以下、インバータ制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、インバータ制御装置20は、少なくとも回転電機(MG:Motor/Generator)80と変速装置90とを備えた車両用駆動装置60及び後述するインバータ10を備えた回転電機駆動装置1(INV)を制御対象とする車両用制御装置50を構成する回転電機制御装置に相当する。本実施形態では、車両用駆動装置60は、いわゆるパラレル方式のハイブリッド駆動装置であり、車両の駆動力源として内燃機関70及び回転電機80を備えている。内燃機関70と回転電機80とは、内燃機関分離クラッチ75を介して駆動連結されている。図1に示すように、車両用駆動装置60には、内燃機関70と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、内燃機関70の側から順に、内燃機関70、内燃機関分離クラッチ75(第1係合装置K1)、回転電機80、変速装置90が設けられている。変速装置90には、第2係合装置K2に相当する変速機クラッチ95が備えられている。尚、変速機クラッチ95は、ロックアップクラッチを含む。内燃機関70は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどである。回転電機80は、複数相の交流(ここでは3相交流)により動作する回転電機であり、電動機としても発電機としても機能することができる。
変速装置90は、変速比(=入力側の回転速度/出力側の回転速度)を変化させることができる自動変速装置である。変速装置90は、変速装置90に伝達された回転速度を、設定された変速比で変速すると共に、変速装置90に伝達されたトルクを変換して変速装置90の出力軸に伝達する。例えば、変速装置90は、遊星歯車機構等の歯車機構及び複数の係合装置(クラッチやブレーキ等)を備えた有段変速機構とすることができる。或いは、変速装置90は、ベルトやチェーンを渡して連結された2つのプーリーの径を変化させることで連続的な変速を可能にする無段変速機構(CVT : Continuously Variable Transmission)であってもよい。変速装置90の出力軸は、例えばディファレンシャルギヤ(出力用差動歯車装置)等を介して2つの車軸に分配され、各車軸に駆動連結された車輪Wに伝達される。
尚、ここで「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指す。具体的には、「駆動連結」とは、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。従って、回転電機80は、車輪Wに駆動連結されているということができる。
図1に示すように、車両用駆動装置60は、車両の最も上位の制御装置の1つである車両ECU(Electronic Control Unit)100による統合制御(走行制御)により、内燃機関制御装置40、インバータ制御装置20(回転電機制御装置)、変速制御装置30を介して制御される。内燃機関制御装置40は、不図示の燃料供給装置、給気排気機構、点火装置などの制御を含めて、内燃機関70を駆動制御する。回転電機80は、インバータ10を備えた回転電機駆動装置1を介して駆動される。インバータ10は、直流電源(図2を参照して後述する高圧バッテリ11)に接続されると共に交流の回転電機80に接続されて、直流と複数相の交流との間で電力を変換する。インバータ制御装置20は、この回転電機駆動装置1を制御する。具体的には、図2等を参照して後述するインバータ10を構成するスイッチング素子3をスイッチング制御して、回転電機80を駆動制御する。変速制御装置30は、例えば油圧制御装置65を介して変速装置90の有する不図示の変速機構を制御する。尚、本実施形態では、変速制御装置30は、油圧制御装置65を介して内燃機関分離クラッチ75も制御する。
このように、本実施形態においては、インバータ制御装置20及び変速制御装置30を有して、車両用制御装置50が構成されている形態を例示している。しかし、インバータ制御装置20(回転電機制御装置)が、変速制御装置30の機能を有して構成されていてもよい。また、当然ながら、車両用制御装置50は、内燃機関制御装置40、インバータ制御装置20、変速制御装置30により構成されていてもよい。
図1において、符号14は回転電機80のロータの回転(速度・方向・角速度など)を検出する回転センサ、符号93は変速装置90の出力軸の回転を検出する回転センサである。回転センサは、レゾルバや、光学式エンコーダ、磁気式エンコーダを適宜利用することができる。尚、図1では、内燃機関70を始動するためのスタータ装置や、各種オイルポンプ(電動式及び機械式)は、省略している。
図2のブロック図は、回転電機駆動装置1のシステム構成を模式的に示している。回転電機駆動装置1は、高圧バッテリ11と、交流の回転電機80との間に備えられ、直流と交流との間で電力を変換する。回転電機80は、インバータ10を介して高圧バッテリ11からの電力を動力に変換する(力行)。或いは、回転電機80は、内燃機関70や車輪Wから伝達される回転駆動力を電力に変換し、インバータ10を介して高圧バッテリ11を充電する(回生)。
