以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、本発明に係る測定装置の代表例として、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy:以下「SPFS」と略記する)を利用した測定装置(SPFS装置)について説明する。
[SPFS装置および測定チップの構成]
図1は、本実施の形態に係るSPFS装置100の構成を示す模式図である。図1に示されるように、SPFS装置100は、励起光照射部110、光検出部(蛍光検出部)120、送液部130、搬送部140および制御処理部150を有する。SPFS装置100は、搬送部140のチップホルダー(ホルダー)142に測定チップを装着した状態で使用される。そこで、先に測定チップについて説明し、その後にSPFS装置100について説明する。
(測定チップ)
測定チップ10は、入射面21、成膜面22および出射面23を有するプリズム20と、成膜面22上に配置された金属膜30と、金属膜30上に配置された流路蓋40とを有する。測定チップ10は、好ましくは各片の長さが数mm〜数cmの構造物であるが、「チップ」の範疇に含まれないようなより小型の構造物、またはより大型の構造物であってもよい。
プリズム20は、励起光αに対して透明な誘電体からなる。プリズム20は、入射面21、成膜面22および出射面23を有する。入射面21は、励起光照射部110からの励起光αをプリズム20の内部に入射させる。成膜面22上には、金属膜30が配置されている。プリズム20の内部に入射した励起光αは、金属膜30の裏面で反射されて反射光(不図示)となる。より具体的には、励起光αは、プリズム20と金属膜30との界面(成膜面22)で反射されて反射光となる。出射面23は、反射光をプリズム20の外部に出射させる。
プリズム20の形状は、特に限定されない。本実施の形態では、プリズム20の形状は、台形を底面とする柱体である。台形の一方の底辺に対応する面が成膜面22であり、一方の脚に対応する面が入射面21であり、他方の脚に対応する面が出射面23である。底面となる台形は、等脚台形であることが好ましい。これにより、入射面21と出射面23とが対称になり、励起光αのS波成分がプリズム20内に滞留しにくくなる。
入射面21は、励起光αが励起光照射部110に戻らないように形成される。励起光αの光源がレーザーダイオード(以下「LD」ともいう)である場合、励起光αがLDに戻ると、LDの励起状態が乱れてしまい、励起光αの波長や出力が変動してしまう。そこで、理想的な共鳴角または増強角を中心とする走査範囲において、励起光αが入射面21に垂直に入射しないように、入射面21の角度が設定される。
ここで「共鳴角」とは、金属膜30に対する励起光αの入射角を走査した場合に、出射面23から出射される反射光の光量が最小となるときの、入射角を意味する。また、「増強角」とは、金属膜30に対する励起光αの入射角を走査した場合に、測定チップ10の上方に放出される励起光αと同一波長の散乱光(以下「プラズモン散乱光」という)γの光量が最大となるときの、入射角を意味する。本実施の形態では、入射面21と成膜面22との角度および成膜面22と出射面23との角度は、いずれも約80°である。
なお、測定チップ10の設計により、共鳴角(およびその極近傍にある増強角)が概ね決まる。設計要素は、プリズム20の屈折率や、金属膜30の屈折率、金属膜30の膜厚、金属膜30の消衰係数、励起光αの波長などである。金属膜30上に捕捉された被測定物質によって共鳴角および増強角がシフトするが、その量は数度未満である。
プリズム20は、複屈折特性を少なからず有する。プリズム20の材料の例には、樹脂およびガラスが含まれる。プリズム20を構成する樹脂の例には、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、およびシクロオレフィン系ポリマーが含まれる。プリズム20の材料は、好ましくは、屈折率が1.4〜1.6であり、かつ複屈折が小さい樹脂である。
金属膜30は、プリズム20の成膜面22上に配置されている。これにより、成膜面22に全反射条件で入射した励起光αの光子と、金属膜30中の自由電子との間で表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:以下「SPR」と略記する)が生じ、金属膜30の表面上に局在場光(一般に「エバネッセント光」または「近接場光」とも呼ばれる)を生じさせることができる。本実施の形態では、金属膜30は、成膜面22の全面に形成されている。
金属膜30の材料は、表面プラズモン共鳴を生じさせうる金属であれば特に限定されない。金属膜30の材料の例には、金、銀、銅、アルミニウム、およびこれらの合金が含まれる。本実施の形態では、金属膜30は、金薄膜である。金属膜30の形成方法は、特に限定されない。金属膜30の形成方法の例には、スパッタリング、蒸着、メッキが含まれる。金属膜30の厚みは、特に限定されないが、30〜70nmの範囲内が好ましい。
流路蓋40は、金属膜30上に配置されている。金属膜30がプリズム20の成膜面22の一部にのみ形成されている場合、流路蓋40は、成膜面22上に配置されていてもよい。本実施の形態では、流路蓋40は、金属膜30の上に配置されている。金属膜30上に流路蓋40を配置することで液体を収容するための収容部(微小空間)が形成される。収容部の形状や大きさなどは、液体を収容することができれば特に限定されない。たとえば、収容部は、液体を収容するウェルであってもよいし、液体が連続して供給される流路であってもよい。本実施の形態では、収容部は、液体が流れる流路41である。流路蓋40の裏面には、流路溝が形成されており、金属膜30(およびプリズム20)上に流路蓋40が配置されることで、流路41が形成されている。流路41の底面には、金属膜30が配置されている。流路41の両端は、流路蓋40の上面に形成された不図示の注入口および排出口とそれぞれ接続されている。
流路蓋40は、金属膜30上から放出される光(蛍光βおよびプラズモン散乱光γ)に対して透明な材料からなることが好ましい。流路蓋40の材料の例には、ガラスおよび樹脂が含まれる。これらの光に対して透明であれば、流路蓋40の他の部分は、不透明な材料で形成されていてもよい。流路蓋40は、例えば、両面テープや接着剤などによる接着や、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着などにより金属膜30またはプリズム20に接合されている。
図1に示されるように、励起光αは、入射面21からプリズム20内に入射する。プリズム20内に入射した励起光αは、金属膜30に全反射角度(SPRが生じる角度)で入射する。このように金属膜30に対して励起光αをSPRが生じる角度で照射することで、金属膜30上に局在場光を発生させることができる。この局在場光により、金属膜30上に存在する被測定物質を標識する蛍光物質が励起され、蛍光βが放出される。SPFS装置100は、蛍光物質から放出された蛍光βの光量(強度)を検出することで、被測定物質の存在または量を測定することができる。
(SPFS装置)
次に、SPFS装置100の各構成要素について説明する。前述のとおり、SPFS装置100は、励起光照射部110、光検出部(蛍光検出部)120、送液部130、搬送部140および制御処理部150を有する。
励起光照射部110は、チップホルダー142に保持されている測定チップ10に、第1の光量または第2の光量で励起光αを照射する。詳細については後述するが、第2の光量は、第1の光量より多い。蛍光βの検出時には、励起光照射部110は、金属膜30でSPRが発生するように、金属膜30に対するP波のみを入射面21に向けて出射する。ここで「励起光」とは、蛍光物質を直接もしくは間接に励起させる光である。たとえば、励起光αは、プリズム20を介して金属膜30に表面プラズモン共鳴が生じる角度で照射されたときに、蛍光物質を励起させる局在場光を金属膜30の表面上に生じさせる光である。励起光照射部110は、光源ユニット111、角度調整機構112および光源制御部113を含む。
光源ユニット111は、コリメートされ、かつ波長および光量が一定の光を、金属膜30の裏面における照射スポットの形状が略円形となるように出射する。光源ユニット111は、例えば、光源、ビーム整形光学系、APC機構および温度調整機構(いずれも不図示)を含む。
