接着剤によって光ファイバを補強器に固定する場合、光ファイバは当該接着剤の体積変化に起因する圧力を外周面側から受ける場合がある。光ファイバが外周面側から大きな圧力を受けると、M2(エムスクエア)やBPP(Beam Parameter Product)で表される信号光の品質が劣化する傾向がある。従って、光ファイバが受けるこのような圧力は低減されることが好ましい。
接着剤の体積変化の原因の一つとして、接着剤の温度変化による膨脹収縮が考えられる。また、接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力を低減させる方法としては、ヤング率が低い接着剤を用いることが考えられる。ヤング率が低い接着剤を用いることによって、当該接着剤の体積に変化が生じたとしても当該接着剤自体が変形することによって、光ファイバに加えられる圧力を低減させることができる。しかし、ヤング率が低い材料からなる接着剤によって光ファイバを固定しようとすると、光ファイバの固定強度を確保することが難しくなる。
そこで、本発明は、光ファイバの固定強度の低下を抑制しつつ当該光ファイバを伝搬する信号光の劣化を抑制できる光ファイバ接続体を提供することを目的とする。
かかる課題を解決するため本発明の光ファイバ接続体は、被覆層を有する2本の光ファイバと、補強器と、前記2本の光ファイバの前記被覆層をそれぞれ前記補強器に固定する一対の接着剤と、を備え、前記2本の光ファイバは、互いの一方の端部において、前記被覆層で覆われていない非被覆部を有すると共に互いの端面が融着され、前記2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向下流側に位置する前記光ファイバの前記被覆層を前記補強器に固定する前記接着剤が、25℃において1体積%以上の気泡を有することを特徴とする。
2本の光ファイバの端面が融着された融着部では、コアから漏洩した光がクラッドに結合して伝搬するクラッド光が生じ易い。融着部で生じるクラッド光は、融着部より下流側、すなわち融着された2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向下流側に位置する光ファイバの方へとより伝搬する。そして、融着部において生じたクラッド光が下流側の光ファイバの被覆層に入射すると、当該被覆層が加熱される。被覆層が加熱されると、被覆層を介して接着剤が加熱されて膨脹し易くなる。ここで、上記光ファイバ接続体では、融着された2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向下流側に位置する光ファイバの被覆層を補強器に固定する接着剤が気泡を有することによって、接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力を当該気泡が緩和することができる。従って、光ファイバが外周面側から圧力を受けることによって生じる信号光の劣化を抑制することができる。また、気泡によって接着剤のヤング率を低下させることによって、接着剤の材質そのもののヤング率を低下させる場合に比べて、光ファイバの固定強度の低下を抑制することができる。
なお、以下の説明において「気泡を有する」とは、特に説明がなくても、25℃において1体積%以上の気泡が含まれることを意味する。また、「コアを伝搬する光の進行方向下流側」とは、コアを伝搬する主な光の進行方向の下流側を意味する。光ファイバの使用態様によっては、戻り光等によって光が双方向にコアを伝搬する場合がある。また、意図的に双方向に光を伝搬させる場合もある。これらの場合のように光がコアを双方向に伝搬する場合は、伝搬する光が相対的に多い方向の下流側を、コアを伝搬する光の進行方向下流側とする。また、後述する「コアを伝搬する光の進行方向上流側」は、コアを伝搬する主な光の進行方向の上流側を意味し、光がコアを双方向に伝搬する場合は、伝搬する光が相対的に多い方向の上流側を、コアを伝搬する光の進行方向上流側とする。
上記光ファイバ接続体は、前記2本の光ファイバのクラッド径が互いに異なり、前記2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向下流側に位置する前記光ファイバのクラッド径は、前記光の進行方向上流側に位置する前記光ファイバのクラッド径よりも小さい場合に好適である。
光ファイバのクラッド径が小さい場合、外周面側からの圧力によってコアを伝搬する信号光が劣化されやすい傾向にある。従って、クラッド径が小さい光ファイバが気泡を有する接着剤によって補強器に固定される場合、上記のように接着剤の体積変化に起因して加えられる圧力が低減されることによる効果が、クラッド径が大きい光ファイバが同様に固定される場合よりも顕著になる。
上記光ファイバ接続体において、前記2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する前記光ファイバの前記被覆層を前記補強器に固定する前記接着剤が、25℃において1体積%以上の気泡を有することが好ましい。
