以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
本発明の蓄電装置用負極は、
下記一般式(1)で表される金属塩を含む負極活物質層を有する、負極である。
(R1SO2)(R2SO2)NLi………一般式(1)
(R1およびR2はそれぞれ独立してフルオロアルキル基またはアルキル基である。
また、R1およびR2は、互いに結合して環を形成しても良い。)
また、本発明の蓄電装置は、負極、正極および電解液を有するものであり、負極に含まれる負極活物質層は、上記一般式(1)で表される金属塩を含む。
(電極用金属塩)
本発明の蓄電装置用負極および蓄電装置においては、電解液とは別に、電極活物質層たる負極活物質層にリチウム元素を有する金属塩を含む。以下、必要に応じて、負極活物質層に配合される金属塩を「電極用金属塩」と呼び、電解液に含まれる金属塩つまり支持塩と区別する。
本発明の蓄電装置用負極および蓄電装置においては、既述の従来技術と同様に、電極用金属塩を負極活物質層に予め配合することに由来する種々の効果を期待できる。
また、上記一般式(1)で表される金属塩においてSに直接結合するR1およびR2は、フルオロ基ではなくフルオロアルキル基またはアルキル基であるため、当該金属塩が分解された場合にも直ちにはフッ素が遊離し難い。したがって、本発明の蓄電装置用負極および蓄電装置によると少なくとも製造時におけるフッ化水素の発生を抑制し得ると考えられる。
このため本発明の蓄電装置用負極は、製造時におけるフッ化水素の発生を抑制しつつ、蓄電装置に優れた電池特性を付与できる。また、本発明の蓄電装置は、製造時におけるフッ化水素の発生が抑制されかつ電池特性に優れたものである。以下、本発明の蓄電装置用負極および蓄電装置を総称して、本発明の蓄電装置と呼ぶ場合がある。
電極用金属塩はカチオンとしてリチウムを含むイミド塩であり、電極用金属塩に含まれるリチウムは蓄電装置の電荷担体の少なくとも一部として機能し得る。つまり、電極用金属塩は、電解液と電極活物質との界面におけるLi伝導体として、および、本発明の蓄電装置における支持塩として機能し得る。このような電極用金属塩は、電解液に含まれる金属塩と同じものであっても良いし、異なっていても良い。
上記一般式(1)におけるR1およびR2は、フルオロアルキル基および/またはアルキル基であれば良く、その炭素数や鎖長等は特に限定しない。R1およびR2は、各々直鎖状であっても良いし分岐していても良い。また、R1とR2とは互いに結合して環を形成しても良い。
R1、R2は、それぞれ独立に、CnHaFb(nは1以上の整数、a、bは0以上の整数であり、2n+1=a+bを満たす。)であるのが好ましい。nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。bは1以上の整数であるのが好ましく、aは0が好ましい。
R1およびR2が互いに結合して環を形成している場合には、CnHaFb(nは1以上の整数、a、bは0以上の整数であり、2n=a+bを満たす。)であるのが好ましい。nは1〜5の整数が好ましく、2〜4の整数がより好ましく、2〜3の整数が特に好ましい。bは1以上の整数であるのが好ましく、aは0が好ましい。
R1およびR2は、両方ともフルオロアルキル基であるのが好ましい。また、フルオロアルキル基に含まれるフッ素の数は多い方が良い。後述するように、電極表面には特殊なSEI被膜、つまりS及びO含有被膜が形成される場合があるが、Fもまた当該特殊なSEI被膜の構成成分たり得ると推測される。したがって、R1およびR2が両方ともフルオロアルキル基であったり、フルオロアルキル基に含まれるフッ素の数が多い場合には、電極表面に当該特殊なSEI被膜が形成され易くなると考えられ、当該SEI被膜に由来する効果が大きくなると考えられる。
具体的には、電極用金属塩は、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)2NLi、(SO2CF2CF2SO2)NLi、(SO2CF2CF2CF2SO2)NLi、(C2H5SO2)2NLi、および(CH3SO2)2NLiの何れかを単独で、或いは複数種併用するのが好ましい。
より好ましくは、電極用金属塩は、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)2NLi、(SO2CF2CF2SO2)NLi、および、(SO2CF2CF2CF2SO2)NLiから選ばれる少なくとも1種であるのが良い。
電極用金属塩は、負極活物質層に配合されれば良く、その方法は特に問わない。一例を挙げると、負極活物質層の製造時に、負極活物質層の材料たる負極合材に電極用金属塩を直接混ぜ込んでも良い。或いは、例えば負極活物質層を複数の層で構成し、そのうちの一層に、同様に電極用金属塩を直接混ぜ込んでも良い。
また、本発明の蓄電装置においては、負極活物質層における電極用金属塩の分布は特に問わないが、少なくとも負極活物質層における表面、つまり負極活物質層のなかで電解液との界面となる部分に電極用金属塩が分布しているのが好ましい。
つまり、電極用金属塩は、負極活物質層の全体に分布しても良いし、負極活物質層の表面に分布しても良い。但し、何れの場合にも、電極用金属塩は、負極活物質層が少なくとも電解液に接触する前の段階においては、電極活物質層の表面に存在するのが好ましい。こうすることで、電極用金属塩が電解液に接触し易くなり、電解液に溶出し易くなる。このため、負極活物質層に電極用金属塩を配合した効果、例えば、上記したように電解液と負極活物質との界面におけるLi伝導体としての効果や、SEI被膜の一部としての効果が発揮され易くなると考えられる。なお、電極用金属塩は当該表面において負極活物質の表面付近に分布していることがより好ましい。負極活物質の表面には上述したSEI被膜が形成されるため、電極用金属塩がこのように分布することで電極用金属塩およびその分解物がSEI被膜に供給され易くなる。また、上記したLi伝導体としての効果についても同様に、少なくとも電解液に接触する前の段階において電極用金属塩が負極活物質の表面付近に分布している方が、効果が発揮され易いと考えられる。
負極活物質層が電解液に接触する前の段階において、電極用金属塩は負極活物質の表面を均一または略均一に被覆しているのが好ましい。上記した電極用金属塩による各種の効果を充分に発揮する為である。また、当然乍ら、負極活物質層が電解液に接触した後においても、電極用金属塩の少なくとも一部が負極活物質の表面に留まっているのがより好ましい。
なお、負極活物質層に配合された電極用金属塩は、上記したようにSEI被膜の一部を構成するだけでなく、他の形態をとることも考えられる。例えば、電極用金属塩の一部が電解液に溶出せず負極活物質表面に電極用金属塩のままで存在することも考えられるし、電極用金属塩の他の一部が電解液に溶出して支持塩として機能することも考えられる。電解液に溶出せず負極活物質表面に存在する電極用金属塩もまた、SEI被膜のようにLi伝導体としての機能や電子絶縁体としての機能を有すると推測される。
(蓄電装置用負極)
本発明の蓄電装置用負極は、負極活物質層を有する。負極活物質層は、負極活物質を含み、集電体上に設けられる。
負極活物質としては、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出し得る材料が使用可能であり、電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金または化合物であれば特に限定はない。
