実施の形態1.
以下、本発明の各実施の形態に係る静止誘導器について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係る静止誘導器の外観を示す斜視図である。図1においては、各構成の一部をカットして示している。図2は、本発明の実施の形態1に係る静止誘導器の一部断面図である。図3は、本発明の実施の形態1に係る静止誘導器に含まれる1つの巻線の全体に絶縁物が嵌合された態様を示している。
図1および図2を参照して、本発明の実施の形態1に係る静止誘導器100は、外鉄形の変圧器である。静止誘導器100は、鉄心110と、鉄心110の主脚部を中心軸としてその周囲に巻き回されて同軸配置された低圧巻線120および高圧巻線130とを備えている。静止誘導器100はタンク135をさらに備えている。タンク135内には、絶縁媒体および冷却媒体である、絶縁油または絶縁ガスが充填されている。絶縁油は、たとえば鉱油、エステル油またはシリコン油である。絶縁ガスは、たとえば、SF6ガスまたはドライエアである。鉄心110、低圧巻線120および高圧巻線130は、タンク135内に収容されている。
低圧巻線120および高圧巻線130の中心軸の軸方向、すなわち図2の左右方向において、高圧巻線130は低圧巻線120同士に挟まれるように配置されている。高圧巻線130は、平角電線140を鉄心110の周囲に、直線部分と湾曲部分とを含むように(図3参照)巻き回して構成した断面形状が矩形状(たとえば平行四辺形状)の複数(ここでは4つ)の巻線131,132,133,134からなる。複数の巻線131,132,133,134は、巻線の中心軸の軸方向に積層されている。平角電線140は、横断面にて矩形状の電線部および電線部を被覆する絶縁被覆部(図示せず)を含む。
高圧巻線130を構成する複数の巻線131,132,133,134は、同軸配置されており互いに電気的に接続されて、その全体が単一の高圧巻線130として機能する。このため複数の巻線131,132,133,134は、もともとは別個の独立したコイルであってもよいが、その場合はこれらが互いに電気的に接続されている。たとえば図2においては巻線131の最下部と巻線132の最下部とが、巻線132の最上部と巻線133の最上部とが、巻線133の最下部と巻線134の最下部とが、それぞれ互いに接続されている。図2に示すように、巻線131〜134の中間の接続部における図2の左右方向の巻線間の間隔を狭くすることで、当該接続をより容易にしている。具体的には、巻線131〜134は当該巻線131〜134の中心軸に対して垂直な方向(図2の上下方向)に対し斜め方向に延びるように巻回されている。
同様に、低圧巻線120は、高圧巻線130の図2の左側においては、2つの巻線121,122により構成される。巻線121,122は、平角電線140を鉄心110の周囲に、直線部分と湾曲部分とを含むように(図3参照)巻き回して構成される。巻線121,122の断面形状は矩形状(たとえば平行四辺形状)である。巻線121,122は、巻線の中心軸の軸方向に積層されている。また低圧巻線120は、高圧巻線130の図2の右側においては、2つの巻線123,124により構成される。巻線123,124は、平角電線140を鉄心110の周囲に、直線部分と湾曲部分とを含むように(図3参照)巻き回して構成される。巻線123,124の断面形状は矩形状(たとえば平行四辺形状)である。巻線123,124は、巻線の中心軸の軸方向に積層されている。低圧巻線120は、3以上の複数の巻線を軸方向に積層して構成してもよい。
つまり、図2における高圧巻線130の左側の低圧巻線120を構成する複数の巻線121,122はもともとは別個の独立したコイルであってもよい。この場合、巻線121,122がたとえば図2の低圧巻線120の最下部において互いに電気的に接続されている。これにより、巻線121,122が全体として単一の低圧巻線120として機能する。同様に、図2における高圧巻線130の右側の低圧巻線120を構成する複数の巻線123,124はもともとは別個の独立したコイルであってもよい。この場合、巻線123,124がたとえば図2の低圧巻線120の最下部において互いに電気的に接続されている。これにより、巻線123,124が全体として単一の低圧巻線120として機能する。さらに巻線121,122と巻線123,124ともすべて電気的に接続されてこれらすべてが単一の低圧巻線120として機能してもよい。あるいは巻線121,122からなる低圧巻線120と、巻線123,124からなる低圧巻線120とが別個の低圧巻線120として高圧巻線130を挟むように並列接続されてもよい。
