以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
図1は、本発明のある実施の形態に係るイオン注入装置100を概略的に示す上面図である。イオン注入装置100は、いわゆる高エネルギーイオン注入装置に適する。高エネルギーイオン注入装置は、高周波線形加速方式のイオン加速器と高エネルギーイオン輸送用ビームラインを有するイオン注入装置であり、イオンソース10で発生したイオンを加速し、そうして得られたイオンビームBをビームラインに沿って被処理物(例えば基板またはウェハ40)まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
図1には、イオン注入装置100のビームライン部の構成要素のレイアウトが示されている。イオン注入装置100のビームライン部は、イオンソース10と、被処理物にイオン注入処理をするための処理室21と、を備えており、イオンソース10から被処理物に向けてイオンビームBを輸送するよう構成されている。
図1に示すように、高エネルギーイオン注入装置100は、イオンを生成して質量分離するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームにする高エネルギー多段線形加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、基準軌道補正、エネルギー分散の制御を行うビーム偏向ユニット16と、分析された高エネルギーイオンビームをウェハ40まで輸送するビーム輸送ラインユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームを均一に半導体ウェハに注入する基板処理供給ユニット20とを備える。
イオンビーム生成ユニット12は、イオンソース10と、引出電極11と、質量分析装置22と、を有する。イオンビーム生成ユニット12では、イオンソース10から引出電極11を通してビームが引き出されると同時に加速され、引出加速されたビームは質量分析装置22により質量分析される。質量分析装置22は、質量分析磁石22a、質量分析スリット22bを有している。質量分析スリット22bは、質量分析磁石22aの直後に配置する場合もあるが、実施例では、その次の構成である高エネルギー多段線形加速ユニット14の入り口部内に配置している。質量分析装置22による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次の高エネルギー多段線形加速ユニット14に導かれる。
図2は、高エネルギー多段線形加速ユニット14の概略構成を含む全体レイアウトを示す平面図である。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置、すなわち、一つ以上の高周波共振器14aを挟む加速ギャップを備えている。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、高周波(RF)電場の作用により、イオンを加速することができる。
高エネルギー多段線形加速ユニット14は、高エネルギーイオン注入用の基本的な複数段の高周波共振器14aを備える第1線形加速器15aを備える。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、超高エネルギーイオン注入用の追加の複数段の高周波共振器14aを備える第2線形加速器15bを備えてもよい。高エネルギー多段線形加速ユニット14により、さらに加速されたイオンビームは、ビーム偏向ユニット16により方向が変化させられる。
高周波(RF)加速を用いたイオン注入装置においては、高周波のパラメータとして電圧の振幅V[kV]、周波数f[Hz]を考慮しなければならない。更に、複数段の高周波加速を行う場合には、お互いの高周波の位相φ[deg]がパラメータとして加わる。加えて、加速の途中や加速後にイオンビームの上下左右への広がりを収束・発散効果によって制御するための磁場レンズ(例えば、四極電磁石)や電場レンズ(例えば、電場四極電極)が必要であり、それらの運転パラメータは、そこを通過する時点でのイオンのエネルギーによって最適値が変わることに加え、加速電界の強度が収束・発散に影響を及ぼすため、高周波のパラメータを決めた後にそれらの値を決めることになる。
図3は、複数の高周波共振器先端の加速電場(ギャップ)を直線状に並べた高エネルギー多段線形加速ユニット及び収束発散レンズの制御部120の構成を示すブロック図である。
高エネルギー多段線形加速ユニット14には一つ以上の高周波共振器14aが含まれている。高エネルギー多段線形加速ユニット14の制御に必要な構成要素としては、オペレータが必要な条件を入力するための入力装置52、入力された条件から各種パラメータを数値計算し、更に各構成要素を制御するための制御演算装置54、高周波の電圧振幅を調整するための振幅制御装置56、高周波の位相を調整するための位相制御装置58、高周波の周波数を制御するための周波数制御装置60、高周波電源62、収束発散レンズ64のための収束発散レンズ電源66、運転パラメータを表示するための表示装置68、決定されたパラメータを記憶しておくための記憶装置70が必要である。また、制御演算装置54には、あらかじめ各種パラメータを数値計算するための数値計算コード(プログラム)が内蔵されている。
高周波線形加速器の制御演算装置54では、内蔵している数値計算コードによって、入力された条件を基にイオンビームの加速並びに収束・発散をシミュレーションし、最適な輸送効率が得られるよう高周波パラメータ(電圧振幅、周波数、位相)を算出する。また同時に、効率的にイオンビームを輸送するための収束発散レンズ64のパラメータ(Qコイル電流、またはQ電極電圧)も算出する。計算された各種パラメータは、表示装置68に表示される。高エネルギー多段線形加速ユニット14の能力を超えた加速条件に対しては、解がないことを意味する表示が表示装置68に表示される。
電圧振幅パラメータは、制御演算装置54から振幅制御装置56に送られ、振幅制御装置56が、高周波電源62の振幅を調整する。位相パラメータは、位相制御装置58に送られ、位相制御装置58が、高周波電源62の位相を調整する。周波数パラメータは、周波数制御装置60に送られる。周波数制御装置60は、高周波電源62の出力周波数を制御するとともに、高エネルギー多段線形加速ユニット14の高周波共振器14aの共振周波数を制御する。制御演算装置54はまた、算出された収束発散レンズパラメータにより、収束発散レンズ電源66を制御する。
イオンビームを効率的に輸送するための収束発散レンズ64は、高周波線形加速器の内部あるいはその前後に、必要な数が配置される。すなわち、複数段の高周波共振器14aの先端の加速ギャップの前後には交互に発散レンズまたは収束レンズが備えられている。また、第2線形加速器15bの終端の横収束レンズ64aの後方には追加の縦収束レンズ64bが配置され、高エネルギー多段線形加速ユニット14を通過する高エネルギー加速イオンビームの収束と発散を調整して、後段のビーム偏向ユニット16に最適な二次元ビームプロファイルのイオンビームを入射させるようにしている。
図1及び図2に示されるように、ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット28と、ステアリング(軌道補正)を提供する偏向電磁石30とを有する。なお、エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルター電磁石(EFM)と呼ばれることもある。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ウェハ40の方向へ向かう。
ビーム輸送ラインユニット18は、ビーム偏向ユニット16から出たイオンビームBを輸送するものであり、収束/発散レンズ群から構成されるビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルター38(最終エネルギー分離スリットを含む)とを有する。ビーム輸送ラインユニット18の長さは、イオンビーム生成ユニット12と高エネルギー多段線形加速ユニット14との長さに合わせて設計されており、ビーム偏向ユニット16で結ばれて、全体でU字状のレイアウトを形成する。
ビーム輸送ラインユニット18の下流側の終端には、基板処理供給ユニット20が設けられており、処理室21の中に、イオンビームBのビーム電流、位置、注入角度、収束発散角、上下左右方向のイオン分布等を計測するビームモニター、イオンビームBによるウェハ40の帯電を防止する帯電防止装置、ウェハ40を搬入搬出し適正な位置・角度に設置するウェハ搬送機構、イオン注入中ウェハ40を保持するESC(Electro Static Chuck)、注入中ビーム電流の変動に応じた速度でウェハ40をビームスキャン方向と直角方向に動かすウェハスキャン機構が収納されている。
このようにして、イオン注入装置100のビームライン部は、対向する2本の長直線部を有する水平のU字状の折り返し型ビームラインに構成されている。上流の長直線部は、イオンソース10で生成したイオンビームBを加速する複数のユニットから成る。下流の長直線部は、上流の長直線部に対し方向転換されたイオンビームBを調整してウェハ40に注入する複数のユニットから成る。2本の長直線部はほぼ同じ長さに構成されている。2本の長直線部の間に、メンテナンス作業のために十分な広さの作業スペースR1が設けられている。
