(本開示の概要)
本開示は、以下の項目に記載の光検出装置を含む。
[項目1]
第1受光素子および第2受光素子を有する光検出器と、
前記第1受光素子および前記第2受光素子上に配置された基板であって、対象物からの光を第1受光素子の方向に伝搬させる第1光伝搬路と、前記対象物からの光を前記第2受光素子の方向に伝搬させる第2光伝搬路と、を有する基板と、
前記第1光伝搬路の一部と前記第2光伝搬路の一部とを結ぶ第3光伝搬路と、
を備える光検出装置。
[項目2]
前記第3光伝搬路は、前記基板内に設けられている、項目1に記載の光検出装置。
[項目3]
前記第1受光素子および前記第2受光素子は、空気中の波長がλの光を検出し、
前記基板は、前記第1光伝搬路、前記第2光伝搬路、および前記第3光伝搬路以外の領域に、前記波長λの光を遮断するフォトニック結晶の構造を有している、項目2に記載の光検出装置。
[項目4]
前記第1受光素子および前記第2受光素子は、前記光検出器の受光面に沿って第1の方向に並び、
前記基板は、前記受光面に平行で前記第1の方向に垂直な第2の方向に延びる複数の空洞を含み、
前記複数の空洞は、前記第1光伝搬路、前記第2光伝搬路、および前記第3光伝搬路以外の領域に周期的に配列されている、
項目3に記載の光検出装置。
[項目5]
前記第3光伝搬路は、前記第1光伝搬路と前記第2光伝搬路との間において屈曲部を有し、
前記屈曲部は、前記第3光伝搬路と前記第1光伝搬路との合流点、および前記第3光伝搬路と前記第2光伝搬路との合流点よりも、前記光検出器の前記受光面から遠くに位置している、
項目2から4のいずれかに記載の光検出装置。
[項目6]
前記光検出器は、前記第1受光素子と前記第2受光素子との間に、さらに第3受光素子を有し、
前記基板は、前記第3光伝搬路の中間もしくはその途中の部分から前記第3受光素子に向かって光を伝搬させる第4光伝搬路を有する、
項目2から5のいずれかに記載の光検出装置。
[項目7]
前記第1光伝搬路を伝搬した光の少なくとも一部は前記第1受光素子に入射し、
前記第2光伝搬路を伝搬した光の少なくとも一部は前記第2受光素子に入射し、
前記第3光伝搬路および前記第4光伝搬路を伝搬した光の少なくとも一部は前記第3受光素子に入射する、
項目6に記載の光検出装置。
[項目8]
2次元的に配列された複数の検出単位を有し、
前記複数の検出単位の各々は、前記第1光伝搬路、前記第2光伝搬路、前記第3光伝搬路、前記第1受光素子、および前記第2受光素子を含む、
項目1から7のいずれかに記載の光検出装置。
[項目9]
前記基板と前記光検出器との間において、前記基板に接する透光性の第1層と、
前記第1層において前記第1受光素子に対向する透光性の第1光結合素子と、
前記第1層において前記第2受光素子に対向する透光性の第2光結合素子と、
を備え、
前記第1光伝搬路は、前記基板において、対象物から前記第1受光素子に向かう光の経路であり、
前記第2光伝搬路は、前記基板において、対象物から前記第2受光素子に向かう光の経路であり、
前記第3光伝搬路は、前記第1光結合素子および前記第2光結合素子によって前記第1層内に形成される光導波路である、
項目1に記載の光検出装置。
[項目10]
前記第1受光素子および前記第2受光素子は、第1の方向に並び、
前記第1光結合素子は、前記第1の方向に垂直な第2の方向に溝を有し、前記第1の方向に配列された複数の透光性の凸部を有する第1グレーティングであり、
前記第2光結合素子は、前記第2の方向に溝を有し、前記第1の方向に配列された複数の透光性の凸部を有する第2グレーティングである、
項目9に記載の光検出装置。
[項目11]
前記第1グレーティング、前記第2グレーティング、および前記第1層は、同一の材料で構成された単一構造体である、項目10に記載の光検出装置。
[項目12]
前記第1受光素子および前記第2受光素子は、空気中の波長がλの光を検出し、
前記第1グレーティングおよび前記第2グレーティングの各々は、前記波長λよりも小さい周期Λを有する部分を含む、項目10または11に記載の光検出装置。
[項目13]
前記第1層の屈折率をn1、前記基板の屈折率をn2とすると、前記周期Λは、
λ/n1<Λ<λ/n2
を満たす、項目12に記載の光検出装置。
[項目14]
前記第1グレーティングおよび前記第2グレーティングの各々は、互いに異なる周期を有する複数の部分を含む、項目12または13に記載の光検出装置。
[項目15]
前記第1グレーティングにおいて前記第2グレーティングに最も近い凸部の頂点もしくは中心と、前記第2グレーティングにおいて前記第1グレーティングに最も近い凸部の頂点もしくは中心との距離は、前記周期Λよりも長い、項目14に記載の光検出装置。
[項目16]
前記光検出器は、前記第1グレーティングと前記第2グレーティングとの間のスペース領域に対向する第3受光素子をさらに有する、項目15に記載の光検出装置。
[項目17]
前記第1グレーティングおよび前記第2グレーティングにおける各凸部の、前記第2の方向に垂直な断面の形状は、三角形状、台形状、および正弦波形状のいずれかであり、
0以上の整数をiとして、
1.08+i≦d≦1.31+i、または
1.58+i≦d≦1.83+i
を満たすdに関して、
前記第1グレーティングにおいて前記第2グレーティングに最も近い凸部の頂点もしくは中心と、前記第2グレーティングにおいて前記第1グレーティングに最も近い凸部の頂点もしくは中心との距離は、dΛである、
項目16に記載の光検出装置。
[項目18]
前記第1グレーティングおよび前記第2グレーティングにおける各凸部の、前記第2の方向に垂直な断面の形状は、矩形状、角の丸い矩形状、および半円形状のいずれかであり、
0以上の整数をiとして、
1<d≦1.22、または
1.46+i≦d≦2.22+i
を満たすdに関して、
前記第1グレーティングにおいて前記第2グレーティングに最も近い凸部の頂点もしくは中心と、前記第2グレーティングにおいて前記第1グレーティングに最も近い凸部の頂点もしくは中心との距離は、dΛである、
項目16に記載の光検出装置。
[項目19]
対象物と、前記第1光結合素子および前記第2光結合素子との間に配置され、TE偏光成分よりもTM偏光成分を多く含む光を前記第1光結合素子および前記第2光結合素子に入射させる偏光素子をさらに備える、項目9から18のいずれかに記載の光検出装置。
[項目20]
2次元的に配列された複数の検出単位を有し、
前記複数の検出単位の各々は、前記第1層の一部、前記基板の一部、前記第1光結合素子、前記第2光結合素子、前記第1受光素子、および前記第2受光素子を含む、
項目9から19のいずれかに記載の光検出装置。
[項目21]
前記第1層における前記複数の検出単位の間の領域に溝を有する、項目20に記載の光検出装置。
[項目22]
前記第1層における前記複数の検出単位の間の領域上に金属膜を有する、項目20に記載の光検出装置。
[項目23]
前記第1層における前記複数の検出単位の間の領域上に、金属膜で覆われた他の光結合素子を有する、項目20に記載の光検出装置。
[項目24]
前記複数の検出単位は、前記第1受光素子および前記第2受光素子が並ぶ第1の方向および前記第1の方向に垂直な第2の方向の少なくとも一方の方向に配列されている、項目8または20から23のいずれかに記載の光検出装置。
[項目25]
前記複数の検出単位は、千鳥状に配置されている、項目8または20から23のいずれかに記載の光検出装置。
[項目26]
前記複数の検出単位は、
前記第1受光素子および前記第2受光素子が第1の方向に並ぶ少なくとも1つの第1検出単位と、
前記第1受光素子および前記第2受光素子が前記第1の方向に垂直な第2の方向に並ぶ少なくとも1つの第2検出単位と、
を含む、項目8または20から25のいずれかに記載の光検出装置。
[項目27]
第1の方向に並ぶ第1受光素子および第2受光素子を有する光検出器と、
前記第1受光素子および前記第2受光素子上に配置された透光性の基板と、
前記基板と前記光検出器との間において、前記基板に接し、前記基板よりも高い屈折率を有する透光性の第1層と、
前記第1層において前記第1受光素子に対向する第1グレーティングであって、前記第1の方向に垂直な第2の方向に溝を有し、前記第1の方向に配列された複数の透光性の凸部を有する第1グレーティングと、
前記第1層において前記第2受光素子に対向する第2グレーティングであって、前記第2の方向に溝を有し、前記第1の方向に配列された複数の透光性の凸部を有する第2グレーティングと、
を備える光検出装置。
[項目28]
項目1から27のいずれかに記載の光検出装置と、
前記第1受光素子から出力される第1電気信号、および前記第2受光素子から出力される第2電気信号に基づいて、対象物の構造に関する情報を生成して出力する演算回路と、
を備える光検出システム。
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態を説明する。なお、以下で説明する実施形態は、いずれも包括的または具体的な例を示している。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定するものではない。本明細書において説明される種々の態様は、矛盾が生じない限り互いに組み合わせることが可能である。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。以下の説明において、実質的に同じ機能または類似する機能を有する構成要素には共通の参照符号を付し、重複する説明を省略することがある。
(実施形態1)
[光検出装置]
まず、本開示の実施形態1の光検出装置を説明する。
図1Aおよび図1Bは、本開示の実施形態1の光検出装置28の構成を模式的に示す図である。図1Aは、図1BにおけるB−B’線断面を示し、図1Bは、図1AにおけるA−A’線断面を示している。
以下の説明では、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標系を用いる。本実施形態では、光検出装置28における光検出器5の受光面に平行な面をXY面とし、XY面に垂直な方向をZ方向とする。図示されている座標系は、説明の便宜のために設定されており、本開示の実施形態における装置が実際に使用される際の配置および向きを制限するものではない。また、図示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