図3を参照して、低圧巻線120および高圧巻線130を構成する複数の巻線121〜124,131〜134のそれぞれは、中心軸方向から見た巻線の形状が概ね矩形状となるように直線状に延びる部分と、当該直線状に延びる部分同士を繋ぐように湾曲形状を有する部分とを有する。巻線121〜124,131〜134は図示されない鉄心110の周囲に巻回されている。そして当該複数の巻線121〜124,131〜134のそれぞれは、平面視における中心から外側に向けて巻回された平角電線140が重なる方向である径方向に関する外側の端部、および内側の端部に、絶縁物150が嵌合されている。つまり当該複数の巻線121〜124,131〜134の外側の端部には外側絶縁物150Aが嵌合されている。当該複数の巻線121〜124,131〜134の内側の端部には内側絶縁物150Bが嵌合されている。たとえば図3に示すように、4つの直線状に延びる領域に嵌合される絶縁物と、4つの湾曲形状に延びる領域に嵌合される絶縁物とにより、外側絶縁物150Aと内側絶縁物150Bとは構成される。外側絶縁物150Aと内側絶縁物150Bとのそれぞれは平面視における複数の巻線121〜124,131〜134の外側の端部または内側の端部を隙間なく1周するように配置されている。絶縁物150は実際には図3に示す態様を有しているが、以降においては図を見やすくし理解しやすくする観点から、図3中の点線で囲まれた領域Aに配置された絶縁物150について説明がなされる。
図4は、本発明の実施の形態1に係る静止誘導器に含まれる1つの巻線の一部の領域、すなわち図3中の点線で囲まれた領域Aのみに絶縁物が嵌合された態様を示している。図4を参照して、絶縁物150は、第1絶縁物151と、第2絶縁物152とを備えている。第1絶縁物151は、複数の巻線(巻線121〜124,131〜134を意味する。以下同じ)のそれぞれの端部を、図4の上側および下側から挟み込むように、当該端部に嵌合している。また第1絶縁物151は、複数の巻線のそれぞれの端部において平角電線140が巻回される方向、すなわち図4の平面視における低圧巻線120,高圧巻線130の延びる周方向に沿うように延びている。第1絶縁物151は、巻線の上側に配置される領域と、巻線の下側に配置される領域と、それらの領域に交差し図4において巻線の外側に配置される領域との3つの領域を含む。第1絶縁物151は、高圧巻線130の周方向に交差する断面において概ねU字型を有している。このようなU字型を有する第1絶縁物151は、図4においては第1絶縁物151が嵌合される複数の巻線の径方向に向けて開口を有する態様となっている。なおここで巻線の端部とは、巻線を平面視したときの最も外側に巻回される平角電線の配置位置およびそれに隣接する領域、ならびに巻線を平面視したときの最も内側に巻回される平角電線の配置位置およびそれに隣接する領域を意味する。
第1絶縁物151は、複数の巻線のそれぞれの表面に直接対向し、場合によっては密着するように配置される。これに対し、第2絶縁物152は、第1絶縁物151の外側に嵌合する。したがって第2絶縁物152は第1絶縁物151を介して複数の巻線に嵌合しており、複数の巻線のそれぞれに直接対向および密着してはいない。第2絶縁物152は第1絶縁物151に直接対向するように嵌合するため、本実施の形態においては第1絶縁物151と同様のU字型の断面形状を有している。
なお図4は図3における外側絶縁物150Aについて示しているが、図3における内側絶縁物150Bも外周絶縁物150Aと同様の構成となっている。このことは以下の各図においても同様である。
図5は、図4中の絶縁物150の好ましい第1例を示す概略図である。図6は、図4中の絶縁物150の好ましい第2例を示す概略図である。図7は、図4中の絶縁物150の好ましい第3例を示す概略図である。
図5を参照して、絶縁物150の第1例に含まれる第1絶縁物151および第2絶縁物152のそれぞれは、強度の高い材質により形成される。具体的には、第1絶縁物151および第2絶縁物152のそれぞれは、引張強度が60MPa以上の材質により構成される。たとえば、第1絶縁物151および第2絶縁物152は、プレスボードまたは強化木により形成されることが好ましい。
