[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
(ワイヤハーネスの全体構造の説明)
図1(a)は、本実施の形態に係るワイヤハーネスの外観を示す斜視図、図1(b)はその編組シールドを省略した斜視図である。
図1(a)および図1(b)に示すように、ワイヤハーネス1は、電線2と、電線2の端部に設けられたコネクタ3と、を備えている。
ワイヤハーネス1は、例えば、電動モータを駆動源とする電気自動車やハイブリッド車等の車両に搭載され、電動モータにインバータから出力されるPWM(Pulse Width Modulation)制御された電流を供給するために用いられる。この電流には、パワートランジスタ等のスイッチング素子のスイッチングによる高周波成分が含まれる。
本実施の形態では、ワイヤハーネス1は、3本の電線2を用い、U相、V相、およびW相の三相交流電流を電動モータに供給するように構成されている。
各電線2は、電気良導体からなる素線を複数撚り合わせた導体2aと、導体2aの外周に設けられた絶縁性樹脂からなる絶縁体2bと、をそれぞれ備えている。
各電線2の端部には、接続端子21がそれぞれ接続されている。接続端子21は、導体2aの端部にかしめ固定されるかしめ部21aと、かしめ部21aから延出された板状の接続部21bと、を一体に備えている。接続部21bには、接続部21bを厚さ方向に貫通するボルト固定用の接続穴21cが形成されている。接続端子21は、接続対象となる被取付部材内(例えばインバータ内)の端子台に設けられた対応する機器側接続端子に、接続部21bをボルト固定により固定することで、機器側接続端子に電気的に接続される。
3本の電線2の周囲には、3本の電線2を一括して覆うように編組シールド4が設けられる。編組シールド4は、例えば銅を錫メッキしてなる複数のシールド素線を編み合わせて形成される。ここでは、6本のシールド素線を1本の素線束とし、この素線束同士をX字状にクロスさせて編み合わせることにより、編組シールド4を形成している。この編組シールド4は、例えば手作業によって編み目の大きさを変えることで、内径を拡大および収縮させることが可能である。
編組シールド4の周囲には、本実施の形態に係る電磁波抑制部材8が設けられている。電磁波抑制部材8の詳細については、後述する。
図示していないが、編組シールド4の外周(電磁波抑制部材8を設けていない部分)には、電線2の保護用のコルゲートチューブが設けられていてもよい。コルゲートチューブは、樹脂からなる筒状部材であり、大径部と小径部とが交互に形成された蛇腹状となっている。
(コネクタ3の説明)
図2は、コネクタ3の斜視図であり、図3は、そのA−A線断面図である。図4は、コネクタ3のハウジング5の分解斜視図である。図5は、コネクタ3のシール保持部材72の斜視図である。
図2および図3に示すように、コネクタ3は、被取付部材(例えばインバータ)に形成された取付孔(不図示)に収容される被収容部材31と、電線2に沿って被収容部材31と並んで配置された電線保持部材32と、を備えている。
電線保持部材32は、電線2を保持すると共に、被取付部材(例えばインバータ)に固定するものである。電線保持部材32は、絶縁性樹脂からなるハウジング(電線ホルダ)5と、導電性の金属からなるシールドシェル(シールドケース)6と、を備えている。
図2〜4に示すように、ハウジング5は、電線2を支持する電線支持部52と、電線支持部52を覆う外壁部53と、電線支持部52と外壁部53とを連結する連結部54と、を一体に有している。ハウジング5は、例えば、PBT(ポリブチレンテレフタレート)やPA(ポリアミド)、あるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の絶縁性樹脂からなり、例えば射出成形により形成される。