本実施形態において、高圧バッテリ11は、例えば定格電圧が50〜400[V]程度の高圧直流電源である。高圧バッテリ11は、例えば、ニッケル水素やリチウムイオンなどの二次電池や、電気二重層キャパシタなどのキャパシタ、或いはこれらを組み合わせたものなどであり、大電圧大容量の蓄電可能な直流電源である。尚、回転電機駆動装置1が高圧バッテリ11の出力電圧を昇圧する直流コンバータ(DC−DCコンバータ)を備える場合には、直流電源に当該コンバータを含めることができる。
以下、インバータ10の直流側の電圧(インバータ10の直流側の正極Pと負極Nとの間の電圧、高圧バッテリ11の端子間電圧やコンバータの出力電圧)を直流リンク電圧(Vdc)と称する。インバータ10の直流側には、直流リンク電圧を平滑化する直流リンクコンデンサ4(平滑コンデンサ)が備えられている。直流リンクコンデンサ4は、回転電機80の消費電力の変動に応じて変動する直流電圧(直流リンク電圧)を安定化させる。
インバータ10は、複数のスイッチング素子3を有して構成される。図2に示すように、インバータ10は、複数組のアーム3Aを備えたブリッジ回路により構成されている。インバータ10は、回転電機80の各相のステータコイル8(3相の場合、U相、V相、W相)に対応するそれぞれのアーム3Aについて上段側及び下段側の一対のスイッチング素子3を備えて構成されている。交流1相分のアーム3Aの詳細な構成例を示す図3、図7等を参照して後述するように、スイッチング素子3には、並列にフリーホイールダイオード3Dが接続されている。また、交流1相分のアーム3Aは、上段側スイッチング素子3Hと下段側スイッチング素子3Lとの直列回路により構成されている。
スイッチング素子3には、シリコン(Si)を基材としたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、炭化ケイ素(SiC)を基材としたSiC−MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC−SIT(SiC - Static Induction Transistor)、SiC−IGBT、窒化ガリウム(GaN)を基材としたGaN−MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などのパワー半導体素子が用いられる。図3、図7等を参照して後述するように、本実施形態では、複数種のスイッチング素子3を組み合わせてインバータ10が構成されている。
スイッチング素子3のそれぞれは、インバータ制御装置20から出力されるスイッチング制御信号に基づいて動作する。スイッチング制御信号は、例えば、IGBT又はMOSFETのゲート端子を駆動するゲート駆動信号である。インバータ制御装置20は、マイクロコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)などの論理演算プロセッサなどのハードウェアと、プログラムやパラメータなどのソフトウェアとの協働によって実現される。当然ながら、インバータ制御装置20は、論理回路などの電子回路を中核としたハードウェアによって構成されてもよい。インバータ制御装置20の動作電圧は、3.3〜12[V]程度であり、インバータ制御装置20は、不図示の低圧バッテリ(例えば定格電圧が12〜24[V]程度)から電力の供給を受けて動作する。
高電圧をスイッチングする電力用のIGBTやMOSFETの制御端子(ゲート端子)に入力されるゲート駆動信号は、インバータ制御装置20を構成する電子回路(マイクロコンピュータなど)の動作電圧よりも大きい電圧振幅を必要とする。このため、インバータ制御装置20により生成されたスイッチング制御信号(スイッチング制御源信号)は、ドライブ回路25によって、電圧振幅の拡大や電流の増幅など、駆動力を付与された後で、インバータ10に入力される。尚、本実施形態では、特に断らない限り、インバータ制御装置20が生成して出力する制御信号(スイッチング制御源信号)と、ドライブ回路25を経てスイッチング素子3に伝達される制御信号とを区別せず、スイッチング制御信号と称する。
また、本実施形態では、スイッチング素子3は、スイッチ部となる半導体素子35と共に温度センサ37及び過電流検出器38を有する状態検出部36を備えた半導体モジュールとして構成されている。状態検出部36は、スイッチング素子3(半導体素子35)に流れる電流が予め規定された基準電流以上の場合や、スイッチング素子3(半導体素子35)の温度が予め規定された基準温度以上の場合に、有効状態となる警告信号を出力する。警告信号は、ドライブ回路25を介してインバータ制御装置20に伝達される。
従来、インバータ10のスイッチング素子3としては、ケイ素(Si)を基材としたSi−IGBTが広く利用されてきた。しかし、近年、電力用のMOSFETやIGBTの基材として、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの半導体材料も実用化されてきている。SiCやGaNなどの半導体材料は、Siに比べてバンドギャップが広く(ワイドバンドギャップ半導体)、絶縁破壊強度もSiよりも高いなど、半導体材料の素材としての基本性能がSiよりも高い。絶縁破壊強度が高いことより、SiCやGaNを基材とする電力用高耐圧素子(パワースイッチング素子)では、ドリフト層の膜厚を、Siを基材とする素子よりも薄くすることができる。電力用高耐圧素子の抵抗成分の多くは、このドリフト層の厚みに起因するので、SiCやGaNを基材とする電力用高耐圧素子では、Si基材の素子と比べて、単位面積当たりのオン抵抗が非常に低い素子を実現できる。
