JP6583677B2 - 遠隔気流計測装置、遠隔気流計測方法及びプログラム - Google Patents
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Description
これにより、二次元気流ベクトルの推定精度を向上させ、しかも気流推定範囲をより広範囲とすることができることができる。
本発明の一形態に係る遠隔気流計測装置では、前記航空機の姿勢が変化した場合であっても、前記航空機前方の二次元気流ベクトルを推定するものである。
[遠隔気流計測装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る航空機に搭載されるドップラーライダー方式の光学式の遠隔気流計測装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、この遠隔気流計測装置1は、計測部10と、記憶部20と、信号処理部30とを備える。
<計測部>
<信号処理部・記憶部>
図3は信号処理部30の動作を示すフローチャートである。
fj(z)=ajz+bj
ただし、aj,bj:一次関数の係数 (j=1:上向きライダー,j=2:下向きライダー)
信号処理部30では、過去の計測値と現在の計測値を用いて、このような多項式fj(z)の未知係数(aj,bj)を決定する。
・最小二乗法(ステップ304)
スペクトルデータに基づくエラー値判定により除くことのできなかった観測誤差や欠測がある場合、適切な気流推定は困難である。これらの誤差に対応するために、外挿処理を適用する際に最小二乗法を用いる。
最小二乗法では、計測値Wj Tと任意の多項式fj(z)との差の二乗の総和を最小にする多項式fj(z)を求める。
差の二乗の総和を以下のとおり定義した。
zT:機軸Xから計測値Wj Tまでの機軸Xに垂直な距離
fj(zT)):zTにおける任意の多項式による外挿されたライダー計測値(j=1:上向きライダー,j=2:下向きライダー)
この際、ライダー計測値はN個使用できるとした。最小二乗法による推定を各レンジビンに実施する。
ここで、ライダー計測値をN個使用した場合の最小二乗法による一次関数の係数の推定値は、以下のとおりとなる。
上記の最小二乗法だけでなく、誤差の影響を受けにくく、安定した推定が可能なロバスト最小二乗法を適用する。
ロバスト最小二乗法として、誤差の大きさに応じて重みを付けるTurkey´s Biweight Estimationを使用した最小二乗法を適用する。これにより、観測誤差や欠測の影響を小さくすることができ、信頼性の高い二次元気流ベクトル推定を実施することが可能となる。なお、このTurkey´s Biweight Estimationを使用した最小二乗法については、例えば「最小二乗法による実験データ解析」(東京大学出版、1982.中川徹著・小柳義夫著)に詳しく記載されている。
dj T=Wj T―fj(zT)
このdj Tの大きさによって、最小二乗法に対する重みwj T(dj T)を定義する。
この重みwj T(dj T)を使用して、最小二乗法を適用し、多項式fj(zT)を更新する。同様の処理を残差が収束するまで繰り返す(図3のステップ306)。これにより、計測データの信頼性を高めることができる。
また、ステップ306の繰り返しの回数に制限を設けないと、残差が収束するのに時間がかかった場合、実時間計測が実現できなくなる。したがって、必要な計測周期と計算機の能力から実時間計測が可能な最大繰り返し回数を求め、残差が十分収束しない場合でも、計測データを出力する構成としてもよい。そして、このように繰り返し計算の回数に制限がある場合には、収束が不十分であることがあるため、最終的な残差を信頼性の指標とすればよい。
上述したように、Turkey´s Biweight Estimationとは、最小二乗法に用いるデータ群に対して誤差の大きさに応じた重みを付けることで、エラー計測値が含まれる場合においても、適切な推定を可能とする手法である。
上述した最小二乗法によって推定された以下の一次関数の推定値
ここで、誤差の許容範囲Lを定義し、dj Tの大きさによって重みwj T(dj T)の場合分けを実施する。場合分けの詳細については以下のとおりとなる。
最後に、これらの処理によって得られた係数aj´及びbjを用いて外挿処理をした計測値を用いて、二次元気流ベクトルを推定する。
・二次元気流ベクトルの推定(ステップ307)
上記のとおり、過去の計測値と現在の計測値を用いて任意の多項式fj(z)の未知係数を決定し、次に外挿処理を適用する。すなわち、外挿された計測値を用いて二次元気流ベクトルを以下の式より推定する。
