以下、本発明に係る無灰炭の製造装置及び製造方法の実施形態について詳説する。
〔無灰炭の製造装置〕
図1の無灰炭の製造装置は、石炭供給部1と、溶剤供給部2と、混合部3と、ポンプ4と、加熱部5と、固液分離部6と、第1溶剤分離部7と、第2溶剤分離部8と、熱交換部9とを主に備える。また、当該無灰炭の製造装置は、溶剤を熱交換部9へ供給する冷却媒体供給流路100と、加熱部5で回収される溶剤を熱交換部9へ供給する第1溶剤回収流路101と、固液分離部6で回収される溶剤を熱交換部9へ供給する第2溶剤回収流路102と、第1溶剤分離部7で回収される溶剤を熱交換部9へ供給する第3溶剤回収流路103と、第2溶剤分離部8で回収される溶剤を熱交換部9へ供給する第4溶剤回収流路104と、熱交換部9で熱交換後の冷却媒体を溶剤供給部2へ供給する冷却媒体送出流路110とを備える。
<石炭供給部>
石炭供給部1は、石炭を混合部3へ供給する。石炭供給部1としては、常圧状態で使用される常圧ホッパー、常圧状態及び加圧状態で使用される加圧ホッパー等の公知の石炭ホッパーを用いることができる。
石炭供給部1から供給する石炭としては、様々な品質の石炭を用いることができる。例えば無灰炭の抽出率の高い瀝青炭や、より安価な劣質炭(亜瀝青炭や褐炭)が好適に用いられる。また、石炭を粒度で分類すると、細かく粉砕された石炭が好適に用いられる。ここで「細かく粉砕された石炭」とは、例えば石炭全体の質量に対する粒度1mm未満の石炭の質量割合が80%以上である石炭を意味する。また、石炭供給部1から供給する石炭として塊炭を用いることもできる。ここで「塊炭」とは、例えば石炭全体の質量に対する粒度5mm以上の石炭の質量割合が50%以上である石炭を意味する。塊炭は、細かく粉砕された石炭に比べて石炭の粒度が大きいため、後述する固液分離部6での分離を効率化することができる。ここで、「粒度(粒径)」とは、JIS−Z8815(1994)のふるい分け試験通則に準拠して測定した値をいう。なお、石炭の粒度による仕分けには、例えばJIS−Z8801−1(2006)に規定する金属製網ふるいを用いることができる。
また、溶出時間の短縮という観点から、石炭供給部1から供給する石炭として劣質炭を多く含むものを用いることが好ましい。供給する石炭全体における劣質炭の割合の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。供給する石炭に含まれる劣質炭の割合が上記下限未満であると、溶剤可溶成分を溶出する時間が長くなるおそれがある。
上記劣質炭の炭素含有率の下限としては、70質量%が好ましい。一方、上記劣質炭の炭素含有率の上限としては、85質量%が好ましく、82質量%がより好ましい。上記劣質炭の炭素含有率が上記下限未満であると、溶剤可溶成分の溶出率が低下するおそれがある。逆に、上記劣質炭の炭素含有率が上記上限を超えると、供給する石炭のコストが高くなるおそれがある。
なお、石炭供給部1から混合部3へ供給する石炭として、少量の溶剤を混合してスラリー化した石炭を用いてもよい。石炭供給部1からスラリー化した石炭を混合部3へ供給することにより、混合部3において石炭が溶剤と混合し易くなり、石炭をより早く溶解させることができる。ただし、スラリー化する際に混合する溶剤の量が多いと、加熱部5でスラリーを溶出温度まで昇温するための熱量が不必要に大きくなるため、製造コストが増大するおそれがある。
<溶剤供給部>
溶剤供給部2は、溶剤を混合部3へ供給する。上記溶剤供給部2は、溶剤を貯留する溶剤タンクを有し、この溶剤タンクから溶剤を混合部3へ供給する。
石炭と混合する溶剤は、石炭を溶解するものであれば特に限定されないが、例えば石炭由来の2環芳香族化合物が好適に用いられる。この2環芳香族化合物は、基本的な構造が石炭の構造分子と類似していることから石炭との親和性が高く、比較的高い抽出率を得ることができる。石炭由来の2環芳香族化合物としては、例えば石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油であるメチルナフタレン油、ナフタレン油等を挙げることができる。
上記溶剤の沸点は、特に限定されないが、例えば上記溶剤の沸点の下限としては、180℃が好ましく、230℃がより好ましい。一方、上記溶剤の沸点の上限としては、300℃が好ましく、280℃がより好ましい。上記溶剤の沸点が上記下限未満であると、溶剤が揮発し易くなるため、スラリー中の石炭と溶剤との混合比の調製及び維持が困難となるおそれがある。逆に、上記溶剤の沸点が上記上限を超えると、溶剤可溶成分と溶剤との分離が困難となるため、溶剤の回収率が低下するおそれがある。
溶剤供給部2における溶剤の温度の下限としては、40℃が好ましく、50℃がより好ましい。一方、上記溶剤の温度の上限としては、220℃が好ましく、170℃がより好ましい。上記溶剤の温度が上記下限未満であると、後述する加熱部5でスラリーを溶出温度まで昇温するための熱量が大きくなるため、製造コストが増大するおそれがある。逆に、上記溶剤の温度が上記上限を超えると、溶剤が揮発し易くなるため、スラリー中の石炭と溶剤との混合比の調製及び維持が困難となるおそれがある。
<混合部>
混合部3は、石炭供給部1より供給される石炭及び溶剤供給部2から供給される溶剤を混合する。
上記混合部3は、調製槽31を有する。この調製槽31には、供給管を介して上記溶剤及び石炭が供給される。調製槽31は、供給された溶剤及び石炭が混合されたスラリーを貯留する。また、上記調製槽31は、撹拌機31aを有している。調製槽31は、混合したスラリーを撹拌機31aで撹拌しながら保持することによりスラリーの混合状態を維持する。
