以下、実施形態について詳細に説明する。
図1A及びBは、実施形態に係る歯付ベルトBを示す。実施形態に係る歯付ベルトBは、例えば自動車エンジンのオーバーヘッドカムシャフト(OHC)の回転駆動や工作機のスピンドル駆動のようなオイルが付着する環境下において用いられるエンドレスの動力伝達部材である。実施形態に係る歯付ベルトBは、例えば、ベルト長さが100mm以上2300mm以下、ベルト幅が4mm以上40mm以下、及びベルト最大厚さが2.0mm以上7.0mm以下である。
実施形態に係る歯付ベルトBは、内周側に所定ピッチで間隔をおいて複数のベルト歯Tが配設された噛み合い伝動ベルトである。ベルト歯Tは、ベルト幅方向に延びるように形成された側面視の歯形状が台形の突条で構成された台形歯であってもよく、側面視の歯形状が半円形の丸歯であってもよく、側面視の歯形状がその他の形状のものであってもよい。また、ベルト歯Tは、ベルト幅方向に対して傾斜する方向に延びるように形成されたハス歯であってもよい。
ベルト歯Tの歯高さは、ベルト長さ方向に相互に隣接する一対のベルト歯T間の歯底部からベルト歯Tの先端までの寸法で規定され、例えば0.37mm以上4.0mm以下である。ベルト歯Tの歯幅は、ベルト長さ方向のベルト歯Tを挟んだ相互に隣接する一対の歯底部の端間の寸法で規定され、例えば0.63mm以上8.0mm以下である。ベルト歯Tの歯ピッチは、例えば1.0mm以上10.0mm以下である。
実施形態に係る歯付ベルトBは、歯付ベルト本体11と、心線12と、補強布13とを備える。
歯付ベルト本体11は、ゴム製であって、エンドレスの平帯ゴム部11aと複数の歯ゴム部11bとを有する。複数の歯ゴム部11bは、平帯ゴム部11aの一方側である内周側にベルト長さ方向に間隔をおいて一体に設けられている。歯付ベルト本体11は、ゴム成分に各種のゴム配合剤が配合された未架橋ゴム組成物が、ベルト成型時に加熱及び加圧されてゴム成分が架橋したゴム組成物で形成されている。
歯付ベルト本体11を形成するゴム組成物のゴム成分としては、例えば、水素化ニトリルゴム(以下「H−NBR」という。)、エチレン−α−オレフィンエラストマー(EPDMやEPRなど)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等が挙げられる。ゴム成分は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、H−NBRを含むことがより好ましい。
歯付ベルト本体11を形成するゴム組成物のゴム成分がH−NBRを主体として含む場合、その結合アクリロニトリル量は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、好ましくは20質量%以上50質量%以下である。そのヨウ素価は、同様の観点から、好ましくは5mg/100mg以上15mg/100mg以下である。その100℃におけるムーニー粘度は、同様の観点から、好ましくは40ML1+4(100℃)以上70ML1+4(100℃)以下である。
ゴム配合剤としては、例えば、補強材(カーボンブラックやシリカなど)、可塑剤、加工助剤、架橋剤、共架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等が挙げられる。
心線12は、歯付ベルト本体11の平帯ゴム部11aの内周側の表層に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成して延びるように埋設されている。心線12の直径は、例えば0.2mm以上1.5mm以下である。ベルト幅方向に相互に隣接する心線12間の間隙は、例えば0.3mm以上3.0mm以下である。
心線12は、図2A〜Cに示すように、高強度ガラス繊維121aのフィラメント束がバインダー121bを介して一体化した帯状物で形成された撚り糸で構成されている。心線12では、その断面において、高強度ガラス繊維121aの島がバインダー121bの海に分散するように、高強度ガラス繊維121aがバインダー121bに埋設されている。
ここで、本出願における「高強度ガラス繊維121a」とは、SiO2組成分率がEガラスよりも高いガラスの繊維を意味する。高強度ガラス繊維121aとしては、具体的には、例えば、SiO2組成分率が58質量%以上75質量%以下のCガラス、Sガラス、Dガラス等が挙げられる。高強度ガラス繊維121aのフィラメント径は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、好ましくは5μm以上11μm以下、より好ましくは7μm以上9μm以下である。
バインダー121bは、ゴム成分と、マレイミド系化合物及びポリイソシアネート化合物のうちの少なくとも一方と、粉状無機充填剤とを含有する。
バインダー121bのゴム成分は、未架橋ゴムであっても、架橋ゴムであっても、どちらでもよい。バインダー121bのゴム成分としては、例えば、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴム(Vp・SBR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、2,3−ジクロロブタジエンゴム(2,3−DCB)、H−NBR等が挙げられる。バインダー121bのゴム成分は、これらのうち1種又は2種以上を含むことが好ましく、H−NBRを含むことがより好ましい。なお、バインダー121bのゴム成分は、ラテックス由来であることが好ましい。
