JP6724430B2 - 複合電解質膜の製造方法 - Google Patents
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Description
(a)ジルコニウムブトキシドを縮重合させることによりジルコニアゲルを作製し、このジルコニアゲルを乾燥させてジルコニア粉末とし、
(b)ジルコニア粉末とスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)をN−メチルピロリドン(NMP)に分散させた分散液を作製し、
(c)分散液をキャスト成膜し、乾燥させることにより自立(self-standing)ハイブリッドフィルム(Zr−SPES)を作製し、
(d)Zr−SPESハイブリッドフィルムをリン酸で処理し、ジルコニアナノ粒子をリン酸水素ジルコニウムに変換し、ZrP−SPESハイブリッドフィルムを得る
方法が開示されている。
同文献には、
(a)S−PESにリン酸水素ジルコニウムを分散させることによって、ハイブリッドフィルムの導電率が増大する点、及び、
(b)ジルコニア粒子の分散液にポリマー溶液を添加すると、粒子の凝集が起こる点
が記載されている。
(a)溶媒(純水)を入れた容器の底部に平均一次粒子径1.2μmのSiC粉末を厚さ11mmとなるように堆積させ、
(b)容器底部から上に向かって粉末にレーザー光を照射し、
(c)溶媒を蒸発させて、平均粒子径が5nmのSiCナノ粉末を得る
方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、液相中で連続的に安定してレーザーアブレーション処理を施すことができ、粒子の製造効率が向上する点が記載されている。
同文献には、 特定の繰り返し単位を有し、かつ特定のEWを有するプロトン伝導性フッ素系高分子電解質を、触媒粒子と共に電極触媒層として用いると、高温低加湿条件下であっても良好な出力特性を実現できる点が記載されている。
(a)無機材料の添加によってヒドロキシ基(−OH)の量が増大し、高温においても水を保持することができるため、及び、
(b)ある種の無機材料(例えば、Zr(HPO4)2)は、高分子電解質のスルホン酸基と相互作用するために、プロトンホッピングの距離が短くなるため、
と考えられている(特許文献1参照)。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、高分子電解質と金属酸化物粒子とを含む複合電解質膜の保水性を向上させることにある。
(1)前記複合電解質膜の製造方法は、
金属酸化物粒子に対して液相レーザーアブレーション処理を施す改質工程と、
前記液相レーザーアブレーション処理後の前記金属酸化物粒子及び高分子電解質を分散媒(B)に分散させ、キャスト用分散液を得る分散工程と、
前記キャスト用分散液をキャストし、複合電解質膜を得る膜化工程と
を備えている。
(2)前記複合電解質膜の製造方法は、
前記液相レーザーアブレーション処理後の前記金属酸化物粒子、又は、前記複合電解質膜を、過酸化水素を含む酸化性溶液で洗浄する親水化工程をさらに備えている。
(3)前記親水化工程は、前記複合電解質膜からの金属イオンの溶出量が、添加量に対して、0.3mol%以下となるように、前記金属酸化物粒子又は前記複合電解質膜の洗浄を行うものである。
(4)前記分散工程は、前記複合電解質膜中の前記金属酸化物粒子の含有量が1wt%以上4wt%以下となるように、前記金属酸化物粒子及び前記高分子電解質を前記分散媒(B)に分散させるものである。
(a)金属酸化物粒子表面に存在するOH基によって、膜の保水性が向上するため、
(b)液相レーザーアブレーション処理によって金属酸化物粒子の耐酸性が向上し、金属イオンの溶出が抑制されるため、及び
