JP6619082B2 - 多軸船の馬力推定方法 - Google Patents
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Description
本発明は、模型試験により多軸船の実船における馬力を推定するための方法に関する。
一般に、船舶の建造にあたっては、実船の建造に先立ち、実船性能を推定するために模型試験が行われる。この模型試験では、実船の設計に基づき試験水槽に合わせた縮尺で作成した模型船について、船体抵抗やプロペラ性能を各々試験すると共に、プロペラを回転させながら船体を曳航する自航試験を実施し、船体の抵抗とプロペラの推力が釣り合った時の計測値に基づいて模型船の自航要素を求める。そして、求めた船体抵抗、プロペラ性能、自航要素にそれぞれ尺度修正を加えて実船の船体抵抗、プロペラ性能、自航要素を推定し、これらを合わせて実船性能を推定する。
一軸船の場合、こうした模型試験の方法は確立されており、例えば下記の非特許文献1、2等に詳細に記載されている。
ITTC-Recommended Procedures: Testing and Extrapolation Methods Propulsion, Performance Propulsion Test (2002)[online]http://ittc.info/downloads/Archive%20of%20recommended%20procedures/2002%20Recommended%20Procedures/7.5-02-05-02.pdf
Kyoji Watanabe: Repeated Self Propulsion Test on a Tanker Model (1967) [online]https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjasnaoe1952/1967/121/1967_121_11/_pdf
ところで、高速船やフェリー等のように、主機とプロペラの性能の関係から複数のプロペラが必要とされる船舶や、操船性が要求される船舶等においては、プロペラを複数軸備えた多軸式の型式が採用される場合がある。こうした多軸船の場合、各軸間の推力比によって自航要素が変動するため、自航要素を求めるにあたっては、全軸の推力の合計が船体抵抗と釣り合うだけでなく、各軸の推力比も実船と一致した状態で測定しなければ、実船性能を正確に推定することができない。しかしながら、プロペラの回転数と、その推力やトルクとは単純な比例関係にはなく、推力比は必ずしも馬力の推定に先立って決定できるわけではない。すなわち、実船の馬力を推定するには尺度影響を考慮しなくてはならないので、尺度修正を経て初めてプロペラ間の推力比が求められる場合がある。また、搭載する主機の性能によっても各プロペラの推力比は変わり得る。このため、正確な馬力を推定するには、馬力推定の前に膨大な数の自航試験を実施しておくか、もしくは馬力推定の後、その結果に対応した自航試験を再度実施する必要があり、非常に時間と手間のかかる煩雑なものとなっていた。
本発明は、斯かる実情に鑑み、三軸以上の多軸船において、模型試験により実船の馬力を精度良く簡便に推定し得る多軸船の馬力推定方法を提供しようとするものである。
本発明は、三軸以上のプロペラを備えた多軸船の馬力推定方法であって、模型船を各軸のプロペラ間の回転数比を変更しつつ任意の速度で前進させる自航試験を行い、該任意の速度における前記プロペラ間の推力比又はトルク比と自航要素との関係を回帰分析により推定し、推定した該推力比又はトルク比と自航要素との関係を用い、実船の設計に基づく各軸のプロペラ間の推力比又はトルク比から、実船における自航要素を推定し、推定した該自航要素に基づき、実船における各プロペラの馬力を推定することを特徴とする多軸船の馬力推定方法にかかるものである。
