以下、図1から図6を参照し、本発明の実施の形態に係る気道拡張装置について説明する。図1は、本実施の形態に係る気道拡張装置の上面図である。図2は、本実施の形態に係る気道拡張装置を側方から見た側面図である。図3は、本実施の形態に係る気道拡張装置を頭頂部側から見た側面図である。図4は、本実施の形態に係るパッドの断面斜視図である。図5は、仰臥位で寝た時の舌、口腔、鼻腔、気道の正中断面図である。図6は、枕部に頭蓋部を支えさせたうえでの仰臥位における、下顎骨、頭蓋骨及び顎関節から成る頭蓋部の側面図である。なお、下顎骨は下顎H1の骨格部であり、顎関節は下顎骨と頭蓋骨の連結部であって、顎関節においては下顎骨の関節突起部分である下顎頭の移動範囲が大きい。
図1に示すように、気道拡張装置1は、仰臥位の状態で頭蓋部が支えられる枕部2に気道拡張用の機構を設けたものであり、下顎H1が持ち上げられた状態を維持することで、舌根が落ち込んでも、気道が確保されるように構成されている。気道が確保される状態を、図5を用いて詳しく説明する。なお、以下の図においては、枕部に頭蓋部を支えさせたうえで、仰臥位で寝た時に顔面が向いている方向を上方向、前記枕部から見た下肢の方向を下肢方向とし、下顎H1が該枕部に対して、上方向であって、かつ下肢方向である方向を斜め上方向とする。また、顔面に対して、下方向であって、かつ頭頂方向である方向を斜め下方向とする。
図5Aに示すように、口腔M3と鼻腔N1は舌根T1の下方部分で気道R1に繋がっている。仰臥位で寝ている状態では、上唇M1と下唇M2とが接触することで口腔M3が閉じられる。図5Aは、仰臥位で寝ているにもかかわらず、舌根T1が落ち込まない、いわゆる睡眠時無呼吸のない状態を示す。図5Bは、仰臥位で寝た場合であって、睡眠深度が深くなった時に、舌根T1が矢印Aで示す方向に落ち込んで、落ち込んだ舌根T1により気道R1が塞がれ、呼吸ができなくなった状態、すなわち睡眠時無呼吸が生じている状態を示す。図5Cは、舌根T1が落ち込んではいるが、下顎H1が斜め上方向(矢印Bで示す方向)に持ち上げられているために、気道R1の前壁T2も持ち上げられ、気道R1が開いている状態を示す。本実施の形態に係る気道拡張装置1では、図5Cに示すように下顎H1を斜め上方に持ち上げて気道を拡張させる。
また、図6を用いて仰臥位時の下顎と気道の関係について説明する。図6Aに示すように、気道R1は、下顎骨B1と脊椎骨B3との間に存在する。下顎H1を下肢方向であって、かつ上方向に持ち上げるためには、下顎骨B1を同方向に持ち上げる必要がある。そのためには、下顎H1の皮膚だけが下顎骨B1からズレて移動することがないように、下顎H1の外側部を十分な力で押さえて、下顎骨B1を下肢方向であって、かつ上方向に持ち上げる。そうすると、下顎骨B1の関節突起部分である下顎頭H4も、顎関節内で頭蓋骨B2から離れて、図6Aに示す位置から、図6Bに示す位置へ、すなわち、頭蓋骨B2に対して下肢方向であって、かつ上方向に持ち上げられる。その結果、下顎骨B1に付着する気道R1の前面側組織は、頭蓋骨B2に固定されている脊椎骨B3に付着する気道R1の後面側組織に対して持ち上げられ、気道R1が拡張する。なお、閉口時あるいは半開口時には、枕部に頭蓋部を支えさせたうえでの仰臥位における下顎頭H4の直上方には関節結節B4が存在するため、下顎頭H4は、点線の矢印Cで示す直上方向には移動できない。閉口時あるいは半開口時には、下顎頭H4は、実線の矢印Dで示す下肢方向であって、かつ上方向にしか移動できない。
図1において、枕部2は、側面視U字状の本体部21にクッション部22、23を取り付けて構成されている。本体部21は、左右一対の仕切り板24によって頭蓋部及び下顎部収容空間A1と側方空間A2とに仕切られており、頭蓋部及び下顎部収容空間A1にクッション部22、23が収容され、側方空間A2に各種機構が収容されている。なお、クッション部22、23は、頭蓋部を支えるものであればよく、特に限定されず、例えば低反発のポリウレタン等の低反発素材等を使用してもよい。
また、本体部21の頭頂部H2側には、天板25が設けられており、この天板25には気道拡張用の各機構を駆動させるシリンダ等の駆動源が取り付けられている。また、本体部21のU字状の湾曲板26は、床面に載置された状態で左右方向に揺動可能になっており、使用者の寝返りを阻害しないように仰臥位から側臥位に、あるいは側臥位から仰臥位に、容易に体位変換できるように構成されている。また、左右一対の仕切り板24は、下顎H1の外側部に対応する位置が切欠かれており、この部分に左右一対の下顎保持部3が設けられている。
下顎保持部3は、クッション性を有する素材により矩形ブロック状に形成されている。下顎保持部3は、表面に後述するパッド31を介して下顎H1の外側部を保持するように構成されている。また、下顎保持部3は、裏面にスライダ32が設けられており、側方空間A2から斜め上方、すなわち、下顎H1を突き出させる方向に傾斜したガイドレール33に設置されている。ガイドレール33の基端は、ヒンジ部(不図示)を介して内方及び外方に傾倒可能に仕切り板24に連結されている。下顎保持部3は、第1の作動機構4によって下顎H1に対して離間方向又は接近方向に移動され、第2の作動機構5によって斜め上下方向に移動される。
第1の作動機構4は、天板25に設けられた一対のピストンシリンダ41により左右一対の下顎保持部3を離間方向又は接近方向に作動させるように構成されている。各ピストンシリンダ41の一端は、天板25に設けられたブラケット42に揺動可能に支持されている。各ピストンシリンダ41の他端からはピストンロッド43が突出されており、ピストンロッド43の先端にはボールジョイントを介して連結ロッド44の一端部が連結されている。連結ロッド44の他端はガイドレール33に取り付けられており、連結ロッド44の中間部はボールジョイントを介して湾曲板26に設けられた支持部45に支持されている。
各ピストンシリンダ41は、駆動源となるエアポンプ8のエアチューブが接続されており、エアポンプ8からの圧縮エアによってピストンロッド43を伸縮駆動させている。第1の作動機構4では、ピストンロッド43が突出されると、連結ロッド44が支持部45を揺動支点として内側に揺動する。これにより、連結ロッド44の他端に固定されたガイドレール33が内向きに倒されて、下顎保持部3が下顎H1に対して接近方向に移動される。一方、ピストンロッド43が引き込まれると、連結ロッド44が支持部45を揺動支点として外側に揺動する。これにより、連結ロッド44の他端に固定されたガイドレール33が外向きに倒されて、下顎保持部3が下顎H1に対して離間方向に移動される。
