前掲の特許文献3および4に開示される防火装置においては、排気ダクト内における火災の検知手段として、温度センサや温度ヒューズを使用するものであるが、当該温度センサ等が設置されている部分の温度を検知することによって、直接的に火災を検出するものであった。当然のことながら、温度センサ等によって過剰に高温であることを検知できれば、その温度から火災が発生しているか否かを検知することが可能である。
しかしながら、飲食店や工場などにおける排気は、比較的長区間にわたって行われることから、使用される排気ダクトは長く、その一部で発生する火災を検知するためには、多数の温度センサを設置しなければならないという問題点を有していた。また、既に設置されている排気ダクトについて、火災を検知させるためには、既存の排気ダクトを部分的に切断して内部に温度センサ等を設置することとなり、そのための工事は大規模となり、既存の排気ダクトを使用しつつ改修することは現実的でなかった。
また、温度センサ等によって検知されない位置で火災が発生した場合には、排気ファンが継続的に運転されることとなり、常に空気が供給されることとなり、当該火災を拡大させることとなり、温度センサ等によって検出された時点で広い範囲に火災が拡大していることもあり得るものであった。そのため、火災を早期に発見することができる装置が切望されるところであるが、そのためには、温度センサ等の数を増やすほかに手段がないというのが現状であった。
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、限定的な温度センサによる温度検出により火災を早期に検知し、また、既存の排気ダクトにも設置可能な排気ダクト内火災の検知システムおよび警報装置を提供することである。
そこで、排気ダクト内火災の検知システムにかかる本発明は、室内から屋外へ連続して配設される排気ダクトと、この排気ダクトの途中に設置され、排気ダクト内の気体を屋外へ向けて強制的に流下させる排気ファンとを備える排気設備において、連続する前記排気ダクトの一部で発生する火災の検知システムであって、前記排気ファンよりも上流側に設置された少なくとも1個の上流側温度センサと、前記排気ファンよりも下流側に設置された少なくとも1個の下流側温度センサと、前記上流側温度センサおよび下流側温度センサによって検出される値に基づき、前記排気ファンの上流側におけるダクト内温度と下流側におけるダクト内温度とを算出するとともに、算出結果から両者の温度を比較し、両者の温度差が所定範囲から逸脱する場合の継続時間に基づき排気ダクトの火災を判定する処理部とを備えることを特徴とするものである。
上記構成の発明において、温度センサは、排気ファンの上流側に設置される排気ダクト(以下、「上流側ダクト」と称する場合がある)と、下流側に設置される排気ダクト(以下、「下流側ダクト」と称する場合がある)との双方に設置され、その設置場所に区分された2種類としており、この2種類の温度センサによって検出される温度の差および経過時間から火災を検知するものである。
すなわち、一般的な排気ダクトは、室内から屋外へ連続的に配設されるものであり、その途中に排気ファンを設置し、室内空気を屋外へ強制的に流下させる構造である。従って、排気ダクト内の空気(気体)は吸気口から排気口に向かって流れ、排気ファンよりも上流側は陰圧となり、排気ファンの下流側は陽圧となるものであった。そこで、前記の2種類の温度センサによるダクト内温度は、一方が上流側のダクト内温度であり、他方が下流側のダクト内温度であって、陽圧となる下流側のダクト内の空気(気体)は圧縮されて温度が上昇することから、下流側のダクト内温度は上流側のダクト内温度よりも少なからず高温となる。これに対し、上流側ダクト内で火災が発生した場合には、上流側ダクト内の空気(気体)が加熱され、下流側ダクト内の空気(気体)よりも高温となる逆転現象を生じさせる。なお、飲食店や工場などでは、一時的な炎や火花等の発生により、上流側ダクト内の空気(気体)が短期的に上昇する場合もあることから、温度差の逆転現象が継続する場合に火災が発生していると判断し得るのである。
