前述の通り、特許文献3は、水に空気を混入させた気泡混入水を吐出するシャワー装置を開示している。このようなシャワー装置は、少ない水量であっても高い量感(水滴の径が大きい)を確保することができ、利用者の評判がよい。
本件発明者は、利用者により快適な洗浄感を与えるべく、特許文献3に開示されたシャワー装置を更に改良することについて、鋭意検討を重ねてきた。
本件発明者の分析によれば、特許文献3のシャワー装置では、散水孔が設けられた吐水部に噴射水流を直接衝突させて当該噴射水流に空気を混入しているため、シャワー装置をコンパクトに構成することができるが、散水孔から吐出される水の流速分布にバラつきが存在していた。具体的には、噴射水流が直接衝突する箇所に設けられた散水孔から散水される水流の流速は、他の箇所に設けられた散水孔から散水される水流の流速よりも、大きかった。
一方、本件発明者の各種の実験によれば、各散水孔から散水される水流の流速を略均一に揃えると、利用者はより一層快適な洗浄感を感得するという結果が得られた。
そこで、本件発明者は、噴射水流を散水孔に至る前段階で衝突部に衝突させることで、各散水孔から散水される水流の流速を均一に揃えるという方策を探ってきた。
そのような検討の過程で、本件発明者は、噴射水流を散水孔に至る前段階で衝突部に衝突させると、空気を噴射水流に混入させる空気混入部の領域毎に空気の混入の程度にばらつきが生じる、すなわち、気泡混入密度が高い気泡混入水と気泡混入密度が低い気泡混入水とが局所的に生じる、ということを知見した。これは、主として、空気と水との粘性の差異に起因するものと考えられる。
そして、本件発明者は、気泡混入密度が高い気泡混入水と気泡混入密度が低い気泡混入水とは、連続的に噴射水流が供給される間、それぞれ空気混入部内で所定の軌道を辿って所定の散水孔から散水されていく傾向があることを知見した。すなわち、本件発明者は、散水孔の配置位置によって、気泡混入密度が高い気泡混入水を散水(放出)する傾向がある散水孔と、気泡混入密度が低い気泡混入水を散水(放出)する傾向がある散水孔と、が存在することを知見した。これは、主として、粘性の高い水は衝突部に沿って流れやすく、粘性の低い空気は衝突部に沿って流れにくい(衝突部から離れて拡散しやすい)、という性質によるものと考えられる。
そして更に、本件発明者は、特に各散水孔から散水される水流の流速が略均一に揃えられている場合において、気泡混入密度が低い気泡混入水(空気の量が不十分)は気泡混入密度が高い気泡混入水と比較して水滴の粒径が小さくなってしまうために、利用者は不均一な洗浄感を印象づけられてしまう、ということを知見した。
本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、利用者により一層快適な洗浄感を与えることができるようなシャワーヘッドを提供することである。
本発明は、給水源に接続可能な通水路と、前記通水路を通過してくる水の流速を高めて噴射水流を噴射するオリフィス部と、空気導入口に連通すると共に前記噴射水流の通過位置に隣接し、前記噴射水流の通過に伴って発生する負圧によって前記空気導入口を介して空気を吸引する空気吸引路と、前記空気吸引路が前記負圧によって吸引する空気を前記噴射水流と混合させて気泡混入水とする空気混入室と、前記空気混入室を区画する壁の一部であって、複数の散水孔を有する散水部と、前記空気混入室内において、前記噴射水流の少なくとも一部が衝突する位置に配置された衝突部と、を備え、前記衝突部の近傍に位置して気泡混入密度が低い気泡混入水を散水する傾向がある散水孔の断面積は、前記衝突部の遠方に位置して気泡混入密度が高い気泡混入水を散水する傾向がある散水孔の断面積よりも、大きく、前記散水部は、前記空気混入室を挟んで、前記オリフィス部に対向する側に設けられており、前記散水孔の各々は、前記噴射水流が直接衝突しない位置に配置されており、前記散水孔の各々は、(1)前記噴射水流の噴射方向に見て当該噴射水流と重ならない位置にずれて配置されているオフセット散水孔であるか、あるいは、(2)前記噴射水流の噴射方向に見て当該噴射水流と重なる位置に配置されているが、前記衝突部が当該散水孔を覆うように前記散水部から離間する位置に設けられているために前記噴射水流が直接衝突しないようになっている隠れ散水孔であることを特徴とするシャワーヘッドである。
