JP6723855B2 - 摺動面構造 - Google Patents

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本発明は、摺動面構造に関するものである。
弾性体のすべりでは、巨視すべりの前段階として、真の静摩擦係数以下の駆動力で前駆的な局所すべりが発生し、実効的な静摩擦係数が真の静摩擦係数より低くなることが知られている。
弾性体の摺動面構造として、例えば特許文献1のものは、シールリップにコーティング膜を施すことによって構成されている。シールリップは微細な凹凸が設けられていることから、真実接触面積を減少し、低摩擦化を図っている。さらに、コーティングにより接触部のせん断強さの減少を図っている。これにより、特許文献1の摺動面構造は、摺動面の摩擦特性を改善する。
特開2011−241868号公報
前記特許文献1に記載された摺動面構造は、摺動面の接触部の摩擦特性を調整するものである。このため、摺動面同士の相互作用に起因した効果しか得られない。すなわち、特許文献1の摺動面構造は、静摩擦特性を制御し、局所すべりの伝播を制御できるものではない。
そこで、本発明は、弾性率の異なる部材同士の摺動において、静摩擦特性を制御して、局所すべりの伝播を制御することができる摺動面構造を提供する。
本発明の摺動面構造は、弾性率の異なる部材同士の摺動において、低弾性率側の部材の摺動面の一部に表面テクスチャにて構成された表面テクスチャ形成領域が偏在化して設けられ、前記表面テクスチャ形成領域にて、低弾性率側の部材の剛性を局所的に低下させることによって、接線力を偏在化させるものである。
本発明の摺動面構造によれば、低弾性体側の部材の摺動面の一部に表面テクスチャを形成することで、低弾性率側の部材の剛性が局所的に低下する。剛性が低下した部分にはひずみが集中し、接線力(ある接線面において、部材を相対摺動方向に押す力(接線荷重)に対抗する力)の偏在化が促進される。その結果、剛性が低下した部分に接線力が集中し、局所すべりが生じる接線荷重を低減することができる。
前記構成において、前記低弾性率側の部材が樹脂又はゴムであるのが好ましい。
前記構成において、前記表面テクスチャが複数の溝又はピットで構成されているのが好ましい。
前記構成において、前記表面テクスチャが、相対摺動方向の後方側に形成されるのが好ましい。特に、表面テクスチャは、低弾性率側の部材の未加工状態の摺動面が摺動する際に、最後に摺動開始する最終固着領域よりも、相対摺動方向の後方側に形成されているのが好ましい。
本発明の摺動面構造では、部材の内部変形により接線力の偏在化が生じ、一部の領域に接線力が集中し、局所すべりが生じる接線荷重が低下するため、実効的な静摩擦係数が低減する。また、表面テクスチャの配置により、接線力分布に変化が生じ、静摩擦特性、局所すべりの伝播を制御することができる。
低弾性率側の部材が、金属やセラミックスと比較して著しく弾性率の低い樹脂又はゴムであることで、接線力の偏在化効果が大きくなる。特に弾性限界が高いゴムの場合、顕著な接線力の偏在化効果が得られる。
表面テクスチャが複数の溝又はピットで構成されていることで、簡便に剛性を低下させる領域のパターニングができ、容易に静摩擦特性及び局所すべりの伝播を制御することが可能となる。
表面テクスチャが相対摺動方向の後方側、特に、低弾性率側の部材の未加工状態の摺動面が摺動する際に、最後に摺動開始する最終固着領域よりも、相対摺動方向の後方側に形成されていることで、局所すべりが相対摺動方向の後方側から前方側にゆっくりと順次伝播し、静止摩擦が低減されるとともに、摩擦係数の立ち上がり、立下りが緩やかになり、スティックスリップの低減に有効となる。
本発明の実施形態を示す摺動面構造の部材同士を相対摺動させる際の側面図である。 低弾性率側の部材の摺動面を示し、(a)は摺動面の全体図であり、(b)は摺動面の要部拡大図である。 低弾性率側の部材の接線力と接線荷重との関係を示す説明図である。 実施例の第2部材の摺動面を示し、(a)は摺動面の全体図であり、(b)は摺動面の要部拡大図である。 3種(未加工、前方ピット、後方ピット)のスライダ試験片に対する摩擦係数比の変化を示すグラフ図である。 未加工のスライダ試験片の局所すべり領域の拡大過程を示す図である。 前方ピットのスライダ試験片の局所すべり領域の拡大過程を示す図である。 後方ピットのスライダ試験片の局所すべり領域の拡大過程を示す図である。 前方ピットと後方ピットとで、巨視すべりが生じた際のスライダ試験片端面からの距離とピット間隔の関係を示すグラフ図である。 後方ピットのスライダ試験片の定常状態を示す図である。
