JP6702357B2 - 低降伏比型高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

低降伏比型高強度鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、低降伏比型高強度鋼板およびその製造方法に関する。
より詳細には、自動車、電機、パイプ、コンテナなどの産業分野において使用される部材または部品、とりわけ、自動車の部材に好適な低降伏比型高強度鋼板およびその製造方法に関する。
近年、地球環境の保全の見地から、自動車のCO排出量削減を目的とした燃費の改善が強く望まれている。そのため、車体材料の高強度化により薄肉化を図り、車体そのものを軽量化する動きが活発となってきている。例えば、プレス成形で製造される部品に用いられる冷延鋼板には、引張強さ(TS)が590MPa以上の高強度鋼板が多く使用されるようになってきている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
TSが590MPa以上の鋼板は、自動車の製造工程において、プレス加工後に、スポット溶接、アーク溶接などにより組み付けられてモジュール化される場合がある。この場合、組付け時に高い寸法精度が求められる。このような鋼板では、加工後にスプリングバックを起こりにくくする必要があるため、加工前に降伏比(YR)が低いことが重要となる。
特開2003−342680号公報 特開2011−219855号公報 特開2016−141857号公報
一般的に鋼板の高強度化は、成形性(延性、深絞り性、穴広げ性)の低下を招く。そのため、鋼板の高強度化に伴い、成形時の割れなどが問題となる場合がある。
特に、TSが590MPa以上の高強度鋼板において、延性と深絞り性と穴広げ性とを重畳的に向上させることは難しい。そこで、高い強度と優れた成形性(延性、深絞り性、穴広げ性)とを両立した鋼板の開発が望まれている。
また、自動車等に用いられる冷延鋼板は、塗装して使用されるが、塗装後の耐食性を確保するための前処理として化成処理が施される。化成処理によって化成被膜が形成されが、このとき、化成被膜が生成されないミクロな領域(スケ)が生じる場合(すなわち、化成処理性が不十分である場合)があり、良好な化成処理性が求められる。
なお、TSが590MPa以上の高強度鋼板を得る際の焼鈍としては、製造のリードタイムの観点から、CAL(Continuous Annealing Line)による連続焼鈍が主流である。
しかし、CALによる連続焼鈍は、大規模設備のため生産拠点が限定されるほか、鋼板の高強度化に伴い通板可能な板厚および板幅などが制限されたり、鋼板の高強度化に伴う合金元素の多量添加によってコイル継ぎ溶接が難しかったりする場合があった。
このため、TSが590MPa以上の高強度鋼板を、BAF(Batch Annealing Furnace)によるバッチ焼鈍により得ることが要求される場合がある。
本発明者らが、特許文献1に記載された成分組成(C:0.05質量%以下)を有する鋼スラブを用いて、BAFによるバッチ焼鈍を経て鋼板を製造したところ、所望のマルテンサイト量が確保できず、590MPa以上のTSが得られない場合があった。
また、本発明者らが、特許文献2に記載された成分組成(Si:0.5質量%超)および特許文献3に記載された成分組成(Si:0.50質量%以上)を有する鋼スラブを用いて、BAFによるバッチ焼鈍を経て鋼板を製造したところ、化成処理性が不十分である場合があった。
本発明は、以上の点を鑑みてなされた発明であり、0.70以下の低い降伏比(YR)を有し、かつ、引張強さ(TS)が590MPa以上の低降伏比型高強度鋼板であって、成形性(延性、深絞り性、穴広げ性)および化成処理性に優れる低降伏比型高強度鋼板を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、バッチ焼鈍により上記低降伏比型高強度鋼板を得る、低降伏比型高強度鋼板の製造方法を提供することも目的とする。
本発明者らが鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供する。
[1]質量%で、C:0.050%超0.200%以下、Si:0.01%以上0.50%未満、Mn:1.80%超2.60%未満、P:0.100%以下、S:0.0200%以下、Al:2.000%以下、および、N:0.0100%以下を含有し、さらに、Ti:0.005%以上0.100%以下、および、Nb:0.005%以上0.100%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、面積率で、フェライトが40.0%以上90.0%以下、マルテンサイトが5.0%以上30.0%以下、パーライトが2.0%以上30.0%以下である鋼組織と、を有し、鋼中のMn量を上記フェライト中のMn量で除した値が1.10以上であり、上記マルテンサイト中のMn量を鋼中のMn量で除した値が1.80以上であり、Mn量の単位は質量%である、低降伏比型高強度鋼板。
[2]上記成分組成が、さらに、質量%で、下記A群〜E群から選ばれる少なくとも1種を含有する、上記[1]に記載の低降伏比型高強度鋼板。
[A群]Ni:0.01%以上1.00%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.01%以上1.00%以下、および、Mo:0.005%以上0.500%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種
[B群]V:0.005%以上0.100%以下、および、W:0.005%以上0.100%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種
[C群]Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、および、REM:0.0005%以上0.0050%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種
[D群]Sb:0.002%以上0.200%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、および、Ta:0.001%以上0.010%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種
[E群]B:0.0001%以上0.0050%以下
[3]さらに、下記式を満たす、上記[1]または[2]に記載の低降伏比型高強度鋼板。
P(222)/{P(200)+P(220)}≧2.0
上記式中、P(222)、P(200)およびP(220)は、それぞれ、鋼板1/4板厚位置における板面に平行な(222)面、(200)面および(220)面の回折X線積分強度比を表す。
[4]上記鋼組織における残留オーステナイトの体積率が、5.0%以下である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の低降伏比型高強度鋼板。
[5]上記[1]または[2]に記載の成分組成を有する鋼スラブに、800℃以上1000℃以下の仕上げ圧延出側温度で熱間圧延を施すことにより、熱延鋼板を得て、上記熱延鋼板を、上記仕上げ圧延出側温度から650℃までの温度域を20℃/秒以上120℃/秒以下の平均冷却速度で冷却し、650℃から下記巻き取り温度までの温度域を5℃/秒以上40℃/秒以下の平均冷却速度で冷却し、上記冷却後の上記熱延鋼板を、400℃以上600℃以下の巻き取り温度で巻き取り、上記巻き取りされた上記熱延鋼板に、酸洗を施し、上記酸洗が施された上記熱延鋼板に、30%以上85%以下の圧下率で冷間圧延を施すことにより、冷延鋼板を得て、上記冷延鋼板に、下記温度履歴1および2を満たすバッチ焼鈍を施し、上記バッチ焼鈍が施された上記冷延鋼板に、1.1%以下の伸び率で調質圧延を施すことにより、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の低降伏比型高強度鋼板を得る、低降伏比型高強度鋼板の製造方法。
