JP6657279B2 - ウナギの仔魚の給餌方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ウナギの仔魚の給餌方法に関する。
ウナギ養殖の種苗として用いられる天然のシラスウナギの採捕量は年々減少しており、シラスウナギを人工的に生産する技術の開発が望まれている。しかしながら、ウナギの仔魚の生態には未だ解明されていない点が多く、飼育が難しい。たとえば、特許文献1には、サメ卵乾燥粉末を海水に懸濁した飼料をピペットで水槽の底に撒く方法が開示されている。この方法においては、ウナギの仔魚が負の走光性を示すことを利用して、水槽の上から照明を当てて仔魚を水槽の底に集める。そして、ウナギの仔魚は、底の飼料をついばんで餌を摂取する。
特許第2909536号公報
しかしながら、このような従来の方法では、餌に辿り着けないウナギの仔魚や餌をついばむ能力の低いウナギの仔魚は、十分な餌を摂取することができない。そのため、ウナギの仔魚の栄養状態が十分ではなく、低い生存率をもたらし、シラスウナギの効率的な生産を困難にしている。
本発明は、ウナギの仔魚の生存率をより向上したウナギの仔魚の給餌方法を提供することを目的とする。
実施形態に従うウナギの仔魚の給餌方法は、粘度が10〜10mPa・sであり、pHが6〜9であり、溶存酸素量が7〜25mg/Lであり、ウナギの仔魚の餌を含む飼料液の中で、ウナギの仔魚を1000〜30000尾/Lの密度で遊泳させる工程を含む。
本発明のウナギの仔魚の給餌方法によれば、ウナギの仔魚の生存率をより向上し、シラスウナギの生産性をより増大することができる。
クライゼル水槽の一例の使用時の様子を示す斜視図である。 実施形態の給餌方法の一例を示すフローチャートである。 実施形態の給餌方法の工程(S2)〜(S4)の一例を説明する模式図である。 実施形態の給餌方法の工程(S5)の一例を説明する模式図である。 例1の実験結果を示すグラフである。 例1の実験結果を示すグラフである。 例2の実験結果を示すグラフである。 例3の実験結果を示すグラフである。 例4の実験結果を示すグラフである。
以下に、図面を参照しながら種々の実施形態について説明する。
実施形態によれば、ウナギの仔魚の給餌方法が提供される。
ウナギの仔魚とは、例えば、ウナギの卵から孵化後0日目〜5日目から、約400日目までのウナギの仔魚である。ウナギの仔魚は、例えば、ウナギの孵化仔魚と呼ばれる仔魚(プレレプトセファルス)、或いはレプトセファルスからシラスウナギに至るまでのウナギの仔魚である。ウナギの仔魚は、以下単に「仔魚」とも称する。
ウナギの仔魚は、給餌時以外の時間は飼育水の入った水槽に収容されている。例えば、給餌時以外の時間とは、孵化から餌を食べる成長段階までの間、例えば、孵化後0日目〜5日目までの間である。或いはそれ以降の成長段階における給餌時以外の時間である。
飼育水として、例えば、海水、希釈海水(例えば淡水に対する海水の割合が10〜99%、「半海水」とも称する)、人工海水(例えば、NaClを0.3重量%〜3.5重量%含む)、地下水又は温泉水などを用いることができるが、希釈海水を用いることが、仔魚が塩分排出に必要とするエネルギーを抑えることができるため好ましい。飼育水の温度は、例えば、18〜31℃であることが好ましい。
飼育水は、溶存酸素(Dissolved Oxygen、以下、「DO」とも称する)を含んでいることが好ましく、例えば、溶存酸素は、4mg/Lより多く維持されていることが好ましい。この場合、過密による酸素の不足などを防ぐことができ、ウナギの仔魚の生存率をより一層向上させることができる。溶存酸素は、7〜8mg/Lで維持されていればさらに好ましい。
