JP6614806B2 - 銅合金板および銅合金板の製造方法 - Google Patents
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また、電気自動車やハイブリッド車等の車載用の電子・電気機器用部品においては、高温及び振動環境下で使用されることから、これらの環境下においても特性が劣化しないことが求められる。
さらに、近年では、これらの電子・電気機器用部品においては溶接によって接合されることがある。溶接を行った場合には、溶接部周辺が高温となるため、材料が軟化してしまうおそれがある。そのため、電子・電気機器用部品を構成する銅合金には、従来よりも高い耐熱性が求められている。
そこで、特許文献1には、Cu−Zr系合金に、Ni,Sn,Znのうち1種又は2種以上を添加して耐熱性の向上を図る技術が記載されている。
この構成の銅合金板によれば、Mgを添加しているので、耐応力緩和特性をさらに向上させることが可能となる。また、Mgの含有量が0.05mass%未満に制限されているので、高い導電率を維持することができる。
さらに、前記熱間圧延工程において、熱間圧延終了温度が(前記銅合金の固溶度線温度−100)℃以上とされ、前記熱間圧延終了温度から400℃までの冷却速度が30℃/sec以上とされているので、粗大な析出物粒子の析出を抑制してZrを十分に固溶させることでき、その後の時効熱処理工程で微細な析出物粒子を析出することが可能となり、耐熱性に特に優れた銅合金板を製造することができる。
本実施形態である銅合金板は、Zrを0.01mass%以上0.11mass%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成を有している。
なお、本実施形態においては、さらに、Mgを0.001mass%以上0.050mass%未満の範囲で含有していてもよい。
さらに、応力緩和率が150℃の1000時間保持後で10%以下とされている。
Cu中にZrを固溶させた後に、時効熱処理を行って微細な析出物粒子(Cu−Zr粒子)を析出させることにより、耐熱性を大幅に向上させることができる。また、強度及び耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。
ここで、Zrの含有量が0.01mass%未満の場合には、時効熱処理によって析出する微細な析出物粒子の量が不十分となり、耐熱性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、Zrの含有量が0.11mass%を超える場合には、溶解鋳造時に粗大な酸化物等が生成し、曲げ加工性等を低下させるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Zrの含有量を0.01mass%以上0.11mass%以下の範囲内に設定している。
なお、微細な析出物粒子を確実に析出させて耐熱性を確実に向上させるためには、Zrの含有量の下限を0.02mass%以上とすることが好ましく、0.03mass%以上とすることがさらに好ましい。また、粗大な酸化物の形成を確実に抑制するためには、Zrの含有量の上限を0.1mass%以下とすることが好ましく、0.08mass%以下とすることがさらに好ましい。
Cu−Zr合金にMgを添加することにより、硬度および耐応力緩和特性が向上することから、特に優れた硬度および耐応力緩和特性が要求される場合には、適宜、添加することが好ましい。
ここで、Mgの含有量が0.001mass%未満の場合には、Mgの添加による硬度および耐応力緩和特性向上の効果が十分に得られない。一方、Mgの含有量が0.05mass%以上の場合には、導電率が低下してしまうおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Mgを添加する場合には、Mgの含有量を0.001mass%以上0.05mass%未満の範囲内に設定している。
なお、硬度および耐応力緩和特性を確実に向上させるためには、Mgの含有量の下限を0.0025mass%以上とすることが好ましく、0.005mass%以上とすることがさらに好ましい。また、導電率の低下を確実に抑制するためには、Mgの含有量の上限を0.04mass%未満とすることが好ましく、0.025mass%以下とすることがさらに好ましい。
なお、上述した元素以外の不可避不純物としては、例えばPb,Bi,B,Ca,Sn,Fe,Co,Al,Ag,Mn,P,Sr,Ba,Sc,Y,希土類元素,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Re,Ru,Os,Se,Te,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Zn,Cd,Ga,In,Li,Si,Ge,As,Sb,Ti,Tl,C,Ni,Be,N,H,Hg,O,S等が挙げられる。
これらの不可避的不純物は、総量で0.1mass%以下であることが望ましい。不可避的不純物は、導電率が高くなるため、総量で0.05mass%以下がより望ましい。
銅合金中に分散析出した析出物粒子のうち円相当径が1.0μm以上のものは、曲げ加工性を低下させるおそれがある。また、円相当径が0.5μm以上1.0μm未満の析出物粒子、あるいは、円相当径が0.1μm以上0.5μm未満の析出物粒子は、耐熱性の向上に大きく寄与しない。また、これらの粗大な析出物粒子が数多く存在すると、円相当径が0.1μm未満の微細な析出物粒子の数が少なくなり、耐熱性が十分に向上しないおそれがある。
