以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態ではまず、リチウムイオン二次電池の一構成例について説明する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、電解液とを有することができる。
正極は、リチウム正極活物質と、導電材と、結着材とを含むことができる。
そして、リチウム正極活物質としては、Niと、Coと、Mnと、Mとを含有し、含有する物質量比をNi:Co:Mn:M=x:y:z:t、x+y+z+t=1とした場合に、0.05≦x≦0.4、0.05≦y≦0.4、0.55≦z≦0.8、0≦t≦0.1を満たし、MがMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種類以上である材料を用いることができる。さらに、リチウムイオン正極活物質は、平均粒径が5μm以上8μm以下、かつタップ密度が2.0g/cc以上とすることができる。
また、正極は、リチウム正極活物質を80質量%以上90質量%以下、導電材を5質量%以上10質量%以下、結着材を5質量%以上10質量%以下の割合で含有することができる。
負極はカーボン負極とすることができる。
そして、電解液は、該電解液に含まれる電解質がヘキサフルオロリン酸リチウムとすることができる。
さらに、正極と、負極との容量比を0.7以上1.1以下とすることができる。
各部材について、以下に説明する。
(正極)
正極(正極膜)は、リチウム正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)と、導電材と、結着材とを含むことができる。
正極に含まれる材料について説明する。
ここでまず、正極活物質は、タップ密度が2.0g/cc以上の高密度の、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンを含有することが好ましい。具体的には、Li2MnO3−LiMO2で表される正極活物質が挙げられる。
また、正極活物質の平均粒径は5μm以上8μm以下であることが好ましい。
これは、平均粒径が5μmより小さいとタップ密度を2.0g/cc以上とすることが困難であり、体積エネルギー密度を向上させることができない恐れがあるからである。
また、平均粒径が8μmより大きいと、導電材や結着材との混合性が悪いため電池内部の抵抗が高くなり電池特性が低下する恐れがあるからである。
また、正極活物質は既述のようにタップ密度が2.0g/cc以上であることが好ましい。これは、タップ密度を2.0g/cc以上とすることで、電池にした場合に十分なエネルギー密度が得られるからである。
正極活物質としては、Li2MnO3−LiMO2で表される、緻密な粒子を含む材料、特に緻密な粒子から構成された材料、すなわち粒子内が緻密化された材料を用いることが好ましい。このように緻密な粒子を含む材料を用いることで、タップ密度を2.0g/cc以上とすることができる。
なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池において好適に用いることができる正極活物質の製造方法の構成例については後述する。
導電材としては特に限定されるものではないが、例えばアセチレンブラックなどのカーボンを主成分とする材料を好適に用いることができる。アセチレンブラック以外にも、例えば、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料を単体、もしくは複合して用いることができる。
また、結着材についても特に限定されるものではないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)で溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を好適に用いることができる。
正極の材料は、例えばまず、導電材と正極活物質とを乾式混合して、混合粉末を調製し、該混合粉末と、結着材と、を湿式で混合することで調製することができる。
これは、正極活物質に導電材と結着材とを同時に添加し、混合すると気泡が生じ、均一な正極を作製することが困難になる場合があるためである。
正極中の、正極活物質と、導電材と、結着材との混合比は、特に限定されるものではない。ただし、例えば、正極中、すなわち正極の材料中、正極活物質を80質量%以上90質量%以下、導電材を5質量%以上10質量%以下、結着材を5質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
これは、正極中の導電材の含有割合を10質量%以下とすることで、正極活物質の割合を十分に確保することができ、特に高い充放電容量を得ることが可能になるからである。ただし、導電材の含有割合が低すぎると、正極について十分な電流を流すことができなくなる恐れがあるため、正極中の導電材の含有割合は5質量%以上とすることが好ましい。
また、正極中の結着材の含有割合を10質量%以下とすることで、正極の抵抗値が上昇することを抑制し、高い電池特性を得ることが可能になる。また、正極中の結着材の含有割合を5質量%以上とすることで、正極の集電体への密着性を高め、サイクル試験後においても、十分な電池特性を発揮することが可能になる。
上述のように、正極活物質と導電材とを乾式混合して得られる混合粉末に、結着材を加え、湿式で混合して得られる、正極の材料のスラリーを金属箔、例えばAl箔(アルミニウム箔)に塗布して、所定の形状に打ち抜くことで正極を得られる。
(負極)
リチウムイオン二次電池において、負極に用いられる材料としては、カーボンや金属リチウムが挙げられる。しかし、金属リチウムを負極材料として用いた場合、リチウムデンドライトの析出による安全性やサイクル劣化の問題が知られている。
このため、本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極としてカーボン負極を用いることが好ましい。
しかし、高容量の正極材とカーボン負極とを組み合わせた場合、充電時にカーボンの細孔内に取り込まれるリチウムが多いため、初期の不可逆容量が高くなり、効率が低下する恐れがある。
そこで、本発明の発明者らが検討を行ったところ、正極と、負極との容量比(正極の容量/負極の容量)を0.7以上1.1以下とすることで、不可逆容量が低く、効率の低下を抑制することが可能となることを見出した。
