以下、添付図面を参照して本開示の種々の実施例について説明する。ただし、これらの実施例は本発明を実現するための一例に過ぎず、本開示の技術的範囲を限定するものではない。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。なお、本明細書において「培地」は、特にことわりがない限り液体の培地をさす。
[実施例1]
以下、本開示の培養容器及びそれを用いた細胞培養装置の実施例1を説明する。
図1は、実施例1の培養容器1Aの構造を示す図である。図1(A)は培養容器1Aの平面断面図を示し、図1(B)は培養容器1Aの側面断面図を示す。図1(A)は、図1(B)のY-Y’線に沿った断面図であり、図1(B)は、図1(A)のX-X’線に沿った断面図である。
培養容器1Aは、第1容器2Aと、第1容器2A内に収容される第2容器3と、第1容器2A及び第2容器3の上方開口を覆う蓋4と、蓋4を貫通する挿入管5と、第2容器3と蓋4との間に設けられた抑え部品6とを備える。蓋4は、例えば、第1容器2Aと第2容器3とが収容する培地が蒸発するのを防ぐと供に培養容器1Aに細菌が侵入して細胞が感染するのを防ぐ。図1(B)に示すように、蓋4と第1容器2Aとの間には隙間Gがある。隙間Gは、例えばCO2ガスが第1容器2Aに流入する際又は第1容器2Aから流出する際の通路となる。
挿入管5の開口端5Aは、第1容器2Aの内部且つ第2容器3の外部であって、後述する第2容器3の液体通過部よりも低い位置に位置し第1容器2Aの底面に開放している。挿入管5の上記開口端5Aと反対側の他端は、図示しない送液手段であるポンプに接続されている。抑え部品6は、第1容器2Aが培地で満たされた際に、浮力で第2容器3が位置ずれしないように、第2容器3を半固定する部品である。
培養容器1Aは円筒形状であって、例えば、ポリカーボネート(以下、PC)、ポリスチレン(以下、PS)、ポリプロピレン(以下、PP)等のプラスチック材料によって形成される。第1容器2Aは、例えば射出成形により形成される。
第1容器2Aの内側底面は、親水性処理などの表面処理が為されている。そのため、第1容器2Aの内側底面は、細胞接着性能が確保されており、接着性細胞等の培養及び増殖が可能である。同様に、第2容器3は、例えば射出成形により形成される。第2容器3の内側底面は、親水性処理などの表面処理が為されている。そのため、第2容器3の内側底面は、細胞接着性能が確保されており、接着性細胞等の培養及び増殖が可能である。
図2は、第2容器3の構成を説明するための図である。第2容器3は、液体を流入又は流出させる液体通過部7と、流入した液体を収容する液体収容部8と、液体収容部8のふちの一部と接続され液体収容部8を保持する保持部9と、を有する。第2容器3は、保持部9の他端が第1容器2Aの上端部に着脱可能に掛止されて第1容器2Aの内部に収納されている。したがって、第1容器2Aのふちの高さは、第2容器3の液体通過部7の高さよりも高い。或いは、第1容器2Aのふちの高さは、第2容器3の液体収容部8のふちの高さよりも高い。
液体通過部7は、第1容器2Aに供給された培地の液面が液体通過部7の高さに達したときに、培地を液体収容部8に流入させ、また、液体収容部8に満たされていた培地が新しい培地と混合し始める。したがって、第1容器2Aにおける液体保持量は、液体通過部7の第1容器2Aの底面からの高さを設定することにより決まる。また、図2に示すように、保持部9には液体通過部7の位置と同じ高さから液体が液体収容部8に流入できる開口部Oが設けられてもよい。この場合、液体収容部8には複数の方向から液体が流入する。
[培地の交換方法]
図3は、細胞培養で行われる培地10の交換方法を説明するための図である。図3における培地の交換及び細胞の播種は、例えば、メスピペットを用いて手技によって実施されてもよく、挿入管5を利用して培地の交換を実施してもよい。図3(A)は、第2容器3に培地10が収容され細胞11が播種された状態を示している。図3(A)に示した図は、培地10を交換する前の状態を示し、第1容器2Aには培地10がまだ供給されていない。
図3(B)は、挿入管5から供給される新しい培地10と第2容器3に収容されている細胞11の培養に供した培地10とが混合する様子を示している。培地10は、図示しないポンプによって挿入管5を介して第1容器2A内に供給され、供給された培地10の液面が第2容器3の液体通過部7の高さに到達する。その後、所望量の送液を継続すると、培地10は第2容器3内部に流出し第2容器3内の培地10と混合する。なお、本明細書では、細胞11の培養に供した古い培地10とポンプによって挿入管5から供給される新しい培地10とそれらが混合した培地10とは、それぞれ、同じ符号が付されているが、それらの成分又は組成は異なる。
図3(A)において、符号dは挿入管5の開口端5Aと第1容器2Aの底面からの距離を示す。第1容器2Aから培地を全量排出したい場合、挿入管5は開口端5Aが第1容器2Aの底面にほぼ接するように設計され、dは略0である。
図3(C)は、混合された培地10をポンプにより第1容器2Aから吸引排出した様子を示す図である。この場合、開口端5Aより上方に位置する培地10が第1容器2Aから排出される。なお、第1容器2Aの底面でフィーダ細胞を培養し、第2容器3の底面で所望の細胞11を培養する2層培養を実施する場合は、第2容器3の外底面に培地10が接するように第1容器2A内に培地10が残留する必要がある。その場合、第1容器2Aの底面と開口端5Aとの距離dは、開口端5Aの位置が第2容器3の外底面の位置よりわずかに高い位置となるように設計される。
