JP6676300B2 - 対象物移動方法及び装置 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば細胞凝集塊のような微小な対象物を容器間で移動させる方法、及びその装置に関する。
微小な対象物を移動させるために、管状通路を備えたシリンジと、前記管状通路内を進退移動するプランジャとからなるチップが用いられることがある。例えば医療や生物学的な研究の用途では、前記チップは、細胞凝集塊を貯留する第1容器から、その細胞凝集塊の培養、試験、検査若しくは観察等を行うための第2容器(例えばウェルプレート)へ移動させる際に用いられる。この場合、前記チップは、前記第1容器から培地液体と共に細胞凝集塊を吸引し、吸引した細胞凝集塊を含む培地液体を前記第2容器へ吐出する。
前記シリンジは、前記管状通路の一端に形成された先端開口を有する。前記プランジャが前記シリンジに対して上昇し、前記先端開口に吸引力を発生させることによって、チップは対象物を前記先端開口から吸引し、前記管状通路に一時的に貯留する。また、前記プランジャが下降し、前記先端開口に吐出力を発生させることによって、チップは貯留している対象物を前記先端開口から吐出する(例えば特許文献1参照)。
特開2009−34013号公報
上記のようなチップを用いた対象物の吸引及び吐出動作において、吸引された対象物が前記チップ内にトラップされてしまい、後の吐出動作において当該対象物が吐出できない場合がある。これは、シリンジの管状通路の内壁面とプランジャの周面との間に、対象物が挟まり込んでしまうことが要因である。
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、チップ内に一旦吸引された対象物が、当該チップ内にトラップされてしまうことなく、良好に吐出させることのできる対象物移動方法及び装置を提供することを目的とする。
本発明の一局面に係る対象物移動方法は、対象物を吸引する先端開口及び該先端開口に一端が連なる管状通路を有するシリンジと、前記管状通路内を進退移動するプランジャとを備えるチップを準備する工程と、所定の予備処理液中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて前記予備処理液を前記先端開口から前記管状通路内へ吸引させ、続いて前記プランジャを下降させて前記管状通路内へ吸引された前記予備処理液の一部を前記先端開口から吐出させるサイクルを所要回数実行させ、前記管状通路と前記プランジャとの間の空間に前記予備処理液を保持させる工程と、対象物を含む液体中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて、前記対象物を前記液体と共に前記管状通路内に吸引する工程と、前記プランジャを下降させて、前記対象物を前記液体と共に外部へ吐出させる工程と、を含むと共に、前記予備処理液を保持させる工程と前記対象物を吸引する工程との間に、前記シリンジの先端開口を空気中に配置し、前記プランジャを所定長さだけ上昇させて、前記先端開口付近の前記管状通路に空気層を形成する工程を含む。
この方法によれば、チップで対象物の吸引及び吐出を行う前に、シリンジの管状通路とプランジャとの間の空間に予備処理液を保持させる工程を含む。これにより、前記空間は予備処理液で予め満たされるようになり、その後の吸引する工程においてチップ内に導入された対象物は、容易に前記空間には入り込むことが出来なくなる。従って、チップ内に吸引された対象物が、シリンジとプランジャとの間に挟まれることが抑止されるので、対象物の吐出性を良好とすることができる。
また、前記予備処理液を保持させる工程と前記前記対象物を吸引する工程との間に、前記シリンジの先端開口を空気中に配置し、前記プランジャを所定長さだけ上昇させて、前記先端開口付近の前記管状通路に空気層を形成する工程を含む
この方法によれば、前記空気層が、予めチップ内に保持されている予備処理液と、その後に吸引される対象物を含む液体とを管状通路内において離間させるシール層として機能する。従って、吸引された対象物が前記予備処理液内へ移行してしまう可能性を排除することができる。また、前記予備処理液が前記液体と混合してしまうこと、あるいは、前記予備処理液が、前記吐出させる工程において前記第2容器へ吐出されてしまうこと、を防止することができる。
上記の空気層を形成する場合において、前記対象物を吸引する工程は、前記対象物を含む液体中に前記シリンジの先端開口を浸漬させた後、所定の距離だけ前記プランジャを上昇させることによって、前記先端開口付近において前記空気層の液体吐出方向下流側に前記液体を保持させる工程と、前記先端開口を前記対象物の上方近傍に位置させた後、所定距離だけ前記プランジャを上昇させることによって、前記対象物を前記先端開口から前記管状通路内に吸引させる工程と、を含むことが望ましい。
この方法によれば、前記微小距離のプランジャの上昇によって、前記先端開口付近に空気溜まりが生じていたとしても、これを排除することができる。そして、前記先端開口付近に微量の前記液体が保持された状態となるので、その後の対象物の吸引をスムースに行わせることができる。
上記の対象物移動方法において、前記対象物が細胞であり、前記液体が培地であることが望ましい。この方法によれば、本発明を医療や生物学的な研究の用途に適用することができる。
本発明の他の局面に係る対象物移動装置は、対象物を含む液体を貯留する第1容器と、前記対象物を受け入れる第2容器と、予備処理液を貯留する第3容器と、前記対象物を吸引する先端開口及び該先端開口に一端が連なる管状通路を有するシリンジと、前記管状通路内を進退移動するプランジャとを備えるチップと、前記チップが装着され、前記プランジャを進退移動させるロッドを備えたヘッドと、前記ヘッドを、前記第1容器、前記第2容器及び前記第3容器との間において移動させるヘッド移動機構と、前記ヘッド及び前記ヘッド移動機構の動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記ヘッドを前記第3容器の位置に移動させ、前記第3容器の予備処理液中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて前記予備処理液を前記先端開口から前記管状通路内へ吸引させ、続いて前記プランジャを下降させて前記管状通路内へ吸引された前記予備処理液の一部を前記先端開口から吐出させるサイクルを所要回数実行させ、前記管状通路と前記プランジャとの間の空間に前記予備処理液を保持させる第1制御と、前記ヘッドを前記第1容器の位置に移動させ、前記第1容器の液体中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて、前記対象物を前記液体と共に前記管状通路内に吸引する第2制御と、前記ヘッドを前記第2容器の位置に移動させ、前記プランジャを下降させて、前記対象物を前記液体と共に前記第2容器へ吐出させる第3制御と、前記第1制御と前記第2制御との間に、前記シリンジの先端開口を空気中に配置し、前記プランジャを所定長さだけ上昇させて、前記先端開口付近の前記管状通路に空気層を形成する第4制御と、を実行する。
この装置によれば、チップで対象物の吸引及び吐出を行う前に、前記制御部は、シリンジの管状通路とプランジャとの間の空間に予備処理液を保持させる第1制御を実行させる。これにより、前記空間は予備処理液で予め満たされるようになり、その後の第2制御においてチップ内に導入された対象物は、容易に前記空間には入り込むことが出来なくなる。従って、チップ内に吸引された対象物が、シリンジとプランジャとの間に挟まれることが抑止されるので、第3制御の実行時において対象物の吐出性を良好とすることができる。
また、前記制御部は、前記第1制御と前記第2制御との間に、前記シリンジの先端開口を空気中に配置し、前記プランジャを所定長さだけ上昇させて、前記先端開口付近の前記管状通路に空気層を形成する第4制御を実行する。
この装置によれば、前記空気層が、第1制御の実行によって予めチップ内に保持されている予備処理液と、その後の第2制御によって吸引される対象物を含む液体とを管状通路内において離間させるシール層として機能する。従って、吸引された対象物が前記予備処理液内へ移行してしまう可能性を排除することができる。また、前記予備処理液が前記液体と混合してしまうこと、あるいは、第3制御の実行時において前記第3容器へ吐出されてしまうことを防止することができる。