溶存酸素を含む飼育水は、例えば、飼育水に空気又は酸素及び窒素を通気することによって作製することができる。例えば、水槽とは別に飼育水に空気又は酸素及び窒素を通気するための曝気槽を用意し、曝気槽への飼育水の給水量、排水量及び空気又は酸素及び窒素の通気量を適宜調節し、溶存酸素量が一定に維持された飼育水を調整し、それを水槽に送り込むことによって、水槽の飼育水の溶存酸素量を維持することができる。
ウナギの仔魚は、例えば6〜60mmの大きさを有する。このような大きさのウナギの仔魚の飼育水中の密度は、例えば、10〜50尾/Lであることが好ましい。密度がこの範囲の値であれば、生産効率がよく、かつ過密による酸素の不足を防ぐことができる。飼育水の溶存酸素量を4mg/Lより多く維持する場合、仔魚の密度は、例えば、50〜100尾/Lであってもよい。溶存酸素量を7〜8mg/L以上に維持する場合、仔魚の密度は、例えば、100〜300尾/Lであってもよい。
水槽として、例えば、角柱型水槽、円筒型水槽、クライゼル水槽(以下、「太鼓型水槽」とも称する)、楕円型水槽、又はボール型水槽などを用いることが可能である。水槽の大きさは、所望の仔魚の数や密度によって選択されればよいが、例えば、仔魚100尾あたり300〜1000mLの大きさを有することが好ましい。水槽は、飼育水の給水及び排水ができるものであれば、飼育水をより簡単に清潔な状態で維持することができる。また例えば、水槽は、飼育水の給水及び排水により水流を起こすことができるものであれば、更に簡単に清潔な状態で維持することができる。水槽として、クライゼル水槽を用いることが好ましい。
クライゼル水槽は、例えば、図1に示す構造を有する。図1は、クライゼル水槽の使用時の様子を示す斜視図である。クライゼル水槽1は、横置きにした円筒形の槽本体2を備える。槽本体2の上部には、槽本体2の円弧を水平に切欠した長方形の開口部2aが設けられている。また、槽本体2の右側の円形開口の時計回り方向の9時に位置する槽本体2の曲壁箇所には、例えば円形の排出口2bが設けられている。槽本体2の曲壁の幅は、例えば、150mm〜2000mmである。
槽本体2の両側の円形開口には、それら円形開口の直径より寸法の大きい、例えば正方形の第1の支持板3及び第2の支持板4がそれぞれ液密に接合されている。接合は、例えば、接着剤又はボルトなどを用いて締め付けることなどによって行われる。これらの支持板3、4により円筒形の槽本体2は横置き状態で支持、固定され、かつ円筒形の槽本体2の両側の円形開口が封止される。円形開口の封止によって、槽本体2の内側に液体を保持できる空間が形成される。槽本体2の両側の円形開口の直径は、例えば150mm〜1000mmである。
また、開口部2aの、第1の支持板3及び第2の支持板4と直交する2つの辺には、第1の隔壁板5及び第2の隔壁板6が、それらの側端を第1の支持板3及び第2の支持板4の対向する面に接合することにより立設されている。このように開口部2aの周囲を第1の支持板3、第2の支持板4、第1の隔壁板5及び第2の隔壁板6で囲むことにより、例えば、槽本体2内の飼育水7を円筒形の当該槽本体2の内周面に沿って回流させたときに、飼育水7が開口部2aから溢れ出るのを防止することができる。円筒形の槽本体2、第1の支持板3、第2の支持板4、第1の隔壁板5及び第2の隔壁板6は、例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂又は塩化ビニル樹脂のような樹脂により形成されている。
給水部である複数本(例えば4本)の給水ノズル8は、例えば第1の隔壁板5の第2の隔壁板6と対向する面に固定され、第1の隔壁板5の下端において、円筒形の槽本体2の内周面に向けて屈曲されている。給水ノズル8は、飼育水7を槽本体2に供給する。給水ノズル8のうち幾つかは垂直方向或いは支持板3又は4の方向に屈曲していてもよい。このように給水ノズル8のうち幾つかの屈曲方向を変えることにより、給水ノズル8からの飼育水7の供給量を調節することなしに水流のスピードを容易にコントロールすることができる。