以上のように送液と排液を行うことにより培地10の交換が可能となる。上記の説明からわかるとおり、培地10の交換とは、一例として、第2容器3に収容された古い培地10を新しい培地10と混合させた後、第1容器2Aから当該混合された培地10を排出することを意味する。
なお、細胞11の培養をする際は、実施例1の培養容器1AをCO2インキュベータ内に設置して、第1容器2Aと蓋4との間の隙間GからCO2ガスの換気及び第1容器2A内の気体の加湿を行う。こうすることにより、培養容器1は第2容器3内での細胞11の培養を可能とする。
また、上述した2層培養を行う場合には、第2容器3は底面が物質透過膜であるものを使用し、第1容器2Aには第2容器3の外底面に接する量の培地10が保持される必要がある。また、混合された培地10の純度を示す目安である培地10の新旧比率は、例えば、新しい培地10の添加量を、第1容器2Aと第2容器3とに保持された培地10の合計量で除した値によって決定される。当該新旧比率を高めたいときは、例えば、第1容器2Aに保持された古い培地10を排出した後に、新しい培地10を添加する。
また、上述の培地10の交換は、複数回実施してもよい。その場合も同様に、液面が第2容器3の液体通過部7よりも高い位置に達するまで第1容器2Aへ培地を供給し、第1容器2A内の培地10を排出する。
[実施例2]
[実施例2の培養容器の構成]
実施例1では、培養容器1Aが第2容器3を一つだけ備える場合について説明した。実施例2では、培養容器が第2容器3を複数備える場合について説明する。以下に、図4を参照しながら実施例2の培養容器の構成について説明する。
図4は、第2容器3を複数備える培養容器1Bの例を示す図である。図4(A)は第1容器2Bの内側底面の形状を示す図である。図4(B)は、培養容器1Bの平面断面図である。図4(C)は、培養容器1Bの側面断面図である。図4(B)は、図4(C)においてX−X’線に沿って切断した場合の断面図であり、図4(C)は、図4(B)においてY−Y’線に沿って切断した場合の断面図である。
図4に示すように、第1容器2Bは、複数の第2容器3を収納することができ、第1容器2Bの底部の形状は複数の第2容器3のそれぞれの底部の一部の形状と部分的に相似である。第1容器2Bは、例えば、射出成形により形成される。第1容器2Bの内側底面は、親水性処理などの表面処理が為されている。そのため、第1容器2Bの内側底面は、細胞接着性能が確保されており、接着性細胞等の培養及び増殖が可能である。
実施例1の場合と同様に、培養容器1Bは蓋12と挿入管5とを備え、蓋12と第1容器2Bとの間には隙間Gがある。また、複数の第2容器3のそれぞれは、実施例1の場合と同様に、第1容器2Bのふち又は上端部にそって掛止されている。
なお、図4では、三つの第2容器3が1列で配置されているが、複数の第2容器3は複数列で配置されてもよい。その場合は、第1容器の形状は、第2容器3を複数列で配置できるような形状とする。複数の第2容器3を第1容器に配置する場合は、複数の第2容器3のそれぞれにおける液体通過部7の向きを同一方向に揃えることが望ましい。
また、第1容器2Bの第2容器3を収容する部分の形状は、第2容器3の形状に沿ったものであればよく、部分的に円形形状を有さなくてもよい。第1容器の底面の形状は、例えば第2容器3の底面形状が矩形であれば部分的に矩形形状を有する形状とする。また、第1容器の内側底面の面積は、配置する第2容器3の底面面積の合計に対し、1.5から2倍程度とする。このようにすると、第2容器を満たすために必要な培地10の量を減少させることができる。特に細胞11の培養に使用する培地10は高価であるため、使用量は抑制されることが好ましい。
培養容器1Bは、実施例1に記載した方法と同様の方法で、細胞11を複数の第2容器3上で培養することができる。その場合、実施例2の培養容器1Bは、実施例1の培養容器1Aと異なり、一つの挿入管5を用いて一度に複数の第2容器3の培地を交換することができる。
[閉鎖培養容器における細胞の培養]
次に、培養容器1Bにおいて蓋12と第1容器2Bとの接合部位にパッキンが接して設けられた閉鎖培養容器内で細胞11を培養する場合について説明する。
図5は、閉鎖培養容器1Cの断面を示す図である。図5(A)は、閉鎖培養容器1Cの平面断面図である。図5(B)は、閉鎖培養容器1Cの側面断面図である。図5(A)は、図5(B)においてX−X’線に沿って切断した場合の断面図であり、図5(B)は、図5(A)においてY−Y’線に沿って切断した場合の断面図である。
閉鎖培養容器1Cは、培養容器1Bにおいて、蓋12と第1容器2Bとの接合部位にパッキン13が設けられ、蓋12を貫通する排気管14と複数の送気送液管15とが設けられた構成となっている。
排気管14は、挿入管5から培地が供給された際、又は、送気送液管15から送液又は送気された際に、その量に応じた気体を閉鎖培養容器1Cから排気することができる。換言すると、閉鎖培養容器1Cの内部は排気管14を介して外気圧と同じ圧力に保たれており、培地及びCO2ガス等は閉鎖培養容器1C内へスムーズに送液又は送気される。
複数の送気送液管15のそれぞれは、複数の第2容器3のそれぞれの液体収容部8の上方であって液体通過部7よりも高い位置に開口端15Aが位置し、第2容器3の液体収容部8へ送液する。送気送液管15は、例えば、設置された第2容器3の個数と同一の個数だけ設けられている。
