以下、図面を参照し、本発明の車両の日除け装置(以下、「車両の日除け装置」は、単に「日除け装置」とも称される)の実施形態が説明される。なお、以下に説明される実施形態における各構成要素の材質、形状、および、それらの相対的な位置関係などは、あくまで例示に過ぎない。本発明の日除け装置は、これらによって限定的に解釈されるものではない。また、以下では、フロントガラスの一部に設けられる自動車用の日除け装置を例に、一般的な乗用車を示す図面を参照して実施形態1の日除け装置が説明される。しかし、本発明の日除け装置は、図示される形式の自動車に限らず、バス、トラック、および列車などの各種の車両において用いられ得る。
<実施形態1>
図1には、自動車Cの車室の内側からフロントガラスCGおよびその周囲が描かれており、フロントガラスCGの一部に設けられた実施形態1の日除け装置1が示されている。図2には、図1のII−II線での断面図が拡大されて示されている。また、図3Aおよび図3Bには、日除け装置1の撮像装置4により撮影される撮像領域41が模式的に示されている。
図1〜3Bに示されるように、本実施形態の車両の日除け装置1は、光の透過率を変化させ得るガラス板であって車両の窓ガラスの一部に設けられる調光ガラス板2と、調光ガラス板2における車室の内側を向く表面2aに配置される表示装置3と、を備えている。調光ガラス板2は、図1〜3Bの例では自動車CのフロントガラスCGの一部に設けられている。表示装置3は透光性の材料を用いて形成されている。表示装置3は、表示部3aを車室の内側に向けて、調光ガラス板2の表面2aに配置されている。日除け装置1は、さらに、調光ガラス板2における表示装置3が設けられる表面2aと反対面2bの車外の領域を撮像して撮像データを生成する撮像装置4を備えている。なお、以下の説明では、調光ガラス板2の「表面2a」は、調光ガラス板2の「第1面2a」とも称される。また、表面2aの反対面2bは、調光ガラス板2の「第2面2b」とも称される。日除け装置1は、さらに、撮像装置4が生成した撮像データに基づいて、表示装置3の表示部3aに表示されるべき表示画像データを生成するデータ処理回路5(図9参照)と、調光ガラス板2における光の透過率を切り換えるスイッチ6と、を備えている。図示されていないが、撮像装置4とデータ処理回路5とは、有線または無線でデータの送受信が可能なように接続されている。スイッチ6は、図1では、概念的に機能ブロックとして矩形で示されている。
本実施形態では、調光ガラス板2は、車室の内部と車室の外部とを隔てるべく設けられており、自動車CのフロントガラスCGの一部を構成している。調光ガラス板2は、車両の窓ガラスにおける車室の内側を向く表面の一部に設けられてもよい。そのような態様は、実施形態2として後述される。調光ガラス板2は、光の透過率の変化に応じて、光を透過させ、または、光を遮ることができる。調光ガラス板2は、フロントガラスCGの上縁部に設けられている。図1の例では、調光ガラス板2は、フロントガラスCGの上縁部における、車幅方向の全体にわたって設けられている。
調光ガラス板2は、車室の前面のフロントガラスCGのための開口部の上縁まで設けられる(この開口部には、車体とフロントガラスCGとを接着するための糊代部分は含まれない)。しかし、図1に示されように、フロントガラスCGの上縁と調光ガラス板2との間に隙間が存在してもよい。図2に示されるように、車室の天井部の内装はフロントガラスCGの上縁付近においてフロントガラスCGよりも内側に張り出している。この内装の張り出し部分によって運転者や助手席の乗員への日差しが遮られるフロントガラスCGの上縁付近に存在する隙間は、特に問題なく許容される。図1の例では、フロントガラスCGの上縁と調光ガラス板2との間にレンズ4bが位置付けられるように、撮像装置4が車室の内部に配置されている。調光ガラス板2が遮光状態にあるときでも、問題なく車外の光景を撮影することができる。なお、図2において符号RMは樹脂モールを示している。
調光ガラス板2は、図1の例と異なり、車幅方向において運転席が設けられている方のほぼ半分の部分を占める運転席の前方部分だけに設けられていてもよい。また、そのように設けられた調光ガラス板(第1の調光ガラス板)と離間して、助手席の方のほぼ半分の部分を占める助手席の前方部分に第2の調光ガラス板が設けられてもよい。本実施形態では、調光ガラス板2は、全体としてほぼ矩形の形状を有している(図1では、フロントガラスCGが傾斜しているため、図1上、左右の端縁同士は平行に描かれていない)。しかし、調光ガラス板2は、台形や長円形など、矩形以外の任意の形状に形成されてもよい。調光ガラス板2の位置、大きさおよび形状は、必要なときに日差しを遮ることができれば、図1に示される位置、大きさおよび形状に限定されない。
調光ガラス板2は、対向して設けられている2枚のガラス板21a、21bと、ガラス板21a、21bの間に配置されている液晶シート22と、を含んでいる。後述されるように、調光ガラス板2は、液晶シート22に印加される電圧の大きさに基づいて光の透過率を変化させる。液晶シート22に印加される電圧はスイッチ6によって切り換えられる。
スイッチ6は、たとえば、図示されない車両の電源部(バッテリ、オルタネータ、または、バッテリなどの電力を受けて安定化電圧を生成する電圧レギュレータなど)と調光ガラス板2との間に接続される電気的な開閉器である。この場合、スイッチ6は、調光ガラス板2への所定の電圧の印加および非印加の2つの状態を切り替える。また、スイッチ6は、図示されない電圧レギュレータの出力電圧の基準となる基準電圧を変化させることによって電圧レギュレータの出力に接続される調光ガラス板2への印加電圧を切り換えるものでもよい。たとえば、スイッチ6は、電源部とグランドラインとの間に接続され、電圧レギュレータの基準電圧入力端子に中間端子を接続される可変抵抗などであってもよい。この場合、スイッチ6は、段階的または連続的に、調光ガラス板2における光の透過率を切り換えることができる。スイッチ6には、調光ガラス板2への電圧の印加と非印加とを切り換え得る、または、調光ガラス板2への印加電圧の大きさを変化させ得る任意のスイッチング要素が用いられる。スイッチ6は、自動車Cの運転者Mなどの人の手によって操作されてもよく、後述のように、本実施形態の日除け装置1の他の構成要素によって操作されてもよい。
表示装置3は、図1の例では、車幅方向において運転席の前方部分だけに設けられている。しかし、表示装置3は、図1に示される調光ガラス板2と同様に、車幅方向のほぼ全体にわたって設けられてもよい。また、運転席の前方の表示装置3に加えて、助手席の前方部分に第2の表示装置3bが表示装置3と離間して設けられていてもよい。表示装置3が車幅方向のほぼ全体にわたって設けられている場合、あるいは助手席の前方に第2の表示装置3bが設けられている場合、表示装置3における助手席の前方部分または第2の表示装置3bには、運転者Mからみた光景に基づく画像が表示されてもよく、助手席に座っている同乗者からみた光景に基づく画像が表示されてもよい。表示装置3における助手席の前方部分もしくは第2の表示装置3bに表示される画像は、切り替えスイッチなどの切り換え手段の操作によって切り替えられてもよく、たとえば、助手席の状態(たとえば助手席に同乗者がいるかどうか)に基づいて切り換えられてもよい。たとえば、自動車Cに助手席用のシートベルト装着検知装置が備えられている場合、この検知装置の検知結果に基づいて、表示装置3における助手席の前方部分または第2の表示装置3bに表示させる画像が切り換えられてもよい。たとえば、助手席のシートベルトが締着されているときに、助手席の同乗者からみた光景に基づく画像が、表示装置3における助手席の前方部分または第2の表示装置3bに表示されてもよい。なお、このように助手席に座る同乗者からみた光景が表示される場合、助手席用の第2の撮像装置、および、後述のように、助手席に座る人の眼の位置を検知する検知器が備えられてもよい。
また、表示装置3が車幅方向のほぼ全体にわたって設けられている場合、あるいは助手席の前方に第2の表示装置3bが設けられている場合、運転席から離れた位置であるほど、表示装置3または第2の表示装置3bの表示面と運転者Mの視線とが為す角は鋭角となり得る。そのような状況においても運転者Mにおける視認性を維持すべく、後述のように、撮像データが加工されてもよい。
前述のように、表示装置3は透光性の材料を用いて形成されている。従って、調光ガラス板2がスイッチ6によって光を透過する状態にされているときは、調光ガラス板2が設けられている部分においても、たとえば運転者Mなどの車室内の人は、表示装置3および調光ガラス板2を通して車外の光景を見ることができる。
一方、日差しが車室内に射し込むときは、スイッチ6を用いて調光ガラス板2における光の透過率を低くすることによって日差しが遮られる。また、撮像装置4によって生成された撮像データに基づいて、調光ガラス板2の第2面2bが向く車外の光景の画像が表示装置3の表示部3aに表示され得る。なお、表示装置3の表示部3aは、実際に画像が表示される部分(表示面)である。本実施形態では、表示装置3における車室を向く面のほぼ全面が表示部3aである。図1および図2では、理解され易いように、表示部3aが表示装置3における周縁や車室を向く面に沿って二点鎖線で描かれている(図1および図2以外の図面では、表示部3aは省略されている)。なお、表示装置3は周縁部にベゼル部を有していてもよい。
