JP6678194B2 - 水素ガス発生方法及び装置 - Google Patents

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Description

本発明は、Mg、Al及びFeなどの金属を水蒸気と反応させて金属酸化物と水素と熱を生成させる反応を利用した水素ガス製造方法であって、簡単な方法で安価に水素ガスが得られ、さらには、該反応時に生成する熱及び生成物を有効にリサイクルできる方法、及び該方法の実施に用いられる装置に関する発明である。
従来、水素ガスの発生方法としては、水蒸気改質、部分酸化改質、メタン直接改質、二段発酵、熱分解ガス改質、水の電気分解、水の熱化学分解、光触媒による水の分解等、様々な方式が技術的に確立されているが、水素ガスを発生させる段階において従来以上のCO2を排出し、化石燃料を使用する等の問題も多く、特に代替燃料としての応用において実用化できていない状況であり、これに伴い燃料電池等の水素を利用した応用機器も意義を持たないことが現状であった。
他方、水素化マグネシウム(MgH)を水と接触させて加水分解反応させることにより、水素ガスを発生させる方法は知られている。この方法は、下記反応式(1):
MgH+2HO→Mg(OH)+2H …(1)
に従うものであり、生成物としてMg(OH)が得られる。しかし、この方法では、MgHは、あくまでもワンウェイの水素吸蔵合金という立場であり、水素発生プロセスに使用するには生産にコストが掛かりすぎるという点が問題であった。
同様に、水素化アルミニウム(AlH)を水と接触させて加水分解反応させることにより、水素ガスを発生させる方法も知られている。この方法は、下記反応式(2):
2AlH+3HO→Al+6H …(2)
に従うものであり、生成物としてAlが得られる。しかし、この方法でも、AlHは、あくまでもワンウェイの水素吸蔵合金という立場であり、水素発生プロセスに使用するには生産にコストが掛かりすぎるという点が問題であった。
上記問題点を解決する方法として、特開2012−206932号公報には、水素吸蔵金属とその水素化物を組み合わせて原料として用いることにより、少量の水素化物が着火材となり、水素吸蔵金属を高温まで加熱することで水蒸気との反応を安定且つ安価に進行させることができることが開示されている。
また、特開2009−536604号公報には、加熱部材などの熱源により加熱して溶融又は気化させたマグネシウムと水蒸気とを反応させることにより水素ガスと酸化マグネシウムを生成させ、水素を回収する装置が提案されているが、マグネシウムの溶融又は気化に高出力の加熱装置が必要とされるという欠点があり、また、蒸気の温度や圧力等の詳細は記載されていない。
また、特開2017−190275号公報には、金属を高圧水蒸気と接触させることにより、水素ガスを製造する方法が提案されているが、反応容器として耐圧性の高い容器を必要とし、また高圧水蒸気の製造及び取り扱いが煩雑である。
Hiroshi Uesugi et al., "Production of Hydrogen Storage Material MgH2 and its Applications", http://www.biocokelab.com/pdf/MgH2.pdf
特開2012−206932号公報 特開2009−536604号公報 特開2017−190275号公報
本発明は、従来の方法よりも簡単な方法で効率よく水素ガスが得られ、さらには、酸化反応時に生成する熱及び生成物を有効にリサイクルできる方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、比表面積の大きい第一の形態の金属と第一の形態よりも比表面積の小さい第二の形態の金属を反応容器内に収容しておき、第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を開始させるに十分な温度の過熱水蒸気を前記反応容器に導入することにより、第一の形態の金属を着火剤として機能させ、その後、第一の形態の金属と過熱水蒸気との反応に伴う熱により加熱された第二の形態の金属と水蒸気との間の反応を誘発させることにより、効率的に水素を生成させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、その一局面によれば、金属を水蒸気と反応させて金属酸化物と水素と熱を生成させる反応を利用した水素ガス製造方法であって、反応容器中に比表面積の大きい第一の形態の金属と、前記第一の形態よりも比表面積の小さい第二の形態の金属とを収容し、前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を開始させるに十分な温度の過熱水蒸気を前記反応容器に導入することにより、前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を開始させた後、前記開始された反応に伴う熱により、前記第二の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を誘発し、前記2つの反応により発生した水素ガスを回収することを特徴とする水素ガス製造方法を提供する。
