本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
<第一実施形態>
〔燃料電池システム〕
以下、本発明の一実施形態に係る燃料電池システムについて説明する。図1は、第一実施形態に係る燃料電池システムを示す概略構成図である。本実施形態に係る燃料電池システム10は、燃料電池モジュール1と、排ガス熱交換器2と、疎水性多孔膜3と、貯留タンク4(貯留槽)と、バッファタンク5と、を備える。さらに、本実施形態に係る燃料電池システム10は、貯留タンク4に貯留されている水を燃料電池モジュール1に供給する改質水供給経路14と、貯留タンク4に貯留されている水を循環させることで疎水性多孔膜3を透過した水蒸気を凝縮水として回収する循環経路15と、給水された水を流通させる流通経路16と、をさらに備える。
本実施形態に係る燃料電池システム10は、燃料電池モジュールから排出される排ガスを温水として回収し、かつ排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて水蒸気改質用の凝縮水を得るシステムではなく、燃料電池モジュール1から排出される排ガスを高温の加湿ガスとして回収しつつ、疎水性多孔膜3を用いて燃料電池モジュール1に供給される水を得るシステムである。
本実施形態に係る燃料電池システム10では、燃料電池モジュール1から排出される排ガスと、流通経路16を流通する水と、の間で熱交換を行なわれ、熱を回収した水は、流通経路16を流通して疎水性多孔膜3に供給される。排ガス熱交換器2にて熱を回収した水は、循環経路15を流通する水よりも高温であるため、熱を回収した水が流通する流通経路16と、水が流通する循環経路15との間に蒸気圧差が生じ、疎水性多孔膜3を介して流通経路16を流通する水の少なくとも一部が水蒸気として循環経路15側に透過する。透過した水蒸気は、凝縮水として貯留タンク4に回収される。
また、少量の水を流通経路16に流通させることで、疎水性多孔膜3では、燃料電池モジュールにて必要な量の水蒸気を透過させることができる。排ガス熱交換器2にて、少量の水と、燃料電池モジュール1から排出される排ガスとの間で熱交換が行なわれるため、排ガスから水に与えられる熱量は少なく、排ガスを高温の加湿ガスとして回収することができる。
さらに、疎水性多孔膜3は水蒸気を選択的に透過させ、流通経路16を流通する水中の不純物の透過が抑制されるため、水蒸気改質に水道水等を直接供給する場合よりも水処理の負担が軽減される。そのため、本実施形態に係る燃料電池システム10では、水処理装置としてイオン交換樹脂などを設けなくてもよく、また、水処理装置を設けた場合であっても水処理の負担が大きく軽減される。
ここで、燃料電池モジュールから排出される排ガスを温水として回収し、かつ排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて水蒸気改質用の凝縮水を得る従来のシステムでは、熱交換による排ガスの冷却及び温水の熱回収を繰り返すことにより、温水が熱的に充満した状態(満蓄状態)になり、その結果、排ガスの冷却による凝縮水の回収ができなくなるという問題が生じる。そのため、従来のシステムでは、満蓄時においてもシステムの連続運転を可能とするため、温水を流通する流通経路を冷却する冷却手段(ラジエータや放熱管)が配置されている。
一方、本実施形態に係る燃料電池システム10では、燃料電池モジュール1での水蒸気改質にて必要となる水の量に応じて、流通経路16に水を流通させ、かつ疎水性多孔膜3にて水蒸気として透過させている。そのため、排ガスの冷却による凝縮水の回収が不要であり、流通経路16を冷却する冷却手段(ラジエータや放熱管)を設ける必要もない。よって、燃料電池システム10では、システムサイズの大型化も抑制することができ、ラジエータを設けたことによる騒音も発生しない。
従来のシステムでは、排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて水蒸気改質用の凝縮水を得るため、水蒸気が凝縮する温度まで排ガスを冷却する必要があり、熱交換後に比較的温度の低い排ガス(例えば、50℃)がシステム外に排出される構成となっている。さらに、従来のシステムでは、排ガスの熱を回収した温水が得られ、必要に応じて得られた温水を外部へ供給し、給湯や暖房等に利用できる構成となっている。