Siを基材とする電力用高耐圧素子では、高耐圧化に伴うオン抵抗の増大を改善するために、少数キャリアデバイスであるバイポーラトランジスタの構造を備えたIGBT(Si−IGBT)が主流となっている。IGBTは、1つの半導体素子上において、入力段にFET構造を持ち、出力段にバイポーラトランジスタ構造を持つスイッチング素子である。但し、IGBTは、例えばMOSFETに比べると、スイッチング損失が大きく、その結果として発生する熱の影響もあって、高周波数でのスイッチングには限界がある。SiCやGaNを基材とする電力用高耐圧素子では、上述したようにドリフト層が薄く構成できるので、高速なデバイス構造であり、多数キャリアデバイスであるMOSFET構造であっても、高耐圧化に伴うオン抵抗の増大を抑制することができる。つまり、SiCやGaNを基材とする電力用高耐圧素子は、高耐圧、低オン抵抗、高周波数動作を実現することができる。
例えば、Si−IGBTに比べて、SiC−MOSFETは、さらに高速スイッチングが可能であり、より高いスイッチング周波数での利用が可能である。また、インバータ10の損失の低減も期待できる。但し、SiCやGaNは、Siに比べて高価であり、インバータ10やインバータ10を含む回転電機駆動装置1のコストを上昇させるおそれがある。このように、Si−IGBTなどのSi素材のスイッチング素子と、SiC−MOSFETなどのSiC素材のスイッチング素子とでは、それぞれが長所・短所を有する。このため、両者の長所をうまく活かして最適なインバータ10及びインバータ10を備えた回転電機駆動装置1を提供することが好ましい。
本実施形態では、第1スイッチング素子31と、第1スイッチング素子31とは異なる種類の第2スイッチング素子32とが直列接続されて、交流1相分のアーム3Aが構成されている。図2及び図3に示す例では、上段側スイッチング素子3Hは、Si−IGBTの第1スイッチング素子31であり、下段側スイッチング素子3Lは、SiC−MOSFETの第2スイッチング素子32である。つまり、第2スイッチング素子32は、オフ状態とオン状態との間での遷移時間が第1スイッチング素子31よりも短く、遷移時のターン・オン/ターン・オフ損失(スイッチング損失)も第1スイッチング素子31よりも小さい素子である。また、第2スイッチング素子32は、第1スイッチング素子31よりもスイッチング応答性の高い素子である。
また、第1スイッチング素子31に並列接続されるフリーホイールダイオード3D(第1ダイオード33)は、第2スイッチング素子32に並列接続されるフリーホイールダイオード3D(第2ダイオード)よりも逆回復時間が短い素子である。ここでは、第1ダイオード33は、SiCを基材とするショットキーバリアダイオード(SiC−SBD)である。また、第2ダイオード34は、Siを基材とするpn接合のダイオード(好ましくはファストリカバリーダイオード(Si−FRD)である。
ファストリカバリーダイオードは、順方向電圧が掛かっているオン状態からオフ状態に切り替わった後に引き続き順方向電流が流れている時間(逆回復時間)が、比較的短いダイオードである。pn接合の一般的なダイオードの逆回復時間はおよそ数10[μs]〜100[μs]であるのに対して、ファストリカバリーダイオードはおよそ100[nsec]以下である。ショットキーバリアダイオードは、pn接合ではなくショットキー接合(金属と半導体との接触)による整流作用を利用したダイオードである。ショットキーバリアダイオードには、動作原理上、逆回復時間というものがなく、ファストリカバリーダイオードよりも、さらに高速動作が可能である。尚、Siを基材とするショットキーバリアダイオードは、耐圧に課題があったが、SiCを基材とするショットキーバリアダイオードでは、高耐圧化が実現されている。
本実施形態では、このような素子特性より、フリーホイールダイオード3Dとして、ファストリカバリーダイオードとショットキーバリアダイオードとを例示した。しかし、第1ダイオード33は、第2ダイオード34よりも逆回復電流が小さく、逆回復特性が良い素子であればよい。ここで、「逆回復特性が良い」とは、逆回復時間が短いことや、逆回復電流が小さいことを意味する。
回転電機80には、図1及び図2に示すように、回転電機80のロータの各時点での磁極位置(ロータの回転角度)や回転速度を検出する回転センサ14が備えられている。回転センサ14は、例えばレゾルバ等である。また、回転電機80の各相のステータコイル8を流れる電流は、図2に示すように、電流センサ13により測定される。インバータ制御装置20は、回転電機80の要求トルクや回転速度、変調率に基づき、電流フィードバック制御を行う。要求トルクは、例えば車両ECU100や車両の走行制御装置などの他の制御装置からインバータ制御装置20に提供される。尚、変調率は、直流電圧(直流リンク電圧)から交流電圧への変換率を示す指標であり、直流電圧に対する複数相の交流電圧の線間電圧の実効値の割合を示す値である。変調率は、“0”から、物理的(数学的)な限界値である“約0.78”までの値を採ることができる。