正極と負極との容量比が0.7未満の場合、この場合、正極の容量が負極の容量よりも少ない場合になるが、負極に取り込まれるリチウムが多いため初期の不可逆容量が高く、効率が低下する。また、正極材の構造を安定的に保てなくなるためサイクル試験での放電容量が低下する。
一方、正極と負極との容量比が1.1より大きい場合、この場合、正極の容量が負極の容量よりも多い場合に当たるが、負極に付着するリチウム量が増加しリチウムデンドライトの析出による安全性やサイクル劣化の問題を生じる恐れがある。
このため、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極との容量比を0.7以上1.1以下とすることが好ましい。
(電解液)
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、含有する電解質がヘキサフルオロリン酸リチウムである電解液を好適に用いることができる。
リチウムイオン二次電池が高電位を発生するためには、強い酸化雰囲気に耐えられる必要がある。そして、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)は、強い酸化雰囲気で分解しない特徴を有することから、高電位を発生できる本実施形態のリチウムイオン二次電池の電解質として好適に用いることができる。
なお、LiPF6は空気中の湿気や電池内部に僅かな水分が混入しただけで分解し、リチウムなどの成分が電池部材に付着し短絡するため、取扱いに注意する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上記部材だけではなく、必要に応じて各種部材をさらに有することができる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、セパレーターをさらに有することができる。
セパレーターは、正極と負極間の絶縁、さらには電解液を保持するなどの機能を有するものであり、材料は特に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、あるいはそれら積層品等の多孔膜など、セパレーターとして機能できる材料であれば、特に限定されることなく使用することができる。一般的なリチウムイオン二次電池で使用されているセパレーターであれば、特に限定されることなく用いることができる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法の一構成例について説明する。
ここでは、2032型のコイン型セル電池とする場合を例に説明する。
図1を用いて、コイン型電池の構成例について説明する。図1はコイン型電池の断面構成図を模式的に示している。
図1に示す様に、このコイン型電池10は、ケース11と、このケース11内に収容された電極12とから構成されている。
ケース11は、中空かつ一端が開口された正極缶111と、この正極缶111の開口部に配置される負極缶112とを有しており、負極缶112を正極缶111の開口部に配置すると、負極缶112と正極缶111との間に電極12を収容する空間が形成されるように構成されている。
電極12は、正極121、セパレーター122および負極123からなり、この順で並ぶように積層されており、正極121が正極缶111の内面に接触し、負極123が負極缶112の内面に接触するようにケース11に収容されている。
なお、ケース11は、ガスケット113を備えており、このガスケット113によって、正極缶111と負極缶112との間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット113は、正極缶111と負極缶112との隙間を密封して、ケース11内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
具体的な製造手順を説明する。
まず、正極と負極とを容量比で0.7以上1.1以上となるように打抜く。正極、負極として好適に用いることができる材料については既述のため、ここでは説明を省略する。
次いで、正極と負極との間にセパレーターを挟み、電極体とし、該電極体を電解液に浸漬する。この際、電解液量は150μl以上とすることが好ましい。これは、電解液量が少ないと正極やセパレーターに電解液が浸透せず、電池内部の抵抗が高くなり電池容量が低下する場合があるからである。
電解液として好適に用いることができる材料については既述のため、ここでは説明を省略する。
そして、該電極体をケース内に収容することで、コイン型電池を得ることができる。
なお、本実施形態の電池の組み立ては、露点−60℃未満のグローブボックスの中で行うことが好ましい。
コイン型電池作製後は、12時間以上待機することが好ましい。これは待機時間が短いと正極やセパレーターに電解液が浸透せず、電池内部の抵抗が高くなり電池容量が低下するからである。
本実施形態のリチウムイオン二次電池の特性は特に限定されないが、例えば初期の不可逆容量が50mAh/g以下であることが好ましい。また、100回充放電を繰り返した後の放電容量維持率が90%以上であることが好ましい。
[正極活物質の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池に好適に用いることができる正極活物質の製造方法の一構成例について以下に説明する。
本実施形態の正極活物質の製造方法は、特に限定されないが、以下の方法を採用すれば、所定の正極活物質をより確実に製造できるので、好ましい。
(前駆体の製造方法)
ここではまず正極活物質の前駆体(以下、単に「前駆体」とも記載する)の製造方法の一構成例について説明する。
本実施形態の前駆体の製造方法は、晶析反応によって前駆体を得ることができ、必要に応じて得られた前駆体を洗浄及び乾燥することができる。
具体的には、本実施形態の前駆体の製造方法は、一般式NixCoyMnzMtCO3(但し、式中において、x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.4、0.05≦y≦0.4、0.55≦z≦0.8、0≦t≦0.1を満たし、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種類以上の添加元素である。)で表されるニッケルコバルトマンガン炭酸塩複合物を含む正極活物質前駆体の製造方法に関する。