環状キャップ9は、槽本体2の曲壁の円形の排出口2bを囲むように取付けられている。排水管10は、環状キャップ9の上部に接続されている。排水管10は、上方に延び、途中で水平方向に屈曲されている。環状キャップ9と排水管10とで排水部を構成している。なお、排出口2bには円形網(図示せず)が配置されており、当該円形網は、当該環状キャップ9から排水管10を通して飼育水7を排出するときに、槽本体2内の仔魚11も排出されるのを防止している。
このような図1に示すクライゼル水槽1によれば、両側が第1の支持板3及び第2の支持板4で封止された槽本体2内に、複数本の給水ノズル8から飼育水7を給水し、環状キャップ9及び排水管10を通して飼育水7を排出することによって、槽本体2の内周面(曲面)に沿って反時計回り方向(図1の矢印の方向)に向かう水流を発生できる。この水流によってウナギの仔魚11も槽本体2の内周面に沿って反時計回り方向に流される。そのため、ウナギの仔魚11が第1の支持板3及び第2の支持板4の平坦な面又は曲壁に衝突することを防ぐことができる。
以下に、実施形態の給餌方法の各工程について説明する。図2は、実施形態に従うウナギの仔魚の給餌方法の一例を示す概略フローチャートである。当該給餌方法は、次の工程(S1)〜(S5)を含む。粘度が10〜10mPa・sであり、pHが6〜9であり、溶存酸素量が7〜25mg/Lであり、ウナギの仔魚の餌を含む飼料液を用意する工程(S1)。飼育水の入った水槽に収容されたウナギの仔魚を、水槽の底に集める工程(S2)。飼料液を水槽の底に注入し、水槽の底に飼料液塊を形成することにより、飼料液塊中でウナギの仔魚を1000〜30000尾/Lの密度で遊泳させる工程(S3)。遊泳させた状態で、溶存酸素量が4mg/L以上で維持される時間放置する工程(S4)。及び、飼料液を水槽から排出し、飼料液を飼育水で置換する工程(S5)。
各工程について、以下に詳しく説明する。
工程(S1)において、飼料液を用意する。飼料液は、ウナギの仔魚の餌を含む混合物である。餌として、例えば、魚卵、サメ卵、鶏卵、魚介エキス、魚介すり身、魚肉分解物、畜肉分解物、植物性蛋白質分解物及び/又は卵白分解物などを用いることができる。さらに、動物性プランクトン及び/又は植物性プランクトン、さらにはそれらに由来する粉砕物、エキス、分解物等を用いることができる。例えば、飼料液は、餌の他に、上記の何れかの飼育水、ペプチド類、糖類、ミネラル、ビタミン及び/又は蒸留水などを更に含んでいてもよい。
飼料液の粘度は、10〜10mPa・sである。粘度は、飼料液に含まれる成分の種類及び/又は量を適宜選択することにより調整することができる。例えば、餌がサメ卵である場合、飼料液中に、サメ卵が20〜60現物重量%、海水が40〜80重量%含まれるように調製すれば、飼料液の粘度を上記の値とすることができる。例えば、粘度は、市販の粘度計を用いて測定することができる。
飼料液のpHは、6〜9である。pHは、上記の飼料液に含まれる成分の混合物に、塩酸、リン酸又はクエン酸などの酸、或いは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムなどの塩基を加えることによって調整することができる。
飼料液の溶存酸素量は7〜25mg/Lである。工程(S1)において用意される飼料液に含まれる溶存酸素がこの範囲の量であることによって、後述する工程(S4)の放置の間、飼料中の溶存酸素量が4mg/Lより多く維持される。溶存酸素量は、例えば、上記の成分の混合物に酸素を通気し、振とう撹拌することによって調整することができる。例えば、溶存酸素量は、市販の溶存酸素計を用いて測定することができる。
