以下、図面を参照して、電子血圧計について詳細に説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
図1は、電子血圧計1の外観を示す模式図である。電子血圧計1は、本体部10およびカフ60を有する。
電子血圧計1は、疲労度測定機能付きの血圧計である。現在の眠気と将来の眠気と現在の血圧値および疲労度との間には、後述する通り医学的な関連があるので、現在の血圧値と疲労度を両方測定することにより、被測定者の将来の疲れ易さと眠気の起こり易さを予測することが可能である。そこで、電子血圧計1は、現在の血圧値、脳疲労度および肉体疲労度の測定結果の組合せパターンから、被測定者の今日これからの眠気の起こり易さや疲れ易さといった今後の体調変動の起こり易さを判定し、健康注意に関する警告メッセージを被測定者に報知する。電子血圧計1によれば、例えば、病院に行くかどうかを決めたいときや、会社を休むかどうかを決めたいとき、重大な局面でミスをしないように疲労に関する自分の健康状態を予め知りたいときなどに、体調管理の基本となる血圧値と疲労度を1台で把握することが可能になる。
カフ60は、本体部10から送られる空気を溜める空気袋を内蔵する。この空気袋は、空気管61を介して本体部10に接続されている。空気管61は、本体部10からカフ60に空気を送り込むための管である。カフ60は、例えば、使用時に被測定者の上腕部に巻き付けられ、カフ60の表面に設けられた面ファスナにより上腕部に固定される。
図2(A)〜図2(C)は、それぞれ、電子血圧計1の左側面図、右側面図および使用形態を示す図である。図3は、電子血圧計1のブロック図である。
本体部10は、主電源スイッチ11、操作部12、表示部13、検知部14、記憶部15、制御部16および血圧測定部20を有する。図1〜図2(C)に示すように、本体部10は、正面から見ると矩形であり、人が両手でつかむのに適した大きさおよび厚さを有する。主電源スイッチ11は、一例として、正面から見て上側の本体部10の側面に設けられている。電子血圧計1は電池によって動作するが、電源は電池に限らず、交流電源であってもよい。
操作部12は、測定ボタン12A、設定ボタン12Bおよび選択ボタン12Cで構成され、図示した例では、本体部10の正面下側に設けられている。測定ボタン12Aは、血圧値および疲労度の測定の開始/停止を指示するためのボタンである。設定ボタン12Bは、電子血圧計1の動作に必要な情報を入力するためのボタンであり、例えば、後述する初期設定モードに移行するために使用される。選択ボタン12Cは、例えば初期設定モードにおいて、使用者が入力項目を選択するために使用するボタンであり、+ボタンと−ボタンで構成される。
表示部13は、出力部の一例であり、例えば液晶表示パネル(LCD)で構成される。表示部13は、測定中の血圧値や、最高血圧値、最低血圧値、脳疲労度および肉体疲労度の測定結果、測定の進行状況を示すプログレスバー、使用者に操作を促すための各種メッセージなどを表示する。
検知部14は、循環器に関する被測定者の生体信号を検知する第2の検知部であり、生体信号として心電波を検知するための1組の電極14L,14Rを有する。図2(A)および図2(B)に示すように、電極14Lは本体部10の左側側面に設けられ、電極14Rは本体部10の右側側面に設けられている。被測定者は、疲労度の測定時に、図2(C)に示すように、本体部10を両手でつかむ。検知部14は、被測定者の左手70Lと右手70Rが電極14L,14Rにそれぞれ触れている間に、被測定者の心電波を連続して検知する。
また、検知部14は、電極14L,14Rから入力された生体信号から被測定者の心電波を検知する心電波検知回路14Aを有する。なお、心電波検知回路14Aの前段または後段にはA/D変換器が配置され、心電波検知回路14Aからの出力信号は、デジタル信号として制御部16に入力される。
図4(A)および図4(B)は、検知部14により検知された心電波形40の説明図である。図4(A)の心電波形40における符号Rで示したピークは、血液が左心室から大動脈に送り出されるときに生じるR波に相当する。1つのR波のピーク(R点)から次のR波のピーク(R点)までの時間間隔のことを、「RR間隔(RRI)」という。図4(B)は、連続する2つのR点Rn,Rn+1と、それらのRR間隔dnとを示す。電子血圧計1では、心拍間隔としてRR間隔を使用し、その揺らぎ度と、RR間隔から算出される心拍数に基づき、被測定者の疲労度を測定する。
記憶部15は、例えばEEP−ROMなどの不揮発性メモリであり、電子血圧計1の動作に必要な情報を記憶する。詳細は後述するが、記憶部15は、心拍間隔の揺らぎ度と脳疲労度との第1の対応関係、臥位時に対する立位時の心拍数差と肉体疲労度との第2の対応関係、および血圧値と脳疲労度と肉体疲労度と疲労に関する体調変動の類型との間の第3の対応関係を記憶する。
制御部16は、CPU、RAM、ROMなどを含むマイクロコンピュータの制御回路として構成され、電子血圧計1の動作を制御する。詳細は後述するが、制御部16は、CPUにより実現される機能ブロックとして、血圧測定制御部17、疲労度測定部18および判定部19を有する。