本発明によれば、衝突部の近傍に位置して気泡混入密度が低い気泡混入水を散水する傾向がある散水孔の断面積は、前記衝突部の遠方に位置して気泡混入密度が高い気泡混入水を散水する傾向がある散水孔の断面積よりも大きくなっている。このことによって、各散水孔から散水される水流の水滴の粒径を略均一に揃えることができ、利用者が感得する洗浄感の快適さという観点で顕著に優れた効果が認められた。
また、本発明によれば、前記散水部は、前記空気混入室を挟んで、前記オリフィス部に対向する側に設けられている一方で、前記散水孔の各々は、前記噴射水流が直接衝突しない位置に配置されている。
これにより、各散水孔から散水される水流の流速を略均一に揃えることができる。本件発明者によれば、このように各散水孔から散水される水流の流速が略均一に揃えられている場合において特に、各散水孔から散水される水流の水滴の粒径を略均一に揃えることの効果が顕著である。
また、本発明によれば、前記散水孔の各々は、(1)前記噴射水流の噴射方向に見て当該噴射水流と重ならない位置にずれて配置されているオフセット散水孔であるか、あるいは、(2)前記噴射水流の噴射方向に見て当該噴射水流と重なる位置に配置されているが、前記衝突部が当該散水孔を覆うように前記散水部から離間する位置に設けられているために前記噴射水流が直接衝突しないようになっている隠れ散水孔である。
これにより、散水孔の各々に噴射水流が直接衝突することが確実に回避され、各散水孔から散水される水流の流速を比較的容易に略均一に揃えることができる。
また、この場合、更に好ましくは、前記オフセット散水孔が、少なくとも1つ存在し、前記隠れ散水孔が、少なくとも1つ存在し、前記隠れ散水孔の断面積は、前記オフセット散水孔の少なくとも一部の断面積よりも大きい。
前述のように、粘性に基づいて、粘性の高い水は衝突部に沿って流れやすく、粘性の低い空気は衝突部に沿って流れにくい、と考えられる。従って、隠れ散水孔には、気泡混入密度が低い気泡混入水が流れ込みやすいと考えられるため、当該隠れ散水孔の断面積を大きくしておくことが、各散水孔から散水される水流の水滴の粒径を略均一に揃えるために有効であると考えられる。
あるいは、この場合、更に好ましくは、前記噴射水流の噴射方向に見て当該噴射水流からのずれの程度が異なる複数のオフセット散水孔が存在し、前記オフセット散水孔の断面積は、前記ずれの程度に応じて異なっている。
気泡混入密度が高い気泡混入水と気泡混入密度が低い気泡混入水とのそれぞれの挙動は、噴射水流(と衝突部との衝突場所)からのずれの程度に影響され得る(依存し得る)と考えられるため、オフセット散水孔の断面積を当該ずれの程度に応じて異ならせておくことは、各散水孔から散水される水流の水滴の粒径を略均一に揃えるために有効であると考えられる。
また、前記空気混入室内には、気泡混入密度が高い気泡混入水を所定の散水孔にガイドする隔壁が設けられていてもよい。
このような隔壁を意図的に設けることで、気泡混入密度が高い気泡混入水を所定の散水孔にガイドすることができ、各散水孔から散水される水流の水滴の粒径を,より的確に略均一に揃えることができる。また、シャワーヘッドの設計上の自由度が増大する。
また、前記散水部は、細長い形状を有する散水板からなり、前記衝突部は、前記散水板の長手方向に延びていて、当該衝突部に衝突する前記噴射水流を前記散水板の短手方向に拡散させるようになっていることが好ましい。
この場合、簡易な構成で衝突部を支持することが可能である一方、噴射水流を効率良く拡散させることができる。