光源の種類は、特に限定されず、例えばレーザーダイオード(LD)である。光源の他の例には、発光ダイオードや水銀灯などのレーザー光源が含まれる。光源から出射される励起光αがビームでない場合は、励起光αは、レンズや鏡、スリットなどによりビームに変換される。また、光源から出射される励起光αが単色光でない場合は、励起光αは、回折格子などにより単色光に変換される。さらに、光源から出射される励起光αが直線偏光でない場合は、励起光αは、偏光子などにより直線偏光の光に変換される。
ビーム整形光学系は、例えば、コリメーターやバンドパスフィルター、直線偏光フィルター、半波長板、スリット、ズーム手段などを含む。ビーム整形光学系は、これらのすべてを含んでいてもよいし、一部を含んでいてもよい。
コリメーターは、光源から出射された励起光αをコリメートする。
バンドパスフィルターは、光源から出射された励起光αを中心波長のみの狭帯域光にする。光源から出射された励起光αは、若干の波長分布幅を有しているためである。
直線偏光フィルターは、光源から出射された励起光αを完全な直線偏光の光にする。
半波長板は、金属膜30にP波成分が入射するように光の偏光方向を調整する。
スリットおよびズーム手段は、金属膜30の裏面における照射スポットの形状が所定サイズの円形となるように、光源から出射された励起光αのビーム径や輪郭形状などを調整する。
APC機構は、光源の出力が一定となるように光源を制御する。より具体的には、APC機構は、励起光αから分岐させた光の光量を不図示のフォトダイオードなどで検出する。そして、APC機構は、回帰回路で投入エネルギーを制御することで、光源の出力を一定に制御する。
温度調整機構は、例えば、ヒーターやペルチェ素子などである。光源から出射された励起光αの波長およびエネルギーは、温度によって変動することがある。このため、温度調整機構で光源の温度を一定に保つことにより、光源から出射された励起光αの波長およびエネルギーを一定に制御する。
角度調整機構112は、金属膜30(プリズム20と金属膜30との界面(成膜面22))に対する、光源から出射された励起光αの入射角を調整する。角度調整機構112は、プリズム20を介して金属膜30の所定の位置に向けて所定の入射角で光を照射するために、光源から出射された励起光αの光軸とチップホルダー142とを相対的に回転させる。
たとえば、角度調整機構112は、光源ユニット111を光源から出射された励起光αの光軸と直交する軸(図1の紙面に対して垂直な軸)を中心として回動させる。このとき、入射角を走査しても金属膜30上での照射スポットの位置がほとんど変化しないように、回転軸の位置を設定する。特に、回転中心の位置を、入射角の走査範囲の両端における2つの光源から出射された励起光αの光軸の交点近傍(成膜面22上の照射位置と入射面21との間)に設定することで、照射位置のズレを極小化することができる。
前述のとおり、金属膜30に対する光源から出射された励起光αの入射角のうち、プラズモン散乱光γの光量が最大となる角度が増強角である。光源から出射された励起光αの入射角を増強角またはその近傍の角度に設定することで、高強度の蛍光βおよびプラズモン散乱光γを検出することが可能となる。プリズム20の材料および形状、金属膜30の膜厚、流路41内の液体の屈折率などにより、光源から出射された励起光αの基本的な入射条件が決まるが、流路41内の捕捉体の種類および量、プリズム20の形状誤差などにより、最適な入射条件はわずかに変動する。このため、測定ごとに最適な増強角を求めることが好ましい。
光源制御部113は、光源ユニット111に含まれる各種機器を制御して、光源ユニット111からの励起光αの出射を制御する。光源制御部113は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
光検出部120は、励起光照射部110が金属膜30へ光を照射することにより測定チップ10から放出される光(蛍光βまたはプラズモン散乱光γ)を検出し、検出した光の光量を示す信号を出力する。光検出部120は、受光光学系ユニット121、位置切替え機構122および増幅部127を含む。
受光光学系ユニット121は、測定チップ10の金属膜30の法線方向に配置される。受光光学系ユニット121は、第1レンズ123、光学フィルター124、第2レンズ125および受光センサー126を含む。
第1レンズ123は、例えば、集光レンズであり、金属膜30上から出射される光を集光する。第2レンズ125は、例えば、結像レンズであり、第1レンズ123で集光された光を受光センサー126の受光面に結像させる。両レンズの間の光路は、略平行な光路になっている。
光学フィルター124は、第1レンズ123および第2レンズ125の間に配置されている。光学フィルター124は、蛍光検出時においては、光学フィルター124に入射する光のうち、蛍光成分のみを透過させ、励起光成分(プラズモン散乱光γ)を除去する。これにより、蛍光成分のみを受光センサー126に導き、高いS/N比で蛍光βを検出することができる。光学フィルター124の種類の例には、励起光反射フィルター、短波長カットフィルターおよびバンドパスフィルターが含まれる。光学フィルター124の例には、所定の光成分を反射する多層膜を含むフィルターと、所定の光成分を吸収する色ガラスフィルターとが含まれる。
受光センサー126は、蛍光βおよびプラズモン散乱光γを検出する。受光センサー126は、微量の被測定物質からの微弱な蛍光βを検出することが可能な、高い感度を有する。受光センサー126は、例えば、光電子増倍管(PMT)やアバランシェフォトダイオード(APD)、シリコンフォトダイオード(SiPD)などである。
位置切替え機構122は、光学フィルター124の位置を、受光光学系ユニット121における光路上または光路外に切り替える。具体的には、受光センサー126が蛍光βを検出する時には、光学フィルター124を受光光学系ユニット121の光路上に配置し、受光センサー126がプラズモン散乱光γを検出する時には、光学フィルター124を受光光学系ユニット121の光路外に配置する。
増幅部127は、受光センサー126が検出した光(蛍光βまたはプラズモン散乱光γ)の光量を示す信号(例えば、蛍光信号)を増幅する。増幅部127は、受光センサー126と制御処理部150(CPU)との間に配置されている。
図2は、本実施の形態に係る増幅部127の構成の一例を説明するための回路図である。図2に示されるように、増幅部127は、I/V変換回路1271、アンプ回路1272およびA/D変換回路1274を含む。
I/V変換回路1271は、受光センサー126からの信号(電流値)を電圧値に変換する。本実施の形態では、I/V変換回路1271は、カットオフ周波数fcが16Hzのローパスフィルタ(LPF)を含む。LPFは、必須の構成要素ではないが、信号に含まれるノイズを除去する観点からは、I/V変換回路1271は、LPFを含むことが好ましい。
アンプ回路1272は、電圧値に変換された信号を増幅させる。アンプ回路1272は、互いにゲイン(増幅率)の大きさが異なる複数のゲインアンプ、またはゲインの大きさを調整可能なゲインアンプを含む。本実施の形態では、アンプ回路1272は、互いにゲインの大きさが異なる複数のゲインアンプを含む。ゲインの大きさは特に限定されず、ゲインの大きさの例には、1倍、10倍、100倍、1000倍、0.1倍および0.01倍が含まれる。本実施の形態では、ゲインアンプの数は4つであり、ゲインが1倍のゲインアンプと、ゲインが10倍のゲインアンプと、ゲインが100倍のゲインアンプと、ゲインが1000倍のゲインアンプとが並列に配置されている(図2参照)。また、4つのゲインアンプは、スイッチ1273で切替え可能に構成されている。
本実施の形態では、アンプ回路1272は、カットオフ波長fcが16HzであるLPFを含み、ゲインが1倍、10倍または100倍のゲインアンプは、カットオフ波長fcが1.7kHzであるLPFを含み、ゲインが1000倍のゲインアンプは、カットオフ波長fcが170HzであるLPFを含む。LPFは、必須の構成要素ではないが、信号に含まれるノイズを除去する観点からは、アンプ回路1272は、LPFを有することが好ましい。
