実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る移動経路推定システム1の構成を示すブロック図である。図1に示すように、移動経路推定システム1は、N(Nは2以上の整数)個の入退検出センサ2−1〜2−N、M(Mは2以上の整数)個の存在検出センサ3−1〜3−M、移動経路推定装置4、および移動経路保存部5を備えて構成される。移動経路推定装置4は、消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42、データ更新部43および推定部44を備える。
以降の説明では、入退検出センサ2−1〜2−Nおよび存在検出センサ3−1〜3−Mによって検出された物体の消失または出現を考慮して、移動経路推定装置4によって移動経路が推定されるまでの物体を“観測対象候補”と呼ぶ。すなわち、センサによって検出された物体のうち、移動経路が推定されるまでの物体は、移動経路推定装置4において、仮の観測対象であるため、これを観測対象候補と定義する。
入退検出センサ2−1〜2−Nは、観測領域に設けられて、入退検出データを検出するセンサであり、光学カメラ、赤外線センサ、および測距センサなどのセンサによって実現される。また、入退検出データは、観測領域内の検出範囲を通過した観測対象候補が通過方向ごとに検出されたデータである。入退検出センサ2−1〜2−Nは、入退検出データおよびセンサ位置を含む検出信号を観測時刻ごとに消失予測部40および出現予測部41に送信する。センサ位置は、入退検出センサが設置された位置であり、入退検出データが得られた入退検出センサ位置に相当する。
存在検出センサ3−1〜3−Mは、観測領域に設けられて、存在検出データを検出するセンサであって、光学カメラ、赤外線センサ、測距センサ、振動センサ、マイクロフォンおよび熱検知センサなどのセンサによって実現される。また、存在検出データは、センサの検出範囲に存在する観測対象候補が検出されたデータである。存在検出センサ3−1〜3−Mは、存在検出データおよびセンサ位置を含む検出信号を、データ更新部43に送信する。センサ位置は、存在検出センサが設置された位置であり、存在検出データが得られた存在検出センサ位置に相当する。
入退検出センサ2−1〜2−Nおよび存在検出センサ3−1〜3−Mによって検出された複数の観測対象候補には、観測対象候補のそれぞれに固有な識別番号が付与される。
図2は、実施の形態1における観測領域10の例を示す図である。図2に示す観測領域10は、出入り口を有した壁に囲まれた領域であり、出入り口を通ってのみ出入りが可能である。入退検出センサ2−n(nは、1からNのうちのいずれかの整数)は、例えば、観測領域10の出入り口に設けられて、検出範囲11−nが出入り口の領域に重なっている。出入り口を通って観測領域10に出入りする観測対象候補は、検出範囲11−nを通過したときに入退検出センサ2−nによって検出される。
存在検出センサ3−m(mは、1からMのうちのいずれかの整数)は、図2に示すように、観測領域10の任意の箇所に設けられる。存在検出センサ3−mの検出範囲12−mは、例えば、破線で示すように、センサ位置を中心とした円形の領域を形成する。観測領域10内の観測対象は、検出範囲12−mに進入したときに存在検出センサ3−mに検出される。なお、検出範囲12−mが円形である場合を示したが、楕円形、矩形などの円形以外の形状であってもよい。
図3は、観測領域10におけるセンサ動作の例を示す図であり、図2に示した観測領域10におけるセンサの動作を示している。図3において、観測対象候補を検出したセンサは灰色で記載されている。人A1が観測領域10に進入する方向(矢印a1で示す方向)に移動する。このとき、入退検出センサ2−nは、出入り口における検出範囲11−nを通過して観測領域10内に進入した人A1を検出する。人A1が検出された入退検出データは、入退検出センサ2−nから移動経路推定装置4へ送信される。
観測領域10内を人A1が移動して検出範囲12−mを通過する度に、存在検出センサ3−mは、人A1を検出する。人A1が検出された存在検出データは、存在検出センサ3−mから移動経路推定装置4へ送信される。人A1が、観測領域10から退出する方向(矢印a2で示す方向)に移動すると、入退検出センサ2−nは、出入り口の検出範囲11−nを通過して観測領域10外に退出した人A1を検出する。人A1が検出された入退検出データは、入退検出センサ2−nから移動経路推定装置4へ送信される。
同様に、人A2が観測領域10に進入する方向(矢印b1で示す方向)に移動すると、入退検出センサ2−nは、出入り口における検出範囲11−nを通過して観測領域10内に進入した観測対象の人A2を検出する。人A2が検出された入退検出データは、入退検出センサ2−nから移動経路推定装置4へ送信される。
観測領域10内を人A2が移動して検出範囲12−mを通過する度に、存在検出センサ3−mは、人A2を検出する。人A2が検出された存在検出データは、存在検出センサ3−mから移動経路推定装置4へ送信される。人A2が、観測領域10から退出する方向(矢印b2で示す方向)に移動すると、入退検出センサ2−nは、出入り口の検出範囲11−nを通過して観測領域10外に退出した人A2を検出する。人A2が検出された入退検出データは、入退検出センサ2−nから移動経路推定装置4へ送信される。
人A1および人A2を検出した存在検出センサ3−mのそれぞれを辿っていくことで、観測領域10内での人A1の移動経路13aと人A2の移動経路13bとを推定することができる。なお、入退検出センサ2−nおよび存在検出センサ3−mは、図3に示すように、観測対象候補の誤検出または検出失敗が起こり得る。“観測対象候補の誤検出”とは、検出範囲に観測対象候補が存在しないにもかかわらず、センサによって観測対象候補が検出されることを意味する。また、“観測対象候補の検出失敗”とは、検出範囲に存在する観測対象候補が検出されないことを意味する。
図1の説明に戻る。
移動経路推定装置4は、入退検出センサ2−1〜2−Nから入力した入退検出データ、および、存在検出センサ3−1〜3−Mから入力した存在検出データを用いて、観測対象候補の運動諸元推定値を算出する。運動諸元推定値は、観測対象の移動経路を示すデータとして、時刻フレームごとに、かつ観測対象ごとに移動経路保存部5に保存される。移動経路保存部5に保存された移動経路を示すデータは、移動経路推定システム1の利用者からの要求に応じて出力される。
入退検出センサ2−1〜2−Nおよび存在検出センサ3−1〜3−Mが、検出データを移動経路推定装置4に出力する時間の区切りを“時刻フレーム”と呼び、センサそれぞれの時刻フレームは同期しているものとする。センサによって観測対象候補が検出された観測時刻に相当する時刻フレームを“現時刻”と呼び、現時刻の1時刻フレーム前の過去の時刻に相当する時刻フレームを“前時刻”と呼ぶ。前時刻を現時刻よりも1時刻フレーム前の時刻と定義したが、これは例示であり、実施の形態1では、現時刻よりも一定時間だけ過去の時刻であれば、2以上の時刻フレームを遡った時刻であってもよい。
消失予測部40は、入退検出センサ2−1〜2−Nから受信した入退検出データおよびセンサ位置を含む検出信号、前時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。なお、上記センサ位置は、入退検出データを検出した入退検出センサが設置された位置である。消失予測部40によって算出された存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値は、移動予測部42に出力される。
存在確率は、観測対象候補が観測領域に存在する可能性を示す確率であって、例えば、“存在確率が高い”とは、観測対象候補が観測領域に真に存在する観測対象である可能性が高いことを示している。存在確率は、0以上1以下のスカラー値で表される。
運動諸元確率分布は、観測対象候補が観測領域に存在する場合において観測対象候補がどのような運動諸元であるかを示す確率分布である。運動諸元は、観測対象候補の位置、速度および加速度などである。例えば、2次元平面内の位置および2次元速度空間内の速度成分を運動諸元とした場合、運動諸元確率分布は、観測対象候補の2次元の位置および2次元の速度成分を表す4次元空間内における確率分布として定義される。
出現予測部41は、入退検出センサ2−1〜2−Nから受信した入退検出データおよびセンサ位置を含む検出信号に基づいて、前時刻から現時刻までの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。上記センサ位置は、入退検出データを検出した入退検出センサが設置された位置である。出現予測部41によって算出された存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値は、移動予測部42に出力される。
移動予測部42は、消失予測部40と出現予測部41とから入力した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の移動が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。移動予測部42によって算出された存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値は、データ更新部43に出力される。
データ更新部43は、存在検出センサ3−1〜3−Mから受信した存在検出データおよびセンサ位置を含む検出信号、移動予測部42によって算出された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、現時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を算出する。上記センサ位置は、存在検出データを検出した存在検出センサが設置された位置である。データ更新部43は、現時刻における1つまたは複数の観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を算出し、算出した存在確率および運動諸元確率分布を、推定部44および次の時刻フレームの予測を行う消失予測部40に出力する。
推定部44は、データ更新部43から入力した現時刻の観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、現時刻に観測対象が観測領域に存在するか否かを推定し、現時刻に存在すると推定された観測対象の運動諸元推定値を算出する。
推定部44によって算出された運動諸元推定値は、移動経路保存部5に出力されて保存される。移動経路保存部5に保存された観測対象の運動諸元推定値が時系列に並べられたデータが、観測対象の移動経路を示すデータとなる。
なお、移動経路保存部5に保存された観測対象の移動経路を示すデータは、移動経路推定装置4の利用者の要求に応じて表示装置などに出力される。
図4Aは、移動経路推定システム1の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図である。図4Bは、移動経路推定システム1の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。図4Aおよび図4Bにおいて、センサ群100は、入退検出センサ2−1〜2−Nに相当するセンサ群である。センサ群101は、存在検出センサ3−1〜3−Mに相当するセンサ群である。記憶装置102には、移動経路推定装置4による推定処理の実行中に得られる中間データが記憶され、さらに、移動経路保存部5が構築されている。
移動経路推定装置4における、消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42、データ更新部43および推定部44のそれぞれの機能は、処理回路によって実現される。
すなわち、移動経路推定装置4は、図5を用いて後述するステップST1からステップST5までの処理を実行するための処理回路を備える。
処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。
処理回路が図4Aに示す専用のハードウェアの処理回路103である場合、処理回路103は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field−Programmable Gate Array)またはこれらを組み合わせたものが該当する。
消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42、データ更新部43および推定部44のそれぞれの機能を別々の処理回路で実現してもよいし、これらの機能をまとめて1つの処理回路で実現してもよい。
処理回路が図4Bに示すプロセッサ104である場合、消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42、データ更新部43および推定部44のそれぞれの機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現される。ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述されて、メモリ105に記憶される。
プロセッサ104は、メモリ105に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42、データ更新部43および推定部44のそれぞれの機能を実現する。
すなわち、移動経路推定装置4は、プロセッサ104によって実行されるときに、図5に示すステップST1からステップST5までの処理が結果的に実行されるプログラムを記憶するためのメモリ105を備える。これらのプログラムは、消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42、データ更新部43および推定部44の手順または方法をコンピュータに実行させるものである。メモリ105は、コンピュータを、消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42、データ更新部43および推定部44として機能させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。
メモリ105には、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically−EPROM)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVDなどが該当する。
消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42、データ更新部43および推定部44のそれぞれの機能について一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。
例えば、消失予測部40、出現予測部41および移動予測部42のそれぞれは、専用のハードウェアとしての処理回路で機能を実現する。データ更新部43および推定部44については、プロセッサ104が、メモリ105に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより機能を実現してもよい。
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせにより上記機能のそれぞれを実現することができる。
次に動作について説明する。
図5は、実施の形態1に係る移動経路推定方法を示すフローチャートである。
消失予測部40が、入退検出センサ2−1〜2−Nから受信した入退検出データおよびセンサ位置、および、データ更新部43から入力した前時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する(ステップST1)。
次に、出現予測部41が、入退検出センサ2−1〜2−Nから受信した入退検出データおよびセンサ位置に基づいて、前時刻から現時刻までの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する(ステップST2)。
移動予測部42が、消失予測部40および出現予測部41から入力した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する(ステップST3)。
データ更新部43が、存在検出センサ3−1〜3−Mから受信した存在検出データおよびセンサ位置、および、移動予測部42から入力した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、現時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を算出する(ステップST4)。
推定部44が、データ更新部43から入力した観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、現時刻に観測対象が観測領域に存在するか否かを推定し、現時刻に存在すると推定した観測対象の移動経路を推定する(ステップST5)。例えば、推定部44は、観測対象の移動経路を示す運動諸元推定値を算出し、算出した運動諸元推定値を移動経路保存部5に保存する。
次に、観測対象の移動経路の推定処理について詳細に説明する。
以降では、観測対象の運動諸元として2次元位置空間内の位置および2次元速度空間内の速度成分を推定する場合について説明する。2次元位置空間の座標系は、直交するXY座標軸で表され、2次元速度成分もX軸方向の値とY軸方向の値があるものとする。ただし、これらの前提は例示であって、これらの運動諸元に限定されるものではない。
例えば、3次元空間を移動する観測対象について3次元位置空間内の位置および3次元速度空間内の速度を運動諸元としてもよい。観測対象が加速する可能性を考慮して、加速度成分、加速度の微分成分を運動諸元に含めてもよい。さらに、直交座標系の代わりに、極座標形を利用してもよい。
また、移動経路推定装置4では、観測対象が等速直進運動を行うことを前提として運動諸元が推定される。なお、移動経路推定装置4では、等速直進運動の代わりに、例えば、等加速度直進運動、等角速度旋回運動などを前提として運動諸元を推定してもよい。
入退検出センサ2−1〜2−Nは、入退検出データの誤検出があるものと仮定し、存在検出センサ3−1〜3−Mについても、存在検出データの誤検出または存在検出データの検出失敗があるものと仮定する。
さらに、運動諸元確率分布を、重み付けされた有限個数の“粒子”の集合で近似する。運動諸元確率分布の値が大きい領域には、重み係数が大きい粒子が密に分布し、運動諸元確率分布の値が小さい領域には、重み係数が小さな粒子が疎に分布する。なお、近似する方法は、前述した方法に限定されるものではなく、例えば、ガウス分布の確率密度関数の線形結合で運動諸元確率分布を近似してよい。
現時刻の時刻フレーム番号を“k”として、現時刻を“時刻k”と記載する。前時刻の時刻フレーム番号を“k−1”として前時刻を“時刻k−1”と記載する。kの添え字が付く記号は、その記号が示すパラメータ値が時刻kにおける値であることを示している。k−1の添え字についても同様である。
観測対象の運動諸元を表す4行1列のベクトルxは、下記式(1)で定義される。ただし、下記式(1)において、x(1)は位置のX軸成分を表し、x(2)は位置のY軸成分を表し、x(3)は速度のX軸成分を表し、x(4)は速度のY軸成分を表している。行列右上の添え字Tは行列の転置を表している。このような運動諸元を表すベクトルを、“状態ベクトル”と呼ぶ。
x=[x(1) x(2) x(3) x(4)]T ・・・(1)
また、n番目(n=1,2,・・・,N)の入退検出センサ2−nのセンサ位置を示す2行1列のベクトルzn (InOut)を、下記式(2)で定義する。
下記式(2)において、zn (InOut、1)は、入退検出センサ2−nのセンサ位置のX軸成分であり、zn (InOut、2)は、入退検出センサ2−nのセンサ位置のY軸成分である。
zk,n (InOut)=[zk,n (InOut,1) zk,n (InOut,2)]T ・・・(2)
さらに、m番目(m=1,2,・・・,M)の存在検出センサ3−mのセンサ位置を示す2行1列のベクトルzk,m (Exist)を、下記式(3)で定義する。
下記式(3)において、zk,m (Exist,1)は、存在検出センサ3−mのセンサ位置のX軸成分であり、zk,m (Exist,2)は、存在検出センサ3−mのセンサ位置のY軸成分である。
zk,m (Exist)=[zk,m (Exist,1) zk,m (Exist,2)]T ・・・(3)
時刻kにおける観測対象候補の識別番号の集合をLkとし、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の存在確率をrk|k (i)とする。時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1 (i)は、時刻k−1における識別番号iの観測対象候補の存在確率をrk−1|k−1 (i)を用いて算出される。
時刻kにおける、識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布f