なお、本実施形態では、導電率を85%IACS以上に規定していることから、Zrが十分に析出していることになる。このため、上述のように、円相当径が0.5μm以上1.0μm未満の析出物粒子および円相当径が0.1μm以上0.5μm未満の析出物粒子の個数を規定することにより、円相当径が0.1μm未満の微細な析出物粒子が十分に析出していることになる。
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、Zr、必要時応じてMgを添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を溶製する。なお、Zr、Mgの添加には、Zr単体およびMg単体やCu−Zr母合金およびCu−Mg母合金等を用いることができる。また、ZrおよびMgを含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
次に、得られた鋳塊のZr濃度偏析を解消するために均質化熱処理を行う。
鋳塊を950℃以上1030℃未満の温度にまで加熱する熱処理を行うことで、鋳塊内において、Zrを均質に拡散させるとともに、Zrを母相中に固溶させる。この均質化熱処理工程S02は、非酸化性雰囲気または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。なお、熱処理温度での保持時間は5min以上600min以下の範囲内とすることが好ましい。
このため、本実施形態では、均質化熱処理工程S02における熱処理温度を950℃以上1030℃未満の範囲に設定している。
なお、さらに確実にZrの偏析を解消するためには、均質化熱処理工程S02における熱処理温度の下限を960℃以上とすることが好ましく、均質化熱処理工程S02における熱処理温度の上限を1025℃以下とすることが好ましい。
次に、粗加工の効率化と組織の均一化のために熱間圧延を実施する。熱間圧延工程S03における加工率は特に限定しないが、30%以上とすることが好ましく、50%以上とすることがさらに好ましい。
また、熱間圧延終了温度は、(銅合金板を構成する銅合金の固溶度線温度−100)℃以上とされている。
さらに、熱間圧延終了温度から400℃までの冷却速度が30℃/sec以上に設定されている。
Y=−5990×X2+2570×X+690
ただし、X:Zr濃度(mass%)、Y:固溶度線温度(℃)
このため、本実施形態では、熱間圧延終了温度を、(銅合金板を構成する銅合金の固溶度線温度−100)℃以上とし、熱間圧延終了温度から400℃までの冷却速度を30℃/sec以上に設定している。
なお、Zrを確実に固溶させた状態とするためには、熱間圧延終了温度を(前記銅合金の固溶度線温度−75)℃以上とすることが好ましく、熱間圧延終了温度から300℃までの冷却速度を30℃/sec以上とすることが好ましい。
次に、冷間圧延を行う。この冷間圧延工程S04における温度条件は特に限定はないが、−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましい。また、加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、30%以上とすることが好ましく、50%以上とすることがさらに好ましい。
なお、この冷間圧延工程S04の途中で、後述する中間熱処理工程S05を適宜実施してもよい。
この中間熱処理工程S05における熱処理方法は特に限定はないが、好ましくは500℃以上1050℃以下の条件で、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で熱処理を行うことが好ましい。
冷間圧延工程S04によって得られた冷間圧延材に対して、時効熱処理を実施する。この時効熱処理工程S06により、微細な析出物粒子が析出し、耐熱性、強度及び導電率が向上することになる。
ここで、熱処理温度は特に限定しないが、最適なサイズの析出物粒子を均一に分散析出させるために、250℃以上600℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、熱処理温度での保持時間は特に限定しないが、30min以上900min以下の範囲内とすることが好ましい。
さらなる強度の向上を図る場合には、時効熱処理工程S06の後に、調質圧延を行ってもよい。なお、この調質圧延工程S07における圧延率は、5%以上とすることが好ましい。
時効熱処理工程S06又は調質圧延工程S07の後に、歪取り焼鈍を行う。この歪取り焼鈍工程S06により、残留応力が低下することになり、打ち抜きした後の寸法精度が向上することになる。なお、歪取り焼鈍工程S08の条件は、温度250〜750℃、保持時間0.1〜30minとすることが好ましい。
また、本実施形態においては、応力緩和率が150℃の1000時間保持後で10%以下とされており、耐応力緩和特性に特に優れているので、高温環境下で使用した場合でも変形が抑制されることになり、コネクタ等の素材として特に適している。
純度99.99mass%以上の無酸素銅(ASTM B152 C10100)からなる銅原料を準備し、これを高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。得られた銅溶湯内にZr、必要に応じてMgを添加した。なお、これらの元素はCuの母合金を用いて添加した。
成分調整した銅合金溶湯を、鋳型(材質:鋳鉄)に注湯して鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約20mm×幅約20mm×長さ約150mmとした。