このように各ユニットをU字状に配置した高エネルギーイオン注入装置100は、設置面積を抑えつつ良好な作業性が確保されている。また、高エネルギーイオン注入装置100においては、各ユニットや各装置をモジュール構成とすることで、ビームライン基準位置に合わせて着脱、組み付けが可能となっている。
また、高エネルギー多段線形加速ユニット14と、ビーム輸送ラインユニット18とが折り返して配置されるため、高エネルギーイオン注入装置100の全長を抑えることができる。従来装置ではこれらがほぼ直線状に配置されている。また、ビーム偏向ユニット16を構成する複数の偏向電磁石の曲率半径は、装置幅を最小にするように最適化されている。これらによって、装置の設置面積を最小化するとともに、高エネルギー多段線形加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間に挟まれた作業スペースR1において、高エネルギー多段線形加速ユニット14やビーム輸送ラインユニット18の各装置に対する作業が可能となる。また、メンテナンス間隔が比較的短いイオンソース10と、基板の供給/取出が必要な基板処理供給ユニット20とが隣接して配置されるため、作業者の移動が少なくてすむ。
図4は、ビーム輸送ラインユニット18の一部の概略構成を示す平面図である。ビーム偏向ユニット16(図1参照)によって必要なイオン種のみが分離され、必要なエネルギー値のイオンのみとなったビームは、ビーム整形器32により所望の断面形状に整形される。図示されるように、ビーム整形器32は、Q(四重極)レンズ等(電場式若しくは磁場式)の収束/発散レンズ群により構成される。整形された断面形状を持つビームは、ビーム走査器34により図4の紙面に平行な方向にスキャンされる。例えば、横収束(縦発散)レンズQF/横発散(縦収束)レンズQD/横収束(縦発散)レンズQFからなるトリプレットQレンズ群として構成される。ビーム整形器32は、必要に応じて、横収束レンズQF、横発散レンズQDをそれぞれ単独で、あるいは複数組み合わせて構成することができる。
ビーム走査器34は、周期変動する電場により、イオンビームの進行方向と直交する水平方向にイオンビームを周期的に往復走査させる偏向走査装置(ビームスキャナーとも呼ばれる)である。
ビーム走査器34は、ビーム進行方向に関して、イオンビームの通過域を挟むようにして対向配置された一対(2枚)の対向電極34a、34b(二極式偏向走査電極)を備え、0.5Hz〜4000Hzの範囲の一定の周波数で正負に変動する三角波に近似する走査電圧が、2枚の対向電極34a、34bにそれぞれ逆符号で印加される。この走査電圧は、2枚の対向電極34a、34bのギャップ内において、そこを通過するビームを偏向させる変動する電場を生成する。そして、走査電圧の周期的な変動により、ギャップを通過するビームが水平方向にスキャンされる。
ビーム走査器34の下流側には、イオンビームの通過域に開口を有するサプレッション電極74が2つのグランド電極78a、78bの間に配置されている。上流側には、走査電極の前方にグランド電極76aを配置しているが、必要に応じて下流側と同じ構成のサプレッション電極を配置することができる。サプレッション電極は、正電極への電子の侵入を抑制する。
スキャンハウジング内において、ビーム走査器34の下流側には、ビーム走査空間部34cが長い区間において設けられ、ビーム走査角度が狭い場合でも十分なスキャン幅を得られるように構成されている。ビーム走査空間部34cの下流にあるスキャンハウジングの後方には、偏向されたイオンビームを、ビーム走査偏向前のイオンビームの方向になるように調整する、つまり、ビームラインL1に平行となるように曲げ戻すビーム平行化器36が設けられている。
ビーム平行化器36で発生する収差(ビーム平行化器の中心部と左右端部の焦点距離の差)は、ビーム走査器34の偏向角の2乗に比例するので、ビーム走査空間部34cを長くして偏向角を小さくすることは、ビーム平行化器36の収差を抑えることに大きく寄与する。収差が大きいと、半導体ウェハにイオンビームを注入する際に、ウェハの中心部と左右端部とでビームサイズとビーム発散角が異なるため、製品の品質にバラツキが生じることがある。
また、このビーム走査空間部34cの長さを調整することによって、ビーム輸送ラインユニットの長さを、高エネルギー多段線形加速ユニット14の長さに合わせることができる。
ビーム平行化器36には、電場平行化レンズ84が配置されている。図4に示すように、電場平行化レンズ84は、略双曲線形状の複数の加速電極対と減速電極対で構成されている。各電極対は、放電が起きない程度の広さの加速・減速ギャップを介して向き合っており、加速減速ギャップには、イオンビームの加減速を引き起こす軸方向の成分と、基準軸からの距離に比例して強くなって、イオンビームに横方向の収束作用を及ぼす横成分とを併せ持つ電界が形成される。
加速ギャップを挟む電極対のうち下流側の電極と、減速ギャップの上流側の電極、及び、減速ギャップの下流側の電極と次の加速ギャップの上流側の電極とは、同一電位になるように、それぞれ一体の構造体を形成している。
電場平行化レンズ84の上流側から最初の電極(入射電極)と最後の電極(出射電極)は、接地電位に保たれている。これによって、平行化レンズ84通過前後で、ビームのエネルギーは変化しない。
中間の電極構造体において、加速ギャップの出口側電極と減速ギャップの入り口側電極には、可変式定電圧の負電源90が、減速ギャップの出口側電極と加速ギャップの入り口側電極には、可変式定電圧の正電源が接続されている(n段の時は負正負正負・・・)。これによって、イオンビームは加速・減速を繰り返しながら、ビームラインの基準軌道と平行な方向に段階的に向いていく。そして、最終的に偏向走査前のイオンビーム進行方向(ビームライン軌道方向)に平行な軌道に乗る。
図4に示されるように、ビーム平行化器36は、設計上のビーム基準軌道(例えば、図4に示すビームラインL1)上に焦点Fを有する。ビーム平行化器36に入射する複数のビーム軌道37a、37b、37cはそれぞれビーム基準軌道に対し異なる角度を有する。ビーム平行化器36は、複数のビーム軌道37a、37b、37cのそれぞれを入射角度に応じて異なる偏向角度で偏向し、それにより複数のビーム軌道37a、37b、37cがビーム基準軌道と平行になるように、設計されている。ビーム平行化器36は、所与のイオン注入条件(例えば目標ビームエネルギーを含む)に応じて予め定められた電気的入力(例えば電圧)を受けて作動する。
複数のビーム軌道37a、37b、37cは、ビーム基準軌道を含む一平面上にあり、この平面において焦点Fからビーム平行化器36へとそれぞれ異なる入射角度に方向付けられている。本実施の形態においては複数のビーム軌道37a、37b、37cはビーム走査器34によるスキャンの結果であるから、この平面は、ビーム走査器34のスキャン平面(xz面)に相当する。これらビーム軌道のいずれか(図4においてはビーム軌道37b)がビーム基準軌道に一致していてもよい。本実施の形態においてはビーム基準軌道はビーム平行化器36において偏向されずにビーム平行化器36を直進する。
本実施の形態に係るイオン注入装置100は、ビーム平行化器36の焦点Fがビーム走査器34の走査原点に一致するよう構成されている。よって、走査原点においてビーム走査器34によりスキャンされたビームは、電場平行化レンズ等を含むビーム平行化器36により収束され、スキャン前のイオンビーム進行方向(ビームライン軌道方向)に平行な偏向角0度の軸(基準軸)に対して平行になる。このとき、スキャン領域は、基準軸に関して左右対称になる。
ビーム平行化器36は上述のように、ビーム走査器34から入射するイオンビームを平行化するよう構成されており、ビーム輸送方向に垂直な平面においてビーム輸送方向に垂直なx方向(水平方向)に沿って広がるビーム通過領域をビーム平行化器36の下流に形成する。ビーム平行化器36は、例えば、静電式のビーム平行化器である。
図1に示されるように、イオン注入装置100には、ビームエネルギー測定装置200が設けられている。ビームエネルギー測定装置200は、平行度測定部202と、エネルギー演算部204と、を備える。平行度測定部202は、ビーム平行化器36を通るイオンビームについてビーム平行化器36の下流でイオンビームの平行度(以下、「ビーム平行度」または「平行度」ともいう)を測定するよう構成されている。平行度測定部202は、例えば、被処理物にイオン注入処理をするための処理室21に設けられている。
詳しくは後述するが、ビーム平行度は、イオンビームにおけるビーム角度誤差を表す指標である。例えば、ビーム平行度として、ビーム平行化器36を通る複数のビーム軌道37a、37b、37cにより定まる上記の平面においてビームラインL1に垂直な方向(x方向)に関するビーム角度の誤差を表す指標を用いてもよい。本実施の形態に係るビーム平行度は、設計上のビーム基準軌道に対するイオンビームの全体的な角度誤差を表すというよりも、イオンビームの局所部分間の相対的な角度誤差を表す。
平行度測定部202は、例えば、複数のスリットを有するダイバージェンスマスクと、ビーム電流を測定するプロファイラカップと、を備える。ダイバージェンスマスクは、ビーム平行化器36によって平行化されたスキャンビームをスリットを通じて制限する。プロファイラカップは、ダイバージェンスマスクから所定距離Lだけ離れて配置される。既存のイオン注入装置100の処理室21にはたいてい、プロファイラカップのようなビーム電流検出器が設けられている。そうした既存の検出器を流用することで、ビームエネルギー測定装置200を低コストに構成することができる。