本実施形態の光検出装置28は、光検出器5と、光検出器5上に配置された透光性の基板4とを備えている。光検出器5は、第1の方向(本実施形態ではX方向)に並んだ第1受光素子6および第2受光素子7を有する。基板4は、その内部に、Z方向に延びる第1光伝搬路35および第2光伝搬路36を有する。第1光伝搬路35は、基板4の上面側の光入射部44から下面側の光出射部41まで、対象物からの入射光8を伝搬させる経路である。第1光伝搬路35の光出射部41は、第1受光素子6に対向している。第2光伝搬路36は、基板4の上面側の光入射部45から下面側の光出射部42まで、対象物からの入射光9を伝搬させる経路である。第2光伝搬路36の光出射部42は、第2受光素子7に対向している。光検出装置28は、第1光伝搬路35の一部分と第2光伝搬路36の一部分との間を結ぶ第3光伝搬路37をさらに備えている。本実施形態では、第3光伝搬路37は、基板4の内部に設けられている。後述するように、他の実施形態では、基板4の外部に第3伝搬路が設けられ得る。第3光伝搬路37は、第1光伝搬路35を伝搬する光の一部を第2光伝搬路36に向けて伝搬させ、第2光伝搬路36を伝搬する光の一部を第1光伝搬路35に向けて伝搬させる。これにより、第3光伝搬路37内で光の干渉が生じる。
なお、図1Bにおいては、光検出器5からの電気信号を出力する配線の図示は省略されている。図1Bは、基板4と光検出器5とが離れた構成を示しているが、例えば樹脂等の接着剤を用いて、基板4と光検出器5とを一体化しても良い。そのような集積構造にすることにより、振動等に強くなり、耐環境性が向上する。
対象物から第1入射光8が第1光伝搬路35の入射部44に入射すると、第1伝搬光30Aとして第1光伝搬路35内を伝搬する。第1伝搬光30Aは、第1光伝搬路35と第3光伝搬路37との合流点を超えると、第1伝搬光30Bとして出射部41に向かう。第1伝搬光30Bは、出射部41を通過すると、第1透過光12として、第1受光素子6に入射する。このように、第1入射光8の少なくとも一部は第1受光素子6に入射する。
同様に、第2入射光9が第2光伝搬路36の入射部45に入射すると、第2伝搬光31Aとして第2光伝搬路36内を伝搬する。第2伝搬光31Aは、第2光伝搬路36と第3光伝搬路37との合流点を超えると、第2伝搬光31Bとして出射部42に向かう。第2伝搬光31Bは、出射部42を通過すると、第2透過光13として、第2受光素子7に入射する。このように、第2入射光9の少なくとも一部は第2受光素子7に入射する。
第1受光素子6および第2受光素子7は、例えばフォトダイオードを含み、受光量に応じた電気信号(光電変換信号)を出力する。第1受光素子6は、第1透過光12を受け、受光量に応じた第1電気信号を出力する。第2受光素子7は、第2透過光13を受け、受光量に応じた第2電気信号を出力する。これらの電気信号は、不図示の演算回路によって処理され、第1入射光8と第2入射光9との間の位相差を示す情報が生成される。演算回路は、さらに、この位相差情報に基づいて、対象物の構造(例えば表面構造または屈折率分布等)に関する情報を生成して出力することができる。
本実施形態では、第1受光素子6および第2受光素子7は、空気中の波長がλの光を検出する。基板4は、第1光伝搬路35、第2光伝搬路36、および第3光伝搬路37以外の領域に、波長λの光を遮断するフォトニック結晶の構造を有している。
本実施形態では、透光性の基板4の内部に、光検出器5の受光面5aに平行で第1の方向(本実施形態ではX方向)に垂直な第2の方向(本実施形態ではY方向)に延びる複数の空洞34を有している。複数の空洞34は、第1光伝搬路35、第2光伝搬路36、および第3光伝搬路37以外の領域に周期的に配列されている。複数の空洞34が周期的に密に配列されている領域では、光検出装置28において使用される波長λを含む特定の波長域の光が伝搬できず、空洞34が設けられていない領域でのみ当該波長域の光が伝搬できる。このような構造によって形成される光伝搬路35、36、37は、公知のフォトニック結晶による光導波路であるといえる。従って、第1伝搬光30A、30B、第2伝搬光31A、31B、および第3伝搬光32A、32Bは、光導波路を伝搬する導波光であるといえる。
図1Bに示すように、本実施形態における複数の空洞34は、Y方向から見て六方格子状に配列されている。複数の空洞34の配列はこれに限らず、例えば正方格子状に配列されていてもよい。本実施形態では各空洞34は円柱状であるが、例えば角柱形状などの他のロッド形状を有していてもよい。また、本実施形態では各空洞34の内部は空気であるが、空気以外の誘電体が充填された空洞を設けてもよい。各空洞34の内部は、基板4とは異なる屈折率の誘電体で満たされていればよい。屈折率が空間的に周期的に変化する構造であれば、フォトニック結晶として機能する。
各空洞34の直径は、入射光の波長に依存するが、典型的にはサブミクロン(1μm未満)からミクロン(μm)オーダである。光伝搬路35、36、37のそれぞれの幅も、典型的にはサブミクロンからミクロンオーダである。なお、以下の説明では、第1伝搬光30A、30Bなどを区別せずに表現するときには、単に「第1伝搬光30」などと表記する。他の参照符号についても同様である。
図1Aおよび図1Bでは、3つの光伝搬路35、36、37を分かりやすくするために、破線でそれらの領域を示しているが、現実には破線の箇所に境界があるわけでは無い。例えば、図1Aでは、光伝搬路35、36のそれぞれを円柱状の領域として表現しているが、実際にはそのような形状を有するわけではない。図1Aに示す基板4において、光伝搬路35、36とX座標が共通する平板状の領域には、空洞34が存在しないため、光が伝搬できる。本実施形態では、図1A、1Bにおいて破線で示されている円柱状の領域を、他の領域とは区別して光伝搬路35、36であると考える。
上記のように、第1光伝搬路35と第2光伝搬路36とがZ方向に延びる直線状の構造になるように、その周囲に複数の空洞34が形成されている。また、第3光伝搬路37が第1光伝搬路35の中間の部分と第2光伝搬路36の中間の部分とを結ぶ(または横断する)ように、その周囲に複数の空洞34が形成されている。本実施形態では、第3光伝搬路37は、第1光伝搬路35と第2光伝搬路36との間において屈曲部37aを有している。屈曲部37aは、第3光伝搬路37と第1光伝搬路35との合流点、および第3光伝搬路37と第2光伝搬路36との合流点よりも、光検出器5の受光面5aから遠くに位置している。言い換えれば、第3光伝搬路37の形状が−Z方向に凸の形状になるように複数の空洞34が形成されている。したがって、第1光伝搬路35のうち伝搬光30Aが伝搬する部分と第3光伝搬路37とは鋭角に交差し、第2光伝搬路35のうち伝搬光31Aが伝搬する部分と第3光伝搬路37とは鋭角に交差する。このような構造により、第1光伝搬路35と第3光伝搬路37との結合領域、および第2光伝搬路36と第3光伝搬路37との結合領域の近傍で散乱損失が低減し、光利用効率が高くなるという効果が得られることが分かった。
本発明者らは、レーザ光等のコヒーレンスを有する光を対象物に照射し、対象物からの透過光または反射光を、本実施形態の光検出装置28を用いて検出することにより、対象物の構造(例えば、厚さまたは内部の屈折率の分布等)を定量的に測定できることを見出した。本発明者らは、対象物からの光のうち、隣接する2つの光線をそれぞれ入射光8、9としたとき、第3光伝搬路37において、進行方向が逆向きの第3伝搬光32A、32Bが励起されて互いに干渉し、その干渉の度合いに応じて、第1伝搬光30Bおよび第2伝搬光31Bの光量(パワー)が変化することを発見した。第1伝搬光30Bおよび第2伝搬光31Bのパワーの変化に伴い、第1透過光12および第2透過光13のパワーが変化する。すなわち、第1受光素子6および第2受光素子7を用いて透過光12、13の光量を検出することにより、入射光8、9の間のコヒーレンス差(または位相差)を検出することが可能である。
対象物の構造(厚さの空間分布または内部の屈折率の空間分布等)に依存して、透過光または反射光が有する位相情報は変化する。このため、入射光8、9の間のコヒーレンス差(または位相差)を検出することにより、対象物の厚さの変化または屈折率分布等を定量的に測定することが可能である。
図2Aは、光検出装置28において、入射光8、9の間の位相差φと、それぞれの透過光12、13のパワーP1、P2、および(P1+P2)との関係を示すグラフである。図2Bは、光検出装置28において、入射光8、9の間の位相差φと、それぞれの透過光12、13の規格化パワーP1/(P1+P2)、P2/(P1+P2)、およびパワーの合計(P1+P2)との関係を示すグラフである。図2Aおよび図2Bは、電界方向がX方向である直線偏光の入射光8、9が入射するものとして、FDTD法(Finite-difference time-domain method)による電磁界解析を行った結果の例を示している。なお、図2Aおよび図2Bのグラフにおいては、光伝搬路35、36の入射部44、45では入射損失が無く(すなわち、入射光8、9が伝搬光30A、31Aにそれぞれ100%変換される)、出射部41、42では出射損失が無い(すなわち、伝搬光30B、31Bが透過光12、13にそれぞれ100%変換される)と仮定した値を示している。
本解析では、入射光8、9は、同じ波長λおよび同じパワー(規格化して光パワー1とする。)を有するコヒーレンスが高いレーザ光であるものとした。第1の入射光8の位相を基準として、第2の入射光9の位相との差を位相差φ[度]としている。図2Aに実線および長い破線でそれぞれ示すように、第1透過光12のパワーP1および第2透過光13のパワーP2は、入射光8、9の間の位相差φに応じて変化する。P1はφ=−150°の近傍で最大値をとり、φ=30°の近傍で最小値をとる。P2はφ=150°の近傍で最大値をとり、φ=−30°の近傍で最小値をとる。従って、これらの曲線に基づいて、パワーP1、P2の大きさから、φを−180°〜180°の範囲内で一意的に定量化することができることが分かる。すなわち、パワーP1、P2を、第1受光素子6および第2受光素子7を用いて検出することにより、入射光8、9の間の位相差φを一意的に検出できる。
なお、|φ|が小さい領域、例えば−90°<φ<90°では、図2Aにおいて短い破線で示すように、光検出器5で検出される透過光12、13のパワーの合計(P1+P2)が低くなっている。これは、光伝搬路35、36のそれぞれの入射部44、45から−Z方向に出射する反射光の成分が多くなることに起因していることが分かった。