送気送液管15の開口端15Aと反対側の他端は、図示しないポンプと接続されている。例えば、上記ポンプを稼働することにより細胞懸濁液を第2容器3に供給できる。つまり、送気送液管15を介して第2容器3の内側底面に細胞を播種することができる。また、流路を切り替えることにより、送気送液管15を介してCO2を含むガスを閉鎖培養容器1Cに供給し、培地のpHを一定に調節することができる。
以上の説明からわかるとおり、容器内部がパッキン13によって密封されている閉鎖培養容器1Cにおいても、排気管14によって圧を一定に保つことにより、上述した培地10の交換方法を実施することができる。また、送気送液管15を介して閉鎖培養容器1C内にCO2ガス及び細胞懸濁液を供給することができ、その結果、閉鎖培養容器1Cにおいて、蓋12を開けずとも細胞を培養することができる。
[実施例3]
[細胞培養装置の構成]
続いて、上記の閉鎖培養容器1Cを備え、自動で細胞11の培養を行うことができる細胞培養装置について説明する。
図6は、細胞培養装置Sの構成を示した図である。以下、閉鎖培養容器1Cへの培地の供給又は排出をする送液制御手段を備えた細胞培養装置Sの例を説明する。細胞培養装置Sは、恒温槽16と冷蔵庫17とを備える。恒温槽16は、細胞11の培養に適した温度に閉鎖培養容器1Cを保つ。冷蔵庫17は、排液ボトル54、トラップボトル43及び培地ボトル57といった冷温に保つ必要があるものを収容する。
第1細胞ボトル21は第1の細胞懸濁液を保持するボトルである。第1細胞ボトル21は、蓋により内部を気密に保持できる。管路22は、上記蓋を貫通して設けられ、第1細胞ボトル21内の気圧を調整する。管路22の開口端には、メッシュサイズ0.22μmのフィルタ23が設けられ、恒温槽16の外気に開放している。
供給管24は、蓋を貫通して第1細胞ボトル21の内部に開口端を持ち、上記開口端は細胞懸濁液の排出口となる。供給管24は分岐点25を介して二つの管路に分岐している。一方の管路は、第1気体導入弁26に接続され、もう一方の管は第1細胞開閉弁27に接続される。分岐点25は、第1細胞ボトル21に保持される液体の液面より上方に設けられる。供給管24の開口端には、メッシュサイズ0.22μmのフィルタ28が設けられており、恒温槽16内の外気に開放している。
第1細胞開閉弁27に接続された管路は二つの管路に分岐し、一方の管路は後述する共通管29に接続され、もう一方の管路は第1ガス開閉弁30へと通じる分岐点に接続される。第1ガス開閉弁30には加湿ボトル31が接続されている。
加湿ボトル31の上流にはメッシュサイズ0.22μmのフィルタ32及び圧力制御弁33が接続されている。圧力制御弁33の上流にはCO2とO2とを含む混合ガスボンベ34が接続されている。混合ガスボンベ34は、細胞11の培養に適したガス濃度で加圧されている。
細胞11を培養する際は、培地10のpH値が径時的に変化することを防止するため、定期的にCO2ガスで培地10の表面を通してガス交換を行う必要がある。加えて、細胞11を培養する際は、培地10に含まれる水分の蒸発による培地10の成分の濃縮を防止する必要がある。混合ガスボンベ34より導出したCO2ガスは、加湿ボトル31において細胞11を培養するのに適した湿度に加湿されて待機する。
第1ガス開閉弁30へと通じる分岐点のもう一方の管路は、第1ポンプP1における吸引口と第2ガス開閉弁35とに分岐される。第1ポンプP1における吐出口と第2ガス開閉弁35とは統合されて送液管36となる。即ち第2ガス開閉弁35は、第1ポンプP1のバイパスとして機能する。
ここで、第1ポンプP1の吸引口と第1細胞ボトル21との間の送液用の管を供給管とし、第1ポンプP1の吐出口と細胞培養を行う閉鎖培養容器1Cとの間の送液用の管を送液管36とする。送液管36は多分岐部37で分岐され、閉鎖培養容器1Cにおける複数の送気送液弁38、39、40を介して、送気送液管15に接続される。
閉鎖培養容器1Cが備える排気管14は、排気開閉弁41を介し気圧調節管42によりトラップボトル43に接続される。管路44はトラップボトル43の蓋に設けられた気圧調整のための管路であり、管路44の開口端にはメッシュサイズ0.22μmのフィルタ45が設けられて恒温槽16の外気に開放している。
第2細胞ボトル46は、細胞懸濁液又は培地10を保持するボトルである。第2細胞ボトル46は第1細胞ボトル21と同様の構成であり、第2細胞ボトル46が備える蓋、気圧調整のための管路、フィルタ及び供給管47は、第1細胞ボトル21の対応する構成要素と同じ役割をする。また、供給管47、分岐点48、第2気体導入弁49、第2細胞開閉弁50の構成も第1細胞ボトル21の対応する構成要素と同じ役割をする。
第2細胞開閉弁50を介して供給管47は二つに分岐されて、一方の管路は共通管29に接続され、もう一方の管路は第2ポンプP2における吸引口に接続される。第2ポンプP2の吐出口より延長する供給管51は、送液弁52を介して二つに分岐され、一方の管路は閉鎖培養容器1Cにおける挿入管5に接続され、もう一方の管路は第1排出弁53に接続される。即ち、第2細胞ボトル46の細胞懸濁液または培地10は、第2ポンプP2の作用によって、閉鎖培養容器1Cにおける第1容器2Bに供給される。