光が主に一方向にコアを伝搬する場合であっても反対方向に戻ってくる戻り光が存在したり、意図的に双方向に光を伝搬させたりする場合がある。よって、融着される2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する光ファイバの被覆層も、上記の理由から加熱される場合がある。特に、戻り光のビーム品質が戻り光とは反対側に進行する光のビーム品質よりも悪い場合、その傾向が顕著になる。光のビーム品質が悪い場合、すなわちM2値が大きい場合、その光が伝搬する光ファイバに外周面側から圧力が加えられると、その光のM2値が増加しやすい傾向にある。よって、2本の光ファイバの融着部における戻り光のビーム品質が悪い場合、当該融着部より上流側において光ファイバに圧力が加えられると、その戻り光のM2値が増加しやすい。また、光ファイバには伝搬可能なモードの制限があるため、M2値が大きい光の方が漏洩しやすい傾向にある。従って、2本の光ファイバの融着部における戻り光のビーム品質が悪い場合、当該融着部より上流側で漏洩光が多くなりやすいので、融着される2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する光ファイバの被覆層が加熱されやすい。また、コアを伝搬する光の進行方向上流側の光ファイバの方がコアを伝搬する光の進行方向下流側の光ファイバよりも光の閉じ込め力が弱い場合や、コアを伝搬する光の進行方向上流側の光ファイバのクラッド径がコアを伝搬する光の進行方向下流側の光ファイバよりも細い場合にも、コアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する光ファイバの被覆層が加熱される傾向が顕著になる。光の閉じ込め力が弱い場合とは、例えば、コアの屈折率とクラッドの屈折率の差が小さい場合や、クラッドの屈折率と当該クラッドを囲う外側クラッドの屈折率との差が小さい場合等が考えられる。このように、コアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する光ファイバの被覆層も加熱される場合があることから、コアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する光ファイバも気泡を有する接着剤によって補強器に固定されることにより、接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力を低減することができ、コアを伝搬する信号光の劣化を抑制することができる。
上記のように、コアを伝搬する光の進行方向上流側の光ファイバの方がコアを伝搬する光の進行方向下流側の光ファイバよりも光の閉じ込め力が弱い場合、コアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する光ファイバの被覆層も戻り光等によって加熱される傾向が顕著となる。従って、前記2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する前記光ファイバの光の閉じ込め力が、前記光の進行方向下流側に位置する前記光ファイバの光の閉じ込め力よりも弱い場合、前記2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する前記光ファイバの前記被覆層を前記補強器に固定する前記接着剤も気泡を有することが好ましい。
上記のように、コアを伝搬する光の進行方向上流側の光ファイバのクラッド径がコアを伝搬する光の進行方向下流側の光ファイバよりも細い場合、コアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する光ファイバの被覆層も戻り光等によって加熱される傾向が顕著となる。従って、前記2本の光ファイバのクラッド径が互いに異なり、前記2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する前記光ファイバのクラッド径が、前記光の進行方向下流側に位置する前記光ファイバのクラッド径よりも小さい場合、前記2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する前記光ファイバの前記被覆層を前記補強器に固定する前記接着剤も気泡を有することが好ましい。
上記光ファイバ接続体において、前記2本の光ファイバのクラッド径が互いに異なり、クラッド径が細い方の前記光ファイバを固定する前記接着剤に含まれる前記気泡の割合は、クラッド径が太い方の前記光ファイバを固定する前記接着剤に含まれる前記気泡の割合よりも高いことが好ましい。
