[第1実施形態]
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されている。図1は、その全体構成を示すブロック図である。超音波診断装置は、病院等の医療機関に設置され、人体に対する超音波の送受波により超音波画像を形成する装置である。
プローブ10は超音波を送受波する送受波器である。プローブ10は、直線状又は円弧状に配列された複数の振動素子からなる1Dアレイ振動子を備えている。アレイ振動子によって超音波ビームが形成され、それが繰り返し電子走査される。電子走査ごとに生体内にビーム走査面が形成される。電子走査方式として、電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式、等が知られている。1Dアレイ振動子に代えて三次元エコーデータ取込空間を形成可能な2Dアレイ振動子を設けることも可能である。
送信部12は送信ビームフォーマである。送信部12は、送信時において、プローブ10の複数の振動素子に対して一定の遅延関係をもった複数の送信信号を供給する。これにより、超音波の送信ビームが形成される。
受信部14は受信ビームフォーマである。受信部14は、受信時において、複数の振動素子から得られる複数の受信信号に対して整相加算処理等を施すことにより、受信ビームを形成する。
送信部12及び受信部14の作用により、送信ビーム及び受信ビームが電子的に走査される。これにより、ビーム走査面が形成される。ビーム走査面は複数のビームデータに相当し、それらは受信フレームデータを構成する。なお、各ビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。超音波ビームの電子走査を繰り返すことにより、受信部14から時間軸上に並ぶ複数の受信フレームデータが出力される。それらは受信フレーム列を構成する。なお、超音波の送受において、送信開口合成等の技術が利用されてもよい。
信号処理部16は、受信部14から出力される受信フレームデータに対して、Bモード断層画像を形成するための信号処理を実行するモジュールであり、検波、信号圧縮、ゲイン調整、フィルタ処理、等の信号処理を行う。
DSC(デジタルスキャンコンバータ)18は、座標変換機能及び補間処理機能等を有するモジュールであり、信号処理部16から出力された受信フレーム列に基づいて、組織表示フレーム列を形成する。個々の組織表示フレームのデータはBモード断層画像のデータである。組織表示フレーム列は、表示処理部28を介してモニタ等の表示部30に表示される。これにより、リアルタイムでBモード断層画像が動画像として表示される。以下の説明において、「組織表示フレーム」を単に「フレーム」と称し、「組織表示フレーム列」を単に「フレーム列」と称することとする。
メモリ20は、DSC18によって形成されたBモード断層画像データを記憶する記憶部である。このメモリ20を利用して特定時点の画像を表示したり、一定期間内の動画像を表示したりすることができる。なお、メモリ20には、信号処理部16から出力された受信フレーム列が記憶されてもよい。
トラッキング部22は、移動方位演算部24と移動先演算部26とを含み、関心部位の運動を追跡する機能を備えている。トラッキング部22の処理結果は、関心部位の運動情報を表すものである。その運動情報は、必要に応じて、表示処理部28や制御部32に出力される。例えば、関心部位の動きを画像として表示する場合には、表示処理部28がその画像を形成する。
移動方位演算部24は、2つのフレーム間においてマッチング処理を実行することにより、関心部位の移動方位(移動方向)を演算する。具体的には、移動方位演算部24は、第1の方位演算用フレームに対して、関心部位を含む第1サイズを有する基準エリアとして方位演算用基準テンプレート(第1テンプレート)を設定する。そして、移動方位演算部24は、第2の方位演算用フレームにおいて方位演算用基準テンプレートに適合する参照エリア(方位演算用参照テンプレート)を特定することにより、関心部位の移動方位を演算する。この移動方位は、移動先演算部26による演算において利用される。例えば、最良のマッチング結果が得られた参照エリアが特定される。もちろん、演算の簡易化等の目的から、必ずしもマッチング結果が最良ではないが、良好なマッチング結果が得られた参照エリアが特定されてもよい。
移動先演算部26は、2つのフレーム間においてマッチング処理を実行することにより、関心部位の移動先(移動先の座標)を演算する。具体的には、移動先演算部26は、第1の移動先演算用フレームに対して、関心部位を含み第1サイズよりも小さな第2サイズを有する基準エリアとして移動先演算用基準テンプレート(第2テンプレート)を設定する。そして、移動先演算部26は、関心部位の移動方位に基づく探索条件に従って、第2の移動先演算用フレームにおいて移動先演算用基準テンプレートに適合する参照エリア(移動先演算用参照テンプレート)を特定することにより、関心部位の移動先を演算する。この移動先の座標が、関心部位の運動情報の一例に相当する。例えば、最良のマッチング結果が得られた参照エリアが特定される。もちろん、演算の簡易化等の目的から、必ずしもマッチング結果が最良ではないが、良好なマッチング結果が得られた参照エリアが特定されてもよい。
以下の説明において、移動方位演算部24による演算処理を「移動方位演算処理」と称し、移動先演算部26による演算処理を「移動先演算処理」と称することとする。これらの処理については、図2以降の各図を参照して詳しく説明する。
表示処理部28は、Bモード断層画像等の画像に対して、必要なグラフィックデータをオーバーレイ処理し、これによって表示画像を形成する。表示画像のデータは表示部30に出力され、表示モードに従った表示態様で1又は複数の画像が表示される。
表示部30は、例えば液晶ディスプレイ等の表示デバイスによって構成されている。表示部30は、複数の表示デバイスによって構成されていてもよい。
