以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の変状部の検出方法の処理の流れを示したフローチャートである。本実施の形態では、検査対象となる構造物Mを鉄筋コンクリートや無筋コンクリートなどのコンクリート構造物とする。
例えば、トンネルや大断面管路やボックスカルバート等のような空洞の内壁面が構造物Mの表面M1となる。また、ビルの壁面や柱又はスラブの表面などの検査にも適用できる。さらに、コンクリート橋の橋脚や橋桁などを検査対象の構造物Mとすることもできる。
そして、検出対象となる構造物Mの表面M1に発現された凹状の変状部には、ひび割れM2、はく落箇所、表面気泡などが該当する。要するに、表面M1から厚さ方向に変化が生じている箇所が検出対象となる。
続いて、図1のフローチャートに従って、順に各工程について説明する。まず撮影工程(ステップS1)について説明する。本実施の形態では、光切断法によって撮影を行う場合について説明する。
光切断法は、図2に示すように、対象物となる構造物Mの表面M1にスリット光源2から直線状のスリット光を照射させ、スリット光によって投影された表面形状に沿って変形した光切断線111をエリアカメラ1によって撮影させる。
このエリアカメラ1による撮影は、スリット光源2とともに移動させながら行われ、複数の撮像データ11A−11Dが取得されることになる。各撮像データ11A−11Dには、それぞれ光切断線111A−111Dが撮影されているが、構造物Mの表面M1にひび割れM2のように深度方向に変化した箇所があれば、光切断線111A−111Dにもその形状が現れる。
光切断線111A−111Dは、各画素の明度によって表されるデータであり、最大明度の位置の集合から形状を認識させることができる。そして、認識された光切断線111A−111Dの形状に対して三角測量法を用いることによって、ひび割れM2の深さを求めることができる。すなわち、距離画像を取得することができる。
そして、スリット光源2を白色LED(発光ダイオード:light emitting diode)など白色光源にすることで、可視画像の撮像データも同時に取得することができるようになる。
エリアカメラ1とスリット光源2との位置関係は、図2とは反対になっていてもよいが、エリアカメラ1のカメラ光軸とスリット光源2の照明光軸とは、交差する配置関係にする必要がある。
図3(a)は、カメラ光軸と照明光軸との角度θが小さい場合を例示している。この角度θが小さいと、左側の撮像データ12Aに示したように、高さHの直方体M3が存在することによる光切断線121Aのずれ量h1は少なくなる。
他方、図3(b)は、カメラ光軸と照明光軸との角度θが大きい場合を例示している。この角度θが大きいと、左側の撮像データ12Bに示したように、高さHの直方体M3が存在することによる光切断線121Bのずれ量h2は大きくなる。
このため、同じ性能のエリアカメラ1を使用した場合、角度θが大きいほど小さい高低差でも検出できるようになり、分解能は高くなる。すなわち高さH=h2/tanθとなるため、角度θが大きくなるほど、深さ(H)の分解能が高くなる。このため、細いひび割れを検出させるためには、角度θを大きくすればよい。
しかしながら図4の検出率の表に示したように、角度θが大きくなると、表面の汚れをひび割れとして誤検出する確率が高くなる(θ=35度、40度、45度)。すなわち、角度θが大きくなると、ひび割れの奥まで光が届きにくくなるため、奥行きの情報が制限されて汚れとの識別が難しくなる。また、反射輝度が低下する。
このため、表面の汚れが多い場合は、角度θを小さくすることで反射輝度を向上させ、汚れなどの暗い部分がひび割れとして誤検出されないようにするのが好ましい。これらのことから、カメラ光軸と照明光軸との角度θは、10度から30度程度にするのが好ましい。
光切断法によってエリアカメラ1によって撮影された撮像データを、図1に示すように光切断処理(ステップS2)して、距離画像の生成(ステップS31)と可視画像の生成(ステップS41)を行う。
上述したように白色光源によって撮影を行うことで、同じ撮像データから距離画像と可視画像の両方を生成させることができる。図6には、距離画像と可視画像の取得後の処理工程の具体例を示した。また、図7(a)は可視画像の例示、図7(b)は距離画像の例示である。
光切断法によって撮影された複数の撮像データは、図7(a),(b)に示すような一面の画像データとなって読み込まれる。それが、図6の最上段に示された工程となる。