上記のように、気泡によって接着剤のヤング率を低下させることによって、接着剤の材質そのもののヤング率を低下させる場合に比べて、光ファイバの固定強度の低下を抑制することができる。ただし、同じ材質の接着剤で気泡を有する場合と有さない場合とで比較すれば、気泡を有さない場合の方が光ファイバの固定強度を高めやすい。従って、接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力の低減と、光ファイバの固定強度の確保とは、ある程度トレードオフの関係にある。また、上記のように、光ファイバのクラッド径が小さい場合、光ファイバの外周面側から受ける圧力によってコアを伝搬する信号光が劣化されやすい。従って、上記光ファイバ接続体のように、クラッド径が小さい光ファイバを固定する接着剤には気泡を多くすることで、接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力の低減を光ファイバの固定強度の確保より優先し、クラッド径が大きい光ファイバを固定する接着剤には気泡を少なくすることで、接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力の低減よりも光ファイバの固定強度の確保を優先することによって、光ファイバの固定強度の低下を抑制しつつ当該光ファイバを伝搬する信号光の劣化を抑制し易くなる。
上記光ファイバ接続体において、前記接着剤はRTV(room temperature vulcanizing)接着剤であることが好ましい。
RTV接着剤を硬化させるときの温度および湿度が適切に調整されることによって、RTV接着剤の内部からアウトガスを発生させてRTV接着剤に所望の大きさの気泡を含ませることができる。従って、光ファイバを補強器に固定する接着剤にRTV接着剤を用いることによって、当該接着剤に含まれる気泡の割合を調整し易くなる。接着剤に含まれる気泡の割合が調整されることによって、接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力を低減させる度合いが調整される。また、RTV接着剤は硬化時に内部から均一にアウトガスを発生させやすいため、気泡が表面に生じることを抑制し易く、接着剤の内部に気泡を均一に分布させ易い。接着剤の表面に気泡が生じることが抑制されることによって、接着剤と光ファイバとの界面に気泡が生じることが抑制されるので、接着剤と光ファイバとの接着強度の低下が抑制される。接着剤の内部に気泡を均一に分布させることによって、接着剤と光ファイバとの接触部において接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力を均一に低減させ易い。
以上のように本発明によれば、光ファイバの固定強度の低下を抑制しつつ当該光ファイバを伝搬する信号光の劣化を抑制できる光ファイバ接続体を提供することができる。
以下、本発明に係る光ファイバ接続体の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、理解の容易のため、それぞれの図に記載のスケールと、以下の説明に記載のスケールとが異なる場合がある。
まず、光ファイバ接続体を含む装置の一例であるファイバレーザ装置について説明する。図1は、ファイバレーザ装置の一部の構成を概略的に示す図である。
図1に示すファイバレーザ装置10は、励起光源20a、20bと、光コンバイナ40a、40bと、増幅用光ファイバ30と、一方の端部が光コンバイナ40aを介して励起光源20aに接続されると共に他方の端部が増幅用光ファイバ30の一方の端部に接続される第1共振用ファイバ16と、一方の端部が光コンバイナ40bを介して励起光源20bに接続されると共に他方の端部が増幅用光ファイバ30の他方の端部に接続される第2共振用ファイバ18と、第1共振用ファイバ16に設けられる第1ミラーとしての第1FBG(Fiber Bragg Grating)71と、第2共振用ファイバ18に設けられる第2ミラーとしての第2FBG72と、一端が光コンバイナ40bに接続されているデリバリファイバ50と、を主な構成として備える。
励起光源20a、20bは、複数のレーザダイオード21とレーザダイオード21のそれぞれに接続される励起光用ファイバ22とを有する。励起光用ファイバ22としては、例えば、マルチモードファイバが挙げられる。この場合、レーザダイオード21から出射される励起光は、励起光用ファイバ22をマルチモード光として伝播する。
増幅用光ファイバ30は、励起光源20a、20bから出射される励起光により励起される活性元素を含むコアとコアを被覆するクラッドとクラッドを被覆する外側クラッドと外側クラッドを被覆する被覆層とから構成される。クラッドの屈折率はコアの屈折率よりも低く、外側クラッドの屈折率はクラッドの屈折率よりもさらに低くされている。コアを構成する材料としては、例えば、屈折率を上昇させるゲルマニウム等の元素、及び、上記活性元素としてのイッテルビウム(Yb)等が添加された石英が挙げられる。また、クラッドを構成する材料としては、例えば、何らドーパントが添加されていない純粋石英が挙げられる。また、外側クラッドを構成する材料としては、例えば、紫外線硬化樹脂やフッ素等が添加された石英が挙げられ、被覆層を構成する材料としては、例えば、外側クラッドが樹脂から成る場合にはその樹脂とは異なる紫外線硬化樹脂が挙げられる。
光コンバイナ40aは、第1共振用ファイバ16と励起光源20aのそれぞれの励起光用ファイバ22とを接続している。励起光源20aから出射される励起光は、光コンバイナ40aを介して第1共振用ファイバ16のクラッドに入射される。また、光コンバイナ40bは、第2共振用ファイバ18と励起光源20bのそれぞれの励起光用ファイバ22とを接続している。励起光源20bから出射される励起光は、光コンバイナ40bを介して第2共振用ファイバ18のクラッドに入射される。
