以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
図1は、車両に搭載された本発明の一実施形態による車両1及び車両1を制御する電子制御ユニット200の概略構成図である。
車両1は、内燃機関10と、動力分割機構20と、第1回転電機30と、第2回転電機40と、バッテリ50と、昇圧コンバータ60と、第1インバータ70と、第2インバータ80と、を備える。車両1は、内燃機関10及び第2回転電機40の一方又は双方の動力を最終減速装置2を介して車輪駆動軸3に伝達することができるように構成されたいわゆるハイブリッド車両である。
内燃機関10は、機関本体11に形成された各気筒12内で燃料を燃焼させて、クランクシャフトに連結された出力軸13を回転させるための動力を発生させる。内燃機関10の詳細な構成については、図2及び図3を参照して説明する。
図2は、内燃機関10の概略構成図である。図3は、内燃機関10の機関本体11の断面図である。
内燃機関10は、機関本体11と、燃料供給装置90と、吸気装置100と、排気装置110と、吸気動弁装置120と、排気動弁装置130と、を備える。
機関本体11には、気筒毎に1つの点火プラグ14が、各気筒12の燃焼室15(図3参照)に臨むように設けられる。また機関本体11には、気筒毎に一対の吸気弁121と一対の排気弁131とが設けられる。図3に示すように、各気筒12の内部には、燃焼圧力を受けて各気筒12の内部を往復運動するピストン16が収められる。ピストン16は、コンロッドを介してクランクシャフトと連結されており、クランクシャフトによってピストン16の往復運動が回転運動に変換される。
燃料供給装置90は、電子制御式の燃料噴射弁91と、デリバリパイプ92と、サプライポンプ93と、燃料タンク94と、圧送パイプ95と、を備える。
燃料噴射弁91は、燃焼室15の中央頂部に配置され、各気筒12の燃焼室15に臨むように各気筒12に1つ設けられる。また図3に示すように、本実施形態では後述するスプレーガイド成層燃焼を実施することができるように、点火プラグ14の電極部14aが、燃料噴射弁91の燃料噴射領域R内又は燃料噴射領域Rの近傍に位置するように、点火プラグ14に隣接して燃料噴射弁91が配置される。燃料噴射弁91の開弁時間(噴射量)及び開弁時期(噴射時期)は電子制御ユニット200からの制御信号によって変更され、燃料噴射弁91が開弁されると燃料噴射弁91から燃焼室15内に直接燃料が噴射される。
デリバリパイプ92は、圧送パイプ95を介して燃料タンク94に接続される。圧送パイプ95の途中には、燃料タンク94に貯蔵された燃料を加圧してデリバリパイプ92に供給するためのサプライポンプ93が設けられる。デリバリパイプ92は、サプライポンプ93から圧送されてきた高圧燃料を一時的に貯蔵する。燃料噴射弁91が開弁されると、デリバリパイプ92に貯蔵された高圧燃料が燃料噴射弁91から燃焼室15内に直接噴射される。
サプライポンプ93は、吐出量を変更することができるように構成されており、サプライポンプ93の吐出量は、電子制御ユニット200からの制御信号によって変更される。サプライポンプ93の吐出量を制御することで、デリバリパイプ92内の燃料圧力、すなわち燃料噴射弁91の噴射圧が制御される。
吸気装置100は、燃焼室15内に吸気を導くための装置であって、燃焼室15内に吸入される吸気の状態(吸気圧、吸気温、外部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガス量)を変更することができるように構成されている。吸気装置100は、吸気通路101と、吸気マニホールド102と、EGR通路103と、を備える。
吸気通路101は、一端がエアクリーナ104に接続され、他端が吸気マニホールド102の吸気コレクタ102aに接続される。吸気通路101には、上流から順にエアフローメータ211、排気ターボチャージャ140のコンプレッサ141、インタクーラ105及びスロットル弁106が設けられる。
エアフローメータ211は、吸気通路101内を流れて最終的に各気筒12内に吸入される空気の流量(以下「吸気量」という。)を検出する。
コンプレッサ141は、コンプレッサハウジング141aと、コンプレッサハウジング141a内に配置されたコンプレッサホイール141bと、を備える。コンプレッサホイール141bは、同軸上に取り付けられた排気ターボチャージャ140のタービンホイール142bによって回転駆動され、コンプレッサハウジング141a内に流入してきた吸気を圧縮して吐出する。
