以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明は、本発明の液体噴射ヘッドとして、液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、プリンター)1に搭載されたインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3を例に挙げて行う。
プリンター1の構成について、図1を参照して説明する。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2の表面に対して液体状のインクを噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、複数の液体噴射ユニット4を備える記録ヘッド3、記録媒体2を搬送する搬送機構5、及び、液体噴射ユニット4のノズル面に対向する位置に搬送された記録媒体2を支持する媒体支持部6(プラテンとも呼ばれる)等を装置本体7の内部に備えている。また、媒体支持部6から外れた位置には、ノズル面23a(図6参照)を払拭するワイパー9及びノズル面23aを覆って当該ノズル面23aに開口したノズル24を封止するキャップ10が配置されている。ワイパー9は、例えば、エラストマー等の弾性部材からなる薄板状の部材である。キャップ10は、上方(記録ヘッド3側)に向けて開口した封止空間を有する部材である。これらのワイパー9及びキャップ10は、それぞれ図示しない駆動機構の駆動により記録ヘッド3の下方に移動してノズル面に当接できるように構成されている。
さらに、プリンター1の装置本体7には、気体(本実施形態では空気)を記録ヘッド3に送る第1のポンプ79及び第2のポンプ80(図4参照)が取り付けられている。第1のポンプ79は、第1の気体供給チューブ77を介して空気を記録ヘッド3に供給し、第2のポンプ80(本発明における加圧機構に相当)は、第2の気体供給チューブ78を介して空気を記録ヘッド3に供給する。図4に示すように、第1の気体供給チューブ77は、第1のポンプ79よりも下流側(すなわち、記録ヘッド3側)で分岐された第1の分岐路81を備えている。この第1の分岐路81は、分岐部とは反対側の端が大気に開放されている。また、第1の分岐路81の途中には、当該第1の分岐路81内を開閉する第1のバルブ87が設けられている。この第1のバルブ87は、第1の分岐路81内の空気の流れを許容する開状態と、第1の分岐路81内の空気の流れを阻害する閉状態とに変換可能に構成されている。また、第2の気体供給チューブ78は、第2のポンプ80よりも下流側(すなわち、記録ヘッド3側)で分岐された第2の分岐路82を備えている。この第2の分岐路82は、分岐部とは反対側の端が抵抗付与部89を介して大気に開放されている。抵抗付与部89は、例えば、第2の分岐路82のその他の部分よりも内径が小さく形成された部分であり、抵抗付与部89内を流れる空気に抵抗を付与する。なお、本実施形態における抵抗付与部89は、その内径の大きさが変更できるように構成されている。すなわち、本実施形態における抵抗付与部89は、空気に対する抵抗の大きさを調整できるように構成されている。また、第2の分岐路82の抵抗付与部89よりも下流側(すなわち、記録ヘッド3側)には、当該第2の分岐路82内を開閉する第2のバルブ88(本発明における気体流路開閉弁に相当)が設けられている。この第2のバルブ88は、第2の分岐路82内の空気の流れを許容する開状態と、第2の分岐路82内の空気の流れを阻害する閉状態とに変換可能に構成されている。
図1に示すように、本実施形態における記録ヘッド3は、記録媒体2の搬送方向(図1等におけるX方向)に交差する方向(図1等におけるY方向)に複数(本実施形態では4つ)の液体噴射ユニット4が並べられた当該方向(Y方向)に長尺なラインヘッドである。この記録ヘッド3には、液体の一種であるインクを貯留したインクカートリッジ8の内部と連通する液体供給チューブ76が接続されている。インクカートリッジ8からのインクは、液体供給チューブ76を介して記録ヘッド3に供給される。なお、インクカートリッジを記録ヘッド上に装着する構成を採用することもできる。また、記録ヘッド3には、図示しない制御部からの駆動信号等を当該記録ヘッド3に供給するFFC等の配線部材11が接続されている。なお、制御部は、記録ヘッド3のほか、上記した第1のポンプ79、第2のポンプ80、第1のバルブ87、第2のバルブ88、ワイパー9を駆動する駆動機構、及び、キャップ10を駆動する駆動機構等を制御する。
搬送機構5は、媒体支持部6よりも記録媒体2の搬送方向における上流側に上下一対に配置された第1の搬送ローラー12aと、媒体支持部6よりも搬送方向における下流側に上下一対に配置された第2の搬送ローラー12bと、を備えている。供給側からの記録媒体2は、これらの搬送ローラー12a,12bの駆動により、上下のローラーに挟まれた状態で媒体支持部6上を通過して排出側に向けて搬送される。なお、図1において、上下一対のローラーのうち、上側のローラーの図示は省略されている。また、搬送機構が、無端ベルトやドラムにより構成されるものもあり、このような構成では、ベルトやドラムが媒体支持部として機能する。さらに、媒体支持部としては、記録媒体を静電力により吸着させる構成のものや、負圧を発生させることで記録媒体を吸着させる構成のものを採用することもできる。
図2は、記録ヘッド3の構成を示す分解斜視図である。図3は、記録ヘッド3の断面図である。図4は、記録ヘッド3内の気体流路及び液体流路を説明する模式図である。図5は、圧力調整部材14の内部構成を説明する模式図である。なお、以下においては、記録ヘッド3の各構成部材の積層方向(Z方向)を、適宜上下方向として説明する。本実施形態における記録ヘッド3は、図2及び図3に示すように、各液体噴射ユニット4へインクを供給する流路が形成された流路部材13と、内部を流れるインクの圧力を調整する圧力調整部材14と、各液体噴射ユニット4を制御する駆動信号を送信する回路基板15と、圧力調整部材14及び回路基板15を内部に収容する金属シールド16と、金属シールド16の底面を構成する金属ベース51の下面に取り付けられた液体噴射ユニット4と、を備えている。