制御部32は、図1に示す各構成の動作を制御する。制御部32には、入力部34が接続されている。入力部34は、一例として、トラックボールやキーボード等の入力デバイスを含む操作パネルによって構成されている。ユーザは入力部34を使用して、測定条件等を指定することができる。
上述した超音波診断装置においてプローブ10以外の構成は、例えばプロセッサや電子回路等のハードウェア資源を利用して実現することができ、その実現において必要に応じてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。また、プローブ10以外の構成は、例えばコンピュータによって実現されてもよい。つまり、コンピュータが備えるCPUやメモリやハードディスク等のハードウェア資源と、CPU等の動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により、プローブ10以外の構成の全部又は一部が実現されてもよい。当該プログラムは、CDやDVD等の記録媒体を経由して、又は、ネットワーク等の通信経路を経由して、図示しない記憶装置に記憶される。別の例として、プローブ10以外の構成は、DSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等によって実現されてもよい。
次に、移動方位演算部24及び移動先演算部26の処理内容について詳しく説明する。
図2には、超音波ビームの送受波によって形成されたフレーム列36が示されている。フレーム列36は、時間軸上に並ぶ複数のフレーム(フレーム36a〜36n)を含む。個々のフレームはBモード断層画像である。
トラッキング処理はメモリ20に格納された各フレームに対して行われる処理であり、時系列順で整列したフレーム列における各フレーム間において実行される。リアルタイムで取得されるフレーム列に対してトラッキング処理を適用することも可能である。ユーザが任意の時相を指定することによって、トラッキング処理を開始する最初のフレームである初期フレームを選択することが可能である。初期フレームに対して、ユーザによってトラッキング対象となる関心部位が指定されると、その指定された位置すなわち座標を中心として最初の基準エリア(基準テンプレート)が設定される。1つの関心部位を設定するようにしてもよいし、複数の関心部位を同時に設定できるように構成してもよい。関心部位は、例えば心臓における特定の心壁部位等に設定される。例えば、心筋梗塞が疑われる部位に関心部位を設定すれば、当該部位の時間的な動きをトラッキング処理によって抽出することができ、その処理結果から当該部位の運動状態を評価することが可能である。
初期フレームに基準テンプレートが設定されると、初期フレームの次のフレームである後フレームとの間において、マッチング処理が実行される。そして、そのマッチング処理がフレーム間毎に繰り返し実行されることになる。
図3には、移動方位演算処理の内容が概念図として示されている。図3の(A)には、前フレーム36aが示されており、図3の(B)には、前フレーム36aの次のフレームである後フレーム36bが示されている。前フレーム36aには方位演算用基準テンプレート38aが設定されている。前フレーム36aが初期フレームであれば、その方位演算用テンプレート38aは、ユーザによって指定された位置Paを基準として設定された最初の基準エリアである。方位演算用基準テンプレート38aは一例として矩形の形状を有している。扇状や台形の形状を有する方位演算用基準テンプレート38aが用いられてもよい。
移動方位演算処理においては、前フレーム36aが第1の方位演算用フレームに相当し、後フレーム36bが第2の方位演算用フレームに相当する。
図3の(B)に示すように、移動方位演算部24は、後フレーム36bに対して、方位演算用基準テンプレート38aのサイズよりも大きなサイズをもった探索エリア40を設定する。そして、移動方位演算部24は、その探索エリア40内において、位置を順次シフトさせながら、方位演算用参照エリア(方位演算用参照テンプレート38b)を順次設定する。方位演算用参照テンプレート38bの移動経路は任意に設定できる。例えば、ジグザグスキャンに沿った経路上の各位置において方位演算用参照テンプレート38bが設定されるようにしてもよい。移動方位演算部24は、各方位演算用参照テンプレート38bと方位演算用基準テンプレート38aとの間において画像のマッチング処理を実行する。例えば、相関演算が実行される。これに関する手法としては各種の公知手法を用いることができる。相関値としては、一例として、SSD(Sum of Squared Difference)、SAD(Sum of Absolute Difference)、正規化相互相関NCC(Normalized Cross-Correlation)、等を用いることができる。もちろん、他の相関値が用いられてもよい。SSDは、輝度値等の画素値の差の2乗の合計であり、SADは、画素値の差の絶対値の合計である。SSDやSADの値が小さいほど、方位演算用基準テンプレート38aに含まれる画像と方位演算用参照テンプレート38bに含まれる画像とが、似ている画像となる。NCCの値が1に近いほど、それらの画像が似ている画像となる。
移動方位演算部24は、各方位演算用参照テンプレート38bと方位演算用基準テンプレート38aとの間でマッチング処理を行った結果(例えば相関値)を相互に比較し、方位演算用基準テンプレート38aに適合する方位演算用参照テンプレート38b(適合参照テンプレート)を特定する。例えば、最良のマッチング結果が得られた方位演算用参照テンプレート38bが適合参照テンプレートとして特定される。もちろん、演算の簡易化等の目的から、必ずしも最良のマッチング結果が得られた方位演算用参照テンプレート38bが適合参照テンプレートとして特定されず、マッチング結果が良好となる方位演算用参照テンプレート38bが適合参照テンプレートとして特定されてもよい。その適合参照テンプレートの位置を特定することにより、関心部位の移動方位が求まる。具体的には、方位演算用基準テンプレート38aの中心の位置Paと、適合参照テンプレートとしての方位演算用参照テンプレート38bの中心の位置Pbと、を結ぶベクトルが求まり、このベクトルの方位が移動方位Xとして求まる。
