JP6756362B2 - チタン複合材および梱包体 - Google Patents

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Description

本発明は、チタン複合材および梱包体に関する。
熱中性子を遮蔽可能な中性子線遮蔽板が原子力発電関連設備などの放射性廃棄物を取り扱う設備において使用されている。これは、天然のBの中に19.9%存在するボロン10(10B)が最も高い中性子遮蔽効果を有するためであり、Bを含有するステンレス鋼などが、中性子線遮蔽板の素材として一般的に使用されている。
特許文献1には、クーナコパイト(2MgO・3B・13HO)、メーヤホツフェライト(3CaO・3B・7HO)、コレマナイト(2CaO・3B・5HO)などの結晶水を含有するボレート骨材と半水石膏、カルシウムアルミネート系セメントなどの無機接着剤を水と混練成型した硬化成形体であって、Bを5質量%以上含有する中性子線遮蔽材が開示されている。しかし、特許文献1により開示された中性子線遮蔽材はセメントからなるため、耐食性、製造性さらには加工性の点で問題がある。
ステンレス鋼よりも耐食性の優れるB含有Ti合金を、中性子線遮蔽材に用いることも検討されている。例えば、特許文献2には、Bを0.1〜10質量%含有し、残部がTiおよび不純物からなるB含有Ti合金熱延板を中性子線遮蔽材に用いることが開示されている。
さらに、特許文献3には、中空状金属ケーシング内に、B含有物(NaB、B、PbO、Feなど)の流動物と、その中に混入した金属酸化物とを充填して、固化状態とした放射線遮蔽材が開示されている。特許文献3の発明では、BおよびHによって、主に中性子線を遮蔽し、ケーシングおよびその中の金属などによってγ線を遮蔽している。
特許文献4には、燃料電池セパレータ用の材料として、Bを5質量%以下含み、母材全体にTiB系硼化物が微細に分散しており、その一部が母材の表面に露出して電気の導通路を構成する、チタン系材料が提案されている。
特公昭58−6704号公報 特公平1−168833号公報 特開平5−142392号公報 特開2004−273370公報
特許文献2に開示された熱延板は、板厚全体にTiB等のB化合物が点在しているため、特に表面に存在するB化合物が熱間加工時に割れ起点になる。このため、熱延時に表面割れが多発して、安定して製造することができず、得られた熱延板の加工性も良好ではない。また、製造歩留りが低くなるため、熱延板のコストが高くなる。
特許文献3に開示された放射線遮蔽材は、金属製のケーシング材の中にB含有物を充填したものであり、B含有物を充填した後の加工が難しい。
特許文献4では、TiB系の硼化物がチタン系材料全体に分散しており、特に表面にも存在している。このため、熱間圧延や冷間圧延等の製造時にチタン系材料が非常に割れやすい。特に、端部から割れが発生すると、チタン系材料が破断する可能性があり、圧延ができなる場合がある。
本発明は、従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、優れた中性子線遮蔽性を有するチタン材を安価に製造する技術を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下の(A)〜(E)を知見し、本発明を完成させた。
(A)工業用純チタンなどからなる梱包材の内部に、スポンジチタンなどのチタン材と、中性子線の遮蔽に有効な硼素または硼化物の粉末とを充填および封入して、内部を減圧してチタン梱包体とし、これを熱間加工用の素材とすることができる。このチタン梱包体に熱間加工、必要に応じてさらに冷間加工を行うことにより、チタン複合材を得ることが可能である。このチタン複合材は、熱間加工中に圧縮成形されて一体化した三層のクラッド材である。このため、上記のチタン複合材は、チタンに硼化物が分散し、前記硼化物の周囲に硼素が拡散した部分を備えている。
(B)上記のチタン梱包体は、硼素または硼化物の粉末を充填しているので、チタン材に固溶できる量を超えるBを含有させることができる。このチタン梱包体は、中性子線遮蔽性に優れる熱間加工用の素材である。
(C)上記のチタン複合材は、チタンに硼化物が分散し、前記硼化物の周囲に硼素が拡散した部分を備え、表層部として、JIS1〜4種のいずれかに属する化学組成の工業用純チタン材を用いた場合、または、加工性がよいチタン合金材を用いた場合には、優れた加工性および中性子線遮蔽性を有する。また、従来の溶解工程、および鍛造工程を経ずに製造でき、製造コストを大幅に低減できる。
(D)上記のチタン複合材は、表層部は硼化物を含まないため、製造時の熱間圧延や冷間圧延時に、硼化物が起点となる端部割れや表面割れが発生しない。このため、端部割れや表面割れによって圧延を中断することなく、容易に圧延ができる。
(E)チタン複合材は、ヤング率(縦弾性係数)および引張強度が高いため、剛性を要求される用途に好適に用いることができる。
本発明は、以下に列記の通りである。
(1)内層部と前記内層部を覆う表層部とを有するチタン複合材であって、
前記表層部は、JIS1〜4種のいずれかに属する化学組成の工業用純チタン材またはチタン合金材からなり、
前記内層部は、チタンに硼化物が分散しており、前記硼化物の周囲に硼素が拡散した部分を備え、面積率で、0%超30%以下の空隙を有し、Bの平均含有量が0.3〜16.0質量%以下である、チタン複合材。
(2)前記工業用純チタン材の化学組成は、質量%で、
C:0.08%以下、
H:0.013%以下、
O:0.4%以下、
N:0.05%以下、
Fe:0.5%以下、
残部:Tiおよび不純物である、
上記(1)のチタン複合材。
(3)前記硼化物は、圧延方向に並んだ筋状硼化物集合体としてチタン材に分散している、上記(1)または(2)に記載のチタン複合材。
(4)JIS1〜4種のいずれかに属する工業用純チタン材またはチタン合金材からなるチタン梱包材と、前記チタン梱包材の内部に充填された充填材とを備える梱包体であって、
前記充填材が、スポンジチタン、チタンブリケットおよびチタンスクラップから選択される1種以上と、硼素または硼化物の粉末とを有し、前記内部の圧力は10Pa以下である、熱間加工用のチタン梱包体。