そして、本実施形態の前駆体の製造方法は以下の工程を有することができる。
炭酸イオンの存在下、アンモニウムイオン供給体を含有する初期水溶液と、金属成分としてニッケルを含有する水溶液と、金属成分としてコバルトを含有する水溶液と、金属成分としてマンガンを含有する水溶液とを混合した混合水溶液において、核を生成する核生成工程。
核生成工程で形成した核を成長させる核成長工程。
そして、上記核生成工程では、上記混合水溶液のpH値を、反応温度40℃基準において7.5以下に制御することができる。
以下、本実施形態の前駆体の製造方法の各工程について、具体的に説明する。
(1)核生成工程
まず、核生成工程について説明する。
核生成工程では、反応槽においてイオン交換水(水)とアンモニウムイオン供給体とを混合し、初期水溶液を調製できる。なお、初期水溶液には必要に応じて酸性の物質、例えば硫酸塩等を添加してpHを7.5以下に調整できる。
なお、アンモニウムイオン供給体としては、特に限定されるものではないが、炭酸アンモニウム水溶液、アンモニア水、塩化アンモニウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
また、この際、反応槽内に酸素が入らないよう不活性ガス、例えば窒素ガスを吹き込んでおくことが好ましい。すなわち、反応槽内は不活性ガス雰囲気であることが好ましく、例えば窒素ガス雰囲気とすることが好ましい。ただし、後述のように炭酸イオン源として、二酸化炭素ガスを用いる場合には、反応槽内の雰囲気中に不活性ガスに加えて、または不活性ガスに替えて二酸化炭素を供給しておくことができる。
不活性ガスおよび/または二酸化炭素ガスを含む雰囲気下で核生成工程、及び後述する核成長工程を実施することで、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子を含む既述の前駆体を得ることができる。
核生成工程では、反応槽内で初期水溶液に、金属成分としてニッケルを含有する水溶液と、金属成分としてコバルトを含有する水溶液と、金属成分としてマンガンを含有する水溶液とを添加、混合することで混合水溶液を形成することができる。
なお、初期水溶液に金属成分としてニッケルを含有する水溶液等を添加する際、得られる混合水溶液のpH値は、反応温度40℃基準において、7.5以下に制御されていることが好ましい。このため、ニッケルを含有する水溶液等は一度に添加するのではなく、初期水溶液に徐々に滴下することができる。
また、混合水溶液のpHを制御するため、金属成分としてニッケルを含有する水溶液等を滴下するのに合わせて、pH調整水溶液もあわせて滴下することができる。この際のpH調整水溶液としては、特に限定されないが、例えばアルカリ性物質および/またはアンモニウムイオン供給体を含有する水溶液を用いることができる。なお、アンモニウムイオン供給体としては特に限定されないが、初期水溶液において説明したものと同様の物質を用いることができる。また、アルカリ性物質についても特に限定されるものではないが、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選択された1種類以上であることが好ましい。
特に、pH調整水溶液が炭酸塩を含有する場合、別途炭酸イオンを供給しなくても炭酸イオンの存在下で、初期水溶液と、金属成分としてニッケルを含有する水溶液等とを混合できるため好ましい。pH調整水溶液を反応槽内に供給する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、得られた混合水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプ等の流量制御が可能なポンプで、混合水溶液のpH値が所定の範囲に保持されるように、添加すればよい。
そして、上述のように初期水溶液に、金属成分としてニッケルを含有する水溶液等を添加することで得られた、混合水溶液の中で前駆体の核となる粒子を生成できる。混合水溶液中に所定量の核が生成したか否かは、混合水溶液に含まれる金属塩の量によって判断することができる。
ここで、核生成工程で初期水溶液に添加する、金属成分としてニッケルを含有する水溶液と、金属成分としてコバルトを含有する水溶液と、金属成分としてマンガンを含有する水溶液とについて説明する。
金属成分としてニッケルを含有する水溶液と、金属成分としてコバルトを含有する水溶液と、金属成分としてマンガンを含有する水溶液とにおいては、各金属成分を含有する金属化合物を含有することができる。すなわち、例えば金属成分としてコバルトを含有する水溶液であれば、コバルトを含有する金属化合物を含むことができる。
そして、金属化合物としては、水溶性の金属化合物を用いることが好ましく、水溶性金属化合物としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩等が挙げられる。具体的には例えば、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン等を好適に用いることができる。
これらの、金属成分としてニッケルを含有する水溶液と、金属成分としてコバルトを含有する水溶液と、金属成分としてマンガンを含有する水溶液とは、予め、一部、または全部を混合し、金属成分含有混合水溶液として、初期水溶液に添加できる。
得られる前駆体中の各金属の組成比は、金属成分含有混合水溶液中の各金属の組成比と同様となる。このため、核生成工程で初期水溶液に添加する、金属成分含有混合水溶液中に含まれる、各金属の組成比は、生成する前駆体における各金属の組成比と等しくなるように、例えば溶解する金属化合物の割合を調整して金属成分含有混合水溶液を調製することが好ましい。
なお、複数の金属化合物を混合することで、特定の金属化合物同士が反応して不要な化合物が生成される場合等には、それぞれの金属成分を含有する水溶液を所定の割合で同時に初期水溶液に添加してもよい。
各金属成分を含有する水溶液を混合せず、個別に初期水溶液に添加する場合、添加する金属成分を含有する水溶液全体で、含まれる各金属の組成比が、生成する前駆体における各金属の組成比と等しくなるように、各金属成分を含有する水溶液を調製することが好ましい。
また、本実施形態の前駆体の製造方法により製造する前駆体は、既述のようにニッケル、コバルト、マンガン以外に、添加元素Mをさらに含有することもできる。
