以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
<樹脂エマルションの機械的安定性評価方法>
本発明者らは、マーロン式機械的安定性試験機を用いた機械的安定性の評価及び確認を行いながら、機械的安定性が良好な樹脂エマルションを得るための検討を行っていた。その結果、樹脂エマルションにおける粒子の表面に吸着保護層や水溶性保護コロイドを有する構成や、粒子に(メタ)アクリル酸由来の構造単位を有する構成の場合に、機械的安定性が良好になりやすい傾向にあるとの知見を得た。この知見に基づく本発明者らのさらなる検討の結果、機械的安定性が良好であった樹脂エマルションの群と、上記構成を有しないこと以外は同等の樹脂エマルションの群とでは、平均粒子径に関する構成において、違いが生じることがわかった。具体的には、上記平均粒子径に関する構成として、樹脂エマルションのレーザー回折・散乱法による平均粒子径DA及び動的光散乱法による平均粒子径DBとの比であるDA/DBが樹脂エマルションの機械的安定性と相関していることが判明した。このことから、本発明者らは、上記DA/DBの値によって、樹脂エマルションの機械的安定性の良否を評価しうると考え、その考えの下、検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の一実施形態の樹脂エマルションの機械的安定性評価方法(以下、単に「本評価方法」と記載することがある。)は、樹脂エマルションについて、その機械的作用に対する安定性(機械的安定性)を評価する方法である。そして、図1に示すように、本評価方法は、樹脂エマルションのレーザー回折・散乱法による平均粒子径DAを測定する工程(第1の測定工程)S11と、樹脂エマルションの動的光散乱法による平均粒子径DBを測定する工程(第2の測定工程)S12を含む。また、本評価方法は、測定された平均粒子径DA及び平均粒子径DBから、それらの比であるDA/DBを算出する工程(算出工程)S13と、DA/DBの値に基づいて、樹脂エマルションの機械的安定性の良否を評価する工程(評価工程)S14を含む。
本評価方法によれば、樹脂エマルションの2種の平均粒子径の比であるDA/DBの値に基づいて、樹脂エマルションの機械的安定性の良否を評価しうる。そのため、本評価方法によって、マーロン式機械的安定性試験機を用いた試験を行わずに樹脂エマルションの機械的安定性の評価を行うことも可能となる。本評価方法で用いられる平均粒子径は、樹脂エマルションの一般性状を示す情報として広く用いられていることから、本評価方法は、機械的安定性を評価するためだけの試験を省略しうることにもつながり、産業上有用といえる。また、本評価方法と上記試験機を用いた試験との併用により、樹脂エマルションの機械的安定性について、より信頼性の高い情報を示しうる。したがって、本評価方法は、樹脂エマルション製品の使用、製造、及び販売等を行う際に、より有用となりうる。
本明細書及び特許請求の範囲(以下、「本明細書等」と記載する。)において、樹脂エマルション(それに含有されている樹脂粒子)のレーザー回折・散乱法による平均粒子径DAは、レーザー回折・散乱法によって測定される体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50)を意味する。レーザー回折・散乱法では、樹脂エマルションにおける液状媒体中に分散された粒子試料中をレーザー光が通過する際に散乱する光の強度の角度依存性を測定することで、粒子径を測定する。大きな粒子の場合、レーザー光に対して小さい角度で光が散乱し、小さい粒子の場合は大きな角度までほぼ同じ強度で光が散乱する。その後、角度ごとのデータを解析し、フランホーファ回折理論やミー散乱理論等を使用して、回折・散乱パターンを作り出している粒子径を計算する。このように、レーザー回折・散乱法では、分散された粒子試料をレーザー光が通過する際に散乱する光の強度の角度変化を測定することで粒度分布を測定する。このことから、測定対象の樹脂エマルションが、粒子の表面に吸着保護層や水溶性保護コロイドを有する場合、レーザー光は、吸着保護層や保護コロイドを透過するため、粒子のみの粒子径が測定される傾向にあると考えられる。
また、本明細書等において、樹脂エマルション(それに含有されている樹脂粒子)の動的光散乱法による平均粒子径DBは、動的光散乱法によって測定される、キュムラント法解析の平均粒子径を意味する。溶液や懸濁液中でブラウン運動をしている粒子にレーザー光を照射すると、粒子からの散乱光には拡散係数に応じた揺らぎが生じる。大きな粒子は動きが遅いので散乱光強度の揺らぎは緩やかであり、一方、小さな粒子は動きが速いので散乱光強度の揺らぎは急激に変化する。動的光散乱法では、この拡散係数を反映した散乱光の揺らぎを検出し、ストークス・アインシュタイン式等を利用して粒子径を測定し、キュムラント法により平均粒子径が算出される。このように、動的光散乱法では、粒子のブラウン運動の速度に対応した揺らぎを観測するため、測定対象の樹脂エマルションが、粒子の表面に吸着保護層や水溶性保護コロイドを有する場合、それらを含めた粒子径が測定される傾向にあると考えられる。
上述のようなレーザー回折・散乱法と動的光散乱法との間の測定原理の違いに起因して、樹脂エマルションの上記DA/DBが、樹脂エマルションの機械的安定性と関連し、その良否を評価できる指標になり得たものと考えられる。
本評価方法における第1の測定工程S11では、樹脂エマルションのレーザー回折・散乱法による平均粒子径DAを測定する。また、第2の測定工程S12では、樹脂エマルションの動的光散乱法による平均粒子径DBを測定する。図1では、第1の測定工程S11の後に第2の測定工程S12が示されているが、第1の測定工程S11と第2の測定工程S12の順序は制限されず、第2の測定工程S12が第1の測定工程S11よりも先に行われてもよく、第1の測定工程S11と第2の測定工程S12とが同時進行的(並列)に行われてもよい。
これらの平均粒子径DA及びDBは、常法にしたがって測定することができ、樹脂エマルションの温度が25℃の条件下、かつ、DAの測定とDBの測定とでpHが同一(同値±0.1の範囲内)の条件下で測定された値をとることができる。この測定条件におけるpHは6.5〜9.5の範囲内が好適であり、より好適には7.0〜9.0の範囲内、さらに好適には7.5〜8.5の範囲内である。特に好適には、DA及びDBは、樹脂エマルションのpHが8の条件下で測定された値をとることができる。樹脂エマルションの平均粒子径DAは、レーザー回折・散乱法を利用した粒度分布測定装置(例えば、商品名「レーザー回折式ナノ粒子径分布測定装置 SALD−7100」、島津製作所社製)を用いて、D50として測定することができる。また、樹脂エマルションの平均粒子径DBは、動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置(例えば、商品名「濃厚系粒径アナライザー FPAR−1000」、大塚電子社製)を用いて、キュムラント法解析により、測定することができる。
なお、本評価方法は、通常、第1の測定工程S11及び第2の測定工程S12の前に、それらの工程において平均粒子径DA及びDBが測定される対象となる樹脂エマルションを準備する工程(準備工程)を含む。この準備工程では、購入等により入手した市販製品の樹脂エマルションを準備してもよいし、作製した樹脂エマルションを準備してもよい。
本評価方法における算出工程S13では、樹脂エマルションについて、第1の測定工程S11で測定された平均粒子径DA及び第2の測定工程S12で測定された平均粒子径DBから、それらの比であるDA/DBを算出する。
算出工程S13におけるDA/DBの算出は、情報処理装置に実行させてもよい。情報処理装置は、例えば、CPU、メモリ、記憶部、入力部、及び出力部等を備えており、情報処理装置におけるCPUにDA/DBの算出を実行させてもよい。例えば、情報処理装置として、汎用のコンピュータを用いてもよく、前述の粒度分布測定装置に備え付けられたコンピュータを用いてもよい。例えば、情報処理装置と粒度分布測定装置とを接続しておき、粒度分布測定装置で得られた平均粒子径DA及びDBが、情報処理装置における入力部に入力される構成としてもよい。そして、入力部に入力されたDA及びDBの値からDA/DBを算出するプログラム(又はそれを含むソフトウエア)を情報処理装置における記憶部等や記録媒体に格納しておき、CPUがプログラムを読み出して実行する構成としてもよい。また、CPUが、算出されたDA/DBの値を情報処理装置における出力部(モニター)に出力する構成としてもよい。
本評価方法における評価工程S14では、算出工程S13で得られたDA/DBの値に基づいて、樹脂エマルションの機械的安定性の良否を評価する。前述の通り、粒子の表面に吸着保護層や水溶性保護コロイドを有する樹脂エマルションは、機械的安定性が良好となりやすいことがわかった。そして、粒子の表面に吸着保護層や保護コロイド等を有効に有する樹脂エマルションは、レーザー回折・散乱法による平均粒子径DAに比べて、動的光散乱法による平均粒子径DBの方が大きい値として測定されることが判明した。したがって、本評価方法の一例としては、評価工程S14において、DA/DBの値が1未満である場合に、樹脂エマルションの機械的安定性が良好であると判断することができる。
評価工程S14における樹脂エマルションの機械的安定性の良否の評価も、上述の情報処理装置(そのCPU)に実行させてもよい。例えば、DA/DBの値が1未満である場合に機械的安定性が良好であると判断し、かつ、DA/DBの値が1以上である場合に機械的安定性が良好でないと判断するプログラム(又はそれを含むソフトウエア)を、情報処理装置における記憶部等や記録媒体に格納しておき、そのプログラムをCPUが読み出して実行する構成としてもよい。さらには、DA/DBの値に基づき評価された結果(樹脂エマルションの機械的安定性の良否結果)を、CPUが情報処理装置における出力部(モニター)に出力する構成としてもよい。