電線支持部52は、電線2が挿通される挿通孔51を有する円筒状に形成され、挿通孔51に挿通された電線2を挟持するように構成されている。ここでは、3本の電線2に対応して、3つの電線支持部52が備えられている。なお、これに限らず、例えば、3つの挿通孔51を有する一体構成の電線支持部を備えるようにしてもよい。3つの電線支持部52は、電線2の長手方向に対して垂直方向に等間隔に整列配置されており、3つの電線2を整列した状態で保持するように構成されている。以下、コネクタ3における電線2の長手方向を長さ方向、電線2の整列方向を幅方向、長さ方向と幅方向に垂直な方向を高さ方向と呼称する。
外壁部53は、筒状に形成され、各電線支持部52と離間して各電線支持部52を一括して覆うように設けられている。連結部54は、電線支持部52の幅方向の中央部および両側部と外壁部53とをそれぞれ連結するリブ状の連結片54aと、電線2の先端側にて電線支持部52と外壁部53との間を塞ぐように設けられる前壁部54bと、を有している。
本実施の形態では、ハウジング5を高さ方向における中央部で上下に分割し、分割された両ハウジング5を、ランス55を含む固定手段により固定し一体化するように構成されている。
外壁部53の外周には、圧入によりシールドシェル6が設けられる。シールドシェル6は、例えば鉄や黄銅、あるいはアルミニウム等の導電性の金属からなり、ハウジング5の少なくとも一部を収容するように構成されている。外壁部53の外周の電線挿入側の端部には、長さ方向に沿って形成されたリブ状の突起部53aが周方向に離間して複数形成されており、この突起部53aにより、圧入されたシールドシェル6をハウジング5に強固に固定できるように構成されている。
シールドシェル6は、ハウジング5の外壁部53の周囲を覆うように設けられた筒状部61と、筒状部61の先端側の端部から外方に突出するように設けられ、被取付部材(例えばインバータ)の筐体に固定される固定部としてのフランジ部62と、を有している。シールドシェル6の外周には、帯状の締付部材64が設けられており、この締付部材64により、編組シールド4がシールドシェル6の外周に固定されると共に、筒状部61が締め付けられハウジング5に固定されている。
図3および図5に示すように、被収容部材31は、被取付部材(例えばインバータ)に形成された取付孔(不図示)に収容される部材であり、シールドシェル6のフランジ部62よりも先端側に配置されている。
被収容部材31は、電線2を挿通する3つの挿通孔71を有するシール保持部材72と、シール保持部材72の外周面に保持され、被取付部材の取付孔の内面とシール保持部材72との間をシールする外周シール部材76と、挿通孔71の内周面に保持され、挿通孔71と電線2との間をシールする内周シール部材(ワイヤシール)74と、を備えている。なお、図5では、外周シール部材76と内周シール部材74を省略している。
シール保持部材72は、例えば、PBT(ポリブチレンテレフタレート)やPA(ポリアミド)、あるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の絶縁性樹脂からなる。
外周シール部材76は、環状に形成され、シール保持部材72の外周に周方向に沿って形成された外周シール部材用溝75に配置されている。外周シール部材76は、シール保持部材72と被取付部材(例えばインバータ)の取付孔の内面との間に介在し、シール保持部材72の外側から被取付部材(例えばインバータ)内に水分が侵入することを抑制する。
内周シール部材74は、環状に形成され、シール保持部材72における挿通孔71のハウジング5側の端部に周方向に沿って形成された内周シール部材用溝73に配置されている。内周シール部材74は、電線2の絶縁体2bとシール保持部材72との間に介在し、電線2を伝って被取付部材(例えばインバータ)内に水分が侵入することを抑制する。
シール保持部材72の基端部には、基端側に突出する係止突起77が一体に形成されている。係止突起77は、直方体形状の頭部77aと、頭部77aとシール保持部材72とを連結し、頭部77aよりも幅および高さが小さい直方体形状(角柱状)に形成された軸部(頚部)77bと、を一体に有している。
