液晶素子の製造方法について説明するための平面図である。一対のガラス基板を複数用意する。例えば、基板上に予めITO(インジウム錫酸化物)膜などの透明導電膜が形成されたものを用いる。透明導電膜の形成方法としてはスパッタ法や真空蒸着法などがある。
このような一対のガラス基板上の透明導電膜をパターニングすることにより、各電極13a、13bを有する第1基板11を形成するとともに(図7(A))、電極14を有する第2基板12を形成する(図7(B))。各電極13a、13bの相互間距離は、例えば100μm程度とする。ここでは電極13a、13bの2つを設けるものとしたが、さらに多くの互いに独立した電極を設けてもよい。なお、各電極13a、13b、電極14は、ITO膜などの透明導電膜に限らず、導電性があれば光を透過しないもの(遮光性のもの)であっても構わないので金属膜などを用いることもできる。ただし、吸光性は無いことが望ましい。また、本例では図中の左側面の入光部分にダミー電極を設けているが、省略してもよい。
次に、第1基板11の一面に低屈折率膜15を形成する(図7(C))。また、第2基板12の一面に低屈折率膜16を形成する(図7(D))。低屈折率膜15、16は、例えば可視光に対しても透明性の高い材料を用いて形成することができるが、用いるレーザ光の波長(赤外線領域)に対し透明であればそれに限らない。各低屈折率膜15、16の形成方法としては、スパッタ法、真空蒸着法などの真空プロセス、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット、バーコート、スリットコートなどの各種印刷方法、スピンコート、ディップ法(ラングミュアブロジェット法含む)などが挙げられる。例えば、バーコートによりシリカ系の低屈折率膜材料をコーティングし、その後ホットプレートにて溶媒を揮発させ、さらにクリーンオーブンにて焼成を行うことで低屈折率膜を形成することができる。焼成条件は、例えば150℃で1時間である。各低屈折率膜15、16の膜厚は、例えば1.5μm、屈折率は1.46である。
なお、ここではシリカ系の無機低屈折率膜を例示したが、液晶材料よりも低い屈折率であればこれに限らない。例えばフッ素系樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂類やフッ素系金属膜(フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム等)及びこれらとシリカの混合材料などを用いることも可能である。なお、光散乱しない膜、すなわち曇り度(Haze)の低い膜であることが望ましい。また、膜厚についても、1.5μmを例示したが、それより薄くても構わない。低屈折率膜15、16は、導波路としての液晶素子においてクラッド層として機能するものである。クラッド層はレーザ光のしみ出しを抑えて全反射を生じさせるに足りればよいため、膜厚としては100nm以上あれば機能としては十分である。但し、液晶素子内の各電極の段差の影響が懸念されるため、膜厚はある程度の厚さがあることが望ましい。なお、量産においてはフレキソ印刷を行うことがあるが、通常の条件において500〜800nm程度の厚さを得られることが確認されており、十分な厚さを確保できることがわかる。
また、各低屈折率膜15、16の形成範囲は図示のものよりも広くても狭くてもよい。少なくとも後述するレーザ光などの光が通過する経路に形成されていれば十分である。但し、各基板の端子部分(外部回路との接続部分)には形成しないことが望ましい。また、樹脂系の膜など基板への密着性があまり高くない材料を用いる場合には、特にシール材20と重なる部分には低屈折率膜15、16が形成されていないことが望ましい。従って、低屈折率膜15、16を形成するにはマスクスパッタや各種印刷法を用いて必要な部分にのみ形成することが望ましく、スピンコートなどで全面に形成した場合は、フォトリソグラフィ等によりパターニング(ドライエッチング、リフトオフ等による)をすることが望ましい。もしくは、各種印刷法(フレキソ印刷など)により端子上などにレジスト膜をパターン塗布し、その上に低屈折率膜を全面形成し、最後にリフトオフして端子上などにある絶縁膜を除去してもよい。
