JP6588001B2 - 車両用動力伝達装置 - Google Patents
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Description
本発明は、クランク式の無段変速機の変速比を変更すべく、入力軸および変速軸間に差回転を発生させる差動機構を備える車両用動力伝達装置に関する。
クランク式の無段変速機の変速比を変更する差動機構を、シングルピニオン型の第1遊星歯車機構および第2遊星歯車機構よりなる切り離し機構と、段付きピニオンを有するシングルピニオン型の第3遊星歯車機構よりなる減速機構とで構成し、電動モータの駆動により切り離し機構で発生した差回転を減速機構で減速して入力軸および変速軸に伝達することで、入力軸および変速軸を相対回転させて変速比を変更するものが、下記特許文献1により公知である。
またクランク式の無段変速機の変速軸の内部に、軸方向に延びる第1の油路と、第1の油路から径方向に分岐する第2の油路とを設け、第1の油路から供給された潤滑油を第2油路を介して変速軸の外周に配置された複数の伝達ユニットの偏心量可変機構に供給するものが、下記特許文献2により公知である。
ところで、かかるクランク式の無段変速機において差動機構や複数の伝達ユニットの偏心量可変機構を潤滑する場合に、それらの軸線上に配置された軸部材の内部の油路を通して潤滑油を供給することが考えられる。しかしながら、回転する軸部材の油路内の潤滑油には回転速度に応じて変化する遠心力が作用するため、潤滑油の流れが遠心力によって影響を受けて流量が変化してしまい、差動機構や伝達ユニットの安定した潤滑が阻害される可能性がある。
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、クランク式の無段変速機の差動機構や伝達ユニットを確実に潤滑することを目的とする。
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源に接続された入力軸の回転を変速して出力軸に伝達する複数の伝達ユニットを軸方向に並置し、前記伝達ユニットの各々は、前記入力軸と一体に回転する偏心カムと、前記偏心カムの外周に相対回転自在に嵌合するリングギヤが形成された偏心部材と、前記入力軸と同軸に配置された変速軸と、前記変速軸に設けられて前記リングギヤに噛合するピニオンと、電動モータにより作動して前記変速軸を前記入力軸に対して相対回転させる差動機構と、前記出力軸に設けたワンウェイクラッチと、前記偏心部材および前記ワンウェイクラッチのアウター部材に接続されて往復運動するコネクティングロッドとを備え、前記差動機構で前記変速軸を前記入力軸に対して相対回転させて前記偏心カムに対する前記偏心部材の位相を変化させることで、前記入力軸の軸線からの前記偏心部材の偏心量を変化させて変速比を変更する車両用動力伝達装置であって、前記差動機構は、一端が固定部に固定されて他端が前記変速軸にシール部材を介して嵌合する固定軸と、前記固定軸の外周にベアリングを介して支持された遊星歯車機構とを備え、前記固定軸は、前記変速軸の軸内に給油する軸方向油路と、前記軸方向油路から分岐して前記遊星歯車機構に給油する径方向油路とを備えることを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記固定軸の前記軸方向油路は、前記固定部側から前記変速軸側に向かって流路断面積が縮小することを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記固定軸は、前記固定部側から前記変速軸側に向かって外径が縮小することを特徴とする車両用動力伝達装置が提案される。
なお、実施の形態の差動機構ケース11cは本発明の固定部に対応し、実施の形態の偏心ディスク19は本発明の偏心部材に対応し、実施の形態の第1〜第3径方向油路43b〜43dは本発明の径方向油路に対応し、実施の形態のボールベアリング45〜49は本発明のベアリングに対応し、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態の第1遊星歯車機構PGS1、第2遊星歯車機構PGS2および偏心遊星歯車機構PGS3は本発明の遊星歯車機構に対応する。