血圧測定部20は、加圧ポンプ23、駆動回路24、圧力センサ25、圧力検知回路26、排気弁27および駆動回路28を有する。加圧ポンプ23、圧力センサ25および排気弁27は、空気管61を介してカフ60に接続されている。
加圧ポンプ23は、カフを加圧する加圧部の一例であり、カフ60に空気を送り込むことによって、カフ60の空気袋の内部を加圧する。駆動回路24は、血圧測定制御部17から与えられる制御信号に基づいて、加圧ポンプ23を駆動する。
圧力センサ25は、第1の検知部の一例であり、カフ60内の圧力(カフ圧)を検知して圧力検知信号を生成し、その圧力検知信号を圧力検知回路26に出力する。カフ60内の圧力とは、カフ60の空気袋内の圧力である。圧力検知回路26は、圧力センサ25から取得した圧力検知信号を周波数信号に変換し、血圧測定制御部17に出力する。カフ60内の圧力は、この周波数の変化から算出される。
排気弁27は、例えば、血圧測定中にカフ60内の空気を定速で徐々に排気するゴムスローリーク弁と、測定終了時または中止時にカフ60内の空気を強制排気する電磁弁とにより構成される。駆動回路28は、血圧測定制御部17から与えられる制御信号に基づいて、排気弁27を開閉させる。
血圧測定制御部17は、カフ60内の圧力の検知信号に基づき被測定者の血圧値を測定する第1の測定部の一例である。血圧測定制御部17は、測定ボタン12Aを介して血圧測定の開始が指示されたときに、まず、圧力センサ25により検知される圧力が所定の加圧上限圧力になるまでカフ60を加圧するように、駆動回路24を制御する。そして、血圧測定制御部17は、加圧ポンプ23によりカフ圧が加圧上限圧力になるまで加圧された後に、排気弁27の開閉を制御するための制御信号を駆動回路28に与えて、排気弁27によりカフ60を徐々に減圧させる。このとき、血圧測定制御部17は、圧力検知回路26が生成した周波数信号の周波数の変化から検知される各脈波の開始圧力値やその測定時間などのデータに基づき、例えばオシロメトリック方式を利用して被測定者の最高血圧値、最低血圧値を測定するとともに、脈拍を算出する。
次に、電子血圧計1による疲労度の測定原理を説明する。脳疲労分析(脳疲労度の測定)には、電子血圧計1は、カオスリアプノフ指数法を使用する。カオスリアプノフ指数法とは、RR間隔の時系列データをカオス力学系の軌道ととらえて、その軌道発散をリアプノフ指数で評価する方法である。
図5(A)および図5(B)は、RR間隔の揺らぎの例を示す図である。図5(A)は脳疲労がないとき(正常時)の例を示し、図5(B)は脳疲労があるとき(疲労時)の例を示す。これらの図は、心電波形から時系列データとして抽出された複数のRR間隔のそれぞれについて、着目するRR間隔の大きさをx座標とし、その1つ前のRR間隔の大きさをy座標としてプロットしたものであり、ローレンツプロットと呼ばれる。各図の横軸は現在のRR間隔dn、縦軸は1つ前のRR間隔dn−1であり、単位はともにミリ秒である。
図5(A)と図5(B)を比べればわかるように、脳疲労がない場合の図5(A)では、RR間隔は時間経過とともに不規則に変化し、複雑に揺らいでいる。一方、脳疲労がある場合の図5(B)では、各点はほぼ同じ領域内に集中しているため、RR間隔にはほとんど揺らぎがないか、RR間隔は規則性のある揺らぎで推移している。図5(A)と図5(B)のそれぞれの場合について、プロットされた点の集合を力学系の軌道ととらえると、図5(A)の力学系にはカオス性があるが、図5(B)の力学系にはカオス性がない。力学系の軌道発散を示す指標として最大リアプノフ指数があり、最大リアプノフ指数は、カオス力学系である場合には正になるが、カオス力学系でない場合には負になることが知られている。
さらに、最大リアプノフ指数λ
1は、Wolf法(Alan Wolf,“DETERMINING LYAPUNOV EXPONENTS FROM A TIME SERIES”,Physica 16D(1985),pp.285−317,North-Holland, Amsterdam)により、次式で簡易的に算出できることが知られている。
ここで、Mは時系列データの総サンプル時間、dは時系列データの時刻kと時刻k−1のパターン間の距離(ローレンツプロットにおける2次元平面上の距離)である。λ
1>0であることが観測されれば、周期性のないカオス状態であると言える。そこで、電子血圧計1は、RR間隔の時系列データからWolf法に従って最大リアプノフ指数λ
1を算出し、その符号および大きさを調べることによりRR間隔の揺らぎ度を定量化して、脳疲労度を判定する。
また、肉体疲労分析(肉体疲労度の測定)には、電子血圧計1は、臥位立位比較方式を使用する。臥位立位比較方式とは、被測定者が仰向けになったときに測定された臥位時心拍数と、被測定者が立ったときに測定された立位時心拍数との差に基づき、肉体疲労度を推定する方法である。
図6は、起立動作による心拍数の時間変化を示すグラフである。図6の横軸は経過時間tを示し、単位は秒である。また、縦軸は心拍数HRを示し、単位はbpm(拍/分)である。図6のグラフは、1人の被測定者について、肉体疲労度がそれぞれ異なる状態のときに心拍数の時間変化を測定して得られた複数の結果を重ねてプロットしたものである。符号41で示す曲線群は、正常時(肉体疲労がないとき)の心拍数であり、符号42で示す曲線群は、疲労時(肉体疲労があるとき)の心拍数である。被測定者は、t=−5のとき仰向けに寝た状態であり、t=0で起き上がり、t>0では起立の状態を継続した。