平行度測定部202は、スキャン方向(x方向)に沿って位置の関数としてビーム電流を測定する。ビーム走査器34及びビーム平行化器36を通るイオンビームの中心がビームラインL1に一致する理想的な場合には、平行度測定部202は例えば、ビーム電流が最大になった位置と設計上電流が最大になると予想される位置の差δxおよび所定距離Lから平行度を算出してもよい。こうした平行度を測定するための構成についての詳細は後述する。
エネルギー演算部204は、測定された平行度からイオンビームのエネルギーを演算するよう構成されている。エネルギー演算部204は、目標ビームエネルギーに対するイオンビームのエネルギーずれ量をビーム平行度に基づいて演算する。エネルギー演算部204は、上述の制御部120の一部であってもよいし、それとは別個に設けられていてもよい。あるいは、エネルギー演算部204は、イオン注入装置100を制御するよう構成されている制御装置の一部であってもよいし、それとは別個に設けられていてもよい。
ところで、ビーム平行化器36はイオンビームの偏向または収束によりイオンビームを平行化するから、そうした平行化のために必要な偏向力または収束力はイオンビームのもつエネルギーに依存する。すなわち、エネルギーが大きいほど必要な偏向力または収束力も大きくなる。ビーム平行化器36の偏向力または収束力は、ビーム平行化器36への電気的入力(例えば、電場平行化レンズ84の場合、電圧)に応じて変化する。
したがって、イオン注入装置100においては、イオンビームの目標ビームエネルギーとそのイオンビームの平行化に必要なビーム平行化器36への電気的入力とを関係づけるビーム平行化器36の設定が予め定められている。所与のイオン注入条件(目標ビームエネルギーを含む)のもとで、この設定に従って定まる電気的入力がビーム平行化器36に与えられ、ビーム平行化器36は動作する。よって、ビーム平行化器36に入射するイオンビームのエネルギーが目標ビームエネルギーに一致すれば、図5(a)に示されるように、ビーム平行化器36はそのイオンビームを完全に平行化することができる。ビーム平行化器36の焦点距離を図5(a)においてはF0と表記する。
しかし、もしイオンビームのエネルギーが目標ビームエネルギーと異なっていたとすると、その目標ビームエネルギーに応じた設定のもとではビーム平行化器36によりイオンビームを完全に平行化することはできない。
例えば、イオンビームのエネルギーが目標ビームエネルギーより小さい場合には、ビーム平行化器36によってイオンビームが過剰に収束または偏向され、ビーム平行度が完全平行からずれてしまう。これは、図5(b)に示されるように、ビーム平行化器36の焦点Fをビーム平行化器36に近づけて焦点距離を小さくすることと等価である(F1<F0)。また、イオンビームのエネルギーが目標ビームエネルギーより大きい場合にはビーム平行化器36によるイオンビームの収束または偏向が不足し(ビームが発散し)、ビーム平行度は完全平行からずれてしまう。これは、図5(c)に示されるように、ビーム平行化器36の焦点Fをビーム平行化器36から遠ざけて焦点距離を大きくすることと等価である(F2>F0)。
このエネルギーずれと平行度ずれの関係は、平行化レンズ84周辺の電場計算およびイオンビームの軌道計算によって求めることができる。エネルギーがα倍になったとき、焦点距離はβ倍になるとする。あるαの値について、ビーム走査器34のスキャン範囲内のいくつかのスキャン角度それぞれに対応する平行化レンズ84からの出射角を計算することができる。これらスキャン角度(つまり平行化レンズ84への入射角)と平行化レンズ84からの出射角とから、当該エネルギー比αに対応する焦点距離比βを求められる。多数のエネルギー比αの値それぞれについて対応する焦点距離比βを求めることにより、エネルギー比αと焦点距離比βとの関係が得られる。本発明者の解析によると、エネルギー比αと焦点距離比βとは直線関係を有しており、すなわち、α=A・β+Bと表される(A、Bは定数)。なお、この関係はスキャン角度に依存しない。焦点距離比βは平行度のずれに相当するから、平行度を測定することによりエネルギー比αを計算することができる。
例えば、目標ビームエネルギーE0のイオンビームを平行化レンズ84に通すときの偏向角度(つまり入射角と出射角との差)をΦとするとき、実際に偏向された角度がΦ+δΦであったとする。理想的な場合としてイオンビームの中心がビームラインL1に一致しているとすると、ビーム平行度として角度ずれδΦを用いることができる。角度ずれδΦはエネルギーずれδEと比例する。つまり、δE=E0×(δΦ/Φ)である。エネルギー演算部204は、こうした既知の関係に従って、測定されたビーム平行度(すなわち角度ずれδΦ)をエネルギーずれ量δEへと換算する。
平行化レンズ84は、目標エネルギーE0のイオンビームを平行化するための偏向角度Φを実現するように、予め精密に設計されている。また、平行度は注入処理において主要なパラメータの1つであり、そのため平行度測定部202は平行度(すなわちδΦ)を正確に測れるよう構成されている。目標エネルギーE0は、行われる注入処理の仕様として決定される。したがって、ビームエネルギー測定装置200は、エネルギーのずれ量δEを、つまりイオンビームのエネルギーE0+δEを、精度よく求めることができる。
ビーム平行度の測定に関し、図5(b)及び図5(c)を参照して具体例を説明する。平行度測定部202は、イオンビームの複数のビーム部分について、ビーム基準軌道に垂直な方向(x方向)に関するビーム角度を測定する。ビーム平行度δΦは、複数のビーム部分のうち第1ビーム部分206のビーム角度δΦ1と第2ビーム部分208のビーム角度δΦ2との差を用いて定義される。例えば、δΦ=(δΦ1−δΦ2)/2と定義する。
第1ビーム部分206は、x方向においてイオンビームの外縁部に位置し、第2ビーム部分208は、x方向において第1ビーム部分206と反対側のイオンビームの外縁部に位置する。第2ビーム部分208はビームラインL1に関して第1ビーム部分206と対称である。測定点の間隔はx方向においてなるべく大きいことが望ましい。なぜなら、イオンビームがビーム平行化器36において収束または発散する場合、測定点どうしが離れているほうが角度差が大きくなる。よって、測定の感度が向上される。
図5(b)及び図5(c)にはイオンビームの中心がビームラインL1に一致するがイオンビームのエネルギーが目標ビームエネルギーと異なる場合を図示している。図5(b)に例示されるように、δΦ1=−δΦ2=ξであるとき、δΦ=(ξ−(−ξ))/2=ξである。また、図5(c)に例示されるように、δΦ2=−δΦ1=ξであるとき、δΦ=(−ξ−ξ)/2=−ξである。こうして得られたビーム平行度δΦをエネルギーずれδEに換算し、それを用いてイオンビームのエネルギーを求めることができる。
これに対して、図6には、イオンビームのエネルギーが目標ビームエネルギーに一致するがイオンビームの中心がビームラインL1から外れている場合を図示している。図6に例示されるように、δΦ1=δΦ2=ξであるとき、δΦ=(ξ−ξ)/2=0である。ビーム平行度δΦがゼロであるので、エネルギーずれδEもゼロである。つまり、第1ビーム部分206及び第2ビーム部分208にエネルギーずれは無く、イオンビームのエネルギーは目標ビームエネルギーに一致する。
ビーム平行度δΦがゼロであるので、第1ビーム部分206と第2ビーム部分208とはビーム平行化器36により平行化されている。しかし、図6からわかるように、ビーム平行化器36の上流でイオンビームはビームラインL1からずれているので、ビーム平行化器36の下流においても第1ビーム部分206と第2ビーム部分208とはそれぞれ設計上のビーム軌道から外れている(傾いている)。
ビーム平行度として、ある1つの測定点におけるビーム角度によって定義される量を用いることも可能である。しかし、その場合、図6に示されるようにイオンビームがビームラインL1からずれていたとすると、こうした軌道ずれに起因する誤差が測定ビーム角度に含まれることになる。その結果、不正確なビーム平行度が取得される。そうすると、そこから得られるエネルギーずれも不正確になる。
これに対して、図5(b)及び図5(c)に例示するように、2つの測定点におけるビーム角度差によって定義される量をビーム平行度として用いると、上述の軌道ずれによる誤差を排除することができる。軌道ずれによる誤差はイオンビームの局所部分間で共通する。言い換えれば、ビーム平行化器36の上流における軌道ずれによって、ビーム平行化器36の下流ではどのビーム部分にも同じ角度ずれが生じる。そのため、測定ビーム角度の差をとることにより、一方の測定ビーム角度に含まれる誤差と他方の測定ビーム角度に含まれる誤差することができる。こうして、ビーム部分間の相対的な角度ずれを正確に知ることができる。
ビーム角度の測定点は3つ以上であってもよい。平行度測定部202は、第1ビーム部分206、第2ビーム部分208、及び第3ビーム部分210を測定してもよい。図7(a)に例示するように、第1ビーム部分206及び第2ビーム部分208は上述のようにx方向において互いに反対側にあり、第3ビーム部分210はイオンビームの中心近傍にあってもよい。平行度測定部202による第1ビーム部分206、第2ビーム部分208、及び第3ビーム部分210のx方向測定位置をそれぞれ、X1、X2、X3とする。
平行度測定部202は、測定された3つのビーム角度δΦ1、δΦ2、δΦ3に基づいて、x方向位置に対するx方向ビーム角度の誤差分布を生成する。誤差分布は、公知の任意の方法(例えば最小二乗法)により求められる。誤差分布を図7(b)に例示する。ビーム平行度は、この誤差分布におけるx方向位置の変化量δxとそれに対応するx方向ビーム角度の変化量δΦとの比を用いて定義することができる。例えば、ビーム平行度は、比δΦ/δxと定義してもよい。つまり、ビーム平行度は、x方向の単位長さあたりの角度差であり、これは誤差分布の傾きである。