本発明の多軸船の馬力推定方法は、一軸のセンタープロペラと、該センタープロペラの左右に各一軸配したウィングプロペラの計三軸のプロペラを備えた三軸船に対して適用することができ、前記推力比又はトルク比として、センタープロペラとウィングプロペラの間の推力比又はトルク比を用いることができる。
本発明の多軸船の馬力推定方法によれば、三軸以上の多軸船において、模型試験により実船の馬力を精度良く簡便に推定し得るという優れた効果を奏し得る。
以下、本発明の実施の手順を添付図面を参照して説明する。
図1〜図5は本発明の実施による多軸船の馬力推定方法の工程を示すものである。本実施例では、三軸船に対して本発明の馬力推定方法を適用した場合について述べるが、後述するように、四軸船以上の多軸船についても同様の方法を用いて馬力を推定し得る。尚、二軸船については、船を直進させる場合を想定する限り二軸間の推力は等しいとみなすことができ、推力比による自航要素の変動の問題は生じないので、本発明の適用外である。
模型試験には、船体抵抗試験、プロペラ単独試験及び自航試験の各工程があり、これらの各工程から自航要素を求め、尺度修正を経て実船の自航要素を得、実船の性能を推定する。本発明の多軸船の馬力推定方法は、このうち自航試験を簡便に行うことを目的としている。
図1は本発明の実施の手順を示すフローチャートである。ステップS1としての船体抵抗試験、及びステップS2としてのプロペラ単独試験には、一般的に実施されている試験方法を用いることができる。ステップS1の船体抵抗試験では、プロペラを取り付けない模型船の船体のみを水上で曳航し、該船体の抵抗RTを計測する。ステップS2のプロペラ単独試験では、各軸のプロペラのみをそれぞれ水中で作動させ、各プロペラ単独で推力やトルクを計測する。このステップS1、S2で計測した船体抵抗RTやプロペラ性能は模型船についての値であるが、ここに適宜尺度修正を加えることにより、実船における船体抵抗RTや各プロペラの性能を算出することができる。尚、図1ではステップS1の後にステップS2を実行する順序としているが、ステップS1とステップS2の工程は入れ替えることもできるし、両ステップを並行して実行することもできる。
続くステップS3の自航試験では、模型船の船体にプロペラを取り付けて前進させる。本実施例の場合、このステップS3において、任意の前進速度で各軸間の回転数比を変更しつつ、トルクや推力、自航要素等の各種計測を行い、推力比又はトルク比と各自航要素との関係を回帰分析により求めるようにしている。すなわち、従来の自航試験の如く、推力比が設計と一致するまで試験を繰り返すのではなく、各自航要素を推力の関数として算出することにより、任意の推力比での自航要素を精度良く決定できるようにしている。
以下、この回帰分析について、図2〜図5のグラフを参照して説明する。尚、ここでは各自航要素を推力比の関数として推定する場合を例に説明するが、推力比の代わりにトルク比を用いても、本発明を同様に実施することができる。この場合には、トルク比を種々変更して自航試験を行い、各自航要素とトルク比の関係を求めることで、間接的に推力比を操作し、トルク比を介して各自航要素と推力比の関係を扱うことになり、基本的な手順は以下と同様である。
各パラメータを表す数値としては、以下の文字を用いる。
RT:船体抵抗
n:プロペラの回転数
nc:センタープロペラの回転数
np、ns:ウィングプロペラの回転数
Tc:センタープロペラの推力
Tp、Ts:ウィングプロペラの推力
Ttotal:全プロペラの推力の合計(Tc+Tp+Ts)
V:模型船の前進速度
1-t:推力減少率
1-w:伴流係数
1-wc:センタープロペラにおける伴流係数
1-wp、1-ws:ウィングプロペラにおける伴流係数
ηR:船後効率比
Va:プロペラ前進速度
D:プロペラ直径
J:プロペラ前進率(Va/nD)
Vs:実船における前進速度
L:船の長さ
g:重力加速度
Fn:フルード数(V/(Lg)0.5)
Q:プロペラ単独のトルク
Qc:センタープロペラの船後におけるトルク
Qp、Qs:ウィングプロペラの船後におけるトルク
DHPc:実船におけるセンタープロペラの馬力
DHPp、DHPs:実船におけるウィングプロペラの馬力