図6のグラフからわかるように、仰向けの状態(−5≦t<0)では、有熱時などの特別に体調が異なる場合以外には、肉体疲労度による大きな差は見られない。一方、起立直後(0<t<20)に心拍数は上昇し、起立後30秒以上(t≧30)経過すると、符号41で示す正常時の心拍数よりも、符号42で示す疲労時の心拍数の方が高くなり、肉体疲労度によって心拍数に差異が見られる。そこで、電子血圧計1は、例えば被測定者が仰向けになったときの心拍数を予め記憶部15に記憶しておき、被測定者が起立してから30秒以上経過した後で心拍数を測定して、それらの心拍数差に基づき肉体疲労度を判定する。なお、心拍40拍が30秒程度に相当するので、電子血圧計1は、例えばRR間隔を40拍分測定し、その最後のデータを用いることにより、起立から30秒以上経過した時点での心拍数を算出する。
電子血圧計1は、脳疲労度と肉体疲労度の両方を、RPE(Rate of Perceived Exertion:自覚運動強度)という同じ指標に換算して定量化する。RPEとは、元々は運動時の疲れ方を5〜20(文献によっては6〜20)段階で表現したものであり、Bolgという人が最初に考案したことから、ボルグスケールとも呼ばれる。主に自律神経系評価に基づく脳疲労と、スポーツ医学に基づく肉体疲労とは、評価尺度が異なりそのままでは比較しにくい。このため、電子血圧計1では、上記の方法で得られた脳疲労度と肉体疲労度の数値を、脳疲労度および肉体疲労度とRPE値との間の相関関数に従って、RPEに一元化する。
図7は、ボルグスケールと電子血圧計1の疲労度の判定区分との関係を示す図である。電子血圧計1は、疲労度の指標をRPEに一元化した上で、その大小に応じて、被測定者の疲労度を4区分で判定する。電子血圧計1は、例えば、RPEが7以下のときには、疲労なしであることを意味する「安静」と、8〜11のときには、活動中正常範囲であることを意味する「正常」と、12〜14のときには、やや疲労気味であることを意味する「軽疲労」と、15以上のときには、完全な疲労状態であることを意味する「疲労」と判定する。なお、この区分判定は一例であり、区分の個数は5個以上でも3個以下でもよく、RPEの値と区分との対応関係も適宜定めてよい。
図8は、RR間隔の揺らぎ度と脳疲労度との関係を示すグラフである。図9は、臥位時・立位時の心拍数差と肉体疲労度との関係を示すグラフである。図8の横軸は、図7に示すRPE値であり、縦軸は、RR間隔の時系列データに関する最大リアプノフ指数λ1の値である。図9の横軸は、図7に示すRPE値であり、縦軸は、立位時心拍数と臥位時心拍数との差ΔHR(bpm)である。各グラフは、5人の被験者について、各自が色々な疲労度のときに、上記の最大リアプノフ指数λ1と心拍数差ΔHRを測定して、得られたデータをプロットしたものである。心拍情報から最大リアプノフ指数と心拍数差を測定し、そのときのRPEを判定してプロットすると、図8および図9に示すように相関があることがわかる。そこで、電子血圧計1は、これらのグラフのデータを参照して、最大リアプノフ指数λ1と心拍数差ΔHRの測定値から、被測定者の脳疲労度の指標であるRPE値と、肉体疲労度の指標であるRPE値とを取得する。
以上の原理に基づき、記憶部15は、心拍間隔の揺らぎ度と脳疲労度との第1の対応関係として、図8に示したRR間隔の時系列データに関する最大リアプノフ指数λ1とRPE値との対応関係を示すデータを記憶する。また、記憶部15は、臥位時に対する立位時の心拍数差と肉体疲労度との第2の対応関係として、図9に示した臥位時に対する立位時の心拍数差とRPE値との対応関係を示すデータを記憶する。また、記憶部15は、1人または複数の被測定者について、各自の臥位時の心拍数を記憶する。
疲労度測定部18は、より詳細な機能ブロックとして、RR間隔抽出部31、揺らぎ度算出部32、脳疲労度取得部33、心拍数算出部34および肉体疲労度取得部35を有する。以下では、これらの機能ブロックについて説明する。
RR間隔抽出部31は、検知部14により検知された心電波(生体信号)からRR間隔の時系列データを作成する。その際、RR間隔抽出部31は、心電波形のうちで、振幅について予め定められた検出しきい値を超えた各領域について最大値をとる位置を求め、それらの各位置の時間間隔をRR間隔として抽出する。なお、RR間隔抽出部31が使用する心電波(R波)の検出しきい値(感度)は、初期設定モードにおいて使用者が操作部12を介して調整可能であるとよい。
揺らぎ度算出部32は、第2の測定部の一例であり、検知部14により検知された心電波形から被測定者の心拍間隔の揺らぎ度を算出する。その際、揺らぎ度算出部32は、揺らぎ度として、RR間隔抽出部31により抽出されたRR間隔(心拍間隔)の時系列データから、例えばWolf法に従って最大リアプノフ指数λ1を算出する。