そして、距離画像と可視画像のそれぞれにおいて、ひび割れを検出するための前処理が行われる。その概略工程を例示したのが、図5となる。読み込まれた距離画像及び可視画像では、それぞれ設定された大き目の閾値を基準にして暗部が抽出されて、粗抽出されたエリアからひび割れに該当しない箇所を除去するためのフィルタ処理などが行われる。
そして、粗抽出されたエリアにおいて、さらに精密にひび割れの抽出処理を行い、距離画像において距離候補エリアを設定し(ステップS32)、可視画像においては可視候補エリアを設定する(ステップS42)。
要するに距離候補エリアは、距離画像に基づいてひび割れが存在するとされたエリアであり、可視候補エリアは可視画像においてひび割れが存在するとされたエリアである。このように各画像の段階でひび割れが存在する可能性のあるエリアを絞り込むことで、その後に拡大処理、フィルタ処理などの検出精度を上げるための処理を、限定されたデータ量で迅速に行わせることができる。
そして、距離候補エリアと可視候補エリアとを統合した統合エリアの設定を行う(ステップS5)。以下に、統合エリアを設定するためのルールについて説明する。
まず、図7(a)の可視画像を見るとわかるように、可視画像では、ひび割れと汚れとが混在して映し出されており、ノイズが多い状態であることがわかる。一方、図7(b)の距離画像では、ひび割れらしき箇所のみが表示された状態となっており、ノイズが少ない状態であることがわかる。
そこで、距離画像をベースにして、可視画像で補うことを基本ルールとする。要するに、距離候補エリアを基準にして、可視候補エリアを統合させる。距離画像と可視画像が、1台のエリアカメラ1で同じタイミングで撮影された撮像データから生成される場合は、画素位置が原理的に同じになるため、マッチング処理が不要となり、容易に統合させることができる。
具体的には、距離候補エリアに大部分(例えばエリア面積の80%以上)が重複する可視候補エリアがあれば、その可視候補エリアを統合エリアに組み込む。また、距離候補エリア間に可視候補エリアが存在する場合は、距離候補エリアに設定されていない領域であっても、その可視候補エリアを統合エリアに設定する。
統合エリアでは、可視候補エリアしか存在しない領域に関しても、後述するステップS6でのひび割れの抽出処理が実行される。すなわち、距離候補エリアが可視候補エリアによる補充によって拡張された状態になる。
このようにして統合エリアを設定して、その統合エリア内の距離画像及び可視画像の両方からひび割れの候補画素を検出し、それらの候補画素を組み合わせることでひび割れの抽出を行う(ステップS6)。この統合エリアは、ひび割れが存在する可能性が高いエリアであるため、精密な抽出処理が適用される。このように距離画像だけではなく可視画像も用いることで、画素サイズよりも細いひび割れの抽出も可能となる。そして、図5の右端が、ひび割れ抽出後の統合エリアの表示になる。
このようにして生成された統合エリアでひび割れの抽出を行った検出結果を、図8に示した。この図8の評価図及び図9では、本実施の形態の手法を「本手法」として示す。図8(a)は、本手法の未検出と誤検出の発生率(ひび割れ検出エラー率)を示している。
10体の試験体を使って本手法の検出率を評価した結果、ひび割れでない箇所をひび割れとして検出した誤検出率が10%以下となっており、本手法は非常に少なかったことがわかる。ここで、誤検出率とは、検出画素全体に占める誤検出画素の割合を示す。
また、ひび割れであるが検出されなかった未検出についても、30%を下回った発生率となっており、本手法は未検出も少ない手法であることが確認できた。ここで、未検出率は、検査員による目視検査によって計測されたひび割れの長さ(全長)に対する本手法のひび割れの長さ(全長)の割合を示す。
一方、図8(b)は、誤検出率と検出率との関係から本手法を評価する図である。理想としてはグラフの左上にプロットが偏ることが望ましいが、通常は検出率を上げると誤検出率も増加することが多く、逆に誤検出率を下げると検出率も低下するため、例えば「比較例」に示すように、グラフの中央辺りにプロットが点在することになる。
これに対して本手法では、検出率を高めても誤検出率が増加しないため、グラフの縦軸上方付近にプロットを集中させることができる。誤検出が少なければ、人員による確認作業を大幅に減らすことができる。
統合エリアで抽出されたひび割れについては、図1のステップS7において、ひび割れ幅の算出が行われる。図9は、本手法によって算出されたひび割れ幅を、検査員による目視検査によって計測された幅と比較した結果を示している。
図9(a)を見ると、本手法によって算出された幅は、目視検査とほぼ一致していることがわかる。また、図9(b)の相関関係図に示されているように、2つの間には強い相関関係(R2=0.9714)が存在すると言える。