イオンビームに軌道ずれがあると、そのずれ量に応じて、測定された3つのビーム角度δΦ1、δΦ2、δΦ3が等しく増加または減少する。これは、図7(b)に示す誤差分布の平行移動に相当する。つまり誤差分布の傾きは不変である。よって、比δΦ/δxを用いてビーム平行度を定義することにより、ビーム平行度から軌道ずれによる誤差を排除することができる。
なお、このような誤差分布が、ビーム角度の測定点が2つである場合に生成されてもよい。この場合、2つのビーム部分のx方向測定位置と対応するx方向ビーム角度測定値から、比δΦ/δxが演算されてもよい。
図1を参照して説明したように、イオン注入装置100は、高エネルギー多段線形加速ユニット14、エネルギー分析電磁石24、及びエネルギー分析スリット28を備える。高エネルギー多段線形加速ユニット14による加速は原理的に、イオンビームにエネルギー分布を与える。イオン注入装置100は、高エネルギー多段線形加速ユニット14が適正なパラメータで動作する場合に、エネルギー分布の中心がスリットの中心に一致するように設計されている。スリット通過後のビームエネルギーは目標ビームエネルギーとなる。
ところが、適正なパラメータと若干異なるパラメータで高エネルギー多段線形加速ユニット14が動作する場合には、そのパラメータの違いによりイオンビームのエネルギーが若干増減する。そうすると、エネルギー分析電磁石24によるイオンビームの偏向角度が変わり、イオンビームのエネルギー分布の中心がエネルギー分析スリット28の中心からずれる。ビーム中心がスリット中心からずれたとすると、それに応じてスリット通過後のビームエネルギーは目標ビームエネルギーからずれることになる。
そこで、測定されたイオンビームのエネルギーは、高エネルギー多段線形加速ユニット14を制御するために使用されてもよい。例えば、制御部120は、演算されたイオンビームのエネルギーに基づいて、イオンビームが目標エネルギーを有するように高エネルギー多段線形加速ユニット14を制御してもよい。
この場合、制御部120は、少なくとも1つの高周波共振器14aにおける電圧振幅V[kV]を制御してもよい。電圧を制御することはイオンビームのエネルギーを直接操作することに相当する。好ましくは、少なくとも1つの高周波共振器14aは、最終段の高周波共振器を含む。こうして最終段の高周波共振器において電圧を制御することにより、イオンビームのエネルギーを容易に調整することができる。
あるいは、制御部120は、少なくとも1つの高周波共振器14aにおける高周波の位相φ[deg]を制御してもよい。位相を調整することにより、ビームが加速されるときに受け取るエネルギーの割合を変化させることができる。
このようにすれば、ビームエネルギーを精度よく調整することができる。よって、例えば、基板Wへの注入深さを精密に制御することができる。
制御部120は、測定されたエネルギーずれ量が予め定められた第1しきい値を超えるか否かを判定してもよい。制御部120は、エネルギーずれ量が第1しきい値を超える場合に、イオンビームのエネルギーを目標ビームエネルギーに近づくように補正するよう高エネルギー多段線形加速ユニット14を制御してもよい。制御部120は、エネルギーずれ量が第1しきい値を超えない場合には、イオンビームのエネルギーが許容範囲にあると判定してもよい。
また、制御部120は、測定されたエネルギーずれ量が予め定められた第2しきい値を超えるか否かを判定してもよい。制御部120は、エネルギーずれ量が第2しきい値を超える場合に、イオン注入処理を中断してもよい。第2しきい値は第1しきい値より大きくてもよい。第2しきい値は第1しきい値と等しくてもよい。制御部120は、測定されたエネルギーずれ量が予め定められたしきい値を超える場合に、イオン注入処理の中断またはエネルギーずれの補正を選択してもよい。
なお、制御部120は、エネルギーずれ量としきい値とを比較することに代えて、エネルギーずれ量から求まるイオンビームのエネルギーが予め定められた許容範囲にあるか否かを判定してもよい。また、制御部120に代えて、イオン注入装置100に関連するその他の制御装置がこれらの判定を実行してもよい。
図8は、本発明のある実施の形態に係るビーム測定方法を例示するフローチャートである。このビーム測定方法は、エネルギー測定ステップ(S10)と、制御ステップ(S20)と、を備える。この方法は、例えば、イオン注入処理の準備工程において、所定の頻度で繰り返し実行される。
エネルギー測定ステップ(S10)においては、まず、ビームエネルギー測定装置200の平行度測定部202を使用して、イオン注入装置100のビーム平行化器36の下流でイオンビームの平行度が測定される(S11)。次に、ビームエネルギー測定装置200のエネルギー演算部204を使用して、測定された平行度からイオンビームのエネルギーが演算される(S12)。
ビームエネルギー測定装置200または制御部120は、演算されたイオンビームのエネルギーが適正であるか否かを判定する(S15)。例えば、演算されたエネルギーが目標エネルギーに一致するとき、または演算されたエネルギーが目標エネルギー近傍の許容範囲にあるときは、イオンビームのエネルギーは適正であると判定される。演算されたエネルギーが適正である場合には(S15のY)、エネルギーの調整は不要であり、本方法は終了される。演算されたエネルギーが適正でない場合には(S15のN)、制御ステップ(S20)が実行される。
制御ステップ(S20)においては、演算されたイオンビームのエネルギーに基づいて、イオンビームが目標エネルギーを有するようにイオン注入装置100の高エネルギー多段線形加速ユニット14が制御される。高エネルギー多段線形加速ユニット14は、制御部120により制御される。
まず、演算されたイオンビームのエネルギーに基づいて、補正電圧が算出される(S21)。補正電圧は、イオンビームに目標エネルギーを与えるための最終段の高周波共振器におけるRF加速電圧の補正量である。次に、制御部120は、最終段の高周波共振器の電圧余力を確認する(S22)。つまり、最終段の高周波共振器が補正電圧を追加的に発生させることができるか否かが判定される。電圧余力が補正電圧を上回る場合には(S22のY)、補正電圧を発生させるよう最終段の高周波共振器が設定される(S23)。こうしてイオンビームのエネルギーが適正に調整され、本方法は終了される。なお、補正電圧を発生させるよう最終段の高周波共振器が設定された後に、エネルギー測定ステップ(S10)が実行され、演算されたイオンビームのエネルギーが適正であるか否かが再び判定されてもよい(S15)。
一方、最終段の高周波共振器に電圧余力が補正電圧より不足する場合には(S22のN)、イオンビームに目標エネルギーを与えるための代替処理が行われる(S24)。例えば、少なくとも1つの高周波共振器14aにおいて位相調整が行われる。あるいは、最終段の高周波共振器以外の高周波共振器においてRF加速電圧が調整されてもよい。なお、こうした代替処理と、補正電圧の一部を最終段の高周波共振器に設定することとを組み合わせることにより、イオンビームに目標エネルギーが与えられてもよい。こうして本方法は終了される。これらの調整後に、エネルギー測定ステップ(S10)が実行され、演算されたイオンビームのエネルギーが適正であるか否かが再び判定されてもよい(S15)。
図9には、本発明のある実施の形態に係るビームエネルギー測定装置200の一例を概略的に示す。上述のように、イオン注入装置100は、被処理物Wの表面にイオン注入処理をするよう構成されている。被処理物Wは、例えば基板であり、例えば半導体ウエハである。よって本書では説明の便宜のため被処理物Wを基板Wと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図していない。
イオン注入装置100は、ビームスキャン及びメカニカルスキャンの少なくとも一方により基板Wの全体にわたってイオンビームBを照射するよう構成されている。本書では説明の便宜上、設計上のイオンビームBの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。後述するようにイオンビームBを被処理物Wに対し走査する場合には走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。よって、ビームスキャンはx方向に行われ、メカニカルスキャンはy方向に行われる。
処理室21は、1枚又は複数枚の基板Wを保持し、イオンビームBに対する例えばy方向の相対移動(いわゆるメカニカルスキャン)を必要に応じて基板Wに提供するよう構成されている物体保持部(図示せず)を備える。図9において矢印Dによりメカニカルスキャンを例示する。また、処理室21は、ビームストッパ92を備える。イオンビームB上に基板Wが存在しない場合には、イオンビームBはビームストッパ92に入射する。
処理室21にはビームエネルギー測定装置200が設けられている。ビームエネルギー測定装置200は上述のように、平行度測定部202とエネルギー演算部204とを備える。平行度測定部202は、もとのイオンビームBを測定用イオンビームBmに整形するためのマスク102と、測定用イオンビームBmを検出するよう構成されている検出部104と、を備える。