インタクーラ105は、コンプレッサ141によって圧縮されて高温になった吸気を、例えば走行風や冷却水などによって冷却するための熱交換器である。
スロットル弁106は、吸気通路101の通路断面積を変化させることで、吸気マニホールド102に導入する吸気量を調整する。スロットル弁106は、スロットルアクチュエータ106aによって開閉駆動され、スロットルセンサ212によってその開度(スロットル開度)が検出される。
吸気マニホールド102は、機関本体11に形成された吸気ポート17に接続されており、吸気通路101から流入してきた吸気を、吸気ポート17を介して各気筒12に均等に分配する。吸気マニホールド102の吸気コレクタ102aには、筒内に吸入される吸気の圧力(吸気圧)を検出するための吸気圧センサ213と、筒内に吸入される吸気の温度(吸気温)を検出するための吸気温センサ214と、が設けられる。
EGR通路103は、排気マニホールド111と吸気マニホールド102の吸気コレクタ102aとを連通し、各気筒12から排出された排気の一部を圧力差によって吸気コレクタ102aに戻すための通路である。以下、EGR通路103に流入した排気のことを「外部EGRガス」という。外部EGRガスを吸気コレクタ102a、ひいては各気筒12に還流させることで、燃焼温度を低減させて窒素酸化物(NOx)の排出を抑えることができる。EGR通路103には、上流から順にEGRクーラ107と、EGR弁108と、が設けられる。
EGRクーラ107は、外部EGRガスを、例えば走行風や冷却水などによって冷却するための熱交換器である。
EGR弁108は、連続的又は段階的に開度を調整することができる電磁弁であり、その開度は機関運転状態に応じて電子制御ユニット200によって制御される。EGR弁108の開度を制御することで、吸気コレクタ102aに還流させる外部EGRガスの流量が調節される。
排気装置110は、筒内から排気を排出するための装置であって、排気マニホールド111と、排気通路112と、排気後処理装置113と、排気バイパス通路114と、を備える。
排気マニホールド111は、機関本体11に形成された排気ポート18に接続されており、各気筒12から排出された排気を纏めて排気通路112に導入する。
排気通路112には、上流から順に排気ターボチャージャ140のタービン142と、排気後処理装置113と、が設けられる。
タービン142は、タービンハウジング142aと、タービンハウジング142a内に配置されたタービンホイール142bと、を備える。タービンホイール142bは、タービンハウジング142a内に流入してきた排気のエネルギによって回転駆動され、同軸上に取り付けられたコンプレッサホイール141bを駆動する。
排気後処理装置113は、排気を浄化した上で外気に排出するための装置であって、有害物質を浄化する各種の排気浄化触媒や有害物質を捕集するフィルタなどを備える。
排気バイパス通路114は、タービン142を迂回するように、一端がタービン142よりも上流側の排気通路112に接続され、他端がタービン142よりも下流側の排気通路112に接続される通路である。
排気バイパス通路114には、ウェストゲートアクチュエータ(図示せず)によって駆動されて、排気バイパス通路114の通路断面積を連続的又は段階的に調節することができるウェストゲートバルブ115が設けられる。ウェストゲートバルブ115が開かれると、タービン142よりも上流側の排気通路112を流れてきた排気の一部又は全部が排気バイパス通路114へと流入し、タービン142を迂回して外気へと排出される。そのため、ウェストゲートバルブ115の開度(以下「ウェストゲート開度」という。)を調節することで、タービン142に流入する排気の流量を調節し、タービン142の回転速度を制御することができる。すなわち、ウェストゲート開度を調節することで、コンプレッサ141によって圧縮される空気の圧力(過給圧)を制御することができる。
吸気動弁装置120は、各気筒12の吸気弁121を開閉駆動するための装置であって、機関本体11に設けられる。本実施形態による吸気動弁装置120は、各気筒12の吸気弁121を吸気行程中に開弁させることができるように構成される。