請求項1の構成によれば、偏心部材が入力軸と一体に偏心回転すると、偏心部材に一端を接続されたコネクティングロッドが往復運動し、コネクティングロッドの他端が接続されたアウター部材が往復揺動する。アウター部材が一方向に揺動したときにワンウェイクラッチが係合し、アウター部材が他方向に揺動したときにワンウェイクラッチが係合解除することで、入力軸の回転が変速されて出力軸に伝達される。差動機構で偏心部材の偏心量を変化させると、コネクティングロッドの往復ストロークが変化して動力伝達装置の変速比が変更される。
差動機構は、一端が固定部に固定されて他端が変速軸にシール部材を介して嵌合する固定軸と、固定軸の外周にベアリングを介して支持された遊星歯車機構とを備え、固定軸は、変速軸の軸内に給油する軸方向油路と、軸方向油路から分岐して遊星歯車機構に給油する径方向油路とを備えるので、固定軸の軸方向油路を通して供給される潤滑油に遠心力が作用するのを防止することで、差動機構の回転状態に関わらずに固定軸の外周に配置された遊星歯車機構に対して潤滑油を確実に供給することができ、しかも固定軸の軸方向油路から変速軸の軸内に供給される潤滑油の流量も安定するため、変速軸の外周に配置された複数の伝達ユニットに対しても潤滑油を確実に供給することができる。
また請求項2の構成によれば、固定軸の軸方向油路は、固定部側から変速軸側に向かって流路断面積が縮小するので、各被潤滑部への供給により次第に減少する潤滑油の流量に応じた流路断面積を設定することで、軸方向油路に絞り機能を持たせて変速軸内への確実な給油を可能にすることができる。
また請求項3の構成によれば、固定軸は、固定部側から変速軸側に向かって外径が縮小するので、軸方向油路の流路断面積の縮小に応じて固定軸の外径を縮小することで、固定軸の駄肉を減少させて重量を削減するとともに、固定軸の外径が縮小した分だけ固定軸の外周に配置される遊星歯車機構の外径を縮小して車両用動力伝達装置の小型化を図ることができる。
以下、図1〜図6に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1〜図3に示すように、自動車用のクランク式の無段変速機Tのミッションケース11の一対の側壁11a,11bに入力軸12および出力軸13が相互に平行に支持されており、エンジンEに接続された入力軸12の回転が6個の伝達ユニット14…、出力軸13および図示せぬディファレンシャルギヤを介して図示せぬ駆動輪に伝達される。中空に形成された入力軸12の内部に、その入力軸12と軸線Lを共有する変速軸15が7個のニードルベアリング16…を介して相対回転可能に嵌合する。
6個の伝達ユニット14…の構造は実質的に同一構造であるため、以下、一つの伝達ユニット14を代表として構造を説明する。
伝達ユニット14は変速軸15の外周面に設けられたピニオン17を備えており、このピニオン17は入力軸12に形成した開口12a(図2参照)から露出する。ピニオン17を挟むように、入力軸12の外周に軸線L方向に2分割された円板状の偏心カム18がスプライン結合される。偏心カム18の中心O1は入力軸12の軸線Lに対して距離dだけ偏心している。また6個の伝達ユニット14…の6個の偏心カム18…は、その偏心方向の位相が相互に60°ずつずれている。
偏心カム18の外周面には、円板状の偏心ディスク19の軸線L方向両端面に形成した一対の偏心凹部19a,19aが、一対のニードルベアリング20,20を介して回転自在に支持される。偏心ディスク19の中心O2に対して偏心凹部19a,19aの中心O1(つまり偏心カム18の中心O1)は距離dだけずれている。すなわち、入力軸12の軸線Lおよび偏心カム18の中心O1間の距離dと、偏心カム18の中心O1および偏心ディスク19の中心O2間の距離dとは同一である。
軸線L方向に2分割された偏心カム18の割り面の外周には、その偏心カム18の中心O1と同軸に一対の三日月状のガイド部18a,18aが設けられており、偏心ディスク19の一対の偏心凹部19a,19aの底部間を連通させるように形成されたリングギヤ19bの歯先が、偏心カム18のガイド部18a,18aの外周面に摺動可能に当接する。そして変速軸15のピニオン17が、入力軸12の開口12aを通して偏心ディスク19のリングギヤ19bに噛合する。