第1共振用ファイバ16としては、例えば、シングルモードファイバが挙げられる。また、第1共振用ファイバ16は、コアとクラッドと外側クラッドとを有するダブルクラッドファイバとされる。このような第1共振用ファイバ16は、例えば、増幅用光ファイバ30と同様の構成でコアに活性元素が添加されない構成とされる。第1共振用ファイバ16のコアは、増幅用光ファイバ30のコアと結合している。また、第1共振用ファイバ16のコアには、第1FBG71が設けられている。第1FBG71は、増幅用光ファイバ30のコアに添加されている活性元素が励起状態とされた場合に放出する自然放出光の一部の波長と同じ波長の光を反射し、反射率が、例えば100%とされる。
第2共振用ファイバ18としては、例えば、シングルモードファイバが挙げられる。また、第2共振用ファイバ18は、コアとクラッドと外側クラッドとを有するダブルクラッドファイバとされる。このような第2共振用ファイバ18は、例えば、増幅用光ファイバ30と同様の構成でコアに活性元素が添加されない構成とされる。第2共振用ファイバ18のコアは、増幅用光ファイバ30のコアと結合している。また、第2共振用ファイバ18のコアには、第2FBG72が設けられている。第2FBG72は、第1FBG71が反射する光と同じ波長の光を第1FBG71よりも低い反射率で反射する。第2FBGの反射率は、例えば30%とされる。また、第2共振用ファイバ18の増幅用光ファイバ30側と反対側には、光コンバイナ40bを介してデリバリファイバ50が接続されている。
デリバリファイバ50は、コアとコアを被覆するクラッドとクラッドを被覆する被覆層とから構成される。
ファイバレーザ装置10は、増幅用光ファイバ30の前方側及び後方側の双方から励起光を入射する双方励起であって、第1FBG71と第2FBG72とで共振を行うファブリペロー型のファイバレーザ装置とされる。
このようなファイバレーザ装置10においては、まず、励起光源20a、20bのそれぞれのレーザダイオード21から励起光が出射される。それぞれのレーザダイオード21から出射される励起光は、例えば、波長が915nmとされる。そして、それぞれのレーザダイオード21から出射された励起光は、励起光用ファイバ22及び第1共振用ファイバ16を介して増幅用光ファイバ30の前方側から、又は、励起光用ファイバ22及び第2共振用ファイバ18を介して増幅用光ファイバ30の後方側から、増幅用光ファイバ30のクラッドに入射する。増幅用光ファイバ30のクラッドに入射した励起光は、当該クラッドを主に伝播する。そして、増幅用光ファイバ30のコアを通過するときに当該コアに添加されている活性元素に吸収されて、活性元素を励起状態にする。
こうして励起光により励起状態とされた活性元素から自然放出光が放出され、この自然放出光を元にして第1FBG71と第2FBG72との間で光の共振が起こる。共振する光は、第1FBG71及び第2FBG72の反射波長と同じ波長であり、この共振する光が、被増幅光として増幅用光ファイバ30において励起された活性元素の誘導放出により増幅される。そして、増幅された光の一部が、第2FBG72を透過して、信号光としてデリバリファイバ50に入射される。
上記のように、ファイバレーザ装置10は、FBGや光コンバイナ等の光部品と光ファイバとの接続部や光ファイバ同士の接続部を有する。このような接続部における光ファイバ接続体について、以下に説明する。
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態にかかる光ファイバ接続体を概略的に示す断面図である。
図2に示す光ファイバ接続体100は、被覆層112を有する第1光ファイバ110と、被覆層122を有する第2光ファイバ120と、第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120が固定される補強器130と、第1光ファイバ110を補強器130に固定する接着剤114と、第2光ファイバ120を補強器130に固定する接着剤124と、を主な構成要素として備える。
なお、ファイバレーザ装置10において光ファイバ接続体100が適用される箇所は限定されないため、図2では図1とは異なる符号を付して一般化している。例えば、第1共振用ファイバ16と増幅用光ファイバ30との接続部に光ファイバ接続体100を適用する場合は、第1共振用ファイバ16を第1光ファイバ110と置き換え、増幅用光ファイバ30を第2光ファイバ120と置き換えて考えれば良い。
第1光ファイバ110は、被覆層112で覆われていない非被覆部111を端部に有する。また、第2光ファイバ120は、被覆層122で覆われていない非被覆部121を端部に有する。非被覆部111、121は、ガラスから成るクラッドが露出する部位である。第1光ファイバ110の非被覆部111側の端面と第2光ファイバ120の非被覆部121側の端面とは融着されている。