図1は、表示装置3に画像が表示されている状態を示しており、図1に示される表示装置3には、信号機S1、および「指定方向外進行禁止」を示す規制標識S2、主要地点などを示す案内標識S3、および規制標識S2の規制対象時間などを表示する補助標識S4の画像が表示されている。図1において表示装置3に表示されている信号機S1や規制標識S2は、本来、図1に示される状況において、運転者Mの視界に入るべき位置に存在している。ところが、日差しを遮るべく、調光ガラス板2の光の透過率が低くされると、信号機S1などが存在する領域は調光ガラス板2に隠れてしまい、信号機S1などが運転者Mに直接視認されなくなってしまう。しかし、本実施形態では、撮像装置4によって車外の光景が撮像され、調光ガラス板2の領域に本来見えるべき光景が、車室の内部側に向けて配置されている表示装置3の表示部3aに画像として表示される。本実施形態の日除け装置1によれば、運転者Mなどは、逆光下であっても、道路標識や信号機などを見落とすことなく確認することができる。日本では、道路標識として、前述の規制標識および案内標識、ならびに、特定の許可や命令を示す指示標識および注意を促す警戒標識を含む本標識と、補助標識とが設置されている。本実施形態の日除け装置1によれば、光の透過率を低くされた調光ガラス板2に隠れ得る光景が表示装置3に表示されるので、運転者Mは、逆光下であっても、たとえば、案内標識や補助標識に書かれた文字などでさえも明瞭に確認することができる。
図3Aおよび図3Bに示されるように、撮像装置4は、運転者Mの視界のうちの、透過率を低くされた調光ガラス板2によって遮られる死角部分Bを含む撮像領域41を撮像すべく、自動車Cに配置される。そのように配置された撮像装置4によって死角部分Bを含む領域が撮像され、撮像データが生成される。撮像データに基づく表示画像データがデータ処理回路5(図9参照)によって生成されて表示装置3に送られる。その結果、死角部分Bとなり得る領域を含む光景の画像が、運転者Mに向けて表示装置3(図1参照)に表示される。運転者Mが、調光ガラス板2によって隠れる部分の光景を、表示装置3を介して視認することができる。そのため、日除け装置が使用されるような日差しの下での、運転者Mによる信号機や道路標識などの見落としを少なくすることができる。本実施形態の日除け装置1は、交通の安全確保に寄与し得るものと考えられる。
また、本実施形態では、日差しを遮る必要があるときと、日差しを遮る必要が無いときとの間において、日除け装置の移動は必要とされない。日差しを遮る必要があるときには、調光ガラス板2の光の透過率を低くするだけで、日差しを遮るか少なくともその強さを弱めることができる。また、日差しを遮る必要が無いときは、調光ガラス板2における光の透過率を高くし、かつ、表示装置3による画像表示を停止するだけで、調光ガラス板2の位置に見えるべき車外の光景を車室の内部から見えるようにすることができる。車両の進行方向の変化などに伴って日差しの入射状況が変化する際の日除け装置の移動に係る、運転者Mなどにとっての煩わしさが軽減される。
さらに、本実施形態では、調光ガラス板2は、フロントガラスCGの一部を構成しており、表示装置3は、フロントガラスCGの一部分の車室内を向く表面に配置されている。従って、本実施形態では、車室内の人にとって安定した位置に画像を表示させることができる。さらに、フロントガラスCGを通して前方の光景を見ている運転者Mなどが表示装置3に視線を移す時に、従来の日除け装置に視線を移す場合と比べて前後方向における変化が小さいため、運転者Mなどは容易に素早く眼の焦点を合わせることができる。視線の移動距離も短いと考えられる。このように、本実施形態の日除け装置1は、運転者Mなどの車室内の人にとって見易い位置に車外の光景を表示することができる。
本実施形態では、撮像装置4は、表示装置3と別個に形成されている。撮像装置4は、好ましくは図3Aなどに示されるように、車室の内部に配置される。しかし、撮像装置4が、風雨などに対する適度な耐久性と耐汚性とを有している場合は、撮像装置4は車外に配置されてもよい。撮像装置4は、図3Aに示されるように、車幅方向において、好ましくは、運転者Mのほぼ正面の位置に配置される。撮像装置4は、好ましくは、図3Aに示されるように、透過率を低くされた調光ガラス板2によって生じ得る死角部分Bの中心と撮像領域41の中心とが一致するような角度で配置される。また、撮像装置4は、図3Bに示されるように、車幅方向の中央部、たとえばバックミラー(リアビューミラー)RMの裏面(自動車Cの前方を向く面)に配置されてもよい。なお、図3Bは、調光ガラス板2が運転席の前方の部分に設けられ、調光ガラス板2と離間して、助手席の前方に第2の調光ガラス板2cが設けられている例である。2つの調光ガラス板2、2cの間に、撮像装置4が配置されている。図3Bには、運転席の前方の調光ガラス板2の透過率だけが低くされることによって生じ得る死角部分Bが示されている。
図3Aおよび図3Bに示されるように、撮像装置4は、たとえば、遠くとも自動車Cの前端C1よりも前方の位置では、死角部分Bの全てが撮像領域41内に収まるように配置される。たとえば、そのような撮像領域41をもたらし得る画角を有するレンズを備えたカメラなどが撮像装置4として用いられる。あるいは、そのような撮像領域41を得るのに適した位置および角度で、撮像装置4が配置される。
撮像装置4は、図3Aおよび図3Bに示される位置に限定されず、適切な撮像領域41を得ることが可能な任意の位置に配置され得る。例えば、撮像装置4は、フロントガラスCGの車幅方向の縁部付近や、図示されないダッシュボードの上に配置されてもよい。なお、フロントガラスCGの少なくとも撮像装置4に面する部分の車外に向く表面には、酸化チタンなどの光触媒効果を用いた防汚コーティングが施されていることが好ましい。
撮像装置4は、所望の撮像領域の光景を撮像でき、データ処理回路5で処理され得る形式の撮像データを生成できるものであれば、特に限定されない。たとえば、撮像装置4としては、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサを有するデジタルカメラなどが例示される。撮像領域中の光景に基づく光エネルギーが、微小エリア毎に、CCDイメージセンサなどの内部にマトリックス状に配置された受光素子によって電気信号に変換され、それらの電気信号に基づく撮像データが生成される。好ましくは、カラー撮影の可能なイメージセンサを有するカメラなどが、撮像装置4に用いられる。
図3Aには、一点鎖線で示される円Z内に、撮像装置4が、拡大されて模式的に示されている。本実施形態の日除け装置1の撮像装置4は、屈折率の調整により光の反射を低減する被覆層4aが形成されている表面を有するレンズ4bを備えている。撮像装置4は、日差しに照らされる調光ガラス板2の第2面2bの車外の領域の光景を撮像する。従って、撮像装置4には、逆光の下での撮影が求められる。そのため、撮像装置4のレンズ4bには、被覆層4aが設けられている。被覆層4aによって、逆光の下での撮影において生じ易いフレアやゴーストの発生が抑制され得る。被覆層4aは、レンズ4bの表面にナノサイズの多数のくさび状の構造物を形成することや、レンズ4bの表面にナノサイズの微粒子の層を形成することによって形成され得る。なお、撮像装置4は、必ずしも被覆層4aを有するレンズを備えていなくてもよい。
図4Aおよび図4Bを参照して、調光ガラス板2の動作が説明される。図4Aおよび図4Bには、調光ガラス板2の断面構造が模式的に示されている。図4Aおよび図4Bに示されるように、調光ガラス板2は、具体的には、前述の2枚のガラス板21a、21bに加えて、光を透過させる2枚の導電膜22b、22cと、2枚の導電膜22b、22cの間に封入された液晶分子22aと、を含んでいる。導電膜22b、22cと、複数の液晶分子22aにより液晶シート22が構成されている。
本実施形態では、ガラス板21a、21bは、液晶シート22が配置されていない領域では、透明シートTS(図2参照)と共にフロントガラスCG(図2参照)を構成している。ガラス板21a、21bの種類としては、フロートガラスが例示されるが、ガラス板21a、21bの種類は、一定の透光性を有するものであれば特に限定されない。導電膜22b、22cの材料も、透光性および導電性を有するものであれば、特に限定されない。たとえば、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化亜鉛などが、導電膜22b、22cに用いられ得る。なお、後述されるように、表示装置3は、好ましくは有機EL表示パネルであり、表示装置3には、好ましくは、有機材料が含まれている。紫外線や熱に起因する有機材料へのストレスの軽減のために、調光ガラス板2は、紫外線および/または赤外線に対する遮光性を有していることが好ましい。たとえば、ガラス板21a、21bの間に、紫外線や赤外線を吸収する図示されない中間膜が設けられていてもよい。
液晶分子22aは、楕円体状の形状を有している。図4Aに示されるように、導電膜22bと導電膜22cとの間に所定の大きさの電圧が印加されると、複数の液晶分子22aは、調光ガラス板2の厚さ方向とほぼ平行な方向に配向する。その結果、光は調光ガラス板2を透過することができる。