図9に例示するように、基板WにイオンビームBが照射されるとき、マスク102及び検出部104はイオンビームBから外れた待避位置にある。このときマスク102及び検出部104にイオンビームBは照射されない。測定の際には、マスク102及び検出部104は、図示しない移動機構により、イオンビームBを横切る測定位置(図10参照)に移動される。このときマスク102は、イオンビームBの経路上において最終エネルギーフィルター38(図1参照)と検出部104との間にあり、検出部104は、イオン注入処理において基板Wの表面が置かれるz方向位置にある。
また、平行度測定部202は、イオンビーム測定処理を実行するための測定制御部106を備える。測定制御部106は、イオン注入装置100を制御するよう構成されている制御装置の一部であってもよいし、それとは別個に設けられていてもよい。エネルギー演算部204は測定制御部106の一部であってもよいし、それとは別個に設けられていてもよい。測定制御部106は、上述のようなマスク102及び検出部104の待避位置と測定位置との間の移動を司るよう構成されていてもよい。ある実施の形態においては、イオン注入装置100は、平行度測定部202による測定結果に基づいてイオン注入処理を制御するよう構成されていてもよい。
測定制御部106は、検出結果を表す検出部104の出力に基づいて、設計上の進行方向であるz方向に対して実際のイオンビームBの進行方向がなす角度を演算するよう構成されているビーム角度演算部108を備える。ビーム角度演算部108は、測定用イオンビームBmのyスリット110yを通過したビーム部分のx方向位置を用いてx方向ビーム角度を演算し、測定用イオンビームBmのxスリット110xを通過したビーム部分のy方向位置を用いてy方向ビーム角度を演算するよう構成されている。
図10は、図9に示す平行度測定部202を概略的に示す図である。図11は、図10に示す平行度測定部202をマスク102のy方向中央で切断してy方向から見た図である。図12は、図10に示す平行度測定部202をマスク102のyスリット110yのx方向位置で切断してx方向から見た図である。図13は、図10に示す平行度測定部202をマスク102のxスリット110xのx方向位置で切断してx方向から見た図である。
マスク102は、上流から供給されるイオンビームBを部分的に透過させ測定用イオンビームBmを生成するよう構成されている。測定用イオンビームBmは、yビーム部分112y及びxビーム部分112xを備える(図11ないし図13参照)。yビーム部分112yは、xy面においてy方向に細長い断面を有する。xビーム部分112xは、xy面においてx方向に細長い断面を有する。
マスク102は、イオンビームBを通過させる複数のスリット又は開口を有する板状の部材を備える。マスク102上の複数のスリットは、y方向に細長いyスリット110yと、x方向に細長いxスリット110xと、を含む。本書では、yスリット110yが形成されているマスク102の部分を「第1マスク部分」と称し、xスリット110xが形成されているマスク102の部分を「第2マスク部分」と称することがある。
図10に示されるマスク102は、もとのイオンビームBが入射するマスク102上の被照射領域に、3つの第1マスク部分及び2つの第2マスク部分を備える。これらの第1マスク部分及び第2マスク部分は、x方向に互い違いに配置されている。各第1マスク部分は1本のyスリット110yを備え、各第2マスク部分は1本のxスリット110xを備える。
よって、マスク102は、3本のyスリット110yと2本のxスリット110xとを有し、yスリット110yとxスリット110xとがx方向に互い違いに並んでいる。中央のyスリット110yは、イオンビームBが入射するマスク102上の被照射領域においてx方向中央に配置されている。残りの2本のyスリット110yはそれぞれ、マスク102上の被照射領域においてx方向端部に配置されている。一方、2本のxスリット110xは、y方向に関して同じ位置にあり、マスク102上の被照射領域においてy方向中央に配置されている。
yスリット110yは、yビーム部分112yに対応する形状を有する貫通孔である。従ってyスリット110yは、ある狭いスリット幅をx方向に有し、それよりも長いスリット長さをy方向に有する。一方、xスリット110xは、xビーム部分112xに対応する形状を有する貫通孔である。従ってxスリット110xは、ある狭いスリット幅をy方向に有し、それよりも長いスリット長さをx方向に有する。
yスリット110y及びxスリット110xのスリット長さはスリット幅よりも顕著に長く、スリット長さはスリット幅の例えば少なくとも10倍である。測定の精度を重視する場合にはスリット幅を狭くすることが望ましく、測定時間を短縮することを重視する場合にはスリット幅を広くすることが望ましい。yスリット110yのスリット長さはイオンビームBのy方向の幅に応じて定められる。
また、マスク102は、測定用イオンビームBmが検出部104に入射するとき隣接する2つのビーム部分が互いに分離されているように、隣接する2つのスリットの間隔が定められている。図11に示されるように、隣接するyビーム部分112yとxビーム部分112xとが検出部104のz方向位置において互いに重なり合わないように、隣接するyスリット110yとxスリット110xとのx方向の間隔が定められている。このようにすれば、マスク102から検出部104に各ビーム部分が達するまでに各ビーム部分の発散により、隣接するビーム部分が互いに混ざり合うことを避けることができる。
イオンビームBが第1マスク部分に照射されyスリット110yを通過することにより、yビーム部分112yが生成される。イオンビームBが第2マスク部分に照射されxスリット110xを通過することにより、xビーム部分112xが生成される。マスク102上のyスリット110y及びxスリット110xの配置に対応して、3本のyビーム部分112yと2本のxビーム部分112xとがx方向に互い違いに配列された測定用イオンビームBmが生成される。
検出部104による検出の間、マスク102は静止している。よって、yビーム部分112y及びxビーム部分112xは、もとのイオンビームBから切り出された特定の一部分に相当する。そのため、yビーム部分112y及びxビーム部分112xは、xy面におけるイオンビームBの特定の位置でのビーム角度を保持する。
検出部104は、yビーム部分112yのx方向位置を検出し、xビーム部分112xのy方向位置を検出するよう構成されている。検出部104は、測定用イオンビームBmを横切るようにx方向に移動可能である移動検出器を備える。検出部104のx方向への移動を図10において矢印Eにより例示する。検出器のx方向移動により、yビーム部分112yのx方向位置が検出される。また、検出部104は、y方向に配列された複数の検出要素114を備える。検出部104におけるxビーム部分112xの到達位置から、xビーム部分112xのy方向位置が検出される。
このようにして、検出部104は、移動検出器が測定用イオンビームBmを1回横切る間にyビーム部分112yのx方向位置及びxビーム部分112xのy方向位置を検出することができる。
検出部104または各検出要素114は、例えば、入射するイオンの量に応じて電流を生成する素子を備えており、あるいはイオンビームを検出可能である任意の構成であってもよい。検出部104または各検出要素114は、例えばファラデーカップであってもよい。また、図示される検出部104は5つの検出要素114が代表的に例示されているが、検出部104は典型的には、それより多数(例えば少なくとも10個)の検出要素114の配列を備えてもよい。
図11に示されるように、検出部104が測定用イオンビームBmを検出するためにx方向に移動するとき、例えばx方向位置xaにおいて、検出部104は、マスク102上のx方向端部のyスリット110yからのyビーム部分112yを受ける。また、検出部104は、例えばx方向位置xbにおいて、一方のxスリット110xからのxビーム部分112xを受ける。さらに、検出部104は、例えばx方向位置xcにおいて、x方向中央のyスリット110yからのyビーム部分112yを受ける。同様にして、検出部104は、例えばx方向位置xdにおいて他方のxスリット110xからのxビーム部分112xを受け、例えばx方向位置xeにおいてx方向端部のyスリット110yからのyビーム部分112yを受ける。
検出部104は、x方向移動の結果得られたx方向位置とビーム電流との関係をビーム角度演算部108に出力する。ビーム角度演算部108は、x方向位置とビーム電流との関係から、yビーム部分112yのx方向位置を特定する。ビーム角度演算部108は、例えば、yビーム部分112yに対応するビーム電流ピークのx方向位置を、そのyビーム部分112yのx方向位置と決定する。
図12に示されるように、yビーム部分112yは、y方向に並ぶいくつかの検出要素114にわたって入射する。そこで、本実施の形態においては、個々の検出要素114から出力されるビーム電流が合計され、その合計のビーム電流がyビーム部分112yのx方向位置を特定するために使用される。
知られているように、z方向における第1位置と第2位置との間でのx方向のビーム変位量と、第1位置と第2位置とのz方向距離との比から、x方向ビーム角度θxを演算することができる。検出中にマスク102は規定の場所に保持されるから、マスク102上の各スリットのz方向位置、及び当該z方向位置における各スリットのxy面内位置は既知である。また、検出部104のz方向位置も既知である。したがって、これら既知の位置関係と、検出されたyビーム部分112yのx方向位置とを用いて、x方向ビーム角度θxを演算することができる。