排気動弁装置130は、各気筒12の排気弁131を開閉駆動するための装置であって、機関本体11に設けられる。本実施形態による排気動弁装置130は、各気筒12の排気弁131を排気行程中に開弁させると共に、必要に応じて吸気行程中にも開弁させることができるように構成される。
図1に戻り、動力分割機構20は、内燃機関10の動力を、車輪駆動軸3を回転させるための動力と、第1回転電機30を回生駆動させるための動力と、の2系統に分割するための遊星歯車であって、サンギヤ21と、リングギヤ22と、ピニオンギヤ23と、プラネタリキャリア24と、を備える。
サンギヤ21は外歯歯車であり、動力分割機構20の中央に配置される。サンギヤ21は、第1回転電機30の回転軸33と連結されている。
リングギヤ22は内歯歯車であり、サンギヤ21と同心円上となるように、サンギヤ21の周囲に配置される。リングギヤ22は、第2回転電機40の回転軸33と連結される。また、リングギヤ22には、車輪駆動軸3に対して最終減速装置2を介してリングギヤ22の回転を伝達するためのドライブギヤ4が一体化されて取り付けられている。
ピニオンギヤ23は外歯歯車であり、サンギヤ21及びリングギヤ22と噛み合うように、サンギヤ21とリングギヤ22との間に複数個配置される。
プラネタリキャリア24は、内燃機関10の出力軸13に連結されており、出力軸13を中心にして回転する。またプラネタリキャリア24は、プラネタリキャリア24が回転したときに、各ピニオンギヤ23が個々に回転(自転)しながらサンギヤ21の周囲を回転(公転)することができるように、各ピニオンギヤ23にも連結されている。
第1回転電機30は、例えば三相の交流同期型のモータジュネレータであり、サンギヤ21に連結された回転軸33の外周に取り付けられて複数の永久磁石が外周部に埋設されたロータ31と、回転磁界を発生させる励磁コイルが巻き付けられたステータ32と、を備える。第1回転電機30は、バッテリ50からの電力供給を受けて力行駆動する電動機としての機能と、内燃機関10の動力を受けて回生駆動する発電機としての機能と、を有する。
本実施形態では、第1回転電機30は主に発電機として使用される。そして、例えば内燃機関10の始動時に出力軸13を回転させてクランキングを行うときなど、必要に応じて電動機として使用される。
第2回転電機40は、例えば三相の交流同期型のモータジュネレータであり、リングギヤ22に連結された回転軸43の外周に取り付けられて複数の永久磁石が外周部に埋設されたロータ41と、回転磁界を発生させる励磁コイルが巻き付けられたステータ42と、を備える。第2回転電機40は、バッテリ50からの電力供給を受けて力行駆動する電動機としての機能と、車両の減速時などに車輪駆動軸3からの動力を受けて回生駆動する発電機としての機能と、を有する。
バッテリ50は、例えばニッケル・カドミウム蓄電池やニッケル・水素蓄電池、リチウムイオン電池などの充放電可能な二次電池である。本実施形態では、バッテリ50として、定格電圧が200V程度のリチウムイオン二次電池を使用している。バッテリ50は、バッテリ50の充電電力を第1回転電機30及び第2回転電機40に供給してそれらを力行駆動することができるように、また、第1回転電機30及び第2回転電機40の発電電力をバッテリ50に充電できるように、昇圧コンバータ60等を介して第1回転電機30及び第2回転電機40に電気的に接続される。
昇圧コンバータ60は、電子制御ユニット200からの制御信号に基づいて一次側端子の端子間電圧を昇圧して二次側端子から出力し、逆に電子制御ユニット200からの制御信号に基づいて二次側端子の端子間電圧を降圧して一次側端子から出力することが可能な電気回路を備える。昇圧コンバータ60の一次側端子はバッテリ50の出力端子に接続され、二次側端子は第1インバータ70及び第2インバータ80の直流側端子に接続される。
第1インバータ70及び第2インバータ80は、電子制御ユニット200からの制御信号に基づいて直流側端子から入力された直流電流を交流電流(本実施形態では三相交流電流)に変換して交流側端子から出力し、逆に電子制御ユニット200からの制御信号に基づいて交流側端子から入力された交流電流を直流電流に変換して直流側端子から出力することが可能な電気回路をそれぞれ備える。第1インバータ70の直流側端子は昇圧コンバータ60の二次側端子に接続され、第1インバータ70の交流側端子は第1回転電機30の入出力端子に接続される。第2インバータ80の直流側端子は昇圧コンバータ60の二次側端子に接続され、第2インバータ80の交流側端子は第2回転電機40の入出力端子に接続される。