移動方位演算部24は、移動方位Xに応じた重み係数を示す重み付けテーブルを生成する。重み付けテーブルは、探索エリア40内における重み係数の2次元分布を示すマップである。例えば、移動方位演算部24は、位置Paを起点とした移動方位Xに対する方位に応じて、探索エリア40内の各位置(座標)に重み係数を割り当てる。または、移動方位演算部24は、位置Paを起点とした移動方位Xに対する方位と距離とに応じて、探索エリア40内の各位置(座標)に重み係数を割り当ててもよい。マッチング処理において、SSDやSAD等のように、両画像が似ているほど値が小さくなる相関値が用いられる場合、移動方位演算部24は、位置Paを起点とした移動方位Xに近い位置や近い方位にある位置ほど、割り当てる重み係数を小さくし、その移動方位Xから遠い位置や遠い方位にある位置ほど、割り当てる重み係数を大きくする。一方、マッチング処理において、両画像が似ているほど値が大きくなる相関値が用いられる場合、移動方位演算部24は、位置Paを起点とした移動方位Xに近い位置や近い方位にある位置ほど、割り当てる重み係数を大きくし、その移動方位Xから遠い位置や遠い方位にある位置ほど、割り当てる重み係数を小さくする。移動方位演算部24は、探索エリア40内の各位置(座標)に重み係数を割り当て、これにより、重み係数の2次元分布である重み付けテーブルを生成する。この重み付けテーブルは、移動先演算部26による処理において利用される。
なお、探索エリア40は矩形の形状を有しているが、もちろん、円形等の他の形状を有していてもよい。
図4には、重み付けテーブルの一例が示されている。重み付けテーブル42は、探索エリア40内における重み係数の分布を示すマップであり、一例として、3つのエリア(エリア44〜46)に分けられている。エリア44〜46は、例えば、位置Paを起点とした移動方位Xに対する方位と距離とに応じて規定されている。エリア44は移動方位X上においてある程度の幅をもったエリアである。エリア44の外側にはエリア46が設けられており、エリア46の外側にはエリア48が設けられている。
SSDやSAD等のように、両画像が似ているほど値が小さくなる相関値が用いられる場合、移動方位演算部24は、エリア44に対して最小の重み係数を割り当て、その外側のエリア46に対して中間の重み係数を割り当て、その外側のエリア48に対して最大の重み係数を割り当てる。つまり、移動方位X上のエリア44から離れるエリアほど、大きな重み係数が割り当てられる。例えば、重み係数として0.1〜1の範囲の値が用いられる場合、エリア44に対して0.1〜0.2等の値が重み係数として割り当てられ、エリア46に対して0.3〜0.6等の値が重み係数として割り当てられ、エリア48に対して0.7〜1.0等の値が重み係数として割り当てられる。
両画像が似ているほど値が大きくなる相関値が用いられる場合、移動方位演算部24は、エリア44に対して最大の重み係数を割り当て、エリア46に対して中間の重み係数を割り当て、エリア48に対して最小の重み係数を割り当てる。つまり、移動方位X上のエリア44から離れるエリアほど、小さい重み係数が割り当てられる。例えば、エリア44に対して0.7〜1.0等の値が重み係数として割り当てられ、エリア46に対して0.3〜0.6等の値が重み係数として割り当てられ、エリア48に対して0.1〜0.2等の値が割り当てられる。
なお、上記の重み係数の値は一例に過ぎず、もちろん、別の値が重み係数として割り当てられてもよい。また、重み付けテーブル42は矩形の形状を有しているが、もちろん、円形等の他の形状を有していてもよい。
図5には、重み付けテーブルの別の例が示されている。重み付けテーブル50は、一例として、4つのエリア(エリア52〜58)に分けられている。エリア52〜58は、例えば、位置Paを起点とした移動方位Xに対する方位と位置Paからの距離とに応じて規定されている。エリア52は、移動方位X上においてある程度の幅をもったエリアであって、位置Paからの距離が相対的に近いエリアである。エリア52の外側にはエリア52を囲むようにエリア54が設けられており、エリア54の外側にはエリア54を囲むようにエリア56が設けられており、エリア56の外側にはエリア56を囲むようにエリア58が設けられている。
SSDやSAD等のように、両画像が似ているほど値が小さくなる相関値が用いられる場合、エリア52に対して最小の重み係数が割り当てられ、外側のエリアほど大きな重み係数が割り当てられる。一方、両画像が似ているほど値が大きくなる相関値が用いられる場合、エリア52に対して最大の重み係数が割り当てられ、外側のエリアほど小さな重み係数が割り当てられる。
以上のように、移動方位演算部24は、マッチング処理によって求められた移動方位Xに応じて、探索エリア40内の各位置(座標)に重み係数を割り当てることにより重み付けテーブルを生成する。別の例として、移動方位演算部24は、予め生成されたデフォルトの重み付けテーブルを、移動方位Xに応じて回転させることにより、実際に使用される重み付けテーブルを生成してもよい。
図6には、その回転処理の内容が概念図として示されている。図6の(A)には、デフォルト重み付けテーブル60が示されている。このデフォルト重み付けテーブル60は、移動方位が初期方位(例えば角度が0°)のときのテーブルである。デフォルト重み付けテーブル60は予め生成されており、そのデータは図示しない記憶部に格納されている。デフォルト重み付けテーブル60は、一例として、4つのエリア(エリア62〜68)に分けられている。エリア62は最も内側に設けられたエリアである。エリア62の外側にはエリア62を覆うようにエリア64が設けられており、エリア64の外側にはエリア64を覆うようにエリア66が設けられており、エリア66の外側にはエリア66を覆うようにエリア68が設けられている。
SSDやSAD等のように、両画像が似ているほど値が小さくなる相関値が用いられる場合、エリア62に対して最小の重み係数が割り当てられ、外側のエリアほど大きな重み係数が割り当てられる。一方、両画像が似ているほど値が大きくなる相関値が用いられる場合、エリア62に対して最大の重み係数が割り当てられ、外側のエリアほど小さな重み係数が割り当てられる。