本発明に係るチタン複合材は、溶解工程および鍛造工程を経て製造される、中性子線遮蔽性に優れる従来のチタン合金材と、同等の優れた中性子線遮蔽性を有する。また、溶解工程、および鍛造工程などを経ずに製造可能であるため、製造コストを大幅に低減できる。
図1は、本発明に係るチタン複合材の構成の一例を示す説明図である。 図2は、筋状硼化物集合体42aを模式的に示す図である。 チタン複合材1の長さ方向(圧延方向)および厚さ方向に平行な断面(厚さ断面)において、1つの粒の厚さ方向の距離とその周囲の硼素濃度分布の概念を示した図である。 図4は、本発明に係るチタン複合材の熱間加工用素材であるチタン梱包体の構成の一例を示す説明図である。 図5は、チタンブリケットの構成の一例を示す説明図である。 図6は、本発明に係るチタン梱包体の別の構成の一例を示す説明図である。 図7は、Ti−1mass%B板の断面ミクロ組織写真である。
本発明に係るチタン複合材およびチタン梱包体を、添付図面を参照しながら説明する。なお、以降の説明では、化学組成に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する。
1.本発明に係るチタン複合材1の構成
図1は、本発明に係るチタン複合材1の構成の一例を示す説明図である。
図1に示すように、チタン複合材1は、表層部2,3と内層部4とを備える。以下、各層について説明する。
(a)表層部2,3
(a−1)表層部2,3の化学組成
表層部2,3をなす工業用純チタン材としては、JIS1〜4種のいずれかに属する化学組成の工業用純チタン材を用いることができる。例えば、表層部2,3は、C:0.08%以下、H:0.013%以下、O:0.4%以下、N:0.05%以下、Fe:0.5%以下、残部Tiおよび不純物の化学組成を有する。
なお、上記のJIS1種〜4種は、JISH4600:2012に規定されたものとする。JIS1種とはC:0.08%以下、H:0.013%以下、O:0.15%以下、N:0.03%以下、Fe:0.20%以下、残部Tiおよび不純物の組成を有する。JIS2種とは、C:0.08%以下、H:0.013%以下、O:0.20%以下、N:0.03%以下、Fe:0.25%以下、残部Tiおよび不純物の組成を有する。JIS3種とは、C:0.08%以下、H:0.014%以下、O:0.30%以下、N:0.05%以下、Fe:0.30%以下、残部Tiおよび不純物の組成を有する。JIS4種とは、C:0.08%以下、H:0.013%以下、O:0.40%以下、N:0.05%以下、Fe:0.50%以下、残部Tiおよび不純物の組成を有する。
一方、表層部2,3をなすチタン合金材としては、α型チタン合金、α+β型チタン合金、またはβ型チタン合金を用いることができる。
α型チタン合金としては、例えば、Ti−0.06%Pd、Ti−0.2Pd、Ti−0.02Pd−0.05Mm(ここで、Mmは、ミッシュメタルを指す)、Ti−0.5Ni−0.05Ru、Ti−0.5Cu、Ti−1.0Cu、Ti−1.0Cu−0.5Nb、Ti−1.0Cu−1.0Sn−0.3Si−0.25Nb、Ti−0.5Al−0.45Si、Ti−0.9Al−0.35Si、Ti−3Al−2.5V、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−6Al−2.75Sn−4Zr−0.4Mo−0.45Siなどがある。
α+β型チタン合金としては、例えば、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−7V、Ti−3Al−5V、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−1Fe−0.35O、Ti−1.5Fe−0.5O、Ti−5Al−1Fe、Ti−5Al−1Fe−0.3Si、Ti−5Al−2Fe、Ti−5Al−2Fe−0.3Si、Ti−5Al−2Fe−3Mo、Ti−4.5Al−2Fe−2V−3Moなどがある。
さらに、β型チタン合金としては、例えば、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn、Ti−8V−3Al−6Cr−4Mo−4Zr、Ti−10V−2Fe−3Mo、Ti−13V−11Cr−3Al、Ti−15V−3Al−3Cr−3Sn、Ti−6.8Mo−4.5Fe−1.5Al、Ti−20V−4Al−1Sn、Ti−22V−4Alなどがある。
(a−2)表層部2,3の厚さ
チタン複合材1は、表層部2,3の厚さが厚過ぎると、内層部4の厚さが薄くなるため、中性子線遮蔽効果を十分に得られない。このため、表層部2,3の厚さは、好ましくは、チタン複合材1の全厚さに対して片面当たり40%以下であり、さらに好ましくは、片面当たり25%以下である。
一方、表層部2,3が薄い場合は、内層部4の厚さが厚くなるため、中性子線遮蔽効果は向上する。しかし、表層部2,3が薄過ぎるとチタン複合材1を加工する際に、表層部2,3が割れて内層部4が表面に現れ、内層部4にある硼化物が脱落したり、表面に現れた硼化物が起点となって表面割れや端部割れが発生する。また、水等の液体が接すると、内層部4にその液体が侵入するという問題が発生する。このため、表層部2,3の厚さは、0.1mm以上とするのが好ましい。
(b)内層部4
内層部4は、チタン41に硼化物42が分散しており、前記硼化物の周囲に硼素が拡散した部分(図示省略)を備え、面積率で、0%超30%以下の空隙43を有し、Bの平均含有量が0.3〜16.0質量%以下である。
(b−1)内層部4の化学組成
チタン複合材1の内層部4を構成するチタンとしては、例えば、JIS1種〜JIS4種の工業用純チタンを用いることができる。すなわち、一般的な不純物として、C:0.08%以下、H:0.013%以下、O:0.4%以下、N:0.05%以下、Fe:0.5%以下、残部がTiである工業用純チタンである。
特に、JIS1〜3種の工業用純チタンを使用すれば、十分な加工性を有しており、割れなどが発生せず、熱間加工後に上述の表層部2,3をなす工業用純チタンと一体化したチタン複合材1を得られる。