一方、図4Bに示されるように、導電膜22b、22cに電圧が印加されていないときには、複数の液晶分子22aは、自身の楕円体の形状をそれぞれ任意の方向に向けて液晶シート22内に存在している。図4Bに示される状態では、調光ガラス板2(具体的には液晶分子22a)によって光が遮られる。導電膜22bと導電膜22cとの間に印加される電圧の大きさに基づいて、複数の液晶分子22aの配向性が変化する。従って、導電膜22bと導電膜22cとの間に印加する電圧の大きさを制御することによって、調光ガラス板2における光の透過率を制御することができる。
本実施形態の日除け装置1は、調光ガラス板2における光の透過率が所定の基準値を下回るときに、撮像装置4によって生成される撮像データに基づく表示画像が自動的に表示装置3に表示されるように構成されていてもよい。調光ガラス板2によって日差しが遮られたときに、調光ガラス板2に隠れる部分の光景を表示装置3に表示させるために必要な車両の運転者Mなどによる操作を少なくすることができる。たとえば、調光ガラス板2の車室に面しているガラス板21bの表面に、光の強さを検知し得る照度センサ(図示せず)などが設けられる。また、表示装置3には電源電圧が常時供給されないように、前述のスイッチ6とは別の開閉式の表示装置用スイッチ(図示せず)が、常時開状態で電源電圧の供給回路に設けられる。そして、表示装置用スイッチは、照度センサが調光ガラス板2を透過した光の強度として所定の基準値を下回る照度を検知した時に、開状態から閉状態へと切り替わるように設定される。その結果、調光ガラス板2における光の透過率が所定の基準値を下回るときに表示装置3に自動的に画像が表示され得る。また、照度センサなどを設けずに、調光ガラス板2に印加される電圧と所定の電圧とを比較する調光ガラス板用比較器(図示せず)が設けられ、調光ガラス板用比較器の出力に基づいて表示装置用スイッチの開閉状態が切り換えられてもよい。なお、図示されない表示装置用スイッチは、表示装置3に対する電源電圧の供給回路ではなく、表示装置3とデータ処理回路5との間の表示画像データの伝送ライン中に設けられてもよい。
なお、調光ガラス板2の透過率と表示装置3における画像の表示とは、必ずしも連動していなくてもよい。たとえば、調光ガラス板2の透過率が高いときに、表示装置3に画像が表示されてもよい。夜間など、車外が暗い状況では、調光ガラス板2の光の透過率が高い状態でも、表示装置3は、運転者に十分に視認され得る画像を表示することができる。そのような場合、任意の情報が表示装置3に表示されてもよい、一方、光の透過率を低くされている調光ガラス板2に隠れる部分に、視認されるべき物が存在しない状況では、調光ガラス板2の光の透過率の高低に拘らず表示装置3がオフ状態であってもよい。
撮像装置4(図1参照)が車室の内部に配置されている場合、図4Cに示されるように、導電膜22b、22cの少なくともいずれかにおける撮像装置4のレンズ4bと対向する部分が、その周囲の部分と分離して形成されていてもよい。すなわち、導電膜22b、22cの少なくともいずれかが、車室の内部に配置される撮像装置4と対向し、かつ、周囲と絶縁されている部分(撮像装置対向部分221)を有していてもよい。そうすることによって、撮像装置対向部分221に、他の部分222から独立して電圧を印加することができる。たとえば、撮像装置対向部分221だけに電圧を印加することで、調光ガラス板2における撮像装置対向部分221だけ、光の透過率を高くすることができる。調光ガラス板2がフロントガラスの上縁まで設けられ、そして、日差しを遮るために全体的に調光ガラス板2の透過率が低くされる場合でも、光の透過率の高い撮像装置対向部分221を通して支障なく車両の前方の光景を撮像することができる。また、導電膜22b、22cに撮像装置対向部分221を設ける代わりに、液晶シート22(図4A参照)における撮像装置4に対向する部分に切り欠きが設けられていてもよい。そのような構成であっても、調光ガラス板2の透過率が低くされているときに、その切り欠かれている部分を通して、車両の前方の光景を撮像することができる。
調光ガラス板2は、好ましくは、車両の上下方向において、表示装置3の下端位置PL(図2参照)よりも下側まで設けられることが好ましい。日差しが遮られるべきときに、表示装置3が、少なくとも水平方向よりも高い方向からの日差しに照射されることを防ぐことができる。また、調光ガラス板2は、好ましくは、車両の車幅方向においても、表示装置3に対して窓(フロントガラスCGなど)の厚さ以上のマージンを車幅方向の両端部それぞれに有するように形成される。このように形成されることによって、日差しが遮られるべきときに、車両の前方に対して少なくとも左右それぞれに45度以内の方向からの日差しに表示装置3が照射されることが防がれる。
本実施形態の車両の日除け装置1が用いられる国において車両の窓ガラスの光の透過率の下限が窓ガラス内の領域ごとに規定されている場合は、窓ガラスにおいて光の透過率が規定されていない領域に調光ガラス板2が設けられることが好ましい。調光ガラス板2の光の透過率が、その最も高い状態において、当該国における光の透過率の下限値を下回る場合であっても、法規に反することなく日除け装置1を用いることができる。また、そのように光の透過率の低い調光ガラス板2を本実施形態の日除け装置1に用いることも可能となる。
たとえば、日本国では国土交通省の省令「道路運送車両の保安基準」において、自動車のフロントガラスの透過率に関して、可視光線に対して70%以上という基準が定められている。しかし、「前面ガラスの上縁であって、車両中心面と平行な面上のガラス開口部の実長の20%以内の範囲」は、光の透過率が規定されていない。従って、調光ガラス板2は、好ましくは、図5に示されるように、車両(本実施形態では自動車C)の前後方向に垂直な平面PVへの窓ガラス(本実施形態ではフロントガラスCG)の投影像IMにおいて上部20%以内となる領域の少なくとも一部(たとえば運転席の前方部分)に設けられる。すなわち、調光ガラス板2は、好ましくは、図5においてフロントガラスCGの上端から直線I2までの領域の一部に設けられる(ただし、図5において(矢印L2の長さ)/(矢印LMの長さ)=0.8)。なお、現在、国際連合欧州経済委員会の下に設置された自動車基準調和世界フォーラムなどにおいて、自動車の安全や環境に関する基準の国際的な調和の作業が進められている。このフォーラムでは、1958年協定に51カ国(地域)が、また、1998年協定に33カ国(地域)が、それぞれ加盟している。フロントガラスに関する世界技術基準は、2016年現在、策定途上であるが、前述の日本国での基準を満たすものは、少なくとも前述の世界フォーラムに加盟する各国の法規を満たし得るものと考えられる。
表示装置3は、透光性の材料で形成され、調光ガラス板2に、たとえば、シート状態で提供される光学透明接着剤(OCA:Optical Clear Adhesive)によって固定されている。OCAに代えて、液状で提供され、UV照射により硬化する光学透明樹脂(OCR:Optical Clear Resin)を用いて、表示装置3が調光ガラス板2に接合されてもよい。調光ガラス板2への表示装置3の固定手段は、特に限定されない。表示装置3は、画像表示機能を有し、透光性の材料で構成され得るものであれば特に限定されない。表示装置3としては、薄型の形状に形成されることが可能で、光の透過率を下げる要素となり得るカラーフィルタやバックライトなどを必要としない有機EL表示パネルが例示される。本実施形態では、表示装置3は、フロントガラスCGの一部を構成する調光ガラス板2に配置される。フロントガラスCGは自動車Cの上下方向に対して傾いているため、運転者Mなどは、表示装置3の表示面の法線に対して斜め方向から表示装置3を見がちである。従って、液晶表示装置などと比べて良好な視野角特性を有する有機EL表示パネルは、運転者Mなどにとっての見易さの面においても好ましい。
さらに、フロントガラスCGの多くは、自動車の上下方向および車幅方向それぞれにおいて、車外に向って湾曲するように形成されているので、フロントガラスCGの表面は緩やかな球面状となっている。従って、フロントガラスCGの一部を構成する調光ガラス板2の第1面2a(図2参照)は、実際には、中空の球体の内周面のような曲面を有し得る。そのような曲面に表示装置3が固定される場合、調光ガラス板2との界面に気泡などが巻き込まれないように、表示装置3は、曲げられ、かつ必要に応じて部分的に伸ばされて固定される必要がある。従って、表示装置3は、有機材料が積層された表面を有する可撓性フィルムを用いて形成された有機EL表示パネルであるであることが好ましい。
図6には、表示装置3を構成し得る有機EL表示パネル30の一画素分の断面図が例示されている。樹脂などからなる可撓性フィルム37上に、R、G、Bのサブ画素ごとにTFT38などのスイッチ素子が形成され、その上に形成された平坦化膜31上に、第1電極(例えば陽極)32が形成されている。可撓性フィルム37は、たとえば、透明なポリイミド樹脂で形成される。また、第1電極32は、たとえば、ITO膜などの透光性を備えた導電性材料により形成され、TFT38などのスイッチ素子に接続されている。TFT38は、たとえば、インジウム・ガリウム・亜鉛からなる酸化物のような、透明アモルファス酸化物半導体により形成されている。なお、TFT38は、必ずしも透光性の材料で形成されていなくてもよく、たとえば、TFT38は、個々の画素領域の外側に低温ポリシリコン(LTPS)を用いて形成されていてもよい。