この相関関係図における最小二乗直線の傾きyが1.08であることから、目視検査に対して本手法はやや太め(+8%)に測定される傾向があることがわかる。ここで、計測対象としたひび割れの最小幅は目視検査では0.2mm(ひび割れ番号7)であるが、本手法では0.3mmの幅で算出されている。本手法では、0.1mm太く測定されたことになるが、未検出とはなっていないため、本手法の最小ひび割れ検出幅として0.2mm以下であることが確認できた。
以上のようにして1測線(1スパン)の撮影からひび割れの抽出までの処理が行われる。すなわち光切断法による撮影は、図2に示すように一方向に移動しながら行われる。このため、1スパンの撮影によって帯状の可視画像と距離画像が取得される(図7参照)。
この1スパンの撮影幅は、分解能に比例する。例えば、分解能が低くてよい場合は撮影幅を大きくでき、単位時間当たりに撮像データが取得できる面積が大きくなって作業効率が向上する。
また、1次スクリーニングで太いひび割れを低分解能で検出しておき、検出された箇所を高分解能で詳細に検査するなど、分解能を可変させたい場合は、予めスリット光源2の照明幅を大きくしておき、エリアカメラ1を表面M1に対して上下移動可能な構成としておくことで、分解能と撮影幅を調整することができる。
図14は、構造物Mの表面M1を、1スリットの撮影幅を200mmにして撮影して取得された複数のスパン画像3A−3Jを並べた図を示している。以下では、複数のスパン画像3A−3Jを接合して図14に示したような状態にするための処理について、図10のフローチャート及び図11の工程図を参照しながら説明する。
各スパン画像は、位置情報及び撮影順序の情報を有している。例えばエリアカメラ1等を移動させる移動手段に移動量が測定できるロータリエンコーダなどを搭載しておくことで、各スパン画像に平面位置情報を関連付けることができる。
まず、ステップS8に示すように、複数のスパン画像群を、平面位置情報又は撮影順序情報に基づいて大まかに整列させる(第1次整列)。図12の左側には、模式的に3つのスパン画像21,22,23を第1次整列させた状態を示した。
図13(a)に示すように、隣接する画像間で重複させる範囲(オーバーラップ量OS,OL)は、それぞれの方向で予め設定しておく。また、図13(b)に示すように、構造物Mの目地などを目安にして、基準線の間隔PS,PLについても、それぞれの方向で設定しておく。
さらに、図13(c)に示すように、2つのひび割れ251,252が近接している場合に、一つのひび割れとしてペアリングさせる離隔(位置ずれ量Xd)及び角度(姿勢ずれ量Ad)の許容値についても予め設定しておく。例えば位置ずれ量Xdは、コンクリートの粗骨材の最大寸法(20mm)程度に設定することができる。
そして、ステップS9に示すように、各スパン画像21−23で抽出されたひび割れ211,221,222,231,232を利用して、スパン画像21,22間及びスパン画像22,23間の接合を行う。
詳細には、隣接する画像側に現れるひび割れの端部211b,221b,222a,222b,231a,232aを特定し、端部が近接するひび割れ同士を接合させることができるか否かの判定が行われる。
すなわち、図12の左側に示したように、大まかに整列されたスパン画像21,22,23は、事前に設定されたオーバーラップ量OS,OLにより図の右側に示したように重複させることができる。
そして、端部222a,211b間、端部231a,221b間、端部232a,222b間の離隔が、許容位置ずれ量Xdや許容姿勢ずれ量Ad以内であればひび割れの接合を行う。
例えば、ひび割れ211の端部211bとひび割れ222の端部222aとが繋がると判定された場合は、ひび割れ211とひび割れ222とが接合される。このひび割れの接合は、決められた順序で行われる。図12の左側図に示した(1),(2),(3)は、接合を行う順序を示している。
まず順序(1)のひび割れ211,222同士の接合によってスパン画像21に対するスパン画像22の位置が調整される。続いて順序(2)のひび割れ221,231同士の接合によってスパン画像22に対するスパン画像23の位置が調整される。
さらに、調整後のスパン画像22,23の相対的位置関係においても、ひび割れ222の端部222bとひび割れ232の端部232aとが繋がると判定された場合は、ひび割れ222とひび割れ232とが接合される。要するに、ひび割れのベクトルデータから端部の座標を抽出し、スパン画像間の相対的な位置合わせを行った後に、近接するひび割れを接合させて繋げる。