また、前記オリフィス部は、複数の噴射水流を噴射する複数の噴射孔を有しており、前記複数の噴射孔は、直線状に整列されており、前記衝突部は、前記複数の噴射孔の整列方向に延びていることが好ましい。
この場合、簡易な構成で衝突部を支持することが可能である一方、噴射水流は主に散水板の短手方向に拡散するため、衝突部に衝突した後の水流同士の干渉が起こりにくく、複数の噴射水流を効率良く拡散させることができる。
また、本発明は、以上に説明した特徴のいずれかを有するシャワーヘッドと、前記シャワーヘッドの前記通水路と給水源とを接続するための給水管と、を備えたことを特徴とするキッチン用水栓である。
本発明によれば、気泡混入密度が高い気泡混入水を散水(放出)する傾向がある散水孔は、断面積が小さく、前記気泡混入水のうち気泡混入密度が低い気泡混入水を散水(放出)する傾向がある散水孔は、断面積が大きくなっている。このことによって、各散水孔から散水される水流の水滴の粒径を略均一に揃えることができ、利用者が感得する洗浄感の快適さという観点で顕著に優れた効果が認められた。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るシャワーヘッド40を備えたキッチン用水栓KFの使用状態を説明する。シャワーヘッド40を除けば、本実施形態の構成は、特許文献3に開示されたものと略同様である。
システムキッチン10は、シンク20と、このシンク20に取り付けて使用されるキッチン用水栓KFと、を備えている。
シンク20は、シンク上面22と、シンク底面24と、を有している。なお、シンク20は、シンク上面22の左側方および右側方の少なくともいずれかに延在する調理台(図示せず)を有していてもよい。
キッチン用水栓KFは、使用者から見てシンク20の奥側、すなわちシステムキッチン10の後方、且つシンク上面22に設けられ、当該シンク上面22に取り付けられる取付部30を備えている。また、キッチン用水栓KFは、取付部30よりも上方側に設けられたシャワーヘッド(スパウト部とも称される)40を有している。
取付部30は、シンク上面22に対して略垂直に設けられているが、シャワーヘッド40は、使用者のいる前方側に傾斜するよう上方に向けて延設されている。この傾斜角度は、シンク上面22に対して例えば約60度程度である。但し、この傾斜角度は、適宜変更することができる。
本実施形態のシャワーヘッド40の前方側の外側面には、シャワー吐水部40sのみならず、整流吐水部40rをも設けられている。シャワーヘッド40の前方側の外側面は、シンク上面22およびシンク底面24に対して傾斜しているため、そこに設けられる整流吐水部40rとシャワー吐水部40sから供給される水は、いずれもシンク上面22およびシンク底面24に対して斜めに供給される。なお、本明細書において「水」という場合には、「湯」をも含むものとする。
次に、図2を参照して、本実施形態に係るキッチン用水栓からのシャワー水流の供給について説明する。図2は、図1のキッチン用水栓からシャワー水流が吐水されている状態を表す側面模式図である。
図2に示すように、キッチン用水栓KFに所定値以上の流量の水が供給され、シャワー吐水部40sから供給される場合、その水は複数の水流から成るシャワー水流Wsとして、シンク20に向けて供給される。シャワー水流Wsは、シンク上面22に対して供給され、シンク上面22と、シンク前面26とシンク後面28との中央部と、が交差する領域(以下、「洗浄領域」という)WAを通過する。
また、シャワー吐水部40sから斜めに供給されたシャワー水流Wsは、洗浄領域WAを傾斜して通過する。このため、スパウトから真下に水を供給する一般的なキッチン用水栓と異なり、本キッチン用水栓KFでは、洗浄領域WAの上方をシャワーヘッド40によって覆われることがない。したがって、洗浄領域WAの上方に広い空間を確保することが可能となり、大型の被洗浄物であっても洗浄領域WAに配置し、その洗浄作業を行うことが容易である。