脳疲労度取得部33は、第2の測定部の一例であり、揺らぎ度算出部32により算出された最大リアプノフ指数λ1(心拍間隔の揺らぎ度)に基づき、記憶部15に記憶されている図8の対応関係(第1の対応関係)を参照して、被測定者の脳疲労度を取得する。例えば、図7の疲労度区分および図8の対応関係から、脳疲労度取得部33は、λ1=1.3のときは脳疲労度(RPE)=5であり、その区分は「安静」であると判定する。また、脳疲労度取得部33は、λ1=−1.5のときは脳疲労度(RPE)=19であり、その区分は「疲労」であると判定する。脳疲労度取得部33は、λ1が−0.1より小さければ(図8の矢印を参照)、脳疲労度(RPE)が12以上であり、区分は「軽疲労」または「疲労」であると判定する。
心拍数算出部34は、第3の測定部の一例であり、検知部14により検知された心電波形から被測定者の心拍数の時系列データを算出し、さらに被測定者の臥位時と測定時との心拍数差を算出する。その際、心拍数算出部34は、例えば、起立直後に測定されRR間隔抽出部31により抽出された40拍分のRR間隔のデータを8ブロックに分け、最後または最後から2個のブロックのRR間隔から平均心拍数を求めて、それを被測定者の測定時の心拍数とする。心拍40拍が30秒程度に相当するので、算出されたこの心拍数は、起立から30秒以後の心拍数になる。そして、心拍数算出部34は、記憶部15に記憶されている被測定者の臥位時の心拍数と、上記の通り算出された被測定者の測定時の心拍数とを用いて、心拍数差ΔHRを算出する。
肉体疲労度取得部35は、第3の測定部の一例であり、心拍数算出部34により算出された心拍数差ΔHRに基づき、記憶部15に記憶されている図9の対応関係(第2の対応関係)を参照して、脳疲労度と共通の指標で表された被測定者の肉体疲労度を取得する。例えば、図7の疲労度区分および図9の対応関係から、肉体疲労度取得部35は、ΔHR=5のときは肉体疲労度(RPE)=10であり、その区分は「正常」であると判定する。また、肉体疲労度取得部35は、ΔHR=20のときは肉体疲労度(RPE)=14であり、その区分は「軽疲労」であると判定する。肉体疲労度取得部35は、ΔHRが12より大きければ(図9の矢印を参照)、肉体疲労度(RPE)が12以上であり、区分は「軽疲労」または「疲労」であると判定する。
なお、心拍数算出部34は、揺らぎ度算出部32が最大リアプノフ指数λ1の算出に用いたものと同じ心電波形から、心拍数差ΔHRを算出する。すなわち、電子血圧計1は、心電波形を1回測定するだけで、脳疲労度と肉体疲労度の両方を測定可能である。
図10は、血圧値、疲労度および眠気の間の関係を示す図である。眠気を引き起こす要因には、「疲労」、「血圧」および「睡眠」がある。
睡眠と疲労には密接な関係があり、自動車運転などをモデルにした、疲労と相関のある心拍解析により眠気を推定する研究論文が多数提示されている(例えば、「柳平雅俊、“運転状態推定技術の開発”、PIONEER R&D、2004年、Vol.14、No.3、p.75−82」、「西浦武史、“脳波と脈波のゆらぎ解析による覚醒度の簡易評価方法の開発”、2007年2月1日、日本人間工学会」などを参照)。人の身体は疲労状態になると疲労回復モードに入ろうとするため、疲労のために心拍数が高くなった状態から心拍数が低下した段階、または心拍間隔の揺らぎ度の最大リアプノフ指数が低い状態から増加した段階で眠気が生じる。肉体疲労度と平常時の心拍数、および脳疲労度と心拍間隔の揺らぎ度の最大リアプノフ指数にはそれぞれ相関があるため、現在の脳疲労度または肉体疲労度が高い状態であれば、時間が経過すると眠気が生じるリスクがある。
一方、眠気には低血圧または貧血に起因するものもあり、最高血圧値が100mmHgを下回る状態が続くと脳の血液循環が悪くなるため、眠気や疲労感が生じ易くなる。低血圧になる現象としては、体質的な本能性低血圧や、激しい運動直後による肉体疲労回復時に起きる運動後低血圧、食事の後、血液が消化器系に集まった結果、脳に行き渡らなくなる際に起きる食事後低血圧などがある(例えば、「愛知県薬剤師会ホームページ、“4.低血圧”、[online]、[平成28年3月10日検索]、インターネット<URL:https://www.apha.jp/medicine_room/entry-3518.html>」、「EPARK病院、“眠気(寝足りない)”、[online]、[平成28年3月10日検索]、インターネット<URL:http://fdoc.jp/docs/case/3.html>」、「三浦朗、“運動後低血圧に対する水分摂取の効果”、2009年6月5日、デサントスポーツ科学、Vol.30、p.96−98」などを参照)。
さらに、睡眠不足による眠気の要因としては、睡眠時無呼吸症がある。夜間の睡眠が十分に得られないと、日中の疲労が回復しきれずに蓄積してしまうため、脳疲労度と肉体疲労度の両方が上昇し、高血圧化している場合が多い(例えば、「福永興壱、“ビジネスパーソンにおける潜在的睡眠時無呼吸症候群に関する調査研究”、平成26年 大和証券 研究業績」、「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドラインJCS 2010 2012/11/28 更新版」などを参照)。
したがって、例えば朝に血圧値、脳疲労度および肉体疲労度を測定すれば、それらの測定値の組合せパターンから、測定後、日中に眠気が発生するリスクを判定することが可能である。