(c)液相レーザーアブレーション処理によって、高分子電解質を含むキャスト用分散液中における金属酸化物粒子の凝集が抑制されるため、
と考えられる。
(a)酸化性溶液による洗浄によって、有機不純物が除去されるだけでなく、金属酸化物粒子の耐酸性の低い部位(結晶性の低い部位)も除去されるため、及び、
(b)酸化性溶液による洗浄によって金属酸化物粒子表面のOH基の数が増加し(すなわち、金属酸化物粒子がより親水化し)、複合電解質膜の保水性がさらに高くなるため、
と考えられる。
[1. 複合電解質膜の製造方法]
本発明に係る複合電解質膜の製造方法は、
金属酸化物粒子に対して液相レーザーアブレーション処理を施す改質工程と、
前記液相レーザーアブレーション処理後の前記金属酸化物粒子及び高分子電解質を分散媒(B)に分散させ、キャスト用分散液を得る分散工程と、
前記キャスト用分散液をキャストし、複合電解質膜を得る膜化工程と
を備えている。
前記液相レーザーアブレーション処理後の前記金属酸化物粒子、又は、前記複合電解質膜を、過酸化水素を含む酸化性溶液で洗浄する親水化工程
をさらに備えていても良い。
まず、金属酸化物粒子に対して液相レーザーアブレーション処理を施す(改質工程)。
[A. 組成]
金属酸化物粒子は、主として保水性の向上を目的として高分子電解質に添加される。高分子電解質は一般に強酸であるため、金属酸化物粒子は複合電解質膜内において強酸環境下に曝されることになる。一般に、金属酸化物粒子の結晶性が低くなるほど、耐酸性が低下し、金属イオンが溶出しやすくなる。金属イオンの溶出を防ぐためには、金属酸化物粒子の結晶性は高いほど良い。ここで、「結晶性が高い」とは、X線回折パターン中の最強ピークの半値全幅が6.5°以下であることをいう。
さらに、高い保水性を得るためには、金属酸化物粒子は、親水性の高い酸化物が好ましい。ここで、「親水性の高い酸化物」とは、表面水酸基を持つ酸化物、又は、表面水酸基を導入することが可能な酸化物をいう。
これらの中でも、金属酸化物粒子は、TiO2及びZrO2が好ましい。
レーザーアブレーション処理前の金属酸化物粒子の平均一次粒子径は、特に限定されない。出発原料として、マイクロメートルオーダーの粗大粒子を用いても良く、あるいは、平均粒径が1μm未満のナノ粒子を用いても良い。
[A. 液相レーザーアブレーション装置]
「液相レーザーアブレーション処理」とは、液相中に設置されたターゲットにレーザーパルスを照射する処理をいう。
容器は、スターラーの上に設置され、容器の上部にはレーザー光を集光するためのレンズが装着されている。さらに、レンズの上方には、レーザー発振器(図示せず)が設置されている。レーザー発振器としては、例えば、Nd:YAGレーザー(波長:532nm)などがある。
(a)容器底部に堆積した粒子向かってにレーザーパルスを照射しても良く、あるいは、
(b)金属酸化物粒子を分散媒(A)中に浮遊させた状態で、金属粒子にレーザーパルスを照射しても良い。
特に、後者の方法を用いると、照射されるレーザー光の面積が小さい場合であっても、レーザー光と粒子との接触確率が増加するため、より短時間でナノ粒子を含むスラリーを作製することが可能となる。
レーザーパルスの照射強度は、金属酸化物粒子の結晶構造や表面状態に影響を与える。レーザー光の1パルスあたりの照射強度が小さいと、粒子分散液の収率が低下する。従って、1パルスあたりの照射強度は、105W/cm2以上が好ましい。1パルスあたりの照射強度は、好ましくは、106W/cm2以上である。
一方、1パルスあたりの照射強度が大きくなりすぎると、粒子径が増大するおそれがある。従って、1パルスあたりの照射強度は、1010W/cm2以下が好ましい。1パルスあたりの照射強度は、好ましくは、109W/cm2以下である。