例えば電荷担体がリチウムイオンであれば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせた合金又は化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質として、Nb2O5、TiO2、Li4Ti5O12、WO2、MoO2、Fe2O3等の酸化物、又は、Li3−xMxN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。このうちケイ素系材料および/または炭素系材料は、特に好ましく使用される。
具体的なケイ素系材料としては、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiOx(0.3≦x≦1.6)を例示できる。SiOxにおけるSi相は、リチウムイオンを吸蔵および放出でき、二次電池の充放電に伴って体積変化する。ケイ素酸化物相はSi相に比べて充放電に伴う体積変化が少ない。つまり、負極活物質としてのSiOxは、Si相により高容量を実現するとともに、ケイ素酸化物相を有することにより負極活物質全体の体積変化を抑制する。なお、xが下限値未満であると、Siの比率が過大になるため、充放電時の体積変化が大きくなりすぎて二次電池のサイクル特性が低下する。一方、xが上限値を超えると、Si比率が過小になってエネルギー密度が低下する。xの範囲は0.5≦x≦1.5であるのがより好ましく、0.7≦x≦1.2であるのがさらに好ましい。
なお、上記したSiOxにおいては、リチウムイオン二次電池の充放電時にリチウムとSi相のケイ素とによる合金化反応が生じると考えられている。そして、この合金化反応がリチウムイオン二次電池の充放電に寄与すると考えられている。
上記したケイ素系材料は、炭素系材料と複合化して負極活物質とすることが好ましい。複合化に因り、特にケイ素系材料の構造が安定し、負極の耐久性が向上する。上記複合化は、既知の方法で行なえば良い。複合化に用いられる炭素系材料としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等を採用すればよい。黒鉛は、天然黒鉛でもよく、人造黒鉛でもよい。これらの炭素系材料は、負極活物質としても使用可能である。
炭素系材料のなかでも黒鉛は、本発明の蓄電装置における負極活物質として好ましく使用される。負極活物質としての黒鉛として、具体的には、長軸/短軸の値が1〜5、好ましくは1〜3である黒鉛を例示できる。ここで、長軸とは、黒鉛の粒子の最も長い箇所の長さを意味する。短軸とは、前記長軸に対する直交方向のうち最も長い箇所の長さを意味する。当該黒鉛には、球状黒鉛やメソカーボンマイクロビーズが該当する。球状黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素などの炭素材料であって、形状が球状またはほぼ球状であるものをいう。
球状黒鉛は、黒鉛を比較的破砕力の小さい衝撃式粉砕機で粉砕して薄片とし、当該薄片を圧縮球状化して得られる。衝撃式粉砕機としては、例えばハンマーミルやピンミルを例示できる。上記ミルのハンマー又はピンの外周線速度を50〜200m/秒程度として、上記作業を行うことが好ましい。上記ミルに対する黒鉛の供給や排出は、空気等の気流に同伴させて行うことが好ましい。
黒鉛は、BET比表面積が0.5〜15m2/gの範囲のものが好ましい。BET比表面積が大きすぎると黒鉛と電解液との副反応が加速する場合があり、BET比表面積が小さすぎると黒鉛の反応抵抗が大きくなる場合がある。
上記した各種の負極活物質のうち、ケイ素系材料および炭素系材料は、平均電位1V以下の比較的低電位で使用できるため、蓄電装置用、特に、二次電池用の負極活物質として好ましい。このうち特に炭素系材料が好ましく、そのなかでも黒鉛は本発明の蓄電装置用の負極活物質として特に好ましい。これらの材料を負極活物質として用いるには、負極活物質表面にSEI被膜を形成する必要があると考えられている。SEI被膜は電解液の還元分解を抑えて充放電を可能とする一方、負極活物質へのLiの出入りを妨げ、反応抵抗の要因となり得る。しかし、S、Oに代表される電極用金属塩由来の成分が当該SEI被膜に含まれることによって、SEI被膜に由来する上記の反応抵抗が低下して蓄電装置の入出力特性が向上すると推測される。なお、ここで言う「平均電位1V以下」とは、リチウム電位に対して平均1.0V以下の電位でリチウムイオンが負極に吸蔵・放出されることを指す。
負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
結着剤は活物質及び導電助剤を後述する集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸等の水性結着剤、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、スチレン・ブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
負極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、及び各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。負極活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:導電助剤=1:0.01〜1:0.5であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると負極活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
負極活物質層は、集電体上に設けられる。
集電体は、リチウムイオン二次電池等の蓄電装置が放電又は充電する間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
本発明の蓄電装置は、さらに正極を有する。
(正極)
正極は、正極活物質層を有する。正極活物質層は、正極活物質を含み、集電体上に形成される。正極活物質は、電荷担体を吸蔵および放出できれば良い。例えば本発明の蓄電装置における電荷担体がリチウムイオンであれば、正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であれば良い。
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
正極活物質としては、層状化合物のLiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)、Li2MnO3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn2O4等のスピネル構造の金属酸化物、及びスピネル構造の金属酸化物と層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、電荷担体(例えば充放電に寄与するリチウムイオン)を含まないものを用いても良い。例えば、硫黄単体(S)、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS2などの金属硫化物、V2O5、MnO2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウム等の電荷担体を含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予め電荷担体を添加しておく必要がある。電荷担体は、イオンの状態で添加しても良いし、金属等の非イオンの状態で添加しても良い。例えば、電荷担体がリチウムである場合には、リチウム箔を正極および/または負極に貼り付けるなどして一体化しても良い。
具体的な正極活物質として、層状岩塩構造をもつLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.75Co0.1Mn0.15O2、LiMnO2、LiNiO2、及びLiCoO2を例示できる。他の具体的な正極活物質として、Li2MnO3−LiCoO2を例示できる。