k|k (i)(x)は、時刻kにおいて識別番号iの観測対象候補の運動諸元が状態ベクトルxである確率を示している。重み付けされた粒子の集合で運動諸元確率分布f
k|k (i)(x)を近似することで、識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布f
k|k (i)(x)は、下記式(4)で表すことができる。下記式(4)において、δはディラックのデルタ関数であり、粒子の個数Jは事前設定パラメータとする。w
k|k (i,j)はj番目(j=1,2,・・・,J)の粒子の重み係数を示す0以上1以下のスカラー値であり、x
k|k (i,j)はj番目の粒子の状態を示す状態ベクトルである。
時刻kおける、識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値f
k|k−1 (i)(x)は、時刻k−1における識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布を用いて算出される。重み付けされた粒子の集合でf
k|k−1 (i)(x)を近似することで、運動諸元確率分布の予測値f
k|k−1 (i)(x)は、下記式(5)で表すことができる。
ただし、w
k|k−1 (i,j)は、j番目(j=1,2,・・・,J)の粒子の重み係数を示す0以上1以下のスカラー値であり、x
k|k−1 (i,j)は、j番目の粒子の状態を示す状態ベクトルである。
図6は、移動経路推定装置4の動作を示すフローチャートである。図6では、運動諸元確率分布fk|k (i)(x)を、重み付けされた粒子の集合で近似することを前提として、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布fk|k (i)(x)は、J個の重み係数wk|k (i,j)および粒子状態xk|k (i,j)を用いて算出される。なお、運動諸元確率分布の予測値fk|k−1 (i)(x)についても同様に算出される。以降では、ある確率密度関数f(x)に従って生成された乱数がxであることを示す式を、x〜f(x)と記載する。
さらに、確率密度関数として、N(x;μ,P)およびU(x,a,b)を使用する。
N(x;μ,P)は、確率変数ベクトルxに関する平均値ベクトルμ、誤差共分散行列Pの多変量ガウス分布の確率密度関数である。
U(x,a,b)は、確率変数スカラー値xに関する、最小値aおよび最大値bの一様分布の確率密度関数である。
消失予測部40および出現予測部41は、入退検出センサ2−1〜2−Nから受信した時刻kにおけるN個の入退検出データのうち、観測領域に対する観測対象候補の進入または退出が検出されたデータを、任意の順番で選択して入力する(ステップST1a)。これにより入退検出データを処理するループが開始される。以降では、ステップST2aからステップST4aまででは、n番目(n=1,2,・・・,Nのいずれか)の入退検出センサ2−nによって検出された入退検出データが選択されたものと仮定する。
消失予測部40および出現予測部41は、n番目の入退検出センサ2−nによって検出された入退検出データに基づいて、観測対象候補の移動方向が観測領域への進入方向であるか否かを判定する(ステップST2a)。消失予測部40は、観測対象候補の移動方向が観測領域からの退出方向であると判定した場合(ステップST2a;NO)、ステップST3aへ移行する。出現予測部41は、観測対象候補の移動方向が観測領域への進入方向であると判定した場合(ステップST2a;YES)、ステップST4aへ移行する。
なお、入退検出センサが、観測領域への進入方向と観測領域からの退出方向とを同一の時刻フレームで検出可能である場合、入退検出センサによって検出された観測対象候補の移動方向に基づいて、消失予測部40がステップST3aの処理を実行し、出現予測部41が、ステップST4aの処理を実行してもよい。
ステップST3aにおいて、消失予測部40は、入退検出センサ2−nによって検出された入退検出データ、上記式(2)で示した入退検出センサ2−nのセンサ位置、時刻k−1の観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。
なお、消失予測部40が、ステップST3aの処理を1回目に行う場合、時刻k−1における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を用いる。2回目以降にステップST3aの処理を行う場合、消失予測部40は、直前のステップST3aで算出した存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を用いる。
消失予測部40は、下記式(6)から下記式(11)までを用いて時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された、識別番号iの観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1,S (i)を算出し、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された、識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値を表す粒子である{w
k|k−1,S (i,j),x
k|k−1,S (i,j)}
j=1,・・・,Jを算出する。識別番号iは、時刻k−1(前時刻)の観測対象候補と同一であるものとする。なお、||x||
2は、ベクトルxのユークリッドノルムである。β
k,FLS (InOut)およびd
Thは事前に設定されたパラメータであり、特に、β
k,FLS (InOut)は、入退検出センサが誤検出する確率である。
上記式(6)から上記式(11)までを用いて観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する処理は、識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布の平均位置HPosμk−1|k−1 (i)が、観測対象候補の退出を検出したn番目の入退検出センサ2−nが設置されたセンサ位置zn (InOut)に近くなるにつれて、識別番号iの観測対象候補の存在確率をβk,FLS (InOut)倍に減少させる処理に相当する。この処理により、入退検出センサ2−nによって検出された観測対象候補の退出を、観測対象候補の予測値に反映させることができる。
識別番号iの観測対象候補の存在確率をβk,FLS (InOut)倍することで、識別番号iの観測対象候補の存在確率に対して観測対象候補の退出(消失)を反映させたが、これに限定されるものではない。例えば、βk,FLS (InOut)=0として、上記式(9)に示すd(i,n)が閾値よりも小さい場合、消失予測部40が、識別番号iの観測値候補の存在確率および運動諸元確率分布(粒子)を削除してもよい。
なお、存在確率を減らす観測対象候補を、運動諸元確率分布の平均位置のみに基づいて選択する場合を示したが、これに限定されるものではない。例えば、消失予測部40は、運動諸元確率分布の平均速度ベクトルの方位角度と、入退検出センサが、観測領域から退出する観測対象候補を検出する方向の方位角度と、の差分を用いて、存在確率を減らす観測対象候補を選択してもよい。
ステップST4aにおいて、出現予測部41は、入退検出センサ2−nによって検出された入退検出データ、および上記式(2)で示した入退検出センサ2−nのセンサ位置に基づいて、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。
出現予測部41は、下記式(12)から下記式(16)までを用いて、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1,B (in)を算出し、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値を表す粒子である{w
k|k−1,B (in,j),x
k|k−1,B (in,j)}
j=1,・・・,Jを算出する。識別番号i
nは、n番目の入退検出センサ2−nの周辺に出現したと予測された観測対象候補の識別番号であり、既存の観測対象候補の識別番号と異なる値である。β
k,FLS (InOut)、V
B (3)およびV
B (4)は、事前設定パラメータであって、特に、β
k,FLS (InOut)は、入退検出センサが観測対象候補を誤検出する確率を示している。
上記式(12)から上記式(16)までを用いて存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する処理は、n番目の入退検出センサ2−nの設置位置を初期位置として新規の観測対象候補の粒子を生成し、生成した粒子のそれぞれの速度を一様分布の乱数として、存在確率と粒子の重み係数とを固有値とする識別番号inの観測対象候補を追加する処理に相当する。この処理により、時刻kに入退検出センサ2−nによって観測領域への進入が検出された観測対象候補の予測値が得られる。
なお、新たに出現した観測対象候補に関する粒子の初期速度を、上記式(15)および上記式(16)に示した0を中心とする一様分布の乱数としたが、n番目の入退検出センサ2−nが観測領域に進入する観測対象候補を検出する方向に偏った分布の乱数を用いてもよい。
ステップST5aにおいて、消失予測部40および出現予測部41は、入退検出センサ2−1〜2−Nから受信した時刻kにおけるN個の入退検出データのうち、観測領域に対する観測対象候補の進入または退出が検出された全てのデータを選択したか否かを判定する。未選択のデータがあると判定した場合(ステップST5a;NO)、消失予測部40および出現予測部41は、未選択の入退検出データを選択して、ステップST2aの処理に戻る。全てのデータを選択していれば(ステップST5a;YES)、ステップST6aの処理に移行する。
ステップST6aにおいて、移動予測部42は、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値と、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。
時刻k−1(前時刻)から時刻k(現時刻)までの間の観測対象候補の消失が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値をrk|k−1,S (is)で表す。時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値を{wk|k−1,S (is,j),xk|k−1,S (is,j)}j=1,・・・,Jで表す。iSは、消失予測部40によって算出された観測対象候補の識別番号とする。
さらに、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値をrk|k−1,B (iB)で表す。時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値を{wk|k−1,B (iB,j),xk|k−1,B (iB,j)}j=1,・・・,Jで表す。iBは、出現予測部41によって算出された観測対象候補の識別番号とする。
さらに、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の移動が反映された存在確率の予測値をrk|k−1 (i)で表す。時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の移動が反映された運動諸元確率分布の予測値を{wk|k−1 (i,j),xk|k−1 (i,j)}j=1,・・・,Jで表す。識別番号iは、識別番号iSと識別番号iBとの両方を含んだ識別番号とする。すなわち、識別番号iSの集合をLk|k−1,Sで表し、識別番号iBの集合をLk|k−1、Bで表した場合、識別番号iは、下記式(17)で定義される。
i∈Lk|k−1={Lk|k−1,S ∪ Lk|k−1,B} ・・・(17)
移動予測部42は、下記式(18)から下記式(21)までを用いて、観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1 (i)および観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値{w
k|k−1 (i,j),x
k|k−1 (i,j)}
j=1,・・・,Jを算出する。ただし、Φ
kは、等速直進運動の予測モデルに基づいて状態ベクトルを遷移させる行列である。τ
kは、時刻k−1から時刻kまでの経過時間である。Q
kは、等速直進運動の予測モデルの誤差を表すシステム雑音を示す行列であって、事前設定パラメータである。
これまで、ガウス分布に基づいた乱数が生成可能であることを前提として、存在確率の予測値と運動諸元確率分布の予測値とを算出する場合を示したが、これに限定されるものではない。例えば、既存の粒子フィルタにおける運動予測処理の概念を利用して、任意の確率分布関数(提案分布)から生成された乱数を状態ベクトルとする。提案分布において生成された乱数の確率と、等速直進運動における遷移確率とを比較した結果に基づいて、予測後の重み係数を算出してもよい。
ステップST7aにおいて、データ更新部43は、存在検出センサ3−1〜3−Mから受信した存在検出データおよびセンサ位置、および、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、時刻kにおける観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を算出(更新)する。このとき、データ更新部43は、複数の観測対象候補と複数の存在検出データとの複数通りの対応付けが反映された運動諸元確率分布を算出する。
図7は、図6のステップST7の詳細な処理を示すフローチャートである。
ステップST7a−1において、データ更新部43は、識別番号iの観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1 (i)のそれぞれの値に基づいて、識別番号の部分集合ごとの信頼度bk|k−1(I(λ))を算出する。λ=1,2,・・・,Λである。識別番号の部分集合I(λ)とは、0個以上の識別番号iから構成される集合である。例えば、i=1,2である場合、識別番号の部分集合I(λ)は、λ=1,2,3,4として、I(1)=φ、I(2)={1}、I(3)={2}、I(4)={1,2}の4通りとなる。ここで、φは空集合を表す。
データ更新部43は、下記式(22)を用いて、部分集合ごとの信頼度b
k|k−1(I
(λ))を算出する。下記式(22)において、L
k|k−1は、予測された観測対象候補の識別番号の集合である。下記式(22)の右辺における、L
k|k−1\I
(λ)は、集合L
k|k−1から集合I
(λ)の要素を除いた差集合を示している。
ステップST7a−2において、データ更新部43は、存在検出センサ3−1〜3−Mのうち、時刻kにおいて観測対象候補を検出した存在検出センサが設置されたセンサ位置{zk,m (Exist)}m∈M*、部分集合信頼度bk|k−1(I(λ))および識別番号iの運動諸元確率分布の予測値{wk|k−1 (i,j),xk|k−1 (i,j)}j=1,・・・,Jに基づいて、写像ごとの信頼度b’k|k(θk (λ,h))および写像ごとの識別番号iの運動諸元確率分布{w’k|k (i,j)(θk (λ,h)),xk|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jを算出する。なお、M*は、時刻kにおいて観測対象候補を検出した存在検出センサに付与された識別番号(以下、存在検出センサ番号と記載する)の集合である。また、信頼度および重み係数の記号に付けられたプライム(’)は、規格化される前の値であることを示している。規格化は、後述するステップST7a−3で説明する。
写像θk (λ,h)は、部分集合I(λ)の要素を、時刻kにおいて観測対象候補を検出した存在検出センサの存在検出センサ番号の少なくとも1つに対応付ける写像と定義する。これを数式で表現すると、下記式(23)のようになる。下記式(23)において、集合{0}への写像は、時刻kにおいて、観測対象候補がいずれの存在検出センサにも検出されなかったことを示す写像である。存在検出センサは、観測対象候補の個数に関わらず、検出範囲に観測対象候補が存在するか否かを示す存在検出データのみを出力するので、写像θk (λ,h)は必ずしも1対1の写像でなくともよい。
θk (λ,h):I(λ)→[{0} ∪ M*] ・・・(23)
データ更新部43は、下記式(24)、下記式(24a)および下記式(25)を用いて、写像ごとの信頼度b’
k|k(θ
k (λ,h))および写像ごとの識別番号iの運動諸元確率分布{w’
k|k (i,j)(θ
k (λ,h)),x
k|k (i,j)(θ
k (λ,h))}
j=1,・・・,Jを算出する。
上記式(24)、上記式(24a)および上記式(25)における変数は、下記式(26)、下記式(27)、下記式(28)および下記式(29)に従って算出される。下記式(27)におけるp
k,DTは、時刻kにおいて存在検出センサが検出失敗せずに観測対象候補を検出する確率である。β
k,FLS (Exist)は、時刻kにおいて存在検出センサが観測対象候補を誤検出する確率である。d
DTは、存在検出センサの検出範囲の半径である。πは円周率である。
ステップST7a−3において、データ更新部43は、ステップST7a−2で算出した、写像ごとの信頼度b’k|k(θk (λ,h))を規格化し、写像ごとの識別番号iの運動諸元確率分布における重み係数{w’k|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jを規格化する。
データ更新部43は、下記式(30)および下記式(31)を用いて、信頼度b’
k|k(θ
k (λ,h))を規格化し、写像ごとの識別番号iの運動諸元確率分布における重み係数{w’
k|k (i,j)(θ
k (λ,h))}
j=1,・・・,Jを規格化して、信頼度b
k|k(θ
k (λ,h))および重み係数{w
k|k (i,j)(θ
k (λ,h))}
j=1,・・・,Jを得る。
なお、H
λは、λ番目の部分集合I
(λ)における写像の総数である。
ステップST7a−4において、データ更新部43は、規格化された写像ごとの信頼度bk|k(θk (λ,h))および重み係数が規格化された写像ごとの識別番号iの運動諸元確率分布{wk|k (i,j)(θk (λ,h)),xk|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jに基づいて、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の存在確率rk|k (i)および識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布{wk|k (i,j),xk|k (i,j)}j=1,・・・,Jを算出する。
データ更新部43は、下記式(32)から下記式(34)までを用いて、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の存在確率r
k|k (i)および識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布{w
k|k (i,j),x
k|k (i,j)}
j=1,・・・,Jを算出する。下記式(33)の“for λ,h s.t.i∈I
(λ),h=1,・・・,H
λ”という条件は、“λは要素iを持つI
(λ)を与え、hは1以上H
λ以下の整数であること”を示している。
図6の説明に戻る。
ステップST8aにおいて、推定部44は、時刻k(現時刻)における観測対象候補のうちのいずれか1つを選択して入力する。これにより、観測対象候補を選択して処理するループが開始される。以降では、識別番号iの観測対象候補が選択された場合を例に挙げて説明する。
次に、推定部44は、下記式(35)に従い、ステップST8aで選択した識別番号iの観測対象候補の存在確率rk|k (i)が閾値rThよりも大きいか否かを判定する(ステップST9a)。観測対象候補の存在確率の閾値rThは、事前設定パラメータである。
rk|k (i)>rTh ・・・(35)
識別番号iの観測対象候補の存在確率rk|k (i)が閾値rThよりも大きいと判定された場合(ステップST9a;YES)、ステップST10aの処理に移行する。
一方、識別番号iの観測対象候補の存在確率rk|k (i)が閾値rTh以下であれば(ステップST9a;NO)、ステップST11aの処理に移行する。
ステップST10aにおいて、推定部44は、時刻kにおける、識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布に基づいて、当該観測対象候補に対応する観測対象の運動諸元を推定する。例えば、推定部44は、識別番号iの観測対象候補に対応する観測対象の運動諸元推定値μ
k (i)を、下記式(36)に従って算出する。