第1絶縁物151は、第1絶縁物端面領域151aと、1対の第1絶縁物縁面領域151b,151cとを有している。第1絶縁物端面領域151aは、第1絶縁物151のうち複数の巻線の巻回される方向(図4の平面視における巻線の周方向)に交差する方向を向く領域であり、巻線の端面に対向する領域である。より具体的には、第1絶縁物端面領域151aは、外側絶縁物150Aにおいてはこれが嵌合される巻線の径方向における外側の端面に対向し、内側絶縁物150Bにおいてはこれが嵌合される巻線の径方向における内側の端面に対向し、巻線の端面を覆う領域である。また1対の第1絶縁物縁面領域151b,151cとは、第1絶縁物端面領域151aに交差する領域であり、巻線の端面に隣接する縁面に対向する領域である。より具体的には、第1絶縁物縁面領域151bは、図4における巻線の上側に配置される領域である。第1絶縁物縁面領域151cは、巻線の下側に配置される領域である。
本実施の形態においては、第2絶縁物152は、第1絶縁物151の第1絶縁物端面領域151a、第1絶縁物縁面領域151b,151cのそれぞれと対向するように、第1絶縁物151の外側に嵌合される。すなわち第2絶縁物152は、第2絶縁物端面領域152aと、1対の第2絶縁物縁面領域152b,152cとを有している。第2絶縁物端面領域152aは第1絶縁物端面領域151aに対向および密着し、巻線の径方向に関する外側または内側に位置する。第2絶縁物縁面領域152bは第1絶縁物縁面領域151bに対向および密着し、巻線の上側に配置される。第2絶縁物縁面領域152cは第1絶縁物縁面領域151cに対向および密着し、巻線の下側に配置される。
第2絶縁物152は第1絶縁物151の外側に嵌合するように、図5における上下方向の寸法等が決定される。すなわち第1絶縁物端面領域151aの最大寸法よりも、1対の第2絶縁物縁面領域152b,152c間の距離が大きくなるように、第2絶縁物152のU字型の断面形状が設計される。
第2絶縁物152は第1絶縁物151の第1絶縁物端面領域151aを挟み込むように第1絶縁物151に嵌合している。そして第2絶縁物152は、第1絶縁物151の延びる方向すなわち巻線の周方向に沿うように延びている。
第1絶縁物151および第2絶縁物152のそれぞれは、第1絶縁物縁面領域151b,151cおよび第2絶縁物縁面領域152b,152cのそれぞれにおいて、以下の特徴を有している。すなわち第1絶縁物151および第2絶縁物152のそれぞれは、複数の巻線のそれぞれが巻回される方向において第1絶縁物151および第2絶縁物152の一部を不連続とするように(すなわち互いに間隔を隔てるように)、1つ以上の切れ目153aを有している。つまり切れ目153aの存在部分において、第1絶縁物151および第2絶縁物152を構成する材料が欠損し、その延びる方向すなわち巻線の巻回される周方向に沿って不連続となっている。切れ目153aでは、図5の上下方向の厚み全体分に関して当該材料が欠損している。つまり、切れ目153aの形成領域には第1絶縁物縁面領域151b,151cまたは第2絶縁物縁面領域152b,152cの構成材料がまったく配置されない。
図5に示す第1例においては、第1絶縁物151の切れ目153aと、第2絶縁物152の切れ目153aとは、平面視において異なる位置に配置されている。言い換えれば、第1絶縁物151の切れ目153aと、第2絶縁物152の切れ目153aとは、互いに重ならない位置に配置されている。なおここで互いに重ならない切れ目153aとは、第1絶縁物縁面領域151bとそれに密着する第2絶縁物縁面領域152bとの切れ目同士であり、また第1絶縁物縁面領域151cとそれに密着する第2絶縁物縁面領域152cとの切れ目同士である。つまり第1絶縁物151の第1絶縁物縁面領域151bと第1絶縁物縁面領域151cとの切れ面153は互いに重なってもよい。同様に、第2絶縁物152の第2絶縁物縁面領域152bと第2絶縁物縁面領域152cとの切れ面153は互いに重なってもよい。
第1絶縁物151および第2絶縁物152において、切れ目153aは、第1絶縁物151などが嵌合される巻線の径方向に関する内側の曲面、すなわち第1絶縁物縁面領域151b,151cの最も内側の面から、径方向に関する外側に向けて延びている。
図5に示す第1例においては、第1絶縁物151および第2絶縁物152の切れ目153aは、第1絶縁物縁面領域151b,151cまたは第2絶縁物縁面領域152b,152cの最も内側の面から、径方向に関する外側に向けて、平面視における巻線の周方向に沿う方向の幅が徐々に小さくなるように形成されている。つまり切れ目153aは、径方向における外側に向けて尖った、三角形状に近い平面形状を有している。言い換えれば切れ目153aは、第1絶縁物端面領域151aまたは第2絶縁物端面領域152aから離れるにつれて、巻線の周方向に沿う方向に関する幅が大きくなっている。