ここで、ビーム平行度は例えば、2つの測定点間の角度差δθ=θx1−θx2と定義してもよい。測定点の間隔はスキャン平面内でなるべく離れている方が望ましい。ビームが収束軌道あるいは発散軌道となった場合、計測位置がなるべく離れていた方が角度差が大きくなるため感度が高くなるからである。
yビーム部分112yのx方向の幅は、図11に示されるように、yスリット110yのx方向の幅に対応して細くなっている。したがって、yビーム部分112yに対応するビーム電流ピークのx方向位置の特定が容易である。また、yビーム部分112yは、図12に示されるように、yスリット110yに対応してy方向に幅広である。そのため、従前のように円形小孔を有するマスクを使用する場合に比べて、検出部104が受けるビーム電流を大きくとることができる。
同様に、z方向における第1位置と第2位置との間でのy方向のビーム変位量と、第1位置と第2位置とのz方向距離との比から、y方向ビーム角度θyを演算することができる。図13に示されるように、xビーム部分112xのy方向の幅はxスリット110xのy方向の幅に対応して細くなっている。xビーム部分112xは検出部104のある特定の検出要素114に到達し、その検出要素114のy方向位置をxビーム部分112xのy方向位置とみなすことができる。こうして検出されたxビーム部分112xのy方向位置と、マスク102と検出部104との既知の位置関係とを用いて、y方向ビーム角度θyを演算することができる。図11に示されるように、xビーム部分112xはxスリット110xに対応してx方向に幅広であるので、検出部104が受けるビーム電流を大きくとることができる。
このように、単一のマスク102にx方向スリット及びy方向スリットを形成することにより、1つのマスク102でx方向ビーム角度θx及びy方向ビーム角度θyを同時に測定することができる。
複数のyスリット110yをそれぞれx方向に異なる位置に設けることにより、イオンビームBのx方向ビーム角度θxのx方向分布を求めることができる。例えば、中央のyビーム部分112yから得られるx方向ビーム角度θxを、イオンビームBのx方向ビーム角度の代表値として用いることができる。また、x方向ビーム角度θxの均一性を表す指標として例えば、この代表値と、端部のyビーム部分112yから得られるx方向ビーム角度θxとの差を用いることもできる。
また、複数のxスリット110xをそれぞれx方向に異なる位置に設けることにより、イオンビームBのy方向ビーム角度θyのx方向分布を求めることができる。
上述の実施の形態においては、検出部104は一定速度でx方向に移動している。これには検出部104の動作が単純になるという利点がある。しかし、ある実施の形態においては、検出部104が受けるビーム電流量を大きくするために、検出部104は、移動検出器が測定用イオンビームBmを1回横切る間にその移動速度を調整するよう構成されていてもよい。例えば、移動検出器は、xビーム部分110xを受けるために減速し又は静止してもよい。具体的には例えば、移動検出器は、xビーム部分110xを受ける直前に減速し、そのxビーム部分110xを通過するまで減速を継続してもよい。あるいは、移動検出器は、xビーム部分110xを受ける位置で所定時間停止してもよい。
図14は、図9に示す平行度測定部202を用いる平行度測定処理の一例を説明するためのフローチャートである。まず、イオンビームが通過する位置にマスクがセットされる(S31)。この操作は機械的に行われる。マスクには上述のようにyスリット及びxスリットが設けられている。以降、本方法の終了までマスクはその位置に保持され、測定の間マスクは静止している。
次にイオンビームの照射が開始される(S32)。イオンビームがマスクのスリットを通過することにより、測定用イオンビームが準備される。測定用イオンビームは上述のように、イオンビーム進行方向に垂直であるy方向に長いyビーム部分と、前記進行方向及びy方向に垂直であるx方向に長いxビーム部分と、を備える。
続いて、ビーム角度が測定される(S33)。マスクを通過したイオンビームの到達位置が、検出部を使用して測定される。yビーム部分のx方向位置が検出され、xビーム部分のy方向位置が検出される。このとき、必要に応じて検出部が測定用イオンビームに対して移動される。検出されたx方向位置を用いてx方向ビーム角度(すなわち平行度)が演算され、検出されたy方向位置を用いてy方向ビーム角度が演算される。その後イオンビームの照射は終了され(S34)、最後にマスクのセットが解除される(S35)。マスクは待避位置へと戻される。こうして、本方法は終了する。
上述の実施の形態においては、イオン注入装置100は、静電型のビーム平行化器36を備えるが、本発明はこれに限られない。ある実施の形態においては、イオン注入装置100は、磁場型のビーム平行化器を備えてもよい。この場合、上記説明における電圧を磁場に置き換えることにより、同様にエネルギーを測定することが可能である。
また、ある実施の形態においては、測定されたイオンビームのエネルギーは、高エネルギー多段線形加速ユニット14以外のイオン注入装置100の構成要素を制御するために使用されてもよい。
ある実施の形態においては、イオン注入装置100は、リボンビームと呼ばれることもあるz方向に垂直な一方向に長い断面を有するイオンビームを処理室21に与えるよう構成されていてもよい。この場合、イオンビームは例えば、y方向の幅よりも長いx方向の幅を有する。よって、ビームエネルギー測定装置は、ビーム平行化器の下流でリボンビームの平行度を測定する平行度測定部と、測定された平行度からイオンビームのエネルギーを演算するエネルギー演算部と、を備えてもよい。
つづいて、高エネルギー多段線形加速ユニット14の高周波パラメータの調整方法について詳細に説明する。本実施の形態において、高エネルギー多段線形加速ユニット14は、n段(例えば18段)の高周波共振器を有する。例えば、前段の第1線形加速器15aは、m段(例えば12段)の高周波共振器を有し、後段の第2線形加速器15bは、n−m段(例えば6段)の高周波共振器を有する。各段の高周波共振器の間には静電圧が印加される電極(典型的にはグランド電極)が配置され、電極と高周波共振器の間のギャップにかかる電位差を利用し、そのギャップを通過するイオンビームが加速または減速される。各段の高周波共振器間に配置される電極は、Qレンズ(収束または発散レンズ)として機能させることも可能である。例えば、印加電圧を設定するためのQレンズパラメータを調整することで、高エネルギー多段線形加速ユニット14を通過するイオンビームのビームプロファイルを制御できる。Qレンズパラメータを適切に調整することで、例えば、高エネルギー多段線形加速ユニット14から出力されるビーム電流量が最大化されるように出力ビームを調整できる。
高エネルギー多段線形加速ユニット14は、各段の高周波共振器の電圧振幅、周波数および位相を定める高周波パラメータを調整することにより加速ユニット全体としての加速エネルギー量が制御される。高周波パラメータの値は、目標とするビームエネルギーを入力として所定のアルゴリズムを用いた最適化計算により演算される。例えば、高エネルギー多段線形加速ユニット14の光学配置を模擬したシミュレーションモデルに対して適当な高周波パラメータを設定し、高周波パラメータの値を変えながら出力エネルギーの値を演算する。これにより、目標とするビームエネルギーを得るための高周波パラメータが算出される。過去の最適化計算の実行結果があれば、その結果を利用して高周波パラメータを算出することも可能である。
なお、複数段の高周波共振器のうち最上段(例えば1段目および2段目)の高周波共振器は、静電圧の引出電極11によりイオンソース10から引き出された連続ビーム(DCビーム)を特定の加速位相に固める「バンチング(bunching)」を行う。したがって、最上段の高周波共振器は「バンチャー(buncher)」とも呼ばれる。バンチャーは、下流側の高周波共振器でのビーム捕獲効率を左右し、高エネルギー多段線形加速ユニット14から出力されるビーム電流量に大きく影響を及ぼす。高周波パラメータの最適化計算では、バンチャーの位相を変えながらシミュレーションすることにより、輸送効率が最適となる位相の組み合わせが導出される。
ところで、上述の最適化計算により得られた高周波パラメータに基づいて高エネルギー多段線形加速ユニット14を動作させたとしても、所望のビームエネルギーが得られないことがある。その原因はいくつか考えられるが、例えば、高周波共振器における高周波電極の製作誤差や取付誤差、高周波電極に印加される高周波電圧の振幅誤差などが挙げられる。ビームエネルギーの目標値と実測値の差が許容範囲内であればよいが、近年ではエネルギー精度に対する要求が高まっており、ビームエネルギーの値を許容範囲内に収めるために高周波パラメータの微調整が必要となる。このとき、上述の図8のS22の処理に示したように補正電圧の発生余力があれば、エネルギーの微調整が可能であるかもしれない。しかしながら、余力がなければエネルギーの微調整は容易ではなく、時間のかかる最適化計算を再度実行しなければならない。
そこで、本実施の形態では、複数段の高周波共振器のうち少なくとも最終段を含む一部の段の高周波共振器に対して、設計上の最大加速を与える高周波パラメータとは異なる値とする制約条件下で最適化計算を実行して暫定的な高周波パラメータを求める。ここで、「設計上の最大加速を与える高周波パラメータとは異なる値」とは、最大加速を与えるための最適値から意図的にずらしたパラメータ値のことである。最適値から意図的にずらしたパラメータを設定することで、エネルギーの微調整をするための調整余力を織り込むことができる。その結果、少なくとも最終段を含む一部の段の高周波共振器についてパラメータを調整するだけで、出力ビームのエネルギー値を微調整できる。したがって、本実施の形態によれば、時間のかかる最適化計算のやり直しをする必要がなくなり、エネルギー精度の高いビームをより簡便に得ることができる。