ハウジング5の前壁部54bには、係止突起77を係止する係止溝56が形成されている。係止溝56は、係止突起77の頭部77aを収容する頭部77aよりも幅および高さおよび長さが大きい頭部収容部56aと、頭部77aよりも幅および高さが小さく、軸部77bよりも幅および高さ大きく、かつ軸部77bよりも長さが短い軸部収容部56bと、を有し、頭部収容部56aが軸部収容部56bを介して前方に開口するように構成されている。
頭部77aを頭部収容部56aに、軸部77bを軸部収容部56bに収容して係止突起77を係止溝56に係止することで、シールドシェル6を被取付部材(例えばインバータ)の筐体に固定する際において、シール保持部材72が電線保持部材32に対して相対移動可能となる。本実施の形態では、シール保持部材72は、ハウジング5に対して、長さ方向、幅方向、および高さ方向に移動可動である。
このように構成することで、電線2の屈曲やシールドシェル6をボルト固定する際のトルクにより電線保持部材32(シールドシェル6やハウジング5)が回転あるいは傾斜しても、当該回転あるいは傾斜にシール保持部材72が追従しにくくなり、例えば外周シール部材76の一部のみが過度に潰れるなどして防水機能が失われることを抑制可能になる。
なお、ここでは、係止突起77の頭部77aと軸部77bとを直方体形状(あるいは角柱状)に形成する場合を説明したが、頭部77aと軸部77bの形状はこれに限定されず、例えば、頭部77aと軸部77bを円柱状としてもよいし、頭部77aを球状としてもよい。
また、シール保持部材72と電線保持部材32(ハウジング5)とを相対移動可能に連結する手段は、係止突起77と係止溝56に限定されない。例えば、シール保持部材72とハウジング5の一方から弾性を有するフック(ランス)を延出すると共に、シール保持部材72とハウジング5の他方にフックを係止する係止部を設け、フックを係止部に係止してシール保持部材72とハウジング5とを連結した状態においても、フックの弾性により、シール保持部材72と電線保持部材32(ハウジング5)とを相対移動可能に構成することも可能である。
(電磁波抑制部材8の説明)
図6(a)は電磁波抑制部材8の斜視図であり、図6(b)はその破断面図である。
図1および図6に示すように、電磁波抑制部材8は、電線2の外周を覆うように設けられ、電線2よりも硬い内壁部81aを有する規制部材81と、内壁部81aの周囲に設けられたナノ結晶軟磁性材料からなる環状の磁性体コア82と、を備えている。なお、ここで言う「硬い」とは、同じ長さ(例えば単位長さ)のものに対して両端を持って屈曲させようとしたときに、より曲がりにくいことを意味している。
本実施の形態では、磁性体コア82は、ナノ結晶軟磁性材料から構成される。ナノ結晶軟磁性材料とは、アモルファス合金を結晶化することにより、強磁性相のナノ結晶粒を残存するアモルファス相に分散させた材料である。なお、磁性体コア82としては、ソフトフェライト等の軟磁性材料を用いることも可能である。
ここでは、ナノ結晶軟磁性材料として、ファインメット(登録商標)を用いた。ファインメット(登録商標)からなる磁性体コア82は、例えば、Fe(−Si)−Bを基本成分としこれに微量のCuとNb,Ta,Mo,Zr等の元素を添加した合金溶湯を単ロール法等の超急冷法により一旦厚さ約20μmのアモルファス金属薄帯とし、これを磁心形状(ここでは3本の電線2を一括して覆う環状)に成形した後、結晶化温度以上で熱処理し結晶化させることにより形成される。磁性体コア82における結晶粒径は約10nmである。なお、磁性体コア82として、ファインメット(登録商標)以外のナノ結晶軟磁性材料、例えばNANOMET(登録商標)を用いてもよい。