調製槽31におけるスラリー中の無水炭基準での石炭濃度の下限としては、10質量%が好ましく、13質量%がより好ましい。一方、上記石炭濃度の上限としては、25質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。上記石炭濃度が上記下限未満であると、後述する加熱部5で溶出される溶剤可溶成分の溶出量がスラリー処理量に対して少なくなるため、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記石炭濃度が上記上限を超えると、溶剤中で上記溶剤可溶成分が飽和するため、上記溶剤可溶成分の溶出率が低下するおそれがある。
なお、混合部3の調製槽31で調製されたスラリーは、供給管を介して加熱部5へ送られる。
<ポンプ>
ポンプ4は、混合部3から加熱部5へスラリーを供給する供給管に配設されている。このポンプ4は、混合部3の調製槽31に貯留されているスラリーを、供給管を介して加熱部5へ圧送する。
上記ポンプ4の種類は、供給管を介して上記スラリーを加熱部5へ圧送できるものであれば特に限定されないが、例えば容積型ポンプ又は非容積型ポンプを用いることができる。より具体的には、容積型ポンプとしてダイヤフラムポンプやチューブフラムポンプ等を用いることができ、非容積型ポンプとして渦巻ポンプ等を用いることができる。
<加熱部>
加熱部5は、上記混合部3で得られるスラリーを加熱する。この加熱により溶剤に可溶な石炭成分を石炭から溶出することができる。上記加熱部5は、予熱器51及び抽出槽52を有する。
予熱器51は、スラリーを所定温度まで加熱する。予熱器51は、予熱器51内を通過するスラリーを加熱できるものであれば特に限定されないが、例えば抵抗加熱式ヒーターや誘導加熱コイルが挙げられる。また、熱媒を用いて加熱を行ってもよい。例えば予熱器51を通過するスラリーの流路の周囲に加熱管を配し、この加熱管に蒸気、油等の熱媒を供給することで予熱器51内を通過するスラリーを加熱することができる。
予熱器51による加熱後のスラリーの温度の下限としては、300℃が好ましく、360℃がより好ましい。一方、上記スラリーの温度の上限としては、溶出可能な温度であれば特に限定されないが、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記スラリーの温度が上記下限未満であると、石炭を構成する分子間の結合を十分に弱められず、溶出率が低下するおそれがある。逆に、上記スラリーの温度が上記上限を超えると、スラリーの温度を維持するための熱量が不必要に大きくなるため、製造コストが増大するおそれがある。
抽出槽52には、上記予熱器51で加熱されたスラリーが供給される。上記抽出槽52では、このスラリーの温度を保持しながら溶剤に可溶な石炭成分が石炭から溶出される。また、上記抽出槽52は、撹拌機52aを有している。この撹拌機52aによりスラリーを撹拌することで上記溶出を促進できる。
加熱部5での加熱時間は、特に限定されないが、溶剤可溶成分の抽出量と抽出効率との観点から10分以上70分以下が好ましい。ここで、「加熱部5での加熱時間」は、予熱器51及び抽出槽52での加熱時間を合計したものである。
また、加熱部5の抽出槽52で加熱されるスラリーに含まれる溶剤は、その一部が蒸発する。この蒸発した溶剤は300℃以上420℃以下程度の蒸気であり、抽出槽52の上部に溜まり、第1溶剤回収流路101を介して熱交換部9へ供給される。具体的には、第1溶剤回収流路101は冷却媒体供給流路100に接続されており、上記溶剤は第1溶剤回収流路101上に配設された熱交換器101aにより冷却され液化された後、冷却媒体として熱交換部9へ供給される。
この抽出槽52から回収される溶剤の温度は、冷却後において100℃以上150℃以下程度である。また、回収される上記溶剤の量は、製造される無灰炭1kg当たりについて0.5kg以上0.7kg以下程度である。
<固液分離部>
固液分離部6は、上記加熱部5で得られる石炭成分が溶剤に溶解した溶液と、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液とをスラリーから分離する。なお、溶剤不溶成分とは、主に抽出用溶剤に不溶な灰分と不溶石炭とで構成されており、抽出用溶剤も含まれている抽出残分をいう。
固液分離部6における上記分離は、具体的には重力沈降法により行うことができる。ここで重力沈降法とは、重力を利用して固形分を沈降させて固液分離する分離方法である。
当該無灰炭の製造装置は、スラリーを固液分離部6内に連続的に供給しながら、溶剤可溶成分を含む溶液を上部から排出し、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液を下部から排出することができる。これにより連続的な固液分離処理が可能となる。
溶剤可溶成分を含む溶液は、固液分離部6の上部に溜まる。この溶液は必要に応じてフィルターユニットを用いて濾過した後、第1溶剤分離部7に排出される。一方、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液は、固液分離部6の下部に溜まり、第2溶剤分離部8に排出される。
固液分離部6内でスラリーを維持する時間は、特に限定されないが、例えば30分以上120分以下であり、この時間内で固液分離部6内の沈降分離が行われる。なお、石炭として塊炭を使用する場合には、沈降分離が効率化されるので、固液分離部6内でスラリーを維持する時間を短縮できる。