上記の対象物移動装置において、前記第1容器又は前記第2容器に貯留されている液体と、前記第3容器に貯留されている予備処理液とが、同一成分の液体であることが望ましい。
上記の方法では、予め予備処理液が吸引されるので、たとえ空気層を介在させる場合であっても、管状通路の内壁は当該予備処理液で濡れた状態となり得る。しかし、対象物を含んでいる液体と予備処理液とを実質的に同一成分の液体とすれば、両者が混合してしまったとしても何ら影響が生じないようにすることができる。
本発明のさらに他の局面に係る対象物移動装置は、対象物を含む液体を貯留する第1容器と、前記対象物を受け入れる第2容器と、予備処理液を貯留する第3容器と、前記対象物を吸引する先端開口及び該先端開口に一端が連なる管状通路を有するシリンジと、前記管状通路内を進退移動するプランジャとを備えるチップと、前記チップが装着され、前記プランジャを進退移動させるロッドを備えたヘッドと、前記ヘッドを、前記第1容器、前記第2容器及び前記第3容器との間において移動させるヘッド移動機構と、前記ヘッド及び前記ヘッド移動機構の動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記ヘッドを前記第3容器の位置に移動させ、前記第3容器の予備処理液中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて前記予備処理液を前記先端開口から前記管状通路内へ吸引させ、続いて前記プランジャを下降させて前記管状通路内へ吸引された前記予備処理液の一部を前記先端開口から吐出させるサイクルを所要回数実行させ、前記管状通路と前記プランジャとの間の空間に前記予備処理液を保持させる第1制御と、前記ヘッドを前記第1容器の位置に移動させ、前記第1容器の液体中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて、前記対象物を前記液体と共に前記管状通路内に吸引する第2制御と、前記ヘッドを前記第2容器の位置に移動させ、前記プランジャを下降させて、前記対象物を前記液体と共に前記第2容器へ吐出させる第3制御と、を実行する対象物移動装置において、前記対象物が細胞凝集塊であり、前記液体が細胞培養液であって、前記第1容器は、所定サイズの細胞凝集塊を選別するためのディッシュであり、前記第2容器は、前記細胞凝集塊を収容するウェルを備えたマイクロプレートであり、前記第3容器は、前記細胞培養液を貯留するリザーバーである。
この装置によれば、本発明を細胞凝集塊の選別及び移動を行う細胞移動装置に適用することができる。
本発明によれば、チップ内に一旦吸引された対象物が、当該チップ内にトラップされてしまうことなく、良好に吐出させることのできる対象物移動方法及び装置を提供することができる。
本発明に係る対象物移動方法において用いられるチップの一例としての、シリンダチップの断面図である。 (A)は、前記シリンダチップの構成部材であるシリンジの断面図、(B)はプランジャの断面図、(C)はシリンダチップの分解斜視図である。 前記シリンダチップによる細胞凝集塊の吸引動作の、比較例を示す断面図(一部の拡大図を含む)である。 前記シリンダチップによる細胞凝集塊の吐出動作の、比較例を示す断面図(一部の拡大図を含む)である。 本発明に係る対象物移動方法を実施するに際しての、部材のレイアウトを概略的に示す図である。 本発明に係る対象物移動装置の構成を概略的に示す図である。 (A)〜(C)は、前記対象物移動方法において、シリンダチップに予備処理液を保持させる工程を示す図である。 (A)〜(D)は、シリンダチップ内に空気層を形成する工程及び細胞凝集塊を吸引する工程を示す図である。 (A)〜(C)は、前記吸引する工程における好ましい前処理工程を示す図である。 (A)〜(C)は、シリンダチップから細胞凝集塊を吐出させる工程を示す図である。 本発明に係る対象物移動装置の一実施形態である、細胞移動装置の斜視図である。 ヘッドユニットの斜視図である。 前記細胞移動装置における、細胞移動ラインの構成要素を示す斜視図である。 ヘッド装置の制御構成を示すブロック図である。 前記細胞移動装置の動作を示すフローチャートである。 前記細胞移動装置の動作を示すフローチャートである。 前記細胞移動装置の動作を示すフローチャートである。 前記細胞移動装置の動作を示すフローチャートである。
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る対象物移動方法において用いられるチップの一例としての、シリンダチップの断面図である。シリンダチップ1は、微小な対象物、例えば細胞或いは細胞凝集塊を移動させるために用いられる部材であって、前記細胞凝集塊を細胞培養液等の培地と共に吸引、保持及び吐出する機能を備えている。本発明に係る対象物移動方法の説明の前に、このシリンダチップ1の構成について説明する。
シリンダチップ1は、細胞凝集塊の吸引経路となる管状通路2P(管状通路)を内部に備えるシリンジ2と、管状通路2Pを画定するシリンジ2の内周壁と摺接しつつ管状通路2P内を進退移動するプランジャ3とを備える。図2(A)はシリンジ2単体の断面図、図(B)はプランジャ3単体の断面図、図2(C)はシリンダチップ1の分解斜視図である。
シリンジ2は、大径の円筒体からなるシリンジ基端部21と、細径で長尺の円筒体からなるシリンジ本体部22と、基端部21と本体部22とを繋ぐテーパ筒部23とを含む。管状通路2Pは、シリンジ本体部22に形成されている。シリンジ本体部22の一端に形成された先端部2Tには、対象物の吸引口又は吐出口となる先端開口24が設けられている。この先端開口24に、管状通路2Pの一端が連なっている。シリンジ基端部21は、シリンジ本体部22の他端側に、テーパ筒部23を介して連設されている。
プランジャ3は、シリンジ2の管状通路2Pに挿通され、該管状通路2P内を進退移動する部材である。プランジャ3は、円筒体からなるプランジャ基端部31と、針状のプランジャ本体部32と、基端部31と本体部32とを繋ぐ半球部33と、プランジャ本体部32の突出先端であるプランジャ先端部34とを含む。
シリンジ基端部21は、円筒型の中空部2Hを備えている。プランジャ基端部31の外径は、中空部2Hの内径よりも所定長だけ小さく設定されている。プランジャ本体部32の外径は、管状通路2Pの内径よりも僅かに小さく設定されている。また、テーパ筒部23の内周面の形状は、半球部33の外周面の曲面形状に合致している。プランジャ基端部31が中空部2H内に収容され、プランジャ本体部32がシリンジ本体部22の管状通路2Pに挿通される態様で、シリンジ2に対してプランジャ3が組み付けられている。
図2(C)では、プランジャ3がシリンジ2から抜き出された状態を示しているが、図1では、プランジャ本体部32がシリンジ本体部22に最も深く挿通されている状態、つまりプランジャ3が最も下降した状態を示している。このとき、テーパ筒部23のキャビティに、半球部33が完全に受容された状態となる。プランジャ本体部32の長さは、シリンジ本体部22よりもやや長く、図1の状態では、先端開口24からプランジャ先端部34が突出している。また、シリンジ基端部21の内周面とプランジャ基端部31の外周面との間にはギャップが存在している。
プランジャ3は、図1の状態から、シリンジ2に対して上方向へ移動することができる。所定長だけ上方向にプランジャ3が移動すると、プランジャ先端部34は管状通路2Pの内部に没する。この際、先端開口24に吸引力を発生させ、該先端開口24の周囲の流体(例えば細胞凝集塊を含む細胞培養液)を管状通路2P内へ吸引することができる。この吸引の後、プランジャ3を下方向へ移動させると、管状通路2P内へ吸引された流体を先端開口24から吐出させることができる。
シリンダチップ1は、図1に端部部分を示すヘッド15に装着される。ヘッド15は、第1筒状ロッド151と、第1筒状ロッド151の外側に配置された第2筒状ロッド152と、第1筒状ロッド151の中空部内に配置されたプランジャロッド153(ロッド)とを備える。第2筒状ロッド152は固定的なロッドである一方、プランジャロッド153及び第1筒状ロッド151は、それぞれ独立して進退移動する。プランジャ基端部31には、円筒状の中空空間からなる装着孔3Hが備えられている。この装着孔3Hには、プランジャロッド153の端部が圧入される。プランジャ基端部31の上端面は、第1筒状ロッド151の下端面と対向している。シリンジ基端部21の中空部2Hには、不動の第2筒状ロッド152の端部が圧入される。プランジャロッド153が上下動することで、上述の通りプランジャ3が上下動する。第1筒状ロッド151は、ヘッド15からシリンダチップ1を取り外す場合に下降される。