なお、各低屈折率膜15、16の上にパッシベーション膜などの絶縁膜を設けてもよい(図示せず)。これは基板間ショート防止の効果がある。この場合には、低屈折率膜と同様に端子部分には形成されないことが望ましい。また密着性の悪い材料についてはシール材20と重なる部分には形成されないことが望ましい。
次に、第1基板11、第2基板12の各々に配向膜17、18を形成する。ここでは各々に垂直配向膜をパターン形成した(図7(E)、図7(F))。パターン形成には、例えばフレキソ印刷、インクジェット法などを用いることができる。例えば、印刷性・密着性に優れ、側鎖に剛直な骨格(液晶性のものなど)を有するタイプの垂直配向膜材料をフレキソ印刷によって適当な膜厚(例えば500〜800Å程度)を形成する。垂直配向膜材料を印刷後、熱処理を所定条件で行う(例えば160〜250℃、1〜1.5時間焼成)。
なお、ここでは有機配向膜(ポリイミド)として上記のタイプのものを用いたが、それに限らない。また無機の配向膜(主鎖骨格がシロキサン結合(Si-O-Si結合)で形成されているものなど)を用いてもよい。
その後、第1基板11と第2基板12の各配向膜17、18に対して配向処理を行う。ここでは、ラビング処理を行い、その条件である押し込み量を0.3〜0.8mmとする。配向処理方向については、第1基板11と第2基板12とを重ね合わせたときに、各基板の配向処理方向が互い違いで平行(アンチパラレル)となるように配向処理方向を設定する。図中において、配向処理方向を矢印で示している。なお、配向処理方法はこれに限られないし、その配置についてもアンチパラレルに限られない。
次に、第1基板11の一面にシール材20を形成する(図8(A))。ここでは入射させる光の波長に対して光学的に透明であって散乱のない材料を用いる。例えば、エポキシ系、アリル系、フッ素系、アクリル系等の光硬化型のシール材を用いることができる。第1基板11の一面上に、ギャップコントロール材を適量(例えば2〜5wt%)含んだシール材20を例えばディスペンサによって形成する。また、ここではシール材20に添加するギャップコントロール材の径は液晶層19の層厚が5μm程度となるようにした。なお、液晶層19の層厚はこれに限らない。また、シール材20は第2基板12の一面に形成してもよい。
さらに、シール材20に添加するギャップコントロール材の径を変えたパターンを注入口部分などに形成してもよい。これはレーザ光の入光を行いやすくするためのものであるが、必須ではない。例えば、注入口となる注入口21の部分の長さを例えば10mmとし、そのうち液晶層19に近い側の5mm分のシール材20には50μm径のギャップコントロール材を添加し、残り5mm分のシール材20には150μm径のギャップコントロール材を添加することができる。
ディスペンサを用いる場合、複数のシリンジヘッドを用い、各部分でギャップ径の異なるギャップコントロール材が添加されたシール材をそれぞれのヘッドで形成すればよい。また、例えばスクリーン印刷を用いる場合、第1基板11と第2基板12に対してそれぞれギャップ径の異なるギャップコントロール材が添加されたシール材を所定のパターンでそれぞれスクリーン印刷することで注入口付近に径を変えたパターンを形成することができる。
ここで、液晶層19の層厚について説明する。本実施形態の液晶素子の場合、光を曲げる角度(配光制御角)は電極パターンや用いる液晶材料の複屈折で決まるため、液晶層19の層厚にはほとんど依存しない。一方、液晶層19の電界への応答性については層厚の2乗に反比例するため、層厚が薄いほど高速応答化が可能である。他方で、層厚が厚いほど光を入射させるのが容易であるが、上記のように注入口付近(レーザ入光部分)を厚くすれば入光効率を高くできるので、その場合には光制御部分の液晶層19の層厚は薄いほど好ましい。具体的には、液晶層19の層厚は、例えば2μm〜10μmの間で適宜選択することができる。なお、層厚は導光する光の波長よりは厚いことが好ましい。