また、本発明は、他の局面によれば、金属を水蒸気と反応させて金属酸化物と水素と熱を生成させる反応を利用した水素ガス製造装置であって、
比表面積の大きい第一の形態の金属と前記第一の形態よりも比表面積の小さい第二の形態の金属とを収容した反応容器を備え、前記反応容器は、
前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を開始させるに十分な温度の過熱水蒸気を前記反応容器に取り入れるとともに、前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応が開始した後に水蒸気を取り入れて、前記開始された反応に伴う熱により加熱された前記第二の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を誘発させる水蒸気取入口と、
前記2つの反応により発生した水素ガスを前記反応容器から排出する排出口と、
を備えてなる水素ガス製造装置を提供する。
本発明の好ましい他の実施形態によれば、前記第一の形態の金属は粒状又はタブレット状の金属であり、前記第二の形態の金属はインゴット状の金属である。
本発明の更に好ましい他の実施形態によれば、前記反応容器内に、前記第一の形態の金属が配置された第一の層と、前記第二の形態の金属が配置された第二の層を設け、前記反応容器中に設けられたノズルから前記第一の層に配置された前記第一の形態の金属に前記過熱水蒸気を直接噴射することにより、前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を開始させる。
本発明の更に好ましい他の実施形態によれば、前記第二の形態の金属と水蒸気との間の反応を、前記過熱水蒸気以下の温度の水蒸気を前記反応容器に導入して進行させる。
本発明の更に好ましい他の実施形態によれば、前記2つの反応に使用する水蒸気は、純水由来の水蒸気である。
本発明の更に好ましい他の実施形態によれば、前記2つの反応により生成した金属酸化物を前記金属に還元して、前記反応の原料又は他の用途にリサイクルする。
本発明によれば、比表面積の大きい第一の形態の金属と第一の形態よりも比表面積の小さい第二の形態の金属を反応容器内に収容し、第二の形態の金属よりも反応性の高い第一の形態の金属と反応する温度まで加熱された過熱水蒸気を反応容器内導入することにより、第一の形態の金属の水蒸気との酸化反応を優先的に開始させることとしたので、この反応が起爆剤となって、第二の形態の金属の水蒸気との酸化反応が誘発される。すなわち、過熱水蒸気により開始された第一の形態の金属の酸化反応に伴う熱により、反応容器内の温度が上昇して第二の形態の金属が高温に加熱されるので、水蒸気を反応容器内に導入することにより、第二の形態の金属と水蒸気との反応が進行する。このように、本発明では、第一の形態の金属の酸化反応と、これにより誘発された第二の形態の金属の酸化反応との2つの反応に伴う水蒸気の分解により水素を発生させることを特徴とする。
本発明では、過熱水蒸気を用いて、第二の形態の金属よりも反応性の高い第一の形態の金属を優先的に酸化反応させることにより、第一の形態の金属を着火材として機能させるようにしたので、従来のように高価な金属水素化物を着火剤として使用する必要がなく、より安価で効率よく水素を製造できる。
本発明で原料として比表面積の大きい第一の形態のMgと第一の形態よりも比表面積の小さい第二の形態のMgを併用した場合、第一の形態のMgが過熱水蒸気と優先的に反応することで、反応密度が濃くなり、発火しながら水素を放出する。そして、この発火による熱源をきっかけとして、第一の形態のMgよりも反応性の低い第二の形態のMgが加熱されて連鎖的に水蒸気と酸化反応し、生成物として水素ガスとMgOが得られる。尚、本発明の反応では、環境温度が高温になることからMg(OH)ではなくMgOが生成する。