ナノ結晶軟磁性材料は、従来用いられていたソフトフェライト等の軟磁性材料と比較して、高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性(高透磁率・低磁心損失特性)を有している。よって、磁性体コア82としてナノ結晶軟磁性材料を用いることで、磁性体コア82の小型化が可能になる。その結果、電磁波抑制部材8の大型化および質量の増大を抑制し、電磁波抑制部材8を取り付けた場合であってもワイヤハーネス1全体をコンパクトかつ軽量に維持することが可能になる。磁性体コア82の大きさ(厚さおよび長さ)は、使用するナノ結晶軟磁性材料の特性等を考慮し、所望の特性が得られるよう適宜設定すればよい。
また、ナノ結晶軟磁性材料は、従来用いられていたソフトフェライト等の軟磁性材料と比較して、AMラジオ等のラジオに使用される周波数帯の電磁波ノイズを抑制可能であるという特性もある。車両では、道路情報等をAMラジオにより提供しているため、特にワイヤハーネス1を車両に適用する場合には、ラジオに使用される周波数帯域で電磁波ノイズを抑制できる効果は大きいといえる。
ただし、ナノ結晶軟磁性材料は外部から応力が加わると磁気特性が変化しやすいという特性を有している。そのため、ナノ結晶軟磁性材料からなる磁性体コア82を用いる場合、磁性体コア82に外部から応力が加わらないような構成とする必要が生じる。
そこで、本実施の形態では、電線2よりも硬い内壁部81aを設け、その内壁部81aの周囲に、ナノ結晶軟磁性材料からなる環状の磁性体コア82を設けるように電磁波抑制部材8を構成した。これにより、電線2を屈曲させた際等にも磁性体コア82に応力が付与されなくなり、磁性体コア82の磁気特性の変化を抑制することが可能になる。つまり、規制部材81(内壁部81a)は、電線2の屈曲時に電線2の動きを規制して、電線2が磁性体コア82に干渉してしまうことを抑制するものであり、磁性体コア82を保護する役割を果たす。
本実施の形態では、規制部材81の全体を電線2よりも硬い材料から構成したが、これに限らず、少なくとも、内壁部81aが電線2よりも硬い材料から構成されていればよい。規制部材81は、例えば、PBT(ポリブチレンテレフタレート)やPA(ポリアミド)、あるいはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の絶縁性樹脂からなる。
磁性体コア82が内壁部81aよりも長さ方向(電線2の長手方向)に突出していると、当該突出した部分の磁性体コア82が屈曲された電線2に干渉して磁性体コア82の磁気特性が変化してしまう場合があるため、磁性体コア82は、内壁部81aよりも電線2の長手方向に突出しないように設けられることが望ましい。
なお、内壁部81aを厚く形成した場合には、磁性体コア82と電線2との距離が大きくなるため、磁性体コア82が内壁部81aよりも長さ方向(電線2の長手方向)に若干突出していても、電線2が磁性体コア82に干渉するおそれはなくなる。しかし、電線2と磁性体コア82との距離が大きくなるほど、積層された磁性体コア8の周長が長くなり電磁波抑制の効果が小さくなってしまう。すなわち、本実施の形態のように、磁性体コア82を内壁部81aよりも電線2の長手方向に突出しないように設けることで、内壁部81aの厚さをより小さく(磁性体コア82と電線2との距離をより小さく)し、電磁波抑制の効果をより高めつつも、磁性体コア82の磁気特性の変化を抑制可能になる。
本実施の形態では、規制部材81は、内壁部81aとの間で磁性体コア82を挟み込むように、内壁部81aと磁性体コア82とを覆うように設けられた筒状の外壁部81bと、磁性体コア82が内壁部81aと外壁部81bとの間から脱落してしまうことを抑制する規制部としての前壁部81cおよび後壁部81dと、をさらに有している。
外壁部81bは、周囲の部材(車体等)が磁性体コア82に干渉して磁性体コア82の磁気特性が変化してしまうことを抑制する役割を果たすものであり、磁性体コア82の外周を覆うように形成されている。
前壁部81cは、内壁部81aと外壁部81bのコネクタ3側の端部同士を連結し、内壁部81aと外壁部81b間の隙間を閉塞するように構成されている。後壁部81dは、内壁部81aと外壁部81bのコネクタ3と反対側の端部同士を連結し、内壁部81aと外壁部81b間の隙間を閉塞するように構成されている。つまり、規制部材81は、全体として環状に形成されており、その周方向と垂直な断面が矩形状に形成されている。