固液分離部6内は、加熱及び加圧することが好ましい。固液分離部6内の加熱温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、固液分離部6内の加熱温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記加熱温度が上記下限未満であると、溶剤可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記加熱温度が上記上限を超えると、加熱のための運転コストが高くなるおそれがある。
また、固液分離部6内の圧力の下限としては、1MPaが好ましく、1.4MPaがより好ましい。一方、上記圧力の上限としては、3MPaが好ましく、2MPaがより好ましい。上記圧力が上記下限未満であると、溶剤可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記圧力が上記上限を超えると、加圧のための運転コストが高くなるおそれがある。
なお、上記溶液及び固形分濃縮液を分離する方法としては、重力沈降法に限られず、例えば濾過法や遠心分離法を用いてもよい。固液分離方法として濾過法や遠心分離法を用いる場合、固液分離部6として濾過器や遠心分離器などが使用される。
また、固液分離部6で加熱されるスラリーに含まれる溶剤は、その一部が蒸発する。この蒸発した溶剤は300℃以上420℃以下程度の蒸気であり、固液分離部6の上部に溜まり、第2溶剤回収流路102を介して熱交換部9へ供給される。具体的には、第2溶剤回収流路102は冷却媒体供給流路100に接続されており、上記溶剤は第2溶剤回収流路102上に配設された熱交換器102aにより冷却され液化された後、冷却媒体として熱交換部9へ供給される。
この固液分離部6から回収される溶剤の温度は、冷却後において100℃以上150℃以下程度であり、常圧で液体である。また、回収される上記溶剤の量は、製造される無灰炭1kg当たりについて0.5kg以上0.7kg以下程度である。
<第1溶剤分離部>
第1溶剤分離部7は、上記固液分離部6で分離した上記溶液から溶剤を蒸発させる。この溶剤の蒸発分離により無灰炭(HPC)が得られる。
このようにして得られる無灰炭は、灰分が5質量%以下又は3質量%以下であり、灰分をほとんど含まず、水分は皆無であり、また例えば原料石炭よりも高い発熱量を示す。さらに無灰炭は、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性が大幅に改善され、例えば原料石炭よりも遥かに優れた流動性を示す。従って無灰炭は、コークス原料の配合炭として使用することができる。
溶剤を蒸発分離する方法としては、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)を含む分離方法を用いることができる。上記溶液からの溶剤の分離により、上記溶液から実質的に灰分を含まない無灰炭を得ることができる。
なお、第1溶剤分離部7で得られる無灰炭は液状であり、その温度は200℃以上350℃以下程度である。
また、第1溶剤分離部7で蒸発させた溶剤は、250℃以上350℃以下程度の蒸気であり、第3溶剤回収流路103を介して熱交換部9へ供給される。具体的には、第3溶剤回収流路103は冷却媒体供給流路100に接続されており、上記溶剤は第3溶剤回収流路103上に配設された熱交換器103aにより冷却され液化された後、冷却媒体として熱交換部9へ供給される。
この第1溶剤分離部7から回収される溶剤の温度は、冷却後において180℃以上250℃以下程度である。また、回収される上記溶剤の量は、製造される無灰炭1kg当たりについて8kg以上12kg以下程度である。
<第2溶剤分離部>
第2溶剤分離部8は、固液分離部6で分離された上記固形分濃縮液から、溶剤を蒸発分離させて副生炭(RC)を得る。
副生炭は、軟化溶融性は示さないが、含酸素官能基が脱離されている。そのため、副生炭は、配合炭として用いた場合にこの配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害しない。従ってこの配合炭は、コークス原料の配合炭の一部として使用することもできる。なお、配合炭は回収せずに廃棄してもよい。
固形分濃縮液から溶剤を分離する方法としては、第1溶剤分離部7の分離方法と同様に、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)を用いることができる。溶剤の分離及び回収により、固形分濃縮液から灰分等を含む溶剤不溶成分が濃縮された副生炭を得ることができる。
また、第2溶剤分離部8で蒸発させた溶剤は、250℃以上350℃以下程度の蒸気であり、第4溶剤回収流路104を介して熱交換部9へ供給される。具体的には、第4溶剤回収流路104は冷却媒体供給流路100に接続されており、上記溶剤は第4溶剤回収流路104上に配設された熱交換器104aにより冷却され液化された後、冷却媒体として熱交換部9へ供給される。
この第2溶剤分離部8から回収される溶剤の温度は、冷却後において130℃以上180℃以下程度であり、常圧で液状となる。また、回収される上記溶剤の量は、製造される無灰炭1kg当たりについて1kg以上1.5kg以下程度である。
<熱交換部>
熱交換部9は、上記第1溶剤分離部7で得られる液状の無灰炭を冷却媒体と熱交換して冷却する。この熱交換により固形の無灰炭(HPC)を得る。また、熱交換部9は、直列に接続された第1熱交換器91と第2熱交換器92とを有する。