補強器130は、第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120が固定されて、第1光ファイバ110と第2光ファイバ120との接続のずれ等を防止するための補強部材である。補強器130は、例えば、第1光ファイバ110と第2光ファイバ120とが融着された融着部140を含む第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120の端部を収容する溝を有する部材とすることができる。補強器130は、例えば、セラミックス等によって構成される。
接着剤114は、第1光ファイバ110のうち被覆層112で覆われている部分に塗布されており、被覆層112の一部と補強器130とを固定する。また、接着剤124は、第2光ファイバ120のうち被覆層122で覆われている部分に塗布されており、被覆層122の一部と補強器130とを固定する。接着剤114、124は、第1光ファイバ110の非被覆部111及び第2光ファイバ120の非被覆部121には塗布されていない。
接着剤114は気泡116を有しており、接着剤124は気泡126を有している。このような接着剤114、124は、RTV接着剤で構成することができる。RTV接着剤は、硬化時に空気中の水分と反応することでアウトガスを発生させる。RTV接着剤を硬化させる際に加熱して硬化速度を速めることにより、内部からアウトガスが抜けるよりも早く硬化させ、RTV接着剤内に気泡を残留させ易くすることができる。よって、RTV接着剤を用いることによって、気泡を有する接着剤を容易に形成することができる。
以上のような固定構造を有する光ファイバ接続体100によれば、以下に説明するように、第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120の固定強度の低下を抑制しつつ第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120を伝搬する信号光の劣化を抑制することができる。
第1光ファイバ110の端面と第2光ファイバ120の端面とが融着された融着部140では、クラッド光が生じ易い。融着部140で生じるクラッド光は、融着された2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向下流側に位置する光ファイバの方へとより伝搬する。以下、第2光ファイバ120を、コアを伝搬する光の進行方向下流側に位置する光ファイバとする。融着部140において生じたクラッド光が第2光ファイバ120の被覆層122に入射すると、被覆層122が加熱される。被覆層122が加熱されると、被覆層122を介して接着剤124が加熱されて膨脹し易くなる。ここで、光ファイバ接続体100では、接着剤124が気泡126を有することによって、接着剤124の体積変化に起因して第2光ファイバ120に圧力が加えられることが抑制される。従って、第2光ファイバ120が外周面側から圧力を受けることによって生じる信号光の劣化を抑制することができる。また、気泡126によって接着剤124のヤング率を低下させることによって、接着剤124の材質そのもののヤング率を低下させる場合に比べて、第2光ファイバ120の固定強度の低下を抑制することができる。
また、光が主に一方向にコアを伝搬する場合であっても反対方向に戻ってくる戻り光が存在したり、意図的に双方向に光を伝搬させたりする場合がある。よって、融着される2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する光ファイバ、すなわち第1光ファイバ110の被覆層112も、上記の理由から加熱される場合がある。特に、戻り光のビーム品質が戻り光とは反対側に進行する光のビーム品質よりも悪い場合、その傾向が顕著になる。光のビーム品質が悪い場合、すなわちM2値が大きい場合、その光が伝搬する光ファイバに外周面側から圧力が加えられると、その光のM2値が増加しやすい傾向にある。よって、第1光ファイバ110と第2光ファイバ120との融着部140における戻り光のビーム品質が悪い場合、融着部140より上流側の第1光ファイバ110に圧力が加えられると、その戻り光のM2値が増加しやすい。また、光ファイバには伝搬可能なモードの制限があるため、M2値が大きい光の方が漏洩しやすい傾向にある。従って、融着部140における戻り光のビーム品質が悪い場合、融着部140より上流側で漏洩光が多くなりやすいので、第1光ファイバ110の被覆層112が加熱されやすい。また、第1光ファイバ110の光の閉じ込め力が第2光ファイバ120よりも光の閉じ込め力より弱い場合や、第1光ファイバ110のクラッド径が第2光ファイバ120のクラッド径よりも細い場合にも、コアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する光ファイバの被覆層が加熱される傾向が顕著になる。光の閉じ込め力が弱い場合とは、例えば、コアの屈折率とクラッドの屈折率の差が小さい場合や、クラッドの屈折率と当該クラッドを囲う外側クラッドの屈折率との差が小さい場合等が考えられる。このように、第1光ファイバ110の被覆層112も加熱される場合があることから、光ファイバ接続体100では、第1光ファイバ110も気泡116を有する接着剤114によって補強器130に固定される。これにより、接着剤114の体積変化に起因して第1光ファイバ110に加えられる圧力を低減することができ、コアを伝搬する信号光の劣化を抑制することができる。