なお、評価工程S14では、DA/DBの値に基づいて、樹脂エマルションの機械的安定性の良否を、「良好である」及び「良好でない」の2段階で評価する場合に限らず、3段階以上の多段階で評価してもよい。
次に本評価方法における評価対象となる樹脂エマルションについて説明する。本評価方法は、後記試験例で示された傾向から、樹脂エマルションについて広く適用することが可能である。樹脂エマルションにおける樹脂粒子(本明細書等において、単に「粒子」と記載することもある。)は、重合性不飽和結合を有する単量体(以下、「重合性単量体」と記載することがある。)のうちの1種又は2種以上に由来する構造単位を含むことができる。樹脂粒子は、好ましくは2種以上の重合性単量体の共重合体であるが、1種の重合性単量体の単独重合体であってもよい。
本明細書等では、単独重合及び共重合を区別することなく、それら両方を含めて単に「重合」と記載することがある。また、本明細書等において、「構造単位」とは、樹脂(重合体)を形成する重合性単量体の単位を意味する。「(重合性単量体に)由来する構造単位」とは、例えば、単量体における重合性二重結合(C=C)が開裂して単結合(−C−C−)となった構造単位等が挙げられる。
樹脂エマルションは、樹脂エマルションに通常含有される水等の水性媒体中で、樹脂粒子を形成する1種又は2種以上の重合性単量体(単量体成分)を重合させることで得ることができる。また、例えば、水性媒体とは別途に製造された樹脂粒子を、強制乳化や自己乳化等の方法によって後乳化させることで、樹脂エマルションを得ることもできる。樹脂エマルションは、水性媒体中で樹脂粒子を形成する単量体成分を乳化重合させて得られたものが好ましい。水性媒体としては、水が好適であり、水のみを使用してもよいし、水と有機溶剤との混合媒体を使用してもよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチルカルビトール、及びN−メチルピロリドン等を挙げることができるが、これらに限定されず、また、有機溶剤の1種又は2種以上を使用してもよい。
本評価方法における好適な評価対象としては、(メタ)アクリル系樹脂粒子を含有する樹脂エマルションを挙げることができる。本明細書等において、「(メタ)アクリル系樹脂粒子」とは、重合性単量体として少なくとも(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分が重合した樹脂粒子であり、少なくとも(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を有する。本明細書等において、「(メタ)アクリル」との文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。また、同様に、「(メタ)アクリレート」との文言には、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。(メタ)アクリル系樹脂粒子は、1種の重合性単量体((メタ)アクリル酸エステル)が重合した重合体(単独重合体)粒子でもよいし、(メタ)アクリル酸エステルを含む2種以上の重合性単量体が重合(共重合)した重合体(共重合体)粒子でもよい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、及び(メタ)アクリル酸アリールエステル、並びにそれら以外の他の(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。これらの(メタ)アクリル酸エステルの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル系樹脂粒子を形成する単量体成分は、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ウンデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;並びにシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の脂環式の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を挙げることができる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、炭素原子数が1〜18(より好ましくは1〜12)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、メチル(メタ)アクリレート、及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、及び(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、及び2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、及びナフチルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、及びナフチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
他の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリルレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;2−クロロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、及びパーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2−(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、及び3−(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;カルボキシエチル(メタ)アクリレート、及びカルボキシペンチル(メタ)アクリレート等のカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体;2−スルホエチル(メタ)アクリレート、及び3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート;2−(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸2−イソシアナトエチル等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレート;メトキシポリエチエレングリコール(メタ)アクリレート、及びフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキル基又はアリール基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
(メタ)アクリル系樹脂粒子は、上述の(メタ)アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の重合性単量体を含む単量体成分が重合した樹脂粒子であってもよい。この場合、(メタ)アクリル系樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位と、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の重合性単量体に由来する構造単位を有することができる。
他の重合性単量体としては、不飽和カルボン酸系単量体が好ましく、(メタ)アクリル系樹脂粒子は、不飽和カルボン酸系単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。本明細書等において、不飽和カルボン酸系単量体には、不飽和カルボン酸、並びにその無水物及びモノエステルが含まれる。
不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、及びシトラコン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸の無水物;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、及びイタコン酸モノブチルエステル等の不飽和カルボン酸のモノエステルを挙げることができる。これらの不飽和カルボン酸系単量体のうちの1種又は2種以上を用いることがより好ましい。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸がさらに好ましい。
樹脂粒子を形成する単量体成分中の不飽和カルボン酸系単量体の総含有量(樹脂粒子中の不飽和カルボン酸系単量体に由来する構造単位の含有割合)は、樹脂粒子を形成する単量体成分の全質量を基準として、30質量%以下であることが好ましい。この不飽和カルボン酸系単量体の総含有量は、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。また、樹脂粒子に不飽和カルボン酸系単量体を使用する場合には、上記の不飽和カルボン酸系単量体の総含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。