図5の第1例において、第1絶縁物151の切れ目153aは、第1絶縁物縁面領域151bおよび第1絶縁物縁面領域151cのそれぞれに、周方向に関する中央線に対して対称となる位置に複数(図5においては3つずつ)形成されている。また図5においては同様に、第2絶縁物152の切れ目153aは、第2絶縁物縁面領域152bおよび第2絶縁物縁面領域152cのそれぞれにおいて、周方向に関する中央線に対して対称となる位置に複数(図5においては2つずつ)形成されている。言い換えれば図5においては、第1絶縁物151のうち周方向に関する一方端とその一方端にもっとも近い切れ目153aとの周方向に沿う距離と、第1絶縁物151のうち周方向に関する他方端とその他方端にもっとも近い切れ目153aとの周方向に沿う距離とは等しい。なおこのことは以下の第2例、第3例についても同様である。
図5の第1例においては、第1絶縁物151および第2絶縁物152の切れ目153aは、巻線の曲率が最も大きい位置に対応する位置、すなわち第1絶縁物151および第2絶縁物152の周方向に関する曲率が最も大きい位置に形成されることがより好ましい。このようにすれば、第1絶縁物151および第2絶縁物152を、これらが嵌合される巻線の平角電線140などの形状に沿って変形させやすくなる。なおこのことは以下の第2例、第3例についても同様である。
また図5の第1例においては、第1絶縁物縁面領域151bまたは第1絶縁物縁面領域151cに設けられる複数の切れ目153aの、巻線の周方向に関する合計寸法(最も内側における最大値の合計値)は、第1絶縁物縁面領域151b,151cの最も内側の曲面から径方向に、第1絶縁物端面領域151aの表面に交わる箇所までの距離をHとすれば(図4参照)、H×円周率÷2以上であることが好ましい。このように切れ目153aの周方向の寸法(幅)を設定すれば、第1絶縁物151を巻線のコーナー部に沿わせて曲げたときに周方向において切れ目153aを挟む位置の第1絶縁物縁面領域151b,151cの部分が重なることを防止できる。なお上記の「周方向において切れ目153aを挟む位置」とは、周方向において切れ目153aの一方側および他方側に隣接する、切れ目153aではない第1絶縁物縁面領域151b,151cの構成材料が配置される位置を意味する。第2絶縁物152の切れ目153aの寸法についても同様に設定することができる。
図6を参照して、絶縁物150の第2例の構成は、大筋で図5の第1例と同様である。このため図6において図5と同一の構成要素には同一の符号を付しその説明を繰り返さない。ただし図6の第2例においては、第1絶縁物151および第2絶縁物152の、第1絶縁物縁面領域151b,151cおよび第2絶縁物縁面領域152b,152cのそれぞれに、1つ以上の切れ目153bが形成されている。第1絶縁物151および第2絶縁物152における切れ目153bの形成される位置は、図5の切れ目153aと同様である。ただし切れ目153bは、周方向に関する幅を有さず単に周方向に関して構成材料を不連続にするものである点において、周方向に関して幅を有する切れ目153aとは異なっている。すなわち切れ目153bは、平面視において線状の形状を有している。
図7を参照して、絶縁物150の第3例の構成は、大筋で図5の第1例と同様である。このため図7において図5と同一の構成要素には同一の符号を付しその説明を繰り返さない。ただし図7の第3例においては、第1絶縁物151および第2絶縁物152の、第1絶縁物縁面領域151b,151cおよび第2絶縁物縁面領域152b,152cのそれぞれに、1つ以上の切れ目153cが形成されている。第1絶縁物151および第2絶縁物152における切れ目153cの形成される位置は、図5の切れ目153aと同様である。ただし切れ目153cは、その形状において、三角形に近い平面形状を有する切れ目153aとは異なっている。すなわち切れ目153cは、平面視において四角形状に近い平面形状を有している。なお切れ目153cも切れ目153aと同様に、第1絶縁物端面領域151aまたは第2絶縁物端面領域152aから離れるにつれて、巻線の周方向に沿う方向に関する幅が大きくなっている。このため切れ目153cは、全体として台形に近い平面形状を有している。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の静止誘導器100においては、複数の巻線のそれぞれの端部に挟み込むように第1絶縁物151が配置され、さらにその外側に嵌合するように第2絶縁物152が配置される。巻線の端部は短絡事故が起こりやすい箇所である。このため、鉄心110と巻線120,130との間の短絡事故、巻線120,130とタンク135との間の短絡事故、巻線120と巻線130との間の短絡事故を抑制することができる。