図2Bに示すように、P1およびP2を(P1+P2)で除した値P1/(P1+P2)およびP2/(P1+P2)を、規格化パワーとして、P1およびP2の代わりに用いてもよい。この場合、(P1+P2)が変化しても、φ=0、±180°において、P1/(P1+P2)=P2/(P1+P2)=0.5となる。このため、測定値を定量化する上で都合が良い。
図2Aおよび図2Bは、電界方向がX方向である直線偏光の入射光8、9を用いて、第1光伝搬路35および第2光伝搬路36にTEモ−ドの導波光を励振した場合の結果を示している。本実施形態では、光伝搬路35、36、37として、フォトニック結晶の光導波路を用いているため、偏光依存性が生じる。無偏光の入射光を用いるよりも、位相差を変化させたときの|P1−P2|の最大値が大きくなる偏光(直線偏光または楕円偏光)を用いる方が、SN比を向上できる。
[光検出システム]
本実施形態における光検出装置28は、光源および演算回路と組み合わせることによって対象物の構造(例えば表面構造または屈折率分布等)の情報を得ることができる。以下、そのような光検出システムの例を説明する。
図3Aは、本実施形態における光検出装置28を用いた光検出システムの構成例を模式的に示す図である。この光検出システムは、空気中での波長がλの光を出射する光源25と、第1受光素子6から出力される第1電気信号、および第2受光素子7から出力される第2電気信号に基づいて、対象物の構造に関する情報(電気信号18)を生成して出力する演算回路20とを備えている。第1受光素子6および第2受光素子7は、光源25から出射され、対象物21から到達した波長λの光を検出する。この光検出システムは、対象物21からの透過光を検出するが、反射光を検出するように構成してもよい。対象物21は、特に限定されないが、例えば生体組織や位相段差を備えた書類の偽造防止マークであり得る。
本実施形態における演算回路20は、例えばDSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、またはFPGA(Field−Programmable Gate Array)などの集積回路であり得る。演算回路20は、例えばメモリに格納されたコンピュータプログラムを実行することにより、後述する演算を行い、対象物21の構造に関する情報を生成する。
光検出システムは、光源25から、レーザ光等のコヒーレンスを有する単色光である出射光26を、対象物21に照射し、対象物21を透過した光(隣接する第1入射光8および第2入射光9を含む)を、光検出装置29によって検出する。図3Aに示されている例では、第1入射光8は、対象物21における相対的に薄い箇所を透過した光であり、第2入射光9は、対象物21における相対的に厚い箇所を透過した光である。両者の厚さの差をSとし、対象物21の屈折率をn0とすると、第1入射光8と第2入射光9との間の位相差φは、以下の式(1)で表される。
φ=2π(no−1)S/λ (1)
すなわち、第2入射光9の位相は、第1入射光8の位相よりも、2π(no−1)S/λだけ遅れる。
第1受光素子6は、第1透過光12のパワーP1に比例した信号値をもつ第1電気信号15を出力する。第2受光素子7は、第2透過光13のパワーP2に比例した信号値をもつ第2電気信号16を出力する。演算回路20は、電気信号15、16を受け、入射光8、9のパワーP1、P2と、位相差φとを求める。位相差φは、図2A、2Bを参照して説明した方法で求めることができる。演算回路20は、位相差φを示す情報を、対象物21の構造に関する情報(電気信号18)として出力する。その位相差φの情報から、式(1)より、厚さの変化量(段差)Sの値を求めることができる。演算回路20は、位相差φに基づいてSの値を計算し、その情報を電気信号18に含めて出力しても良い。
光源25から出射される光26のパワーは既知であるので、入射光8、9のパワーの値から、対象物21の透過率または反射率を求めることもできる。演算回路20は、そのようにして求めた対象物21の透過率または反射率を示す信号を出力しても良い。このように、本明細書における「対象物の構造に関する情報」には、第1入射光8と第2入射光9との間の位相差、対象物の厚さの空間的な変化量、および対象物の透過率または反射率の少なくとも1つを示す情報が含まれ得る。
光検出システムは、例えばレーザ光源のようなコヒーレンスを有する光源25を備えていてもよいし、光源25は外部の要素であってもよい。光源25は、光検出装置29に内蔵されていてもよい。光検出システムは、図3Aに示す構成要素以外の要素を備えていてもよい。例えば、光検出システムは、対象物21と基板4との間に、複数のマイクロレンズを有するマイクロレンズアレイを備えていてもよい。そのようなマイクロレンズアレイは、対象物21からの入射光8、9を、入射部44、45にそれぞれ集光する。そのような構成により、光伝搬路35、36への光結合効率が向上する。
光検出システムは、基板4と対象物21との間に、使用する特定の波長域の光を選択的に透過させるバンドパスフィルタを備えていてもよい。そのようなバンドパスフィルタは、受光素子6、7の前面に設けられていてもよい。
図3Bは、本実施形態における光検出システムの変形例を示す図である。図3Bに示すように、光検出装置28は、対象物21と、基板4との間に、入射光の特定の偏光成分を多く透過させる偏光素子50を備えていてもよい。偏光素子50は、例えば直線偏光子または楕円偏光子である。これにより、例えばTE偏光成分およびTM偏光成分のうち、|P1−P2|の最大値が大きくなる偏光成分を多く含む光を基板4に入射させることができる。その結果、検出感度を高めることができる。
[光検出装置の変形例]
次に、本実施形態における光検出装置の変形例を説明する。
図4Aおよび図4Bは、本実施形態の変形例における光検出装置28aの構成を示す図である。図4Aは図4BにおけるB−B’線断面を示し、図4Bは図4AにおけるA−A’線断面を示している。
この変形例における光検出装置28aは、Y方向に延びる複数の円柱状の空洞34を、Y方向から見て正方格子状に周期的に配列した構造を有している。本変形例における第3光伝搬路37’は、X方向に直線的に延び、第1光伝搬路35の中間または途中の部分と第2光伝搬路36の中間または途中の部分とを繋いでいる。このような構成であっても、前述の光検出装置28と同様、煩雑な操作を行うことなく、対象物の情報を定量的に測定できる。
(実施形態2)
次に、本開示の実施形態2の光検出装置を説明する。
図5は、本実施形態における光検出装置28bの構成を模式的に示す断面図である。以下、本実施形態の光検出装置28bが実施形態1の光検出装置28と異なる点を中心に説明する。本実施形態では、光検出器5’が、第1受光素子6と第2受光素子7との間に第3受光素子39を有している。さらに、基板4が、第3光伝搬路37の中間もしくはその途中の部分から第3受光素子39に向かう方向に延びる第4光伝搬路38を有している。第4光伝搬路38の出射部43は、第3受光素子39に対向している。
第1光伝搬路35を透過した第1入射光8の少なくとも一部は第1透過光12として第1受光素子6に入射する。第2光伝搬路36を伝搬した第2入射光9の少なくとも一部は第2透過光13として第2受光素子7に入射する。第3光伝搬路37および第4光伝搬路38を伝搬した第1入射光8および第2入射光9の少なくとも一部は、第3透過光40として第3受光素子39に入射する。
本実施形態においても、レーザ光等のコヒーレンスを有する光が対象物に照射され、対象物からの透過光または反射光(隣接する入射光8、9を含む)が基板4に入射する。その際、第3光伝搬路37において、進行方向が逆向きの第3伝搬光32A、32Bが励起され、それらの間で干渉が生じる。本発明者らは、第3伝搬光32A、32Bの干渉の度合いに応じて、伝搬光30B、31B、32A、32B、33の光量(パワー)が変化し、その結果、透過光12、13、40のそれぞれのパワーも変化することを発見した。よって、第1受光素子6、第2受光素子7、および第3受光素子39によって透過光12、13、40のパワーを検出することにより、入射光8、9の間のコヒーレンス差(または位相差)を検出することができる。
図6Aは、本実施形態の光検出装置28bにおいて、入射光8、9の間の位相差φと、それぞれの透過光12、13、40のパワーP1、P2、P3、およびパワーの合計(P1+P2+P3)との関係を示すグラフである。図6Bは、光検出装置28bにおいて、入射光8、9の間の位相差φと、それぞれの透過光12、13、40の規格化パワーP1/(P1+P2+P3)、P2/(P1+P2+P3)、およびP3/(P1+P2+P3)、並びにパワーの合計(P1+P2+P3)との関係を示すグラフである。図6A、6Bも、図2A、2Bと同様、電界方向がX方向である直線偏光について、FDTD法による電磁界解析を行った結果の例を示している。入射光8、9は、同じ波長λおよび同じパワー(規格化して光パワー1とする)を有するコヒーレンスが高いレーザ光であるものとした。図6Aに実線、長い破線、および一点鎖線でそれぞれ示すように、第1透過光12のパワーP1、第2透過光13のパワーP2、および第3透過光40のパワーP3は、入射光8、9の間の位相差φに応じて変化する。P1は、φ=−170°の近傍で最大値をとり、φ=10°の近傍で最小値をとる。P2は、φ=170°の近傍で最大値をとり、φ=−10°の近傍で最小値をとる。P3は、φ=0°の近傍で最大値をとり、φ=±180°の近傍で最小値をとる。従って、これらの曲線に基づいて、パワーP1、P2、P3の大きさから、φを−180°〜180°の範囲内で一意的に定量化することができる。すなわち、パワーP1、P2、P3を、第1受光素子6、第2受光素子7、および第3受光素子39を用いて検出することにより、入射光8、9の間の位相差φを一意的に検出できる。
図6Bに示すように、P1、P2、P3を(P1+P2+P3)で除した値P1/(P1+P2+P3)、P2/(P1+P2+P3)、P3/(P1+P2+P3)を、規格化パワーとして、P1、P2、P3の代わりに用いてもよい。(P1+P2+P3)が変化しても、φ=±180°において、P1/(P1+P2+P3)=P2/(P1+P2+P3)=0.5となるため、測定値を定量化する上で都合が良い。
本実施形態の光検出装置28bによれば、実施形態1の光検出装置28に比べて、光検出器5’が検出できるパワーの合計値(P1+P2+P3)が、|φ|が小さい領域(例えば、−90°<φ<90°)において、大幅に改善される(図6Aおよび図6Bにおける短い破線を参照)。すなわち、本実施形態によれば、実施形態1よりも光利用効率が向上するという効果がある。実施形態1の光検出装置28では、|φ|が小さい場合には、光伝搬路35、36の入射部44、45から−Z方向に出射される反射光成分が多く生じる。これに対し、本実施形態の光検出装置28bでは、第4光伝搬路38を設けることにより、これを伝搬する第4伝搬光33が励起され、その分だけ入射部44、45から出射される反射光成分が低減したと考えられる。