A/D変換回路1274は、アンプ回路1272で増幅された蛍光信号をアナログ値からデジタル値に変換して制御処理部150(CPU)に入力する。
前述のとおり、I/V変換回路1271およびアンプ回路1272には、LPFがそれぞれ含まれる。これにより、信号に含まれるノイズの振幅を減衰させて、信号中のノイズを除去することができる。本実施の形態では、受光センサー126の受光光量に因るものの、制御処理部150に出力される出力値のバラツキを約0.6%程度(1%以下)に抑えることができる。
送液部130は、チップホルダー142に保持された測定チップ10の流路41内に、検体や標識液、洗浄液などを供給する。送液部130は、液体チップ131、シリンジポンプ132および送液ポンプ駆動機構133を含む。
液体チップ131は、検体や標識液、洗浄液などの液体を収容する容器である。液体チップ131としては、通常、複数の容器が液体の種類に応じて配置されるか、または複数の容器が一体化したチップが配置される。
液体チップ131に収容される液体の例には、被測定物質を含む検体(例えば、血液や血清、血漿、尿、鼻孔液、唾液、精液など)や、蛍光物質で標識された捕捉体を含む標識液、洗浄液(緩衝液)などが含まれる。
シリンジポンプ132は、シリンジ134と、シリンジ134内を往復動作可能なプランジャー135とによって構成される。プランジャー135の往復運動によって、液体の吸引および吐出が定量的に行われる。シリンジ134が交換可能であると、シリンジ134の洗浄が不要となる。このため、不純物の混入などを防止する観点から好ましい。シリンジ134が交換可能に構成されていない場合は、シリンジ134内を洗浄する構成をさらに付加することにより、シリンジ134を交換せずに使用することが可能となる。
送液ポンプ駆動機構133は、プランジャー135の駆動装置、およびシリンジポンプ132の移動装置を含む。
シリンジポンプ132の駆動装置は、プランジャー135を往復運動させるための装置であり、例えば、ステッピングモーターを含む。ステッピングモーターを含む駆動装置は、シリンジポンプ132の送液量や送液速度を管理できるため、測定チップ10の残液量を管理する観点から好ましい。
シリンジポンプ132の移動装置は、例えば、シリンジポンプ132を、シリンジ134の軸方向(例えば垂直方向)と、軸方向を横断する方向(例えば水平方向)との二方向に自在に動かす。シリンジポンプ132の移動装置は、例えば、ロボットアーム、2軸ステージまたは上下動自在なターンテーブルによって構成される。
送液部130は、液体チップ131より各種液体を吸引し、測定チップ10の流路41内に供給する。このとき、プランジャー135を動かすことで、流路41内を液体が往復し、流路41内の液体が撹拌される。これにより、液体の濃度分布の均一化や、流路41内における反応(例えば、1次反応および2次反応)を促進することができる。このような操作を行う観点から、測定チップ10の注入口は多層フィルムで保護されており、かつシリンジ134がこの多層フィルムを貫通した時に注入口を密閉できるように、測定チップ10およびシリンジ134が構成されていることが好ましい。
流路41内の液体は、再びシリンジポンプ132で吸引され、液体チップ131などに排出される。これらの動作の繰り返しにより、各種液体による反応、洗浄などを実施し、流路41内に、蛍光物質で標識された被測定物質を配置することができる。
搬送部140は、測定チップ10を設置位置、測定位置または送液位置に搬送し、固定する。ここで「設置位置」とは、測定チップ10をSPFS装置100に設置するための位置である。また、「測定位置」とは、励起光照射部110が測定チップ10に光を照射したときに測定チップ10から放出される蛍光βまたはプラズモン散乱光γを光検出部120が検出する位置である。さらに、「送液位置」とは、送液部130が測定チップ10の流路41内に液体を供給するか、または測定チップ10の流路41内の液体を除去する位置である。
搬送部140は、搬送ステージ141およびチップホルダー142を含む。
チップホルダー142は、搬送ステージ141に固定されており、測定チップ10を着脱可能に保持する。チップホルダー142の形状は、測定チップ10を保持することができ、かつ励起光αや反射光、蛍光β、プラズモン散乱光γなどの光の光路を妨げない形状である。たとえば、チップホルダー142には、励起光αや反射光、蛍光β、プラズモン散乱光γなどの光が通過するための開口が設けられている。
搬送ステージ141は、チップホルダー142を一方向およびその逆方向に移動させる。搬送ステージ141も、励起光αや反射光、蛍光β、プラズモン散乱光γなどの光の光路を妨げない形状である。搬送ステージ141は、例えば、ステッピングモーターなどで駆動される。
制御処理部150は、特に図示しないが、後述のセンサー制御部を含む。制御処理部150は、角度調整機構112、光源制御部113、位置切替え機構122、センサー制御部、送液ポンプ駆動機構133、搬送ステージ141およびスイッチ1273を制御する。制御処理部150は、スイッチ1273を操作して、光検出部120から出力された信号を増幅するための増幅部127(ゲインアンプ)のゲインの大きさを設定する。制御処理部150は、光検出部120(受光センサー126)の検出結果を処理する処理部としても機能する。このとき、制御処理部150は、増幅部127が増幅することで得られる複数の増幅値を取得する。制御処理部150は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
センサー制御部は、前述の受光センサー126の出力値の検出や、検出した出力値による受光センサー126の感度の管理、適切な出力値を得るための受光センサー126の感度の変更、信号の安定化時間の変更(後述)、信号の平均化時間の変更(後述)などを制御する。センサー制御部は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
(信号の立ち上がり時間)
前述のとおり、本実施の形態に係るSPFS装置100では、増幅部127は、複数のLPFを有する。一般的に、信号の立ち上がりは、信号が回路内のLPFを通過するほど遅くなる。そこで、本実施の形態に係るSPFS装置100における信号の立ち上がり(安定化)について計算を行った。
図3は、LPFと信号の立ち上がり時間との関係を示すグラフである。図3において、実線は、図2のA点における信号の電圧−時間曲線であり、破線は、図2のB点における信号の電圧−時間曲線であり、一点鎖線は、図2のC点における信号の電圧−時間曲線である。A点は、I/V変換回路内のLPF(fc=16Hz)を通過した地点であり、B点は、さらにアンプ回路152内のLPF(fc=16Hz)を通過した地点であり、C点は、さらにアンプ回路152内のゲインアンプ部分(1倍のゲインアンプ)のLPF(fc=1.7kHz)を通過した地点である。なお、図3では、入力電圧が5Vのときの電圧−時間曲線を示している。
図3に示されるように、信号がA点、B点およびC点の順に通過するにつれて、信号の立ち上がりが遅くなることがわかる。しかしながら、最も立ち上がりの遅いC点であっても、約0.07秒で信号がほぼ立ち上がる(安定化する)ことがわかる。すなわち、本実施の形態に係るSPFS装置100では、0.07秒以上経過すれば信号を安定化できることがわかる。この結果から、誤差などを考慮しても、0.1秒あれば信号を十分に安定化できると考えられる。
(SPFS装置の動作手順)
次に、本実施の形態に係るSPFS装置100の動作手順(本発明の実施の形態に係る測定方法)について説明する。図4は、SPFS装置100の動作手順の一例を示すフローチャートである。図5は、図4に示される入射角を増強角に設定する工程(工程S120)内の工程を示すフローチャートである。図6は、図4に示される光学ブランク値の測定工程(工程S130)内の工程を示すフローチャートである。図7は、図4に示される蛍光値の測定工程(工程S160)内の工程を示すフローチャートである。
まず、測定の準備をする(工程S110)。具体的には、SPFS装置100の設置位置に配置されたチップホルダー142に、測定チップ10を設置する。また、測定チップ10の金属膜30上に保存試薬が存在する場合は、捕捉体が適切に被測定物質を捕捉できるように、金属膜30上を洗浄して保存試薬を除去する。