本実施の形態では、内壁部81aは、3本の電線2と編組シールド4とを一括して覆う筒状に形成されており、3本の電線2を整列した状態で保持するように構成されている。すなわち、規制部材81が3本の電線2を保持するように構成されている。詳しくは、内壁部81aは、編組シールド4に接触し、3本の電線2を編組シールド4を介して保持している。また、本実施の形態において、規制部材81には、電磁波抑制部材8を車体等に固定するための固定部83が形成されている。詳しくは、外壁部81bの電線2の整列方向(長軸方向)における両端部には、電線2の整列方向(長軸方向)における外方に突出するように、電磁波抑制部材8を車体等の被固定対象に固定するための固定部83がそれぞれ形成されている。固定部83には、ボルト固定用のボルトを通すためのボルト穴83aが形成されており、ボルト穴83aの周縁には、ボルト締結時に規制部材81の変形を抑制するための金属からなる中空円筒状のカラー83bが設けられている。なお、被固定対象は、車体に限らず、モータ装置の筐体やインバータ装置の筐体等であってもよい。規制部材81に、電磁波抑制部材8を車体等の被固定対象に固定するための固定部83が形成されていることにより、別途固定部材を設けることを削減することが可能であるので、部品点数の削減が可能であるという効果がある。このように、本実施の形態では、規制部材81は、磁性体コア82を収容する収容部としての役割と、規制部材81の電線2の長手方向に沿った移動を規制する移動規制部としての役割とを兼ねている。
本実施の形態では、3本の電線2の全体を一括して覆うように内壁部81aを形成し、その内壁部81aの周囲に、3本の電線2を一括して覆うように磁性体コア82を設けている。なお、これに限らず、各電線2を個別に覆うように内壁部を形成して、各電線2を個別に覆うように磁性体コア82を設けてもよい。ただし、この場合、各電線2の間隔(各電線2の周囲に個別に設けた内壁の間隔)を磁性体コア82が収容できる程度に大きくする必要が生じ、電磁波抑制部材8の大型化につながる場合がある。つまり、複数の電線2を一括して覆うように磁性体コア82を設けるよう構成することで、電磁波抑制部材8の小型化に寄与する。
電磁波抑制部材8を電線2の長手方向における所定の位置により強固に固定したい場合には、さらに、粘着テープを巻回して電磁波抑制部材8を電線2に固定する、あるいは、電線2に電線2を挟持するクリップ部材を設けて、当該クリップ部材の干渉により電線2の長手方向に沿った電磁波抑制部材8の移動を抑制する等してもよい。
本実施の形態では、編組シールド4の周囲に電磁波抑制部材8を設けたが、これに限らず、編組シールド4の内側、すなわち電線2と編組シールド4との間に電磁波抑制部材8を設けるように構成してもよい。この場合、固定部83をボルト固定することにより電磁波抑制部材8を車体等に固定することは困難となるため、固定部83を省略し、専用の固定部材により編組シールド4と電磁波抑制部材8とをまとめて把持し車体等に固定するように構成すればよい。本実施の形態のように、編組シールド4の周囲に電磁波抑制部材8を設ける構成とすることで、別途固定部材を用意する必要がなくなり、部品点数を低減することが可能である。
図7に示すように、規制部材81は、分割構成とされてもよい。ここでは、前壁部81cからなる第1部材84と、内壁部81aと外壁部81bと後壁部81dとからなる第2部材85とを備え、第2部材85における内壁部81aと外壁部81bと後壁部81dとに囲まれた空間86に磁性体コア82を収容した後に、第1部材84と第2部材85とを固定し一体化することにより、電磁波抑制部材8を構成している。第1部材84と第2部材85とを固定する方法は特に限定するものではなく、例えば、接着剤を用いた接着固定や、ランス等を用いた係止機構による機械的な固定等により、第1部材84と第2部材85とを固定し一体化することができる。