一方、キッチン用水栓KFに所定値以上の流量の水が供給され、整流吐水部40rから供給される場合、その水は単一の水流である整流Wrとして、シンク20に向けて供給される。整流吐水部40rは、シャワー吐水部40sの上方かつ前方で、且つ洗浄領域WAよりも後方に配設される。整流吐水部40rから供給される整流Wrは、シャワー水流Wsと同様に、洗浄領域WAを通過する。そのため、吐水形態に応じて使用者が洗浄領域WAから被洗浄物を動かすことなく洗浄を行うことが可能となり、洗浄時の作業性を向上させることができる。
次に、図3を参照して、本実施形態に係るキッチン用水栓のシャワーヘッドについて説明する。図3は、図1のキッチン用水栓のシャワーヘッドの断面図である。
シャワーヘッド40は、その外形が略円柱形を呈するシャワーヘッド本体410を有している。シャワーヘッド本体410の内部には、シャワーヘッド40の延設方向に沿って斜め上方に延びる給水流路411が設けられており、上流の給水源(通常は水道及び/または給湯システム)から供給される水は給水流路411の内部を流れて斜め上方へと導かれる。
給水流路411の下流側端部であって、シャワーヘッド本体410内部の上端には、給水流路411を通過してくる水を受け入れる空間である切替室413が形成されている。そして、切替室413の下流側に、整流用流路414とシャワー用流路(通水路)415とが切替室413と連通するよう設けられている。整流用流路414はシンク20側に向けて延び、シャワー用流路415はシャワーヘッド40が延設する方向に沿って斜め下方に延びている。
切替室413内には切替バルブ(図示せず)が配置されており、切替室413内から流出する水を整流用流路414とシャワー用流路415とのいずれか一方に導くよう、利用者の操作によって選択できるよう構成されている。
切替バルブ(図示せず)が切替室413内の水を整流用流路414に導くよう設定されている場合、その水は、矢印W3のように整流用流路414内に配置されたメッシュ状の整流網419を通過し、さらに、整流吐水部40rから矢印W4のように下方のシンク20(図3では図示せず)に向けて供給される。このとき供給される整流Wrは、図2で示したように、単一の水流となる。
一方、切替バルブが切替室413内の水をシャワー用流路415に導くよう設定されている場合、その水は、矢印W5のようにシャワー用流路(通水路)415を通過して、その下流に配置されている噴射板(オリフィス部)420に至る。噴射板420は、シャワーヘッド40が延設する方向に沿って延びる薄板状の部材であり、5個の噴射孔421がその厚み方向を貫通するようシャワーヘッド40の延設方向に直線状に整列配置されて形成されている。噴射板420に到達した水は、5個の噴射孔421のいずれかを通過することでその流速が高められ、噴射水流として下流側に噴射される。
噴射孔421の断面は、例えば円形である。また、噴射孔421の個数は、5個に限られず、1個であることも排除されない。
また、噴射孔421は、平行な複列に設けられていてもよいし、平行な3列以上に設けられていてもよい。それらの場合の配置パターンは、マトリクス状(格子配列状)であってもよいし、千鳥状であってもよい。
噴射板420の下流側には、噴射板420から空間430を空けてスロート部材440が配置されている。スロート部材440は、噴射板420の5個の噴射孔421の各々に対応する位置にスロート441を有している。このため、5個の噴射孔421から噴射された噴射水流は、各々の下流側に設けられたスロート441を通過して、スロート部材440の下流側に至る。
ここで、シャワーヘッド本体410の前方側の外側面には、空気導入口416が開設されている。そして、シャワーヘッド本体410の内部には、空気導入口416からシャワーヘッド本体410の中央部に向けて延び、さらにシャワーヘッド40が延設する方向に沿って斜め上方へと延びるように、空気吸引路417が形成されている。空気吸引路417は、噴射板420とスロート部材440との間の空間430を含んでいる(当該空間430まで延びている)。当該空間430は、5個の噴射水流の通過位置を取り囲むようにして、これらの噴射水流の通過位置に隣接している。