回転電機80の動作領域は、例えば図5に示すように、要求トルクと回転速度とに応じて設定されている。インバータ制御装置20は、要求トルク、回転速度、変調率等に応じて、インバータ10をスイッチング制御するためのパルス(変調パルス)を生成してスイッチング制御信号として出力する。尚、変調パルスは都度生成されても良いし、回転電機80或いはインバータ10の動作条件に応じて予めメモリ等にパルスパターンを記憶させておき、DMA転送等によってプロセッサに負荷をかけることなく出力される形態であってもよい。
本実施形態において、インバータ制御装置20は、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ10を介して回転電機80を制御する。以下、ベクトル制御法について簡単に説明し、詳細な説明は省略する。
まず、インバータ制御装置20は、直流リンク電圧、要求トルク、変調率等に基づいて、ベクトル制御における直交ベクトル座標系における電流指令を演算する。この直交ベクトル座標系は、回転電機80のロータの磁極の方向を一方の軸(d軸)、この軸(d軸)に直交する方向を他方の軸(q軸)とする座標系である。ステータコイル8を流れる3相の電流(実電流)も、磁極位置に基づいてこの直交ベクトル座標系に座標変換される。この直交ベクトル座標系において、電流指令と実電流との偏差に基づき、比例積分制御(PI制御)や比例積分微分制御(PID制御)の演算が行われ、電圧指令が導出される。この電圧指令が磁極位置に基づいて、3相の電圧指令に逆座標変換され、選択された変調方式に従って変調パルス(スイッチング制御信号)が生成される。
インバータ10の変調方式としては、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)が知られている。パルス幅変調では、出力指令としての交流波形の振幅と三角波(鋸波を含む)状のキャリアの波形の振幅との大小関係に基づいてパルスが生成される。キャリアとの比較によらずにデジタル演算により直接PWM波形を生成する場合もあるが、その場合でも、指令値としての交流波形の振幅と仮想的なキャリア波形の振幅とは相関関係を有する。以下、「スイッチング制御信号の周波数」と称した場合は、特に断らない限り、キャリアの周波数を示す。
パルス幅変調には、正弦波パルス幅変調(SPWM : sinusoidal PWM)や、空間ベクトルパルス幅変調(SVPWM : space vector PWM)、不連続パルス幅変調(DPWM:discontinuous PWM)などが含まれる。それぞれ最大変調率は、SPWMが“約0.61”、SVPWMが“約0.71”、DPWMが“約0.78”である。尚、本実施形態のように3相交流の場合、3相の全てをパルス幅変調する変調方式を3相変調と称し、3相の内の少なくとも1相を予め定められた期間固定して残りの2相又は1相をパルス幅変調する変調方式を2相変調と称する。3相変調は、SPWMやSVPWMによって実施され、2相変調は、DPWMよって実施される。図5に示すような回転電機80の動作領域において、原則として、相対的に低トルク・低回転速度の動作領域では3相変調が実施され、相対的に高トルク・高回転速度の動作領域では2相変調が実施される。換言すれば、相対的に低変調率の場合には、3相変調が実施され、高変調率の場合には、2相変調が実施される。
ところで、車両は、例えば登り坂においてブレーキを掛けずに前進トルクと斜面を転がり落ちる力とを釣り合わせて停止状態となる場合がある。ここで、停止状態とは、力が釣り合って完全に停止している状態に限らず、前進トルクが優って少し前進したり、転がり落ちる力が勝って少し後退したりすることを繰り返しながら、ほぼ同じ場所に留まっている状態も含む。車両がこのような停止状態にある場合、回転電機80は、トルクを出力しながら回転していない、或いは極めて低回転速度で回転しているストール状態となる。ここで、ストール状態とは、図5に示すように、回転電機80が予め規定された下限トルクTL以上のトルクを出力すると共に予め規定された下限回転速度SL以下で回転する状態である。また、図5に示す動作領域において、下限トルクTL以上、下限回転速度SL以下の領域をストール領域SAと称する。ストール領域SAは、低回転速度の領域ではあるが、比較的高トルクの領域である。このため、ストール領域SAでは比較的高い変調率が設定されることとなり、2相変調が実施される。
ストール状態では、インバータ10の特定の相のアーム3Aを構成するスイッチング素子3や、当該相のステータコイル8に電流が流れ続けることになり、スイッチング素子3やステータコイル8を消耗させるおそれがある。このため、必要なトルクを保持しつつ、電流を抑制するために、インバータ10を制御するスイッチング周波数を低下させることが考えられる。しかし、スイッチング周波数を低下させた場合、スイッチング周波数やその高調波成分が可聴周波数帯(20[Hz]〜20[kHz])の可聴ノイズとなることがある。可聴ノイズは、スイッチング周波数の2倍高調波をピークとして、スイッチング周波数に応じた周波数で発生する。例えば、スイッチング素子3がSi−IGBTの場合には、1〜1.5[kHz]程度のスイッチング周波数が多く用いられる。この場合には、2倍高調波が可聴域の2〜3[kHz]となるため、可聴ノイズが発生することになる。また、2倍高調波の他、n次高調波も発生するため、例えば、スイッチング周波数が1.5[kHz]の場合には、3[kHz]の可聴ノイズを最大ノイズとして、4.5[kHz]、6[kHz]、7.5[kHz]等の多くの可聴ノイズが発生する。