流路部材13は、各液体噴射ユニット4にインクを供給する合成樹脂製の板状部材であり、図4に示すように、インクが流れる液体流路の一部を構成する上方液体流路90、及び、空気が流れる気体流路の一部を構成する上方気体流路91、92が内部に形成されている。そして、図2に示すように、この流路部材13の上面には、各色に対応したインク供給チューブが接続される液体供給チューブ接続部41が複数(本実施形態では4つ)形成されている。液体供給チューブ接続部41は、流路部材13の内部の上方液体流路90を介して流路部材13の下面に形成された液体流出口42と連通されている。本実施形態における上方液体流路90は、1つの液体供給チューブ接続部41から流入したインクが4つの液体噴射ユニット4に分配されるように途中で分岐され、4つの液体流出口42と連通されている。すなわち、1つの液体供給チューブ接続部41は、上方液体流路90を介して4つの液体流出口42と連通する。
また、図2に示すように、流路部材13の上面には、第1の気体供給チューブ77及び第2の気体供給チューブ78が接続される気体供給チューブ接続部43が形成されている。第1の気体供給チューブ77と接続される気体供給チューブ接続部43は、流路部材13の内部の第1の上方気体流路91を介して流路部材13の下面に形成された気体流出口44と連通されている。また、第2の気体供給チューブ78と接続される気体供給チューブ接続部43は、流路部材13の内部の第2の上方気体流路92を介して流路部材13の下面に形成された気体流出口44と連通されている。本実施形態における第1の上方気体流路91及び第2の上方気体流路92は、それぞれ途中で分岐され、4つの気体流出口44と連通されている。すなわち、一方の気体供給チューブ接続部43は、第1の上方気体流路91を介して4つの気体流出口44と連通する。また、他方の気体供給チューブ接続部43は、第2の上方気体流路93を介して4つの気体流出口44と連通する。なお、本実施形態における流路部材13は、後述する金属カバー52の上面65に載置されている。
本実施形態における気体流出口44は、流路部材13の短手方向(X方向)の略中央において、流路部材13の長手方向(Y方向)に沿って複数(具体的には、8つ)形成されている。また、本実施形態における液体流出口42は、気体流出口44の列のX方向の両側において、それぞれY方向に沿って並設されている。すなわち、複数(具体的には、8つ)の液体流出口42が並べられてなる液体流出口42の列が、気体流出口44の列を挟んで2列に形成されている。さらに、本実施形態における液体流出口42及び気体流出口44は、円筒状に形成され、流路部材13の下面から下方に向けて突設されている。この液体流出口42の径は、気体流出口44の径よりも小さく形成されている。
圧力調整部材14は、後述する金属カバー52を間に挟んで流路部材13の下方(液体噴射ユニット4側)に接続された合成樹脂製の部材である。この圧力調整部材14の上面には、流路部材13の液体流出口42に対応する液体流入口46、及び、流路部材13の気体流出口44に対応する気体流入口47がそれぞれ複数形成されている。図3に示すように、液体流出口42と液体流入口46との接続部、及び、気体流出口44と気体流入口47との接続部は、金属カバー52の下方(すなわち、後述する収容空間68内)で接続されている。また、圧力調整部材14の内部には、図4に示すように、下方液体流路93が形成されている。液体流入口46は、下方液体流路93を介して圧力調整部材14の下方に突設された液体流出管48と連通されている。さらに、圧力調整部材14の内部には、第1の下方気体流路94及び第2の下方気体流路95が形成されている。第1の上方気体流路91と連通する気体流出口44は、第1の下方気体流路94を介して後述するチョーク室97に接続されている。また、第2の上方気体流路92と連通する気体流出口44は、第2の下方気体流路95を介して後述するタンク室98に接続されている。
すなわち、図4に示すように、インクカートリッジ8からのインクは、液体供給チューブ76、上方液体流路90、下方液体流路93を経由して、圧力調整部材14の下方に突設された液体流出管48から記録ヘッド3側に排出される。一方、第1のポンプ79からの空気は、第1の気体供給チューブ、第1の上方気体流路91、及び、第1の下方気体流路94を経由して下方液体流路93の途中に形成されたチョーク室97に送られる。また、第2のポンプ80からの空気は、第2の気体供給チューブ78、第2の上方気体流路92、及び、第2の下方気体流路95を介して下方液体流路93の途中に形成されたタンク室98に送られる。
また、図4に示すように、下方液体流路93の途中には、上流側から順に自己封止ユニット96、チョーク室97、及び、タンク室98が形成されている。自己封止ユニット96は、圧力調整部材14内の下方液体流路93内を所定の負圧に維持する負圧発生手段の一種である。この自己封止ユニット96は、例えば、その内部の流路の一部を封止するフィルム(図示せず)と、このフィルムの内面に一部が固着される自己封止弁(図示せず)と、を備えたものが好適に採用される。このような自己封止ユニット96は、記録ヘッド3のノズル24からインクが噴射されることにより下方液体流路93内の内圧(具体的には、負圧)が減少すると、フィルムが自己封止弁側に撓んで当該自己封止弁を押圧する。これにより自己封止弁が開いて、インクカートリッジ8からのインクが下方液体流路93を介して下流側(すなわち、記録ヘッド3側)に供給される。一方、インクカートリッジ8からインクが導入されて下方液体流路93の内圧が上昇すると、フィルムが自己封止弁から離れる方向に撓んで自己封止弁が閉じ、下方液体流路93を閉塞する。すなわち、自己封止ユニット96は、通常状態において下方液体流路93を閉塞し、記録ヘッド3によるインクの噴射(消費)に起因して下方液体流路93内の負圧が所定値に到達した場合に、自律的に下方液体流路93を開放してインクカートリッジ8からのインクを導入する。