このような接合処理は、撮影順序やオーバーラップ量などを事前に設定して行われるため、判断処理が簡略化できる。また、隣接する画像データ間(スパン画像21,22間、スパン画像22,23間)のみで計算を行うため効率よく接合処理を行わせることができる。
また、抽出されたひび割れ211,221,222,231,232に基づいてスパン画像21,22間及びスパン画像22,23間の位置合わせをするため、演算に必要なデータ量が圧倒的に少なく、効率的である。すなわち、撮像データのままで接合処理の判断をするとなると、大量の画素データが処理対象となるため演算負荷が大きくなるが、抽出されたひび割れのデータはベクトルで表すことができてデータ量が非常に少なく、演算負荷を大幅に削減することができる。
そして、図12の右図に示すように、接合後のひび割れを報告書などに載せる場合は、着目した箇所を出力範囲24に設定して、掲載用の画像データとして抜き出すことができる。
図14には、スパン画像3A−3J間の相対的位置合わせと、ひび割れの接合処理を行った結果を表示している。この表示例では、すべてのスパン画像3A−3Jに跨る大ひび割れ31が確認できる。また、いくつかのスパン画像に跨る中ひび割れ32,33,34も確認することができる。
このようにして広い検査範囲のスパン画像を接合させて、抽出されたひび割れを表示した結果を、図15(a)に自動検出図4として示した(図10のステップS12)。抽出されたひび割れには、ひび割れ番号(No.)とひび割れ幅(mm)とを隣接して示している。
一方図15(b)には、自動検出図4と同じ検査範囲を検査員が目視検査した目視検査図41を示した。これらの図を比較すると、自動検出図4は、目視検査図41とほぼ同じ形状のひび割れが検出できていることがわかる。
他方、自動検出図4で未検出箇所43となっている位置には、目視検査図41では幅0.1mmの極細ひび割れ431が検出されている。また、目視検査図41での白華箇所421は、自動検出図4では未検出箇所42としてひび割れが検出されてない。
白華箇所421においては、表面M1のひび割れが埋もれてしまい、距離画像ではひび割れとして抽出することができない。一方、可視画像であれば、白色箇所として抽出することができる。
また、白華箇所421は、周囲より多少盛り上がっているため、距離画像では凸状箇所として抽出することができる。さらに白華箇所421は、重力方向に線状に延びる(垂れる)ことが多いという特徴がある。
そこで、可視画像で白色箇所が抽出された場合は可視候補エリアに設定し、距離画像の凸状箇所は距離候補エリアに設定されるように、条件設定を行っておくことで、白色箇所と凸状箇所とが一致している場合に白華箇所として抽出させることが可能になる。また、凸状ではない白色箇所が重力方向に線状に延伸されている場合に、白華箇所として抽出させることも可能である。
自動検出図4において検出されたひび割れに対しては、ひび割れ番号(No.)毎に長さを算出させる(図10のステップS10)。図16は、検出されたひび割れを長さの精度によって評価する図である。
自動検出図4で算出された本手法のひび割れ長さは、目視検査によって計測されたひび割れ長さとほぼ一致している。自動検出図4では、未検出箇所42,43が存在したが、長さ比で95%のひび割れは検出することができた。
続いてひび割れ閉合度(閉合度合い)の算出処理について、図17を参照しながら説明する。図17(a)に示すように、ひび割れによって囲まれて閉合された領域は、構造物Mの表層や魂体のはく落が起きやすく危険である。そこで、ひび割れ閉合度を算出させる(ステップS11)。ひび割れ閉合度を算出する工程を、図17(b)に示す。
まず、上述したように複数のスパン画像に跨って接合されたひび割れの折れ線の端部を特定する。そして、端部毎の延長方向を、決められた方法(ルール)に従って算出する。
続いて延長させるひび割れを選択し、決められた順番で端部から延長方向に延長して延長線523,524を設定する。その結果、図17(a)に示すように、ひび割れ511,512,513で完全に囲まれた範囲は、閉合度Fの高い高閉合領域51と判定される。
一方、ひび割れ521,522と仮想的に延長された延長線523,524とによって閉合される範囲は、閉合度Fが中程度の中閉合領域52と判定される。この閉合度Fの判定は、例えば中閉合領域52の周長から延長線523,524の長さを引いた値と周長との割合Cと、中閉合領域52の面積Sとの積によって求めることができる。なお、割合Cや面積Sをべき乗にすることで、はく落に対する危険性を強調させるなどの調整を行うこともできる。