なお、他方の基板(例えば第2基板12)上にギャップコントロール材を散布するか、もしくはリブ材を形成してギャップコントロール処理を行ってもよい。例えば、粒径5μmのプラスチックボールを乾式のギャップ散布機によって散布するか、もしくは高さ5μmのリブ材による柱を形成するとよい。液晶素子の外形サイズは概ね10mm角以上の場合にはギャップコントロール処理を行う事が望ましい。このとき、ギャップコントロール材の径もしくはリブ柱の高さは、シール材20に添加したギャップコントロール材の径とほぼ同等となるようにする。また、液晶層19の導光部分にはギャップコントロール材もしくはリブ材が配置されないようにギャップコントロール処理を行う事が望ましい。
次に、第1基板11と第2基板12の一面同士を対向させて両者を重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理もしくは紫外線照射することにより、シール材20を硬化させる(図8(B))。ここでは、例えば3000mJ/cm2の紫外線照射によりシール材20を硬化させる。
次に、第1基板11と第2基板12の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層19を形成する(図8(C))。液晶材料の充填は、例えば真空注入法によって行うことができる。ここでは、例えば誘電率異方性△εが負、屈折率異方性△nが約0.25(no:1.51、ne:1.76)の液晶材料を用いる。なお、ここではカイラル材を添加されていない液晶材料を用いる。液晶材料の注入方法としては毛細管現象を利用した注入方法でもよい。配光制御角を広くするという観点では、より高い屈折率異方性を有する液晶材料を用いることが望ましい。
液晶材料の注入後、その注入口21にエンドシール材22を塗布し封止する(図8(C))。エンドシール材としては、例えば紫外線硬化性樹脂を用いることができる。また、導光する光の波長に対し光学的に透明で散乱のないシール材を用いる。例えばエポキシ系、アリル系、フッ素系、アクリル系等のシール材を用いることができる。
次に、小径の光ファイバ23(例えば、クラッドを含めた径の直径125μm)をエンドシール材22が塗布されている注入口に挿入する(図8(C))。このとき、光ファイバ23の方向が狙いとする光の導光方向になるよう挿入し固定することが望ましい。そのため、位置合わせのガイドなどを用いることが望ましい(図示せず)。光ファイバ23を固定した状態でエンドシール材22に紫外線を所定量照射しエンドシール材22を硬化させる。以上により、こうして導光式の液晶素子が完成する。
なお、ここではクラッド層を有する光ファイバ23を想定して説明したが基本的に空気層がクラッドとして働くため、クラッド層は無くても構わない。この場合、光ファイバ23のコアの屈折率よりも低屈折率膜15、16の屈折率の方が低いことが好ましい。また、光ファイバ23は、偏波保持光ファイバが好ましい。上記構成の場合には、偏光軸方向は液晶素子の基板平面に対して垂直方向であることが望ましい。但し、好ましい偏光軸方向は配向処理方向、液晶材料や配向膜材料の種類により異なる。
また、光ファイバ23を注入口に先に挿入してからエンドシール材22を塗布してもよい。また、液晶材料を注入後に、液晶素子をプレスしてからエンドシール材22を塗布してもよい。その場合、液晶素子をプレスなどで押して余分な液晶を注入口から出してからエンドシール材22を塗布し、光ファイバ23の挿入後、プレスを解除し、適宜エンドシール22を注入口内に吸いこませた状態で紫外線を照射してエンドシール材を固化することが望ましい。
図9は、上記した実施形態の液晶素子を用いた光走査装置の構成を示す平面図である。この図9は、光走査装置を上から見た図である。図示の光走査装置は、液晶素子100と、この液晶素子100を駆動する駆動装置200と、液晶素子100へ入射させるレーザ光を出射する光源300を含んで構成されている。