次いで、金属膜30(成膜面22)に対する励起光αの入射角を増強角に設定する(工程S120)。
図5に示されるように、この工程では、まず、測定チップ10に第1の光量で励起光αを照射するとともに、測定チップ10から放出されたプラズモン散乱光γを検出し、検出されたプラズモン散乱光γの光量を示す光信号を、ゲインアンプにより増幅して、増幅値を得る(第1プレ測定工程;工程S121)。ゲインの大きさは、プラズモン散乱光γの光量に応じて適宜設定される。本実施の形態では、ゲインの大きさは、10倍および1倍の2種類である。
具体的には、制御処理部150は、搬送ステージ141を制御して、測定チップ10を設置位置から測定位置に移動させる。この後、制御処理部150は、光源制御部113を制御して、光源ユニット111から第1の光量で励起光αを金属膜30(成膜面22)の所定の位置に所定の角度で照射する。このとき、制御処理部150は、位置切替え機構122を制御して、光学フィルター124を受光光学系ユニット121の光路外に移動させる。制御処理部150は、スイッチ1273を操作して、ゲインが10倍のゲインアンプに切替える。これとともに、制御処理部150は、センサー制御部を制御して、受光センサー126でプラズモン散乱光γを検出し、検出されたプラズモン散乱光γの光量を示す光信号を、ゲインアンプにより増幅して、増幅値を得る。第1プレ測定工程(工程S121)では、プラズモン散乱光γの検出は、励起光αの入射角度を、ある特定の1つの角度(例えば、65°)に固定して行われる。1つの入射角のみについて検出を行うことで、第1プレ測定工程(工程S121)の測定時間を短縮することができる。
次いで、制御処理部150は、スイッチ1273を操作して、ゲインが1倍のゲインアンプに切替え、上記操作と同様の操作を繰り返して、ゲインが1倍のときの増幅値を得る。
なお、第1プレ測定工程(工程S121)で光源ユニット111から照射される励起光αの第1の光量は、後述の第1本測定工程(工程S123)で、光源ユニット111から照射される励起光αの光量(第2の光量)よりも少ない。
次いで、後述の第1本測定工程(工程S123)において光信号を増幅するためのゲインの大きさに設定する(第1ゲイン設定工程;工程S122)。具体的には、制御処理部150は、第1の光量および第2の光量の光量差と、工程S121で得られた2つの増幅値とに基づいて、後述の第1本測定工程(工程S123)において、光信号を増幅するためのゲインの大きさを決定する。第1の光量および第2の光量の光量差に起因して検出されるプラズモン散乱光γの出力値が増加するが、制御処理部150は、この出力値の増加分も考慮して、出力値が飽和することがないようにゲインの大きさを決定する。励起光αの光量と、プラズモン散乱光γの光量とは、比例関係にあるため、例えば、第2の光量が第1の光量の6倍である場合、第1本測定工程(工程S123)で得られる出力値の、第1の光量および第2の光量の光量差に起因して増加した出力値は、第1プレ測定工程(工程S121)で得られる出力値の6倍であると計算することができる。次いで、制御処理部150は、スイッチ1273を操作して、決定された大きさのゲインを有するゲインアンプに切替える。
次いで、測定チップ10に第2の光量で励起光αを照射するとともに、測定チップ10から放出されたプラズモン散乱光γを検出し、検出されたプラズモン散乱光γの光量を示す光信号を、工程S122で設定されたゲインを有するゲインアンプにより増幅して、増幅値を得る(第1本測定工程;工程S123)。第1本測定工程(工程S123)では、光源制御部113、角度調整部112およびセンサー制御部を制御して、光源ユニット111から第2の光量で励起光αを、金属膜30の所定の位置に、金属膜30に対する励起光αの入射角度を走査しながら照射するとともに、受光センサー126でプラズモン散乱光γを検出する。これにより、制御処理部150は、励起光αの入射角と、プラズモン散乱光γの光量を示す信号の増幅値との関係を含むデータを得る。得られたデータは、制御処理部150に記憶される。
次いで、入射角を増強角に調整する(工程S124)。具体的には、制御処理部150は、第1本測定工程(工程S123)で得られたデータを解析して、プラズモン散乱光γの光量が最大となる入射角(増強角)を決定する。最後に、制御処理部150は、角度調整部112を制御して、金属膜30(成膜面22)に対する励起光αの入射角を増強角に設定する。
なお、増強角は、プリズム20の素材および形状、金属膜30の厚み、流路41内の液体の屈折率などにより決まるが、流路41内の液体の種類および量、プリズム20の形状誤差などの各種要因によりわずかに変動する。このため、測定を行うたびに増強角を決定することが好ましい。増強角は、0.1°程度のオーダーで決定される。
次いで、金属膜30上に蛍光物質が存在しない状態で蛍光βと同じ波長の光を含む光の検出を行い、光学ブランク値を測定する(工程S130)。ここで、「光学ブランク値」とは、測定チップ10の上方に放出される背景光の光量を意味する。
図6に示されるように、この工程では、まず、測定チップ10に、増強角となる入射角度で、第1の光量で励起光αを照射するとともに、測定チップ10から放出された光を検出し、検出された光の光量を示す光信号を、ゲインアンプにより増幅して、増幅値を得る(第2プレ測定工程;工程S131)。ゲインの大きさは、検出される光の光量に応じて適宜設定される。本実施の形態では、ゲインの大きさは、1000倍および100倍の2種類である。
具体的には、制御処理部150は、光源制御部113を制御して、光源ユニット111から第1の光量で励起光αを、プリズム20側から捕捉体が固定化されている領域に対応する金属膜30の裏面に照射する。これとともに、制御処理部150は、センサー制御部を制御して、受光センサー126で光を検出する。このとき、制御処理部150は、位置切替え機構122を制御して、光学フィルター124を受光光学系ユニット121の光路内に移動させる。また、制御処理部150は、スイッチ1273を操作して、ゲインが1000倍のゲインアンプに切替える。制御処理部150は、検出した光の光量を示す信号の増幅値(光学ブランク値)を取得する。測定された光学ブランク値は、制御処理部150に送信され、記憶される。第2プレ測定工程(工程S131)で光源ユニット111から照射される励起光αの第1の光量は、後述の第2本測定工程(工程S133)で、光源ユニット111から照射される励起光αの光量(第2の光量)よりも少ない。
次いで、制御処理部150は、スイッチ1273を操作して、ゲインが100倍のゲインアンプに切替える。そして、制御処理部150は、上記操作と同様の操作を繰り返して、光学ブランク値を測定し、記憶する。
次いで、後述の第2本測定工程(工程S133)において光信号を増幅するためのゲインの大きさに設定する(第2ゲイン設定工程;工程S132)。具体的には、制御処理部150は、前述の工程S122と同様に、第1の光量および第2の光量の光量差と、工程S131で得られた2つの増幅値(光学ブランク値)とに基づいて、後述の第2本測定工程(工程S133)において、光信号を増幅するためのゲインの大きさを決定する。第1の光量および第2の光量の光量差に起因して光学ブランク値が増加するが、制御処理部150は、この光学ブランク値の増加分も考慮して、検出した光の出力値が飽和することがないようにゲインの大きさを決定する。励起光αの光量と、光学ブランク値の測定時に検出される光の光量とは、比例関係にあるため、例えば、第2の光量が第1の光量の6倍である場合、第2本測定工程(工程S133)で得られる出力値の、第1の光量および第2の光量の光量差に起因して増加した出力値は、第2プレ測定工程(工程S131)で得られる出力値の6倍であると計算することができる。次いで、制御処理部150は、スイッチ1273を操作して、決定された大きさのゲインを有するゲインアンプに切替える。
次いで、測定チップ10に第2の光量で励起光αを照射するとともに、測定チップ10から放出された光を検出し、検出された光の光量を示す光信号を、工程S132で設定されたゲインを有するゲインアンプにより増幅して、増幅値(光学ブランク値)を得る(第2本測定工程;工程S133)。励起光αの光量を、第2の光量としたこと以外は、第2プレ測定工程(工程S131)と同様に増幅値(光学ブランク値)を測定する。