移動経路保存部5には、異なる時刻フレームに保存された識別番号が同一の運動諸元推定値同士が時系列順に保存される。これにより、運動諸元推定値は、観測対象の推定された移動経路として移動経路保存部5に保存される。なお、移動経路保存部5には、観測対象の位置以外の運動諸元も保存され、移動経路保存部5に保存されたデータは、利用者からの要求に応じて抽出される。
ステップST11aにおいて、推定部44は、時刻kにおける、全ての観測対象候補を選択したか否かを確認する。このとき、未選択の観測対象候補があれば(ステップST11a;NO)、ステップST9aの処理に戻る。一方、全ての観測対象候補が選択されていた場合(ステップST11a;YES)、図6の一連の処理が終了される。
なお、運動諸元確率分布を有限個の粒子によって表す場合、粒子の個数が少ないほど、運動諸元確率分布の微小な勾配を表現することができず、粒子の分布が過剰に偏りやすくなることが知られている。過剰な粒子の偏りを軽減するため、図6に示した現時刻(時刻k)における全てのステップの処理が完了した後に、観測対象候補の運動諸元確率分布の粒子を再構成する処理を追加してもよい。粒子を再構成する方法としては、リサンプリング、または、マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)ムーブといった手法がある。
以上のように、実施の形態1に係る移動経路推定装置4は、観測対象候補の消失および出現が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、観測時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を更新する。移動経路推定装置4は、更新した観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、観測対象の移動経路を示す運動諸元推定値を算出する。このように、移動経路推定装置4は、観測対象候補の消失および出現を予測して、個数が未知の観測対象の移動経路を推定することができる。移動経路推定装置4が観測対象候補の消失および出現を予測することで、観測対象候補の個数の範囲が絞り込まれる。これにより、観測領域に真に存在する観測対象候補を判定するときの演算規模は、絞り込まれた観測対象候補の個数の範囲に依存する。例えば、非特許文献1に記載される技術を適用した移動経路推定装置を並列に接続した場合、移動経路の推定処理に要する演算規模は、観測対象候補の最大個数に依存することになる。これに対し、移動経路推定装置4では、絞り込まれた観測対象候補の個数の範囲に依存した演算規模になるため、個数が未知の観測対象の移動経路をより少ない演算規模で推定することが可能である。
また、実施の形態1に係る移動経路推定装置4において、消失予測部40が、入退検出データ、センサ位置、前時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。出現予測部41が、入退検出データおよびセンサ位置に基づいて、前時刻から現時刻までの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。このように、移動経路推定装置4は、前時刻よりも過去のデータを用いることなく、前時刻における処理結果、現時刻における入退検出データ、現時刻における存在検出データおよびセンサ位置に基づいて、現時刻における移動経路の推定が可能である。消失予測部40が、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された予測値を算出したときに、予測値の算出に用いた前時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を削除することができるので、記憶装置102の使用容量を節約することができる。同様に、出現予測部41が、前時刻から現時刻までの間に出現した観測対象候補の予測値を算出したときに、予測値の算出に用いた前時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を削除することができるので、記憶装置102の使用容量を節約することができる。
さらに、実施の形態1に係る移動経路推定装置4において、消失予測部40は、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値を、入退検出センサが観測対象候補を誤検出する確率βk,FLS (InOut)を用いて算出する。出現予測部41は、現時刻に出現した観測対象候補の存在確率の予測値を、入退検出センサが観測対象候補を誤検出する確率βk,FLS (InOut)を用いて算出する。このように構成することで、消失予測部40および出現予測部41は、入退検出センサによって観測対象候補の観測領域からの退出または観測領域への進入が誤検出された場合であっても、観測対象候補が誤検出である可能性を含む存在確率の予測値を算出することができる。これにより、実際には存在しないが誤検出された観測対象候補について、移動経路が推定されることを防ぐことができる。
さらに、実施の形態1に係る移動経路推定装置4において、データ更新部43は、現時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を、存在検出センサが観測対象候補を誤検出する確率βk,FLS (Exist)および存在検出センサが検出に失敗せずに観測対象候補を検出する確率pk,DTを用いて算出する。データ更新部43は、予測値と整合する存在検出データが検出された場合であっても、存在検出データが誤検出である可能性を含む存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。これにより、推定した移動経路が誤検出された観測対象候補の方向にずれることが防止される。また、データ更新部43が確率pk,DTを用いることによって、予測値に整合する存在検出データが検出されなかった場合であっても、観測対象候補の検出失敗の可能性を含む存在確率および運動諸元確率分布が算出される。これにより、推定した移動経路が、部分的に途切れる、または別の観測対象候補が検出された方向にずれることが防止される。
さらに、実施の形態1に係る移動経路推定装置4において、移動予測部42が、消失予測部40および出現予測部41によって算出された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。このように、移動予測部42が、観測対象候補の移動に関する予測モデルの誤差を含む運動諸元確率分布の予測値を算出するので、実際の観測対象候補の移動が予測モデルから外れた場合であっても、運動諸元確率分布の予測誤差を考慮することで、移動経路の推定誤差の増加を抑えることができる。
例えば、等速直進運動の予測モデルに対して、実際の観測対象候補が停止または旋回を行った場合であっても、移動予測部42は、予測モデルの誤差に応じた広がりをもつ確率密度関数から粒子を算出する。これにより、観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値に対して予測モデルの誤差を反映させることができる。データ更新部43は、等速直進運動の予測値から外れた位置で観測対象候補が検出されても、予測値から外れた粒子の重み係数を増加させて観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を更新する。このため、推定部44は、予測モデルの誤差が修正された移動経路の推定値(運動諸元推定値)を算出することができる。
さらに、実施の形態1に係る移動経路推定装置4において、データ更新部43が、複数の観測対象候補と複数の存在検出データとが対応付けられる可能性が反映された運動諸元確率分布を算出する。これにより、観測領域内の観測対象候補同士が接近または移動経路が交差する場合であっても、観測対象候補の運動諸元確率分布において、存在検出データと観測対象候補との整合性が低い対応付けには低い確率となる。このため、観測対象候補同士の移動経路が誤って入れ替わる頻度が低減する。
実施の形態1に係る移動経路推定システム1は、入退検出センサ2−1〜2−Nおよび存在検出センサ3−1〜3−Mを備える。入退検出センサ2−1〜2−Nは、観測領域内の検出範囲を通過した観測対象候補が通過方向ごとに検出された入退検出データを移動経路推定装置4に送信し、存在検出センサ3−1〜3−Mは、検出範囲に存在する観測対象候補が検出された存在検出データを移動経路推定装置4に送信する。このように構成することで、センサと移動経路推定装置との通信容量の増加を抑えることができる。
例えば、入退検出センサ2−1〜2−Nがカメラであり、存在検出センサ3−1〜3−Mが測距センサである場合、入退検出センサ2−1〜2−Nは、カメラで撮影された映像を送信する代わりに、検出範囲を通過した観測対象候補が通過方向ごとに検出された入退検出データを送信すればよい。存在検出センサ3−1〜3−Mは、測距データを送信する代わりに、検出範囲に存在する観測対象候補が検出された存在検出データを送信すればよい。これにより、センサの検出データをより少ない通信容量で移動経路推定装置4に送信することができる。また、個人情報保護の観点からセンサとして撮影装置を設置することができない場合であっても、移動経路推定システム1は、顔、服装といった個人情報を検出せずに、観測対象の移動経路を推定することが可能である。
また、入退検出センサ2−1〜2−Nおよび存在検出センサ3−1〜3−Mは、入退検出データおよび存在検出データを検出可能なセンサであればよいため、高機能なセンサでなくてもよい。また、観測対象にセンサを設ける必要がない。例えば、データ更新部43は、存在検出データの個数が多いほど、観測対象候補の運動諸元を絞り込むことができる。このため、移動経路推定システム1は、低精度の存在検出センサを多数備えることで、高精度のセンサを多数備えたシステムと同程度の推定精度を実現することができる。
実施の形態2.
実施の形態1では、入退検出センサによって観測対象候補の個数が検出されないため、入退検出センサによる1回の観測(1時刻フレームでの観測)で誤った個数の観測対象候補が検出される場合がある。例えば、入退検出センサは、観測時間よりも短い時間で複数の観測対象候補が検出範囲に移動してくると、複数の観測対象候補のそれぞれを正確に検出できずに、1つの観測対象候補と誤検出されることがある。この場合、観測対象候補の個数が過小であるため、観測対象の移動経路の推定精度が劣化する。そこで、実施の形態2に係る移動経路推定装置は、観測対象候補の個数を考慮した移動経路の推定を行う。
図8は、実施の形態2に係る移動経路推定システム1Aの構成を示すブロック図である。図8において、図1と同一構成要素には同一符号を付して説明を省略する。移動経路推定システム1Aは、N(Nは2以上の整数)個の入退検出センサ2A−1〜2A−N、M(Mは2以上の整数)個の存在検出センサ3−1〜3−M、移動経路推定装置4A、および移動経路保存部5を備える。移動経路推定装置4Aは、消失予測部40A、出現予測部41A、移動予測部42、データ更新部43および推定部44を備える。
入退検出センサ2A−1〜2A−Nは、観測領域に設けられて、入退検出データを検出するセンサであり、光学カメラ、赤外線センサ、および測距センサなどのセンサによって実現される。入退検出データには、観測領域内の検出範囲を通過した観測対象候補が通過方向ごとに検出されたデータの他に、個数データも含まれる。個数データは、入退検出センサによる1回の観測で検出範囲を通過した観測対象候補の個数が検出されたデータである。例えば、入退検出センサは、測距データと閾値との比較結果に基づいて、検出範囲に存在した観測対象候補の個数を検出してもよく、検出範囲の撮影画像を画像解析して観測対象候補の個数を検出してもよい。
消失予測部40Aは、個数データを含む入退検出データ、入退検出センサ位置、および前時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。出現予測部41Aは、個数データを含む入退検出データおよび入退検出センサ位置に基づいて、前時刻から現時刻までの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。
入退検出センサ2A−1〜2A−Nは、図4Aおよび図4Bに示したセンサ群100によって実現される。また、移動経路推定装置4Aにおける、消失予測部40A、出現予測部41A、移動予測部42、データ更新部43、および推定部44のそれぞれの機能は、処理回路によって実現される。すなわち、移動経路推定装置4Aは、図9を用いて後述するステップST1bからステップST11bまでの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアの処理回路103であってもよいが、メモリ105に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ104であってもよい。
次に動作について説明する。
図9は、移動経路推定装置4Aの動作を示すフローチャートである。図9のステップST1b、ステップST2b、ステップST5bからステップST11bの処理は、図6のステップST1a、ステップST2a、ステップST5aからステップST11aの処理と同様であるので説明を省略する。以降の説明においても、図6と同様に、運動諸元確率分布fk|k (i)(x)を、重み付けされた粒子の集合で近似することを前提とする。記号および添え字のうち、説明がないものは、実施の形態1と同一の意味である。以降では、現時刻にn番目の入退検出センサ2A−nによって検出された観測対象候補のうち、検出範囲に進入する方向に移動してきた観測対象候補の個数をνn +とし、検出範囲から退出する方向に移動した観測対象候補の個数をνn −とする。
ステップST3bにおいて、消失予測部40Aは、n番目の入退検出センサ2A−nによって検出された観測対象候補の数(個数データ)を含む入退検出データ、入退検出センサ2A−nが設置されたセンサ位置、および時刻k−1における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。
なお、消失予測部40Aが、ステップST3bの処理を1回目に行う場合、時刻k−1における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を用いる。2回目以降にステップST3bの処理を行う場合、消失予測部40Aは、直前のステップST3bで算出した存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を用いる。
消失予測部40Aは、下記式(37)および上記式(7)から下記式(11)までを用いて、時刻k−1から時刻kまでの観測対象候補の消失が反映された、識別番号iの観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1,S (i)を算出し、時刻k−1から時刻kまでの観測対象候補の消失が反映された識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値を表す粒子である{w
k|k−1,S (i,j),x
k|k−1,S (i,j)}
j=1,・・・,Jを算出する。なお、識別番号iは、時刻k−1(前時刻)の観測対象候補と同一であるものとする。||x||
2は、ベクトルxのユークリッドノルムであり、β
k,FLS (InOut)は事前に設定されたパラメータであり、入退検出センサが誤検出する確率を示している。d
Th(ν
n −)は、上記式(9)に示したd
(i,n)を識別番号iに関して昇順に並べたときのν
n −番目の値である。観測対象候補の数がν
n −よりも小さい場合、d
Th(ν
n −)はd
(i,n)の最大値となる。
上記式(7)から上記式(11)と上記式(37)を用いて観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する処理は、識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布の平均位置HPosμk−1|k−1 (i)と、観測対象候補の退出を検出したn番目の入退検出センサ2A−nが設置されたセンサ位置zn (InOut)との近さに関する、上位νn −個の識別番号iの観測対象候補の存在確率をβk,FLS (InOut)倍に減少させる処理に相当する。この処理により、入退検出センサ2A−nによって検出された観測対象候補の退出を、観測対象候補の予測値に反映させることができる。
これまで、識別番号iの観測対象候補の存在確率をβk,FLS (InOut)倍することで、識別番号iの観測対象候補の存在確率に対して観測対象候補の退出(消失)が反映されたが、これに限定されるものではない。例えば、βk,FLS (InOut)=0とした場合、上記式(9)で示すd(i,n)が閾値よりも小さい場合、消失予測部40Aは、識別番号iの観測値候補の存在確率および運動諸元確率分布(粒子)を削除してもよい。
なお、運動諸元確率分布の平均位置のみに基づいて、存在確率を減らす観測対象候補が選択される場合を示したが、これに限定されるものではない。例えば、消失予測部40Aは、運動諸元確率分布の平均速度ベクトルの方位角度と、入退検出センサが、観測領域から退出する観測対象候補を検出する方向の方位角度と、の差分を用いて、存在確率を減らす観測対象候補を選択してもよい。
ステップST4bにおいて、出現予測部41Aは、入退検出センサ2A−nによって検出された観測対象候補の数(個数データ)を含む入退検出データおよび入退検出センサ2A−nのセンサ位置に基づいて、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。
出現予測部41Aは、上記式(12)から上記式(16)までを用いて、時刻k−1から時刻kまでに出現した観測対象候補の存在確率の予測値{rk|k−1,B (in)}in∈Lnを算出し、時刻k−1から時刻kまでに出現した観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値を表す粒子である{wk|k−1,B (in,j),xk|k−1,B (in,j)}in∈Ln,j=1,・・・,Jを算出する。集合Lnは、n番目の入退検出センサ2A−nの周辺に出現したと予測された観測対象候補の識別番号inを要素とする集合であり、集合Lnの要素のそれぞれは既存の識別番号のいずれとも異なる値である。集合Lnの要素の個数はνn +個である。
上記式(12)から上記式(16)を用いて、識別番号inの観測対象候補の存在確率の予測値{rk|k−1,B (in)}in∈Lnおよび識別番号inの観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値{wk|k−1,B (in,j),xk|k−1,B (in,j)}in∈Ln,j=1,・・・,Jを算出する処理は、n番目の入退検出センサ2A−nの設置位置を初期位置として新規の観測対象候補の粒子を生成し、生成した粒子のそれぞれの速度が一様分布の乱数であるものとして、存在確率と粒子の重み係数を固有値とした観測対象候補を、νn +個追加する処理に相当する。この処理により、時刻kにおいて入退検出センサ2−nによって観測領域への進入が検出された観測対象候補の予測値が得られる。
なお、新たに出現した観測対象候補に関する粒子の初期速度を、上記式(15)および上記式(16)に示した0を中心とする一様分布の乱数としたが、入退検出センサ2A−nが、観測領域に進入する観測対象候補を検出する方向に偏った分布の乱数を用いてもよい。
以上のように、実施の形態2に係る移動経路推定装置4Aにおいて、消失予測部40Aが、観測対象候補の数を含む入退検出データ、入退検出センサ位置、および前時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。出現予測部は41Aが、観測対象候補の数を含む入退検出データおよび入退検出センサ位置に基づいて、前時刻から現時刻までの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。このように構成することで、移動経路推定装置4Aは、入退検出センサ2A−1〜2A−Nのそれぞれの1回の観測中に複数の観測対象候補が検出範囲に進入してきても、観測対象候補の個数が過大または過小に推定されることなく移動経路を推定することが可能となる。これにより、移動経路推定装置4Aは、複数の観測対象候補が互いに異なる経路で移動しても、複数の観測対象候補のそれぞれの移動経路を正確に推定できる。また、消失予測部40Aが、観測領域から退出する観測対象候補の数分の存在確率を、βk,FLS (InOut)倍に減少させる。これにより、観測領域から退出する観測対象候補を検出した入退検出センサの検出範囲に実際には退出していない別の観測対象候補が存在する場合であっても、観測領域から退出していない観測対象候補が誤って削除される頻度が減少する。また、観測領域から実際に退出した観測対象候補が複数存在する場合であっても、一部の観測対象候補が削除されずに残存し続ける頻度が減少する。
実施の形態3.