マレイミド系化合物としては、例えば、マレイミド、ビスマレイミド、4,4’−ビスマレイミドフェニルメタン、N−メチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−メチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N,N’−m−フェニレンジマレイミド等が挙げられる。
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート等が挙げられる。
バインダー121bのマレイミド系化合物及び/又はポリイソシアネート化合物は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。バインダー121bは、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、マレイミド系化合物及びポリイソシアネート化合物の両方を含有することがより好ましい。バインダー121bにおけるマレイミド系化合物及び/又はポリイソシアネート化合物の含有量は、同様の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上40質量部以下、より好ましくは10質量部以上30質量部以下である。
粉状無機充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ホウ酸亜鉛等の粉体が挙げられる。
バインダー121bの粉状無機充填剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、カーボンブラック及びシリカのうちの少なくとも一方を含むことがより好ましい。バインダー121bにおける粉状無機充填剤の含有量は、同様の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上20質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上10質量部以下である。粉状無機充填剤の平均粒径は、例えば5nm以上300nm以下である。
バインダー121bは、ゴム成分、マレイミド系化合物、ポリイソシアネート化合物、及び粉状無機充填剤以外に、界面活性剤等、必要に応じてその他の物質を含有していてもよい。但し、バインダー121bは、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、レゾルシンとホルマリンとの縮合物、つまり、RF樹脂のようなフェノール系樹脂を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に含有しない」とは、バインダー121bにおける含有量が、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部未満であることをいう。
心線12におけるバインダー121bの付着量は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、高強度ガラス繊維121aの質量を基準として、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下である。
心線12を構成する撚り糸は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、高強度ガラス繊維121aのフィラメント束がバインダー121bを介して一体化した帯状物を一方向に下撚りしたストランド121を複数本集めて引き揃え、それをストランド121とは反対方向に上撚りした諸撚り糸であることが好ましい。心線12を構成する諸撚り糸は、S撚り糸及びZ撚り糸のいずれであってもよく、また、二重螺旋を形成するように設けられたS撚り糸及びZ撚り糸の両方であってもよい。なお、心線12を構成する撚り糸は、帯状物を一方向に撚った片撚り糸であってもよく、また、帯状物を一方向に撚ったストランド121を複数本集めて引き揃え、それをストランド121と同一方向に撚ったラング撚り糸であってもよい。
諸撚り糸の心線12の場合、ストランド121に含まれる高強度ガラス繊維121aのフィラメント本数は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、好ましくは600本以上3600本以下、より好ましくは1200本以上2400本以下である。ストランド121の本数は、ベルトサイズにもよるが、例えば2本以上50本以下である。複数本のストランド121は、心線12の断面において、回転対称性及び/又は鏡像対称性を有するように配設されていてもよいが、本数が8本以上の場合には、ランダムに配設されていることが好ましい。
各ストランド121の10cm当たりの下撚り回数は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、好ましくは2回以上16回以下、より好ましくは4回以上8回以下である。心線12の10cm当たりの上撚り回数は、同様の観点から、好ましくは16回以上40回以下、より好ましくは24回以上32回以下である。ストランド121の10cm当たりの下撚り回数は、同様の観点から、心線12の10cm当たりの上撚り回数よりも少ないことが好ましい。