同様に、本発明で原料として比表面積の大きい第一の形態のAlと第一の形態よりも比表面積の小さい第二の形態のAlを併用した場合、第一の形態のAlが過熱水蒸気と優先的に反応することで、反応密度が濃くなり、発火しながら水素を放出する。そして、この発火による熱源をきっかけとして、第一の形態のAlよりも反応性の低い第二の形態のAlが加熱されて連鎖的に水蒸気と酸化反応し、生成物として水素ガスとAlが得られる。尚、本発明の反応では、環境温度が高温になることからAl(OH)ではなくAlが生成する。なお、同様の反応は、原料として、比表面積の大きい第一の形態のFe及び第一の形態よりも比表面積の小さい第二の形態のFeを用いた場合の他、同様の異なる2種の形態のその他の単体金属を用いた場合も同様に進行すると考えられる。
また、本発明では、上記反応で発生する熱を利用して水を加熱することにより水蒸気を生成させて上記反応に供することができるので、熱エネルギーを有効にリサイクルした水素ガス発生システムを構築することができる。
また、本発明では、上記反応で原料として用いられるMgAl、Fe等の単体金属は何れも純度の高いMgO、Al2、Fe等の金属酸化物として回収されるので、回収された金属酸化物を再度還元して単体金属にすることにより、上記反応の原料としてリサイクルすることができ、大幅な原料コストの削減と省資源を達成した水素ガス発生システムを構築することができる。
また、回収されるMgO、Al2、Fe等の金属酸化物は、純度が高いため、単体金属に還元することなくそのまま工業用原料や薬品として利用でき、また、石灰石膏法に代わる脱硫材や二酸化炭素吸着材としても利用することができる。
本発明の水素ガス発生方法で反応装置として用いる反応容器及びその周辺装置の一例を示す概略図である。
本発明は、比表面積の大きい第一の形態の金属を過熱水蒸気に接触させることによる金属の酸化反応と、この酸化反応に伴う熱、すなわち、この酸化反応で生成する熱エネルギーと反応容器内に存在する水蒸気の熱エネルギーとの合計の熱エネルギーを用いて、第一の形態よりも比表面積の小さい第二の形態の金属を高温下で水蒸気と接触させる酸化反応とを併用する点に特徴を有する。本発明において、第一の形態の金属と第二の形態の金属は、同一の金属でも異なった金属でも良いが、両者が同一である方が、生成する金属酸化物が同じ金属酸化物になるので、生成物の純度が高まり、以後の取り扱いが容易になる点で好ましい。
本発明において、金属とは、水蒸気と反応して金属酸化物と水素と熱を生成できる金属であり、各種の金属が知られているが、入手の容易性、コストなどの観点から、Mg、Al及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。これらの金属は、通常、単体金属の範疇に含まれる高純度のものを意味し、その純度は、好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上、さらに好ましくは99.9%以上、さらにより好ましくは99.95%以上、特に好ましくは99.99%以上である。
一般に、単体金属Mの水蒸気との酸化反応は、下記反応式(3)(式中、a×(金属Mの価数)=2b)で示される。単体金属がMgの場合の酸化反応は下記反応式(4)で示される。同様に、単体金属がAlの場合の酸化反応は下記反応式(5)で示される。同様に、単体金属がFeの場合の酸化反応は下記反応式(6)で示される。
aM+bHO→M+bH+熱 …(3)
Mg+HO→MgO+H+熱 …(4)
2Al+3HO→Al+3H+熱 …(5)
2Fe+3HO→Fe+3H+熱 …(6)
本発明によれば、第一の形態のMgと過熱水蒸気との接触及び第二の形態のMgと過熱水蒸気又は飽和水蒸気との接触を基本とし、第一の形態のMg及び第二の形態のMgは高温下で大部分MgOとして回収される。本発明において、上記式(4)で示される反応は、反応生成物としてMgOが得られる温度、具体的には、マグネシウムの融点である650℃以上、好ましくは、800〜1000℃の温度範囲で行われる。同様に、上記式(5)で示される反応は、反応生成物としてAlが得られる温度、具体的には、アルミニウムの融点である660℃以上、好ましくは、800〜1000℃の温度範囲で行われる。同様に、上記式(6)で示される反応は、反応生成物としてFeが得られる温度、具体的には、鉄の融点である1535℃以上、好ましくは、1600〜2000℃の温度範囲で行われる。
本発明では、他の装置等を使った加熱も加圧も必要とすることなく、第一の形態の金属及び第二の形態の金属の反応熱すなわち発火熱だけで上記反応が進行する。しかしながら、反応温度を安定に維持するために他の熱源を用いて加熱してもよいことは言うまでもない。