一般的に、Siを基材とした電力用半導体素子、例えばSi−IGBTの場合、適用可能なスイッチング周波数は、多くの場合5[kHz]程度までであり、好適には2[kHz]程度までの周波数が利用される。このため、2倍高調波をピークとするノイズは、4〜10[kHz]となり、可聴周波数帯に含まれる。一方、SiCを基材として電力用半導体素子、例えばSiC−MOSFETの場合は、適用可能なスイッチング周波数が10[kHz]以上である。例えば、スイッチング周波数を10[kHz]以上とすることで、2倍高調波を可聴周波数帯よりも高周波数側の20[kHz]以上にすることができる。
本実施形態のインバータ10は、1つのアーム3AがSi−IGBTとSiC−MOSFETとを用いて構成されている。従って、インバータ制御装置20は、相対的に低周波数の第1スイッチング周波数でSi−IGBT(第1スイッチング素子31)をスイッチングし、相対的に高周波数の第2スイッチング周波数でSiC−MOSFET(第2スイッチング素子32)をスイッチングすることができる。
インバータ制御装置20は、回転電機80の動作領域がストール領域SAであり、且つ、回転電機80のロータが停止状態である場合に、インバータ10を以下のように制御すると好適である。インバータ制御装置20は、第1スイッチング素子31であるSi−IGBTを、少なくとも2倍高調波の周波数が可聴周波数帯に含まれる周波数よりも低い周波数である第1スイッチング周波数帯の第1スイッチング周波数でスイッチング制御し、第2スイッチング素子32であるSiC−MOSFETを、少なくとも2倍高調波の周波数が可聴周波数帯よりも高い周波数である第2スイッチング周波数帯の第2スイッチング周波数でスイッチング制御する。さらに、インバータ制御装置20は、複数相の交流電流の電流位相が、アーム3Aの内の1相を対象アームとして、当該対象アームの第1スイッチング素子31が常時オン状態になると共に残りのアーム3Aの第2スイッチング素子32がスイッチングする電流位相となるように、回転電機80のロータ位置を調整する。尚、回転電機80がトルクを出力しながら回転していない場合には、複数相の交流電流は、直流状態となっている。
図6は、交流電圧指令(V*)及び交流電流指令(I*)と電気角との関係を示している。図6に白抜きの丸印で示す位相θ0,θ2,θ4では、3相の内の1相の電流が正のピークであり、他の2相の電流が負である。インバータ10のアーム3Aが、図3に示すように、上段側スイッチング素子3Hが第1スイッチング素子31であり、下段側スイッチング素子3Lが第2スイッチング素子32である場合、位相θ0,θ2,θ4では、3相の内の1相の上段側スイッチング素子3Hが常時オン状態にスイッチング制御され、他の2相の下段側スイッチング素子3Lが例えばパルス幅変調制御によりオン状態にスイッチング制御される。即ち、可聴ノイズを発生するスイッチング周波数である上段側スイッチング素子3Hは常時オン状態に制御される。このため、ステータコイル8を流れる電流には、上段側スイッチング素子3Hのスイッチング周波数(第1スイッチング周波数)の高調波成分が重畳されず、可聴ノイズの発生が抑制される。また、下段側スイッチング素子3Lを第2スイッチング周波数でスイッチング制御することによって、2倍高調波以上のノイズを可聴周波数帯域の外側にすることができる。つまり、ステータコイル8を流れる電流には、下段側スイッチング素子3Lのスイッチング周波数(第2スイッチング周波数)の高調波成分が重畳されるが、当該高調波成分は可聴周波数帯域よりも高い周波数となるので、可聴ノイズを抑制することができる。
反対に、例えば、図6に黒の丸印で示す位相θ1,θ3,θ5では、3相の内の1相の電流が負のピークであり、他の2相の電流が正である。インバータ10のアーム3Aが、図3に示すように、上段側スイッチング素子3Hが第1スイッチング素子31であり、下段側スイッチング素子3Lが第2スイッチング素子32である場合、位相θ1,θ3,θ5では、上段側スイッチング素子3Hの少なくとも1つが例えばパルス幅変調制御によりオン状態にスイッチング制御される。即ち、可聴ノイズを発生し易い上段側スイッチング素子3Hが第1スイッチング周波数でスイッチング制御される。このため、ステータコイル8を流れる電流には、上段側スイッチング素子3Hのスイッチング周波数(第1スイッチング周波数)の高調波成分が重畳され、第1スイッチング周波数の2倍高調波をピークとる可聴ノイズが発生し易い。