第1熱交換器91及び第2熱交換器92に用いる熱交換器としては、冷却式スチールベルトコンベアや二重管式スクリューコンベア等の公知の熱交換器を用いることができる。例えば二重管式スクリューコンベアを用いる場合、スクリューコンベア内部(シェル側)に被冷却物である無灰炭を供給し、スクリューコンベア外壁やシャフトに冷却媒体を供給することで熱交換を行える。
(第1熱交換器)
第1熱交換器91では、第1溶剤分離部7で得られる無灰炭が冷却される。また、第1熱交換器91の冷却媒体としては、混合部3で溶剤として利用するので、石炭を溶解するもの(石炭可溶液)であれば特に限定されないが、混合部3で混合される溶剤と同じ種類のものを用いるとよい。
上記冷却媒体の熱交換部9の流入口における温度の上限としては、200℃が好ましく、150℃がより好ましい。上記冷却媒体の流入口における温度が上記上限を超えると、無灰炭との温度差が小さくなり過ぎるため、無灰炭との熱交換効率が低下し、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。一方、上記冷却媒体の流入口における温度の下限は特に限定されないが、例えば室温(25℃)とできる。上記冷却媒体の流入口における温度が上記下限未満であると、冷却媒体を強制的に冷却する必要が生じる場合があり、冷却のための運転コストが高くなるおそれがある。
上記冷却媒体の熱交換部9の流出口における温度の下限としては、40℃が好ましく、50℃がより好ましい。一方、上記冷却媒体の流出口における温度の上限としては、250℃が好ましく、220℃がより好ましい。上記冷却媒体の流出口における温度が上記下限未満であると、上記冷却媒体を多量に必要とするため、当該無灰炭の製造装置が冷却媒体を処理しきれず、無灰炭の熱量が十分に再利用できないおそれがある。逆に、上記冷却媒体の流出口における温度が上記上限を超えると、無灰炭との温度差が小さくなり過ぎるため、熱交換器の必要伝熱面積が大きくなり、熱交換器の製造コストが増加したり、熱交換器を設計できなくなったりするおそれがある。
上記冷却媒体の熱交換部9の流出口における温度と流入口における温度との差の下限としては、15℃が好ましく、20℃がより好ましい。一方、上記温度差の上限としては、90℃が好ましく、70℃がより好ましい。上記温度差が上記下限未満であると、上記冷却媒体を多量に必要とするため、当該無灰炭の製造が冷却媒体を処理しきれず、無灰炭の熱量が十分に再利用できないおそれがある。逆に、上記温度差が上記上限を超えると、熱交換器の必要伝熱面積が大きくなり、熱交換器の製造コストが増加したり、熱交換器を設計できなくなったりするおそれがある。
上記冷却媒体の熱交換部9の流入口における温度は、熱交換部9における冷却前の無灰炭の温度より低く設定される。その温度差の下限としては、100℃が好ましく、150℃がより好ましい。上記温度差が上記下限未満であると、無灰炭の熱量が冷却媒体に十分に回収されず、無灰炭の熱量の再利用が不十分となるおそれがある。また、冷却前の無灰炭の温度が300℃以上350℃以下程度であるため、上記温度差を上記下限未満とすると、溶剤の温度が沸点を超え、無灰炭の熱量の再利用が不十分となるおそれがある。一方、上記温度差の上限としては、特に限定されないが、通常300℃以下である。
上記冷却媒体の熱交換部9の流出口における温度は、第1熱交換器91における冷却後の無灰炭の温度より低い。その温度差の下限としては、3℃が好ましく、5℃がより好ましい。一方、上記温度差の上限としては、80℃が好ましく、40℃がより好ましく、10℃がさらに好ましい。上記温度差が上記下限未満であると、熱交換器の必要伝熱面積が大きくなり、熱交換器の製造コストが増加したり、熱交換器を設計できなくなったりするおそれがある。逆に、上記温度差が上記上限を超えると、無灰炭の熱量が冷却媒体に十分に回収されないため、無灰炭の熱量の再利用が不十分となるおそれがある。
無灰炭1kg当たりの冷却媒体の供給量の下限としては、0.4kgが好ましく、0.5kgがより好ましい。一方、上記供給量の上限としては、15kgが好ましく、12kgがより好ましく、5kgがさらに好ましい。上記供給量が上記下限未満であると、無灰炭の熱量が冷却媒体に十分に回収されず、無灰炭の熱量の再利用が不十分となるおそれがある。逆に、上記供給量が上記上限を超えると、熱交換後の冷却媒体の温度が十分に高まらず、無灰炭の熱量の再利用が不十分となるおそれがある。
熱交換部9で冷却媒体として使用された冷却媒体は、冷却媒体送出流路110を介して溶剤供給部2へ供給される。上記冷却媒体を溶剤供給部2へ供給することで、冷却媒体で使用された冷却媒体が溶剤供給部2から混合部3へ供給され、溶剤の一部又は全部として用いられる。
上記冷却媒体は、冷却媒体供給流路100を介して供給される。冷却媒体供給流路100には、第1溶剤回収流路101、第2溶剤回収流路102、第3溶剤回収流路103、及び第4溶剤回収流路104が接続されており、それぞれで回収された溶剤を熱交換部9に供給可能に構成されている。また、冷却媒体供給流路100の上流側から必要に応じて新たな冷却媒体が供給できる。
第1熱交換器91における冷却後の無灰炭の温度の下限としては、50℃が好ましく、60℃がより好ましい。一方、上記冷却後の無灰炭の温度の上限としては、280℃が好ましく、260℃がより好ましい。冷却後の無灰炭の温度が上記下限未満であると、冷却前後の無灰炭の温度差が大きくなる。この冷却前後の温度差に応じて熱交換の時間を長くしたり供給する冷却媒体の量を増加させたりする必要があるため、温度差が大きくなり過ぎると、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。逆に、冷却後の無灰炭の温度が上記上限を超えると、無灰炭の熱量が冷却媒体に回収され難くなり、十分に再利用できないおそれがある。