本発明において原料として使用される第一の形態の金属は、所定の温度の過熱水蒸気と接触して上記反応式(3)、(4)、(5)又は(6)の反応を開始するものであれば、特に限定されないが、危険物として取り扱われることのない粒状又はタブレット状のもの、例えば、目開き2mmの網ふるいを通過しない形状のものが好ましく、粒径(3軸平均径)は2〜30mmが好ましく、3〜20mmがより好ましく、3〜15mmがさらにより好ましく、比表面積としては、100〜2000mm/gが好ましく、150〜1500mm/gがより好ましく、200〜1300mm/gがさらにより好ましい。
本発明において原料として使用される第二の形態の金属は、第一の形態の金属の過熱水蒸気による酸化反応に伴う熱により反応容器内で加熱下に保たれるので、自動的に反応容器内の過熱水蒸気又は飽和水蒸気と酸化反応を進行させて水素ガスを発生させるため、第一の形態の金属よりも反応性が低いものが用いられる。具体的には、第一の形態の金属よりも粒径(3軸平均径)が大きいか、比表面積が小さければよく、具体的な形態としては、インゴット状のものが挙げられる。インゴットの重量としては、酸化反応を長時間にわたり十分に進行させるために、一個あたり50g〜5000gが好ましく、一個あたり100g〜3000gがより好ましく、200g〜1500gがさらにより好ましい。インゴットの寸法としては、酸化反応を長時間にわたり十分に進行させるために、5mm以上×5mm以上×10mm以上が好ましく、比表面積としては、30〜95mm/gが好ましく、40〜85mm/gがより好ましく、50〜75mm/gがさらにより好ましい。
本発明において、反応容器内に収容する第一の形態の金属と第二の形態の金属の量は、重量比(第一の形態の金属:第二の形態の金属)で1:100〜1:10が好ましく、1:50〜1:20がより好ましく、1:40〜1:30が特に好ましい。この範囲では、第一の形態の金属の酸化反応により発生した熱エネルギーによって、第二の形態の金属の酸化反応の進行を助けるに十分な熱エネルギーが反応容器内に供給される。
本発明において、上記反応式(3)、(4)、(5)又は(6)の反応は、例えば、水蒸気取入口と気体の排出口を備えた反応容器中に第一の形態の金属と第二の形態の金属を一緒に収容し、水蒸気取入口から所定温度の過熱水蒸気を反応容器内に供給するとともに、気体の排出口から生成した水素と未反応の水蒸気との混合ガスを排出させることにより行うことができる。この時、第二の形態の金属よりも第一の形態の金属の方が反応性が高いので、第一の形態の金属が過熱水蒸気と優先的に反応し、上記のとおり、この反応に誘発されて第二の形態の金属の反応が進行する。
本発明において、上記のとおり、反応容器は上記反応中に水蒸気取入口と気体の排出口とが開口して、気体が流通しているため、反応容器内は実質的に常圧すなわち大気圧に保たれている。したがって、反応容器に供給する水蒸気は、過熱水蒸気であれ飽和水蒸気であれ、反応容器に導入できる程度に加圧されていればよい。また、着火時の第一の形態の金属との反応に用いられる過熱水蒸気の温度は、第一の形態の金属と接触して酸化反応を生起するに十分な温度であればよく、例えば、第一の形態の金属をその融点以上の温度に上昇させることができる温度であればよく、過熱水蒸気自体が融点以上の温度である必要はない。例えば、融点未満の過熱水蒸気であっても、第一の形態の金属の一部分にノズルから集中的に供給して熱エネルギーを伝達することにより、その部分が融点以上に加熱され、上記式(3)、(4)、(5)又は(6)の反応が開始できればよい。したがって、本発明において、過熱水蒸気の温度は、金属がMgの場合は、好ましくは600℃以上、より好ましくは650℃、さらにより好ましくは800〜1000℃であり、金属がAlの場合は、好ましくは600℃以上、より好ましくは660℃以上、さらにより好ましくは800〜1000℃であり、粒状の金属がFeの場合は、好ましくは1500℃以上、より好ましくは1535℃以上、さらにより好ましくは1600〜2000℃である。本発明において、反応容器に供給する過熱水蒸気は、上記の通り、反応容器に導入することができる程度に加圧されていればよく、通常、1MPa未満のいわゆる「高圧ガス」に属さないものが用いられる。過熱水蒸気の圧力としては、好ましくは0.98MPa以下、より好ましくは0.95MPa以下、さらにより好ましくは0.90MPa以下である。また、過熱水蒸気として、通常0.1〜0.5MPa程度、好ましくは0.1〜0.3MPa、より好ましくは0.1MPa以上0.2MPa未満の常圧過熱蒸気と呼ばれるものを使用してもよい。