(実施形態3)
次に、本開示の実施形態3における光検出装置を説明する。
図7Aおよび図7Bは、本実施形態の光検出装置28cの構成を模式的に示す図である。図7Aは、図7BにおけるB−B’線断面を示している。図7Bは、図7AにおけるA−A’線断面を示している。以下の説明では、図中に示される検出単位14Aa、14Ab、14Ba、14Bbなどをまとめて「検出単位14」などと表記する。他の参照符号についても同様である。
本実施形態の光検出装置28cが実施形態1の光検出装置28と異なる点は、光検出装置28cが、複数の検出単位14を有していることにある。複数の検出単位14の各々は、実施形態1における光検出装置28と同様の構成を有している。すなわち、各検出単位14は、第1光伝搬路35、第2光伝搬路36、第3光伝搬路37、第1受光素子6、および第2受光素子7を有している。基板4は、複数の検出単位14で共通であり、各検出単位14における受光素子6、7に跨って配置されている。本実施形態における光検出器はイメージセンサ17である。複数の検出単位14は、X方向およびY方向に2次元的に配列されている。図7Aには、4つの検出単位14Aa、14Ab、14Ba、14Bbが例示されているが、検出単位14の数は5つ以上または3つ以下でもよい。なお、図7Bにおいて、イメージセンサ17からの電気信号を出力する配線の図示は省略されている。
本実施形態における光検出装置28cは、対象物からの透過光または反射光のうち、隣接する入射光8、9を1つの入射単位として、それぞれの検出単位14に入射して検出する。これにより、対象物の2次元情報を定量的に測定することができる。より具体的には、実施形態1において説明した方法で、対象物の表面の段差、厚さの空間的な変化、または屈折率分布などを検出単位14ごとに測定することができる。これにより、対象物の構造に関する2次元情報を取得できる。
図7Aに示す構成では、複数の検出単位14がX方向およびY方向の各々に沿って2次元的に配列されている。本明細書では、このような配列を、ストライプ状の配列と称することがある。複数の検出単位14は、これとは異なる態様で配列されていてもよい。例えば、複数の検出単位14は千鳥状(staggered)に配列されていてもよい。本明細書において「千鳥状の配列」とは、ある行の検出単位14のX方向の位置と、隣接する他の行の検出単位14のX方向の位置とが、半周期ずれた配列、または、ある列の検出単位14のY方向の位置と、隣接する他の列の検出単位14のY方向の位置とが、半周期ずれている配列を意味する。このような配列により、検出の分解能を実質的に向上させることができる。
複数の検出単位14は、一方向(例えばX方向)の情報を検出する第1の検出単位と、それに直交する方向(例えばY方向)の情報を検出する第2の検出単位とを含んでいても良い。図7A、7Bに示す各検出単位14では、第1受光素子6および第2受光素子7がX方向に並んでいるため、X方向についての情報(例えば、対象物の厚さまたは屈折率の空間分布)を検出できる。これらに加えて、第1受光素子6および第2受光素子7がY方向に並ぶ検出単位14を設けることにより、Y方向についての情報も検出できる。これにより、対象物の定量測定の精度を向上させることができる。
(実施形態4)
次に、本開示の実施形態4における光検出装置を説明する。
図8Aは、本実施形態における光検出装置29の構成を模式的に示す平面図である。図8Aは、光検出装置29を光が入射する側から見たときの構造を示している。図8Bは、図8AにおけるA−A’線断面図である。
本実施形態における光検出装置29は、基板4と光検出器5との間に、透光性の第1層3と、第1層3の表面において第1受光素子6に対向する透光性の第1光結合素子1と、第1層3の表面において第2受光素子7に対向する透光性の第2光結合素子2とを備えている。第1層3は、基板4よりも高い屈折率を有する。第1光結合素子1は、入射光8の一部を第1層3内の導波路に結合させる透光性の部材である。第2光結合素子2は、入射光9の一部を第1層3内の導波路に結合させる透光性の部材である。本明細書において、「透光性」とは、入射した光の少なくとも一部を透過させる性質を有することを意味する。
光結合素子1、2は、第1層3の内部に光導波路を形成する。本実施形態では、第1光伝搬路35は、基板4において第1入射光8が伝搬する領域である。第1光伝搬路35の出射部41は、第1層3を挟んで第1光結合素子1に対向する。第2光伝搬路36は、基板4において第2入射光9が伝搬する領域である。第2光伝搬路36の出射部42は、第1層3を挟んで第2光結合素子2に対向する。第3光伝搬路37は、光結合素子1、2によって第1層3の内部に形成される光導波路である。
実施形態1においては、基板4における複数の空洞34によって光伝搬路35、36、37が形成される。これに対して、本実施形態においては、透光性を有する略均質な媒質である基板4および第1層3と、第1層3の表面に設けられた光結合素子1、2とを用いて、光伝搬路35、36、37が形成される。第1入射光8および第2入射光9が、基板4の上面(入射部44、45)に入射すると、それぞれ、第1伝搬光30および第2伝搬光31として伝搬する。本実施形態では、第1伝搬光30および第2伝搬光31が基板4内を伝搬する際の光路を、仮想的に第1光伝搬路35および第2光伝搬路36であると考える。第3光伝搬路37は、第1光伝搬路35の末端と第2光伝搬路36の末端とを結ぶ。図8Bには、わかり易くするために、第1光伝搬路35、第2光伝搬路36、第3光伝搬路37の領域を破線で示しているが、明確な境界があるわけでは無い。
第1光結合素子1は、入射光8の一部を、第1層3内において少なくとも第1の方向(X方向)、すなわち、第2光結合素子2に向かう方向に伝搬させる(導波光10)。第2光結合素子2は、入射光9の一部を、第1層内において少なくとも第1の方向とは反対の方向(−X方向)、すなわち、第1光結合素子1に向かう方向に伝搬させる(導波光11)。これにより、第1層3内の第3光伝搬路37において導波光10、11間の干渉が生じる。第1光伝搬路35、第1層3、および第1光結合素子1を透過した第1入射光8の少なくとも一部は、第1透過光12として第1受光素子6に入射する。第2光伝搬路36、第1層3、および第2光結合素子2を透過した第2入射光9の少なくとも一部は、第2透過光13として第2受光素子7に入射する。
第1光伝搬路35および第2光伝搬路36は、使用される波長程度のサイズの光導波路にする必要は無い。第1光伝搬路35および第2光伝搬路36は、基板4内を伝搬光30、31が伝搬する限り、任意のサイズを有していてよい。第1光伝搬路35および第2光伝搬路36は、例えばミリオーダサイズの光伝搬路であり得る。
本実施形態における第1光結合素子1および第2光結合素子2の各々は、入射光8、9の空気中での波長λよりも短い周期Λ(Λ<λ)を有するグレーティング(diffraction grating)である。以下の説明では、第1光結合素子1を「第1グレーティング1」と称し、第2光結合素子2を「第2グレーティング2」と称することがある。本実施形態における第1グレーティング1および第2グレーティング2の各々は、第1層3の表面に沿ってY方向(第2の方向)の溝を有する複数の透光性部材が、X方向(第1の方向)に連続して(周期的に)配列された構造を有する。本実施形態における透光性部材は、三角柱状の凸部である。グレーティング1、2を構成する複数の透光性部材の構造は、後述するように多様であり得る。第1グレーティング1、第2グレーティング2、および第1層3は、同一の材料で構成された単一構造体であってもよい。
周期Λおよび波長λは観察する対象物によって異なるが、例えばΛ=0.45μmおよびλ=0.85μmに設定され得る。周期Λを波長λよりも小さくすることにより、第1入射光8および第2入射光9が、第1光結合素子1および第2光結合素子2にそれぞれ入射したときに、空気中では0次回折光である透過光、および反射光のみが生じる。±1次以上の高次回折光が外部に出射されることはないので、光利用効率が高く、迷光を低減することができる。
λ=0.85μmの入射光に対して、第1層3は光導波路(厚さt1)として機能するように設計されている。基板4はバッファ層として機能するように設計されている。第1層3(光導波路)の厚さt1は導波モ−ドが存在できる長さに設計される。第1層3(光導波路)の屈折率n1は、基板4の屈折率n2よりも大きい(n1>n2)。
本実施形態の光検出装置29では、第1層3、第1光結合素子1、および第2光結合素子2は、例えば酸化タンタルTa2O5(n1=2.11)によって構成され得る。基板4は、例えば酸化シリコンSiO2(n2=1.45)からなる石英基板、またはBK7等のガラス基板であり得る。このとき、公知の導波モ−ドの固有方程式から、t1≧0.13μmであれば、TEモ−ドおよびTMモ−ドの両方について導波モ−ドが存在することが導かれる。よって、この場合、第1層3の膜厚は、0.13μmよりも十分大きい厚さ、例えばt1=0.3μmに設定され得る。
第1層3および光結合素子1、2には、Ta2O5以外にも、種々の材料を用いることが可能である。同様に、基板4についても、SiO2以外にも、種々の材料を用いることが可能である。但し、使用する波長の入射光に対して透明な材料を用いることが好ましい。例えば、ZrSiO4、(ZrO2)25(SiO2)25(Cr2O3)50、SiCr、TiO2、ZrO2、HfO2、ZnO、Nb2O5、SnO2、Al2O3、Bi2O3、Cr2O3、Ga2O3、In2O3、Sc2O3、Y2O3、La2O3、Gd2O3、Dy2O3、Yb2O3、CaO、MgO、CeO2、およびTeO2等から選ばれる1または複数の酸化物等の無機材料を用いることができる。また、C−N、Ti−N、Zr−N、Nb−N、Ta−N、Si−N、Ge−N、Cr−N、Al−N、Ge−Si−N、およびGe−Cr−N等から選ばれる1または複数の窒化物を用いることもできる。また、ZnSなどの硫化物やSiCなどの炭化物、LaF3、CeF3、MgF2などの弗化物を用いることもできる。また、上記材料から選ばれる1または複数の材料の混合物を用いて、形成しても構わない。