上述の通り、プランジャ3のシリンジ2に対する相対的な上下方向の移動によって、シリンダチップ1内への対象物の吸引及びその吐出が行える。しかし、単純なプランジャ3の上下動だけでは、一旦シリンダチップ1内へ吸引した対象物を、良好に吐出できないケースが生じる。とりわけ、シリンダチップ1が最初に使用される際に、上記のケースが生じ易い。このケースについて説明する。
図3、図4は、シリンダチップ1による細胞凝集塊Cの吸引動作、吐出動作の、本実施形態に対する比較例を示す断面図(各々、図の一部E1、E2の拡大図を含む)である。図3において、容器101は、細胞凝集塊Cを含む細胞培養液Lmを貯留する容器である。図3では、シリンジ2の先端部2Tが容器101中の細胞培養液Lmに浸漬させた後に、プランジャ3が上昇された状態を示している。
シリンダチップ1が最初に使用される際、シリンジ本体部22内の管状通路2Pには液体が存在せず、乾いた状態である。つまり、管状通路2Pの壁面とプランジャ本体部32の周面との間には、空間(空気層)が存在している状態である。この状態で図3に示す吸引動作が実行されると、前記空間における毛細管現象や管状通路2Pの内部圧力などによって、吸引された細胞培養液Lmaが管状通路2Pを急激に上昇する現象が起きる。細胞培養液Lmaの急上昇に伴い、細胞凝集塊Cも急上昇する。結果として、細胞凝集塊Cが、シリンジ本体部22とプランジャ本体部32との間に挟まり込んでしまうことがある。
つまり、前記空間が存在するため必要量以上の細胞培養液Lmaがシリンダチップ1内へ流入してしまい、細胞凝集塊Cが意図していない管状通路2Pの上部領域まで移行する結果、細胞凝集塊Cがシリンジ本体部22とプランジャ本体部32との狭い隙間に入り込んでトラップされるものである。なお、小さいサイズの細胞凝集塊Cは、前記空間が液体で満たされていても、管状通路2P内における細胞培養液Lmaの液流によって、前記隙間に入り込んでしまう場合がある。
図4は、図3の状態から、細胞凝集塊Cを含む細胞培養液Lmaの吐出のために、プランジャ3を下降させた状態を示している。容器102は、細胞凝集塊Cを受け入れる容器であり、細胞培養液Lmが予め貯留されている。プランジャ3は、プランジャ先端部34が先端開口24から僅かに突出するまで下降されている。この下降の際に、シリンダチップ1内に吸引された細胞培養液Lmaは、容器102は吐出される。しかしながら、細胞凝集塊Cは、シリンジ本体部22とプランジャ本体部32との間で拘束されて、吐出されない場合がある。従って、シリンダチップ1を用いた、容器101から他の容器102への細胞凝集塊Cの移動が、企図する通りに行えない場合がある。
本実施形態では、細胞凝集塊Cがシリンダチップ1内でトラップされることのない、移動方法を提供する。図5は、本発明の対象物移動方法の一実施形態である、シリンダチップ1を用いた細胞移動方法を実施するに際しての、部材のレイアウトを概略的に示す図である。本実施形態では、シリンダチップ1と、第1容器11、第2容器12及び第3容器13の3つの容器とが準備される。
第1容器11は、対象物としての細胞凝集塊Cを含む液体L1を貯留する。第2容器12は、細胞凝集塊Cの移動先であって、液体L2を貯留し、第1容器11の細胞凝集塊Cを受け入れる。第3容器13は、予備処理液L3を貯留する。シリンダチップ1は、図中に矢印A11で示すように、第1、第2、第3容器11、12、13の上空を水平方向に移動し、また、矢印A12で示すように上下方向に移動可能に配置される。また、プランジャ3は、矢印A13で示すように、シリンジ2に対して相対的に上下方向へ移動する。
本実施形態の細胞移動方法は、上述のシリンダチップ1を準備する工程、及び、第1〜第3容器11〜13を準備する工程の他、順次行われる次の工程(1)〜(3)を備えている。
(1)予備処理液の保持工程;シリンダチップ1を第3容器13の位置に配置し、予備処理液L3中にシリンジ2の先端部2T(先端開口24)を浸漬すると共にプランジャ3を進退移動させ、シリンジ本体部22とプランジャ本体部32との間の空間に予備処理液L3を保持させる工程。
(2)細胞吸引工程;シリンダチップ1を第1容器11の位置に移動させ、液体L1中にシリンジ2の先端開口24を浸漬すると共にプランジャ3を上昇させて、細胞凝集塊Cを液体L1と共に管状通路2P内に吸引する工程。
(3)細胞吐出工程;シリンダチップ1を第2容器12の位置に移動させ、プランジャ3を下降させて、細胞凝集塊Cを液体L1と共に第2容器12(外部)へ吐出させる工程。
ここで、液体L1〜L3について説明する。液体L1は、細胞凝集塊Cの性状を劣化させないものであれば特に限定されず、細胞凝集塊Cの種類により適宜選定することができる。液体L1としては、たとえば基本培地、合成培地、イーグル培地、RPMI培地、フィッシャー培地、ハム培地、MCDB培地、BME培地、BGJB培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(これら培地を組合せても良い)、血清などの培地(細胞培養液)をもちいることができる。このほか、血清なしで培養する場合、血清の代用として、例えば、アルブミン、アミノ酸、トランスフェリン、脂肪酸、インスリンなどを適宜含有させた液体、冷凍保存前に添加するグリセロール、セルバンカー(十慈フィールド(株)製)等の細胞凍結液、ホルマリン、蛍光染色のための試薬、抗体、精製水、生理食塩水などを挙げることができる。たとえば、細胞凝集塊として生体由来の細胞であるBxPC−3(ヒト膵臓腺癌細胞)を用いる場合には、液体L1としてはRPMI−1640培地に牛胎児血清FBS(Fetal Bovine Serum)を10%混ぜたものに、必要に応じて抗生物質、ピルビン酸ナトリウムなどのサプリメントを添加したものを用いることができる。第2容器12に貯留される液体L2としても、上掲の液体を用いることができる。
第3容器13に貯留される予備処理液L3は、シリンダチップ1の使用開始前に、シリンジ本体部22とプランジャ本体部32との間の空間を予め埋めるための液体である。予備処理液L3として用いられる液体には特に限定はなく、例えば生理食塩水などを用いることができるが、上掲の培地を用いることが好ましい。とりわけ、予備処理液L3は、液体L1又は液体L2と実質的に同一成分の液体であることが望ましい。
同一の液体を用いる場合、第1容器11又は第2容器12に、第3容器13の機能を兼用させるようにしても良い。第1容器11に第3容器13の機能を兼用させる場合、予備処理液L3を保持させる工程は、例えば細胞凝集塊Cを吸引不能な位置において第1容器11中の液体L1に、シリンジ2の先端開口24を浸漬させ、吸引させれば良い。第2容器12に第3容器13の機能を兼用させる場合も同様である。
上記の細胞移動方法では、前記予備処理液の保持工程においてシリンダチップ1に予め予備処理液L3が吸引されるので、管状通路2Pの壁面は当該予備処理液L3で濡れた状態となり得る。しかし、液体L1、L2が細胞凝集塊Cの培地(細胞培養液)である場合、これらと予備処理液L3とを実質的に同一成分の液体とすれば、その後の細胞吸引工程並びに細胞吐出工程において両者が混合してしまったとしても、液体L1、L2の成分を変化させないようにすることができる。
図6は、本発明に係る対象物移動装置の一実施形態である、細胞移動装置40の構成を概略的に示す図である。細胞移動装置40は、上述のシリンダチップ1及び第1〜第3容器11〜13に加えて、ヘッドユニット14、ボールねじ141、第1モータM1、第2モータM2、第3モータM3及び制御部17を備える。ヘッドユニット14は、図1に示したヘッド15と、第2モータM2及び第3モータM3を内蔵しヘッド15が組み付けられたユニット本体16とを備える。ヘッド15は、シリンダチップ1が装着され、その内部にプランジャ3を進退移動させるプランジャロッド153を備えたヘッドである。
第1モータM1(ヘッド移動機構)は、ボールねじ141を軸回りに正逆回転駆動させる駆動力を発生するモータである。ボールねじ141には、図略のナット部材が係合されている。前記ナット部材は、ボールねじ141が回転駆動されることによって、左右方向に移動する。ヘッドユニット14は前記ナット部材に取り付けられている。すなわち、シリンダチップ1を搭載しているヘッドユニット14は、第1モータM1の駆動によって左右方向に移動される。ここでは、ヘッドユニット14は、第1〜第3容器11〜13の上空を移動可能である。