入力軸12の右端側はボールベアリング21を介してミッションケース11の右側の側壁11aに直接支持される。また入力軸12の左端側に位置する1個の偏心カム18に一体に設けた筒状部18b(図1参照)が、ボールベアリング22を介してミッションケース11の左側の側壁11bに支持されており、その偏心カム18の内周にスプライン結合された入力軸12の左端側はミッションケース11に間接的に支持される。
コネクティングロッド33は、大端部33a、ロッド部33bおよび小端部33cを備えるもので、大端部33aがローラベアリング32を介して偏心ディスク19の外周に支持される。
出力軸13はミッションケース11の一対の側壁11a,11bに一対のボールベアリング34,35で支持されており、その外周にワンウェイクラッチ36が設けられる。ワンウェイクラッチ36は、コネクティングロッド33の小端部33cにピン37を介して枢支された揺動リンク42と、揺動リンク42の内周に固定されたリング状のアウター部材38と、アウター部材38の内部に配置されて出力軸13に固定されたリング状のインナー部材39と、アウター部材38の内周面とインナー部材39の外周面との間に形成された楔状の空間に配置されて複数個のスプリング40…で付勢された複数個のローラ41…とを備える。
図5および図6に示すように、入力軸12に対して変速軸15を相対回転させて無段変速機Tの変速比を変更するための差動機構23は、入力軸12の軸線L上に配置された第1遊星歯車機構PGS1、第2遊星歯車機構PGS2および偏心遊星歯車機構PGS3を備える。
シングルピニオン型の第1遊星歯車機構PGS1は、サンギヤSaと、リングギヤRaと、キャリヤCaと、キャリヤCaに回転自在に支持されてサンギヤSaおよびリングギヤRaに同時に噛合する複数のピニオンPa…とを備える。シングルピニオン型の第2遊星歯車機構PGS2は、サンギヤSbと、リングギヤRbと、キャリヤCbと、キャリヤCbに回転自在に支持されてサンギヤSbおよびリングギヤRbに同時に噛合する複数のピニオンPb…とを備える。第1遊星歯車機構PGS1のキャリヤCaおよび第2遊星歯車機構PGS2のキャリヤCbは一体に形成される。本実施の形態では、両サンギヤSa,Sbの歯数は同一であり、両リングギヤRa,Rbの歯数は同一であり、両ピニオンPa,Pbの歯数は同一である。第1遊星歯車機構PGS1および第2遊星歯車機構PGS2は本発明の切り離し機構を構成する。
差動機構23の電動モータ24の回転軸に設けた駆動ギヤ25に歯合する中間ギヤ26は、ミッションケース11の一部を構成する差動機構ケース11cに一端を固定した固定軸43に回転自在に支持された従動ギヤ27に噛合する。一方、第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSbは固定軸43の他端に回転不能に固定される。
本発明の減速機構を構成する偏心遊星歯車機構PGS3は、第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSaと一体のサンギヤScと、差動機構ケース11cに固定されたリングギヤRcと、固定軸43の外周に従動ギヤ27を回転自在に支持する軸部の一部を入力軸12の軸線Lに対して偏心させた偏心部27aと、偏心部27aに回転自在に支持されたキャリヤCcと、キャリヤCcに設けられてリングギヤRcに噛合するキャリヤ外歯ギヤCc1と、キャリヤCcに設けられてサンギヤScに噛合するキャリヤ内歯ギヤCc2とを備える。
偏心部27aの軸線L´は固定軸43の軸線Lに対して距離αだけ偏心するため(図6参照)、偏心部27aに支持されたキャリヤCcはサンギヤScおよびリングギヤRcに対して距離αだけ偏心する。その結果、キャリヤ外歯ギヤCc1およびリングギヤRcの噛合部と、キャリヤ内歯ギヤCc2およびサンギヤScの噛合部とは、入力軸12の軸線Lを挟んで位相が相互に180°ずれている。