第1熱交換器91における冷却前後の無灰炭の温度差の下限としては、30℃が好ましく、40℃がより好ましい。また、上記無灰炭の温度差の上限としては、250℃が好ましく、240℃がより好ましい。上記無灰炭の温度差が上記下限未満であると、無灰炭の熱量が冷却媒体に十分に回収されず、無灰炭の熱量の再利用が不十分となるおそれがある。また、後述する第2熱交換器92に比較的温度の高い無灰炭が供給されるため、冷却媒体として用いる冷却水の使用量が増加し、冷却水の使用量低減効果が不足するおそれがある。一方、冷却前後の無灰炭の温度差に応じて熱交換の時間を長くしたり供給する冷却媒体の量を増加させたりする必要があるため、上記無灰炭の温度差が上記上限を超えると、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。
(第2熱交換器)
第2熱交換器92では、第1熱交換器91で冷却された無灰炭をさらに冷却する。また、第2熱交換器92では、冷却媒体として混合部3で溶剤として利用しないもの、例えば水(冷却水)を用いる。
上記冷却水の熱交換部9の流入口における温度の上限としては、50℃が好ましく、40℃がより好ましく、30℃がさらに好ましい。上記冷却水の流入口における温度が上記上限を超えると、無灰炭との間で効率よく熱交換が行えず、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。一方、上記冷却水の流入口における温度の下限は特に限定されないが、例えば室温(25℃)とできる。上記冷却水の流入口における温度が上記下限未満であると、冷却水の温度を強制的に下げる必要が生じる場合があり、冷却水の温度を下げるための運転コストが高くなるおそれがある。
上記冷却水の熱交換部9の流出口における温度の下限としては、30℃が好ましく、40℃がより好ましい。一方、上記冷却水の流出口における温度の上限としては、60℃が好ましく、50℃がより好ましい。上記冷却水の流出口における温度が上記下限未満であると、無灰炭を所望の温度まで冷却するために多量の冷却水が必要となるため、冷却水の使用量低減効果が不足するおそれがある。逆に、上記冷却水の流出口における温度が上記上限を超えると、冷却水の温度を下げるための運転コストが高くなるため、冷却水の再利用が困難となる。このため、新たな冷却水が必要となり、冷却水の使用量低減効果が不足するおそれがある。
上記冷却水の熱交換部9の流出口における温度と流入口における温度との差の下限としては、5℃が好ましく、7℃がより好ましい。一方、上記温度差の上限としては、15℃が好ましく、13℃がより好ましい。上記温度差が上記下限未満であると、無灰炭を所望の温度まで冷却するために多量の冷却水が必要となるため、冷却水の使用量低減効果が不足するおそれがある。逆に、上記温度差が上記上限を超えると、冷却水の温度を下げるための運転コストが高くなり過ぎるおそれがある。
上記冷却水の熱交換部9の流入口における温度は、第2熱交換器92における冷却前の無灰炭の温度以下に設定される。その温度差の上限としては、200℃が好ましく、190℃がより好ましい。上記温度差が上記上限を超えると、無灰炭を所望の温度まで冷却するために多量の冷却水が必要となるため、冷却水の使用量低減効果が不足するおそれがある。一方、上記温度差の下限としては、無灰炭が安全に取り扱える温度まで冷却されている限り特に限定されず、0℃であってもよい。つまり、例えば第1熱交換器91で無灰炭が十分に冷却されている場合、第2熱交換器92で冷却を行わなくともよい。
上記冷却水の熱交換部9の流出口における温度は、第2熱交換器92における冷却後の無灰炭の温度以下である。その温度差の下限としては、10℃が好ましく、20℃がより好ましい。上記温度差が上記下限未満であると、熱交換に要する時間が大きくなり過ぎ、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。一方、上記温度差の上限としては、無灰炭が安全に取り扱える温度まで冷却されている限り特に限定されないが、例えば40℃とできる。
無灰炭1kg当たりの冷却水の供給量の上限としては、7kgが好ましく、6.5kgがより好ましい。上記供給量が上記上限を超えると、冷却水の使用量低減効果が不足するおそれがある。一方、上記供給量の下限としては、無灰炭が安全に取り扱える温度まで冷却されている限り特に限定されず、0kg、つまり第2熱交換器92で冷却を行わなくともよい。
熱交換部9における冷却後の無灰炭の温度の下限としては、40℃が好ましく、50℃がより好ましい。一方、上記冷却後の無灰炭の温度の上限としては、100℃が好ましく、80℃がより好ましい。冷却後の無灰炭の温度が上記下限未満であると、冷却前後の無灰炭の温度差が大きくなる。この冷却前後の温度差に応じて熱交換の時間を長くしたり供給する冷却水の量を増加させたりする必要があるため、温度差が大きくなり過ぎると、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。逆に、冷却後の無灰炭の温度が上記上限を超えると、冷却後の固形の無灰炭を安全に取り扱えないおそれがある。