このため、核生成工程では必要に応じて、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種類以上の添加元素(以下、単に「添加元素」とも記載する)を含む水溶液(以下、単に「添加元素を含む水溶液」とも記載する)も初期水溶液に添加することができる。なお、金属成分としてニッケルを含有する水溶液等を混合して、金属成分含有混合水溶液としてから初期水溶液に添加する場合は、該金属成分含有混合水溶液に、添加元素を含む水溶液を添加、混合しておいても良い。
また、金属成分としてニッケルを含有する水溶液等を混合せずに個別に初期水溶液に添加する場合は、これに併せて、添加元素を含む水溶液を個別に初期水溶液に添加できる。
ここで、添加元素を含む水溶液は、例えば添加元素を含有する化合物を用いて調製できる。そして、添加元素を含有する化合物としては、例えば硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム等が挙げられ、添加する元素にあわせて化合物を選択することができる。
既述のように、添加元素は、前駆体が含有する二次粒子(以下、単に「前駆体粒子」とも記載する)の内部に均一に分布および/または二次粒子の表面を均一に被覆されていることが好ましい。
そして、混合水溶液に、上述した添加元素を含む水溶液を添加することで、添加元素を、前駆体粒子の二次粒子の内部に均一に分散させることができる。
また、前駆体粒子の二次粒子の表面を、添加元素で均一に被覆するためには、例えば後述する核成長工程終了後、添加元素で被覆する被覆工程を実施することができる。被覆工程については、核成長工程において後述する。
また、核生成工程では、炭酸イオンの存在下、初期水溶液に、金属成分としてニッケルを含有する水溶液等を添加、混合して、混合水溶液とし、該混合水溶液において、核を生成することができる。この際、炭酸イオンの供給方法は特に限定されるものではなく、例えば反応槽内に不活性ガスと共に二酸化炭素ガスを供給することで混合水溶液に炭酸イオンを供給することができる。また、初期水溶液や、pH調整水溶液を調製する際に炭酸塩を用いて、炭酸イオンを供給することもできる。
ここまで説明したように、核生成工程では、炭酸イオンの存在下、初期水溶液に、金属成分としてニッケルを含有する水溶液等を添加、混合して、混合水溶液とし、該混合水溶液において、核を生成できる。
この際、混合水溶液中の金属化合物の濃度は、1mol/L以上2.6mol/L以下であることが好ましく、1.5mol/L以上2.2mol/L以下であることがより好ましい。
これは、混合水溶液中の金属化合物の濃度が1mol/L未満では、反応槽当たりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下して好ましくないからである。一方、混合水溶液中の金属化合物の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超える恐れがあり、結晶が再析出して設備の配管を詰まらせる等する場合があるからである。
なお、金属化合物の濃度とは、混合水溶液に添加した、金属成分としてニッケルを含有する水溶液、金属成分としてコバルトを含有する水溶液、金属成分としてマンガンを含有する水溶液、及び場合によってはさらに添加した添加元素を含む水溶液、に由来する金属化合物の濃度を意味する。
混合水溶液中のpH値や、その他アンモニウムイオン濃度等については、それぞれ一般的なpH計、イオンメータによって測定することが可能である。
核生成工程において、混合水溶液の温度は、25℃以上に維持することが好ましく、30℃以上に維持することが好ましい。
なお、核生成工程における混合水溶液の温度の上限は特に限定されないが、例えば45℃以下とすることができる。
これは、核生成工程において、混合水溶液の温度が25℃未満の場合には、溶解度が低いため、核発生が起こりやすく制御が難しくなる場合があるからである。
一方、核生成工程において、混合水溶液の温度が45℃を超えると、一次結晶に歪が生じ、正極活物質とした場合に、タップ密度を十分に高くできない恐れがあるからである。
核生成工程では、共沈反応を終えた時点での晶析物の濃度が、概ね30g/L以上200g/L以下であることが好ましく、80g/L以上150g/L以下であることがより好ましい。晶析物の濃度が上記範囲になるように、金属成分含有混合水溶液等を初期水溶液に供給することが望ましい。
これは、晶析物の濃度が30g/L以上の場合には、前駆体粒子における一次粒子の凝集を十分に促進することができるからである。
ただし、晶析物の濃度が200g/Lを超える場合には、添加する金属成分含有混合水溶液の反応槽内での拡散が十分でなく、前駆体粒子の成長に偏りが生じることがあるからである。
核成長工程終了後、すなわち、金属成分含有混合水溶液等の、初期水溶液(混合水溶液)への添加が終了した後、混合水溶液への撹拌を継続し、生成した核の解砕を行っておくことが好ましい(核解砕工程)。
(2)核成長工程
次に、核成長工程について説明する。
核成長工程では、核生成工程で生成した核を成長させることができる。
具体的には例えば核成長工程では、まず核生成工程で得られた混合水溶液のpH値が例えば反応温度40℃基準において5.5以上8.0以下となるように調整することができる。この際、混合水溶液のpH値は、6.4以上7.4以下となるように調整することがより好ましい。この際のpHは、例えば後述するpH調整液を添加することで調整することができる。
そして、核成長工程は、核生成工程後の混合水溶液に、炭酸イオンの存在下、金属成分としてニッケルを含有する水溶液と、金属成分としてコバルトを含有する水溶液と、金属成分としてマンガンを含有する水溶液とを添加、混合する工程とすることができる。
なお、ここでの核生成工程後の混合水溶液とは、上述のように核生成工程後、pH値を調整した混合水溶液であることが好ましい。
金属成分としてニッケルを含有する水溶液と、金属成分としてコバルトを含有する水溶液と、金属成分としてマンガンを含有する水溶液とは、核生成工程の場合と同様に、一部、または全部を混合し、金属成分含有混合水溶液として、混合水溶液に添加してもよい。また、複数の金属化合物を混合することで、特定の金属化合物同士が反応して不要な化合物が生成される場合等には、それぞれの金属成分を含有する水溶液を個別に混合水溶液に添加してもよい。
金属成分としてニッケルを含有する水溶液と、金属成分としてコバルトを含有する水溶液と、金属成分としてマンガンを含有する水溶液とは、核生成工程の場合と同様の水溶液を用いることができる。また、別途、濃度等を調整しても構わない。