図15は、高周波共振器14aによるビームの加減速の原理を模式的に示す図である。高周波電極140は、円筒形状を有しており、円筒の内部をイオンビームBが通過する。高周波電極140には高周波電源138が接続されており、高周波パラメータに定める電圧振幅、周波数および位相の高周波電圧VRFが印加される。高周波電極140の上流側には第1電極142が配置され、高周波電極140の下流側には第2電極144が配置される。第1電極142および第2電極144には静電圧が印加され、例えばグランド電圧が印加される。第1電極142および第2電極144の内部には、Qレンズとして機能する四重極電極が設けられてもよい。四重極電極は、ビーム軌道と直交するx方向にビームを収束させる横収束(縦発散)レンズQF、または、y方向にビームを収束させる縦収束(横発散)レンズQDであってもよい。
高周波電極140と第1電極142の間には第1ギャップ146が設けられる。第1ギャップ146には、高周波電極140と第1電極142の電位差に起因した電界が発生する。同様に、高周波電極140と第2電極144の間には第2ギャップ148が設けられ、第2ギャップ148には高周波電極140と第2電極144の電位差に起因した電界が発生する。第1ギャップ146に位置するイオン132は、第1ギャップ146に生じる電界を受けて加速または減速される。同様に、第2ギャップ148に位置するイオン134は、第2ギャップ148に生じる電界を受けて加速または減速される。一方、高周波電極140、第1電極142および第2電極144の内部は実質的に等電位であるため、第1電極142、高周波電極140および第2電極144の内部を通過するイオン131,133,135は、実質的に加減速されない。
図16は、高周波電圧VRFの時間波形および高周波共振器14aを通過するイオンが受けるエネルギーの一例を模式的に示すグラフである。グラフに示す時刻t=t1,t2,t3,t4,t5は、図15に示すイオン131〜135が第1電極142、第1ギャップ146、高周波電極140、第2ギャップ148および第2電極144をそれぞれ通過する際の時刻に対応する。本明細書において、高周波電極140をイオン133が通過するとき(t=t3)の高周波電圧VRFの位相φ0のことを「加速位相」とも呼ぶ。加速位相の値は、高周波パラメータの値を変えることにより制御される。加速位相φ0が変わると、高周波共振器14aの通過によるビームの加減速エネルギーの量が変化する。したがって、加速位相φ0は、ビームエネルギーの値を制御する上で重要なパラメータの一つである。
図16は、加速位相がφ0=0°に設定される場合を示す。この場合、高周波電極140より上流の第1ギャップ146を通過する時刻t=t2では高周波電圧VRFが負の値(−VA)となり、高周波電極140より下流の第2ギャップ148を通過する時刻t=t4では高周波電圧VRFが正の値(+VA)となる。時刻t=t2のとき、高周波電極140の電位(−VA)より第1電極142の電位(グランド)が高いため、イオン132はその電位差VAに起因する加速エネルギーを得る。また、時刻t=t4のとき、第2電極144の電位(グランド)より高周波電極140の電位(+VA)が高いため、イオン134はその電位差VAに起因する加速エネルギーを得る。その結果、第1ギャップ146と第2ギャップ148の双方の通過により、合計で2VAの電圧に相当する加速エネルギーを得ることとなる。
なお、加速位相φ0を固定した場合、高周波共振器14aにより与えられる加速エネルギーの値は、高周波電圧VRFの電圧振幅と、第1ギャップ146から第2ギャップ148にイオンが到達するまでの位相差Δφgapとに依存する。位相差Δφgapは、高周波電極140の電極長L0、第1ギャップ146のギャップ長L1、第2ギャップ148のギャップ長L2、イオンの通過速度(平均速度v)、高周波電圧VRFの周波数fによって決まる。位相差Δφgapは、概略的に計算すれば、第1ギャップ146から第2ギャップ148までの通過時間τ≒(L0+L1/2+L2/2)/vに対応する。イオンの通過速度(平均速度v)は、イオンの質量およびエネルギーによって決まる。高周波線形加速器では、これら様々なパラメータを考慮して、所望の加速エネルギーが得られるように高周波共振器14aの高周波パラメータが決定される。
図17は、高周波電圧VRFの時間波形および高周波共振器14aを通過するイオンが受けるエネルギーの一例を模式的に示すグラフであり、加速位相がφ0=−45°に設定される場合を示す。高周波電圧VRFの振幅および周波数、第1ギャップ146から第2ギャップ148までの位相差Δφgapは図16と同じである。位相がずれることにより、第1ギャップ146(t=t2)では電位差VB1に起因する加速エネルギーが与えられ、第2ギャップ148(t=t4)では電位差VB2に起因する加速エネルギーが与えられ、合計でVB1+VB2の電圧に相当する加速エネルギーが得られる。この加速エネルギーは、図16の例で示した2VAの電圧に相当する加速エネルギーよりも小さい。
図18は、高周波電圧VRFの時間波形および高周波共振器14aを通過するイオンが受けるエネルギーの一例を模式的に示すグラフであり、加速位相がφ0=−90°に設定される場合を示す。高周波電圧VRFの振幅および周波数、第1ギャップ146から第2ギャップ148までの位相差Δφgapは図16と同じである。位相が90°ずれることにより、第1ギャップ146(t=t2)では電位差VCに起因する加速エネルギーが与えられる一方、第2ギャップ148(t=t4)では電位差−VCに起因する減速エネルギーが与えられる。その結果、合計として得られる加減速エネルギーは0となる。
このように、高周波共振器14aの加速位相φ0を調整することで、高周波共振器14aが与える加減速エネルギーの量を調整することができる。
図19は、加速位相φ0と加減速エネルギーEの関係の一例を模式的に示すグラフである。グラフの細線で示す曲線151,152は、それぞれ第1ギャップ146および第2ギャップ148における加減速エネルギーE1,E2を示し、太線で示す曲線150は、高周波共振器14aにおけるトータルでの加減速エネルギーE0(=E1+E2)を示す。グラフでは、合計での加減速エネルギーE0が正となる加速位相φ0の範囲(−90°≦φ0≦90°)を示している。
図示されるように、加速位相φ0=0°のときに得られる加速エネルギーが最大となり、加速位相φ0がずれるにしたがって得られる加速エネルギーが低下し、加速位相φ0=±90°で加速エネルギーが0となる。また、加速位相φ0=±60°のときに得られる加速エネルギーが最大値の半分となる。なお、図示しない加速位相φ0の範囲(−180°≦φ0<−90°、90°<φ0<180°)では、得られるエネルギーの正負が逆となり、イオンを減速させる負のエネルギーが与えられる。
図19に示されるグラフから、最適化計算により算出された加速位相がφ0=0、つまり、最大加速が得られる値であったとすると、加速位相φ0の調整によりエネルギー量を減らせたとしても増やすことはできない。つまり、高エネルギービームを得るために最大加速条件を設定しまうことは、エネルギーを微増する余力を削ぐことにつながる。一方、最大加速条件からずれた加速位相であれば、エネルギーを増やす方向にも減らす方向にも調整することが可能である。例えば、加速位相φ0の基準値(基準位相ともいう)を−90°から−30°の範囲(または30°から90°の範囲)のいずれかに設定すれば、一定程度の割合でエネルギーを増減させることができる。特に、基準位相を−60°(または+60°)に設定すれば、加速位相φ0の変更によりエネルギーの増減させる余力を大きくできるため好ましい。
なお、高周波パラメータの変更によるエネルギーの微調整は、複数段の高周波共振器のうち最終段の高周波共振器に対してなされることが好ましい。仮に、上流側の高周波パラメータを変更したとすると、パラメータ調整された高周波共振器より下流に位置する高周波共振器のパラメータの見直しが発生しうるためである。一方、最終段の高周波共振器であればそれより下流の高周波共振器が存在しないため、上流側のパラメータ変更に合わせて下流側のパラメータを調整する必要がなくなる。
例えば、高エネルギー多段線形加速ユニット14の高周波共振器の段数が18段であり、最上流の2段をバンチャーとして使用し、最下流の1段でエネルギー調整をし、残りの15段でイオンビームを加速させようとする場合、各段での加速エネルギー量は最終的なビームエネルギーの4%〜8%程度となる。このとき、最下段の高周波共振器の加速位相φ0を−60°(または+60°)に設定すれば、各段の加速エネルギー量の半分程度、つまり、±2%〜±4%程度の調整余力を与えることができる。
なお、1段分の調整余力では不十分と考えられる場合には、最終段を含む二段以上の高周波共振器を用いてエネルギー調整をしてもよい。この場合、二段以上の高周波共振器について加速位相φ0を最大加速条件からずれた基準値に設定し、ビームエネルギーの測定後に二段以上の高周波共振器の加速位相φ0を調整することにより最終的なビームエネルギーを調整してもよい。二段以上の高周波共振器に対するパラメータ調整は同時に実行してもよいし、別々に実行してもよい。例えば、最終段より手前(例えば17段目)に対する調整をしてから再度ビームエネルギーを測定し、その後に最終段(例えば18段目)に対する調整をしてビームエネルギーを確定させてもよい。