諸撚り糸の心線12を作製する場合、まず、高強度ガラス繊維121aのフィラメント束を、液槽に貯留したバインダー処理液に連続的に通す。このとき、高強度ガラス繊維121aのフィラメント束がバインダー処理液に浸漬されて、高強度ガラス繊維121aのフィラメント束の内部にバインダー処理液が含浸し、高強度ガラス繊維121aの表面がバインダー処理液で濡れる。
高強度ガラス繊維121aのフィラメント束は、通常、複数のケーキから引き出された高強度ガラス繊維121aのヤーンを合糸することにより構成する。典型的には、200本の高強度ガラス繊維121aのヤーンを3本合糸して600本の高強度ガラス繊維121aのフィラメント束を構成する。
バインダー処理液は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、バインダー121bのゴム成分のラテックスをベースとし、そこにマレイミド系化合物及びポリイソシアネート化合物のうちの少なくとも一方と、粉状無機充填剤とが分散した水系処理剤であることが好ましい。ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基がカプロラクタムやオキシムでブロックされてブロックドポリイソシアネートを構成していてもよい。バインダー処理液の固形分濃度は、例えば3質量%以上50質量%以下である。
次いで、高強度ガラス繊維121aのフィラメント束をバインダー処理液から引き上げた後に加熱炉に通過させる。このとき、高強度ガラス繊維121aのフィラメント束に含まれるバインダー処理液の液体成分が飛散するとともに固形分が固化してバインダー121bとなり、そのバインダー121bを介して高強度ガラス繊維121aのフィラメント束が一体化して帯状物が形成される。加熱炉における加熱温度(炉内設定温度)は、例えば80℃以上300℃以下である。加熱時間(炉内滞留時間)は、例えば10秒以上180秒以下である。
続いて、高強度ガラス繊維121aのフィラメント束が一体化した帯状物を一方向に下撚りしてストランド121を形成し、それをボビンに巻き取る。そして、複数のボビンからストランド121を引き出し、それらの複数本のストランド121を引き揃えるとともに上撚りして心線12を形成し、それをボビンに巻き取る。
歯付ベルト本体11と心線12との間の界面部には、それらの接着性を高めるための心線接着層14が設けられていてもよい。この心線接着層14は、心線12に対し、塩素系ゴム等のゴム糊に浸漬して乾燥させる処理を施して表面を糊ゴム層で被覆することにより形成することができる。
補強布13は、歯付ベルト本体11の複数の歯ゴム部11bが設けられた側の表面を被覆するように設けられている。したがって、歯付ベルト本体11の歯ゴム部11bが補強布13で被覆されてベルト歯Tが構成されており、また、相互に隣接する歯ゴム部11b間では、平帯ゴム部11a及びそこに埋設された心線12が補強布13で被覆されている。補強布13の厚さは、例えば0.1mm以上0.7mm以下である。
補強布13は、所定の接着処理が施された織布、編物、不織布等の布材131で構成されている。補強布13を構成する布材131を形成する繊維材料としては、例えば、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、綿等が挙げられる。補強布13を構成する布材131を形成する繊維材料は、これらのうちのナイロン繊維が好ましい。
補強布13を構成する布材131に施される前処理は、歯付ベルト本体11側とは反対側となる表面に、ゴム糊をコーティングして乾燥させるコーティング処理を含む。このコーティング処理には、H−NBRを主体とするゴム成分と、その他のゴム配合剤とを含有する未架橋ゴム組成物をメチルエチルケトン等の有機溶剤に溶解させたゴム糊が用いられる。
補強布13は、このコーティング処理が施されていることにより、歯付ベルト本体11側とは反対側の表面が表面被覆ゴム層132で被覆されている。この表面被覆ゴム層132は、H−NBRを主体とするゴム成分とその他のゴム配合剤とを含有する未架橋ゴム組成物のゴム糊コーティング層が、ベルト成型時に加熱及び加圧されてゴム成分が架橋したゴム組成物で形成されたものである。表面被覆ゴム層132の厚さは、例えば0.1μm以上100μm以下である。
表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物のゴム成分におけるH−NBRの含有量は、50質量%よりも多いが、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、100質量%であってもよい。
表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物のゴム成分は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、H−NBRとして、H−NBRに不飽和カルボン酸金属塩が分散したゴムアロイを含むことが好ましい。ゴム成分は、H−NBRとして、このゴムアロイと非アロイのH−NBRとのブレンドゴムを含んでいてもよいが、このゴムアロイを単独で含むことがより好ましい。ゴムアロイの不飽和カルボン酸金属塩について、不飽和カルボン酸としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸等が挙げられ、金属としては、例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等が挙げられる。
