JP6653060B2 - 鉛蓄電池 - Google Patents

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Description

この発明は鉛蓄電池に関する。
特許文献1(特開2012-142185)は、アイドリングストップモードでの、鉛蓄電池の寿命性能を、常温でも高温でも向上させることを検討している。そしてこのために、
・ 負極格子の表面にPb-Sn-Sbの合金層を設けること、
・ 電解液にLiとAlとを含有させること、及び
・ 電解液のNa濃度を0.04mol/L以下にすること、
を提案している。また負極の電極材料に関して、鉛粉98.8mass%に対し硫酸Baを0.6mass%含ませることを提案している。しかしながら硫酸Ba濃度を0.6mass%から変化させることは検討していない。
特許文献2(特開2001-23682)では、シール形の鉛蓄電池に対し、極板群の体積を極板の高さ×幅×極板群の厚さで定義する。そして極板群の体積当たりの負極活物質質量を0.84g/cm以上1.20g/cm以下とすると、高率放電性能が向上するとしている。しかしながら、硫酸Ba濃度とNa濃度の影響については検討していない。
特許文献3(特開2003-178806)は、制御弁式での鉛蓄電池の、正極活物質量と負極活物質量の影響を検討し、正極活物質密度を4.20g/cm、正極活物質と負極活物質の質量比を1.2とする例を示している。
特開2012-142185 特開2001-23682 特開2003-178806
アイドリングストップモード等では、鉛蓄電池は不十分な充電しかされないため、負極活物質中で硫酸鉛の結晶化が進行しやすい。また多量のガスが発生するようには充電が行われないので、電解液が成層化しやすい。電解液が成層化すると、極板の一部が局所的に使われるようになり、寿命性能がさらに低下する。これらの問題を解決するには、充電受入性能を改善し、硫酸鉛の結晶化を抑制することが必要である。硫酸Baは、放電後に放置せずに充電する場合には、充電受入性能を向上させる。しかし、放電後に時間を置いて充電する場合には、かえって充電受入性能を低下させるということが明らかになった。硫酸鉛の結晶化を抑制するためには放電直後と放置後の双方での、充電受入性能が重要である。また、内部抵抗は鉛蓄電池の劣化状況を示す重要な指標であり、アイドリングストップ車においては、アイドリングストップ可否の診断にも用いられている。充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加が小さいことは、極板の劣化が遅いこと、及び極板の劣化が均一に進んでいること等を示している。
この発明の基本的課題は、放電後に放置を経て充電する場合でも、充電受入性能の低下が少ない鉛蓄電池を提供することにある。
この発明は、電槽のセル室に、正極板と負極板と電解液とを収容した鉛蓄電池において、負極板の負極電極材料では、満充電後の電極材料に含まれる硫酸Ba濃度が1.0mass%以上であり、前記電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下であることを特徴とする。
負極電極材料中の硫酸Ba濃度を増すと、放電後に放置せずに充電した際の充電受入性能が向上する。しかしながら、硫酸Ba濃度を増すだけでは、放電後に放置を経て充電した際に、充電受入性能が逆に低下することを発明者は見出した。さらにこれに対して電解液中のNa濃度を0.04mol/L以下にすると、硫酸Baの添加による放置後の充電受入性能の低下を抑制できることを発明者は見出した(図3)。即ち、電解液中のNa濃度を0.04mol/L以下に制限して、負極電極材料での硫酸Ba濃度を1.0mass%以上とすると、放電後に放置を経て充電した際の充電受入性能の低下が抑制された鉛蓄電池が得られる。従来の鉛蓄電池では浸透短絡を抑制するために、電解液中のNa濃度を0.1mol/Lから0.2mol/L程度とすることが一般的であるため、Na濃度を0.04mol/L以下にすることを想到するのは容易ではない。