DHPtotal:実船の馬力
RT:船体抵抗
n:プロペラの回転数
nc:センタープロペラの回転数
np、ns:ウィングプロペラの回転数
Tc:センタープロペラの推力
Tp、Ts:ウィングプロペラの推力
Ttotal:全プロペラの推力の合計(Tc+Tp+Ts)
V:模型船の前進速度
1-t:推力減少率
1-w:伴流係数
1-wc:センタープロペラにおける伴流係数
1-wp、1-ws:ウィングプロペラにおける伴流係数
ηR:船後効率比
Va:プロペラ前進速度
D:プロペラ直径
J:プロペラ前進率(Va/nD)
Vs:実船における前進速度
L:船の長さ
g:重力加速度
Fn:フルード数(V/(Lg)0.5)
Q:プロペラ単独のトルク
Qc:センタープロペラの船後におけるトルク
Qp、Qs:ウィングプロペラの船後におけるトルク
DHPc:実船におけるセンタープロペラの馬力
DHPp、DHPs:実船におけるウィングプロペラの馬力
DHPtotal:実船の馬力
三軸船の場合、推力比の変更は、船体中心に備えた一軸のセンタープロペラと、船側に備えた二軸のウィングプロペラとの間で行う。すなわち、船舶は一般的に左右対称に設計され、三軸船では左右のウィングプロペラが等しい性能をもつように設計されるので、船の直進を想定した場合、二軸のウィングプロペラの形状が同じであるとすると、その回転数np、nsは等しくなる。つまり、式(1)、(2)
np=ns …(1)
np/nc=ns/nc …(2)
が成り立つ。また、各軸の推力Tc、Tp、Tsに関しても、式(3)、(4)
Tp=Ts …(3)
Tp/Tc=Ts/Tc …(4)
が成り立つ。そこで、任意の前進速度Vにおいて、ウィングプロペラの回転数npと、センタープロペラの回転数ncとの比np/ncを種々変化させて計測を行えば、各条件における推力比と、自航要素との関係を求めることができる。
np=ns …(1)
np/nc=ns/nc …(2)
が成り立つ。また、各軸の推力Tc、Tp、Tsに関しても、式(3)、(4)
Tp=Ts …(3)
Tp/Tc=Ts/Tc …(4)
が成り立つ。そこで、任意の前進速度Vにおいて、ウィングプロペラの回転数npと、センタープロペラの回転数ncとの比np/ncを種々変化させて計測を行えば、各条件における推力比と、自航要素との関係を求めることができる。
図2は、任意の前進速度Vにおける推力比Tc/Ttotalと、模型船における推力減少率1-tとの関係を示したグラフである。推力比Tc/Ttotalは、全プロペラの推力の合計分Tc+Tp+Tsに対するセンタープロペラの推力Tcの割合であり、この値が高いほど、推力減少率1-tは小さくなる。各プロットの間はほぼ直線で補間することができ、推力減少率1-tと推力比Tc/Ttotalとの関係は直線により近似的に回帰できる。
図3は、任意の前進速度Vにおける推力比Tc/Ttotalと、センタープロペラにおける伴流係数1-wcとの関係を示したグラフであり、図4は、各ウィングプロペラにおける推力比Tc/Ttotalと伴流係数1-wp、1-wsとの関係を示したグラフである。
センタープロペラにおける伴流係数1-wcは、図3に示す如く推力比Tc/Ttotalが大きいほど増大し、逆に、左右のウィングプロペラにおける伴流係数1-wp、1-wsは、図4に示す如く推力比Tc/Ttotalが大きいほど減少する。そして、これらのグラフにおいても、各プロットの間はほぼ直線で補間することができる。
図5は、任意の前進速度Vにおける推力比Tc/Ttotalと、各軸のプロペラにおける船後効率比ηRとの関係を示したグラフである。センタープロペラにおいては、推力比Tc/Ttotalの値が大きいほど船後効率比ηRの値が増大し、逆に両側のウィングプロペラにおいては、推力比Tc/Ttotalの値が大きいほど船後効率比ηRの値が減少する。そして、ここでも各プロットの間はほぼ直線で補間することができる。