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るワイヤハーネス1では、電線2の周囲に設けられた電磁波抑制部材8を備え、電磁波抑制部材8は、電線2の外周を覆うように設けられ、電線2よりも硬い内壁部81aを有する規制部材81と、内壁部81aの周囲に設けられたナノ結晶軟磁性材料からなる環状の磁性体コア82と、を備えている。また、磁性体コア8をナノ結晶軟磁性材料からなるものとした。
ナノ結晶軟磁性材料からなる磁性体コア82を用いることで、従来用いていたフェライトコア等と比較して磁性体コア82を小型化し、小型かつ軽量な電磁波抑制部材8を実現できる。電磁波抑制部材8を小型化することにより、ワイヤハーネス1を狭い場所にも配策し易くなり、ワイヤハーネス1の配策レイアウトの自由度が向上する。また、電磁波抑制部材8を軽量とすることにより、電磁波抑制部材8を取り付けた際のワイヤハーネス1の質量の増大を抑制し、ワイヤハーネス1の取り扱い性を向上できる。
また、ナノ結晶軟磁性材料は応力が印加されると磁気特性が変化しやすい材料であるが、電線2よりも硬い内壁部81aの周囲に磁性体コア82を設ける構成とすることで、電線2が屈曲された際や電線2の振動等により磁性体コア82に負荷がかからないようし、磁性体コア82の磁気特性の変化を抑制することが可能になる。
(変形例)
上記実施の形態では、内壁部81aが3本の電線2を保持するように構成されているが、内壁部81aは、3本の電線2を保持するように構成されていなくともよい。つまり、内壁部81aと編組シールド4との間にクリアランスが設けられていてもよい。
この場合、図8(a),(b)に示すワイヤハーネス1aのように、磁性体コア82を収容する収容部86と、電線2に(編組シールド4を介して)固定され規制部材81の電線2の長手方向に沿った移動を規制する移動規制部87とを、電線2の長手方向に沿って並んで配置してもよい。つまり、収容部86と移動規制部87とを電線2の長手方向の異なる位置に形成し、これらを一体化して規制部材81としてもよい。
収容部86は、図6で示した規制部材81と略同じものであり、内壁部81aと外壁部81bと前壁部81cと後壁部81dとを有する環状に形成されている。ただし、ワイヤハーネス1aにおいては、内壁部81aと電線2間に隙間がある。内壁部81aと電線2間に隙間を有することで、内壁部81a内に電線2や編組シールド4を通す作業が容易になり、電磁波抑制部材8の取り付け作業が容易になる。
移動規制部87は、編組シールド4を介して3本の電線2を挟持することで、電線2の長手方向に沿って規制部材81(電磁波抑制部材8)が移動しないように、規制部材81(電磁波抑制部材8)を電線2に固定するものである。
移動規制部87は、3本の電線2(および編組シールド4)を一括して覆う筒状に形成された筒状部87aと、3本の電線2(および編組シールド4)を挟持した状態に筒状部87aの形状を固定する固定手段87bと、を有している。
筒状部87aは、その軸方向と垂直な断面形状が角丸長方形状(2つの等しい長さの平行線と平行線の端部同士を連結する2つの半円弧とからなる形状)に形成されている。筒状部87aの内周面は、編組シールド4と接触している。筒状部87aは、内壁部81aと同様に、電線2よりも硬いことが好ましい。
ワイヤハーネス1aでは、筒状部87aは、その周方向における一部のみ(例えば一方の平行線の部分のみ)において収容部86(ここでは後壁部81d)と連結されている。また、筒状部87aは、その周方向における1箇所(ここでは電線2の整列方向(長軸方向)における一端部、あるいは一方の半円弧の中央部分)にて切断され、当該切断部分にて開放可能に構成されている。