連結ロッド44には支持部45を挟んで一対のストッパ46が固定されており、一対のストッパ46間で連結ロッド44が支持部45に対してスライドするように構成されている。この構成により、連結ロッド44の揺動支点が一対のストッパ46間でスライドされ、離間方向又は接近方向における下顎保持部3の移動範囲が調整されている。
図2に示すように、第2の作動機構5は、天板25に設けられた一対のピストンシリンダ51により左右一対の下顎保持部3を斜め上下方向に作動させるように構成されている。各ピストンシリンダ51は、駆動源となるエアポンプ8のエアチューブが接続されており、エアポンプ8からの圧縮エアによってピストンロッド52を伸縮駆動させている。ピストンロッド52は、天板25に設けられた開口を通じて側方空間A2に突出しており、ピストンロッド52の先端はフレキシブルチューブ53を介して下顎保持部3のスライダ32に連結されている。フレキシブルチューブ53は、フレキシブルチューブ53よりも大径のフレキシブルガイドチューブ54に挿通されている。
フレキシブルガイドチューブ54は、円弧状に湾曲しており、フレキシブルチューブ53を湾曲させながらガイドしている。よって、ピストンロッド52の縦方向の直線動作が、フレキシブルチューブ53を介して斜め方向の動作に変換され、フレキシブルチューブ53の先端に固定されたスライダ32がガイドレール33に沿って移動される。第2の作動機構5では、ピストンロッド52が突出されると、フレキシブルチューブ53を介してスライダ32が押し込まれる。これにより、スライダ32に固定された下顎保持部3が斜め上方に移動される。一方、ピストンロッド52が引き込まれると、フレキシブルチューブ53を介してスライダ32が引き戻される。これにより、スライダ32に固定された下顎保持部3が斜め下方に移動される。
また、ガイドレール33は、延在方向の傾きを調整できるように仕切り板24にネジ止めされている。この場合、フレキシブルチューブ53及びフレキシブルガイドチューブ54が可撓性材料で形成されているため、ガイドレール33の延在方向の傾きに合せてフレキシブルチューブ53及びフレキシブルガイドチューブ54が変形される。また、第1の作動機構4によってガイドレール33が倒された場合であっても、ガイドレール33の傾倒動作に合わせてフレキシブルチューブ53及びフレキシブルガイドチューブ54が変形するために、ガイドレール33の傾倒動作が阻害されることがない。
図3に示すように、天板25には、本体部21の揺動角度に応じてピストンシリンダ41、51に対する圧縮エアの供給を制御するスイッチ機構6が設けられている。スイッチ機構6は、所定の角度範囲に対応して設けられた左右一対のスイッチ61と、左右一対のスイッチ61の間で揺動する振り子部62とを有している。スイッチ機構6は、左右一対のスイッチ61の間に振り子部62がある場合には、ピストンシリンダ41、51を押し出すように制御し、左右一対のスイッチ61のうちのいずれかに振り子部62が接触することでピストンシリンダ41、51を引き込むように制御する。なお、スイッチ機構6の動作の詳細については後述する。
気道拡張装置1には、第1の作動機構4に対して第2の作動機構5の動作を遅延させるタイマ81と、気道拡張装置1の電源をオンオフするメインスイッチ82とが接続されている。タイマ81は、第1の作動機構4のピストンシリンダ41に対する圧縮エアの供給タイミングよりも、第2の作動機構5のピストンシリンダ51に対する圧縮エアの供給タイミングを遅らせるように動作する。これにより、単一のエアポンプ8を使用して、第1の作動機構4が作動した後に第2の作動機構5を作動させることが可能になっている。
また、気道拡張装置1では、左右一対の下顎保持部3にパッド31を装着して下顎H1の外側部を保持するようにしている。図4に示すように、パッド31は、シリコン等のクッション性材料で下顎H1の外側部に密着するように断面視三日月状の椀型に形成されている。パッド31は、このような形状により下顎H1の外側部の形状に倣って変形して下顎H1の外側部との密着性が高められている(図1参照)。また、パッド31の密着面35は、粘着性を有しており、下顎H1の外側部に対するズレが抑えられている。また、パッド31の密着面35は下顎角H3に沿うように湾曲しており、パッド31の湾曲が下顎角H3に引っ掛かることで、パッド31を介して下顎H1の外側部と下顎保持部3との一体感が高められている。このように、下顎H1の外側部がパッド31を介して下顎保持部3に保持されるため、下顎保持部3に対する下顎のズレを防止できる。
このように構成された気道拡張装置1では、第1の作動機構4が駆動されることで、左右一対の下顎保持部3に下顎H1が挟み込まれ、この状態のまま第2の作動機構5が駆動されることで左右一対の下顎保持部3が斜め上方向に持ち上げられた状態で維持される。このため、仰臥位で下顎H1も斜め上方向に突き出され、これに伴って気道R1の前壁T2も上方向に持ち上げられた状態で維持される。よって、舌根T1が落ち込んでも、なお気道R1が確保され、睡眠時無呼吸症候群を予防することができる。また、枕部2の湾曲板26がU字状に形成されているため、睡眠時に寝返りが阻害されることがなく、スイッチ機構6により側臥位で下顎保持部3による保持を解除することができる。
続いて、図7から図9を参照して、気道拡張装置1の動作について詳細に説明する。図7は、本実施の形態に係る気道拡張装置の下顎保持動作を示す動作説明図である。図8は、本実施の形態に係る気道拡張装置の下顎持ち上げ動作を示す動作説明図である。図9は、本実施の形態に係る気道拡張装置のスイッチ機構の切替動作を示す動作説明図である。なお、図8においては、説明の便宜上、枕部と第2の作動機構についてのみ記載し、その他の部分については省略している。
先ず、図7Aに示すように、使用者は下顎H1の両外側部にパッド31を装着してクッション部22に頭蓋部を載せる。これにより、クッション部22に対して頭蓋部が適度に沈み込み、下顎H1の両側方に一対の下顎保持部3が位置付けられる。この場合、事前に使用者の顔の大きさや形状に合わせて、左右の連結ロッド44の一対のストッパ46の間隔やガイドレール33の延在方向の傾きが調整されている。この状態で、メインスイッチ82が入れられると、エアポンプ8から一対のピストンシリンダ41に圧縮エアが供給され、第1の作動機構4の作動が開始される(図1参照)。
