JP6586659B2 - 耐熱性グリコシド加水分解酵素 - Google Patents
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Description
[1] (A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ65℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有するポリペプチド、又は
(C)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ65℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有するポリペプチド、
からなるグリコシド加水分解酵素触媒領域を有することを特徴とする、耐熱性グリコシド加水分解酵素。
[2] カルシウムイオン存在下において、70℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有する、前記[1]の耐熱性グリコシド加水分解酵素。
[3] (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ65℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ65℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有するポリペプチドをコードする塩基配列、又は
(f)配列番号2で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ65℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有するポリペプチドをコードする塩基配列、
からなるグリコシド加水分解酵素触媒領域をコードする領域を有する、ポリヌクレオチド。
[4] 前記ポリペプチドが、カルシウムイオン存在下において、70℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性とカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有する、前記[3]のポリヌクレオチド。
[5] 前記[3]又は[4]のポリヌクレオチドが組込まれており、
宿主細胞において、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドを発現し得る、発現ベクター。
[6] 前記[5]の発現ベクターが導入されている、形質転換体。
[7] 真核微生物である、前記[6]の形質転換体。
[8] 前記[6]又は[7]の形質転換体内で、耐熱性グリコシド加水分解酵素を生産することを含む、耐熱性グリコシド加水分解酵素の製造方法。
[9] 前記[1]若しくは[2]の耐熱性グリコシド加水分解酵素、又は前記[3]若しくは[4]のポリヌクレオチドがコードする耐熱性グリコシド加水分解酵素と、少なくとも1種のその他のグリコシド加水分解酵素とを含む、グリコシド加水分解酵素混合物。
[10] セルロースを含む材料を、前記[1]若しくは[2]の耐熱性グリコシド加水分解酵素、又は前記[3]若しくは[4]のポリヌクレオチドがコードする耐熱性グリコシド加水分解酵素、前記[6]若しくは[7]の形質転換体に接触させることにより、セルロース分解物を生産することを含む、セルロース分解物の製造方法。
また、本発明に係るポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドが組込まれた発現ベクター、当該発現ベクターが導入されている形質転換体は、本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素の製造に好適に用いられる。
糸状菌、細菌、アーキアを含む多くの微生物は難培養性であり、土壌など微生物環境に生息する菌の99%が未知の菌であるといわれている。特に、高温環境に生息する微生物の培養は極めて困難であり、現在の微生物の単離を目指す培養技術では、自然界から採取された天然サンプル中に生息する微生物の0.1%以下を単離しているにすぎないと考えられている。この微生物の難培養性が、耐熱性グリコシド加水分解酵素の開発が進まない一因である。よって、耐熱性グリコシド加水分解酵素の開発には、従来のような単離培養技術に頼らないアプローチが必要である。
また、エンドグルカナーゼ活性とは、β−1,4−グリコシド結合をエンド型に加水分解する活性を意味する。
(A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下で、PSAを基質とした加水分解活性及びCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチド、
(C)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下で、PSAを基質とした加水分解活性及びCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチド、
(D)配列番号1で表されるアミノ酸配列中の51〜485番目のアミノ酸からなる領域のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、少なくとも65℃、pH4.0の条件下でPSAを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドと、配列番号1で表されるアミノ酸配列中の530〜823番目のアミノ酸からなる領域のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、少なくとも65℃、pH4.0の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドとが直接又はリンカーを介して連結されたポリペプチド、