H−NBR(ゴムアロイの場合、ベースのH−NBR)の結合アクリロニトリル量は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、好ましくは20質量%以上50質量%以下、より好ましくは30質量%以上40質量%以下である。ヨウ素価は、同様の観点から、好ましくは5mg/100mg以上15mg/100mg以下、より好ましくは5mg/100mg以上12mg/100mg以下である。100℃におけるムーニー粘度は、同様の観点から、好ましくは40ML1+4(100℃)以上70ML1+4(100℃)以下、より好ましくは45ML1+4(100℃)以上65ML1+4(100℃)以下である。
なお、ゴム成分は、H−NBR以外に、エチレン−α−オレフィンエラストマー(EPDMやEPRなど)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等を含んでいてもよい。
表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物は、フッ素系樹脂粉を含有することが好ましい。後述の通り、実施形態に係る歯付ベルトBでは、オイルが付着する環境下で使用されたときのベルト強度の低下を抑制することができるが、オイルが付着しない環境下で使用された場合には、表面被覆ゴム層132がプーリに直接的に接触するため、その摩耗の進行が懸念される。しかしながら、表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物がフッ素系樹脂粉を含有していれば、その摩耗の進行を抑制することができる。もちろん、オイルが付着する環境下で使用された場合でも、同様の摩耗抑制効果を得ることができる。
フッ素系樹脂粉としては、例えば、テトラフルオロエチレン樹脂(以下「PTFE」という。)、パーフロロアルコキシ樹脂、フッ化エチレンプロピレン樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂、トリフルオロクロロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂等の粉状物が挙げられる。フッ素系樹脂粉は、これらのうちの1種又は2種以上の樹脂粉を含むことが好ましく、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、PTFE粉を含むことがより好ましい。フッ素系樹脂粉の平均粒径は、同様の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物におけるフッ素系樹脂粉の含有量は、同様の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上100質量部以下、より好ましくは80質量部以上95質量部以下である。
表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、補強材のカーボンブラック及びシリカを含有することが好ましい。表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量は、同様の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以下である。表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物におけるシリカの含有量は、同様の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以下であり、カーボンブラックの含有量よりも多いことが好ましい。
表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物は、架橋剤として有機過酸化物が用いられてゴム成分が架橋していてもよく、また、架橋剤として硫黄が用いられてゴム成分が架橋していてもよく、さらに、架橋剤として有機過酸化物及び硫黄が併用されてゴム成分が架橋していてもよい。有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルペロキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペロキシ)ヘキサン等が挙げられる。架橋剤として有機過酸化物を用いる場合には、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、架橋剤として有機過酸化物が用いられてゴム成分が架橋していることが好ましい。この場合、架橋前の未架橋ゴム組成物における架橋剤の有機過酸化物の配合量は、同様の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以下である。
表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、ゴム成分が共架橋剤によっても架橋されていることが好ましい。