次に、図7Bに示すように、各ピストンシリンダ41に圧縮エアが供給されると、各ピストンシリンダ41のピストンロッド43が外側に押し出される。そして、ピストンロッド43の先端に連結された連結ロッド44が支持部45を揺動支点として内側に揺動され、連結ロッド44に固定されたガイドレール33が内向きに倒される。これにより、下顎保持部3が下顎H1に対して接近方向に移動されて、下顎保持部3がパッド31を介して使用者の下顎H1の外側部に当接される。左右一対の下顎保持部3が使用者の下顎H1の外側部に対して左右から当接することで、一対のパッド31を介して下顎H1の外側部が下顎保持部3と一体化するように保持される。このとき、下顎保持部3は、第1の作動機構4よって適度に押さえつけられており、下顎H1の外側部は、下顎保持部3によって圧迫された状態となっている。
上記したように、パッド31は、下顎H1の外側部に沿う形状であり、さらに下顎角H3に沿うように湾曲した密着面35(図4参照)を有している。このため、下顎H1の外側部がパッド31を介して一対の下顎保持部3に挟み込まれることで、一対の下顎保持部3と下顎H1の外側部との一体感が向上されている。また、パッド31の密着面35は粘着性を有しているため、パッド31の密着面35に対する下顎H1の外側部のズレが防止され、下顎H1の外側部からパッド31が外れ難くなっている。
次に、図8Aに示すように、タイマ81(図1参照)の設定時間が経過すると、ピストンシリンダ51にも圧縮エアが供給され、第2の作動機構5の作動が開始される。この初期状態では、ピストンシリンダ51がピストンロッド52を引き込んだ状態となっており、左右一対の下顎保持部3は下顎H1の外側部を保持した状態でガイドレール33の下端に位置付けられている。
次に、図8Bに示すように、各ピストンシリンダ51に圧縮エアが供給されると、各ピストンシリンダ51のピストンロッド52が頭頂部H2から下顎H1に向かう方向に押し出される。そして、ピストンロッド52に取り付けられたフレキシブルチューブ53がフレキシブルガイドチューブ54にガイドされながら押し出されて、フレキシブルチューブ53に固定された下顎保持部3がガイドレール33に沿って上動される。ガイドレール33は、下顎角H3から顎に向かって高くなるように傾斜しており、このガイドレール33に沿って一対の下顎保持部3が下顎H1の外側部と一体として押し上げられる。すなわち、第1の作動機構4により下顎保持部3が適度に押さえつけられるため、下顎H1の外側部の皮膚だけが下顎骨に対してずれて移動するのではなく、下顎H1全体が持ち上げられて移動する。これにより、下顎H1が斜め上方向に持ち上げられた状態で維持され、これに伴って気道の前壁も上方向に持ち上げられた状態で維持される。よって、舌根が落ち込んでも、なお気道が確保され、睡眠時無呼吸症候群の出現が防がれる。このように、気道拡張装置1は、頭蓋部をヘッドティルト法のように頸椎に対して頭部全体を後方に回転させることなく、下顎を斜め上方向に持ち上げる構成になっている。
次に、図9Aに示すように、使用者が仰臥位で眠りに入っている場合には、一対のスイッチ61の間、すなわち所定の角度範囲内に振り子部62が位置付けられている。この状態では、ピストンシリンダ41、51に対して圧縮エアが供給され続けており、一対の下顎保持部3によって下顎を斜め上方向に持ち上げた第1、第2の作動機構4、5の作動状態が維持される。
次に、図9Bに示すように、使用者が仰臥位から側臥位に体位変換すると、枕部2のU字状の湾曲板26が床面に対して揺動する。そして、振り子部62が枕部2に対して相対的に所定の角度範囲外まで揺動して左右一対のスイッチ61のうちのいずれかに接触する。振り子部62にスイッチ61が接触すると、ピストンシリンダ41、51に対する圧縮エアの供給が制御され、ピストンシリンダ41のピストンロッド43が引き戻されると共に、ピストンシリンダ51のピストンロッド52(図8参照)が引き戻される。これにより、下顎保持部3が初期位置に戻され、第1、第2の作動機構4、5の作動が解除された、すなわち下顎保持部を斜め上方向に持ち上げない解除状態に切り替わる。
さらに、使用者が側臥位から仰臥位に体位変換すると、第1、第2の作動機構4、5が再び作動されて、上記した順序で下顎が持ち上げられる。このように、側臥位では下顎保持部3による下顎H1の持ち上げが解除され、睡眠時無呼吸が起こる仰臥位でのみ下顎H1を持ち上げることが可能になっている。また、仰臥位と側臥位の体位変換に合わせて所定の角度範囲を調整することで、睡眠時無呼吸が起こる仰臥位あるいは仰臥位に近い姿勢でのみ下顎を持ち上げることができる。
以上のように、本実施の形態に係る気道拡張装置1によれば、使用者が枕部2に頭蓋部を載せると、左右一対の下顎保持部3に下顎H1が一体化するように保持され、下顎H1が持ち上げられた状態で維持される。よって、睡眠時無呼吸症候群を予防することができると共に、睡眠に入る前に予め頭蓋部に気道拡張装置1の一端を密着させ、確実に固定するという煩わしい作業が発生することがない。また、下顎部だけが保持され、頭蓋部が締め付けられない構成になるため、圧迫感がなく快適な睡眠を得ることができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
例えば、図10及び図11に示すような変形例にすることも可能である。図10を参照して第1の変形例について簡単に説明する。第1の変形例は、第2の作動機構の駆動源としてエアポンプでなく、錘部の重さを利用した点について本実施の形態と相違する。図10は、第1の変形例に係る気道拡張装置の動作説明図である。
図10に示すように、第1の変形例に係る気道拡張装置90では、枕部91に斜め上方に延びるガイドレール92が設置されており、ガイドレール92にはスライダ93がスライド可能に取り付けられている。スライダ93には、圧縮エアによって膨らむ袋体94が取り付けらており、袋体94が膨らむことでパッド31(図4参照)を介して下顎H1が保持される。すなわち、第1の変形例では、袋体94が下顎保持部として機能する。枕部91の本体部95には、アーム96の基端側が揺動可能に支持されている。アーム96の先端側には滑車97が固定されている。この滑車97には金属線98が掛けられており、金属線98の一端にはスライダ93が固定され、金属線98の他端には錘部99が固定されている。