具体的な正極活物質として、スピネル構造のLixAyMn2−yO4(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、及び遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素、0<x≦2.2、0≦y≦1)を例示できる。より具体的には、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4を例示できる。
具体的なその他の正極活物質として、LiFePO4、Li2FeSiO4、LiCoPO4、Li2CoPO4、Li2MnPO4、Li2MnSiO4、Li2CoPO4Fを例示できる。
正極の結着剤および導電助剤は負極で説明したものを同様の配合割合で採用すればよい。
正極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、負極用の集電体と同様のものを使用できる。
なお、特に正極を高電位で用いる場合、例えば、正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
具体的には、正極用集電体として、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、AL−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。
また、アルミニウムまたはアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
正極用の集電体は、負極用の集電体と同様に、シート状等の種々の形態をとることができる。正極用の集電体の好ましい形態や厚さもまた、既述した負極用の集電体と同様である。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
(電解液)
電解液としては、有機溶媒と、当該有機溶媒に溶解した金属塩とを含むものを使用すれば良い。電解液における金属塩は、支持塩あるいは支持電解質とも呼ばれるものであり、既述したように、電極用金属塩と同じものであっても良いし異なっていても良い。
有機溶媒は、非水溶媒とも呼ばれる。電解液用の有機溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
金属塩は、本発明の蓄電装置が例えばリチウムイオン二次電池であれば、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2等のリチウム塩を例示できる。
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3などのリチウム塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
ところで、蓄電装置用の電解液には、適切な電解質が適切な濃度範囲で添加されている。例えば、上記したように、リチウムイオン二次電池の電解液には、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi等のリチウム塩が電解質として添加されるのが一般的であり、ここで、電解液におけるリチウム塩の濃度は、概ね1mol/Lとされるのが一般的である。
また、電解液に用いられる有機溶媒には、電解質を好適に溶解させるために、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の比誘電率及び双極子モーメントの高い有機溶媒を約30体積%以上で混合して用いるのが一般的である。
実際に、特開2013−149477号公報には、エチレンカーボネートを33体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPF6を1mol/Lの濃度で含む電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。また、特開2013−134922号公報には、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを66体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、(CF3SO2)2NLiを1mol/Lの濃度で含む電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。
また、二次電池の性能を向上させる目的で、リチウム塩を含む電解液に種々の添加剤を加える研究が盛んに行われている。
例えば、特開2013−145724号公報には、エチレンカーボネートを30体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPF6を1mol/Lの濃度で含む電解液に対し、特定の添加剤を少量加えた電解液が記載されており、この電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。また、特開2013−137873号公報にも、エチレンカーボネートを30体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPF6を1mol/Lの濃度で含む電解液に対し、フェニルグリシジルエーテルを少量加えた電解液が記載されており、この電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。
特開2013−149477号公報、特開2013−134922号公報、特開2013−145724号公報、特開2013−137873号公報等に記載されているように、従来、リチウムイオン二次電池に用いられる電解液においては、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の比誘電率及び双極子モーメントの高い有機溶媒を約30体積%以上で含有する混合有機溶媒を用い、かつ、リチウム塩を概ね1mol/Lの濃度で含むことが技術常識となっていた。そして、これらの文献に記載のとおり、電解液の改善検討においては、リチウム塩とは別個の添加剤に着目して行われるのが一般的であった。
本発明の蓄電装置においては、電解液として、特定の電解質からなる金属塩と、専ら比誘電率および/または双極子モーメントの低い有機溶媒を含むヘテロ元素含有有機溶媒とを組み合わせて使用することができる。また、有機溶媒と金属塩とのモル比に着目し、当該モル比を特定の範囲とすることができる。このような電解液は従来ない新規な電解液であり、本発明の蓄電装置にこのような新規の電解液を併用する場合には、蓄電装置の更なる性能向上を望み得る。以下、必要に応じて、上記の「特定の電解質からなる金属塩と、専ら比誘電率および/または双極子モーメントの低い有機溶媒を含むヘテロ元素含有有機溶媒とを組み合わせ」た新規の電解液を「選択電解液」と称して一般的な電解液と区別する。
選択電解液としては、例えば、
比誘電率が10以下及び/若しくは双極子モーメントが5D以下の特定有機溶媒、又は前記特定有機溶媒を含むヘテロ元素含有有機溶媒と、
アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとし、下記一般式(2)で表される化学構造をアニオンとする金属塩と、を含有するものを選択できる。
(R3X1)(R4SO2)N………一般式(2)
(R3は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
R4は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R3とR4は、互いに結合して環を形成しても良い。