以下本発明の実施の形態を図1〜図10に基づいて説明する。
本発明に係る摺動面構造は、図1に示すように、第1部材1の摺動面1aと第2部材2の摺動面2aとが相対的に摺動するものである。第1部材1と第2部材2とでは、弾性率が異なる材質にて構成されている。本実施形態では、第1部材1はSUJ2にて構成され、第2部材2はニトリルゴムにて形成されており、第2部材2が、第1部材1よりも弾性率が低い構成となっている。第1部材1と第2部材2とで弾性率が相違すれば、第1部材1及び第2部材2の材質は、金属、セラミックス、樹脂、ゴム等のあらゆる材質から選択することができる(例えば、炭素鋼、銅、アルミニウム、白金、超硬合金、炭化ケイ素や窒化ケイ素等のシリコン系セラミックス、エンジニアプラスチック、天然ゴム、合成ゴム、等)。
本実施形態では、図1に示すように第1部材1を平板体とし、第2部材2を直方体で構成している。第2部材2はホルダ3で保持し、矢印Aに示すように、例えば5Nの垂直荷重を負荷して摺動方向への相対移動を拘束し、図1の矢印Bの方向に第1部材1を摺動させる。これにより、第2部材2は、矢印Cのように相対摺動方向に接線荷重を受けることになる。
第2部材2の下面(摺動面2a)には、図2(a)に示すような表面テクスチャ4にて構成された表面テクスチャ形成領域5が形成されている。表面テクスチャ形成領域5は、図2(a)に示すように、相対摺動方向(矢印Cの向き)の後方側(図2(a)において左側)に形成されている。低弾性率側の部材(第2部材2)の未加工状態の摺動面が摺動する際には、図6において後述するように、局所すべりは変形により垂直応力が緩和される側方端面付近を前方に伝播した後、前方端面から後方へ伝播方向が反転し、最終固着領域7(最後に摺動開始する領域)が後方端面寄りとなる。本実施形態では、図2(a)に示すように、表面テクスチャ形成領域5は、最終固着領域7よりも相対摺動方向の後方側に形成されている。
図2(b)に示すように、本実施形態の表面テクスチャ4は、複数のピット6にて構成されている。ピット6は、例えばピコ秒レーザにより形成された直径50μm、深さ12μmの穴であり、100μmピッチで規則的に配列されている。
低弾性体側の部材(第2部材2)の摺動面2aの一部に表面テクスチャ4にて構成された表面テクスチャ形成領域5を形成することで、図3に示すように、低弾性率側の部材(第2部材2a)において、表面テクスチャ形成領域5に対応する部分の剛性が局所的に低下する。剛性が低下した部分にはひずみが集中し、接線力(ある接線面において、部材を相対摺動方向に押す力(接線荷重)Cに対抗する力D)の偏在化が促進される。なお、図3では接線力をD1〜D8の8か所で図示しているが、実際には多数の接線力が分布している。すなわち、第2部材2aにおいて、表面テクスチャ形成領域5に対応する部分では剛性が低下するため、接線力D4〜D8が集中する。
このように、剛性が低下した部分に接線力D4〜D8が集中し、局所すべりが生じる接線荷重Cを低減することができるため、実効的な静摩擦係数が低減する。また、表面テクスチャ4の配置により、接線力分布(D1〜D8)に変化が生じ、静摩擦特性、局所すべりの伝播を制御することができる。このようにして、第2部材2は弱い力で滑り出し、滑りを順次伝播させることができる。
本実施形態では、低弾性率側の部材(第2部材2)が、金属やセラミックスと比較して著しく弾性率の低いゴムとしているため、接線力の偏在化効果が大きくなる。つまり、図3においてD1からD8の偏りを大きくすることができる。特に弾性限界が高いゴムの場合、顕著な接線力の偏在化効果が得られる。
表面テクスチャ4が複数のピット6で構成されているため、簡便に剛性を低下させる領域のパターニングができ、容易に静摩擦特性及び局所すべりの伝播を制御することが可能となる。