上記構成の発明は、この温度条件の変化および継続時間を利用して火災を検知するものであって、2種類のダクト内温度を比較することにより、かつ、その温度差の逆転現象が所定時間以上継続される場合に火災が発生したもの判断するように構成されている。このように、排気ファンの上流側と下流側とに区分した排気ダクト内の温度を検出することによって火災を検知することから、温度センサは極めて限定的でよく、また、既存の排気ダクトについても容易に設置が可能となる。
上記構成の発明においては、前記上流側温度センサが、排気ダクトの吸入口近傍または排気ファンの吸入部近傍のいずれかに設置された温度センサであり、前記下流側温度センサが、排気ダクトの排気口近傍または排気ファンの排出部近傍のいずれかに設置された温度センサであるように構成することができる。
上記構成の場合には、飲食店などのように比較的短い排気ダクトが使用される場合、上流側のダクト内温度は、設置が容易な排気ダクトの吸入口近傍または排気ファンの吸入部近傍のいずれか一方によって測定可能であり、下流側のダクト内温度も、排気ダクトの排気口近傍または排気ファンの排出部近傍のいずれかで測定可能であるから、設置すべき温度センサを極めて限定的にすることができる。
また、上記構成の発明においては、前記上流側温度センサが、排気ダクトの吸入口近傍および排気ファンの吸入部近傍にそれぞれ設けられた温度センサであり、前記下流側温度センサが、排気ダクトの排気口近傍および排気ファンの排出部近傍にそれぞれ設けられた温度センサであるように構成してもよい。
上記構成の場合には、上流側のダクト内温度の算出が、排気ダクトの吸入口近傍および排気ファンの吸入部近傍の二個所で検出される温度に基づくため、上流側のダクト内温度は、相互に補正されつつ全体的な温度として算出される。これは、二個所ともに高温または低温である場合の全体温度の修正を可能にするものである。特に、工場などのように、長距離にわたって排気ダクトを設置する場合においては、排気ダクトの吸入口が設置される場所と、排気ファンが設置される場所とが大きく離れることとなり、その両者の設置場所の環境の差違による検出温度を相互に補正するのである。なお、予め正常時における両者の温度範囲を記憶させておくことにより、いずれか一方のみの異常を検知させることも可能となる。この場合には、下流側のダクト内温度との比較結果とは別に、上流側のダクトにおける火災の検知を可能にし得るものである。また、下流側のダクト内温度における火災の検知についても同様である。
さらに、上記各構成の発明においては、前記上流側温度センサが、さらに排気ダクトの吸入口近傍から排気ファンの吸入部近傍までの中間に適宜設けられた温度センサを含み、前記処理部による上流側のダクト内温度の算出は、これらの温度センサにより検出される温度に基づいて算出するものであるように構成してもよい。
上記構成は、上流側の排気ダクト内に複数の温度センサを設置するものであるが、これは、排気ダクトに対して温度変化を誘発させる外的要因が存在する場合の補正を可能にするものである。例えば、当該外的要因が設置される前後の位置に温度センサを設けることにより、当該外的要因による温度変化の前後の値を取得することができ、排気ダクトの吸入口と排気ファンの吸入部との間に温度差を有する場合においても、その温度差を前記外的要因によるものとして処理し得ることとなる。すなわち、排気ダクトの経路中に、ダクトに接近して加熱手段が設置されている場合には、当該加熱手段の近傍の温度が上昇し、逆に冷却手段が設置されている場合には、当該冷却手段の近傍の温度が下降することとなるから、これら加熱手段または冷却手段による排気ダクト内温度の昇降状態を検出することにより、上流側のダクト内温度を補正することができるのである。
また、上記構成の発明において、前記処理部が、前記上流側温度センサとして設置される複数の温度センサが検出する各設置場所における温度を比較するとともに、いずれかの温度差が所定範囲を逸脱した場合における継続時間により、温度差が逸脱した二つの前記温度センサの間における火災をも判定するものであるように構成してもよい。