上記以外の残部は不純物である。不純物としては、加工性および中性子線遮蔽効果を減殺しない範囲で含有することができる。上記以外の不純物は、主にスクラップから混入する不純物元素として、Al,V,Cr,Nb,Si,Sn,MoおよびCu等があり、一般的な不純物元素(C,N,Fe,O,H)と併せて、総量で5%以下許容される。
Bは、その中に19.9%存在する10Bが熱中性子の吸収断面積が大きく、中性子線の遮蔽効果が大きいため、内層部4に硼化物42として分散させる。
BまたはTiB以外に、H 10BO10O、10Cなどの10Bが濃縮した硼素含有素材(10B含有量が概ね90%以上)を用いることができる。これらはB添加量が少なくても中性子線遮蔽効果が大きいため、極めて有効である。
10BO10O、10Cを用いる場合、内層部4に、H、O、またはC等も濃化することになる。しかし、Hは真空焼鈍などの熱処理時に素材から抜けるため問題とならない。上記の10Bが濃縮した硼素含有素材を用いる場合、チタン材7に含まれるOやCと合わせて、上記素材中のOやCが、工業用純チタンに含まれる上限以下であれば問題なく製造が可能である。例えば、上記の10Bが濃縮した硼素含有素材のO、およびCにおいては、チタン材7に含まれるOと合わせて、O含有量が0.4%以下、C含有量が0.08%以下であればよい。
また、FeB、CrB、CrB、VB、NbB,MoB等の金属硼化物を用いる場合も、金属元素が工業用純チタンに含まれる上限以下となる範囲であれば問題なく使用することができる。例えば、FeBでは、素材であるチタン41に含まれるFeと合わせて、Fe含有量が0.5%以下となる範囲で使用することができる。
さらに、酸化硼素、窒化硼素や炭化硼素についても、チタン41に含まれるO、NやCと合わせて、工業用純チタンに含まれる上限以下の、O:0.4%以下、N:0.05%以下、C:0.08%以下となる範囲であれば問題なく使用することができる。これらの硼化物は単独あるいは複数を使用してもよい。
内層部4のB濃度は、0.3〜16.0%とする。B濃度が0.3%未満では中性子線遮蔽効果を十分得られない。中性子線遮蔽効果をさらに得るためには、B濃度は2%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。一方で、B濃度が16.0%を超えると、内層部4と表層部2,3が十分に接合しない。このため、熱間圧延時の割れ、および加工性の劣化を引き起こすおそれがある。ここで、内層部4のB濃度とは、内層部4の平均のB濃度であり、内層部4から分析用の試料を採取して化学分析により求められる。
表層部および内層部の成分分析は、公知の方法(例えば、JIS H 1612(1993)、JIS H 1614(1995)、JIS H 1617(1995)、JIS H 1619(2012)、JIS H 1620(1995)、JIS H 1630(1995)、JIS H 1631(2008)、JIS H 1632(2014))により求める。なお、この際、チタン複合材から表層部および内層部をそれぞれ切り出してから測定を行う。表層部は切削等で加工して得た切粉等から、内層部は表層削除後の残材から分析試料を採取して分析するのが効率的である。分析試料は、表層部、内層部の板厚方向の中心部から0.5g以上を採取する。表層部または内層部の厚さが薄く十分な量の切粉を得られない場合には、チタン複合材の全体の成分分析を行いその分析値と、表層部または内層部のいずれかの分析値と、それぞれの板厚から、表層または内層部の成分を算出(逆算)してもよい。
(b−2)内層部4の空隙率
チタン複合材1の空隙43の空隙率が多過ぎると、バルク金属としての機械的特性(強度や延性)が得られない。一方、空隙43は少ないほど望ましいが、空隙を完全に圧着させるためには、大圧下が必要となる。その結果、製造されるチタン複合材1の形状(厚さ)が制限され、さらには、製造コストが嵩む。
一方、チタン複合材1としての構造を維持するのに十分な機械的特性(強度や延性など)を有する程度に空隙43が含有される場合には、内層部4の密度が低くなり、チタン複合材1の軽量化を図ることができる。
以上のように、バルク金属としての機械的特性が重要な場合には空隙率を低くし、一方、チタン複合材1の軽量化を優先する場合には、空隙率を高くする。このように、用途に応じて、空隙率を選択することが可能である。この際の空隙率の範囲は、0%超30%以下であることが好ましく、0%超10%以下がより好ましい。なお、空隙率を10%以下とすることにより、一般的な工業用純チタンと遜色のない機械的特性を具備することができる。
チタン複合材1の内層部4に残存する空隙43の割合(空隙率)は、次のように算出される。チタン複合材1の長さ方向(圧延方向)および厚さ方向に平行な断面(厚さ断面)が観察できるように樹脂に埋め込んだ後、ダイヤモンドまたはアルミナ研濁液を用いて観察面を研磨し(鏡面化仕上げ)、観察用試料に仕上げる。
この鏡面化仕上げを行った観察用試料は、光学顕微鏡で異なる位置の20か所の厚さ中心部について、撮影される。ここで、中心部とは、チタン複合材1が板の場合は、板厚中心であり、丸棒の場合は円断面の中心である。その光学顕微鏡写真にて観察される空隙43の面積割合を測定して、20枚の写真の空隙率の値を平均した結果を空隙率として算出する。
なお、光学顕微鏡で組織写真を撮影する際には、チタン複合材1の空隙の大きさ、または空隙率に応じて適正な倍率を選択する。例えば、空隙率が1%以下の場合は、空隙が小さいので、500倍程度の高倍率で観察して、写真撮影を行うのが好ましい。空隙率が10%以上の場合は、大きな空隙が多くなるので、20倍程度の低倍率で観察を行い、写真撮影を行うのが好ましい。また、空隙が小さくなるような空隙率が1%以下の場合、偏光観察が可能な微分干渉顕微鏡を用いることにより、通常の光学顕微鏡よりもより明瞭に観察することができる。
(b−3)内層部4の組織