電子制御ユニット200は、デジタルコンピュータから構成され、双方性バス201によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)202、RAM(ランダムアクセスメモリ)203、CPU(マイクロプロセッサ)204、入力ポート205及び出力ポート206を備える。
入力ポート205には、前述したエアフローメータ211などの出力信号の他、バッテリ充電量を検出するためのSOCセンサ215、機関本体11を冷却するための冷却水の温度(以下「冷却水温」という。)を検出するための水温センサ216などの出力信号が、対応する各AD変換器207を介して入力される。また入力ポート205には、アクセルペダル220の踏み込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ217の出力電圧が、対応するAD変換器207を介して入力される。また入力ポート205には、機関回転速度Nなどを算出するための信号として、機関本体11のクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ218の出力信号が入力される。このように入力ポート205には、車両1を制御するために必要な各種センサの出力信号が入力される。
出力ポート206には、対応する駆動回路208を介して点火プラグ14や燃料噴射弁91などの各制御部品が電気的に接続される。
電子制御ユニット200は、入力ポート205に入力された各種センサの出力信号に基づいて、各制御部品を駆動して車両1を制御するための制御信号を出力ポート206から出力する。以下、電子制御ユニット200が実施する車両1の制御について説明する。
電子制御ユニット200は、バッテリ充電量に基づいて、車両1の走行モードを設定する。具体的には、電子制御ユニット200は、バッテリ充電量が所定のモード切替充電量(例えば満充電量の25%)よりも大きいときは、車両1の走行モードをEV(Electric Vehicle)モードに設定する。EVモードは、CD(Charge Depleting;充電消耗)モードと称される場合もある。
車両1の走行モードがEVモードに設定されているときは、電子制御ユニット200は、基本的に内燃機関10を停止させた状態でバッテリ50の充電電力を使用して第2回転電機40を力行駆動させ、第2回転電機40の動力のみにより車輪駆動軸3を回転させる。そして電子制御ユニット200は、所定の機関始動条件が成立しているときには例外的に内燃機関10を運転させ、内燃機関10及び第2回転電機40の双方の動力で車輪駆動軸3を回転させる。
EVモード中における機関始動条件は、車両1の走行性能確保や部品保護の観点から設定されるもので、例えば車速が所定車速以上になっているときや、アクセル踏込量が増大してアクセル踏込量及び車速に基づいて設定される車両要求出力が所定出力以上になっているとき(急加速要求時)、バッテリ温度が所定温度(例えば−10℃)以下になっているときなどが挙げられる。
このようにEVモードは、バッテリ50の充電電力を優先的に利用して第2回転電機40を力行駆動させ、少なくとも第2回転電機40の動力を車輪駆動軸3に伝達して車両1を走行させるモードである。そして、このEVモード中においては、車両の走行状態に応じて内燃機関10の再始動や一時停止が繰り返されることになる。
一方で電子制御ユニット200は、バッテリ充電量がモード切替充電量以下のときは、車両1の走行モードをHV(Hybrid Vehicle)モードに設定する。HVモードは、CS(Charge Sustaining;充電維持)モードと称される場合もある。
車両1の走行モードがHVモードに設定されているときは、電子制御ユニット200は、内燃機関10の動力を動力分割機構20によって2系統に分割し、分割した内燃機関10の一方の動力を車輪駆動軸3に伝達すると共に、他方の動力によって第1回転電機30を回生駆動する。そして、基本的に第1回転電機30の発電電力によって第2回転電機40を力行駆動し、内燃機関10の一方の動力に加えて第2回転電機40の動力を車輪駆動軸3に伝達する。例外的に、例えばアクセル踏込量が増大して車両要求出力が所定出力以上になっているときなどは、車両1の走行性能確保のために第1回転電機30の発電電力とバッテリ50の充電電力によって第2回転電機40を力行駆動し、内燃機関10及び第2回転電機40の双方の動力を車輪駆動軸3に伝達する。