尚、図2〜図5に示した例では、推力比Tc/Ttotalと各自航要素との関係は直線で補間可能であるが、船やプロペラの型式によってはこれらの関係は必ずしも直線で表せるとは限らず、例えば指数曲線等による回帰が適切である場合も考えられる。その場合でも、基本的な手順は上記と同様である。
尚、図2〜図5に示した例では、推力比Tc/Ttotalと各自航要素との関係は直線で補間可能であるが、船やプロペラの型式によってはこれらの関係は必ずしも直線で表せるとは限らず、例えば指数曲線等による回帰が適切である場合も考えられる。その場合でも、基本的な手順は上記と同様である。
このように、各軸に関し、任意の前進速度Vにおいて回転数比np/ncを様々に変更して計測を行うことにより、推力比Tc/Ttotalに対する各自航要素(推力減少率1-t、伴流係数1-wc、1-wp、1-ws、船後効率比ηR)の関係を求めることができる。したがって、推力比Tc/Ttotal及び推力の合計Tc+Tp+Tsが設計と一致した条件で計測を行わなくても、ここで求めた関係に基づき、任意の推力比Tc/Ttotalにおいて各自航要素の値を決定することができる。
尚、上記各グラフでは横軸にTc/Ttotalを用いているが、この他に例えばTp/(Tc+Tp+Ts)やTp/Tc、Tc/(Tp+Ts)等の値を推力比として用いても良い。いずれを採用しても、センタープロペラとウィングプロペラの推力比を一意に表していることには変わりがないので、このステップS3及び以降のステップS4、S5を同様に支障なく実行することができる。
続くステップS4、S5においては、ステップS3で求めた推力比Tc/Ttotalと各自航要素との関係を用い、実船の性能を推定する。
まず、ステップS4として、実船の設計により決定した推力比Tc/Ttotalに基づき、図2〜図5に示す如きグラフから、各自航要素(推力減少率1-t、伴流係数1-wc、1-wp、1-ws、船後効率比ηR)の値を決定する。ただし、ここで求められる各自航要素の値は模型船における推力比Tc/Ttotalとの関係に基づいており、実船にそのまま適用することはできない。そこで、各自航要素について適宜尺度修正を行い、実船における各自航要素の値を決定する。
ステップS5として、尺度修正後の船体抵抗RT及び推力減少率1-tに基づき、実船における各プロペラに必要な推力Tc、Tp、Tsを求める。各軸の推力Tc、Tp、Tsは、以下の式(5)、(6)、(7)により求めることができる。
Tc=RT/(1-t)×Tc/(Tc+Tp+Ts) …(5)
Tp=RT/(1-t)×TP/(Tc+Tp+Ts) …(6)
Ts=Tp …(7)
Tc=RT/(1-t)×Tc/(Tc+Tp+Ts) …(5)
Tp=RT/(1-t)×TP/(Tc+Tp+Ts) …(6)
Ts=Tp …(7)
こうして各プロペラの推力Tc、Tp、Tsを決定したら、該推力に基づき、プロペラ性能曲線から各プロペラについてプロペラ前進率Jが決定される。下記式(8)、(9)の通り、プロペラ前進率Jはプロペラの前進速度Va、回転数n、直径Dの関数であり、プロペラ前進速度Vaは船の前進速度Vs及び伴流係数1-wの関数である。尚、Vsは模型試験における船の前進速度Vに対応する実船での速度であり、フルード数(Fn=V/(Lg)0.5で定義される値)が一致するように定められる。
J=Va/nD …(8)
Va=(1-w)Vs …(9)
J=Va/nD …(8)
Va=(1-w)Vs …(9)
各プロペラのプロペラ性能曲線からプロペラ前進率Jが決定され、模型試験における船の前進速度Vに基づく実船の前進速度Vsと、伴流係数1-wからプロペラ前進速度Vaが求められる。プロペラ直径Dは設計によって決まるので、上記式(8)、(9)により、実船における各プロペラの回転数nを求めることができる。
各プロペラの回転数nが決定したら、プロペラ性能曲線から各プロペラ単独でのトルクQが求められ、これに各プロペラの船後効率比ηRを乗算することで、船後における各プロペラのトルクQc、Qp、Qsが求められる。そして、各プロペラの馬力DHPc、DHPp、DHPsは下記の式(10)、(11)、(12)