次いで、検体中の被測定物質と金属膜30上の捕捉体とを反応させる(1次反応;工程S140)。具体的には、制御処理部150は、搬送ステージ141を制御して、測定チップ10を測定位置から送液位置に移動させる。この後、制御処理部150は、送液ポンプ駆動機構133を制御して、液体チップ131中の検体を流路41内に提供する。これにより、検体中に被測定物質が存在する場合は、被測定物質の少なくとも一部は金属膜30上の捕捉体により捕捉される。この後、流路41内を緩衝液などで洗浄して、捕捉体に捕捉されなかった物質を除去する。
次いで、金属膜30上の捕捉体に捕捉された被測定物質を蛍光物質で標識する(2次反応;工程S150)。具体的には、制御処理部150は、送液ポンプ駆動機構133を制御して、液体チップ131中の蛍光標識液を流路41内に提供する。これにより、被測定物質を蛍光物質で標識することができる。蛍光標識液は、例えば、蛍光物質で標識された抗体(2次抗体)を含む緩衝液である。この後、流路41内を緩衝液などで洗浄し、遊離の蛍光物質などを除去する。
次いで、反応場の被測定物質を標識している蛍光物質から放出される蛍光βを検出して、蛍光値を測定する(工程S160)。
図7に示されるように、この工程では、まず、蛍光物質で標識されている被測定物質が捕捉体に捕捉されている状態で、増強角となる入射角度で、測定チップ10に第1の光量で励起光αを照射するとともに、蛍光物質から放出された蛍光βを検出し、検出された蛍光βの光量を示す蛍光信号を、ゲインアンプにより複数のゲインでそれぞれ増幅して、複数の増幅値を得る(第3プレ測定工程;工程S161)。ゲインの大きさは、検出される蛍光βの光量に応じて適宜設定される。本実施の形態では、ゲインの大きさは、1倍、10倍、100倍および1000倍の4種類である。
具体的には、制御処理部150は、搬送ステージ141を制御して、測定チップ10を送液位置から測定位置に移動させる。この後、制御処理部150は、増幅部127のスイッチ1273を操作して、ゲインが1倍のゲインアンプに設定する。次いで、制御処理部150は、光源制御部113を制御して、励起光照射部110の光源ユニット111から第1の光量で励起光αを、プリズム20側から捕捉体が固定化されている領域に対応する金属膜30の裏面に照射する。これとともに、制御処理部150は、センサー制御部を制御して、受光センサー126で蛍光βを検出し、検出された蛍光βの光量を示す蛍光信号を増幅部127のゲインアンプで増幅して、増幅値を得る。得られた増幅値は、制御処理部150に送信され、記録される。第3プレ測定工程(工程S161)で光源ユニット111から照射される励起光αの第1の光量は、後述の第3本測定工程(工程S163)で、光源ユニット111から照射される励起光αの光量(第2の光量)よりも少ない。
次いで、制御処理部150は、スイッチ1273を操作して、ゲインが10倍のゲインアンプに切替える。そして、制御処理部150は、上記操作と同様の操作を繰り返して、増幅値を得て、記憶する。制御処理部150は、ゲインが100倍のゲインアンプと、ゲインが1000倍のゲインアンプとについても、同様の操作を繰り返して、増幅値を得て、記憶する。
次いで、後述の第3本測定工程(工程S163)において蛍光信号を増幅するためのゲインの大きさに設定する(第3ゲイン設定工程;工程S162)。具体的には、制御処理部150は、前述の工程S122と同様に、第1の光量および第2の光量の光量差と、工程S161で得られた4つの増幅値とに基づいて、後述の本測定工程(工程S163)において、蛍光信号を増幅するためのゲインの大きさを決定する。第1の光量および第2の光量の光量差に起因して検出される蛍光βの出力値が増加するが、制御処理部150は、この出力値の増加分も考慮して、出力値が飽和することがないようにゲインの大きさを決定する。励起光αの光量と、蛍光βの光量とは、比例関係にあるため、例えば、第2の光量が第1の光量の6倍である場合、第3本測定工程(工程S163)で得られる出力値の、第1の光量および第2の光量の光量差に起因して増加した出力値は、第3プレ測定工程(工程S161)で得られる出力値の6倍であると計算することができる。次いで、制御処理部150は、スイッチ1273を操作して、決定された大きさのゲインを有するゲインアンプに切替える。
次いで、蛍光物質で標識されている被測定物質が捕捉体に捕捉されている状態で、第2の光量で、測定チップ10に励起光αを照射するとともに、蛍光物質から放出された蛍光βを検出し、検出された蛍光βの光量を示す蛍光信号を、工程S162で設定された大きさのゲインを有するゲインアンプによりにより増幅して、増幅値(蛍光値)を得る(第3本測定工程;工程S163)。
具体的には、光源制御部113を制御して、励起光照射部110の光源ユニット111から第2の光量で励起光α、プリズム20側から捕捉体が固定化されている領域に対応する金属膜30の裏面に照射する。これとともに、制御処理部150は、センサー制御部を制御して、受光センサー126で蛍光βを検出し、検出された蛍光βの光量を示す蛍光信号を増幅部127のゲインアンプにより、ゲイン設定工程(工程S162)で設定された大きさのゲインで増幅して、増幅値(蛍光値)を得る。得られた増幅値(蛍光値)は、制御処理部150に送信され、記録される。
最後に、被測定物質の存在または量を示すシグナル値を算出する(工程S170)。蛍光値は、主として、被測定物質を標識する蛍光物質に由来する蛍光成分(シグナル値)と、光学ブランク値とを含む。制御処理部150は、工程S163で得られた増幅値(蛍光値)から工程S133で得られた光学ブランク値を引くことで、被測定物質の量に相関するシグナル値を算出することができる。シグナル値は、あらかじめ作成しておいた検量線により、被測定物質の量や濃度などに換算される。このとき、第2本測定工程(工程S133)と、第3本測定工程(工程S163)とで、ゲインの大きさは、同じであることが好ましい。第2本測定工程(工程S133)と、第3本測定工程(工程S163)とで、ゲインの大きさが異なる場合には、光学ブランク値を補正してシグナル値を算出すればよい。たとえば、第2本測定工程(工程S133)におけるゲインの大きさが、第3本測定工程(工程S163)におけるゲインの大きさの10倍大きい場合には、工程S133で得られた光学ブランク値を1/10倍した数値を用いて、シグナル値を算出すればよい。
以上の手順により、検体中の被測定物質の存在の確認または量の決定をすることができる。なお、本実施の形態では、入射角を増強角に設定する工程(工程S120)、光学ブランク値の測定工程(工程S130)および蛍光値の測定工程(工程S160)のいずれでも、第2の光量が第1の光量の6倍である場合について説明したが、第1の光量と第2の光量の光量比は、任意に変更してもよい。基本的に、第3本測定工程(工程S163)で得られる蛍光値と、第2本測定工程(工程S133)で得られる光学ブランク値とは、シグナル値の算出の際に減算するので、同じ第2の光量で測定することが望ましい。これに対して、第1本測定工程(工程S123)では、その測定値を用いて増強角を決定できればよいだけなので、第1本測定工程(工程S123)での第2の光量と、第2本測定工程(工程S133)および第3本測定工程(工程S163)での第2の光量とを同じに合わせる必要がない。例えば、入射角を増強角に設定する工程(工程S120)では、第2の光量を第1の光量の2倍の光量に設定してもよい。
次に、本実施の形態に係る測定方法の第3プレ測定工程(工程S161)および第3本測定工程(工程S163)において、光検出部120の受光センサー126で検出される蛍光βの光量と、光検出部120から出力される蛍光信号とに着目して、本発明の特徴について説明する。比較のために、プレ測定工程およびゲイン設定工程を有さない従来の測定方法についても説明する。
図8Aは、第1の光量で、または第2の光量で励起光αを測定チップ10に照射した場合に受光センサー126で検出される蛍光βの相対強度と、励起光αの照射時間との関係を示すグラフである。図8Aにおいて、実線は、第1の光量で励起光αを照射したときの結果を示し、破線は、第2の光量で励起光αを照射したときの結果を示す。また、図8Bは、光検出部120から出力される蛍光信号を示すグラフである。