固定軸43の外径は差動機構ケース11cに固定される一端側から変速軸15に嵌合する他端側に向かって複数段に縮径しており、その内部には一端側から他端側に向かって複数段に縮径する軸方向油路43aが形成される。固定軸43の軸方向油路43aは変速軸15の内部に形成された軸方向油路15aにシール部材54を介して連通し、変速軸15の軸方向油路15aから複数の径方向油路15b…が分岐する。
また固定軸43の軸方向油路43aにおける軸線L方向に離間した三つの位置から、第1径方向油路43b、第2径方向油路43cおよび第3径方向油路43dが径方向に分岐しており、第1径方向油路43bは第1遊星歯車機構PGS1の内周部に開口し、第2径方向油路43cは第2遊星歯車機構PGS2の内周部に開口し、第3径方向油路43dは第3遊星歯車機構PGS3の内周部に開口する。第1〜第3径方向油路43b,43c,43dは、この無段変速機Tを車両に搭載した状態で固定軸43の下面に下向きに開放する。
固定軸43の外周には一端側から他端側に向けて6個のボールベアリング44〜49が配置されており、ボールベアリング44,45の外周には従動ギヤ27が支持され、ボールベアリング46の外周には第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤScが支持され、ボールベアリング47の外周には第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSaが支持され、ボールベアリング48の外周には第2遊星歯車機構PGS2のキャリヤCbが支持され、ボールベアリング49の外周には第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRbが支持される。また従動ギヤ27の外周にはボールベアリング50を介して第3遊星歯車機構PGS3のキャリヤ内歯ギヤCc2が支持され、入力軸12の軸端、すなわち左端に位置する偏心カム18に第1遊星歯車機構PGS1のリングギヤRaを連結するドラム状の連結部材53は、ボールベアリング51を介して第3遊星歯車機構PGS3のサンギヤScの外周に支持され、連結部材53の内周にボールベアリング52を介して第1遊星歯車機構PGS1のキャリヤCaの外周が支持される。
次に、無段変速機Tの一つの伝達ユニット14の作用を説明する。
図2および図4(A)〜図4(D)から明らかなように、入力軸12の軸線Lに対して偏心ディスク19の中心O2が偏心しているとき、エンジンEによって入力軸12が回転するとコネクティングロッド33の大端部33aが軸線Lまわりに偏心回転することで、コネクティングロッド33が往復運動する。
その結果、コネクティングロッド33が往復運動する過程で図中右側に押されると、揺動リンク42と共にアウター部材38が図2において反時計方向に揺動し、スプリング40…に付勢されたローラ41…がアウター部材38およびインナー部材39間の楔状の空間に噛み込み、アウター部材38およびインナー部材39がローラ41…を介して結合されることで、ワンウェイクラッチ36が係合してコネクティングロッド33の動きが出力軸13に伝達される。逆にコネクティングロッド33が往復運動する過程で図中左側に引かれると、揺動リンク42と共にアウター部材38が図2において時計方向に揺動し、ローラ41…がスプリング40…を圧縮しながらアウター部材38およびインナー部材39間の楔状の空間から押し出され、アウター部材38およびインナー部材39が相互にスリップすることで、ワンウェイクラッチ36が係合解除してコネクティングロッド33の動きが出力軸13に伝達されなくなる。
このようにして、入力軸12が1回転する間に、入力軸12の回転が所定時間だけ出力軸13に伝達されるため、入力軸12が連続回転すると出力軸13は間欠回転する。6個の伝達ユニット14…の偏心ディスク19…の偏心量εは全て同一であるが、偏心方向の位相が相互に60°ずつずれているため、6個の伝達ユニット14…が入力軸12の回転を交互に出力軸13に伝達することで、出力軸13は連続的に回転する。