ところで、上述したように、本実施形態では、ストール領域SAにおいては2相変調が実施される。これにより、上段側スイッチング素子3Hの内の何れか1つを、電気角120度の期間にわたって常にオン状態に制御することができる。但し、例えば図6に黒の丸印で示す位相と白の丸印で示す位相との間では、他の相のアーム3Aのスイッチング素子3が、低い頻度でスイッチングする。例えば、電気角1周期の中で、2〜4回程度スイッチングする場合がある。この場合、各変調パルスの周波数はキャリア周波数に応じた周波数であるが、変調パルスの出現頻度に応じた周波数は、電気角1周期の周波数(電気角1周期の逆数)の2〜4倍程度であり、キャリア周波数よりも低い周波数となる。このため、2倍高調波が可聴周波数帯域より高くなる周波数(10[kHz]以上)の第2スイッチング周波数で変調パルスが生成されていたとしても、変調パルスの出現頻度に応じた周波数は、第2スイッチング周波数を大きく下回ることになり、その2倍高調波の周波数は可聴周波数帯域に含まれることになる。当然ながら、常にオン状態に制御されていない相の第1スイッチング素子31も同様に、低い頻度でスイッチングすることがあり、その場合にも変調パルスの出現頻度に応じた周波数に起因する可聴ノイズが生じる場合がある。
このため、可聴ノイズを抑制する上では、回転電機80の動作領域がストール領域SAの場合には、電流位相が、図6に白抜きの丸印で示す位相θ0,θ2,θ4であることが好ましい。インバータ制御装置20は、複数相の交流電流の電流位相が、アーム3Aの内の1相を対象アームとして、当該対象アームの第1スイッチング素子31が常時オン状態になると共に残りのアーム3Aの第2スイッチング素子32がスイッチングする電流位相となるように、回転電機80のロータ位置を調整する。具体的には、電流位相が、位相θ0,θ2,θ4以外の場合には、電流位相が位相θ0,θ2,θ4となるように、回転電機80のロータ位置を調整する。位相の調整は、内燃機関70と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路上の第2係合装置K2(変速機クラッチ95)の係合状態に基づいて行う。本実施形態では、第2係合装置K2(変速機クラッチ95)の係合状態がスリップ係合状態となっている間に、回転電機80のロータを回転させることによって実現される。これにより、回転電機80のロータ位置を調整するための回転電機80の回転が、車輪Wに与える影響を小さく抑えることができる。1つの態様として、インバータ制御装置20が必要なロータの回転方向と回転量とを変速制御装置30に伝達し、変速制御装置30が油圧制御装置65を介して第2係合装置K2の係合圧を変化させる。第2係合装置K2の係合圧を適切に調整することにより、車輪Wを実質的に回転させずにロータ位置を調整することができる。
ところで、上述したように、ストール状態では、インバータ10の特定の相のアーム3Aを構成するスイッチング素子3や、当該相のステータコイル8に電流が流れ続けることになり、スイッチング素子3やステータコイル8を消耗させるおそれがある。このため、インバータ制御装置20は、ロータ位置を調整した後、予め規定された経過時間を経過した場合に、対象アームとは異なる相を新たな対象アームとして、ロータ位置を調整するとよい。例えば、調整後のロータ位置が、位相θ0であった場合には、インバータ制御装置20は、位相θ2又は位相θ4にロータ位置を移動させると好適である。
この再調整は、上述したように予め規定された経過時間に基づいて行われてもよいが、温度センサ37によって計測される、対象アームにおける第1スイッチング素子31の温度に基づいて行われてもよい。即ち、インバータ制御装置20は、ロータ位置を調整した後、対象アームにおける第1スイッチング素子31の温度が予め規定されたしきい値温度以上となった場合に、対象アームとは異なる相を新たな対象アームとして、ロータ位置を調整すると好適である。
また、上述したように、ストール状態では、車両が停止状態となるが、このとき、車両は、前進トルクが優って少し前進したり、転がり落ちる力が勝って少し後退したりすることを繰り返しながら、ほぼ同じ場所に留まっている場合がある。また、車両が、同じ場所に留まること無く、微速で前進したり、微速で後退したりする場合もある(微速移動状態)。このような微速移動状態においても、スイッチング周波数によって可聴ノイズが生じることがある。従って、停止状態ではなくても、回転電機80の動作領域がストール領域SAである場合には、停止状態と同様のスイッチング周波数でスイッチング素子3を制御すると好適である。即ち、インバータ制御装置20は、少なくとも2倍高調波の周波数が可聴周波数帯よりも高い周波数を第2スイッチング周波数として第2スイッチング素子32をスイッチング制御し、第2スイッチング周波数よりも低い周波数を第1スイッチング周波数として第1スイッチング素子31をスイッチング制御すると好適である。