不飽和カルボン酸系単量体以外の他の重合性単量体としては、窒素原子を有する不飽和単量体、及びスチレン系単量体等を挙げることができる。これらのなかでも、スチレン系単量体が好ましく、(メタ)アクリル系樹脂粒子は、スチレン系単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。
窒素原子を有する不飽和単量体としては、例えば、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のシアノ基を有する不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−[2−ジメチルアミノエチル](メタ)アクリルアミド、N−[3−ジメチルアミノプロピル](メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、4−アクリロイルモルホリン、及び4−メタクリロイルモルホリン等のアクリルアミド系単量体;N−ビニルアセトアミド、及びN−ビニル−N−メチルアセトアミド等のビニル基を有するアセトアミド系単量体;N−ビニル−2−ピロリドン、4−ビニルピリジン、1−ビニルイミダゾール、2−ビニル−2−オキサゾリン、及び2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等のビニル基を有する含窒素複素環式化合物等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−,p−メチルスチレン、o−,m−,p−エチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、o−,m−,p−ヒドロキシスチレン、o−,m−,p−メトキシスチレン、o−,m−,p−エトキシスチレン、o−,m−,p−クロロスチレン、o−,m−,p−ブロモスチレン、o−,m−,p−フルオロスチレン、及びo−,m−,p−クロロメチルスチレン等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、スチレンが好ましい。
他の重合性単量体としては、前述の不飽和カルボン酸系単量体、窒素原子を有する不飽和単量体、及びスチレン系単量体以外に、例えば、ビニル系単量体、不飽和アルコール、ビニルエーテル系単量体、ビニルエステル系単量体、エポキシ基を有する不飽和単量体、及びスルホン酸基を有する不飽和単量体等を用いることも可能である。
ビニル系単量体としては、例えば、塩化ビニル及びフッ化ビニル等が挙げられる。不飽和アルコールとしては、例えば、ビニルアルコール及びアリルアルコール等が挙げられる。ビニルエーテル系単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、及びジエチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、及びバーサチック酸ビニル等が挙げられる。エポキシ基を有する不飽和単量体としては、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。スルホン酸基を有する不飽和単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、及び2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
さらに、樹脂粒子を形成する単量体成分には、重合性単量体として、架橋剤としての機能を有し得る単量体(架橋性単量体)を用いることも可能である。架橋性単量体には、重合性不飽和結合を2以上有する単量体を用いることができる。架橋性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレ-ト、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びグリセリンジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;並びにジアリルフタレート等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
また、架橋性単量体としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を挙げることもでき、それらの1種又は2種以上を用いることが可能である。
(メタ)アクリル系樹脂粒子を形成する単量体成分は、上述した(メタ)アクリル酸エステル及びスチレン系単量体のうちの少なくとも一方を主成分として含むことがより好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及びスチレンのうちの少なくとも一方を主成分として含むことがさらに好ましい。
ここで、「主成分」とは、樹脂粒子を形成する単量体成分中に占める割合(質量%)が、樹脂粒子を形成する単量体成分のうちで最も多い単量体をいう。例えば、樹脂粒子を形成する単量体成分が(メタ)アクリル酸エステルを主成分として含むという場合は、樹脂粒子を形成する単量体成分中に占める(メタ)アクリル酸エステルに該当する一の単量体の割合(質量%)が、樹脂粒子を形成する単量体成分中に占める他の単量体(上記一の単量体以外の単量体)のいずれの割合(質量%)よりも多いことをいう。上記の(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸アルキルエステル)及びスチレン系単量体(スチレン)の両方が主成分である場合、それらの上記割合(質量%)が同等であることを表す。樹脂粒子を形成する単量体成分中の主成分の含有量(粒子中の主成分に由来する構造単位の含有割合)は、樹脂粒子を形成する単量体成分の全質量を基準として、30〜90質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましく、50〜70質量%であることがさらに好ましい。
上述の通り、本評価方法における好適な評価対象としては、(メタ)アクリル系樹脂粒子を含有する樹脂エマルションを挙げることができるが、以下の観点から説明される樹脂エマルションも好適である。
後記試験例でも示される通り、粒子の表面にポリカルボン酸型高分子化合物が吸着した吸着保護層を有効に有する樹脂エマルションや、粒子(重合体)に(メタ)アクリル酸由来の構造単位をある程度有する樹脂エマルションは、DA/DBの値が1未満となりやすく、機械的安定性が良好となりやすいことが判明した。このことから、評価対象としては、ポリカルボン酸型高分子化合物を含む樹脂エマルション;及び(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む粒子を含有する樹脂エマルション;の少なくとも一方に該当する樹脂エマルションが好ましい。さらには、それらの少なくとも一方に該当し、かつ、前述の(メタ)アクリル系樹脂粒子を含有する樹脂エマルションがより好ましい。すなわち、(メタ)アクリル系樹脂粒子、及びポリカルボン酸型高分子化合物を含有する樹脂エマルション;並びに(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸のそれぞれに由来する構造単位を含む粒子((メタ)アクリル系樹脂粒子)を含有する樹脂エマルション;の少なくとも一方に該当する樹脂エマルションがより好ましい。それらの樹脂エマルションについても、樹脂粒子を形成する単量体成分が、上述の(メタ)アクリル酸エステル(特に(メタ)アクリル酸アルキルエステル)及びスチレン系単量体(特にスチレン)のうちの少なくとも一方を主成分として含むことがさらに好ましい。
ポリカルボン酸型高分子化合物は、例えばポリアクリル酸及びポリアクリル酸塩等のように、ポリカルボン酸型の高分子化合物であり、カルボン酸、又はその塩若しくは無水物に由来する構造単位を有する水溶性高分子化合物である。カルボン酸としては、不飽和カルボン酸を挙げることができ、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、及びフマル酸等を挙げることができる。ポリカルボン酸型高分子化合物は、カルボン酸、並びにその塩及び無水物(以下、「カルボン酸等」と記載することがある)のうちの1種の単独重合体であってもよく、2種以上の共重合体であってもよい。また、ポリカルボン酸型高分子化合物は、1種又は2種以上のカルボン酸等に由来する構造単位と、1種又は2種以上の他の単量体に由来する構造単位を有する共重合体であってもよい。他の単量体としては、例えば、エチレン及びプロピレン等のオレフィン、スチレン及び酢酸ビニル等のビニル基含有単量体、スルホン酸及びその誘導体等のスルホ基含有単量体、並びに(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有単量体等を挙げることができる。
ポリカルボン酸型高分子化合物の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜5,000,000であることが好ましく、3,000以上であることがより好ましく、5,000以上であることがさらに好ましい。一方、液状媒体(水等)に対するポリカルボン酸型高分子化合物の溶解性が低下することによる樹脂エマルションの高粘度化や、エマルション中の樹脂粒子の析出を抑制する観点から、ポリカルボン酸型高分子化合物のMwは、5,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは1,000,000以下、さらに好ましくは200,000以下である。本明細書において、ポリカルボン酸型高分子化合物のMwは、標準物質をポリエチレングリコール(PEG)としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された値である。