このようにHVモードは、内燃機関10を運転させると共に第1回転電機30の発電電力を優先的に利用して第2回転電機40を力行駆動させ、内燃機関10及び第2回転電機40の双方の動力を車輪駆動軸3に伝達して車両1を走行させるモードである。
また電子制御ユニット200は、各走行モードにおいて内燃機関10を運転させるときは、機関運転状態(機関回転速度及び機関負荷)に基づいて、内燃機関10の運転モードを火花点火運転モード(以下「SI運転モード」という。)、又は圧縮自着火運転モード(以下「CI運転モード」という。)のいずれかに切り替える。
具体的には電子制御ユニット200は、機関運転状態が図4に実線で囲まれた圧縮自着火運転領域(以下「CI運転領域」という。)内にあれば、運転モードをCI運転モードに切り替え、CI運転領域以外の火花点火運転領域(以下「SI運転領域」という。)内にあれば、運転モードをSI運転モードに切り替える。そして電子制御ユニット200は、各運転モードに応じた内燃機関10の制御を実施する。
電子制御ユニット200は、運転モードがSI運転モードのときには、基本的に吸気行程に燃料を噴射することで燃焼室15内に理論空燃比又は理論空燃比近傍の均質な予混合気を形成して点火プラグ14による点火を行い、その予混合気を火炎伝播燃焼させて内燃機関10の運転を行う。すなわち電子制御ユニット200は、運転モードがSI運転モードのときには、燃焼室15内に均一に拡散された燃料を点火プラグ14によって点火して火炎伝播燃焼させる均質燃焼を実施する。
また電子制御ユニット200は、運転モードがCI運転モードのときには、基本的に圧縮行程に燃料を噴射して燃焼室15内に理論空燃比よりもリーンな空燃比(例えば30〜40程度)の予混合気を形成し、その予混合気を圧縮自着火燃焼させて内燃機関10の運転を行う。
予混合圧縮自着火燃焼は、火炎伝播燃焼と比べて空燃比をリーンにしても実施でき、また圧縮比を高くしても実施できる。そのため、予混合圧縮自着火燃焼を実施することで、燃費を向上させることができると共に、熱効率を向上させることができる。また、予混合圧縮自着火燃焼は、火炎伝播燃焼と比べて燃焼温度が低くなるため、NOxの発生を抑制することができる。さらに燃料の周りには十分な酸素が存在するため、未燃HCの発生も抑制することができる。
なお本実施形態では、図4に示すように、CI運転領域内の高負荷側の運転領域(外部EGR導入領域)では、筒内温度が高くなり過ぎて自着火時期が目標自着火時期よりも進角してしまうのを抑制するために、EGRクーラ107で冷却された外部EGRガスを導入するようにしている。
ここで本実施形態のようなハイブリッド車両においては、EVモード中に外部EGR導入領域で予混合気を圧縮自着火燃焼させて内燃機関10の運転を行っている状態(以下「外部EGR導入CI運転状態」という。)から内燃機関10が一時的に停止され、その後に内燃機関10が再始動される場合がある。
この内燃機関10の一時停止時、及び再始動時において、内燃機関10の出力トルク(以下「機関出力トルク」という。)をステップ的に変化させるとトルク変動に起因するショックが発生するため、連続的に変化させることが望ましい。すなわち、内燃機関10の一時停止時には連続的に機関出力トルクを低下させ、再始動時には連続的に機関出力トルクを増加させることが望ましい。予混合圧縮自着火燃焼を実施しつつ、機関出力トルクを連続的に増減させる方法としては、例えば燃料噴射量を徐々に増加又は減少させる方法が考えられる。しかしながら予混合圧縮自着火燃焼は、基本的に機関負荷が低負荷になるほど、すなわち燃料噴射量が少なくなるほど成立しにくくなる。
特に外部EGR導入CI運転状態から内燃機関10を一時的に停止させる場合には、仮に内燃機関10の一時停止要求あったときにEGR弁を全閉にしたとしても、EGR弁108よりもEGRガスの流れ方向下流側のEGR通路103や吸気マニホールド102に残留している外部EGRガス(以下「残留EGRガス」という。)が、内燃機関10の一時停止時に各気筒12に導入されることになる。また、再始動時においても、残留EGRガスがEGR通路103に残っている可能性があり、残留EGRガスが各気筒12に導入されるおそれがある。
そのため、外部EGR導入CI運転状態からの内燃機関10の一時停止時、及び再始動時において、予混合圧縮自着火燃焼を実施して機関出力トルクを連続的に増減させようとすると、特に燃焼が不安定になって失火するおそれがある。その結果、トルク変動によるショックが発生したり、排気エミッションが悪化したりするおそれがある。