尚、本実施形態では、第1スイッチング素子31に並列接続されるフリーホイールダイオード3D(第1ダイオード33)は、第2スイッチング素子32に並列接続されるフリーホイールダイオード3D(第2ダイオード34)よりも逆回復時間が短い素子である。相対的に周波数が高い第2スイッチング周波数でスイッチングされるのは、スイッチングの応答性が良く(遷移時間が短い)、スイッチング損失も小さい第2スイッチング素子32である。この第2スイッチング素子32が高周波数のスイッチング制御信号により、オフ状態にスイッチングされる際には、同じアーム3Aの第1スイッチング素子31に並列接続されたフリーホイールダイオード3D(第1ダイオード33)に電流が流れることになる。上述したように、この第1ダイオード33は、逆回復時間が短い、或いは、逆回復電流が小さいなど、逆回復特性の良い素子である。つまり、高周波数でスイッチングを行う際には、各アーム3Aの上段側及び下段側において双方のスイッチング特性の良い素子(第1ダイオード33及び第2スイッチング素子32)がスイッチングし、当該アーム3Aの上段側及び下段側において双方のスイッチング特性の劣る素子(第1スイッチング素子31及び第2ダイオード34)はスイッチングしない。一般的には、スイッチング特性の良い素子の方が高コストである場合が多いから、高速動作が必要な場面で動作するようにスイッチング特性のよい素子が配置されていることで、スイチング周波数を高くしてもインバータ10のコストの上昇を抑制することができる。
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記においては、図2及び図3に示す例では、上段側スイッチング素子3Hが第1スイッチング素子31であり、下段側スイッチング素子3Lが第2スイッチング素子32である形態を例示して説明した(図2、図3参照)。しかし、図7に示すように、上段側スイッチング素子3Hが第2スイッチング素子32であり、下段側スイッチング素子3Lが第1スイッチング素子31であってもよい。この場合には、インバータ制御装置20は、図6における位相θ1、θ3、θ5となるようにロータ位置を調整すると好適である。
(2)上記においては、第1スイッチング素子31がSi−IGBTであり、第2スイッチング素子32がSiC−MOSFETである構成を例示して説明した。しかし、第2スイッチング素子32は、SiC−MOSFETに限らず、少なくとも2倍高調波の周波数が可聴周波数帯よりも高い周波数をスイッチング周波数とすることができる特性を有するスイッチング素子であればよい。第2スイッチング素子32は、SiC−SIT、SiC−IGBT、GaN−MOSFETなどであってもよい。また、第1スイッチング素子31も、Si−IGBTに限らず、例えばSi−MOSFETであってもよい。また、第1スイッチング素子31が、2倍高調波の周波数が可聴周波数帯よりも高い周波数をスイッチング周波数とすることができる特性を有することを妨げるものではない。
また、図3及び図7に示した例では、1つのアーム3Aにおいて、フリーホイールダイオード3Dに異なる種類の素子を用いたが、当然ながら同一の種類の素子を用いてもよい。また、Si−IGBTに対してSi−FRDを接続し、SiC−MOSFETに対してSiC−SBDを接続してもよい。つまり、図3や図7に例示したようにスイッチング素子3とフリーホイールダイオード3Dとをたすき掛けにしなくてもよい(クロスさせなくてもよい)。
(3)上記においては、インバータ制御装置20が、内燃機関70と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、内燃機関70の側から順に、内燃機関70、第1係合装置K1(内燃機関分離クラッチ75)、回転電機80、第2係合装置K2(変速機クラッチ95)、車輪Wが設けられた車両用駆動装置60の第2係合装置K2(変速機クラッチ95)の係合状態に基づいて、ロータ位置を調整する形態を例示した(図1)。しかし、そのような形態に限定されることなく、図8に示すように、車両用駆動装置60は、内燃機関70と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、内燃機関70の側から順に、内燃機関70、第1係合装置K1(内燃機関分離クラッチ75)、回転電機80、第2係合装置K2(ロックアップクラッチ97)を備えた流体継手93(トルクコンバータ)、第3係合装置K3(変速機クラッチ95)、車輪Wを有する構成であってもよい。或いは、図9に示すように、車両用駆動装置60は、内燃機関70と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、内燃機関70の側から順に、内燃機関70、第1係合装置K1(内燃機関分離クラッチ75)、回転電機80、第2係合装置K2(スリップ走行制御用クラッチ85)、第3係合装置K3(変速機クラッチ95)、車輪Wを有する構成であってもよい。これらの場合、内燃機関分離クラッチ75が解放状態で、変速装置90に内蔵された第3係合装置K3が係合している状態で、第2係合装置K2(ロックアップクラッチ97、スリップ走行制御用クラッチ85)の係合状態に基づいて、ロータ位置を調整すると好適である。
(4)尚、上記において開示された構成は、矛盾が生じない限り、組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明したインバータ制御装置(20)の概要について簡単に説明する。
1つの態様として、直流電源(11)と交流の回転電機(80)とに接続されて直流と複数相の交流との間で電力を変換するインバータ(10)を制御するインバータ制御装置(20)は、
前記インバータ(10)が、第1スイッチング素子(31)と第2スイッチング素子(32)とが直列接続されたアーム(3A)を複数本備え、