熱交換部9における冷却前後の無灰炭の温度差の上限としては、300℃が好ましく、250℃がより好ましい。上記温度差が上記上限を超えると、無灰炭を所望の温度まで冷却するために多量の冷却水が必要となるため、冷却水の使用量低減効果が不足するおそれがある。一方、上記温度差の下限としては、無灰炭が安全に取り扱える温度まで冷却されている限り特に限定されないが、通常150℃程度である。
無灰炭が熱交換部9により冷却される時間の下限としては、5分が好ましく、10分がより好ましい。一方、上記冷却時間の上限としては、30分が好ましく、20分がより好ましい。上記冷却時間が上記下限未満であると、無灰炭を所望の温度まで急速に冷却する必要が生じるため、多量の冷却媒体が必要となり、無灰炭の製造コストが上昇するおそれがある。逆に、上記冷却時間が上記上限を超えると、冷却時間が不要に長くなるため、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。
熱交換部9で無灰炭が冷却される時間に対する第1熱交換器91で無灰炭が冷却される時間の比の下限としては、10%が好ましく、13%がより好ましい。上記冷却時間の比が上記下限未満であると、溶剤により回収される熱量が減少するため、無灰炭の熱量の再利用が不十分となるおそれがある。一方、上記冷却時間の比の上限は無灰炭を所望の温度まで冷却できる限り特に限定されず、100%であってもよい。なお、上記冷却時間の比は、例えば図1の熱交換部9であれば、第1熱交換器91で無灰炭が冷却される部分(第1冷却ゾーン)の長さと、第2熱交換器92で無灰炭が冷却される部分(第2冷却ゾーン)の長さとの比により制御できる。具体的には、熱交換部9を通過する無灰炭の流速を一定として、第1冷却ゾーンと第2冷却ゾーンとの長さの和に対する第1冷却ゾーンの長さの比を上記冷却時間の比の範囲内とすればよい。
〔無灰炭の製造方法〕
当該無灰炭の製造方法は、混合工程と、加熱工程と、分離工程と、第1蒸発工程と、第2蒸発工程と、回収工程と、熱交換工程とを備える。当該無灰炭の製造方法は、図1の無灰炭の製造装置を用いて行うことができる。
<混合工程>
混合工程では、石炭及び溶剤を混合する。具体的には、石炭供給部1から供給される石炭及び溶剤供給部2から供給される溶剤を混合部3の調製槽31により混合してスラリーとする。
<加熱工程>
加熱工程では、上記混合工程で得られるスラリーを加熱する。具体的には以下の手順で行う。まず、混合工程で調製されたスラリーを、ポンプ4によって加熱部5の予熱器51に供給し、所定温度まで加熱する。その後、スラリーを抽出槽52に供給し、撹拌機52aで撹拌しながら所定温度で保持して抽出を行う。
<分離工程>
分離工程では、上記加熱工程で得られる石炭成分が溶剤に溶解した溶液と、溶剤不溶性分を含む固形分濃縮液とをスラリーから分離する。具体的には、抽出槽52から排出されるスラリーを供給し、固液分離部6内で例えば重力沈降法により供給されたスラリーを上記溶液及び固形分濃縮液に分離する。
<第1蒸発工程>
第1蒸発工程では、上記分離工程で分離した上記溶液から溶剤を蒸発させる。具体的には、固液分離部6で分離された溶液を第1溶剤分離部7に供給し、第1溶剤分離部7で溶剤を蒸発させる。これにより上記溶液を溶剤と無灰炭とに分離する。なお、この第1蒸発工程において得られる無灰炭は液状である。
<第2蒸発工程>
第2蒸発工程では、上記分離工程で分離した上記固形分濃縮液から溶剤を蒸発させる。具体的には、固液分離部6で分離された固形分濃縮液を第2溶剤分離部8に供給し、第2溶剤分離部8で溶剤を蒸発させて溶剤と副生炭とに分離する。
<回収工程>
回収工程では、加熱工程、分離工程、第1蒸発工程、及び第2蒸発工程で溶剤を回収する。具体的には、以下のようにして各工程で溶剤を回収する。上記加熱工程での回収では、加熱部5の加熱により蒸発する溶剤を第1溶剤回収流路101を介して回収する。また、上記分離工程での回収では、固液分離部6で加熱により蒸発する溶剤を第2溶剤回収流路102を介して回収する。また、上記第1蒸発工程での回収では、第1溶剤分離部7で蒸発分離された溶剤を第3溶剤回収流路103を介して回収する。また、上記第2蒸発工程での回収では、第2溶剤分離部8で蒸発分離された溶剤を第4溶剤回収流路104を介して回収する。これらの回収した溶剤は、後述する熱交換工程の冷却媒体として用いる。
当該無灰炭の製造方法では、このように各工程で回収される溶剤を熱交換工程の冷却媒体として用いることで、冷却媒体として新たに供給する溶剤の使用量を低減できる。また、加熱工程及び分離工程で回収される溶剤は温度が比較的低いので、この溶剤を単独又は混合して用いることで熱交換工程での熱交換の効率低下を抑止できる。また、第1蒸発工程及び第2蒸発工程で回収される溶剤は、溶剤の量が比較的多いので新たに供給する溶剤の使用量を特に低減できる。さらに、各工程での加熱により溶剤の温度が上昇するが、この熱量を有する溶剤を熱交換部9を経て混合部3に供給することで、無灰炭の熱量に加え、各工程で加熱により消費される熱量の一部を再利用することができる。
<熱交換工程>
熱交換工程では、上記第1蒸発工程で得られる液状の無灰炭を冷却媒体と熱交換する。具体的には、第1蒸発工程で得られる無灰炭を、混合工程で溶剤として利用する冷却媒体を用いて熱交換部9の第1熱交換器91で冷却した後、混合工程で利用しない冷却媒体を用いて第2熱交換器92でさらに冷却する。
この熱交換により冷却過程において液状であった無灰炭は、150℃以上200℃以下の温度で固化が始まり、最終的に100℃以下に冷却され、固体となる。これにより固形の無灰炭を得る。得られる固形の無灰炭は、例えば熱交換器として二重管式スクリューコンベアを用いる場合、スクリューコンベアにより押し出され回収される。