さらに電解液中のNa濃度を0.04mol/L以下に制限して、負極電極材料での硫酸Ba濃度を1.2mass%以上とすると、PSOC(Partial State of Charge)条件で使用した際の、充放電サイクルの経過に伴う鉛蓄電池の内部抵抗の増加を抑制できる(図4)。一方、電解液中のNa濃度を0.04mol/L以下に制限しても、負極電極材料での硫酸Ba濃度を1.0mass%以下とすると、充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗増加の抑制効果は小さく、硫酸Ba濃度が1.0mass%以下と1.2mass%以上とでは傾向が大きく異なる(図4)。また、電解液中のNa濃度が0.04mol/Lを超える場合には、負極電極材料での硫酸Ba濃度を1.2mass%以上としても、充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗増加率は大きくは変化しない(図4)。負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.2mass%以上で電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合に、充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加が抑制されることは知られておらず、予想外の結果である。
なお、硫酸Baに替えて単体のBaや、炭酸Ba等のBa化合物を用いてもよい。単体のBaやBa化合物を負極電極材料に添加しても、添加後に硫酸Baに変化するからである。単体のBaやBa化合物は、満充電後の負極電極材料の質量に対して硫酸Ba換算の濃度で1.0mass%以上となるように添加し、好ましくは1.2mass%以上となるように添加する。Ba換算の濃度では満充電後の負極電極材料の質量に対して0.6mass%以上となるように添加し、好ましくは0.7mass%以上となるように添加する。
負極電極材料中の硫酸Ba濃度が4.0mass%を超えると、負極電極材料のペーストが固くなりすぎて負極集電体への充填が困難になるため、満充電後の負極電極材料中の硫酸Ba濃度は4.0mass%以下が好ましく、3.5mass%以下がより好ましい。Ba換算の濃度では、満充電後の負極電極材料の質量に対して2.4mass%以下が好ましく、2.1mass%以下がより好ましい。
電解液のNa濃度は低いほど良く、この発明では0.04mol/L以下とし、好ましくは0.035mol/L以下とする。負極電極材料に添加されるリグニン等からNaが混入するため、Na濃度を0にすることは難しく、実用的には0.001mol/L以上とする。Na濃度を制限すると、負極電極材料に添加されるリグニン等の添加量を削減する必要が生じ、鉛蓄電池の寿命性能が低下するため、Na濃度を0.005mol/L以上とすることがより好ましい。また電解液中のLi、Al等は硫酸Baの効果(充電受入性能の向上)を阻害しないので、含有量は任意である。
好ましくは、1セル室内の負極板の総質量をNP(g)、負極板の高さh(cm)×負極板の幅w(cm)×セル室の負極板に垂直な方向での内寸d(cm)で定まる体積をV(V=hwd)として、NP/Vが1.3g/cm以上又は1.6g/cm以下とする。より好ましくはNP/Vが1.4g/cm以上又は1.5g/cm以下とする。なお負極板の高さと幅は、耳、脚など負極板から突き出す部分を無視して定める。
負極電極材料中の硫酸Ba濃度と電解液のNa濃度とを本発明に従って定め、NP/Vを1.3g/cm以上又は1.6g/cm以下とすると、充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加を抑制できる(図5)。NP/Vを1.4g/cm以上又は1.5g/cm以下とすると、充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加を一層抑制できる(図5)。NP/Vが充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加と関連することは知られていない。従って、NP/Vを1.3g/cm以上又は1.6g/cm以下、好ましくはNP/Vを1.4g/cm以上又は1.5g/cm以下とすることで、充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加を抑制できることは、予想外の結果といえる。