チョーク室97は、図5に示すように、下方液体流路93の一部である第1の接続流路100を介して自己封止ユニット96の下流側に接続された空間である。第1の接続流路100の下流側の端は、このチョーク室97の一側(図5における下側)の面(すなわち底面)に開口されている。また、チョーク室97の一側の面には、下方液体流路93の一部である第2の接続流路101が接続されている。この第2の接続流路101の上流側の端は、チョーク室97の一側の面から他側(図5における上側)の面(すなわち天井面)に向けて円筒状に突出した突出部103の先端に開口されている。さらに、チョーク室97の他側の面には、第1の下方気体流路94の下流側の端が開口されている。そして、チョーク室97には、第1の接続流路100及び第2の接続流路101が連通する第1の液体空間106と、第1の下方気体流路94が連通する第1の気体空間105とを仕切るゴムやフィルム等からなる第1の可撓部材104が取り付けられている。これにより、チョーク室97のうち第1の可撓部材104に区画された第1の液体空間106が、液体が流れる下方液体流路93の一部となり、チョーク室97のうち第1の可撓部材104に区画された第1の気体空間105が、第1の気体供給チューブ77と連通した気体が流れる気体流路の一部となる。すなわち、第1の可撓部材104を挟んで、液体流路と気体流路とが接している。
本実施形態における第1の可撓部材104は、チョーク室97の一側の面に固定されている。そして、第1の可撓部材104の中央部が、チョーク室97の一側の面に固定された第1の付勢部材107によりチョーク室97の他側の面側に付勢されている。また、本実施形態における第1の付勢部材107は、突出部103の周囲に巻きつけられている。これにより、第1の気体空間105が加圧されていない状態(例えば、大気圧或いは大気圧に近い圧力になっている状態)では、第1の付勢部材107の付勢力により、第1の可撓部材104と突出部103の先端との間に隙間が形成され、第2の接続流路101のチョーク室97側の開口が開放される。これにより、インクのタンク室98側への流入が許容される。一方、第1の気体空間105が第1のポンプ79の駆動により加圧されると、図5の破線に示すように、第1の可撓部材104が第1の付勢部材107の付勢力に抗して突出部103側に変形し、当該突出部103の先端に当接する。これにより、第2の接続流路101のチョーク室97側の開口が閉塞され、インクのタンク室98側への流入が阻害される。要するに、第1の可撓部材104及び第1の付勢部材107が、タンク室98よりも上流の液体流路(具体的には、下方液体流路93)において、液体流路内のインクの流れを許容する開状態と、液体流路内の液体の流れを阻害する閉状態とに変換する開閉弁として機能する。すなわち、第1の可撓部材104及び第1の付勢部材107が、本発明における液体流路開閉弁に相当する。
タンク室98は、図5に示すように、第2の接続流路101を介してチョーク室97の下流側に接続された空間である。第2の接続流路101の下流側の端は、このタンク室98の一側(図5における下側)の面(すなわち底面)に開口されている。また、タンク室98の一側の面には、下方液体流路93の下流部分を構成する第3の接続流路102が接続されている。さらに、タンク室98の他側(図5における上側)の面(すなわち天井面)には、第2の下方気体流路95の下流側の端が開口されている。そして、タンク室98には、第2の接続流路101及び第3の接続流路102が連通する第2の液体空間110(本発明における部分流路に相当)と、第2の下方気体流路95が連通する第2の気体空間109とを仕切るゴムやフィルム等からなる第2の可撓部材108(本発明における可撓部材に相当)が取り付けられている。これにより、タンク室98のうち第2の可撓部材108に区画された第2の液体空間110が、液体が流れる下方液体流路93の一部となり、タンク室98のうち第2の可撓部材108に区画された第2の気体空間109が、第2の気体供給チューブ78と連通した気体が流れる気体流路の一部となる。すなわち、第2の可撓部材108を挟んで、液体流路と気体流路とが接している。
本実施形態における第2の可撓部材108は、タンク室98の一側の面に固定されている。そして、第2の可撓部材108の中央部が、タンク室98の一側の面における第3の流路の開口縁に固定された第2の付勢部材111によりタンク室98の他側の面側に付勢されている。これにより、第2の気体空間109が加圧されていない状態(例えば、大気圧或いは大気圧に近い圧力になっている状態)では、第2の付勢部材111の付勢力により、第2の可撓部材108がタンク室98の他側の面側に押圧され、第2の液体空間110の容積が大きくなる。一方、第2の気体空間109が第2のポンプ80の駆動により加圧されると、図5の破線に示すように、第2の可撓部材108が第2の付勢部材111の付勢力に抗してタンク室98の一側の面側に押圧され、第2の液体空間110の容積が小さくなる。すなわち、第2の液体空間110の加圧により、第2の可撓部材108がタンク室98の一側の面側に変形すれば、第2の液体空間110が第1の容積(図5における破線参照)に変化される一方、第2の液体空間110の減圧により、第2の可撓部材108がタンク室98の他側の面側に変形すれば、第2の液体空間110が第1の容積よりも大きい第2の容積(図5における実線参照)に変化される。なお、第2の気体供給チューブ78(第2の分岐路82を含む)、第2の上方気体流路92、第2の下方気体流路95、及び、第2の気体空間109等からなる一連の気体流路が、本発明における気体流路に相当する。また、この一連の気体流路及び第2のポンプ80が、本発明における変形手段に相当する。