また、ワイヤハーネス1aでは、固定手段87bは、筒状部87aの周方向における両端部同士(切断部分を挟んで対向する端部同士)を連結することで、3本の電線2(および編組シールド4)を挟持した状態に筒状部87aの形状を固定するように構成されている。ここでは、固定手段87bがランス88とランス88を係止する係止穴89とから構成されている。
筒状部87aを開放した状態で収容部86内に電線2と編組シールド4とを通し、その後ランス88を係止穴89に係止させることで、筒状部87aにより電線2と編組シールド4とを締め付けて、規制部材81を電線2に固定することができる。
なお、固定手段87bは、3本の電線2(および編組シールド4)を挟持した状態に筒状部87aの形状を固定できるものであればよく、例えば、筒状部87aの外周に巻き付けられ、筒状部87aを締め付けることにより3本の電線2(および編組シールド4)を挟持させる締結バンドであってもよい。
このように、ワイヤハーネス1aは、移動規制部87を切断部分にて開放可能な筒状部87aと固定手段87bとで構成することにより、切断部分を開放して拡げた状態で筒状部87a内に3本の電線2(および編組シールド4)を通し、その後固定手段87aにより電線2を挟持させることが可能である。よって、3本の電線2(および編組シールド4)を規制部材81に通し易くして電磁波抑制部材8を取り付ける作業の作業性を向上させることが可能になり、かつ、規制部材81を強固に電線2に固定することが可能になる。
なお、図8では内壁部81aと編組シールド4との間に隙間を有する場合について説明したが、図8において内壁部81aと編組シールド4間の隙間をなくし(あるいは隙間を小さくし)、内壁部81a(収容部)に電線2を保持する機能を持たせてもよい。ただし、この場合、収容部86に電線2や編組シールド4を通す作業が困難になるため、内壁部81aと編組シールド4との間に隙間を有することが、より望ましいといえる。
収容部86と移動規制部87の一体化の手段としては、収容部86と移動規制部87とを接着剤等により接着する方法や、ねじ止めや係止機構等により機械的に固定する方法、あるいは、移動規制部87を収容部86とともに(収容部86を構成する樹脂と同じ)樹脂により一体成型する方法をとることが可能である。ここでは、収容部86と移動規制部87とを射出成形により一体成形した。
また、図8のワイヤハーネス1aでは、移動規制部87が編組シールド4を介して電線2に固定されている場合について説明したが、図9(a),(b)に示すワイヤハーネス1bのように、移動規制部87は、電線2の周囲を覆う部材に固定されていてもよい。
図9に示すワイヤハーネス1bでは、コネクタ3から延出された3本の電線2を束ね(電線2の長手方向に垂直な断面において各電線2の中心軸を結んだ線が三角形状(正三角形状)となるように束ね)、その外周を編組シールド4で覆い、さらに編組シールド4の外周を蛇腹構造を有する円筒状に形成された樹脂製の筒状部材であるコルゲート管9が覆っている。ワイヤハーネス1bでは、移動規制部87がコルゲート管9に固定されている。
収容部86および移動規制部87は、コルゲート管9の外周に沿うように形成されている。ここでは、長手方向に垂直な方向の断面が円形状のコルゲート管9を用いているため、収容部86および移動規制部87は、略円環状に形成されている。
図9に示す変形例においても、電磁波抑制部材8は、規制部材81及び磁性体コア82を備え、規制部材81は、電線2よりも硬い内壁部81aと、磁性体コア82を覆う筒状の外壁部81bと、磁性体コア82の移動を規制して脱落を抑制する前壁部81cおよび後壁部81dとを有している。また、内壁部81aは、コルゲート管9よりも硬く、コルゲート管9に比較して曲がりにくい。これにより、複数の電線2がコルゲート管9と共に屈曲されても、磁性体コア82にその屈曲による応力が発生しにくくなっている。
なお、図8のワイヤハーネス1aでは、収容部86のコネクタ3と反対側に移動規制部87を設けていたが、図9のワイヤハーネス1bでは、収容部86のコネクタ3側に移動規制部87を設けている。