排液ボトル54は、排液管55が気密に接続されている。また、排液ボトル54には、蓋の一つに設けた気圧調整のための管路及びその開口端にフィルタが設けられている。排液管55は第2排出弁56を介して第3ポンプP3の吐出口に接続されている。第3ポンプP3の吸引口には第1排出弁53に接続される。即ち、閉鎖培養容器1Cにおける第1容器2Bに収容された液体は、第3ポンプP3の作用によって排出され、第1排出弁53から排液管55を通って排液ボトル54に捕集される。
培地ボトル57は交換用の培地10を保持するボトルであり、冷蔵庫17内に保持される。培地ボトル57は第1細胞ボトル21と同様の構成であり、培地ボトル57が備える蓋、気圧調整のための管路、フィルタ及び供給管58は、第1細胞ボトル21の対応する構成要素と同じ役割をする。供給管58、分岐点59及び第3気体導入弁60の構成も第1細胞ボトル21の対応する構成要素と同じ役割をする。
第4ポンプP4の吸引口は供給管58と接続されている。培地予熱ボトル61は、交換用の培地10を必要量だけ保持するボトルである。培地予熱ボトル61と第4ポンプP4の吐出口とは、供給管63が有する分岐点62を介して接続される。培地予熱ボトル61は恒温槽16の内部に保持される。即ち、培地ボトル57が保持する培地10は、第4ポンプP4の作用によって、培地予熱ボトル61に供給される。
培地予熱ボトル61は第1細胞ボトル21と同様の構成であり、培地予熱ボトル61が備える蓋、気圧調整のための管路、フィルタ及び供給管63は、第1細胞ボトル21の対応する構成要素と同じ役割をする。供給管58、分岐点59及び第3気体導入弁60の構成も第1細胞ボトル21の対応する構成要素と同じ役割をする。供給管63、分岐点64、第4気体導入弁65、培地開閉弁66の構成も第1細胞ボトル21の対応する構成要素と同じ役割をする。供給管63は分岐点64及び培地開閉弁66を介して共通管29に接続されて分岐する。分岐した一方の管路は第1細胞ボトル21から延長する供給管24と第1細胞開閉弁27を介して接続され、もう一方は第2細胞ボトル46から延長する供給管47と第2細胞開閉弁50を介して接続される。
即ち、共通管29は第1細胞開閉弁27と第2細胞開閉弁50と培地開閉弁66との3つの開閉弁に接続されている。第1ポンプP1が作用するとき、前記3つの開閉弁のうち第1細胞開閉弁27と、送気送液弁38、39、40のうちの一つと、が開放していれば、第1細胞ボトル21の細胞懸濁液を閉鎖培養容器1Cにおける複数の第2容器3内の一つに供給する。
また第2ポンプP2が作用するとき、第2細胞開閉弁50と送液弁52が開放されていれば、第2細胞ボトル46の細胞懸濁液又は培地10を閉鎖培養容器1Cにおける第1容器2Bに供給する。さらに第2ポンプP2が作用するとき、培地開閉弁66と送液弁52が開放されていれば、培地予熱ボトル61に保持された培地10を閉鎖培養容器1Cにおける第1容器2Bに供給する。
閉鎖培養容器1Cは斜度ステージ67に設置される。斜度ステージ67は、通常の培養時は水平に維持される。斜度ステージ67の一端はリンク機構68により支持され、もう一端は垂直方向に駆動されるアクチュエータ69によって支持される。
閉鎖培養容器1C内に収容されている培地10を排液するときは、第1容器2Bにおける挿入管5側の底面を下方とするようにアクチュエータ69を駆動すれば、第1容器2B内に保持された液体のうち、開口端5Aから遠い位置の液体をより早く収集して排出することができる。その際、斜度ステージ67の傾度は任意に設計できる。一方で、閉鎖培養容器1Cに送液するときは、第1容器2Bにおける挿入管5側の底面を上方とするようアクチュエータ69を駆動すれば、第1容器2B内に保持された液体のうち、開口端5Aから遠い位置の液体をより早く分散して送液することができる。
[細胞培養の操作]
図7は、細胞培養装置Sにおける細胞培養の操作のフローを示すフローチャートである。細胞培養装置Sは、図示しないコントローラによって制御される。フローチャートは、恒温槽に管路を設置する処理(S01)から開始する。その後、準備した細胞懸濁液を保持する第1細胞ボトル21と、培地10を保持した第2細胞ボトル46とを管路に接続する(S02)。
続いて、細胞培養装置Sは、閉鎖培養容器1Cにガスを充填する(S03)。その後、細胞培養装置Sは、培地10を第1容器2Bに送液した後(S04)、細胞懸濁液を第2容器3に送液する(S05)。細胞培養装置Sは、直ぐに閉鎖培養容器1Cに加湿されたガスを送気し、恒温槽を恒温に維持して静置する(S06)。
細胞培養装置Sは、細胞培養の進行状態によって、培地10の交換を開始するか否かを判定する(S07)。培地10の交換が必要ない場合(S07においてNO)、細胞培養装置SはS06の処理に戻る。培地10の交換が必要な場合(S07においてYES)、細胞培養装置Sは、培地ボトル57から培地予熱ボトル61へ培地10を所定量送液し(S08)、第1容器2Bに十分予熱された新しい培地10を供給し(S09)、その後、第1容器2Bから培地10を排出する(S10)。
この際、細胞培養装置Sは、第2容器3の液体通過部7の高さよりも培地10の液面が高くなる量の培地10を第1容器2Bへ供給する。細胞培養装置Sは、例えば、予め実験によって定めたポンプの稼働時間だけ培地10を第1容器2Bへ供給する。