本実施の形態に係るエネルギー調整方法を用いる場合、最終段の加速エネルギーを制限しなければならないため、設計上の最大加速を得ることはできなくなる。そこで、エネルギー精度よりもビームエネルギーの絶対量が優先されるような場合には、最終段の加速位相φ0を最大加速条件とする制約条件下で最適化計算を実行してもよい。この場合、最終段にてエネルギーを増やす方向に微調整することは難しいが、可能な限り高エネルギーのビームを出力することが可能である。エネルギーの微調整が可能な第1モードと、エネルギーの微調整が困難であるが高エネルギーの出力が可能な第2モードとを用意しておき、ユーザがいずれのモードで高周波パラメータを設定するかを選択できるようにしてもよい。
高周波パラメータのうち、加速位相だけではなく、高周波電圧VRFの電圧振幅を変えることによりエネルギーを微調整できるようにしてもよい。例えば、最終段の高周波共振器の電圧振幅を設計上の最大値より低い値に設定し、ビームエネルギーの測定後に電圧振幅を変えることによりエネルギー調整をしてもよい。例えば、最終段の電圧振幅を設計上の最大値の半分とする制約条件下で最適化計算をすることにより、電圧振幅の変更による調整余力を持たせてもよい。この場合、加速位相と電圧振幅の双方を変更してビームエネルギーを調整してもよいし、電圧振幅のみ変更してビームエネルギーを調整してもよい。
高周波パラメータの調整を支援するため、最終段の高周波パラメータを基準値から段階的に変化させたときのビームエネルギーの変化量を算出してもよい。例えば、基準値である−60°の加速位相φ0に対し、位相値を10°刻みで−90°〜0°の範囲で変化させたときに得られるであろう複数のビームエネルギー値が算出される。このとき、複数のビームエネルギーは、最適化計算と同時にシミュレーションモデルを用いて算出されてもよいし、ビームエネルギーの実測値に対して図19に示すような加速位相と加速エネルギーの相関関係を適用することにより算出されてもよい。また、位相変化に対するビームエネルギーの変化量が相対的に大きい−90°〜−60°の範囲では段階数を増やして(例えば5°刻み)で計算を実行する一方、変化量が相対的に小さい−60°〜0°の範囲では段階数を減らして(例えば10°刻み)で計算を実行するようにしてもよい。その他、エネルギーの変化量が均等となるように加速位相φ0の刻み幅を設定してもよい。
制御演算装置54は、算出した複数のビームエネルギー値のうち目標値に近い値を選択し、選択したビームエネルギー値に対応する加速位相φ0の値に変更することでパラメータ調整を行ってもよい。制御演算装置54は、算出した複数のビームエネルギー値を表示装置68に表示し、ユーザによる選択操作が可能となるようにしてもよい。制御演算装置54は、選択肢として提示した複数のビームエネルギーのいずれかを選択する操作を入力装置52を通じてユーザから受け付け、受け付けたビームエネルギーの値に対応するパラメータを調整後のパラメータとして採用してもよい。
本実施の形態に係るエネルギー調整方法では、ビームエネルギーを高精度で調整するためにビームエネルギーを高精度で測定する必要がある。ビームエネルギーの測定方法は特に限定されないが、上述のビーム平行度の計測に基づくことで高精度でビームエネルギーを特定できる。その他、高エネルギー多段線形加速ユニット14から出力されるイオンビームの飛行時間(TOF;Time-of-Flight)の計測に基づいてビームエネルギーを特定してもよいし、ビーム照射されたウェハなどの対象物の特性X線のエネルギーを計測してビームエネルギーを特定してもよい。また、照射対象物の二次イオン質量分析(SIMS)プロファイルの計測に基づいてビームエネルギーを特定してもよい。
ビームエネルギーの調整が完了した場合、調整前とビームエネルギー量が変化しているため、高エネルギー多段線形加速ユニット14より下流に位置する機器の動作パラメータが最適化されていないことがある。例えば、エネルギー分析電磁石24や偏向電磁石30の磁場パラメータは、通過するビームエネルギーに応じて調整する必要がある。同様に、ビーム平行化器36や最終エネルギーフィルター38の電圧パラメータも調整が必要となりうる。そこで、ビームエネルギーの調整量に応じて、高エネルギー多段線形加速ユニット14より下流に位置する機器のパラメータを調整し、ビーム輸送がより最適化されるようにしてもよい。
つづいて、本実施の形態に係るイオン注入方法を説明する。図20は、実施の形態に係るイオン注入方法を例示するフローチャートである。制御演算装置54は、目標とするビームエネルギーを入力とし、複数段の高周波共振器のうち少なくとも最終段を含む一部の段の高周波共振器に対して最大加速を与える高周波パラメータとは異なる値とする制約条件下で各段の暫定的な高周波パラメータを演算する(S40)。制御演算装置54は、例えば最終段の高周波共振器の加速位相φ0を所定の基準値(例えば−60°または60°)とする制約条件下で目標とするビームエネルギーが得られるよう高周波パラメータを演算する。
次に、演算した暫定的な高周波パラメータにしたがって高エネルギー多段線形加速ユニット14を動作させてビームを出力し(S42)、ビーム電流量が最大化するように高エネルギー多段線形加速ユニット14の動作パラメータを調整する(S43)。ビーム電流量の調整は、少なくとも最終段を含む一部の段の高周波パラメータの値を最大加速を与える高周波パラメータの値とは異なる値に固定した条件下でなされる。例えば、バンチャーとなる最上流の高周波パラメータやQレンズパラメータを調整する一方で、最終段の高周波共振器の加速位相φ0は基準値から変更しないようにする。これにより、ビームエネルギーを微調整する余力が残された状態を維持したまま、得られるビーム電流量を最大化する。
次に、高エネルギー多段線形加速ユニット14から出力されるイオンビームのビームエネルギーを測定する(S44)。ビームエネルギーの測定値と目標値を比較したときの差が許容範囲から外れており、エネルギー調整が必要となる場合(S46のY)、最終段の高周波パラメータを調整して目標とするビームエネルギーが得られるようにする(S48)。例えば、ビームエネルギーが不足していれば、加速位相φ0を0°に近づけるように変更し、ビームエネルギーが過剰であれば、加速位相φ0を−90°または90°に近づけるように変更する。このとき、ビームエネルギーの調整量に応じて、高エネルギー多段線形加速ユニット14より下流の機器の設定値も適宜調整する。エネルギー調整の完了後、調整された高周波パラメータにしたがってイオンビームを出力し、イオン注入処理を実行する(S50)。なお、ビームエネルギーの測定値と目標値の差が許容範囲内であり、エネルギー調整が不要となる場合(S46のN)、S48の処理をスキップして演算された高周波パラメータにしたがって出力されるイオンビームによりイオン注入処理を実行する(S50)。
本実施の形態によれば、あらかじめ調整余力が織り込まれるように暫定的な高周波パラメータを演算することができる。その結果、ビームエネルギーの測定値と目標値の間に許容範囲を超える誤差が生じたとしても、あらかじめ用意しておいた調整余力を用いて高精度にエネルギー値の調整ができる。したがって、ビームエネルギーを合わせ込むために時間のかかる最適化計算を何度も実行する必要がなくなり、調整にかかる時間や手間を低減させることができる。これにより、多段式の線形加速器から出力されるビームエネルギーの値を高精度かつ簡便に調整することができる。
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
上述の実施の形態では、制御演算装置54による最適化計算によりエネルギー調整前の暫定的な高周波パラメータを決定する場合について示した。変形例においては、最適化計算を都度実行するのではなく、エネルギー調整前の高周波パラメータとして所定のパラメータセットが外部から入力されてもよい。このパラメータセットは、イオン注入装置100の外部であらかじめ計算されたものであってもよいし、イオン注入装置100が過去に実行した最適化計算で求められたものであってもよい。調整前のパラメータとして少なくとも最終段を含む一部の段について最大加速条件とは異なる値のパラメータセットを用いることにより、上述の実施の形態と同様のエネルギー調整が可能となる。
上述の実施の形態では、イオン注入に用いるビームエネルギーの値を注入処理中において一定の目標値に調整する方法について示した。変形例においては、1枚のウェハに対してなされる注入処理中においてビームエネルギーの値を可変とするために最終段の高周波パラメータが調整されてもよい。例えば、ウェハ表面の注入位置に応じて最終段の高周波共振器の加速位相φ0の値を変化させ、注入位置に応じて異なるエネルギーのビームが照射されるようにしてもよい。
この場合、制御装置は、ウェハ表面の注入位置に応じて加速位相φ0の値を変化させる可変パラメータを決定してもよい。可変パラメータには、加速位相φ0が時間経過とともに変化する所定のパターンが定められてもよい。ウェハのメカニカルスキャン方向(y方向)に異なる位置に応じてビームエネルギー値を変化させる場合、ウェハのメカニカルスキャンの周期に合わせて可変パラメータが定められてもよい。一方、ビームスキャンの方向(x方向)に異なる位置に応じてビームエネルギー値を変化させる場合、ビームスキャンの周期に合わせて可変パラメータが定められてもよい。定められた可変パラメータにしたがってビームエネルギーを変化させることにより、1回のイオン注入処理において注入領域毎にエネルギーの打ち分けを行うことができる。