好ましくは正極電極材料の密度は3.8g/cm以上で、より好ましくは3.9g/cm以上である。負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合に、正極電極材料の密度を3.8g/cm以上とすると、鉛蓄電池の寿命性能が大きく向上する(図6)。一方で、負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合以外には、正極電極材料の密度を3.8g/cm以上とすると、鉛蓄電池の寿命性能は逆に低下する(図6)。このように負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合にのみ、正極電極材料の密度を3.8g/cm以上とすることで寿命性能が向上することは予想外の結果である。
正極電極材料の密度が5.0g/cmを超えると、鉛蓄電池の容量の低下の影響が無視できなくなるため、正極電極材料の密度は5.0g/cm以下が好ましく、4.3 g/cm以下がより好ましく、4.2 g/cm以下が特に好ましい。
好ましくは、負極電極材料はグラファイトを含有する。負極電極材料中のグラファイトは、負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合に、鉛蓄電池の寿命性能を大きく向上させる。負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合以外でも、負極電極材料中にグラファイトを含有させると、寿命性能が向上する(図7)。しかし、負極電極材料中のグラファイトによる寿命性能の向上は、負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合に顕著である(図7)。このように、負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合に、負極電極材料中のグラファイトによる寿命性能の向上が顕著であることは予想外の結果である。
負極電極材料中のグラファイトの含有量を0.5mass%以上とすると、寿命性能の向上が大きいので好ましく、負極電極材料中のグラファイトの含有量を0.7mass%以上とすると、寿命性能の向上がより大きいので、より好ましい。また、グラファイトは鱗片状グラファイトであることが好ましい。
負極電極材料中のグラファイトの含有量が2.5mass%を超えると、負極電極材料のペーストが硬くなりすぎて、負極集電体への充填が困難になるため、負極電極材料中のグラファイトの含有量は2.5mass%以下が好ましく、2.0mass%以下がより好ましい。
好ましくは、電解液はAlを含有する。電解液中のAlは、負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合に、鉛蓄電池の寿命性能を大きく向上させる。負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合以外でも、電解液中のAlにより寿命性能は向上する(図8)。しかし、電解液中のAlによる寿命性能の向上は、負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合に顕著である(図8)。このように負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合に、電解液中のAlによる寿命性能の向上が顕著であることは予想外の結果である。
電解液中のAl濃度を0.02mol/L以上とすると、寿命性能の向上が大きいので好ましく、電解液中のAl濃度を0.05mol/L以上とすると、寿命性能の向上がより大きいので、より好ましい。また、電解液中のAl濃度を0.2mol/L以下とすると、寿命性能の向上が大きいので好ましく、電解液中のAl濃度を0.15mol/L以下とすると、寿命性能の向上がより大きいのでより好ましい。
好ましくは、電解液はLiを含有する。電解液中のLiは、負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合に、鉛蓄電池の寿命性能を向上させる(図9)。一方で、負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合以外は、電解液中のLiは鉛蓄電池の寿命性能を逆に低下させる(図9)。このように負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上で、かつ電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合にのみ、電解液中のLiにより寿命性能が向上することは予想外の結果である。