表面テクスチャ4が相対摺動方向の後方側、特に、低弾性率側の部材(第2部材2)の未加工状態の摺動面2aが摺動する際に、最後に摺動開始する最終固着領域7よりも、相対摺動方向の後方側に形成されていることで、局所すべりが相対摺動方向の後方側から前方側にゆっくりと順次伝播し、静止摩擦が低減されるとともに、摩擦係数の立ち上がり、立下りが緩やかになり、スティックスリップの低減に有効となる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、第1部材1と第2部材2の形状(摺動面1a及び摺動面2aの形状)としては、図例のものに限らず、他の種々の形状のものにて構成できる。第1部材1と第2部材2との材質の組み合わせとしては、実施形態では、金属とゴムとの組み合わせであったが、金属同士としたり、ゴム同士としたり、樹脂同士としたりする等、同一の属性の組み合わせであってもよく、要は、第1部材1と第2部材2との弾性率が異なればどのような材質でも組み合わせることができる。
第1部材1と第2部材2の相対的な摺動運動は、第1部材1を固定して第2部材2を摺動させるものあってもよい。すなわち、表面テクスチャ4が形成されている方を摺動させても、表面テクスチャ4が形成されない方を摺動させてもよい。また、第1部材1と第2部材2の双方を摺動させるものであってもよい。
表面テクスチャ4を構成するピット6は、規則的に配列されていても、不規則的(ランダム)に配列されていてもよい。ピット6の直径や深さや形状は任意に設定することができ、必ずしも全てのピット6の直径や深さや形状が一律でなくてもよく、種々のピット6から表面テクスチャ4を構成してもよい。また、表面テクスチャ4は、複数の溝から構成してもよい。この場合、溝の方向は一方向であっても、二方向以上であってもよい。溝のピッチや深さは任意に設定することができ、必ずしもピッチや深さが一定でなくてもよい。また、表面テクスチャ4は、溝とピットとを混合させて構成してもよい。
表面テクスチャ4は、摺動面の全ての範囲に設ける場合を除き、摺動面において種々の場所、範囲に形成することができる。表面テクスチャ形成領域5としては、矩形に限らず、円形、楕円形、多角形、ランダムな形等、種々の形状とすることができる。1つの摺動面に複数の表面テクスチャ形成領域5を設けてもよい。
摩擦試験機を用いた試験を行った。図1に示すように、第2部材2として、5mm(幅)×5mm(長さ)×2mm(厚さ)のニトリルゴムをスライダ試験片とし、図4に示すように、ピコ秒レーザにより直径50μm、深さ12μmのピットを100μmピッチで摺動面2aの1/2の領域に形成した。比較のため、未加工のスライダ試験片も用いた。ホルダ3を介して垂直荷重を負荷し、摺動方向への相対移動を拘束した。
スライド試験片のピット群が相対摺動方向の前方又は後方(図1の状態)となるように配置し、鏡面研磨したSUJ2プレート試験片(Ra2nm)と摺動した際の摩擦係数を測定した。垂直荷重は5Nとし、負荷60s後に摺動速度0.1mm/s、ストローク8mm、無潤滑の条件で摺動させた。ニトリルゴムからの配合剤のにじみ出しによって摩擦係数が変動するため、摩擦係数測定前に10回の予備摺動とプレート試験片のエタノール拭きを行い、摩擦係数の安定化を図った。
さらに、定常化した動摩擦係数で静摩擦係数を基準化し、摩擦係数比を算出することで、静摩擦係数の挙動特性を評価した。なお、ニトリルゴムのエタノール洗浄は、表面劣化が認められたため未実施とした。また、プレート試験片にガラス基板を用いて摺動面の局所すべりを観察した。
3種のスライダ試験片に対する摩擦係数比の変化を図5に示す。後方ピット(Rearpits)は未加工(no pits)と比較して摩擦係数比の立ち上がり、立下りが緩やかとなった。一方、前方ピット(Front pits)の摩擦係数比の立ち上がりは、未加工と同等であったが、立下りは最も急峻で、オーバーシュート気味に摩擦係数比が1を若干割り込んだ。摩擦係数比の挙動の違いは、ピットによる変形挙動の変化が局所すべりから巨視すべりへの移行に影響を与えたためだと考えられる。