さらに、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ノルボルネン樹脂(例えば、「アートン」(JSR株式会社製、登録商標))、またはシクロオレフィン樹脂(例えば、「ゼオネックス」(日本ゼオン株式会社製、登録商標))等の樹脂等の有機材料でも良い。これらの材料から、屈折率n1>n2を満たすものを第1層3および基板4に選択すれば良い。
なお、本実施形態では、第1層3、第1光結合素子1、および第2光結合素子2は、同じ材料で構成されているが、これらが異なる材料で構成されていてもよい。
入射光が、Y方向に電場(電界)が振動する直線偏光(TE偏光)である場合(即ち、入射光の電界方向が、グレーティングの溝が延びる方向に平行な場合)、第1層3においてTEモードの導波光が励振される。一方、入射光が、X方向に電界が振動する直線偏光(TM偏光)である場合(即ち、光の磁界方向が、グレーティングの溝が延びる方向に平行な場合)、第1層3においてTMモードの導波光が励振される。したがって、入射光の偏光方向を変化させることにより、導波光のモードを使い分けることができる。
本実施形態における第1グレーティング1および第2グレーティング2のXZ面に平行な断面の形状は、二等辺三角形状である。光結合素子1、2の溝の深さtgは、例えばtg=0.3μmに設定され得る。光結合素子1、2の形状および寸法は、この例に限定されず、他の形状および寸法であってもよい。
第1入射光8および第2入射光9が、第1光結合素子1および第2光結合素子2にそれぞれ入射するとき、以下の式(2)を満たせば、第1層3の内部に導波光が励起される。
sinθ=N−mλ/Λ (2)
ここで、Nは光導波路(第1層3)内での実効屈折率、θはZ方向を基準とする光の入射角度、mは回折の次数を表す。グレーティング1、2の周期Λが式(2)を満たす値に設定されているとき、入射光8、9の一部が第1層3内の光導波路に結合し、導波光が励起される。例えば、比較的よく結合する1次光(m=1)が垂直に入射する(θ=0)とき、式(2)は、次の式(3)に変形される。
Λ=λ/N (3)
上記の構造においては、導波モ−ドの固有方程式から、Λ≒0.45μmと計算される。
なお、第1層3の厚さt1が変われば、導波モ−ドの固有方程式から、実効屈折率Nも変わる。導波モ−ドが存在するとき、Nは、次の不等式(4)を満たす。
n2<N<n1 (4)
式(2)を用いて式(4)を変形すると、次の式(5)が得られる。
mλ/(n1−sinθ)<Λ<mλ/(n2−sinθ) (5)
θ=0、m=1のとき、Λは、次の式(6)を満たす。
λ/n1<Λ<λ/n2 (6)
対象物からの第1入射光8および第2入射光9は、基板4に入射すると、それぞれ、第1伝搬光30および第2伝搬光31になる。第1伝搬光30および第2伝搬光31は、第1層3を透過して、それぞれ、第1光結合素子1および第2光結合素子2に入射する。
第1光結合素子1および第2光結合素子2によって第1層3内の光導波路(第3光伝搬路37)で励起される導波光は、+X方向および−X方向の両方に伝搬する。それらの導波光のうち、図8Bには、第1入射光8によって+X方向に伝搬する導波光10と、第2入射光9によって−X方向に伝搬する導波光11とが例示されている。2つの導波光10、11は、進行方向が逆であるため、第1層3の内部で干渉する。
第1伝搬光30および第2伝搬光31の一部は、このように導波光になるが、多くは第1層3を透過して、それぞれ透過光12、13になる。透過光12、13は、それぞれ、受光素子6、7によって検出される。
本発明者らは、レーザ光等のコヒーレンスを有する光を対象物に照射し、対象物からの反射光または透過光を、本実施形態の光検出装置29を用いて検出することによっても、対象物の構造(例えば、厚さの変化または屈折率分布等)を定量的に測定できることを見出した。本発明者らは、対象物からの光のうち、隣接する2つの光線をそれぞれ入射光8、9としたとき、導波光10、11の干渉の度合いに応じて、透過光12、13のそれぞれの光量(パワー)が変化することを発見した。すなわち、第1受光素子6および第2受光素子7を用いて透過光12、13の光量を検出することにより、入射光8、9の間のコヒーレンス差(または位相差)を検出することが可能になる。
対象物の構造(厚さの変化または内部の屈折率分布等)に依存して、透過光または反射光が有する位相情報は変化する。このため、入射光8、9の間のコヒーレンス差(または位相差)を検出することにより、対象物の厚さの変化または屈折率分布等を定量的に測定することが可能である。
図8Aに示される構成では、第1光結合素子(第1グレーティング)1および第2光結合素子(第2グレーティング)2の最も近接する2つの凸部の頂点間もしくは中心間の距離は、周期Λよりも大きい。すなわち、第1グレーティング1と第2グレーティング2との間に、平坦な部分(「スペース領域27」と称する)を有し、スペース領域27のX方向の長さは、0よりも大きい。
ここで、第1グレーティング1および第2グレーティング2の最も近接する頂点間の距離を、周期Λに定数dを乗じた値dΛとする。この定数dを、「距離定数d」と呼ぶことにする。d=1の場合、最近接する頂点間の距離がΛになるため、グレーティング1、2は密に形成され、両者の間にスペース領域27は生じない。一方、本実施形態のようにd>1のときは、グレーティング1、2の間にスペース領域27が生じる。
なお、本実施形態では、第1グレーティング1および第2グレーティングの各凸部の断面の形状が対称形状であるため、頂点間の距離と中心間の距離とが一致する。一方、各凸部の断面の形状が非対称形状(例えば非対称な三角形)である場合は、頂点間の距離と中心間の距離とは一致しない。非対称な断面形状を有するグレーティングを用いる場合も、第1グレーティング1および第2グレーティング2における最も近接する2つの凸部の頂点間の距離をdΛとすればよい。
図9Aは、光検出装置29において、距離定数d=1の場合の入射光8、9の間の位相差φと、それぞれの透過光12、13のパワーP1、P2、およびパワーの合計(P1+P2)との関係を示すグラフである。図9Bは、光検出装置29において、距離定数d=1.19の場合の入射光8、9の間の位相差φと、それぞれの透過光12、13のパワーP1、P2、および(P1+P2)との関係を示すグラフである。図9Cは、光検出装置29において、距離定数d=1.19の場合の入射光8、9の間の位相差φと、それぞれの透過光12、13の規格化パワーP1/(P1+P2)、P2/(P1+P2)、およびパワーの合計(P1+P2)との関係を示すグラフである。図9A〜9Cは、電界方向がX方向であるTM偏光について、FDTD法(Finite-difference time-domain method)による電磁界解析を行った結果の例を示している。
本解析では、入射光8、9は、同じ波長λおよび同じパワー(規格化して光パワー1とする。)を有するコヒーレンスが高いレーザ光であるものとした。第1の入射光8の位相を基準として、第2の入射光9の位相との差を位相差φ[度]としている。図9Aに実線および長い破線でそれぞれ示すように、第1透過光12のパワーP1および第2透過光13のパワーP2は、入射光8、9の間の位相差φに応じて変化する。P1は、φ=160°の近傍で最大値をとり、φ=−20°の近傍で最小値をとる。P2は、φ=−160°の近傍で最大値をとり、φ=20°の近傍で最小値をとる。従って、これらの曲線に基づいて、パワーP1、P2の大きさから、φを−180°〜180°の範囲内で一意的に定量化することができることが分かる。すなわち、パワーP1、P2を、第1受光素子6および第2受光素子7を用いて検出することにより、入射光8、9の間の位相差φを一意的に検出できる。
なお、図9A〜9Cは、TM偏光である入射光8、9を用いて、TMモ−ドの導波光を励振した場合の結果を示している。本実施形態のように微細なグレーティング1、2を用いた場合、偏光依存性が生じ、位相差を変化させたときの|P1−P2|の最大値は、TEモードの導波光を励振した場合とTMモードの導波光を励振した場合とで異なる。本実施形態においては、TMモードの導波光を励振した場合の|P1−P2|の最大値は、TEモ−ドの導波光を励振した場合よりも約5.5倍大きかった。
従って、本実施形態の光検出装置29においては、無偏光の入射光を用いるよりも、|P1−P2|の最大値が大きくなる直線偏光(本実施形態ではTM偏光)を用いる方がSN比を高くできる。よって、TM偏光を主成分とする(即ち、TM偏光成分がTE偏光成分よりも多い)入射光8、9(直線偏光または楕円偏光)を用いることにより、検出感度を高めることができる。そのための構成として、光検出装置29は、第1グレーティング1および第2グレーティング2にTE偏光よりもTM偏光を多く入射させる偏光素子(例えば直線偏光子または楕円偏光子)を有していてもよい。そのような偏光素子は、グレーティング1、2と対象物との間に配置されるか、もしくは光源と対象物の間に配置される。あるいは、例えば、直線偏光の光を出射する半導体レーザ光源を、TE偏光成分よりもTM偏光成分を多く含む光を出射するように回転調整し、配置してもよい。
本発明者らは、入射光8、9の実際のパワーは、光検出器5から得られる信号(P1+P2)から算出できると考えた。しかし、図9Aにおいて短い破線で示されているように、(P1+P2)は、位相差φに応じて変化することが分かった。より具体的には、(P1+P2)は、φ=0および180°で最小値または最大値が生じることが分かった。ここで、φ=0の場合の(P1+P2)から、φ=180°または−180°の場合の(P1+P2)を減じた値の絶対値を「パワー差」として定義する。パワー差は、一定である方が入射光8、9の実際のパワーを算出する際には好都合である。
本発明者らは、距離定数dを、d>1である特定の値、例えばd=1.19とした場合、図9Bにおいて短い破線で示すように、(P1+P2)が位相差φにほとんど依存しない(即ちほぼ一定値になる)ことを発見した。これは、d>1とすることにより、導波光10、11が干渉する周期(通常は式(3)からλ/N≒Λ)が、中央部のスペース領域27で乱される(干渉する周期>グレーティング1、2の周期Λ)ためであると考えられる。距離定数dを変化させて周期の乱し方を調整することにより、P1およびP2の出力特性を制御できる。