レーザーアブレーション時の分散液の温度は、室温(25℃)が好ましい。これは、レーザー照射後の粒子の冷却と粒子の分散に適した温度であるためためである。
一般に、微粒子は、中性〜弱アルカリ性の溶液中においては良好な分散性を示すが、酸性溶液中では凝集しやすいことが知られている(特許文献1参照)。これに対し、金属酸化物粒子に液相レーザーアブレーション処理を施すと、酸性溶液中でも高い分散性を示す。これは、液相レーザーアブレーション処理を施すことによって、粒子表面にマイナスのイオンが吸着し、静電反発力によって凝集が抑制されるためと考えられる。
沈降率(%)=|logD−logD0|×100/logD0 ・・・(1)
但し、
D0は、動的光散乱法を用いて、分散直後にキャスト用分散液(液相レーザーアブレーション処理後の金属酸化物粒子と高分子電解質とを分散媒(B)に分散させたもの)内の金属酸化物粒子の粒子サイズを測定した時の、金属酸化物粒子のメディアン径、
Dは、動的光散乱法を用いて、分散させてから4時間静置した後にキャスト用分散液内の金属酸化物粒子の粒子サイズを測定した時の、金属酸化物粒子のメディアン径。
液相内の金属酸化物粒子にレーザー光が照射されると、金属酸化物粒子の温度は瞬間的に約1万度になると言われている。そのため、レーザー光の照射によって、金属ナノ粒子の平均一次粒子径、結晶構造、結晶性、表面状態などが変化する。
一般に、液相レーザーアブレーション処理後の金属酸化物の平均一次粒子径が小さくなるほど、少量の添加で高い効果が得られる。そのためには、液相レーザーアブレーション処理後の金属酸化物粒子の平均一次粒子径は、100nm以下が好ましい。平均一次粒子径は、好ましくは、40nm以下、さらに好ましくは、20nm以下である。
一方、金属酸化物粒子の平均一次粒子径を必要以上に小さくするのは、実益がないだけでなく、製造が困難となり、コストが上昇する。従って、金属酸化物粒子の平均一次粒子径は、1nm以上が好ましい。
次に、前記液相レーザーアブレーション処理後の前記金属酸化物粒子及び高分子電解質を分散媒(B)に分散させ、キャスト用分散液を得る(分散工程)。
本発明において、高分子電解質の種類は、特に限定されるものではなく、あらゆる高分子電解質に対して本発明を適用することができる。高分子電解質としては、例えば、
(a)ナフィオン(登録商標)に代表されるフッ素系電解質、
(b)ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトンをはじめとするポリアリーレンエーテル系ポリマ、ポリイミドなどをスルホン酸化した炭化水素系電解質、
などがある。
化学的耐久性の高い固体高分子型燃料電池を得るためには、高分子電解質は、フッ素系電解質が好ましい。
金属酸化物粒子及び高分子電解質を分散させるための分散媒(B)の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。分散媒(B)としては、例えば、エタノール、プロパノール、水、メタノール、ブタノールなどがある。
キャスト用分散液に含まれる分散媒(B)の量は、特に限定されるものではなく、キャスト成膜が可能な粘度を持つキャスト用分散液が得られる量であれば良い。分散媒(B)は、通常、固形分濃度が0.1〜40%となるように添加される。
キャスト用分散液をキャスト成膜することにより得られる複合電解質膜の組成は、キャスト用分散液の組成にほぼ対応する。従って、キャスト用分散液の組成は、目的とする複合電解質膜が得られるように選択する。
一方、複合電解質膜中の金属酸化物粒子の含有量が過剰になると、プロトン伝導度が低下する。従って、金属酸化物粒子の含有量は、4wt%以下が好ましい。金属酸化物粒子の含有量は、好ましくは、2wt%以下である。
キャスト用分散液を得るための分散(攪拌)方法は、特に限定されない。分散方法としては、例えば、超音波ホモジナイザー、ビーズミル、フィルミクス、スターラー攪拌などがある。