図10Aに示すように、第1の変形例に係る気道拡張装置90を利用する場合には、使用者は、アーム96を旋回させて錘部99を頭頂部側に位置付ける。これにより、クッション部101に頭蓋部を載せる際に、錘部99が邪魔にならないようにしている。続いて、使用者は下顎H1の両側にパッド31を装着してクッション部101に頭蓋部を載せると、クッション部101に対して頭蓋部が適度に沈み込み、下顎H1の両側方に一対の袋体94が位置付けられる。この状態で、メインスイッチ103が入れられると、エアポンプ102から一対のピストンシリンダ41に圧縮エアが供給され、袋体94が膨らんで袋体94がパッド31を介して使用者の下顎H1に当接される。
左右一対の袋体94が使用者の下顎H1の外側部に対して左右から当接することで、一対のパッド31を介して下顎H1が下顎保持部3と一体的に動くように保持される。すなわち、第1の変形例では、袋体94に圧縮エアを供給するエアポンプ102が第1の作動機構として機能する。この場合、錘部99の重力によってガイドレール92に対して略垂直な方向にスライダ93が引っ張られるため、スライダ93に固定された袋体94が上方に移動することがない。
次に、図10Bに示すように、使用者はアーム96を旋回させて錘部99を腹部の上方に位置付ける。これにより、滑車97によって錘部99の重力がスライダ93を持ち上げる方向に変換され、錘部99の重力によって金属線98に固定されたスライダ93がガイドレール92に沿って上動される。これにより、一対の袋体94が下顎H1の外側部を保持したまま引き上げられ、下顎H1が持ち上げられた状態で維持される。このように、錘部99の重力を滑車97及び金属線98からなる動力変換機構で変換させることで、エアポンプ等の駆動源を用いることなく、安価な構成で下顎H1を持ち上げた状態を維持できる。
図11を参照して第2の変形例について簡単に説明する。第2の変形例は、作動機構の駆動源としてエアポンプでなく、頭蓋部の重さを利用した点について本実施の形態と相違する。図11は、第2の変形例に係る気道拡張装置の動作説明図である。
図11に示すように、第2の変形例に係る気道拡張装置110では、伸縮可能な樹脂バンド111の両端に左右一対の下顎保持部112が取り付けられており、樹脂バンド111を頭蓋部に装着することで下顎H1の外側部が左右一対の下顎保持部112に挟み込まれる。枕部113には、下顎保持部112に対応して下顎H1から頭頂部H2に向かって高くなるような斜面114が形成された左右一対の側板115が設けられている。各側板115は、付勢部材116を介して壁117に接続されている。また、各下顎保持部112からは後頭部側に向かってアーム118が延び、アーム118の先端にはローラ状の当接部119が回転可能に取り付けられている。
図11Aに示すように、第2の変形例に係る気道拡張装置110を利用する場合には、使用者は樹脂バンド111を頭蓋部に装着して、樹脂バンド111の弾性力によって左右一対の下顎保持部112で下顎H1の外側部を挟み込むようにする。これにより、下顎H1の外側部が下顎保持部112に一体化するように保持される。続いて、使用者はクッション部121に頭蓋部を載せると、当接部119が左右一対の側板115の斜面114に当接する。
図11Bに示すように、クッション部121に対して頭蓋部が沈み込むと、左右一対の側板115の斜面114に沿って当接部119が下方に移動する。この当接部119の移動に伴って、斜面114に対して直角な方向に下顎保持部112が突き出され、下顎保持部112に下顎H1が持ち上げられた状態で維持される。このように、頭蓋部の重みを利用して下顎保持部112を持ち上げることができ、エアポンプ等の駆動源を用いることなく、安価な構成で下顎H1を持ち上げた状態を維持できる。
さらに例えば、図12から図14に示すような変形例にすることも可能である。図12から図14を参照して、第3の変形例について説明する。図12は、第3の変形例に係る下顎保持部及び第1の作動機構を示す図である。図13は、第3の変形例に係る第2の作動機構を示す図である。図14は、第3の変形例に係る気道拡張装置の動作説明図である。なお、図13、図14においては、説明の便宜上、第2の作動機構の一部又はクッション部についてのみ記載し、その他の部分については省略している。
上記実施の形態においては、下顎に密着するパッドを介して下顎を保持する下顎保持部及び第1の作動機構が気道拡張装置に脱着不能に組み込まれていた。これに対し、第3の変形例では、下顎保持部及び第1の作動機構が第2の作動機構から脱着可能な構成となっている。
図12に示すように、弾性を有するU字型の樹脂バンド133の両端に左右一対の下顎保持部132が取り付けられている。下顎保持部132の下顎H1に貼り付けられる面にはパッド131が接着され、その反対側の面にはマジックテープ(登録商標)134が接着されている。U字型の樹脂バンド133は、その弾性力によって左右一対の下顎保持部132を下顎H1に押し付けるので、樹脂バンド133は第1の作動機構として作動することになる。
また、図13に示すように、第2の作動機構136を構成するフレキシブルチューブ135の先端には、第2の作動機構136の作動子137が設けられており、その片面にはマジックテープ(登録商標)138が接着されている。マジックテープ138は、下顎保持部132に貼り付けられたマジックテープ134と脱着可能となっており、マジックテープ138からマジックテープ134を外すことで、第1の作動機構は第2の作動機構136から取り外し可能となっている。
図14Aに示すように、第3の変形例に係る気道拡張装置130を利用する場合には、使用者は就寝前に、U字型の樹脂バンド133を顎に嵌め込むように装着し、その後、樹脂バンド133の両端に取り付けられている左右一対の下顎保持部132に装着されているパッド131を介して下顎H1の外側部を押さえつける。これにより、下顎H1の外側部がパッド131を介して下顎保持部132に一体化するように保持される。