温度履歴1:上記冷延鋼板のコイルの外周面から内周面に向かって半径方向に沿って5mm入った位置を、昇温後、620℃以上760℃以下で2.0時間以上72.0時間以下保持し、400℃以上550℃以下の温度域を30℃/時間以上200℃/時間以下の平均冷却速度で冷却する。
温度履歴2:上記冷延鋼板のコイルの内周面から外周面に向かって半径方向に沿ってコイル厚の1/3入った位置を、昇温後、600℃以上740℃以下で2.0時間以上72.0時間以下保持し、400℃以上550℃以下の温度域を5℃/時間以上100℃/時間以下の平均冷却速度で冷却する。
本発明によれば、0.70以下の低い降伏比(YR)を有し、かつ、引張強さ(TS)が590MPa以上の低降伏比型高強度鋼板であって、成形性(延性、深絞り性、穴広げ性)および化成処理性に優れる低降伏比型高強度鋼板を提供できる。
さらに、本発明によれば、バッチ焼鈍により上記低降伏比型高強度鋼板を得る、低降伏比型高強度鋼板の製造方法を提供できる。
一部を切り欠いたコイルを示す斜視図である。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
以下では、低降伏比型高強度鋼板を、単に「高強度鋼板」または「鋼板」ともいう。
[本発明者らが得た知見]
本発明者らは、0.70以下の低い降伏比(YR)を有し、かつ、引張強さ(TS)が590MPa以上であり、さらに、成形性(延性、深絞り性、穴広げ性)に優れ、加えて、良好な化成処理性を有する、BAFによるバッチ焼鈍で製造可能な低降伏比型高強度鋼板を開発すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、以下の知見を得た。
(1)BAFによるバッチ焼鈍での製造で、590MPa以上のTSを得るには、以下の点が重要である。
すなわち、Mnを1.80質量%超の範囲で含有させ、BAFによるバッチ焼鈍をフェライトとオーステナイトとの二相域で行なう。この二相域での長時間保持により、侵入型元素のCだけでなく、置換型元素のMnも、フェライトからオーステナイト中に濃化させる。これにより、BAFによるバッチ焼鈍後の極めて遅い冷却速度であっても、所望のマルテンサイト量を確保できる。
(2)BAFによるバッチ焼鈍での製造で、優れた成形性(延性、深絞り性、穴広げ性)を得るには、以下の点が重要である。
優れた延性を得るために、フェライトおよびマルテンサイトのDP(Dual Phase)組織から発現する高い加工硬化能を得る。そのために、フェライトおよびマルテンサイトの量を適正に調整する。さらに、フェライト中のMn量を低減し、フェライトを清浄化させ、延性に富むフェライトを得る。
優れた深絞り性を得るために、適正なフェライト量を確保し、そのフェライトの{111}再結晶集合組織を発達させる。さらに、フェライト中のMn量を低減し、フェライトを清浄化させる。いずれもBAFによるバッチ焼鈍での長時間熱処理により実現する。同様の組織制御および製造方法により、鋼板の圧延方向に対して直角方向(C方向)のヤング率も向上する。
優れた穴広げ性を得るために、穴広げ時のボイド起点および亀裂伝播経路となる軟質相であるフェライトと硬質相であるマルテンサイトとの境界量を調整する。そのために、マルテンサイト量を適正に制御する。さらに、軟質相であるフェライトと硬質相であるマルテンサイトとの中間硬度相であるパーライトを積極活用することにより、強度を確保しつつ、フェライトとマルテンサイトとの境界量を低減させる。いずれもBAFによるバッチ焼鈍において、均熱時間および均熱温度、ならびに、その後の冷却時の平均冷却速度によって調整できる。
(3)BAFによるバッチ焼鈍での製造で、良好な化成処理性を有するためには、以下の点が重要である。
Si量を0.50%未満にする。さらに、バッチ焼鈍での均熱温度が高すぎると、焼鈍中の鋼板表面へのMn濃化が促進し、化成処理性が低下する。このため、バッチ焼鈍の均熱温度に適正な上限温度を設ける。
(4)0.70以下の低いYRを得るためには、以下の点が重要である。
BAFによるバッチ焼鈍後、伸び率が1.1%以下の調質(スキンパス)圧延を施す。BAFによるバッチ焼鈍で製造された鋼板は、フェライトとマルテンサイトとの境界を多く含むため、低いYRが得られる。その後、伸び率が1.1%以下の調質圧延での微量のひずみ導入により、YRを低く制御できる。これは、BAFによるバッチ焼鈍後の室温でのオフラインの調質圧延で調整可能である。
(5)さらに、上記のような組織を造り込むためには、成分組成を所定の範囲に調整するとともに、製造条件、特に、BAFによるバッチ焼鈍の条件を適正に制御することが重要である。
本発明は、上記知見に基づき、さらに検討を加えた末に完成されたものである。
以下では、まず、本発明の低降伏比型高強度鋼板について説明した後、本発明の低降伏比型高強度鋼板の製造方法を説明する。
[低降伏比型高強度鋼板]
本発明の低降伏比型高強度鋼板(以下、単に「本発明の高強度鋼板」または「本発明の鋼板」ともいう)は、質量%で、C:0.050%超0.200%以下、Si:0.01%以上0.50%未満、Mn:1.80%超2.60%未満、P:0.100%以下、S:0.0200%以下、Al:2.000%以下、および、N:0.0100%以下を含有し、さらに、Ti:0.005%以上0.100%以下、および、Nb:0.005%以上0.100%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、面積率で、フェライトが40.0%以上90.0%以下、マルテンサイトが5.0%以上30.0%以下、パーライトが2.0%以上30.0%以下である鋼組織と、を有する。さらに、本発明の低降伏比型高強度鋼板は、鋼中のMn量を上記フェライト中のMn量で除した値が1.10以上であり、上記マルテンサイト中のMn量を鋼中のMn量で除した値が1.80以上である。Mn量の単位は、質量%である。
本発明の低降伏比型高強度鋼板は、降伏比(YR)が0.70以下であり、かつ、引張強さ(TS)が590MPa以上であり、さらに、成形性(延性、深絞り性、穴広げ性)および化成処理性に優れる。
本発明において、「低降伏比型」とは、降伏比(YR)が0.70以下であることを意味する。YRは、降伏応力(YS)を引張強さ(TS)で除した値である。YRは、0.50以上0.68以下が好ましい。
本発明において、「高強度」とは、引張強さ(TS)が590MPa以上であることを意味する。
本発明の高強度鋼板は、例えば、自動車の部材などに適用できる。
本発明の高強度鋼板の板厚は、特に限定されないが、例えば、0.5mm以上4.0mm以下である。
〈成分組成〉
以下では、まず、本発明の高強度鋼板の成分組成を説明する。成分組成における「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
《C:0.050%超0.200%以下》
Cは、マルテンサイトを生成させて、強度を上昇させるために必要な元素である。
C量が0.050%以下ではフェライト量が増大し、所望のマルテンサイト量の確保が難しく、所望の強度が得られない。
一方、C量が0.200%を超えると、硬質なマルテンサイト量が過大となり、穴広げ性等が低下する。溶接部および熱影響部の硬化が著しくなって、溶接部の機械的特性が低下し、スポット溶接性、アーク溶接性などが劣化する場合もある。
このため、C量は、0.050%超0.200%以下であり、0.065%以上0.150%以下が好ましい。
《Si:0.01%以上0.50%未満》
Siは、フェライトの加工硬化能を向上させるため、良好な延性の確保に有効な元素である。Si量が0.01%に満たないと、その添加効果が乏しくなる。
一方、0.50%以上のSiの過剰な添加は、冷延鋼板の化成処理性が低下したり、テンパーカラーが発生したりする。化成処理性が低下する理由は、Siは非常に酸化しやすく、鋼板表面でSi酸化物(SiO)の被膜を形成するため、このSi酸化物が化成処理中の化成被膜の生成反応を阻害し、化成被膜が生成されないミクロな領域(スケ)が生じるためと推測される。テンパーカラーとは、焼鈍中に鋼板表面に濃化する鋼中成分(特に、Si)の酸化によって生じた表面酸化被膜に起因した表面欠陥である。さらに、赤スケールなどの発生による表面性状の劣化を引き起こす。