(E)配列番号1で表されるアミノ酸配列中の51〜485番目のアミノ酸からなる領域と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、少なくとも65℃、pH4.0の条件下でPSAを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドと、配列番号1で表されるアミノ酸配列中の530〜823番目のアミノ酸からなる領域と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、少なくとも65℃、pH4.0の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドとが直接又はリンカーを介して連結されたポリペプチド。
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素をコードする。当該耐熱性グリコシド加水分解酵素は、当該ポリヌクレオチドが組込まれた発現ベクターを宿主に導入することにより、当該宿主の発現系を利用して生産することができる。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下で、PSAを基質とした加水分解活性及びCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下で、PSAを基質とした加水分解活性及びCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(d)配列番号1で表されるアミノ酸配列中の51〜485番目のアミノ酸からなる領域のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下でPSAを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドと、配列番号1で表されるアミノ酸配列中の530〜823番目のアミノ酸からなる領域のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドとが直接又はリンカーを介して連結されたポリペプチドをコードする塩基配列、
(e)配列番号1で表されるアミノ酸配列中の51〜485番目のアミノ酸からなる領域と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下でPSAを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドと、配列番号1で表されるアミノ酸配列中の530〜823番目のアミノ酸からなる領域と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドとが直接又はリンカーを介して連結されたポリペプチドをコードする塩基配列、
(f)配列番号2で表される塩基配列と80%以上の配列同一性を有し、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下で、PSAを基質とした加水分解活性及びCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(g)配列番号2で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドの塩基配列であり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下で、PSAを基質とした加水分解活性及びCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(h)配列番号2で表される塩基配列の153〜1455番目の塩基からなる領域と80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下でPSAを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列と、配列番号2で表される塩基配列の1590〜2469番目の塩基からなる領域と80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ少なくとも65℃、pH4.0の条件下でCMCを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列とが直接又はリンカーを介して連結された塩基配列。
本発明及び本願明細書において、「ポリヌクレオチドにおいて塩基が置換する」とは、ポリヌクレオチドを構成している塩基が別の塩基に変わることを意味する。
本発明及び本願明細書において、「ポリヌクレオチドにおいて塩基が付加される」とは、ポリヌクレオチド中に新たな塩基が挿入されることを意味する。
本発明に係る発現ベクターは、前記本発明に係るポリヌクレオチドが組込まれており、宿主細胞において、少なくとも65℃、pH4.0の条件下でセロビオハイドロラーゼ活性及びエンドグルカナーゼ活性を有するポリペプチドを発現し得る。すなわち、前記本発明に係るポリヌクレオチドが、前記本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素を発現し得る状態で組込まれた発現ベクターである。具体的には、上流から、プロモーター配列を有するDNA、前記本発明に係るポリヌクレオチド、ターミネーター配列を有するDNAからなる発現カセットとして発現ベクターに組込まれていることが必要である。なお、ポリヌクレオチドの発現ベクターへの組込みは、周知の遺伝子組み換え技術を用いることにより行うことができ、市販の発現ベクター作製キットを用いてもよい。