細胞培養装置Sは、引き続き加湿ガスの送気と静置を行い(S11)、細胞培養の進行状態によって、細胞培養を終了するか否か判定を行う(S12)。細胞培養を継続する場合(S12においてNO)、細胞培養装置Sは培地10の交換を再実行する。細胞培養を終了する場合(S12においてYES)、閉鎖培養容器1Cを自動装置より回収し、手作業により培養した細胞11の取り出しを行う(S13)。続いて、細菌増殖の有無を確認するため排液ボトル54を回収して細菌検査を行い(S14)、使用済みの管路を恒温槽16より取り外して(S15)終了する(END)。
図8は、閉鎖培養容器1Cにおける送液及び送気処理のタイムチャートを表している。閉鎖培養容器1Cにおいて上記送液及び送気処理は図示しないコントローラによって制御される。図8の横軸は操作項目と時間軸を示し、縦軸には図6において示した複数の電磁弁及び第1ポンプP1〜第4ポンプP4の動作タイミングを示している。初期状態では全ての電磁弁及びポンプがOFFである。即ち、全ての電磁弁が閉止していて、かつ、ポンプは送液停止の状態である。以下、図8の横軸に記載した各操作項目について説明する。
「CO2ガス充填」の操作項目は、閉鎖培養容器1Cの内部をCO2ガスで満たす処理(図6のS03)に対応する。送気送液弁40と第2ガス開閉弁35と排気開閉弁41とをOFFからONにして各弁を開放すると、第1ガス開閉弁30と送気送液弁40が通じて送気送液管15までの流路が通じる。また外気に連通するフィルタ74から排気開閉弁41が通じて、外気と接続されたフィルタから排気管14までの管路が通じる。
次いで第1ガス開閉弁30を所定時間ONすると、CO2ガスが混合ガスボンベ34より加湿ボトル31へ到達して加湿される。適切に加湿されたCO2ガスは送気送液弁40から送気送液管15を経て閉鎖培養容器1Cに到達する。閉鎖培養容器1Cは密閉されているが、閉鎖培養容器1Cに挿入された排気管14から外気に通じるフィルタ45までが開放されているため、閉鎖培養容器1Cの内部の圧力は大気圧と均衡する。所定量のCO2ガスの注入が為された後、先ず第1ガス開閉弁30を閉止し、次いで第2ガス開閉弁35を閉止し、閉鎖培養容器1C内の圧力が大気圧と同等となったとき、他の弁を閉止する。
「培地添加」の操作項目は、閉鎖培養容器1C内の第1容器2Bに培地10の送液を行う処理(図6のS04)に対応する。第2細胞開閉弁50と送液弁52と排気開閉弁41とをOFFの状態からONにしてこれらの弁を開放すると、第2細胞ボトル46から第2細胞開閉弁50と送液弁とを介して挿入管5までの流路が通じる。また外気と接続されたフィルタ45から排気管14までの管路が通じる。
次いで第2ポンプP2を所定時間ONすると、第2細胞ボトル46から培地10の送液が開始され、所定の液量が分岐点48より下流の管路にあるとき、第2ポンプP2の送液を一端停止する。続いて第2気体導入弁49を開放すれば、フィルタ70より外気が導入されて分岐点48から第2細胞ボトル46までの管内の培地10は落差によって第2細胞ボトル46に戻る。第2ポンプP2の送液を開始すると、所定の液量が閉鎖培養容器1Cの挿入管5より送液される。このとき閉鎖培養容器1Cに挿入された排気管14から外気に通じるフィルタ45までが開放されているため、閉鎖培養容器1Cの内部の圧力は大気圧と均衡する。所定量の培地10が閉鎖培養容器1Cに注入された後、第2ポンプP2を停止し、開放されている各弁をOFFにして閉止し、送液を終了する。
「細胞播種」の操作項目は、閉鎖培養容器1C内の第2容器3に細胞播種を行う処理(図6のS05)に対応する。第1細胞開閉弁27と送気送液弁40と排気開閉弁41とをONとしこれらの弁を開放すると、第1細胞ボトル21から第1細胞開閉弁27と送気送液弁40とを介して、送気送液管15までの流路が通じる。また外気に連通するフィルタ45から排気開閉弁41を介して、排気管14までの管路が通じる。
次いで第1ポンプP1を所定時間ONすると、第1細胞ボトル21から細胞懸濁液の送液が開始され、所定の液量が分岐点25より下流の管路にあるとき、第1ポンプP1の送液を一端停止する。続いて第1気体導入弁26を開放すれば、フィルタ28より外気が導入されて分岐点25から第1細胞ボトル21までの管内の細胞懸濁液は落差によって第1細胞ボトル21に戻る。再度第1ポンプP1の送液を開始すると、所定の液量が閉鎖培養容器1Cの送気送液管15より送液される。このとき閉鎖培養容器1Cに挿入された排気管14から外気に通じるフィルタ45までが開放されているため、閉鎖培養容器1Cの内部の圧力は大気圧と均衡する。所定量の注入が為された後、第1ポンプP1を停止し、開放されている各弁をOFFにして閉止し、送液を終了する。
第2容器3が複数あるときは、予め第1細胞ボトル21には複数の細胞培養容器に分配できる量の細胞懸濁液を保持し、上記の操作において送気送液弁40を閉止して、送気送液弁39を開放し、順次前記の操作を繰り返せば、閉鎖培養容器1Cにおける他の第2容器3に細胞液懸濁液が同量送液される。
次のCO2ガス充填の操作項目は、閉鎖培養容器1Cの内部をCO2ガスで満たす処理(S06)に対応し、先に説明したCO2ガス充填の操作項目と同様の処理をする。
細胞11の培養は、細胞懸濁液が第2容器3に保持され、閉鎖培養容器1Cの内部空間が適切に加湿されたCO2ガスで満たされ、閉鎖培養容器1Cが適切な温度に保持されている状態で所定時間静置され、継続される。なお、細胞懸濁液中に含まれる細胞11は第2容器3の内部底面を形成する物質透過膜の上面に接着して増殖するため、培養に伴い成分が変化した培地10は細胞11と分離して排出できる。