第一の形態の金属と過熱水蒸気との反応が進行し、反応容器内の温度が上記反応に伴う熱により十分高温に維持されるに至った後は、反応容器に供給する過熱水蒸気の温度を例えば150〜550℃、好ましくは150〜300℃に低下させてもよく、また、過熱水蒸気に代えて飽和水蒸気を供給してもよい。また、着火時の第一の形態の金属との反応に用いられる過熱水蒸気は、容器内の設けられたノズルから第一の形態の金属の一部分に集中的に供給し、第一の形態の金属の酸化反応が安定化又は終了した後、または、反応容器内の温度が十分に高くなった後、ノズル以外の水蒸気取入口から、温度の低い過熱水蒸気を反応容器に供給してもよい。したがって、反応容器に供給する過熱水蒸気の温度は、反応容器内の温度を反応に適した温度を維持するように、反応容器内の温度をモニタリングしながら適宜調整してもよい。なお、本発明において、上記式(3)〜(6)の反応は、生成物を金属酸化物の状態に維持し、金属水酸化物まで酸化されるのを阻止する必要があるので、通常、反応容器内の温度は、金属水酸化物の還元温度以上に維持することが必要である。反応容器から取り出された金属水酸化物は乾燥保温容器で保存することが好ましい。
なお、本発明において、上記式(3)〜(6)の反応は、金属を融点以上に加熱すると直ちに進行し、金属は溶融と同時に水蒸気と反応して灰状の金属酸化物に変化する。したがって、本発明は、水蒸気との反応前に予め金属自体を溶融状態にして用意しておくことを要求するものではない。
本発明で使用する好ましい反応容器としては、例えば、図1に示す反応容器1が挙げられる。この反応容器1は、耐熱性及び耐圧性の高い材料で作られた円筒状の容器であり、その円形の底壁中央に入口11を備え、その円形の上壁中央に出口12を備え、円筒状の反応室13は、カーボンファイバー布製の通気性を有する2つの隔壁14a及び14bで仕切られ、出口12側の上室13aと中央の中間室13bと入口11側の下室13cに区切られている。そして、上室13aの隔壁14aの上には、タブレット状のMg、Al又はFe等の単体金属Mからなる第一の層15aが形成され、中間室13bの隔壁14bの上には、インゴット状のMg、Al又はFe等の単体金属Mからなる第二の層15bが形成されている。
また、図1では、ボイラBで発生した飽和水蒸気を過熱器SHで加熱して発生させた過熱水蒸気を上室13aに導入するための導管16aが反応容器13の側壁を貫通して設けられている。上記導管16の先端には、上室13aに配置されたタブレット状のMg、Al又はFe等の単体金属Mに過熱水蒸気を噴射するノズル17が取り付けられている。ノズル17は、そこから過熱水蒸気をタブレット状の単体金属Mの表面の一部分に集中的に噴射することにより、単体金属Mの当該一部分を十分高温(融点以上)に加熱できるものであればよい。そして、単体金属Mの当該一部分にて上記式(3)〜(6)で示されるような金属の酸化反応が発生し、この酸化反応により生じた熱により当該一部分の周辺部がより高温に加熱されることにより、上記酸化反応が周辺部に伝播し、水素が発生するとともに、反応室13内がさらに加熱される。この加熱に伴い、中間室13bに配置されたインゴット状のMg、Al又はFe等の単体金属Mの表面の一部分が高温(融点以上)に至ると同時に水蒸気と接触すると、当該一部分で、上記式(3)〜(6)で示されるような金属の酸化反応が発生する。したがって、例えば、導管16bから水蒸気を反応室13内に導入し続けると、上記と同様にして、この酸化反応は上記表面の一部分から周辺部に伝播し、最終的にはインゴット状の単体金属M全体に伝播し、反応室13内の単体金属Mの総てが金属酸化物になるまで、水素と熱が発生し続ける。発生した水素は、反応容器13の出口12から未反応の水蒸気とともに排出される。
このように、本発明では、タブレット状の単体金属Mのように、比表面積が大きい形態の第一の金属、すなわち、過熱水蒸気の熱エネルギーでより迅速に加熱され易い形態の金属を着火剤として使用して金属と過熱水蒸気との反応を開始させ、この反応で生じた熱及び水蒸気の熱の両者を利用して、インゴット状の単体金属Mのように、比表面積が小さい形態の第二の金属、すなわち、安価で密度が高く大量の水素を発生させることのできる形態の金属の酸化反応を誘発することとした点に特徴を有する。なお、図1の反応容器1では、ノズル17及び入口11が本発明の水蒸気取入口に相当し、出口12が排出口に相当する。着火時に導管16aから第一の形態の金属との反応のために供給される過熱水蒸気は反応を開始させるに十分高い温度を備える必要があるが、反応が開始した後は反応熱により反応容器内の温度が高まるので、より低温の過熱水蒸気又は飽和水蒸気を導管16a及び/又は導管16bから供給することとしてもよい。