以上のようにして、飼料液を用意する。
以下に、工程(S2)以降の工程について図3及び4を用いて説明する。図3及び4は、図1に示すクライゼル水槽1を用いた実施形態の給餌方法の手順の一例を示す模式図である。
まず、ウナギの仔魚11は、水槽1の、第1の支持板3及び第2の支持板4で両側が封止された槽本体2(以下、単に「槽本体2」と称する)内の飼育水7に収容されている状態である(図3の(a))。ここにおいては、複数本の給水ノズル(図示せず)から飼育水7を槽本体2内に給水し、環状キャップ9及び排水管10を通して飼育水7を排出することによって、反時計回りの方向(図中矢印の方向)に水流が発生している。工程(S2)において、飼育水7の給水及び排水を止めることによって水流を止め、水槽1の上に設けられた照明12から、光を槽本体2に向けて照射する。ウナギの仔魚11は負の走光性を示すことから、このような光の照射によってウナギの仔魚11を槽本体2の底に集めることができる(図3の(b))。
照明12として、例えば、LED、白熱ランプ又は蛍光ランプなどを用いることができる。光の強度は、例えば、2〜200luxであることが好ましい。
次に工程(S3)において、飼料液用ノズル13を用いて槽本体2の底に飼料液を静かに注入する(図3の(c))。飼料液の粘度が飼育水7よりも高く、かつ比重が高いことから、飼育水7と飼料液とがほとんど混ざることなく、槽本体2の底に飼料液塊14を形成することができる。その結果、槽本体2の底に集められたウナギの仔魚11を飼料液塊14内で遊泳させることができる。この時の飼料液塊14中のウナギの仔魚11の密度は、1000〜30000尾/Lである。
注入する飼料液の量は、飼料液塊14中のウナギの仔魚11の密度が上記の密度となるように選択される。飼料液の量は、槽本体2の容積及び/又はウナギの仔魚11の数に依存して決定することができるが、例えば、槽本体2の容積1Lあたり、10〜100mLであることが好ましい。
その後、工程(S4)においてウナギの仔魚11を飼料液塊14内で遊泳させた状態で、溶存酸素量が4mg/L以上で維持される時間放置する(図3の(d))。溶存酸素量が4mg/L以上で維持される時間は、例えば、5〜20分である。より好ましくは、5〜15分である。また、放置は、溶存酸素量が7mg/L以上で維持される時間行ってもよい。放置する時間は、例えば、ウナギの仔魚の密度、成長段階又は注入される飼料液の量、最初の飼育液の溶存酸素量などに応じて、溶存酸素量が所望の量で維持される時間を選択すればよいが、仔魚が餌を十分に摂取できるようにできるだけ長く放置することが好ましい。放置の間、溶存酸素量が4mg/L以上で維持されるので、仔魚は窒息することがなく、仔魚の生存率が向上する(詳しくは後述する)。放置の間にウナギの仔魚11が飼料液塊14中を遊泳し、飼料液塊14中の餌やその他の成分を摂取することができる。この間、照明12から光を照射し続けることによって、ウナギの仔魚11が飼料液塊14から飼育水7に移動するのを防ぐことができる。
次に、工程(S5)において、飼料液を前記水槽1の槽本体2から排出し、飼料液を飼育水7で置換する。この工程は、例えば、図4に示す手順で行うことができる。まず、複数本の給水ノズル(図示せず)から飼育水7を槽本体2内に給水し、環状キャップ9及び排水管10を通して飼育水7を排出する操作を再開することによって、反時計回りの方向(図中矢印の方向)に水流を起こす(図4の(e)、(f))。水流によって、飼料液塊14を形成する飼料液が飼育水7と混ざり、飼料液の成分が飼育水7中に拡散する。その状態で、ウナギの仔魚11が飼育水7中に再び分散するように照明12の光を消す(図4の(g))。仔魚の遊泳による体力消耗を最小限にするため、照明12からの光は、なるべく早く消すことが好ましい。この操作を約1〜2時間継続することにより、飼料液がほぼ全て排出され、飼育水7に置換される(図4の(h))。