電解液中のLi濃度を0.02mol/L以上とするこは、寿命性能の向上が大きいので好ましく、電解液中のLi濃度を0.05mol/L以上とすることは、寿命性能の向上がより大きいのでより好ましく、電解液中のLi濃度を0.1mol/L以上とすることは、寿命性能の向上が一層大きいので一層好ましい。
電解液中のLi濃度が0.2mol/Lを超えると、充電受入性が低下するため、電解液中のLi濃度は0.2mol/L以下とすることが好ましく、0.15mol/L以下とすることがより好ましい。
本発明の鉛蓄電池は、放電直後と放置後の双方の充電受入性能に優れるため、不十分な充電しかされないアイドリングストップ用の鉛蓄電池等に好適に用いることができる。
負極板の正面図 蓋を取り外した鉛蓄電池の要部平面図 NP/Vを1.40g/cmに固定し、Na濃度を0.015mol/L〜0.1mol/Lの範囲で変化させ、また硫酸Ba濃度を0.5mass%〜4mass%の範囲で変化させた際の、放置有りでの充電受入性を示す特性図(Naの各濃度に対して、硫酸Ba濃度が0.5mass%の場合の充電受入性を100とする相対値で表示) NP/Vを1.40g/cmに固定し、Na濃度を0.015mol/L〜0.1mol/Lの範囲で変化させ、また硫酸Ba濃度を0.5mass%〜4mass%の範囲で変化させた際の、2000サイクル時点での内部抵抗増加率を示す特性図 NP/Vを1.25g/cm〜1.70g/cmの範囲で変化させた際の、2000サイクル時点での内部抵抗増加率を示す特性図 正極電極材料の密度を3.7g/cm〜4.2g/cmの範囲で変化させた際の、寿命サイクル数を示す特性図 負極電極材料にグラファイトを含有させた際の、寿命サイクル数を示す特性図 電解液にAlを含有させた際の、寿命サイクル数を示す特性図 電解液にLiを含有させた際の、寿命サイクル数を示す特性図
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。なお実施例では、負極電極材料を負極活物質と呼び、正極電極材料を正極活物質と呼ぶことがある。また負極板は負極集電体(負極格子)と負極電極材料(負極活物質)とから成り、正極板は正極集電体(正極格子)と正極電極材料(正極活物質)とから成り、集電体(格子)以外の固形成分は電極材料(活物質)に属するものとする。
負極電極材料中の硫酸Baやグラファイト及び電解液中のNa、Al、Liなどの添加材の濃度、正極電極材料の密度などは、満充電状態での値とする。なお、満充電状態とは、15分ごとに測定した充電中の端子電圧が3回連続して一定値を示すまで、5時間率電流で充電した状態をいう。
負極活物質は、ボールミル法による鉛粉に、所定量の硫酸Ba(平均1次粒径は0.79μm、平均2次粒径は2.5μm)と、カーボン、リグニン、補強材の合成樹脂繊維を混合し、鉛粉との合計を100mass%とした。硫酸Ba濃度は、満充電後の負極活物質量に対して0.5mass%〜4.0mass%の範囲で変化させた。リグニン含有量は0.2mass%としたが、濃度は任意である。また鉛粉の製造方法、酸素含有量等は任意で、他の添加物、水溶性の合成高分子電解質等を含有させても良い。なお、硫酸Baに替えて単体のBaや、炭酸BaなどのBa化合物を用いても良い。
前記の混合物を水と硫酸とでペースト化し、Pb-Ca-Sn系合金から成るエキスパンドタイプの負極格子に充填し、熟成、乾燥を施した。なおペースト化する際の水量と充填条件を変えて、負極活物質の密度と厚さとを調整し、負極板の質量を調整した。また負極格子は鋳造格子、打ち抜き格子等でも良い。
負極板の質量の調整は、負極活物質の質量を調整することにより行ったが、負極格子の桟の幅や本数等を調整して負極格子の質量を調整することにより行っても良い。負極活物質の質量を増しても、負極格子の質量を増しても、同様の効果が得られる。
正極活物質は、ボールミル法による鉛粉に補強材の合成樹脂繊維を混合し、水と硫酸とでペースト化し、Pb-Ca-Sn系合金から成るエキスパンドタイプの正極格子に充填し、熟成、乾燥を施した。なおペースト化する際の水量を変えて、正極活物質の密度を調整した。また正極格子は鋳造格子、打ち抜き格子等でも良い。