図9Bにおいて実線および長い破線で示すように、第1透過光のパワーP1および第2透過光のパワーP2が位相差φに応じて変化する。d=1.19の場合、|P1−P2|の最大値はd=0の場合よりも大きくなる。P1はφ=85°の近傍で最大値をとり、φ=−95°の近傍で最小値をとる。P2はφ=−85°の近傍で最大値をとり、φ=95°の近傍で最小値をとる。従って、これらの曲線に基づいて、P1およびP2の値から、位相差を−180°〜180°の範囲内で一意的に定量化することができる。
d=1.19の条件では、入射光8、9のパワーは位相差φによらず、(P1+P2)に比例するとみなすことができる。入射光8、9のパワーを規格化してそれぞれ1とした場合には、図9Bに示すように、(P1+P2)=1.0となった。このため、入射光8、9のパワーの値は、位相差φによらず、(P1+P2)/1.0の演算によって算出することができる。
図9Cに示すように、P1およびP2を(P1+P2)で除した値P1/(P1+P2)およびP2/(P1+P2)を規格化パワーとして用いてもよい。この場合、(P1+P2)が変化しても、φ=0、±180°において、P1/(P1+P2)=P2/(P1+P2)=0.5となる。このため、測定値を定量化する上で都合が良い。
本発明者らは、さらに、d=1.19以外にも、(P1+P2)が位相差φにほとんど依存しなくなるdの値が周期的に存在することを見出した。第1層3(光導波路)内での導波光の波長はλ/Nで表される。θ=0(垂直入射)、m=1で導波光が励振される条件では、式(3)からλ/N=Λとなるので、導波光の波長はΛに一致する。従って、垂直に近い角度で入射する光に関しては、dの周期はλ/(NΛ)≒1と近似できる。
図10は、本実施形態の光検出装置29における距離定数dとパワー差との関係を示すグラフである。
iを0以上の整数として、パワー差が0となる最適なdの値は、
d=1.19+i (7)
または
d=1.71+i (8)
であることが分かった。例えば、i=10のときは、d=11.19またはd=11.71となる。このときの第1光結合素子1および第2光結合素子2の最も近接する頂点間の間隔は、dΛ=5.03μmまたはd=5.27μmとなる。
パワー差が−0.5〜0.5の範囲に入る好ましいdの条件は、
1.08+i≦d≦1.31+i (9)
または
1.58+i≦d≦1.83+i (10)
である。
パワー差が−0.2〜0.2の範囲に入るさらに好ましいdの条件は、
1.15+i≦d≦1.24+i (11)
または
1.66+i≦d≦1.76+i (12)
である。
パワー差が−0.1〜0.1の範囲に入るさらに好ましいdの条件は、
1.17+i≦d≦1.21+i (13)
または
1.68+i≦d≦1.73+i (14)
である。
なお、θ≠0の場合は、導波モードの固有方程式からNを計算し、上記iの代わりに、iλ/(NΛ)を用いると精度が向上する。
これまで説明した構成では、第1光結合素子1および第2光結合素子2は、均一な周期Λを有するグレーティングである。このようなグレーティングに限らず、第1光結合素子1および第2光結合素子2の各々は、複数の周期を有するグレーティングであってもよい。すなわち、第1グレーティング1および第2グレーティング2の各々は、互いに異なる周期を有する複数の部分を含んでいてもよい。式(2)から、好適な周期Λは、入射角θおよび光の波長λに依存することが分かる。複数の周期を有するグレーティングを用いることにより、入射角θおよび波長λの範囲を広げることができる。
垂直入射(θ=0)に適した条件で光検出装置29を設計した場合、光の入射角度が変化すると、位相差を変化させたときの|P1−P2|の最大値である透過光量の変化は低下していく。その半値全幅は、例えば±4°程度と比較的狭かった。グレーティング1、2が複数の周期を有することにより、この角度範囲を広げることができる。θ=±5°での周期Λの好適値は、それぞれ0.43μmおよび0.47μmである。このため、第1グレーティング1および第2グレーティング2を、例えばΛ=0.43μmから0.47μmまで徐々に周期が変化するチャープグレーティングで構成すれば、斜入射特性の良好な光検出装置29を実現できる。
第1グレーティング1および第2グレーティング2の各々は、例えばΛ=0.43μm、0.45μm、0.47μmのような3つまたはそれよりも多くの異なる周期の部分を有していても良い。そのような構成によっても同様の効果が期待できる。
同様の考え方で、波長特性を広げることも可能である。入射波長が拡がりを持つマルチ波長の場合、位相差を変化させたときの|P1−P2|の最大値である透過光量の変化は低下し、その半値全幅は、例えば、±10nm程度であり得る。単一波長λ=0.84μm、0.86μmでの好適値(ただし、θ=0)は、それぞれ、Λ=0.445μm、0.455μmとなる。このため、第1グレーティング1および第2グレーティング2を、例えばΛ=0.445μmから0.455μmまで徐々に変化するチャープグレーティングで構成すれば、波長範囲を拡げることができる。
第1グレーティング1および第2グレーティング2の各々は、例えばΛ=0.445μm、0.450μm、0.455μmのような3つまたはそれよりも多くの異なる周期の部分を有していても良い。そのような構成によっても同様の効果が期待できる。
次に、本実施形態の光検出装置29の製造方法の一例を説明する。
図11A、11Bは、本実施形態の光検出装置29の製造工程の一例を示す断面図である。まず、図11Aに示すように、基板4上に、厚さt1の第1層3を成膜する。成膜プロセスは、例えばスパッタ法または真空蒸着法を用いることができる。第1層3に樹脂材料を用いる場合、塗布プロセスを使えば、低温プロセスが可能になる。その後、図11Bに示すように、第1層3上に、第1光結合素子1および第2光結合素子1、2を同時に形成する。この工程には、例えばフォトリソグラフィとエッチングプロセスとの組み合わせ(いわゆる公知のバイナリオプティクス製造方法)を用いることができる。これにより、例えば断面形状が三角形状のグレーティングを作製できる。これ以外にも、例えばナノインプリントまたは3Dプリンティング法を用いることもできる。特に、ナノインプリント工法によれば、低コスト化が可能である。このようにして作製した素子を、第1受光素子6および第2受光素子7を有する光検出器5と組み合わせることにより、光検出装置29が作製される。
[光検出システム]
本実施形態における光検出装置29も、光源および演算回路と組み合わせることによって対象物の構造(例えば表面構造または屈折率分布等)の情報を得ることができる。以下、そのような光検出システムの例を説明する。
図12Aは、本実施形態における光検出装置29を用いた光検出システムの構成例を模式的に示す図である。この光検出システムは、空気中での波長がλの光を出射する光源25と、第1受光素子6から出力される第1電気信号、および第2受光素子7から出力される第2電気信号に基づいて、対象物の構造に関する情報(電気信号18)を生成して出力する演算回路20とを備えている。第1受光素子6および第2受光素子7は、光源25から出射され、対象物21から到達した波長λの光を検出する。この光検出システムは、対象物21からの透過光を検出するが、反射光を検出するように構成してもよい。対象物21は、特に限定されないが、例えば生体組織や位相段差を備えた書類の偽造防止マークであり得る。
本実施形態における演算回路20は、例えばDSP、ASIC、またはFPGAなどの集積回路であり得る。演算回路20は、例えばメモリに格納されたコンピュータプログラムを実行することにより、後述する演算を行い、対象物21の構造に関する情報を生成する。
光検出システムは、光源25から、レーザ光等のコヒーレンスを有する単色光である出射光26を対象物21に照射し、対象物21を透過した光(隣接する第1入射光8および第2入射光9を含む)を、光検出装置29によって検出する。図12Aに示されている例では、第1入射光8は、対象物21における相対的に薄い箇所を透過した光であり、第2入射光9は、対象物21における相対的に厚い箇所を透過した光である。両者の厚さの差をSとし、対象物21の屈折率をnoとすると、第1入射光8と第2入射光9との間の位相差φは、以下の式(15)で表される。
φ=2π(no−1)S/λ (15)
すなわち、第2入射光9の位相は、第1入射光8の位相よりも、2π(no−1)S/λだけ遅れる。
受光素子6は、第1透過光12のパワーP1に比例した信号値をもつ電気信号15を出力する。受光素子7は、第2透過光13のパワーP2に比例した信号値をもつ電気信号16を出力する。演算回路20は、電気信号15、16を受け、入射光8、9のパワーと、位相差φとを求める。位相差φは、図9A〜9Cを参照して説明した方法で求めることができる。演算回路20は、位相差φを示す情報を、対象物21の構造に関する情報(電気信号18)として出力する。その位相差φの情報から、式(15)より、厚さの変化量(段差)Sの値を求めることができる。演算回路20は、位相差φに基づいてS値を計算し、その情報を電気信号18に含めて出力しても良い。
光源25から出射される光のパワーは既知であるので、入射光8、9のパワーの値から、対象物21の透過率または反射率を求めることもできる。演算回路20は、対象物21の透過率または反射率を示す信号を出力しても良い。
光検出システムは、例えばレーザ光源のようなコヒーレンスを有する光源25を備えていてもよいし、光源25は外部の要素であってもよい。光源25は、光検出装置29に内蔵されていてもよい。光検出システムは、図12Aに示す構成要素以外の要素を備えていてもよい。例えば、光結合素子1、2と対象物21との間に、使用する特定の波長域の光を選択的に透過させるバンドパスフィルタを備えていてもよい。そのようなバンドパスフィルタは、受光素子6の前面に設けられていてもよい。
図12Bは、本実施形態における光検出システムの変形例を示す図である。図12Bに示すように、光検出装置29は、対象物21と、第1光結合素子1および第2光結合素子2との間に、TE偏光成分よりもTM偏光成分を多く透過させる偏光素子50を備えていてもよい。偏光素子50は、例えば直線偏光子または楕円偏光子であり得る。これにより、TE偏光成分よりもTM偏光成分を多く含む光が光結合素子1、2に入射するため、前述のように検出感度を高めることができる。
[光検出装置の変形例]
