本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るグランドパッキン1の一部断面斜視図である。図2(a)は、グランドパッキン1の使用状態の一例を示す断面図である。図2(b)は、図2(a)のグランドパッキン1の概略斜視図である。図3は、グランドパッキン1の断面図である。なお、これらの図においては、グランドパッキン1を、説明の便宜上、模式的に示している。
図1に示すように、グランドパッキン1は、シール材組成物2を用いて構成された紐状のシール材である。グランドパッキン1は、図2(a)に示すように、使用時に互いに対向する内側被シール部(所定の機器の軸材)101と外側被シール部(前記所定の機器の静止部)102との間をその対向方向と略直交する方向(前記軸材の軸方向)に圧縮された状態でシールできるように構成されている。
本実施形態において、グランドパッキン1は、図1、図3に示すように、シール材組成物2からなる中芯材3を備えている。グランドパッキン1は、また、別のシール材組成物として、ひねられた状態または編組された状態で中芯材3の周りに設けられたヤーン(編み糸)4を複数備えている。グランドパッキン1は、所定の長手方向長さを有する紐状に形成されている。
グランドパッキン1は、例えば使用に際し、まず図2(b)に示すように内側被シール部101に対応するリング状に形成され、または、圧縮成形される。そして、グランドパッキン1は、図2(a)に示すように、内側被シール部101の周囲に位置する外側被シール部102のスタッフィングボックス103に詰め込まれ、グランド(パッキン押え)104で締め付けられた状態に保持される。
次に、中芯材3(シール材組成物2)について図面を参照しつつ説明する。
図4は、中芯材3(シール材組成物2)の概略斜視図である。図5は、中芯材3の概略平面図である。図6は、中芯材3の概略一部断面図である。なお、図中の寸法比率は、説明の便宜上、適宜誇張されており、実際のものとは異なる場合がある。
ここで、中芯材3(後述の積層体5(シート状部材10)および包囲体6)に関しては、図4における矢印X方向を長手方向とし、矢印Y方向を短手方向とし、矢印Z方向を厚さ方向(上下方向)とする。
図4、図5、図6に示すように、中芯材3は、積層体5と、包囲体6とを備えている。本実施形態において、中芯材3は、直方体形状を呈する紐状(長尺状)部材であり、グランドパッキン1とほぼ同じ長手方向長さを有している。包囲体6は、長尺状に形成されたものであり、積層体5を包囲するように設けられている。
積層体5は、シート状部材10を複数有している。これらのシート状部材10は、膨張黒鉛によりテープ状(帯状)に形成されるとともに、包囲体6の長手方向Xと交差する方向(厚さ方向である矢印Z方向)に積層されている。そして、複数のシート状部材10のうち、積層方向に隣り合うシート状部材10が、包囲体6の長手方向Xに相対移動可能に設けられている。
本実施形態において、シート状部材10は、膨張黒鉛を主成分とする膨張黒鉛製テープ状体である。シート状部材10は、ほぼ扁平な直方体形状を呈する帯状体であり、ほぼ一定の厚さおよび包囲体6よりも短い長手方向長さを有している。なお、各シート状部材10は、他者と厳密な同一形状を有するものだけでなくてもよく、製造上の誤差を含むものであり、積層体5を成形可能な形状を有するものであればよい。
複数のシート状部材10は、互いに略同一方向に延在するように配置されている。そして、複数のシート状部材10は、隣り合うシート状部材10のうちの一方側のシート状部材10を他方側のシート状部材10に対して包囲体6の長手方向Xに所定量ずれ得るように配置され、その状態で積層体5が直方体形状を呈するように積層されている。
ここで、前述の包囲体6の長手方向Xと交差する方向、即ち複数のシート状部材10(積層体5)の積層方向とは、包囲体6の長手方向Xおよび短手方向Yと直交する厚さ方向Zに対して傾斜する方向である。この積層方向は、図2(b)に示すようにグランドパッキン1が内側被シール部101に対応するリング状に形成される場合、図3中の縦(上下)方向(概ね内側被シール部101の径方向)、図3中の横(左右)方向(概ね内側被シール部101の軸方向)、または、図3中の斜め方向とされ得る。なお、前記積層方向は、図3中の横(左右)方向とする(換言すれば、シート状部材10が内側被シール部101の軸方向に対して縦向き(略直交する向き)に並ぶ)ことが好ましい。