判定部19は、血圧測定部20により測定された被測定者の血圧値、脳疲労度取得部33により測定された脳疲労度、および肉体疲労度取得部35により測定された肉体疲労度に基づいて、被測定者の体調変動の起こり易さを判定する。その際、判定部19は、図11を用いて以下で説明する血圧値、脳疲労度および肉体疲労度の組合せパターンを参照して、体調変動として、例えば、血圧値、脳疲労度および肉体疲労度の測定後に被測定者に眠気が起こり易いか否かを判定する。
図11は、判定部19の判定に用いられる血圧値、脳疲労度および肉体疲労度の組合せパターンとそれに対応する警告メッセージの例を示す図である。記憶部15は、血圧値と脳疲労度と肉体疲労度と疲労に関する体調変動の類型との間の第3の対応関係として、図11の組合せパターンを記憶する。
(パターン1:疲労状態)
最高血圧値が101〜139mmHgであり、脳疲労度が「軽疲労」〜「疲労」であり、かつ肉体疲労度が「軽疲労」〜「疲労」の場合には、判定部19は、被測定者が疲労状態であると判定する。上記の通り、人の身体は、脳疲労または肉体疲労の状態になると、休養状態に入るため、その後、強い眠気に襲われる。そこで、判定部19は、被測定者が疲労状態であると判定したときには、その旨とこれから眠気に注意するように促す警告メッセージを表示部13に表示させる。
(パターン2:低血圧症)
最高血圧値が100mmHg以下であり、脳疲労度が「安静」〜「正常」であり、かつ肉体疲労度が「安静」〜「正常」の場合には、判定部19は、被測定者が低血圧症であると判定する。低血圧症は、血液循環が弱く、血流量そのものが少ない状態であり、身体が酸素不足となるため、その後、眠気、めまいおよび肉体疲労が起こり易くなる。そこで、判定部19は、被測定者が低血圧症であると判定したときには、その旨とこれから眠気および疲労に注意するように促す警告メッセージを表示部13に表示させる。
(パターン3:睡眠不足)
最高血圧値が140mmHg以上であり、脳疲労度が「軽疲労」〜「疲労」であり、かつ肉体疲労度が「軽疲労」〜「疲労」の場合には、判定部19は、被測定者が睡眠不足であると判定する。この場合は、通常の寝不足や睡眠時無呼吸症などのために十分な睡眠休養が得られない状態であり、血圧が上昇し、疲労が蓄積し易い。そこで、判定部19は、被測定者が睡眠不足であると判定したときには、その旨とこれから眠気に注意するように促す警告メッセージを表示部13に表示させる。
(パターン4:慢性疲労症候群)
最高血圧値が100mmHg以下であり、脳疲労度が「軽疲労」〜「疲労」であり、かつ肉体疲労度が「安静」〜「正常」の場合には、判定部19は、被測定者が慢性疲労症候群であると判定する。慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome:CFS)は、通常の疲労および慢性疲労とは異なる独立した病気である。慢性疲労症候群の患者には、交感神経系と副交感神経系に大抵異常が認められ、頻脈、血漿量の低下および赤血球量の減少などの症状が見られる。また、慢性疲労症候群の患者には、起立不耐性が認められ、失神し易い(ふらふらする)傾向がある。そこで、判定部19は、被測定者が慢性疲労症候群であると判定したときには、その旨とこれから失神に注意するように促す警告メッセージを表示部13に表示させる。
(パターン5:精神ストレス性高血圧)
最高血圧値が140mmHg以上であり、脳疲労度が「軽疲労」〜「疲労」であり、かつ肉体疲労度が「安静」〜「正常」の場合には、判定部19は、被測定者が精神ストレス性高血圧であると判定する。精神ストレス性高血圧は、精神ストレス(脳疲労)によって自律神経が乱れるために起こる高血圧であり、職場や病院など特定の場面で起こり易い(いわゆる職場高血圧、白衣高血圧)。そこで、判定部19は、被測定者が精神ストレス性高血圧であると判定したときには、その旨と緊張や不安に注意するように促す警告メッセージを表示部13に表示させる。
(パターン6:身体ストレス性高血圧)
最高血圧値が140mmHg以上であり、脳疲労度が「安静」〜「正常」であり、かつ肉体疲労度が「軽疲労」〜「疲労」の場合には、判定部19は、被測定者が身体ストレス性高血圧であると判定する。身体ストレス性高血圧は、オーバートレーニングなど身体的負荷のかけ過ぎに起因し、肉体疲労の状態を修復するために血圧が上昇することによって起こる。そこで、判定部19は、被測定者が身体ストレス性高血圧であると判定したときには、その旨と運動のやり過ぎに注意するように促す警告メッセージを表示部13に表示させる。
図12(A)〜図13(B)は、測定結果の表示例を示す図である。例えば、表示部13は、疲労度測定結果の表示領域13A、血圧測定結果の表示領域13B、および警告メッセージの表示領域13Cで構成される。表示領域13Bには、血圧測定部20により測定された最高血圧値、最低血圧値および脈拍値が表示される。表示領域13Aには、脳疲労度取得部33により測定された脳疲労度、および肉体疲労度取得部35により測定された肉体疲労度が表示される。表示領域13Aでは、例えば、脳疲労度を示すRPE値のバーグラフ13Dと肉体疲労度を示すRPE値のバーグラフ13Eとが交互に表示されるが、図示した例とは異なり、脳疲労度と肉体疲労度を同時に表示してもよい。表示領域13Cには、判定部19による判定結果に応じた警告メッセージが表示される。