このため、Si量は、0.01%以上0.50%未満であり、0.10%以上0.40%以下が好ましい。
《Mn:1.80%超2.60%未満》
Mnは、本発明において極めて重要な元素である。Mnは、オーステナイトを安定化させる元素である。フェライトとオーステナイトとの二相域でBAFによるバッチ焼鈍などの長時間保持を行なった場合、オーステナイト中にMnが濃化し、冷却速度が極めて遅い場合でも、フェライト変態やベイナイト変態が殆ど生じず、所望のマルテンサイト量を確保できる。このような効果は、鋼中のMn量が1.80%超の場合に認められる。これにより、バッチ焼鈍で引張強さ(TS)が590MPa以上の安定製造が可能となる。
一方、Mn量が2.60%以上の過剰な添加は、面積率で30.0%を超えるマルテンサイトが生成し、所望の延性などが得られない。
このため、Mn量は、1.80%超2.60%未満であり、2.00%以上2.60%未満が好ましい。
《P:0.100%以下》
Pは、固溶強化の作用を有し、所望の強度に応じて添加できる元素である。Pは、フェライト変態を促進し、鋼板の複合組織化にも有効な元素である。こうした効果を得るため、P量は、例えば、0.001%以上である。
もっとも、P量が0.100%を超えると、スポット溶接性の著しい劣化を招く。このため、P量は、0.100%以下であり、0.040%以下が好ましい。
《S:0.0200%以下》
Sは、粒界に偏析して熱間加工時に鋼を脆化させるとともに、硫化物として存在して鋼板の局部変形能を低下させる。S量が0.0200%を超えると、スポット溶接性の著しい劣化を招く。このため、S量は、0.0200%以下であり、0.0100%以下が好ましく、0.0050%以下がより好ましい。
S量の下限は特に限定されないが、生産技術上の制約から、S量は、例えば、0.0001%以上である。
《Al:2.000%以下》
Alは、フェライトとオーステナイトとの二相域を拡大させ、焼鈍での温度依存性の低減、つまり、材質安定性に有効な元素である。Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素でもある。このため、Al量は、例えば、0.005%以上であり、0.010%以上が好ましい。
もっとも、Alの多量の添加は、連続鋳造時の鋼片割れ発生の危険性が高まり、製造性を低下させる。このため、Al量は、2.000%以下であり、1.500%以下が好ましい。
《N:0.0100%以下》
Nは、鋼の耐時効性を劣化させる元素である。特に、N量が0.0100%を超えると、耐時効性の劣化が顕著となる。このため、N量は、0.0100%以下であり、0.0070%以下が好ましい。
N量は、少ないほど好ましいが、生産技術上の制約から、例えば、0.0005%以上であり、0.0010%以上が好ましい。
本発明の高強度鋼板の成分組成は、さらに、Ti:0.005%以上0.100%以下、および、Nb:0.005%以上0.100%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。
《Ti:0.005%以上0.100%以下》
Tiは、本発明において極めて重要な元素である。Tiは、C、S、Nと析出物を形成して、焼鈍時に深絞り性およびヤング率(剛性)の向上に有利な方位の発達したフェライトを生成させる。さらに、Tiは、再結晶粒の粗大化を抑制し、強度の向上に有効に寄与する。Bを添加する場合は、NをTiNとして析出させるため、BNの析出が抑制され、後述するBの効果が有効に発現される。加えて、高温での延性が向上し、連続鋳造における鋳造性が改善する。これら効果は、Ti量が0.005%以上である場合に得られる。
一方で、Ti量が0.100%を超えると、炭窒化物量が顕著に増大し、延性が低下する。
このため、Ti量は、0.005%以上0.100%以下であり、0.020%以上0.090%以下が好ましい。
《Nb:0.005%以上0.100%以下》
Nbは、本発明において極めて重要な元素である。Nbは、熱間圧延時または焼鈍時に微細な析出物を形成して、焼鈍時に深絞り性およびヤング率(剛性)の向上に有利な方位の発達したフェライトを生成させる。さらに、Nbは、再結晶粒の粗大化を抑制し、強度の向上に有効に寄与する。これら効果は、Nb量が0.005%以上である場合に得られる。
一方で、Nb量が0.100%を超えると、炭窒化物量が顕著に増大し、延性が低下する。コストアップの要因にもなる。
このため、Nb量は、0.005%以上0.100%以下であり、0.010%以上0.080%以下が好ましい。
本発明の高強度鋼板の成分組成は、さらに、質量%で、下記A群〜E群から選ばれる少なくとも1種を含有できる。
《[A群]Ni:0.01%以上1.00%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.01%以上1.00%以下、および、Mo:0.005%以上0.500%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種》
Niは、残留オーステナイトを安定化させる元素で、良好な延性の確保に有効であり、さらに、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素である。この添加効果を得る観点から、Ni量は、0.01%以上が好ましい。一方、Ni量が1.00%を超えると、硬質なマルテンサイトの面積率が過大となる場合がある。コストアップの要因にもなる。このため、Niを添加する場合、Ni量は0.01%以上1.00%以下が好ましい。
Cuは、鋼の強度上昇に有効な元素である。この添加効果を得る観点から、Cu量は、0.005%以上が好ましい。一方、Cu量が1.000%を超えると、硬質なマルテンサイト量が過大となる場合がある。このため、Cuを添加する場合、Cu量は、0.005%以上1.000%以下が好ましい。
CrおよびMoは、鋼の強度を上昇させるとともに、焼入れ性向上に寄与する元素である。この添加効果を得る観点から、Cr量は0.01%以上が好ましく、Mo量は0.005%以上が好ましい。一方、これらの元素を過剰に添加すると、硬質なマルテンサイト量が過大となる場合がある。コストアップの要因にもなる。このため、Crを添加する場合、Cr量は0.01%以上1.00%以下が好ましく、Mo量は0.005%以上0.500%以下が好ましい。
《[B群]V:0.005%以上0.100%以下、および、W:0.005%以上0.100%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種》
VおよびWは、析出強化による鋼の強化に有効であるため、必要に応じて添加できる元素である。この添加効果を得る観点から、V量は0.005%以上が好ましく、W量は0.005%以上が好ましい。一方、これらの元素を過剰に添加すると、炭窒化物量が顕著に増大し、延性が低下する場合がある。コストアップの要因にもなる。
このため、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種を添加する場合、V量は0.005%以上0.100%以下が好ましく、W量は0.005%以上0.100%以下が好ましい。
《[C群]Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、および、REM:0.0005%以上0.0050%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種》
Ca、MgおよびREMは、硫化物の形状を球状化し、穴広げ性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。この添加効果を得る観点から、それぞれの元素量は、0.0005%以上が好ましい。一方、Ca、MgおよびREMのそれぞれを過剰に添加すると、介在物等の増加を引き起こし表面および内部欠陥などを引き起こす場合がある。
このため、Ca、MgおよびREMからなる群から選ばれる少なくとも1種を添加する場合、その量は、それぞれ0.0005%以上0.0050%以下が好ましい。