上記構成によれば、上流側ダクトにおける温度変化を細分化して比較することができ、当該比較された二つの温度センサの値が大きく異なる場合には、当該二つの温度センサの間において火災が発生しているものと判断し得ることとなる。これは、前述の外的要因による場合を考慮のうえ、さらに他の要因による温度上昇を検出した場合に処理され得るものである。
上記各構成の発明においては、さらに、排気ダクトの吸入口が配置される近傍に設けられた室内温度センサと、排気ダクトの排気口が配置される屋外に設けられた屋外温度センサとを備え、前記処理部が、前記上流側温度センサおよび室内温度センサにより検出される温度に基づいて前記上流側のダクト内温度を算出するとともに、前記下流側温度センサおよび屋外温度センサにより検出される温度に基づいて前記下流側のダクト内温度を算出するものであるように構成することができる。
上記構成によれば、室内環境の変化、および屋外環境の変化によりダクト内温度を補正することができる。例えば、工場における場合には、室内に設置される溶接機等の加工装置の稼動数などにより、飲食店の厨房などでは、調理の内容などにより、それぞれ室内の温度環境が異なり、これを上流側ダクト内の空気の温度に影響を与える範囲で補正するのである。また、下流側ダクト内の温度については、屋外の気温の変化などによる温度環境が与える影響を補正することができる。
他方、排気ダクト内火災の警報装置に係る本発明は、前記各構成の検知システムのいずれかを使用するものであって、前記処理部を有する制御手段を備え、該制御手段は、前記温度センサの値を入力する入力部と、正常時における前記上流側のダクト内温度および前記下流側のダクト内温度の温度差を記憶する記憶部と、排気ファンの運転状態を検出および作動するための信号を入出力するファン作動信号入出力部と、火災の検知を報知するための警報手段とを備えることを特徴とするものである。
上記構成の警報装置によれば、排気ファンの運転状況を検出することにより、上流側のダクト内温度と下流側のダクト内温度との差違が排気ファンの作動状態に起因するものか否かを容易に判断し得る。すなわち、上流側のダクト内温度が下流側のダクト内温度と同程度まで上昇している場合において、排気ファンが故障等によって停止している場合には、火災の発生とは別の原因による温度上昇と判断し得ることとなる。また、火災であることを検知した(火災と判定された)場合は、排気ファンを停止するように作動を制御し、室内側からの空気の供給を停止させることによって火災の拡大を抑えることができる。さらには、警報手段に対して出力することにより、周辺における作業者に対する報知が可能となる。
上記構成の発明おいては、前記温度センサが、無線によりデータを送信するための送信手段を備え、前記排気ファンが、運転状態を無線により送信するとともに作動指令を無線により受信するための送受信手段を備え、前記制御手段が、前記温度センサおよび前記排気ファンから送信されるデータを受信するとともに、排気ファンに対する作動指令情報、警報手段に対する警報情報および制御情報の一部または全部を送信するための送受信手段を備えるものであるような構成としてもよい。
上記構成の場合には、第1に、複数の排気ダクトが設置される工場などにおいて、それぞれの排気ダクトに設置される温度センサの情報を一個所に集中させることができ、広面積の工場内における排気ダクトの状態を一括管理することができる。また、処理装置によって処理された情報が無線送信されることにより、処理装置から離れた場所においても携帯端末で排気ダクトの火災発生を検知することができる。これは工場等から離れた場所においても確認し得ることとなる。
本発明の火災検知システムによれば、極めて限定的な位置に設置される温度センサによる温度検出により送気に火災の発生を検知することができる。この温度センサの設置場所が限定できであることから、既存の排気ダクトに対しても容易に設置することが可能となる。特に、温度センサを吸入口および排気口の近傍にのみ設置する場合は、特別な工事を要せず、火災の検知システムを使用することができる。