実施の形態1では、観測領域内の任意の位置に観測対象候補が存在できることを前提として、観測対象候補の移動経路を推定していた。しかしながら、実際には、障害物、境界の仕切り壁などによって観測領域内に観測対象候補が進入できない領域が存在する場合がある。この場合、実施の形態1に係る移動経路推定装置では、観測対象候補が進入できない領域への観測対象候補の移動も予測される。このため、観測対象候補が進入できない領域が観測領域内に存在しない場合に比べて、観測対象候補の移動が反映された予測値に基づいて推定された運動諸元と真の移動経路を示す運動諸元との間の誤差が増大する可能性がある。そこで、実施の形態3に係る移動経路推定装置は、観測対象候補が進入できない領域を考慮した移動経路の推定を行う。
図10は、実施の形態3に係る移動経路推定システム1Bの構成を示すブロック図である。図10において、図1と同一構成要素には同一符号を付して説明を省略する。移動経路推定システム1Bは、N(Nは2以上の整数)個の入退検出センサ2−1〜2−N、M(Mは2以上の整数)個の存在検出センサ3−1〜3−M、移動経路推定装置4Bおよび移動経路保存部5を備える。移動経路推定装置4Bは、消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42A、データ更新部43、推定部44およびデータ保存部45を備える。
移動予測部42Aは、データ保存部45に保存された領域データ、および、消失予測部40および出現予測部41によってそれぞれ算出された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。データ保存部45には、進入不可領域データが保存される。進入不可領域データは、観測領域のうち、観測対象候補が存在し得ない領域を示すデータである。
図11は、実施の形態3における観測領域10Aの例を示す図である。図11に示す観測領域10Aには、仕切り壁で囲まれた進入不可領域14が設けられている。進入不可領域14には、観測対象候補が進入することができない。この進入不可領域14を示す進入不可領域データは、G個のベクトル値γgから構成されており、g=1,2,・・・,Gである。
ベクトルγgのそれぞれは、X軸に平行な辺とY軸に平行な辺とを有する四角形の進入不可領域14の位置および大きさを示すベクトル値であり、下記式(38)に示す4つの要素から構成されている。下記式(38)において、γg,minXは、進入不可領域14の四隅の位置のうち、最小のX座標値を示しており、γg,minYは、進入不可領域14の四隅の位置のうち、最小のY座標値を示している。γg,ΔXは、進入不可領域14のX軸に平行な辺の長さを示しており、γg,ΔYは、進入不可領域14のY軸に平行な辺の長さを示している。すなわち、下記式(38)では、進入不可領域14が、1つの四角形の位置と大きさを示すγgがG個組み合わされて表現されている。
γg=[γg,minX γg,minY γg,ΔX γg,ΔY] (38)
また、任意の状態ベクトルxに対して、下記式(39)で示す判定関数を定義する。
x
(1)およびx
(2)の定義は上記式(1)と同じである。判定関数Γ
g(x)は、状態ベクトルxが進入不可領域14の内部であれば“1”となり、進入不可領域14の外部であれば“0”となる関数である。
図11では、進入不可領域14の形状を四角形の組み合わせで表現したが、円形、三角形などの四角形以外の形状で表現してもよい。また、進入不可領域14を位置と大きさで表現する代わりに、進入不可領域14の四隅の位置ベクトルまたは進入不可領域14の境界線で表現してもよい。
データ保存部45は、図4Aおよび図4Bに示した記憶装置102により実現される。また、移動経路推定装置4Bにおける、消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42A、データ更新部43および推定部44のそれぞれの機能は、処理回路により実現される。すなわち、移動経路推定装置4Bは、図12を用いて後述するステップST1cからステップST11cまでの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアの処理回路103であってもよいが、メモリ105に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ104であってもよい。なお、データ保存部45は、移動経路推定装置4Bとは別に設けられた記憶装置に構築してもよい。この場合、移動予測部42Aは、移動経路推定装置4Bとは別に設けられた記憶装置と通信して、当該記憶装置から進入不可領域データを取得する。
次に動作について説明する。
図12は、移動経路推定装置4Bの動作を示すフローチャートである。図12のステップST1cからステップST5cおよびステップST7cからステップST11cの処理は、図6のステップST1aからステップST5aおよびステップST7aからステップST11aの処理と同様であるので説明を省略する。以降の説明においても、図6と同様に、運動諸元確率分布fk|k (i)(x)を、重み付けされた粒子の集合で近似することを前提とする。また、記号および添え字のうち、説明がないものは、実施の形態1と同一の意味である。
ステップST6cにおいて、移動予測部42Aは、進入不可領域データ、および、観測対象候補の消失が反映された存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、時刻k−1から時刻kまで間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。
移動予測部42Aは、時刻k−1から時刻kまでの観測対象候補の消失が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1,S (is)と運動諸元確率分布の予測値{wk|k−1,S (is,j),xk|k−1,S (is,j)}j=1,・・・,J、時刻k−1から時刻kまでに出現した観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1,B (iB)と運動諸元確率分布の予測値{wk|k−1,B (iB,j),xk|k−1,B (iB,j)}j=1,・・・,J、および、進入不可領域データに基づいて、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の移動が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1 (i)および運動諸元確率分布の予測値{wk|k−1 (i,j),xk|k−1 (i,j)}j=1,・・・,Jを算出する。iSは、ステップST3cで予測値が算出された観測対象候補の識別番号である。iBは、ステップST4cで予測値が算出された観測対象候補の識別番号である。識別番号iは、iSとiBとの両方を含む識別番号である。iは、上記式(17)で定義される。
さらに、移動予測部42Aは、上記式(18)、上記式(20)、上記式(21)および下記式(40)を用いて、観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1 (i)および運動諸元確率分布の予測値{w
k|k−1 (i,j),x
k|k−1 (i,j)}
j=1,・・・,Jを算出する。移動予測部42Aは、上記式(18)、上記式(20)および上記式(21)を用いて、観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1 (i)および粒子状態x
k|k−1 (i,j)を算出する。続いて、移動予測部42Aは、下記式(40)を用いて、重み係数w
k|k−1 (i,j)を算出する。L
k|k−1,Sは識別番号i
Sの集合であり、L
k|k−1,Bは識別番号i
Bの集合である。
これまで、ガウス分布に基づいた乱数が生成可能であることを前提として、存在確率の予測値と運動諸元確率分布の予測値とを算出する場合を示したが、これに限定されるものではない。例えば、既存の粒子フィルタにおける運動予測処理の概念を利用して、任意の確率分布関数(提案分布)から生成された乱数を状態ベクトルとする。提案分布において生成された乱数の確率と、等速直進運動における遷移確率とを比較した結果に基づいて、予測後の重み係数を算出してもよい。また、乱数によって生成された粒子の状態ベクトルの位置成分が、進入不可領域14の内部であった場合にその粒子の重み係数を0とした。この他に、進入不可領域14の内部の粒子が生成されたときにその粒子を削除して、改めて、上記式(20)および上記式(40)によって粒子を生成してもよい。
以上のように、実施の形態3に係る移動経路推定装置4Bにおいて、移動予測部42Aは、観測領域のうち、観測対象候補が存在し得ない進入不可領域14を示す進入不可領域データ、および、消失予測部40および出現予測部41によってそれぞれ算出された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値を算出する。このように構成することで、移動予測部42Aが、観測対象候補の運動諸元確率分布が進入不可領域14の外側に限定されるように観測対象候補の移動を予測する。これにより、観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値がとり得る範囲の広がりが抑えられ、この予測値に基づいた移動経路の推定精度が向上する。
例えば、観測領域が室内であり、室内の歩行者が観測対象である場合に、室内に歩行者が歩く通路が存在すれば、歩行者が時刻フレーム間に移動する範囲は、通路がない室内に比べて絞り込まれる。実施の形態3に係る移動経路推定装置4Bは、通路以外の領域を示す進入不可領域データを用いることで、通路内部に絞り込まれた観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値を算出することができる。
また、観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値が絞り込まれると、存在検出データが移動経路の推定精度に与える影響が小さくなる。このため、同一の精度で移動経路を推定するときに必要な存在検出センサの個数が削減される。例えば、観測領域が室内であり、室内の歩行者が観測対象であり、室内にT字の通路が存在する場合、歩行者がT字の通路を曲がる動きは、速度および加速度の変動が大きく、等速直進運動または等角速度旋回運動を示す予測モデルを用いた予測が困難である。
これに対し、実施の形態3に係る移動経路推定装置4Bは、通路以外の領域を示す進入不可領域データを用いることで、T字の通路の内部に絞り込まれた観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値を算出する。これにより、運動諸元確率分布の予測値がT字の通路の内部に限定されるため、観測対象がT字の通路を曲がるといった急激な運動をする場合においても、運動諸元確率分布の予測値と存在検出データとの残差が小さくなり、結果として推定軌道の誤差の増加を抑えることができる。実施の形態3に係る移動経路推定装置4Bは、実施の形態1に係る移動経路推定装置4よりも少ない存在検出センサの個数で同じ精度の移動経路の推定を行うことができる。
実施の形態4.