光ファイバに外周面側から圧力が加えられるときの信号光の劣化の度合いは、光ファイバの構造等によって異なる。例えば、クラッドが複数層形成されていたりコアとクラッドとの屈折率差が大きくされていたりすることによって光を閉じ込めやすい光ファイバは、相対的に光を閉じ込める能力が低い光ファイバに比べて、同じ強さの圧力を加えられたとしても信号光が劣化し難い。また、固定される光ファイバがポリマクラッドを有する場合、当該光ファイバを伝搬する光の一部がコアからポリマクラッドにも染み出した状態で伝搬していることから、当該光ファイバは外周面側からの圧力による影響を受けやすく、圧力を受けたときに信号光が劣化し易い。また、ファイバ径が小さくて被覆層やクラッドが薄い光ファイバも、外周面側からの圧力の影響を受けやすく、圧力を受けたときに信号光が劣化し易い。しかし、本実施形態のような固定構造を有する光ファイバ接続体100は、このような外周面側からの圧力の影響を受けやすい光ファイバを固定する場合に好適である。
また、光ファイバ接続体100では、接着剤114、124にRTV接着剤を用いることによって、接着剤114、124に含まれる気泡の割合を調整することが容易である。RTV接着剤は、硬化するときの加熱温度や湿度が適切に調整されることによって、アウトガスの発生量が調整され、硬化後のRTV接着剤に所望量の気泡を含ませることができる。接着剤114、124に含まれる気泡の割合が調整されることによって、接着剤114、124の体積変化に起因して第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120に加えられる圧力を低減させる度合いが調整される。また、RTV接着剤は、硬化時に内部から均一にアウトガスを発生させるため、気泡が表面に生じることを抑制し易く、内部に気泡を均一に分布させ易い。接着剤114、124の表面に気泡が生じることが抑制されることによって、接着剤114、124と第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120との界面に気泡が生じることが抑制されるので、接着剤114、124と第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120との接着強度の低下が抑制される。この結果、発泡によって接着剤114、124のヤング率を低下させつつ、第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120の固定強度の低下を抑制することができる。また、接着剤114、124の内部に気泡を均一に分布させることによって、接着剤114、124に体積変化が生じる際に、接着剤114、124と第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120との接触部において、接着剤114、124の体積変化に起因して第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120に加えられる圧力を均一に低減させ易い。
RTV接着剤の表面に気泡が生じることを抑制したり、RTV接着剤の内部に気泡を均一に分布させたりする観点からは、硬化前のRTV接着剤の粘度が、気泡の移動を妨げるのに十分な程度に調整されることが好ましい。硬化前のRTV接着剤が気泡の移動を妨げるのに十分な粘度を持つかどうかは、硬化後のRTV接着剤の内部に気泡が均一に分布しているかどうかで判断することができる。硬化前のRTV接着剤の粘度が充分であれば、気泡が発生位置から移動し難いので、硬化後のRTV接着剤の内部に気泡が均一に分布し易い。
硬化前のRTV接着剤を加熱する温度が高い程、RTV接着剤に含まれる気泡が大きくなる傾向がある。接着剤114、124に含まれる気泡の適切な割合は、接着剤114、124によって固定される第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120を伝搬する光のM2の上昇の程度等から判断することができる。
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態にかかる光ファイバ接続体を概略的に示す断面図である。
図3において、図2と同様の構成のものには同符号を付し、説明を省略する。第2実施形態にかかる光ファイバ接続体200は、第1光ファイバ110の非被覆部111及び第2光ファイバ120の非被覆部121が接着剤150で覆われている点が、光ファイバ接続体100とは異なる。