《[D群]Sb:0.002%以上0.200%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、および、Ta:0.001%以上0.010%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種》
SnおよびSbは、鋼板表面の窒化または酸化によって生じる、鋼板表層の数十μm程度の厚み領域の脱炭を抑制する観点から、必要に応じて添加できる元素である。このような窒化および酸化を抑制することにより、鋼板表面におけるマルテンサイト量が減少するのを防止できるため、SnおよびSbは、強度および材質安定性などの確保に有効な元素である。一方、SnおよびSbを過剰に添加すると、靭性の低下を招く場合がある。このため、SnおよびSbからなる群から選ばれる少なくとも1種を添加する場合、その量はそれぞれ、0.002%以上0.200%以下が好ましい。
Taは、TiやNbと同様に、合金炭化物や合金炭窒化物を生成して高強度化に寄与する。加えて、Taは、Nb炭化物やNb炭窒化物に一部固溶し、(Nb,Ta)(C,N)など複合析出物を生成することにより析出物の粗大化を抑制し、析出強化による強度向上への寄与を安定化させる効果があると考えられる。上述した析出物安定化の効果を得る観点から、Ta量は0.001%以上が好ましい。一方、Taを過剰に添加すると、添加効果が飽和するうえにコストも増加する。このため、Taを添加する場合、Ta量は、0.001%以上0.010%以下が好ましい。
《[E群]B:0.0001%以上0.0050%以下》
Bは、オーステナイト粒界からのフェライトの生成および成長を抑制する作用を有し、臨機応変な組織制御が可能なため、必要に応じて添加できる。例えば、熱間圧延後の一次冷却中におけるフェライト変態やパーライト変態を抑制する効果がある。さらに、バッチ焼鈍での保持後の冷却中におけるフェライト変態やベイナイト変態を抑制する。このような添加効果を得る観点から、B量は、0.0001%以上が好ましい。
一方、B量が0.0050%を超えると、成形性(延性、深絞り性、穴広げ性)が低下する場合がある。
このため、Bを添加する場合、B量は、0.0001%以上0.0050%以下が好ましく、0.0005%以上0.0030%以下がより好ましい。
《残部》
上記成分組成において、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
〈鋼組織〉
次に、本発明の高強度鋼板の鋼組織(ミクロ組織)について説明する。
《フェライトの面積率:40.0%以上90.0%以下》
本発明の高強度鋼板においては、所望の延性および深絞り性を確保するために、フェライトの面積率を40.0%以上にする。フェライトの面積率が40.0%以上の場合、軟質相であるフェライト量が十分であり、優れた延性が確保できる。面積率で40.0%以上のフェライトの{111}再結晶集合組織を発達させることにより、所望の深絞り性も確保できる。
一方、590MPa以上のTSを確保するため、軟質なフェライトの面積率を90.0%以下にする。
このため、フェライトの面積率は、40.0%以上90.0%以下であり、50.0%以上85.0%以下が好ましい。
{111}集合組織とは、鋼板面垂直方向に結晶の〈111〉方向が向いていることを言う。結晶学およびBraggの反射条件から、体心立方構造であるα−Feの場合、{111}面の回折としては、(111)面では起こらず、(222)面で起こるため、回折X線積分強度比としては(222)面の値(P(222))を用いる。(222)面は、鋼板板面垂直方向には[222]方向が向いているので、実質的に〈111〉方向と同じ方向である。よって、(222)面の強度比が高いことは、{111}集合組織が発達していることに対応する。{100}面に対しても同様の理由から、(200)面の値(P(200))を用いる。
《マルテンサイトの面積率:5.0%以上30.0%以下》
本発明の高強度鋼板においては、590MPa以上のTSを達成するために、マルテンサイトの面積率を5.0%以上にする。
一方、所望の延性、穴広げ性の確保のため、マルテンサイトの面積率を30.0%以下にする。マルテンサイトの面積率が30.0%以下の場合、マルテンサイト以外のマルテンサイトより軟質な相の量が増えるため、優れた延性が確保できる。マルテンサイトの面積率が30.0%以下の場合、軟質相であるフェライトと硬質相であるマルテンサイトとの境界量が少ないため、優れた穴広げ性が確保できる。
このため、マルテンサイトの面積率は、5.0%以上30.0%以下であり、8.0%以上25.0%以下が好ましい。
《パーライトの面積率:2.0%以上30.0%以下》
本発明の高強度鋼板においては、所望の穴広げ性を確保するため、パーライトの面積率を2.0%以上にする。パーライトの面積率が2.0%以上の場合、軟質相であるフェライトと硬質相であるマルテンサイトとの中間硬度相であるパーライトを活用することにより、強度を確保しつつ、フェライトとマルテンサイトとの境界量を減らすことが可能になるため、優れた穴広げ性が確保できる。
一方、所望の延性を確保するため、パーライトの面積率を30.0%以下にする。パーライトの面積率が30.0%以下であれば、残部であるフェライトおよびマルテンサイトのDP(Dual Phase)組織から発現する高い加工硬化能により、優れた延性が確保できる。
このため、パーライトの面積率は、2.0%以上30.0%以下であり、4.0%以上25.0%以下が好ましい。
フェライト、マルテンサイトおよびパーライトの面積率は、以下のようにして求める。
まず、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面(L断面)を研磨する。研磨後の鋼板を、3体積%ナイタールを用いて腐食させる。腐食させた鋼板の板厚1/4位置(鋼板表面から深さ方向で板厚の1/4に相当する位置)について、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて2000倍の倍率で10視野を観察し、組織画像を得る。得られた組織画像について、Media Cybernetics社のImage−Proを用いて、各組織(フェライト、マルテンサイト、パーライト)の面積率を10視野分算出し、それらの値を平均して求める。上記組織画像において、フェライトは灰色の組織(下地組織)、マルテンサイトは白色の組織、パーライトはセメンタイトとフェライトとの層状組織を呈していることで識別される。
《残留オーステナイトの体積率:5.0%以下》
本発明の高強度鋼板において、所望のマルテンサイトおよびパーライトを十分に生成させるため、残留オーステナイトは少ない方が好ましく、残留オーステナイトの体積率は、5.0%以下が好ましく、3.0%以下がより好ましい。
残留オーステナイトの下限は特に限定されないが、残留オーステナイトの体積率は、例えば、0.0%以上である。
残留オーステナイトの体積率は、鋼板を板厚1/4面(鋼板表面から深さ方向で板厚の1/4に相当する面)まで研磨し、この板厚1/4面の回折X線強度を測定することにより求める。入射X線にはMoKα線を使用し、残留オーステナイトの{111}、{200}、{220}、{311}面のピークの積分強度の、フェライトの{110}、{200}、{211}面のピークの積分強度に対する、12通り全ての組み合わせの強度比を求め、これらの平均値を残留オーステナイトの体積率とする。
本発明の高強度鋼板の鋼組織(ミクロ組織)には、フェライト、マルテンサイト、パーライトおよび残留オーステナイト以外に、セメンタイトなどの炭化物、ベイニティックフェライトが含まれる場合がある。これらの組織は、合計で面積率が10.0%以下の範囲であれば含まれていてもよく、本発明の効果は損なわれない。
〈鋼中のMn量をフェライト中のMn量で除した値:1.10以上〉
本発明の高強度鋼板は、鋼中のMn量(単位:質量%)をフェライト中のMn量(単位:質量%)で除した値が1.10以上である。
フェライトとオーステナイトとの二相域でBAFによるバッチ焼鈍などの長時間保持を行なった場合、フェライト中からオーステナイト中にMnが拡散し、Mn量が低減された、つまり清浄化されたフェライトが生成し、延性および深絞り性が向上する。鋼中のMn量をフェライト中のMn量で除した値が1.10以上である場合、優れた延性および深絞り性が確保できる。