図1では、出口12から排出される水素ガスと水蒸気は、適当な装置で混合ガスとして回収され、この混合ガスを100℃以下の温度に冷却して水蒸気を凝縮させて水として分離することにより、高純度の水素ガスを回収することができる。この混合ガスから水蒸気を分離して水素ガスを回収する装置としては、冷却機能を備えた気液分離装置等を使用することができる。
なお、反応容器1の外側に水等の冷媒を流通させるための冷却用のジャケット(図示せず)を設けることにより、反応容器1の内部温度を調節可能とするとともに、反応容器1で発生した熱エネルギーを回収できるようにしてもよい。また、反応容器1の壁をセラミックファイバー等の断熱材で断熱することにより、反応容器1の保温性や断熱性を高めてもよい。また、図示の例では、ノズル17は1つしか設けられていないが、同様のノズル17を反応容器内に複数設けることもできる。また、図示の例では、出口12は1つしか設けられていないが、複数の出口12を設けることもでき、例えば、1つの出口12を開口させ、その他の出口12は緊急時のパージ用として閉止しておいてもよい。また、図示の例で、ボイラBと過熱器SHは、水から直接シーズヒーター、ラジエントヒーター、誘導加熱(IH)ヒーター等の加熱装置により過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生装置(図示の破線枠内)で代替してもよく、この場合、大掛かりなボイラは不要となる点で好ましい。
本発明においては、水蒸気を発生させるための原料として用いる水として、できるだけ純度の高い水を使用することが好ましく、例えば、純水又は超純水と呼ばれる水を使用することが好ましい。水の純度は99%以上が好ましく、99.9%以上がより好ましく、99.99%以上が特に好ましい。25℃における水の電気抵抗率としては、0.1MΩ・cm以上が好ましく、1 MΩ・cm以上がより好ましく、10MΩ・cm以上のものが特に好ましい。本発明では、純度の高い水から生成した水蒸気を用いることにより、上記式(3)〜(6)の反応に有利であり、また、ボイラ、過熱器及び過熱水蒸気発生装置も保護され、生成される金属酸化物の純度も高くなるので、リサイクルする際にも有利である。本発明で、上記のような純水を製造するために、水道水から純水を製造できる純水製造装置Wを用いることができ、純水製造装置Wで製造した純水を上記過熱水蒸気発生装置(図示の破線枠内)に供給して過熱水蒸気を発生させ、この過熱水蒸気を導管16a及び16bから反応容器内に導入することができ、この場合、全体としてコンパクトで、水道水を利用できる場所であれば容易に設置可能な水蒸気発生システムを構築することができる。
以上のとおり、本発明の水素ガス製造システムによれば、Mg、Al又はFe等の単体金属Mを収容した反応容器に過熱水蒸気を導入するだけで簡単に水素ガスを連続的に製造できるだけでなく、反応容器や冷却塔で生成した熱エネルギーを回収してリサイクルでき、また、反応生成物である純度の高い金属酸化物を還元して原料としてリサイクルできるので、極めて効率良く水素ガスを製造することができる。また、反応生成物である金属酸化物は純度が高い(通常99.9%以上、好ましくは99.95%以上)ため、単体金属に還元することなくそのまま工業用原料や薬品として利用でき、また、石灰石膏法に代わる脱硫材や二酸化炭素吸着材としても利用することができる。
なお、本発明の原理に従えば、一つの反応容器に2種以上の単体金属、例えば、Mg及びAlを原料として導入し、上記反応式(4)及び(5)の反応を進行させて水素を製造することも可能である。しかしながら、この場合、反応生成物としてMgOとAlの混合物が得られるので、原料のリサイクルの観点からは、両金属を分離する工程等が必要となり煩雑になるので、好ましくない。
本発明の水素ガス製造方法及び装置は、燃料電池の水素源、水素自動車の燃料源、火力発電所や焼却炉における混焼用燃料源、その他の各種の水素源用に水素ガスを供給するため利用できる。
1 反応容器
11 入口
12 出口
13 反応室
14a,14b 隔壁
15a 第一の層
15b 第二の層
16a,16b 導管
17 ノズル
SH 過熱器
B ボイラ
W 純水製造装置

Claims (16)