X1は、SO2、C=O、C=S、RaP=O、RbP=S、S=O、Si=Oから選択される。
Ra、Rbは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、Ra、Rbは、R3又はR4と結合して環を形成しても良い。)
金属塩のカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、及びアルミニウムを挙げることができる。金属塩のカチオンは、電解液を使用する電池の電荷担体と同一の金属イオンであるのが好ましい。ところで、本発明の蓄電装置においては、電極活物質層に電極用金属塩が含まれる。この電極用金属塩に由来するリチウムは、電荷担体として機能し得る。したがって、電解液の金属塩のカチオンとしてもリチウムを選択するのが好ましい。
上記一般式(2)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、特段の置換基を有さないアルキル基を意味する。
「置換基で置換されていても良い」との文言における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、不飽和シクロアルキル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
前記金属塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(2−1)で表される化学構造が好ましい。
(R31X2)(R41SO2)N………一般式(2−1)
(R31、R41は、それぞれ独立に、CnHaFbClcBrdIe(CN)f(SCN)g(OCN)hである。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
また、R31とR41は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
X2は、SO2、C=O、C=S、RcP=O、RdP=S、S=O、Si=Oから選択される。
Rc、Rdは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、Rc、Rdは、R31又はR41と結合して環を形成しても良い。)
上記一般式(2−1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言の意味は、上記一般式(2)で説明したのと同義である。
上記一般式(2−1)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(2−1)で表される化学構造の、R31とR41が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
前記金属塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(2−2)で表されるものがさらに好ましい。
(R32SO2)(R42SO2)N………一般式(2−2)
(R32、R42は、それぞれ独立に、CnHaFbClcBrdIeである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、R32とR42は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
上記一般式(2−2)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(2−2)で表される化学構造の、R32とR42が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
また、上記一般式(2−2)で表される化学構造において、a、c、d、eが0のものが好ましい。
金属塩は、(CF3SO2)2NLi(以下、「LiTFSA」ということがある。)、(FSO2)2NLi(以下、「LiFSA」ということがある。)、(C2F5SO2)2NLi、FSO2(CF3SO2)NLi、(SO2CF2CF2SO2)NLi、(SO2CF2CF2CF2SO2)NLi、FSO2(CH3SO2)NLi、FSO2(C2F5SO2)NLi、又はFSO2(C2H5SO2)NLiが特に好ましい。
選択電解液における金属塩は、以上で説明したカチオンとアニオンをそれぞれ適切な数で組み合わせたものを採用すれば良い。選択電解液における金属塩は1種類を採用しても良いし、複数種を併用しても良い。
選択電解液には、上記金属塩以外に、蓄電装置の電解液に使用可能である他の電解質が含まれていてもよい。選択電解液には、選択電解液に含まれる全電解質に対し、上記金属塩が50質量%以上で含まれるのが好ましく、70質量%以上で含まれるのがより好ましく、90質量%以上で含まれるのがさらに好ましい。
選択電解液はヘテロ元素含有有機溶媒を含み、そして、前記ヘテロ元素含有有機溶媒は比誘電率が10以下及び/又は双極子モーメントが5D以下の特定有機溶媒を含む。ヘテロ元素含有有機溶媒としては、蓄電装置の電解液に使用可能である有機溶媒のうち、ヘテロ元素を含有しているものであればよい。特定有機溶媒としては、比誘電率が10以下及び/又は双極子モーメントが5D以下のヘテロ元素含有有機溶媒であればよい。
ヘテロ元素含有有機溶媒又は特定有機溶媒はヘテロ元素を有するため、上記金属塩を一定程度の濃度で好適に溶解できる。他方、ヘテロ元素を有さない炭化水素からなる有機溶媒では、上記金属塩を好適に溶解できない。
ヘテロ元素含有有機溶媒又は特定有機溶媒としては、ヘテロ元素が窒素、酸素、硫黄、ハロゲンから選択される少なくとも1つである有機溶媒が好ましく、ヘテロ元素が酸素である有機溶媒がより好ましい。また、ヘテロ元素含有有機溶媒又は特定有機溶媒としては、NH基、NH2基、OH基、SH基などのプロトン供与基を有さない、非プロトン性溶媒が好ましい。
ヘテロ元素含有有機溶媒を具体的に例示すると、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、イソプロピルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート等のイソシアネート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のエステル類、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2−エチルオキシラン等のエポキシ類、オキサゾール、2−エチルオキサゾール、オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン等のオキサゾール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、無水酢酸、無水プロピオン酸等の酸無水物、ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等のニトロ類、フラン、フルフラール等のフラン類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状エステル類、チオフェン、ピリジン等の芳香族複素環類、テトラヒドロ−4−ピロン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン等の複素環類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類を挙げることができる。
特定有機溶媒は、特定有機溶媒以外の比誘電率が10を超える及び/又は双極子モーメントが5Dを超えるヘテロ元素含有有機溶媒(以下、「他のヘテロ有機溶媒」という場合がある。)と比較して、極性が低い。それゆえに、特定有機溶媒と金属イオンとの親和性は、他のヘテロ有機溶媒と金属イオンとの親和性と比較して、劣ると考えられる。そうすると、選択電解液が二次電池の電解液として用いられた際には、二次電池の電極を構成するアルミニウムや遷移金属は、選択電解液にイオンとして溶解するのが困難であるといえる。