実施の形態1では、観測対象候補が互いに接近しかつ予測モデルから外れた動きである場合、一方の観測対象候補の移動経路と他方の観測対象候補の移動経路が入れ替わる場合がある。例えば、2つの観測対象候補のそれぞれの移動経路が接近し、互いの移動経路が交差せず、かつ観測対象候補が旋回しながら離れる場合、等速直進運動の予測モデルが採用されていると、2つの観測対象候補の移動経路が交差して推定される可能性がある。
そこで、実施の形態4に係る移動経路推定装置は、観測対象候補の属性を基準に含めた移動経路の推定を行う。
図13は、実施の形態4に係る移動経路推定システム1Cの構成を示すブロック図である。図13において、移動経路推定システム1Cは、N(Nは2以上の整数)個の入退検出センサ2B−1〜2B−N、M(Mは2以上の整数)個の存在検出センサ3A−1〜3A−M、移動経路推定装置4Cおよび移動経路保存部5Aを備える。移動経路推定装置4Cは、消失予測部40B、出現予測部41B、移動予測部42B、データ更新部43Aおよび推定部44Aを備える。
入退検出センサ2B−1〜2B−Nは、観測領域に設けられて、入退検出データを検出するセンサであり、光学カメラ、赤外線センサ、および測距センサなどのセンサによって実現される。入退検出データには、観測領域内の検出範囲を通過した観測対象候補が通過方向ごとに検出されたデータの他に、属性検出データも含まれる。属性検出データは、入退検出センサによって検出された観測対象候補の属性を示すデータである。
観測対象候補の“属性”は、観測対象候補の物体の態様を示す情報であって、例えば、観測対象候補の大きさ、形状、光の反射強度、色彩、周期的な運動、音声、臭気、および付属する物体といった情報が挙げられる。なお、これらの情報は、個々の観測対象候補に固有な情報でなくてもよい。観測対象候補の属性は、数値化された情報(以下、属性値と記載する)で扱われる。入退検出センサ2B−1〜2B−Nは、属性検出データを含む入退検出データおよびセンサ位置を観測時刻ごとに消失予測部40Bおよび出現予測部41Bに送信する。
存在検出センサ3A−1〜3A−Mは、観測領域に設けられて、存在検出データを検出するセンサであって、光学カメラ、赤外線センサ、測距センサ、振動センサ、マイクロフォンおよび熱検知センサなどのセンサにより実現される。存在検出データには、検出範囲に存在する観測対象候補が検出されたデータの他に、上記属性検出データも含まれる。存在検出センサ3A−1〜3A−Mは、上記属性検出データを含む存在検出データおよびセンサ位置をデータ更新部43Aに送信する。
消失予測部40Bは、入退検出センサ2B−1〜2B−Nのそれぞれから入力した属性検出データを含む入退検出データおよびセンサ位置、データ更新部43Aから入力した前時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値と、予測値に対応する観測対象候補の属性を示す属性値を算出する。消失予測部40Bによって算出された観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および属性値は、移動予測部42Bに出力される。
出現予測部41Bは、入退検出センサ2B−1〜2B−Nのそれぞれから入力した属性検出データを含む入退検出データおよびセンサ位置に基づいて、前記時刻から現時刻までの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および予測値に対応する観測対象候補の属性を示す属性値を算出する。出現予測部41Bによって算出された観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および属性値は、移動予測部42Bに出力される。
移動予測部42Bは、消失予測部40Bおよび出現予測部41Bによってそれぞれ算出された観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および予測値に対応する観測対象候補の属性を示す属性値に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の移動が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および予測値に対応する観測対象候補の属性を示す属性値を算出する。移動予測部42Bによって算出された観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および属性値は、データ更新部43Aに出力される。
データ更新部43Aは、存在検出センサ3A−1〜3A−Mのそれぞれから入力した属性検出データを含む存在検出データおよびセンサ位置、および、消失予測部40Bと出現予測部41Bとから入力した観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および予測値に対応する観測対象候補の属性を示す属性値に基づいて、前時刻における観測対象候補の存在確率、運動諸元確率分布および属性値を算出する。データ更新部43Aは、現時刻における、1つまたは複数の観測対象候補の存在確率、運動諸元確率分布および属性値を算出して、算出した存在確率、運動諸元確率分布および属性値を、推定部44Aおよび次の時刻フレームの予測を行う消失予測部40Bに出力する。
推定部44Aは、データ更新部43Aから入力した観測対象候補の存在確率、運動諸元確率分布および属性値に基づいて、現時刻に観測対象が観測領域に存在するか否かを推定し、現時刻に存在すると推定した観測対象の運動諸元推定値および属性値を算出する。観測対象の運動諸元推定値および属性値は、推定部44Aによって移動経路保存部5Aに出力されて保存される。
移動経路保存部5Aに観測時刻ごとに保存された観測対象の運動諸元推定値が時系列に並べられたデータが、観測対象の移動経路を示すデータとなる。移動経路保存部5Aは、移動経路推定装置4Cの利用者からの要求に応じて、観測対象の移動経路を示すデータまたは観測対象の属性を出力する。
入退検出センサ2B−1〜2B−Nは、図4Aおよび図4Bに示したセンサ群100によって実現される。存在検出センサ3A−1〜3A−Mは、センサ群101によって実現される。移動経路保存部5Aは、図4Aおよび図4Bに示した記憶装置102によって実現される。移動経路推定装置4Cにおける、消失予測部40B、出現予測部41B、移動予測部42B、データ更新部43Aおよび推定部44Aのそれぞれの機能は、処理回路により実現される。すなわち、移動経路推定装置4Cは、図14を用いて後述するステップST1dからステップST11dまでの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアの処理回路103であってもよいが、メモリ105に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ104であってもよい。
次に動作について説明する。
図14は、移動経路推定装置4Cの動作を示すフローチャートである。図14のステップST1d、ステップST2d、ステップST5d、ステップST8d、ステップST9dおよびステップST11dの処理は、図6のステップST1a、ステップST2a、ステップST5a、ステップST8a、ステップST9aおよびステップST11aと同様であるので説明を省略する。以降の説明においても、図6と同様に、運動諸元確率分布fk|k (i)(x)を、重み付けされた粒子の集合で近似することを前提とする。また、記号および添え字のうち、説明がないものは、実施の形態1と同一の意味である。時刻k(現時刻)にn(n=1,2,・・・,N)番目の入退検出センサ2B−nによって検出された属性検出データを、ck,n (InOut)とし、時刻kにm(m=1,2,・・・,M)番目の存在検出センサ3A−mによって検出された属性検出データをck,m (Exist)とする。時刻kにおける識別番号iの観測対象候補に対応する属性値をck|k (i)とする。なお、属性値をスカラー値としたが、複数の属性値を組み合わせて観測対象候補の属性を表現する場合は、属性値のそれぞれをベクトル値としてもよい。
ステップST3dにおいて、消失予測部40Bは、n番目の入退検出センサ2B−nによって検出された属性検出データck,n (InOut)を含む入退検出データ、センサ位置、および、時刻k−1における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および予測値に対応する観測対象候補の属性値を算出する。
なお、消失予測部40Bが、ステップST3dの処理を1回目に行う場合、時刻k−1における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を用いる。2回目以降にステップST3dの処理を行う場合、消失予測部40Aは、直前のステップST3dで算出した存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および属性値を用いる。
例えば、消失予測部40Bは、上記式(7)、上記式(8)、上記式(11)、下記式(41)から下記式(44)までを用いて、時刻k−1から時刻kまでの観測対象候補の消失が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1,S (i)、運動諸元確率分布の予測値を示す粒子である{w
k|k−1,S (i,J),x
k|k−1,S (i,J)}
j=1,・・・,J、および、これらの予測値に対応する観測対象候補の属性を示す属性値c
k|k−1,S (i)を算出する。識別番号iは、時刻k−1の観測対象候補と同一である。||x||
2はベクトルxのユークリッドノルムである。β
k,FLS (InOut)およびd
Thは、事前設定パラメータであり、特に、β
k,FLS (InOut)は、入退検出センサが誤検出する確率である。
上記式(7)、上記式(8)、上記式(11)、上記式(41)から上記式(44)を用いて、観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値、およびこれらの予測値に対応する観測対象候補の属性値を算出する処理は、識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布の平均位置HPosmk−1|k−1 (i)が、観測対象候補の退出を検出したn番目の入退検出センサ2B−nが設置されたセンサ位置zn (InOut)に近く、かつ、識別番号iの観測対象候補の属性値が示す属性と入退検出センサ2B−nによって検出された属性検出データが示す属性とが同一であれば、識別番号iの観測対象候補の存在確率をβk,FLS (InOut)倍に減少させる処理に相当する。この処理により、入退検出センサ2B−nによって検出された観測対象候補の退出を、観測対象候補の予測値に反映させることができる。
なお、上記説明では、観測対象候補の存在確率をβk,FLS (InOut)倍して観測対象候補の退出を反映させる場合を示したが、これに限定されるものではない。
例えば、βk,FLS (InOut)=0として、上記式(43)に示すd(i,n)が閾値よりも小さい場合に、消失予測部40Bが、識別番号iの観測値候補の存在確率および運動諸元確率分布(粒子)を削除してもよい。
また、存在確率を減らす観測対象候補を、運動諸元確率分布の平均位置のみに基づいて選択する場合を示したが、これに限定されるものではない。例えば、消失予測部40Bは、運動諸元確率分布の平均速度ベクトルの方位角度と、入退検出センサが、観測領域から退出する観測対象候補を検出する方向の方位角度と、の差分を用いて、存在確率を減らす観測対象候補を選択してもよい。
ステップST4dにおいて、出現予測部41Bは、n番目の入退検出センサ2B−nによって検出された属性検出データck,n (InOut)を含む入退検出データ、および上記式(2)で示した入退検出センサ2B−nのセンサ位置に基づいて、前時刻から現時刻までの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1,B (in)、運動諸元確率分布の予測値{wk|k−1,B (in,J),xk|k−1,B (in,J)}j=1,・・・,J、および予測値に対応する観測対象候補の属性値ck|k−1,B (in)を算出する。識別番号inは、n番目の入退検出センサ2B−nの周辺に出現したと予測された観測対象候補の識別番号であり、既存の観測対象候補の識別番号と異なる値とする。
例えば、出現予測部41Bは、上記式(12)から上記式(16)と下記式(45)を用いて、観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1,B (in)、運動諸元確率分布の予測値{w
k|k−1,B (in,J),x
k|k−1,B (in,J)}
j=1,・・・,Jおよび予測値に対応する観測対象候補の属性値c
k|k−1,B (in)を算出する。ここで、β
k,FLS (InOut)、V
B (3)およびV
B (4)は事前設定パラメータであり、特に、β
k,FLS (InOut)は、入退検出センサ2B−nが誤検出する確率である。
上記式(12)から上記式(16)と上記式(45)を用いて観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および属性値を算出する処理は、n番目の入退検出センサ2B−nの設置位置を初期位置として新規の観測対象候補の粒子を生成し、生成した粒子のそれぞれの速度を一様分布の乱数として、存在確率と粒子の重み係数とを固有値とする識別番号inの観測対象候補を追加する処理に相当する。この処理により、時刻kに入退検出センサ2B−nによって観測領域への進入が検出された観測対象候補の予測値が得られる。
新たに出現した観測対象候補に関する粒子の初期速度を、上記式(15)および上記式(16)に示した0を中心とする一様分布の乱数としたが、n番目の入退検出センサ2B−nが、観測領域に進入する観測対象候補を検出する方向に偏った分布の乱数を用いてもよい。
ステップST6dにおいて、移動予測部42Bは、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値と予測値に対応する観測対象候補の属性値、および、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値と予測値に対応する観測対象候補の属性値に基づいて、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値、および予測値に対応する観測対象候補の属性値を算出する。
移動予測部42Bは、時刻k−1から時刻kまで間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1,S (is)、時刻k−1から時刻kまで間の観測対象候補の消失が反映された運動諸元確率分布の予測値{wk|k−1,S (is,j),xk|k−1,S (is,j)}j=1,・・・,J、これらの予測値に対応する観測対象候補の属性値ck|k−1,S (is)、時刻k−1から時刻kまでに出現した観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1,B (iB)、時刻k−1から時刻kまでに出現した観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値{wk|k−1,B (iB,j),xk|k−1,B (iB,j)}j=1,・・・,J、および、これらの予測値に対応する観測対象候補の属性値ck|k−1,B (iB)に基づいて、時刻k−1から時刻kまで間の観測対象候補の移動が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1 (i)および運動諸元確率分布の予測値{wk|k−1 (i,j),xk|k−1 (i,j)}j=1,・・・,Jとこれらの予測値に対応する観測対象候補の属性値ck|k−1 (i)を算出する。ここで、iSは、ステップST3dで予測値が算出された観測対象候補の識別番号である。iBは、ステップST4dで予測値が算出された観測対象候補の識別番号である。識別番号iは、iSとiBの両方を含む識別番号である。iSの集合をLk|k−1,Sとし、iBの集合をLk|k−1,Bとすることで、iは、上記式(17)で定義される。
移動予測部42Bは、上記式(18)から上記式(21)までおよび下記式(46)を用いて観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1 (i)および観測対象候補の運動諸元確率分布の予測値{w
k|k−1 (i,j),x
k|k−1 (i,j)}
j=1,・・・,Jと属性値c
k|k−1 (i)を算出する。
ただし、Φ
kは、等速直進運動の予測モデルに基づいて状態ベクトルを遷移させる行列である。τ
kは、時刻k−1から時刻kまでの経過時間である。Q
kは、等速直進運動の予測モデルの誤差を表すシステム雑音を示す行列であって、事前設定パラメータである。
これまで、ガウス分布に基づいた乱数が生成可能であることを前提として、存在確率の予測値と運動諸元確率分布の予測値とを算出する場合を示したが、これに限定されるものではない。例えば、既存の粒子フィルタにおける運動予測処理の概念を利用して、任意の確率分布関数(提案分布)から生成された乱数を状態ベクトルとする。提案分布において生成された乱数の確率と、等速直進運動における遷移確率とを比較した結果に基づいて、予測後の重み係数を算出してもよい。
ステップST7dにおいて、データ更新部43Aは、存在検出センサ3A−1〜3A−Mから受信した属性検出データck,m (Exist)を含む存在検出データおよびセンサ位置、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値と属性値に基づいて、時刻kにおける観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を算出(更新)する。
図15は、図14のステップST7dの詳細な処理を示すフローチャートである。
ステップST7d−1において、データ更新部43Aは、上記式(23)を用いて、識別番号iの観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1 (i)のそれぞれの値に基づいて、識別番号の部分集合ごとの信頼度bk|k−1(I(λ))を算出する。λ=1,2,・・・,Λである。
ステップST7d−2において、データ更新部43Aは、存在検出センサ3A−1〜3A−Mのうち、時刻kにおいて観測対象候補を検出した存在検出センサが設置されたセンサ位置{zk,m (Exist)}m∈M*、部分集合信頼度bk|k−1(I(λ))、および識別番号iの運動諸元確率分布の予測値{wk|k−1 (i,j),xk|k−1 (i,j)}j=1,・・・,Jに基づいて、写像ごとの信頼度b’k|k(θk (λ,h))および写像ごとの識別番号iの運動諸元確率分布{wk|k (i,j)(θk (λ,h)),xk|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jを算出する。写像θk (λ,h)は、実施の形態1で示したように、部分集合I(λ)の要素を、時刻kにおいて観測対象候補を検出した存在検出センサの存在検出センサ番号の少なくとも1つに対応付ける写像と定義する。これを数式で表現すると、上記式(23)のようになる。
ここで、データ更新部43Aは、上記式(24)、上記式(24a)および上記式(25)を用いて、写像ごとの信頼度b’
k|k(θ
k (λ,h))および写像ごとの識別番号iの運動諸元確率分布{w
k|k (i,j)(θ
k (λ,h)),x
k|k (i,j)(θ
k (λ,h))}
j=1,・・・,Jを算出する。上記式(24)、上記式(24a)および上記式(25)における変数は、上記式(26)、上記式(28)、上記式(29)および下記式(47)に従って算出される。下記式(47)におけるp
k,DTは、時刻kにおいて存在検出センサが検出に失敗せずに観測対象を検出する確率である。πは円周率である。
ステップST7d−3において、データ更新部43Aは、ステップST7d−2で算出した、写像ごとの信頼度b’k|k(θk (λ,h))を規格化し、写像ごとの識別番号iの運動諸元確率分布における重み係数{w’k|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jを規格化する。規格化には、上記式(30)および上記式(31)が用いられる。
ステップST7d−4において、データ更新部43Aは、規格化された写像ごとの信頼度bk|k(θk (λ,h))および重み係数が規格化された写像ごとの識別番号iの運動諸元確率分布{wk|k (i,j)(θk (λ,h)),xk|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jに基づいて、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の存在確率rk|k (i)、識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布{wk|k (i,j),xk|k (i,j)}j=1,・・・,J、および時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の属性値ck|k (i)を算出する。
データ更新部43Aは、上記式(32)、上記式(33)および上記式(34)を用いて、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の存在確率r
k|k (i)および識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布{w
k|k (i,j),x
k|k (i,j)}
j=1,・・・,Jを算出する。データ更新部43Aは、下記式(48)を用いて、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の属性値c
k|k (i)を算出する。
図14の説明に戻る。
ステップST10dにおいて、推定部44Aは、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の運動諸元確率分布に基づいて、当該観測対象候補に対応する観測対象の運動諸元と属性値を推定する。例えば、推定部44は、識別番号iの観測対象候補に対応する観測対象の運動諸元推定値μ
k (i)を、上記式(36)に従って算出し、識別番号iの観測対象候補に対応する観測対象の属性値の推定値c
k (i)を、下記式(49)に従って算出する。
移動経路保存部5Aには、異なる時刻フレームに保存された識別番号が同一の運動諸元推定値同士が時系列順に保存される。これにより、運動諸元推定値は、観測対象の推定された移動経路として移動経路保存部5Aに保存される。なお、移動経路保存部5Aには、観測対象の位置以外の運動諸元および観測対象の属性値も保存され、移動経路保存部5に保存されたデータは、利用者からの要求に応じて抽出される。
以上のように、実施の形態4に係る移動経路推定装置4Cにおいて、消失予測部40Bおよび出現予測部41Bが、属性検出データを含む入退検出データを用いて、観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および予測値に対応する観測対象候補の属性を示す属性値を算出する。移動予測部42Bが、消失予測部40Bおよび出現予測部41Bからそれぞれ入力した予測値および属性値に基づいて、観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および予測値に対応する観測対象候補の属性値を算出する。データ更新部43Aが、属性検出データを含む存在検出データ、存在検出センサ位置、移動予測部42Bによって算出された観測対象候補の存在確率の予測値、運動諸元確率分布の予測値および属性値に基づいて、現時刻における観測対象候補の存在確率、運動諸元確率分布および属性値を算出する。推定部44Aが、データ更新部43Aによって算出された観測対象候補の存在確率、運動諸元確率分布および属性値に基づいて、観測対象の運動諸元推定値および属性値を算出する。このように構成することで、データ更新部43Aは、存在検出センサによって検出された属性検出データと観測対象候補の属性値が一致しない場合、観測対象候補の存在確率を減少させるため、異なる属性の観測対象候補間で推定された移動経路が入れ替わる頻度を減らすことができる。例えば、2つの観測対象候補が接近しつつ旋回する場合、接近した観測対象が互いに異なる属性であれば、誤って入れ替わった移動経路が推定されることがない。
実施の形態5.