液晶素子100の液晶層19に対して電圧を無印加としているときは、光源300から液晶素子100の光ファイバ23へ入射されて液晶層19を通過したレーザ光は、直線的に進む。これをスクリーン400に投影したとすると、図示のように少し縦長のスポット形状のレーザスポットが得られる。レーザスポットが縦長になる理由としては、レーザ光の出射側の端面に対して特段に光学的な工夫を行っていないため、シール材20を透過したレーザ光が自由空間に放射されるときの回折効果により広がることによるものと考えられる。
また、駆動装置200によって液晶素子100の電極13aに5Vの交流電圧を与え、電極13bと電極14には基準電位(接地電位)を与えた場合には、レーザ光を左方向(図中における上方向)に配光角θで偏向することができる。例えば、上記した製造方法において例示した諸条件で作製された液晶素子100を用いる場合であれば、配光角θとしては約16.75°が得られる。
同様に、駆動装置200によって液晶素子100の電極13bに5Vの交流電圧を与え、電極13aと電極14には基準電位(接地電位)を与えた場合には、レーザ光を右方向(図中における下方向)に配光角θで偏向することができる。例えば、上記した製造方法において例示した諸条件で作製された液晶素子100を用いる場合であれば、配光角θとしては約16.75°が得られる。
なお、上記した製造方法において例示した諸条件で作製された液晶素子100を用いる場合において、電圧印加時における動作速度は70msecとなる。これに対して、例えば液晶層19の層厚を100μmにした場合には、配光角θは17.3°と大差ないのに対して動作速度は3000msecと大幅に低下する。一般に、液晶素子は液晶層厚を薄くすることにより大幅に高速化できることが知られており、セル厚をさらに薄くすることで数ミリ秒まで高速化できると考えられる。一方、配光角は電極のパターンと液晶材料の複屈折に主として依存するため液晶層厚が変わっても同じ電極のパターンと液晶材料を用いた場合はほとんど変化しないと考えられる。
上記の配光角θは、液晶素子100の電極13a又は電極13bと電極14の間に印加する電圧を変えることで自在に制御することができる。また、電極13a、電極13bおよび電極14に印加する電圧をそれぞれ変えた場合にはより複雑な光制御が可能となる。また、液晶素子100の電極13a又は電極13bと電極14をさらに分割して電圧を印加できるエリアを制御することで、配光角だけでなく出射端面の出射位置も可変に設定することが可能である。
駆動装置200による駆動方法についてまとめると以下の通りである。入射光を偏向させない場合には、液晶素子100の電極13aと電極13bに対して任意の同じ電位を与える。このとき、電極14に与える電位は、電極13aと電極13bに対して与える電位と同じであってもよいし異なってもよい。入射光をある方向(第1方向)へ偏向させる場合には、電極13aと電極14に対して任意の同じ電位を与え、電極13bには異なる電位を与える。電極13bに与える電位は、電極14との間に生じる電圧が液晶材料の閾値以上となるようにする。入射光を第1方向とは異なる方向(第2方向)へ偏向させる場合には、電極13bと電極14に対して任意の同じ電位を与え、電極13aには異なる電位を与える。電極13aに与える電位は、電極14との間に生じる電圧が液晶材料の閾値以上となるようにする。この駆動方法は、電極13aまたは電極13bに与える電位をある同じ電位にしたときを中心に線対称に配光制御できるというメリットもある。
ところで、上記した液晶素子100では光ファイバ23を用いて液晶層19へ光を入射させていたが、異形導光フィルムを用いても光を入射させてもよい。図10は、異形導光フィルムの構成を模式的に示す断面図である。具体的には、異形導光フィルム123の相対的に膜厚の小さい他端側の端面を液晶素子100の注入口部分に配置ないし挿入しておく。そして、異形導光フィルム123の相対的に膜厚の大きい一端側の端面に光源300からの光を入射させ、フィルム内を導光させて液晶素子100の液晶層19内へ光を入射させる。この場合、異形導光フィルム123の上面側および下面側にクラッド層を形成してもよいが、基本的に空気層がクラッドとして働くため、無くても構わない。この構成例では異形導光フィルム123と注入口21とエンドシール材22が「光入射口」に対応する。