図13は、本実施形態の変形例における光検出装置29aの構成を示す断面図である。この例では、第1光結合素子1””および第2光結合素子2””の各々は、XZ面に平行な断面の形状が台形状のグレーティングである。グレーティング1””、2””の形状は、三角柱状のグレーティング1、2の上部(角)が削られた形状である。各グレーティングの断面の形状は、例えば正弦波形状でもよい。角が尖っている必要はなく、角が丸い形状でも良い。XZ面に平行な断面の面積が底部から上部(先端部)に向かうに従って小さくなる形状(テーパー形状)のグレーティングであれば、三角柱状のグレーティングを用いた場合と同様の効果が得られる。すなわち、対象物からの透過光または反射光のコヒーレンスの度合いに基づいて対象物の情報を定量的に測定でき、構造が安定な小型かつ薄型の光検出装置を実現することができる。
図14は、本実施形態の他の変形例における光検出装置29bの構成を示す断面図である。この例では、第1光結合素子1’および第2光結合素子2’は、第1層3’の2つの表面(上面および下面)の両方に形成されている。第1層3’と同じ材料で第1光結合素子1’および第2光結合素子2’が構成されている。第1光結合素子1’および第2光結合素子2’は、第1層3’の内部に形成されているともいえる。このように、第1光結合素子1’、第2光結合素子、および第1層3は、同一の材料で構成された単一構造体であってもよい。この形態では、第1光伝搬路35の出射部41および第2光伝搬路36の出射部42は、第1光結合素子1’および第2光結合素子2’と直接的に対向(即ち接触)している。
また、第1光結合素子1’および第2光結合素子2’は、例えば、第1層3’の屈折率とは異なる材料を用いて、第1層3’の内部のみに形成されても良い。
図14に示す光検出装置29bは、例えば以下の工程で作製することができる。まず、基板4’の表面に、例えば、フォトリソグラフィおよびエッチング工程を用いて、深さtgのグレーティング形状を作製する。その上に、第1層3’を成膜する。すると、第1層3’の表面(下面)にも、深さtgの同等のグレーティング形状が形成される。このように作製した素子と、光検出器5とを組み合わせることで、光検出装置29bが作製される。この例によれば、基板4’の材料へのエッチング特性が良好で、グレーティング1’、2’が形成しやすい場合には、製造が容易であるという効果がある。
図15は、本実施形態のさらに他の変形例における光検出装置29cの構成を示す断面図である。この光検出装置29cは、前述の光検出装置29における光検出器5と第1光結合素子1および第2光結合素子2との間の空気層を、透光性の第2層24に置き換えた構造を有する。第2層24の屈折率は、第1層3および結合素子1、2の屈折率よりも小さい。このような集積構造を形成することにより、構造が安定で、振動等の外乱に強い光検出装置29cを実現できる。
本変形例における光検出装置29cは、図11Bに示す工程の後に、光結合素子1、2と、光検出器5における受光素子6、7とを対向させ、それらの間に、例えば透光性のUV硬化樹脂または接着剤等を流し込み、硬化させて第2層24を形成することによって作製され得る。
(実施形態5)
次に、本開示の実施形態5の光検出装置を説明する。
図16は、本実施形態における光検出装置29dの構成を模式的に示す断面図である。本実施形態の光検出装置29dは、光検出器5’が受光素子6’、7’(第3受光素子)をさらに有し、スペース領域27が比較的大きい点で、実施形態4の光検出装置29と異なる。実施形態4の光検出装置29では、スペース領域27を透過する入射光成分は光検出器5の受光素子に入らない。一方、本実施形態の光検出装置29dでは、中央部のスペース領域27を透過する入射光8’、9’は、透過光12’、13’となり、光検出器5’の受光素子6’、7’で検出される。
第1の入射光のうち、第1光結合素子1に入らない入射光8’は、導波光の励起には無関係であり、基板4および第1層3を透過し、透過光12’となる。同じく、第2の入射光のうち、第2光結合素子2に入らない入射光9’は、導波光の励起には無関係であり、基板4および第1層3を透過し、透過光13’となる。従って、それらの透過光12’、13’を受光素子6’、7’で検出することにより、入射光8’、9’のパワーを検出することができる。
本実施形態の構成により、スペース領域27が大きい場合でも、スペース領域27を透過する光を検出する受光素子6’、7’を設けることにより、光利用効率を向上させることができる。
図16のように、受光素子6、7と分離して受光素子6’、7’を設けることにより、光パワー分布の検出精度(分解能)が向上する。また、受光素子6と6’とを一体化し、受光素子7と7’とを一体化した構成でも良い。スペース領域27に対向する受光素子の数は、2つに限らず、1つまたは3つ以上でもよい。このように、光検出器は、第1グレーティング1と第2グレーティング2との間のスペース領域27に対向する少なくとも1つの第3受光素子を有していてもよい。
(実施形態6)
次に、本開示の実施形態6における光検出装置を説明する。
図17は、本実施形態における光検出装置29eの構成を模式的に示す断面図である。
本実施形態の光検出装置29eが実施形態4の光検出装置29と異なる点は、第1光結合素子1”および第2光結合素子2”の形状にある。本実施形態における第1光結合素子1”および第2光結合素子2”の各々は、Y方向に溝を有し、XZ面に平行な断面の形状が矩形形状である凸部がX方向に複数個連続して(周期的に)並んだグレーティングである。グレーティング1”、2”の形状は、その頂点が一意的に決められない形状であるが、便宜的に、図17に示すように、グレーティング1”、2”の各凸部の中央部を基準(仮想的な頂点)として、実施形態1と同様に説明する。
本実施形態におけるグレーティング1”、2”は、第1層3と同じ材料Ta2O5で構成されている。入射光8、9の空気中での波長λは、例えばλ=0.85μmである。1つの凸部のX方向の寸法は、凸部間の溝(凹部)のX方向の寸法と同じである。溝の深さtgは、例えばtg=0.1μmである。隣接する2つの凸部の中心間の距離Λは、例えばΛ=0.45μmである。溝が浅い矩形の断面形状を有するグレーティングは、実施形態1における三角形状の断面形状を有するグレーティングよりも製造が容易であるという利点がある。
図18は、本実施形態の光検出装置29eにおいて、距離定数d=1.05の場合の入射光8、9の間の位相差φと、それぞれの透過光12、13の規格化パワーP1/(P1+P2)、P2/(P1+P2)、およびパワーの合計(P1+P2)との関係を示すグラフである。図19は、本実施形態の光検出装置29eにおける距離定数dとパワー差との関係を示すグラフである。
本実施形態の光検出装置29eにおいても、(P1+P2)が位相差φにほとんど依存しなくなるdが、d>1において存在する。例えば、d=1.05とした場合、図18において短い破線で示すように、(P1+P2)がほぼ一定値1.4となる。この値は実施形態4の光検出装置29での(P1+P2)の値1.0よりも大きい。このため、本実施形態の構成は、光利用効率がより優れていると言える。本実施形態における入射光8、9のパワー値は、φによらず、(P1+P2)/1.4の演算によって算出することができる。
図19に示すように、距離定数dに応じてパワー差が変化する。iを0以上の整数として、パワー差が0となる最適なdの値は、
d=1.05+i (16)
または
d=1.61+i (17)
であることが分かった。例えば、i=10のときは、d=11.05またはd=11.61となる。このときの第1光結合素子1”および第2光結合素子2"の最も近接する頂点(凸部の中央)間の間隔は、dΛ=4.97μmまたはd=5.22μmとなる。
パワー差が−0.5〜0.5の範囲に入る好ましいdの条件は、
1≦d≦1.22 (18)
または
1.46+i≦d≦2.22+i (19)
である。
パワー差が−0.2〜0.2の範囲に入るさらに好ましいdの条件は、
1≦d≦1.10 (20)
または
1.56+i≦d≦1.68+i (21)
または
2.04+i≦d≦2.18+i (22)
である。
パワー差が−0.1〜0.1の範囲に入るさらに好ましいdの条件は、
1.02+i≦d≦1.07+i (23)
または
1.58+i≦d≦1.64+i (24)
である。
なお、図18は、TM偏光を有する入射光8、9を用いて、TMモ−ドの導波光を励振した場合の結果を示している。本実施形態では、TMモードの導波光を励振した場合の|P1−P2|の最大値は、TEモ−ドの導波光を励振した場合よりも例えば約1.6倍大きかった。しかし、偏光によるこの差は、三角形状の断面をもつグレーティングを用いた実施形態4の構成(約5.5倍)よりも小さかった。
従って、本実施形態の光検出装置29eにおいても、無偏光の入射光を用いるよりも、|P1−P2|の最大値が大きくなる直線偏光(本実施形態ではTM偏光)を用いる方がSN比を高くできる。すなわち、TM偏光を主成分とする入射光8、9(直線偏光または楕円偏光)を用いることにより、SN比が向上し、検出感度を高めることができる。
図20は、本実施形態の光検出装置29eにおいて、グレーティングの周期Λと好適な波長との関係を示すグラフである。このグラフは、グレーティングの溝の深さが一定値(tg=0.1μm)の場合の結果を示している。好適波長λは、Λの変化に対して線形的な関係を有することが分かった。このグラフから、好適波長λは、次の式(25)で良好に近似可能であることが分かった。
λ=1.6488Λ+0.11211 (25)
式(25)から、青の波長λ=0.46μmについてはΛ=211nmとなる。緑の波長λ=0.532μmについてはΛ=255nmとなる。赤の波長λ=0.632μmについてはΛ=315nmとなる。X方向の長さが凸部と凹部とで変わらない典型的なデューティ比0.5のグレーティング構成では、線幅(各凸部の幅)は周期の半分である。よって、深さtg=0.1μmの矩形断面を有するグレーティングを形成する場合、0.1μmの線幅の加工ができれば、RGBのそれぞれの波長に対応した光検出装置を実現できることが分かった。
図21は、本実施形態の変形例における光検出装置29fの構成を模式的に示す断面図である。この変形例では、第1光結合素子1”’および第2光結合素子2”’の各々は、XZ面に平行な断面の形状が半円形状のグレーティングである。断面が半円形状のグレーティング1”’、2”’は、実質的に矩形形状のグレーティング1”、2”の上部(角)が丸くなった形状と考えることができる。断面が半円形状のグレーティング1”’、2”’でも、矩形形状のグレーティング1”、2”の角が丸くなった形状でも、底面近くの側面が第1層3に略垂直に近くなっている。これらのグレーティングを用いた場合も、断面が矩形状のグレーティング1”、2”を用いた場合と同じような効果が得られる。すなわち、対象物からの透過光または反射光のコヒーレンスの度合いに基づいて対象物の情報を定量的に測定でき、構造が安定な小型かつ薄型の光検出装置を実現することができる。