  1. 金属を水蒸気と反応させて金属酸化物と水素と熱を生成させる反応を利用した水素ガス製造方法であって、反応容器中に比表面積の大きい第一の形態の金属と、前記第一の形態よりも比表面積の小さい第二の形態の金属とを収容し、前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を開始させるに十分な温度の過熱水蒸気を前記反応容器に導入することにより、前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を開始させた後、前記開始された反応に伴う熱により、前記第二の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を誘発し、前記2つの反応により発生した水素ガスを回収することを特徴とする水素ガス製造方法。
  2. 前記第一の形態の金属及び前記第二の形態の金属は、それぞれ独立に、Mg、Al及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記第一の形態の金属と前記第二の形態の金属は同一の金属である、請求項2に記載の方法。
  4. 前記第一の形態の金属は粒状又はタブレット状の金属であり、前記第二の形態の金属はインゴット状の金属である請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法。
  5. 前記反応容器内に、前記第一の形態の金属が配置された第一の層と、前記第二の形態の金属が配置された第二の層を設け、前記反応容器中に設けられたノズルから前記第一の層に配置された前記第一の形態の金属に前記過熱水蒸気を直接噴射することにより、前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を開始させる、請求項1に記載の方法。
  6. 前記第二の形態の金属と水蒸気との間の反応を、前記過熱水蒸気以下の温度の水蒸気を前記反応容器に導入して進行させる、請求項5に記載の方法。
  7. 前記2つの反応に使用する水蒸気は、純水由来の水蒸気である、請求項1乃至6の何れか1項に記載の方法。
  8. 前記2つの反応により生成した金属酸化物を前記金属に還元して、前記反応の原料又は他の用途にリサイクルすることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の方法。
  9. 金属を水蒸気と反応させて金属酸化物と水素と熱を生成させる反応を利用した水素ガス製造装置であって、
    比表面積の大きい第一の形態の金属と前記第一の形態よりも比表面積の小さい第二の形態の金属とを収容した反応容器を備え、前記反応容器は、
    前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を開始させるに十分な温度の過熱水蒸気を前記反応容器に取り入れるとともに、前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応が開始した後に水蒸気を取り入れて、前記開始された反応に伴う熱により加熱された前記第二の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を誘発させる水蒸気取入口と、
    前記2つの反応により発生した水素ガスを前記反応容器から排出する排出口と、
    を備えてなる水素ガス製造装置。
  10. 前記第一の形態の金属及び前記第二の形態の金属は、それぞれ独立に、Mg、Al及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項9に記載の装置。
  11. 前記第一の形態の金属と前記第二の形態の金属は同一の金属である、請求項10に記載の装置。
  12. 前記第一の形態の金属は粒状又はタブレット状の金属であり、前記第二の形態の金属はインゴット状の金属である請求項9乃至11の何れか1項に記載の装置。
  13. 前記反応容器内に、前記第一の形態の金属が配置された第一の層と、前記第二の形態の金属が配置された第二の層を備え、前記第一の層に配置された前記第一の形態の金属に前記過熱水蒸気を直接噴射することにより、前記第一の形態の金属と水蒸気との間の前記反応を開始できるように前記反応容器中に設けられたノズルを備える、請求項9に記載の装置。
  14. 前記水蒸気取入口は、前記第二の形態の金属と水蒸気との間の反応を進行させるために、前記過熱水蒸気以下の温度の水蒸気を前記反応容器に取り入れる、請求項13に記載の装置。
  15. 前記2つの反応に使用する水蒸気は、純水由来の水蒸気である、請求項9乃至14の何れか1項に記載の装置。
  16. さらに、前記2つの反応により生成した金属酸化物を前記金属に還元して、前記反応の原料又は他の用途にリサイクルすることを特徴とする請求項9乃至15の何れか1に記載の装置。
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