細胞11の培養中には「培養静置」の操作項目中では、図示しない顕微観察ユニットを用いて観察を実施し、細胞の育成情報を得る。顕微観察には、位相差顕微鏡が好適に用いられるが、倒立型などの光学顕微鏡であってもよい。撮像機能があればより培養中の細胞11の観察経過を記録でき、細胞培養をより好適に実施できる。
「培地予熱の送液」の操作項目は、閉鎖培養容器1Cの培地10の交換を行う処理(S08)に対応する。初期状態において、培地ボトル57は、第4ポンプP4を介して培地予熱ボトル61と通じている。培地予熱ボトル61は蓋から外気に通じるフィルタが接続されている。
第4ポンプP4は、閉鎖培養容器1Cに供給する培地10の量と培地予熱ボトル61から閉鎖培養容器1Cまでの管路の体積とを合わせた量の培地10を、培地ボトル57から培地予熱ボトル61へ輸送する。第4ポンプP4の稼働時間が所定の時間経過した後、第3気体導入弁60を開放すると、分岐点59から培地ボトル57までの管路に存在する培地10は、大気圧によって培地ボトル57へ押し戻される。その結果、後端が分岐点59であり先端が培地予熱ボトル61となる目標量の培地10を得ることができる。
さらに、第4ポンプP4を稼働すると、培地予熱ボトル61内に培地10が輸送される。この際、培地予熱ボトル61は、フィルタを介して外気に通じているため、大気圧と均衡している。目標量の培地10が培地予熱ボトル61に輸送された後、第4ポンプP4を停止し、開放されている各弁をOFFにして送液を終了する。なお、培地ボトル57から培地予熱ボトル61へ輸送する培地10の量は、例えば、閉鎖培養容器1C内に備えられている第2容器3の数及び培地10を交換する回数等から決定される。
「培地送液」の操作項目は、第1容器2Bに培地10の送液を行う処理(S09)に対応する。培地送液の操作項目では、先ず、培地開閉弁66と送液弁52と排気開閉弁41とをONにし、弁を開放する。すると、培地予熱ボトル61から挿入管5までの流路が、培地開閉弁66と送液弁52を介して通じる。また、外気に連通するフィルタ45とトラップボトル43と排気開閉弁41と排気管14とを介して、閉鎖培養容器1Cの内部は大気圧と均衡する。
次いで、第2ポンプP2を所定の時間ONして培地予熱ボトル61から培地10を吸引し、所望の量の培地10が分岐点64から下流の管路にあるとき、第2ポンプP2の稼働を一端停止する。続いて、第4気体導入弁65を開放し、分岐点64より下方又は上流に存在する培地10を気圧差によって培地予熱ボトル61へ戻す。再度第2ポンプP2を稼働することにより、所定の量の培地10が閉鎖培養容器1C内へ挿入管5を介して輸送される。この際、排気管14は外気に通じているため、閉鎖培養容器1Cの内部の圧力は大気圧と均衡する。所定の量の培地10が閉鎖培養容器1C内に注入された後、第2ポンプP2の稼働を停止し、開放されている各弁をOFFにして送液を終了する。
「培地排出」の操作項目は、第1容器2Bから培地10の排出を行う処理(S10)に対応する。この操作項目では、第1排出弁53と第2排出弁56と排気開閉弁41とをONにして開放する。そうすると、排液ボトル54から挿入管5までの流路が、第2排出弁56、第3ポンプP3及び第1排出弁53を介して通じる。また、閉鎖培養容器1C内の空間の圧が、排気管14、排気開閉弁41、トラップボトル43及びフィルタ45を介して外気の圧力と均衡する。
次いで、第3ポンプP3を所定の時間稼働すると、第2容器3の液体収容部8に培地10が残された状態で第1容器2Bから培地10が吸引され、吸引された培地10は排液ボトル54に到達する。この際、閉鎖培養容器1C内は、排気開閉弁41が開いているため、外気圧と均衡しているため。所定量の培地10が閉鎖培養容器1Cから排出された後、第3ポンプP3の稼働を停止し、各電磁弁をOFFにして送液を終了する。
次いで、閉鎖培養容器1C内のCO2ガス濃度が低下した場合に行うCO2ガス送気の処理(S11)は、既述のCO2ガス充填の処理(S03)と同様に行う。CO2ガスを充填した後は、閉鎖培養容器1Cを静置して細胞11の培養を続ける。
[細胞培養の実験例]
以下に、実施例3の細胞培養装置Sを用いた、角膜上皮細胞培養による角膜上皮組織作製方法の具体例、及びその結果について説明する。
(細胞培養装置の詳細)
恒温槽16には恒温培養器(型番:TVHA60WA12A、東洋製作所社)を使用し、庫内温度を37°Cで運用した。また、冷蔵庫17には、電子冷熱低温恒温器(型番:THS030PA、東洋製作所社)を使用し、庫内温度を4°Cで運用した。
電磁弁には、ピンチバルブ(流体圧力0.15 MPa、型番:PSK−1615NC−9、高砂電気工業社)を使用した。上記電磁弁に対応する供給管には、シリコンゴムチューブ(内径1/16インチ、外径1/8インチ 型番:3350、サンゴバン社)を使用した。各ポンプは、チューブポンプ(吐出/吸入圧力 +/−0.1MPa、型番:DSW2−S1AA−WP、ウェルコ社)にしごき用チューブとしてシリコンゴムチューブ(内径1/16インチ、外径1/8インチ 型番:3355L、サンゴバン社)を組み合わせたものを使用した。当該ポンプは、ローラー部が本体のモータ部から着脱可能であるため、シリコンゴムチューブ(13cm長)をローラー部に巻きつけた状態で滅菌操作が可能である。当該ポンプの流量は、DC12V入力において、実測したところ0.15mL/秒であった。