(実施形態7)
次に、本開示の実施形態7の光検出装置を説明する。
図22Aは、本実施形態の光検出装置29gの構成を模式的に示す平面図である。図22Bは、図22AにおけるA−A’線断面図である。以下の説明では、図中に示される第1光結合素子1”a、1”b、1”c、1”dなどをまとめて第1光結合素子1”などと表記する。他の構成要素についても同様である。
本実施形態の光検出装置29gが実施形態6の光検出装置29eと異なる点は、本実施形態の光検出装置29gは、複数の検出単位14、14’を有していることにある。複数の検出単位14は、XY面に平行に2次元的に配列されている。複数の検出単位14’は、Y方向に配列されている。各検出単位14、14’は、第1層3の一部、基板4の一部、第1光結合素子1”、第2光結合素子2”、第1受光素子6’、および第2受光素子7’を含む。第1層3および基板4は、複数の検出単位14、14’で共通である。本実施形態における光検出器は、イメージセンサ17である。第1層3において、複数の検出単位14のうちの隣接する2つの間の領域には、Y方向に溝19(幅wb、深さtb)が形成されている。第1層3において、複数の検出単位14’のうちの隣接する2つの間の領域には、X方向に溝19’(幅wb、深さtb)が形成されている。なお、図22Bでは、イメージセンサ17からの電気信号を出力する配線の図示は省略されている。図22Bには、X方向に並ぶ4個の検出単位14のみが示されているが、同様の構成が、Y方向に5組並んでいる。
本実施形態の光検出装置29gは、各々が実施形態6の光検出装置29eの構成を有する複数の検出単位を備えている。複数の検出単位は、第1の方向(この例ではX方向)の情報を検出する複数の第1検出単位14と、第1の方向に垂直な第2の方向(この例ではY方向)の情報を検出する複数の第2検出単位14’とを含む。第1検出単位14においては、第1受光素子6’および第2受光素子7’が第1の方向(X方向)に並んでいる。第2検出単位14’においては、第1受光素子6’および第2受光素子7’が第2の方向(Y方向)に並んでいる。
図22Aには、X方向に4つ、Y方向に5つの計20個(4×5配列)の検出単位14と、X方向に1つ、Y方向に2つの計2個(1×2配列)の検出単位14’とが配置された例が示されている。これは一例であり、検出単位14および検出単位14’の数および配置の態様はこの例に限定されない。少なくとも1つの第1検出単位14と、少なくとも1つの第2検出単位14’とが設けられていれば、対象物のX方向(第1方向)およびY方向(第2方向)の情報を取得することができる。
本実施形態の光検出装置29gは、対象物からの透過光または反射光のうち、隣接する入射光8、9を、それぞれの検出単位14、14’に入射させて検出する。これにより、対象物の2次元情報を定量的に測定できる。
図22Aに示す構成では、検出単位14、14'はストライプ状に配列されている。図示される左側の5行4列の20個の検出単位14は、X方向の情報を2次元的に検出する。右側の2行1列の2個の検出単位14’は、Y方向の情報を1次元的に検出する。各検出単位14で得られる対象物の情報は、それぞれX方向に関する情報であるため、右側の検出単位14'で得られるY方向に関する情報と統合することで、対象物の2次元情報を得ることができる。
本実施形態の光検出装置29gは、溝の方向がY方向(第2の方向)に平行なグレーティング1”a、1”b、1”c、1”d、2”a、2”b、2”c、2”dと、溝の方向がX方向(第1の方向)に平行なグレーティング1”A、1”B、2”A、2”Bとを備えている。このため、検出単位14にとってのTE偏光は検出単位14’にとってはTM偏光になり、検出単位14にとってのTM偏光は検出単位14’にとってはTE偏光になる。このため、検出単位14、14’の検出性能が偏光方向に極力依存しないことが好ましい。前述のように、実施形態4のような断面が三角形状のグレーティングを用いるよりも、断面が矩形状または半円形状のようなグレーティングを用いた方が、入射光8、9の偏光方向の違いによる|P1−P2|の最大値の差が小さい。よって、本実施形態では、図22Bに示すように、断面が矩形状のグレーティング1”が用いられている。ただし、これに限定されず、実施形態4のようなグレーティングを用いてもよい。
本実施形態では、第1層3における複数の検出単位14、14’の間の領域に溝19、19’(19a、19b、19c、19d、19e、19’a、19’b、19’c)が形成されている。このため、各検出単位14、14’から隣接する検出単位への導波光の漏れを減らすことができ、その結果、クロストークを低減できる。各溝19、19’の幅wbは、典型的にはグレーティングの周期Λよりも長い値、例えばΛ〜5Λに設定され得る。各溝19、19’の深さtbは、その下に導波モ−ドが生じない厚さ(いわゆるカットオフとなる厚さ)以上、例えばtb≧0.26μmに設定され得る。このような溝19、19’を設けることにより、隣の検出単位に漏れ出る導波光のパワーを、例えば1/3〜1/15にまで低減することができる。なお、tb=t1にしても良いし、第1層3を突き抜けてその奥の基板4にまで溝を形成しても良い。
次に、本実施形態の光検出装置29gの製造工程の一例を説明する。
図23A〜23Cは、本実施形態の光検出装置29fの製造工程の一例を示す断面図である。本実施形態の光検出装置29gの製造工程は、実施形態4の光検出装置29の製造工程とほぼ同様であるが、複数の検出単位14、14'を2次元的に配列して形成することと、溝19、19’の形成を行うこととが異なる。
まず、図23Aに示すように、基板4上に、厚さt1の第1層3を成膜する。その後、図23Bに示すように、第1層3上に、複数の第1光結合素子1”および複数の第2光結合素子2"を2次元的に同時に形成する。なお、図23Bには4つの検出単位のみが図示されている。その後、図23Cに示すように、第1層3における複数の検出単位14、14'の間の領域に複数の溝19、19’を形成する。このようにして作製した素子をイメージセンサ17と組み合わせることにより、光検出装置29gが完成する。
本実施形態では、全ての検出単位14、14’が同一の周期のグレーティング1”、2”を有している。すなわち、本実施形態の光検出装置29gは、特定の波長および特定の入射角度に適した構成を有している。しかし、図20を参照して説明したように、複数の周期を有するグレーティングを用いることにより、種々の波長に対応することができる。例えば、検出単位ごとにグレーティングの周期Λを変えてもよい。また、1つの検出単位の中で複数の周期を有するグレーティングを用いてもよい。これにより、斜め入射特性または波長特性が向上する効果が期待できる。
図24Aは、本実施形態の変形例における光検出装置29hの構成を模式的に示す断面図である。この例では、第1層3における複数の検出単位14の間の領域に溝が形成され、その溝に吸収膜23が堆積されている。吸収膜23を設けることにより、溝で生じる反射散乱光を低減し、光検出装置29hの迷光を低減してSN比を向上させることができる。吸収膜23は、例えばカーボンを添加した樹脂が用いられ得る。これ以外にも、消衰係数の大きい材料であれば同様に使用することができる。
図24Bは、本実施形態の他の変形例における光検出装置29iの構成を模式的に示す断面図である。この例では、第1層3における複数の検出単位14の間の領域に金属膜22のパターン(幅wm、厚さtm)が形成されている。金属膜22のパターン(すなわち金属製の凸部)を形成することにより、その領域では光の閉じ込め条件が崩れて導波モ−ドが存在できない状態になる。これにより、隣の検出単位に漏れ出る導波光のパワーを低減することが可能である。金属膜22に使用される金属は、例えば、Au、Ag、Cu、Al、W、Ti等であり得る。本発明者らの検証によれば、Au、Ag、CuよりもAl、W、Ti等の方が低減効果が大きい。金属膜22のX方向の寸法wmは、グレーティングの周期をΛとして、例えばwm=Λ〜5Λに設定され得る。金属膜22の厚さ(Z方向の寸法)はtmは、例えばtm=20nm〜100nmに設定され得る。このような構成により、隣の検出単位に漏れ出る導波光のパワーを、例えば1/5〜3/100程度に低減することができる。
この変形例では、第1層3上に金属膜22のパターンを形成することにより、溝を設ける必要がない。溝がないため、導波光の反射を低減することができる。導波光の反射が大きいと、検出単位14中の導波光10、11の干渉に影響を及ぼし、位相差検出の精度が低下する。本変形例によれば、導波光の反射を低減し、位相差検出の精度を向上させることができる。
図24Cは、本実施形態のさらに他の変形例における光検出装置29jの構成を模式的に示す断面図である。この例では、複数の検出単位14の間の領域にも連続的に光結合素子(グレーティング)が形成されている。グレーティングの上には金属膜22のパターンが形成されている。言い換えれば、本実施形態の光検出装置29jは、第1層3における複数の検出単位14の間の領域上に、金属膜で覆われた他の光結合素子を有している。本変形例によれば、図24Bに示す光検出装置29iよりも、隣の検出単位に漏れ出る導波光のパワーをさらに低減することが可能である。よって、本変形例の構成は、クロストーク特性に優れている。
(実施形態8)
次に、本開示の実施形態5の光検出装置を説明する。
図25は、本実施形態の光検出装置29kの構成を模式的に示す平面図である。本実施形態の光検出装置29kは、実施形態7の光検出装置29gにおける複数の検出単位14、14’の配列(ストライプ状の配列)を、千鳥状(staggered)の配列に変更した構成を有する。
本実施形態では、ある行の検出単位14のX方向の位置と、隣接する他の行の検出単位14のX方向の位置とが、半周期ずれている。同様に、ある列の検出単位14’のY方向の位置と、隣接する他の列の検出単位14’のY方向の位置とが、半周期ずれている。このような千鳥状の配列により、X方向およびY方向のいずれについても分解能を実質的に向上させることが可能である。
以上、本開示の技術の例示として、実施形態1〜8の光検出装置28〜28c、29〜29k、およびこれらの光検出装置のいずれかを含む光検出システムを説明した。本開示における技術は、これらに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用可能である。上記実施形態における構成要素を組み合わせて、他の実施形態を構成することも可能である。