図6の(B)には、移動先演算部26にて実際に使用される重み付けテーブル70が示されている。移動方位演算部24は、移動方位Xに応じた角度の分、デフォルト重み付けテーブル60を回転させる。これにより、回転後の重み付けテーブル70が生成される。移動先演算部26は、この重み付けテーブル70を利用して移動先演算処理を実行する。デフォルト重み付けテーブル60によって規定されるエリアは、マッチング処理に用いられる探索エリア40よりも広いため、重み付けテーブル70によって規定されるエリア内に、探索エリア40が含まれることになる。これにより、探索エリア40内の各位置に対して重み係数が割り当てられる。
図7には、移動先演算処理の内容が概念図として示されている。図7の(A)には、前フレーム36aが示されており、図7の(B)には、前フレーム36aの次のフレームである後フレーム36bが示されている。前フレーム36aには移動先演算用基準テンプレート72aが設定されている。前フレーム36aが初期フレームであれば、その移動先演算用基準テンプレート72aは、ユーザによって指定された位置Paを基準にして設定された最初の基準エリアである。移動先演算用基準テンプレート72aは一例として矩形の形状を有している。扇状や台形の形状を有する移動先演算用基準テンプレート72aが用いられてもよい。移動先演算用基準テンプレート72aは、図3に示されている方位演算用基準テンプレート38aのサイズよりも小さなサイズをもった基準エリアである。なお、これらのテンプレートの大小関係が維持される条件の下、ユーザによって、これらのテンプレートのサイズが変更できるようにしてもよい。
移動先演算処理においては、前フレーム36aが第1の移動先演算用フレームに相当し、後フレーム36bが第2の移動先演算用フレームに相当する。
一例として、方位演算用の2つのフレーム(前フレームと後フレーム)と移動先演算用の2つのフレーム(前フレームと後フレーム)は同じである。つまり、第1の方位演算用フレーム及び第1の移動先演算用フレームとして前フレーム36aが用いられ、第2の方位演算用フレーム及び第2の移動先演算用フレームとして後フレーム36bが用いられる。
移動先演算部26は、後フレーム36bに対して探索エリア40を設定し、その探索エリア内において、位置を順次シフトさせながら、移動先演算用参照エリア(移動先演算用参照テンプレート72b)を順次設定する。移動先演算用参照テンプレート72bの移動経路は任意に設定できる。例えば、ジグザグスキャンに沿った経路上の各位置において移動先演算用参照テンプレート72bが設定されるようにしてもよい。移動先演算部26は、各移動先演算用参照テンプレート72bと移動先演算用基準テンプレート72aとの間において画像のマッチング処理を実行する。例えば、相関演算が実行される。相関値としては、一例として、SSD、SAD、NCC等を用いることができる。もちろん、他の相関値が用いられてもよい。マッチング処理によって、各位置における相関値が演算される。そして、移動先演算部26は、各位置における相関値に、重み付けテーブルに規定されている各位置における重み係数を乗算する。これにより、重み付き相関値が演算される。
例えば、図4に示されている重み付けテーブル42が用いられるものとする。移動先演算処理において、SSDやSAD等のように、両画像が似ているほど値が小さくなる相関値が用いられる場合、エリア44に属する位置の相関値には、最小の重み係数(例えば0.1〜0.2等の値)が乗算される。エリア46に属する位置の相関値には、中間の重み係数(例えば0.3〜0.6等の値)が乗算される。エリア48に属する位置の相関値には、最大の重み係数(例えば0.7〜1.0等の値)が乗算される。これにより、各位置の重み付き相関値が演算される。移動方位X上の位置における相関値ほど、小さな重み係数が乗算されることになる。そして、移動先演算部26は、各位置の重み付き相関値を相互に比較し、移動先演算用基準テンプレート72aに適合する移動先演算用参照テンプレート72b(適合参照テンプレート)を特定する。例えば、最良のマッチング結果が得られた移動先演算用参照テンプレート72bが適合参照テンプレートとして特定される。もちろん、演算の簡易化等の目的から、必ずしも最良のマッチング結果が得られた移動先演算用参照テンプレート72bが適合参照テンプレートとして特定されず、マッチング結果が良好となる移動先演算用参照テンプレート72bが適合参照テンプレートとして特定されてもよい。例えば、移動先演算部26は、重み付き相関値が最小となる移動先演算用参照テンプレート72bを適合参照テンプレートとして特定する。その適合参照テンプレートの位置を特定することにより、関心部位の移動先(移動先の座標)が求まる。移動先演算用基準テンプレート72aの中心の位置Paと、適合参照テンプレートとしての移動先演算用参照テンプレート72bの中心の位置Pcと、を結ぶベクトルが移動ベクトルとして求まる。
一方、移動先演算処理において、両画像が似ているほど値が大きくなる相関値が用いられる場合、エリア44に属する位置の相関値には最大の重み係数が乗算され、エリア46に属する位置の相関値には中間の重み係数が乗算され、エリア48に属する位置の相関値には最小の重み係数が乗算される。これにより、各位置の重み付き相関値が演算される。そして、移動先演算部26は、各位置の重み付き相関値を相互に比較し、移動先演算用基準テンプレート72aに適合する移動先演算用参照テンプレート72b(適合参照テンプレート)を特定する。例えば、移動先演算部26は、重み付き相関値が最大となる移動先演算用参照テンプレート72bを適合参照テンプレートとして特定する。これにより、関心部位の移動先(移動先の座標)が求まる。
なお、移動方位演算部24及び移動先演算部26によるマッチング処理においては、サブテンプレート法が適用されてもよい。サブテンプレート法においては、テンプレートが複数のサブテンプレート(サブエリア)に分割され、個々のサブテンプレート毎にマッチング処理が実行される。そして、相関値の最大値と最小値が除外され、それら以外の相関値によってエリアの相関値が求められる。