細胞ボトルにはクローズドシステム 遠心管(容量50mL、型番:#11706、コーニング社)を使用した。培地ボトルにはクローズドシステム 遠心管(容量500mL、型番:#11750、コーニング社)を使用した。本品は予め滅菌された容器部と蓋部と蓋部に設けられた供給管と気圧調整のためのメッシュサイズ0.22μmのフィルタ付き管路とから成る。
排液ボトルにはFlexboyバッグ(EVA、EVOH2重構造、容量0.5L、型番:#FFB102670、ザルトリウス社)を使用した。
加湿ボトルには、ガス交換部にケラミフィルター(フィルタサイズ15×15mm、型番:2−554−10、アズワン社)を組み合わせたガス洗浄瓶(容量500 mL、型番:6−129−02、アズワン社)を使用した。
気体導入弁又は加湿ボトルの外気に接するフィルタには、ミディザルト2000(メッシュサイズ0.22μm、型番:#17805−E、ザルトリウス社)を使用した。
電磁弁の閉止部位及びポンプ部のしごき部位以外のチューブには材質が非DEHP-PVC((Di(2-EthylHexyl)Phthalate)- PolyVinylChloride)であるタイゴンND−100(内径1/16インチ、外径1/8インチ、型番:#ADF00002、サンゴバン社)を使用した。チューブの分岐、及び接合部にはSMCカップリング(CPC社)シリーズを使用した。具体的には2分岐接合にY Fitting(接合径1/16インチ、型番:#HY291)を使用し、直線連結にはStraight Fitting(接合径1/16インチ、型番:#HS291)を使用した。第1容器2Bはポリカーボネートを材料として射出成形により作製した。細胞11を保持する第2容器3にはセルカルチャーインサート(型番:353180、コーニング社)を使用した。
(閉鎖系流路の作製方法)
以上の構成部品を安全キャビネット内において無菌状態で組み立て、流路を作成した。次いで、流路を滅菌バックに入れて封止した後、ガンマ線滅菌処理業者に依頼して15kGryの放射線滅菌処理を行った。
(角膜上皮細胞の準備)
続いて、角膜上皮細胞の培養方法について説明する。角膜上皮細胞は、フナコシ社より購入したウサギ眼球の角膜輪部から公知の技術によって角膜上皮細胞を採取し、4×104/cm2となるように培地で懸濁して細胞ボトルに保持した。培地には、5%FBSを含むKCM培地を使用した。交換用培地はおなじくKCM培地500mLを培地ボトルに保持し、装置冷蔵庫に設置した。
(角膜上皮細胞の培養開始)
先ず、予め滅菌処理した流路を設置して、当該流路に各電磁弁と閉鎖培養容器1Cとをゴムチューブで接続した。恒温槽16は、温度を37°Cに保持した。続いて、細胞ボトルと培地ボトルとを流路に接続した。その後、細胞の自動培養を開始した。
第1容器2Bが収容する培地10を交換する際は、第1容器2Bへ新しく供給する培地10の量を0.7mlとした。また、培地10の排出量は、第2容器3の液体収容部8の外側には培地10をできるだけ残さないように、気体も含めて3mlとした。送気するガスの濃度は、5%CO2、20%O2、75%N2とした。また、送気する加湿ガスは湿度95%RHに制御した。加湿ガスの送気量は、閉鎖培養容器1Cの内容積より過剰に注入した。本実験例では、閉鎖培養容器1Cの内容積5cm3に対して加湿ガスを80cc/分で2分間送気した。細胞11を培養する際の処理フローは図7にしたがった。
培地10の交換は、培養開始日より5日目、7日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目、15日目及び16日目に各1回実施した。加湿ガスの送気は、1日に42回、20分ごとに実施した。細胞11の培養状態の観察は、培養開始から5日目より毎日1回顕微鏡により行った。具体的には、第2容器3の細胞11を培養している底面に対し、十個のエリアを定義し、各エリアを培養状態の観察結果を判断データとした。
(角膜上皮組織の回収方法)
細胞11の培養を開始してから16日目に、最後の培地10の交換操作を行い、細胞11の培養を終了し、閉鎖培養容器1Cを取り出した。閉鎖培養容器1Cを、安全キャビネット内に置き、室温(約25°C)で30分静置した。続いて、細胞11が接着した第2容器3を取り出し、トリプシン処理を行って細胞11を第2容器3の内側底面から剥離して回収した。
(対照の実験方法)
培養皿としてセルカルチャーインサート(型番:353180、コーニング社)を使用した。CO2インキュベータ(型番:MCO19−AIC、三洋電機社)を使用して、環境温度を37°Cに設定し、湿度を95%RHに設定し、CO2濃度を5%に設定し、細胞11の培養を実施した。対照の細胞は、上述の角膜上皮細胞と同じものを使用した。
細胞11の播種及び培地10の交換作業は手操作により実施し、滅菌された分注器(ピペットマン(登録商標)、型番:P5000、GILSON社)を使用して実験例と同じ液量を添加した。培地10の交換頻度及び間隔は、実験例と同じとした。また、CO2ガスの制御は、細胞11の培養期間中は同じ設定にした。なお、培地10の交換時は培養皿を37°Cのホットプレート上に設置して作業を実施し、培養皿の温度維持を図った。
(実験例と対照実験との比較)
本実施例の細胞培養装置Sにおいて作製した角膜上皮細胞は、シート状細胞となって一定の厚みを有していた。また、当該角膜上皮細胞は安定した剥離回収が可能であった。細胞11の育成過程における各顕微鏡画像を確認したところ、細胞11の育成に異常は見られなかった。また、対照実験において育成した細胞11と同等の形状であった。培養後の細胞数は播種した細胞の数のおよそ50倍(換算量)であり、対照実験の結果と比較しても同等であった。