次に、前記キャスト用分散液をキャストし、複合電解質膜を得る(膜化工程)。キャスト用分散液を基板表面に塗布し、分散媒(B)を揮発させると、本発明に係る複合電解質膜が得られる。キャスト条件は、特に限定されるものではなく、キャスト用分散液の組成に応じて最適な条件を選択することができる。
本発明において、前記液相レーザーアブレーション処理後の前記金属酸化物粒子、又は、前記複合電解質膜に対して、さらに、過酸化水素を含む酸化性溶液で洗浄する処理(親水化処理)を行っても良い(親水化工程)。金属酸化物粒子又は複合電解質膜に対して親水化処理を行うと、複合電解質膜のプロトン伝導性がさらに向上する。これは、酸化性溶液で洗浄することによって、金属酸化物粒子の耐酸性の低い部位が除去されるため、及び、金属酸化物粒子の表面のOH基の数が増加するためと考えられる。
酸化性溶液は、少なくとも過酸化水素(H2O2)を含んでいる必要がある。過酸化水素は、強い酸化剤として機能するため、有機不純物や耐酸性の低い部位を除去すると同時に、金属酸化物粒子の表面を水酸化する。酸化性溶液としては、例えば、
(a)濃度が3〜30%である過酸化水素水溶液、
(b)濃硫酸(H2SO4)と過酸化水素水溶液との混合物からなるピラニア溶液
などがある。
特に、ピラニア溶液は強い酸化力を持つため、酸化性溶液として好適である。
親水化処理は、液相レーザーアブレーション処理後の金属酸化物粒子を酸化性溶液中に分散させるか、あるいは、キャスト成膜後の複合電解質膜を酸化性溶液中に浸漬することにより行う。処理条件は、特に限定されるものではなく、酸化性溶液の種類に応じて最適な条件を選択することができる。
例えば、ピラニア溶液を用いて親水化処理を行う場合、処理温度は、好ましくは、0〜90℃、さらに好ましくは、25〜80℃である。また、処理時間は、好ましくは、1分〜24時間、さらに好ましくは、1時間〜12時間である。
処理条件を最適化すると、処理前に比べて金属酸化物粒子の水吸着量が増大する。具体的には、処理条件を最適化することによって、水吸着量は、0.75個以上となる。
ここで、「水吸着量」とは、相対湿度0.8の条件下における、金属酸化物粒子の表面金属原子1個あたりの水分子の吸着数をいう。水吸着量は、金属酸化物粒子の水吸着等温線を測定することにより求められる。
処理条件を最適化すると、処理前に比べて複合電解質膜からの金属イオンの溶出量が減少する。具体的には、処理条件を最適化することによって、複合電解質膜からの金属イオンの溶出量は、添加量に対して、0.3mol%以下となる。
ここで、「金属イオンの溶出量」とは、複合電解質膜200mgに酸基の10%に相当する鉄をドープし、50mLの3%過酸化水素水中において95℃で8時間保持した時の、添加量(複合電解質膜に含まれる金属酸化物粒子に由来する金属イオンのモル数)に対する、溶液中に含まれる金属イオンのモル数の割合をいう。
本発明において、親水化処理後の金属酸化物粒子又は複合電解質膜に対して、さらに硫酸水溶液で洗浄する処理を行っても良い(硫酸洗浄工程)。酸化性溶液による処理によって、耐酸性の低い部位及び有機不純物の大半が除去されているが、さらに硫酸洗浄を行うことによって、金属酸化物粒子の表面又は複合電解質膜の内部を清浄にすることができる。処理条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。通常、濃度3〜20%の硫酸水溶液を用いて、5〜90℃で2〜24時間処理するのが好ましい。