uz T:時刻Tにおける風速の飛行方向に垂直な方向成分
W1 T:時刻Tにおける上向きライダーの計測値
W2 T:時刻Tにおける下向きライダーの計測値
θ:機軸方向と上向きライダー及び向きライダーがなす角
ここで、計測値W1 T及びW2 Tは、上記のように係数が得られた多項式fj(z)にそれぞれ所定のzの値を代入することで推定する。
なお、二次元気流ベクトルを利用するにあたり、α及びWで表現した方が利用しやすい場合には、上記の式を変形した以下の式を用いることもできる。
α=tan―1{(W2 T−W1 T)/(W1 T+W2 T)tanθ
W=√{(W1 T)2+(W2 T)2―2W1 TW2 Tcos2θ}/sin2θ
ただし、
W:気流ベクトルの大きさ
α:気流ベクトルと機体軸とのなす角
推定システムでは外挿する位置を変化させることで航空機前方レーザ光軸間の鉛直方向(鉛直断面)の二次元気流ベクトルの分布を取得することが可能である。
前方上下二方向から外挿処理を施す場合、上下からの外挿距離を変化させる場合についての外挿処理の適用方法を図5のDに示す。
図5のDでは、上向きからのライダー計測値について機軸を越えて下側の位置まで順次外挿し、下向きからのライダー計測値の外挿位置を機軸の手前まで順次外挿することで、機軸以外の位置においての二次元気流ベクトルを取得することが可能である。この処理をレーザ光軸間の全ての位置で行うことで、航空機前方レーザ光軸間の二次元気流ベクトルの分布を取得することができ、気流推定範囲をより広範囲とすることができる。
例えば、図6に示すように、ライダーによる計測はレーザ光方向に500m実施されるとする。それぞれのレーザ光は上下に向いており、その間の角度θを20度とする場合、レーザ光方向500m先の位置では上下のレーザ光軸間距離は約174mとなる。図示したとおり、レーザ光軸間の空間を格子上に分け、それぞれの位置まで上下のライダーから外挿処理を適用する。これによって、レーザ光軸間の二次元気流ベクトルの鉛直断面分布を取得することが可能となる。
<遠隔気流計測装置1による作用・効果>
例えば、ドップラーライダーで二方向の気流を計測し、その計測値を上記の式
すなわち、本実施形態に係る遠隔気流計測装置1では、レーザ光を利用したドップラーライダー方式の光学式遠隔気流計測装置であって、図5に示したように、レーザ光の光軸を前方上下二方向L1、L2に向け、各光軸L1、L2の軸方向各レンジビンの風速を二次元気流ベクトルに変換する際に、単純な幾何学的変換だけではなく、過去に計測された風速を使用することで例えば航空機200の前方鉛直断面の気流を推定することにより、計測の信頼性を向上させるものとした。つまり、本実施形態に係る遠隔気流計測装置1では、時々刻々得られる計測値を保存し、過去の計測値と現在の計測値を共に利用する。現在及び過去の計測値を用いて、機軸方向にレーザ光方向速度成分を外挿し、その二方向から外挿した計測値を用いて幾何学的な変換を行うものである。
また、本実施形態に係る遠隔気流計測装置1では、二方向からの外挿処理を施す際、それぞれの外挿距離を変化させることでレーザ光軸間の二次元気流ベクトル分布を推定することができる。すなわち、過去に計測された風速も使用することで、航空機200の機軸Xの位置の気流推定だけでなく、航空機200の前方鉛直の二次元気流ベクトル分布を推定することが可能であり、気流推定範囲をより広範囲とすることができる。
更に、計測値に予期しない誤差が含まれる場合において適切な二次元気流ベクトル推定を行うために、計測値の外挿に最小二乗法及びロバスト最小二乗法を使用する。これのより、外挿処理の頑健性を向上させ、計測値に含まれる予期しない誤差を取り除き、計測の信頼性を向上させることができる。
図7は本発明の他の実施形態に係る光学式遠隔気流計測装置の構成を示す図である。
図7に示すように、この遠隔気流計測装置70では、光送受信機72で生成されたパルス状のレーザ光は、切替器73により大口径光学望遠鏡74と小口径光学望遠鏡75に順次振り分けられる。
両光学望遠鏡74、75からのレーザ光は、窓81を通して大気中に放出され、大気中のエアロゾル粒子による散乱光は、逆の経路で光送受信機72により受信される。パルス状の送信光に対して、受信光は各レンジでの散乱を連続して受信した信号となるため、受信光の時分割により各レンジビンの風速が独立して求められる。
各レンジビンの2次元気流ベクトルは、最初の実施形態で説明したとおり信頼性指標をレンジビンごとに付加し、オートパイロット91に伝達する。