図8Aに示されるように、第1の光量で、または第2の光量で励起光αを測定チップ10に照射した場合、励起光αの照射時間の増大とともに蛍光物質から放出される蛍光βの強度は、減少していく。一般的に、励起光αの照射による蛍光物質の褪色は、蛍光物質の種類と、蛍光物質に照射される励起光αのエネルギー量(強度×時間)とに起因する。したがって、第1の光量で励起光αを照射した場合と比較して、励起光αの光量がより多い第2の光量で励起光αを照射した場合の方が、蛍光物質が褪色し、蛍光物質から放出される蛍光βの光量はより低下する。
次に、光検出部120で検出された蛍光βの光量を示す蛍光信号について説明する。
図8Bに示されるように、光検出部120で検出された蛍光βは、蛍光βの光量を示す蛍光信号として光検出部120から出力される。蛍光値の測定工程は、蛍光信号を安定化させるための安定化工程と、安定化工程の後、蛍光信号を平均化するための平均化工程とを含むことが好ましい。
安定化工程に要する時間(以下、単に「安定化時間」ともいう)には、励起光αの光源ユニット111を安定化させるための時間と、光検出部120を安定化させるための時間とが含まれる。本実施の形態に係るSPFS装置100では、安定化時間には、さらに増幅部127を安定化させるための時間が含まれる。増幅部127を安定化させるための時間は、例えば、ゲインアンプの切替えや、ゲインの大きさLPFのカットオフ波長fcの大きさなどに応じて変動する。
平均化工程に要する時間(以下、単に「平均化時間」ともいう)は、蛍光信号を平均化することで、ノイズなどによる蛍光信号のばらつきを低減させるための時間である。制御処理部150は、一定時間、蛍光信号が平均化された平均値を蛍光値として取得する。図8Aに平均化時間に測定される蛍光信号の平均値(蛍光値)を黒丸(●)で示した。
前述のように、蛍光値は、安定化工程と平均化工程とを経て測定されることが好ましい。この場合、安定化時間および平均化時間が長くなりすぎると、照射される励起光αの合計光量が大きく、蛍光物質が褪色してしまうため、測定される蛍光値は小さくなる。図8Bに示されるように、出力電圧も、励起光αの照射による蛍光物質の褪色により励起光αの照射時間の増大とともに小さくなる。しかし、平均化時間が長くなるほど、蛍光信号のばらつきの影響を低減することができるため、より少ないばらつきで蛍光値を得ることができる。
図9は、本実施の形態に係る測定方法と、従来の測定方法とを比較するためのグラフであり、プレ測定工程および本測定工程において、検出される蛍光βの光量を示すグラフである。図9において、横軸は、励起光αの照射時間を示し、縦軸は、蛍光βの光量を示す。図9において、実線は、本実施の形態に係る測定方法についてのグラフを示し、一点鎖線は、従来の測定方法において、第1の光量で励起光αを照射した場合のグラフを示し、二点鎖線は、従来の測定方法において、第2の光量で励起光αを照射した場合のグラフを示している。ここでは、説明を簡単化する観点から、プレ測定工程では、本測定工程で使用されるゲインアンプのゲインと同じ倍率(ゲイン)である1種類のゲインアンプで蛍光信号を増幅する場合について説明する。図9では、本実施の形態に係る測定方法において、平均化時間に測定される蛍光信号の平均値(蛍光値)を黒丸(●)で示し、従来の測定方法において、第1の光量で励起光αを照射した場合に平均化時間に測定される蛍光信号の平均値(蛍光値)を白三角(△)で示し、従来の測定方法において、第2の光量で励起光αを照射した場合に平均化時間に測定される蛍光信号の平均値(蛍光値)を白丸(○)で示した。
まず、従来の測定方法において、少ない光量(第1の光量)で励起光αを測定チップに照射した場合について説明する。この測定方法では、プレ測定と本測定とにおいて、第1の光量で励起光αを測定チップに照射する。このため、図9において一点鎖線で示されるように、励起光αの照射時間が長くなるほど、蛍光物質から放出される蛍光βの光量は減衰していく。照射される励起光αの光量が少ないため、蛍光物質の褪色が少ないものの、蛍光物質から放出される蛍光βの光量も少ないため、測定される蛍光値も小さくなってしまう(図9の本測定工程における白三角(△)参照)。結果として、検体中の被測定物質の濃度が低い場合には、被測定物質を高精度に測定することができない。一方で、蛍光物質の褪色が小さいため、蛍光物質の個体ごとの褪色量のばらつきに起因する蛍光値のばらつきは生じにくい。
次いで、従来の測定方法において、多い光量(第2の光量)で励起光αを測定チップに照射した場合の結果について説明する。この測定方法では、プレ測定と本測定とにおいて、第2の光量で励起光αを測定チップに照射する。このため、図9において二点鎖線で示されるように、励起光αの照射時間が長くなるほど、蛍光物質から放出される蛍光βの光量は減衰していく。このとき、照射される励起光αの光量が多いため、蛍光物質から放出される蛍光βの光量は多いものの、蛍光物質が顕著に褪色してしまう。励起光αを照射した直後に放出される蛍光βの光量と比べて、蛍光値が測定されるときには、放出される蛍光βの光量は大きく低下してしまう(図9の本測定工程における白丸(○)参照)。結果として、検体中の被測定物質の濃度が低い場合に、検出される蛍光βの光量を増やす観点から照射する励起光αの光量を増やしたとしても、励起光αの光量の増加率に比べて、大きい蛍光値を得ることができず、被測定物質を高精度に測定することができない。また、蛍光βの褪色が顕著なため、蛍光物質の個体ごとの褪色量のばらつきに起因する蛍光値のばらつきも生じてしまう。
以上のように、従来の測定方法では、低濃度の検体中の被測定物質を高精度に測定することができないという問題がある。
これに対して、本実施の形態に係る測定方法では、プレ測定では少ない光量(第1の光量)で励起光αを測定チップに照射し、本測定では多い光量(第2の光量)で励起光αを測定チップに照射する。このため、図9において実線で示されるように、プレ測定工程では、照射される励起光αの光量が少ないため、蛍光物質から放出される蛍光βの光量が少ないものの、蛍光物質の褪色を抑制することができる。プレ測定工程での褪色が少ないため、本測定工程では、プレ測定工程から常時多い光量(第2の光量)で照射した場合と比較して、より高い蛍光値を測定することができる((図9の本測定工程における黒丸(●)参照))。結果として、従来の測定方法と比較して、より高感度に被測定物質を測定することができる。また、蛍光物質の褪色が小さいため、蛍光物質の個体ごとの褪色量のばらつきが小さくなり、測定される蛍光値のばらつきを小さくすることもできる。
プレ測定で測定チップ10に照射される励起光αの第1の光量は、本測定で測定チップ10に第2の光量で励起光αを照射したときに放出される蛍光βの蛍光信号を増幅するときのゲインを決定することができれば、特に限定されない。第3プレ測定工程(工程S161)における蛍光物質の褪色を抑制する観点からは、第1の光量は、第2の光量の1/2以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。一方、LDの安定したレーザー発振を確保する観点からは、第1の光量は、第2の光量の1/10以上であることが好ましい。第1の光量が少なすぎると、LDがレーザー発振せず、発振波長のばらつきや半値幅の増加などが発生してしまうおそれがある。
また、図10A、Bは、本実施の形態に係る測定方法の変形例を示すためのグラフである。第3プレ測定工程(工程S161)における蛍光物質の褪色を抑制して、第3本測定工程(工程S163)で高い蛍光値を測定する観点からは、第3プレ測定工程(工程S161)における励起光αの照射時間は、第3本測定工程(工程S163)における励起光αの照射時間よりも短いことが好ましい。たとえば、図10Aに示されるように、第3プレ測定工程(工程S161)における平均化時間は、第3本測定工程(工程S163)における平均化時間よりも短いことが好ましく、図10Bに示されるように、第3プレ測定工程(工程S161)における安定化時間は、第3本測定工程(工程S163)における安定化時間よりも短いことが好ましい。また、第3プレ測定工程(工程S161)における平均化時間および安定化時間は、第3本測定工程(工程S163)における平均化時間および安定化時間よりも短いことが好ましい。このように、第3プレ測定工程(工程S161)では、正確な出力値を得る必要はなく、出力値のレンジを知ることができればよいため、測定精度を下げてもよく、安定化時間、平均化時間またはこれら両方を短縮化してもよい。これにより、励起光αの照射による蛍光物質の褪色を抑制することができ、かつ被測定物質の測定時間を短縮化することもできる。