図1に示すように、チタン複合材1中の内層部4には、硼化物42が多く含まれている。この硼化物42は、チタン複合材1の製造過程における熱間加工などにより、一部のBがチタン41に拡散するが、チタン41に固溶できないBは、硼化物42としてチタン材41に分散した状態で残存する。このとき、硼化物42は、加工(圧延)方向に並び、筋状硼化物集合体42aを構成している。また、硼化物42には、完全に硼化物を形成しているもののほか、内部に硼素が存在している硼化物を含む。例えば、硼化物の素材として硼素粉末を用いた場合、熱間圧延等の製造過程において硼素がチタンと反応して硼化物を形成するが、その硼化物の内部にチタンと反応しきれなかった硼素が残存することがある。
(b−3−1)硼化物の形状
図2は、筋状硼化物集合体42aを模式的に示す図である。図2に示すように、筋状硼化物集合体42aは、硼化物42の粒の中心間距離を圧延方向に投影した距離D(以下、「粒子間距離」という。)が20μm以下である複数の硼化物42の集合体を意味する。なお、本明細書において、粒子間距離が20μmを超える場合には別の筋状硼化物集合体として扱う。
筋状硼化物集合体42aは、その厚さt(すなわち、圧縮加工方向の大きさ。)が100μm以下であることが好ましい。この厚さが100μmを超えると、チタン複合材を加工する際に、硼化物42を起点に割れが発生する可能性が大きくなるからである。一方、筋状硼化物集合体42aは、その長さL(すなわち、加工方向の大きさ)は、厚さ方向の大きさ(厚さ)tの2.0倍以上(すなわち、L/t≧2.0)であることが好ましく、3.0倍以上(すなわち、L/t≧3.0)であることがより好ましい。長さLが小さいと、引張応力を受けた際に、この硼化物を起点に内層部が破断しやすくなるからである。なお、L/t≦100とするのが好ましく、L/t≦40とするのがより好ましい。
筋状硼化物集合体42aの大きさ(長さLおよび厚さt)は、次のように算出される。チタン複合材1の長さ方向(圧延方向)および厚さ方向に平行な断面(厚さ断面)を観察面とするように樹脂に埋め込んだ後、ダイヤモンドまたはアルミナ研濁液を用いて観察面を研磨して観察用試料に仕上げる。
光学顕微鏡を用いて、上記観察面の厚さ中心部の異なる位置の20か所を写真撮影する。ここで、厚さ中心部は、チタン複合材1が板である場合は板厚中心部であり、丸棒である場合は円断面の中心である。得られた20枚の写真において、筋状硼化物集合体42aの長さLと厚さtを測定し、それぞれの値の平均値を長さLと厚さtとし、L/tを計算する。
(b−3−2)拡散層の存在
硼化物42のそれぞれの粒の周囲には、硼素(B)の拡散層が存在する。拡散層とは、内層部4のチタン41に分散した硼化物42において、硼素(B)が硼化物42を中心として周辺のチタン41に拡散し、濃度勾配が形成された層をいう。
図3は、チタン複合材1の長さ方向(圧延方向)および厚さ方向に平行な断面(厚さ断面)において、1つの粒の厚さ方向の距離とその周囲の硼素濃度分布の概念を示した図である。図3に示すように、拡散層は、チタン複合材1を製造する過程で、加熱保持された際(熱間圧延前の加熱、熱間圧延中、熱間圧延後の熱処理等)に、硼化物42の粒から周囲のチタン41に硼素が拡散してできた層である。この拡散層は、内層部4のチタン41に含まれている硼素の値よりも多く含まれている。この拡散層が存在することにより、内層部4の硼化物42の粒とチタン41が強固に結合する。このため、チタン複合材1を加工する際に硼化物42を起点に割れることがない。
この拡散層は次のようにして把握できる。チタン複合材1の長さ方向(圧延方向)および厚さ方向に平行な断面(厚さ断面)を観察面とするように樹脂に埋め込んだ後、ダイヤモンドまたはアルミナ研濁液を用いて観察面を研磨して観察用試料に仕上げる。EPMAを用いて、上記観察用試料で観察される硼化物42の粒が中心になるようにして厚さ方向に線分析を行う。分析の対象は、硼素(B)である。内層部4のチタン41の値を基準にしてそれよりも濃度の高く、粒子を除いた領域が拡散層である。
前記の拡散層の厚さは、色々な因子によって変化する。例えば、硼化物を添加する場合、(1)硼化物の分解、(2)周辺へのBの拡散、によって形成されるために、硼化物の分解速度とBのチタン材内での拡散速度によって変化する。また、製造時の熱履歴によっても変化する。さらに、熱間圧延素材としての梱包体の加熱時における、スポンジチタン等と硼化物の接触程度によっても変化する。よって、拡散層の厚さは同一材の中でも色々な拡散層の厚さを有することになり、一義的に決定することは困難であるが、硼化物や硼素が存在する、または存在した部分を中心に、少なからず形成される。
(b−4)内層部4の厚さ
チタン複合材1の全厚さに対する内層部4の厚さが厚いほど、中性子線遮蔽効果は向上するので、チタン複合材1の全厚さに対して20%超とするのが好ましく、より好ましくは50%超である。一方、厚すぎると、加工性が劣化するので、内層部4の厚さは、チタン複合材1の全厚さに対して95%以下とするのが好ましい。
2.本発明に係る梱包体5の構成
チタン梱包体5は、チタン梱包材6と充填材7,8とを備える。チタン梱包体5の形状は、特定の形状に限られるものではないが、製造されるチタン複合材1の形状によって決められる。板材のチタン複合材1を製造する場合は、直方体形状のチタン梱包体5を用いる。また、丸棒や線材、さらには押出材のチタン複合材1を製造する場合には、円柱形または八角柱等多角柱形状のチタン梱包体5を用いる。チタン梱包体5の大きさは、製品の大きさ(厚さ、幅や長さ)および製造量(質量)により決められる。
(a)チタン梱包材6
(a−1)チタン梱包材6化学組成
チタン梱包材6は、チタン複合材1の表層部2,3と同様、JIS1種〜JIS4種に属する工業用純チタンまたはチタン合金材を用いる。
(a−2)チタン梱包材6形状
チタン梱包材6の形状は、熱間加工用素材として用いられるチタン梱包体5の形状に依存するため、特に定形はなく、板材や管材などを用いることができる。
熱間加工および冷間加工、焼鈍などの製造工程を経て製造されるチタン複合材1に優れた表面性状、内層部4の保持、および加工性を具備させるためには、チタン梱包材6の厚さが重要となる。
チタン梱包材6の厚さが1mm未満と薄い場合には、塑性変形に伴って熱間加工の途中で、チタン梱包材6が破断し、チタン梱包体5内部の一部が脱落する。この場合、同時に真空が破れて、チタン梱包体5の内部に充填されているチタン材7の酸化が生じる。また、チタン梱包体5の内部に充填されたチタン材7の起伏がチタン梱包体5の表面に転写され、熱間加工中に大きな表面起伏を生じるおそれもある。