ポリカルボン酸型高分子化合物としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、アクリル酸−メタクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸−マレイン酸共重合体、オレフィン−マレイン酸共重合体、オレフィン−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸−スルホン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、及びアクリルアミド−(メタ)アクリル酸共重合体等、並びにそれらの塩を挙げることができ、1種又は2種以上のポリカルボン酸型高分子化合物を用いることができる。塩としては、例えば、金属塩、アンモニウム塩、及び有機アミン塩等を挙げることができる。金属塩における金属原子としては、例えば、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属、カルシウム及びマグネシウム等の第2族元素、鉄、並びにアルミニウム等を挙げることができる。有機アミン塩としては、メチルアミン塩及びエチルアミン塩等のアルキルアミン塩、並びにモノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、及びトリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩等を挙げることができる。ポリカルボン酸型高分子化合物としては、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、及びポリアクリル酸、並びにポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上を用いることがより好ましい。
市販のポリカルボン酸型高分子化合物を用いることもできる。市販品としては、例えば、花王社製の商品名「デモール」シリーズ及び「ポイズ」シリーズ、日本触媒社製の商品名「アクアリック」シリーズ、第一工業製薬社製の商品名「シャロール」シリーズ、並びに東亜合成社製の商品名「ジュリマー」シリーズ等を挙げることができる。
<樹脂エマルション>
以上詳述した本発明の一実施形態の樹脂エマルションの機械的安定性評価方法に関する検討過程において、機械的安定性がより良好となる構成をもつ樹脂エマルションが見出されたことから、その樹脂エマルションについて、以下に説明する。なお、以下に説明する樹脂エマルションは、前述の本発明の一実施形態の樹脂エマルションの機械的安定性評価方法における評価対象としても好ましいものである。
本発明の一実施形態の樹脂エマルションは、以下の樹脂粒子(I)及び(II)の少なくとも一方に該当する樹脂粒子を含有するものである。樹脂粒子(I)及び(II)における単量体成分は、前述の評価方法において説明した単量体成分と同様に説明されるものであり、前述の重合性単量体の1種又は2種以上を含む。樹脂粒子(I)におけるポリカルボン酸型高分子化合物は、前述の評価方法において説明したポリカルボン酸型高分子化合物と同様に説明されるものである。
・樹脂粒子(I):単量体成分が重合した粒子と、その粒子の表面にポリカルボン酸型高分子化合物が吸着した吸着保護層とを含む樹脂粒子。
・樹脂粒子(II):(メタ)アクリル酸を含む単量体成分が重合した樹脂粒子。
また、本実施形態の樹脂エマルションは、レーザー回折・散乱法による平均粒子径DAと動的光散乱法による平均粒子径DBとの比DA/DBが1未満である。さらに、この樹脂エマルションは、そのゼータ電位が、ポリカルボン酸型高分子化合物及び(メタ)アクリル酸を含まないこと以外は同等の基準エマルションについて同条件で測定されるゼータ電位との差の絶対値で10mV以上のものである。
この樹脂エマルションは、上記樹脂粒子(I)及び(II)の少なくとも一方に該当する樹脂粒子を含有するものであって、DA/DBが1未満であり、かつ、ゼータ電位が基準エマルションのゼータ電位との差の絶対値で10mV以上であるため、機械的安定性がより良好である。以下、DA/DBが1未満となりやすく、ゼータ電位が基準エマルションのゼータ電位との差の絶対値で10mV以上となりやすいことで、機械的安定性がより良好となりやすい観点から、好ましい樹脂エマルションの構成について説明する。
樹脂エマルションは、少なくとも樹脂粒子(I)に該当する樹脂粒子を含有するものであることが好ましく、樹脂粒子(I)及び(II)の両方に該当する樹脂粒子を含有するものであることがより好ましい。上記樹脂粒子(I)及び(II)の両方に該当する樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸を含む単量体成分が重合した粒子と、その粒子の表面にポリカルボン酸型高分子化合物が吸着した吸着保護層とを含む樹脂粒子である。また、樹脂粒子(I)及び(II)は、前述の(メタ)アクリル系樹脂粒子であることが好ましい。したがって、樹脂粒子(I)及び(II)における単量体成分は、少なくとも前述の(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましく、前述の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことがより好ましい。
樹脂粒子(I)及び(II)における単量体成分は、前述の(メタ)アクリル酸エステル及びスチレン系単量体の少なくとも一方を主成分として含むことがさらに好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及びスチレンの少なくとも一方を主成分として含むことが特に好ましい。
樹脂粒子(I)及び(II)における単量体成分が主成分として(メタ)アクリル酸エステルを含む場合、単量体成分中の(メタ)アクリル酸エステルの総含有量(粒子中の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の総含有割合)は、単量体成分の全質量を基準として、50質量%以上(50〜100質量%)であることが好ましく、50〜99質量%であることがより好ましく、60〜99質量%であることがさらに好ましい。
樹脂粒子(I)及び(II)における単量体成分が主成分としてスチレン系単量体を含む場合、単量体成分中のスチレン系単量体の総含有量(樹脂粒子中のスチレン系単量体に由来する構造単位の総含有割合)は、単量体成分の全質量を基準として、30〜90質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましく、50〜70質量%であることがさらに好ましい。また、この場合の単量体成分は、主成分であるスチレン系単量体に加えて、(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。その場合の単量体成分中の(メタ)アクリル酸エステルの総含有量(粒子中の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の総含有割合)は、9〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、20〜45質量%であることがさらに好ましい。
樹脂粒子(I)及び(II)における単量体成分は、さらに前述の不飽和カルボン酸系単量体を含むことが好ましい。樹脂粒子を形成する単量体成分中の不飽和カルボン酸系単量体の総含有量(樹脂粒子中の不飽和カルボン酸系単量体に由来する構造単位の含有割合)は、樹脂粒子を形成する単量体成分の全質量を基準として、30質量%以下であることが好ましい。この不飽和カルボン酸系単量体の総含有量は、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。また、樹脂粒子に不飽和カルボン酸系単量体を使用する場合には、上記の不飽和カルボン酸系単量体の総含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。なお、不飽和カルボン酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸が特に好ましく、その場合の樹脂エマルションは、少なくとも上記樹脂粒子(II)に該当する樹脂粒子を含有する。
上記樹脂粒子(I)については、ポリカルボン酸型高分子化合物の存在下で、粒子を形成する単量体成分を重合させることにより、粒子の表面にポリカルボン酸型高分子化合物が吸着した吸着保護層を形成することができる。ポリカルボン酸型高分子化合物の非存在下で重合された樹脂粒子を含有するエマルションに、ポリカルボン酸型高分子化合物を別途配合するという手段に比べて、ポリカルボン酸型高分子化合物の存在下で重合された樹脂粒子の場合、乳化剤におけるミセル形成のように、ポリカルボン酸型高分子化合物が樹脂粒子の合成の安定化に使用されることとなり、ポリカルボン酸型高分子化合物が粒子表面に効率よく吸着すると考えられる。
吸着保護層を有効に有する樹脂エマルションが得られやすい観点から、そのエマルションにおける樹脂粒子は、粒子を形成する単量体成分の総量100質量部に対して0.1〜20質量部のポリカルボン酸型高分子化合物の存在下で単量体成分が重合したものであることが好ましい。ポリカルボン酸型高分子化合物の上記使用量は、0.2質量部以上であることがより好ましい。一方、製造コストを抑える観点から、ポリカルボン酸型高分子化合物の上記使用量は、15質量部以下であることが好ましく、12質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