工程(S2)〜(S5)を、1日に5〜10回行うことが好ましい。ウナギの仔魚の成長段階によって回数を変えてもよい。この給餌方法による給餌を、例えば、ウナギの仔魚がシラスウナギに変態するまで、例えば、100〜400日行うことが好ましい。
更なる実施形態において、ウナギの仔魚11を集める工程(S1)において、一部の飼育水7を排水して水位を下げてもよい。それによって、より効率的に仔魚11を水槽1の槽本体2の底に集めることができる。或いは、工程(S1)において飼育水7を全て排水してもよい。その場合、飼育水7が飼料液に置き換えられるため、飼育水と飼料液塊とが混ざることがない。この場合、光の照射は必要ない。
更なる実施形態において、工程(S2)〜(S5)は、飼育水7及び/又は飼料液の給水及び/又は排出を制御する装置を用いて自動的に行ってもよい。そのような装置は、例えば、前記制御を行う制御部、ポンプ及び/又は電動弁などを備える。
以上に説明した実施形態の給餌方法によれば、ウナギの仔魚の生存率をより簡便に向上でき、シラスウナギの生産性を増大させることが可能になる。その理由として以下のことが考えられる。
飼料液の粘度が10〜10mPa・sであることによって、仔魚は、拘束されずに、また酸欠になることなく、飼料液塊の中を遊泳することができる。ウナギの仔魚は自発摂餌能力及び遊泳力に乏しいが、上記のような状態であれば餌が仔魚の周りに存在する。そのため、仔魚は遊泳するだけで飼料液塊に含まれる餌やその他の成分を摂取することができるとともに、全ての仔魚に均等に摂餌の機会が与えられる。その結果、仔魚の栄養状態が改善され、仔魚の生存率がより一層向上し、より早くより多くのシラスウナギを得ることができる。また従来の底撒き法のように飼料を求めて水槽の底に衝突することを防止できる。それによって、仔魚の生存率を更に向上させることができる。
また、発明者らは、上記飼料液のpHが6〜9であることによって、ウナギの仔魚の生存率をより一層向上させることができることを見出した。ある例によれば、アミノ酸やペプチド、種々の栄養素を含む飼料のpHは酸性(例えば、pH4〜6)に偏ることがしばしばあるが、pHを6〜9に調整することによって、従来と比較し生存率が3〜5倍向上する。その理由として、例えば、従来の方法では仔魚が飼料に接触することで飼料の酸性により体表が白化して弱るなどの悪影響があったが、上記pHの範囲であればウナギの仔魚が飼料液に接触しても仔魚に悪影響を与えないことが分かった。pHは、6.5〜8.5であればウナギの仔魚の生存率を更に向上させることができるためより好ましい。
溶存酸素量について、発明者らは、ウナギの仔魚が収容される液体の溶存酸素量が4mg/L以上で維持されれば、仔魚の生存率をより一層向上させることができることを見出した。給餌中は仔魚が密集していることによって飼料液の酸素量が徐々に低下するが、最初の飼料液の溶存酸素量を7〜25mg/Lに調節しておくことによって、1000〜30000尾/Lの密度であっても給餌中の飼料液の溶存酸素量を4mg/L以上に維持できることが発明者らによって見出された。このような飼料液中の高い溶存酸素量は、仔魚の生存に悪影響を与えず、むしろ、25mg/Lまでの範囲内において高い値である程、仔魚の生存率を向上させることが可能であることが見出された。故に、給餌中の溶存酸素量が8mg/L以上で維持されることが最も好ましく、そのために、最初の飼料液の溶存酸素量は20mg/Lより多く25mg/L以下にすることが好ましい。ある例においては、溶存酸素量が8mg/L以上である場合、2.1〜2.4mg/Lである場合と比較して、生存率が2倍以上向上する。3.5〜4mg/Lの場合と比較した場合では、生存率が約1.6倍向上する。