鋼中のMn量をフェライト中のMn量で除した値は、その上限は特に限定されないが、穴広げ性および化成処理性の観点から、例えば、3.00以下である。
〈マルテンサイト中のMn量を鋼中のMn量で除した値:1.80以上〉
本発明の高強度鋼板は、マルテンサイト中のMn量(単位:質量%)を鋼中のMn量(単位:質量%)で除した値が1.80以上である。
BAFによるバッチ焼鈍におけるフェライトとオーステナイトとの二相域での長時間保持により、Mnをオーステナイト中に濃化させ、極めて遅い冷却速度でも所望のマルテンサイト量を確保でき、590MPa以上のTSが得られる。マルテンサイト中のMn量を鋼中のMn量で除した値が1.80以上の場合、所望のTSが確保できる。
マルテンサイト中のMn量を鋼中のMn量で除した値は、その上限は特に限定されないが、穴広げ性および化成処理性の観点から、例えば、4.00以下である。
鋼中のMn量(単位:質量%)は、上述した成分組成におけるMn量(単位:質量%)である。
フェライト中のMn量(単位:質量%)およびマルテンサイト中のMn量(単位:質量%)は、以下のようにして求める。
まず、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer;電子プローブマイクロアナライザ)を用いて、板厚1/4位置における圧延方向断面の各相へのMnの分布状態を定量化する。次いで、30個のフェライト粒および30個のマルテンサイト粒のMn量を分析し、分析結果より得られる各フェライト粒およびマルテンサイト粒のMn量をそれぞれ平均することにより、算出する。
〈P(222)/{P(200)+P(220)}≧2.0〉
本発明の高強度鋼板は、より優れた深絞り性を確保するために、下記式を満たすことが好ましい。
P(222)/{P(200)+P(220)}≧2.0
上記式中、P(222)、P(200)およびP(220)は、それぞれ、鋼板1/4板厚位置における板面に平行な(222)面、(200)面および(220)面の回折X線積分強度比を表す。上述したように、(222)面の強度比が高いことは、{111}集合組織が発達していることに対応する。
回折X線積分強度比とは、無方向性標準試料(不規則試料)の回折X線積分強度を基準としたときの相対的な強度である。X線回折測定は、角度分散型およびエネルギー分散型のいずれでもよく、X線源は特性X線でも白色X線でもよい。測定面として、α−Feの主要回折面である(110)から(420)までの7面から10面を測定することが望ましい。鋼板1/4板厚位置とは、鋼板表面から測定して、鋼板の板厚の1/8〜3/8の範囲を指す。X線回折測定は、この範囲の任意の面で行なえばよい。
[低降伏比型高強度鋼板の製造方法]
次に、本発明の低降伏比型高強度鋼板の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)を説明する。
本発明の製造方法は、上述した本発明の高強度鋼板を製造する方法である。より詳細には、上述した成分組成を有する鋼スラブに、800℃以上1000℃以下の仕上げ圧延出側温度で熱間圧延を施すことにより、熱延鋼板を得る。上記熱延鋼板を、上記仕上げ圧延出側温度から650℃までの温度域を20℃/秒以上120℃/秒以下の平均冷却速度で冷却し、650℃から下記巻き取り温度までの温度域を5℃/秒以上40℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する。上記冷却後の上記熱延鋼板を、400℃以上600℃以下の巻き取り温度で巻き取る。上記巻き取りされた上記熱延鋼板に、酸洗を施す。上記酸洗が施された上記熱延鋼板に、30%以上85%以下の圧下率で冷間圧延を施すことにより、冷延鋼板を得る。上記冷延鋼板に、下記温度履歴1および2を満たすバッチ焼鈍を施す。上記バッチ焼鈍が施された上記冷延鋼板に、1.1%以下の伸び率で調質圧延を施すことにより、上述した本発明の高強度鋼板を得る。
温度履歴1:上記冷延鋼板のコイルの外周面から内周面に向かって半径方向に沿って5mm入った位置を、昇温後、620℃以上760℃以下で2.0時間以上72.0時間以下保持し、400℃以上550℃以下の温度域を30℃/時間以上200℃/時間以下の平均冷却速度で冷却する。
温度履歴2:上記冷延鋼板のコイルの内周面から外周面に向かって半径方向に沿ってコイル厚の1/3入った位置を、昇温後、600℃以上740℃以下で2.0時間以上72.0時間以下保持し、400℃以上550℃以下の温度域を5℃/時間以上100℃/時間以下の平均冷却速度で冷却する。
以下、本発明の製造方法における各条件について、詳細に説明する。
〈鋼スラブ〉
本発明の製造方法には、上述した成分組成を有する鋼スラブを用いる。
鋼スラブは、通常、加熱される。鋼スラブの加熱温度は、1100℃以上1300℃以下が好ましい。
鋼スラブの加熱段階で存在している析出物は、最終的に得られる鋼板内では粗大な析出物として存在し、強度に寄与しないため、鋳造時に析出したTi、Nb系析出物を再溶解させた方がよい。鋼スラブの加熱温度が1100℃未満であると、炭化物の十分な溶解が難しく、さらに、圧延荷重の増大による熱間圧延時のトラブルに繋がる可能性がある。このため、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上が好ましい。スラブ表層の気泡、偏析などの欠陥をスケールオフし、鋼板表面の亀裂や凹凸を減少し、平滑な鋼板表面を達成する観点からも、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上が好ましい。
一方、鋼スラブの加熱温度が1300℃超であると、酸化量の増加に伴いスケールロスが増大する可能性がある。このため、鋼スラブの加熱温度は1300℃以下が好ましい。
鋼スラブは、マクロ偏析を防止するため、連続鋳造法で製造することが好ましいが、造塊法や薄スラブ鋳造法などにより製造することもできる。鋼スラブを製造した後、一旦室温まで冷却し、その後に再度加熱する従来法を用いることもできる。鋼スラブを製造した後、室温まで冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入する、または、わずかの保熱を行なった後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。鋼スラブは通常の条件で粗圧延によりシートバーとされる。加熱温度を低目にした場合は、熱間圧延時のトラブルを防止する観点から、仕上げ圧延前にバーヒーターなどを用いてシートバーを加熱することが好ましい。
〈熱間圧延の仕上げ圧延出側温度:800℃以上1000℃以下〉
鋼スラブ(加熱後の鋼スラブ)に、粗圧延および仕上げ圧延を含む熱間圧延を施すことにより、熱延鋼板を得る。
このとき、仕上げ圧延出側温度が1000℃を超えると、酸化物(スケール)の生成量が急激に増大し、地鉄と酸化物との界面が荒れ、酸洗、冷間圧延後の鋼板の表面品質が劣化する傾向にあり、化成処理性が低下する。さらに、結晶粒径が過度に粗大となるため、所望のマルテンサイト量が得られなくなり、590MPa以上のTS確保が困難となる。加工時にプレス品の表面荒れを生じる可能性もある。
一方、仕上げ圧延出側温度が800℃未満では、圧延荷重が増大し、圧延負荷が大きくなったり、オーステナイトが未再結晶の状態での圧下率が高くなったりする。その結果、異常な集合組織が発達し、最終材(焼鈍後)のフェライトの{111}再結晶集合組織を発達させることが困難となり、深絞り性が低下する。
このため、熱間圧延の仕上げ圧延出側温度は、800℃以上1000℃以下であり、850℃以上950℃以下が好ましい。
熱間圧延時においては、粗圧延板どうしを接合して連続的に仕上げ圧延してもよい。粗圧延板を一旦巻き取っても構わない。熱間圧延時の圧延荷重を低減するために仕上げ圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延することは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。潤滑圧延時の摩擦係数は、0.10以上0.25以下が好ましい。