ここで、この実施形態において、通常の飛行時は大口径光学望遠鏡74で遠距離の乱気流検知を行い、乱気流に接近したら大口径光学望遠鏡74と小口径光学望遠鏡75とで2方向計測に変更するように構成してもよい。
このとき、大口径望遠鏡74の方は集光率が高いため、短時間の計測で十分である。したがって、二つの光学望遠鏡74、75に入力光を順次切り替える際に、それぞれの光学望遠鏡74、75にレーザ光を入力する時間を、図8に示すように、それぞれの光学望遠鏡74、75の口径の2乗に反比例させた比率とする。ここでは、切替器73の切り替えの光学素子は、ポッケルスセルを採用し、切り替え周期は5Hzとした。
また、レーザ光を2方向に向けるには、光学望遠鏡からレーザ光が放出された後にプリズムや反射鏡により光軸を2方向に順次切り替える方法と、光学望遠鏡を2式装備し、それぞれ独立して計測するか、或いは光学望遠鏡への入力光を順次切り替える方法があり、本発明はいずれの方法であっても適用することができる。
本発明において、計測の信頼性を向上させるには、使用する過去の計測値の数を増やせばよいが、航空機から遠方のレンジビンでは、過去の計測値を使用できない場合や使用できる計測値の数に制限がある場合を考慮する必要がある。そこで、本発明に係る一形態では、適切に予測するために、外挿処理で使用する計測値の数を場所によって変更することで対応すればよい。例えば、図9に示すように、一次関数により外挿処理を適用する場合、つまり過去の計測値を二つ以上使用できる場合は、通常の最小二乗法を適用して推定を実施する。過去の計測値を一つのみ使用できる場合は、最小二乗法ではなく、単純な線形外挿により気流推定を実施し、過去の計測値を使用できない場合は、外挿処理を行わず、単純な幾何学的変換のみによる気流推定を適用すればよい。
また、上記実施形態では、本発明に係る遠隔気流計測装置を航空機に搭載した例を説明したが、本発明に係る遠隔気流計測装置を地上装置として用いても構わない。
さらに、本発明に係る遠隔気流計測装置は、ドップラーライダーだけでなく、ドップラーレーダにも適用することができる。
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々に変形して実施することが可能であり、その実施の範囲も本発明の技術的思想の範囲に属するものである。
そして、機体への負担の軽減のほか、機内サービスや乗客の乗り心地といった快適性、前記の通り乗客・乗員の身体・生命に影響を及ぼすため、パイロットが前方に乱気流があることを発見したときは、可能な限り回避しなければならない。また、他の航空機の早期の乱気流の回避につながる事から、乱気流に遭遇した航空機は、乱気流に遭遇した旨を当該管制空域の管制官に報告しなければならない。ちなみに、エアラインのパイロットは、フライトシミュレーターとよばれる機械を使った飛行訓練で、機体の腹が上になった状態、つまり天地が逆さまになった状態から、冷静に計器のみによって判断をして機体を元に戻す、復帰訓練を受ける。これは、実際に旅客機が乱気流によって機体がひっくり返って天地が逆さまになったという事例が何例か存在するためである。人間のバランス感覚は目と耳で感じ取るもので、気圧の低い高高度では耳の機能が低下しているため、人間のバランス感覚に狂いが生じており、天地が逆になってもどちらが上か下か分からない状態となり(プールで潜って回転するとどちらが水面かが分からなくなる時があるのと同じ状況)、パイロットがパニック状態になり墜落につながる可能性がある。この状態を空間識失調と呼ぶ。
そのため、例えば旅客機の場合、ウェザーレーダーと呼ばれる気象レーダーを装備しており、乱気流に遭遇する前にある程度の発見は可能だが、そのレーダーを読み取るためには熟練した技術が必要と言われる。しかも、このような乱気流は積乱雲の中や台風の周りに多く見られるが、周辺に雲の無い晴天状態の大気中で発生する場合もある。この場合は「晴天乱気流」(CAT)と呼ぶ。航空機に搭載された上記の気象レーダーでは、このようなCATを検出できない。
10 計測部
20 記憶部
30 信号処理部(処理部)
70 遠隔気流計測装置
71 信号処理器
72 光送受信機
74 大口径光学望遠鏡
75 小口径光学望遠鏡
76 記憶部
200 航空機
Claims (11)
- 大気中の複数の方向に向けて光を放射し、これらの反射光を受信し、各前記放射した光と反射光との間の周波数のドップラーシフト量に基づき各方向の光軸方向の風速を計測する計測部と、
前記計測部で計測された風速値を記憶する記憶部と、