DHPc=2πncQc …(10)
DHPp=2πnpQp …(11)
DHPs=2πnsQs …(12)
により求めることができ、船の馬力DHPtotalは下記の式(13)
DHPtotal=DHPc+DHPp+DHPs …(13)
により求めることができる。
DHPc=2πncQc …(10)
DHPp=2πnpQp …(11)
DHPs=2πnsQs …(12)
により求めることができ、船の馬力DHPtotalは下記の式(13)
DHPtotal=DHPc+DHPp+DHPs …(13)
により求めることができる。
このように、本実施例では、模型船において自航試験を実施する際、回転数比np/ncを様々に変更して計測を行い、各自航要素(推力減少率1-t、伴流係数1-wc,1-wp,1-ws、船後効率比ηR)を推力比Tc/Ttotalの関数として求める。こうすることにより、各プロペラの推力の合計及び推力比が設計と一致した状態の試験を行わなくても、任意の推力比における前記各自航要素を精度良く決定することができ、自航試験の大幅な省力化を図ることができる。
尚、ここでは推力比Tc/Ttotalが決定している場合を想定してステップS4〜S5を説明したが、実際の試験で操作するのは主機の回転数であることが多く、推力比そのものが既知の値として得られているとは限らない。この場合、例えば、主機の回転数比が決まっていれば、その回転数比に従って回転数を変化させ、その時の推力比に合うように自航要素を修正しつつ、全てのプロペラの推力が必要な推力に収束するまで繰り返し計算を行うことで、回転数を変数とした馬力推定が可能になる。あるいは、任意のプロペラの回転数ないしプロペラ間の回転数比と、プロペラ間の推力比との関係を推定しておき、任意の回転数ないし回転数比に対応する推力比を用いて馬力を推定することもできる。
尚、ここでは推力比Tc/Ttotalが決定している場合を想定してステップS4〜S5を説明したが、実際の試験で操作するのは主機の回転数であることが多く、推力比そのものが既知の値として得られているとは限らない。この場合、例えば、主機の回転数比が決まっていれば、その回転数比に従って回転数を変化させ、その時の推力比に合うように自航要素を修正しつつ、全てのプロペラの推力が必要な推力に収束するまで繰り返し計算を行うことで、回転数を変数とした馬力推定が可能になる。あるいは、任意のプロペラの回転数ないしプロペラ間の回転数比と、プロペラ間の推力比との関係を推定しておき、任意の回転数ないし回転数比に対応する推力比を用いて馬力を推定することもできる。
続いて、三軸以上の多軸船一般について本発明の馬力推定方法を適用する場合について述べる。
尚、1-tがαの一次式で近似できる場合には、N=1であり、Aiは図2のグラフ中の直線の傾きに相当する。
3以上の任意の数Lの軸を備えた多軸船の場合を考えると、1-tを求めるにあたっては、Lより少ない数Mの推力比の値が必要となる。例えば、上述の実施例(三軸船の場合)においては、L=3、M=1である。四軸船ではL=4であるが、四軸船の場合、内側に二軸、外側に二軸の計四軸のプロペラを左右対称に備えることが想定されるので、推力比αとしては、例えば「推力の合計に対する内側の軸の推力の割合」の1通りを用いれば良い。したがって、M=1である。五軸船の場合には、中心に一軸、その外側に二軸、さらにその外側に二軸を左右対称に配置することが想定されるので、推力比αとしては、例えば「推力の合計に対する中心の軸の推力の割合」と、「推力の合計に対する最も外側の軸の推力の割合」の2通りを用いれば良い。したがって、L=5、M=2である。
ここで、Tkは各軸の推力(k=1、2、……、L)であり、τjは推力比αjを代表する推力値である。上述の実施例(三軸船)の場合、各軸の推力の合計値Tc+Tp+Tsが分母にあたり、センタープロペラの推力Tcが分子の推力値τiにあたる。