3種のスライダ試験片の局所すべり領域の拡大過程を図6、図7、図8に示す。使用した画像は、局所すべり領域が接触部全体に伝播し、巨視すべりが生じた瞬間の画像である。巨視すべりへの移行タイミングは、摩擦係数が最大値となるタイミングと全てのスライダ試験片でほぼ合致しており、未加工(起動後6.3s)、前方ピット(起動後8.5s)、後方ピット(起動後9.5s)の順で巨視すべりが発生した。
全てのスライダ試験片で後方端面(図6〜図8の左側端面)から局所すべりが開始するが(矢印E参照)、局所すべりの伝播挙動には大きな違いが見られた。未加工(図6)及び前方ピット(図7)では、局所すべりは、変形により垂直応力が緩和される側方端面付近を前方に伝播(矢印F参照)した後、前方端面から後方へ伝播方向が反転した(矢印G参照)。いずれも最終固着領域7は、後方端面寄りとなった。一方、後方ピット(図8)では、局所すべりは、順次前方へ伝播し(矢印H参照)、前方端面に抜けていった(矢印I参照)。
スライダ試験片には、ホルダ3を介して相対摺動方向の後方から前方(図1の左側から右側)に接線荷重が作用するため、まず、後方端面(図6〜図8の左側端面)のひずみが大きくなり、局所すべりが後方端面から発生する。ピット形成部は、未形成部と比較して剛性が低下するため、後方ピット(図8)ではピット部にひずみが集中し、後方に偏在化した接線力によって、局所すべりは順次前方へ伝播することになる。
巨視すべりが生じた際のスライダ試験片端面からの距離とピット間隔の関係を図9に示す。後方ピットでは、端面周辺でピット間隔が狭くなっており、ひずみが偏在化していることがわかる。ピット間隔の変動は、局所すべり発生の時間差を反映しており、左への進行が大きいほど局所すべりの発生タイミングが遅いことになる。従って、ピット間隔の変化が大きく、ひずみが偏在化している後方ピットは、ゆっくりと局所すべりが伝播することで、静止摩擦が低減されるとともに、摩擦係数の立ち上がりが緩やかになったと考えられる。また、後方ピット(図8)では中央部のピット列が左方向に湾曲しており、比較的ゆっくりと側方端面から中央部へ局所すべりが伝播していることがわかる。
摩擦係数が安定化した定常状態におけるスライダ試験片の形状は、図6〜図8の巨視すべりが生じた瞬間の形状とは異なるものであった。特に、後方ピットをもつスライダ試験片の形状(図10)に差異が見られた。後方ピットでは、巨視すべりが生じた瞬間は、スライダ試験片前方に最終固着領域7があったため、剛性の低いピット領域の変形が大きく、未加工部はほとんど変形していなかったが、図8と図10のホルダ左側の見え方からもわかるように、巨視すべり発生後は、ピット領域のひずみが若干緩和され、未加工部のひずみが増加した。このひずみの再配分が行われることにより、後方ピットでは最大摩擦係数後の立下りも緩やかになったと考えられる。
1 第1部材
2 第2部材
2a 摺動面
4 表面テクスチャ
5 表面テクスチャ形成領域
6 ピット
7 最終固着領域
C 相対摺動方向

Claims (4)

  1. 弾性率の異なる部材同士の摺動において、低弾性率側の部材の摺動面の一部に表面テクスチャにて構成された表面テクスチャ形成領域が偏在化して設けられ、前記表面テクスチャ形成領域にて、低弾性率側の部材の剛性を局所的に低下させることによって、接線力を偏在化させることを特徴とする摺動面構造。
  2. 前記低弾性率側の部材が樹脂又はゴムであることを特徴とする請求項1に記載の摺動面構造。
  3. 前記表面テクスチャが複数の溝又はピットで構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動面構造。
  4. 弾性率の異なる部材同士の摺動において、低弾性率側の部材の摺動面の一部に表面テクスチャにて構成された表面テクスチャ形成領域が偏在化して設けられ、前記表面テクスチャ形成領域にて、低弾性率側の部材の剛性を局所的に低下させることによって、接線力を偏在化させ、前記表面テクスチャが、相対摺動方向の後方側に形成されていることを特徴とする摺動面構造。
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