詳しくは、図6に示すように、隣り合うシート状部材10は、一方側のシート状部材10と他方側のシート状部材10とが積層方向とほぼ直交する方向(包囲体6の長手方向X)にそれぞれ摺動可能となるように積層されている。一方側のシート状部材10と他方側のシート状部材10との積層状態は、これらの摺動にかかわらず包囲体6によって維持される。
また、積層体5におけるすべての位置ずれ発生箇所に関する隣り合うシート状部材10のずれ量(即ち、一方側のシート状部材10と他方側のシート状部材10とのずれ量)Gは、中芯材3が外力を受けて撓まされていない図6に示す初期状態において、包囲体6の長手方向Xに沿ってほぼ同一になるように設定されている。
そして、段差部11は、このような積層状態において、隣り合うシート状部材10との間に一方側のシート状部材10(又は他方側のシート状部材10)の厚さに応じて形成されている。この段差部11は、積層体5の上面側表層部8および下面側表層部9の各々に形成されており、包囲体6の長手方向Xに沿ってほぼ等間隔に配置されている。
なお、前記初期状態における隣り合うシート状部材10のずれ量Gは、特に限定されるものではなく、隣り合うシート状部材10が相対移動する(互いに摺動する)ことにより、前記初期状態のずれ量Gよりも拡大した場合であっても積層状態が保持されるように設定されたものであればよい。また、たとえば、これらのずれ量Gは互いに異なるものであってもよい。
また、本実施形態において、シート状部材10は、上面側表層部8に露出する長手方向一端部13と、下面側表層部9に露出する長手方向他端部14と、これら両端部13、14をつなぐ長手方向中途部15とを有する。シート状部材10の長手方向一端部13および長手方向他端部14は、それぞれ長手方向中途部15を挟んだ反対側(積層体5の上面側表層部8側および下面側表層部9側)で包囲体6に接している。シート状部材10は、包囲体6の長手方向Xに対して傾斜する方向に延在している。
詳しくは、図6に示すように、積層体5の上面側表層部8および下面側表層部9においては、それぞれのシート状部材10の長手方向一端部13および長手方向他端部14により、段差部11が形成されている。そして、各シート状部材10の大部分をなす長手方向中途部15が、包囲体6の長手方向Xに対して所定の傾斜角度Θ1を有している。
各シート状部材10は、積層体5の1つの層を形成している。積層体5は、本実施形態においてはシート状部材10が7層積層された構造となっている。なお、各シート状部材10の積層数は、特に限定されるものではなく、各シート状部材10の厚さ等に応じて適宜設定され得るものであり、少なくとも2層以上であればよい。
また、図6では、隣り合うシート状部材10の間に隙間を誇張して示しているが、実際には、この隙間がほとんど生じないように複数のシート状部材10の積層が行われ、これにより積層体5は図6に示すものに比べてより扁平化したものとなる(図4参照)。
さらに、本実施形態においては、各シート状部材10の長手方向一端部13および長手方向他端部14の少なくとも一方が、包囲体6の長手方向Xに沿うように設けられている。詳しくは、長手方向一端部13および長手方向他端部14の両方が、それぞれ、包囲体6の長手方向Xとほぼ平行に延びるように、長手方向中途部15に対して折り曲げられている。
また、シート状部材10は、例えば、100mm以上、300mm以下(好ましくは、150mm以上、250mm以下)程度の長手方向長さを有し、1mm以上、30mm以下(好ましくは、3mm以上、15mm以下)程度の短手方向(長手方向Xおよび厚さ方向Zの各々と直交する方向)長さを有し、0.01mm以上、3.0mm以下(好ましくは、0.1mm以上、1.0mm以下)程度の厚さを有している。
各図に示すように、包囲体6は、隣り合う各シート状部材10(積層体5)の積層状態を保持しつつ包囲体6の長手方向Xに相対移動することを許容するように構成されている。本実施形態において、包囲体6は、その長手方向Xに沿うように積層体5を挿入可能な筒形状を有している。包囲体6の長手方向両端部は、積層体5の長手方向両端部を露出させる解放状態をとり得るようになっている。