また、マッチング処理として、自己相関処理が適用されてもよいし、相互相間処理が適用されてもよい。自己相関処理においては、前フレーム36aが固定の基準フレームとして用いられ、その前フレーム36aに設定された基準テンプレートが固定の基準テンプレートとして用いられる。そして、前フレーム36aに設定された基準テンプレートとその後の各フレームに設定された参照テンプレートとの間において、マッチング処理が順次実行される。相互相間処理においては、基準テンプレートに適合する参照テンプレートが、次のフレーム間におけるマッチング処理で新たな基準テンプレート(更新後の基準テンプレート)とみなされ、各フレーム間においてマッチング処理が順次実行される。
次に、移動方位演算部24及び移動先演算部26の処理内容について具体例を挙げて説明する。
図8には、移動方位演算処理の内容が概念図として示されている。図8の(A)には、前フレームに表されている心壁部位像74aが示されており、図8の(B)には、後フレームに表されている心壁部位像74bが示されている。心壁部位像74aは移動前の心壁部位を表す像であり、心壁部位像74bは移動後の心壁部位を表す像である。
図8の(A)に示すように、前フレームに表された心壁部位像74aの一部に対して方位演算用基準テンプレート76aが設定されている。前フレームが初期フレームであれば、その方位演算用基準テンプレート76aは、ユーザによって指定された位置Paを基準として設定された最初の基準エリアである。
後フレームには図示しない探索エリアが設定され、図8の(B)に示すように、その探索エリア内において位置を順次シフトさせながら、方位演算用参照テンプレート76bが順次設定される。そして、各方位演算用参照テンプレート76bと方位演算用基準テンプレート76aとの間において画像のマッチング処理が実行され、方位演算用基準テンプレート76aに適合する方位演算用参照テンプレート76b(適合参照テンプレート)が特定される。例えば、最良のマッチング結果が得られた方位演算用参照テンプレート76bが適合参照テンプレートとして特定される。方位演算用基準テンプレート76aの中心の位置Paと、適合参照テンプレートとしての方位演算用参照テンプレート76bの中心の位置Pbと、を結ぶベクトルが求まり、このベクトルの方位が移動方位Xとして求まる。そして、移動方位Xに応じた重み係数を示す重み付けテーブルが生成される。
図9には、移動先演算処理の内容が概念図として示されている。図9の(A)には、前フレームに表されている心壁部位像74aが示されており、図9の(B)には、後フレームに表されている心壁部位像74bが示されている。移動先演算処理の対象となる前フレーム及び後フレームは、移動方位演算処理の対象となる前フレーム及び後フレームと同じフレームである。
図9の(A)に示すように、前フレームに表された心壁部位像74aの一部に対して移動先演算用基準テンプレート78aが設定されている。前フレームが初期フレームであれば、その移動先演算用基準テンプレート78aは、ユーザによって指定された位置Paを基準として設定された最初の基準エリアである。移動先演算用基準テンプレート78aは、方位演算用基準テンプレート76aのサイズよりも小さなサイズをもった基準エリアである。後フレームには図示しない探索エリアが設定され、図9の(B)に示すように、その探索エリア内において位置を順次シフトさせながら、移動先演算用参照テンプレート78bが順次設定される。
また、図9の(A)及び(B)には、参照エリアに適用される重み付けテーブル80が示されている。この重み付けテーブル80は、図8に示す移動方位演算処理によって求められたテーブルであり、一例として、3つのエリア(エリア82〜86)に分けられている。エリア82〜86は、例えば、位置Paを起点とした移動方位Xに対する方位と距離とに応じて規定されている。エリア82は移動方位X上においてある程度の幅をもったエリアである。エリア84の外側にはエリア84が設けられており、エリア84の外側にはエリア84を囲むようにエリア86が設けられている。位置Paを起点として、移動方位Xの反対の方位における領域にも、エリア86が設定されて重み係数が割り当てられている。
SSDやSAD等のように、両画像が似ているほど値が小さくなる相関値が用いられる場合、エリア82に対して最小の重み係数が割り当てられ、外側のエリアほど大きな重み係数が割り当てられる。例えば、エリア82に対して0.1〜0.2等の値が重み係数として割り当てられ、エリア84に対して0.3〜0.6等の値が重み係数として割り当てられ、エリア86に対して0.7〜1.0等の値が重み係数として割り当てられる。
一方、両画像が似ているほど値が大きくなる相関値が用いられる場合、エリア82に対して最大の重み係数が割り当てられ、外側のエリアほど小さな重み係数が割り当てられる。例えば、エリア82に対し0.7〜1.0等の値が重み係数として割り当てられ、エリア84に対して0.3〜0.6等の値が重み係数として割り当てられ、エリア86に対して0.7〜1.0等の値が重み係数として割り当てられる。
各移動先演算用参照テンプレート78bと移動先演算用基準テンプレート78aとの間でマッチング処理が実行され、各位置における相関値が演算される。そして、各位置における相関値に、重み付けテーブル80に規定されている各位置における重み係数が乗算される。これにより、重み付き相関値が演算される。
そして、各位置における重み付き相関値が相互に比較され、例えば最良のマッチング結果が得られた移動先演算用参照テンプレート78b(適合参照点テンプレート)が特定される。SSDやSAD等のように、両画像が似ているほど値が小さくなる相関値が用いられる場合、重み付き相関値が最小となる移動先演算用参照テンプレート78bが、適合参照テンプレートとして特定される。この場合、SSDやSADの値が0とならないように、例えば、値をオフセットする。一例として、SSDやSADの値に1を加え、これに対して重み係数を乗算することにより、重み付き相関値を演算する。両画像が似ているほど値が大きくなる相関値が用いられる場合、重み付き相関値が最大となる移動先演算用参照テンプレート78bが、適合参照テンプレートとして特定される。この適合参照テンプレートの位置を特定することにより、関心部位の移動先の位置Pcが求まる。