このような給餌方法を、例えば、1日5〜10回繰り返すことによって、ウナギ仔魚は十分に餌を摂取することができる。
以上のような理由から、実施形態の給餌方法によれば、簡単にウナギの仔魚の生存率をより一層向上させ、シラスウナギの生産性を増大させることが可能である。
以上に、給餌時における飼料液中の仔魚の密度、溶存酸素量、放置時間、仔魚の孵化後日数、水槽の形、飼育水の条件などについて説明したが、粘度が10〜10mPa・sであり、pHが6〜9であり、溶存酸素量が7〜25mg/Lであり、ウナギの仔魚の餌を含む飼料液の中で、ウナギの仔魚を1000〜30000尾/Lの密度で遊泳させる条件で給餌すれば、他の条件に関わらずウナギの仔魚の生存率をより一層向上させ、シラスウナギの生産性を増大させる効果を奏することができる。例えば、上記各要素の条件の中で最も酸素を消費すると考えられる条件、即ち、仔魚の密度が30000尾/L、飼料液の最初の溶存酸素量が7mg/L、放置時間が20分、及び/又は孵化後日数が400日であっても、上記の効果を奏することが可能である。
<例>
以下に、実施形態の給餌方法の効果を評価した例を記載する。
例1 飼料内遊泳による給餌方法及び底撒きによる給餌方法の比較
・実験方法
[飼料内遊泳による給餌方法]
まず、飼料液を調整した。飼料液の組成を表1に示す。
Figure 0006657279
この飼料液の粘度は、10〜10mPa・sであった。粘度は、粘度計(Brookfield LV DV−E、英弘精機製)によって測定した。
20Lのクライゼル水槽の槽本体に23℃の飼育水(半海水)を常時通水し、水流を発生させた。そこに、孵化後6日目のウナギの仔魚を約350尾収容した。給餌時、水流を止め、水槽の上から光を当てて仔魚を槽本体の底に集め、槽本体の底に飼料液100mLを静かに注入した。飼料液はもともと槽本体に入れていた飼育水とは混ざらず、飼料液塊が形成された。全てのウナギの仔魚がこの飼料液塊中で遊泳していた。このとき、飼料液塊中のウナギの仔魚の密度は約3500尾/Lであった。この状態で15分間維持して給餌した後、光を消し、水流を起こし、飼育水の流入と排水を行った。飼育水の流入と排水を約120分間行うことによって、飼料がほぼ全て排水され、飼育水が透明になった。この一連の工程による給餌を1日5回行い、仔魚を260日間飼育した。
[底撒きによる給餌方法]
20Lのクライゼル水槽の槽本体に23℃の飼育水(半海水)を常時通水し、水流を発生させた。そこに、孵化後6日目のウナギの仔魚を約350尾収容した。給餌時、水流を止め、表1の飼料液から海水を除いた成分からなる飼料(粘度10〜10mPa・s)を、静かに水槽の底に撒いた。その後、15分間水槽の上から光を当てて仔魚を槽本体の底に集め、飼料を食べさせた。この給餌を1日5回行った。この方法で、仔魚を260日間飼育した。
上記各給餌方法において、260日の間、毎日各水槽における死亡したウナギの仔魚を数え、生存率を算出した。また、10日毎にシラスウナギに変態した仔魚の数を数えた。
・実験結果
生存率の結果を図5に示す。飼料内遊泳による給餌方法の場合の生存率は、約30日目以降において底撒きの場合よりも高くなり、100日目においては底撒きの場合の約2倍、260日目においては約4倍であった。
シラスウナギとなった仔魚の数の結果を図6に示す。飼料内遊泳による給餌方法の場合の260日目におけるシラスウナギの生産数は、底撒きの場合の3倍であった。
したがって、飼料内遊泳による給餌方法は、底撒きによる給餌方法と比較してウナギの仔魚の生存率及びシラスウナギの生産数において著しく優れていることが示された。
例2 飼育水(半海水)の溶存酸素の影響の評価