未化成の負極板をポリエチレンセパレータで包み、未化成の負極板6枚と未化成の正極板5枚とを交互に積層し、負極板、正極板それぞれをストラップで接続して極板群とした。また、負極板の質量の調整に伴う負極板の厚さの変化に応じて、セパレータの厚さを調整した。なおセパレータは正極板を包んでも良い。極板群を電槽のセル室に収容し、20℃で比重1.230の硫酸を加えて電槽化成し、B20サイズの液式鉛蓄電池とした。ただし制御弁式鉛蓄電池としても良い。所定量の硫酸ナトリウムを化成後に電解液に添加し、電解液のNa濃度を0.015mol/L〜0.10mol/Lの範囲で調整した。
図1は負極板2を示し、4,6は上下の額縁、8は桟で、10は負極活物質である。12は耳、13は脚で、耳12と脚13を除いた格子の高さを負極板2の高さhとし、負極板2の幅をwとする。仮に幅方向に突出物がある場合、突出物を除いて幅wを定める。
図2は鉛蓄電池20を示し、22は電槽、23は隔壁で、セル室24が6個直列に設けられている。26は負極側のストラップ、27は正極側のストラップ、28,29はセル間接続導体、30はポールである。2は前記の負極板、32は正極板、34はセパレータで、正極板32を包んでも良い。極板2,32に垂直な方向でのセル室24の内寸をdとする。内寸dと、負極板2の高さh、負極板の幅wを用い、セル室24の有効体積VをV=hwdと定義する。
既化成の負極活物質に含まれるBa濃度は以下のようにして定量する。満充電状態の鉛蓄電池を解体し、負極板を水洗及び乾燥して硫酸分を除去し、負極活物質を採取する。負極活物質を粉砕し、300g/Lの過酸化水素水を、負極活物質100g当たり20mL加え、さらに60mass%の濃硝酸をその3倍容のイオン交換水で希釈した(1+3)硝酸を加え、撹拌下で5時間加熱し、鉛を硝酸鉛として溶解させる。さらに硫酸Baを溶解させ、その溶液中のBa濃度を原子吸光測定により定量し、負極活物質中のBa濃度に換算する。負極活物質中のBa濃度から負極活物質中の硫酸Ba濃度を求めることができる。
電解液中のNa、Al、Liの各濃度は、満充電状態の鉛蓄電池から電解液を抽出し、ICP分析により定量する。
負極活物質中のグラファイトの含有量は以下のようにして定量する。満充電状態の鉛蓄電池を解体し、負極板を水洗及び乾燥して硫酸分を除去し、負極活物質を採取する。負極活物質を粉砕し、300g/L濃度の過酸化水素水を、負極活物質100g当たり20mL加え、さらに60mass%の濃硝酸をその3倍容のイオン交換水で希釈した(1+3)硝酸を加え、撹拌下で5時間加熱し、鉛を硝酸鉛として溶解させる。次いで濾過により、グラファイト、カーボン、補強材等の固形分を分離する。
濾過によって得られた固形分を水中に分散させる。1.4mm径の篩いを用いて分散液を2回篩いにかけ、補強材を除去する。次いで3000rpmで5分の遠心分離を施し、カーボン及びグラファイトを上澄み及び上方沈殿から抽出する。
次に、抽出したカーボンとグラファイトを分離する。抽出した上澄み及び上方沈殿100mLにつき日本製紙株式会社製バニレックスNを15mL添加して撹拌操作を実施する。
上記操作の後、3000rpmで5分の遠心分離操作を実施し、上澄み及び沈殿物を全て20μm径の篩いにかける。グラファイトは篩いを通過しないため篩い上に残る。篩い上に残ったグラファイトに多量の熱水をかけてバニレックスNを除去し水洗乾燥する。水洗乾燥したグラファイトの重量を秤量し、負極活物質中のグラファイトの含有量に換算する。
正極電極材料の密度の定量方法を以下に示す。既化成で満充電状態の正極電極材料を水洗乾燥し、正極電極材料を正極格子から分離する。分離した正極電極材料は未粉砕の状態で、以下の手順により密度を測定する。
a)閉気孔を含んだ正極電極材料の見かけ密度(g/cm3)をピクノメーター法により測定する。
b)正極電極材料の単位質量あたりの開気孔体積(cm3/g)を水銀圧入法により測定する。なお、水銀圧入法において、最大圧力4.45psia(30.7KPa)まで加圧し、接触角を130°、水銀の表面張力を484dynes/cmとする。
c)1÷[(1÷正極電極材料の見かけ密度)+(正極電極材料単位質量あたりの開気孔体積)]、により正極電極材料の密度を求める。以上のように、本発明における正極電極材料の密度は、既化成で満充電後の正極電極材料における、閉気孔と開気孔と正極電極材料とからなるものの密度である。