包囲体6は、網目構造を有する網状体であり、包囲体6が囲繞する積層体5の表層に概ね接した状態で長手方向Xに延設されている。積層体5を囲繞した状態の包囲体6の外形が、実質的に、中芯材3の外形をかたちづくるようになっている。包囲体6は、適宜の編み方(例えば、ニット編み)により編まれた、又は、適宜の組み方で組まれた線材17を用いて構成されている。
なお、包囲体6は、本実施形態においては長手方向Xに対して所定の角度でねじられた(ツイストされた)線材17を備えるものとしているが、これに限定されるものではなく、長手方向Xと略同一方向に延びる線材を備えるものとしてもよい。また、線材17の間隔は、各図に示すように不均等であってもよいし、略均等であってもよい。
線材17としては、例えば、ニッケル合金若しくはステンレス線等の鉄を主成分とする合金等から構成される金属線、天然ゴム等の天然樹脂、合成樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、又は、天然若しくは合成繊維等が用いられる。なお、本実施形態における線材17には、金属線を用いている。また、線材17は、例えば、0.01mm以上、1mm以下程度の直径を有する丸線とされる。なお、包囲体6は、実際には、前述のとおり隣り合うシート状部材10の間に隙間がほとんど生じないように図5に比べて扁平化した積層体5を包囲するものとなる(図3参照)。
このような構成において、例えば中芯材3を用いてシール材を製造するために、又は、中芯材3を丸い棒状部材に巻き付けながら搬送するために、中芯材3を撓ませて湾曲させるとき、隣り合うシート状部材10を、互いの位置ずれが生じるように、それぞれ包囲体6の長手方向Xに摺動させることが可能となる。
すなわち、中芯材3は、隣り合うシート状部材10をそれぞれ撓ませながら、隣り合うシート状部材10、即ち一方側のシート状部材10と他方側のシート状部材10とを包囲体6の長手方向Xに沿うように相対移動させることが可能となる。しかも、その際には、隣り合うシート状部材10の積層状態を保持することが可能となる。
具体的には、図7に示すように、複数のシート状部材10の積層状態を維持したまま、積層体5の上面側(外周面側)表層部8においては、長手方向一端部13を矢印18で示すように摺動させ、かつ、積層体5の下面側(内周面側)表層部9においては、長手方向他端部14を矢印19で示すように摺動させることが可能となる。
したがって、中芯材3を湾曲させるべくこれに外力を付与したとき、中芯材3に急激に折り曲げられた部分が発生してしまうことを阻止でき、このような折曲部分により複数のシート状部材10のいずれかが破断することを抑止できる。よって、中芯材3に性能低下を引き起こす欠損が生じることを防止できる。
本発明に係る中芯材3は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、図8に示すような各シート状部材20が各シート状部材10よりも短い長手方向長さ、および、包囲体6の長手方向Xに対して前記実施形態の傾斜角度Θ1よりも大きい傾斜角度Θ2を有するものとしてもよい。また、図示は省略するが、各シート状部材20が各シート状部材10よりも長い長手方向長さ、および、包囲体6の長手方向Xに対して前記実施形態の傾斜角度Θ1よりも小さい傾斜角度を有するものとしてもよい。
そして、前述のような作用効果を得られることは、中芯材の可撓性についての実験により確認された。実験方法は、以下の通りである。この実験においては、中芯材として、実施例1および実施例2と、従来の中芯材と同様の構造を有する比較例1とを準備するとともに、第1丸棒状部材および第2丸棒状部材を準備した。
実施例1は、中芯材3と同様の構造を有するものである。積層体5における複数のシート状部材10は、それぞれ約200mmの長手方向長さを有し、7層積層された構造をなす。また、複数のシート状部材10は、包囲体6の長手方向に関して10cmごとに5つの段差部11を形成するようなずれ量Gをもって配置されている。