一方、本実施形態に係る燃料電池システム10では、疎水性多孔膜3での水蒸気の透過に適した温度(例えば、80℃)となるまで、排ガス熱交換器2にて流通経路16を流通する水に熱を回収させればよい。このとき、燃料電池モジュール1での水蒸気改質にて必要となる水の量は、従来のシステムにて排ガスを水蒸気が凝縮する温度まで冷却するときに必要となる水の量よりも非常に少ない。そのため、燃料電池システム10では、排ガス熱交換器2にて熱を回収する水の量が、従来のシステムと比較して非常に少なく、熱交換後に高温の排ガス(例えば、200℃以上)がシステム外に供給される構成となっている。
業務・産業用分野では、温水の需要は小さく、排熱をより高温の蒸気として供給することが求められている。例えば、(財)省エネルギーセンター「工場群の排熱実態調査研究要約集」には、90℃程度の温水は、冷却工程、燃焼排ガスとの熱交換、蒸気の凝縮などの工場内における様々な生産工程にて多く発生するが、工場内の生産工程に利用する熱としては温度が低いため用途が限られているため、未利用のまま廃棄・放熱されており、廃棄・放熱されている温水は全国で年間33,000TJにも及ぶことが記載されている。
本実施形態に係る燃料電池システム10は、上述した従来のシステムと異なり、熱交換後に高温の排ガス(例えば、200℃以上)がシステム外に排出される構成となっており、システム外に排出される高温の排ガスは、種々の用途に用いることができる。システム外に排出される高温の排ガスは、例えば、空調(吸収式)、加熱、加湿、濃縮、上流、滅菌、殺菌、洗浄など様々な用途に用いられる。
以下、本実施形態に係る燃料電池システム10の各構成について詳細に説明する。
本実施形態に係る燃料電池システム10は、燃料電池(図示せず)を備える燃料電池モジュール1を有する。燃料電池モジュール1は、燃料を供給することで発電する機能を有するものであり、燃料電池以外に、後述する気化器、改質器をさらに備えている。
燃料電池モジュール1は、原料ガス供給経路11、酸素供給経路12及び改質水供給経路14と接続しており、それぞれの経路から原料ガス、酸素及び改質水が燃料電池モジュール1に供給される。原料ガス供給経路11には、原料ガスを流通させるブロワ21が設置されており、酸素供給経路12には、酸素(空気)を流通させるブロワ22が設置されており、改質水供給経路14には、改質水(凝縮水)を流通させるポンプ23が設置されている。
原料ガス供給経路11を流通する原料ガスとしては、水蒸気改質が可能な炭化水素ガスを含むものであれば特に限定されず、例えば、天然ガス、LPガス(液化石油ガス)、石炭改質ガス、低級炭化水素ガスなどが例示される。低級炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン等の炭素数4以下の低級炭化水素が挙げられ、特にメタンが好ましい。なお、炭化水素ガスとしては、上述した低級炭化水素ガスを混合したものであってもよい。
改質水供給経路14を流通する改質水は、燃料電池モジュール1に設けられた気化器(図示せず)によって気化され、気化されて生じた水蒸気は、水蒸気供給経路(図示せず)を通じて改質器(図示せず)に供給される。
燃料電池システム10は、燃料電池の外部に原料ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する改質器を有している。改質器は、例えば、バーナ又は燃焼触媒を配置した燃焼部と、改質用触媒を備える改質部と、を備え、改質部の上流側にて原料ガス供給経路11及び水蒸気供給経路と接続しており、改質部の下流側にて改質ガス供給経路(図示せず)を介して燃料電池と接続している。
原料ガス供給経路11を通じてメタンなどの炭化水素ガスを含む原料ガスが改質部に供給され、水蒸気供給経路を通じて水蒸気が改質部に供給される。そして、改質部にて炭化水素ガスを水蒸気改質した後に、生成された改質ガスが改質ガス供給経路を通じて燃料電池に供給される。
燃焼部は、燃焼熱により改質部を加熱するものであり、例えば、酸素と、炭化水素ガスを含む原料ガスと、を燃焼反応させたり、燃料電池から排出されるカソードオフガス中の未反応の酸素と、アノードオフガス中の未反応の水素と、を燃焼反応させたりして改質部を加熱する。燃焼反応により生じた排ガスは、排気経路13に供給され、燃料電池モジュール1の外部に排出される。