前述のとおり、蛍光信号はノイズによりばらつくため、平均化時間は長いことが好ましい。しかしながら、平均化時間が長すぎると、励起光αの照射による蛍光物質の褪色も促進されるため、かえって放出される蛍光βの光量が減少してしまう。このような観点から、第3本測定工程(工程S163)における平均化時間は、例えば、1秒である。この場合、蛍光物質の褪色を抑制しつつ、蛍光信号のばらつきを1%以下にする抑えることができる。また、第3プレ測定工程(工程S161)における平均化時間を0.01秒(1秒に対して1/100)とすると、蛍光信号のばらつきは数%程度に増加してしまう。しかし、各ゲインアンプのゲインの大きさは10倍の差があるため、ゲインの大きさを決定する観点からは、数%程度の蛍光信号のばらつきは、問題とならない。
また、前述のとおり、蛍光信号を安定化させるために、安定化時間は十分に長いことが好ましい。しかしながら、第3プレ測定工程(工程S163)では、出力値のレンジを知ることができればよいため、蛍光物質の褪色を抑制する観点から、安定化時間は短縮化してもよい。たとえば、第3プレ測定工程(工程S161)における安定化時間は、第3本測定工程(工程S163)における安定化時間0.1秒の1/2程度(例えば、0.05秒)であることが好ましい。この場合、蛍光信号は完全に立ち上がっていないため、測定される蛍光値は80%程度に小さくなってしまう。しかし、各ゲインアンプのゲインの大きさは10倍の差があるため、ゲインの大きさを決定する観点からは、20%程度の蛍光値の減少であれば問題とならない。
また、第3プレ測定工程(工程S161)と第3本測定工程(工程S163)とにおけるゲインの大きさの差が大きいほど、第3プレ測定工程(工程S161)における安定化時間をより短縮化することができる。しかしながら、より正確にゲインの大きさを決定する観点からは、蛍光信号が十分立ち上がったときの出力値(例えば、本実施の形態では、安定化時間0.1秒経過時の出力値)を基準としたときに、蛍光信号が50%以上立ち上がるまで安定化時間を長くすることが好ましく、蛍光信号が80%以上立ち上がるまで安定化時間を長くすることがより好ましい。たとえば、第3プレ測定工程(工程S161)と第3本測定工程(工程S163)とにおけるゲインの大きさの差がX倍の場合、蛍光信号が十分立ち上がったときの出力値を基準としたときに、2/X倍程度の出力値が得ることができるまでであれば、安定化時間を短縮化することができる。
(SPFS装置の動作の一例)
ここで、SPFS装置100の動作の一例について説明するが、本発明は、以下の例に限定されない。
1.測定チップの準備
プリズム20の一面上に金属膜30が配置されている測定チップ10を準備する。この測定チップ10の金属膜30上には、抗BNP抗体(捕捉体)が固定化されている。準備した測定チップ10をSPFS装置100のチップホルダーに設置する。
2.入射角を増強角に設定
(1)プレ測定
まず、5mWのパワーで波長660nmの励起光αを測定チップ10に、特定の1つの角度65°で照射する。これと同時に測定チップ10から放出される、波長660nmのプラズモン散乱光γを受光センサー126で検出する。そして、安定化時間を0.1秒、平均化時間を0.01秒(合計0.11秒)と設定し、検出されたプラズモン散乱光γの光量を示す信号を、ゲインが10倍のゲインアンプにより増幅して、増幅値を得る。また、ゲインが1倍のゲインアンプを使用する場合についても同様の測定をして、合計2つの増幅値を得る。
(2)ゲインの設定
次いで、プレ測定および後述の本測定において照射される励起光αの光量差と、プレ測定で得られた2つの増幅値に基づいて、本測定で光の信号を増幅するためのゲインの大きさを設定する。
次いで、金属膜30に対する入射角を61°から71°まで走査しながら、10mWのパワーで波長660nmの励起光αを測定チップ10に照射する。これと同時に測定チップ10から放出されるプラズモン散乱光γを検出する。そして、安定化時間を0.1秒、平均化時間を0.1秒(合計時間0.2秒)と設定し、検出されたプラズモン散乱光γの光量を示す信号をゲインアンプにより、設定された大きさのゲインで増幅して、増幅値を得る。得られた励起光αの入射角と、プラズモン散乱光γの光量を示す信号の増幅値との関係に基づいて、プラズモン散乱光γの光量が最大となるときの入射角を判断する。
3.光学ブランク値の測定
(1)プレ測定
まず、5mWのパワーで波長660nmの励起光αを測定チップ10に増強角で照射する。これと同時に測定チップ10から放出される、波長685〜770nmの光を受光センサー126で検出する。そして、安定化時間を0.1秒、平均化時間を0.01秒(合計時間0.11秒)と設定し、検出された光の光量を示す信号を、ゲインが1000倍のゲインアンプにより増幅して、増幅値を得る。また、ゲインが100倍のゲインアンプを使用した場合についても同様に測定をして、合計2つの増幅値を得る。
(2)ゲインの設定
次いで、プレ測定および後述の本測定において照射される励起光αの光量差と、プレ測定で得られた2つの増幅値に基づいて、本測定で光の信号を増幅するためのゲインの大きさを設定する。
(3)本測定
最後に、30mWのパワーで波長660nmの励起光αを測定チップ10に照射する。これと同時に測定チップ10から放出される、波長685〜770nmの光を受光センサー126で検出する。そして、安定化時間を0.1秒、平均化時間を1秒(合計時間1.1秒)と設定し、検出された光の光量を示す信号をゲインアンプにより、設定された大きさのゲインで増幅して、増幅値を得ることで、光学ブランク値を測定する。
4.1次反応
次いで、被測定物質としてBNPが100pg/mLの濃度で含まれる検体(100μL)を測定チップ10の流路41内に提供する。次いで、流路41内において検体を往復送液して、1次反応を行う。その後、流路41内の検体を除去し、流路内をリン酸緩衝液で洗浄する。
5.2次反応
蛍光物質としてAlexa-Fluor(登録商標)で標識された抗BNP抗体を含む溶液(100μL)を、流路41内において往復送液をして、2次反応を行う。
6.蛍光値の測定
(1)プレ測定
まず、5mWのパワーで波長660nmの励起光αを測定チップ10に増強角で照射する。これと同時に測定チップ10から放出される蛍光βを受光センサー126で検出する。そして、安定化時間を0.1秒、平均化時間を0.01秒(合計時間0.11秒)となるように設定し、検出された蛍光βの光量を示す蛍光信号を、ゲインが1倍のゲインアンプにより増幅して、増幅値を得る。また、ゲインが10倍、100倍、1000倍、0.1倍および0.01倍のゲインアンプを使用した場合についてもそれぞれ同様の測定をして、合計6つの増幅値を得る。
(2)ゲインの設定
次いで、プレ測定および後述の本測定において照射される励起光αの光量差と、プレ測定で得られた6つの増幅値に基づいて、本測定で蛍光βの信号を増幅するためのゲインの大きさを設定する。
(3)本測定
最後に、30mWのパワーで波長660nmの励起光αを測定チップ10に照射する。これと同時に測定チップ10から放出される蛍光βを受光センサー126で検出する。そして、安定化時間を0.1秒、平均化時間を1秒(合計時間1.1秒)となるように設定し、検出された蛍光βの光量を示す信号をゲインアンプにより、設定された大きさのゲインで増幅して、増幅値を得ることで、BNPの量を示す蛍光値を測定する。
以上のとおり、蛍光値を測定する工程において、プレ測定工程では5mWのパワーで光を照射し、本測定工程では、30mWのパワーで光を照射する。すなわち、プレ測定工程と比較して、本測定工程では、6倍の光量の光を照射することとなる。このため、蛍光物質の褪色を1/6に抑制することができる。
また、6種類のゲインのゲインアンプを使用する場合についてプレ測定を行うため、蛍光値を測定する工程において、プレ測定に要した合計時間は0.66秒であり、本測定に要した合計時間の1.1秒よりも短時間となる(ゲインアンプの数がより少なければ、より短時間となる)。このため、蛍光物質の褪色を抑制し、かつ短時間に測定することができる。