スロート441の断面は、例えば円形であって、その直径は噴射孔421の直径よりも例えば0.5mm〜5mm程度大きい。
以上のような構成により、5個の噴射孔421から噴射された噴射水流が空気吸引路417(の前記空間430)を通過する際、それに伴って発生する負圧により、空気導入口416及び空気吸引路417を介して後述する空気混入室450内へと空気が吸引されるようになっている。吸引されたこの空気は、噴射水流とともに複数のスロート441を通過し、スロート部材440の下流側の空気混入室450内に至るようになっている。
空気混入室450は、スロート部材440の下流側に、スロート部材440よりも大きく広がった空間として形成されている。この空気混入室450の下流側(噴射板20と対向する側)を区画する壁部として散水板460が配置されている。散水板460は、シャワーヘッド40が延設する方向に沿って延びる細長い板状部材であり、シャワー吐水部40sを構成している。また、散水板460には、複数の散水孔461a〜461d、462、463が厚み方向に貫通するよう形成されている(図4参照)。
具体的には、本実施形態の空気混入室450は、扁平な略直方体状の空間として形成されている。
前記負圧によって吸引された空気とともに複数のスロート441を通過した噴射水流は、空気混入室450内に設けられた衝突バー445と衝突するようになっている。すなわち、衝突バー445が、空気混入室450内において、5本の噴射水流と衝突する位置に配置されている。衝突バー445は、本実施形態では、シャワーヘッド40が延設する方向に沿って延びる細長い略直方体形状を有しており、長手方向の両端においてスロート部材440から吊り下げ支持されている。そして、本実施形態の衝突バー445は、当該衝突バー445に衝突する噴射水流を、散水板460の短手方向に拡散させるようになっている。
吸引された空気とともにスロート441を通過した噴射水流は、衝突バー445に衝突することで空気混入室450内で攪拌され、空気が気泡となって噴射水流に混入する。この気泡混じりの水である気泡混入水が、複数の散水孔461a〜461d、462、463の各々を通過し、複数の水流となってシャワーヘッド本体410の外部に吐出される。これら複数の水流からなるシャワー水流が、シンク20(図3では図示せず)に向けて供給される。
ここで、図4は、散水板460を噴射水流の噴射方向に見た模式図である。 図4では、散水板460の上流側に設けられた噴射板420の5個の噴射孔421が、破線で示されている。噴射孔421は、衝突バー445に向けて噴射水流を噴射するよう構成されている。衝突バー445もまた、図4に破線で示されている。
図4に示すように、本実施形態の散水板460は、噴射水流の噴射方向に見て当該噴射水流と重ならない位置にずれて配置されているオフセット散水孔461a〜461d、462を有すると共に、噴射水流の噴射方向に見て当該噴射水流と重なる位置に配置されているが、衝突バー445が当該散水孔を覆うように散水板460から離間する位置に設けられているために噴射水流が直接衝突しないようになっている隠れ散水孔463を有している。本実施形態では、オフセット散水孔462も、衝突バー445によって覆われている。
本実施形態の散水板460は、幅方向(図4の左右方向)寸法に比べて長さ方向(図4の上下方向)寸法を大きく形成された細長い形状を有している。本実施形態では、散水板460を厚み方向に貫通する散水孔461a〜461d、462、463は、いずれも断面形状が略円形で、5列×11個のマトリクス状に配列され、縦横に隣り合う散水孔の中心間の間隔は均一となっており、散水板460の幅方向中央を通る中心線に対しても長手方向中央を通る中心線に対しても対照となるように配置されている。