上記樹脂粒子(II)については、(メタ)アクリル酸を含む単量体成分を重合させることにより、得ることができる。樹脂エマルションが、上記樹脂粒子(I)に該当せずに上記樹脂粒子(II)に該当する樹脂粒子を含有するものである場合、その樹脂粒子を形成する単量体成分中の(メタ)アクリル酸の含有量(樹脂粒子中の(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の含有割合)は、樹脂粒子を形成する単量体成分の全質量を基準として、1.5質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。
本実施形態の樹脂エマルション(樹脂粒子)のレーザー回折・散乱法による平均粒子径DAと、動的光散乱法による平均粒子径DBとの比であるDA/DBは、1(1.00)未満であり、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.98以下である。また、DA/DBの下限は特に限定されないが、樹脂エマルション(樹脂粒子)の製造上の観点から、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.35以上であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂エマルションのゼータ電位は、上述の通り、基準エマルションについて同条件で測定されるゼータ電位との差の絶対値で10mV以上である。ゼータ電位とは、エマルションにおける樹脂粒子に帯同されて動く水相面(すべり面)の電位と定義される。本明細書等において、ゼータ電位は、エマルションのpHを8±0.1、温度を25℃、及び固形分を55質量%に調整したときのエマルションについて測定された値であり、ゼータ電位測定装置を用いて測定することができる。
樹脂エマルションのゼータ電位と基準エマルションのゼータ電位との差の絶対値が10mV以上であれば、樹脂エマルションのゼータ電位の絶対値は、基準エマルションのゼータ電位の絶対値よりも低くてもよく、高くてもよい。一般に、エマルションのゼータ電位は、エマルションに含有されるイオン性乳化剤によって大きく影響を受ける一方、電気的に中性のポリマーをエマルションに加えた場合には、エマルションのゼータ電位の絶対値は低下する可能性があると考えられるためである。上記場合にエマルションのゼータ電位の絶対値が低下する可能性があると考えられるのは、エマルション中の粒子がポリマーを吸着した結果、粒子に帯同されて動く水相が厚くなり、ゼータ電位を決める「すべり面」が粒子表面より遠ざかると考えられるためである。樹脂エマルションのゼータ電位と基準エマルションのゼータ電位との差の絶対値は、12mV以上であることが好ましく、15mV以上であることがより好ましく、また、150mV以下であることが好ましい。
基準エマルションとは、前述の通り、比較対象となる本実施形態の樹脂エマルションと比較して、ポリカルボン酸型高分子化合物及び(メタ)アクリル酸のいずれも含まないこと以外は同等のエマルションである。この基準エマルションは、ポリカルボン酸型高分子化合物及び(メタ)アクリル酸のいずれも使用しないこと以外は、比較対象となる樹脂エマルションと同等の製造方法により得られるものである。したがって、基準エマルションと、比較対象となる樹脂エマルションとは、粒子を形成する単量体成分も同等である。具体的には、比較対象となる樹脂エマルションが、上記樹脂粒子(II)に該当せずに上記樹脂粒子(I)に該当する樹脂粒子を含有するものである場合、その樹脂エマルションと、基準エマルションとは、粒子を形成する単量体成分が同一である。また、比較対象となる樹脂エマルションが、少なくとも上記樹脂粒子(II)に該当する樹脂粒子を含有するものである場合、その樹脂エマルションと、基準エマルションとは、樹脂(粒子)のガラス転移温度が同一となるように、(メタ)アクリル酸分を他の単量体に置き換えたこと以外は、粒子を形成する単量体成分が同等である。
例えば、比較対象となる樹脂エマルションにおける樹脂粒子が(メタ)アクリル酸に由来する構造単位、及び他の単量体(例えば(メタ)アクリル酸エステル)に由来する構造単位を含む場合(換言すれば、当該樹脂粒子を形成する単量体成分に(メタ)アクリル酸及び他の単量体が使用されている場合)の基準エマルションは、次の通りである。すなわち、この場合の基準エマルションは、比較対象の樹脂エマルションと比べて、樹脂粒子を形成する単量体成分の総量が同一であり、かつ、比較対象の樹脂エマルションに使用された(メタ)アクリル酸分を、樹脂(粒子)のガラス転移温度が同一となるように他の単量体に置き換えたこと以外は同様にして得られたものである。
樹脂エマルション(樹脂粒子)の動的光散乱法による平均粒子径DBは、25〜1000nmであることが好ましく、35〜600nmであることがより好ましく、45〜400nmであることがさらに好ましい。樹脂エマルション(樹脂粒子)のレーザー回折・散乱法による平均粒子径DAは、DBに対する比DA/DBが1未満である条件において、上記範囲内であることが好ましい。
樹脂エマルションにおける樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、−50〜100℃であることが好ましい。本明細書において、樹脂粒子のTgは、樹脂粒子が単独重合体である場合には、DSC測定による値である。また、樹脂粒子が共重合体である場合には、その樹脂粒子のTgは、上記単独重合体のTgを用いて、以下のFOX式から求められる理論値である。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・Wn/Tgn
上記式中、Tgは、n種の単量体成分(単量体1〜n)の重合体(共重合体)のガラス転移温度(単位:K)を表す。W1、W2、・・・Wnは、n種の単量体成分の総量に対する各単量体(1、2、・・・n)の質量分率を表し、Tg1、Tg2、・・・Tgnは、各単量体(1、2、・・・n)の単独重合体のガラス転移温度(単位:K)を表す。例えば、後述する試験例で使用した単量体等を例に挙げると、その単量体の単独重合体のガラス転移温度は次の通りであり、それらの値を後述する試験例で製造した樹脂粒子のTgの算出に用いた。
スチレン(ST):100℃
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA):−70℃
メチルメタクリレート(MMA):105℃
アクリル酸(AAc):105℃
樹脂エマルションにおける樹脂粒子は、コア部とシェル部とを有する粒子であってもよい。樹脂粒子がそのような形態のものであると、樹脂エマルションの機械的安定性がより良好になる可能性がある。樹脂粒子がコア部とシェル部を有する場合、コア部とシェル部とが完全に相溶し、これらを区別できない均質構造のものであってもよく、これらが完全には相溶せずに不均質に形成されるコア・シェル複合構造やミクロドメイン構造であってもよい。これらの構造の中でも、樹脂粒子の特性を充分に引き出し、安定な樹脂粒子を作製するためには、コア・シェル複合構造であることが好ましい。なお、上記コア・シェル複合構造においては、コア部の表面がシェル部によって被覆された形態であることが好ましい。この場合、コア部の表面は、シェル部によって完全に被覆されていることが好適であるが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態や、所々においてコア部が露出している形態であってもよい。樹脂エマルションにおける樹脂粒子が前述の樹脂粒子(I)に該当し、かつ、コア部とシェル部を有する場合、粒子(シェル部)の表面に吸着保護層が形成されれば、ポリカルボン酸型高分子化合物はコア部の重合時に用いられてもよく、シェル部の重合時に用いられてもよく、それら両方に用いられてもよい。また、樹脂エマルションにおける樹脂粒子が前述の樹脂粒子(II)に該当し、かつ、コア部とシェル部を有する場合、少なくともシェル部に(メタ)アクリル酸が用いられることが好ましい。
(樹脂エマルションの製造方法)
本実施形態の樹脂エマルションの製造方法としては、前述の通り、樹脂エマルションに通常含有される水等の水性媒体中で、樹脂粒子を形成する1種又は2種以上の重合性単量体(単量体成分)を乳化重合させることで樹脂エマルションを得る方法が好ましい。この方法において、前述の樹脂粒子(I)を含有する樹脂エマルションを得る場合には、前述のポリカルボン酸型高分子化合物の存在下で単量体成分を乳化重合させる方法をとることができる。また、前述の樹脂粒子(II)を含有する樹脂エマルションを得る場合には、(メタ)アクリル酸を含む単量体成分を乳化重合させる方法をとることができる。
乳化重合の方法としては、具体的には、次のような方法を挙げることができる。すなわち、水性媒体、単量体成分、及び重合開始剤等、並びに前述の樹脂粒子(I)を得る場合にはさらにポリカルボン酸型高分子化合物を一括混合して乳化重合する方法を挙げることができる。また、水性媒体及び単量体成分等、並びに前述の樹脂粒子(I)を得る場合にはさらにポリカルボン酸型高分子化合物を含有する単量体乳化物(プレエマルション)を用いて乳化重合する方法を挙げることができる。さらに、水性媒体、又は前述の樹脂粒子(I)を得る場合には水性媒体とポリカルボン酸型高分子化合物を含有する混合液と、水性媒体及び単量体成分を含有するプレエマルションとを用いて乳化重合する方法を挙げることができる。