接着剤150は、接着剤114、124と一体で構成されていてもよい。ただし、接着剤150が覆う非被覆部111及び非被覆部121はガラスから成るクラッドが露出している部位であるため、第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120から漏れる光を接着剤150が吸収することを抑制する観点から、接着剤150は、少なくとも第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120を伝搬する光の波長に対して透明な材料で構成される。接着剤150がこのように構成されることにより、漏洩光が融着部140付近で熱に変換されることが抑制され、融着部140付近において第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120に圧力が加えられることを抑制することができる。なお、接着剤114、124には、このような制約はない。
第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120は接着剤114、124によって固定されていることから、接着剤150には高い接着強度は求められない。そのため、接着剤150には、接着剤114、124よりもヤング率が低い接着剤を用いることができる。また、接着剤150を塗布する前に接着剤114、124を塗布して硬化させておくことによって、塗布した位置に接着剤150を留まらせることができる。このことから、接着剤150には、硬化前の粘度が低い接着剤を用いることができる。また、第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120を伝搬する信号光の劣化を抑制する観点からは、接着剤150から第1光ファイバ110及び第2光ファイバ120に圧力が加えられることを抑制することが重要である。このような観点から、接着剤150はゲル状の接着剤であることが好ましい。
以上、本発明について、上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、融着される2本の光ファイバの両方が気泡を有する接着剤で補強器に固定されていた。しかし、融着される2本の光ファイバのうち少なくともコアを伝搬する光の進行方向下流側に位置する光ファイバの被覆層が、気泡を有する接着剤によって補強器に固定されていればよい。上記のように、2本の光ファイバの端面が融着された融着部で生じるクラッド光は、融着された2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向下流側に位置する光ファイバの方へとより伝搬する。よって、光の進行方向下流側の光ファイバの被覆層が光の進行方向上流側の光ファイバの被覆層よりも加熱され易い。従って、融着される2本の光ファイバのうち少なくともコアを伝搬する光の進行方向下流側に位置する光ファイバの被覆層が、気泡を有する接着剤によって補強器に固定されていれば、接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力を低減することができる。
また、図2及び図3には、融着される2本の光ファイバのクラッド径が等しい形態を示したが、融着される2本の光ファイバはクラッド径が異なっていても良い。融着される2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向下流側に位置する光ファイバの被覆層が気泡を有する接着剤によって補強器に固定される場合、2本の光ファイバのうちコアを伝搬する光の進行方向上流側に位置する光ファイバのクラッド径は、光の進行方向下流側に位置する光ファイバのクラッド径よりも大きいことが好ましい。光ファイバのクラッド径が小さい場合、外周面側からの圧力によってコアを伝搬する信号光が劣化されやすい傾向にある。従って、クラッド径が小さい光ファイバが気泡を有する接着剤によって補強器に固定される場合、上記のように接着剤の体積変化に起因して加えられる圧力が低減されることによる効果が、クラッド径が大きい光ファイバよりも顕著になる。
また、融着される2本の光ファイバの両方が気泡を有する接着剤で補強器に固定される場合において、2本の光ファイバのクラッド径が互いに異なる場合、クラッド径が細い方の光ファイバを固定する接着剤に含まれる気泡の割合は、クラッド径が太い方の光ファイバを固定する接着剤に含まれる気泡の割合よりも高いことが好ましい。上記のように、気泡によって接着剤のヤング率を低下させることによって、接着剤の材質そのもののヤング率を低下させる場合に比べて、光ファイバの固定強度の低下を抑制することができる。ただし、同じ材質の接着剤で気泡を有する場合と有さない場合とで比較すれば、気泡を有さない場合の方が光ファイバの固定強度を高めやすい。従って、接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力の低減と、光ファイバの固定強度の確保とは、ある程度トレードオフの関係にある。また、上記のように、光ファイバのクラッド径が小さい場合、光ファイバの外周面側から受ける圧力によってコアを伝搬する信号光が劣化されやすい。従って、クラッド径が小さい光ファイバを固定する接着剤には気泡を多くすることで、接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力の低減を光ファイバの固定強度よりも優先し、クラッド径が大きい光ファイバを固定する接着剤には気泡を少なくすることで、光ファイバの固定強度の確保よりも接着剤の体積変化に起因して光ファイバに加えられる圧力の低減を優先することによって、光ファイバの固定強度の低下を抑制しつつ当該光ファイバを伝搬する信号光の劣化を抑制し易くなる。