また、上記した液晶素子100では光ファイバ23を介して液晶層19へ光を入射させていたが、コリメートもしくは集光された光を直接的に入射させるようにしてもよい。図11は、光を直接的に入射される場合に好適な液晶素子の構成例を示す平面図である。なお、上記した図5に示した液晶素子と共通する構成については同符号を付しており、それらについては詳細な説明を省略する。図11に示す液晶素子において、エンドシール材122は、上記した実施形態の液晶素子のように基板外部へ盛り上がるように形成するのではなく、基板の端面と同じ位置もしくは少し奥まった位置に形成されている。このようにするためには、プレスエンドシール処理を行うなどして、エンドシール材122を注入口21の中に吸い込ませてから余った部分を取り除き、紫外線硬化するような製造方法を採ることが望ましい。この構成例では、注入口21とエンドシール材122が「光入射口」に対応する。
この液晶素子においては、注入口21の部分に対して図示のように光源300から出射するレーザ光を直接的に照射して入光させる。このような液晶素子でも液晶層19内をレーザ光が透過し、反対側のシール材20を介して出射させることができ、かつこの出射する光を自在に偏向させることができる。得られる配光角は上記した実施形態の液晶素子と変わりない。これは、各低屈折率膜15、16がエンドシール材122や液晶材料より屈折率が低くクラッド層として働くためと考えられる。なお、各低屈折率膜15、16を設けない場合には、レーザ光のほとんどは液晶層19内ではなく第1基板11と第2基板12の各基板内を通過することになり、光の利用効率が低下し、かつ配光角も小さくなると考えられる。また、用いたレーザ光の注入口21付近でのスポット径は、例えば150μm以下に絞ることが望ましい。それにより、注入口21とレーザ光のスポットとの位置合わせを精度良く行えば高効率に入光させることができる。
以上のような実施形態によれば、機械的な動作部分を必要とせずに、入射光の進路を自在に偏向することが可能となる。また、透過光学系であり光学系が単純でかつ小型化が容易といったメリットがある。また、第1基板側に設けた各電極を用いることで、入射する光の液晶素子への入射時の進路方向を基準として線対称に配光制御することができる。また、低屈折率膜を両基板表面に設けていることで液晶層内の導光効率を高くすることができる。
このような液晶素子およびこれを用いた光走査装置は、例えば、投射型ディスプレイ、路面描画装置、LiDAR用光源(配光制御)、各種照明装置、各種センサ、LiDAR用受光素子、光学補正機器(カメラの手振れ補正等)、太陽電池用配光制御(太陽追尾)、セキュリティーカメラ、見守りカメラ、医療用カメラの代用(距離もわかるもの)、エアコンなど種々の装置・システムに組み込んで用いることができる。
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、電極のパターンについては上記した実施形態等に限られず、液晶素子内の位置によって電極のエッジ方向(エッジ角度)や電極幅を変えてもよい。
また、上記した実施形態では各電極がITO膜などの透明導電膜によって形成されていたが、金属膜を用いて電極を形成してもよい。その場合、銀やアルミなどの反射率が高いものが望ましい。なお、電極間については、あらかじめ絶縁膜を形成しておいて、その上に薄く金属膜を形成してパターン電極化する等の方法で形成することが可能である。さらに、上記した実施形態では各基板の一例としてガラス基板を挙げていたがこれに限定されない。各基板は必ずしも透明でなくてもよい。また、例えば基板としてプラスチック基板を用いてもよいし、絶縁膜付きステンレス箔基板などの金属泊基板を用いてもよい。