ここで、一般的な電解液を用いた二次電池においては、正極を構成するアルミニウムや遷移金属は、特に高電圧充電環境下において高酸化状態となり、陽イオンである金属イオンとして電解液に溶解し(アノード溶出)、そして、電解液中に溶出した金属イオンは静電気的引力に因り電子リッチな負極に引き寄せられて、負極上で電子と結合することで還元され、金属として析出する場合があることが知られている。このような反応が起こると、正極の容量低下や負極上での電解液分解などが生じ得るため、電池性能が低下することが知られている。しかし、選択電解液には前段落に記載の特徴があるため、本発明の蓄電装置に選択電解液を用いることで、正極からの金属イオン溶出および負極上の金属析出が抑制し得る。つまり、選択電解液を用いた本発明の蓄電装置によると、電池特性が更に向上する。
特定有機溶媒の比誘電率は10以下であれば好ましいが、7以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。特定有機溶媒の比誘電率の下限は特に限定されないが、敢えて述べると、1以上、2以上、2.5以上を例示できる。
また、特定有機溶媒の双極子モーメントは5D以下であれば好ましいが、2.5D以下がより好ましく、1D以下がさらに好ましい。特定有機溶媒の双極子モーメントの下限は特に限定されないが、敢えて述べると、0.05D以上、0.1D以上、0.2D以上を例示できる。
特定有機溶媒はカーボネートを化学構造に含むものが好ましい。より好ましい特定有機溶媒として、下記一般式(3)で示される鎖状カーボネートを挙げることができる。
R5OCOOR6………一般式(3)
(R5、R6は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCnHaFbClcBrdIe、又は、環状アルキルを化学構造に含むCmHfFgClhBriIjのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m=f+g+h+i+jを満たす。)
上記一般式(3)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。
上記一般式(3)で表される鎖状カーボネートのうち、下記一般式(3−1)で表されるものが特に好ましい。
R51OCOOR61………一般式(3−1)
(R51、R61は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCnHaFb、又は、環状アルキルを化学構造に含むCmHfFgのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、f、gはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b、2m=f+gを満たす。)
上記一般式(3−1)で表される鎖状カーボネートにおいて、nは1〜6の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。
上記一般式(3−1)で表される鎖状カーボネートのうち、ジメチルカーボネート(以下、「DMC」ということがある。)、ジエチルカーボネート(以下、「DEC」ということがある。)、エチルメチルカーボネート(以下、「EMC」ということがある。)、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、フルオロメチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートが特に好ましい。
また、本明細書の開示から、上記一般式(3)で表される鎖状カーボネートを含むヘテロ元素含有有機溶媒が、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとし、上記一般式(2)で表される化学構造をアニオンとする金属塩に対し、モル比3〜5で含まれる選択電解液を把握することができる。
好適な特定有機溶媒を用いた選択電解液においては、好適なイオン伝導度を示す金属塩の濃度が比較的高濃度となる。さらに、特定有機溶媒として上記一般式(3)で表される鎖状カーボネートを用いた選択電解液においては、多少の金属塩濃度の変動に対してイオン伝導度の変動が小さい、すなわち、堅牢性に優れるとの利点を有する。しかも、上記一般式(3)で表される鎖状カーボネートは、酸化及び還元に対する安定性に優れている。加えて、上記一般式(3)で表される鎖状カーボネートは、自由回転可能な結合が多く存在し、柔軟な化学構造であるため、当該鎖状カーボネートを用いた選択電解液が高濃度の金属塩を含む場合であっても、その粘度の著しい上昇は抑えられ、高いイオン伝導度を得ることができる。
以上で説明した特定有機溶媒は単独で電解液に用いても良いし、複数を併用しても良い。
参考までに、各種の有機溶媒の比誘電率及び双極子モーメントを表1に列挙する。
選択電解液におけるヘテロ元素含有有機溶媒または特定有機溶媒と金属塩との比は特に限定しないが、以下に説明するように、ヘテロ元素含有有機溶媒または特定有機溶媒が、金属塩に対してモル比1〜8で含まれるのが好ましい。
なお、本明細書においては、「選択電解液は、ヘテロ元素含有有機溶媒と前記金属塩とをモル比1〜8で含む」などと表現することもある。本明細書でいう上記モル比とは、前者を後者で除した値、すなわち、(選択電解液に含まれるヘテロ元素含有有機溶媒のモル数)/(選択電解液に含まれる金属塩のモル数)の値を意味する。選択電解液を用いた二次電池は、電極/電解液界面で形成されるSEI皮膜が従来の有機溶媒由来成分主体ではなく低抵抗なS=O構造を有する金属塩由来成分を多く含んでおり、かつ被膜中のLiイオン濃度が高い等の理由によって、反応抵抗が比較的小さい。上記モル比1〜8の範囲の意義は、二次電池の反応抵抗が比較的小さい範囲であって、かつ、電解液のイオン伝導度が好適な範囲である。モル比3〜6であれば、二次電池の反応抵抗、電解液のイオン伝導度、それらの温度特性のバランスを考慮してより好適な範囲であるといえる。本発明の電解液における、ヘテロ元素含有有機溶媒と前記金属塩とのモル比は、上記したように1〜8の範囲内であるのが好ましく、2〜6の範囲内であるのがより好ましく、3〜5.5の範囲内であるのがさらに好ましい。さらには、3.2〜5.2の範囲内がより好ましく、3.5〜5の範囲内であるのが最も好ましい。なお、従来の電解液は、ヘテロ元素含有有機溶媒と、電解質若しくは金属塩とのモル比が概ね10程度である。
選択電解液においては、前記金属塩とヘテロ元素含有有機溶媒とが相互作用を及ぼしていると推定される。微視的には、選択電解液は、金属塩とヘテロ元素含有有機溶媒のヘテロ元素とが配位結合することで形成された、金属塩とヘテロ元素含有有機溶媒からなる安定なクラスターを含有していると推定される。
選択電解液は、従来の電解液と比較して、金属塩の存在割合が高いといえる。そうすると、選択電解液は、従来の電解液と比較して、金属塩と有機溶媒の存在環境が異なっているといえる。そのため、選択電解液を用いた二次電池等の蓄電装置においては、電解液中の金属イオン輸送速度の向上、電極と電解液の界面における反応速度の向上、二次電池のハイレート充放電時に起こる電解液の金属塩濃度の偏在の緩和、電極界面における電解液の保液性の向上、電極界面で電解液が不足するいわゆる液枯れ状態の抑制、電気二重層の容量増大などが期待できる。さらに、選択電解液においては、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低くなる。その結果として、選択電解液からの有機溶媒の揮発が低減できる。