続いて、図14Bに示すように、使用者はクッション部139に頭蓋部を載せ、クッション部139に対して頭蓋部が沈み込むと、使用者は手動で第2の作動機構136の作動子137に接着されたマジックテープ138と下顎保持部132に貼り付けられたマジックテープ134とを接続する。これにより、仰臥位で寝ている場合には、下顎H1が斜め上方に持ち上げられた状態で維持され、これに伴って気道の前壁も上方向に持ち上げられた状態で維持される。よって、舌根が落ち込んでも、気道が確保されて睡眠時無呼吸症候群が防がれる。
このように、就寝前に予め下顎H1の外側部に下顎保持部132と樹脂バンド133を装着し、就寝とともに樹脂バンド133と第2の作動機構136が下顎保持部132を介して接続されることで、第2の作動機構136が下顎保持部132を持ち上げるように作動する。以上により、気道拡張装置130をより単純な構成とすることが可能となる。なお、第3の変形例において、樹脂バンド133で第1の作動機構を構成したが、第1の作動機構は下顎保持部132を下顎H1の外側部に当接させるように機械的に作動する構成でもよい。
また、上記実施の形態においては、第1の作動機構4は、エアシリンダにより作動される構成としたが、この構成に限定されない。第1の作動機構4は、下顎保持部3を下顎H1の外側部に当接させるように作動すればよく、例えば、電動のアクチュエータにより作動される構成としてもよい。
また、上記実施の形態においては、第2の作動機構5、136は、エアシリンダにより作動される構成としたが、この構成に限定されない。第2の作動機構5、136は、下顎保持部3、132を枕部2またはクッション部139に対して持ち上げるように作動すればよく、例えば、電動のアクチュエータにより作動される構成としてもよい。
また、上記実施の形態においては、左右一対の下顎保持部3とパッド31とが別体に構成されたが、この構成に限定されない。左右一対の下顎保持部3とパッド31が一体に形成されていてもよい。
また、上記実施の形態においては、一対のスイッチ61と振り子部62とによりスイッチ機構6が構成されたが、この構成に限定されない。スイッチ機構6は、枕部2(本体部21)の揺動角度に応じて第1、第2の作動機構4、5の作動状態及び解除状態を切り替える構成であればよい。例えば、スイッチ機構6として角度センサを用いてもよい。また、スイッチ機構6は、少なくとも第2の作動機構5の作動状態と解除状態とを切り替え可能な構成であればよい。
(評価実験)
10名の対象者(すべて男性)に、図1に示す、本実施の形態に係る気道拡張装置1を装着し、装着前と装着後にゴムを噛ませ、ゴムに残った歯跡を基に、装着前と装着後のそれぞれの場合における上前歯と下前歯との距離を測定した。そして、装着前における上前歯と下前歯との距離と、装着後における上前歯と下前歯との距離から下顎の水平移動距離を算出した。すなわち、装着前の上前歯と下前歯との距離をL1、装着後の上前歯と下前歯との距離をL2とすると、L1マイナスL2が装着による下顎の移動距離となる。これによると、10名の対象者における平均水平移動距離は3.7mmであった。表1に実験の結果を示す。
以下の参考文献によると、下顎の水平移動距離が3.5mm以上であれば、睡眠時無呼吸症候群が防がれるので、本発明の装置は睡眠時無呼吸症候群の防止に有効である(参考文献(江崎 和久:睡眠時無呼吸症候群に対する分離型調節式スプリント療法の効果発現機序の解明.Research Project Number:08771923. Principal Investigator. FY1996. Researcher Number:80203628.科学研究費助成事業データベース国立情報学研究所))。
また、上記した実施の形態においては、装置の構成が複雑であり、大型であるため、旅行時等に持ち運ぶことが容易ではなかった。そこで、本願出願人は、内部に空気のような流動体を充填可能な袋状体と、下顎骨を保持する下顎保持ユニットとを備えた構成とし、袋状体に頭蓋部を載せたときに、頭蓋部の自重で袋状体内部の流動体が流動することにより袋状体が変形することを利用して下顎を持ち上げる方法を見出した。これにより、気道拡張装置の構成が簡略化され、持ち運ぶことが可能になった。以下、図15から図20を参照して、第4の変形例について説明する。
先ず、図15及び図16を参照して、第4の変形例に係る気道拡張装置の概略構成について説明する。図15は、第4の変形例に係る気道拡張装置を示す図である。図16は、第4の変形例に係る気道拡張装置を取り付けて仰向けに寝たときに斜め上方から見た上面図を示している。
図15に示すように、第4の変形例に係る気道拡張装置200は、下顎骨を保持する下顎保持ユニット201と、下顎保持ユニット201に連結され、内部に空気等の流動体が充填され得る袋状体202と、を備えている。この気道拡張装置200においては、袋状体202に頭蓋部の載せると、頭蓋部の自重で袋状体202が押し潰されて、袋状体202内部の流動体が流動することにより袋状体202が変形する。この袋状体202の変形により、袋状体202に連結された下顎保持ユニット201が可動する。下顎保持ユニット201が可動することにより、下顎保持ユニット201に保持された下顎が頭蓋部に対して相対的に持ち上げられ、気道を拡張することが可能になる。
下顎保持ユニット201は、頭蓋部に対して下顎を相対的に移動させることができるように、下顎を強固に固定する役割を果たす。下顎保持ユニット201は、顎関節において頭蓋部に連結する下顎を保持する一対の下顎保持部210と、一対の下顎保持部210を連結すると共に下顎保持部が下顎に当接した状態を維持する連結部211と、を備えている。図15に示す構成においては、矩形状に形成された左右一対の下顎保持部210をU字状のバンド部211(連結部)で連結して構成される。各下顎保持部210の一方の面(顔側)には、下顎に当接するパッド部212が設けられ、他方の面(外側)には、袋状体202に連結されるマジックテープ213(登録商標)が設けられている。左右一対の下顎保持部210は、パッド部212が設けられる一方の面を対向させてバンド部211に連結される。
バンド部211は弾性を有している。このため、下顎保持ユニット201を下顎に取り付けると、パッド部212が下顎(より具体的には下顎骨の縁部分)に当接し、下顎が左右一対の下顎保持部210に挟み込まれて保持される。このとき、バンド部211には、パッド部212が対向する方向で互いのパッド部212が接近する向きに付勢力が働いている。このように、バンド部211は、下顎保持部210(パッド部212)が下顎に当接した状態を維持する役割を果たす。また、パッド部212の表面は粘着性を有しているため、パッド部212が下顎に密着した状態を維持することができる。よって、下顎保持部210が下顎に対してずれることがない。