第2モータM2は、ヘッド15を、ユニット本体16に対して下降又は上昇させる駆動力を発生するモータである。第2モータM2の駆動によって、シリンダチップ1の先端部分が第1〜第3容器11〜13中の液体L1〜L3中に浸漬されるようヘッド15を下降させたり、前記浸漬後にヘッド15を上昇させたりすることができる。
第3モータM3は、プランジャロッド153を上下方向に進退移動させる駆動力を発生するモータである。第3モータM3の駆動によりプランジャロッド153が引き上げられ、プランジャが上昇すると、先端開口24には吸引力が発生し、液体L1〜L3を吸引・保持することが可能となる。一方、プランジャロッド153の引き下げによってプランジャ3を下降させると、先端開口24には吐出力が発生し、シリンダチップ1内に保持されている液体が吐出される。
制御部17は、第1〜第3モータM1〜M3の駆動を制御することによって、細胞移動装置40の動作を制御する。具体的には制御部17は、第1モータM1の駆動を制御することによって、ヘッドユニット14のボールねじ141上での移動動作、つまりはヘッド15の左右方向の位置決め動作を制御する。また、制御部17は、第2モータM2の駆動を制御することによって、ヘッド15を下降又は上昇させる動作を制御する。さらに、制御部17は、第3モータM3の駆動を制御することによって、プランジャ3の進退動作、つまりはシリンダチップ1による液体の吸引及び吐出動作を制御する。特に、本実施形態では、制御部17は、上記の予備処理液の保持工程を実行する第1制御と、細胞吸引工程を実行する第2制御と、細胞吐出工程を実行する第3制御を行う。以下、これらの各工程(制御)について詳細に説明する。
図7(A)〜(C)は、上記(1)の予備処理液の保持工程(第1制御)を示す図である。この工程の実行に際し、未使用のシリンダチップ1がヘッド15に取り付けられる。該シリンダチップ1は、図7(A)に示す通りの初期状態とされる。すなわち、シリンジ2に対して最も深くプランジャ3が下降され、プランジャ先端部34がシリンジ2の先端開口24から僅かに突出する状態とされる。その後、制御部17は、第1モータM1を駆動させて、シリンダチップ1が第3容器13の上空に位置するよう、ヘッドユニット14を移動させる。そして、制御部17は、第2モータM2を駆動させて、シリンジ2の先端部2Tが第3容器13内の予備処理液L3へ十分に浸漬されるまで、ヘッド15を下降させる。図7(B)は、この下降後の状態を示している。
しかる後、図7(C)に示すように、制御部17は第3モータM3を駆動させて、プランジャ3(プランジャロッド153)を上昇及び下降させる動作を、予めサイクルだけ実行させる。すなわち、プランジャ先端部34がシリンジ2内に没入するまで、所定距離だけプランジャ3を上昇させることで、予備処理液L3は先端開口24から管状通路2P内へ吸引される。次いで、プランジャ先端部34が先端開口24から突出するまでプランジャ3を下降させることで、管状通路2Pに吸引された予備処理液L3aの一部は、第3容器13へ吐出される。
このような吸引及び吐出のサイクルが所要回数(例えば1〜5サイクル程度)実行されることにより、シリンジ本体部22とプランジャ本体部32との間の空間に、吸引された予備処理液L3aが保持されるようになる。つまり、前記空間は予備処理液L3aで予め満たされるようになり、その後の細胞吸引工程においてシリンダチップ1内に導入されることになる細胞凝集塊Cは、容易に前記空間には入り込むことが出来なくなる。
図8(A)〜(D)は、上記(2)の細胞吸引工程を示す図である。特に、図8(A)、(B)は、管状通路2P内に空気層を形成する工程(第4制御)を、図8(C)、(D)は細胞凝集塊Cを吸引する工程(第2制御)を各々示している。制御部17は、図7(C)の状態から、第2モータM2を駆動させてヘッド15を上昇させ、図8(A)に示すように、シリンジ2の先端開口24を空気中に配置する。
次いで制御部17は、図8(B)に示すように、第3モータM3を駆動してプランジャ3を所定長さだけ上昇させる。これにより、先端開口24付近の管状通路2Pには、空気層Hが形成される。つまり、シリンダチップ1の吸引方向において、管状通路2Pの上流側には予備処理液L3aが存在し、最も下流側には空気層Hが存在する状態となる。この状態において、プランジャ先端部34は、空気層H中に位置している。
続いて制御部17は、第1モータM1を駆動させて、シリンダチップ1が第1容器11の上空に位置するよう、ヘッドユニット14を移動させる。この際、第1容器11に収容されている細胞凝集塊Cの鉛直上方に先端開口24が位置するように、シリンダチップ1の位置決めが為される。この位置決めには、例えば第1容器11の画像を撮像し、細胞凝集塊Cの存在位置を画像上で特定し、これを座標情報として制御部17が受け取る技術が適用できる。そして、制御部17は、第2モータM2を駆動させて、シリンジ2の先端部2Tが第1容器11内の液体L1に浸漬されるまで、詳しくは先端開口24が液体L1中の細胞凝集塊Cの真上近くに位置するまで、ヘッド15を下降させる。図8(C)は、この下降後の状態を示している。
しかる後、図8(D)に示すように、制御部17は第3モータM3を駆動させて、プランジャ3を所定距離だけ上昇させる。これにより、第1容器11の液体L1の一部と細胞凝集塊Cとが、先端開口24から管状通路2P内へ吸引される。管状通路2P内において細胞凝集塊Cは、吸引された液体L1a中を浮遊することになる。
この細胞吸引工程において、予め予備処理液L3aがシリンジ本体部22とプランジャ本体部32との間の空間に保持されているので、前述の毛細管現象や内部圧力などによって、液体L1が管状通路2Pを急激に上昇することはない。また、空気層Hが、予めシリンダチップ1内に保持されている予備処理液L3aと、その後に吸引される細胞凝集塊Cを含む液体L1aとを管状通路2P内において離間させるシール層として機能する。従って、吸引された細胞凝集塊Cが予備処理液L3a内へ移行することはない。このため、細胞凝集塊Cが、シリンジ本体部22とプランジャ本体部32との間に挟まり込んでしまうことを防止できる。さらに、空気層Hの存在によって、予備処理液L3aが液体L1と混合してしまうこと、あるいは、予備処理液L3aが、後段の細胞吐出工程において、第2容器12へ吐出されてしまうこと、を防止することができる。
図9(A)〜(C)は、上記細胞吸引工程における好ましい前処理工程を示す図である。この前処理工程は、第1容器11の液体L1中にシリンジ2の先端開口24を浸漬させた後、微小距離だけプランジャ3を上昇させることによって、先端開口24付近に微量の液体L1を保持させる工程である。図9(A)に示すシリンダチップ1の状態は、管状通路2Pの先端に空気層Hが形成された状態であり、上述の図8(B)に相当するものである。シリンダチップ1は第1容器11の上空に配置され、先端開口24は細胞凝集塊Cに位置合わせされている。
その後、制御部17は、図9(B)に示すように、第2モータM2を駆動させて、シリンジ2の先端部2Tが第1容器11内の液体L1の表層付近に浸漬されるまで、ヘッド15を下降させる。そして、図9(C)に示すように、制御部17は第3モータM3を駆動させて、プランジャ3を微小距離だけ上昇させる。これにより、図の一部E3の拡大図に示す通り、空気層Hは吸引方向上流側に少し移動すると共に、先端開口24付近の管状通路2Pに液体L1が少量だけ吸引される。図中の符号L11は、吸引された液体L1を示している。
シリンジ2の先端部2Tを液体L1に突入させると、管状通路2Pの先端が空気層Hで占められていることもあり、先端開口24付近に空気溜りが生じることがある。空気溜りが存在するまま、先端開口24を細胞凝集塊Cに接近させて吸引動作を実行させると、当該空気溜りが細胞凝集塊Cを押すなどして、適格な吸引が阻害される場合がある。しかし、図9(C)の通り、微小距離のプランジャ3の上昇動作を前置させることによって、先端開口24付近に空気溜まりが生じていたとしても、これを排除することができる。
しかる後、制御部17は、先ず第2モータM2を駆動させて先端開口24を細胞凝集塊Cに接近させ、次いで、第3モータM3を駆動させて、プランジャ3を所定距離だけ上昇させて、細胞凝集塊Cを先端開口24から管状通路2P内に吸引させる。つまり、上述の図8(C)、(D)の動作を実行させる。この場合、先端開口24付近の管状通路2Pに微量の液体L11が予め保持された状態、すなわち先端開口24が液体L11で閉塞された状態となっているので、細胞凝集塊Cの吸引をスムースに行わせることができる。