このようにして得られた熱延鋼板を、以下に説明するようにして、冷却(一次冷却および二次冷却)する。
〈一次冷却(仕上げ圧延出側温度から650℃までの温度域の冷却)の平均冷却速度:20℃/秒以上120℃/秒以下〉
仕上げ圧延出側温度から650℃超までの温度域の冷却(一次冷却)を説明する。
一次冷却の平均冷却速度が20℃/秒未満であると、フェライト変態やパーライト変態が過剰に進行し、巻き取り後の熱延鋼板の組織において所望のベイナイトの面積率が得られない。その結果、バッチ焼鈍を経て得られる高強度鋼板において、後述するCold pointにおける590MPa以上のTS確保が困難となる。
一方、一次冷却の平均冷却速度が120℃/秒を超えると、鋼板の形状不良が生じる。
このため、一次冷却の平均冷却速度は、20℃/秒以上120℃/秒以下であり、25℃/秒以上100℃/秒以下が好ましい。
〈二次冷却(650℃から巻き取り温度までの温度域の冷却)の平均冷却速度:5℃/秒以上40℃/秒以下〉
上記一次冷却後、二次冷却する。二次冷却は、650℃から巻き取り温度までの温度域の冷却である。
二次冷却の平均冷却速度が5℃/秒未満であると、フェライト変態やパーライト変態が過剰に進行し、巻き取り後の熱延鋼板の組織において所望のベイナイトの面積率が得られない。その結果、バッチ焼鈍を経て得られる高強度鋼板において、後述するCold pointにおける590MPa以上のTS確保が困難となる。
一方、二次冷却の平均冷却速度が40℃/秒を超えると、鋼板の形状不良が生じる。
このため、二次冷却の平均冷却速度は、5℃/秒以上40℃/秒以下であり、5℃/秒以上35℃/秒以下が好ましい。
〈巻き取り温度:400℃以上600℃以下〉
冷却(一次冷却および二次冷却)後の熱延鋼板を、巻き取りする。
このとき、巻き取り温度が600℃を超えると、フェライト変態やパーライト変態が過剰に進行し、巻き取り後の熱延鋼板の組織において所望のベイナイトの面積率が得られない。その結果、バッチ焼鈍を経て得られる高強度鋼板において、後述するCold pointにおける590MPa以上のTS確保が困難となる。
一方、巻き取り温度が400℃未満であると、マルテンサイトを主体とする組織となり、強度が大幅に上昇して、冷間圧延における圧延負荷が増大したり、鋼板形状の不良が発生したりする。
このため、巻き取り温度は、400℃以上600℃以下であり、450℃以上600℃以下が好ましい。
巻き取りされた熱延鋼板を「素材熱延鋼板」と呼ぶ場合がある。
バッチ焼鈍後のTS確保、および、コイル内のTSバラツキを狭小化するため、素材熱延鋼板の組織は、ベイナイトが主体であることが好ましく、より詳細には、ベイナイトの面積率が70.0%超であることが好ましい。残部組織は、例えば、ポリゴナルフェライト、パーライト、炭化物である。
〈酸洗〉
巻き取りされた熱延鋼板(素材熱延鋼板)に、酸洗を施す。酸洗は、鋼板表面の酸化物(スケール)の除去が可能であることから、最終製品の高強度鋼板の良好な化成処理性やめっき品質の確保のために重要である。酸洗は、一回だけ行なってもよいし、複数回に分けて行なってもよい。酸洗は常法に従って行なえばよい。
〈冷間圧延の圧下率:30%以上85%以下〉
酸洗後の熱延鋼板に対して、冷間圧延を施す。これにより、冷延鋼板を得る。
このとき、冷間圧延の圧下率が30%未満では、フェライトの{111}再結晶集合組織が十分に発達せず、優れた深絞り性が得られない。一方、冷間圧延の圧下率が85%を超えると、冷間圧延における負荷が増大し、通板トラブルが発生する可能性がある。
このため、冷間圧延の圧下率は、30%以上85%以下であり、40%以上75%以下が好ましい。
冷間圧延により得られた冷延鋼板の表面には、潤滑油が付着している場合がある。潤滑油などの油性物質は、後述するBAFによるバッチ焼鈍中に分解され、冷延鋼板の表面に残存し、表面品質を低下させることがある。
そこで、冷間圧延の後、後述するBAFによるバッチ焼鈍を施す前に、例えば電解洗浄ラインにおいて、冷延鋼板の表面の潤滑油を除去する脱脂を行なうことが好ましい。
〈バッチ焼鈍〉
次に、冷延鋼板に対してバッチ焼鈍を施す。より詳細には、冷延鋼板をコイル状に巻き取り、冷延鋼板のコイルに対して、BAFによりバッチ焼鈍を行なう。このとき、冷延鋼板のコイルにおける後述するHot point(HP)およびCold point(CP)が特定の温度履歴を満たすように、バッチ焼鈍を行なう。
BAFによるバッチ焼鈍を、より詳細に説明する。
まず、バッチ焼鈍前に、複数段の冷延鋼板のコイルを、BAF内に配置する。BAFの構成、および、冷延鋼板のコイルの配置については、特に限定されない。
その後、BAF内の温度を昇温させつつ、雰囲気ガスをBAF内に供給し、バッチ焼鈍を施す。
BAF内の雰囲気ガスとしては、特に限定されず、例えば、窒素(N)ガスと水素(H)ガスとを混合した混合ガス、または、100体積%のHガスが挙げられる。
なかでも、HガスはNガスより熱伝導率が高いため、昇温速度および冷却速度が速くなり、生産性が向上すること、ならびに、均一加熱性(材質安定性)および良好な表面品質が得られることから、BAF内の雰囲気ガスとしては、100体積%のHガスが好ましい。
図1は、一部を切り欠いたコイル1を示す斜視図である。図1に示すコイル1は、円筒状に巻かれた冷延鋼板からなる。コイル1は、巻かれた冷延鋼板により形成される外周面2および内周面3を有する。
Hot point(HP)は、コイル1の外周面2から内周面3に向かって半径方向rに沿って5mm入った位置である。
Cold point(CP)は、コイル1の内周面3から外周面2に向かって半径方向rに沿ってコイル厚tの1/3入った位置である。
HPおよびCPともに、コイル1の板幅Wの中央位置である。
《温度履歴1:Hot point(HP)の温度履歴》
まず、冷延鋼板のコイルを昇温する。昇温条件は特に限定されないが、昇温中において、HPを、250℃以上450℃以下の温度域で0.5時間以上8.0時間以下保持することが好ましい。これにより、鋼板表面に付着した水分だけでなく、鋼板表面の鉄酸化物の還元によって生成した水分をも効果的に排除し、極めて短時間のうちに雰囲気ガス露点を低下させることができる。その結果、色調ムラであるテンパーカラーの発生防止や化成処理性の向上に繋がる。
(620℃以上760℃以下で2.0時間以上72.0時間以下の保持)
昇温後、冷延鋼板のコイルのHPを、620℃以上760℃以下で、2.0時間以上72.0時間以下保持(均熱)する。
HPの均熱温度が620℃未満またはHPの均熱時間が2.0時間未満では、十分なオーステナイトが生成されず、最終的にセメンタイトが溶け残り、所望のマルテンサイトおよびパーライトが確保できず、590MPa以上のTSの確保が困難となるだけでなく、穴広げ性も低下する。
HPの均熱温度が760℃超では、焼鈍時のオーステナイト量が多くなり、オーステナイト中のMn濃化量が低下し、焼鈍後の冷却中にフェライト変態やベイナイト変態が進行し、所望のマルテンサイト量が得られなくなり、590MPa以上のTS確保が困難となる。フェライトの清浄化も不十分となり、延性および深絞り性も低下する。さらに、焼鈍中の鋼板表面へのMn濃化が促進し、化成処理性も低下する。
HPの均熱時間が72.0時間超では、オーステナイト中へのMn濃化量が飽和するだけでなく、コストアップの要因にもなる。焼鈍中の鋼板表面へのMn濃化が促進し、化成処理性も低下する。
HPの均熱温度は640℃以上740℃以下が好ましい。HPの均熱時間は5.0時間以上60.0時間以下が好ましい。
(400℃以上550℃以下の温度域の平均冷却速度:30℃/時間以上200℃/時間以下)
上記保持後、冷延鋼板のコイルを冷却する。このとき、冷延鋼板のコイルのHPにおいては、400℃以上550℃以下の温度域を、30℃/時間以上200℃/時間以下の平均冷却速度で冷却する。
HPの上記温度域の平均冷却速度が30℃/時間未満の場合、フェライト変態やベイナイト変態が進行し、所望のマルテンサイト量が得られなくなり、590MPa以上のTS確保が困難となる。