本発明に係る形質転換体は、本発明に係る発現ベクターが導入されている。当該形質転換体中では、本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素を発現させ得る。従来公知のグリコシド加水分解酵素は、現宿主のレンジが狭い、つまり、異種発現が難しいものが多い。これに対して、本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素は、大腸菌、酵母、糸状菌、高等植物葉緑体等、広範な発現宿主に発現させることができる。このため、発現ベクターを導入する宿主としては、大腸菌等の原核細胞であってもよく、酵母、糸状菌、昆虫培養細胞、哺乳培養細胞、又は植物細胞等の真核細胞であってもよい。大腸菌の形質転換体を培養することにより、本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素を、より簡便かつ大量に生産することができる。一方で、真核細胞内ではタンパク質に糖鎖修飾が施されるため、真核細胞の形質転換体を用いることにより、原核細胞の形質転換体を用いた場合よりも、より耐熱性に優れた耐熱性グリコシド加水分解酵素を生産し得る。
本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素の製造方法は、前記本発明に係る形質転換体内で、耐熱性グリコシド加水分解酵素を生産する方法である。前記本発明に係るポリヌクレオチドが、発現の時期等の制御能を有していないプロモーターの下流に組込まれている発現ベクターを用いて製造された形質転換体内では、本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素が恒常的に発現している。一方で、特定の化合物や温度条件等によって発現を誘導するいわゆる発現誘導型プロモーターを用いて製造された形質転換体に対しては、それぞれの発現誘導条件に適した誘導処理を行うことにより、当該形質転換体内に耐熱性グリコシド加水分解酵素を発現させる。
前記本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素、又は前記本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素の製造方法によって製造された耐熱性グリコシド加水分解酵素と、少なくとも1種のその他のグリコシド加水分解酵素を含むグリコシド加水分解酵素混合物として使用することもできる。前記本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素の製造方法によって製造された耐熱性グリコシド加水分解酵素は、形質転換体内に含まれた状態のものであってもよく、形質転換体から抽出又は精製されたものであってもよい。本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素を、その他のグリコシド加水分解酵素との混合物としてセルロースの分解反応に用いることにより、難分解性であるリグノセルロースをより効率よく分解させることができる。
本発明に係るセルロース分解物の製造方法は、本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素により、セルロースを分解して分解物を得る方法である。具体的には、セルロースを含む材料を、本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素、本発明に係る形質転換体、又は本発明に係る耐熱性グリコシド加水分解酵素の製造方法によって製造された耐熱性グリコシド加水分解酵素に接触させることにより、セルロース分解物を生産する。
<1> 堆肥培養サンプルからのDNA抽出及び全ゲノムシーケンス(Whole Genome Sequence、WGS)
耐熱性グリコシド加水分解酵素(至適温度:65℃以上)の遺伝子探索を目的として、堆肥培養サンプルを構成する微生物叢ゲノムDNAの塩基配列解読を行った。
堆肥培養サンプルは、次のようにして調製した。まず、堆肥を採取した。採取時の堆肥の温度は、20〜68℃であった。次いで、表1に記載の改変AGS液体培地20mLに、採取した堆肥約0.5gと、炭素源として厚紙1.5cm角2枚(約250mg、Gel−Blotting Paper GB005、Whatman社製)及び再生セルロース製透析チューブ(スペクトラRC透析チューブ ポア7 、Spectrum Laboratories社製)1.2cm×1.5cmを1枚添加し、125mL容バッフル付き三角フラスコを用いて65℃、120rpmで回転振盪培養した。培養1週間後に、当該三角フラスコ内の炭素源の消失及び菌の増殖を確認した後、培養液0.5mLを新たな改変AGS液体培地20mLに植え継ぎ、前記と同様に炭素源を添加して培養した。植え継ぎを3回繰り返した後、遠心分離処理(5,000rpm、10分間、4℃)によって菌体を回収した。
堆肥培養サンプルSD5AH4GについてゲノムDNAの配列解読を行い、平均リード長532bp、総リード数2,471,267個、総ゲノム解読量1.324Gbpの全ゲノムシーケンス(WGS)データセットを得た。