尚、αjは、全てのαj(α1、α2、……、αM)を用いることで各軸の推力同士の関係を一意に表すようなものである限り、上記式(15)に示す式以外にも種々の式を用いることができる。上述の実施例(三軸)の場合、推力比αとしてTc/(Tc+Tp+Ts)の代わりに、例えばTp/(Tc+Tp+Ts)やTp/Tc、Tc/(Tp+Ts)等の値を用いても良いことは上に説明した通りである。また、五軸船の場合を想定すると、上記した「推力の合計に対する中心の軸の推力の割合」と、「推力の合計に対する最も外側の軸の推力の割合」のほかに、例えば「中心の軸に対するその外側の軸の推力の比」と、「中心の軸に対する最も外側の軸の推力の比」を用いることもできる。このように、各軸の推力同士の関係を一意に表すことができる限り、推力比αjとしてはどのような組合せを設定しても良い。
1-t以外の自航要素(伴流係数1-wk及び船後効率比ηRk(k=1、2、……、L))についても、同様の回帰式により表すことができる。
尚、上述の実施例においては、推力比と各自航要素の関係は一次式で近似することが可能である(図2〜図5参照)。このように、上記式(16)における高次の項は自航要素に対する影響が小さいと考えられるので、実用上は高次の項を省略し、簡略化した回帰式を用いることができる。
このように、四軸以上の任意の数の軸を有する多軸船においても、三軸船の場合と同様、任意の推力比における各自航要素を決定し、馬力を推定することが可能である。
また、上では推力比に基づいて馬力を推定する場合について説明したが、推力比の代わりにトルク比を用いても、四軸以上の多軸船について同様の考え方により馬力を推定することが可能である。
以上のように、本発明では、三軸以上のプロペラを備えた多軸船の馬力推定方法に関し、模型船を各軸のプロペラ間の回転数比を変更しつつ任意の速度で前進させる自航試験を行い、該任意の速度における前記プロペラ間の推力比又はトルク比と自航要素との関係を回帰分析により推定し、推定した該推力比又はトルク比と自航要素との関係を用い、実船の設計に基づく各軸のプロペラ間の推力比又はトルク比から、実船における自航要素を推定し、推定した該自航要素に基づき、実船における各プロペラの馬力を推定するので、各プロペラの推力比又はトルク比が設計と一致した状態の試験を行わなくても、任意の推力比又はトルク比における前記各自航要素を精度良く決定することができ、自航試験の大幅な省力化を図ることができる。
特に、上記実施例では、本発明を、一軸のセンタープロペラと、該センタープロペラの左右に各一軸配したウィングプロペラの計三軸のプロペラを備えた三軸船に対して適用し、前記推力比又はトルク比として、センタープロペラとウィングプロペラの間の推力比又はトルク比を用いているので、三軸船に関し、確実且つ簡便な手順により精度良く馬力推定を行うことができる。
したがって、上記本実施例によれば、三軸以上の多軸船において、模型試験により実船の馬力を精度良く簡便に推定し得る。
尚、本発明の多軸船の馬力推定方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
Claims (2)
- 三軸以上のプロペラを備えた多軸船の馬力推定方法であって、
模型船を各軸のプロペラ間の回転数比を変更しつつ任意の速度で前進させる自航試験を行い、該任意の速度における前記プロペラ間の推力比又はトルク比と自航要素との関係を回帰分析により推定し、
推定した該推力比又はトルク比と自航要素との関係を用い、実船の設計に基づく各軸のプロペラ間の推力比又はトルク比から、実船における自航要素を推定し、
推定した該自航要素に基づき、実船における各プロペラの馬力を推定することを特徴とする多軸船の馬力推定方法。 - 一軸のセンタープロペラと、該センタープロペラの左右に各一軸配したウィングプロペラの計三軸のプロペラを備えた三軸船に対して適用され、
前記推力比又はトルク比として、センタープロペラとウィングプロペラの間の推力比又はトルク比を用いることを特徴とする請求項1に記載の多軸船の馬力推定方法。
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