これらの結果、製造されるチタン複合材1は、表面性状または延性などの機械的特性が劣化する。さらに、チタン梱包材6が過度に薄くなると、内部に充填したチタン材7の重量を支え切れないおそれがある。このため、室温や熱間保持または加工中にチタン梱包体5の剛性が不足して変形するおそれがある。
これら問題が発生することなく熱間加工を行うことができ、優れた表面性状、内層部4の保持および加工性を具備したチタン複合材1を製造するために、チタン梱包材6の厚さは、好ましくは1mm以上であり、より好ましくは2mm以上である。
さらに、チタン梱包材6の厚さは、チタン梱包体5の全厚さの25%以下が好ましい。チタン梱包材6の厚さが、チタン梱包体5の全厚さの25%より厚いと、製造上の問題は特にないものの、チタン梱包体5の全厚さに占めるチタン梱包材6の割合が大きくなり、内部、または内層部4の厚さが薄くなる。このため、チタン梱包体5内部のB量が少なくなり、中性子遮蔽効果が低くなるため好ましくない。
(b)充填材7,8
(b−1)チタン材7
充填材としてのチタン材7は、スポンジチタン、チタンブリケットおよびチタンスクラップから選択される1種以上である。
(b−1−1)チタン材7の化学組成
チタン材7の化学組成は、JIS1種〜JIS4種に相当する工業用純チタンを用いることができる。すなわち、C:0.08%以下、H:0.013%以下、O:0.4%以下、N:0.05%以下、Fe:0.5%以下、残部Tiおよび不純物の化学組成を有する。
(b−1−2)チタン材7の形状
チタン材7としては、従来のクロール法などの製錬工程により製造された通常のスポンジチタンを用いることができる。その大きさは、平均粒径で20mm以下であることが好ましい。平均粒径が20mmより大きいと、硼化物等の粉末8と均一に混合し難く、熱間加工によって製造したチタン複合材1の内層部4内でB濃度のむらを生じるおそれがある。一方、平均粒径が小さい場合には、特性面では問題はないが、チタン材7の平均粒径が0.5mm未満では、破砕するのに時間がかかり、微細な粉塵の発生も多く飛散するため、製造効率が悪くなる。このため、チタン材7の平均粒径は0.5mm以上であることが好ましい。
チタン材7としては、チタンスクラップを用いることできる。例えば、チタンスクラップは、工業用純チタン材の製造工程で発生する製品にならない端材、工業用純チタン素材を製品形状とするために切削、研削した際に発生するチタン切粉、製品として使用した後の不要になった工業用純チタン材等である。チタンスクラップは、大き過ぎると、搬送し難い、チタン梱包体5に入れ難いといった問題があるので、適宜切断するのが望ましい。
スポンジチタンまたはチタンスクラップは塊状であるため、素材の間には空隙(すきま)9がある。スポンジチタン等のハンドリング性向上、またはこれら空隙を少なくするために、予めスポンジチタン等および硼化物の粉末8を混合後に圧縮成形して、図5に示すようなブリケット10としてからチタン梱包体5に入れてもよい。
(b−2)硼化物等の粉末8
(b−2−1)硼化物等の粉末8の化学組成
硼化物等の粉末8は、硼素B、TiBなどが代表的に例示される。この他にも、H 10BO10O、10Cなどの10Bが濃縮した硼素含有素材(10B含有量が概ね90%以上)の粉末や、金属硼化物、酸化硼素、炭化硼素、窒化硼素の粉末が例示される。これらの粉末8は、市販されているものを用いればよい。
これらのH 10BO10O、10Cなどの10Bが濃縮した硼素含有素材や、金属硼化物、酸化硼素、炭化硼素、窒化硼素は、B以外に、チタン以外の金属や酸素、水素、炭素、窒素を含有している。しかしながら、前述したように工業用純チタンに含まれる上限以下であれば特に問題とならない。また、製造条件において、上記元素を低減したい場合は、硼化物の粉末としてTiBの粉末を用いることが好ましい。
(b−2−2)硼化物等の粉末8の形状
硼化物等の粉末8の平均粒径が100μmを超えると、チタン材7と均一に混合し難い。よって、チタン複合材1の内層部4内でB濃度のむらを生じるおそれがあるため好ましくない。このため、硼化物等の粉末8の平均粒径は、好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下である。
一方、硼化物等の粉末8の平均粒径がより小さい場合には特性面では問題はないものの、小さ過ぎると、チタン材7と混合する際、またはチタン梱包体5中に充填する際に、粉塵の飛散が問題になって作業に支障をきたすおそれがある。このため、硼化物等の粉末8の平均粒径は0.1μm以上であることが好ましい。
(C)梱包体5の内部圧力
チタン梱包体5内の空隙43に空気が残存していると、熱間加工前の加熱時にチタン材7が酸化・窒化してしまい、製造されるチタン複合材1の延性が低下する。このため、チタン梱包体5内を減圧して高真空とすることが有効である。
熱間加工時のチタン材7の酸化・窒化を防止するためには、チタン梱包体5の内部圧力(絶対圧)を10Pa以下、好ましくは1Pa以下にすることがよい。チタン梱包体5の内部圧力が10Paより大きいと、残留している空気によりチタン材7が酸化、または窒化してしまう。内部圧力を極端に小さくすることは、装置の気密性向上、および真空排気装置の増強などを要し、製造コストの増大に繋がるので、内部圧力の下限は、1×10−3Paとするのがよい。
3.チタン複合材1の製造方法
チタン複合材1は、チタン梱包体5に熱間加工、またはさらに冷間加工を行うことにより製造される。
(a)熱間加工方法
熱間加工の方法は、製品の形状によって選択することができる。板材のチタン複合材1を製造する場合は、直方体形状(スラブ)のチタン梱包体5を加熱して、熱間圧延を行い、チタン板とする。必要に応じて、従来工程と同様に、熱間圧延後に表面の酸化層を酸洗などで除去した後、冷間圧延を行い、さらに薄く加工してもよい。
丸棒や線材のチタン複合材1を製造する場合は、円柱や多角形形状(ビレット)のチタン梱包体5を加熱して、熱間圧延や熱間押し出しを行い、チタン丸棒や線材とする。また、必要に応じて、従来工程と同様に、熱間加工後に酸化層を酸洗などで除去した後、冷間圧延を行い、さらに細く加工してもよい。