選択電解液の密度d(g/cm3)について述べる。なお、本明細書において、密度とは20℃での密度を意味する。選択電解液の密度d(g/cm3)は好ましくは1.0≦dであり、1.1≦dがより好ましい。
参考までに、代表的なヘテロ元素含有有機溶媒の密度(g/cm3)を表2に列挙する。
選択電解液の粘度η(mPa・s)について述べると、3<η<50の範囲が好ましく、4<η<40の範囲がより好ましく、5<η<30の範囲がさらに好ましい。
また、電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)は高ければ高いほど、電解液中でイオンが移動し易い。このため、このような電解液は優れた電池の電解液となり得る。選択電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)について述べると、1≦σであるのが好ましい。選択電解液のイオン伝導度σ(mS/cm)につき、敢えて、上限を含めた好適な範囲を示すと、2≦σ<100の範囲が好ましく、3≦σ<50の範囲がより好ましく、4≦σ<30の範囲がさらに好ましい。
ところで、選択電解液は金属塩のカチオンを高濃度で含有する。このため、選択電解液中において、隣り合うカチオン間の距離は極めて近い。そして、蓄電装置の充放電時にリチウムイオン等のカチオンが正極と負極との間を移動する際には、移動先の電極に直近のカチオンが先ず当該電極に供給される。そして、供給された当該カチオンがあった場所には、当該カチオンに隣り合う他のカチオンが移動する。つまり、選択電解液中においては、隣り合うカチオンが供給対象となる電極に向けて順番に一つずつ位置を変えるという、ドミノ倒し様の現象が生じていると予想される。このため、充放電時のカチオンの移動距離は短く、その分だけカチオンの移動速度が高いと考えられる。そして、このことに起因して、選択電解液を有する蓄電装置の反応速度は高いと考えられる。
選択電解液には、特定有機溶媒以外に、上記他のヘテロ有機溶媒やヘテロ元素を有さない炭化水素からなる有機溶媒が含まれていてもよい。選択電解液には、選択電解液に含まれる全溶媒に対し、特定有機溶媒が80体積%以上で含まれるのが好ましく、90体積%以上で含まれるのがより好ましく、95体積%以上で含まれるのがさらに好ましい。また、選択電解液には、選択電解液に含まれる全溶媒に対し、特定有機溶媒が80モル%以上で含まれるのが好ましく、90モル%以上で含まれるのがより好ましく、95モル%以上で含まれるのがさらに好ましい。
選択電解液の一態様として、比誘電率が10以下及び/又は双極子モーメントが5D以下の特定有機溶媒が、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとし上記一般式(2)で表される化学構造をアニオンとする金属塩に対し、モル比3〜5で含まれる電解液を挙げることができる。
なお、特定有機溶媒以外に他のヘテロ有機溶媒を含む選択電解液は、他のヘテロ有機溶媒を含まない選択電解液と比較して、粘度が上昇する場合や、イオン伝導度が低下する場合がある。さらに、特定有機溶媒以外に他のヘテロ有機溶媒を含む選択電解液を用いた二次電池は、その反応抵抗が増大する場合がある。
また、特定有機溶媒以外に上記炭化水素からなる有機溶媒を含む選択電解液は、その粘度が低くなるとの効果を期待できる。
上記炭化水素からなる有機溶媒としては、具体的にベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1−メチルナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンを例示することができる。
また、選択電解液には、難燃性の溶媒を加えることができる。難燃性の溶媒を選択電解液に加えることにより、選択電解液の安全度をさらに高めることができる。難燃性の溶媒としては、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ハイドロフルオロエーテルなどのハロゲン系溶媒、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルなどのリン酸誘導体を例示することができる。
電解液をポリマーや無機フィラーと混合し混合物とすると、当該混合物が電解液を封じ込め、擬似固体電解質となる。擬似固体電解質を本発明の蓄電装置の電解液として用いることで、電池における電解液の液漏れを抑制することができる。この場合、電解液は上記した選択電解液であっても良いし、それ以外の電解液であっても良い。
さらに、本発明の蓄電装置における電解液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の添加剤を加えてもよい。公知の添加剤の一例として、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、メチルビニレンカーボネート(MVC)およびエチルビニレンカーボネート(EVC)に代表される不飽和結合を有する環状カーボネート、フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネートおよびエリスリタンカーボネートに代表されるカーボネート化合物、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物およびフェニルコハク酸無水物に代表されるカルボン酸無水物、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトンおよびε−カプロラクトンに代表されるラクトン、1,4−ジオキサンに代表される環状エーテル、エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホンおよびテトラメチルチウラムモノスルフィドに代表される含硫黄化合物、1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンおよびN−メチルスクシンイミドに代表される含窒素化合物、モノフルオロリン酸塩およびジフルオロリン酸塩に代表されるリン酸塩、ヘプタン、オクタンおよびシクロヘプタンに代表される飽和炭化水素化合物、並びに、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテルおよびジベンゾフランに代表される不飽和炭化水素化合物等が挙げられる。
以上説明した選択電解液は、優れたイオン伝導度を示すので、電池やキャパシタなど蓄電装置の電解液として好適に使用される。特に、二次電池の電解液として使用されるのが好ましく、中でもリチウムイオン二次電池の電解液として使用されるのが好ましい。
ところで、一般に、二次電池等の蓄電装置における負極および正極の表面には、被膜が生成することが知られている。当該被膜はSEI(Solid Electrolyte Interphase)とも呼ばれ、電解液の還元分解物等で構成される。例えば、特開2007−19027号公報には、SEI被膜について記載されている。
負極表面および正極表面のSEI被膜は、リチウムイオン等の電荷担体の通過を許容する。また、負極表面のSEI被膜は、負極表面と電解液との間に存在し、電解液の更なる還元分解を抑制すると考えられている。特に黒鉛やSi系の負極活物質を用いた低電位負極には、SEI被膜の存在が必須と考えられている。
SEI被膜が存在することで電解液の継続的な分解が抑制されれば、充放電サイクル経過後の蓄電装置の放電特性を向上させ得ると考えられる。しかし、その一方で、従来の二次電池において、負極表面および正極表面のSEI被膜は必ずしも電池特性の向上に寄与するとはいえなかった。