本発明に係る複合電解質膜は、本発明に係る方法により得られたものからなる。金属酸化物粒子に対して、上述した液相レーザーアブレーション処理、及び、親水化処理を施すと、複合電解質膜のプロトン伝導性が向上する。製造条件を最適化すると、保水性が高く、かつ、金属イオン溶出量が少ない複合電解質膜が得られる。このような複合電解質膜を得るための好適な金属酸化物粒子の平均一次粒子径、金属酸化物粒子の含有量、金属イオンの溶出量、水吸着量等については、上述した通りであるので、説明を省略する。
ある種の無機材料と高分子電解質とを複合化させると、複合電解質膜のプロトン伝導度が向上することが知られている。これは、無機材料表面に存在するOH基によって、膜の保水性が向上するためと考えられている。金属酸化物粒子は、初めからこのようなOH基をある程度持っている場合が多い。
これに対し、金属酸化物粒子と高分子電解質とを複合化させる場合において、金属酸化物粒子に対して液相レーザーアブレーション処理及び親水化処理を施すと、複合電解質膜のプロトン伝導性がさらに向上する。これは、以下のような理由によると考えられる。
[3.1.1. 耐酸性の向上]
液相中に分散させた金属酸化物粒子にレーザー光を照射すると、瞬間的に温度が約1万℃に達するため、金属酸化物粒子の結晶構造及び/又は結晶性が変化すると考えられる。
例えば、金属酸化物粒子として、ルチル・アナターゼ混合型の結晶構造を持つ粒子を用いた場合、レーザー光の照射によってアナターゼ型に変化すると考えられる。また、レーザー光の照射によって結晶構造が変化しない場合であっても、低結晶性の金属酸化物粒子にレーザー光を照射すると、結晶性の高い金属酸化物粒子に変化すると考えられる。
微粒子は、一般に酸性環境下では凝集しやすいことが知られている。そのため、単に金属酸化物粒子と高分子電解質とを分散媒(B)に分散させ、キャスト成膜した場合、金属酸化物粒子が複合電解質膜内において局所的に凝集する確率が高くなる。局所的な凝集が起こると、金属酸化物粒子を添加した効果も局所的となり、複合電解質膜全体の平均的な特性を大きく向上させるには至らない。
液相レーザーアブレーション処理によって得られる粒子は、通常、数nm〜十数nm程度の大きさを持つナノ粒子である。本願出願時において、このようなナノ粒子内で生じる結晶構造や結晶性の変化を正確に分析する手段は、本願出願人の知る限りにおいて存在しない。仮にあったとしても、多大な費用や時間を要するものである。
また、複合電解質膜中には、このようなナノ粒子が数wt%程度分散している。本願出願時において、複合電解質膜中に存在する微量のナノ粒子の分散の程度を正確かつ定量的に分析する手段は、本願出願人の知る限りにおいて存在しない。仮にあったとしても、多大な費用や時間を要するものである。
[3.2.1. 耐酸性の低い部位の除去]
ピラニア溶液のような酸化性溶液は、通常、有機不純物を除去するために用いられている。このような酸化性溶液を用いて金属酸化物粒子を洗浄すると、金属イオンの溶出及びこれに起因するプロトン伝導度の低下を抑制することができる。酸化性溶液による洗浄によって金属イオンの溶出が抑制されるのは、単に有機不純物が除去されるだけでなく、液相レーザーアブレーション処理後の金属酸化物粒子内に残存している耐酸性の低い部位(結晶性の低い部位)が除去されたためと考えられる。
酸化性溶液は強い酸化力を持つため、金属酸化物粒子を酸化性溶液で洗浄すると、金属酸化物表面のOH基の数が増加する。すなわち、金属酸化物粒子がより親水化する。その結果、複合電解質膜の保水性がさらに高くなる。
液相レーザーアブレーション処理によって得られる粒子は、通常、数nm〜十数nm程度の大きさを持つナノ粒子である。本願出願時において、このようなナノ粒子内の低結晶性部位の有無や、表面OH基の数を正確に分析する手段は、本願出願人の知る限りにおいて存在しない。仮にあったとしても、多大な費用や時間を要するものである。
[1. 試料の作製]
[1.1. 参考例1〜2]