また、本発明の火災警報装置によれば、上記火災検知システムによって検知された情報に基づき、初期操作として、排気ファンの停止を自動化させることができる。また、処理装置による処理結果が無線送信されることにより、現場作業者に広く排気ダクトの状態を周知させることができ、これら現場作業者のみならず、遠隔地においても確認することが可能となる。また、温度センサ等の値および作動指令に係る入出力データを記憶させることにより、後日における火災の検証も可能となる。さらに、排気ファンの入口と出口の温度変化のみを検出すれば、排気ファンの作動効率(排気能力)を検出することにも利用することができ、排気ファンの負荷の状態、老朽化の状態などを知ることができる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施形態の説明の都合上、まず警報装置に係る発明の実施形態ついて説明する。図1に、警報装置に係る実施形態のシステム構成図を示す。本実施形態は、図1に示されているように、制御装置1に対し、各種情報が入力部11を介して入力され、処理部12によって処理されるとともに、その処理結果に応じて、指令信号その他のデータ等が出力部13を介して適宜出力される構成となっている。なお、入力情報および出力情報のほかに、適正時情報などの各種情報を記録する記録部14を備えており、処理部12は、必要に応じて記録された情報を参照するものとしている。
入力部11に入力される情報は、排気ダクトの途中経路に配置される排気ファン2の作動情報と、この排気ファン2を境に、上流側に位置する上流側ダクト3および下流側に位置する下流側ダクト4の各温度センサ31a〜31n,41a〜41nの計測値情報である。上流側ダクト3に設置される複数の温度センサ31a〜31nは、上流側におけるダクト内温度を算出するために使用される各位置の温度を検出し、下流側ダクト4の温度センサ41a〜41nは、下流側におけるダクト内温度を算出すための温度を検出するものである。なお、温度情報として入力される情報には、さらに室内温度を検出する温度センサ5と、屋外温度を検出温度センサ6とが配置され、それぞれのダクト内温度の算出に際して参照されることとなる。
他方、出力部13から出力する指令等には、報知指令やファン停止指令などがあり、報知指令は、処理部12によってダクト内火災の可能性ありと判断された場合に、報知手段7に出力され、当該報知手段7を作動させるためのものである。また、同時に、排気ファン2に対して停止の指令を出力し、排気ファン2の運転を停止させるものである。排気ファン2の運転を停止させることは、排気ダクト内への空気の供給を中止させるためである。また、処理部12で処理された情報および前記の指令情報が、外部サーバ8にも出力することができるように構成されており、個人が携帯する端末を使用して外部サーバ8にアクセスすることにより、ダクト内温度の環境が閲覧できるとともに、火災発生時の指令情報は、外部サーバ8から携帯端末に自動配信させるように構成されている。
なお、上記構成のうち、処理部12が後述のような処理フローに沿った処理を実行する場合には、各センサ31a〜31n,41a〜41nとともに火災の検知システムが構成されることとなる。また、警報装置を構成する場合には、必要に応じて省略することができる。例えば、出力部については、報知手段7のみとし、別途設置される消火設備によって消火のための操作を行わせてもよく、外部サーバ8を省略し、制御装置1の表示部15に表示させることによって状況を確認できるようにしてもよい。さらに、上流ダクト3の温度センサは、最もダクト内温度が反映される位置に1個所のみ設ける構成でもよく、下流側ダクト4における温度センサも同様である。また、室内の温度センサ5および屋外の温度センサ6は、ダクト内温度の補正の必要がなければ省略してもよい。なお、制御装置1には、操作スイッチ16が設けられており、補正の必要性の是非を選択的に操作できるようになっており、また、警報装置の運転・停止や点検時の各部の作動状態を手動で操作できるようにしている。