一方、HPの上記温度域の平均冷却速度が200℃/時間超である場合、所望のパーライト量が得られなくなり、穴広げ性が低下する。
《温度履歴2:Cold point(CP)の温度履歴》
冷延鋼板のコイルを昇温し、その後、冷延鋼板のコイルのCPにおいては、以下のように保持および冷却を行なう。
(600℃以上740℃以下で2.0時間以上72.0時間以下の保持)
昇温後、冷延鋼板のコイルのCPを、600℃以上740℃以下で、2.0時間以上72.0時間以下保持(均熱)する。
CPの均熱温度が600℃未満またはCPの均熱時間が2.0時間未満では、十分なオーステナイトが生成されず、最終的にセメンタイトが溶け残り、所望のマルテンサイトおよびパーライトが確保できず、590MPa以上のTSの確保が困難となるだけでなく、穴広げ性も低下する。
CPの均熱温度が740℃超では、焼鈍時のオーステナイト量が多くなり、オーステナイト中のMn濃化量が低下し、焼鈍後の冷却中にフェライト変態やベイナイト変態が進行し、所望のマルテンサイト量が得られなくなり、590MPa以上のTS確保が困難となる。フェライトの清浄化も不十分となり、延性および深絞り性も低下する。さらに、焼鈍中の鋼板表面へのMn濃化が促進し、化成処理性も低下する。
CPの均熱時間が72.0時間超では、オーステナイト中へのMn濃化量が飽和するだけでなく、コストアップの要因にもなる。焼鈍中の鋼板表面へのMn濃化が促進し、化成処理性も低下する。
CPの均熱温度は620℃以上720℃以下が好ましい。CPの均熱時間は5.0時間以上60.0時間以下が好ましい。
(400℃以上550℃以下の温度域の平均冷却速度:5℃/時間以上100℃/時間以下)
上記保持後、冷延鋼板のコイルを冷却する。このとき、冷延鋼板のコイルのCPにおいて、400℃以上550℃以下の温度域を、5℃/時間以上100℃/時間以下の平均冷却速度で冷却する。
CPの上記温度域の平均冷却速度が5℃/時間未満の場合、フェライト変態やベイナイト変態が進行し、所望のマルテンサイト量が得られなくなり、590MPa以上のTS確保が困難となる。
一方、CPの上記温度域の平均冷却速度が100℃/時間超の場合、所望のパーライト量が得られなくなり、穴広げ性が低下する。
〈調質圧延の伸び率:1.1%以下〉
バッチ焼鈍が施された冷延鋼板に、1.1%以下の伸び率で調質(スキンパス)圧延を施す。調質圧延の伸び率が1.1%超である場合、0.70以下のYRの確保が困難となる。このため、調質圧延の伸び率は、1.1%以下であり、0.9%以下が好ましい。
調質圧延は、BAFによるバッチ焼鈍で生じるコイルの巻き癖の矯正、鋼板の形状矯正および表面粗度の調整にも有効である。このため、調質圧延の伸び率は、0.2%以上が好ましい。
調質圧延は、調質圧延ラインで行なう。一度に目的の伸び率の調質圧延を行なってもよいし、数回に分けて行なってもよい。
このようにして、本発明の高強度鋼板が製造される。製造された本発明の高強度鋼板に対しては、常法で酸洗を施してもよく、樹脂または油脂コーティングなどの各種塗装処理を施すこともできる。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
〈高強度鋼板(鋼板)の製造〉
下記表1に示す成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物からなる)を有する鋼を転炉において溶製し、連続鋳造法によって鋼スラブを得た。
得られた鋼スラブを用いて、下記表2〜表3に示す条件にて、熱間圧延し、熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板について、同表に示す条件で、冷却(一次冷却および二次冷却)および巻き取りを行なった。巻き取りされた熱延鋼板(素材熱延鋼板)を、酸洗した後、同表に示す条件で冷間圧延を施すことにより冷延鋼板を得た。その後、得られた冷延鋼板に、電解洗浄ラインにおいて脱脂を施した後、同表に示す条件でBAFによるバッチ焼鈍を施した。次いで、同表に示す条件で調質圧延を行なうことにより、高強度鋼板(鋼板)を得た。
得られた鋼板について、上述した方法により鋼組織(ミクロ組織)を調査した。結果を下記表4〜表7に示す。
〈高強度鋼板(鋼板)の評価〉
得られた高強度鋼板(鋼板)の各種特性を評価した。具体的には、以下に説明する、引張試験、平均r値測定、深絞り成形試験、穴広げ試験、ヤング率測定、および、化成処理性の評価を行ない、各種特性を評価した。結果を下記表4〜表7に示す。
《引張試験》
得られた鋼板から、引張方向が鋼板の圧延方向と直角方向となるようにJIS5号試験片を採取した。採取した試験片を用いて、JIS Z 2241(2011年)に準拠して引張試験を行ない、YP(降伏応力)、YR(降伏比)、TS(引張強さ)およびEL(全伸び)を測定した。YRは、YPをTSで除した値である。
YR≦0.70である場合に低降伏比型であると判定した。
TS≧590MPaである場合に高強度であると判定した。
TS:590MPa級ではEL≧26%、TS:780MPa級ではEL≧21%である場合に、延性が良好であると判定した。
TS:590MPa級とは、TSが590MPa以上780MPa未満を、TS:780MPa級とは、TSが780MPa以上900MPa未満を意味する。
さらに、HPとCPとの強度差ΔTSを下記式から求めた。ΔTS≦60MPaである場合にコイル内の強度バラツキが少なく材質安定性が良好であると判定した。
ΔTS=|TS(HP)−TS(CP)|
上記式中、TS(HP)はHPの引張強さ(単位:MPa)を表し、TS(CP)はCPの引張強さ(単位:MPa)を表す。
《平均r値の測定》
平均r値は、深絞り性の指標である。平均r値が高いほど、深絞り性に優れる。
平均r値の測定は次のように行なった。まず、鋼板からJIS Z 2201(1998年)に規定のJIS5号試験片を採取した。より詳細には、鋼板の圧延方向(L方向)、鋼板の圧延方向に対して45°方向(D方向)、および、鋼板の圧延方向に対して直角方向(C方向)の3方向から、JIS5号試験片を採取した。採取した試験片を用いて、JIS Z 2254の規定に準拠して、10%の塑性歪を付与し、塑性歪比r(r、r、および、r)求め、下記式により平均r値を算出した。rはL方向の塑性歪比、rはD方向の塑性歪比、rはC方向の塑性歪比である。
平均r値=(r+2r+r)/4
平均r値≧1.05の場合に、深絞り性が良好である判定した。
《深絞り成形試験》
深絞り成形試験として、円筒絞り試験を行ない、限界絞り比(LDR)により深絞り性を評価した。円筒深絞り試験には、直径33mmφの円筒ポンチを用い、例えば板厚1.2mm材ではダイス径が36.6mmの金型を用いた(その他の板厚の場合は後述)。試験は、1.5ton(14.71kN)のしわ押さえ力で行なった。めっき状態などにより表面の摺動状態が変わるため、表面の摺動状態が試験に影響しないように、サンプルとダイスとの間にポリエチレンシートを置いて高潤滑条件で試験を行なった。ブランク径を1mmピッチで変化させ、破断せず絞りぬけたブランク径Dとポンチ径dとの比(D/d)をLDRとした。
LDR≧2.00の場合に、深絞り性が良好であると判定した。
深絞り成形試験(円筒絞り試験)に用いた金型のダイス径は、鋼板の板厚ごとに、次のとおりとした。
・板厚0.8mm材・・・金型のダイス径:35.4mm
・板厚1.0mm材・・・金型のダイス径:36.0mm
・板厚1.2mm材・・・金型のダイス径:36.6mm
・板厚1.4mm材・・・金型のダイス径:37.2mm
・板厚1.6mm材・・・金型のダイス径:37.8mm
・板厚1.8mm材・・・金型のダイス径:38.4mm
・板厚2.0mm材・・・金型のダイス径:39.0mm
・板厚2.3mm材・・・金型のダイス径:39.9mm
《穴広げ試験》
穴広げ試験は、JIS Z 2256(2010年)に準拠して行なった。より詳細には、まず、得られた鋼板を100mm×100mmに切断した。切断した鋼板に、クリアランス12%±1%で直径10mmの穴を打ち抜いた。その後、内径75mmのダイスを用いて、しわ押さえ力9ton(88.26kN)で抑えた状態で、60°円錐のポンチを穴に押し込んで亀裂発生限界における穴直径を測定した。そして、下記式から、限界穴広げ率λ[%]を求めた。