金属シールド16は、図3に示すように、上記の圧力調整部材14及び回路基板15を収容する収容空間68が形成された金属製の部材である。この金属シールド16は、上面に圧力調整部材14及び回路基板15が取り付けられ、下面に複数の液体噴射ユニット4が固定される剛性が高い金属ベース51と、圧力調整部材14及び回路基板15を覆う薄板以状の金属カバー52と、を備えている。金属ベース51は、図2に示すようにY方向に長尺なX−Y面に沿った板材であり、図3に示す接地線Gに電気的に接続されることで接地されている。この金属ベース51の圧力調整部材14が固定される領域には、圧力調整部材14の液体流出管48が挿通されるベース貫通孔59が板厚方向に貫通した状態で複数開設されている。図3に示すように、圧力調整部材14の液体流出管48は、ベース貫通孔59に挿通されて液体噴射ユニット4(詳しくは、液体導入口60)と接続されている。
また、金属ベース51のX方向における一側(図2及び図3における右側)の端部には、金属ベース51の上面が一段下がった段差54が形成されている。図2に示すように、この段差54の側面には、回路基板固定用ネジ穴55が開設されている。これにより、回路基板15を段差54の側面(すなわち、Y−Z面)に沿うようにして段差54の上面に載置した状態で、回路基板15に形成された基板貫通孔56を通じて回路基板固定用ネジ穴55に回路基板固定用ネジ57を固定することで、回路基板15が金属ベース51に固定される。なお、回路基板固定用ネジ57により、回路基板15内の設置電位となる配線と、金属ベース51とが導通される。
金属カバー52は、圧力調整部材14及び回路基板15に対して間隔を空けて覆う状態に形成されたY方向に長尺な金属製のカバー部材である。すなわち、金属カバー52は、図3に示すように、金属ベース51に取り付けられて、金属ベース51との間で収容空間68を形成する。具体的には、この金属カバー52は、圧力調整部材14の上面を覆うX−Y面に沿った上面65、この上面65のX方向における一側の端部から一段下がった段差状に形成された上面段差部67、及び、Y−Z面に沿った互いに向き合う2つの側面66を備えている。金属カバー52の側面66の下端部には、当該側面66を板厚方向に貫通するカバー貫通孔71が開設されている。このカバー貫通孔71を通じて、金属ベース51の短手方向(X方向)における側面(すなわち、金属カバー52の側面66に対向する面)に形成された金属カバー固定用ネジ穴70に金属カバー固定用ネジ72を固定することで、金属カバー52の側面66が金属ベース51に固定される。また、金属カバー52の上面65には、流路部材13の液体流出口42が挿通される第1のカバー開口73及び流路部材13の気体流出口44が挿通される第2のカバー開口74が形成されている。さらに、金属カバー52の上面段差部67には、配線部材11が挿通される第3のカバー開口75が開設されている。配線部材11は、この第3のカバー開口75に挿通されて、回路基板15と接続されている。
本実施形態における液体噴射ユニット4は、金属ベース51の下面(すなわち、媒体支持部6側の面)に、それぞれ相対位置が規定された状態でY方向に並べてねじ止め若しくは接着剤により固定されている。図2に示すように、各液体噴射ユニット4は、複数の単位ヘッド83(ヘッドチップともいう)と、各単位ヘッド83に供給するインクが流れる供給流路(図示せず)が形成された流路構造体84と、各単位ヘッド83を保護する保護板85を備えている。単位ヘッド83は、後述するようにノズル24が開設されたノズルプレート23や、ノズル24と連通する流路が形成された基板や、インクを噴射(吐出)させる駆動源であるアクチュエーターユニット17等の構成部材が積層されて構成されている。単位ヘッド83は、ノズルプレート23の下面(すなわち、ノズル面23a)からの平面視で、ノズル列方向(Xa方向)に長尺な略平行四辺形状を呈している。なお、本実施形態においては、各液体噴射ユニット4に合計6つの単位ヘッド83が、液体噴射ユニット4の並設方向であるY方向に沿って並べて配置され、1つの単位ヘッド83に合計2条のノズル列が設けられている。したがって、各液体噴射ユニット4に12条のノズル列が並設されている。
保護板85は、液体噴射ユニット4に設けられている各単位ヘッド83に共通な金属製の板状板材である。この保護板85には、各単位ヘッド83のノズルプレート23に対応する位置に、当該ノズルプレート23に形成されたノズル24を露出させるノズル露出開口86が開口されている。本実施形態におけるノズル露出開口86は、ノズル列方向(Xa方向)に長尺な平行四辺形状を呈している。各単位ヘッド83は、対応するノズル露出開口86にノズル24を露出させた状態で、保護板85の上面(媒体支持部6側とは反対側の面)に接着剤により接合される。
流路構造体84は、インクカートリッジ8から送られてきたインクを、当該流路構造体84の下面側に接合された各単位ヘッド83に分配・供給する複数の部材が積層されてなる部材である。この流路構造体84の上面には、複数の液体導入口60が開設されており、この液体導入口60から内部の流路にインクを導入する。本実施形態においては、合計4色のインクに対応して液体導入口60が4つ流路構造体84に設けられている。流路構造体84の内部の各色に対応した供給流路の途中には、図示しないフィルターがそれぞれ配設されており、供給流路を流れるインクから気泡や異物を除去する。各供給流路は、流路構造体84の内部において液体噴射ユニット4に設けられた単位ヘッド83の数に応じた数の分岐流路に分岐され、当該複数の単位ヘッド83の液体導入路21と連通する。
本実施形態における単位ヘッド83は、図6に示すように、アクチュエーターユニット17及び流路ユニット18が積層された状態でヘッドケース19に取り付けられている。