・実験方法
3つの10Lのクライゼル水槽の槽本体に23℃の飼育水(半海水)を常時通水し、水流を発生させた。それぞれの槽本体に、孵化後6日目のウナギの仔魚を約150尾収容した。この飼育水槽とは別に用意した3つの曝気槽で、飼育水に酸素及び窒素を混合通気し、各曝気槽内の飼育水への給水量、排水量及び通気量を調節することによって、各曝気槽の溶存酸素量をそれぞれ7〜8mg/L、3.5〜4mg/L、2.1〜2.4mg/Lに調節した。7〜8mg/Lの溶存酸素量を100%とすると、3.5〜4mg/Lは50%(相対値)、2.1〜2.4mg/Lは30%(相対値)である。この飼育水を各飼育水槽に送り込むことによって、各飼育水槽の飼育水の溶存酸素量が飼育中それぞれ上記の量で維持されるようにした。
それぞれの水槽において、例1の飼料内遊泳による給餌方法と同じ方法で給餌を行った。この給餌を1日5回行い、42日間飼育した。42日間、毎日各水槽における死亡したウナギの仔魚を数え、生存率を算出した。
・実験結果
結果を図7に示す。DO100%で飼育した場合の生存率は42日目において65%であり、DO50%の場合と比較して有意に高かった。DO50%で飼育した場合の生存率は、例1における飼料内遊泳による給餌方法(酸素通気をしない場合)とほぼ同じであったが、DO30%ではその場合よりも低くなった。
したがって、溶存酸素量が3.5〜4mg/L(50%)を超える場合、ウナギの仔魚の生存率を有意に改善することができ、溶存酸素量が7〜8mg/L(100%)で維持される場合、最も生存率が高いことが示された。
例3 酸素通気した飼料液の溶存酸素量の変化の調査
・実験方法
2つの10Lのクライゼル水槽の槽本体に、23℃の飼育水(半海水)を常時通水し、水流を発生させた。それぞれの槽本体に孵化後18日目のウナギの仔魚を約1000尾収容した。例1の飼料内遊泳による給餌方法で用いた飼料液に、酸素ボンベにより酸素を通気して振とう撹拌することにより、飼料液の溶存酸素量が20〜25mg/Lとなるように調整した。この飼料液と、酸素を通気していない飼料液(各100mL)を用いて、2つの水槽においてそれぞれ例1の飼料内遊泳による給餌方法と同じ方法で給餌を行った。このとき、飼料液塊中のウナギの仔魚の密度は約10000尾/Lであった。給餌中の15分間、溶存酸素量の変化を溶存酸素計(HQ30d、東亜ディーディーケー製)でモニタリングした。
・実験結果
結果を図8に示す。酸素を通気した飼料液においては、15分間に亘り8mg/L以上の溶存酸素量が維持されるが、酸素通気していない飼料においては、12分でDO50%以下になることが明らかとなった。DO50%以下では例2の結果に示される通り生存率が著しく下がるため、生存率をより向上させるためには、給餌前の飼料液に20〜25mg/Lの溶存酸素が含まれることが必要であることが分かった。
例4 飼料液のpHの影響の評価
・実験方法
例1の飼料内遊泳による給餌方法で用いた飼育水に塩酸又は水酸化ナトリウムを加えることによって、飼育水のpHを約3〜約10の17段階に調整した。300mL容量を有する17個の水槽に、前記17段階のpHの飼料液をそれぞれ100mL入れ、それぞれに孵化後6日目のウナギの仔魚を約100尾収容した。18時間後に各水槽における死亡したウナギの仔魚を数え、生存率を算出した。
・実験結果
結果を図9に示す。飼育水のpHが6〜9の間であれば、80%以上の生存率が得られた。また、pHが6.5〜8.5の間であれば、95%以上の生存率が得られた。
以上に説明した例から、pHが6〜9であり、溶存酸素量が7〜25mg/Lであり、10〜10mPa・sの粘度を有する飼料液の中に、ウナギの仔魚を1000〜30000尾/Lの密度で遊泳させる実施形態の給餌方法によれば、ウナギの仔魚の生存率がより一層向上され、シラスウナギの生産性を増大させることができることが明らかとなった。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