そこで、警報装置に係る具体的な実施形態について説明する。図2は、第1の実施形態を示す配置図である。この図に示されているように、排気設備は、排気ダクト3,4は室内から屋外へ連続するように配置され、その途中に排気ファン2が設置された構成となっている。室内に設けられる高温設備(例えば、飲食店の厨房設備や工場の溶接装置など)Aから発煙する場合、その煙を吸入口30から吸引し、両ダクト3,4を経由して排気口40より屋外へ排出するものである。ダクト3,4の内部空気(気体)を強制的に排出するため、ダクト3,4は閉鎖空間となっており、排気ファン2の作動により、上流側ダクト3を陰圧状態として吸入口30からの吸気を可能とし、下流側ダクト4を陽圧状態として、排出口40へ向かって強制的に送気させるものである。
ところで、排気ダクト3,4の内部温度は、排気される煙の温度によって上昇することから、上昇した温度のみを検出したとしても火災であるか否かは判断できない。そこで、本実施形態では、少なくとも吸入口近傍30aと排気口近傍40aとの2個所の温度を比較するものとしている。これは、下流側ダクト4では、陽圧により内部空気(気体)が圧縮されて、その温度(T2)が上昇するため、上流側ダクト3の内部空気(気体)の温度(T1)と比較した場合、正常な状態(上流側ダクト3に火災が発生していない状態)では、下流側のダクト内温度(T2)は上流側のダクト内温度(T1)よりも僅かに高温となる(T1<T2)。
これに対し、上流側ダクト3に火災が発生した場合には、上記ダクト内温度(T1,T2)のバランスが崩れ、上流側のダクト内温度(T1)が下流側のダクト内温度(T2)と同程度以上となる(T1≧T2)。このような逆転現象を検出することによって、火災の発生を早期に発見し得るのである。また、下流側ダクト4における火災の発見には、上記温度のバランス(T1<T2)は維持されるが、両者の差が著しく拡大することが想定されるため、その温度差の上限を設定することにより、設定値を超える温度差の検知によって、下流側ダクト4における火災の早期発見を可能にする。
さらに、上流側ダクト3においては、排気ファン2の吸入部近傍30bに温度センサを設けることにより、吸込口近傍30aとの温度差を計測することにより上流側ダクトの火災を検出することができる。同様に、下流側ダクト4において、排気ファン2の排出部近傍40bに温度センサを設け、排気口近傍40aとの温度差によって火災を検出することも可能である。なお、正常時では、上流側ダクト3の内部温度は概ね同一であり、下流側ダクト4においても同様であるため、これらの温度が大きく異なる場合に、両ダクト3,4における火災の発生を検出することができる。
ここで、上記各ダクト3,4における温度センサの検出値が入力された場合の処理部12による処理の状態について説明する。図3は、処理フローを示す図である。この図に示されるように、操作を開始すると、まず、予め定めた設定値を読み出す(S101)。この設定値は、上述のダクト内温度の上限値や上流側ダクト3の内部温度(T1)と下流側ダクト4の内部温度(T2)との差異の適正値等である。
上記設定値の読み出し後に各温度センサからの検出値を入力し(S102)、上流側と下流側とに区分しつつ、それぞれの内分温度T1,T2を算出する(S103,S104)。この内部温度の算出は、それぞれ1個のセンサの場合は、当該検出された値となるが、2個所以上にセンサを設置する場合は、上流側ダクトと下流側ダクトとに区分しつつ、両範囲に設置される温度センサごとに検出値を入力し、上流側ダクト内温度(T1)と下流側のダクト内温度(T2)を算出することとなる。この場合の処理フローについては後述する。
上記のようにして算出されたダクト内温度(T1,T2)を使用し、両温度を比較する(S105)ことによって火災か否かが判断される。この火災の判定のために、上記比較が適正な関係(T1<T2)であれば、火災とは判断せず、上記温度検出(S102)から比較(S105)を繰り返すが、上記適正な関係が逆転している場合には、その関係が初回か否かを判断し、初回の場合は時間計測を開始する(S106,S107)。「初回」とは、同様の状態が継続していない場合における最初の温度差の逆転現象が検出された場合を意味し、操作開始後の全期間中における最初を意味しない。これに対し、上記関係が既に逆転している場合(初回でない場合)には、その継続時間が設定された(想定された)時間を超えているか否かを判断し(S108)、設定時間を超えている場合に、火災が発生していると判断し報知する(S108,S109)。なお、当該継続時間が設定時間未満である場合は、一時的な温度変化とみなして、温度センサによる値の入力(S102)から内部温度の比較S105)を続けることとなる。継続的に内部温度を比較している期間中、いずれかのタイミングにおいて温度差が適正状態に戻れば、上記時間計測はリセットされ、温度差が適正でない場合は、時間計測を継続することとなる。