共架橋剤としては、例えば、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、液状ポリブタジェエン等が挙げられる。共架橋剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド及び/又はトリメチロールプロパントリメタクリレートを含むことがより好ましく、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド及びトリメチロールプロパントリメタクリレートの両方を含むことが更に好ましい。
架橋前の未架橋ゴム組成物における共架橋剤の配合量は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以下である。N,N’−m−フェニレンビスマレイミド及びトリメチロールプロパントリメタクリレートの両方を用いる場合、同様の観点から、前者の配合量が後者の配合量よりも多いことが好ましい。
その他のゴム配合剤としては、例えば、可塑剤、加工助剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等が挙げられる。
補強布13を構成する布材131に施される前処理は、接着処理を含んでいてもよい。そして、この接着処理は、補強布13を構成する布材131の歯付ベルト本体11側となる表面に、ゴム糊をコーティングして乾燥させるコーティング処理を含んでいてもよい。このコーティング処理には、H−NBRを主体とするゴム成分とゴム配合剤とを含有する未架橋ゴム組成物をメチルエチルケトン等の有機溶剤に溶解させたゴム糊が用いられることが好ましい。
この場合、歯付ベルト本体11と補強布13との間の界面部には、このコーティング処理が施されることにより、補強布接着層15が設けられることとなる。この補強布接着層15は、H−NBRを主体とするゴム成分とゴム配合剤とを含有する未架橋ゴム組成物のゴム糊コーティング層が、ベルト成型時に加熱及び加圧されてゴム成分が架橋したゴム組成物で形成されたものである。補強布接着層15の厚さは、例えば0.1μm以上100μm以下である。
補強布接着層15を形成するゴム組成物のゴム成分におけるH−NBRの含有量は、50質量%よりも多いが、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、100質量%であってもよい。
ゴム成分は、表面被覆ゴム層132の場合と同様、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、H−NBRとして、H−NBRに不飽和カルボン酸金属塩が分散したゴムアロイを含むことが好ましい。ゴム成分は、H−NBRとして、このゴムアロイを単独で含んでいてもよいが、このゴムアロイと非アロイのH−NBRとのブレンドゴムを含むことがより好ましい。その場合、ゴム成分におけるゴムアロイの含有量は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、非アロイのH−NBRの含有量よりも多いことが好ましい。
このゴム成分におけるH−NBRは、歯付ベルト本体11を形成するゴム組成物のゴム成分がH−NBRを主体として含む場合、結合アクリロニトリル量及びヨウ素価が、そのH−NBRと同一であることが好ましい。
なお、ゴム成分は、H−NBR以外に、エチレン−α−オレフィンエラストマー(EPDMやEPRなど)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等を含んでいてもよい。
補強布接着層15を形成するゴム組成物は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、補強材のカーボンブラック及びシリカを含有することが好ましい。
補強布接着層15を形成するゴム組成物におけるカーボンブラックの含有量は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上40質量部以下である。補強布接着層15を形成するゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、同様の観点から、表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量よりも多いことが好ましい。
補強布接着層15を形成するゴム組成物におけるシリカの含有量は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上30質量部以下であり、カーボンブラックの含有量よりも少ないことが好ましい。補強布接着層15を形成するゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は、同様の観点から、表面被覆ゴム層132を形成するゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対するシリカの含有量よりも少ないことが好ましい。