また、本実施形態では、前述のように、表示装置3は、調光ガラス板2に固定されるときに引き延ばされることがある。そのため、TFT38は、無機半導体材料よりも伸長し得る有機半導体材料により形成されることが好ましい。たとえば、TFT38は、ペンタセン、銅フタロシアニン、フッ素化フタロシアニンなどの有機半導体材料により形成される。
サブ画素間には、SiO2などからなる絶縁バンク33が形成されている。絶縁バンク33で囲まれた領域に有機層34が蒸着されている。なお、図6では、有機層34は1層で示されているが、実際には、有機層34は、透光性の異なる有機材料からなる複数層の積層膜で形成され得る。
有機層34の上には第2電極(例えば陰極)35が、たとえばMg−Ag合金層やアルカリ金属層を光の波長よりも十分薄く形成することによって透明性を有するように蒸着法などを用いて形成されている。さらに、第2電極35の表面には、例えばSi3N4などからなる保護膜36が形成されている。図6に示される各要素は、有機層34や第2電極35が水分や酸素などを吸収しないように、図示しない樹脂フィルムなどからなるシール層により全体的に封止される。なお、図6に示される断面構造は一例に過ぎず、表示装置3を構成する有機EL表示パネル30の構造や各構成要素の材料は、ここで説明された構造や材料に限定されない。
本実施形態の日除け装置1に用いられる有機EL表示パネル30では、第1電極32と第2電極35とは、R、G、Bの各サブ画素のいずれにおいても、ほぼ同じ間隔を空けて形成されている。換言すると、第1電極32および第2電極35は、互いの間の間隔を、各色のサブ画素ごとに意図的に異ならされていない。一方、一般の有機EL表示パネルでは、パネルの表示面に垂直な方向に放射される光の強度を高めるため、有機層で発せられた光が陽極と陰極との間で反射を繰り返すように、各サブ画素の陽極と陰極との間隔を、そのサブ画素が発する色の光の波長に合致させている(マイクロキャビティ構造)。すなわち、一般の有機EL表示パネルでは、各色のサブ画素ごとに、陽極と陰極との間隔が異なっている。
しかし、本実施形態の日除け装置1では、前述のように、表示装置3は、運転者Mに斜め方向から見られることが多い。従って、表示装置3の表示面に垂直な方向に放射される光の強度を高めることは特に必要とされず、むしろ、角度が変わっても色度が大きく変化しないように、R、G、B各色の視野角依存性を一致させる方が重要である。そのため、本実施形態の日除け装置1に用いられる有機EL表示パネル30の第1電極32と第2電極35とは、一般の有機EL表示パネルと異なり、マイクロキャビティ効果を利用していない。たとえば、第1電極32と第2電極35は、R、G、Bの各サブ画素間でほぼ同じ距離だけ離間されていてもよい。そのような構造とすることによって、表示装置3に対して垂直な方向以外の方向からの視線に対してもほぼ均等な表示品質で画像を表示することができる。換言すると、本実施形態の日除け装置1では、各サブ画素における陰極と陽極との間隔は、そのサブ画素が発する光の波長に合致していなくてもよい。すなわち、有機EL表示パネル30は、複数のサブ画素を含み、複数のサブ画素のそれぞれは、複数のサブ画素のそれぞれが発する光の波長と異なる長さの間隔を空けて配置された2つの電極を含んでいてもよい。
さらに、本実施形態の日除け装置1では、表示装置3の表示面に対して垂直方向の光よりも、むしろ、特定の方向、好ましくは運転者の眼に向う方向への光の強度が強められることが好ましい。従って、90度以外の特定の反射角度(入射角度)で陽極と陰極との間において反射する光の両極の間における光路の長さが、光の波長に合致することが好ましい。すなわち、2つの電極(陽極および陰極)の間の往復の光路長と、各サブ画素によって発せられる光の波長またはその波長の整数倍とが合致する、各電極における光の反射角度βが、90度よりも小さくなるように、各サブ画素の2つの電極(陽極および陰極)が設けられていることが好ましい。換言すると、2つの電極(陽極および陰極)は、好ましくは、2つの電極の少なくとも一方で90度よりも小さい角度で反射する光における、その2つの電極の間の往復の光路の長さが、各サブ画素によって発せられる光の波長またはその波長の整数倍の長さとなるべき、所定の間隔を空けて配置される。前述の一般の有機EL表示パネルと異なり、垂直方向以外の特定の方向に放射される光の強度を高めることができる。
たとえば、スネルの法則から、前述の反射角度β(rad)が、sinβ=sin((π/2)−α)/n、となるように、各サブ画素の陰極と陽極とが配置される。ここで、α(rad)は、車両の水平軸に対する表示装置3の表示面の角度(図2参照)である。また、n(無次元)は、表示装置3(有機EL表示パネル30)における光の放射面に近い方の電極(図6の例では第2電極35)と有機層34との界面における光R1の入射角度(=反射角度β)の正弦と、表示装置3から放射される光R2における表示装置3の放射面に対する出射角度θの正弦との比率である。車両の水平軸に対して斜めに配置されている表示装置3において、水平軸に平行な方向に放射される光の強度を強めることができる。なお、第2電極35、保護膜36および図示されないシール層などの材料、および、各サブ画素によって発せられる光の波長から、比率nは一義的に定まる。また、表示装置3の表示面に対して垂直な方向から角度γ(rad)だけ傾いた方向への光の強度を高める場合は、前述の反射角度βが、sinβ=sinγ/nとなるように、各サブ画素の陰極と陽極とが配置される。
有機EL表示パネルのようなドットマトリックス方式の表示装置では、TFT38に入力される信号をデータ処理回路5(図9参照)からの表示画像データに基づいて生成するドライバ39(図7A参照)によって各画素が駆動される。ドライバ39は、たとえば、表示装置ドライバICおよび表示装置ドライバIC用実装基板などによって構成され得る。ドライバ39によって、たとえば、表示装置3における画像表示に必要なソース信号やゲート信号が適切なタイミングで生成され、TFT38に入力される。
図7Aには、ドライバ39の配置に関する一例が示されている。なお、図7Aでは、自動車Cの前方からの図として調光ガラス板2の周辺部分が示されている。自動車CおよびフロントガラスCGは二点鎖線で示されている。図7Aに示されるように、表示画像データに基づいて表示装置3の画素を駆動するドライバ39が、車室の天井部CCに配置されている。そして、表示装置3とドライバ39とを接続する配線39aが、表示装置3と天井部CCとの間に渡って配置されている。配線39aは、たとえば、表示装置3においてマトリックス状に並ぶ複数の画素の列(column)の数および行(row)の数に応じて複数個設けられる。複数の配線39aのそれぞれは、各列または各行に並べられている画素のTFTに接続される。
前述のように、調光ガラス板2は、フロントガラスCGの上縁部に設けられるのが好ましい。そのため、表示装置3は、多くの場合、自動車Cの車幅方向を長手方向とする矩形の形状に形成される。従って、図7Aに示されるように、ドライバ39は、好ましくは、車室の天井部CCに配置され、表示装置3の長手方向と平行な端縁から複数の配線39aが引き出される。配線39aと、各列または各行におけるTFTとを接続すべく、ドライバ39に対する近位端から遠位端まで設けられる表示装置3の内部配線(図示せず)を短くすることができる。図示されない内部配線における電圧降下や、内部配線の導体抵抗による発熱を小さくすることができる。表示装置3に電流駆動式である有機EL表示パネルが用いられる場合、図7Aに示されるようなドライバ39の配置は特に好ましい。ドライバ39は、たとえば、天井部CCの内装(図示せず)の上部に配置される。
図7Bには、配線39aの配置の一例が、車幅方向に対する垂直断面の拡大図で示されている。ドライバ39は、車室の天井部に設けられる内装材IBと、車両(自動車C)のルーフを構成する外装板EBとの間に配置されている。外装板EBの端部における車両の外側を向く表面に車両の窓ガラス(フロントガラスCG)の上端部が接着剤ADを用いて接着されている。調光ガラス板2は、車室の内部と車室の外部とを隔てるべく、この窓ガラスの一部に設けられている。なお、前述のように、調光ガラス板2は、この車両の窓ガラスにおける車室の内側を向く表面の一部に設けられてもよい。そして、表示装置3とドライバ39とを接続する配線39aが、内装材IBと外装板EBとの間に形成されていてドライバ39が配置されている空間から、外装板EBにおける窓ガラスとの接着部と内装材IBとの間を通って車室の内部に引き出されている。ドライバ39と表示装置3とを、短い配線長の配線39aで接続することができる。図7Bの例では、外装板EBと内装材IBとの間に遮音材SPが配置されている。遮音材SPは、図7Bの例と異なり、ドライバ39と外装板EBおよび/または内装材IBとの間まで延在していてもよい。ドライバ39は、外装板EBの車内を向く面または内装材IBにおける車室と反対側を向く面に適切な固定手段を用いて固定されてもよく、遮音材SPまたはその他の部材を介して、外装板EBまたは内装材IBに固定されてもよい。なお、ドライバ39の配置場所は、車両の天井部に限定されない。また、配線39aの配置も図7Bに示される例に限定されない。