次に、本実施の形態の変状部の検出方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の変状部となるひび割れの検出方法は、撮影によって取得された撮像データから距離画像及び可視画像を生成し、それぞれの画像においてひび割れM2の検出のための距離候補エリアと可視候補エリアとの設定を行う。そして、距離候補エリアと可視候補エリアとを統合した統合エリアから、構造物Mの表面M1に発現された凹状のひび割れM2を抽出する。
このため、距離画像の方が抽出しやすい状態のひび割れM2と可視画像の方が抽出しやすい状態のひび割れM2の両方を漏れなく検出させることができる。また、距離候補エリアによって検出範囲を絞り込むことができるので、迅速に処理を行わせることができる。
そして、迅速かつ高精度でひび割れM2やはく落箇所が検出できるようになれば、調査や点検のための検査作業を大幅に省力化することができる。すなわち、少ない人員で検査が実施できたり、遠隔操作による検査が可能になったりする。
また、検出漏れなどが少ない高精度な検出方法であるため、検査員の熟練度によって検査結果が左右されることがなく、施設の安全性を高めることに貢献することができる。
また、検査員による目視検査の結果と同程度の自動検出が本手法によって行われれば、既に蓄積された過去の目視検査結果との比較が可能となり、経時変化の正確な把握や変状の進行程度の判断などがし易くなる。
以下、前記実施の形態で説明した変状部の検出方法を実施する際に使用される変状部の検査装置について、図18を参照しながら具体的な例で説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を用いて説明する。
この検査装置は、検査員が手で移動させることが可能なハンディ型検査器6である。このハンディ型検査器6は、構造物Mの表面M1の可視画像及び光切断法による距離画像を取得するための撮影を行う撮像部としてのエリアカメラ61と、スリット光の照射が可能な照明部としてのスリット光源62と、エリアカメラ61及びスリット光源62を同時に移動させる車輪部64を有する移動手段部と、移動手段部による移動量に基づいてエリアカメラ61の撮影時機を制御する撮影制御部とによって、主に構成される。
このハンディ型検査器6は、1走査によって200mm幅の計測が可能で、重量が6kg程度に製作される。スリット光源62には、白色LEDが使用され、1台のエリアカメラ61の撮影によって、3次元情報である距離画像と、可視画像となるカラー画像とを同時に取得することができる。
スリット光源62から照射されるスリット光の幅は、狭い方が望ましいが、ある程度の光量とワーキングディスタンス(対象物(表面M1)と照明との距離)が必要となるため、ワーキングディスタンス70mmのときにスリット光の幅が1.5mm程度となるものを使用する。また、スリット光源62は、別途配置された電源部621にケーブルを介して接続される。
スリット光源62の水平方向の照射幅については、最大200mmの水平幅の撮像データを得るために、周辺部の光量が減少することを考慮して、照射幅300mmのものを採用した。
一方、エリアカメラ61には、高画素かつ高速撮影が可能なものが使用される。例えば、水平方向2000画素、垂直方向1088画素のデジタルカメラを用いることができる。この仕様のカメラで垂直方向130画素を光切断のエリアとした場合、フレームレートは約2500枚/秒に設定される。
分解能と撮影幅は比例するため、分解能を0.1mmとするときには、焦点距離6mmのレンズを使用する場合、ワーキングディスタンス81mmで撮影幅が200mmとなる。分解能が0.5mmでよいときは、撮影幅は1000mmにできる。
エリアカメラ61のカメラ光軸とスリット光源62の照明光軸とのなす角度θは、20度程度に設定した。前記実施の形態で説明したように、角度θが小さいとひび割れの奥まで光を到達させることができるが、光切断法の原理上、奥行き情報の分解能が低下する。角度θが大きいと分解能は向上するが、光が届かずにひび割れの浅い部分で影が生じるため、奥行きの情報が制限される。
エリアカメラ61及びスリット光源62は、箱状の遮光カバー65内に収容し、スリット光源62の照明のみで撮影が行われるようにする。また、遮光カバー65には把手部651が取り付けられ、検査員が保持できるようになっている。
すなわちハンディ型検査器6は、検査員が高所作業車等に乗って通常行う近接目視及び打音による点検の際に、検査作業の一環としてデータの取得ができるように小型軽量とされ、把手部651を保持してトンネル等の内壁を走査させることができるように構成される。