本実施の形態の第1絶縁物151および第2絶縁物152(絶縁物150)は、引張強度が60MPa以上の絶縁材料、たとえばプレスボードまたは強化木などにより形成される。つまり、本実施の形態の絶縁物150は、たとえばシリコンゴムまたは軟らかい紙に比べて強度の高い絶縁材料により形成されている。このため、第1絶縁物151および第2絶縁物152が嵌合された巻線120,130は、短絡事故の際に巻線に生じる短絡電磁力を打ち消すだけの耐性を確保することができる。このため短絡事故による巻線の変形を抑制することができる。
なお第1絶縁物151および第2絶縁物152には切れ目153a〜153cが形成されている。このため切れ目が形成されない場合に比べ、絶縁物150が巻線の端部に嵌合された際に巻線の表面との隙間を少なくすることができる。このため、巻線の表面にしっかり密着するように第1絶縁物151および第2絶縁物152が巻線に嵌合される。これは絶縁物150が巻線の周方向に沿う方向に可撓性を有するため、巻線の製造ばらつきによりその形状および寸法が変化しても、巻線の形状等の変化に追従するように絶縁物150を変形させて嵌合できるためである。このような形状等の変化に追従するように絶縁物150が変形するのは、切れ目を有することにより形状を柔軟に変化させることができるためである。このため巻線の製造ばらつきにかかわらず、絶縁物150は巻線と良好に密着するように嵌合可能となる。したがって切れ目が存在しない場合に比べて第1絶縁物151、第2絶縁物152による絶縁性を向上させることができる。この切れ目153a〜153cは第1絶縁物縁面領域151b,151cなどの厚み方向の全体に形成される。このことから第1絶縁物151および第2絶縁物152がいっそう柔軟に変形し、巻線の表面との隙間を少なくすることができる。
以上をまとめると、本実施の形態によれば、静止誘導器100の巻線の端部の高い絶縁性能と、短絡電磁力に対する高い耐性との双方を兼ね備えさせることができる。
次に、第1絶縁物151の切れ目153a〜153cと、第2絶縁物152の切れ目153a〜153cとは、平面視において異なる位置に形成されている。このことにより以下の効果を奏する。図8はたとえば低圧巻線120を構成する巻線121,122間の構成を図2よりも詳細に示した一部断面図である。図8を参照して、静止誘導器100においては、低圧巻線120を構成する巻線121,122間など隣接する巻線間が、層間絶縁物160で埋められている。なお図示しないが高圧巻線130を構成する巻線131〜134間についても同様である。
仮に第1絶縁物151の切れ目において、当該切れ目の周方向に関する両側に隣接する第1絶縁物縁面領域151bの部分同士が重なれば、当該重なった部分の厚みが第1絶縁物縁面領域151bの部分の2倍となり大きくなる。この大きな厚み部分が発生すると、層間絶縁物160で埋められるべき領域の体積が当該部分のため大きくなる。この結果、静止誘導器100全体が大型化する問題が生じる。そこで本実施の形態のように切れ目153a〜153cのサイズを充分大きくすることで第1絶縁物151を曲げたときにおける切れ目でも第1絶縁物縁面領域151b,151cの部分の重なりを防止すれば層間絶縁物160で埋めるべき領域を小さくすることができる。これにより、静止誘導器100の大型化を回避することができる。
また、第1絶縁物151の切れ目153a〜153cと、第2絶縁物152の切れ目153a〜153cとの平面視における位置を異なるものとすることにより、平面視において2つの絶縁物のいずれか一方の切れ目と重なる位置においても、2つの絶縁物のいずれか他方の構成材料が配置されることにより絶縁性が確保される。これにより、切れ目が存在することによる絶縁性の低下を抑制することができる。
次に、本実施の形態においては、第2絶縁物152が第1絶縁物端面領域151aを挟み込むようにその上下双方側から嵌合するU字型の形状を有する。これにより、第2絶縁物152を第1絶縁物151に対して密着するように固定可能となる。これにより、第1絶縁物151のみを有する場合に比べていっそう絶縁性を高めることができる。
その他、本実施の形態においては、図5〜図7に示す切れ目153a〜153cのように、切れ目の形状を適宜変更することができる。これにより、第1絶縁物151および第2絶縁物152の、巻線の周方向に関して曲げ可能な範囲を調整することができる。