図16は、実施の形態5に係る移動経路推定システム1Dの構成を示すブロック図である。移動経路推定システム1Dは、観測領域に設定した複数のノード(拠点)のうちのいずれかのノードに観測対象候補が出現し、観測対象候補がノードから消失することを予測して、観測対象候補が存在したノード間を繋いだ移動経路を推定する。図16に示すように、移動経路推定システム1Dは、N(Nは2以上の整数)個の入退検出センサ2C−1〜2C−N、M(Mは2以上の整数)個の存在検出センサ3B−1〜3B−M、移動経路推定装置4Dおよび移動経路保存部5Bを備えて構成される。移動経路推定装置4Dは、消失予測部40C、出現予測部41C、移動予測部42C、データ更新部43B、推定部44Bおよびデータ保存部46を備える。
入退検出センサ2C−1〜2C−Nは、観測領域への進入または観測領域からの退出が可能な位置に設定された全てのノードに設けられて、入退検出データを検出するセンサである。入退検出センサ2C−1〜2C−Nは、光学カメラ、赤外線センサ、および測距センサなどのセンサによって実現される。入退検出データは、ノードから観測領域外へ退出する観測対象候補および観測領域外からノードへ進入する観測対象候補が検出されたデータである。
入退検出センサ2C−1〜2C−Nは、入退検出データおよびノード番号を含む検出信号を、観測時刻ごとに消失予測部40Cおよび出現予測部41Cへ送信する。ノード番号は、観測領域に設定された全てのノードに付与された通し番号である。また、入退検出センサ2C−1〜2C−Nから消失予測部40Cおよび出現予測部41Cに送信されるノード番号は、入退検出データが得られたノードを示す入退検出ノード情報に相当する。
存在検出センサ3B−1〜3B−Mは、観測領域の内部に設定された全てまたは一部のノードに設けられて、存在検出データを検出するセンサである。存在検出センサ3B−1〜3B−Mは、光学カメラ、赤外線センサ、測距センサ、振動センサ、マイクロフォンおよび熱検知センサなどのセンサによって実現される。また、存在検出データは、センサの検出範囲に存在する観測対象候補が検出されたデータである。
存在検出センサ3B−1〜3B−Mは、存在検出データおよびノード番号を含む検出信号を、データ更新部43Bに送信する。なお、存在検出センサ3B−1〜3B−Mからデータ更新部43Bに送信されるノード番号は、存在検出データが得られたノードを示す存在検出ノード情報に相当する。入退検出センサ2C−1〜2C−Nおよび存在検出センサ3B−1〜3B−Mによって検出された複数の観測対象候補には、それぞれの観測対象候補に固有な識別番号が付与される。
入退検出センサ2C−1〜2C−Nおよび存在検出センサ3B−1〜3B−Mが、検出データを移動経路推定装置4Dに出力する時間の区切りを“時刻フレーム”と呼び、センサそれぞれの時刻フレームは同期しているものとする。実施の形態1と同様に、センサによって観測対象候補が検出された観測時刻に相当する時刻フレームを“現時刻”と呼び、現時刻の1時刻フレーム前の過去の時刻に相当する時刻フレームを“前時刻”と呼ぶ。
前時刻を現時刻よりも1時刻フレーム前の時刻と定義したが、これは例示であり、実施の形態5では、現時刻よりも一定時間だけ過去の時刻であれば、2以上の時刻フレームを遡った時刻であってもよい。
図17は、実施の形態5における観測領域10Bの例を示す図であり、5つのノード200〜205およびノード間経路300を示している。ノード間経路300は、ノード間を繋いだ経路であり、観測対象候補は、ノード間経路300に沿って移動する。ノード間経路300は、観測領域10B内の全てのノード間に存在するとは限らない。図17の例では、ノード203とノード205との間にはノード間経路が存在しない。なお、実施の形態5においても観測対象候補の個数は未知であり、複数の観測対象候補が同時に移動することがあり、また観測領域から観測対象候補が消失する場合があるものとする。
観測対象候補となる人A3は、観測領域10Bの外からノード200に進入し、矢印で示すように、ノード200とノード201との間のノード間経路300を通って、ノード201に到達する。このとき、人A3は、“ノード201から移動する”および“ノード201に留まる”のうちのいずれかを選択する。図17の例では、人A3は、矢印で示すように、ノード201から、ノード203、ノード204およびノード205の順で移動して、ノード205から観測領域10Bの外へ退出する。
観測対象候補が人である場合を示したが、ノード間を移動する観測対象候補としては、駅間を移動する電車または人、空港領域を移動する航空機、自動車専用道において駐車場間を移動する自動車、港間を移動する船舶、部屋間を移動する人または携帯機器、市街地に点在する拠点(例えば、コンビニエンスストア)の近傍を通過する人または自動車、国土内の都市を移動する人または携帯機器などが挙げられる。
図16の説明に戻る。
移動経路推定装置4Dは、入退検出センサ2C−1〜2C−Nから入力した入退検出データ、および存在検出センサ3B−1〜3B−Mから入力した存在検出データを用いて、観測対象候補の運動諸元推定値を算出する。運動諸元推定値は、観測対象候補の移動経路を構成するデータであって、観測対象候補ごとに移動経路保存部5Bに保存される。移動経路保存部5Bに保存された移動経路を示すデータは、移動経路推定システム1Dの利用者からの要求に応じて出力される。
消失予測部40Cは、入退検出センサ2C−1〜2C−Nから受信した入退検出データとノード番号とを含む検出信号、前時刻における観測対象候補の存在確率および前時刻における観測対象候補のノード間確率分布に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する。なお、上記ノード番号は、入退検出データが得られたノードのノード番号である。消失予測部40Cによって算出された存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値は、移動予測部42Cに出力される。
ノード間確率分布は、観測対象候補が存在する位置の確率分布であって、例えば、観測対象候補がノードに存在する確率が離散的な空間内で定義された確率分布である。すなわち、ノード間確率分布は、N個のスカラー値から構成されており、ノード番号nにおけるノード間確率分布は、観測領域のn番目のノードに観測対象候補が存在する確率に相当する。
出現予測部41Cは、入退検出センサ2C−1〜2C−Nから受信した入退検出データおよびノード番号を含む検出信号に基づいて、前時刻から現時刻までの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する。なお、上記ノード番号は、入退検出データが得られたノードのノード番号である。出現予測部41Cによって算出された存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値は、移動予測部42Cに出力される。
移動予測部42Cは、消失予測部40Cおよび出現予測部41Cから入力した観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値、およびデータ保存部46から取得したノード間経路データに基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する。移動予測部42Cによって算出された存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値は、データ更新部43Bに出力される。
ノード間経路データは、観測対象候補が移動可能なノード間経路を示すデータである。データ保存部46には、観測領域10Bで観測対象候補が移動可能なノード間経路を示すノード間経路データが保存される。
データ更新部43Bは、存在検出センサ3B−1〜3B−Mから受信した存在検出データおよびノード番号を含む検出信号、移動予測部42Cによって算出された観測対象候補の存在確率の予測値および運動諸元確率分布の予測値に基づいて、現時刻における観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布を算出する。上記ノード番号は、存在検出データが得られたノードのノード番号である。データ更新部43Bは、現時刻における1つまたは複数の観測対象候補の存在確率およびノード間確率分布を算出し、算出した存在確率およびノード間確率分布を、推定部44Bおよび次の時刻フレームの予測を行う消失予測部40Cに出力する。
推定部44Bは、データ更新部43Bから入力した現時刻における観測対象候補の存在確率およびノード間確率分布に基づいて、現時刻に観測対象が観測領域に存在するか否かを推定し、現時刻に存在すると推定された観測対象の運動諸元推定値を算出する。推定部44Bによって算出された運動諸元推定値は、移動経路保存部5Bに出力されて保存される。移動経路保存部5Bに保存された観測対象の運動諸元推定値が時系列に並べられたデータが、観測対象の移動経路を示すデータとなる。なお、移動経路保存部5Bに保存された観測対象の移動経路を示すデータは、移動経路推定装置4Dの利用者の要求に応じて表示装置などに出力される。
入退検出センサ2C−1〜2C−Nは、図4Aおよび図4Bに示したセンサ群100によって実現される。存在検出センサ3B−1〜3B−Mは、センサ群101によって実現される。さらに、移動経路保存部5Bおよびデータ保存部46は、図4Aおよび図4Bに示した記憶装置102によって実現される。移動経路推定装置4Dにおける、消失予測部40C、出現予測部41C、移動予測部42C、データ更新部43Bおよび推定部44Bのそれぞれの機能は、処理回路により実現される。すなわち、移動経路推定装置4Dは、図18を用いて後述するステップST1eからステップST5eまでの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアの処理回路103であってもよいが、メモリ105に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ104であってもよい。なお、データ保存部46は、移動経路推定装置4Dとは別に設けられた記憶装置に構築してもよい。この場合、移動予測部42Cは、移動経路推定装置4Dとは別に設けられた記憶装置と通信して、当該記憶装置からノード間経路データを取得する。
次に動作について説明する。
図18は、実施の形態5に係る移動経路推定方法を示すフローチャートである。
消失予測部40Cが、入退検出センサ2C−1〜2C−Nから受信した入退検出データおよびノード番号、データ更新部43Bから入力した前時刻における観測対象候補の存在確率およびノード間確率分布に基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する(ステップST1e)。
次に、出現予測部41Cが、入退検出センサ2C−1〜2C−Nから受信した入退検出データおよびノード番号に基づいて、前時刻から現時刻までの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する(ステップST2e)。
移動予測部42Cが、消失予測部40Cおよび出現予測部41Cから入力した観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値、およびデータ保存部46から取得したノード間経路データに基づいて、前時刻から現時刻までの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する(ステップST3e)。
データ更新部43Bが、存在検出センサ3B−1〜3B−Mから受信した存在検出データおよびノード番号、および、移動予測部42Cから入力した観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値に基づいて、現時刻における観測対象候補の存在確率およびノード間確率分布を算出する(ステップST4e)。
推定部44Bが、データ更新部43Bから入力した観測対象候補の存在確率およびノード間確率分布に基づいて、現時刻に観測対象が観測領域に存在するか否かを推定し、現時刻に存在すると推定した観測対象の移動経路を推定する(ステップST5e)。例えば、推定部44Bは、観測対象の移動経路を示す運動諸元推定値を算出し、算出した運動諸元推定値を移動経路保存部5Bに保存する。
次に、観測対象の移動経路の推定処理について詳細に説明する。
以降では、観測対象の運動諸元として、観測対象候補が存在する位置、すなわち、観測対象候補が存在するノードを推定する場合について説明する。なお、ノード間を移動する観測対象の運動諸元は、観測対象候補が存在する位置(ノード)に限定されるものではなく、推定対象の運動諸元には、観測対象候補の移動速度または加速度を含めてもよい。
移動経路推定装置4Dは、観測対象候補の運動が時刻フレームごとに独立な確率過程によって選択される運動モデルを採用している。すなわち、観測対象候補が特定のノードへ移動すること、または、観測対象候補が特定のノードに留まることは、時刻フレームごとに独立な確率過程により選択される。ただし、これは例示であり、前時刻における運動が現時刻における運動に影響する場合、例えば速度または加速度の運動諸元が運動に影響を及ぼす場合には、等速モデルまたは等加速度モデルを用いてもよい。
以降では、時刻フレーム間の経過時間が、観測対象候補がノード間の移動に要する時間に比べて十分に短いことを前提として、観測対象候補は、時刻フレーム間に複数のノードを経由したノード間の移動ができないものとする。ただし、時刻フレーム間に観測対象候補が経由し得るノードの個数の最大値が既知であれば、ノードを経由した移動に関する予測値を算出してもよい。観測対象候補のノード間の移動に要する時間の長さに応じて、観測対象候補がノード間を移動している状態を設定するモデルを採用してもよい。
また、観測対象候補は、観測領域内の全てのノードに進入することが可能であり、退出も可能である。入退検出センサは、観測領域に設定された全てのノードに設置されているものとする。なお、観測対象候補が進入または退出できないノードを観測領域に設定した場合、このノードには、入退検出センサ2C−nを設置しなくてもよく、このノードにおける観測対象候補の出現および消失を予測しなくてもよい。
入退検出センサ2C−1〜2C−Nは、入退検出データの誤検出があるものと仮定し、存在検出センサ3B−1〜3B−Mについても、存在検出データの誤検出または存在検出データの検出失敗があるものと仮定する。
さらに、ノード間確率分布を、重み付けされた有限個数の“粒子”の集合で近似する。ノード間確率分布の値が大きい領域には、重み係数が大きい粒子が密に分布し、ノード間確率分布の値が小さい領域には、重み係数が小さな粒子が疎に分布する。なお、近似する方法は、前述した方法に限定されるものではなく、例えば、離散値化したガウス分布のそれぞれの線形結合によってノード間確率分布を近似してもよい。
現時刻の時刻フレーム番号を“k”として、現時刻を“時刻k”と記載する。前時刻の時刻フレーム番号を“k−1”として前時刻を“時刻k−1”と記載する。kの添え字が付く記号は、その記号が示すパラメータ値が時刻kにおける値であることを示している。k−1の添え字についても同様である。
前述したノード番号とは別に、観測領域に設定された複数のノードのそれぞれには識別番号が付与される。以降では、ノードの総数をNとする。Nは、入退検出センサの個数と同数である。観測対象候補が存在するノードの識別番号を、観測対象候補の運動諸元であるスカラー値xで表す。また、n番目(n=1,2,・・・,N)の入退検出センサ2C−nが存在するノードのノード番号をzk,n (InOut)とする。m番目(m=1,2,・・・,M)の存在検出センサ3B−mが存在するノードのノード番号をzk,m (Exist)とする。
実施の形態1と同様に、時刻kにおける観測対象候補の識別番号の集合をLkで表す。時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の存在確率をrk|k (i)とし、時刻k−1における識別番号iの観測対象候補の存在確率をrk−1|k−1 (i)とし、時刻k−1における識別番号iの観測対象候補の存在確率を用いて算出された、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の存在確率の予測値をrk|k−1 (i)とする。
時刻kにおける、識別番号iの観測対象候補のノード間確率分布をf
k|k (i)(x)と表す。f
k|k (i)(x)は、時刻kにおいて識別番号iの観測対象候補が観測領域に存在する場合に、この観測対象候補がノード番号xに存在する確率を示している。離散化された確率分布の定義より、任意のiについて、下記式(50)が成立する。
重み付けされた粒子の集合でノード間確率分布fk|k (i)(x)を近似することで、識別番号iの観測対象候補のノード間確率分布fk|k (i)(x)は上記式(4)で表すことができる。また、fk|k−1 (i)(x)は、時刻k−1における識別番号iの観測対象候補のノード間確率分布を用いて算出された、時刻kおける識別番号iの観測対象候補のノード間確率分布の予測値である。重み付けされた粒子の集合でfk|k−1 (i)(x)を近似することで、識別番号iの観測対象候補のノード間確率分布の予測値fk|k−1 (i)(x)は上記式(5)で表すことができる。