その走査は、車輪部64による移動によって行われる。車輪部64は、ハンディ型検査器6の前方の一軸の両端に取り付けられる前輪641,641と、後方の中央に配置される一輪の後輪642とによって、3輪で構成される。
すなわち、トンネルなどの内壁の表面M1には、微小な不陸が存在し、がたつきの原因となるため、3輪とすることで安定性を向上させることができる。また、前輪641,641を一軸の車軸で直結することによって、互いの回転を拘束させ、直進性を高めることができる。
また、前輪641,641及び後輪642は、コンクリート製の構造物Mの表面M1の不陸や凹凸によって本体が振動しにくくなるように、大口径のものが望ましい。また、多少の振動を吸収できる素材が望ましいが、押し付けるだけで離隔が変化してしまう程の柔らかいものは、撮影距離を一定にできないため適していない。例えば周長500mm(直径約160mm)の測長用のプラスティック製ゴム被覆付き車輪が、前輪641,641及び後輪642として使用できる。
このように表面M1とエリアカメラ61との離隔を車輪部64によって一定に保つことにより、取得された撮像データから検出されるひび割れの幅及び長さの算出精度を高く保つことが容易にできる。
さらに、後輪642には、ロータリエンコーダ等のエンコーダ63を取り付けて、移動距離(移動量)が測定できる構成とする。要するに、移動量と同期させて(移動量を撮影のトリガとして)撮影ができるように構成する。
エンコーダ63及びエリアカメラ61は、撮影制御部となるコンピュータ66に接続される。エリアカメラ61とコンピュータ66との接続は、大量の高精細な画像データをすばやく送受信させるために、有線方式とするのが望ましい。
そして、例えば、取得する撮像データによる分解能を最高の0.1mmとするためには、周長500mmの車輪(641,642)に対し、1回転あたり5000パルスが発生する制御(撮影トリガ)により撮影を行わせればよい。
ハンディ型検査器6をさらに小型化するためには、エリアカメラ61のレンズに広角レンズ(焦点距離5mm、水平画角約101度)を採用し、ワーキングディスタンス(レンズと対象物(表面M1)との離隔)が小さくできるようにすればよい。
また、ハンディ型検査器6の移動の直進性を高めるために、構造物Mの表面M1にガイド棒を取り付け、それに沿わせて走査させることもできる。このようなガイド棒は、端部に吸着パットを取り付けて、表面M1に容易に着脱できる構成にするのが好ましい。
このような構成のハンディ型検査器6を使って半円筒状のトンネルの内壁の表面M1を検査する場合は、走査させる方向をトンネル横断方向とするのが好ましい。すなわちトンネルの周方向に沿って走査させれば、トンネル内壁の曲率に伴う情報を含まない3次元情報を得ることができるようになるため、その後の処理が簡略化でき、ひび割れ検出のための処理時間を短縮させることができる。
なお、実施例1のこの他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるため説明を省略する。
以下、前記実施例1で説明したハンディ型検査器6とは別の形態の変状部の検査装置について、図19を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を用いて説明する。
前記実施例1では、検査員が持ち運ぶことが可能なハンディ型検査器6について説明したが、本実施例2では、アーチ状のガイドレール75に取り付けられるガイドレール型検査装置7について説明する。
このガイドレール75は、トンネルの内周形状に合わせた形状の架構を主構造とし、必要に応じてトンネルの軸方向に移動させるための車輪753,753などが設けられる。
ガイドレール75には、外周面に沿って走行させることができる周動ユニット751が装着される。この周動ユニット751は、駆動モータ752の動力によって移動させることができる。
そして、ガイドレール型検査装置7は、この周動ユニット751の側部に、トンネル軸方向に張り出されるように取り付けられる。このガイドレール型検査装置7は、構造物Mの表面M1の可視画像及び光切断法による距離画像を取得するための撮影を行うエリアカメラ71と、スリット光の照射が可能なスリット光源72と、エリアカメラ71及びスリット光源72を搭載させる架台部73と、架台部73と表面M1との距離を一定に保ちながら移動させるための車輪部74,・・・を有する移動手段部とによって、主に構成される。