上記のような処理により、少なくとも上流側のダクト内温度(T1)が下流側のダクト内温度(T2)と同一以上に上昇したとき、上流側ダクトにおいて火災である可能性が疑われるものとして警報することができる。仮に、他の想定外の要因により上流側のダクト内温度が上昇したとしても、火災警報により、その疑いのある要因を除去することにより、その後の火災の発生可能性を減殺させることも可能となる。さらに、目視では発見できない初期火災(発火前の状態)において、未然に沈静化させることの契機となり得る。
次に、上流側ダクトおよび下流側ダクトに複数の温度センサを設置する場合の処理フローについて説明する。この場合に例示される温度センサは、図2に示したように、例えば、上流側ダクト3には、吸込口近傍30aと排気ファン2の吸引部近傍30bとにそれぞれ温度センサを設置する場合であり、下流側ダクト4には、排気口近傍40aと排気ファン2の排出部近傍40bのそれぞれに温度センサを設置する場合である。これらの温度センサにより、上流側ダクト3および下流側ダクト4は、それぞれの両端における温度が検出されることとなり、当該両端の温度差により、いずれかの区分に属するダクト3,4における火災を発見し得ることとなる。
上記の実施形態における処理フローを図4に示す。この場合においても図示のように、まず、操作開始により予め定めた設定値を読み出すこととなる(S201)。この設定値の中には、上流側ダクト3の内部温度(T1)と下流側ダクト4の内部温度(T2)との差異の適正値のほかに、各温度センサにより検知される温度の上限値などが含まれる。そのうえで、各温度センサの検出値が入力され(S202)、各温度センサによって測定された各地点の温度が比較評価されることとなる。
ここで、まず、上流側ダクト3に設置された温度センサによる検出値と、下流側ダクト4に設置された温度センサによる検出値とが区分され、両区分ごとに温度差が適正か否かが判断される(S203,S204)。すなわち、上流側ダクト3の両端30a,30bの温度を比較し、その差が適正であるか否かを判断するのである。適正値とは、入口(吸込口近傍30a)と出口(排気ファンの吸引部近傍30b)の温度がほぼ同じであり、適正範囲としては、例えば、入口温度に対し出口温度が+2℃までの差違として設定することができる。入口温度よりも出口温度が高温となる場合には、その途中(上流側ダクト内)において火災が発生している可能性があるため、火災の検知を通報することとなるのである(S211)。下流側ダクト4においても入口(排気ファンの排出部近傍40b)と出口(排気ダクトの排出口近傍40a)との温度を比較し、出口温度が適正範囲を超えて高温となっている場合は、下流側ダクト4の火災として通報することとなる(S211)。
なお、この場合の温度差検知についても、継続時間を計測し、設定時間を超えて当該温度差が継続する場合に火災発生として判断させるように処理してもよい。また、上記温度差が入口温度と出口温度とで逆転している場合、すなわち入口温度が出口温度よりも高温となる場合は、吸込口付近が高温であることを意味するが、頻繁に吸込口付近が高温となる場合には、後述の温度補正によって対応することにより、補正温度と出口温度との間で比較することとなる。
また、両ダクト3,4の入口温度および出口温度の差が適正範囲である場合には、いずれか一方(ともに入口温度もしくは出口温度)または両者の平均値(ともに入口温度と出口温度との平均温度)をもって、上流側のダクト内温度(T1)および下流側のダクト内温度(T2)として算出し(S205,S206)、両者を比較することにより(S207)、さらに火災検知を行うのである(S208〜S210)。この両者の比較は、上述の各1個の温度センサによるダクト内温度(T1,T2)を比較する場合と同様であり、温度差のバランスが逆転した時点から継続時間を計測し、設定時間を超えるときに火災発生と判断するものとしている。