図10(A)〜(C)は、上記(3)の細胞吐出工程(第3制御)を示す図である。制御部17は、図8(D)の状態から、第2モータM2を駆動させてヘッド15を上昇させ、図10(A)に示すように、細胞凝集塊Cを保持しているシリンダチップ1を上昇させる。続いて制御部17は、第1モータM1を駆動させて、シリンダチップ1が第2容器12の上空に位置するよう、ヘッドユニット14を移動させる。そして、制御部17は、第2モータM2を駆動させて、シリンジ2の先端部2Tが第2容器12内の液体L2に浸漬されるまで、ヘッド15を下降させる。図10(B)は、この下降後の状態を示している。
次いで制御部17は、第3モータM3を駆動してプランジャ3を所定長さだけ下降させる。詳しくは、プランジャ先端部34が先端開口24から突出するまで、プランジャ3が下降される。これにより、図10(C)に示すように、シリンダチップ1に保持されていた液体L1a及び細胞凝集塊Cは、第2容器12の液体L2中に吐出される。以上の動作により、細胞凝集塊Cの第1容器11から第2容器12への移動が完了する。なお、この吐出動作において、プランジャ先端部34を先端開口24から突出させず、シリンジ2内に空気層Hを残存させる程度(図9(B)に示す程度)に、プランジャ先端部34を下降させても良い。例えば、液体L2が粘性の高い液体である場合、プランジャ先端部34をフル下降させて空気層Hまで吐出させると、当該液体L2内に気泡が残存してしまう懸念がある。このような場合は、上述の通り、プランジャ先端部34の下降度合いを調整することが望ましい。
以上の通りの本実施形態によれば、シリンダチップ1にて細胞凝集塊C(対象物)の吸引及び吐出を行う前に、シリンジ2の管状通路2Pの壁面とプランジャ3の周面との間の空間に予備処理液Lmaを保持させる工程を含む。これにより、前記空間は予備処理液Lmaで予め満たされるようになり、その後の細胞吸引工程においてシリンダチップ1内に導入された細胞凝集塊Cは、シリンジ2とプランジャ3との間に挟まれることがない。従って、細胞凝集塊Cがシリンダチップ1内にトラップされて吐出されないという問題は生じず、細胞凝集塊Cの吐出性を良好とすることができる。
続いて、上述の細胞移動装置40をより具現化させた実施形態について説明する。図11は、上述のヘッド15を複数備えた、マルチプルヘッド型の細胞移動装置4の斜視図である。図12は、複数のヘッド10が組み込まれたヘッドユニット61の斜視図である。細胞移動装置4は、支持フレーム41、支持フレーム41によって支持される基台42、基台42に組み付けられる細胞移動ライン50、基台42の上方に配置されるヘッドユニット61及び照明ユニット62、及び、基台42の下方に配置される撮像ユニット63を備えている。
支持フレーム41は、基礎フレーム411と、一対のサイドフレーム412とを含む。基礎フレーム411は、X方向に長い直方体形状のフレーム組立体であり、矩形の下層フレーム枠411Aと、その上の上層フレーム枠411Bとを含む。上層フレーム枠411Bの上面には、撮像ユニット63をX方向に移動させるためのガイドレール413が備えられている。基台42は、所定の剛性を有し、その一部又は全部が透光性の材料で形成され、上面視において基礎フレーム411と略同じサイズの有する長方形の平板である。
基台42の上には、フレーム架台43が立設されている。フレーム架台43は、X方向に延びる平板である上フレーム431及び中フレーム432を備える。上フレーム431の上面には、ヘッドユニット61をX方向に沿って移動させるための上ガイドレール433が組み付けられている。また、中フレーム432の上面には、照明ユニット62をX方向に沿って移動させるための中ガイドレール434が組み付けられている。
細胞移動ライン50は、細胞含有液から所望の細胞凝集塊を抽出し、これを所定の容器へ移動させる一連の細胞移動工程の実施に必要なエレメントが、X方向に配列されてなる。細胞移動ライン50は、細胞含有液を貯留する対象物ストック部51、分注チップストック部52、細胞含有液が分注され細胞凝集塊を選別するための細胞選別部53、チップストック部54、チップ撮像部55、選別された細胞凝集塊を受け入れる細胞移載部56、ブラックカバー載置部57、チップ廃棄部58及び予備処理部59を備えている。ここでは、細胞選別部53が、図5及び図6に示した第1容器11に相当する容器が配置される箇所、細胞移載部56が、第2容器12に相当する容器が配置される箇所、及び、予備処理部59が、第3容器13に相当する容器が配置される箇所である。
ヘッドユニット61は、ユニット本体611、ヘッド部612、Xスライダ613及びYスライダ614を含む。図12に示すように、ヘッド部612は、上記で説明したヘッド10の複数本、第1ノズル615及び第2ノズル616を備えている。本実施形態では、8本のヘッド10がX方向に一列に配列されている例を示している。ヘッド10の本数は任意であり、またX−Y方向にマトリクス状に配列されていても良い。第1ノズル615及び吸盤617付きの第2ノズル616は、上下動が可能にユニット本体611に組み付けられ、吸引力及び吐出力を発生するピストン機構を内部に備えている。ユニット本体611の内部には、図6に示した第2モータM2に相当するヘッドモータ171(図14)、及び、第3モータに相当するチップモータ172、及びこれらのための駆動伝達機構が内蔵されている。
Xスライダ613は、上ガイドレール433に対して組み付けられている。上ガイドレール433には、図6の第1モータM1に相当するX軸モータ441が付設されている。X軸モータ441の動作によって、Xスライダ613は上ガイドレール433上をX方向に移動する。Yスライダ614は、Y方向の一端(前端)においてユニット本体611を支持している。Yスライダ614は、Xスライダ613の上面に配置されたYレール(図11には現れていない)に対して組み付けられている。前記Yレールに付設されたY軸モータ442(図14参照)が動作することで、Yスライダ614及びユニット本体611はY方向に移動する。つまり、ヘッド部612は、ユニット本体611が上ガイドレール433及び前記Yレールに沿って移動することで、X方向及びY方向に移動自在である。従って、ヘッド部612は、基台42の上方において、細胞移動ライン50上を所定の移動経路に沿って移動することができる。
照明ユニット62は、専ら細胞選別部53及び細胞移載部56を上方から照明するために、基台42の上方に移動可能に配置されている。前記照明は、細胞選別部53又は細胞移載部56に保持されている細胞凝集塊を撮像ユニット63にて撮像する際に、透過照明として使用される。照明ユニット62は、照明光を発する照明器621、Xスライダ622及びホルダー623を含む。Xスライダ622は、中ガイドレール434に対して組み付けられている。中ガイドレール434には、照明ユニット駆動モータ443が付設されている。駆動モータ443の動作によって、Xスライダ622は中ガイドレール434上をX方向に移動する。ホルダー623は、照明器621を保持すると共に、図略の駆動装置によってXスライダ622に対してY方向に短距離だけ移動可能に組み付けられている。従って、照明器621は、基台42の上方において、X方向及びY方向に移動可能である。
撮像ユニット63は、細胞選別部53及び細胞移載部56に保持されている細胞凝集塊を基台42の下方から撮像するために、基台42の下方に移動可能に配置されている。さらに、本実施形態では、撮像ユニット63は、チップ撮像部55においてシリンダチップ1のヘッド15への装着状態を観察するためにも用いられる。撮像ユニット63は、カメラ631、落射照明器632、Xスライダ633及びホルダー634を含む。
カメラ631は、CCDイメージセンサと、該CCDイメージセンサの受光面に光像を結像させる光学系とを含む。落射照明器632は、カメラ631の撮像対象物が光の透過体でない場合や蛍光染色されている場合等に用いられる光源である。Xスライダ633は、支持フレーム41のガイドレール413に対して組み付けられている。ガイドレール413には、撮像ユニット駆動モータ444が付設されている。駆動モータ444の動作によって、Xスライダ633はガイドレール413上をX方向に移動する。ホルダー634は、カメラ631及び落射照明器632を保持すると共に、図略の駆動装置によってXスライダ633に対してY方向に短距離だけ移動可能に組み付けられている。従って、カメラ631は、基台42の下方において、X方向及びY方向に移動可能である。