本実施形態におけるヘッドケース19は、合成樹脂製の箱体状部材である。図6に示すように、ヘッドケース19の中央部には、ノズル列方向に沿って長尺な空間であるアクチュエーター収容空間20及び貫通空間22が形成されている。アクチュエーター収容空間20は、アクチュエーターユニット17が収容される空間であり、アクチュエーターユニット17の厚さの分だけヘッドケース19の下面から板厚方向(すなわち、下面に直交する方向)の途中まで凹んだ状態に形成されている。貫通空間22は、このアクチュエーター収容空間20の上面側の天井面に連通し、ヘッドケース19を板厚方向に貫通した状態に形成されている。貫通空間22及びアクチュエーター収容空間20には、圧電素子32(後述)に駆動信号を供給するフレキシブル基板35が配置される。なお、図示を省略するが、フレキシブル基板35は、貫通空間22の上面開口から単位ヘッド83の外側まで延在し、流路構造体84に設けられた集合基板に接続されている。そして、集合基板は、図示しないケーブルを介して回路基板15に接続されている。例えば、このケーブルは、金属ベース51と金属カバー52との隙間を通じて回路基板15に接続される。また、図6に示すように、ヘッドケース19の内部にはインクが流れる液体導入路21が形成されている。この液体導入路21の下端は、後述する共通液室26と接続されている。本実施形態では、2列に形成されたノズル列に対応して、液体導入路21が2つ形成されている。
ヘッドケース19の下面には、流路ユニット18が接続されている。この流路ユニット18は、連通基板25、ノズルプレート23、及びコンプライアンス基板37が積層されて成るノズル列方向に沿って長尺な基板である。連通基板25は、例えばシリコン単結晶基板から作製される基板である。この連通基板25には、図6に示すように、液体導入路21と連通し、各圧力室30に共通なインクが貯留される共通液室26と、この共通液室26からのインクを各圧力室30に個別に供給する個別連通路27と、圧力室30とノズル24とを連通するノズル連通路28とが、異方性エッチングにより形成されている。共通液室26は、ノズル列方向に沿った長尺な空部であり、液体導入路21対応して2列に形成されている。個別連通路27及びノズル連通路28は、圧力室30の並設方向(換言すると、ノズル列方向)に沿って複数形成されている。
ノズルプレート23は、連通基板25の下面(すなわち、圧力室形成基板29とは反対側の面)に接合されたシリコン製の基板(例えば、シリコン単結晶基板)である。本実施形態のノズルプレート23は、コンプライアンス基板37と重ならないように、コンプライアンス基板37から外れた領域に接合されている。換言すると、ノズルプレート23は、連通基板25の共通液室26の下面側の開口から外れた中央の領域に接合されている。このノズルプレート23には、複数のノズル24がノズルプレート23の長手方向に沿って直線状(換言すると、列状)に開設されている。すなわち、複数のノズル24からなるノズル列が形成されている。この並設された複数のノズル24(すなわち、ノズル列)は、一端側のノズル24から他端側のノズル24までドット形成密度に対応したピッチで等間隔に設けられている。なお、ノズルプレート23の下面(連通基板25とは反対側の面)が、ノズル24が開口されたノズル面23aとなる。このノズル面23aには、インクに対して撥液性を有する撥液膜113が形成されている(図9等参照)。また、本発明におけるノズル面は、このノズル面23aだけでなく、保護板85の下面をも含む概念である。なお、液体噴射ユニットに保護板85を設けない構成を採用することもでき、このような構成では、ノズルプレートの下面がノズル面となる。
本実施形態におけるノズル24は、図9等に示すように、下側(すなわち、圧力室30とは反対側)に形成された第1ノズル部115と、上側(圧力室30側)に形成された第2ノズル部116と、の2段構造になっている。第1ノズル部115の内面は、内径が一定な円筒形状を呈している。一方、第2ノズル部116の内面は、当該第2ノズル部116の内径が第1ノズル部115側から当該第1ノズル部115とは反対側に向けて拡大するように傾斜したテーパー形状を呈している。なお、第2ノズル部116の内面が、第1ノズル部115よりも大きい一定の内径の円筒形状を呈していてもよい。ここで、ノズル面23aに形成された撥液膜113は、第1ノズル部115の内面の下端部まで延在されている。すなわち、第1ノズル部115の内面のうち下側の端部は、撥液膜113が形成された撥液領域N1となっている(図9参照)。一方、第1ノズル部115の内面のうち残りの部分及び第2ノズル部116は、撥液膜113が形成されず、インクに対して親液性を有する親液領域N2となっている(図9参照)。要するに、本実施形態におけるノズル24の内面は、圧力室30とは反対側の端から順に、インクに対して撥液性を有する撥液領域N1と、インクに対して親液性を有する親液領域N2とを有している。
コンプライアンス基板37は、連通基板25の下面であって、共通液室26に対応する領域に接合された可撓性を有する基板である。すなわち、コンプライアンス基板37は、連通基板25のノズルプレート23に覆われていない領域に接合されている。本実施形態におけるコンプライアンス基板37は、金属等の硬質な材料からなる固定基板38に、剛性が低く可撓性を有する封止膜39が積層された板材である。固定基板38の共通液室26に対向する領域は、厚さ方向に除去された開口部となっている。このため、共通液室26の下面は、封止膜39のみで封止され、共通液室26内のインクの圧力変動を吸収するコンプライアンス部として機能する。
本実施形態におけるアクチュエーターユニット17は、図6に示すように、圧力室形成基板29、振動板31、及び、封止板33等の基板が積層されて成る複合基板である。このアクチュエーターユニット17は、ヘッドケース19のアクチュエーター収容空間20内に収容可能な大きさに形成され、このアクチュエーター収容空間20内に収容されている。
圧力室形成基板29は、例えばシリコン単結晶基板から作製される基板である。この圧力室形成基板29には、異方性エッチング等により一部が板厚方向に完全に除去されて、圧力室30となるべき空間がノズル列方向に沿って複数並設されている。この空間は、下方が連通基板25により区画され、上方が振動板31により区画されて、圧力室30を構成する。また、この空間、すなわち圧力室30は、ノズル列方向に直交する方向に長尺に形成され、長手方向の一側の端部に個別連通路27が連通すると共に、他側の端部にノズル連通路28が連通する。また、本実施形態における圧力室30は、ノズル列方向に沿って複数形成されている。