前述したノード間確率分布の近似を前提として、以降では、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補のノード間確率分布fk|k (i)(x)を、J個の重み係数wk|k (i、j)と粒子位置xk|k (i、j)から算出するものとして説明する。これは、観測対象候補のノード間確率分布の予測値fk|k−1 (i)(x)においても同様である。
データ保存部46に保存されているノード間経路データは、N行N列の行列Ψとして、下記式(51)で表される。n1行n2列(n1とn2はともに1以上N以下の整数)の要素ψ
n1,n2は、識別番号n1のノードから識別番号n2のノードへのノード間経路が存在するか否かを示す要素であり、識別番号n1のノードから、識別番号n2のノードへのノード間経路が存在すれば“1”、存在しなければ“0”となる。Ψの対角成分は全て1とする。
図19は、移動経路推定装置4Dの動作を示すフローチャートである。
消失予測部40Cおよび出現予測部41Cは、入退検出センサ2C−1〜2C−Nから受信した時刻kにおけるN個の入退検出データのうち、観測領域に対する観測対象候補の進入または退出が検出されたデータを、任意の順番で選択して入力する(ステップST1f)。これにより入退検出データを選択して処理するループが開始される。ステップST2fからステップST4fでは、n番目(n=1,2,・・・,Nのいずれか)の入退検出センサ2C−nによって検出された入退検出データが選択されたものと仮定する。
消失予測部40Cおよび出現予測部41Cは、n番目の入退検出センサ2C−nによって検出された入退検出データに基づいて、観測対象候補の移動方向が観測領域への進入方向であるか否かを判定する(ステップST2f)。消失予測部40Cは、観測対象候補の移動方向が観測領域からの退出方向であると判定した場合(ステップST2f;NO)、ステップST3fへ移行する。出現予測部41Cは、観測対象候補の移動方向が観測領域への進入方向であると判定した場合(ステップST2f;YES)、ステップST4fへ移行する。
ステップST3fにおいて、消失予測部40Cは、入退検出センサ2−nによって検出された入退検出データ、入退検出センサ2−nが設置されたノードのノード番号、時刻k−1の観測対象候補の存在確率およびノード間確率分布に基づいて、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する。
なお、消失予測部40Cが、ステップST3fの処理を1回目に行う場合、時刻k−1における観測対象候補の存在確率およびノード間確率分布を用いる。2回目以降にステップST3fの処理を行う場合、消失予測部40Cは、直前のステップST3fで算出した存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を用いる。
消失予測部40Cは、下記式(52)、上記式(7)、上記式(8)および下記式(53)を用いて、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された識別番号iの観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1,S (i)を算出し、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された識別番号iの観測対象候補のノード間確率分布の予測値を表す粒子である{w
k|k−1,S (i,j),x
k|k−1,S (i,j)}
j=1,・・・,Jを算出する。ただし、識別番号iは前時刻の観測対象候補と同一である。下記式(52)におけるβ
k,FLS (InOut)は、入退検出センサが誤検出する確率である。
上記式(7)、上記式(8)、上記式(52)および上記式(53)を用いて観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する処理は、識別番号iの観測対象候補のノード間確率分布を示す粒子のうち、合計の重み係数が最も多いノードのノード番号μk−1|k−1 (i)が、観測対象候補の退出を検出したn番目の入退検出センサ2C−nが設置されたノードのノード番号zn (InOut)と同一であれば、識別番号iの観測対象候補の存在確率をβk,FLS (InOut)倍に減少させる処理に相当する。この処理により、入退検出センサ2C−nによって検出された観測対象候補の退出を、観測対象候補の予測値に反映させることができる。
識別番号iの観測対象候補の存在確率をβk,FLS (InOut)倍することで、識別番号iの観測対象候補の存在確率に対して観測対象候補の退出(消失)を反映させたが、これに限定されるものではない。例えば、βk,FLS (InOut)=0として、上記式(9)に示すd(i,n)が閾値よりも小さい場合に、消失予測部40Cが、識別番号iの観測値候補の存在確率およびノード間確率分布(粒子)を削除してもよい。
ステップST4fにおいて、出現予測部41Cは、入退検出センサ2C−nによって検出された入退検出データ、および入退検出センサ2−nが設置されたノードのノード番号に基づいて、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する。
出現予測部41Cは、上記式(12)、上記式(13)および下記式(54)に用いて、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1,B (in)を算出し、時刻k−1から時刻kまでに出現した観測対象候補のノード間確率分布の予測値を表す粒子である{w
k|k−1,B (in,j),x
k|k−1,B (in,j)}
j=1,・・・,Jを算出する。識別番号i
nは、n番目の入退検出センサ2C−nの周辺に出現したと予測された観測対象候補の識別番号であり、既存の観測対象候補の識別番号と異なる値である。
上記式(12)、上記式(13)および上記式(54)に用いて、存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する処理は、n番目の入退検出センサ2−nの設置位置を初期位置として新規の観測対象候補の粒子を生成する処理に相当する。この処理により、時刻kに入退検出センサ2C−nによって観測領域への進入が検出された観測対象候補の予測値が得られる。
ステップST5fにおいて、消失予測部40Cおよび出現予測部41Cは、入退検出センサ2C−1〜2C−Nから受信した時刻kにおけるN個の入退検出データのうち、観測領域に対する観測対象候補の進入または退出が検出された全てのデータを選択したか否かを判定する。このとき、未選択のデータがあると判定した場合(ステップST5f;NO)、消失予測部40Cおよび出現予測部41Cは、未選択の入退検出データを選択して、ステップST2fの処理に戻る。全てのデータを選択していれば(ステップST5f;YES)、ステップST6fの処理に移行する。
ステップST6fにおいて、移動予測部42Cは、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の消失が反映された存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値、およびノード間経路データに基づいて、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の移動が反映された、観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値を算出する。
移動予測部42Cは、時刻k−1から時刻kまで間の観測対象候補の消失が反映された観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1,S (is)、時刻k−1から時刻kまで間の観測対象候補の消失が反映されたノード間確率分布の予測値{wk|k−1,S (is,j),xk|k−1,S (is,j)}j=1,・・・,J、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1,B (iB)、時刻k−1から時刻kまでの間に出現した観測対象候補のノード間確率分布の予測値{wk|k−1,B (iB,j),xk|k−1,B (iB,j)}j=1,・・・,J、およびノード間経路データ(上記式(51)に示した行列Ψ)に基づいて、時刻k−1から時刻kまで間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1 (i)およびノード間確率分布の予測値{wk|k−1 (i,j),xk|k−1 (i,j)}j=1,・・・,Jを算出する。iSは、ステップST3fで予測値が算出された観測対象候補の識別番号である。iBは、ステップST4fで予測値が算出された観測対象候補の識別番号である。識別番号iは、iSとiBの両方を含む識別番号である。iSの集合をLk|k−1,Sとし、iBの集合をLk|k−1,Bとすることで、iは上記式(17)で定義される。
移動予測部42Cは、上記式(18)、上記式(19)および下記式(55)を用いて、観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値r
k|k−1 (i)および観測対象候補のノード間確率分布の予測値{w
k|k−1 (i,j),x
k|k−1 (i,j)}
j=1,・・・,Jを算出する。ただし、{n|Ψ
n’,n=1}は、ψ
n’,n=1を満たす値nの集合であり、U(x;{a
1,・・・,a
A})は、離散値の集合{a
1,・・・,a
A}のいずれかの要素を同じ確率で選択したときに離散値xが従う一様分布の確率密度関数である。すなわち、下記式(55)は、前時刻の粒子位置から移動可能なノードのうち、いずれか1つのノードを一様な乱数で選択することを示している。
なお、ノード間確率分布を構成する粒子においてノード間経路が選択される確率が一様であるものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、ノード間経路ごとの起こりやすさに応じたパラメータによって、観測対象候補同士で移動先のノードが選択される確率を互いに異なる確率にしてもよい。
ステップST7fにおいて、データ更新部43Bは、存在検出センサ3B−1〜3B−Mから受信した存在検出データおよびノード番号、時刻k−1から時刻kまでの間の観測対象候補の移動が反映された観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値に基づいて、時刻kにおける観測対象候補の存在確率およびノード間確率分布を算出(更新)する。
図20は、図19のステップST7fの詳細な処理を示すフローチャートである。
ステップST7f−1において、データ更新部43Bは、識別番号iの観測対象候補の存在確率の予測値rk|k−1 (i)のそれぞれの値に基づいて、識別番号の部分集合ごとの信頼度bk|k−1(I(λ))を算出する。λ=1,2,・・・,Λである。データ更新部43Bは、上記式(22)を用いて、部分集合ごとの信頼度bk|k−1(I(λ))を算出する。識別番号の部分集合I(λ)とは、0個以上の識別番号iから構成される集合である。例えば、i=1,2である場合、識別番号の部分集合I(λ)は、λ=1,2,3,4として、I(1)=φ、I(2)={1}、I(3)={2}、I(4)={1,2}の4通りとなる。ここで、φは空集合を表す。
ステップST7f−2において、データ更新部43Bは、存在検出センサ3B−1〜3B−Mのうち、時刻kにおいて観測対象候補を検出した存在検出センサが設置されたノードのノード番号{zk,m (Exist)}m∈M*、部分集合信頼度bk|k−1(I(λ))および識別番号iのノード間確率分布の予測値{wk|k−1 (i,j),xk|k−1 (i,j)}j=1,・・・,Jに基づいて、写像ごとの信頼度b’k|k(θk (λ,h))と写像ごとの識別番号iのノード間確率分布{wk|k (i,j)(θk (λ,h)),xk|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jを算出する。写像θk (λ,h)は、上記実施の形態1で示したように、部分集合I(λ)の要素を、時刻kにおいて観測対象候補を検出した存在検出センサの存在検出センサ番号の少なくとも1つに対応付ける写像であると定義する。これを数式で表現すると、上記式(23)のようになる。
データ更新部43Bは、上記式(24)、上記式(24a)および上記式(25)を用いて、写像ごとの信頼度b’
k|k(θ
k (λ,h))および写像ごとの識別番号iのノード間確率分布{w
k|k (i,j)(θ
k (λ,h)),x
k|k (i,j)(θ
k (λ,h))}
j=1,・・・,Jを算出する。ただし、上記式(24)、上記式(24a)および上記式(25)における変数は、上記式(26)および下記式(56)に従って算出される。なお、下記式(56)におけるp
k,DTは、時刻kにおいて存在検出センサが検出に失敗せずに観測対象候補を検出する確率である。β
k,FLS (Exist)は、時刻kにおいて存在検出センサが誤検出する確率である。
ステップST7f−3において、データ更新部43Bは、写像ごとの信頼度b’k|k(θk (λ,h))を規格化し、写像ごとの識別番号iのノード間確率分布における重み係数{w’k|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jを規格化する。データ更新部43Bは、上記式(30)および上記式(31)を用いて、信頼度b’k|k(θk (λ,h))を規格化し、写像ごとの識別番号iのノード間確率分布における重み係数{w’k|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jを規格化して、信頼度bk|k(θk (λ,h))および重み係数{wk|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jを得る。
ステップST7f−4において、データ更新部43Bは、上記式(32)、上記式(33)および上記式(34)を用いて、規格化された写像ごとの信頼度bk|k(θk (λ,h))、および、重み係数が規格化された写像ごとの識別番号iのノード間確率分布{wk|k (i,j)(θk (λ,h)),xk|k (i,j)(θk (λ,h))}j=1,・・・,Jに基づき、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補の存在確率rk|k (i)と、識別番号iの観測対象候補のノード間確率分布{wk|k (i,j),xk|k (i,j)}j=1,・・・,Jを算出する。
図19の説明に戻る。
ステップST8fにおいて、推定部44Bは、時刻k(現時刻)における観測対象候補のうちのいずれか1つを選択して入力する。これにより、観測対象候補を選択して処理するループが開始される。以降では、識別番号iの観測対象候補が選択された場合を例に挙げて説明する。
次に、推定部44Bは、上記式(35)に従い、ステップST8fで選択した識別番号iの観測対象候補の存在確率rk|k (i)が閾値rThよりも大きいか否かを判定する(ステップST9f)。識別番号iの観測対象候補の存在確率rk|k (i)が閾値rThよりも大きいと判定された場合(ステップST9f;YES)、ステップST10fの処理に移行する。一方、識別番号iの観測対象候補の存在確率rk|k (i)が閾値rTh以下であれば(ステップST9f;NO)、ステップST11fの処理に移行する。
ステップST10fにおいて、推定部44Bは、時刻kにおける識別番号iの観測対象候補のノード間確率分布に基づいて、当該観測対象候補に対応する観測対象の運動諸元を推定する。例えば、推定部44Bは、識別番号iの観測対象候補に対応する観測対象の運動諸元推定値、すなわち、観測対象候補が存在すると推定されるノード番号μ
k (i)を、下記式(57)に従って算出する。
移動経路保存部5Bには、異なる時刻フレームに保存された識別番号が同一の運動諸元推定値同士が時系列順に保存される。これにより、運動諸元推定値は、観測対象の推定された移動経路として移動経路保存部5Bに保存される。
以上のように、実施の形態5に係る移動経路推定装置4Dは、観測対象候補の消失および出現が反映された観測対象候補の存在確率の予測値およびノード間確率分布の予測値に基づいて、観測時刻における観測対象候補の存在確率およびノード間確率分布を更新する。移動経路推定装置4Dは、更新した観測対象候補の存在確率およびノード間確率分布に基づいて、観測対象の移動経路を示す運動諸元推定値を算出する。このように、移動経路推定装置4Dは、観測対象候補の消失および出現を予測して、個数が未知の観測対象の移動経路を推定することができる。
また、移動予測部42Cは、ノード間経路に制限された観測対象候補の移動を予測するため、観測対象候補のノード間確率分布が実現可能な範囲で絞り込まれる。これにより、観測対象候補がノード間経路のみを移動するという条件において、観測対象候補の移動可能なノード間経路を制限しない場合に比べて、観測対象候補の移動の予測値と実際の観測対象の移動との乖離が小さくなる。このため、より誤差の小さい移動経路推定値を得ることができる。従って、個数が未知の観測対象候補のノード間の移動経路を推定することができる。
実施の形態6.