得られた鉛蓄電池に対し、満充電状態から5時間率電流で30分放電し、14.5Vの定電圧で10秒間充電した際の電気量を、放置無しの充電受入性能として測定した。また、満充電状態から5時間率電流で30分放電し、12時間放置した後に、14.5Vの定電圧で10秒間充電した際の電気量を、放置有りの充電受入性能として測定した。
寿命試験として、電池工業会規格(SBA S0101 9.4.5)を変形し、
・ 1時間率電流での59秒間の放電と300Aでの1秒間の放電、及び14Vでの60秒間の充電から成るサイクルを行い、
・ 30サイクル毎に2時間休止し、
・ 1000サイクル毎に内部抵抗を測定するようにして、
1週間に1000サイクルの試験を行った。なお内部抵抗は、交流四端子法により測定した。そして放電時の電圧が7.2V未満となると寿命とした。結果を表1及び図3〜5に示す。充電受入性能(放置無し及び放置有り)、寿命サイクル数は、表1の試料A19(NP/Vが1.40g/cm、Na濃度が0.10mol/L、硫酸Baが0.5mass%の比較例)を100とする相対値で示した。また内部抵抗は、各鉛蓄電池での寿命試験開始前の値を1とする相対値で示した。
表1から、負極活物質に含まれる硫酸Ba濃度が大きくなると、放置無しでの充電受入性は向上するが、放置有りでの充電受入性は低下することがわかる。図3は、表1のA1〜A24の鉛蓄電池の放置有りでの充電受入性を示すグラフで、各Na濃度において、硫酸Ba濃度が0.5mass%の鉛蓄電池の放置有りでの充電受入性を100とする相対値で示す。電解液のNa濃度が0.05mol/L及び0.10mol/Lの場合には、負極活物質中の硫酸Ba濃度を1.0mass%以上とすると、放置有りでの充電受入性が大きく低下する(図3)。一方、電解液のNa濃度が0.015mol/L、0.035mol/Lの場合には、負極活物質中の硫酸Ba濃度を1.0mass%以上としても、電解液のNa濃度が0.05mol/L及び0.10mol/Lの場合ほどには、放置有りでの充電受入性は低下しない(図3)。従って、電解液のNa濃度が0.04mol/L以下で、かつ負極活物質中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上の場合に、放置有りでの充電受入性の低下を抑制する効果が大きいといえる。電解液のNa濃度が0.04mol/L以下で、かつ負極活物質中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上の場合に、放置有りでの充電受入性の低下を抑制する効果が大きいことは知られておらず、予想外の結果であった。
さらに電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合に、負極活物質中の硫酸Ba濃度を1.2mass%以上とすると、2000サイクル時点での内部抵抗増加率が大きく抑制された(図4)。一方で、電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下の場合でも、負極活物質中の硫酸Ba濃度が1.0mass%では、2000サイクル時点での内部抵抗増加率の抑制効果は小さく、硫酸Ba濃度が1.0mass%以下と1.2mass%以上とでは、傾向が大きく異なった(図4)。また、電解液中のNa濃度が0.04mol/Lを超える場合には、負極活物質中の硫酸Ba濃度を1.2mass%以上としても、2000サイクル時点での内部抵抗増加率は大きくは変化しなかった(図4)。電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下で、かつ負極活物質中の硫酸Ba濃度が1.2mass%以上の場合に、充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加が抑制されることは知られておらず、予想外の結果であった。