(a−1)熱間加工の加熱温度
さらに、押出形材のチタン複合材1を製造する場合は、円柱や多角形形状(ビレット)のチタン梱包体5を加熱して、熱間押出を行い、種々の断面形状のチタン形材とする。熱間加工前の加熱温度としては、通常のチタンスラブやビレットを熱間加工する場合と同様の加熱温度とすればよい。加熱温度は、チタン梱包体5の大きさや熱間加工の度合い(加工率)によって異なるが、600℃以上1200℃以下に加熱することが好ましい。
加熱温度が低過ぎると、チタン梱包体5の高温強度が高く、変形能が低いため、熱間加工中に割れが発生し易い。特に、チタン梱包体5の溶接部が割れて、内部が露出して一部が脱落したり、内部が酸化したりすると、チタン複合材1に必要な特性が得られなくなる。また、硼化物の粒の周囲にある硼素の拡散層が形成されず、内層部の硼化物の粒とチタンが十分に結合できない。このため、チタン複合材を加工する際に硼化物を起点に割れが発生する場合がある。一方、加熱温度が高過ぎると、得られたチタン複合材1の組織が粗くなり、十分な材料特性が得られない。また、酸化により表面の梱包材6が減肉されてしまう。よって、加熱温度は、600℃〜1200℃とすることが推奨される。
(a−2)熱間加工の加工率
熱間加工の際の加工の度合い、すなわち加工率は、チタン複合材1の内層部4の空隙率を制御するために選択することができる。ここでいう加工率は、チタン梱包体5の断面積と熱間加工後のチタン複合材1の断面積の差を、チタン梱包体5の断面積で除した割合(百分率)である。
この加工率が低い場合には、チタン梱包体5内部の空隙43が十分に圧着されないため、熱間加工後であっても、空隙43のまま残存する。このような空隙を多く含むチタン複合材1は、含有する空隙の分だけ軽量となり、中性子線遮蔽効果にも問題はない。ただし、内層部4に存在する空隙43が多いため、機械的特性が十分に得られない。一方、加工率が増大すると、空隙率は低下して機械的特性が向上する。このため、製造されるチタン複合材1の機械的特性が重要視される場合には、加工率は高いほうが好ましい。
(b)熱間加工の工程
熱間圧延後は、焼鈍、冷間圧延に供してもよい。チタン複合材1は、熱間加工材(例えば熱延板)でも、冷間加工材(例えば冷延板)でも、中性子遮蔽効果に大きな違いはない。また、表面状態も圧延まま、酸洗仕上げ、焼鈍仕上げのいずれの状態でも良く、中性子遮蔽効果は変わらない。
4.チタン梱包体5の製造方法
(a)充填材7,8の混合
チタン材7に硼素または硼化物の粉末8を均一かつ高密度で充填する必要がある。このためには、これらのチタン材7および硼化物等の粉末8を容器に充填して回転または振動させて、内部のチタン材7、および硼化物等の粉末8が均一に分散するように混合すればよい。
撹拌する方法は、容器を上下方向に回転させる、水平から20〜70°傾けて斜め方向に回転させる、容器を上下方向や水平方向等に振動させる、あるいは容器内に撹拌子を挿入して撹拌子を回転させたりする方法等が挙げられる。
撹拌時間は、容器の大きさや混合するチタン材7、および硼化物等の粉末8の量により変化するが、1〜30分間であるのが好ましい。生産性を考慮すると、数分間で均一に混合できるように、容器の大きさや処理量を決めることが好ましい。
混合したチタン材7と硼化物等の粉末8は、そのままでチタン梱包体5内に充填する。あるいは、チタン材7のハンドリング性向上やこれら空隙を少なくするために、圧縮成形して図5に示すようなチタンブリケット10としてから、チタン梱包体5内に格納してもよい。
(b)溶接
チタン梱包材6を溶接部11で溶接する方法には、TIG溶接またはMIG溶接等のアーク溶接、ならびに電子ビーム溶接やレーザー溶接等が例示され、特に限定はされない。ただし、溶接雰囲気は、チタン材7、およびチタン梱包材6の面が酸化、または窒化されないように、真空雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気で溶接を行うことが好ましい。
チタン梱包材6のつなぎ目(溶接部11)を最後に溶接する際には、チタン梱包体5を真空雰囲気の容器(チャンバー)に入れて溶接を行い、チタン梱包体5の内部を真空に保つことが好ましい。
図6に示すように、硼化物等の粉末8と混合し圧縮成形したチタンブリケット10を梱包材であるチタン展伸材で覆い、チタン展伸材の全周囲をシーム溶接(回転電極を用いた抵抗溶接)して密閉し、チタン梱包体12を製造してもよい。この際、事前に端部に穴をあけて銅管をろう溶接した銅管を通して、チタン展伸材の内部を所定の圧力になるまで減圧し、減圧後に銅管を圧着して、チタン展伸材内部の圧力を保ってもよい。
5.チタン複合材1の用途
粒子線治療、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)などの放射線療法の施設に、B含有量が3.0〜4.0質量%、板厚が10〜100mmのポリエチレン材料が用いられている。また、原子力関連設備では、核燃料保管用ラックに、B含有量が0.5〜1.5質量%、板厚が4.0〜6.0mmのステンレス鋼板が用いられている。内層部4のB含有量や厚さ(B濃化層厚さ)を調整したチタン複合材1を用いることにより、上記と同等もしくはそれ以上の特性を発揮することが可能である。
表1に示すチタン梱包体を製造し、このチタン梱包体に表1に示す製作工程でチタン複合材(板材)を製造した。
充填材として、クロール法により製造した粒度が2.5mm以上6mm以下であり、化学組成がJIS1種相当のスポンジチタンAと、化学組成がJIS2種相当のスポンジチタンBを用いた。また、充填材として、市販のTiB粉末(粒度63μm以下)を用いた。さらに一部は硼素粉末(B粉末、粒度45μm以下)を用いた。
上記のスポンジチタン粒とTiB粉末やB粉末はV型混合器に所定量を投入して混合した。混合した素材は、金型に投入して圧縮成形し、厚さ15mm、幅50mm、長さ60mmの図5に示すチタンブリケットにした。