実施例2は、図8に示すような中芯材と同様の構造を有するものである。積層体5における複数のシート状部材20は、それぞれ約100mmの長手方向長さを有し、7層積層された構造をなす。また、複数のシート状部材20は、包囲体6の長手方向に関して10cmごとに7つの段差部11を形成するようなずれ量Gをもって配置されている。
比較例1は、図9に示すような従来の中芯材と同様の構造を有するものである。複数の繊維状部材30は、包囲体32内にランダムに並ぶように充填されている。また、複数の繊維状部材30は、包囲体32近傍に段差部を生じさせず、包囲体32内に多数(広い面積)の隙間が生じるように配置されている。
第1丸棒状部材は、実施例1、実施例2、および、比較例1を全周にわたって巻き付けることが可能なものであり、10mmの直径を有している。第2丸棒状部材は、実施例1、実施例2、および、比較例1を全周にわたって巻き付けることが可能なものであり、30mmの直径を有している。
そして、実施例1、実施例2、および、比較例1を、それぞれ、撓ませて湾曲させながら、第1丸棒と第2丸棒との各々にほぼ全周にわたって巻き付けた。その後、実施例1、実施例2、および、比較例1をそれぞれ第1丸棒状部材および第2丸棒状部材から取り外し、シート状部材10・20、繊維状部材30の状態を確認した。
その結果を図10に示す。すなわち、実施例1および実施例2においては、複数のシート状部材10・20のいずれについても破断は確認されなかった(図中では、このことを○で示している)。これに対し、比較例1においては、包囲体32の長手方向の2箇所で全層にわたる破断が確認された(図中では、このことを×で示している)。
また、本実施形態においては、各シート状部材10が、前述のように包囲体6の長手方向Xに対して傾斜する方向に延在しているので、中芯材3に曲げ作用が働いたとき、隣り合うシート状部材10をそれぞれ円滑に摺動させることが可能となる。よって、複数のシート状部材10において破断をより発生しにくいものにできる。
また、本実施形態においては、各シート状部材10の長手方向一端部13および長手方向他端部14が、それぞれ、包囲体6の長手方向Xに沿うように設けられているので、これらの端部13,14が包囲体6の網目部分から外部に向かって突出しなくなる。よって、長手方向一端部13および長手方向他端部14が、外部にある設置物等との衝突により破損してしまうことを抑止できる。
次に、ヤーン4について説明する。
図1、図3に示すように、ヤーン4は、本実施形態においては複数(16本)備えられている。ヤーン4は、中芯材3に沿ってその長手方向に延設されるとともに、中芯材3の周りに集束する(設けられる)ようにひねり加工又は編組されることにより、長尺形状を有する紐状のグランドパッキン1をかたちづくるようになっている。
ヤーン4は、中芯材3を被覆するように16打袋編みされている。なお、中芯材3と共にグランドパッキン1を構成するヤーン4に関しては、本実施形態においては16本のヤーンを用いる16打袋編を採用する構成としているが、この構成に限定するものではなく、例えば、4本のヤーンを用いる4打角編や8本のヤーンを用いる8打角編を採用する構成としてもよい。
各ヤーン4は、紐状の中芯材3よりも細く形成されている。そして、本実施形態においては、グランドパッキン1中の中芯材3(その含有率)がグランドパッキン1の総質量を基準にして5質量%以上、70質量%以下となるように設定されていることから、これに応じた含有率(質量比率)をヤーン4が有するようになっている。
詳細については図12を用いて後述するが、グランドパッキン1中の中芯材3の含有率が5質量%未満になると、締付完了後において初期の締付力が残留している割合(締付力残留率)が小さくなる(この現象を本明細書において「応力緩和」ともいう)。当該応力緩和の発生に伴いシール性が低下することから、グランドパッキン1中の中芯材3の含有率を5質量%以上とすることが必要である。ここで、初期の締付力が維持されずに応力緩和が生じる原因の一つは、グランドパッキン1自体が機器の隙間からはみ出し、グランドパッキン1の体積が減少することによるものである。一方、グランドパッキン1中の中芯材3の含有率が70質量%を超えると、グランドパッキン1に対するヤーン4の割合が多くなり、潤滑剤が適正量でなくなることによりシール性が低下する。これを防止するため、グランドパッキン1中の中芯材3の含有率を70質量%以下とすることが必要である。