以下、本実施の形態の更なる好ましい例について説明する。図3を再度参照して、上記のように、第1絶縁物151および第2絶縁物152は、複数の巻線のそれぞれの平面視における内側の端部に嵌合する内側絶縁物150B(第1の部分)と、その外側の端部に嵌合する外側絶縁物150A(第2の部分)とを含んでいる。このとき、内側絶縁物150Bは図6に示す線状の切れ目153bを有し、外側絶縁物150Aは図5または図7に示す形状の切れ目153a,153cであることが好ましい。外側絶縁物150Aにおける切れ目153a,153cの形状は、巻線の平面視における外側の端部(すなわち第1絶縁物端面領域151a、第2絶縁物端面領域152a)から離れるにつれて、巻線の巻回される周方向に対する幅が大きくなる形状である。なお、内側絶縁物150Bでは外周側から切れ目が内周側に向かって形成されることが好ましい。
これは以下の理由による。切れ目は、絶縁性を確保する観点からはできるだけ小さい方が望ましい。ただし切れ目を小さくすると、絶縁物を曲げたときに切れ目に隣接する絶縁物の部分が重なりやすくなる。当該部分が重なれば上記のように静止誘導器100全体が大型化する。この絶縁物の部分の重なりによる静止誘導器100全体の大型化を防ぐ観点からは切れ目はできるだけ大きい方が好ましい。ただし切れ目を大きくすると、第1絶縁物151の切れ目と第2絶縁物152の切れ目とが重なりやすくなり、巻線の端部における絶縁性および短絡電磁力に対する耐性の確保が困難となる。このように切れ目が大きい場合および小さい場合のそれぞれのメリットおよびデメリットを考慮し、内側絶縁物150Bには線状の切れ目153b、外側絶縁物150Aには過剰に大きくない程度の切れ目150a,150cが形成されることが好ましい。
内側絶縁物150Bは、巻線の内側からこれを嵌め込むため、嵌合時に切れ目が広がる。これにより内側絶縁物150Bは、切れ目に隣接する内側絶縁物150Bの部分同士の重なりを心配する必要がなくなるため、絶縁性確保の観点から切れ目の幅の小さい図6の切れ目153bが用いられることが好ましい。これに対して外側絶縁物150Aは、巻線への嵌合時に切れ目の幅が縮まる。これにより外側絶縁物150Aは、切れ目の幅の大きい図5または図7の切れ目153a,153cが用いられることが好ましい。なお外側絶縁物150Aを曲げた場合、巻線の平面視における外側から内側に向かうにつれ、外側絶縁物150Aの切れ目の幅はより狭められる。このため巻線の内側における切れ目の幅をより大きくする観点から、切れ目153a,153cは、巻線の外側の端部(すなわち第1絶縁物端面領域151a、第2絶縁物端面領域152a)から離れるにつれて、巻線の巻回される周方向に対する幅が大きくなる形状であることが好ましい。
実施の形態2.
図9は、本発明の実施の形態2に係る静止誘導器の一部断面図であり、実施の形態1の図2に対応する。図10は、本発明の実施の形態2に係る静止誘導器に含まれる1つの巻線の一部の領域を示しており、実施の形態1の図4に対応する。図11は、図10中の絶縁物250の好ましい一例を示す概略図であり、実施の形態1の図5に対応する。
図9〜図11を参照して、本発明の実施の形態2に係る静止誘導器200は、静止誘導器100と大筋で同様の構成を有している。このため図9〜図11において実施の形態1の図2、図4、図5に示した静止誘導器100と同一の構成要素には同一の符号を付しその説明を繰り返さない。ただし本実施の形態においては、図9に示すように、当該複数の巻線121〜124,131〜134のそれぞれは、平面視における中心から外側に向けて巻回された平角電線140が重なる方向である径方向に関する外側の端部、および内側の端部に、絶縁物250が嵌合されている。図示されないが、絶縁物250も実施の形態1の図3の絶縁物150と同様に、外側絶縁物と内側絶縁物とが、複数の巻線121〜124,131〜134の外側の端部または内側の端部を隙間なく1周するように配置されている。