限界穴広げ率λ[%]={(D−D)/D}×100
ただし、Dは亀裂発生時の穴径[mm]、Dは初期穴径[mm]である。
TS590MPa級ではλ≧50%、TS780MPa級ではλ≧30%の場合に穴広げ性が良好であると判定した。
《ヤング率測定》
ヤング率は、剛性の指標であり、フェライトの{111}再結晶集合組織が発達すると向上する。
得られた鋼板について、圧延方向に対して直角方向(C方向)から、10mm×50mmの試験片を採取した。採取した試験片について、横振動型の共振周波数測定装置を用いて、American Society to Testing Materialsの基準(C1259)に従い、ヤング率を測定した。
ヤング率が220GPa以上である場合に剛性が良好である判定した。
《化成処理性の評価方法》
得られた鋼板に対して、日本パーカライジング社製の化成処理液(パルボンドL3080(登録商標))を用いて下記方法で化成処理を行なうことにより化成被膜を形成し、化成処理性を評価した。
まず、得られた鋼板を、日本パーカライジング社製の脱脂液ファインクリーナ(登録商標)を用いて脱脂した後、水洗し、次に、日本パーカライジング社製の表面調整液プレパレンZ(登録商標)を用いて30秒間の表面調整を行なった。表面調整した鋼板を、43℃の化成処理液(パルボンドL3080)に120秒間浸漬し、その後、水洗し、温風で乾燥した。こうして、鋼板に化成処理を施した。
化成処理後の鋼板の表面について、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて倍率500倍で無作為に5視野を観察した。化成被膜が生成されていない領域(スケ)の面積率[%]を画像処理により求め、求めた面積率によって以下の評価をした。
評点5:5%以下
評点4:5%超10%以下
評点3:10%超25%以下
評点2:25%超40%以下
評点1:40%超
評点4または評点5であれば化成処理性が良好であると判定した。
上記表1〜表7中、下線部は、本発明の範囲外または好適範囲外を示す。
上記表4〜表7中、Fはフェライト、Mはマルテンサイト、Pはパーライト、RAは残留オーステナイト、θは炭化物(TiC、NbC、セメンタイトなど)、Bはベイニティックフェライトを表す。
上記表1〜表7に示す結果から、本発明例の鋼板は、0.70以下の低い降伏比(YR)を有し、かつ、引張強さ(TS)が590MPa以上であり、さらに、成形性(延性、深絞り性、穴広げ性)および化成処理性が良好であった。
これに対して、比較例の鋼板は、上記特性の1つ以上が不十分であった。
本発明例の鋼板を対比すると、式:P(222)/{P(200)+P(220)}≧2.0を満たさない場合(No.3およびNo.7)よりも、上記式を満たす場合の方が深絞り性(平均r値およびLDR)がより優れていた。
1:コイル
2:外周面
3:内周面
CP:Cold Point
HP:Hot Point
r:コイルの半径方向
t:コイル厚
W:コイルの板幅

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.050%超0.200%以下、Si:0.01%以上0.50%未満、Mn:1.80%超2.60%未満、P:0.100%以下、S:0.0200%以下、Al:2.000%以下、および、N:0.0100%以下を含有し、さらに、Ti:0.005%以上0.100%以下、および、Nb:0.005%以上0.100%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、
    面積率で、フェライトが40.0%以上90.0%以下、マルテンサイトが5.0%以上30.0%以下、パーライトが2.0%以上30.0%以下である鋼組織と、を有し、
    鋼中のMn量を前記フェライト中のMn量で除した値が1.10以上であり、前記マルテンサイト中のMn量を鋼中のMn量で除した値が1.80以上であり、Mn量の単位は質量%である、0.70以下の降伏比を有する低降伏比型高強度鋼板。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、下記A群〜E群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の低降伏比型高強度鋼板。
    [A群]Ni:0.01%以上1.00%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.01%以上1.00%以下、および、Mo:0.005%以上0.500%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種
    [B群]V:0.005%以上0.100%以下、および、W:0.005%以上0.100%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種
    [C群]Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、および、REM:0.0005%以上0.0050%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種
    [D群]Sb:0.002%以上0.200%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、および、Ta:0.001%以上0.010%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種
    [E群]B:0.0001%以上0.0050%以下
  3. さらに、下記式を満たす、請求項1または2に記載の低降伏比型高強度鋼板。
    P(222)/{P(200)+P(220)}≧2.0
    前記式中、P(222)、P(200)およびP(220)は、それぞれ、鋼板1/4板厚位置における板面に平行な(222)面、(200)面および(220)面の回折X線積分強度比を表す。
  4. 前記鋼組織における残留オーステナイトの体積率が、5.0%以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の低降伏比型高強度鋼板。
  5. 請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼スラブに、800℃以上1000℃以下の仕上げ圧延出側温度で熱間圧延を施すことにより、熱延鋼板を得て、
    前記熱延鋼板を、前記仕上げ圧延出側温度から650℃までの温度域を20℃/秒以上120℃/秒以下の平均冷却速度で冷却し、650℃から下記巻き取り温度までの温度域を5℃/秒以上40℃/秒以下の平均冷却速度で冷却し、
    前記冷却後の前記熱延鋼板を、400℃以上600℃以下の巻き取り温度で巻き取り、
    前記巻き取りされた前記熱延鋼板に、酸洗を施し、
    前記酸洗が施された前記熱延鋼板に、30%以上85%以下の圧下率で冷間圧延を施すことにより、冷延鋼板を得て、
    前記冷延鋼板に、下記温度履歴1および2を満たすバッチ焼鈍を施し、
    前記バッチ焼鈍が施された前記冷延鋼板に、1.1%以下の伸び率で調質圧延を施すことにより、請求項1〜4のいずれか1項に記載の低降伏比型高強度鋼板を得る、低降伏比型高強度鋼板の製造方法。
    温度履歴1:前記冷延鋼板のコイルの外周面から内周面に向かって半径方向に沿って5mm入った位置を、昇温後、620℃以上760℃以下で2.0時間以上72.0時間以下保持し、400℃以上550℃以下の温度域を30℃/時間以上200℃/時間以下の平均冷却速度で冷却する。
    温度履歴2:前記冷延鋼板のコイルの内周面から外周面に向かって半径方向に沿ってコイル厚の1/3入った位置を、昇温後、600℃以上740℃以下で2.0時間以上72.0時間以下保持し、400℃以上550℃以下の温度域を5℃/時間以上100℃/時間以下の平均冷却速度で冷却する。
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