図1に示す液相レーザーアブレーション装置を用いて、金属酸化物粒子に液相レーザーアブレーション処理を施した。容器には、ガラス製の瓶(直径:5.5cm、高さ:9.5cmのコップ状の容器)を用いた。分散媒(A)には、純水(100mL)を用いた。金属酸化物粒子には、平均一次粒子径21nmのTiO2粒子:1g(参考例1)、及び平均一次粒子径21nmのZrO2粒子:1g(参考例2)を用いた。
スターラーで分散液を攪拌しながらレーザー光を8時間照射し、スラリーを得た。スラリーの粒子濃度は、参考例1及び2ともに21mg/mLであった。また、処理後の平均一次粒子径は、14nm(参考例1)、又は16nm(参考例2)であった。
未処理のTiO2粒子(比較例1)、及びZrO2粒子(比較例2)をそのまま試験に供した。
各粒子を、それぞれ、10wt%硫酸水溶液(50mL)、又は、ピラニア溶液(50mL)中に一晩浸漬し、溶液をろ過した。ろ液に含まれる金属量をICPで測定した。表1にその結果を示す。表1より、以下のことが分かる。
(1)液相レーザーアブレーション処理により、溶出金属量が減少した。これは、液相レーザーアブレーション処理により金属酸化物粒子の結晶性が向上したためと考えられる。
(2)硫酸水溶液でも耐酸性の低い部位をある程度除去することはできるが、その効果はピラニア溶液よりも劣る。
[1. 試料の作製]
[1.1. 参考例3〜6]
参考例1で得られたレーザー処理TiO2スラリー:0.3578gにEtOH:5gを加え、3分間超音波ホモジナイザー処理し、TiO2のみを含む分散液を得た(参考例3)。以下、この分散液を「レーザー処理TiO2」ともいう。
参考例2で得られたレーザー処理ZrO2スラリー:0.3578gを用いた以外は参考例3と同様にして、ZrO2のみを含む分散液を得た(参考例4)。以下、この分散液を「レーザー処理ZrO2」ともいう。
参考例2で得られたレーザー処理ZrO2スラリー:0.3578gを用いた以外は参考例5と同様にして、ZrO2及び高分子電解質を含む分散液を得た(参考例6)。以下、この分散液を「レーザー処理ZrO2DE2020」ともいう。
未処理のTiO2粒子:0.87gに、水:0.35g及びEtOH:5gを加え、3分間超音波ホモジナイザー処理し、分散液を得た(比較例3)。以下、この分散液を単に「TiO2」ともいう。
未処理のTiO2粒子:0.87gに、水:0.35g、EtOH:4g、及び電解質溶液(DE2020):2gを加え、3分間超音波ホモジナイザー処理し、分散液を得た(比較例4)。以下、この分散液を単に「TiO2DE2020」ともいう。
動的光散乱法を用いて、超音波処理直後及び超音波処理から4時間経過後の分散液に含まれる粒子の粒度分布を測定した。図2に、レーザー処理TiO2 (参考例3)及びレーザー処理TiO2DE2020(参考例5)の動的光散乱測定結果を示す。図3に、レーザー処理ZrO2 (参考例4)及びレーザー処理ZrO2DE2020(参考例6)の動的光散乱測定結果を示す。図4に、TiO2(比較例3)及びTiO2DE2020(比較例4)の動的光散乱測定結果を示す。図2〜図4より、以下のことがわかる。
(2)未処理のTiO2粒子のみを含む分散液の場合、4時間経過後の粒度分布は、分散直後の粒度分布とほぼ同等であった。しかし、高分子電解質共存下においては、4時間経過後の粒度分布は、分散直後の粒度分布に比べて変化した(図4参照)。これは、粒子の一部が凝集して沈降したためと考えられる。
[1. 試料の作製]
参考例1で得られたレーザー処理TiO2:0.2gを50mLのピラニア溶液に一晩浸漬し、ろ過した。回収された粒子を超純水で繰り返し洗浄した後、80℃で6時間真空乾燥させた(実施例7)。
また、参考例1で得られたレーザー処理TiO2:0.2gを80℃で6時間真空乾燥させた(参考例8)。
さらに、未処理のTiO2:0.2gを80℃で6時間真空乾燥させた(比較例5)。