以上のように、第1実施形態では、マッチング処理において、大きなテンプレートと小さなテンプレートが併用される。つまり、大きなテンプレートを用いたマッチング処理が実行され、これにより関心部位の移動方位が演算される。次に、その移動方位に基づく重み付けテーブルに従って、小さなテンプレートを用いたマッチング処理が実行される。これにより、関心部位の移動先の座標が演算される。大きなテンプレートを用いることにより、関心部位の移動方位の特定精度を向上させることが可能となり、小さなテンプレートを用いることにより、関心部位の動きに対する追従性を向上させることが可能となる。以下、この理由について詳しく説明する。
大きなテンプレートが用いられる場合、小さなテンプレートが用いられる場合と比べて、マッチング処理の対象エリアが広くなり、テンプレートに広範囲の画像が含まれることになる。その広範囲の画像に対してマッチング処理が適用されるので、小さなテンプレートが用いられる場合と比べて、マッチングの精度が向上する。つまり、テンプレートに含まれる組織の移動方位を精度良く特定することが可能となる。一方で、大きなテンプレートが用いられる場合、関心部位に対するトラッキングの追従性が必ずしも良好になるとは限らない。つまり、テンプレートのサイズが大きくなるほど、テンプレート内に含まれる関心部位以外の周辺組織(例えば動いていない組織)の割合が大きくなる。そのため、その周辺組織に対するマッチング処理に起因して、関心部位の真の移動先よりも手前の位置にてマッチング結果が良好となり、その手前の位置が関心部位の移動先として特定される場合がある。図8の(B)に示す例で説明すると、位置Pbが、位置Paの移動先つまり関心部位の移動先として特定されることになる。位置Paは移動前の心壁部位像74a上の位置であるが、トラッキング処理によって、移動後の心壁部位像74b上の位置が移動先として特定されず、その位置よりも位置Pa側(手前側)の位置Pbが移動先として特定されてしまうことになる。このように、大きなテンプレートを用いたマッチング処理によると、移動方位の特定精度が良好となるが、トラッキングの追従性は必ずしも良いとは限らない。
小さなテンプレートが用いられる場合、大きなテンプレートが用いられる場合と比べて、マッチング処理の対象エリアが狭くなる。それ故、関心部位以外の周辺組織によるマッチング処理への影響が、大きなテンプレートと比べて小さくなり、トラッキングの追従性が向上する。一方で、関心部位以外の組織であってもマッチング結果が良好となり、真の移動方位とは異なる方位が関心部位の移動方位として特定されてしまうことがある。このように、小さなテンプレートを用いたマッチング処理によると、トラッキングの追従性が良好となるが、移動方位の特定精度は必ずしも良いとは限らない。
第1実施形態では、移動方位の特定精度が良好な大きなテンプレートを利用して第1マッチング処理を行うことにより、関心部位の移動方位を精度良く特定することが可能となる。そして、追従性が良好な小さなテンプレートを利用して第2マッチング処理を行うことにより、トラッキングの追従性を向上させることが可能となる。この第2マッチング処理において、精度良く特定された移動方位に基づく重み付けテーブルを利用することにより、その移動方位に存在する位置に対するマッチング結果が良好となり、その移動方位上の位置が関心部位の移動先として特定される。このような処理を行うことにより、関心部位の移動方位を正確に特定し、その移動方位上にある移動先を正確に特定することが可能となる。つまり、組織の動きに追従した高精度のトラッキングが可能となる。
(変形例)
次に、変形例について説明する。上記の第1実施形態においては、移動方位演算用の前フレームと移動先演算用の前フレームは同じフレームであり、移動方位演算用の後フレームと移動先演算用の後フレームは同じフレームである。変形例では、移動方位演算用の2つのフレーム(前フレームと後フレーム)を両端とするフレーム列に、移動先演算用の2つのフレーム(前フレームと後フレーム)が属している。そして、移動方位演算用の2つのフレームによって演算された移動方位が、各フレーム間における移動先演算において用いられる。以下、図10を参照して、変形例について詳しく説明する。
図10には、超音波ビームの送受波によって形成されたフレーム列88,90が示されている。フレーム列88,90は、時間軸上に並ぶ複数のフレーム(フレーム88a〜88n,90a〜90n)を含む。個々のフレームはBモード断層画像である。
フレーム列88中のフレーム88aは例えば心臓の拡張末期に得られたフレームであり、フレーム88nは心臓の収縮末期に得られたフレームである。同様に、フレーム列90中のフレーム90aは収縮末期に得られたフレームであり、フレーム90nは拡張末期に得られたフレームである。拡張末期と収縮末期は、例えば、心電波形(ECG波形)やBモード断層画像の輝度変化に基づいて特定することが可能である。例えば、超音波ビームの送受波とともに被検体のECG波形が取得され、そのECG波形が制御部32に入力される。制御部32は、そのECG波形から拡張末期と収縮末期を特定し、それらの時相に関する情報をトラッキング部22に出力する。
変形例では、拡張末期に得られたフレームと収縮末期に得られたフレームが、方位演算用フレームとして用いられる。図10に示す例では、フレーム列88に属するフレーム88a,88nが、フレーム列88用の方位演算用フレームとして用いられ、フレーム列90に属するフレーム90a,90nが、フレーム列90用の方位演算用フレームとして用いられる。
フレーム列88に属するフレーム88a〜88nに対する移動先演算処理においては、フレーム88a,88nから演算された移動方位つまりその移動方位に応じた重み付けテーブルが用いられる。フレーム列90に属するフレーム90a〜90nに対する移動先演算処理においては、フレーム90a,90nから演算された移動方位つまりその移動方位に応じた重み付けテーブルが用いられる。