原料ガスとしてCnHm(n、mはともに正の実数)で表される炭化水素ガスを水蒸気改質させた場合、改質部にて、以下の式(a)の反応により一酸化炭素及び水素が生成される。
CnHm+nH2O→nCO+(m/2+n)H2・・・・(a)
また、原料ガスの一例であるメタンを水蒸気改質させた場合、改質部にて、以下の式(b)の反応により一酸化炭素および水素が生成される。
CH4+H2O→CO+3H2・・・・(b)
改質部内に設置される改質用触媒としては、水蒸気改質反応の触媒となるものであれば特に限定されないが、Ni,Rh,Ru,Ir,Pd,Pt,Re,Co,Fe及びMoの少なくとも一つを触媒金属として含む水蒸気改質用触媒が好ましい。
改質部に供給される単位時間当たりの水蒸気の分子数Sと、改質部に供給される単位時間当たりの炭化水素ガスの炭素原子数Cとの比であるスチームカーボン比S/Cは、1.5〜3.5であることが好ましく、2.0〜3.0であることがより好ましく、2.0〜2.5であることがさらに好ましい。スチームカーボン比S/Cがこの範囲にあることにより、炭化水素ガスが効率よく水蒸気改質され、水素および一酸化炭素を含む改質ガスが生成される。さらに、燃料電池モジュール1内での炭素析出を抑制することができ、燃料電池モジュール1の信頼性を高めることができる。
また、燃焼部は、水蒸気改質を効率よく行なう観点から、改質部を、600℃〜800℃に加熱することが好ましく、600℃〜700℃に加熱することがより好ましい。
本実施形態に係る燃料電池システム10は、改質ガス供給経路を通じて改質器から供給された改質ガスを用いて発電を行なう燃料電池を備えている。燃料電池としては、例えば、空気極(カソード)、電解質及び燃料極(アノード)を備える燃料電池セルであってもよく、燃料電池セルを複数積層した燃料電池スタックであってもよい。また、燃料電池としては、200℃以下の温度で作動する低温型の燃料電池、例えば、60℃〜100℃程度で作動する固体高分子形燃料電池、150℃〜200℃程度で作動するリン酸形燃料電池や、600℃〜800℃程度で作動する高温型の燃料電池、例えば、700℃〜800℃程度で作動する固体酸化物形燃料電池、600℃〜700℃程度で作動する溶融炭酸塩形燃料電池が挙げられる。
燃料電池のアノードには、改質ガス供給経路を通じて改質ガスが供給され、燃料電池のカソードには、酸素供給経路12を通じて酸素を含むガスが供給される。そして、改質ガスと酸素との電気化学的な反応により、主に水蒸気及び二酸化炭素が生成される。また、アノードで生成された電子は、外部回路を通じてカソードに移動する。このようにして電子がアノードからカソードに移動することにより、燃料電池にて発電が行なわれる。
ここで、アノード及びカソードから排出されたオフガスは、前述のように改質器の燃焼部に供給され、未反応の水素及び酸素が燃焼反応に用いられた後、排気経路13を通じて燃料電池モジュール1から排出されてもよく、燃焼部に供給されずに排気経路13を通じて直接燃料電池モジュール1から排出されてもよい。
なお、高温型の燃料電池を備える燃料電池システムでは、改質器が燃料電池の外部に取り付けられている必要はなく、燃料電池に直接原料ガス及び水蒸気を供給し、燃料電池の内部で水蒸気改質(内部改質)を行なう構成であってもよい。燃料電池スタック内部での反応温度は600℃〜800℃と高温であるため、燃料電池スタック内で水蒸気改質を行なうことが可能である。
燃料電池モジュール1から排出され、排気経路13を流通する排ガスは、排ガス熱交換器2にて、流通経路16を流通する水と熱交換を行なう。これにより、排気経路13を流通する排ガスは冷却されると共に、流通経路16を流通する水は熱を回収する。
燃料電池システム10では、少量の水を流通経路16に流通させることで、疎水性多孔膜3では、燃料電池モジュールにて必要な量の水蒸気を透過させることができる。そのため、排ガス熱交換器2では、排ガスから水に与えられる熱量は少なく、排ガスを高温の加湿ガスとして回収することができる。排ガス熱交換器2から排出される排ガスの温度は、例えば、200℃以上であり、好ましくは、200℃以上300℃以下である。