なお、両ダクト3,4の入口と出口の両温度差が生じていないにもかかわらず、両ダクト内温度(T1,T2)に温度差のバランスが逆転する状態とは、例えば、上流側ダクト3の全体が発火している場合があり、また、位置口付近は常に高温度でありつつ出口付近が発火している場合などがあり得る。この例示のような火災の状態は多数の温度センサを配置する構成では検出できず、本実施形態のように両ダクト内温度(T1,T2)を比較することにより検出できるものである。
上記に示した2種類の処理フローは、いずれも内部温度を補正しない場合であるため、想定外の要因により前記温度差(T1<T2)の関係が崩れる場合もある。そのような要因が予想し得る場合には、比較すべき両側のダクト内温度(T1,T2)を予め補正するように処理してもよい。
そこで、次に、温度補正を行う場合の一例を示す。図5は、温度補正すべき場合を想定した各構成部の配置図である。この図に示されるように、上流側ダクト3の途中経路には、温度を変化さえ得る機器(外的要因)Bが設置されているものと仮定している。この図は、加温および冷却の双方をイメージしやすくするために、エアコンの吹き出し口を例示している。ただし、外的要因には、エアコンのような機器に限定されず、温水等の高温の配管や冷媒等の低温の配管などが排気ダクトに接近して設けられる場合も同様であり、また、高温設備(例えば、飲食店の厨房設備や工場の溶接装置など)Aと同種の設備が配置される場合なども想定され得る。そして、これらの外的要因Bによるダクト内温度の変化を検出するために、当該外的要因Bの前後の位置に温度センサ30c,30dが設置されているのである。なお、図示を省略しているが、下流側ダクト4において同種の外的要因が設置される場合には、当該下流側ダクト4においてもさらに温度センサを設置することができる。
さらに、図示の例では、吸込口30が一時的ではあるが頻繁に高温となる場合、例えば、飲食店における厨房設備などの場合を想定し、吸込口近傍30aにおいて頻繁に変化する検出温度を補正するために、当該高温設備Aの近傍におけるダクト外部の温度(室内温度)を検出する温度センサ5を設けた形態を示している。なお、この室内温度センサ5は、室内温度全般を計測し、上流側のダクト内温度全体に対する補正として使用してもよい。同様に、屋外についても屋外温度センサ6を設けることにより、下流側のダクト内温度全体に対する補正として使用することができる。
図6は、上流側のダクト内温度(T1)について、外部要因Bによる温度変化が生ずる場合の温度補正を伴う処理フローを示している。なお、図示の処理フローは全体の一部を示すものである。この図に示されているように、上流側のダクト内温度(T1)を算出する場合、まず、これまでの処理フローと同様に各温度センサの検出値を入力(S202)したうえで、外的要因Bによる温度変化を補正する(S301)。前述のように、外的要因Bの近傍に配置されるダクトの前後30c,30dには、それぞれ温度センサが設置されていることから、これらの温度センサによって検出される温度によって補正するのである。
この補正に先駆けて、外部要因よりも上流側における温度差を比較し(S301)、その区間の火災を検出することができ、また、外部要因の下流側においても温度差を比較する(S302)により、その区間の開催を検出することができる。それぞれの区間において温度差が設定範囲を超える場合は、火災として通報することとなるのである。このように、外部要因の上流側および下流側の双方において、温度差が正常値である場合には、その外部要因の前後における温度差を算出し(S303)、その温度差によって、上流側ダクト全体の入口温度と出口温度の比較のための温度補正がなされる(S304)。