また、グランドパッキン1中の中芯材3の含有率は、グランドパッキン1の総重量を基準にして5質量%以上、50質量%以下に設定することがより好ましく、20質量%以上、50質量%以下に設定することがさらに好ましい。グランドパッキン1中の中芯材3の含有率を20質量%以上、50質量%以下に設定することにより、漏洩量をより低減できるとともに、所定以上の高い締付力残留率を確保しやすくなる。
また、ヤーン4は、すべてが略同一構造を有するものとしているが、例えば、一部のヤーン4が残りのヤーン4に対して異なる構造を有するものとしてもよい。
図3に示すように、本実施形態において、各ヤーン4は、膨張黒鉛材51と、潤滑剤と、膨張黒鉛材51を補強するための補強材52とから構成されている。膨張黒鉛材51は、長尺状に形成されている。前記潤滑剤は、概ねヤーン4のうちの隣り合うヤーン4間に介在するように設けられている。潤滑剤としては、例えば、フッ素樹脂パウダー(PTFEディスパージョン等)が挙げられる。
補強材52は、膨張黒鉛材51をその外側または内側から補強するための少なくとも1つの線材を用いて構成されるものである。本実施形態において、補強材52は、膨張黒鉛材51をその外側から補強するものであり、膨張黒鉛材51よりも細く形成されている。補強材52を構成する前記少なくとも1つの線材としては、例えば、ニッケル合金やステンレス等の金属線、有機繊維(木綿等)または無機繊維(炭素繊維等)からなる非金属線が挙げられる。
本実施形態のように、補強材52が膨張黒鉛材51をその外側から補強する外側補強構造が用いられる場合、膨張黒鉛材51が複数の繊維状膨張黒鉛から構成され、補強材52が前記少なくとも1つの線材のニット編み等により形成された、膨張黒鉛材51を充填する筒状体とされる。なお、外側補強構造は、これに限定するものではなく、例えば膨張黒鉛材51が山折りおよび谷折り、または山折りもしくは谷折りに畳まれ、補強材52がこの折り畳まれた状態の膨張黒鉛材51を被覆する前記少なくとも1つの線材の編組体とされるものとしてもよい。
また、前記外側補強構造に代えて、補強材52を膨張黒鉛材51の内側から補強する内側補強構造を用いることも可能であり、この場合には、例えば、補強材52が張黒鉛材51に沿うように設けられ、この状態にある膨張黒鉛材51が補強材52を包むように山折りおよび谷折り、または山折りもしくは谷折りに畳まれた紐状体とされる内側補強構造を採用してもよいし、補強材52が張黒鉛材51に沿うように設けられ、この状態にある膨張黒鉛材51がひねられた紐状体とされる内側補強構造を採用してもよい。
このような構成により、グランドパッキン1を、その使用に際して、内側被シール部と外側被シール部との間に配置するために、即ち所定の機器のスタッフィングボックスに詰め込むためにリング状に湾曲させた場合、グランドパッキン1のうちの中芯材3(シール材組成物2)が、前述のとおり、隣り合うシート状部材10を、互いの位置ずれが生じるように、それぞれ包囲体6の長手方向Xに摺動することが可能となる。
したがって、シート状部材10の膨張黒鉛の一部欠損を抑止しつつ、中芯材3ひいてはこれを用いるグランドパッキン1の可撓性を向上させることができる。よって、グランドパッキン1を湾曲させたとき、シート状部材10の膨張黒鉛の一部欠損に起因する中芯材3のシール性能低下が発生することを抑制でき、グランドパッキン1のシール性能の向上を図ることができる。
さらに、例えば図3に示すようにグランドパッキン1を使用する際に、中芯材3におけるシート状部材10の積層方向が内側被シール部の軸方向となるようにグランドパッキン1をリング状に形成すれば、積層されたシート状部材10をそれぞれ複雑に折り畳んだ状態に保つことができ、中芯材3のシール性能の向上を図ることができる。これにより、グランドパッキン1のシール性能の更なる向上を図ることができる。