実施例7、参考例8で得られた金属酸化物粒子の水吸着等温線を測定した。図5に、その結果を示す。図5より、水吸着量が実施例7>参考例8の順になっていることがわかる。ピラニア処理により水吸着量が増大するのは、TiO2表面のOH基の数が増加したためと考えられる。なお、未処理のTiO2の水吸着量については、図示はしないが、参考例8とほぼ同等であった。
[1. 試料の作製]
[1.1. 参考例11〜12、実施例13〜14、参考例15、実施例16、参考例17〜18]
参考例1で得られたレーザー処理TiO2スラリー:0.358g(電解質に対して2wt%)に、EtOH:3gと電解質溶液(DE2020):2gを加え、3分間超音波ホモジナイザー処理し、キャスト用分散液を得た。キャスト用分散液をガラスシャーレにキャスト製膜し、140℃で1時間アニールした。アニール後の複合電解質膜を、10wt%の硫酸水溶液中に8時間以上浸漬した後、さらに超純水中で繰り返し洗浄した。洗浄後、複合電解質膜を風乾した(参考例11)。
参考例2で得られたレーザー処理ZrO2スラリー:0.378g(電解質に対して2wt%)を用いた以外は、参考例11と同様にして複合電解質膜を得た(参考例12)。
アニール後に複合電解質膜をピラニア溶液に一晩浸漬する処理を追加した以外は、参考例12と同様にしてZrO2を含む複合電解質膜を得た(実施例14)。
さらに、電解質溶液として、Aquivion:1.8gを用いた以外は、実施例13と同様にしてTiO2を含む複合電解質膜を得た(実施例16)。
レーザー処理TiO2スラリー:1.79g(電解質に対して10wt%)を用いた以外は、参考例11と同様にしてTiO2を含む複合電解質膜を得た(参考例18)。
DE2020:2gに、EtOH:3gを加え、3分間超音波ホモジナイザー処理し、キャスト用分散液を得た。キャスト用分散液をガラスシャーレにキャスト製膜し、140℃で1時間アニールした。アニール後の電解質膜を、10wt%の硫酸水溶液中に8時間以上浸漬した後、さらに超純水中で繰り返し洗浄した。洗浄後、電解質膜を風乾した(比較例11)。
アニール後に電解質膜をピラニア溶液に一晩浸漬する処理を追加した以外は、比較例11と同様にして電解質膜を得た(比較例12)。
電解質溶液として、Aquivion:1.8gを用いた以外は、比較例12と同様にして電解質膜を得た(比較例14)。
アニール後に複合電解質膜をピラニア溶液に一晩浸漬する処理を追加した以外は、比較例15と同様にしてTiO2を含む複合電解質膜を得た(比較例16)。
アニール後に複合電解質膜をピラニア溶液に一晩浸漬する処理を追加した以外は、比較例17と同様にしてZrO2を含む複合電解質膜を得た(比較例18)。
[2.1. 伝導度]
得られた複合電解質膜、及び電解質膜について、伝導度を測定した。測定条件は、RH10%、25℃とした。表2に結果を示す。なお、表2には、処理条件も併せて示した。
図6に、複合電解質膜のTiO2含有量と伝導度との関係を示す。表2及び図6より、以下のことが分かる。
(2)未処理の酸化物粒子を含む複合電解質膜の伝導度は、金属酸化物粒子を含まない電解質膜より低い(比較例11、15、17参照)。これは、未処理の金属酸化物粒子から溶出した金属イオンによって酸基が中和されたためと考えられる。
(3)レーザー処理+ピラニア処理した金属酸化物粒子を含む複合電解質膜(実施例13)の伝導度は、ピラニア処理のみの電解質膜(比較例12)より高く、かつ、レーザー処理のみの複合電解質膜(参考例11)より高い。これは、ピラニア処理により、金属酸化物粒子の親水性が向上し、かつ、金属イオンの溶出量が減少したためと考えられる。
(5)金属酸化物粒子の添加量が多くなるほど、伝導度が低下した(図6参照)。但し、添加量が5wt%を超えると、伝導度はほぼ一定となった。