図13は、基台42の図示を省き、細胞移動ライン50の構成要素を抜き出して示す斜視図である。図13には、上述のヘッドユニット61、照明ユニット62及び撮像ユニット63の配置位置も模式的に付記している。細胞移動ライン50は、X方向の上流側(図13の左端側)から順に、分注チップストック部52、対象物ストック部51、チップストック部54、チップ撮像部55、細胞選別部53及び予備処理部59、ブラックカバー載置部57、細胞移載部56及びチップ廃棄部58が一列に配列されてなる。これらの各部は、位置決め部材42Sによって、基台42上の位置が定められている。
対象物ストック部51は、分注元となる、多量の細胞凝集塊(対象物)が分散された細胞培養液を貯留する部位である。対象物ストック部51は、基台42上の所定位置に配置されたボックス511と、このボックス511で保持されたチューブ512と、ボックス511上に載置された蓋部材513とを備える。チューブ512は、上面が開口した円筒状容器であり、細胞凝集塊や夾雑物を含む細胞培養液を貯留する。蓋部材513は、チューブ512の開口を塞ぐための部材である。
分注チップストック部52は、複数個の分注チップ80を保管する部位である。分注チップ80は、細長いチューブ状の部材であり、第1ノズル615に嵌め込まれる上端部と、細胞培養液を吸引及び吐出する開口を端縁に備えた下端部とを備える。分注チップ80は、第1ノズル615に対して装着及び取り外しが可能である。分注チップ80は、第1ノズル615から吸引力が与えられることで、細胞培養液を吸引する一方、前記吐出力を与えられることで吸引した細胞培養液を吐出する。分注チップストック部52は、立設状態でマトリクス状に整列された分注チップ80を保持する保持ボックス521と、ボックス蓋部材523とを備えている。保持ボックス521の内部には、分注チップ80を整列保持するためのホルダー部材522が配置されている。
細胞選別部53は、各種サイズの細胞凝集塊や夾雑物を含む細胞培養液から、所望のサイズの細胞凝集塊を選別するための部位である。細胞選別部53は、ディッシュ64及び保持テーブル531を含む。ディッシュ64は、分注チップ80によって細胞凝集塊を含む細胞培養液が分注され、該細胞培養液を貯留することができる上面開口の容器である。保持テーブル531は、ディッシュ64を位置決めして保持する。
ディッシュ64は、先に図5及び図6で説明した第1容器11に相当する容器であり、上面側に細胞凝集塊を担持するための複数の凹部を備えたウェルプレートを含む。前記凹部の底部には貫通孔が設けられており、抽出対象となる細胞凝集塊は前記凹部で保持され、夾雑物等は前記貫通孔から落下する。このように細胞凝集塊と夾雑物との選別が行われるので、前記ウェルプレート上には細胞凝集塊だけが残存するようになる。前記凹部に担持された状態の細胞凝集塊の画像が、照明ユニット62の点灯下でカメラ631にて撮像される。これにより、吸引すべき細胞凝集塊の位置が特定される。
チップストック部54は、上述したシリンダチップ1の多数個を保持する部位である。シリンダチップ1は、ヘッド15に対して装着及び取り外しが可能である。シリンダチップ1は、上述のウェルプレートの凹部に担持された細胞凝集塊を吸引し、ヘッドユニット61の移動に伴い該細胞凝集塊を運搬し、これを細胞移載部56へ吐出する機能を果たす。チップストック部54は、立設状態でマトリクス状に整列された多数のシリンダチップ1を保持する保持ボックス541を備える。シリンダチップ1は、その上端部分が保持ボックス541の上端面から上方に突出した状態で、保持ボックス541に保持されている。つまり、Z方向に移動するヘッド15に対して装着が容易に行い得る状態で、シリンダチップ1は、保持ボックス541に保持されている。
チップ撮像部55は、ヘッド15に装着されたシリンダチップ1の画像が撮像される位置を提供するピットである。前記撮像は、撮像ユニット63によって行われる。前記撮像が行われる際、撮像ユニット63のカメラ631は、チップ撮像部55の直下に移動され、落射照明器632の照明下において、各シリンダチップ1の画像を撮像する。シリンダチップ1の画像並びに撮像時における焦点位置情報に基づき、シリンダチップ1の先端開口24のXYZ座標位置が求められる。当該座標位置と、予め定められた基準位置との差分から補正値が導出される。当該補正値は、ヘッド15の移動制御の際の補正値として利用される。
細胞移載部56は、細胞移動ライン50においてX方向の下流側端部付近に配置され、細胞選別部53のディッシュ64から吸引された細胞凝集塊の移動先となる部位である。細胞移載部56は、マイクロプレート65及び保持テーブル561を含む。マイクロプレート65は、図5及び図6で説明した第2容器12に相当する容器であり、上面が開口した多数の小さなウェル66が、マトリクス状に配列されたプレートである。マイクロプレート65は、透光性の部材、例えば透明プラスチックで形成されている。一般に、1のウェル66には、1の細胞凝集塊が収容される。従って、各ウェル66に収容された状態の細胞凝集塊を、カメラ631によって撮像することができる。また、ウェル66の配列ピッチは、一列に並んだヘッド15に装着されたシリンダチップ1群の配列ピッチと略同一に設定されている。これにより、一群のシリンダチップ1から同時にウェル66に細胞凝集塊を吐出させることが可能である。保持テーブル561は、マイクロプレート65を位置決めして保持する。
ブラックカバー載置部57は、細胞移載部56に被せられる第1ブラックカバー571と、細胞選別部53に被せられる第2ブラックカバー572とが載置される部位である。第1、第2ブラックカバー571、572は、遮光された状態で、ディッシュ64又はマイクロプレート65に担持された細胞凝集塊を撮像する際に用いられる遮光体である。例えば、細胞培養液に蛍光剤を添加し、細胞凝集塊を蛍光観察する際に、第1、第2ブラックカバー571、572は、保持テーブル531、561を覆い隠すように被せられる。
チップ廃棄部58は、細胞移動ライン50においてX方向の最も下流側端部に配置され、上述の吸引及び吐出動作を終えた使用後のシリンダチップ1及び分注チップ80が廃棄される部位である。チップ廃棄部58は、使用後のシリンダチップ1及び分注チップ80を収容するための回収ボックス581を含む。前記廃棄の際、シリンダチップ1又は分注チップ80を装備したヘッドユニット61が回収ボックス581の開口部582上に移動され、シリンダチップ1又は分注チップ80のヘッド部612からの取り外し動作が実行される。この取り外し動作により、シリンダチップ1又は分注チップ80は、開口部582を通して回収ボックス581に落下する。
予備処理部59は、細胞選別部53に対してY方向に隣接して配置され、予備処理液を貯留するリザーバー591が載置されている部位である。リザーバー591は、図5及び図6で説明した第3容器13に相当する容器であり、前記予備処理液は、先に説明した通り、ヘッド15に装着後、初使用の前のシリンダチップ1に吸引させる液体である。ここでは、予備処理液として細胞培養液が用いられる。リザーバー591は、チップストック部54に対してY方向に隣接して配置して、あるいは、チップ撮像部55と細胞選別部53との間にスペースを設けて配置しても良い。
図14は、ヘッドユニット61の制御構成を示すブロック図である。細胞移動装置4は、ヘッド15及びその内部のプランジャロッド153(図1)の上下方向の移動を制御するため、及び、ヘッドユニット61のX方向、Y方向及びZ方向の移動を制御するための、軸制御部170(制御部)を備える。軸制御部170は、上述のX軸モータ441及びY軸モータ442(ヘッド移動機構)、ヘッドモータ171、チップモータ172の駆動を制御する。
軸制御部170は、図6の第1モータM1に相当するX軸モータ441と、Y軸モータ442とを制御することによって、ヘッドユニット61のX方向及びY方向への移動を制御する。つまり、ヘッドユニット61が細胞移動ライン50上を所定の移動経路に沿って移動するよう、軸制御部170はX軸モータ441及びY軸モータ442を駆動する。
ヘッドモータ171は図6の第2モータM2に、チップモータ172は第3モータM3に各々相当するモータである。軸制御部170は、ヘッドモータ171の駆動を制御することによって、ヘッド15のZ方向における高さ位置を制御する。また、軸制御部170は、チップモータ172の駆動を制御することによって、プランジャロッド153を上下動させ、これによりシリンダチップ1への予備処理液の吸引、細胞凝集塊の吸引及び吐出動作などを制御する。この他、軸制御部170は、第1ノズル615及び吸盤617付きの第2ノズル616(図12)を上下動させる動作、及び、これらノズル615、616に吸引力及び吐出力を発生するピストン機構の動作も制御する。