チタン梱包材として、JIS1種(TP270C;C:0.002%、H:0.004%、O:0.09%、N:0.001%、Fe:0.05%、残部Tiおよび不純物)またはJIS2種(TP340C;C:0.002%、H:0.004%、O:0.09%、N:0.001%、Fe:0.05%、残部Tiおよび不純物)工業用純チタン材からなる、厚さ1.0mmの薄板を用いた。
図6に示すように、チタンブリケットを梱包材である工業用純チタン材で覆い、工業用純チタン材の全周囲をシーム溶接(回転電極を用いた抵抗溶接)して密閉した。この工業用純チタン材は、事前に端部に穴をあけて銅管をろう溶接した。シーム溶接後、銅管を通して、工業用純チタン材の内部を所定の圧力(0.05〜1.5Pa)になるまで減圧し、減圧後に銅管を圧着して、工業用純チタン材内部の圧力を保った。
作製したチタン梱包体は、大気雰囲気下、850℃で4時間加熱した後、熱間圧延を行い、厚さ1.8〜2.2mmのチタン複合材を製作した。チタン複合材は、725℃で15分間焼鈍後、酸洗して表層のスケールを除去して、組織観察や引張試験に供した。
チタン複合材の長さ方向(圧延方向)および厚さ方向に平行な断面(厚さ断面)が観察できるように樹脂に埋め込んだ後、ダイヤモンドまたはアルミナ研濁液を用いて観察面を研磨し(鏡面化仕上げ)、観察用試料に仕上げた。空隙率は、光学顕微鏡で、上記観察用試料の厚さ中心部を20か所写真撮影して、個々の写真毎に空隙の面積率を測定してそれらの平均値を求めた。筋状硼化物集合体は、光学顕微鏡で、上記観察用試料の厚さ中心部を観察して、その形態を求めた。また、観察された筋状硼化物集合体20個について、厚さtと長さLを測定してL/tを算出して、それらの平均値を求めた。
拡散層の厚さは、TiB粉末、B粉末を添加したNo.2、No.9について、上記観察用試料の厚さ中心部に観察された筋状硼化物集合体5個について、その中に観察された3個の硼化物の粒をEPMAで測定した。硼化物の粒が中心になるようにして厚さ方向に線分析を行い、内層部のチタンの値を基準にして、それよりも硼化物の構成元素(硼素)濃度が高く、粒子を除いた片側の領域の距離を測定して、それらを平均して、筋状化合物集合体それぞれの拡散層の厚さとして求めた。
引張試験は、チタン複合材の圧延方向で評価した。引張速度は、降伏点を超えるまで0.4%/分で、降伏点を超えてからは30%/分で行い、強度を測定した。また、降伏するまでの応力−ひずみ曲線の勾配からヤング率を求めた。
また、中性子線遮蔽効果の評価は、線源としてAm−Be(4.5MeV)を用いて、線源から200mmの位置に試験片を固定した。検出器は、線源から300mmの位置に設置し、対象エネルギーのピーク値を、対照試験片となる工業用純チタンJIS1種(2mm厚)と、チタン複合材試験片で放射線等量をそれぞれ測定し、その値の比から、中性子線遮蔽効果を評価した(工業用純チタンJIS1種の中性子線遮蔽効果を1として、各試験片の値を記載した)。
結果を表1にまとめて示す。
Figure 0006756362
本発明例である試料No.2のチタン複合材の断面の組織を観察すると、図7に示されるように、黒っぽく見える部分が所々に認められる。これは、筋状硼化物集合体であり、X線回折で測定した結果、TiBであった。
本発明例である試料No.1〜13は、硼化物粉末を添加することにより、中性子遮蔽効果が1より大きく、その効果を確認できた。一方、硼化物粉末を添加していない試料No.14は中性子遮蔽効果を認められなかった(中性子線遮蔽効果は1)。また、本発明例である試料No.1〜12は、硼化物粉末を添加することにより、硼化物粉末を添加していない試料No.14に比べて、チタン複合材の強度やヤング率が向上した。
また、空隙率が30%超である試料No.15は、硼化物が点在する組織となり、各試験を実施するための試験片が作成できず、評価ができなかった。硼化物粉末を多量に添加した試料No.16においては、熱間圧延時に内部割れが発生して、健全なチタン複合材が得られなかった。
なお、チタン梱包体を作製する際に、チタン梱包体の内部の圧力を10Paより大きくした試料No.13は、板の内部が一部で酸化して強度は低下したが、十分な中性子線遮蔽効果は認められた。また、拡散層の厚さは、TiB粉末を添加したNo.2では、1〜3μmであった。B粉末を添加したNo.9では、1〜4μmであった。
表2に示すように、チタン梱包体からチタン複合材を製造した。
充填材として使用するスポンジチタンは、クロール法により製造した化学組成がJIS1種相当のスポンジチタンで、スポンジチタンCは粒度が6mm以上13mm以下ものを、スポンジチタンDは粒度が2.5mm以上6mm以下のものを、スポンジチタンEは粒度が0.8mm以上2.5mm以下のものを、それぞれ用いた。
また、チタンスクラップとして、JIS2種(O含有量:0.08%、Fe含有量:0.05%)の薄板を10〜20mm角に切断したものを一部(試料No.5)で使用した。
さらに、充填材として使用する硼素原料は、市販のTiB粉末(粒度63μm以下)を用いた。これらのスポンジチタン粒と硼素粉末(TiB粉末)は、V型混合器に所定量を投入して混合した。
梱包材の素材として、工業用純チタン材は、JIS1種(TP270H)(試料No.24、28、29)、JIS2種(TP340H)、およびTi−0.06%Pd(試料No.23)の酸洗した厚さ10mmの厚板を用いた。
図4に示すように、工業用純チタン材の5枚を仮組みし、ここにスポンジチタン粒、あるいはチタンスクラップと硼素粉末の混合物(充填材)を充填して、残りの工業用純チタン材であるチタン梱包材で蓋をした。
この状態で、真空チャンバー内に入れて、所定の圧力になるまで減圧(真空)した後、梱包材の継ぎ目を全周電子ビームで溶接した。この時のチャンバー内の圧力は、8.9×10−3〜1.2×10−1Paであった。
以上のようにして、内部にスポンジチタンやチタンスクラップと硼素粉末の混合物を充填し、雰囲気が真空であるチタン梱包体を用意した。チタン梱包体の大きさは、厚さ80×幅100×長さ120mmとした。
作製したチタン梱包体は、大気雰囲気下、850℃で6時間加熱した後、熱間圧延を行い、厚さ5mmのチタン複合板を製作した。その後、チタン複合材は、725℃で15分間焼鈍後、酸洗して表層のスケールを除去して引張試験に供した。実施例1と同様に組織観察や引張試験を行ない、チタン複合材の空隙率、硼化物の形態や大きさL/t、拡散層の厚さ、強度およびヤング率を求めた。