より具体的には、水性媒体及び単量体成分等、並びに前述の樹脂粒子(I)を得る場合にはさらにポリカルボン酸型高分子化合物を予め混合して調製したプレエマルションと、重合開始剤とを、別途用意された水性媒体にそれぞれ滴下し、水性媒体中で単量体成分を重合させて樹脂粒子を合成する方法が好ましい。また、水性媒体に、又は前述の樹脂粒子(I)を得る場合には水性媒体とポリカルボン酸型高分子化合物を含有する混合液に、水性媒体及び単量体成分を含有するプレエマルションと、重合開始剤とをそれぞれ滴下し、水性媒体中で単量体成分を重合させて樹脂粒子を合成する方法も好ましい。
樹脂エマルションを製造する際(樹脂エマルションにおける樹脂粒子を合成する際)の重合温度及び重合時間等の重合条件や、使用する重合開始剤及び乳化剤等の種類及び使用量等は、従来公知の乳化重合と同様の範囲内で適宜決めることができる。
例えば、重合温度及び重合時間等の重合条件は、使用する単量体、及び重合開始剤等の種類、並びにそれらの使用量等に応じて、適宜決めることができる。例えば、重合温度は、20〜100℃程度の範囲が好ましく、より好ましくは40〜90℃程度の範囲であり、また、重合時間は、1〜15時間程度の範囲が好ましい。さらに、上述のプレエマルションや、重合開始剤の添加(滴下)方法も特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、及び多段添加法等の方法を採ることができ、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、及び過酸化水素等の過酸化物、並びにアゾ化合物等を挙げることができ、1種又は2種以上の重合開始剤を用いることができる。また、過酸化物と併用したレドックス重合開始剤や、重合促進剤として、1種又は2種以上の還元剤を用いることもできる。
過硫酸塩の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウム等を挙げることができる。有機過酸化物の具体例としては、過酸化ベンゾイル及びジラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド及びジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシラウレート及びt−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド及びt−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等を挙げることができる。アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩及び4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等を挙げることができる。還元剤の具体例としては、アスコルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、亜硫酸及びその塩、重亜硫酸及びその塩、チオ硫酸及びその塩、並びに鉄(II)塩等を挙げることができる。
樹脂粒子を合成する際には、その樹脂粒子の分子量を調整するために、公知の連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、ヘキシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、及びn−,又はt−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類等を用いることができる。
樹脂粒子を水性媒体中で合成する際には、乳化剤(界面活性剤)を使用することができる。乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等を挙げることができ、1種又は2種以上の乳化剤を用いることができる。乳化剤としては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム;並びにポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム、及びポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム等の反応性アニオン性界面活性剤等を挙げることができる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、及びポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体;並びにポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、及びポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル等の反応性ノニオン性界面活性剤等を挙げることができる。
樹脂エマルションを製造する際には、単量体成分を重合させて樹脂粒子を得た後、中和剤により、中和することが好ましい。樹脂粒子がカルボキシ基を有する場合、そのカルボキシ基を塩基性の中和剤で中和することが好ましい。中和により、エマルションが安定化されることになる。中和剤としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム及び炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、及びジエチレントリアミン等の有機アミン類等を挙げることができ、1種又は2種以上を用いることができる。
樹脂エマルションのpHは、特に限定されないが、6.0〜10.0であることが好ましく、6.5〜9.5であることがより好ましく、7.0〜9.0であることがさらに好ましい。本明細書において、樹脂エマルションのpHは、JIS K6833−1:2008の規定に準拠して測定される値をとることができ、25℃での値である。
樹脂エマルションの不揮発分(固形分)は、樹脂エマルションの全質量を基準として、30〜75質量%であることが好ましく、35〜70質量%であることがより好ましく、40〜65質量%であることがさらに好ましい。本明細書において、樹脂エマルションの不揮発分(固形分)は、JIS K6833−1:2008の規定に準拠して測定される値をとることができる。
樹脂エマルションの25℃での粘度は、50mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは100mPa・s以上、さらに好ましくは150mPa・s以上である。また、ハンドリングの観点から、樹脂エマルションの25℃での粘度は、10,000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは6000mPa・s以下、さらに好ましくは4000mPa・s以下である。本明細書において、樹脂エマルションの25℃での粘度は、JIS K6833−1:2008の規定に準拠して測定される値をとることができる。
なお、樹脂エマルションは、前述の樹脂粒子を1種又は2種以上含有してもよく、また、必要に応じて、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、顔料及び染料等の着色剤、金属化合物、溶剤、可塑剤、分散剤、界面活性剤、発泡剤、滑剤、ゲル化剤、造膜助剤、凍結防止剤、架橋剤、pH調整剤、粘度調整剤、防腐剤、防黴剤、殺菌剤、防錆剤、難燃剤、湿潤剤、消泡剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤等を挙げることができる。
以上詳述したように、本発明の一実施形態の樹脂エマルションの機械的安定性評価方法、及び樹脂エマルションは、以下のような構成をとることが可能である。
[1]樹脂エマルションのレーザー回折・散乱法による平均粒子径DAを測定する第1の測定工程と、前記樹脂エマルションの動的光散乱法による平均粒子径DBを測定する第2の測定工程と、測定された前記平均粒子径DA及び前記平均粒子径DBから、それらの比であるDA/DBを算出する算出工程と、前記DA/DBの値に基づいて、前記樹脂エマルションの機械的安定性の良否を評価する評価工程と、を含む樹脂エマルションの機械的安定性評価方法。
[2]前記評価工程において、前記DA/DBの値が1未満である場合に、前記樹脂エマルションの機械的安定性が良好であると判断する上記[1]に記載の樹脂エマルションの機械的安定性評価方法。
[3]前記樹脂エマルションが、(メタ)アクリル系樹脂粒子を含有する樹脂エマルションである上記[1]又は[2]に記載の樹脂エマルションの機械的安定性評価方法。
[4]前記樹脂エマルションは、ポリカルボン酸型高分子化合物を含む樹脂エマルション;及び(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む粒子を含有する樹脂エマルション;の少なくとも一方に該当する樹脂エマルションである上記[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂エマルションの機械的安定性評価方法。
[5]単量体成分が重合した粒子と、その粒子の表面にポリカルボン酸型高分子化合物が吸着した吸着保護層とを含む樹脂粒子(I)、及び(メタ)アクリル酸を含む単量体成分が重合した樹脂粒子(II)の少なくとも一方に該当する樹脂粒子を含有し、レーザー回折・散乱法による平均粒子径DAと動的光散乱法による平均粒子径DBとの比DA/DBが1未満であり、ゼータ電位が、前記ポリカルボン酸型高分子化合物及び前記(メタ)アクリル酸を含まないこと以外は同等の基準エマルションについて同条件で測定されるゼータ電位との差の絶対値で10mV以上である、樹脂エマルション。