続いて、細胞移動装置4の動作を、図11〜図14、及び図15〜図18に示すフローチャートに基づいて説明する。図15は、細胞移動装置4が実行する全体工程を示すフローチャートである。軸制御部170は、先ず分注動作を実行させる(ステップS1)。分注動作は、チューブ512にストックされている多量の細胞凝集塊Cが分散された細胞培養液を、所定量だけ吸引してディッシュ64に吐出させる動作である。
この分注動作のために軸制御部170は、次のA1〜A4の制御を順次実行させる。すなわち、(A1)ヘッドユニット61を分注チップストック部52上に移動させ、第1ノズル615に分注チップ80を装着させる、(A2)ヘッドユニット61を対象物ストック部51上に移動させ、チューブ512に貯留された、細胞凝集塊を含む細胞培養液を所定の分注量だけ分注チップ80内に吸引させる、(A3)ヘッドユニット61を細胞選別部53上に移動させ、分注チップ80内の前記細胞培養液をディッシュ64に吐出させる、及び、(A4)ヘッドユニット61をチップ廃棄部58上に移動させ、使用済みの分注チップ80を第1ノズル615から取り外し、回収ボックス581内に廃棄させる。
続いて、シリンダチップ1を用いた細胞移動動作が実行される。軸制御部170は、ヘッド15にシリンダチップ1を装着させる制御を行う(ステップS2)。具体的には、軸制御部170は、X軸モータ441及び必要に応じてY軸モータ442を駆動し、ヘッドユニット61をチップストック部54上に移動させる。この際、1つのシリンダチップ1に対して、1つのヘッド15が位置合わせされる。そして軸制御部170は、ヘッドモータ171を駆動して、前記位置合わせされたヘッド15を下降させ、該ヘッド15の先端にシリンダチップ1を装着させる。
この装着の後、ヘッドユニット61はチップ撮像部55へ移動され、ヘッド15に装着されたシリンダチップ1の撮像が行われる。該撮像によって、ヘッド15へのシリンダチップ1の装着状態が検知され、シリンダチップ1の先端開口24のXYZ座標が求められる。これにより、ヘッド15の先端位置に対する先端開口24の位置ズレが認識され、ヘッド15を移動させる際のXYZ座標補正値が得られる(ステップS3)。
しかる後、軸制御部170は、先に図7(A)〜(C)に基づいて説明したような、予備処理液の保持工程(第1制御)を実行する(ステップS4)。軸制御部170は、ヘッドユニット61を予備処理部59に移動させ、リザーバー591に貯留されている予備処理液をシリンダチップ1に吸引させる。
次に、ヘッド15に装着されたシリンダチップ1の使用回数が、予め定められた交換回数以下であるか否かが判定される(ステップS5)。通常、シリンダチップ1は、細胞凝集塊の吸引及び吐出動作のサイクルを1回〜50回程度実行したら交換する必要がある。これは、前記サイクルの実行によって、シリンダチップ1内に細胞の破片や夾雑物が残存し、目的とする細胞凝集塊の移動に支障を来すからである。
シリンダチップ1の使用回数が交換回数以下である場合(ステップS5でTES)、軸制御部170は、先に図8(A)〜(D)並びに図9(A)〜(C)に基づいて説明したような、細胞吸引工程(第2制御)を実行する(ステップS6)。続いて、軸制御部170は、先に図10(A)〜(C)に基づいて説明したような、細胞吐出工程(第3制御)を実行する(ステップS7)。
その後、細胞凝集塊が予め定められた指定個数だけ吐出されたか否かが確認される(ステップS8)。前記指定個数は、例えばマイクロプレート65が保有するウェル66の個数である。この場合、全てのウェル66に細胞凝集塊が移動されたことが確認されると、指定個数の吐出が完了したと判定され(ステップS8でYES)、処理を終える。シリンダチップ1の使用回数が交換回数に至った場合も(ステップS5でNO)、処理を終える。一方、指定個数の吐出が未だ完了していないと判定されると(ステップS8でNO)、ステップS5に戻って処理が繰り返される。すなわち、既にシリンダチップ1は予備処理液を保有しており管状通路2Pはウェットな状態であるので、予備処理液の保持工程はもはや行われない。
図16は、図15の予備処理液の保持工程(ステップS4)の詳細を示すフローチャートである。軸制御部170は、X軸モータ441及びY軸モータ442を駆動し、ヘッドユニット61を予備処理部59の上に移動させる。シリンダチップ1が装着されたヘッド15は、リザーバー591に貯留されている予備処理液に対向するよう位置決めされる(ステップS11)。また、プランジャ3がシリンジ2に最も深く挿通された図7(A)に示す状態とするため、軸制御部170はチップモータ172を駆動し、プランジャロッド153を下降させる(ステップS12)。
続いて、軸制御部170は、ヘッドモータ171を駆動させて、シリンジ2の先端部2Tがリザーバー591内の予備処理液に浸漬されるまで、ヘッド15(シリンダチップ1)を下降させる(ステップS13)。そして、軸制御部170は、チップモータ172を駆動させてプランジャ3を所定距離だけ上昇させる(ステップS14)。これにより、予備処理液はシリンジ2の先端開口24から管状通路2P内へ吸引される。引き続き軸制御部170は、今度はプランジャ3を所定距離だけ下降させる(ステップS15)。これにより、管状通路2Pに吸引された予備処理液の一部は、リザーバー591へ吐出される。この動作は、図7(C)において説明した通りである。
その後、軸制御部170は、ステップS14の吸引及びステップS15の吐出からなるサイクルが、予め定められた所定回数だけ実行されたか否かを確認する(ステップS16)。所定回数に至っていない場合(ステップS16でNO)、ステップS14に戻って処理が繰り返される。一方、所定回数に至っている場合(ステップS16でYES)、軸制御部170は、ヘッドモータ171を駆動させて、シリンダチップ1を上昇させ(ステップS17)、処理を終える。
図17は、細胞吸引工程(ステップS6)の詳細を示すフローチャートである。先ず軸制御部170は、先に図8(A)及び(B)に示したような、管状通路2P内に空気層を形成する工程(第4制御)を実行する(ステップS21)。具体的には、軸制御部170は、シリンダチップ1が空中に存在している状態において、チップモータ172を駆動してプランジャ3を所定長さだけ上昇させる。これにより、シリンジ2の先端開口24付近の管状通路2Pには、空気層Hが形成される。
続いて軸制御部170は、Y軸モータ442を駆動し、ヘッドユニット61を細胞選別部53のディッシュ64の上空に移動させる。このとき、シリンダチップ1が装着されたヘッド15の一つが、ディッシュ64中の一つの細胞凝集塊の鉛直線上に配置されるよう位置決めされる(ステップS22)。この際、先にステップS3で得た補正データが、ヘッド15の位置決めデータとして使用される。
その後、軸制御部170は、先に図9(A)〜(C)に示したような、前処理工程を実行する。すなわち、軸制御部170は、ヘッドモータ171を駆動させて、シリンジ2の先端部2Tがディッシュ64内の細胞培養液の表層付近に浸漬されるまで、ヘッド15を下降させる(ステップS23)。そして、軸制御部170はチップモータ172を駆動させて、プランジャ3を微小距離だけ上昇させる(ステップS24)。これにより、先端開口24付近の管状通路2Pに細胞培養液が少量だけ吸引される。
次に、軸制御部170は、先に図8(C)及び(D)に示したような、細胞凝集塊を吸引する工程を実行する。軸制御部170は、ヘッドモータ171を駆動してシリンダチップ1を下降させ、先端開口24をディッシュ64の細胞培養液中のへ浸漬させると共に、吸引ターゲットとする細胞凝集塊に接近させる(ステップS25)。そして、軸制御部170は、チップモータ172を駆動させて、プランジャ3を所定距離だけ上昇させて、前記細胞凝集塊を先端開口24から管状通路2P内に吸引させる(ステップS26)。しかる後、軸制御部170は、ヘッドモータ171を駆動させてシリンダチップ1を上昇させ(ステップS27)、処理を終える。
図18は、細胞吐出工程(ステップS7)の詳細を示すフローチャートである。軸制御部170は、X軸モータ441を駆動し、ヘッドユニット61を細胞移載部56のマイクロプレート65の上空に移動させる。このとき、シリンダチップ1が装着されたヘッド15の一つが、マイクロプレート65中の一つのウェル66の鉛直線上に配置されるよう位置決めされる(ステップS31)。