袋状体202は、就寝時に頭蓋部を支える枕としての機能を有すると共に、下顎保持ユニット201に連結され、下顎保持部210を上方に持ち上げるように作動させる作動部としての機能も有する。袋状体202は、ビニールや布等の柔らかい材質で形成され、袋状体202には、袋状体202に対して空気等の流動体(ここでは流動体が空気である場合について説明する)を自由に出し入れすることができるように、図示しない空気導入口が設けられている。袋状体202を使用しない場合には、袋状体202内から空気を抜くことで袋状体202をコンパクト折りたたむことができる。これにより、旅行等で携帯する際の利便性が向上されている。
袋状体202を使用する場合、袋状体202の内部には、袋状体202に弛みを持たせるように、袋状体202が完全に膨らまない程度に空気が充填される。すなわち、袋状体202が完全に膨らまない程度とは、袋状体202の容積(容量)に対して内部に充填される空気の体積が小さい状態であることを意味する。袋状体202の容積(容量)に対する空気の体積の割合については、袋状体202に頭蓋部の載せた際に、頭蓋部の自重で袋状体202内部の空気が移動して袋状体202が変形し、この変形により下顎保持ユニット201が可動して下顎が頭蓋部に対して相対的に持ち上げられ、気道を拡張することができる本発明の効果を奏する程度であれば特に制限されない。
空気が充填された袋状体202は、使用者の首回りを覆うように略U字形状を有しており、左右に延びて頭蓋部を支持する頭蓋支持部220と、頭蓋支持部220の両端から延び一対の下顎保持部210にそれぞれ連結する一対の突出部221とで構成される。頭蓋支持部220及び一対の突出部221は、それぞれ内部に空気を充填し得るように構成されており、頭蓋支持部220の内部と一対の突出部221の内部とは互いに連通しており、空気が流動可能になっている。袋状体202は、頭蓋支持部220と一対の突出部221とによって使用者の首(頸椎)周りを覆うように取り付けられる。ここで、袋状体202における下顎保持ユニット201の下顎保持部210に取り付けられる領域(突出部221に対応する領域)の容積が、袋状体202における頭蓋部を支える領域(頭蓋支持部220に対応する領域)の容積よりも小さいことが望ましい。これにより、袋状体202に頭蓋部を載せた際に、頭蓋部の自重で袋状体202内部の空気が移動して袋状体202が変形し、この変形により下顎保持ユニット201が可動して下顎が頭蓋部に対して相対的に持ち上げる動作を効果的に実現することができる。
頭蓋支持部220の左右方向の長さは、使用者の頭蓋部を支え、寝返りを許容する程度の長さである。頭蓋支持部220の前後方向(頭蓋支持部220が延びる左右方向に対して直交する方向)の厚みは、一対の突出部221の左右方向(突出部221が突出する方向に対して直交する方向)の厚みに対して大きく形成されている。また、頭蓋支持部220の高さ方向の厚みは、頭蓋部の自重で押し潰されても、クッション性を残す程度の大きさを有している。このように、頭蓋支持部220は、頭蓋部が載せられた際に押し潰されても、クッション性を残して頭蓋部を安定的に支えることができるように十分な容積を有している。
一方、突出部221は、使用者の下顎に沿うように突出しており、下顎骨の縁に当接する程度の長さを有している。また、各突出部221は、頭蓋支持部220に対して容積が小さくなるように形成される。詳細は後述するが、突出部221は、頭蓋支持部220から流動する空気によって膨らんだ結果、緊張状態になり上方に持ち上がる程度の容積を有している。上述したように、袋状体202の内部には、袋状体202の容積(容量)に対して内部に充填される空気の体積が小さい状態で空気が充填されているため、袋状体202の任意の箇所を押し潰すと、袋状体202内の空気を袋状体202内で自由に流動させることができる。
例えば、頭蓋支持部220に頭蓋部を載せると、頭蓋支持部220は頭蓋部の自重によって押し潰され、頭蓋支持部220内の空気は、両端の突出部221に向かって流動する。この結果、弛んだ状態の各突出部221は、頭蓋支持部220から流れ込む空気によって膨張する。一方、突出部221が押し潰されると、突出部221内の空気は、頭蓋支持部220に向かって流動する。このように、袋状体202内の空気は、頭蓋支持部220と各突出部221との間で流動可能になっている。
一対の突出部221の先端側には、対向するそれぞれの内側面222に、矩形状のマジックテープ223が設けられている。マジックテープ223には、下顎保持ユニット201のマジックテープ213が取り付けられる。これにより、袋状体202は、下顎保持ユニット201に対して分離(着脱)可能になっている。よって、就寝前に予め下顎に下顎保持ユニット201を装着し、袋状体202を首に巻付けるように取り付けた後、マジックテープ213、223を介して、下顎保持ユニット201と袋状体202とを連結することができる。このように、下顎保持ユニット201と袋状体202とを別々に取り付けることができるため、下顎に対する下顎保持部210の位置決めや、頭蓋部に対する袋状体の位置決めを別々にすることができる。よって、気道拡張装置200の煩わしい取付作業を簡単にすることができる。
以上のように、第4の変形例に係る気道拡張装置200は、下顎保持ユニット201及び袋状体202のみで構成されるため、構成を簡略化することができる。また、気道拡張装置200を使用する場合、図16に示すように、就寝前に予め、下顎保持ユニット201を下顎H1に取り付けておく。そして、空気の入った袋状体202を頸椎の周囲に取り付けて、マジックテープ213、223(図15参照)を介して下顎保持ユニット201と袋状体202とを連結する。
仰向けになって頭蓋部を頭蓋支持部220に載せると、頭蓋支持部220内の空気が左右の突出部221に流動する。このとき、突出部221内の容積が拡大されると共に突出部221の先端が上方に持ち上げられ、マジックテープ213、223を介して連結された下顎保持部210も上方に持ち上げられる。下顎H1は下顎保持部210によって強固に保持されているため、下顎保持部210の移動に応じて、下顎H1は頭蓋部に対して相対的に持ち上げられる。