以上のような本実施形態のレイアウト構成によれば、本件発明者による実験の結果、衝突バー445によって覆われている隠れ散水孔463及びオフセット散水孔462において、気泡混入密度が低い気泡混入水を散水(放出)する傾向がある。一方、その他のオフセット散水孔461a〜461dは、相対的に、気泡混入密度が高い気泡混入水を散水(放出)する傾向がある。(これらの傾向については、実際に試作品を作って動作実験を行うことで把握できる。具体的には、気泡混入の程度は、水流を写真撮影することによって評価可能である。あるいは、適宜のソフトウェアを用いたシミュレーションによって把握してもよい。)そこで、本発明の特徴に従って、本実施形態では、隠れ散水孔463及びオフセット散水孔462の断面の直径を0.75mmとし、その他のオフセット散水孔461a〜461dの断面の直径を0.55mmとしている。当該値は、単なる一例であって、前者の直径は0.4mm〜2.8mmの範囲、後者の範囲の直径は0.3mm〜2.0mmの範囲であって、前者の直径が後者の直径の1.4倍程度であることが好ましい。なお、散水孔の断面は、円形に限られず、長円状等であってもよい。そのような場合、断面積を評価対象とすればよい。
次に、図5は、空気混入室450内の気泡混入水の挙動を説明するための模式的断面図である。図5を参照しながら、本実施形態の作用について説明する。
シャワーヘッド本体410内部のシャワー用流路415を流れて噴射板420に到達した水は、図5に示すように、噴射孔421を通過する際に流速を高められて、噴射板420の下流側に噴射水流として噴射される。5個の噴射孔は、互いに略平行に噴射板420を貫通していることから、そこを通過した5本の噴射水流も略平行に噴射される。各噴射孔421から噴射される噴射水流は、いずれも散水板460に至る前に、衝突バー445に衝突する。
その途中で、噴射水流は、噴射板420とスロート部材440との間に介在する空間430を通過するが、その際に発生する負圧によって、空気吸引路417内の空気がスロート441内及び空気混入室450内に引き込まれる。(この時、スロート441は、空気吸引路の一部を構成していると言える。)
空気混入室450内では、噴射水流が衝突バー445との衝突によって攪拌され、空気混入室450内に引き込まれていた空気が気泡として取り込まれ、気泡混入水が生成される。また、噴射水流の噴射を開始して所定時間が経過すると、滞留水Wstの水位が上昇し、その気液界面Wst1はスロート441内部まで侵入して空間430の近傍にまで達する。この状態では、噴射水流が当該スロート441の内部において滞留水Wstの気液界面Wst1に突入することによっても、滞留水Wst内部に巻き込まれた空気が気泡として取り込まれ、気泡混入水が生成される。(この時、スロート441は、空気混入室の一部を構成していると言える。)
生成された気泡混入水は、図5に矢印で示すように、衝突バー445から様々な方向に拡散する。ここで、その拡散の程度、すなわち、気泡混入水が流れていく経路は、それに含まれる気泡の密度に依存する傾向がある。
具体的には、本件発明者によれば、本実施形態では、気泡混入密度が高い気泡混入水は、オフセット散水孔461a〜461dに向かって流れて、そこから散水される傾向があり、気泡混入密度が低い気泡混入水は、衝突バー445の裏側に配置された隠れ散水孔463及びオフセット散水孔462に向かって流れて、そこから散水される傾向がある。
そして、本実施形態では、隠れ散水孔463及びオフセット散水孔462の断面の直径を0.75mmとし、その他のオフセット散水孔461a〜461dの断面の直径を0.55mmとしていることにより、各散水孔から散水される水流の水滴の粒径を略均一に揃えることができる。