次に、軸制御部170は、先に図10(B)及び(C)に示したような、細胞凝集塊を吐出する工程を実行する。軸制御部170は、ヘッドモータ171を駆動してシリンダチップ1を下降させ、先端開口24をマイクロプレート65の細胞培養液中へ浸漬させると共に、ターゲットとする一つのウェル66に接近させる(ステップS32)。そして、軸制御部170は、チップモータ172を駆動させて、プランジャ3を所定距離だけ下降させて、吸引した細胞凝集塊を細胞培養液と共に先端開口24からウェル66に吐出させる(ステップS33)。しかる後、軸制御部170は、ヘッドモータ171を駆動させてシリンダチップ1を上昇させ(ステップS34)、処理を終える。
以上説明した細胞移動装置4では、予備処理液を貯留するリザーバー591を具備させる例を示したが、リザーバー591の容器としての機能を、他の容器に兼用させるようにしても良い。例えば、細胞選別部53が備えるディッシュ64には、細胞培養液が貯留されている。この細胞培養液を前記予備処理液として用いるようにしても良い。この場合、ディッシュ64に、予備処理液の保持工程においてシリンダチップ1を進入させる領域(細胞凝集塊Cが吸引されることのない領域)を設けることが好ましい。
この他、リザーバー591の機能を、細胞移載部56のマイクロプレート65に兼用させるようにしても良い。この場合も、予備処理液の保持工程においてシリンダチップ1を進入させる専用のポートを、マイクロプレート65に設けることが好ましい。さらに、未使用のシリンダチップ1をストックするチップストック部54の保持ボックス541に、予備処理液となる液体を貯留させるようにしても良い。
1 シリンダチップ
11 第1容器
12 第2容器
13 第3容器
14 ヘッドユニット
15 ヘッド
17 制御部
170 軸制御部(制御部)
2 シリンジ
2P 管状通路
2T 先端部
24 先端開口
3 プランジャ
4、40 細胞移動装置
441、442 X軸モータ、Y軸モータ(ヘッド移動機構)
591 リザーバー(第3容器)
64 ディッシュ(第1容器)
65 マイクロプレート(第2容器)
M1、M2、M3 第1モータ(ヘッド移動機構)、第2モータ、第3モータ

Claims (6)

  1. 対象物を吸引する先端開口及び該先端開口に一端が連なる管状通路を有するシリンジと、前記管状通路内を進退移動するプランジャとを備えるチップを準備する工程と、
    所定の予備処理液中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて前記予備処理液を前記先端開口から前記管状通路内へ吸引させ、続いて前記プランジャを下降させて前記管状通路内へ吸引された前記予備処理液の一部を前記先端開口から吐出させるサイクルを所要回数実行させ、前記管状通路と前記プランジャとの間の空間に前記予備処理液を保持させる工程と、
    対象物を含む液体中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて、前記対象物を前記液体と共に前記管状通路内に吸引する工程と、
    前記プランジャを下降させて、前記対象物を前記液体と共に外部へ吐出させる工程と、を含むと共に、
    前記予備処理液を保持させる工程と前記対象物を吸引する工程との間に、
    前記シリンジの先端開口を空気中に配置し、前記プランジャを所定長さだけ上昇させて、前記先端開口付近の前記管状通路に空気層を形成する工程を含む、対象物移動方法。
  2. 請求項1に記載の対象物移動方法において、
    前記対象物を吸引する工程は、
    前記対象物を含む液体中に前記シリンジの先端開口を浸漬させた後、所定の距離だけ前記プランジャを上昇させることによって、前記先端開口付近において前記空気層の液体吐出方向下流側に前記液体を保持させる工程と、
    前記先端開口を前記対象物の上方近傍に位置させた後、所定距離だけ前記プランジャを上昇させることによって、前記対象物を前記先端開口から前記管状通路内に吸引させる工程と、を含む対象物移動方法。
  3. 請求項1又は2に記載の対象物移動方法において、
    前記対象物が細胞であり、前記液体が培地である、対象物移動方法。
  4. 対象物を含む液体を貯留する第1容器と、
    前記対象物を受け入れる第2容器と、
    予備処理液を貯留する第3容器と、
    前記対象物を吸引する先端開口及び該先端開口に一端が連なる管状通路を有するシリン
    ジと、前記管状通路内を進退移動するプランジャとを備えるチップと、
    前記チップが装着され、前記プランジャを進退移動させるロッドを備えたヘッドと、
    前記ヘッドを、前記第1容器、前記第2容器及び前記第3容器との間において移動させるヘッド移動機構と、
    前記ヘッド及び前記ヘッド移動機構の動作を制御する制御部と、を備え、
    前記制御部は、
    前記ヘッドを前記第3容器の位置に移動させ、前記第3容器の予備処理液中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて前記予備処理液を前記先端開口から前記管状通路内へ吸引させ、続いて前記プランジャを下降させて前記管状通路内へ吸引された前記予備処理液の一部を前記先端開口から吐出させるサイクルを所要回数実行させ、前記管状通路と前記プランジャとの間の空間に前記予備処理液を保持させる第1制御と、
    前記ヘッドを前記第1容器の位置に移動させ、前記第1容器の液体中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて、前記対象物を前記液体と共に前記管状通路内に吸引する第2制御と、
    前記ヘッドを前記第2容器の位置に移動させ、前記プランジャを下降させて、前記対象物を前記液体と共に前記第2容器へ吐出させる第3制御と、
    前記第1制御と前記第2制御との間に、前記シリンジの先端開口を空気中に配置し、前記プランジャを所定長さだけ上昇させて、前記先端開口付近の前記管状通路に空気層を形成する第4制御と、を実行する、対象物移動装置。
  5. 請求項4に記載の対象物移動装置において、
    前記第1容器又は前記第2容器に貯留されている液体と、前記第3容器に貯留されている予備処理液とが、同一成分の液体である、対象物移動装置。
  6. 対象物を含む液体を貯留する第1容器と、
    前記対象物を受け入れる第2容器と、
    予備処理液を貯留する第3容器と、
    前記対象物を吸引する先端開口及び該先端開口に一端が連なる管状通路を有するシリンジと、前記管状通路内を進退移動するプランジャとを備えるチップと、
    前記チップが装着され、前記プランジャを進退移動させるロッドを備えたヘッドと、
    前記ヘッドを、前記第1容器、前記第2容器及び前記第3容器との間において移動させるヘッド移動機構と、
    前記ヘッド及び前記ヘッド移動機構の動作を制御する制御部と、を備え、
    前記制御部は、
    前記ヘッドを前記第3容器の位置に移動させ、前記第3容器の予備処理液中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて前記予備処理液を前記先端開口から前記管状通路内へ吸引させ、続いて前記プランジャを下降させて前記管状通路内へ吸引された前記予備処理液の一部を前記先端開口から吐出させるサイクルを所要回数実行させ、前記管状通路と前記プランジャとの間の空間に前記予備処理液を保持させる第1制御と、
    前記ヘッドを前記第1容器の位置に移動させ、前記第1容器の液体中に前記シリンジの先端開口を浸漬すると共に前記プランジャを上昇させて、前記対象物を前記液体と共に前記管状通路内に吸引する第2制御と、
    前記ヘッドを前記第2容器の位置に移動させ、前記プランジャを下降させて、前記対象物を前記液体と共に前記第2容器へ吐出させる第3制御と、を実行する対象物移動装置において、
    前記対象物が細胞凝集塊であり、前記液体が細胞培養液であって、
    前記第1容器は、所定サイズの細胞凝集塊を選別するためのディッシュであり、
    前記第2容器は、前記細胞凝集塊を収容するウェルを備えたマイクロプレートであり、
    前記第3容器は、前記細胞培養液を貯留するリザーバーである、対象物移動装置。
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