図10および図11に示すように、絶縁物250は、第1絶縁物151と、第2絶縁物252とを備えている。第1絶縁物151は実施の形態1と同様に、第1絶縁物端面領域151aと、1対の第1絶縁物縁面領域151b,151cとを有している。第1絶縁物151は実施の形態1と同様に複数の巻線のそれぞれの端部に図10の上側および下側から当該端部を挟み込むように嵌合され、概ねU字型の断面形状を有している。一方、第2絶縁物252は、実施の形態1の第2絶縁物152と同様に、第1絶縁物151の外側に嵌合されるが、第2絶縁物端面領域252aと、1つの第2絶縁物縁面領域252bとのみを有する、概ねL字型の断面形状を有している。なお第2絶縁物端面領域252aおよび第2絶縁物縁面領域252bの構成および配置などは、実施の形態1の第2絶縁物端面領域152aおよび第2絶縁物縁面領域152bのそれぞれの構成および配置などと同様である。つまり第2絶縁物252は第1絶縁物152に対し、第2絶縁物縁面領域152cに相当する部分を有さない点においてのみ異なっている。
図11に示すように、絶縁物250の第1絶縁物151および第2絶縁物252の切れ目253aの形状、配置などは、実施の形態1の図5における第1絶縁物151および第2絶縁物152の切れ目153aの形状、配置などと同様である。なお図示されないが、絶縁物250の第1絶縁物151および第2絶縁物252に、実施の形態1の図6,図7に示す切れ目153b,153cと同様の切れ目が形成されてもよい。
図12は、絶縁物250における第2絶縁物縁面領域252bを配置すべき領域を説明するための、静止誘導器の一部断面図である。図12を参照して、本実施の形態における第2絶縁物252は、第1絶縁物端面領域151aと、第1絶縁物端面領域151aに交差する1対の第1絶縁物縁面領域151b,151cのうちの一方すなわち第1絶縁物縁面領域151bとのみに嵌合するように構成される。すなわち第2絶縁物252は、第2絶縁物端面領域252aと、第2絶縁物縁面領域252bとのみを有する。第1絶縁物151の1対の第1絶縁物縁面領域のうち第2絶縁物と嵌合する第1絶縁物縁面領域151bは、複数の巻線131〜134のうち互いに隣接する1対の巻線のうち、一方の巻線の端部と他方の巻線の端部とが対向する側と反対側に配置される。つまり図12において複数の巻線131〜134のうち互いに隣接するたとえば1対の巻線131,132を考える。このとき、一方の巻線131の端部(図12の下側の端部)と他方の巻線132の端部(図12の下側の端部)とが対向する側Iと反対側Oに、第1絶縁物縁面領域151bが配置される。その結果、一方の巻線131の端部(図12の下側の端部)と他方の巻線132の端部(図12の下側の端部)とが対向する側Iと反対側Oに、第2絶縁物縁面領域252bが配置される。その他の端部、すなわち巻線132,133の近接する部分、および巻線133,134の近接する部分についても同様に、端部同士が対向する側Iと反対側Oに、第1絶縁物縁面領域151bおよび第2絶縁物縁面領域252bが配置される。
高圧巻線130の電位は、たとえば図12に示すように、巻線131側から巻線134側へ向けて漸次低くなる。具体的には、たとえば巻線131の上端の電位は100であっても、巻線131,132の下端の電位は75になり、巻線132,133の上端の電位は50になる。さらに巻線133,134の下端の電位は25になり、巻線134の上端の電位は0になる。ここで、端部同士が対向する側Iにおいては、端部同士が接触するために当該端部の電位はほぼ等しくなるが、それと反対側Oにおいては当該端部同士が接触しないためにその電位は異なったものとなる。したがって2つの隣り合う巻線が近接する端部において、電位が互いに異なる側(外側を向く側であり、図12の反対側O)に第1絶縁物縁面領域151bおよび第2絶縁物縁面領域252bが配置される。
なお図12における巻線131の上端および巻線134の上端のように他の巻線と近接対向しない端部Eにおいては絶縁物250の構成は適用しない。
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。本実施の形態は実施の形態1と同様の作用効果の他、以下の作用効果を奏する。
本実施の形態においては、第2絶縁物252が、第1絶縁物152のようなU字型の断面形状ではなくL字型の断面形状を有している。このため第2絶縁物縁面領域152cに相当する部材を有さない分だけ、図12の左右方向における第2絶縁物全体の寸法を小さくすることができる。このため静止誘導器200全体の図12での左右方向における寸法を小さくすることができ、静止誘導器200を小型化することができる。なお第2絶縁物縁面領域252bが図12の巻線同士が対向する側Iと反対側Oに配置されることにより、対向する側Iには第2絶縁物縁面領域が配置されなくなることから、対向する側Iの図12の左右方向の寸法をより小さくすることができる。その結果、静止誘導器200全体の寸法を小型化することができる。
実施の形態3.