このとき、偏心ディスク19の偏心量εが大きいほど、コネクティングロッド33の往復ストロークが大きくなって出力軸13の1回の回転角が増加し、無段変速機Tの変速比が小さくなる。逆に、偏心ディスク19の偏心量εが小さいほど、コネクティングロッド33の往復ストロークが小さくなって出力軸13の1回の回転角が減少し、無段変速機Tの変速比が大きくなる。そして偏心ディスク19の偏心量εがゼロになると、入力軸12が回転してもコネクティングロッド33が移動を停止するために出力軸13は回転せず、無段変速機Tの変速比が最大(無限大)になる。
入力軸12に対して変速軸15が相対回転しないとき、つまり入力軸12および変速軸15が同一速度で回転するとき、無段変速機Tの変速比は一定に維持される。差動機構23により入力軸12に対して変速軸15を相対回転させると、各伝達ユニット14のピニオン17にリングギヤ19bを噛合させた偏心ディスク19の偏心凹部19a,19aが、入力軸12と一体の偏心カム18のガイド部18a,18aに案内されて回転し、入力軸12の軸線Lに対する偏心ディスク19の中心O2の偏心量εが変化する。
図4(A)は変速比が最小の状態(変速比:TD)を示すもので、このとき入力軸12の軸線Lに対する偏心ディスク19の中心O2の偏心量εは、入力軸12の軸線Lから偏心カム18の中心O1までの距離dと、偏心カム18の中心O1から偏心ディスク19の中心O2までの距離dとの和である2dに等しい最大値になる。入力軸12に対して変速軸15が相対回転すると、入力軸12と一体の偏心カム18に対して偏心ディスク19が相対回転することで、図4(B)および図4(C)に示すように、入力軸12の軸線Lに対する偏心ディスク19の中心O2の偏心量εは最大値の2dから次第に減少して変速比が増加する。入力軸12に対して変速軸15が更に相対回転すると、入力軸12と一体の偏心カム18に対して偏心ディスク19が更に相対回転することで、図4(D)に示すように、ついには入力軸12の軸線Lに偏心ディスク19の中心O2が重なり合って偏心量εがゼロになり、変速比が最大(無限大)の状態(変速比:UD)になって出力軸13に対する動力伝達が遮断される。
次に、差動機構23の作用を説明する。
図5および図6において、電動モータ24を駆動すると、その回転が駆動ギヤ25、中間ギヤ26および従動ギヤ27を介して第3遊星歯車機構PGS3の偏心部27aに入力され、偏心部27aの外周に支持されたキャリヤCcが偏心回転する。固定されたリングギヤRcにキャリヤ外歯ギヤCc1が歯合するキャリヤCcは自転しながらゆっくりと公転し、キャリヤCcのキャリヤ内歯ギヤCc2に歯合する第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSaが、偏心部27aの回転に対して大きく減速されて回転する。このように、第3遊星歯車機構PGS3は、電動モータ24の回転を減速して第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSaに伝達する減速機構として機能する。
電動モータ24が停止した状態では第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSaが停止し、また第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSbも差動機構ケース11cに固定されて停止している。この状態で入力軸12に連結部材53を介して連結された第1遊星歯車機構PGS1のリングギヤRaが入力軸12の回転数であるN1で回転すると、第1遊星歯車機構PGS1のキャリヤCaおよび第2遊星歯車機構PGS2のキャリヤCbが一体に形成されているため、第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRbもN1で回転する。その結果、変速軸15は入力軸12と同じ回転数N1で回転し、偏心ディスク19…の偏心量は一定に維持される。このように、電動モータ24が停止した状態では、入力軸12および変速軸15は共にN1で回転して相対回転が発生しないため、偏心ディスク18の偏心量εは変化せず、変速比は一定に維持される。