さらに、金属成分としてニッケルを含有する水溶液等を、混合水溶液に添加する際、核生成工程の場合と同様に、併せて添加元素を含む水溶液を添加することもできる。上述のように、金属成分含有混合水溶液に添加元素を含む水溶液を混合し、添加することもできる。また、各金属成分を含有する水溶液を個別に混合水溶液に添加する場合には、併せて添加元素を含む水溶液も個別に混合水溶液に添加することができる。
混合水溶液に金属成分としてニッケルを含有する水溶液等を添加する際、得られる混合水溶液のpH値は、後述の様に所定の範囲に制御されていることが好ましい。このため、ニッケルを含有する水溶液等は一度に添加するのではなく、混合水溶液に徐々に滴下することができる。従って、これらの金属成分を含有する水溶液、またはその金属成分含有混合水溶液等は、反応槽に一定流量となるように供給することができる。
上述のように金属成分を含有する水溶液、またはその金属成分含有混合水溶液を供給する場合、混合水溶液のpHが所定の範囲内に維持できるよう、併せてpH調整水溶液を添加することが好ましい。pH調整水溶液としては、核生成工程と同様のpH調整水溶液を用いることができる。なお、pH調整水溶液は、別途、濃度等を調整しても構わない。
また、核成長工程では、炭酸イオンの存在下、混合水溶液に、金属成分としてニッケルを含有する水溶液等を添加、混合することができる。この際、炭酸イオンの供給方法は特に限定されるものではなく、例えば反応槽内に二酸化炭素ガスを供給することで混合水溶液に炭酸イオンを供給することができる。また、例えば上述のpH調整水溶液等を調製する際に炭酸塩を用い、炭酸イオンを供給することもできる。なお、混合水溶液中に直接的に炭酸イオンを供給できることから、pH調整水溶液を調製する際等に炭酸塩を用い、炭酸イオンを供給することがより好ましい。
核成長工程では、混合水溶液のpH値が、反応温度40℃基準において、5.5以上8.0以下であることが好ましく、6.4以上7.4以下であることがより好ましい。このため、核成長工程の間、混合水溶液が上記範囲にあるように制御することが好ましい。
これは、核成長工程において、混合水溶液のpH値が8.0を超える場合には、不純物カチオンが残留しやすくなるため好ましくないからである。
また、核成長工程において、混合水溶液のpH値が5.5未満では、不純物アニオンが残留しやすくなるため、好ましくないからである。pH値の制御は初期水溶液の添加量によって制御できる。
以上のように、核成長工程では、上述の範囲に混合水溶液のpH値を制御することで、不純物残量の少ない前駆体を得ることができる。また、混合水溶液のpH値を上述の範囲として、変動幅を小さくすることで、前駆体粒子の成長を一定とし、粒度分布の範囲の狭い均一な前駆体粒子が得られるため、この点でも好ましい。
核成長工程においては、反応槽内に酸素が入らないよう不活性ガス、例えば窒素ガスを吹き込んでおくことが好ましい。すなわち、反応槽内は不活性ガス雰囲気であることが好ましく、例えば窒素ガス雰囲気とすることが好ましい。ただし、炭酸イオン源として、二酸化炭素ガスを用いる場合には、反応槽内の雰囲気中に不活性ガスに加えて、または不活性ガスに替えて二酸化炭素を供給しておくこともできる。
このように、反応槽内に不活性ガスを吹き込み、空気中の酸素による酸化を防止することにより純度の高い前駆体を得ることが可能となる。また、微細な結晶がさらに凝集していき大きな二次粒子を生成することができる。
核成長工程において、混合水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、0g/L以上20g/L以下であることが好ましく、特に一定値に保たれていることが好ましい。
これは、アンモニウムイオンの濃度を20g/L以下とすることで、均質に前駆体粒子の核を成長することができるからである。また、核成長工程において、アンモニウムイオン濃度が一定値に保持されていることで、金属イオンの溶解度を安定化することができ、均一な前駆体粒子の核成長を促進できるからである。
なお、アンモニウムイオン濃度の下限値は、必要に応じて適宜調整することができ、特に限定されない。従って、混合水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、例えば初期水溶液として、アンモニウムイオン供給体を用い、その供給量を調整することにより、0g/L以上20g/L以下となるように調節することが好ましい。
前駆体粒子の粒径は、金属成分含有溶液や、核成長工程の反応の時間により制御することができる。
すなわち、核成長工程では、所望の粒径に成長するまで反応を継続すれば、所望の粒径を有する前駆体の粒子を得ることができる。
既述のように、本実施形態の前駆体の製造方法は、核成長工程で得られた前駆体粒子を添加元素で被覆する、被覆工程をさらに有することもできる。
被覆工程は、例えば以下のいずれかの工程とすることができる。
例えば、まず前駆体粒子が懸濁したスラリーに、添加元素を含む水溶液を添加して、晶析反応により、前駆体粒子の表面に添加元素を析出させる工程とすることができる。
なお、前駆体粒子が懸濁したスラリーは、添加元素を含む水溶液を用いて、前駆体粒子をスラリー化することが好ましい。また、前駆体粒子が懸濁したスラリーに、添加元素を含む水溶液を添加する際、該スラリーと添加元素を含む水溶液との混合水溶液のpHは、5.5以上8.0以下となるように制御することが好ましい。
また、被覆工程は、前駆体粒子に対して、添加元素を含む水溶液、またはスラリーを吹き付けて乾燥させる工程とすることもできる。
被覆工程は、その他に、前駆体粒子と、添加元素を含む化合物とが懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる工程とすることもできる。
また、前駆体粒子と、添加元素を含む化合物とを固相法で混合する工程とすることもできる。
なお、ここで説明した添加元素を含む水溶液については、核生成工程で説明したものと同様の水溶液を用いることができる。また、被覆工程では、添加元素を含む水溶液に替えて、添加元素を含むアルコキシド溶液を用いてもよい。