ここで、本実施の形態の場合、散水板460が空気混入室450を挟んで噴射板420に対向する側に設けられており、いずれの散水孔461a〜461d、462、463も、噴射水流が直接衝突しない位置に配置されている。これにより、各散水孔461a〜461d、462、463から散水される水流の流速を略均一に揃えることができる。本件発明者によれば、このように各散水孔461a〜461d、462、463から散水される水流の流速が略均一に揃えられている場合において、各散水孔461a〜461d、462、463から散水される水流の水滴の粒径を略均一に揃えると、利用者が感得する洗浄感向上の効果が顕著である。
なお、図5に示すように、スロート部材440には、散水板460と対向する平面である端面443が設けられている。このスロート部材440の端面443により、気泡混入水が噴射孔側に逆流することが抑制されている。
以上に説明したように、本実施形態のキッチン用水栓によれば、気泡混入密度が高い気泡混入水を散水する傾向があるオフセット散水孔461a〜461dは、断面の直径が小さく(0.55mm)、気泡混入密度が低い気泡混入水を散水する傾向がある隠れ散水孔463及び一部のオフセット散水孔462は、断面の直径が大きくなっている(0.75mm)。このことによって、各散水孔461a〜461d、462、463から散水される水流の水滴の粒径を略均一に揃えることができる。
また、本実施形態によれば、散水板460が空気混入室450を挟んで噴射板420に対向する側に設けられている一方、いずれの散水孔461a〜461d、462、463も、噴射水流が直接衝突しない位置に配置されている。これにより、各散水孔461a〜461d、462、463から散水される水流の流速が略均一に揃えられている。このことも、前述の通り、利用者が感得する洗浄感向上の効果に貢献していると考えられる。
また、本実施形態によれば、散水板460には、噴射水流の噴射方向に見て当該噴射水流と重ならない位置にずれて配置されているオフセット散水孔461a〜461d、462と、噴射水流の噴射方向に見て当該噴射水流と重なる位置に配置されているが衝突バー445が当該散水孔を覆うように散水板460から離間する位置に設けられているために噴射水流が直接衝突しないようになっている隠れ散水孔463と、のみが設けられている。これにより、散水孔461a〜461d、462、463の各々に噴射水流が直接衝突することが確実に回避され、各散水孔461a〜461d、462、463から散水される水流の流速を比較的容易に略均一に揃えることができる。
また、本実施形態によれば、散水部が細長い形状を有する散水板460からなり、衝突バー445は、散水板460の長手方向に延びていて、当該衝突バー445に衝突する噴射水流を散水板460の短手方向に拡散させるようになっている。これにより、簡易な構成で衝突バー445を支持することが可能である一方、噴射水流を効率良く拡散させることができる。
また、本実施形態によれば、噴射板420は、5本の噴射水流を噴射する5個の噴射孔421を有しており、当該5個の噴射孔421は、直線状に整列されており、衝突バー445は、5個の噴射孔の整列方向に延びている。これにより、簡易な構成で衝突バー445を支持することが可能である一方、5本の噴射水流を効率良く拡散させることができる。もっとも、噴射孔421及び噴射水流の数は、5に限定されない。
ここで、本実施形態では、噴射水流は衝突バー445にほぼ完全に衝突するようになっているが、噴射水流の一部のみが衝突バー445に衝突して、残りの一部が散水板460に直接衝突するようになっている態様も、少なくとも本願出願の時点においては、本発明に含まれる。
また、衝突部の形状や配置の態様についても、本実施形態の衝突バー445に限定されず、シャワーヘット40全体の形態や散水部の形態に合わせて、任意の様々な態様が採用され得る。
なお、本実施形態では、図4に示すように、5列の散水孔(1列目:オフセット散水孔461c、461d、2列目:オフセット散水孔461a、461b、3列目:隠れ散水孔463及びオフセット散水孔462、4列目:オフセット散水孔461a、461b、5列目:オフセット散水孔461c、461d)のうち、3列目の散水孔462、463のみ断面の直径が大きくなっており、他の列の散水孔はいずれも断面の直径が相対的に小さくなっている。