Roche 454の出力(sffファイル)をPyroBayes(Quinlan et al., Nature Methods,2008,vol.5,p.179-81.)にて再ベースコールし、FASTA形式の配列ファイル及びQuality値ファイルを取得した。得られたシーケンスリードは、端を切り落とし品質を上げ、454 Life SciencesのアセンブルソフトウェアNewbler version 2.5.3を使ってアセンブルした。アセンブルは、「minimum acceptable overlap match (mi)=0.9」、「option:−large(for large or complex genomes,speeds up assembly,but reduces accuracy.)」に設定して行った。
100bp以上にアセンブルされた総コンティグ長は、 合計38,078,551bpであり、このデータセットをセルラーゼ酵素遺伝子解析に用いた。リード総数2,471,267リードのうち2,858,018リードが、平均で2,617bp以上のコンティグにアセンブルされ(計14,551コンティグ)、このうち最大コンティグ長は114,826bpであった。
UniProtデータベース(http://www.uniprot.org/)からEC番号が3.2.1.4(セルラーゼ)、3.2.1.21(β−グルコシダーゼ)、3.2.1.37(β−キシロシダーゼ) 、3.2.1.91(セルロース 1,4−β−セロビオシダーゼ)、3.2.1.8(エンド1,4−β−キシラナーゼ)の配列をダウンロードし(アクセス日:2011/12/9)、これらグリコシド加水分解酵素遺伝子のプロテオームローカルデータベースを構築した。アノテーションソフトウェアMeteGeneAnotator(Noguchi et al.,MetaGeneAnnotator: Detecting Species-Specific Patterns of Ribosomal Binding Site for Precise Gene Prediction in Anonymous Prokaryotic and Phage Genomes, DNA Res. 2008, 15, 387-396.)を使用して、前記<2>で得たコンティグ配列から、遺伝子領域(=オープンリーディングフレーム)を推定した。推定されたORFからグリコシド加水分解酵素遺伝子を抽出するために、BLASTP(blastall ver. 2.2.18)を使い、前記ローカルデータベースに参照した。BLASTPのoption条件は、「Filter query sequence=false」、「Expectation value(E)<1e−20」[以下、デフォルト値:Cost to open a gap=−1、Cost to extended gap=−1、X dropoff value for gapped alignment=0、Threshold for extending hits=0、Word size=default]とし、ヒットした配列をグリコシド加水分解酵素遺伝子として収集した。
前記<3>で収集されたセルラーゼ、エンドヘミセルラーゼ、脱分岐酵素等のグリコシド加水分解酵素を含む配列についてについて、タンパク質の機能領域配列データベースpfam HMMs(Pfam version 23.0 and HMMER v2.3;Finn et al.,Nucleic Acids Research Database,2010,Issue 38,p.D211-222)を基準に、機能分類を行った。具体的には、タンパク質モチーフ検索プログラムHMMER(Durbin et al.,‘The theory behind profile HMMs. Biological sequence analysis: probabilistic models of proteins and nucleic acids’, 1998,Cambridge University Press.;hmmpfam(Ver.2.3.2)、E−value cutoff<1e−5; Database=Pfam_fs(models that can be used to find fragments of the represented domains in a sequence.))を用いて、Pfam領域データベースとの相同性からグリコシド加水分解酵素(GH)ファミリーを決定した。
オープンリーディングフレームSD5AH4G−4は、863アミノ酸残基からなるポリペプチド(配列番号1)をコードし、1位のアミノ酸残基がメチオニン(M)から開始し、3’末端はリンカー配列で終わる終始コドンのないアミノ酸配列であった。51位のトリプトファン(W)から485位のイソロイシン(I)までの435アミノ酸残基がGHファミリー6のドメインをコードしていると推測され、プロテオバクテリア門スチグマテラ・オーランチアカが持つエキソグルカナーゼA(Genbank:WP_002613368.1)とGH6触媒領域について76%の配列同一性を示す配列である。また、リンカー配列を介して530番目のバリン(V)から823番目のアルギニン(R)までの294アミノ酸残基がGHファミリー5のドメインをコードしていると推測され、ファーミキューテス門パエニバシラス・サブスピーシーズKSM−N145が持つエンドグルカナーゼ(Genbank:BAF62085.1)とGH5触媒領域について73%の配列同一性を示す配列である。配列同一性は、いずれも、ClustalWアルゴリズムにより算出した。それぞれの領域ごとに相同性を有するアミノ酸配列は存在するが、GHファミリー6のセロビオハイドロラーゼ触媒ドメインの後ろにGHファミリー5のエンドグルカナーゼ触媒ドメインを持つアミノ酸配列は今までに報告されておらず、オープンリーディングフレームSD5AH4G−4は全く新規な配列である。なお、オープンリーディングフレームSD5AH4G−4には、分泌シグナル予測ソフト(SignalP 4.1)による分泌シグナル配列は予測されなかった。