振動板31は、例えば、圧力室形成基板29の上面(すなわち、連通基板25側とは反対側の面)に形成された二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜と、この弾性膜上に形成された二酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜と、から成る薄膜状の部材である。この振動板31によって、圧力室30となるべき空間の上部開口が封止されている。換言すると、振動板31によって、圧力室30の上面が区画されている。この振動板31における圧力室30(詳しくは、圧力室30の上部開口)に対応する部分は、圧電素子32の撓み変形に伴ってノズル24から遠ざかる方向あるいは近接する方向に変位する変位部として機能する。すなわち、振動板31における圧力室30の上部開口に対応する領域が、撓み変形が許容される駆動領域となる。そして、この駆動領域(変位部)の変形(変位)により、圧力室30の容積は変化する。一方、振動板31における圧力室30の上部開口から外れた領域が、撓み変形が阻害される非駆動領域となる。
振動板31(詳しくは振動板31の絶縁体膜)の上面(すなわち、振動板31の圧力室形成基板29側とは反対側の面)における各圧力室30に対応する領域(すなわち、駆動領域)には、圧電素子32がそれぞれ積層されている。本実施形態における圧電素子32は、所謂撓みモードの圧電素子である。この圧電素子32は、各ノズル24に対応してノズル列方向に沿って複数並設されている。各圧電素子32は、例えば、振動板31上から順に、個別電極となる下電極層、圧電体層及び共通電極となる上電極層が順次積層されてなる。なお、駆動回路や配線の都合によって、下電極層を共通電極、上電極層を個別電極にすることもできる。このように構成された圧電素子32は、下電極層と上電極層との間に両電極の電位差に応じた電界が付与されると、ノズル24から遠ざかる方向あるいは近接する方向に撓み変形する。
封止板33は、図5に示すように、圧電素子32を収容可能な圧電素子収容空間34が形成された基板である。この封止板33は、圧電素子収容空間34内に圧電素子32を収容した状態で、振動板31上に接合されている。本実施形態では、2列に形成された圧電素子32の列に対応して、圧電素子収容空間34が2列形成されている。この2つの圧電素子収容空間34の間には、封止板33が板厚方向に除去された接続空間36が形成されている。接続空間36は貫通空間22と連通し、その内部には貫通空間22に挿通されたフレキシブル基板35の端部が配置される。そして、この接続空間36において、フレキシブル基板35と圧電素子32から延在したリード配線(図示せず)と、が接続されている。
そして、上記のように形成された記録ヘッド3は、インクカートリッジ8からのインクの供給により、流路部材13、圧力調整部材14及び流路構造体84のそれぞれに形成された液体流路を介して個々の単位ヘッド83内の圧力室30にインクが供給される。そして、単位ヘッド83は、圧力室30内にインクが満たされた状態で、制御部からの駆動信号が圧電素子32に供給されることにより、圧力室30の容積を変化させる。この容積の変化に伴う圧力室30内のインクの圧力変動を利用することで、ノズル連通路28を介して圧力室30と連通するノズル24からインク滴を噴射する。なお、上方液体流路90、下方液体流路93、流路構造体84内の流路、液体導入路21、共通液室26、及び、個別連通路27等からなる一連の液体流路が、本発明における液体流路に相当する。
次に、本実施形態におけるワイピング動作について説明する。図7〜図9は、通常の状態(液体を噴射可能な状態)からノズル面23aを払拭して、再び通常の状態に戻るまでの一連のワイピング動作を説明する模式図である。ワイピング動作を実行する前の通常の状態では、第1のポンプ79及び第2のポンプ80が駆動されず、第1のバルブ87及び第2のバルブ88が開放されている。このため、チョーク室97の第1の気体空間105及びタンク室98の第2の気体空間109が大気圧となり、第1の液体空間106及びタンク室98の第2の液体空間110が広がった状態になっている。すなわち、第1の可撓部材104が開状態となって自己封止ユニット96からタンク室98へのインクの流入が許容されると共に、第2の液体空間110の容積が第1の容積よりも大きい第2の容積になっている。この状態では、図9に示すように、圧力室30内の圧力が負圧(具体的には、大気圧よりも低い第1の圧力)に維持されるため、ノズル24内のメニスカスMが第1ノズル部115の撥液膜113から外れた親液領域N2に位置している。そして、この状態でノズル面23aを払拭すると、気泡がノズル24内に引き込まれてしまう虞があった。そこで、本実施形態におけるワイピング動作では、圧力室30内を加圧し、負圧を解除した状態で、ノズル面23aを払拭する。なお、ワイピング動作は、例えば、記録媒体2に対する印刷動作が終了した際や所定時間が経過した後等に行われる。
具体的には、まず、第1のバルブ87を閉状態にし、第1のポンプ79を駆動して、第1のバルブ87より上流側(第1の可撓部材104側)の第1の気体供給チューブ、第1の上方気体流路91、第1の下方気体流路94、及び、第1の気体空間105等からなる一連の気体流路内を加圧する。これにより、第1の可撓部材104が第1の付勢部材107の付勢力に抗して突出部103側に変形して閉状態となり、自己封止ユニット96からタンク室98へのインクの流入が阻害される。次に、第2のバルブ88を閉状態にし、第2のポンプ80を駆動して、第2のバルブ88より上流側(第2の可撓部材108側)の第2の気体供給チューブ78、第2の上方気体流路92、第2の下方気体流路95、及び、第2の気体空間109等からなる一連の気体流路内を加圧する。これにより、第2の可撓部材108が第2の付勢部材111の付勢力に抗してタンク室98の底面側に変形して、第2の液体空間110の容積が第2の容積から第2の容積よりも小さい第1の容積に変化する(図5における破線参照)。これにより、第2の液体空間110よりも下流側の液体流路内が、第1の圧力から大気圧よりも高い第2の圧力まで第1の速度で加圧され、圧力室30内の負圧が解除される。その結果、図7に示すように、ノズル24(より詳しくは第1ノズル部115)からインクIが溢れた状態(すなわち、ノズル面23aよりも下方(記録媒体2側)にインクIがはみ出た状態)になる。そして、この状態でワイパー9によりノズル面23aを払拭させる。