そこでこのような失火を回避するために、外部EGR導入CI運転状態からの内燃機関10の一時停止時、及び再始動時において、運転モードを比較的燃焼安定性の高いSI運転モードに切り替えることも考えられる。しかしながら、運転モードをSI運転モードに切り替えたとしても、内燃機関10の一時停止時や再始動時に残留EGRガスが各気筒12に導入されると、残留EGRガスによって予混合気の均質化が図れずに、例えば火炎伝播が途切れたりして失火するおそれがある。
そこで本実施形態では、外部EGR導入CI運転状態からの内燃機関10の一時停止時、及び再始動時においては、残留EGRガスの排出を行いつつ、運転モードをスプレーガイド火花点火運転モード(以下「SGSI運転モード」という。)に切り替えることとした。
SGSI運転モードは、いわゆるスプレーガイドによって点火プラグ14の電極部14aの近傍に成層混合気を形成し、その成層混合気を火炎伝播燃焼させる成層燃焼(以下「スプレーガイド成層燃焼」という。)を実施して、内燃機関10の運転を行う運転モードである。
スプレーガイドとは、キャビティや吸気のガス流動を利用せずに、点火プラグ14の電極部14aが燃料噴射弁91の燃料噴射領域R内又は燃料噴射領域Rの近傍に位置するように点火プラグ14を配置して、点火プラグ14の電極部14aの近傍の空間に向けて直接燃料を噴射することで、燃料が燃焼室15全体に拡散する前に一時的に点火プラグ14の電極部14aの近傍に形成される可燃層によって成層混合気を形成する方法である。
このようにスプレーガイド成層燃焼は、燃料が燃焼室15全体に拡散する前に一時的に点火プラグ14の電極部14aの近傍に形成されている可燃層(成層混合気)に対して点火することで成層燃焼を行うものである。
したがってスプレーガイド成層燃焼を実施することで、各気筒12内に多量の外部EGRガスが導入されて、予混合気の均質化が図れずに火炎伝播燃焼が不安定となる状況下においても、点火プラグ14の電極部14aの近傍に部分的に形成される可燃層に対して点火が行われるため、燃焼の安定性を図ることができる。そのため、外部EGR導入CI運転状態からの内燃機関10の一時停止時、及び再始動時において、仮に残留EGRガスが各気筒12内に導入されたとしても、失火の発生を抑制することができる。
またスプレーガイドによって、燃焼室15内の中央部に可燃層を有し、気筒12の内壁面の周りに空気層を有する成層混合気を形成することができる。そのため、気筒12の内壁面の周りには、基本的に未燃混合気が存在していないので、点火プラグ14による点火後の火炎伝播中に、気筒12の内壁面の周りに存在する未燃混合気(エンドガス)がピストン16や気筒12の内壁面に押し付けられて、そのエンドガスが自着火を起こすノッキング発生も抑制することができる。
以下、この外部EGR導入CI運転状態からの内燃機関10の一時停止制御、及び再始動制御について、図5のタイムチャートを参照して説明する。
時刻t1で内燃機関10の一時停止要求が生じて、外部EGR導入CI運転状態から内燃機関10の一時停止を行うときは、運転モードをSGSI運転モードに切り替えた上で燃料噴射量を徐々にゼロまで減少させて内燃機関10を停止させる。またEGR弁108を全閉にすると共に、機関回転速度を所定の回転速度に維持して残留EGRガスの排出を行ってから機関回転速度をゼロまで低下させる。
なお時刻t1で運転モードをSGSI運転モードに切り替えた後は、燃料噴射量が徐々にゼロまで減少させられるため、それに伴って機関出力トルクも低下し、通常であれば機関回転速度も低下していくことになる。そこで本実施形態では、時刻t1以降は、機関出力トルクの低下を第1回転電機30を力行駆動することによって補って機関回転速度を所定の回転速度に維持して残留EGRガスを排出しつつ、時刻t2で機関回転速度をゼロまで低下させている。
次に時刻t3で内燃機関10の再始動要求が生じると、まず第1回転電機30を力行駆動することによって機関回転速度を所定の回転速度まで上昇させる。
そして時刻t4で機関回転速度が所定の回転速度まで上昇したら、SGSI運転モードで内燃機関10の運転を開始して、燃料噴射量を徐々にゼロから増加させていく。これに伴って時刻t3以降は機関出力トルクが徐々に増加していくため、時刻t4以降は機関回転速度が所定の回転速度に維持されるように、第1回転電機の回転速度を徐々に低下させ、時刻t5で第1回転電機の回転速度をゼロまで低下させている。