補強布接着層15を形成するゴム組成物は、架橋剤として有機過酸化物が用いられてゴム成分が架橋していてもよく、また、架橋剤として硫黄が用いられてゴム成分が架橋していてもよく、さらに、架橋剤として有機過酸化物及び硫黄が併用されてゴム成分が架橋していてもよい。有機過酸化物としては、例えば、α,α’−ジ(トリt−ブチルペロキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルペロキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペロキシ)ヘキサン等が挙げられる。架橋剤として有機過酸化物を用いる場合、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
補強布接着層15を形成するゴム組成物のゴム成分がゴムアロイとH−NBRとのブレンドゴムである場合、補強布接着層15を形成するゴム組成物は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、架橋剤として有機過酸化物及び硫黄が併用されてゴム成分が架橋していることが好ましい。この場合、架橋前の未架橋ゴム組成物における架橋剤の有機過酸化物の配合量は、同様の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以下である。架橋前の未架橋ゴム組成物における架橋剤の硫黄の配合量は、同様の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以下である。
補強布接着層15を形成するゴム組成物は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、ゴム成分が共架橋剤によっても架橋されていることが好ましい。
共架橋剤としては、例えば、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、液状ポリブタジェエン等が挙げられる。共架橋剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド及び/又はトリメチロールプロパントリメタクリレートを含むことがより好ましく、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド及びトリメチロールプロパントリメタクリレートの両方を含むことが更に好ましい。
架橋前の未架橋ゴム組成物における共架橋剤の配合量は、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下を抑制する観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以下である。補強布接着層15を形成するための架橋前の未架橋ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対する共架橋剤の配合量は、同様の観点から、表面被覆ゴム層132を形成するための架橋前の未架橋ゴム組成物におけるゴム成分100質量部に対する共架橋剤の配合量よりも少ないことが好ましい。N,N’−m−フェニレンビスマレイミド及びトリメチロールプロパントリメタクリレートの両方を用いる場合、同様の観点から、前者の配合量が後者の配合量よりも多いことが好ましい。
その他のゴム配合剤としては、例えば、可塑剤、加工助剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等が挙げられる。
なお、補強布13を構成する布材131に施される接着処理は、コーティング処理前のゴム糊に浸漬して乾燥させるソーキング処理を含んでいてもよく、また、ゴム糊による処理の前のRFL水溶液に浸漬して加熱するRFL処理を含んでいてもよく、さらに、RFL処理前のエポキシ樹脂溶液又はイソシアネート樹脂溶液に浸漬して加熱する下地処理を含んでいてもよい。
以上の構成の実施形態に係る歯付ベルトBによれば、歯付ベルト本体11に埋設された心線12が、高強度ガラス繊維121aのフィラメント束が、ゴム成分と、マレイミド系化合物及びポリイソシアネート化合物のうちの少なくとも一方と、粉状無機充填剤とを含有するバインダー121bを介して一体化した帯状物で形成された撚り糸で構成されており、また、歯付ベルト本体11の複数の歯ゴム部11bが設けられた側の表面を被覆するように設けられた補強布13の歯付ベルト本体11側とは反対側の表面が、H−NBRを主体とするゴム成分を含有するゴム組成物で形成された表面被覆ゴム層132で被覆されていることにより、オイルが付着する環境下で使用されたときのベルト強度の低下を抑制することができる。
実施形態に係る歯付ベルトBは、複数の歯付プーリ間に巻き掛けられて用いられ、例えば、自動車エンジンのOHC駆動用途では、クランクシャフト及びカムシャフトに取り付けられた歯付プーリ間に巻き掛けられる。そして、実施形態に係る歯付ベルトBによるオイルが付着する環境下で使用されたときのベルト強度の低下抑制効果は、複数の歯付プーリに、最小プーリピッチ径が30mm以下の歯付プーリが含まれる場合に、特に顕著に奏される。
次に、実施形態に係る歯付ベルトBの製造方法について図3及び図4A〜Cに基づいて説明する。
実施形態に係る歯付ベルトBの製造方法は、材料準備工程、成形工程、架橋工程、及び仕上げ工程を有する。
まず、材料準備工程では、ゴム成分を素練りし、そこに各種のゴム配合剤を投入して混練することにより未架橋ゴム組成物を得た後、それをカレンダー成形等によってシート状に成形して歯付ベルト本体11用の未架橋ゴムシートを準備する。また、高強度ガラス繊維121aのフィラメント束をバインダー121bで一体化させるためのバインダー処理及び撚糸加工を施すことにより心線12を準備する。さらに、布材131に表面被覆ゴム層132を形成するためのコーティング処理を含む接着処理を施すことにより補強布13を準備する。