また、本実施形態においては、潤滑剤を使用しない中芯材3を用いるので、グランドパッキン1における、応力緩和の原因の一つとなる潤滑剤の使用量の低減を図ることができる。したがって、応力緩和を抑制でき、これによりグランドによる締付力の低下を抑制できる。結果、グランドパッキン1とスタッフィングボックスの内面との間に隙間を生じにくくして、長期間にわたって良好なシール性能を確保できる。
本発明に係るグランドパッキンを使用すれば、流体の単位時間当たりの漏洩量(シール特性)、および、締付力残留率の低下(応力緩和)が抑制されることを、次の実験を実施することにより確認できた。この実験においては、本発明に係る実施例1、実施例2、実施例3、実施例4および実施例5を準備するとともに、比較例1および比較例2を準備した。また、これらに対応する実験機70を準備した。
実施例1は、積層体(膨張黒鉛):包囲体(金属線)=85:15である質量比率を有する中芯材と、膨張黒鉛材:補強材(金属線):潤滑剤=80:10:10である質量比率を有する複数本のヤーンとを備え、中芯材:複数本のヤーン=5:95である質量比率を有するグランドパッキンである。
実施例2は、積層体(膨張黒鉛):包囲体(金属線)=85:15である質量比率を有する中芯材と、膨張黒鉛材:補強材(金属線):潤滑剤=80:10:10である重量比率を有する複数本のヤーンとを備え、中芯材:複数本のヤーン=20:80である質量比率を有するグランドパッキンである。
実施例3は、積層体(膨張黒鉛):包囲体(金属線)=85:15である質量比率を有する中芯材と、膨張黒鉛材:補強材(金属線):潤滑剤=80:10:10である重量比率を有する複数本のヤーンとを備え、中芯材:複数本のヤーン=30:70である質量比率を有するグランドパッキンである。
実施例4は、積層体(膨張黒鉛):包囲体(金属線)=85:15である質量比率を有する中芯材と、膨張黒鉛材:補強材(金属線):潤滑剤=80:10:10である質量比率を有する複数本のヤーンとを備え、中芯材:複数本のヤーン=50:50である質量比率を有するグランドパッキンである。
実施例5は、積層体(膨張黒鉛):包囲体(金属線)=85:15である質量比率を有する中芯材と、膨張黒鉛材:補強材(金属線):潤滑剤=80:10:10である質量比率を有する複数本のヤーンとを備え、中芯材:複数本のヤーン=70:30である質量比率を有するグランドパッキンである。
比較例1は、積層体(膨張黒鉛):包囲体(金属線)=85:15である質量比率を有する中芯材と、膨張黒鉛材:補強材(金属線):潤滑剤=80:10:10である質量比率を有する複数本のヤーンとを備え、中芯材:複数本のヤーン=4:96である質量比率を有するグランドパッキンである。
比較例2は、積層体(膨張黒鉛):包囲体(金属線)=85:15である質量比率を有する中芯材と、膨張黒鉛材:補強材(金属線):潤滑剤=80:10:10である質量比率を有する複数本のヤーンとを備え、中芯材:複数本のヤーン=71:29である質量比率を有するグランドパッキンである。
実験機70は、図11に示すように、油圧シリンダ71を備える油圧ユニット72と、軸荷重測定用の第1荷重変換器73と、締付力測定用の第2荷重変換器74と、パッキン箱75と、加熱ヒーター76と、制御部77とを備える。パッキン箱75には、図2(a)に示すようなシール装置80が組み込まれ得るようになっている。
実験機70は、シール対象流体を、入口路81を通じてボックス基部82に取り込み、取込後のシール対象流体を加熱ヒーター76により昇温させ、その後にパッキン箱75に組み込まれた前記シール装置に供給するとともに、このシール対象流体を供給された前記シール装置から漏洩した流体をボックス主部83から排出路84を通じて排出することができるように構成されている。
実験機70は、前記シール装置に供給されるシール対象流体の圧を検出するための圧力計86と、その検出後の圧を制御用信号に変換するための圧力変換器87と、シール対象流体の温度を検出するための温度センサ88とを備えている。さらに、実験機70は、締付力残留率を測定するためのロードセル(図示せず)を前記シール装置に備えている。