以下、試験例を挙げて、前述の一実施形態のさらなる具体例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<樹脂エマルションの製造>
(試験例1)
撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、脱イオン水31.2質量部を仕込み、撹拌しながら内温を80℃まで昇温させた。
一方、上記セパラブルフラスコとは別に、2−エチルヘキシルアクリレート(以下、「2EHA」)44.5質量部、メチルメタクリレート(以下、MMA)54.3質量部、及びアクリル酸(以下、「AAc」)1.2質量部からなる単量体成分(総量100.0質量部)、並びにt−ドデシルメルカプタン0.8質量部、アニオン性乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム1.0質量部(花王社製の商品名「ラテムルWX」(固形分26質量%) 3.9質量部)、ポリカルボン酸型高分子化合物3.0質量部(花王社製の特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤である商品名「デモールEP」(固形分25質量%)12.0質量部;以下、「ポリカルボン酸型高分子(a)」)、及び脱イオン水38.6質量部を、ホモディスパーで乳化させ、プレエマルションを調製した。
次に、セパラブルフラスコ内の内温を80℃に維持しながら、そのセパラブルフラスコ内の脱イオン水に、調製したプレエマルションを滴下ロートから3時間かけて均一に滴下し、これと同時に、10質量%過硫酸アンモニウム水溶液3.0質量部を、3時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、80℃で3時間熟成し、冷却後、25質量%アンモニア水1.0質量部を添加して中和した。pHを調整後、120メッシュのろ布を用いてろ過し、樹脂エマルションを得た。このようにして、ポリカルボン酸型高分子(a)の存在下、主成分が(メタ)アクリル酸アルキルエステルである単量体成分を重合させることにより、粒子表面にポリカルボン酸型高分子(a)が吸着した吸着保護層を有する(メタ)アクリル系樹脂粒子を含有する樹脂エマルションを得た。なお、この樹脂エマルション中の樹脂粒子のTg(理論値)は0℃である。
(試験例2〜6)
試験例2〜6では、試験例1と比較して、試験例1で使用したポリカルボン酸型高分子(a)の使用量を変更したこと以外は試験例1と同様の方法により、粒子表面にポリカルボン酸型高分子(a)による吸着保護層を有する樹脂エマルションを得た。試験例2では、ポリカルボン酸型高分子(a)0.2質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)0.8質量部)を使用した。試験例3では、ポリカルボン酸型高分子(a)0.5質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)2.0質量部)を使用した。試験例4では、ポリカルボン酸型高分子(a)5.0質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)20.0質量部)を使用した。試験例5では、ポリカルボン酸型高分子(a)10.0質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)40.0質量部)を使用した。試験例6では、ポリカルボン酸型高分子(a)15.0質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)60.0質量部)を使用した。
(試験例7〜9)
試験例7〜9では、試験例1と比較して、試験例1で使用したポリカルボン酸型高分子(a)を別のポリカルボン酸型高分子化合物に変更したこと以外は試験例1と同様の方法により、粒子表面にポリカルボン酸型高分子化合物による吸着保護層を有する樹脂エマルションを得た。試験例7では、ポリカルボン酸型高分子化合物として、ポリアクリル酸ナトリウム3.0質量部(日本触媒社製の商品名「アクアリックDL−40」(固形分40質量%)7.5質量部)を使用した。以下、試験例7で使用したポリアクリル酸ナトリウムを「ポリカルボン酸型高分子(b)」と記載することがある。試験例8では、ポリカルボン酸型高分子化合物として、ポリアクリル酸ナトリウム3.0質量部(花王社製の商品名「ポイズ520」(固形分40質量%)7.5質量部)を使用した。以下、試験例8で使用したポリアクリル酸ナトリウムを「ポリカルボン酸型高分子(c)」と記載することがある。試験例9では、ポリカルボン酸型高分子化合物として、ポリアクリル酸ナトリウム3.0質量部(日本触媒社製の商品名「アクアリックDL−453」(固形分35質量%)8.6質量部)を使用した。以下、試験例9で使用したポリアクリル酸ナトリウムを「ポリカルボン酸型高分子(d)」と記載することがある。
(試験例10及び11)
試験例10及び11では、単量体成分におけるMMA及びAAcの使用量を変更したこと、及びポリカルボン酸型高分子化合物を使用しなかったこと以外は、試験例1と同様の方法により、樹脂エマルションを得た。試験例10では、2EHA44.5質量部、MMA53.0質量部、及びAAc2.5質量部からなる単量体成分(総量100.0質量部)を使用した。試験例11では、2EHA44.5質量部、MMA50.5質量部、及びAAc5.0質量部からなる単量体成分(総量100.0質量部)を使用した。
(試験例12)
試験例12では、試験例1と比較して、ポリカルボン酸型高分子(a)を使用しなかったこと以外は、試験例1と同様の方法により、樹脂エマルションを得た。
(試験例13)
試験例13では、試験例1と比較して、試験例1で使用したポリカルボン酸型高分子(a)の使用量を変更したこと以外は、試験例1と同様の方法により、樹脂エマルションを得た。試験例13では、ポリカルボン酸型高分子(a)0.05質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)0.2質量部)を使用した。
(試験例14)
まず、試験例12と同様の樹脂エマルションを用意した。すなわち、試験例1で使用したポリカルボン酸型高分子(a)を使用しなかったこと以外は試験例1と同様の方法により、樹脂エマルションを製造した。次いで、得られた樹脂エマルションに、ポリカルボン酸型高分子(a)3.0質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)12.0質量部)を添加した。このように、試験例14では、ポリカルボン酸型高分子化合物の非存在下で重合された樹脂粒子を含有する樹脂エマルションを製造した後、その樹脂エマルションに、単量体成分100質量部に対して3質量部のポリカルボン酸型高分子(a)を配合した樹脂エマルションを得た。
(試験例15)
試験例15では、試験例1と比較して、単量体成分におけるAAcを使用せず、その分だけMMAの使用量を増やしたこと、及びポリカルボン酸型高分子(a)を使用しなかったこと以外は、試験例1と同様の方法により、樹脂エマルションを得た。試験例15では、2EHA44.5質量部、及びMMA55.5質量部からなる単量体成分(総量100.0質量部)を使用した。このようにして、ポリカルボン酸型高分子化合物及びアクリル酸を含まないこと以外は、試験例1〜14で得た樹脂エマルションと同等の樹脂エマルションを製造した。この試験例15で得られた樹脂エマルションを、試験例1〜15で得られた樹脂エマルションにおける後記ゼータ電位の評価に使用する基準エマルションとした。
(試験例16)
撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、脱イオン水31.2質量部を仕込み、撹拌しながら内温を80℃まで昇温させた。
一方、上記セパラブルフラスコとは別に、スチレン(以下、「ST」)55.0質量部、2EHA43.8質量部、及びAAc1.2質量部からなる単量体成分(総量100.0質量部)、並びにt−ドデシルメルカプタン0.8質量部、アニオン性乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム1.0質量部(花王社製の商品名「ラテムルWX」(固形分26質量%) 3.9質量部)、ポリカルボン酸型高分子(a)0.2質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)0.8質量部)、及び脱イオン水38.6質量部を、ホモディスパーで乳化させ、プレエマルションを調製した。
次に、セパラブルフラスコ内の内温を80℃に維持しながら、そのセパラブルフラスコ内の脱イオン水に、調製したプレエマルションを滴下ロートから3時間かけて均一に滴下し、これと同時に、10質量%過硫酸アンモニウム水溶液3.0質量部を、3時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、80℃で3時間熟成し、冷却後、25質量%アンモニア水1.0質量部を添加して中和した。pHを調整後、120メッシュのろ布を用いてろ過し、樹脂エマルションを得た。このようにして、ポリカルボン酸型高分子(a)の存在下、主成分がスチレンである単量体成分を重合させることにより、粒子表面にポリカルボン酸型高分子(a)が吸着した吸着保護層を有する(メタ)アクリル系樹脂粒子を含有する樹脂エマルションを得た。なお、この樹脂エマルション中の樹脂粒子のTg(理論値)は0℃である。
(試験例17〜20)