また、入射角を増強角に設定する工程において、本測定工程では10mWのパワーで光を測定チップ10に照射して、増強角を決定する。このように、蛍光値および光学ブランク値の測定時のパワー(30mW)よりも、パワー(第2の光量)を低く設定することで、捕捉体の劣化を抑制することができる。
また、光学ブランク値を測定する工程において、プレ測定工程では5mWのパワーで光を照射し、本測定工程では、30mWのパワーで光を照射する。すなわち、プレ測定工程と比較して、本測定工程では、6倍の光量の励起光を照射することとなる。このため、プレ測定工程における捕捉体の劣化を抑制し、かつ被測定物質の測定時間を短縮化することができる。
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る測定方法およびSPFS装置100では、第3プレ測定工程(工程S161)では、第1の光量で励起光αを照射し、第3本測定工程(工程S163)では、第1の光量より多い第2の光量で励起光αを照射する。このため、第3プレ測定工程(工程S161)における蛍光物質の褪色を抑制することができ、第3本測定工程(工程S163)では、光量の多い蛍光βを検出することができる。この結果として、被測定物質を高精度に測定することができる。
また、上記実施の形態に係る測定方法およびSPFS装置100では、金属膜130上に蛍光物質が配置されていない、入射角を増強角に設定する工程(工程S120)、光学ブランク値の測定工程(工程S130)においても、プレ測定工程(工程S121、S131)およびゲイン設定工程(工程S122、S132)を行った。このため、励起光αの照射による捕捉体の劣化(例えば、1次反応の反応性の低下など)を抑制することができる。また、励起光αの照射時間を短縮化することができるため、より測定時間を短縮化することができる。
なお、上記実施の形態では、入射角を増強角に設定する工程(工程S120)と、光学ブランク値の測定工程(工程S130)と、蛍光値を測定する工程(工程S160)とにおいて、プレ測定工程(工程S121、S131、S161)およびゲイン設定工程(工程S122、S132、S162)を行う場合について説明したが、本発明に係る測定方法では、この態様に限定されない。たとえば、蛍光値を測定する工程(工程S160)のみにおいて、プレ測定工程(工程S161)およびゲイン設定工程(工程S162)を行ってもよい。
また、上記実施の形態では、第1プレ測定工程(工程S121)において、2種類の大きさのゲインについて、プレ測定を行った。しかし、入射角を増強角に設定する工程(工程S120)では、ゲインの大きさを推測することができるため、第1プレ測定工程(工程S121)では、例えば、1種類の大きさのゲインでプレ測定を行ってもよいし、プレ測定を行わなくてもよい。これにより、捕捉体の劣化をより抑制することができ、測定時間をより短縮化することができる。
また、入射角を増強角に設定する工程(工程S120)では、2種類の大きさのゲインから選択するだけであるため、仮にゲインの大きさを推測できないとしても、敢えて第1プレ測定工程(工程S121)を省略してもよい。この場合、2種類のゲイン両方で第1本測定工程(工程S123)を行ってもよい。具体的には、一方のゲインに設定した後に1回目の第1本測定工程を行い、次いで、他方のゲインに設定した後に2回目の第1本測定工程を行えばよい。励起光αの入射角を走査するときに、入射角を変更する毎に、上記操作を繰り返し行うことで、2種類のゲインについての、励起光αの入射角と、プラズモン散乱光γの光量を示す信号の増幅値との関係を含むデータを得ることができる。そして、得られた適切なデータを用いて、増強角を決定してもよい。光源ユニット111を回転させて励起光αの入射角度を設定する工程に時間がかかるため(例えば、1秒)、第1本測定工程にかかる時間が安定化時間0.1秒、平均化時間0.1秒の合計時間0.2秒であれば、2種類のゲイン両方で第1本測定を行ってもわずか0.4秒(増加分は0.2秒)と比較的影響は小さい。ゲインの大きさを無理に推測するより、両方のゲインで測定しておいた方が、確実に増強角を算出できる(増強角の決定を失敗するリスクがなくなる)。
また、入射角を増強角に設定する工程(工程S120)では、フィッティングによりプラズモン散乱光γの光量が最大となるときの光の入射角がわかればよいため、正確な光量を求めなくてもよい。たとえば、フィッティングエラーにならない程度(例えば、検出されたプラズモン散乱光γの光量を示す信号のばらつきが10%以下)に出力値が安定していればよい。このため、第1プレ測定工程(工程S121)および第1本測定工程(工程S123)では、照射される励起光αのパワーをより下げてもよいし(例えば、第1プレ測定工程と同じ5mWなど)、光信号の平均化時間をより短縮してもよい。
また、上記実施の形態では、第2プレ測定工程(工程S131)において、2種類の大きさのゲインについて、プレ測定を行った。しかし、光学ブランク値は、測定チップ10のプリズム20から放出される自家蛍光とプラズモン散乱光γの光量とによって変動することがわかっており、ゲインの大きさを推測することができる。このため、第2プレ測定工程(工程S131)では、例えば、1種類の大きさのゲインでプレ測定を行ってもよいし、プレ測定を行わなくてもよい。これにより、捕捉体の劣化をより抑制することができ、測定時間をより短縮化することができる。
上述したように、蛍光値を測定する工程(工程S160)では、被測定物質の濃度が未知であるため、プレ測定工程を行い、ゲインを設定する必要がある。しかし、入射角を増強角に設定する工程(工程S120)で検出されるプラズモン散乱光γの強度と、光学ブランク値の測定工程(工程S130)で検出される光の強度とは、測定チップ10に固有の値であるため、おおよその光量を推定することができる。このように検出される光の光量を推定できる場合には、プレ測定工程(工程S121およびS131)を省略し、ゲインを設定することが可能である。
また、シグナル値を正確に測定する観点からは、第2本測定工程(工程S123)と第3本測定工程(工程S163)とにおいては、同じ励起光αのパワーおよび平均化時間で本測定を行うことが好ましい。また、測定チップの個体ごとの光学ブランク値のばらつきが小さい場合には(例えば、測定チップの個体ごとの光学ブランク値の差が10倍以内)、プレ測定工程を行わなくてもよい。これにより、捕捉体の劣化をより抑制することができ、かつ、被測定物質の測定時間を短縮化することができる。
また、上記実施の形態では、入射角を増強角に設定する工程(工程S120)、光学ブランク値を測定する工程(工程S130)および1次反応を行う工程(工程S140)をこの順番に行う態様について説明した。しかし、本発明に係る測定方法および測定装置では、これらの順番に限定されない。たとえば、1次反応を行った後に入射角を増強角に設定してもよいし、光学ブランク値を測定した後に1次反応を行ってもよい。
また、上記の説明では、1次反応を行う工程(工程S140)の後に、2次反応を行う工程(工程S150)を行った(2工程方式)。しかしながら、被測定物質を蛍光物質で標識するタイミングは、特に限定されない。たとえば、測定チップ10の流路41内に試料液を導入する前に、試料液に標識液を添加して被測定物質を予め蛍光物質で標識しておいてもよい。また、測定チップ10の流路内に試料液と標識液を同時に注入してもよい。前者の場合は、測定チップ10の流路内に試料液を注入することで、蛍光物質で標識されている被測定物質が捕捉体により捕捉される。後者の場合は、被測定物質が蛍光物質で標識されるとともに、被測定物質が捕捉体により捕捉される。いずれの場合も、測定チップ10の流路41内に試料液を導入することで、1次反応および2次反応の両方を完了することができる(1工程方式)。
さらに、上記実施の形態では、金属膜30を有する測定チップ10を使用した態様について説明し、SPFSを利用した測定方法およびSPFS装置100について説明したが、本発明に係る測定方法および測定装置は、この態様に限定されない。たとえば、本発明に係る測定方法および測定装置では、金属膜30を有しない測定チップ10が使用されてもよい。本発明に係る測定方法および測定装置は、検出された蛍光信号をゲインアンプにより増幅する工程を含む測定方法および測定装置であれば、SPFSを利用した測定方法およびSPFS装置以外にも採用されうる。