しかしながら、2〜4列目のオフセット散水孔461a、オフセット散水孔461b、オフセット散水孔462及び隠れ散水孔463の断面の直径を大きくして、1列目と5列目のオフセット散水孔461c及びオフセット散水孔461dのみ断面の直径を相対的に小さくしてもよい。
要するに、本発明において、衝突部(例えば衝突バー445)の近傍に位置して気泡混入密度が低い気泡混入水を散水する傾向がある散水孔というのは、衝突部の下流側で空気が回り込みにくいエリア内に配置された散水孔であると言え、そのような「衝突部の近傍に位置する散水孔」というのは、噴射水流の噴射方向からみて必ずしも衝突部と重なる位置に位置する散水孔には限定されないということである。なお、衝突部の近傍、すなわち、衝突部の下流側で空気が回り込みにくいエリアというのは、流量や衝突部の配置などにより変動するため一概には言えないものの、一例としては、衝突部からの距離が図5の左右方向に見て約2,4mm(衝突部の図5の左右方向の寸法の約1.6倍程度)の範囲と言える。
あるいは、1列目と5列目のオフセット散水孔461c及びオフセット散水孔461dの断面の直径を相対的に小さくし、2列目と4列目のオフセット散水孔461a及びオフセット散水孔461bの断面の直径を相対的に中程度とし、3列目のオフセット散水孔462及び隠れ散水孔463の断面の直径を相対的に大きくしてもよい。
気泡混入密度が高い気泡混入水と気泡混入密度が低い気泡混入水とのそれぞれの挙動は、噴射水流(と衝突部との衝突場所)からのずれの程度に影響され得る(依存し得る)と考えられるため、オフセット散水孔461a〜461dの断面積を当該ずれの程度に応じて異ならせておくことは、各散水孔から散水される水流の水滴の粒径を略均一に揃えるために有効であると考えられる。
更には、同じ列内においても、噴射孔(噴射水流)からのずれの程度に応じて、例えば、オフセット散水孔461aとオフセット散水孔461bとの間で断面の直径を異ならせてもよいし、オフセット散水孔461cとオフセット散水孔461dとの間で断面の直径を異ならせてもよい。
更に、本件発明者は、空気混入室450内に隔壁480を立設することで、気泡混入密度が高い気泡混入水を所定の散水孔にガイドすることができることを知見した。そのような隔壁の例について、図6及び図7を用いて説明する。
図6は、本発明の他の実施形態に係る散水板460’を噴射水流の噴射方向に見た模式図であり、図7は、当該他の実施形態に係る空気混入室450’内の気泡混入水の挙動を説明するための模式的断面図である。
図6及び図7に示すように、短手方向に見て各オフセット散水孔461c、461dの外側に、隔壁455が合計22個設けられている。
このような隔壁455は、気泡混入密度が高い気泡混入水を、オフセット散水孔461a〜461dに効果的にガイドすることができる。
本実施形態では、短手方向に見て各隔壁455の外側に、更なるオフセット散水孔461e、461fが設けられている。本件発明者によれば、気泡混入密度が低い気泡混入水が、これらのオフセット散水孔461e、461fに向かって流れて、そこから散水される傾向がある。従って、これらのオフセット散水孔461e、461fの断面の直径は、隠れ散水孔463及びオフセット散水孔462と同じになっている。
本実施形態のような隔壁455を意図的に設けることで、気泡混入密度が高い気泡混入水を所定の散水孔にガイドすることができ、各散水孔から散水される水流の水滴の粒径を,より的確に略均一に揃えることができる。また、シャワーヘッドの設計上の自由度が増大する。
以上の説明は、キッチン用水栓KFに用いられるシャワーヘッド40についてなされているが、本発明のシャワーヘッドは、他の用途にも利用可能である。例えば、風呂設備で利用されるシャワーシステムに適用されてもよいし、特殊な業務用の洗浄装置等に適用されてもよい。