このガイドレール型検査装置7は、1走査によって500mm幅の計測が可能で、重量が15kg程度に製作される。車輪部74の車軸はトンネル軸方向に向けられ、車輪部74を表面M1に押し付けることで、一定の撮影距離を保ちながら、トンネル周方向にガイドレール型検査装置7を移動させることができる。
また、架台部73又は架台部73と周動ユニット751との間に防振機構を設けておくことで、表面M1の凹凸に伴う架台部73の揺れを低減させることができる。
ガイドレール型検査装置7による計測時間を少なくするためには、例えば過検出となるが計測速度が速い遠望目視カメラによって得られた可視画像のみからひび割れ候補箇所を特定し、その特定された箇所にだけガイドレール型検査装置7を移動させて光切断法による検査を行わせることもできる。
なお、実施例2のこの他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるため説明を省略する。
以下、前記実施例1,2で説明したハンディ型検査器6及びガイドレール型検査装置7とは別の形態の変状部の検査装置について、図20を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は他の実施例で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を用いて説明する。
本実施例3の変状部の検査装置としての飛行型検査器8は、前記実施例1のハンディ型検査器6に、飛行体部としてドローン部87を追加した構成となる。この飛行型検査器8は、可視画像及び光切断法による距離画像を取得するための撮影を行う撮像部としてのエリアカメラ81と、スリット光の照射が可能な照明部としてのスリット光源82と、表面M1に沿った移動をさせる車輪部84と、車輪部84を表面M1に押し当てるためのドローン部87と、エンコーダ83によって計測される移動量に基づいてエリアカメラ81の撮影時機を制御する撮影制御部とによって、主に構成される。
スリット光源82は、地上などに配置された電源部821に接続される。また、エンコーダ83及びエリアカメラ81は、撮影制御部となるコンピュータ86に接続される。
ドローン部87によって浮遊された飛行型検査器8は、検査対象となる構造物Mの表面M1に向けて飛行し、車輪部84の前輪841,841及び後輪842を表面M1に押し付けることができる。
そのままドローン部87によって表面M1に沿った移動をさせれば、所望する方向に飛行型検査器8を走査させることができる。すなわち、車輪部84及びドローン部87によって移動手段部が構成される。ここで、安定的に表面M1に車輪部84を押し付けるためには、飛行用ローター(プロペラ)は4つ以上が望ましい。
また、エリアカメラ81とコンピュータ86との接続は、大量の高精細な画像データをすばやく送受信させるために、有線方式とするのが望ましい。また、その際に、ケーブルを細く(軽量)かつ長くするために、エリアカメラ81のケーブルは光ファイバにするのが望ましい。
なお、実施例3のこの他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるため説明を省略する。
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
例えば、前記実施例1では、カラー画像を取得するエリアカメラ61を使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、グレースケールカメラを使用することによって、高速撮影が可能になったり高分解能化が図れたりする。
また、前記実施の形態及び実施例では、可視画像が同時に取得可能な白色のLED照明について説明したが、これに限定されるものではなく、白色のラインレーザー(カラーの可視画像が取得可能)や赤色のラインレーザー(グレースケールの可視画像が取得可能)を使用することで、高輝度化によってワーキングディスタンスを大きくしたり、高速撮影が可能になったり、さらにはスリット光源の小型軽量化を図ったりすることができる。また、前記実施の形態及び実施例では、1台のエリアカメラ1,61,71,81に1台のスリット光源2,62,72,82を組み合わせた構成について説明したが、これに限定されるものではなく、撮像部や照明部は複数台、設けることができる。例えば、距離画像用と可視画像用とを分けることができる。
また、前記実施の形態及び実施例1,3では、移動量の測定及び撮影トリガにロータリエンコーダによる計測値を利用する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、非接触のレーザードップラー変位計やオプティカルフローなどを利用して移動量を測定させることもできる。