具体的には、圧力室30内の負圧が解除したならば、図示しない駆動機構によりワイパー9をノズル面23aの下方まで移動させると共に、当該ノズル面23a側に向けて移動させて、ノズル面23aに当接させる。そして、駆動機構により、ワイパー9を、例えば、ノズル列方向に沿った方向に移動(或いは摺動)させて、ノズル面23aを払拭させる。この際、圧力室30内の負圧が解除されているため、気泡がノズル24内に引き込まれる不具合を抑制できる。ワイパー9によりノズル面23aが払拭されたならば、駆動機構によりワイパー9をノズル面23aから離間させる。次に、図示しない駆動機構によりキャップ10をノズル面23aの下方まで移動させると共に、当該ノズル面23a側に向けて移動させて、ノズル面23aに当接させる。これにより、図8に示すように、各ノズル24がキャップ10に覆われた状態、換言すると、各ノズル24がキャップ10の封止空間内に封止された状態になる。そして、この状態で圧力室30内の圧力を負圧に復帰させる。
具体的には、第1のポンプ79の駆動を停止して、第1のバルブ87を開状態にし、第1の気体供給チューブ77、第1の上方気体流路91、第1の下方気体流路94、及び、第1の気体空間105等からなる一連の気体流路内を大気開放する。これにより、第1の気体空間105内が減圧され、第1の可撓部材104が突出部103とは反対側に変形して開状態となり、自己封止ユニット96からタンク室98へのインクの流入が許容される。この状態で、第2のポンプ80の駆動を停止して、第2のバルブ88を開状態にし、第2の気体供給チューブ78、第2の上方気体流路92、第2の下方気体流路95、及び、第2の気体空間109等からなる一連の気体流路内を、抵抗付与部89を介して大気開放する。これにより、第2の気体空間109内が緩やかに減圧され、第2の可撓部材108が第2のタンク室98の天井面側に変形して、第2の液体空間110の容積が第1の容積から第1の容積よりも大きい第2の容積に変化する。この変化に伴って、ノズル24のメニスカスMがノズル24の奥側(すなわち、圧力室30側)に向けて移動する(図8における矢印参照)。そして、第2の液体空間110の容積が第2の容積に復帰すると、圧力室30内の圧力が負圧に復帰すると共に、ノズル24のメニスカスMが通常の状態(インクを噴射可能な状態)に復帰する(図9参照)。ここで、抵抗付与部89を介さずに第2の気体空間109を大気開放させると、第2の液体空間110の容積が第1の容積から第2の容積まで急激に変化し、圧力室30内も急激に減圧される。その結果、メニスカスがノズル24の奥(第2ノズル部116、或いはそれよりも奥側)に引き込まれて、正常な噴射ができない状態、或いは、正常な噴射ができる位置までメニスカスが復帰できない状態、すなわちメニスカスが破壊された状態になる虞がある。これに対して、本実施形態では、抵抗付与部89を介して第2の気体空間109を大気開放(すなわち、減圧)させることで、第2の液体空間110の第1の容積から第2の容積までの変化を緩やかにし、メニスカスが破壊されないようにしている。
すなわち、抵抗付与部89における抵抗を調整することで、第1の容積から第2の容積に変化する第2の液体空間110の容積の変化速度がノズル24のメニスカスが破壊される速度を超えないように第2の可撓部材108の変形速度を調整している。具体的には、第1の容積から第2の容積に変化する第2の液体空間110の容積の変化速度が、ノズル面23aを払拭する前において変化させた第2の液体空間110の容積の変化速度よりも遅くなるようにする。換言すると、ノズル面23aの払拭前において第2の容積から第1の容積に変化する第2の液体空間110の容積の変化速度が、ノズル面23aの払拭後において第1の容積から第2の容積に変化する第2の液体空間110の容積の変化速度よりも速くなるように、第2の可撓部材108を変形させる。これにより、上方液体流路90、下方液体流路93、流路構造体84内の流路、液体導入路21、共通液室26、及び、個別連通路27等からなる一連の液体流路内が、第2の圧力から第1の圧力まで第1の速度よりも遅い第2の速度で減圧される。その結果、図9に示すように、ノズル24のメニスカスMが、通常の状態に復帰される。
ところで、第2の液体空間110の第1の容積から第2の容積への変化速度が遅すぎても、以下のような弊害がある。すなわち、第2の液体空間110の容積の変化が遅すぎると、第2の液体空間110の容積の変化に伴うメニスカスの移動量が少なくなり、メニスカスが第1のノズル部の親液領域N2まで戻らずに、撥液膜113が形成された撥液領域N1に留まる虞がある。その結果、メニスカスの形状が正常な噴射ができない異常形状となる虞がある。このため、ノズル24のメニスカスが第1ノズル部115の撥液領域N1側から親液領域N2に移動するような速度で、第2の液体空間110の容積を第1の容積から第2の容積に変化させることが望ましい。要するに、抵抗付与部89における抵抗を調整することで、図9に示すように、メニスカスM(より詳しくは、ノズル24内の内壁面と接するメニスカスMの端部)が第1ノズル部115の親液領域N2に復帰するように、第2の液体空間110の容積の変化速度を調整する。例えば、5秒〜10秒の時間をかけて第2の液体空間110の容積が第1の容積から第2の容積に変化するように、抵抗付与部89における抵抗を調整する。これにより、記録ヘッド3内の一連の液体流路内の圧力を負圧に復帰させる際に、メニスカスがノズル24内の適正な位置に復帰される。すなわち、メニスカスが破壊されることを抑制できる。