前記計測部で計測した各方向の光軸方向の現在の風速値及び前記記憶部で記憶された過去の風速値のうち機軸上の機体前方のある1点における鉛直方向の線上の複数の異なる位置で計測された計測値に基づき、前記機軸上の機体前方のある1点における鉛直方向の線上の、光軸の軸方向の風速を推定する多項式を定め、この多項式を用いて前記線上の光軸の軸方向の風速を外挿し、外挿した風速に基づき前記線上の2次元気流ベクトルを推定する処理部と
を具備する遠隔気流計測装置。 - 請求項1に記載の遠隔気流計測装置であって、
当該遠隔気流計測装置は、航空機に搭載されるものであり、
前記計測部は、前記航空機の前方の機軸方向より上方向及び機軸方向より下方向に向けてレーザ光を放射するものである
遠隔気流計測装置。 - 請求項2に記載の遠隔気流計測装置であって、
前記計測部は、各方向のレンジビンごとに、前記光軸方向の風速を計測するものであり、
前記処理部は、前記レンジビンごとに、前記線上の2次元気流ベクトルを推定するものである
遠隔気流計測装置。 - 請求項2又は3に記載の遠隔気流計測装置であって、
前記処理部は、前記航空機の姿勢が変化した場合であっても、前記航空機の前方の二次元気流ベクトルを推定するものである
遠隔気流計測装置。 - 請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の遠隔気流計測装置であって、
前記処理部は、前記風速を推定する多項式を定める際に、誤差が含まれている前記現在及び過去の計測値に対して誤差の大きさに応じた重みを付けるものである
遠隔気流計測装置。 - 請求項5に記載の遠隔気流計測装置であって、
前記処理部は、前記風速を推定する多項式を定める際に、前記誤差を除去するための繰り返し計算を行うものであり、前記誤差が収束するまでの前記繰り返し計算の回数を、前記推定された2次元気流ベクトルの信頼性指標として出力するものである
遠隔気流計測装置。 - 請求項5に記載の遠隔気流計測装置であって、
前記処理部は、前記風速を推定する多項式を定める際に、前記誤差を除去するための繰り返し計算を行うものであり、前記繰り返し計算の後の誤差の残差を、前記推定された二次元気流ベクトルの信頼性指標として出力するものである
遠隔気流計測装置。 - 請求項5に記載の遠隔気流計測装置であって、
前記計測部で受信した反射光の信号対雑音比又はこれに由来する値を、前記推定された2次元気流ベクトルの信頼性指標として出力するものである
遠隔気流計測装置。 - 請求項1〜8のうちいずれか1項に記載の遠隔気流計測装置であって、
前記計測部は、大気中の複数の方向に向けて光を放射し、これらの反射光を受信するための光学望遠鏡を各前記方向ごとに有し、
二つの前記光学望遠鏡は、口径が異なり、
前記計測部は、これら口径の異なる光学望遠鏡を介して光を受信する期間又は放射される光の出力を、それぞれ光学望遠鏡の口径の2乗に反比例させた比率としている
遠隔気流計測装置。 - 大気中の複数の方向に向けて光を放射し、
これらの反射光を受信し、
各方向に放射した光と反射光との間の周波数のドップラーシフト量に基づき各方向の光軸方向の風速を計測し、
前記計測された風速値を記憶し、
前記計測した各方向の光軸方向の現在の風速値及び前記記憶された過去の風速値のうち機軸上の機体前方のある1点における鉛直方向の線上の複数の異なる位置で計測された計測値に基づき、前記機軸上の機体前方のある1点における鉛直方向の線上の、光軸の軸方向の風速を推定する多項式を定め、
この多項式を用いて前記線上の光軸の軸方向の風速を外挿し、
外挿した風速に基づき前記線上の2次元気流ベクトルを推定する
遠隔気流計測方法。 - 大気中の複数の方向に向けて光を放射し、これらの反射光を受信し、各前記放射した光と反射光との間の周波数のドップラーシフト量に基づき各方向の光軸方向の風速を計測する計測部からの信号又はこれを模した信号を処理するコンピューターに、
前記計測された風速値を記憶部に記憶させるステップと、
前記計測した各方向の光軸方向の現在の風速値及び前記記憶された過去の風速値のうち機軸上の機体前方のある1点における鉛直方向の線上の複数の異なる位置で計測された計測値に基づき、前記機軸上の機体前方のある1点における鉛直方向の線上の、光軸の軸方向の風速を推定する多項式を定めるステップと、
この多項式を用いて前記線上の光軸の軸方向の風速を外挿するステップと、
外挿した風速に基づき前記線上の2次元気流ベクトルを推定するステップと
を実行させるプログラム。
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