本発明の蓄電装置において、上記電極用金属塩を表す上記一般式(1)の化学構造にはSO2が含まれている。さらに、選択電解液においても、上記金属塩の上記一般式(2)の化学構造には、SO2が含まれている。そして、本発明の蓄電装置を充放電する際には、少なくとも電極に含まれる電極用金属塩の、或いはさらに選択電解液に含まれる金属塩の一部が分解して、正極及び/又は負極の表面にS及びOを含有する特殊なSEI被膜を形成すると推定される。当該被膜はS=O構造を有すると推定される。当該被膜により電極が被覆されるため、電極及び電解液の劣化が抑制され、その結果、蓄電装置の耐久性が向上すると考えられる。さらには、本発明においては当該被膜が形成される負極活物質層自体に当該被膜の材料となり得る電極用金属塩が存在することにより、当該被膜のSおよびO濃度がさらに高められると推測される。そしてその結果、単に選択電解液を用いた場合よりもさらに電池性能が向上すると推測される。
また、選択電解液においては、従来の電解液に比べて、カチオンとアニオンとが近くに存在し、アニオンはカチオンからの静電的な影響を強く受けることで従来の電解液に比べ還元分解され易くなると考えられる。従来の電解液を用いた従来の蓄電装置においては、電解液に含まれるエチレンカーボネート等の環状カーボネートが還元分解されて生成する分解生成物によって、SEI被膜が構成されていた。しかし、上述したように、選択電解液においてはアニオンが還元分解されやすく、また従来の電解液に比べ高濃度に金属塩を含有するために電解液中のアニオン濃度が高い。このため、選択電解液を用いた場合に蓄電装置の電極に形成されるSEI被膜、つまり上記したS及びOを含有する被膜には、アニオンに由来するものが多く含まれると考えられる。また、選択電解液を用いた本発明の蓄電装置においては、エチレンカーボネート等の環状カーボネートを用いることなく、SEI被膜を形成することができる。以下、必要に応じて、選択電解液を用いた場合に蓄電装置の電極に形成されるSEI被膜、つまり上記したS及びOを含有する被膜を、「S及びO含有被膜」と呼ぶ場合がある。
ところで、本発明の蓄電装置においては、電極用金属塩が電極活物質層に配合されている。この電極用金属塩は、上記したように、選択電解液に配合されている金属塩と同様にSO2を含有し、負極活物質層の表面には電極用金属塩に由来する上記被膜が形成され得る。つまり、本発明の蓄電装置は上記の選択電解液を用いない場合にも、耐久性に優れると言い得る。
なお、SEI被膜が形成され得る負極活物質として、黒鉛を含む炭素系活物質、および、ケイ素単体やケイ素系材料を含むケイ素系活物質が知られている。このため、上記した電極用金属塩に由来するSEI被膜を本発明の負極に形成し、当該被膜に由来する効果を本発明の負極に付与するためには、負極活物質として炭素系活物質および/またはケイ素系活物質を用いるのが好ましいと考えられる。
また、本発明の蓄電装置における電解液には、負極活物質層に含まれる電極用金属塩のカチオンが溶出し得る。そして、電極用金属塩のカチオンが溶出した場合、負極活物質層の近傍における電解液は、他の領域における電解液と比べて、当該カチオンを高濃度で含有すると考えられる。つまり、負極活物質層の近傍にある電解液においては、上記の選択電解液と同様に、カチオンの移動速度が高くなると推測される。そして、このことに起因して蓄電装置の反応速度が向上すると推測される。
さらに、当該カチオンは負極活物質の内部にも移動可能であると考えられ、負極活物質に移動した当該カチオンは充放電によって負極活物質に移動した支持塩のカチオンと同様に充放電反応に寄与できると推測される。例えば蓄電装置がリチウムイオン二次電池であれば電池容量の増加等が期待できる。また、リチウムイオンキャパシタであれば、負極活物質に移動した当該カチオンにより負極活物質にプレドープしたかの如き効果が生じると推測され、その結果、負極活物質の電位低下を期待し得る。つまり、電極用金属塩を負極活物質層に配合したことで、本発明の蓄電装置にはこれら各種の優れた電池特性が付与されると推測される。
本発明の蓄電装置は、上記した負極、正極および電解液を含むものであり、正極及び負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とすれば良い。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
電極体は、負極、セパレータ及び正極を重ねた積層型、又は、負極、セパレータ及び正極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。負極の集電体および正極の集電体から外部に通ずる負極端子及び正極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えて蓄電装置とするとよい。また、本発明の蓄電装置は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
本発明の蓄電装置の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明の蓄電装置は、車両に搭載してもよい。車両に搭載する本発明の蓄電装置としては、特にリチウムイオン二次電池が好ましい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。蓄電装置を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明の蓄電装置は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
上記した本発明の蓄電装置についての説明は、主として本発明の蓄電装置がリチウムイオン二次電池である場合を想定しているが、上記した説明における正極活物質の一部若しくは全部を、分極性電極材料として用いられる活性炭などに置き換えれば、キャパシタとして適用可能である。この場合、本発明のキャパシタとしてはリチウムイオンキャパシタなどのハイブリッドキャパシタを例示できる。なお、本発明のキャパシタの説明については、上記の説明における「蓄電装置」または「リチウムイオン二次電池」を「キャパシタ」に適宜適切に読み替えれば良い。
以上、本発明の蓄電装置の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
(実施例1)
実施例1のリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
負極活物質である球状黒鉛90質量部、および、結着剤であるポリフッ化ビニリデン10質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、一次スラリーを作製した。この一次スラリーに、電極用金属塩としての(CF3SO2)2NLiを5.26質量部添加し、再度混合して二次スラリーを得た。
負極集電体として厚み10μmの銅箔を準備した。ドクターブレードを用いて、この銅箔の表面に上記二次スラリーを膜状になるように塗布した。二次スラリーが塗布された銅箔を、80℃で20分間乾燥することでN−メチル−2−ピロリドンを揮発により除去し、その後プレスして、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを実施例1の負極とした。実施例1の負極における負極活物質層は、負極活物質、結着剤および電極用金属塩の質量の和を100質量%としたときに、電極用金属塩である(CF3SO2)2NLiを5質量%含む。
正極活物質であるLiNi5/10Co2/10Mn3/10O2で表される層状岩塩構造のリチウム含有金属酸化物90質量部、導電助剤であるアセチレンブラック8質量部、および結着剤であるポリフッ化ビニリデン2質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。正極集電体として厚み15μmのアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥し、その後プレスして接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極とした。