図12(A)は、最高血圧値が125mmHg、最低血圧値が83mmHg、脈拍値が65拍/分、脳疲労度が「軽疲労」、かつ肉体疲労度が「疲労」の場合の表示例を示す。この場合は図11に示したパターン1に該当するため、判定部19は、被測定者が疲労状態であると判定する。このため、表示領域13Cには、「疲労中 これから眠気に注意」との警告メッセージが表示される。
図12(B)は、最高血圧値が90mmHg、最低血圧値が65mmHg、脈拍値が55拍/分、脳疲労度が「正常」、かつ肉体疲労度が「正常」の場合の表示例を示す。この場合は図11に示したパターン2に該当するため、判定部19は、被測定者が低血圧症であると判定する。このため、表示領域13Cには、「低血圧 これから眠気に注意」との警告メッセージが表示される。
図13(A)は、最高血圧値が90mmHg、最低血圧値が68mmHg、脈拍値が65拍/分、脳疲労度が「軽疲労」、かつ肉体疲労度が「正常」の場合の表示例を示す。この場合は図11に示したパターン4に該当するため、判定部19は、被測定者が慢性疲労症候群であると判定する。このため、表示領域13Cには、「慢性疲労症候群に注意 失神に注意」との警告メッセージが表示される。
図13(B)は、最高血圧値が163mmHg、最低血圧値が91mmHg、脈拍値が75拍/分、脳疲労度が「軽疲労」、かつ肉体疲労度が「正常」の場合の表示例を示す。この場合は図11に示したパターン5に該当するため、判定部19は、被測定者が精神ストレス性高血圧であると判定する。このため、表示領域13Cには、「緊張や不安に注意」との警告メッセージが表示される。
なお、判定部19による判定結果の出力方法は、表示部13への表示に限らず、音声メッセージの出力や、アラーム鳴動、外部装置へのデータ出力などの他の形態でもよい。
以下では、電子血圧計1の動作フローについて説明する。図14と図15に示す動作フローは、制御部16のROMに予め記録されているプログラムに従って、制御部16のCPUにより実行される。
図14は、電子血圧計1の初期設定モードの動作例を示すフローチャートである。初期設定モードは、肉体疲労度の測定用に、被測定者の臥位時心拍数を記憶部15に記憶するためのモードである。臥位時心拍数は被測定者が電子血圧計1を使用するときに毎回測定すれば正確だが、図14に示す処理は、例えば電子血圧計1の使用開始時に最低1回行えばよい。例えば、被測定者(使用者)が設定ボタン12Bを押下すると、図14のフローが開始する。
まず、制御部16は、RR間隔抽出部31が使用する心電波(R波)の検出しきい値の入力を受け付ける(ステップS11)。その際、使用者(被測定者)は、選択ボタン12Cで入力値を選択し、設定ボタン12Bを押下して決定する。
そして、制御部16は、臥位時(安静時)心拍数の入力方法の選択を受け付ける(ステップS12)。この入力方法として、電子血圧計1の使用者は、直接入力と仰向け実測のいずれかを選択可能である。そこで、使用者が自分の臥位時心拍数を把握しており直接入力を選択した場合には、制御部16は、臥位時心拍数の直接入力を受け付ける(ステップS13)。
一方、使用者が自分の臥位時心拍数を把握しておらず仰向け実測を選択した場合には、制御部16は、臥位時心拍数を測定する(ステップS14)。その際、使用者が仰向け姿勢になって測定ボタン12Aを押下し、電極14L,14Rを握ると、心拍数が測定される。そして、制御部16は、ステップS13で入力またはステップS14で測定された臥位時心拍数を表示部13に表示させ、記憶部15に記憶させる(ステップS15)。以上で、電子血圧計1の初期設定モードの動作は終了する。
図15は、電子血圧計1の測定モードの動作例を示すフローチャートである。起立動作完了後、被測定者が測定ボタン12Aを押下し、電極14L,14Rを握ると、図15のフローが開始する。
心電波が検出されると、まず、RR間隔抽出部31はR波を検出する(ステップS31)。例えばR波が4秒以内に2回検出されると(ステップS31でYes)、RR間隔抽出部31は、RR間隔を連続して40拍分(約30秒間)測定し、そのデータを記憶部15に記憶させる(ステップS32)。特に、カオスリアプノフ指数法では2のべき乗のデータ数が必要であるため、RR間隔抽出部31は、32拍以上のRR間隔を測定する。
続いて、ステップS33〜S35では、脳疲労度の測定が行われる。その際、揺らぎ度算出部32は、ステップS32で記憶されたRR間隔の時系列データから、Wolf法に従って最大リアプノフ指数λ1を算出する(ステップS33)。そして、脳疲労度取得部33は、記憶部15に記憶されている図8の対応関係を参照して、ステップS33で算出された最大リアプノフ指数λ1の値をRPE値に換算する(ステップS34)。さらに、脳疲労度取得部33は、ステップS34で得られたRPE値がいずれの疲労度区分に属するかを判定する(ステップS35)。