本実施形態の日除け装置1は、さらに、運転者Mの眼の位置を検知する検知器(第1検知器8)を備えていてもよい。第1検知器8は、たとえば、図8に示されるように、2つの既知の位置にそれぞれ設置される眼検知用カメラ8a、8bおよび眼検知用カメラ8a、8bの撮影画像を分析する分析装置(図示せず)によって構成される。眼検知用カメラ8a、8bは、たとえば、遠赤外線センサを備え、撮像領域内の各部の温度データを生成する。常人の眼球は、顔の中の他の部分よりも低温であるという特徴がある。図示されない分析装置は、眼検知用カメラ8a、8bによって生成される温度データに基づいて、眼検知用カメラ8a、8bによる撮影画像における運転者Mの顔の位置、さらには眼の位置を特定する。眼検知用カメラ8a、8bに一般的なデジタル式のカメラが用いられ、図示されない分析装置における画像認識によって眼の位置が特定されてもよい。
眼検知用カメラ8a、8bの撮影画像における運転者Mの眼の位置が特定されることによって、既知の位置にある2つの眼検知用カメラ8a、8bを結ぶ直線L1と、眼検知用カメラ8a、8bそれぞれと運転者Mの眼を結ぶ直線とのなす角度θ1、θ2が特定される。そして、直線L1の長さと、角度θ1、θ2とに基づいて、三角法を用いて、眼検知用カメラ8a、8bに対する運転者Mの眼の位置が特定される。運転者Mの両眼のいずれか一方の位置だけが特定されてもよく、両眼の位置がそれぞれ特定されてもよい。両方の眼の位置が特定される場合は、たとえば、両眼を結ぶ線の中点の位置が算出され、その中点の位置が運転者Mの眼の位置として扱われる。また、運転時にいずれか一方の眼が優先して使用される場合(例えば、運転者Mが他方の眼を損傷している場合、画像を効き眼で視認したい場合等)、本実施形態の日除け装置1は、両眼に基づく設定から一方の眼に基づく設定に切り替えかつ右眼と左眼のどちらを使用するのかを指定する補助部を有していることが好ましく、補助部に入力された情報は後述する表示対象データ選択回路53によるデータ処理に用いられる。眼検知用カメラ8a、8bは、図8に示されるようにピラーC2や、車室における車幅方向の中央部であってフロントガラスの近傍に1つずつ配置される。しかし、眼検知用カメラ8a、8bは、図8に示される位置に限定されず、運転者Mの眼の位置を検知し得る任意の位置に設けられてもよい。第1検知器8の検知結果の利用方法については後述される。なお、前述のように第2の表示装置3b(図1参照)が設けられる場合は、図8に示される運転者用の眼検知用カメラ8a、8bに加えて、助手席に座る人の眼の位置を検知する検知器(図示せず)が備えられてもよい。このような助手席用の検知器も、後述の第1検知器8の利用方法と同様に、第2の表示装置3bに表示させる画像の加工などに用いられ得る。
図9には、本実施形態の日除け装置1の主な構成要素がブロック図で例示されている。撮像装置4で生成された撮像データはデータ処理回路5に送られる。データ処理回路5によって撮像データに基づいて生成された表示画像データはドライバ39に送られ、ドライバ39で生成された画素信号によって表示装置3の各画素が駆動される。その結果、表示画像データに基づく画像が表示装置3の表示部3aに表示される。前述の第1検知器8はデータ処理回路5に接続されている。
図9に示されるように、本実施形態の日除け装置1は、さらに第2検知器9、および、第2検知器9に接続された制御回路7を含んでいる。制御回路7はスイッチ6に接続されている。スイッチ6は、図9の例では、電源ラインVと調光ガラス板2との間に接続されている。なお、図9は、本実施形態における日除け装置1の構成の一例に過ぎず、日除け装置1は、図9に示される構成要素を必ずしも全て含んでいなくてもよく、図9に示されていない構成要素をさらに含んでいてもよい。また、データ処理回路5の内部の構成も、図9に示されるものに限定されない。以下、制御回路7、第2検知器9、および、データ処理回路5が順に説明される。
第2検知器9は、調光ガラス板2に射しこむ入射光の強さを検知する。第2検知器9としては、たとえば、フォトダイオードやフォトトランジスタ、または照度センサなどが例示される。しかし、第2検知器9は、光の強さに応じた検知結果を出力できるものであれば、これらに限定されない。第2検知器9は、好ましくは、車室内における調光ガラス板2の周囲、またはダッシュボード上に配置される。第2検知器9は、調光ガラス板2を照射する日差しに照射され得る場所でさえあれば、任意の位置に配置され得る。
制御回路7は、第2検知器9の検知結果に基づいて、調光ガラス板2に射しこむ入射光の強度が予め設定された閾値を超えたときに、調光ガラス板2における光の透過率を低くすべくスイッチ6を制御する。制御回路7の出力信号はスイッチ6の制御端子(図示せず)に入力される。制御回路7は、たとえば、第2検知器9の検知結果と、所定の閾値とを比較し、第2検知器9の検知結果が、所定の閾値以上の強さの入射光に照らされていることを示している場合、スイッチ6を開状態へと制御する。調光ガラス板2への電源ラインVからの電圧の印加が停止される。その結果、前述のように、調光ガラス板2の光の透過率が低下し、調光ガラス板2によって日差しが遮られる。前述のように、スイッチ6が段階的または連続的に調光ガラス板2に入力される電圧の大きさを切り換え得るときは、制御回路7も、スイッチ6の状態を多段階に切り替えることが好ましい。制御回路7は、たとえば、コンパレータや幾つかのゲート素子の組み合わせによって構成され得る。また、制御回路7は、マイコンやゲートアレイの一部によって構成されてもよく、データ処理回路5に含められていてもよい。
データ処理回路5は、それぞれ固有の機能を有する回路ブロックである、データ生成回路50、角度識別回路51、データ加工回路52、表示対象データ選択回路53、メモリ回路54、比較回路55、および表示画像強調回路56を含んでいる。表示対象データ選択回路53は、メモリ回路53aを備えている。これらの回路ブロックは、部分的に又は全体的に、同一の回路素子を共用していてもよい。データ処理回路5は、マイコンやASIC、またはFPGAなどの任意の信号処理用半導体装置およびその周辺回路によって形成され得る。マイコンなどは、所定の処理手順を規定するソフトウェアに従って動作する。データ処理回路5内の各回路ブロックは、個々に半導体積回路装置や個別半導体素子を用いて形成されてもよい。
データ生成回路50は、データ処理回路5の基本機能を担う回路ブロックであり、撮像データに基づいて、表示装置3の画素ごとの発光強度および発光のタイミングに関する情報を含む表示画像データ生成する。データ生成回路50は、たとえば、有機EL表示パネルなどの駆動信号の生成のために用いられ、所定の処理手順を規定するソフトウェアに従って動作する、所謂タイミングコントローラおよびその周辺回路であってよい。
データ加工回路52、および角度識別回路51の機能が、図10A、10B、11Aおよび11Bを参照して、以下に説明される。図10Aには、運転者Mが、日除け装置1の調光ガラス板2における光の透過率が高いときに、日除け装置1越しに信号機S1を見る状態が示されている。図10Aにおける左側の図に例示されるように、信号機S1の画像は、ほぼ適正に運転者Mの眼に捉えられる。一方、図10Bには、調光ガラス板2によって前方の視界が遮られて運転者Mが日除け装置1の表示装置3に映る信号機S1を見る状態が示されている。本実施形態では、表示装置3は、フロントガラスCGの一部を構成する調光ガラス板2の第1面2aに配置される。フロントガラスCGは自動車Cの上下方向に対して傾いているため、図10Bにおける左側の図に示されるように、信号機S1の画像は、上下方向に縮小して歪んだ形状で運転者Mの眼に捉えられる。
データ加工回路52は、表示装置3に表示される画像が適正に運転者Mの眼に捉えられるように、撮像データに基づく画像を少なくとも一方向において拡大して表示装置3に表示すべく撮像データを加工する。たとえば、データ加工回路52は、撮像データのうちの表示装置3に表示させる領域の上下方向における中心画素から2つ上の画素のデータを、中心画素から1つ上の画素のデータに置き換える。また、中心画素から3つ上の画素および4つ上の画素のデータは、中心画素から2つ上の画素のデータ(前述のように置き換えられる前のデータ)に置き換えられる。データ加工回路52は、このようなデータ補正を、上下両方向において、表示装置3に表示させる領域に対応する撮像データに対して行う。このような補正を行うことにより、表示装置3に表示される画像を上下方向に2倍に引き延ばすことができる。たとえば、任意の基準位置が運転者Mの眼の位置として仮定され、その基準位置と表示装置3の角度(たとえば自動車Cの上下方向に対する角度)とに基づいて定められた一定の拡大率で表示装置3に表示される画像が引き延ばされる。
また、データ加工回路52は、表示装置3の表示部3a(図1参照)に対する、表示部3aに向けられる運転者Mの視線Iの角度θAに基づいて撮像データを加工してもよい。この場合、データ加工回路52は、角度識別回路51と共働する。