表1の試料B1〜B5と試料A4は、セル室の有効体積V当たりの負極板の総質量NP(NP/V)が、2000サイクル時点の内部抵抗増加率に及ぼす影響を示す。NP/Vが1.30g/cm以上又は1.60g/cm以下で、充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加を抑制できた(図5)。特に1.40g/cm以上又は1.50g/cm以下で充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加を大きく抑制できた(図5)。このようにセル室の有効体積V当たりの負極板の総質量NP(NP/V)が、充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加率に影響を及ぼすことは、知られていなかった。従って、NP/Vが1.30g/cm以上又は1.60g/cm以下、好ましくは1.40g/cm以上又は1.50g/cm以下で、充放電サイクルの経過に伴う内部抵抗の増加を大きく抑制できるという結果は、予想外である。
図6は正極活物質の密度が寿命性能に及ぼす影響を示し、NP/Vは1.40g/cmとした。電解液のNa濃度が0.1mol/Lで、負極活物質中の硫酸Ba濃度が0.5mass%で、かつ正極活物質密度が3.70g/cmである電池の寿命サイクル数を100として、各電池の寿命サイクル数を示す。電解液中のNa濃度を0.04mol/L以下とし、負極活物質中の硫酸Ba濃度を1.0mass%以上とした場合、正極活物質の密度を3.80g/cm以上とすると、寿命サイクル数が増加した(図6)。特に正極活物質の密度を3.90g/cm以上とすると、寿命サイクル数が大きく増加した。一方で、Na濃度が0.1mol/Lで硫酸Ba濃度が0.5mass%の場合には正極活物質の密度を3.80g/cm以上とすると、寿命サイクル数は減少した(図6)。従って、電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下で、かつ負極活物質中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上の場合と、それ以外の場合とで、正極活物質の密度が3.80g/cm以上での、寿命試験の結果は傾向が全く異なるといえる。
負極活物質へのグラファイトの添加効果と、電解液へのAl及びLiの添加効果を検討した。比較例として、電解液のNa濃度を0.1mol/Lとし、負極活物質中の硫酸Ba濃度を0.5mass%として、負極活物質に鱗片状グラファイトを含有させた鉛蓄電池、及び電解液にAlあるいはLiを含有させた鉛蓄電池を製造した。また、実施例として、電解液中のNa濃度を0.015mol/Lとし、負極活物質中の硫酸Ba濃度を2.0mass%として、負極活物質に鱗片状グラファイトを含有させた鉛蓄電池、及び電解液にAlあるいはLiを含有させた鉛蓄電池を製造した。製造条件は、鱗片状グラファイト、Al、Liの濃度以外は実施例A4、比較例A19と同様とした。これらの電池に対する試験結果を図7〜9に示す。なお、図7〜9では、電解液のNa濃度を0.1mol/Lとし、負極活物質中の硫酸Ba濃度を0.5mass%とした場合、及び、電解液中のNa濃度を0.015mol/Lとし、負極活物質中の硫酸Ba濃度を2.0mass%とした場合のそれぞれについて、負極活物質に鱗片状グラファイトを含有せず、電解液にAl及びLiを含有しない電池の寿命サイクル数を100として各電池の寿命サイクル数を示す。
図7は、負極活物質のグラファイト含有量が寿命性能に与える影響を示す。負極活物質がグラファイトを含有すると、電解液中のNa濃度が高く負極活物質中の硫酸Ba濃度が低い場合でも、寿命性能が向上する。しかし、Na濃度が0.04mol/L以下で硫酸Ba濃度が1.0mass%以上の場合には、負極活物質のグラファイトにより、寿命性能がより大幅に向上する。負極活物質のグラファイトの含有量が0.7mass%以上の範囲で寿命性能の向上が特に大きい。電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下で、かつ負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上の場合に、負極電極材料中のグラファイトによる寿命性能の向上が顕著であることは知られておらず、予想外の結果である。