このようにして、記録ヘッド3内の一連の液体流路及び圧力室30内を負圧に復帰させたならば、駆動機構によりキャップ10をノズル面23aから離間させて、ワイピング動作を終了する。なお、本実施形態における通常の状態は、第1のバルブ87及び第2のバルブ88を開状態にして、第1の気体空間105及び第2の気体空間109を大気に開放した状態としたが、これには限られない。第1のバルブ87及び第2のバルブ88を閉状態にして、第1の気体空間105及び第2の気体空間109を大気と隔離した状態を通常の状態としても良い。このようにすれば、周囲の環境が変化したとしても、これに伴って第1の可撓部材104及び第2の可撓部材108が変形することを抑制できる。また、本実施形態のワイピング動作では、キャップ10によりノズル面23aを封止した状態で、圧力室30内の圧力を負圧に復帰させたが、これには限られない。ノズル面23aをキャップ10で封止せずにノズル24を大気に曝した状態で、圧力室30内の圧力を負圧に復帰させてもよい。
そして、上記のようにワイピング動作を行うことで、ワイパー9でノズル面23aを払拭する際において、気泡がノズル24内に引き込まれる不具合を抑制できる。特に、本実施形態では、第2のバルブ88を閉状態にした状態で、第2のポンプ80を駆動させたので、抵抗付与部89を経由せずに第2の気体空間109を含む一連の気体流路内を加圧することができる。これにより、この気体流路内を効率よく加圧することができる。また、第2の気体空間109内を加圧する際に、第1の可撓部材104を閉状態にしているため、この容積の変化に伴う圧力変動がタンク室98よりも上流の液体流路に伝播することを抑制できる。これにより、圧力室30内を効率よく加圧することができる。さらに、本実施形態では、ノズル面23aの払拭前における第2の液体空間110の容積の変化速度が、ノズル面23aの払拭後における第2の液体空間110の容積の変化速度よりも速くなるようにしたので、圧力室30内を加圧する加圧動作を早めることができる。その結果、ワイピング動作の動作時間を短縮することができる。この場合に、ノズル面23aの払拭前における第2の液体空間110の容積の変化速度が、ズル24内のメニスカスが破壊される速度を超える速度としても、その後にワイパー9でノズル面23aを払拭することにより、メニスカスをノズル内の適正な位置に形成することができる。
一方、ノズル面23aを払拭した後においては、第2の圧力から第1の圧力まで記録ヘッド3内の液体流路内を減圧する際に、この減圧速度を遅くしたので、メニスカスの移動速度を遅くすることができ、ノズル24内のメニスカスが破壊されることを抑制できる。特に、本実施形態では、抵抗付与部89を介して第2の気体空間109を減圧することで、第2の気体空間109を含む一連の気体流路内の減圧速度を遅くしたので、例えば、気圧センサー等を用いて第2の気体空間109を含む一連の気体流路内の圧力を管理する場合と比較して、構成が簡単になる。また、本実施形態では、ノズル24がキャップ10に覆われた状態で、記録ヘッド3内の液体流路内を減圧したので、ノズル24内のインクが増粘することを抑制できる。さらに、メニスカスが第1ノズル部115の撥液領域N1側から親液領域N2に移動するように、第2の気体空間109の容積を変化させたので、メニスカスをノズル24内の適正な位置に復帰させることができる。その結果、インクが正常に噴射されない噴射不良を抑制でき、ひいてはプリンター1の信頼性を高めることができる。また、第2の液体空間110の容積を第1の容積から第2の容積に変化させる際に、第1の可撓部材104を開状態にしているため、これよりも上流の液体流路からの液体の供給により、メニスカスがノズル24の奥に引き込まれ過ぎることを抑制できる。その結果、ノズル24内のメニスカスが破壊されることを一層抑制できる。さらに、第1の可撓部材104の開閉動作により生じる液体流路内の圧力変動を、タンク室98の第2の可撓部材108で吸収することができる。これにより、この圧力変動がノズル24内のメニスカスに伝播することによる当該メニスカスの破壊や変形を抑制することができる。その結果、第1の可撓部材104の開閉動作を早めることができる。
ところで、上記した実施形態では、液体流路開閉弁として、チョーク室97に第1の可撓部材104及び第1の付勢部材107を設けた構成を採用したが、これには限られない。要するに、タンク室と自己封止ユニットとの間の液体流路を開閉できれば、どのような構成であっても良い。また、上記した実施形態では、第2の可撓部材108を変形させる変形手段として、第2の気体供給チューブ78、第2の上方気体流路92、第2の下方気体流路95、及び、第2の気体空間109等からなる一連の気体流路、及び、この気体流路内を加圧する第2のポンプが例示されたが、これには限られない。例えば、第2の気体空間内に第2の可撓部材を変形させる偏芯カムを設け、この偏芯カムの駆動により第2の可撓部材を変形させて、第2の液体空間の容積を変化させても良い。この場合、第2の液体空間の第1の容積から第2の容積への変化速度が、第2の液体空間の第2の容積から第1の容積への変化速度よりも遅くなるように、変形手段としての偏芯カムの駆動を制御する。さらに、上記した実施形態では、記録ヘッド3として、液体噴射ユニット4を複数備えたラインヘッドを例示したが、これには限られない。記録媒体の搬送方向と直交する方向に走査(往復移動)しつつインクの噴射を行う所謂シリアルヘッド、及び、これを備えた液体噴射装置にも本発明を適用できる。
そして、以上においては、液体噴射ヘッドとしてインクジェット式記録ヘッド3を例に挙げて説明したが、本発明は、その他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドでは液体の一種としてR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液体の一種として液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは液体の一種として生体有機物の溶液を噴射する。