角度識別回路51は、第1検知器8の検知結果に基づいて、表示装置3の表示部3a(図1参照)に対する、表示部3aに向けられる運転者Mの視線Iの角度θAを識別する。具体的には、角度識別回路51は、表示部3aの表示面3aaと運転者Mの視線Iとの角度θAを識別する。表示装置3は、フロントガラスCGに固定されているので、表示装置3と、既知の位置にある2つの眼検知用カメラ8a、8b(図8参照)との位置関係は既知である。また、前述のように、第1検知器8は、眼検知用カメラ8a、8bに対する運転者Mの眼の位置を検知し得る。従って、表示装置3に対する運転者Mの眼の位置も特定され、表示装置3を見る運転者Mの視線Iの方向を特定することができる。また、表示装置3はフロントガラスCGに固定されているため、表示装置3の表示面3aaの角度は不変である。従って、第1検知器8の検知結果に基づいて、表示装置3の表示面3aaと運転者Mの視線Iとの角度θAを特定することができる。角度識別回路51は、たとえば、このように角度θAを特定する手順を含むソフトウェアなどに従って動作する。
このように、角度識別回路51によって角度θAが特定される場合、データ加工回路52は、表示装置3に表示される画像を上下方向に引き延ばす拡大率を、所定の基準角度に対する角度θAの差異Δθに基づいて選択してもよい。たとえば、表示画像は、表示装置3の表示面3aaと運転者Mの視線Iとの角度θAが基準角度90度から離れれば離れるほど、より大きな倍率で上下方向に引き延ばされる。なお、第1検知器8の不調や、その検知機能の阻害要因(たとえば運転者Mによるサングラスなどの着用)の存在によって、運転者Mの眼の位置を長期間にわたって検知することができない状態となることも考えられる。そのような場合は、データ加工回路52は、運転者Mの眼が予め設定された基準位置にあるものと仮定して、画像の拡大率を選択してもよい。また、運転者Mの眼の急激な移動に第1検知器8の動作が追随できない場合などのように、眼の位置を検知することが一時的にできない状態においては、データ加工回路52は、そのような状態に陥る直前に検知された眼の位置に基づいて、画像の拡大率を選択してもよい。
データ処理回路5は、データ加工回路52によって加工された後の撮像データに基づいて、データ生成回路50において表示画像データを生成する。そうすることによって、撮像データに基づく画像が、少なくとも一方向に拡大して表示装置3に表示される。日除け装置1が第1検知器8および角度識別回路51を備えているときは、撮像データに基づく画像が、運転者Mの眼の位置に基づいて、たとえば上下方向に拡大して表示装置3に表示される。たとえば、実際の表示装置3には、図11Aに示されるように、上下方向に引き延ばされた画像が表示される。しかし、運転者には、図11Bに示されるように、本来の表示対象物(図11Bでは信号機S1)の形状に近い形状の画像として捉えられる。すなわち、運転者にとって表示対象物の認識が容易になると考えられる。なお、データ加工回路52は、データ生成回路50によって生成された表示画像データに対して補正するものであってもよい。
データ加工回路52は、前述のような車両の上下方向に加えて、または、替えて、車両の車幅方向において、撮像データに基づく画像を拡大して表示装置3に表示すべく撮像データを加工してもよい。そして、データ処理回路5は、そのようにデータ加工を行うデータ加工回路52によって加工された後の撮像データに基づいて表示画像データを生成してもよい。その結果、撮像データに基づく画像が、運転者Mの眼の位置に基づいて、あるいは、任意の基準位置に基づいて、車幅方向に、または、車幅方向と上下方向との両方に拡大して表示装置3に表示されてもよい。
たとえば、図12に示されるように、表示装置3が車幅方向の全体にわたって設けられる場合、運転者Mの視線Iと、表示装置3における助手席に近い部分の表示面3aaとは、比較的大きく直角から乖離した鋭角を為し得る(図12では、解り易さのために、車両の上下方向に沿って配置されているように表示装置3が示されている)。従って、表示装置3において助手席に近い位置に表示される画像は、図10Bに例示された表示画像と同様に歪んだ形状で、しかし図10Bとは異なり左右方向に縮小した形状で、運転者Mの眼に捉えられる。第2の表示装置3b(図1参照)が設けられる場合も同様である。データ加工回路52は、前述の第1検知器8および角度識別回路51と協働し、上下方向に関して前述された処理と同様に、車幅方向において撮像データを加工してもよい。その結果、表示装置3における助手席に近い部分や第2の表示装置3bにおいても、運転者Mにとって表示対象物の認識が容易な画像が表示され得る。
また、図12に示されるように、運転者Mの視線Iと表示装置3の表示面3aaとの角度(水平面における角度)θB1、θB2、・・・θBnは、車幅方向において運転者Mから離れた位置であればあるほど大きく直角から乖離する。従って、運転者Mから離れた位置であればあるほど、運転者Mが表示画像を認識し難くなると考えられる。データ加工回路52は、表示装置3や第2の表示装置3bの車幅方向における任意の位置において視認性の良好な画像が表示されるように、車幅方向における表示位置に基づいて、表示画像を左右方向に引き延ばす拡大率を選択してもよい。すなわち、データ加工回路52は、車幅方向において運転席から離れた位置に表示される画像ほど大きな拡大率で車幅方向に拡大されて表示されるように撮像データを加工してもよい。たとえば、データ加工回路52は、図12において運転者Mの視線Iと角度θB2を為す位置の付近に表示される画像が、視線Iと角度θB1を為す位置の付近に表示される画像よりも大きく車幅方向において拡大表示されるように撮像データを加工してもよい。そうすることで、車幅方向において運転席から離れた位置に表示される画像ほど、車幅方向に大きな拡大率で拡大されて表示装置3および/または第2の表示装置3b(図1参照)に表示される。その結果、車幅方向全体にわたって運転者Mなどにとって認識し易い画像を、表示装置3や第2の表示装置3bに表示することができる。なお、データ加工回路52は、前述の車両の上下方向における拡大と同様に車幅方向への拡大においても、第1検知器8および角度識別回路51と協働することなく撮像データを加工してもよい。すなわち、データ加工回路52は、運転者Mの眼の基準位置に対して、表示装置3や第2の表示装置3bの車幅方向における表示位置ごとに予め設定された所定の拡大率を用いて撮像データを加工してもよい。
つぎに、表示対象データ選択回路53(図9参照)の機能が、図13および図14を参照して説明される。
表示装置3には、運転者Mの視界において、調光ガラス板2における光の透過率が低いときに生まれる死角部分の光景だけを表示することが、運転者Mの眼に違和感無く画像が映る点で好ましいと考えられる。図13に示されるように、運転者Mの眼の基準位置PIが仮定されれば、基準位置PIと調光ガラス板2の大きさとに基づいて、撮像装置4の撮像領域における死角部分(基準死角部分BR)が定まる。なお、撮像領域は、撮像装置4の位置や特性によって固定的に定まる。運転者Mの眼の位置が固定であれば、撮像データのうちの、基準死角部分BRに対応する領域(基準表示対象領域)を表示対象領域とすることによって、常に死角部分の光景だけを表示装置3に表示することができる。しかし、運転者Mの眼の位置は移動し、それにより死角部分が変動する。そのため、表示対象領域を死角部分の変動に応じて変更することが好ましい。表示対象データ選択回路53は、このような表示の実現のために、車両(本実施形態では自動車C)の運転者Mの視界における、調光ガラス板2により遮られる死角部分を判別し、かつ、撮像データのうちの死角部分に対応する表示対象データを選択する。
表示対象データ選択回路53には第1検知器8が接続されている(図9参照)。従って、表示対象データ選択回路53には、運転者Mの眼の位置についての情報が入力される。また、表示対象データ選択回路53はメモリ回路53a(図9参照)を備えている。メモリ回路53aには、運転者Mの様々な眼の位置ごとに、調光ガラス板2によって遮られることで生じる死角部分BAと、基準死角部分BRとの差分に関する情報が記憶されている。図13には、一例として、運転者Mの眼が位置PAにあるときの死角部分BAが示されている。たとえば、メモリ回路53aには、実際の死角部分BAの位置を得るために必要な、基準死角部分BRに対する上下方向および左右方向への移動量や拡大率もしくは縮小率などが記憶されている。表示対象データ選択回路53は、第1検知器8からの運転者Mの眼の位置についての情報、ならびにメモリ回路53aの記憶内容に基づいて、実際の死角部分BAの位置を数値演算などによって特定する。そして、表示対象データ選択回路53は、撮像データのうちの、実際の死角部分BAに対応する領域のデータを、表示対象とすべき表示対象データとして選択する。
そして、データ生成回路50は、実際の死角部分BAの光景を表示装置3に表示させるべく、選択された表示対象データに基づいて表示画像データを生成する。その結果、図14に示されるように、撮像領域41のうちの、基準死角部分BR(図13参照)に対応する基準表示対象領域DRに対して変更された(図14の例では上方にシフトされた)実際に表示すべき表示対象領域DAの画像が、表示装置3に表示される。フロントガラス越しに見える光景との対比において違和感の少ない画像を表示装置3に表示することができる。