なお図5に示すように本実施形態では、内燃機関10の一時停止要求があった後の時刻t1から時刻t2までの期間L1と、内燃機関10の再始動要求があった後の時刻t3から時刻t4までの期間L2と、を合計した期間を残留EGRガスの排出期間Lとしている。
内燃機関10は、クランクシャフトが2回転すると排気量(気筒数Ncyl×気筒あたりの行程容積Vcyl)分の排気が排気通路112に排出されることになる。そこで本実施形態では、EGR弁108よりもEGRガスの流れ方向下流側のEGR通路103及び吸気マニホールド102の容積をVinとし、期間L1の間の機関総回転回数をNL1とし、期間L2の間の機関総回転回数をNL2とすると、以下の(1)式が成立するように、期間L1及び期間L2を設定するようにしている。
Vin<(NL1+NL2)/2×(Ncyl×Vcyl) …(1)
すなわち本実施形態では、残留EGRガスの排出期間Lの間に、少なくともEGR弁108よりもEGRガスの流れ方向下流側のEGR通路103及び吸気マニホールド102の容積Vin分の排気が各気筒12を経由して排気通路112に排出されるように、期間L1及び期間L2を設定するようにしている。
また本実施形態では、図6に示すように、内燃機関10を一時停止させるときのSGSI運転モードにおける点火時期に対して、内燃機関10を再始動させるときのSGSI運転モードにおける点火時期を全体的に進角させるようにしている。この点について図7を参照して説明する。
図7は、点火時期と吸気中の二酸化炭素濃度とに応じた内燃機関10の運転可能領域を示した図である。
図7に示すように、内燃機関10を一時停止させる場合など、吸気中の二酸化炭素濃度が高いとき、すなわち吸気中に多量の外部EGRガスが含まれているときは、ノッキングが発生しにくくなるので、点火時期を比較的進角側に設定できる。しかしながら、運転可能領域は狭く、遅角側に設定してしまうと燃焼悪化や失火を招くおそれがある。
一方で内燃機関10を再始動させる場合など、吸気中の二酸化炭素濃度が低いとき、すなわち吸気中に外部EGRガスがほとんど含まれていないときは、運転可能領域は拡大するものの、ノッキングが発生しやすくなるので、吸気中の二酸化炭素濃度が高いときよりも点火時期を遅角側に設定する必要がある。
そこで本実施形態では、内燃機関10を一時停止させるときのSGSI運転モードにおける点火時期に関しては、燃焼悪化や失火の発生を抑制するために、進角側の時期に設定している。そして内燃機関10を再始動させるときのSGSI運転モードにおける点火時期に関しては、ノッキングの発生を抑制するために、内燃機関10を一時停止させるときのSGSI運転モードにおける点火時期よりも遅角側の時期に設定している。
図8は、外部EGR導入CI運転状態からの内燃機関10の一時停止制御、及び再始動制御制御について説明するフローチャートである。
ステップS1において、電子制御ユニット200は、外部EGR導入CI運転状態からの内燃機関10の一時停止要求があるか否かを判定する。電子制御ユニット200は、外部EGR導入CI運転状態からの内燃機関10の一時停止要求があればステップS2の処理に進む。一方で電子制御ユニット200は、外部EGR導入CI運転状態からの内燃機関10の一時停止要求がなければ今回の処理を終了する。
ステップS2において、電子制御ユニット200は、EGR弁108を全閉にする。
ステップS3において、電子制御ユニット200は、運転モードをSGSI運転モードに切り替えて燃料噴射量を徐々にゼロまで減少させる。また電子制御ユニット200は、機関回転速度が所定の回転速度に維持されるように第1回転電機を力行駆動させ、内燃機関10の一時停止要求があってから期間L1が経過したときに第1回転電機30の回転速度がゼロとなるように、また期間L1の間の機関総回転回数がNL1となるように、第1回転電機を制御する。
ステップS4において、電子制御ユニット200は、内燃機関10の再始動要求があるか否かを判定する。電子制御ユニット200は、内燃機関10の再始動要求があればステップS5の処理に進む。一方で電子制御ユニット200は、内燃機関10の再始動要求がなければ、所定時間の経過後、再度内燃機関10の再始動要求があるか否かを判定する。