図8は、電解液のAl濃度が寿命性能に与える影響を示す。電解液がAlを含有すると、電解液中のNa濃度が高く負極活物質中の硫酸Ba濃度が低い場合でも、寿命性能が向上する。しかし、Na濃度が0.04mol/L以下で硫酸Ba濃度が1.0mass%以上の場合には、電解液中のAlにより、寿命性能がより大幅に向上する。電解液のAlの濃度が0.05mol/L以上で、寿命性能の向上は特に大きい。電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下で、かつ負極電極材料中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上の場合に、電解液中のAlによる寿命性能の向上が顕著であることは知られておらず、予想外の結果である。
図9は、電解液のLi濃度が寿命性能に与える影響を示す。電解液がLiを含有すると、電解液中のNa濃度が高く負極活物質中の硫酸Ba濃度が低い場合には、寿命性能を低下させる。一方、Na濃度が0.04mol/L以下で硫酸Ba濃度が1.0mass%以上の場合には、電解液がLiを含有すると、寿命性能が向上する。電解液のLiの濃度が0.05mol/L以上の範囲で寿命性能の向上が特に大きい。従って、電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下で、かつ負極活物質中の硫酸Ba濃度が1.0mass%以上の場合と、それ以外の場合とで、Li含有電解液での寿命試験の結果は傾向が全く異なるといえる。
実施例の鉛蓄電池は液式であるが、制御弁式でも良い。またアイドリングストップ車用に限らず、充電制御車にも用いることができ、PSOC(Partial State of Charge)条件で使用される電池に適しているが、用途は任意である。
2 負極板
4,6 額縁
8 桟
10 負極活物質
12 耳
13 脚
20 鉛蓄電池
22 電槽
23 隔壁
24 セル室
26,27 ストラップ
28,29 セル間接続導体
30 ポール
32 正極板
34 セパレータ

h 負極板の高さ
w 負極板の幅
d セル室の内寸

Claims (10)

  1. 電槽のセル室に、正極板と負極板と電解液とを収容した鉛蓄電池において、
    前記負極板の負極電極材料に含まれる硫酸Ba濃度が1.0mass%以上4.0mass%以下であり、
    前記電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下であり、
    前記正極板の正極電極材料の密度が3.8g/cm 以上4.2g/cm 以下であることを特徴とする、鉛蓄電池。
  2. 電槽のセル室に、正極板と負極板と電解液とを収容した鉛蓄電池において、
    前記負極板の負極電極材料に含まれるBa濃度が0.6mass%以上2.4mass%以下であり、前記電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下であり、
    前記正極板の正極電極材料の密度が3.8g/cm 以上4.2g/cm 以下であることを特徴とする、鉛蓄電池。
  3. 前記負極電極材料に含まれる硫酸Ba濃度が1.2mass%以上であることを特徴とする、請求項1の鉛蓄電池。
  4. 電槽のセル室に、正極板と負極板と電解液とを収容した鉛蓄電池において、
    前記負極板の負極電極材料に含まれる硫酸Ba濃度が1.0mass%以上4.0mass%以下であり、
    前記電解液中のNa濃度が0.04mol/L以下であり、
    1セルあたりの前記負極板の総質量をNP(g)、前記負極板の高さ×前記負極板の幅×前記セル室の負極板に垂直な方向での内寸で定まる体積をV(cm)として、NP/Vが1.3g/cm以上1.6g/cm 以下であることを特徴とする、鉛蓄電池
  5. 前記正極板の正極電極材料の密度が3.8g/cm以上であることを特徴とする、請求項の鉛蓄電池。
  6. 前記正極板の正極電極材料の密度が4.2g/cm 以下であることを特徴とする、請求項5の鉛蓄電池。
  7. 前記電解液中のNa濃度が0.001mol/L以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかの鉛蓄電池。
  8. 前記負極電極材料がグラファイトを含有することを特徴とする、請求項1〜のいずれかの鉛蓄電池。
  9. 前記電解液がAlを含有することを特徴とする、請求項1〜のいずれかの鉛蓄電池。
  10. 前記電解液がLiを含有することを特徴とする、請求項1〜のいずれかの鉛蓄電池。
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