入力軸12および変速軸15が共にN1で回転している状態で電動モータ24を駆動すると、第3遊星歯車機構PGS3を介して第1遊星歯車機構PGS1のサンギヤSaが回転し、差動機構ケース11cに固定された第2遊星歯車機構PGS2のサンギヤSbとの間に差回転が発生する。第1遊星歯車機構PGS1のキャリヤCaおよび第2遊星歯車機構PGS2のキャリヤCbは一体に形成されているため、第1遊星歯車機構PGS1のリングギヤRaおよび第2遊星歯車機構PGS2のリングギヤRbには、二つのサンギヤSa,Sb間の差回転に応じた差回転が発生し、変速軸15の回転数は電動モータ24が停止していたときのN1から変化する。このように、入力軸12および変速軸15が共に回転数N1で回転している状態で電動モータ24を駆動すると、その回転方向および回転数に応じた差回転が変速軸15に発生し、変速軸15の回転数がN1からずれることで、偏心ディスク18の偏心量εが変化して無段変速機Tの変速比が変更される。
次に、差動機構23および伝達ユニット14…の偏心量可変機構の潤滑について説明する。
図6において、図示せぬオイルポンプから供給される潤滑油は、差動機構ケース11cの壁部内に形成された油路から固定軸43の内部の軸方向油路43aに供給され、そこから変速軸15の内部の軸方向油路15aに供給される。
固定軸43の軸方向油路43aから第1径方向油43bを経て差動機構ケース11cの内部に出た潤滑油は、差動機構ケース11cの内部で回転する第3遊星歯車機構PGS3の各部材に当たって飛散し、ボールベアリングやギヤの歯合部等を潤滑する。また固定軸43の軸方向油路43aから第2径方向油43cを経て差動機構ケース11cの内部に出た潤滑油は、差動機構ケース11cの内部で回転する第1遊星歯車機構PGS1の各部材に当たって飛散し、ボールベアリングやギヤの歯合部等を潤滑する。また固定軸43の軸方向油路43aから第3径方向油43dを経て差動機構ケース11cの内部に出た潤滑油は、差動機構ケース11cの内部で回転する第2遊星歯車機構PGS2の各部材に当たって飛散し、ボールベアリングやギヤの歯合部等を潤滑する。
固定軸43は差動機構ケース11cに回転不能に固定されているため、差動機構23が作動して可動部が回転する状態でも、その軸方向油路43aおよび第1〜第3径方向油路43b〜43dの内部に存在する潤滑油に遠心力が作用することはなく、遠心力の影響を排除しながら固定軸43から差動機構ケース11cの内部に潤滑油を確実に供給して第1遊星歯車機構PGS1、第2遊星歯車機構PGS2および第3遊星歯車機構PGS3等を潤滑することができる。しかも固定軸43の第1〜第3径方向油路43b〜43dは下向きに開口するため、固定軸43の内部の潤滑油を重力を利用して差動機構ケース11cの内部に効率的に供給することができる。
このようにして、固定軸43から第1〜第3径方向油路43b〜43dを通過して差動機構ケース11cの内部に供給される潤滑油の量が安定するため、固定軸43から第1〜第3径方向油路43b〜43dを通過せずに変速軸15の軸方向油路15aに供給される潤滑油の量も安定する。また固定軸43の軸方向油路43a内の潤滑油は、第1径方向油路43b、第2径方向油路43cおよび第3径方向油43dを順番に通過するため、軸方向油路43a内を流れる潤滑油の流量は上流側から下流側に向けて次第に減少するが、それに応じて軸方向油路43aの流路断面積も上流側から下流側に向けて次第に減少するため、軸方向油路43aの絞り効果で潤滑油は流速を落とすことなくスムーズに流れることが可能となり、第1径方向油路43b、第2径方向油路43cおよび第3径方向油路43dを通過しなかった残りの潤滑油は、軸方向油路43aの下流端から変速軸15の軸方向油路15aに確実に供給され、そこから径方向油路15…を通過して各伝達ユニット14のピニオンリングギヤ19b、ニードルベアリング16、ニードルベアリング20、ニードルベアリング32等からなる偏心量可変機構を確実に潤滑することができる。
また固定軸43の外径は、軸方向油路43aの流路断面積の縮小に応じて上流側から下流側に向かって縮小するので、固定軸43の駄肉を減少させて重量を削減するとともに、固定軸43の外周に配置される第1遊星歯車機構PGS1、第2遊星歯車機構PGS2および第3遊星歯車機構PGS3の外径を固定軸43の外径の縮小分だけ縮小し、無段変速機Tの小型化を図ることができる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、差動機構23の構造は実施の形態に限定されるものではない。