なお、第1熱交換器91で使用した冷却媒体は、冷却媒体送出流路110を介して溶剤供給部2へ供給される。上記冷却媒体を溶剤供給部2へ供給することで、上記冷却媒体が混合部3へ供給され、溶剤の一部又は全部として用いられる。
〔利点〕
当該無灰炭の製造装置は、熱交換部9の熱交換後の冷却媒体を上記混合部3へ供給する冷却媒体送出流路110を備えるので、無灰炭を冷却する冷却媒体を上記混合部3における溶剤として用いることができる。このため、当該無灰炭の製造装置を用いることで、新たに冷却媒体を導入することなく冷却水の使用量が低減できる。また、当該無灰炭の製造装置は、無灰炭の熱量を回収した溶剤を、混合部3で混合される溶剤として用いることができるので、無灰炭の熱量をスラリーの加熱に再利用できる。従って、当該無灰炭の製造装置を用いることで無灰炭の製造コストが低減できる。
また、当該無灰炭の製造方法は、混合工程で用いる溶剤で無灰炭を冷却するので、新たに冷却媒体を導入することなく冷却水の使用量を低減できる。また、当該無灰炭の製造方法は、無灰炭の熱量を再利用することで、混合工程で得られるスラリーの温度が高められる。これにより加熱工程で加熱に必要な熱量が低減できる。従って、当該無灰炭の製造方法を用いることで無灰炭の製造コストを低減できる。
[その他の実施形態]
なお、本発明の無灰炭の製造装置及び無灰炭の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。
上記実施形態では、無灰炭の製造装置が、第1溶剤回収流路、第2溶剤回収流路、第3溶剤回収流路、及び第4溶剤回収流路を備える場合を説明したが、上記溶剤回収流路はその一部又は全てを備えなくともよい。
また、上記実施形態では、無灰炭の製造方法として加熱工程、分離工程、第1蒸発工程、及び第2蒸発工程で回収される溶剤を全て熱交換工程の冷却媒体として用いる場合を説明したが、溶剤の一部又は全部を回収しなくともよい。例えば特定の工程において回収される溶剤のみを用いてもよい。
上記実施形態では、熱交換部が第1熱交換器と第2熱交換器とを有し、第1熱交換器では冷却媒体として混合部で利用する溶剤を用い、第2熱交換器では冷却媒体として混合部で利用しない冷却水を用いる場合を説明したが、第1熱交換器及び第2熱交換器共に混合部で利用する冷却媒体を用いてもよい。例えば第1熱交換器の冷却媒体として比較的温度の高い第3溶剤回収流路、及び第4溶剤回収流路により回収された溶剤を用い、第2熱交換器の冷却媒体として比較的温度の低い第1溶剤回収流路及び第2溶剤回収流路を用いることで、固形の無灰炭(HPC)を得ることができる。また、第1熱交換器及び第2熱交換器の冷却媒体を共に溶剤とする場合、冷却に使用した溶剤はいずれも上記混合工程における溶剤として用いることができる。
また、上記熱交換部が有する熱交換器の数は2に限定されず、1又は3以上であってもよい。
また、上記実施形態では、無灰炭の製造方法として第2蒸発工程を備える場合を説明したが、例えば副生炭を利用しない場合、この第2蒸発工程は省略可能である。第2蒸発工程を行わない場合、無灰炭の製造装置は、第2熱交換器及び第4溶剤回収流路を備えなくともよい。
また、上記実施形態では、無灰炭の製造装置の調製部が調製槽を有する構成について説明したが、この構成に限らず、溶剤と石炭との混合ができれば、調製槽を省略してもよい。例えばラインミキサーにより上記混合が完了するような場合には、調製槽を省略して供給管と固液分離部との間にラインミキサーを備える構成としてもよい。
また、上記実施形態では、分離工程を連続処理で行う方法を示したが、分離工程を連続処理で行なわず、例えば固液分離部にスラリーを貯留し分離を行うことを繰り返すバッチ処理としてもよい。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限
定されるものではない。
[比較例1]
シミュレーションにより熱交換部で無灰炭を300℃から70℃まで、35℃の冷却水のみを用いて冷却する場合に必要な冷却水の量を算出した。算出において、無灰炭の製造量は10,000kg/hとした。また、冷却水の熱交換器の流出口における温度と流入口における温度との差は10℃とした。
シミュレーションにより得られた必要な冷却水量は82,800kg/hであった。なお、冷却水の流入口と流出口との温度差を10℃としたので、無灰炭を300℃から70℃まで冷却するために必要な熱量は828,000kcal/hである。
また、上記シミュレーション結果から算出した無灰炭及び冷却水の温度変化を図2に示す。図2においてグラフの横軸は熱交換部の冷却ゾーンにおける位置(熱交換部の入口からの距離)を表し、左端は熱交換部の入口を意味し、グラフの右端は熱交換部の出口を意味する。
[実施例1]
シミュレーションにより熱交換部で無灰炭を300℃から70℃まで、無灰炭の抽出に用いる溶剤(1−メチルナフタレン)のみを冷却媒体として用いて冷却する場合に必要な溶剤の量及び溶剤の温度上昇を算出した。算出において、無灰炭の製造量は10,000kg/hとした。また、無灰炭の冷却に必要な熱量は比較例1と同じ828,000kcal/hであり、供給する溶剤の温度は35℃とした。なお、冷却ゾーンの長さ(熱交換部の入口と出口との距離)は比較例1と同様とした。
シミュレーションの結果、必要な溶剤の量は100,000kg/hであり、溶剤は60℃まで加熱された。また、シミュレーション結果から算出した無灰炭及び溶剤の温度変化を図3に示す。
[実施例2]