既述のように、核生成工程で混合水溶液に添加元素を含む水溶液を添加し、かつ核成長工程で、前駆体粒子の表面を添加元素で被覆する場合、核生成工程で混合水溶液中に添加する添加元素イオンの量を、被覆する量だけ少なくしておくことが好ましい。これは、混合水溶液に添加する添加元素を含む水溶液の添加量を被覆する量だけ少なくしておくことで、得られる前駆体に含まれる添加元素と、他の金属成分との原子比を所望の値とすることができるからである。
前駆体粒子の表面を、上述のように、添加元素で被覆する被覆工程は、核成長工程終了後、加熱した後の前駆体粒子に対して行ってもよい。
本実施形態の前駆体の製造方法では、核成長工程における反応が完了するまで生成物である前駆体を回収しない方式の装置を用いることが好ましい。そのような装置としては、例えば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽等が挙げられる。係る装置を採用することで、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題が生じないため、粒度分布が狭く、粒径の揃った粒子を得ることができ、好ましい。
また、反応槽の雰囲気を制御するため、密閉式の装置等の雰囲気を制御することが可能な装置を用いることが好ましい。
反応槽の雰囲気制御が可能な装置を用いることで、前駆体粒子を、上述した通りの構造のものとすることができると共に、共沈反応をほぼ均一に進めることができるので、粒度分布の優れた粒子、即ち、粒度分布の範囲の狭い粒子を得ることができる。
核成長工程では、核生成工程で得られた混合水溶液のpH値が所定の範囲となるように調整し、さらに不活性ガスを反応槽内に吹き込む等することにより、均一な前駆体粒子を得ることができる。
以上の核成長工程を実施することで、前駆体粒子を含むスラリーである、前駆体粒子水溶液が得られる。そして、核成長工程を終えた後、洗浄工程、乾燥工程を実施することができる。
(3)洗浄工程
洗浄工程では、上述した核成長工程で得られた前駆体の粒子を含むスラリーを洗浄することができる。
洗浄工程では、まず、前駆体の粒子を含むスラリーを濾過した後、水洗し、再度濾過することができる。
濾過は、通常用いられる方法で行えばよく、例えば、遠心機、吸引濾過機が用いられる。
また、水洗は、通常行われる方法で行えばよく、前駆体に含まれる余剰の原料等を除去できればよい。
水洗で用いる水は、不純物の混入を防止するため、可能な限り不純物の含有量が少ない水を用いることが好ましく、純水を用いることがより好ましい。
(4)乾燥工程
乾燥工程では、洗浄工程で洗浄した前駆体の粒子を乾燥することができる。
まず、乾燥工程では、例えば、乾燥温度を100℃以上230℃以下として、洗浄済みの前駆体の粒子を乾燥することができる。
乾燥工程後、前駆体を得ることができる。
以上に説明した、本実施形態の前駆体の製造方法によれば、緻密な粒子を含有する正極活物質を形成できる前駆体を得ることができる。
また、本実施形態の前駆体の製造方法によれば、主として核生成反応が生じる時間(核生成工程)と、主として核成長反応が生じる時間(核成長工程)とを明確に分離することにより、両工程を同じ反応槽内で行ったとしても、狭い粒度分布をもつ前駆体が得られる。
加えて、本実施形態の前駆体の製造方法では、晶析反応時により得られる前駆体の結晶サイズを制御することができる。
従って、本実施形態の前駆体の製造方法によれば、一次粒子が小粒径であって、二次粒子の粒径均一性が高く、且つ高密度(タップ密度)の前駆体を得ることができる。
また、本実施形態の前駆体の製造方法では、主に混合水溶液のpHの調整をするだけで、1つの反応槽内において核生成工程と核成長工程を分離して行うことができる。従って、本実施形態の前駆体の製造方法は、容易でかつ大規模生産に適したものであることから、その工業的価値はきわめて大きいといえる。
次に、ここまで説明した前駆体の製造方法により得られた前駆体を用いた、本実施形態の正極活物質の製造方法の一構成例について説明する。
既述の前駆体の製造方法により得られた前駆体を、80℃以上600℃以下の温度で熱処理する熱処理工程。
熱処理工程により得られた粒子に対してリチウム化合物を添加、混合してリチウム混合物を形成する混合工程。
リチウム混合物を、酸化性雰囲気中、600℃以上1000℃以下の温度で焼成する焼成工程。
以下、各工程について説明する。
(1)熱処理工程
熱処理工程では、既述の前駆体を80℃以上600℃以下の温度で熱処理することができる。熱処理を行うことで、前駆体に含有されている水分を除去し、最終的に得られる正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。
なお、正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、全ての前駆体をニッケルコバルトマンガン複合酸化物に転換する必要はない。しかしながら、上記ばらつきをより少なくするためには、加熱温度を500℃以上として前駆体を複合酸化物粒子に全て転換することが好ましい。
熱処理工程において、熱処理温度を80℃以上としているのは、熱処理温度が80℃未満の場合、前駆体中の余剰水分が除去できず、上記ばらつきを抑制することができない恐れがある。
一方、熱処理温度を600℃以下としているのは、熱処理温度が600℃を超えると、焙焼により粒子が焼結して均一な粒径の複合酸化物粒子が得られない恐れがあるからである。熱処理条件に対応した前駆体中に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、リチウム化合物との比を決めておくことで、上記ばらつきを抑制することができる。
熱処理雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
また、熱処理時間は、特に制限されないが、1時間未満では前駆体の余剰水分の除去が十分に行われない場合があるので、少なくとも1時間以上が好ましく、5時間以上15時間以下がより好ましい。
そして、熱処理に用いられる設備は、特に限定されるものではなく、前駆体を非還元性雰囲気中、好ましくは空気気流中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
(2)混合工程
混合工程は、上記熱処理工程において加熱されて得られた熱処理済み粒子に、リチウム化合物を添加、混合して、リチウム混合物を形成する工程である。
なお、熱処理工程において熱処理して得られた熱処理済み粒子は、ニッケルコバルトマンガン炭酸塩複合物粒子および/またはニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子を含んでいる。