次に、ステップS36〜S38では、肉体疲労度の測定が行われる。その際、心拍数算出部34は、ステップS32で記憶されたRR間隔の時系列データのうち例えば最後の10拍分のデータから被測定者の測定時の心拍数を算出し、その値と、予め記憶部15に記憶されている被測定者の臥位時の心拍数との差を算出する(ステップS36)。そして、肉体疲労度取得部35は、記憶部15に記憶されている図9の対応関係を参照して、ステップS36で算出された心拍数差をRPE値に換算する(ステップS37)。さらに、肉体疲労度取得部35は、ステップS37で得られたRPE値がいずれの疲労度区分に属するかを判定する(ステップS38)。
次に、ステップS39〜S43では、血圧測定が行われる。血圧測定時には、血圧測定制御部17は、カフ60内の圧力が加圧上限圧力に達するまで、加圧ポンプ23によりカフ60を加圧させる(ステップS39)。カフ圧が加圧上限圧力に到達したら、血圧測定制御部17は、排気弁27を制御して、カフ60の空気袋内の空気を徐々に排気させる(スローリークを行う)(ステップS40)。そして、血圧測定制御部17は、スローリーク中に、圧力センサ25からの圧力検知信号により被測定者の脈波を分析し(ステップS41)、オシロメトリック方式を利用して被測定者の最高血圧値、最低血圧値を測定するとともに、脈拍を算出する(ステップS42)。これらの値が得られたら、血圧測定制御部17は、排気弁27を制御して、カフ60の空気袋内の空気を強制排気させる(ステップS43)。
その後、判定部19は、記憶部15に記憶されている図11の組合せパターンを参照して、ステップS42で測定された血圧値、ステップS35で得られた脳疲労度、およびステップS38で得られた肉体疲労度から、被測定者がパターン1〜6のいずれに該当するかを判定する(ステップS44)。そして、判定部19は、ステップS44での判定に応じた警告メッセージを表示部13に表示させる(ステップS45)。以上で、電子血圧計1の測定モードの動作は終了する。
血圧測定時にカフ60を加圧して脈拍も測定することから、血圧値と疲労度は同時測定可能であるとも考えられるが、電子血圧計1は、血圧値と疲労度(脳疲労度および肉体疲労度)とを別々に測定する。これは、血圧値は脈波5〜7発程度で測定できるが、疲労度の測定には脈波30〜40発程度が必要であり、カフ60を締め付けている期間は被測定者にとって苦痛なので、その期間をなるべく短くしたいためである。このため、血圧値と疲労度は同時に測定しないことが好ましい。
また、電子血圧計1は、疲労度を測定した後で、血圧値を測定する。これは、カフ60の締付けにより被測定者が苦痛に感じて脳疲労度が上昇することがあり、血圧測定後には疲労度を正しく測定できないおそれがあるためである。そこで、電子血圧計1では、血圧測定前に被測定者が電極14L,14Rを両手で握るようにする。したがって、検知部14は、加圧ポンプ23がカフ60を加圧する前に、心電波を検知する。
電子血圧計1では、疲労度を測定するために、被測定者が血圧測定前に電極14L,14Rを一定期間握る必要がある。しかしながら、電子血圧計1にマイクロ波ドップラセンサを搭載すれば、被測定者に対して非接触で脈波を検知して、その脈波から疲労度を測定することが可能である。そこで、以下では、マイクロ波ドップラセンサを使用した他の検知部について説明する。
図16は、他の検知部50のブロック図である。検知部50は、第2の検知部の一例であり、被測定者の生体信号として脈波を非接触で検知する。検知部50は、マイクロ波ドップラセンサ51、呼吸成分カットフィルタ52、体動検知回路53および脈波検知回路54を有する。
マイクロ波ドップラセンサ51は、対象物にマイクロ波を照射し、その反射のドップラシフトから対象物の動きを検知するセンサである。特にマイクロ波は、皮膚や血管が密集した部位で反射する性質があり、人体胸部の心臓に同期した体表面の動きや、大動脈血管の血液の動きから、脈波に同期した信号が得られる。マイクロ波ドップラセンサ51は、マイクロ波発信器51A、マイクロ波受信器51Bおよびマイクロ波ドップラ復調器51Cを有する。
マイクロ波発信器51Aは、被測定者に向けてマイクロ波を照射するとともに、そのマイクロ波に相当する電気信号である送信マイクロ波信号をマイクロ波ドップラ復調器51Cに出力する。マイクロ波受信器51Bは、被測定者からのドップラシフトした反射波を受信するとともに、受信した反射波に相当する電気信号である受信マイクロ波信号をマイクロ波ドップラ復調器51Cに出力する。マイクロ波ドップラ復調器51Cは、送信マイクロ波信号と受信マイクロ波信号との位相差信号を生成する。なお、マイクロ波ドップラ復調器51Cの前段または後段にはA/D変換器が配置され、マイクロ波ドップラ復調器51Cからの出力信号は、デジタル信号として呼吸成分カットフィルタ52に入力される。
図17は、検知部50により検知される脈波波形の説明図である。図17の横軸は時間Tを、縦軸は、マイクロ波ドップラセンサ51からの出力信号Doの振幅を示す。区間Aは、被測定者が電子血圧計1の前に座ったり、カフ60を腕に装着したりすることにより、比較的大きな体動が起こっている時間領域に相当する。区間A’は、被測定者が測定のために体動を停止した時点に相当する。区間Bは、被測定者が静止状態を保ち、電子血圧計1の近くに被測定者の心臓がある時間領域に相当する。区間Aでは、比較的大きな体動があることにより、出力信号Doは、振幅の上限Dxと下限Dmに繰り返し到達して飽和している。しかしながら、被測定者が体動を停止したことに応じて、出力信号Doの振幅は、符号Dsで示すように区間A’を境に減衰し、区間Bでは、上限Dxと下限Dmの間の振幅範囲Drに収まる。