配列番号5で表される塩基配列からなるフォワードプライマー(5’−CACCATGGAGGTTTTGTGGGTTGGT−3’:配列番号3で表される塩基配列の5’末端側に4塩基(CACC)付加したもの。当該付加配列中、5’側のCACCはベクターに挿入するための配列である。)と配列番号4で表される塩基配列からなるリバースプライマー(5’−TTAACCGCTCGCGCTAGGCGTC−3’)を用い、ゲノムDNA増幅キット(GenomiPhi V2 DNA Amplification Kit、GEヘルスケア社製)で増幅した堆肥培養サンプル由来DNAをテンプレートにして、PCRを行った。配列番号3で表される塩基配列は、配列番号2で表される塩基配列の1〜21位の塩基からなる部分配列と相同的な(同一の)塩基配列である。また、配列番号4で表される塩基配列は、配列番号2で表される塩基配列の2,571〜2,589位の塩基からなる部分配列と相補的な塩基配列である。増幅したPCR産物はChampion pET Directional TOPO(登録商標) Expression Kits(ライフテクノロジーズ社製)のpET101/D−TOPOベクターに挿入し、One Shot TOP10株に形質転換した。コロニーPCRによりポジティブクローンを選抜し、100mg/Lアンピシリンを含むLB液体培地を用いて37℃、200rpmで17〜20時間培養した後、ミニプレップキット(Wizard(登録商標) plus SV Minipreps DNA Purification System、Promega社製)を用いてプラスミドの調製を行った。調製したプラスミドは、シーケンサー(ライフテクノロジーズ社の3730 DNA Analyzer)を用いて配列確認を行った。
酵素タンパク質の精製には、C末端側にヒスチジンタグを付加させたタンパク質を用いた。前記pET101/D−TOPOベクターに耐熱性グリコシド加水分解酵素候補遺伝子SD5AH4G−4A−17のストップコドンを外したものを挿入することにより、ヒスチジンタグを付加したSD5AH4G−4A−17遺伝子を持つプラスミドを得、得られたプラスミドをヒートショック法によりタンパク質発現用大腸菌へ導入した。形質転換用コンピテントセルは、Rosetta−gamiB(DE3)pLysS株(Merck社製)を用いた。目的の遺伝子をもつ大腸菌を、100mg/Lアンピシリンを含むLB培地に植菌し、OD600=0.2〜0.8程度まで培養した後、IPTG(Isopropyl−β−D(−)−thiogalactopyranoside)を添加し、さらに5〜20時間培養することによって、目的タンパク質の発現誘導を行った。培養後、遠心分離処理を行って大腸菌を回収し、培養液の1/10容量の50mM Tris−HClバッファー(pH8)を加えて懸濁した。その後、超音波破砕装置astrason3000(MISONIX社製)を用いて、5分間破砕−5分間休止工程を7〜8サイクル繰返し、目的タンパク質を含む遺伝子組換え大腸菌の粗抽出物を得た。当該遺伝子組換え大腸菌粗抽出物をフィルター(孔径φ=0.45μm、ミリポア社製)で濾過し、得られた濾液を遺伝子組換え大腸菌破砕上清とした。
SD5AH4G−4A−17遺伝子がコードする酵素タンパク質(SD5AH4G−4A−17)のPSAを基質としたセロビオハイドロラーゼ活性を調べた。計測には、前記<7>で得られた精製酵素を0.05MのTris−HClバッファー(pH8.0)で1mg/mLに希釈して用いた。
酵素タンパク質SD5AH4G−4A−17のCMC(Sigma社製)を基質としたエンドグルカナーゼ活性を調べた。測定は、反応液の組成を、15μLの希釈した精製酵素、10μLの精製水、 25μLの200mM マッキルベインバッファー(pH4.0)、50μLの1質量% CMC溶液とした以外は、前記<8>と同様にして、酵素の加水分解によって生成した還元糖量を求め、比活性(U/mg)を算出した。
酵素タンパク質SD5AH4G−4A−17に対して、様々なセルロース基質及びヘミセルロース基質に対する加水分解活性を調べた。基質として、PSA、アビセル粉末、CMC(Sigma社製)、キシラン(カバノキ由来、Sigma社製)、リケナン(MP Biomedicals社製)、ラミナリン(Laminaria digitata由来、Sigma社製)、PNPC(p−ニトロフェニル−β−D−セロビオシド、Sigma社製)、PNPG(p−ニトロフェニル−β−D−グルコピラノシド、Sigma社製)を用いた。
SD5AH4G−4A−17のPSA加水分解活性の温度依存性を調べた。具体的には、反応温度を、20、30、40、50、60、65、70、75、80、又は85℃とした以外は、前記<8>と同様に行い、酵素の加水分解によって生成した還元糖量を求め、PSA加水分解活性(U/mg)を算出した。
また、10μLの精製水の代わりに10mM CaCl2水溶液を加えた反応液でも同様に測定し、酵素の加水分解によって生成した還元糖量を求め、PSA加水分解活性(U/mg)を算出した。
Differential scanning fluorimetry (DSF)は、蛍光色素とリアルタイムPCR装置を用いて、タンパク質の熱変性を計測する方法の一つであり、様々なタンパク質に応用可能である。SYPRO Orange等、DSFに使われる蛍光色素は、疎水性部位と結合する無極性条件下で蛍光を発し、一方、水に溶けた極性条件下では発光が抑えられる。通常、タンパク質はその熱変性温度において折畳み構造が解け、内部にある疎水性部位がタンパク質表面に露出する。この露出した疎水性部位にSYPRO Orangが結合すると、波長470〜480nmの励起光により、波長595nm付近にピークを持つ強い蛍光を発する。タンパク質溶液の温度を一定間隔で段階的に上昇させ、蛍光強度を計測することにより、熱崩壊温度(=蛍光強度の変化点)が算出される。