複合電解質膜及び電解質膜について、水吸着等温線の測定及びNMRによる水の拡散係数の測定を行った。図7に、液相レーザーアブレーション処理+ピラニア処理後のTiO2粒子を含む複合電解質膜、及び、ピラニア処理後の電解質膜の水吸着等温線を示す。また、図8に、NMRによる複合電解質膜内の水の拡散係数を示す。複合電解質膜の水吸着量(図7)、及び水拡散性(図8)は、元の電解質膜よりも向上していた。これらが複合電解質膜のプロトン伝導性の向上に影響していると考えられる。
参考例11、及び実施例13の複合電解質膜200mgに対し、それぞれ、スルホン酸基の10%の鉄をドープした。この膜を50mLの3%過酸化水素水中において、95℃で8時間保持した。保持後、溶液中へのTiO2の溶出量を測定した。溶液中に溶出した金属量は、いずれも0.02μg/mL以下であった。
Claims (7)
- 以下の構成を備えた複合電解質膜の製造方法。
(1)前記複合電解質膜の製造方法は、
金属酸化物粒子に対して液相レーザーアブレーション処理を施す改質工程と、
前記液相レーザーアブレーション処理後の前記金属酸化物粒子及び高分子電解質を分散媒(B)に分散させ、キャスト用分散液を得る分散工程と、
前記キャスト用分散液をキャストし、複合電解質膜を得る膜化工程と
を備えている。
(2)前記複合電解質膜の製造方法は、
前記液相レーザーアブレーション処理後の前記金属酸化物粒子、又は、前記複合電解質膜を、過酸化水素を含む酸化性溶液で洗浄する親水化工程をさらに備えている。
(3)前記親水化工程は、前記複合電解質膜からの金属イオンの溶出量が、添加量に対して、0.3mol%以下となるように、前記金属酸化物粒子又は前記複合電解質膜の洗浄を行うものである。
(4)前記分散工程は、前記複合電解質膜中の前記金属酸化物粒子の含有量が1wt%以上4wt%以下となるように、前記金属酸化物粒子及び前記高分子電解質を前記分散媒(B)に分散させるものである。 - 前記改質工程は、前記金属酸化物粒子を分散媒(A)中に浮遊させた状態で、前記金属粒子にレーザーパルスを照射するものからなる請求項1に記載の複合電解質の製造方法。
- 前記改質工程は、次の式(1)で表される沈降率が5%以下となるように、前記金属酸化物粒子に対して前記液相レーザーアブレーション処理を施すものからなる請求項1又は2に記載の複合電解質膜の製造方法。
沈降率(%)=|logD−logD0|×100/logD0 ・・・(1)
但し、
D0は、動的光散乱法を用いて、分散直後に前記キャスト用分散液内の前記金属酸化物粒子の粒子サイズを測定した時の、前記金属酸化物粒子のメディアン径、
Dは、動的光散乱法を用いて、分散させてから4時間静置した後に前記キャスト用分散液内の前記金属酸化物粒子の粒子サイズを測定した時の、前記金属酸化物粒子のメディアン径。 - 前記酸化性溶液は、ピラニア溶液である請求項1から3までのいずれか1項に記載の複合電解質膜の製造方法。
- 前記親水化工程は、前記金属酸化物粒子の水吸着量(相対湿度0.8の条件下における、表面金属原子1個あたりの水分子の吸着数)が0.75個以上となるように、前記金属酸化物粒子又は前記複合電解質膜の洗浄を行うものである請求項1から4までのいずれか1項に記載の複合電解質膜の製造方法。
- 前記金属酸化物粒子は、SiO2、TiO2、ZrO2、CeO2、SnO2、MnO2、TeO2、及びPbO2からなる群から選ばれるいずれか1種以上からなる請求項1から5までのいずれか1項に記載の複合電解質膜の製造方法。
- 前記レーザーアブレーション処理後の前記金属酸化物粒子の平均一次粒子径は、100nm以下である請求項1から6までのいずれか1項に記載の複合電解質膜の製造方法。
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