以下、変形例に係る処理を具体的に説明する。移動方位演算部24は、例えば、拡張末期に得られたフレーム88aを前フレームとして扱い、収縮末期に得られたフレーム88nを後フレームとして扱う。もちろん、移動方位演算部24は、収縮末期に得られたフレーム88nを前フレームとして扱い、拡張末期に得られたフレーム88aを後フレームとして扱ってもよい。移動方位演算部24は、上述した第1実施形態と同様に、大きなテンプレートを用いてマッチング処理を実行することにより関心部位の移動方位を演算し、その移動方位に応じた重み付けテーブルを生成する。この重み付けテーブルは、フレーム列88に属するフレームに対して適用される。
次に、移動先演算部26は、フレーム88aを前フレームとして扱い、次のフレーム88bを後フレームとして扱う。そして、移動先演算部26は、上述した第1実施形態と同様に、小さなテンプレートを用いてマッチング処理を実行することにより各位置における相関値を演算し、各位置における相関値に、上記の重み付けテーブルに規定されている各位置における重み係数を乗算する。これにより、各位置における重み付き相関値が演算され、その重み付け相関値に基づいて、フレーム88bにおける移動先の座標が特定される。移動先演算部26は、フレーム88c以降のフレームについても同様にマッチング処理を実行することにより、各フレームにおける関心部位の移動先の座標を特定する。
自己相関処理が適用される場合、移動先演算部26は、フレーム88aを前フレームとして扱い、フレーム88c〜88nをそれぞれ後フレームとして扱う。そして、移動先演算部26は、フレーム88a,88nから得られた重み付けテーブルを用いて、フレーム88c〜88nのそれぞれについて重み付け相関値を演算し、各フレームにおける移動先の座標を特定する。これにより、フレーム列88における関心部位の運動の軌跡が演算される。
相互相関処理が適用される場合、移動先演算部26は、フレーム88bを前フレームとして扱い、フレーム88cを後フレームとして扱う。そして、フレーム88a,88bの間においてマッチング結果が最良となった参照テンプレートが新たな基準テンプレートとしてみなされ、フレーム88b,88cの間においてマッチング処理が実行される。このとき、フレーム88a,88nから得られた重み付けテーブルが用いられる。以降についても同様であり、各フレーム間においてマッチング処理が順次実行され、これにより、フレーム列88における関心部位の運動の軌跡が演算される。
同様に、フレーム列90についても、フレーム90a,90nから得られた重み付けテーブルが用いられて関心部位の移動先の座標が特定される。これにより、フレーム列90における関心部位の運動の軌跡が演算される。
以上のように、同一のフレーム列に対して共通の重み付けテーブルを用いて移動先演算処理を実行することにより、簡易な演算処理が実現される。
[第2実施形態]
次に、図11から図13を参照して、第2実施形態について説明する。上記の第1実施形態及び変形例では、移動方位に応じた重み付けテーブルが生成される。第2実施形態では、移動方位演算部24は、移動方位に応じて、後フレームにおいて移動先演算処理の対象となるエリアを限定するためのテーブル、つまり、後フレームにおいて探索エリアを限定するためのテーブル(探索エリア限定テーブル)を生成する。なお、第2実施形態に係る超音波診断装置の構成は、図1に示されている第1実施形態に係る超音波診断装置と同じ構成である。以下、第2実施形態について詳しく説明する。
図11には、探索エリア限定テーブルの一例が示されている。探索エリア限定テーブル92は、後フレームに設定された探索エリア40を限定するためのマップであり、一例として、2つのエリア(エリア94,96)に分けられている。エリア94,96は、例えば、位置Paを起点とした移動方位Xに対する方位と距離とに応じて規定されている。エリア94は移動方位X上においてある程度の幅をもったエリアであり、後フレームに設定された探索エリア40内において、移動先演算処理の対象となるエリアである。エリア96はエリア94の外側に設けられたエリアであり、移動先演算処理の対象とならないエリアである。例えば、移動先演算処理の対象となるエリア94には、処理対象のエリアであることを示すフラグとしての値(例えば「1」)が割り当てられ、その処理対象とならないエリア96には、処理対象ではないことを示すフラグとしての値(例えば「0」)が割り当てられる。移動先演算部26は、そのフラグを参照することにより、後フレームにおいて探索エリアを限定する。
移動先演算部26は、後フレームに設定された探索エリア40内において、探索エリア限定テーブル92に規定されているエリア94を処理対象エリアとして設定し、そのエリア94内において、位置を順次シフトさせながら、移動先演算用参照テンプレートを順次設定する。そして、移動先演算部26は、前フレームに設定された移動先演算用基準テンプレートと各移動先演算用参照テンプレートとの間において画像のマッチング処理を実行し、移動先演算用基準テンプレートに適合する移動先演算用参照テンプレート(適合参照テンプレート)を特定する。その適合参照テンプレートの位置を特定することにより、関心部位の移動先が求まる。図11に示す例では、探索エリア40内のエリア96は処理対象エリアではないため、そのエリア96に対して移動先演算処理は適用されない。