試験例17〜20では、試験例16と比較して、試験例16で使用したポリカルボン酸型高分子(a)の使用量を変更したこと以外は試験例16と同様の方法により、粒子表面にポリカルボン酸型高分子(a)による吸着保護層を有する樹脂エマルションを得た。試験例17では、ポリカルボン酸型高分子(a)0.5質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)2.0質量部)を使用した。試験例18では、ポリカルボン酸型高分子(a)1.0質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)4.0質量部)を使用した。試験例19では、ポリカルボン酸型高分子(a)3.0質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)12.0質量部)を使用した。試験例20では、ポリカルボン酸型高分子(a)5.0質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)20.0質量部)を使用した。
(試験例21)
試験例21では、試験例16と比較して、ポリカルボン酸型高分子(a)を使用しなかったこと以外は、試験例16と同様の方法により、樹脂エマルションを得た。
(試験例22)
試験例22では、試験例16と比較して、試験例16で使用したポリカルボン酸型高分子(a)の使用量を変更したこと以外は、試験例16と同様の方法により、樹脂エマルションを得た。試験例22では、ポリカルボン酸型高分子(a)0.05質量部(商品名「デモールEP」(固形分25質量%)0.2質量部)を使用した。
(試験例23)
試験例23では、試験例16と比較して、単量体成分におけるAAcを使用せず、その分だけSTの使用量を増やしたこと、及びポリカルボン酸型高分子(a)を使用しなかったこと以外は、試験例16と同様の方法により、樹脂エマルションを得た。試験例23では、ST56.2質量部、及び2EHA43.8質量部からなる単量体成分(総量100.0質量部)を使用した。このようにして、ポリカルボン酸型高分子化合物及びアクリル酸を含まないこと以外は、試験例16〜22で得た樹脂エマルションと同等の樹脂エマルションを製造した。この試験例23で得られた樹脂エマルションを、試験例16〜23で得られた樹脂エマルションにおける後記ゼータ電位の評価に使用する基準エマルションとした。
<樹脂エマルションの性状>
得られた各樹脂エマルションについて、pHを8、不揮発分(固形分)を55.0質量%となるように調整した。各樹脂エマルションのpH、不揮発分、及び粘度、並びに各樹脂エマルション(それに含有されている樹脂粒子)のレーザー回折・散乱法による平均粒子径DA及び動的光散乱法による平均粒子径DBを次のように測定した。
(pH)
JIS K6833−1:2008の規定に準拠し、pHメーター(東亜ディーケーケー社製、商品名「pHメーター HM−25R」)を用いて、各樹脂エマルションの25℃でのpHを測定した。
(不揮発分)
JIS K6833−1:2008の規定に準拠し、乾燥温度140℃、乾燥時間0.5時間の条件で、各樹脂エマルションの不揮発分(固形分)を測定した。
(粘度)
JIS K6833−1:2008の規定に準拠し、BH型回転粘度計(東機産業社製、BHII形粘度計)を用いて、回転速度10rpm、温度25℃の条件で、各樹脂エマルションの粘度を測定した。
(ゼータ電位)
高濃度ゼータ電位測定装置(協和界面科学社製)を用い、撹拌速度250rpm、試料温度25℃に設定して、各樹脂エマルションのゼータ電位(mV)を測定した。また、試験例1〜15で得られた樹脂エマルションのゼータ電位については、試験例15で得られた樹脂エマルション(基準エマルション)のゼータ電位(基準)との差の絶対値を算出した。試験例16〜23で得られた樹脂エマルションのゼータ電位については、試験例23で得られた樹脂エマルション(基準エマルション)のゼータ電位(基準)との差の絶対値を算出した。
(レーザー回折・散乱法による平均粒子径DA)
各樹脂エマルション(樹脂粒子)について、レーザー回折・散乱法を利用した粒度分布測定装置(島津製作所社製、商品名「レーザー回折式ナノ粒子径分布測定装置 SALD−7100」)を用いて、屈折率が1.45−1.00iのときの体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50;nm)を測定した。
(動的光散乱法による平均粒子径DB)
各樹脂エマルション(樹脂粒子)について、動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置(大塚電子社製、商品名「濃厚系粒径アナライザー FPAR−1000」)及び濃厚系プローブを用いて、キュムラント法解析により平均粒子径(nm)を測定した。
<樹脂エマルションの機械的安定性の評価>
各樹脂エマルションについて、測定された平均粒子径DA及びDBから、それらの比であるDA/DBを算出した。DA/DBの値に基づいて、DA/DBの値が1未満であった樹脂エマルションを機械的安定性が良好であると判断して後記表中「○」と記し、DA/DBの値が1以上であった樹脂エマルションを機械的安定性が不良であると判断して後記表中「×」と記した。
(樹脂エマルションの機械的安定性の確認試験)
各樹脂エマルションについて、上記DA/DBに基づく機械的安定性の評価結果を確認するための試験を行った。具体的には、樹脂エマルション100gに純水50gを添加し、充分に撹拌及び混合し、300メッシュ金網でろ過した後、そのろ液100gを用い、マーロン式機械的安定性試験機(ジムクウォーツ社製)を用いて、機械的安定性試験を行った。試験条件は、JIS K6828:1996に準じる、台ばかり目盛り10kg、円盤回転数1000rpm、回転時間10分、及び試験温度25℃とした。試験終了後、凝集物を直ちに300メッシュ金網でろ過し、110℃で1時間乾燥させ、乾燥後の凝集物の残渣の質量を測定した。そして、下記式により、凝集率を算出した。この凝集率の数値が小さい程、機械的安定性が良好であることを表す。
凝集率(%)=(乾燥後の凝集物の残渣の質量g/100g)×100
各樹脂エマルションについて、樹脂粒子の製造に使用した単量体及びポリカルボン酸型高分子化合物の種類及び量、並びにpH、固形分、粘度、ゼータ電位、ゼータ電位の基準との差(絶対値)、DA、DB、DA/DB、及び機械的安定性の評価結果を、表1(表1−1〜1−3)に示す。
試験例1〜23の結果より、試験例1〜11及び試験例16〜20では、DA/DBが1未満である樹脂エマルションが得られた一方、試験例12〜15及び試験例21〜23では、DA/DBが1以上である樹脂エマルションが得られた。そして、DA/DBが1未満の樹脂エマルション(試験例1〜11及び試験例16〜20)では、マーロン式機械的安定性試験機を用いた試験で得られた凝集率の測定値が0.001%未満であった。これに対し、DA/DBが1以上の樹脂エマルション(試験例12〜15及び試験例21〜23)では、マーロン式機械的安定性試験機を用いた試験で得られた凝集率の測定値が0.01%以上であった。
樹脂エマルションのDA/DBが1未満であるか1以上であるかの違いによって、凝集率の測定値が一桁以上異なることを考慮しても、上述の試験結果から明らかなように、DA/DBの値が、樹脂エマルションの機械的安定性と相関していることがわかる。したがって、樹脂エマルションのDA/DBの値に基づいて、樹脂エマルションの機械的安定性の良否を評価し得ることが認められる。
試験例15及び23で得られた樹脂エマルションでは、それに含有されている樹脂粒子が(メタ)アクリル酸に由来する構造単位も吸着保護層も有しないことから、DA/DBが1以上となり、凝集率が非常に高い結果となったと考えられる。
試験例12及び21で得られた樹脂エマルションでは、それに含有されている樹脂粒子が吸着保護層を有さず、また、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を有するもののその量が少な過ぎたために、DA/DBが1以上となり、凝集率が高い結果となったと考えられる。
試験例13及び22で得られた樹脂エマルションでは、それに含有されている樹脂粒子の合成時に使用されたポリカルボン酸型高分子化合物の量が少な過ぎたために、粒子の表面に吸着保護層が十分有効に形成されなかったと考えられる。それにより、DA/DBが1以上となり、試験例1〜11及び試験例16〜20で得られた各樹脂エマルションに比べて、凝集率が高い結果となったと考えられる。
試験例14では、製造した樹脂エマルションに添加する態様でポリカルボン酸型高分子化合物を使用したために、樹脂粒子に吸着保護層が十分有効に形成されなかったと考えられ、それにより、DA/DBが1以上で凝集率が高い結果となったと考えられる。
さらに、試験例1〜11及び試験例16〜20では、それらと同様、(メタ)アクリル酸及び/又はポリカルボン酸型高分子化合物を使用した試験例12〜14及び試験例21〜22と比べても、機械的安定性がより良好な樹脂エマルションが得られた。この違いの要因について、(メタ)アクリル酸やポリカルボン酸型高分子化合物の使用量とは別の視点から検討したところ、DA/DBの値のほか、ゼータ電位の基準との差であることが認められた。すなわち、試験例1〜11及び試験例16〜20の樹脂エマルションは、ゼータ電位の基準との差が絶対値で10mV以上であった(具体的にはゼータ電位の絶対値が基準の絶対値よりも10mV以上低かった)のに対し、試験例12〜14及び試験例21〜22の樹脂エマルションは、ゼータ電位の基準との差が絶対値で10mV未満であった。したがって、粒子表面にポリカルボン酸型高分子化合物による吸着保護層を有する樹脂粒子、及び(メタ)アクリル酸由来の構造単位を含む樹脂粒子の少なくとも一方に該当する樹脂粒子を含有し、DA/DBが1未満、かつ、ゼータ電位の基準との差が絶対値で10mV以上である樹脂エマルションは、機械的安定性がより良好であることが確認された。