図13は、本発明の実施の形態3に係る静止誘導器の外観を示す斜視図であり、実施の形態1の図1に対応する。図14は、図13中のXIV−XIV線に沿う部分の概略断面図である。図15は、図14中のXV−XV線に沿う部分の概略断面図であり、実施の形態1の図2に対応する。
図13〜図15を参照して、本発明の実施の形態3に係る静止誘導器300は、内鉄形の変圧器である。静止誘導器300は、鉄心310と、鉄心310の主脚部を中心軸として巻き回されて同軸配置された低圧巻線320および高圧巻線330とを備えている。静止誘導器300は、図示しないタンクをさらに備えている。タンク内には、実施の形態1と同様に、絶縁媒体および冷却媒体である、絶縁油または絶縁ガスが充填されている。鉄心310、低圧巻線320および高圧巻線330は、タンク内に収容されている。
高圧巻線330は、低圧巻線320の外側に位置している。高圧巻線330は、平角電線340を鉄心310の周囲に円盤状に巻き回して構成した複数(図15では途中省略されるが6つ)の断面形状が矩形状(たとえば長方形状)の巻線331,332,333,334,335,336により構成される。巻線331〜336は、巻線の中心軸の軸方向に積層される。平角電線340は、横断面にて矩形状の電線部および電線部を被覆する絶縁被覆部(図示せず)を含む。高圧巻線330を構成する複数の巻線331〜336は、実施の形態1の巻線131〜134と同様に、同軸配置されて互いに電気的に接続されて、その全体が単一の高圧巻線330として機能する。このため複数の巻線331〜336は、もともとは別個の独立したコイルであってもよいが、その場合はこれらが互いに電気的に接続されている。
同様に、低圧巻線320は、平角電線340を鉄心310の周囲に円盤状に巻き回して構成した複数(図15では途中省略されるが6つ)の断面形状が矩形状(たとえば長方形状)の巻線321,322,323,324,325,326により構成される。巻線321〜326は、巻線の中心軸の軸方向に積層される。つまり低圧巻線320の巻線321〜326は、高圧巻線330の巻線331〜336と同様に、同軸配置されて互いに電気的に接続されて、その全体が単一の低圧巻線320として機能する。このため複数の巻線321〜326は、もともとは別個の独立したコイルであってもよいが、その場合はこれらが互いに電気的に接続されている。
以上のように本実施の形態の静止誘導器300は内鉄形の変圧器である点において、外鉄形の変圧器である静止誘導器100と異なるが、基本的に本実施の形態は実施の形態1と大筋で同様の構成を有しているため、同様の構成についてはその説明を繰り返さない。
図16は、本発明の実施の形態3に係る静止誘導器に含まれる1つの巻線の一部の領域を示しており、実施の形態1の図4に対応する。図17は、図16中の絶縁物350の好ましい一例を示す概略図であり、実施の形態1の図5に対応する。
図16および図17を参照して、本実施の形態においては、複数の巻線321〜326,331〜336のそれぞれは、平面視における中心から外側に向けて巻回された平角電線340が重なる方向である径方向に関する外側の端部、および内側の端部に、絶縁物350が嵌合されている。図示されないが、実施の形態1,2と同様、絶縁物350も、外側絶縁物と内側絶縁物とが、複数の巻線321〜326,331〜336の外側の端部または内側の端部を隙間なく1周するように配置されている。ただし実施の形態1と異なり本実施の形態においては巻線の平面外形が円形状である。これに伴い絶縁物350も、巻線の巻回される方向に沿うよう、その全体が円弧形状を有するため、平面形状が絶縁物150,250と若干異なる。
図16および図17に示すように、絶縁物350は、第1絶縁物351と、第2絶縁物352とを備えている。第1絶縁物351は平面形状が第1絶縁物151と若干異なるが、第1絶縁物151と同様に、第1絶縁物端面領域351aと、1対の第1絶縁物縁面領域351b,351cとを有している。また第2絶縁物352は平面形状が第2絶縁物152と若干異なるが、第2絶縁物152と同様に、第2絶縁物端面領域352aと、1対の第2絶縁物縁面領域352b,352cとを有している。これらの各部の構成および配置は、実施の形態1の第1絶縁物151および第2絶縁物152の各部の構成および配置と同様であるためその説明を繰り返さない。
また図17に示すように、絶縁物350の第1絶縁物351および第2絶縁物352の切れ目353aの形状、配置などは、実施の形態1の図5における第1絶縁物151および第2絶縁物152の切れ目153aの形状、配置などと同様である。なお図示されないが、絶縁物350の第1絶縁物351および第2絶縁物352に、実施の形態1の図6,図7に示す切れ目153b,153cと同様の切れ目が形成されてもよい。
上記のように、図16および図17の絶縁物350の第1絶縁物351および第2絶縁物352は、絶縁物150の第1絶縁物151および第2絶縁物152と同様に、U字型の断面形状を有する。しかし本実施の形態においても、実施の形態2と同様に、第2絶縁物がL字型の断面形状を有していてもよい。
本実施の形態の作用効果は、基本的に実施の形態1の作用効果と同様である。すなわち外鉄形の変圧器のみならず、内鉄形の変圧器にも、本発明に係る巻線の端部に嵌合させる絶縁物を適用することができ、これにより実施の形態1,2と同様の作用効果を奏することができる。
上記の実施の形態1,2においては、静止誘導器100,200として絶縁油または絶縁ガスが使用された外鉄形変圧器が用いられ、実施の形態3においては、静止誘導器300として内鉄形変圧器が用いられている。しかしこれらに限らず、たとえば絶縁油または絶縁ガスを使用したリアクトルなど他の種類の静止誘導器においても本願発明の絶縁物を上記と同様に適用でき、上記と同様の作用効果を得ることができる。
以上に述べた各実施の形態(に含まれる各例)に記載した特徴を、技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせるように適用してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。