観測領域内に固定された存在検出センサの観測データに基づいて観測対象の移動経路を推定する場合、観測領域内の存在検出センサの密度が低いと、観測対象の移動経路の推定精度が低下する。例えば、観測対象が頻繁に方向転換または停止を行って当該観測対象の移動が等速直進の運動モデルに適合しない場合、当該観測対象が、存在検出センサの検出範囲外を移動したときの移動経路の推定が困難となる。存在検出センサを観測領域内に固定する場合、多数の存在検出センサを観測領域内に設置する必要がある。
実施の形態6に係る移動経路推定システムは、各々が移動可能な複数の存在検出センサと、存在検出センサの移動を制御可能な移動経路推定装置を備える。実施の形態6に係る移動経路推定装置は、観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、存在検出センサの移動を制御する。例えば、移動経路推定装置が、存在検出センサを観測対象に接近させて、存在検出センサの検出範囲外に観測対象が移動する頻度を低減させることで、多数の存在検出センサを用いなくても、観測対象の移動経路の推定精度の低下を抑えることができる。
図21は、実施の形態6に係る移動経路推定システム1Eの構成を示すブロック図である。図21において、図1と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。移動経路推定システム1Eは、N(Nは2以上の整数)個の入退検出センサ2−1〜2−N、M(Mは2以上の整数)個の存在検出センサ3C−1〜3C−M、移動経路推定装置4Eおよび移動経路保存部5を備える。移動経路推定装置4Eは、消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42、データ更新部43、推定部44およびセンサ移動制御部47を備える。
存在検出センサ3C−1〜3C−Mは、観測領域に設けられて、存在検出データを検出するセンサであって、光学カメラ、赤外線センサ、測距センサ、振動センサ、マイクロフォンおよび熱検知センサなどのセンサによって実現される。また、存在検出センサ3C−1〜3C−Mの各々は、センサ移動制御部47から移動速度ベクトルを入力すると、次の時刻フレームまでに、移動速度ベクトルに応じた速度および方向で移動する機能を有している。存在検出データは、存在検出センサの検出可能範囲に存在する観測対象候補が検出されたデータである。存在検出センサ3C−1〜3C−Mは、存在検出データおよびセンサ位置を含む検出信号を、データ更新部43およびセンサ移動制御部47に送信する。上記センサ位置は、検出信号の送信時における存在検出センサの位置である。
センサ移動制御部47は、データ更新部43から入力した現時刻の観測対象候補の存在確率および運動諸元確率分布に基づいて、または、現時刻の存在検出データに基づいて、M個の移動速度ベクトルを生成し、生成したM個の移動速度ベクトルを存在検出センサ3C−1〜3C−Mに出力する。移動速度ベクトルは、存在検出センサ3C−1〜3C−Mの各々を次の時刻フレームまでに移動させる速度および方向を指定する情報である。
存在検出センサ3C−1〜3C−Mは、図4Aおよび図4Bに示したセンサ群101によって実現される。また、移動経路推定装置4Eにおける、消失予測部40、出現予測部41、移動予測部42、データ更新部43、推定部44Bおよびセンサ移動制御部47の機能は、処理回路によって実現される。すなわち、移動経路推定装置4Eは、図22を用いて後述するステップST1からステップST6gまでの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、図4Aに示した専用のハードウェアの処理回路103であってもよいが、図4Bに示したメモリ105に記憶されたプログラムを実行するプロセッサ104であってもよい。
次に動作について説明する。
図22は、移動経路推定装置4Eの動作を示すフローチャートである。図22におけるステップST1からステップST5までの処理は図5と同様であるので説明を省略する。以降に示す記号および添え字のうち、説明がないものは実施の形態1と同じ意味である。
ステップST6gにおいて、センサ移動制御部47は、観測対象候補の存在確率、観測対象候補の運動諸元確率分布および存在検出センサの位置関係に基づいて、存在検出センサ3C−1〜3C−Mを移動させる。例えば、センサ移動制御部47は、観測対象候補の存在確率rk|k (i)、運動諸元確率分布{wk|k (i,j),xk|k (i,j)}、存在検出データに含まれるセンサ位置zk,m (Exist)に基づいて、存在検出センサ3C−1〜3C−Mの各々に出力する移動速度ベクトルvk,mを算出する。移動速度ベクトルvk,mは、m番目の存在検出センサ3C−mが時刻kから時刻k+1までに移動する速度および方向を表す2行1列のベクトルである。
図23は、図22のステップST6gの詳細な処理を示すフローチャートである。
ステップST6g−1において、センサ移動制御部47は、M個の存在検出センサ3C−1〜3C−Mの中から、ステップST6g−2以降の処理対象として選択されていない存在検出センサを1つ選択する。ここで、m番目の存在検出センサ3C−mが選択されたものとして、ステップST6g−2以降の処理を説明する。
次に、センサ移動制御部47は、ステップST6g−3からステップST6g−5までの処理対象として選択されていない観測対象候補の中から、観測対象候補を1つずつ選択する(ステップST6g−2)。ここで、識別番号がi番目の観測対象候補が選択されたものとして、ステップST6g−3以降の処理を説明する。
センサ移動制御部47は、識別番号iの観測対象候補の位置予測値H
posμ
k+1|k (i)を算出する(ステップST6g−3)。ここで、H
posは、上記式(29)に示した行列であり、μ
k+1|k (i)は、識別番号iの観測対象候補の状態ベクトルの予測値である。予測値の算出方法は、移動予測部42で前提とする予測モデルに依存する。例えば、移動予測部42で等速直進運動の予測モデルを用いる場合、センサ移動制御部47は、下記式(58)および下記式(59)に従って識別番号iの観測対象候補の状態ベクトルの予測値μ
k+1|k (i)を算出する。なお、下記式(59)において、τ
k+1は、時刻kから時刻k+1までの経過時間である。
次に、センサ移動制御部47は、識別番号iの観測対象候補に対する移動速度ベクトルvk,m,i (target)を算出する(ステップST6g−4)。ここで、移動速度ベクトルvk,m,i (target)は、識別番号iの観測対象候補に対して、m番目の存在検出センサ3C−mを近付けるまたは遠ざける移動速度ベクトルである。
観測対象を高頻度で検出するためには、存在検出センサを観測対象に接近させることが望ましい。一方、複数の存在検出センサで得られた存在検出データに基づいて観測対象の位置を推定する場合、複数の存在検出センサの各検出可能範囲が重なる領域が狭いほど、推定された観測対象の位置の曖昧さを減らすことができる。従って、存在検出センサは、観測対象候補の予測位置から遠ければ近付け、観測対象候補の予測位置に近すぎるときは遠ざけることが望ましい。また、観測対象候補は、必ずしも真に存在するとは限らない。このため、存在検出センサの移動を制御する基準となる観測対象候補は、存在確率が高い観測対象候補を優先して選択することが望ましい。
そこで、センサ移動制御部47は、例えば下記式(60)に従って、識別番号iの観測対象候補に対する移動速度ベクトルv
k,m,i (target)を算出する。下記式(60)におけるρ
m,iは、識別番号iの観測対象候補の予測位置とm番目の存在検出センサ3C−mとの間の距離であり、下記式(61)で表すことができる。下記式(61)において、ρ
0は、観測対象候補に対して存在検出センサを近付ける力と遠ざける力とが均衡する距離を表すパラメタである。パラメタρ
0は、予測モデルの誤差および観測対象候補の推定誤差に基づいて動的に設定してもよい。移動速度ベクトルを算出する計算式は、下記式(60)に限定されるものではなく、観測対象候補に対して存在検出センサを近付ける方向または遠ざける方向のベクトルが得られる計算式であれば、下記式(60)以外の計算式を用いてもよい。
続いて、センサ移動制御部47は、ステップST6g−3からステップST6g−4までの処理対象として全ての観測対象候補を選択したか否かを確認する(ステップST6g−5)。未選択の観測対象候補がある場合(ステップST6g−5;NO)、センサ移動制御部47は、ステップST6g−2の処理に戻る。
一方、全ての観測対象候補を選択した場合(ステップST6g−5;YES)、センサ移動制御部47は、ステップST6g−1で選択されていない存在検出センサの中から、ステップST6g−1で先に選択したm番目の存在検出センサ3C−m以外の存在検出センサを1つずつ選択する(ステップST6g−6)。ここでは、m’(≠m)番目の存在検出センサ3C−m’が選択されたものとして、ステップST6g−7以降の処理を説明する。
センサ移動制御部47は、存在検出センサ同士に対する移動速度ベクトルを算出する(ステップST6g−7)。具体的には、センサ移動制御部47が、ステップST6g−6で選択したm’番目の存在検出センサ3C−m’から、ステップST6g−2で選択したm番目の存在検出センサ3C−mを遠ざける移動速度ベクトルvk,m,m’ (sensor)を算出する。
未知の時刻に未知の位置から観測領域に進入してくる未知の個数の観測対象を高頻度に検出するためには、観測対象候補が存在し得る領域内に存在検出センサが一様に分布していることが望ましい。そこで、センサ移動制御部47は、例えば下記式(62)に従い、m’番目の存在検出センサ3C−m’から、m番目の存在検出センサ3C−mを遠ざける移動速度ベクトルv
k,m,m’ (sensor)を算出する。なお、存在検出センサ同士に対する移動速度ベクトルを算出する計算式は、下記式(62)に限定されるものではなく、一方の存在検出センサから他方の存在検出センサを遠ざける方向のベクトルが得られる計算式であれば、下記式(62)以外の計算式を用いてもよい。
移動速度ベクトルv
k,m,m’ (sensor)がm番目の存在検出センサ3C−mとm’番目の存在検出センサ3C−m’との間の距離のみに依存する場合、下記式(63)が成立する。センサ移動制御部47は、移動速度ベクトルv
k,m,m’ (sensor)を算出していないが、移動速度ベクトルv
k,m’,m (sensor)を既に算出していた場合、移動速度ベクトルv
k,m,m’ (sensor)として、移動速度ベクトルv
k,m’,m (sensor)の値を用いてもよい。これにより、移動速度ベクトルv
k,m,m’ (sensor)の計算を省略することが可能である。
続いて、センサ移動制御部47は、ステップST6g−1で選択されていなかった全ての存在検出センサを、ステップST6g−1で先に選択したm番目の存在検出センサ3C−m以外の存在検出センサとして選択したか否かを確認する(ステップST6g−8)。未選択の存在検出センサがある場合(ステップST6g−8;NO)、センサ移動制御部47は、ステップST6g−6の処理に戻る。
一方、全ての存在検出センサを選択していた場合(ステップST6g−8;YES)、センサ移動制御部47は、下記式(64)に従って、ステップST6g−1で選択したm番目の存在検出センサ3C−mの最終的な移動速度ベクトルv
k,mを算出する(ステップST6g−9)。下記式(64)において、w
(target)は移動速度ベクトルv
k,m,i (target)の重みであり、w
(sensor)は移動速度ベクトルv
k,m,m’ (sensor)の重みである。w
(target)とw
(sensor)は、移動速度ベクトルv
k,mが示す速度の大きさを調整するパラメタであり、0よりも大きなスカラー値である。
センサ移動制御部47は、全ての存在検出センサ3C−1〜3C−Mを、ステップST6g−2以降の処理対象として選択したか否かを確認する(ステップST6g−10)。未選択の存在検出センサがある場合(ステップST6g−10;NO)、センサ移動制御部47は、ステップST6g−1の処理に戻る。一方、全ての存在検出センサを選択していた場合(ステップST6g−10;YES)、センサ移動制御部47は、図23に示す一連の処理を終了する。
なお、図23に示したM個の存在検出センサに対する移動速度ベクトルを算出する処理は、移動経路推定装置4Eとして機能する1つのプロセッサが一括して行ってもよいが、移動経路推定装置4Eとして機能する複数のプロセッサが存在検出センサごとに分散して行ってもよい。例えば、ステップST6g−2からステップST6g−9までの処理を、異なるプロセッサが存在検出センサごとに行ってもよい。この場合、プロセッサは、存在検出センサに搭載されたものでもよい。
以上のように、実施の形態6に係る移動経路推定装置4Eは、存在検出センサ3C−1〜3C−Mの移動を制御するセンサ移動制御部47を備える。この構成を備えることで、移動経路推定装置4Eは、観測対象から遠い存在検出センサを観測対象に近付けることができる。これにより、存在検出センサの検出範囲内に観測対象が存在する頻度が増加するので、存在検出センサの個数が少ない場合であっても、観測対象の移動経路の推定精度の低下を抑えることができる。また、観測対象が頻繁に方向転換または停止を行って当該観測対象の移動が等速直進の運動モデルに適合しない場合であっても、存在検出センサの検出範囲外に観測対象が移動する頻度を低減させることができるので、観測対象の移動経路の推定精度の低下を抑えることができる。
また、移動経路推定装置4Eは、センサ移動制御部47を用いて、観測対象に近すぎる存在検出センサを当該観測対象から遠ざけることができる。これにより、複数の存在検出センサの検出範囲が重なる領域が狭まり、複数の存在検出センサの検出範囲が重なる領域内に観測対象が収まる頻度が増加するので、存在検出センサによって検出される観測対象の位置に関する曖昧さ、すなわち観測誤差が減り、結果として観測対象の移動経路の推定精度が改善する。
さらに、移動経路推定装置4Eは、センサ移動制御部47を用いて、存在検出センサ同士が近づき過ぎないように遠ざけることができる。これにより、観測領域に存在検出センサが偏って分布することを抑制できるので、観測対象の出現位置から存在検出センサまでの距離が平均的に短くなり、観測対象の検出頻度が増加する。結果として、観測対象候補が出現してから、移動経路推定装置4Eによって実際に存在する観測対象と判定されるまでの時間が短縮する。また、観測対象の検出頻度が増加することで、移動経路の推定誤差が早期に収束するという効果も得られる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、実施の形態のそれぞれの自由な組み合わせまたは実施の形態のそれぞれの任意の構成要素の変形もしくは実施の形態のそれぞれにおいて任意の構成要素の省略が可能である。