具体的には、96穴PCRプレート(Multiplate 96 Well PCR Plate MLL−9651、Bio−Rad社製)のウェルに100倍希釈したSYPRO Orange(ライフテクノロジーズ社製)を2μL、濃度1mg/mLの精製酵素溶液を1μL、200mM 酢酸バッファー(pH4.0)を5μL、精製水、又は精製水と10mM CaCl2を1:1で混合した溶液、又は精製水と50mM EDTAを2:1で混合した溶液を12μL加え、各ウェルの容積を20μLとした。PCRプレートはOptical 8連フラットキャップ(Bio−Rad社製)でシールし、リアルタイムPCR装置(CFX96 Touch Real−Time PCR System、Bio−Rad社製)で0.2℃ずつ、30℃から100℃までウェルの温度を上昇させ、ターゲット温度が達成されてから10秒間経過した後、各ウェルの蛍光強度を同時計測した。波長帯域450〜490nmの光発光ダイオード(LED)によりSYPRO Orangeを励起し、SYPRO Orange放射光は560〜580nmレンジの帯域通過フィルターを通し、CCDカメラで蛍光強度の計測を行い、蛍光強度変化を温度の関数としてプロットした。リアルタイムPCRに付属の解析ソフトウェアCFX Manager(Bio−Rad社製)を使い、データ解析を行った。各計測は、3回の独立した試行により行い、平均値と標準誤差を求めた。
Claims (10)
- (A)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(B)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ65℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有するポリペプチド、又は
(C)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ65℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有するポリペプチド、
からなるグリコシド加水分解酵素触媒領域を有することを特徴とする、耐熱性グリコシド加水分解酵素。 - カルシウムイオン存在下において、70℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有する、請求項1に記載の耐熱性グリコシド加水分解酵素。
- (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうちの1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ65℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有するポリペプチドをコードする塩基配列、
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ65℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有するポリペプチドをコードする塩基配列、又は
(f)配列番号2で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ65℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有するポリペプチドをコードする塩基配列、
からなるグリコシド加水分解酵素触媒領域をコードする領域を有する、ポリヌクレオチド。 - 前記ポリペプチドが、カルシウムイオン存在下において、70℃、pH4.0の条件下で、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性とカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を少なくとも有する、請求項3に記載のポリヌクレオチド。
- 請求項3又は4に記載のポリヌクレオチドが組込まれており、
宿主細胞において、リン酸膨潤アビセルを基質とした加水分解活性及びカルボキシメチルセルロースを基質とした加水分解活性を有するポリペプチドを発現し得る、発現ベクター。 - 請求項5に記載の発現ベクターが導入されている、形質転換体。
- 真核微生物である、請求項6に記載の形質転換体。
- 請求項6又は7に記載の形質転換体内で、耐熱性グリコシド加水分解酵素を生産することを含む、耐熱性グリコシド加水分解酵素の製造方法。
- 請求項1若しくは2に記載の耐熱性グリコシド加水分解酵素、又は請求項3若しくは4に記載のポリヌクレオチドがコードする耐熱性グリコシド加水分解酵素と、少なくとも1種のその他のグリコシド加水分解酵素とを含む、グリコシド加水分解酵素混合物。
- セルロースを含む材料を、請求項1若しくは2に記載の耐熱性グリコシド加水分解酵素、請求項3若しくは4に記載のポリヌクレオチドがコードする耐熱性グリコシド加水分解酵素、又は請求項6若しくは7に記載の形質転換体に接触させることにより、セルロース分解物を生産することを含む、セルロース分解物の製造方法。
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