図12には、探索エリア限定テーブルの別の例が示されている。探索エリア限定テーブル98は、一例として、2つのエリア(エリア100,102)に分けられている。エリア100,102は、例えば、位置Paを起点とした移動方位Xに対する方位と位置Paからの距離とに応じて規定されている。エリア100は、移動方位X上においてある程度の幅をもったエリアであって、位置Paからの距離が相対的に近いエリアである。エリア100は、後フレームに設定された探索エリア40内において、移動先演算処理の対象となるエリアである。エリア102はエリア100の外側においてエリア100を囲むように設定されたエリアであり、移動先演算処理の対象とならないエリアである。図11に示す例と同様に、後フレームに設定された探索エリア40内において、エリア100が処理対象エリアとして設定され、そのエリア100内において、移動先演算用参照テンプレートが順次設定され、マッチング処理が実行される。これにより、関心部位の移動先が求まる。図12に示す例では、探索エリア40内のエリア102は処理対象エリアではないため、そのエリア102に対して移動先演算処理は適用されない。
上記の第2実施形態によると、第1実施形態と同様に、大きなテンプレートを用いてマッチング処理が実行される。これにより、関心部位の移動方位の特定精度を向上させることが可能となる。また、その移動方位に基づいて探索エリアが限定され、その限定された探索エリア内において小さなテンプレートを用いてマッチング処理が実行される。これにより、トラッキングの追従性を向上させ、その移動方位上にある関心部位の移動先を正確に特定することが可能となる。
図6に示す例と同様に、移動方位演算部24は、移動方位に応じた角度の分、デフォルト探索エリア限定テーブルを回転させることにより、移動先演算部26にて使用される探索エリア限定テーブルを生成してもよい。デフォルト探索エリア限定テーブルは、移動方位が初期方位のときのテーブルであり、移動先演算処理の対象となるエリアとその対象とならないエリアとが規定されているテーブルである。デフォルト探索エリア限定テーブルのデータは、図示しない記憶部に格納されている。
また、第1実施形態に係る変形例と同様に、移動方位演算部24は、拡張末期に得られたフレーム88aと収縮末期に得られたフレーム88bとに基づいて移動方位を演算し、その移動方位に基づいて、フレーム列88に共通して適用される探索エリア限定テーブルを生成してもよい。この場合、移動先演算部26は、共通の探索エリア限定テーブルをフレーム列88に適用することにより、各フレームにおける関心部位の移動先を演算する。
また、上述した第1及び第2実施形態を組み合わせてもよい。つまり、重み付けテーブルと探索エリア限定テーブルとを組み合わせた複合テーブルが用いられてもよい。図13には、その複合テーブルの一例が示されている。複合テーブル104は、移動方位演算部24によって生成されたテーブルである。複合テーブル104は、一例として、4つのエリア(エリア106〜112)に分けられている。エリア106〜112は、例えば、位置Paを起点とした移動方位Xに対する方位と位置Paからの距離とに応じて規定されている。エリア106は、移動方位X上においてある程度幅をもったエリアであって、位置Paからの距離が相対的に近いエリアである。エリア106の外側にはエリア106を囲むようにエリア108が設けられており、エリア108の外側にはエリア108を囲むようにエリア110が設けられており、エリア110の外側にはエリア110を囲むようにエリア112が設けられている。エリア106〜110は、後フレームに設定された探索エリア40内において、移動先演算処理の対象となるエリアであり、エリア112は、移動先演算処理の対象とならないエリアである。
エリア106〜110には、第1実施形態に係る重み付けテーブルと同様に、重み係数が割り当てられている。SSDやSAD等のように、両画像が似ているほど値が小さくなる相関値が用いられる場合、エリア106に対して最小の重み係数が割り当てられ、外側のエリア108,110ほど大きな重み係数が割り当てられる。一方、両画像が似ているほど値が大きくなる相関値が用いられる場合、エリア106に対して最大の重み係数が割り当てられ、外側のエリアほど小さな重み係数が割り当てられる。
移動先演算部26は、後フレームに設定された探索エリア40内において、エリア106〜110を処理対象エリアとして設定し、エリア106〜110内において、移動先演算用参照テンプレートを順次設定する。そして、移動先演算部26は、前フレームに設定された移動先演算用基準テンプレートと各移動先演算用参照テンプレートとの間において画像のマッチング処理を実行することにより、エリア106〜110内の各位置における相関値を演算する。移動先演算部26は、エリア106〜110内の各位置における相関値に、対応するエリアに割り当てられている重み係数を乗算することにより、重み付き相関値を演算する。移動先演算部26は、各位置における重み付き相関値を相互に比較し、その比較結果に基づいて、移動先演算用参照テンプレート(適合参照テンプレート)を特定する。その適合参照テンプレートの位置を特定することにより、関心部位の移動先が求まる。探索エリア40内のエリア112は処理対象エリアではないため、そのエリア112に対して移動先演算処理は適用されない。
なお、第1及び第2実施形態において、フレームは、血流画像や組織運動画像等のドプラ画像であってもよい。この場合、信号処理部16において、超音波ビームの送受波によって得られた受信信号に対して、直交検波、自己相関演算、速度演算等が実行され、DSC18においてドプラ画像が形成される。例えば、2次元カラー血流画像や組織運動画像等が、ドプラ画像として形成される。そのドプラ画像のデータは、メモリ20に格納され、また、表示処理部28へ送られる。トラッキング部22は、上記の第1及び第2実施形態と同様に、ドプラ画像に対してトラッキング処理を適用する。例えば、トラッキング部22は、メモリ20に格納された各フレーム(ドプラ画像)に対してトラッキング処理を適用してもよいし、リアルタイムで取得されるフレーム列(ドプラ画像列)に対してトラッキング処理を適用してもよい。ドプラ画像を対象とした場合も、Bモード断層画像と同様に、関心部位の移動方位の特定精度を向上させるとともに、関心部位の動きに対する追従性を向上させることが可能となる。
上記の第1及び第2実施形態では、マッチング処理の対象となるフレーム列は、DSC18による処理によって形成された組織表示フレーム列であるが、DSC18による処理の前における受信フレーム列が、マッチング処理の対象となってもよい。