下顎H1が持ち上げられた結果、図5及び図6に示すように、下顎骨B1に付着する気道R1の前面側組織(気道R1の前壁T2)は、頭蓋骨B2に固定されている脊椎骨B3に付着する気道R1の後面側組織に対して持ち上げられ、気道R1が拡張される。このため、舌根T1が自重によって下方に落ち込んでも、気道R1が塞がれることなく、気道R1を確保することができる。以上により、睡眠時無呼吸症候群を防止することができる。
次に、図17及び図18を参照して、気道の拡張動作について説明する。図17及び図18は、第4の変形例に係る気道拡張装置において、下顎が持ち上げられる前後の袋状体の形状変化を示している。図17は、図16の気道拡張装置を正面又は下肢方向から見た状態を示しており、図18は、図16の気道拡張装置を側方から見た状態を示している。
図17A及び図18Aに示すように、頭蓋部を頭蓋支持部220に載せる前、袋状体202内には、袋状体202が完全に膨らまない状態、すなわち、袋状体202の容積(容量)に対して内部に充填される空気の体積が小さい状態で空気が充填されている。使用者が仰向けになり、頭蓋部が頭蓋支持部220に載せられると、図17B及び図18Bに示すように、頭蓋支持部220は、頭蓋部や頸椎の形状に沿って押し潰される。頭蓋支持部220が押し潰されることにより、頭蓋支持部220内の空気は、左右の突出部221に流動する(図中矢印参照)。
また、袋状体202は、頭蓋部によって押し潰された頭蓋支持部220の所定箇所(より具体的には頭蓋支持部220の略中心)を支点に内向き(図中矢印参照)に屈曲しようとする(図17B参照)。このとき、頭蓋支持部220内の空気の一部は、頭蓋支持部220から両端の突出部221に向かって流動し、各突出部221は、膨張して緊張状態になると共に上方に持ち上げられる。
袋状体202が内向きに屈曲されることで、下顎H1は、一対の突出部221によって左右から挟み込まれる。これにより、下顎H1は、下顎保持ユニット201のバンド部211による挟持力に加え、一対の突出部221からも挟持力を受ける。このように、一対の突出部221は、下顎保持部210の保持力をアシストする役割も果たす。また、一対の突出部221が上方に持ち上げられることで、下顎保持部210に保持された下顎H1も同様に上方へ持ち上げられる(図18B参照)。この結果、上述したように、下顎骨に付着した気道の前面側組織が、気道の後面側組織に対して持ち上げられ、気道が拡張される。
なお、上述したように、袋状体202における下顎保持ユニット201の下顎保持部210に取り付けられる領域(突出部221に対応する領域)の容積が、袋状体202における頭蓋部を支える領域(頭蓋支持部220に対応する領域)の容積よりも小さい。この場合、作動体における頭蓋部を支える領域から、下顎保持部に取り付けられる領域に、十分な量の流動体が移動するので、突出部は、膨張して下顎保持部を上方に持ち上げることができる。よって、効果的な気道拡張を実現することができる。
例えば、頭蓋支持部220の前後方向の厚みに対して突出部221の左右方向の厚みが小さい。このため、突出部221は、頭蓋支持部220からの空気の流動量が少ない場合であっても、膨張して下顎保持部210を上方に持ち上げることができる。例えば、頭蓋部の小さい使用者であっても、頭蓋支持部220に頭蓋部を載せるだけで一対の突出部221が膨張し、下顎保持部210を上方に持ち上げることができる。
このように、空気を流動体として用いることで、使用者の頭蓋部の大きさや形状、使用場所に応じて袋状体202を変形させることができる。このため、使用者の頭蓋部の大きさや形状、使用場所に関係なく、下顎H1を持ち上げることができる。また、上述したように、頭蓋支持部220は、頭蓋部を載せることで押し潰されても、クッション性を残して頭蓋部を安定的に支えることができるように十分な容積を有している。このため、枕としての機能を維持することができ、寝心地が損なわれることがない。
次に、図19を参照して、使用者が睡眠中に体位変換したときの気道拡張装置の動作について説明する。図19は、第4の変形例に係る気道拡張装置において、使用者が姿勢を変えたときの動作説明図である。図19Aは使用者が仰臥位の状態を示し、図19Bは使用者が側臥位の状態を示している。
図19Aに示すように、使用者が仰臥位で眠りに入っている場合には、左右一対の突出部221が上方に持ち上げられ、使用者の気道が拡張された状態が維持されている。使用者が寝返りを打って側臥位になると、図19Bに示すように、一方の突出部221が地面側(下方)に位置付けられる。このとき、一方の突出部221は頭蓋部の重みによって押し潰され、突出部221内の空気は、頭蓋支持部220に向かって流動する(図中矢印参照)。
突出部221内の空気が頭蓋支持部220に流動した結果、頭蓋支持部220は僅かに膨張する一方、突出部221は収縮する。よって、一対の突出部221による下顎H1の挟持力が弱められると共に、下顎H1が上方に持ち上げられた状態が解除される。なお、袋状体202における下顎保持ユニット201の下顎保持部210に取り付けられる領域(突出部221に対応する領域)の容積が、袋状体202における頭蓋部を支える領域(頭蓋支持部220に対応する領域)の容積よりも小さいため、突出部221は、一方の突出部221から空気が流動しても、頭蓋支持部220や他方の突出部221の体積変化に影響を与えることがない。よって、睡眠時の姿勢に変化があっても、使用者の寝心地を損なうことがない。
再び使用者が仰臥位に体位変換すると、図19Aに示すように、一対の突出部221に空気が流動して突出部221が上方に持ち上げられた結果、下顎H1も上方に持ち上げられる。このように、使用者の体位変換に応じて、下顎H1が持ち上げられる状態と、下顎H1が持ち上げられない状態とを切換えることができる。
以上のように、第4の実施の形態に係る気道拡張装置200によれば、頭蓋部を頭蓋支持部220に載せることで、頭蓋支持部220内の空気(流動体)が一対の突出部221に向かって流動して突出部221が膨らむ。これにより、突出部221が上方に持ち上げられ、突出部221に接続された下顎保持部210も一緒に上方に持ち上げられる。下顎H1は、下顎保持部210によって保持されているため、下顎H1は、突出部221の膨らみに応じて上方に持ち上げられる。このとき、頭蓋部に対して下顎H1が相対移動され、気道が拡張される。このように、空気の流動を利用して、袋状体202に連結された下顎保持ユニット201を可動し、下顎保持ユニット201に保持された下顎H1を持ち上げることができるため、複雑な構成を必要とすることなく安価な構成で気道拡張装置200を実現することができる。