また、これまでの説明では、コアを伝搬する光の進行方向上流側とコアを伝搬する光の進行方向下流側とのそれぞれに光ファイバが1本のみ備えられる場合の例を挙げて説明したが、上記光ファイバ接続体では、コアを伝搬する光の進行方向上流側とコアを伝搬する光の進行方向下流側との少なくとも一方に複数の光ファイバが備えられていても良い。コアを伝搬する光の進行方向上流側と下流側のどちらか一方に複数の光ファイバが備えられる場合、これら複数の光ファイバを束ねて1本の光ファイバに接続させることができる。例えば、図1に示す光コンバイナ40a、40bのように、複数の光ファイバを一括して接続している部分に上記光ファイバ接続体を適用する場合は、光コンバイナ40a、40bを太い1本の第1光ファイバ110又は第2光ファイバ120と考え、光コンバイナ40a、40bに接続される複数の励起光用ファイバ22を複数の第1光ファイバ110又は第2光ファイバ120と置き換えて考えることができる。第1光ファイバ110又は第2光ファイバ120が複数備えられる場合は、これらを1つに束ねて気泡を有する接着剤で補強器に固定されることが好ましい。
また、これまでの説明では、ファイバレーザ装置に光ファイバ接続体を適用する例を挙げて説明したが、上記光ファイバ接続体は、ファイバレーザ装置に限定されず、様々な装置において光ファイバ同士の接続がなされ光ファイバが固定される部位に好適に用いることが出来る。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
直径30μmのコア及び当該コアを被覆するクラッドから成る直径100μmのガラス部と、当該ガラス部を被覆するポリマクラッドを含む厚さ50μmの被覆層と、を有する光ファイバを2本用意した。これら2本の光ファイバの端部の被覆層を剥がし、被覆層が剥がされた側の端部の互いの端面を融着させ、それぞれの光ファイバの被覆層上に長さ2mmに渡って接着剤A(脱アセトン型シリコーン系RTV接着剤)を塗布し、被覆層と補強器とを当該接着剤によって固定した。このとき、接着剤Aを光ファイバの被覆層上に塗布してから5分間静置し、その後100℃で10分間加熱し、接着剤Aの内部に硬化に伴うアウトガスを生じさせ、接着剤Aに気泡を含ませた。その後、室温に戻して24時間静置し、接着剤Aを硬化させた。このようにして硬化させた接着剤Aの内部の気泡の分布を確認したところ、外側表面付近には気泡が確認されず、それ以外の内部にはほぼ均一に気泡が分布していた。
(比較例1〜3)
比較例1では、接着剤Aを発泡させなかった以外は実施例1と同様にして、接着剤Aで光ファイバを補強器に固定した。また、比較例2では接着剤Bを用いて光ファイバを補強器に固定し、比較例3では接着剤Cを用いて光ファイバを補強器に固定した。接着剤B及び接着剤Cはシリコーン系樹脂であり、気泡を有していなかった。
(評価結果)
実施例1及び比較例1で用いた接着剤の種類及び評価結果を下記表1に示す。評価項目は、ヤング率[MPa]、M2上昇量、及び引き抜き試験の3項目である。表1に示すヤング率[MPa]は、光ファイバを固定する接着剤の硬化後のヤング率である。表1に示すM2上昇量は、光ファイバを接着剤で固定していないときにコアを伝搬させた信号光に対する、接着剤の硬化後に光ファイバのコアに信号光を伝搬させたときのM2上昇(劣化)量である。表1に示す引き抜き試験は、接着剤の硬化後に光ファイバを100gfの力で引っ張った場合に光ファイバが抜けるか否かを調べた結果である。引き抜けなかった場合を○、引き抜けた場合を×とした。
実施例1と比較例1とを比較するとわかるように、接着剤Aに気泡を含ませることにより、ヤング率が低下して光ファイバに加えられる圧力が軽減し、M2上昇量が大幅に抑制されている。また、実施例1と比較例2とを比較するとわかるように、光ファイバを固定する接着剤のヤング率をただ低くしただけでは、M2上昇を十分に抑制できるとは限らない。さらに、比較例2及び比較例3からわかるように、ヤング率が低い材料からなる接着剤を用いた場合は、光ファイバの固定強度が低かった。光ファイバの固定強度が低いと、光ファイバに応力がかかった場合に光ファイバが動きやすくなる。光ファイバが動くと、当該光ファイバに接続される光部品の特性が変化し、その結果、光を入射した際の発熱が大きくなり、故障や焼損の原因となる場合がある。一方、実施例1では、光ファイバを100gfの力で引っ張っても光ファイバが接着剤から抜けたり、接着剤が損傷したりすることはなかった。このように、光ファイバを固定する接着剤に気泡を含ませてヤング率を低下させることによって、当該光ファイバを伝搬する信号光の劣化抑制と当該光ファイバの固定強度の確保とが両立されることがわかった。従って、本発明の光ファイバ接続体によれば、光ファイバの固定強度の低下を抑制しつつ当該光ファイバを伝搬する信号光の劣化を抑制できると考えられる。