表示対象データ選択回路53は、前述の上下方向に関する処理と同様の処理を、第1検知器8の検知結果を用いて車幅方向について行うことによって、運転者Mの眼の車幅方向における変位に対しても運転者Mの視界における死角部分に応じた適切な表示対象領域を選択することができる。たとえば、前述のように、表示装置3が車幅方向の全体にわたって設けられる場合または第2の表示装置3b(図1参照)が設けられる場合においても、運転者Mの眼の位置に対して適切な表示対象領域が選択され得る。すなわち、調光ガラス板2における助手席のピラーC3(図12参照)際の端縁および運転席のピラーC2(図12参照)際の端縁の運転者Mの視界の中での位置が、運転者Mの眼の位置に応じて把握される。車幅方向の全体にわたって設けられる調光ガラス板2によって生じる死角部分と基準死角部分との差分に関する情報を、前述のように、運転者Mの様々な眼の位置ごとに記憶させておき、この情報を参照することによって、車幅方向に関しても適切な表示対象領域が選択され得る。その場合、表示装置3における助手席の前方部分または第2の表示装置3bには、運転者Mからみた光景のうちの調光ガラス板2における助手席の前方部分により遮られる死角部分に基づく画像が表示されてもよい。そうすることによって、助手席の前方の表示装置3に、運転者Mにとって違和感の少ない画像を表示させることができる。
なお、表示対象データ選択回路53は、車体に対する運転者Mの相対的な僅かな動きによって生じる画像表示の細かな揺れをキャンセルする機能を有していてもよい。たとえば、表示対象データ選択回路53は、第1検知器8(図9参照)からの情報が所定のレベル以上に頻繁に変動する場合は、第1検知器8からの情報をサンプリングする周期を長くするように構成されていてもよい。また、表示対象データ選択回路53は、運転者Mの眼の位置の変化が所定の条件を満たさない場合には、表示対象データの選択動作を新たに開始しないように構成されていてもよい。また、表示対象データ選択回路53における第1検知器8からの情報を受け取る入力部分にローパスフィルタが設けられてもよい。
つぎに、表示画像強調回路56、比較回路55およびメモリ回路54(図9参照)の機能が、図15、16Aおよび16Bを参照して説明される。
メモリ回路54は、撮像装置4(図1参照)によって撮像され得る所定の対象物の外見的特徴に関する参照データを記憶する。図15には、メモリ回路54に記憶される参照データ54a、54bの例が、その参照データ54a、54bによって再構成され得る画像として概念的に示されている。すなわち、図15に示されるように、メモリ回路54には、信号機S1や規制標識S2などの、撮像装置4によって撮影される可能性のある物体の外見的特徴がデータ化して記憶されている。たとえば、メモリ回路54には、信号機S1などを実際に撮像装置4で撮影することにより生成された撮像データが記憶されている。或いは、信号機S1などの形状が微小三角形のような単位要素を用いてモデリングされ、その各単位要素の頂点座標によって参照データ54a、54bが形成されてもよい。参照データは任意の方法で形成され得る。メモリ回路54は、特に限定されないが、たとえば、SRAMやPROMなどの任意の半導体記憶装置により構成される。前述の表示対象データ選択回路53のメモリ回路53aとの間で同一の記憶装置が共用されてもよい。
比較回路55は、撮像装置4により生成された撮像データと、メモリ回路54に記憶されている参照データ54a、54bとを比較する。比較回路55は、たとえば、撮像データおよび参照データ54a、54bを画像に再構成し、パターン認識技術によって比較してもよい。また、撮像データおよび参照データ54a、54bのデータ形式が同じであれば、実際のデータのままビットもしくはバイト単位で両データが逐次比較されてもよい。比較回路55によって行われる比較の方法は特に限定されない。比較回路55は、撮像データと参照データ54a、54bとの比較によって、所定の判定基準を満たすほど参照データ54a、54bのいずれかと近似している近似撮像データがある場合、その近似撮像データを検出する。
表示画像強調回路56は、比較回路55の比較の結果、近似撮像データが検出された場合は、近似撮像データに基づいて表示される所定の対象物の表示画像をその他の表示画像よりも強調して表示装置3に表示させる。具体的には、表示画像強調回路56は、データ生成回路50(図9参照)によって生成される表示画像データのうちの、近似撮像データに基づいて生成された表示画像データを加工する。
たとえば、表示画像強調回路56は、図16Aの表示装置3における左側に示されるように、強調対象物(信号機)の画像S11の周囲の画素のデータを加工し、画像S11が際立つように画像S11を囲む枠S12を表示させる。また、図16Aの表示装置3における右側に示されるように、強調対象物(規制標識)の画像S21の周囲の画素のデータが加工され、画像S21の拡大画像S22が表示されてもよい。また、表示画像強調回路56は、図16Bに示されるように、強調対象物の表示画像S11、S21における特定の色(たとえば赤色や青色)を強調すべく、その特定の色のサブ画素の輝度を高めてもよい。
また、表示画像強調回路56は、近似撮像データが検出された場合、その近似撮像データが含まれる撮像データに基づいて表示されるべき画像を所定の時間枠で静止画として表示装置3に表示させてもよい。たとえば、データ生成回路50によって生成される表示画像データが随時ビデオメモリ(図示せず)などに記録される。そして、近似撮像データが検出されたときには、表示装置3に送られる表示画像データが、所定の時間の間、データ生成回路50によって随時生成される表示画像データから、図示されないビデオメモリに記録されている表示画像データに切り換えられてもよい。表示画像強調回路56は、これらの方法に限定されることなく任意の方法で特定の画像を強調することができる。このような強調によって、運転者Mに認識させる必要性の高い対象物に対する視認性を高めることができる。
<実施形態2>
図17には、実施形態2の車両の日除け装置11が、図2に相当する位置での断面図で示されている。実施形態2の車両の日除け装置11は、調光ガラス板12が、車両(自動車C)の窓ガラス(フロントガラスCG)の一部に設けられるのではなく、車両Cの窓ガラスCGにおける車室の内側を向く表面CGaの一部に設けられている点で、実施形態1の車両の日除け装置1と異なっている。調光ガラス板12とフロントガラスCGとは、たとえば、前述の表示装置3と調光ガラス板2との接着剤として例示したOCAやOCRなどで固定されている。調光ガラス板12とフロントガラスCGとは、日除け装置11およびフロントガラスCGを通る光の透過率を顕著に低下させない任意の方法で接合され得る。実施形態2の車両の日除け装置11では、調光ガラス板12は、調光ガラス板12よりも大きなフロントガラスCGと別個に形成され得る。調光ガラス板12を比較的容易に形成することができる。
調光ガラス板12は、実施形態1の車両の日除け装置1の調光ガラス板2と同様の構造を有し、実施形態1の車両の日除け装置1の調光ガラス板2と同様に作用する。また、実施形態2の車両の日除け装置11の表示装置3、ならびに、図示されない撮像装置、データ処理回路およびスイッチも、それぞれ、実施形態1の車両の日除け装置1の表示装置3、撮像装置4、データ処理回路5およびスイッチ6と同様の構造を有し、かつ、同様に動作し得る。また、実施形態2の車両の日除け装置11も、第1および第2の検知器を備えていてもよく、これらも実施形態1の車両の日除け装置1の第1および第2の検知器8、9とそれぞれ同様に動作し得る。従って、実施形態2の車両の日除け装置11の各構成要素のさらなる説明は省略される。
以上の説明では、自動車のフロントガラスに対して用いられる場合を例に、各実施形態の車両の日除け装置1、11が説明された。しかし、各実施形態の車両の日除け装置1、11は、フロントガラスに対するものに限定されず、自動車のリアガラスを始め、任意の車両の窓ガラスに適合し得るものと理解されるべきである。
<まとめ>
本発明の態様1に係る車両の日除け装置は、車室の内部と前記車室の外部とを隔てるべく車両の窓ガラスの一部に設けられるか、または、車両の窓ガラスにおける車室の内側を向く表面の一部に設けられる、光の透過率を変化させ得る調光ガラス板と、透光性の材料を用いて形成され、前記調光ガラス板における前記車室の内側を向く表面に、表示部を前記車室の内側に向けて配置される表示装置と、前記調光ガラス板における前記表示装置が設けられる表面と反対面の車外の領域を撮像して撮像データを生成する撮像装置と、前記撮像装置が生成した撮像データに基づいて、前記表示部に表示されるべき表示画像データを生成するデータ処理回路と、前記調光ガラス板における光の透過率を切り換えるスイッチと、を備えることを特徴としている。
本発明の態様1の構成によると、日除け装置を移動させることなく必要とされるときだけ日差しを遮ることができ、しかも、日差しが遮られているときに日除け装置に隠れる光景の画像を表示することができる。
本発明の態様2に係る車両の日除け装置は、上記態様1において、前記データ処理回路が、前記撮像データに基づく画像を少なくとも一方向において拡大して前記表示装置に表示すべく前記撮像データを加工するデータ加工回路をさらに備えていてもよい。