また、上記した第4の変形例において、下顎保持ユニット201と袋状体202とが着脱可能な構成としたが、この構成に限定されない。下顎保持ユニット201と袋状体202とが一体化された構成としてもよい。
また、上記した第4の変形例において、流動体として空気を用いる構成としたが、この構成に限定されない。流動体は、空気以外の気体でもよく、水やゲル状の液体、粉状体等、流動可能なものであれば、何を用いてもよい。なお、流動体として水を用いた場合、袋状体202を水枕として使用することができる。この場合、袋状体202が使用者の首回りに当接し、首回りを冷却することができる。
また、上記した第4の変形例においては、袋状体202を単体で睡眠時の枕として使用してもよいし、別に枕を用意してその枕の上に袋状体202を載せて使用してもよい。
また、上記した第4の変形例においては、下顎保持ユニット201を下顎に取り付ける構成としたが、この構成に限定されない。一対の突出部221に粘着性のパッド部を取り付け、袋状体202内の空気の流動だけで下顎を保持すると共に持ち上げる構成としてもよい。この場合、一対の突出部221が下顎保持部として機能する。
また、上記した第4の変形例において、バンド部211で一対の下顎保持部210を連結する構成としたが、この構成に限定されない。下顎保持部210を下顎に当接した状態を維持することができれば、一対の下顎保持部210はバンド部211で連結されなくてもよい。
また、上記した第4の変形例において、下顎保持ユニット201と袋状体202とをマジックテープ213、223で連結する構成としたが、この構成に限定されない。下顎保持ユニット201と袋状体202とが分離されれば、下顎保持ユニット201と袋状体202との接続構成はどのように構成されてもよく、例えば、ボタンやファスナーで下顎保持ユニット201と袋状体202とを連結してもよい。
また、上記した第4の変形例において、袋状体202は、U字状で一体的に形成される構成としたが、この構成に限定されない。図20に示すように、袋状体302を、頭蓋支持部330、340において分離可能な形状としてもよい。この場合、袋状体302は、第1の袋状体303と第2の袋状体304とをマジックテープ332、342とで連結して構成される。第1の袋状体303と第2の袋状体304とは、左右対称で概してL字形状に形成され、マジックテープ332、342の取付位置のみ異なっている。それぞれの袋状体303、304は、左右に延びる頭蓋支持部330、340の一端から下顎に向かって突出部331、341が突出している。
この場合においても、頭蓋支持部330及び突出部331、頭蓋支持部340及び突出部341は、それぞれ内部に空気を充填し得るように構成されており、頭蓋支持部330の内部と突出部331の内部とは互いに連通しており、頭蓋支持部340の内部と突出部341の内部とは互いに連通しており、それぞれ空気が流動可能になっている。ここで、第1の袋状体303と第2の袋状体304における下顎保持ユニットの下顎保持部に取り付けられる領域(突出部331、341に対応する領域)の容積が、第1の袋状体303と第2の袋状体304における頭蓋部を支える領域(頭蓋支持部330、340に対応する領域)の容積よりも小さいことが望ましい。これにより、第1の袋状体303と第2の袋状体304に頭蓋部の載せた際に、頭蓋部の自重で袋状体202内部の空気が流動して袋状体202が変形し、この変形により下顎保持ユニットが可動して下顎が頭蓋部に対して相対的に持ち上げる動作を効果的に実現することができる。
頭蓋支持部330の裏面側にはマジックテープ332が貼り付けられており、頭蓋支持部340の表面側にはマジックテープ342が貼り付けられている。頭蓋支持部340の上に頭蓋支持部330を重ね合わせることにより、第1の袋状体303と第2の袋状体304とが連結され、1つの袋状体302となる。例えば、この袋状体302と下顎保持ユニット201(図15参照)とが一体化された構成の場合、袋状体302を分離した状態で下顎保持ユニット201を下顎に取り付けた後、頭蓋支持部330、340を頸椎の後ろで連結することができる。よって、袋状体を分離することができない構成に比べて、気道拡張装置の取付作業を簡単にすることができる。
また、上記した第4の変形例において、第1の袋状体303と第2の袋状体304とをマジックテープ332、342で連結する構成としたが、この構成に限定されない。第1の袋状体303と第2の袋状体304とが分離されれば、第1の袋状体303と第2の袋状体304との接続構成はどのように構成されてもよく、例えば、ボタンやファスナーで第1の袋状体303と第2の袋状体304とを連結してもよい。
また、パッド(パッド部)は上記で示した構成に限定されず、以下のような構成にすることも可能である。以下、パッドの変形例について、図21を参照して説明する。図21は、パッドの変形例を示す図である。図21に示すパッドは、プラスチック粒子と接着物質との混合体が充填されている袋体である。先ず、図21Aは、全く未使用の状態のパッドを示す。当該パッド400を構成する袋体にはプラスチック粒子401と、空気と遮断するなどして硬化が阻止された状態の接着物質402との混合体が充填されている。図21B及び図21Cには、当該未使用のパッド400を手で持って使用者の下顎に押し当てた状態を示す。この状態では、袋体でプラスチック粒子401が移動し、パッド400は下顎H1に密着する形状に変形する。その後、パッド400を下顎H1から離しても、プラスチック粒子401が充満している袋体内では、外から力が加わらない限り、プラスチック粒子401が再び移動することはなく、パッド400は下顎H1に押し当てられた際の形状を保っている。この状態でパッド400を放置しておくと、時間の経過と伴に接着物質402が硬化し、以て、パッド400は下顎H1に密着できる形状のまま固定する。このような構成によっても、パッド400が下顎H1に密着した状態で安定的に下顎H1を下顎保持部で保持することができるため、下顎H1の持ち上げ動作を効果的に実現することができる。