したがって、出力信号Doが区間Bのように周期性のある波形になったかどうかにより、被測定者が電子血圧計1の前に座って測定可能な状態になったかどうかを検知可能である。そして、区間Bの出力信号Doの波形から、被測定者の脈波を検知することが可能である。
呼吸成分カットフィルタ52は、マイクロ波ドップラセンサ51の出力信号から、呼吸に同期した長周期のうねりを取り去るフィルタである。体動検知回路53は、呼吸成分カットフィルタ52の出力信号が飽和する頻度から、比較的大きな体動の有無を検知する。すなわち、体動検知回路53は、呼吸成分カットフィルタ52の出力信号の飽和がなくなり、図17に示す区間Bの波形のように、出力信号が周期性のある波形になったかどうかを検知する。脈波検知回路54は、検知部14の心電波検知回路14Aに対応する検知回路であり、被測定者の体動が停止したと体動検知回路53が検知したときに、呼吸成分カットフィルタ52の出力信号の波形から、被測定者の脈波を検知する。
被測定者の胸部がマイクロ波ドップラセンサ51から20cm程度の範囲内にあれば、検知部50により、非接触で、心拍に同期した脈波の信号を検知することができる。脈波は心電波と1対1に対応していると考えられるので、検知部14に代えて検知部50を用いれば、被測定者にとっては、血圧測定前に電極14L,14Rを一定時間握る必要はなく、電子血圧計1の前に座っただけで、心拍間隔と心拍数が測定される。このため、検知部50を用いた電子血圧計1では、検知部14を用いた場合よりも、血圧測定前の被測定者の負荷を少なくすることが可能である。
なお、検知部50を用いる場合でも、マイクロ波の照射が血圧測定の制御に影響する可能性があることから、血圧測定と疲労度測定は別々に行うことが好ましい。また、検知部50を用いる場合でも、カフ60の締付けが疲労度に影響し得ることから、血圧測定の前に疲労度測定を行うことが好ましい。
なお、脳疲労分析におけるRR間隔の揺らぎの解析には、カオスリアプノフ指数法以外に、例えばLF/HF法を用いてもよい。LF/HF法は、RR間隔時系列の周波数成分を解析し、LF=0.04〜0.15HzおよびHF=0.15〜0.40Hzの区間におけるスペクトルパワーの合算によりLF/HF値を算出して、その値を評価する方法である。LF/HF法での周波数解析の方式には、例えば、高速フーリエ変換(FFT)法、最大エントロピー法(MEM)およびCD(Complex Demodulation)法の3つがある。
高速フーリエ変換法は、時系列データを三角関数の合成波ととらえて周波数成分に分解する方法である。高速フーリエ変換法では、カオスリアプノフ指数法よりも多くのデータ量が必要であり、測定時間も5分以上が必要であるため、PCでの実装に適している。最大エントロピー法は、自己回帰モデルと自己回帰係数から連立方程式を作成して、確率的にスペクトルを求める方法である。最大エントロピー法は、高速フーリエ変換法より少ないデータと短い測定時間(2〜3分程度)で実行可能であるが、処理が複雑で演算負荷が大きいため、PCでの実装に適している。CD法は、無線のヘテロダイン方式のように時系列に所定の周波数を加算し、発生する変調成分からスペクトルを求める方法である。CD法は、最大エントロピー法はよりさらに短い数秒程度の測定時間で実行可能であるが、最大エントロピー法はよりも演算負荷が大きいため、やはりPCでの実装に適している。
また、脳疲労分析におけるRR間隔の揺らぎの解析には、CVRR方式を用いてもよい。CVRR方式は、RR間隔の揺らぎ度を次式により評価する方法である。
CVRR=(RR間隔の標準偏差/RR間隔の平均値)×100(%)
LF/HF法やCVRR方式を使用する場合でも、カオスリアプノフ指数法の場合と同様に、得られた指標値をRPE値に換算して脳疲労度を定量化することができる。ただし、LF/HF法では、周波数分解が行われるために多くのデータ数が必要であり、測定時間が長くなる。また、CVRR方式は、単純な方法ではあるが、呼吸などによるRR間隔の変動の影響を受けやすいという不具合がある。一方、カオスリアプノフ指数法では、周波数分解が必要ないので、LF/HF法と比べて短時間で測定でき、また、CD法やCVRR方式と比べて妥当性がある結果が得られる。このため、実用上は、脳疲労分析には、カオスリアプノフ指数法を使用することが好ましい。
また、肉体疲労分析では、カルボーネン法に従って、心拍運動強度から次式のように心拍数を求めてもよい。
運動強度=(現在の心拍数−安静時心拍数)/(最大心拍数−安静時心拍数)
最大心拍数=220−年齢
ただし、カルボーネン法の場合には、被測定者が安静時心拍数を把握している必要がある。一方、臥位立位比較方式では、使用者が安静時心拍数を把握していなくても、仰向けになって心拍数を測定すれば実行できるため、製品に応用しやすい。このため、実用上は、肉体疲労分析には、臥位立位比較方式を使用することが好ましい。