本発明の態様2の構成によると、車両の運転者などにとって認識し易い画像を表示装置に表示させることができる。
本発明の態様3に係る車両の日除け装置では、上記態様2において、前記撮像データに基づく画像が、前記車両の車幅方向および上下方向に拡大して前記表示装置に表示されてもよい。
本発明の態様3の構成によると、車両の車幅方向および上下方向の両方において、運転者などにとって認識し易い画像を表示装置に表示させることができる。
本発明の態様4に係る車両の日除け装置は、上記態様2または3において、車両の運転者の眼の位置を検知する第1検知器をさらに備えており、前記データ処理回路が、前記第1検知器の検知結果に基づいて、前記表示部に対する、前記表示部に向けられる運転者の視線の角度を識別する角度識別回路をさらに備え、前記データ加工回路は、前記視線の角度に基づいて前記撮像データを加工し、前記データ処理回路は、前記撮像データに基づく画像を前記眼の位置に基づいて前記少なくとも一方向に拡大して前記表示装置に表示すべく、前記データ加工回路によって加工された後の撮像データに基づいて前記表示画像データを生成してもよい。
本発明の態様4の構成によると、車両の運転者などの視線と表示装置との角度に応じて、運転者などにとって認識し易い画像を表示装置に表示させることができる。
本発明の態様5に係る車両の日除け装置では、上記態様1〜4のいずれかにおいて、前記調光ガラス板における光の透過率が所定の基準値を下回るときに、前記撮像データに基づく表示画像が自動的に前記表示装置に表示されてもよい。
本発明の態様5の構成によると、調光ガラス板によって日差しが遮られたときに、調光ガラス板に隠れる部分の光景を表示装置に表示させるために必要な車両の運転者などによる操作を少なくすることができる。
本発明の態様6に係る車両の日除け装置では、上記態様1〜5のいずれかにおいて、前記表示装置が、有機材料が積層された表面を有する可撓性フィルムを用いて形成された有機EL表示パネルであってもよい。
本発明の態様6の構成によると、車両の運転者の視認性を高めることができると共に、調光ガラス板に容易に表示装置を固定することができる。
本発明の態様7に係る車両の日除け装置では、上記態様6において、前記有機EL表示パネルは複数のサブ画素を含み、前記複数のサブ画素は、それぞれ、2つの電極を有し、前記2つの電極は所定の間隔を空けて配置されており、前記所定の間隔は、前記2つの電極の少なくとも一方で90度よりも小さい角度で反射する光の前記2つの電極の間における往復の光路の長さが、前記複数のサブ画素それぞれによって発せられる光の波長または前記波長の整数倍の長さとなるべき間隔であってもよい。
本発明の態様7の構成によると、表示装置の表示面に対して垂直方向以外の特定の方向に放射される光の強度を高めることができる。
本発明の態様8に係る車両の日除け装置では、上記態様1〜7のいずれかにおいて、前記調光ガラス板が、光を透過させる2枚の導電膜と、前記2枚の導電膜の間に封入された液晶分子とを含んでいてもよい。
本発明の態様8の構成によると、調光ガラス板への印加電圧を制御することによって、調光ガラス板における光の透過率を容易に切り替えることができる。
本発明の態様9に係る車両の日除け装置では、上記態様8において、前記2枚の導電膜の少なくともいずれかが、前記車室の内部に配置される前記撮像装置と対向し、かつ、周囲と絶縁されている部分を有していてもよい。
本発明の態様9の構成によると、調光ガラス板2の透過率が低くされる場合でも、光の透過率の高い部分を通して支障なく車両の前方の光景を撮像することができる。
本発明の態様10に係る車両の日除け装置では、上記態様1〜9のいずれかにおいて、前記調光ガラス板が、前記車両の前後方向に垂直な平面への前記窓ガラスの投影像において上部20%以内となる領域の少なくとも一部に設けられてもよい。
本発明の態様10の構成によると、光の透過率の低い調光ガラス板を用いることも可能となり得る。
本発明の態様11に係る車両の日除け装置では、上記態様1〜10のいずれかにおいて、前記表示画像データに基づいて前記表示装置の画素を駆動するドライバが、前記車室の天井部に配置されており、前記表示装置と前記ドライバとを接続する配線が、前記表示装置と前記天井部との間に渡って配置されてもよい。
本発明の態様11の構成によると、表示装置の内部配線における電圧降下や、内部配線の導体抵抗による発熱を小さくすることができる。
本発明の態様12に係る車両の日除け装置では、上記態様11において、前記ドライバが、前記天井部に設けられる内装材と、前記車両のルーフを構成する外装板との間に配置され、前記調光ガラス板は、前記外装板の端部における前記車両の外側を向く表面に上端部を接着された前記窓ガラスの一部または表面に設けられており、前記配線が、前記内装材と前記外装板との間に形成される空間から、前記外装板における前記窓ガラスとの接着部と前記内装材との間を通って前記車室の内部に引き出されていてもよい。
本発明の態様12の構成によると、ドライバと表示装置とを、短い配線長の配線で接続することができる。
本発明の態様13に係る車両の日除け装置では、上記態様1〜12のいずれかにおいて、前記データ処理回路が、所定の対象物の外見的特徴に関する参照データを記憶させておくメモリ回路と、前記撮像データと前記参照データとを比較する比較回路と、前記表示装置に表示される前記所定の対象物の表示画像を他の表示画像よりも強調すべく前記表示画像データを加工する表示画像強調回路と、をさらに有していてもよい。
本発明の態様13の構成によると、車両の運転者などに認識させる必要性の高い対象物に対する視認性を高めることができ、そのような対象物に対する運転者などによる見落としを少なくすることができる。
本発明の態様14に係る車両の日除け装置では、上記態様1〜13のいずれかにおいて、前記データ処理回路が、車両の運転者の視界における、前記調光ガラス板により遮られる死角部分を判別し、かつ、前記撮像データのうちの前記死角部分に対応する表示対象データを選択する表示対象データ選択回路をさらに有し、前記データ処理回路が、前記死角部分の光景を前記表示装置に表示させるべく前記表示対象データに基づいて前記表示画像データを生成してもよい。
本発明の態様14の構成によると、車両の運転者などの動きに伴って、光の透過率の低い状態にある調光ガラス板による死角部分が変化する場合でも、運転者などにとって違和感の少ない画像を表示装置に表示させることができる。
本発明の態様15に係る車両の日除け装置では、上記態様1〜14のいずれかにおいて、前記撮像装置は、屈折率の調整により光の反射を低減する被覆層が形成されている表面を有するレンズを備えていてもよい。
本発明の態様15の構成によると、撮像装置による撮像が逆光下で行われる場合でも、フレアやゴーストの少ない画像を表示装置に表示することができる。
本発明の態様16に係る車両の日除け装置は、上記態様1〜15のいずれかにおいて、前記調光ガラス板に射しこむ入射光の強さを検知する第2検知器と、前記入射光の強度が予め設定された閾値を超えたときに、前記調光ガラス板における光の透過率を低くすべく前記スイッチを制御する制御回路と、をさらに有していてもよい。
本発明の態様16の構成によると、日差しが所定の基準よりも強いときに、日差しを遮るために必要となる車両の運転者などの操作を少なくすることができる。
本発明の態様17に係る車両の日除け装置では、上記態様1〜16のいずれかにおいて、前記調光ガラス板が、前記車両のフロントガラスにおける車幅方向の全体にわたって設けられるか、または、前記フロントガラスにおける運転席の前方部分および助手席の前方部分それぞれに離間して設けられ、前記表示装置が車幅方向の全体にわたって設けられるか、または、前記運転席の前方部分に設けられる前記表示装置に加えて前記助手席の前方部分に第2の表示装置が設けられ、前記表示装置における前記助手席の前方部分または前記第2の表示装置に表示される画像が、前記車両の運転者からみた光景に基づく画像と、前記助手席に座る同乗者からみた光景に基づく画像との間で切り換えられてもよい。
本発明の態様17の構成によると、車両の助手席の前方部分にまでわたって日差しを遮ることができると共に、透光率を低くされた調光ガラス板に隠れる光景の画像を運転者などに視認させることができ、しかも、助手席に座る同乗者に適した光景を、適宜、同乗者に視認させることができる。
本発明の態様18に係る車両の日除け装置では、上記態様17において、前記車両の車幅方向において前記運転席から離れた位置に表示される画像ほど、大きな拡大率で前記車幅方向に拡大されて前記表示装置および/または前記第2の表示装置に表示されてもよい。
本発明の態様18の構成によると、車両の車幅方向にわたって、運転者などにとって認識し易い画像を表示装置に表示させることができる。
本発明の態様19に係る車両の日除け装置では、上記態様17または18において、前記表示装置における前記助手席の前方部分または前記第2の表示装置に、前記運転者からみた光景のうちの前記調光ガラス板における前記助手席の前方部分により遮られる死角部分に基づく画像が表示されてもよい。
本発明の態様19の構成によると、助手席の前方の表示装置に、運転者などにとって違和感の少ない画像を表示させることができる。