シミュレーションにより、加熱工程で回収される溶剤を用いて300℃の無灰炭を冷却し、さらに冷却水を用いて無灰炭を70℃まで冷却する場合に、冷却ゾーン全体における溶剤により無灰炭を冷却するゾーン(第1冷却ゾーン)の長さの割合、溶剤の温度上昇、及び必要な冷却水の量を、溶剤の温度上昇が最大となるように算出した。加熱工程で回収される溶剤の温度を120℃、溶剤の量を6,000kg/hとした。また、冷却ゾーンの全体の長さは比較例1と同様とし、また、冷却水により無灰炭を冷却するゾーン(第2冷却ゾーン)における冷却水の流入口における温度は35℃とし、冷却水の流出口における温度と流入口における温度との差は10℃とした。
シミュレーションの結果、第1冷却ゾーンは、冷却ゾーン全体の25%であり、残り75%が第2冷却ゾーンとなった。また、第1冷却ゾーンを通過する際の無灰炭の温度は250℃であり、溶剤は180℃まで加熱された。また、第2冷却ゾーンで必要となる冷却水の量は、64,800kg/hであった。また、上記シミュレーション結果から算出した無灰炭、溶剤及び冷却水の温度変化を図4に示す。
[実施例3]
シミュレーションにより、加熱工程及び第2蒸発工程で回収される溶剤を混合して用い、300℃の無灰炭を冷却し、さらに冷却水を用いて無灰炭を70℃まで冷却する場合に、冷却ゾーン全体における第1冷却ゾーンの長さの割合、溶剤の温度上昇、及び必要な冷却水の量を、溶剤の温度上昇が最大となるように算出した。加熱工程で回収される溶剤の温度を120℃、溶剤の量を6,000kg/hとし、第2蒸発工程で回収される溶剤の温度を150℃、溶剤の量を11,000kg/hとした。これらの溶剤を混合することで冷却媒体用の溶剤として、140℃で17,000kg/hの溶剤が得られる。また、冷却ゾーンの全体の長さは比較例1と同様とし、また、第2冷却ゾーンにおける冷却水の熱交換器の流入口における温度は35℃とし、冷却水の熱交換器の流出口における温度と流入口における温度との差は10℃とした。
シミュレーションの結果、第1冷却ゾーンは、冷却ゾーン全体の15%であり、残り85%が第2冷却ゾーンとなった。また、第1冷却ゾーンを通過する際の無灰炭の温度は210℃であり、溶剤は200℃まで加熱された。また、第2冷却ゾーンで必要となる冷却水の量は、50,400kg/hであった。また、上記シミュレーション結果から算出した無灰炭、溶剤及び冷却水の温度変化を図5に示す。
[評価]
上記シミュレーション結果を元に、溶剤の回収熱量及び冷却水の低減割合を評価した。
<回収熱量>
溶剤の回収熱量としては、300℃の無灰炭から熱交換工程で回収する熱量と、加熱工程や第2蒸発工程で加熱された溶剤を用いることで各工程から回収する熱量とがある。これらをそれぞれ分けて評価した。
(熱交換工程からの回収効果)
熱交換工程において無灰炭を300℃から70℃まで冷却するために回収が必要な総熱量は828,000kcal/hである。比較例1においてこの総熱量は全て82,800kg/hの冷却水により回収される。各実施例において冷却水の温度変化を10℃で同一としているので、冷却水により回収される熱量は冷却水の量に比例する。このことから、実施例1〜3では、比較例1との冷却水量の比を用いて各実施例において冷却水により回収される熱量を算出し、その熱量を、総熱量である828,000kcal/hから減じた熱量を溶剤の回収熱量とした。この溶剤が回収した熱量によって加熱工程で必要となる熱量は低減される。この回収熱量による低減割合を熱回収を行わない場合の加熱工程での必要熱量を基準として算出した。結果を表1に示す。
(加熱工程及び第2蒸発工程からの回収効果)
実施例2では加熱工程で回収される溶剤を用いる。また、実施例3では加熱工程及び第2蒸発工程で回収される溶剤を用いる。これらの溶剤は、各工程で加熱されているため、温度が高い。実施例2及び実施例3においては、この温度上昇した溶剤が持つ熱量によっても加熱工程で必要となる熱量は低減される。この加熱工程及び第2蒸発工程で加熱された溶剤により回収される熱量と、熱回収を行わない場合の加熱工程での必要熱量に対する上記回収熱量による低減割合とを算出した。結果を表1に示す。なお、実施例1及び比較例1では加熱工程及び第2蒸発工程の熱量は回収されないため、この回収熱量及び低減割合は共に0である。
(合計回収効果)
上記熱交換工程から回収する熱量による低減割合と、加熱工程及び第2蒸発工程から回収する熱量による低減割合との合計を、回収効果の合計として算出した。結果を表1に示す。
<冷却水の低減割合>
冷却水の低減割合は、比較例1を基準とし、比較例1の冷却水の流量に対して低減された冷却水の流量の比を算出した。結果を表1に示す。
表1の結果より、実施例1〜3のシミュレーション結果によれば比較例1のシミュレーション結果に比べて無灰炭の冷却に必要な冷却水の量が低減でき、また無灰炭の熱量が溶剤に回収できている。これに対し、比較例1では冷却媒体として溶剤を用いないため、冷却水の使用量が低減できず、また無灰炭の熱量を回収して再利用することができない。以上から、冷却媒体として溶剤を用いることで、無灰炭の冷却に必要な冷却水の低減及び無灰炭の熱量の再利用ができることが分かる。
また、実施例2及び実施例3の結果から、加熱工程及び第2蒸発工程での加熱により熱量を有する溶剤を熱交換工程を経て加熱工程で用いることで、無灰炭の熱量に加え、各工程で加熱により消費される熱量の一部を再利用することができ、さらに熱回収効果を高められることが分かる。中でも実施例3では、第2蒸発工程で回収される溶剤の量が比較的多いので新たに供給する溶剤の使用量を特に低減できる上に、実施例1と同等の合計回収効果が得られることが分かる。