比較例33として、溶解法でB入りのチタン鋳塊を製造した。この例では、上記のスポンジチタンCとTiB粉末を混合した後、圧縮成形してVAR用の電極を作製した。この電極から、2回VAR溶解して、直径150mmの円柱状のB入りのチタン鋳塊を製造した。チタン鋳塊は、850℃に加熱した後、鍛造して、厚さ80×幅100mmのスラブとした。
引張試験は実施例1と同様にして、強度およびヤング率を求めた。また、中性子線遮蔽効果の評価は、線源としてAm−Be(4.5MeV)を用いて、線源から200mmの位置に試験片を固定した。検出器は、線源から300mmの位置に設置し、対象エネルギーのピーク値を、対照試験片となる工業用純チタンJIS1種(5mm厚)と、チタン複合材試験片で放射線等量をそれぞれ測定し、その値の比から、中性子線遮蔽効果を評価した(工業用純チタンJIS1種の中性子線遮蔽効果を1として、各試験片の値を記載した)。
結果を表2にまとめて示す。
Figure 0006756362
本発明例である試料No.17〜28は、硼化物粉末を添加することにより、硼化物粉末を添加していない試料No.29、30と比べて、チタン複合材の強度、およびヤング率が向上した。また本発明例である試料No.17〜28は、硼化物粉末を添加することにより、中性子線遮蔽効果が1より大きく、その効果を確認できた。一方、硼化物粉末を添加していない試料No.29、30は、中性子線遮蔽効果は認められなかった(中性子線遮蔽効果は1)。
また、空隙率が30%超である試料No.31は硼化物が点在する組織となり、各試験を実施するための試験片が作成できず、評価ができなかった。硼化物粉末を多量に添加した試料No.32においては、チタン複合材に内部割れが発生して、健全なチタン複合材が得られなかった。溶解−鍛造で製造した試料No.33は、チタン梱包体と同様に、大気雰囲気で850℃に加熱した後、熱間圧延を行い、厚さ5mmのチタン板を製作した。その際、チタン板は表面割れや端面の割れが多数発生したため、その後の引張試験片を採取できなかった。
なお、梱包材にJIS1種を用いた試料No.24、28は、JIS2種を用いた梱包材に比べて、加工性のよいチタン複合材が得られる。梱包材にTi−0.06%Pdを用いた試料No.23は、JIS2種を用いた梱包材に比べて、耐食性のよいチタン複合材が得られる。また、TiB粉末を添加したNo.17の拡散層の厚さは、1〜3μmであった。
熱間圧延で得られた表2記載の厚さ5mmのチタン複合材を725℃で15分間焼鈍後、酸洗して表層のスケールを除去した。スケールを除去したチタン複合材(熱間圧延材)は、1.0〜2.5mmの厚さまで冷間圧延を行い、その後、真空加熱炉を用いて700℃で15分間焼鈍して引張試験に供した。
引張試験は表1と同様にして、強度およびヤング率を求めた。また、中性子線遮蔽効果の評価は、線源としてAm−Be(4.5MeV)を用いて、線源から200mmの位置に試験片を固定した。検出器は、線源から300mmの位置に設置し、対象エネルギーのピーク値を、対照試験片となる工業用純チタンJIS1種と、チタン複合材試験片で放射線等量をそれぞれ測定し、その値の比から、中性子線遮蔽効果を評価した(工業用純チタンJIS1種の中性子線遮蔽効果を1として、各試験片の値を記載した)。なお、対照試験片となる工業用純チタンJIS1種の厚さは、測定するチタン複合材の厚さと同じものを用意した。
結果を表3にまとめて示す。
Figure 0006756362
本発明例である試料No.34〜39は、硼化物粉末を添加することにより、硼化物粉末を添加していない試料No.40〜42に比べて、チタン複合材の強度やヤング率が向上した。また、本発明例である試料No.34〜39は、硼化物粉末を添加することにより、中性子線遮蔽効果が1より大きく、その効果を確認できた。一方、硼化物粉末を添加していない試料No.40〜42は、中性子線遮蔽効果は認められなかった(中性子線遮蔽効果は1)。なお、TiB粉末を添加したNo.34の拡散層の厚さは、1〜2μmであった。
1 チタン複合材
2 表層部
3 表層部
4 内層部
41 チタン
42 硼化物
42a 筋状硼化物集合体
43 空隙
5 チタン梱包体
6 チタン梱包材
7 スポンジチタン
8 硼化物等の粉末
9 空隙
10 ブリケット
11 溶接部
12 チタン梱包体

Claims (4)

  1. 内層部と前記内層部を覆う表層部とを有するチタン複合材であって、
    前記表層部は、JIS1〜4種のいずれかに属する化学組成の工業用純チタン材またはチタン合金材からなり、
    前記内層部は、チタンに硼化物が分散しており、前記硼化物の周囲に硼素が拡散した部分を備え、前記硼化物は、圧延方向に並んだ筋状硼化物集合体として前記チタンに分散しており、面積率で、0%超30%以下の空隙を有し、Bの平均含有量が0.3〜16.0質量%以下である、
    チタン複合材。
  2. 前記工業用純チタン材の化学組成は、
    質量%で、
    C:0.08%以下、
    H:0.013%以下、
    O:0.4%以下、
    N:0.05%以下、
    Fe:0.5%以下、
    残部:Tiおよび不純物である、
    請求項1に記載のチタン複合材。
  3. 前記筋状硼化物集合体は、その長さをL(μm)、その厚さをt(μm)とするとき、下記の(1)式を満足する、
    請求項1または2に記載のチタン複合材。
    2.0≦L/t≦100 ・・・(1)
  4. JIS1〜4種のいずれかに属する工業用純チタン材またはチタン合金材からなるチタン梱包材と、前記チタン梱包材の内部に充填された充填材とを備える梱包体であって、
    前記充填材が、スポンジチタン、チタンブリケットおよびチタンスクラップから選択される1種以上と、硼素または硼化物の粉末とを有し、前記内部の圧力は10Pa以下である、熱間加工用のチタン梱包体。
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