図3は、歯付ベルトBの製造に用いるベルト成形型20を示す。このベルト成形型20は、円筒状であって、その外周面に、軸方向に延びるベルト歯形成溝21が周方向に間隔をおいて一定ピッチで形成されている。
成形工程では、図4Aに示すように、ベルト成形型20の外周に筒状の補強布13を被せ、その上から心線12を螺旋状に巻き付け、更にその上から未架橋ゴムシート11’を巻き付ける。このとき、ベルト成形型20上には未架橋スラブS’が形成される。
架橋工程では、図4Bに示すように、未架橋スラブS’の外周に離型紙22を巻き付けた後、その上からゴムスリーブ23を被せ、それを加硫缶内に配置して密閉するとともに、加硫缶内に高温及び高圧の蒸気を充填し、その状態を所定時間だけ保持する。このとき、未架橋ゴムシート11’が、このベルト成型時に加熱及び加圧により、補強布13を押圧しながら流動してベルト成形型20のベルト歯形成溝21に流入するとともに、ゴム成分が架橋し、且つそれと心線12及び補強布13とが複合一体化する。また、補強布13のベルト成形型20側の表面の未架橋ゴム組成物のゴム糊コーティング層が、このベルト成型時に加熱及び加圧によりゴム成分が架橋する。そして、最終的に、図4Cに示すように、円筒状のベルトスラブSが成型される。加硫缶内の温度は例えば100℃以上200℃以下であり、圧力は例えば1.5MPa以下である。加工時間は例えば5分以上30分以下である。
仕上げ工程では、加硫缶の内部を減圧して密閉を解き、ベルト成形型20とゴムスリーブ23との間に成型されたベルトスラブSを取り出して脱型し、その背面側を研磨して厚さ調整を行った後、所定幅に輪切りすることにより歯付ベルトBが製造される。
なお、上記実施形態では、外周側にゴム組成物のベルト本体11が露出した構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、ベルト本体の外周面が他の補強布で被覆された構成であってもよい。
(歯付ベルト)
以下の実施例1〜2及び比較例1〜4の歯付ベルトを作製した。それらの構成については表1にも示す。
<実施例1>
ベースのH−NBRラテックスに、マレイミド系化合物の4,4’−ビスマレイミドフェニルメタン及びポリイソシアネート化合物とともに、粉状無機充填剤のカーボンブラック及びシリカを添加して分散させたバインダー処理液を調製して液槽に貯留した。ここで、マレイミド系化合物の4,4’−ビスマレイミドフェニルメタンの添加量は、H−NBRラテックス中のゴム成分100質量部対して10質量部とした。ポリイソシアネート化合物の添加量も、H−NBRラテックス中のゴム成分100質量部対して10質量部とした。
高強度ガラス繊維(Sガラス SiO2組成分率:64質量%、フィラメント径:9μm)のフィラメント束を、液槽に貯留したバインダー処理液に連続的に通して引き上げ、加熱炉に通過させた後、バインダー処理液が固化したバインダーを介して高強度ガラス繊維のフィラメント束が一体化した帯状物を一方向に下撚りしてストランドを形成し、それをボビンに巻き取った。一方向に下撚りしてストランドを形成し、高強度ガラス繊維のフィラメント束は、200本の高強度ガラス繊維のヤーンを3本合糸して構成した。加熱炉の加熱温度(炉内設定温度)は150℃及び加熱時間(炉内滞留時間)は120秒とした。ストランドの10cm当たりの下撚り回数は4回とした。
3個のボビンから引き出した3本のストランドを引き揃えるとともに、それをストランドとは反対方向に上撚りして諸撚り糸の心線(3/3構成)を形成し、それをボビンに巻き取った。心線の10cm当たりの上撚り回数は32回とした。心線におけるバインダーの付着量は、高強度ガラス繊維の質量を基準として23質量%であった。心線は、S撚り糸及びZ撚り糸の2種を準備した。なお、心線には、更に塩素系ゴムのゴム糊に浸漬して乾燥させることにより表面を糊ゴム層で被覆する処理を施した。
密閉式のバンバリーミキサーのチャンバーに、ゴム成分のH−NBRにメタクリル酸亜鉛が分散したゴムアロイ(Zeoforte ZSC2195H 日本ゼオン社製 ベースH−NBRの結合アクリロニトリル量:36質量%、ベースH−NBRのヨウ素価:11mg/100mg、ベースH−NBRのムーニー粘度:80MS)を投入して素練りし、次いで、このゴム成分100質量部に対して、加硫促進助剤の酸化亜鉛5質量部、老化防止剤2.5質量部、補強材のカーボンブラック1質量部、補強材のシリカ20質量部、可塑剤5質量部、共架橋剤のN,N’−m−フェニレンビスマレイミド(バルノックPM 大内新興化学工業社製)5質量部、PTFE樹脂粉(フルオンL173JE 旭硝子社製、平均粒径:7μm)90質量部、及び架橋剤の有機過酸化物(パーブチルP 日油社製、α,α’−ジ(トリt−ブチルペロキシ)ジイソプロピルベンゼン)5質量部を投入配合して混練して未架橋ゴム組成物を作製した。そして、この未架橋後ゴム組成物をメチルエチルケトンに溶解させることにより、表面被覆ゴム層を形成するための第1ゴム糊を調製した。