前記回転電機(80)のトルクと回転速度とにより規定される動作領域が、前記回転電機(80)が予め規定された下限トルク(TL)以上のトルクを出力すると共に予め規定された下限回転速度(SL)以下で回転する状態であるストール領域(SA)であり、且つ、前記回転電機(80)のロータが停止状態である場合に、前記第1スイッチング素子(31)を、少なくとも2倍高調波の周波数が可聴周波数帯に含まれる周波数よりも低い第1スイッチング周波数でスイッチング制御し、前記第2スイッチング素子(32)を、少なくとも2倍高調波の周波数が可聴周波数帯よりも高い第2スイッチング周波数でスイッチング制御し、
前記アーム(3A)の内の1相を対象アームとして、複数相の交流電流の電流位相が、当該対象アームの前記第1スイッチング素子(31)が常時オン状態になると共に残りの前記アーム(3A)の前記第2スイッチング素子(32)がスイッチングする電流位相となるように、前記回転電機(80)のロータ位置を調整する。
この構成によれば、第1スイッチング素子(31)が常時オン状態になる電流位相においてロータが停止状態となるので、第1スイッチング素子(31)がスイッチングしない状態とすることができる。第1スイッチング素子(31)をスイッチングする第1スイッチング周波数は、可聴ノイズを発生させる原因となるが、第1スイッチング素子(31)がスイッチングしない状態となることで当該可聴ノイズの発生を抑制することができる。この電流位相において、第2スイッチング素子(32)はスイッチングするが、そのスイッチング周波数は2倍高調波が可聴周波数帯よりも高い周波数である第2スイッチング周波数である。従って、第2スイッチング周波数に基づく可聴ノイズも低減される。このように、本構成によれば、回転電機(80)がストール状態となった場合に、インバータ(10)のスイッチング周波数に起因する可聴ノイズを低減させることができる。
ここで、インバータ制御装置(20)は、内燃機関(70)と車輪(W)とを結ぶ動力伝達経路に、前記内燃機関(70)の側から順に、前記内燃機関(70)、第1係合装置(K1)、前記回転電機(80)、第2係合装置(K2)、前記車輪(W)が設けられた車両用駆動装置(60)の前記第2係合装置(K2)の係合状態に基づいて、前記ロータ位置を調整すると好適である。
この構成によれば、ロータ位置を調整するための回転電機(80)の回転が、どのように車輪(W)に伝達されるかを、第2係合装置(K2)の係合状態に応じて制御することができる。例えば、第2係合装置(K2)がスリップ係合状態となっている間にロータ位置を調整することにより、当該ロータ位置の調整のための回転電機(80)の回転が車輪(W)に与える影響を小さく抑えることができる。つまり、第2係合装置(K2)の係合圧を適切に調整することにより、車輪(W)を実質的に回転させずにロータ位置を調整することができる。
また、インバータ制御装置(20)は、前記ロータ位置を調整した後、予め規定された経過時間を経過した場合、又は、前記対象アームにおける前記第1スイッチング素子(31)の温度が予め規定されたしきい値温度以上となった場合に、前記対象アームとは異なる相を新たな対象アームとして、前記ロータ位置を調整すると好適である。
回転電機(80)がストール状態の場合、インバータ(10)の特定の相のアーム(3A)を構成するスイッチング素子(3)や、当該相のステータコイル(8)に電流が流れ続け、スイッチング素子(3)やステータコイル(8)を消耗させるおそれがある。このため、インバータ制御装置20は、対象アームを適宜入れ替えて、特定の相のスイッチング素子(3)やステータコイル(8)の消耗を抑制すると好適である。予め規定された経過時間を経過した場合に、対象アームを入れ替えるためのロータ位置の調整を行うことで、負荷を各相に分散させることができる。また、第1スイッチング素子(31)の温度が予め規定されたしきい値温度以上となった場合に、対象アームを入れ替えるためのロータ位置の調整を行うことで、対象アームの負荷が過大となる前に対象アームを保護することができる。
また、インバータ制御装置(20)は、前記回転電機(80)の前記動作領域が、前記ストール領域(SA)である場合には、前記ロータが前記停止状態ではなくても、少なくとも2倍高調波の周波数が可聴周波数帯よりも高い周波数を前記第2スイッチング周波数として前記第2スイッチング素子(32)をスイッチング制御し、前記第2スイッチング周波数よりも低い周波数を前記第1スイッチング周波数として前記第1スイッチング素子(31)をスイッチング制御すると好適である。
例えば車両が上り坂を上っている際に、回転電機(80)がストール状態となった場合、車両は停止状態となる。しかし、このとき、車両は、前進トルクが優って少し前進したり、転がり落ちる力が勝って少し後退したりすることを繰り返しながら、ほぼ同じ場所に留まっている場合がある。また、車両が、同じ場所に留まること無く、微速で前進したり、微速で後退したりする場合もある(微速移動状態)。このような微速移動状態においても、スイッチング周波数によって可聴ノイズが生じることがある。従って、停止状態ではなくても、回転電機(80)の動作領域がストール領域(SA)である場合には、停止状態と同様のスイッチング周波数でスイッチング素子(3)を制御すると好適である。