温度補正の具体的な方法としては、外的要因Bが加熱機器である場合、ダクト内温度は当該加熱機器の近傍を通過することにより上昇することとなることから、上流側ダクト3の入口(吸込口近傍30a)の温度よりも出口(排気ファンの吸引部近傍30b)の温度は高くなる。そこで、上記加熱機器の前後における温度差を上記入口温度と出口温度との温度差から、さらに差し引いて算出するのである。上記とは逆に外的要因Bが冷却機器である場合は、出口温度が低下するため温度差を加算するのである。このように補正された温度により、入口温度と出口温度を比較可能にするのである(S305)。そして、その温度差が設定温度を超える場合は火災として通報し、設定温度の範囲内であれば、補正された温度に基づいて上流側のダクト内温度(T1)が算出されることとなる(S205)。なお、ダクト内温度(T1)の算出は、補正された出口温度をダクト内温度(T1)としてもよく、上流側ダクトに設置した全ての温度センサの値の平均値をもってダクト内温度(T1)として算出してもよい。
次に、吸込口近傍30aにおける温度補正および排出口近傍40aにおける温度補正について説明する。図7は両温度補正にかかる処理フローを示す図であり、図7(a)は吸込口近傍30aにおける温度補正を示し、図7(b)は排出口付近40aにおける温度補正を示す。前述において図示(図5)したように、これらの温度補正のために、室内温度を測定するための温度センサ5と、屋外温度を測定するための温度センサ6とが設けられている。
吸込口近傍30aでは、例えば厨房設備を使用する調理中に炎が立ち上る際、一時的に高温となり得る場合があり、その温度変化がダクト内火災によるものか、当該調理によるものかを判断する必要がある。そこで、適宜、室内温度(特に厨房設備近傍における温度)を検出しつつ、測定温度を補正するのである(S401)。すなわち、吸込口近傍30aの温度が高い値を検知した場合に、これと同時に室内温度も高い値を検知している場合は、そのときの温度を当該吸込口近傍30aとせずスキップさせるのである。また、仮に継続して吸込口近傍30aの温度が高くなっている場合であっても、その周辺温度(室内温度)が高い場合は、ダクト内における火災とは異なる要因による温度変化とみなすため、吸込口近傍30aの位置において火災発生とみなさないように処理するのである。このような温度補正を行ったうえで、上流側ダクトの入口温度と出口温度を比較し(S402)、その温度差によって火災を検知し、また上流側のダクト内温度(T1)を算出することとなる(S205)。
これは、下流側ダクトにおいても同様であり、屋外気温が上昇するなどにより、排気口近傍4aの温度が上昇した場合には、屋外の温度センサ6との比較によって火災でないものとして処理するのである。排気口近傍40aの温度補正(S501)がされた後、下流側ダクトの入口温度と出口温度とを比較し、火災の発生を検知し、または下流側のダクト内温度(T2)を算出するのである(S206)。
このように吸込口近傍30aまたは排気口40aについて温度補正された状態で、上流側および下流側の両ダクト内温度(T1,T2)が算出されることにより、両者の温度をさらに比較することにより、ダクト内火災の発生を検出するのである(S207〜S211)(図4参照)。なお、吸込口近傍30aにおける温度補正は、前記外部要因による温度補正とともに処理することができる。
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、上記各実施形態は一例を示すものであり、本発明がこれらの実施形態に限定されるものではない。従って、本発明の趣旨の範囲内において種々の形態とすることができるものである。例えば、上記実施形態は、可能な限り少ない温度センサによって火災を検知するようにしたものであるが、例示よりも多くの温度センサを配置することにより、近接する温度センサ間の温度差によって火災発生場所を細分化して検知させる構成としてもよい。また、排気ファン2の設置場所は、屋外に限らず屋内に設置される場合もあり得る。さらに、上流側ダクトは単一経路に限らず、複数経路に分岐し、下流側ダクトに集合させる構成の場合もあり得る。
また、上記各実施形態は、排気ダクト内火災の警報装置を中心として説明したが、各場所に設置される温度センサと、これらの温度センサによって検知される温度に基づいて処理する処理部とによって、排気ダクト内火災の検出システムを構成し得ることは、本発明の趣旨から明らかである。