特定有機溶媒であるジメチルカーボネートと、同じく特定有機溶媒であるジエチルカーボネートとを9:1のモル比で加えた有機溶媒に、支持塩としての(FSO2)2NLiを溶解させて、(FSO2)2NLiの濃度が2.9mol/Lである電解液を製造した。この電解液は選択電解液の1種であり、当該電解液は有機溶媒3モルに対して支持塩1モルを含む。
セパレータとして、厚さ20μmのセルロース製不織布を準備した。
上記の正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに上記の電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を実施例1のリチウムイオン二次電池とした。
実施例1のリチウムイオン二次電池における電極用金属塩の配合量および電解液の組成を後述する表3に示す。後述する実施例2、3および比較例1、2についても同様である。
(実施例2)
実施例2のリチウムイオン二次電池は、負極活物質層が電極用金属塩である(CF3SO2)2NLiを1質量%含むこと以外は、実施例1のリチウムイオン二次電池と同じものである。
(実施例3)
実施例3のリチウムイオン二次電池は、電解液以外は実施例1のリチウムイオン二次電池と同じである。実施例3のリチウムイオン二次電池で用いた電解液は、以下のように製造した。
エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネートと、メチルエチルカーボネートを3:3:4の体積比で加えた有機溶媒に、支持塩としてのLiPF6を溶解させて、LiPF6の濃度が1.0mol/Lである電解液を製造した。この電解液は有機溶媒10モルに対して支持塩約1モルを含む。なお、実施例3で用いたジエチルカーボネートおよびメチルエチルカーボネートは特定有機溶媒であり、エチレンカーボネートは他のヘテロ有機溶媒である。また、実施例3で用いた電解液は選択電解液ではない。
(比較例1)
比較例1のリチウムイオン二次電池は、負極活物質層に電極用金属塩を含まないこと以外は、実施例1のリチウムイオン二次電池と同じものである。
(比較例2)
比較例2のリチウムイオン二次電池は、負極活物質層に電極用金属塩を含まないこと以外は実施例3のリチウムイオン二次電池と同じものである。
なお、以下の表における略号の意味は以下のとおりである。
LiFSA:(FSO2)2NLi
LiTFSA:(CF3SO2)2NLi
DMC:ジメチルカーボネート
DEC:ジエチルカーボネート
EMC:エチルメチルカーボネート
(電池の活性化)
上記した実施例1〜3および比較例1、2のリチウムイオン二次電池について、先ず、25℃、0.1Cレートの定電流で、4.1Vまで充電した後に3.0Vまで放電した。
初回充放電後、25℃、1Cレートの定電流で、3.0V〜4.1Vの範囲で充放電を50回繰り返した。
(初回充放電)
実施例1および比較例1のリチウムイオン二次電池について、初回充放電時の充電曲線を比較した。その結果、実施例1のリチウムイオン二次電池では、比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて、低い電圧で電流が流れ始めた。この結果は、実施例1のリチウムイオン二次電池では比較例1のリチウムイオン二次電池よりも高い負極電位で電流が流れ始めたことによると考えられ、負極活物質層に配合された電極用金属塩が還元分解されたことを示唆する。つまり、実施例1のリチウムイオン二次電池と比較例1のリチウムイオン二次電池とでは、上記したSEI被膜を含めた電極近傍の状態が異なると考えられる。
(抵抗評価)
上記した電池の活性化後、各リチウムイオン二次電池を25℃でSOC(state of charge)60%となるように充電した。なお、リチウムイオン二次電池を3Vから4.1Vまで充電する間の電流容量をSOC100%とした。
その後、各リチウムイオン二次電池に対し、−10℃で交流インピーダンスを測定した。得られた複素インピーダンス平面プロットを基に、電解液の溶液抵抗および負極の反応抵抗を各々解析した。複素インピーダンス平面プロットには、二つの円弧がみられた。複素インピーダンスの実部が小さい側の円弧を第1円弧と呼び、複素インピーダンスの実部が大きい側の円弧を第2円弧と呼ぶ。第1円弧と実数軸との二つの交点のうち複素インピーダンスの実部が小さい側の交点を第1交点と呼ぶ。
ここでは原点から第1交点までの距離を電解液の溶液抵抗として解析した。また、第1円弧の大きさを負極の反応抵抗として解析した。表4に実施例1、3、および比較例1、2の各抵抗を示す。
表4に示すように、同じ電解液を用いたもの同士を比較すると、負極に電極用金属塩を含む実施例1のリチウムイオン二次電池は、負極に電極用金属塩を含まない比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて、負極反応抵抗が大きく低下した。同様に、負極に電極用金属塩を含む実施例3のリチウムイオン二次電池は、負極に電極用金属塩を含まない比較例2のリチウムイオン二次電池に比べて、負極反応抵抗が大きく低下した。これらの結果から、負極活物質層に電極用金属塩を含むことで、電解液の種類や濃度を問わず負極反応抵抗を低減でき、蓄電装置の性能を向上させ得ることがわかる。また、この結果から、負極に電極用金属塩を5質量%以上含む実施例1および実施例3のリチウムイオン二次電池においては電極用金属塩による効果が発揮されていることがわかる。このような電極用金属塩による蓄電装置の性能向上効果を好適に発揮するためには、負極活物質層中の電極用金属塩の濃度は2質量%以上15質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上10質量%以下であるのがより好ましいと考えられる。
(DSC測定)
上記した電池の活性化後、実施例1および比較例1の各リチウムイオン二次電池を25℃、1Cレートの定電流で3.0Vから4.5Vまで充電した。そして、電圧がそのまま4.5Vに維持されるように定電圧充電した。充電時間は、3.0V〜4.5Vまでの定電流充電と、4.5Vの定電圧充電との累積で合計3時間であった。
充電後の各リチウムイオン二次電池をグローブボックス内で解体し、得られた負極をジメチルカーボネートで洗浄し、その後乾燥した。
乾燥後の負極から負極活物質層を削り取って、粉末状の負極活物質層を得た。この粉末状の負極活物質層を、実施例1で用いたものと同じ電解液とともにステンレス製のサンプルパンに入れ、当該パンを密閉した。サンプルパンに入れた負極活物質層の量は約3mgであり、電解液の量は2μlであった。なお、ここで用いた電解液は未使用のものである。
空の密閉パンを対照として、窒素雰囲気下、以下の温度プログラムで示差走査熱量分析を行った。示差走査熱量測定装置としてはRigaku DSC8230を使用した。
温度プログラム…室温から35℃まで1℃/分で昇温し10分間保持 →450℃まで5℃/分で昇温
上記の温度プログラムにおける50℃〜450℃までの範囲のDSC曲線を観察した。図1に実施例1および比較例1のDSC曲線の重ね書きを示す。
図1に示すように、比較例1のサンプルでは200〜250℃付近に発熱ピークが観察されたが、このピークは実施例1のサンプルではほぼみられなかった。この結果から、実施例1のリチウムイオン二次電池は比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて熱安定性に優れるといえ、さらには、負極活物質層に電極用金属塩を有する本発明の負極は、蓄電装置の熱安定性の向上に寄与するといえる。