密閉式のバンバリーミキサーのチャンバーに、ゴム成分のH−NBRにメタクリル酸亜鉛が分散したゴムアロイ(Zeoforte ZSC2195H)80質量%と、非アロイのH−NBR(Zetpol2000 日本ゼオン社製、結合アクリロニトリル量:36質量%、ヨウ素価:7mg/100mg、ムーニー粘度:85ML1+4(100℃))20質量%とのブレンドゴムを投入して素練りし、次いで、このゴム成分100質量部に対して、加硫促進助剤の酸化亜鉛10質量部、老化防止剤2.5質量部、補強材のカーボンブラック20質量部、補強材のシリカ10質量部、可塑剤8質量部、共架橋剤のN,N’−m−フェニレンビスマレイミド(バルノックPM 大内新興化学工業社製)5質量部、共架橋剤のトリメチロールプロパントリメタクリレート(ハイクロスM 精工化学社製)3質量部、架橋剤の硫黄0.5質量部、及び架橋剤の有機過酸化物(パーブチルP 日油社製)2質量部を投入配合して混練して未架橋ゴム組成物を作製した。そして、この未架橋後ゴム組成物をメチルエチルケトンに溶解させることにより、補強布接着層を形成するための第2ゴム糊を調製した。
ナイロン6,6繊維(レオナ6,6)の織布(経糸:44dtexの片撚り糸、緯糸:44dtex/2の諸撚り糸)に、RFL水溶液に浸漬して加熱するRFL処理を施した後、歯付ベルト本体11側とは反対側の表面に、第1ゴム糊をコーティングして乾燥させるコーティング処理を施して補強布を形成した。また、この補強布の歯付ベルト本体11側の表面に、第2ゴム糊をコーティングして乾燥させるコーティング処理を施した。
以上のようにして準備した心線及び補強布を用い、上記実施形態と同様の構成の歯ピッチが4.5mmの歯付ベルトを作製し、それを実施例1とした。
なお、歯付ベルト本体は、H−NBR(Zetpol2001 日本ゼオン社製、結合アクリロニトリル量:40質量%、ヨウ素価:8mg/100mg、ムーニー粘度:95ML1+4(100℃))をゴム成分とするゴム組成物で形成した。
<実施例2>
心線の10cm当たりの上撚り回数を24回としたことを除いて実施例1と同一構成の歯付ベルトを作製し、それを実施例2とした。
<比較例1>
第1ゴム糊によるコーティング処理を行わず、したがって、表面被覆ゴム層を設けていないことを除いて実施例1と同一構成の歯付ベルトを作製し、それを比較例1とした。
<比較例2>
第1ゴム糊によるコーティング処理を行わず、したがって、表面被覆ゴム層を設けていないことを除いて実施例2と同一構成の歯付ベルトを作製し、それを比較例2とした。
<比較例3>
心線に、高強度ガラス繊維に代えて、標準ガラス繊維(Eガラス SiO2組成分率:53質量%、フィラメント径:9μm)を用いたことを除いて実施例1と同一構成の歯付ベルトを作製し、それを比較例3とした。
<比較例4>
心線に、バインダー処理液に代えて、RFL水溶液により処理したものを用いたことを除いて比較例3と同一構成の歯付ベルトを作製し、それを比較例4とした。
(試験方法)
図5は、ベルト走行試験機30を示す。
このベルト走行試験機30は、歯数が30個でプーリピッチ径が42.97mmの歯付プーリである大プーリ31と、その下方に設けられた歯数が15個でプーリピッチ径が21.49mmの歯付プーリである小プーリ32とを備え、小プーリ32がオイルパン33内に配置されている。
実施例1〜2及び比較例1〜4のそれぞれの歯付ベルトBについて、大プーリ31及び小プーリ32間に巻き掛け、歯付ベルトBに触れない程度にオイルパン33にオイルOを貯留した。オイルOを140℃に調温するとともに、撹拌して小プーリ32の周辺をオイル雰囲気とし、大プーリ31を6000rpmの回転数で回転させて歯付ベルトBを一定時間だけ走行させるベルト走行試験を行った。
未走行の歯付ベルトBのベルト強度を測定し、それをベルト幅当たりの心線数で除して心線1本当たりのベルト強度を算出するとともに、同様に、所定時間のベルト走行試験後の歯付ベルトBについても、心線1本当たりのベルト強度を算出した。ベルト走行試験時間は、最長をA時間として、0.1A時間、0.3A時間、及び0.5A時間の4水準とした。そして、実施例1の未走行での心線1本当たりのベルト強度を100として、実施例1のベルト走行後の心線1本当たりのベルト強度、並びに実施例2及び比較例1〜4のベルト走行前後の心線1本当たりのベルト強度を、それに対する相対値として算出し、その経時的な推移を確認した。
(試験結果)
試験結果は、表1に示す。また、図6は、ベルト走行時間と心線1本当たりのベルト強度との関係の推移を示す。
これらの結果から、実施例1と比較例1とを比較すると、表面被覆ゴム層を設けた実施例1は、それを設けていない比較例1よりも、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下が抑制されることが分かる。実施例2と比較例2とを比較しても、同様のことが言える。なお、実施例2及び比較例2は、実施例1及び比較例1よりも初期ベルト強度が1.5倍高いが、A時間のベルト走行後には、それぞれ実施例1及び比較例1とほぼ同程度のベルト強度となっていることが分かる。
実施例1と比較例3及び4とを比較すると、高強度ガラス繊維を用いた実施例1は、標準ガラス繊維を用いた比較例3及び4よりも、ベルト走行前後における絶対的なベルト強度が高く維持されることが分かる。
なお、比較例3と比較例4とを比較すると、実施例1と同じバインダー処理液で処理した心線を用いた比較例3は、RFL水溶液で処理した心線を用いた比較例4よりも、オイルが付着する環境下での使用によるベルト強度の低下が抑制されることが分かる。