ステップS5において、電子制御ユニット200は、内燃機関10の再始動要求があってから期間L2が経過したときに機関回転速度が所定回転速度となるように、また期間L2の間の機関総回転回数がNL2となるように、第1回転電機30を制御する。そして電子制御ユニット200は、第1回転電機30によって機関回転速度が所定回転速度まで上昇させた後、SGSI運転モードで内燃機関10の運転を開始して、燃料噴射量を徐々にゼロから増加させる。このとき電子制御ユニット200は、機関回転速度が所定の回転速度に維持されるように、機関出力トルクの増加にあわせて第1回転電機30の回転速度が低下するように、第1回転電機30を制御する。
以上説明した本実施形態によれば、内燃機関10の燃焼室15に直接燃料を噴射するための燃料噴射弁91と、燃料噴射弁91から噴射された燃料の燃料噴射経路R内又は燃料噴射経路R近傍に電極部14aが配置された点火プラグ14と、燃焼室15から排出された排気を、EGR通路103(排気還流通路)を介して吸気マニホールド102に還流させることができるように構成された吸気装置100と、内燃機関10のクランクシャフトを回転させることが可能な第1回転電機30(回転電機)と、を備える車両1を制御する電子制御ユニット200(制御装置)が、以下のように構成されている。
すなわち本実施形態による電子制御ユニット200は、排気還流を実施して予混合圧縮自着火燃焼を行っている状態から内燃機関10を停止するときは、燃料噴射経路R上の燃料を点火プラグ14によって点火して火炎伝播燃焼させるスプレーガイド成層燃焼を実施して燃料噴射量を連続的にゼロまで減少させると共に、第1回転電機30によってクランクシャフトを回転させてEGR通路103に残留した排気を排出する機関停止制御を実施するように構成されている。
また電子制御ユニット200は、機関停止制御部によって内燃機関10を停止した後に内燃機関10を再始動するときは、第1回転電機30によってクランクシャフトを回転させて機関回転速度を高くしてから、スプレーガイド成層燃焼を実施して燃料噴射量を連続的にゼロから増加させる機関再始動制御を実施するように構成されている。
さらに電子制御ユニット200は、機関停止制御中に実施されるスプレーガイド成層燃焼の点火時期を、機関再始動制御中に実施されるスプレーガイド成層燃焼の点火時期よりも進角側に設定するように構成されている。
このように排気還流を実施して予混合圧縮自着火燃焼を行っている状態から内燃機関10を停止するときてスプレーガイド成層燃焼を実施することで、EGR通路103内の残留EGRガスが各気筒12内に導入されて予混合気の均質化が図れずに火炎伝播燃焼が不安定となる状況下においても、点火プラグ14の電極部14aの近傍に部分的に形成される可燃層に対して点火が行われるため、燃焼の安定性を図ることができる。そのため、失火の発生を抑制して、トルク変動によるショックの発生、及び排気エミッションの悪化を抑制することができる。
また、機関停止制御中に実施されるスプレーガイド成層燃焼の点火時期を、機関再始動制御中に実施されるスプレーガイド成層燃焼の点火時期よりも進角側に設定することで、機関停止制御中においては、燃焼悪化や失火の発生を抑制することができる。また機関再始動制御中においては、ノッキングの発生を抑制することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば上記の実施形態では、内燃機関10の一時停止要求があったときは、EGR弁108を全閉にしていた。しかしながら、例えば図9のタイムチャートに示すように、内燃機関10の再始動後に速やかに外部EGRガスを導入することを目的として、またEGR率の予測精度向上を目的として、EGR弁108を開いたままにしておくことも考えられる。
このような場合には、残留EGRガスが、EGR弁108よりもEGRガスの流れ方向下流側のEGR通路103及び吸気マニホールド102だけでなく、排気マニホールド111やEGR弁108よりもEGRガスの流れ方上流側のEGR通路103にも存在している可能性がある。そのため、前述した(1)式でで、全ての残留EGRガスを排出できないおそれがある。
したがって、このような場合には、排気マニホールド111及びEGR弁108よりもEGRガスの流れ方上流側のEGR通路103の容積をVexとすると、以下の(2)式が成立するように、期間L1及び期間L2を設定することで、全ての残留EGRガスの排出を行うことができる。
Vin+Vex<(NL1+NL2)/2×(Ncyl×Vcyl) …(2)