粘度が10 〜10 mPa・sであり、pHが6〜9であり、溶存酸素量が7〜25mg/Lであり、ウナギの仔魚の餌を含む飼料液の中で、ウナギの仔魚を1000〜30000尾/Lの密度で遊泳させる工程を含むウナギの仔魚の給餌方法。
[2]
(S1)粘度が10 〜10 mPa・sであり、pHが6〜9であり、溶存酸素量が7〜25mg/Lであり、ウナギの仔魚の餌を含む飼料液を用意する工程、
(S2)飼育水の入った水槽に収容されたウナギの仔魚を、前記水槽の底に集める工程、
(S3)前記飼料液を前記水槽の底に注入し、前記水槽の底に飼料液塊を形成することにより、前記飼料液塊中で前記ウナギの仔魚を1000〜30000尾/Lの密度で遊泳させる工程、
(S4)前記遊泳させた状態で、溶存酸素量が4mg/L以上で維持される時間放置する工程、及び
(S5)前記飼料液を前記水槽から排出し、前記飼料液を前記飼育水で置換する工程を含むウナギの仔魚の給餌方法。
[3]
前記工程(S4)の前記放置は、5分〜20分行われる[2]に記載の給餌方法。
[4]
前記水槽は、前記飼育水を前記水槽内に給水する給水部と、前記飼育水を前記水槽から排水する排水部とを備え、前記給水及び前記排水を行うことにより前記水槽内に水流を発生させるように構成されており、前記工程(S5)は、前記水流を発生させることにより行われる[2]又は[3]に記載の給餌方法。
[5]
孵化後5日目から、400日目までの前記ウナギの仔魚に給餌するための[1]〜[4]の何れか1つに記載の給餌方法。
[6]
[1]〜[5]の何れか1つに記載の給餌方法を1日5〜10回行う給餌方法。
1…水槽、2…槽本体、7…飼育水、11…ウナギの仔魚、14…飼料液塊。

Claims (6)

  1. 粘度が10〜10mPa・sであり、pHが6〜9であり、溶存酸素量が7〜25mg/Lであり、ウナギの仔魚の餌を含む飼料液の中で、ウナギの仔魚を1000〜30000尾/Lの密度で遊泳させる工程を含むウナギの仔魚の給餌方法。
  2. (S1)粘度が10〜10mPa・sであり、pHが6〜9であり、溶存酸素量が7〜25mg/Lであり、ウナギの仔魚の餌を含む飼料液を用意する工程、
    (S2)飼育水の入った水槽に収容されたウナギの仔魚を、前記水槽の底に集める工程、
    (S3)前記飼料液を前記水槽の底に注入し、前記水槽の底に飼料液塊を形成することにより、前記飼料液塊中で前記ウナギの仔魚を1000〜30000尾/Lの密度で遊泳させる工程、
    (S4)前記遊泳させた状態で、溶存酸素量が4mg/L以上で維持される時間放置する工程、及び
    (S5)前記ウナギの仔魚を前記水槽から移動させずに、前記飼料液を前記水槽から排出し、前記飼料液を前記飼育水で置換する工程を含むウナギの仔魚の給餌方法。
  3. 前記工程(S4)の前記放置は、5分〜20分行われる請求項2に記載の給餌方法。
  4. 前記水槽は、前記飼育水を前記水槽内に給水する給水部と、前記飼育水を前記水槽から排水する排水部とを備え、前記給水及び前記排水を行うことにより前記水槽内に水流を発生させるように構成されており、前記工程(S5)は、前記水流を発生させることにより行われる請求項2又は3に記載の給餌方法。
  5. 孵化後5日目から、400日目までの前記ウナギの仔魚に給餌するための請求項1〜4の何れか1項に記載の給餌方法。
  6. 請求項1〜5の何れか1項に記載の給餌方法を1日5〜10回行う給餌方法。
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