ここで、前記シール装置は、図2(a)を用いて言えば、外側被シール部102(パッキン箱75)のスタッフィングボックス103と、内側被シール部(ステム)101を囲繞する状態でスタッフィングボックス103に詰め込まれたグランドパッキン(グランドパッキン1のように配置されるもの)と、スタッフィングボックス103に詰め込まれた状態の前記グランドパッキンを締め付けるためのグランド(パッキン押え)104を備えるものである。
そして、前記シール装置は、グランド104側に設けられたボルトの締め込みにより、ステム101の軸方向に沿って並べられた複数の前記グランドパッキン(実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1および比較例2のいずれか)をステム101の軸方向に押圧して、スタッフィングボックス103の内面とステム101の外周面との間をシールするシール部を形成するようになっている。
実験時には、まず実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1および比較例2のグランドパッキンをステム101に対応するリング状に圧縮成形する。次に、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1および比較例2のいずれかのグランドパッキンがステム101を囲繞するように当該グランドパッキンを前記シール装置に複数設ける。次に、これらのグランドパッキンを備える前記シール装置をパッキン箱75に組み込む。
次に、入口路81からボックス基部82に取り込まれたシール対象流体を加熱ヒーター76により昇温させる。次に、昇温後のシール対象流体をボックス基部82からパッキン箱75に組み込まれた前記シール装置に供給する。このシール対象流体の供給時には、油圧ユニット72の油圧シリンダ71を駆動させることにより、ステム101を往復スライド移動させる。
この際に、実験機70においては、排出路84からの流体の漏洩量(単位時間当りの漏洩量)およびロードセルによる締付力残留率が計測され、制御部77に記憶されるようになっている。実験機70においては、また、流体の圧力、温度、前記シール装置(グランドパッキン)の締付力、ステム92に作用する軸荷重がそれぞれ計測され、制御部77に集約されて記憶されるようになっている。
実験機70を用いた実験条件は、次のとおりである。すなわち、リング状に圧縮性成形した実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1および比較例2の各々のグランドパッキン寸法:φ24(内径)×φ37(外径)×t6.4(高さ)、液体温度:400℃、液体圧力:15.5MPaである。
この実験により、図12に示す実験結果を得られた。図12に示す実験結果より、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4および実施例5の各々について、排出路84からの漏洩量(単位時間当りの漏洩量)、および、締付力残留率の低下(応力緩和)を抑制でき、所定の基準値内であることがわかった(図中では、このことを○で示している)。つまり、流体の単位時間当たりの漏洩量(シール特性)、および、締付力残留率の低下を抑制できる効果、即ちシール性能を向上できる効果があることが明らかになった。
また、図12に示す実験結果より、比較例1については、締付力残留率を抑制することが困難であり、所定の基準値から外れることがわかった(図中では、このことを×で示している)。さらに、比較例2については、排出路84からの漏洩量(単位時間当りの漏洩量)を抑制することが困難であり、所定の基準値から大幅に外れることがわかった(図中では、このことを×で示している)。つまり、比較例1および比較例2のような構成であれば、シール性能の向上を見込めないことが明らかになった。
また、本発明のグランドパッキンは、本実施形態においては中芯材3(シール材組成物2)とヤーン4とから構成したものとしているが、これに限定されるものではなく、ヤーン4を用いずにシール材組成物2のみから構成したものとすることも可能である。
なお、上述の教示を考慮すれば、本発明が多くの変更形態および変形形態をとり得ることは明らかである。したがって、本発明が、添付の特許請求の範囲内において、本明細書に記載された以外の方法で実施され得ることを理解されたい。