角膜上皮組織の切片を作成し、ヘマトキシリン―エオジン染色及び免疫組織染色によって培養した細胞11を観察した結果、実験例において培養した細胞11と対照実験において培養した細胞11との双方とも、全ての細胞で上皮細胞に発現するCKタンパク質ファミリが発現した。また、実験例と対照との双方において、分化した角膜上皮細胞に発現するCK3が基底層以外での細胞で発現し、上皮組織のバリア機能に必要な閉鎖結合タンパクであるクローディン1が最表層に発現し、有意差は無かった。
[本実施例が奏する効果]
上述したように、本開示に係る細胞培養装置Sは、例えば、第1容器2Bと、液体を流入又は流出させる液体通過部7と流入した液体を収容する液体収容部8と液体収容部8のふちの一部と接続され液体収容部8を保持する保持部9とを有し、保持部9の他端が第1容器2Bの上端部に着脱可能に掛止されて第1容器2Bの内部に収納される第2容器3とを備える。また、本開示の細胞培養装置Sは、第1容器2Bを覆う蓋12と、蓋12を貫通し、第1容器2Bの内部且つ第2容器3の外部であって、第2容器3の液体通過部7よりも低い位置に開口端5Aが位置する挿入管5と、蓋12を貫通し、第2容器3の液体収容部8の上方であって液体通過部7よりも高い位置に開口端5Aが位置し、第2容器3の液体収容部8へ送液する送気送液管15と、を備え、挿入管5の開口端5Aと反対側の他端は、開閉可能な弁を有し第1容器2Bに液体を供給する供給管と、上記弁とは異なる開閉可能な別の弁を有し第1容器2Bから液体を排出する排液管と、に接続されている。
上記構成を有する細胞培養装置Sは、培地10を供給する際に培養中の細胞11の育成状態への影響を抑制することができる。また、細胞培養装置Sは、細胞11の培養結果の再現性を損なう影響を回避できる。これは、培地10の流れが速くなる箇所である挿入管5の開口端5Aの位置が、細胞11を培養する箇所よりも離れていることと、第2容器3の液体収容部8の側壁を介した送排液を行うこととによって、培地10の流速による影響が抑制されるからである。
また、本開示の細胞培養装置Sは、複数の第2容器3と当該複数の第2容器3のそれぞれに対応した複数の送気送液管15とを備えてもよい。こうすることにより、細胞培養装置Sは、複数の第2容器3で細胞11を培養でき、各第2容器3に収容されている細胞11への流速の影響を一様に低減できる。また、第2容器3のそれぞれに培地10を排出する管を用意する従来技術と異なり、管数を減らすことができる。
具体的には、本実施例の細胞培養装置Sによれば、第1容器2Bに使用する送液及び排液をする挿入管5は第2容器3の数によらず1本であり、排気に伴う排気管も同様に1本であるため、第2容器の数がNである場合、管数は2+Nで対応できる。したがって、細胞培養装置Sは、培養容器の数が増加した場合に培養容器当たりの管数をより低減できる。即ち、本開示の細胞培養装置Sは、従来技術に比べて単位面積当たりの細胞培養数を増加させること及び培養する細胞11の高集積化することが可能となり培養効率が向上する。
また、上述のとおり、細胞培養装置Sは、閉鎖培養容器1Cの内部の圧力を大気圧と均衡させる排気管14も備えている。したがって、本開示の細胞培養装置Sは、細胞播種から培地交換までの一貫した細胞培養の作業工程を全て自動で実施できる。さらに、細胞培養装置Sは、細胞11と培地10とが接触する管路及び培養容器を無菌状態で維持して細胞培養を実施できるため、培養して得られた細胞11を安全に治療等に使用できる。
また、図6において示したように、本開示の閉鎖培養容器1Cは斜度ステージ67上に設置され、排液及び送液時に、斜めにすることができる。そのため、本開示の細胞培養装置Sは、培地10の流れをわずかに加速させることにより、効率よく送液及び排液が可能であるとともに、送液量や排液量における容器間の形状のばらつきによって生じる送液量や排液量の個体差を低減できる。
また、本開示の細胞培養装置Sは、従来の複数の閉鎖培養容器を使用して細胞11の培養を行った場合と異なり、送気に伴う換気のばらつきを低減できる。その理由は、閉鎖培養容器に接続された管路ごとに管内抵抗が異なり、閉鎖培養容器に流れる気体の量が変化するためである。
また、本開示の細胞培養装置Sは、培養容器1Bが複数の第2容器3を備え第1容器2Bの底部の形状は複数の第2容器3のそれぞれの底部の一部の形状と部分的に相似であってもよい。このようにすると、培地10の交換に必要な新しい培地10の供給量を節約することができる。
また、本開示の細胞培養装置Sは、液体通過部7の位置と同じ高さから液体が流入できる開口部Oが保持部9に設けられていてもよい。このようにすると、第2容器3が培地10から受ける抗力を減少させることができる第2容器3の位置ずれが生じにくくなる。
また、本開示の細胞培養装置Sは、第2容器3の底面は培地10を透過させる物質透過膜であってもよい。このようにすると、培地10を交換するために第1容器2Bへ培地10を供給する際に、第2容器3が浮き上がりにくくなる。
また、本開示の細胞培養装置Sは、挿入管5が開口端Aの高さを変えられるように半固定で設置されていてもよい。このようにすると、第1容器2Bから排出する培地10の量を調節することができる。
なお、本開示は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。