熱処理済み粒子とリチウム化合物とは、リチウム混合物中のリチウム以外の金属の原子数、すなわち、ニッケル、コバルト、マンガンおよび添加元素の原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、1.1以上1.6以下となるように混合することが好ましい。この際、Li/Meが1.25以上1.55以下となるように混合することがより好ましい。
すなわち、焼成工程前後でLi/Meは変化しないので、この混合工程で混合するLi/Meが正極活物質におけるLi/Meとなるため、リチウム混合物におけるLi/Meが、得ようとする正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合される。
リチウム混合物を形成するために使用されるリチウム化合物は、特に限定されるものではないが、入手が容易であるため、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムから選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、リチウム混合物を形成する際に用いるリチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウムから選択された1種類以上を用いることがより好ましい。
混合には、一般的な混合機を使用することができ、たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いればよい。
(3)焼成工程
焼成工程は、上記混合工程で得られたリチウム混合物を焼成して、正極活物質とする工程である。焼成工程において混合粉を焼成すると、熱処理済み粒子に、リチウム化合物中のリチウムが拡散するので、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が形成される。
この際のリチウム混合物の焼成温度は特に限定されないが、例えば600℃以上1000℃以下であることが好ましく、800℃以上900℃以下であることがより好ましい。
これは、焼成温度が600℃以上とすることで、熱処理済み粒子中へのリチウムの拡散を十分に促進し、余剰のリチウムや未反応の粒子の残留を抑制し、電池に用いられた場合に十分な電池特性が得られるからである。
ただし、焼成温度が1000℃を超えると、複合酸化物粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じる可能性があり、このような正極活物質は、比表面積が低下するため、電池に用いた場合、正極の抵抗が上昇して電池容量が低下するという問題が生じる恐れがある。
なお、熱処理粒子とリチウム化合物との反応を均一に行わせる観点から、昇温速度を3℃/min以上10℃/min以下として上記温度まで昇温することが好ましい。
さらには、リチウム化合物の融点付近の温度にて1時間以上5時間以下程度保持することで、より反応を均一に行わせることができる。リチウム化合物の融点付近で温度を保持した場合は、その後、所定の焼成温度まで昇温することができる。
焼成時間のうち、焼成温度での保持時間は、2時間以上とすることが好ましく、4時間以上24時間以下であることがより好ましい。
これは2時間以上焼成温度で保持することで、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の生成を十分に促進できるからである。
焼成温度での保持時間終了後、特に限定されるものではないが、リチウム混合物を匣鉢に積載して焼成する場合には匣鉢の劣化を抑止するため、降下速度を2℃/min以上10℃/min以下として、200℃以下になるまで雰囲気を冷却することが好ましい。
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容積%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましく、該酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素含有ガス中で行うことが好ましい。
これは、酸素濃度を18容量%以上とすることで、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の結晶性を十分に高めることができるからである。
特に電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことが好ましい。
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、大気ないしは酸素含有ガス中でリチウム混合物を加熱できるものであればよいが、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましい。また、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
なお、リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用した場合には、混合工程終了後、焼成工程を実施する前に、仮焼することが好ましい。仮焼温度は、焼成温度より低く、かつ、350℃以上800℃以下であることが好ましく、450℃以上780℃以下であることがより好ましい。
仮焼時間は、1時間以上10時間以下程度であることが好ましく、3時間以上6時間以下であることがより好ましい。
また、仮焼は、仮焼温度で保持して仮焼することが好ましい。すなわち、水酸化リチウムや炭酸リチウムと、熱処理済み粒子との反応温度において仮焼することが好ましい。
仮焼を行った場合、熱処理済み粒子へのリチウムの拡散が十分に行われ、均一なリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることができ、好ましい。
焼成工程によって得られたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の粒子は、凝集もしくは軽度の焼結が生じている場合がある。
この場合には、解砕してもよい。これにより、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む本実施形態の正極活物質を得ることができる。
なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
以上に説明した本実施形態の正極活物質の製造方法により、既述の本実施形態のリチウムイオン二次電池に好適に用いることができる正極活物質を得ることができる。ただし、係る製造方法に限定されるものではなく、所定の物性を満たす正極活物質であれば本実施形態のリチウムイオン二次電池の正極活物質として好適に用いることができる。
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
以下の手順で、リチウムイオン二次電池を作製し、その評価を行った。
(負極)
負極として目付量10mg/cm2の人造黒鉛をCu箔に塗布し120℃で16時間乾燥した後に12mmφに打抜いた物を用意した。
(正極)
相対湿度5%の環境下で正極活物質として平均粒径5μm、タップ密度2.0g/ccのLi1.5Ni0.16Co0.16Mn0.68O2で表されるLi2MnO3−LiMO2複合酸化物である正極活物質の粉末20gと、導電材としてカーボンブラック(電気化学工業製 型式:HS-100)2.4gと、をノンバブリングニーダー(日本精機製 型式:NBK-1)で乾式混合した。なお、乾式混合の際に3mmφのZrボール90gをメディアとして用いた。
得られた混合粉末と、結着材としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)で希釈したポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂(クレハ製:KF7208)14.7gとをミキサー(シンキー製 型式:ARE-310)で湿式混合した。
得られた正極の材料中の各材料の割合は、正極活物質85質量%、導電材10質量%、結着材5質量%となっている。得られた正極の材料のペーストはAl箔に7mg/cm2になるように塗布し120℃で16時間乾燥した後、9mmφに打抜き正極として用いた。このときの正極に対する負極の容量比は0.8となる。
(セパレーター)
セパレーターは、ガラス濾紙(アドバンテック:GF-75)を用いた。
(電解液)
電解液は、LiPF6を1モル/L含有するエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(容積比でEC/DEC=3/7)を150μl用いた。
以上の材料、部材を用いて露点−60℃未満のグローブボックス中で図1に示す2032型コイン電池を作製し、作製後は12時間待機してから電池容量を測定した。
充放電測定条件は0.05mAで4.8Vまで定電流充電を行い、0.05mAで2.5Vまで定電流放電を行って、以下の式1に示すように、充電容量から放電容量を引いた値を不可逆容量(mAh/g)とした。
また、サイクル試験は、充電と放電を繰り返し100回行い、以下の式2に示すように、1回目の放電容量に対して2回目以降の放電容量の差を容量維持率とした。その結果を表1に示す。
不可逆容量(mAh/g)=充電容量(mAh/g)−放電容量(mAh/g)・・・(式1)
容量維持率(%)=2回目以降の放電容量/1回目の放電容量×100・・・(式2)
[実施例2]
正極の材料を調製する際、正極活物質として平均粒径が8μmの材料を用いた点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
[実施例3]
正極の材料を調製する際、正極の材料中の各材料の割合を、正極活物質80質量%、導電材10質量%、結着材10質量%とした点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
[実施例4]
正極の材料を調製する際、正極の材料中の各材料の割合を、正極活物質90質量%、導電材5質量%、結着材5質量%とした点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
[実施例5]
正極に対する負極の容量比を1.1にした点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
[比較例1]
正極の材料を調製する際、正極活物質として平均粒径が4μmの材料を用いた点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
[比較例2]
正極の材料を調製する際、正極活物質として平均粒径が9μmの材料を用いた点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
[比較例3]
正極の材料を調製する際、正極の材料中の各材料の割合を、正極活物質75質量%、導電材13質量%、結着材12質量%とした点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
[比較例4]
正極の材料を調製する際、正極の材料中の各材料の割合を、正極活物質95質量%、導電材3質量%、結着材2質量%とした点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
[比較例5]
正極に対する負極の容量比を0.6にした点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
[比較例6]
正極に対する負極の容量比を1.2にした点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
[比較例7]
電解質に過塩素酸リチウム(LiClO4)を用いた点以外は、実施例1と同様にして2032型コイン電池を作製するとともに評価した。その結果を表1に示す。
Li
2MnO
3−LiMO
2複合酸化物である正極活物質を正極材料に用い、該正極活物質について、平均粒径が5μm以上8μm以下、かつタップ密度が2.0g/cc以上であり、正極が所定の質量比で各成分を含有し、正極と、負極との容量比が0.
7以上1.
1以下である実施例1〜実施例5は、いずれも初期の不可逆容量が50mAh/g以下になることを確認できた。また、放電容量維持率も94%、または95%と高くなることが確認できた。
これに対して、比較例1〜比較例7おいては、不可逆容量が最も小さいものでも47mAh/gと実施例1〜実施例5と比較して大きくなることが確認できた。また、放電容量維持率についても最も高い物でも87%と実施例1〜実施例5と比較して小さくなることが確認できた。