また、図8では電磁波抑制部材8を車体やモータ等の車載装置などの被固定対象に固定するための固定部83が収容部86に一体に形成されていたが、図9のワイヤハーネス1bでは、固定部83が移動規制部87に一体に形成されている。ワイヤハーネス1bでは、筒状部87aから径方向外方に突出するようにブロック状の固定部83を形成した。例えば、固定部83に固定用のボルトを螺号するねじ穴を形成しておくことで、固定部83を車体等の固定対象にボルト固定することが可能である。なお、収容部86と移動規制部87の両方に固定部83が設けられていてもよく、収容部86と移動規制部87とにわたって固定部83が設けられていてもよい。
図10に示すように、ワイヤハーネス1bでは、移動規制部87の筒状部87aは、固定部83の端部にて切断され開放可能とされている。固定手段87bは、筒状部87aの端部(固定部83と対向する端部)から延出された舌部872と、固定部83の端部に形成され舌部872が挿入されるガイド穴873と、ガイド穴873の周縁からガイド穴873側に突出する係止突起874と、筒状部87aの端部(固定部83と対向する端部)に形成され係止突起874が係止される凹状の係止溝871と、を有している。
舌部872及びガイド穴873は、舌部872をガイド穴873に挿入した状態において、筒状部87aの中心軸(内壁の中心軸)を中心とした円の接線方向に延びるように形成されている。舌部872及びガイド穴873は、係止突起874と係止溝871とを係止させる際のガイドとなるものである。なお、突起と溝の関係は逆であってもよく、固定部83側に係止溝871が、筒状部87a側(舌部872側)に係止突起874がそれぞれ形成されていてもよい。
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
[1]電線(2)と、前記電線(2)の外周を覆うように設けられ前記電線(2)よりも硬い内壁部(81a)を有する規制部材(81)、及び前記内壁部(81a)の周囲に設けられた環状の磁性体コア(82)を備えた電磁波抑制部材(8)と、を備え、前記規制部材(81)には、前記電磁波抑制部材(8)を被固定対象に固定するための固定部(83)が形成されているワイヤハーネス(1)。
[2]前記磁性体コア(82)は、ナノ結晶軟磁性材料からなる、[1]に記載のワイヤハーネス(1)。
[3]前記内壁部(81a)は、前記電線(2)を保持するように構成されている、[2]または[3]に記載のワイヤハーネス(1)。
[4]前記電線(2)の外周には、編組シールド(4)が設けられ、前記内壁部(81a)は、前記編組シールド(4)に接触し、前記編組シールド(4)を介して前記電線(2)を保持している、[3]に記載のワイヤハーネス(1)。
[5]前記規制部材(81)は、前記内壁部(81a)との間で前記磁性体コア(2)を挟み込むように、前記内壁部(81a)と前記磁性体コア(82)とを覆うように設けられた筒状の外壁部(81b)と、前記磁性体コア(82)が前記内壁部(81a)と前記外壁部(81b)との間から脱落してしまうことを抑制する規制部(81c,81d)と、を有する、[1]乃至[4]いずれか一つに記載のワイヤハーネス(1)。
[6]前記磁性体コア(82)は、複数の電線(2)を一括して覆うように形成されている、[1]乃至[5]のいずれか一つに記載のワイヤハーネス(1)。
[7]前記規制部材(81)は、前記磁性体コア(82)を収容する収容部(86)と、前記電線(2)または前記電線(2)の周囲を覆う部材に固定される電線保持部(87)と、を一体に有し、前記収容部(86)と前記電線保持部(87)とが、前記電線(2)の長手方向に沿って並んで配置されている、[1]乃至[6]のいずれか一つに記載のワイヤハーネス(1a,1b)。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
例えば、上記実施の形態では、電線2が3本である場合を説明したが、電線2の本数は限定されず、例えば、電線2が1本、2本、または4本以上であってもよい。