その後、表1に記載の条件で熱間圧延を実施し、水冷又は空冷を行った。この熱間圧延の際に、最終パス後の材料温度、冷却後の材料温度を測定し、熱間圧延後の冷却速度を算出した。
この冷間圧延材に対して、375℃で4時間保持後に水焼入れすることにより、時効熱処理を行った。
さらに、時効熱処理後には、600℃で20秒保持後に水焼入れすることにより、歪取り焼鈍を行い、特性評価用条材を作製した。
ZrおよびMgについては、ICP−質量分析法によって分析した。評価結果を表1に示す。なお、Mgを添加しなかったものについては、Mgの分析を実施しなかった。
電解放出型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、析出物粒子の観察を行った。特性評価用条材の観察面をフラットミリングした後、100μm×100μmの視野で10ヶ所観察した。その中に含まれる析出物粒子の円相当径及び個数を測定した。析出物粒子の円相当径は、観察面に露出している析出物粒子の面積から求めた。評価結果を表2に示す。
また、図4に本発明例1の析出物粒子の観察結果を示す。
JIS Z 2244に準じ、特性評価用条材から試験片を採取し、ビッカース硬度を測定した。評価結果を表2に示す。
JIS H 0505に準じ、四端子法によって導電率を測定した。評価結果を表2に示す。
日本伸銅協会技術標準(JCBA)T325(2013)に準じて評価した。300℃から600℃まで50℃きざみの各温度で1時間加熱した試験片のビッカース硬度を測定し、図4に示すように等時軟化曲線を作成した。得られた等時軟化曲線のグラフからビッカース硬度が加熱前の値の80%にまで低下する加熱温度を読み取り、その温度を耐熱温度とした。評価結果を表2に示す。
特性評価用条材から、試験片の長さ方向が圧延方向に直交するように幅10mm、長さ35mmの試験片を採取し、JIS Z 2248に準拠して、90°W曲げ試験を行った。W曲げ治具は、曲げ部の先端曲率半径Rが0から1.8mmまでを0.1mm刻みで用意し、それぞれの治具を用い、特性評価用条材のW曲げを行った。その後、曲げ加工部を光学顕微鏡で観察し、割れの有無を確認した。観察により、割れが発生しない先端曲率半径Rの最小値を求め、その値を板厚tで割り、R/tを算出した。R/tは0.6以下を曲げ加工性に優れるものとして判定した。評価結果を表2に示す。
日本伸銅協会技術標準(JCBA)T309(2004)に準じ、片持ち梁法により、耐力の80%を初期応力として負荷し、150℃で1000時間保持後の残留永久歪みから応力緩和率を求めた。なお、試験片は、長手方向が圧延方向に平行になるように採取した。応力緩和率が10%以下のものを耐応力緩和特性に優れるものとして判定した。評価結果を表2に示す。
Zrの含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例2においては、析出物粒子が観察されず、ビッカース硬度、耐応力緩和特性が不十分であった。
Mgの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例3においては、導電率が低くなった。
熱間圧延終了温度が本発明の範囲よりも低くされた比較例5においては、析出物粒子が数多く観察されており、ビッカース硬度が低く、耐熱温度、耐応力緩和特性も不十分であった。
熱間圧延終了後の冷却速度が本発明の範囲よりも遅くされた比較例6においては、析出物粒子が数多く観察されており、ビッカース硬度が低く、耐熱温度、耐応力緩和特性も不十分であった。
なお、図4(a)、(b)に示すように、本発明例1においては、銅母相中に、粗大な析出物粒子が存在していないことが確認された。
Claims (3)
- Zrを0.010mass%以上0.110mass%以下の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成の銅合金からなり、
前記銅合金中に分散析出した析出物粒子の円相当径が1.0μm未満とされており、円相当径が0.5μm以上1.0μm未満の前記析出物粒子の個数密度が10個/mm2以下とされ、円相当径が0.1μm以上0.5μm未満の前記析出物粒子の個数密度が100個/mm2以下とされ、
導電率が85%IACS以上とされ、室温でのビッカース硬度が140以上とされ、
W曲げ冶具の半径をRとし、前記銅合金板の厚みをtとしたとき、曲げ加工性R/tが、0.6未満とされ、
日本伸銅協会技術標準JCBA T325:2013で規定される耐熱温度が500℃以上とされ、
応力緩和率が150℃の1000時間保持後で10%以下であることを特徴とする銅合金板。 - さらに、Mgを0.001mass%以上0.05mass%未満の範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載の銅合金板。
- 請求項1又は請求項2に記載の銅合金板の製造方法であって、
溶解鋳造工程と、均質化熱処理工程と、熱間圧延工程と、冷間圧延工程と、時効熱処理工程と、を含み、
前記均質化熱処理工程において、熱処理温度が950℃以上1030℃以下の範囲内とされ、
X:Zr濃度(mass%)、Y:固溶度線温度(℃)とした時、Y=−5990×X 2 +2570×X+690の式で算出される前記銅合金の固溶度線温度に対し、前記熱間圧延工程において、熱間圧延終了温度が(前記銅合金の固溶度線温度−100)℃以上とされ、前記熱間圧延終了温度から400℃までの冷却速度が30℃/sec以上とされていることを特徴とする銅合金板の製造方法。
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