また本発明の駆動源は実施の形態のエンジンEに限定されず、電動モータ等の他の駆動源であっても良い。
11c 差動機構ケース(固定部)
12 入力軸
13 出力軸
14 伝達ユニット
15 変速軸
17 ピニオン
18 偏心カム
19 偏心ディスク(偏心部材)
19b リングギヤ
23 差動機構
24 電動モータ
33 コネクティングロッド
36 ワンウェイクラッチ
38 アウター部材
43 固定軸
43a 軸方向油路
43b 第1径方向油路(径方向油路)
43c 第2径方向油路(径方向油路)
43d 第3径方向油路(径方向油路)
45〜49 ボールベアリング(ベアリング)
54 シール部材
E エンジン(駆動源)
L 入力軸の軸線
PGS1 第1遊星歯車機構(遊星歯車機構)
PGS2 第2遊星歯車機構(遊星歯車機構)
PGS3 偏心遊星歯車機構(遊星歯車機構)
ε 偏心部材の偏心量
12 入力軸
13 出力軸
14 伝達ユニット
15 変速軸
17 ピニオン
18 偏心カム
19 偏心ディスク(偏心部材)
19b リングギヤ
23 差動機構
24 電動モータ
33 コネクティングロッド
36 ワンウェイクラッチ
38 アウター部材
43 固定軸
43a 軸方向油路
43b 第1径方向油路(径方向油路)
43c 第2径方向油路(径方向油路)
43d 第3径方向油路(径方向油路)
45〜49 ボールベアリング(ベアリング)
54 シール部材
E エンジン(駆動源)
L 入力軸の軸線
PGS1 第1遊星歯車機構(遊星歯車機構)
PGS2 第2遊星歯車機構(遊星歯車機構)
PGS3 偏心遊星歯車機構(遊星歯車機構)
ε 偏心部材の偏心量
Claims (3)
- 駆動源(E)に接続された入力軸(12)の回転を変速して出力軸(13)に伝達する複数の伝達ユニット(14)を軸方向に並置し、
前記伝達ユニット(14)の各々は、
前記入力軸(12)と一体に回転する偏心カム(18)と、
前記偏心カム(18)の外周に相対回転自在に嵌合するリングギヤ(19b)が形成された偏心部材(19)と、
前記入力軸(12)と同軸に配置された変速軸(15)と、
前記変速軸(15)に設けられて前記リングギヤ(19b)に噛合するピニオン(17)と、
電動モータ(24)により作動して前記変速軸(15)を前記入力軸(12)に対して相対回転させる差動機構(23)と、
前記出力軸(13)に設けたワンウェイクラッチ(36)と、
前記偏心部材(19)および前記ワンウェイクラッチ(36)のアウター部材(38)に接続されて往復運動するコネクティングロッド(33)とを備え、
前記差動機構(23)で前記変速軸(15)を前記入力軸(12)に対して相対回転させて前記偏心カム(18)に対する前記偏心部材(19)の位相を変化させることで、前記入力軸(12)の軸線(L)からの前記偏心部材(19)の偏心量(ε)を変化させて変速比を変更する車両用動力伝達装置であって、
前記差動機構(23)は、一端が固定部(11c)に固定されて他端が前記変速軸(15)にシール部材(54)を介して嵌合する固定軸(43)と、前記固定軸(43)の外周にベアリング(45〜49)を介して支持された遊星歯車機構(PGS1,PGS2,PGS3)とを備え、前記固定軸(43)は、前記変速軸(15)の軸内に給油する軸方向油路(43a)と、前記軸方向油路(43a)から分岐して前記遊星歯車機構(PGS1,PGS2,PGS3)に給油する径方向油路(43b,43c,43d)とを備えることを特徴とする車両用動力伝達装置。 - 前記固定軸(43)の前記軸方向油路(43a)は、前記固定部(11c)側から前記変速軸(15)側に向かって流路断面積が縮小することを特徴とする、請求項1に記載の車両用動力伝達装置。
- 前記固定軸(43)は、前記固定部(11c)側から前記変速軸(15)側に向かって外径が縮小することを特徴とする、請求項2に記載の車両用動力伝達装置。
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