排ガス熱交換器2にて熱を回収した水は、流通経路16を流通して疎水性多孔膜3に供給される。
貯留タンク4は、燃料電池モジュール1に供給される水を貯留する容器である。貯留タンク4では、所定量以上の水が貯留された際には、例えばオーバーフローによりドレン排水される。
貯留タンク4は、改質水供給経路14と接続しており、改質水供給経路14には、ポンプ23が設けられている。ポンプ23を駆動させることで、貯留タンク4に貯留された水は改質水として、改質水供給経路14を通じて燃料電池モジュール1に供給される。
また、貯留タンク4は、循環経路15と接続しており、循環経路15には、ポンプ24及び疎水性多孔膜3が設けられている。ポンプ24を駆動させることで、貯留タンク4に貯留された水は、循環経路15を流通する。このとき、後述するように、疎水性多孔膜3を介して流通経路16を流通する水の少なくとも一部が水蒸気(図1中の矢印X)として循環経路15側に透過し、透過した水蒸気は、凝縮水として貯留タンク4に回収される。
バッファタンク5は、流通経路16を流通する水を一時的に貯留する容器である。システム外から供給された水は、バッファタンク5に貯留される。
バッファタンク5は、流通経路16と接続しており、流通経路16には、上流側から順に、ポンプ25、排ガス熱交換器2及び疎水性多孔膜3が設けられている。そのため、バッファタンク5に貯留された水は、流通経路16に設けられたポンプ25を駆動させることで、流通経路16を流通し、排ガス熱交換器2及び疎水性多孔膜3に供給される。疎水性多孔膜3にて水蒸気として透過しなかった水は、流通経路16を通じてバッファタンク5に貯留される。
流通経路16に水を流通させることにより、疎水性多孔膜3にて水蒸気が循環経路15の透過側へ透過するため、流通経路16に給水を行わない場合、流通経路16を流通する水の量が徐々に減少する。ここで、バッファタンク5から流通経路16に供給される水の給水圧を一定とするため、給水により一定量の水をバッファタンク5に供給すればよい。これにより、バッファタンク5から流通経路16に供給される水の量を一定にすることができ、一定量の水が、流通経路16を流通して排ガス熱交換器2及び疎水性多孔膜3に供給される。
本実施形態に係る燃料電池システム10では、バッファタンク5は必須の構成ではなく、バッファタンク5を設けず、流通経路16が循環経路となっていてもよく、また、循環経路とせずに、疎水性多孔膜3にて水蒸気として透過しなかった水を外部へ排出してもよい。
本実施形態に係る燃料電池システム10は、排ガス熱交換器2の下流に配置され、流通経路16を流通する水の少なくとも一部を水蒸気として循環経路15側に透過する疎水性多孔膜3を備える。
ここで、疎水性多孔膜3を透過する水蒸気の量(ml/分)は、水蒸気改質に必要な改質水の量(ml/分)以上であることが好ましい。これにより、貯留タンク4の水位が低下しないため、外部から水を供給せずとも、システムの連続運転が可能となる。
疎水性多孔膜3を透過する水蒸気の量(ml/分)は、疎水性多孔膜の種類、面積、流通経路を流通する水と循環経路を流通する水との温度差など、種々の要因によって定まる。例えば、非特許文献(Samer Adham et. al., Application of Membrane Distillation for desalting brines from thermal desalination plants, Desalination, Volume 314(2), 2013, 101-108)では、高温側70℃、低温側30℃の条件で水を流通させた場合、30kg/m2/h程度の高い透過流束が得られることが実証されている。
例えば、700W級の家庭用固体酸化物形燃料電池システムにて水蒸気改質に必要な改質水の量を5ml/分とし、30kg/m2/h(500ml/分/m2=0.05ml/分/cm2)の透過流束を有する疎水性多孔膜を用いたと仮定する。外部から水を供給せずにシステムの連続運転を可能とするためには、疎水性多孔膜を透過する水蒸気の量が5ml/分以上であればよく、疎水性多孔膜の面積は100cm2以上であればよいことが算出される。ここで、例えば、疎水性多孔膜の面積が140cm2であれば、疎水性多孔膜を透過する水蒸気の量が7ml/分と算出されるため、疎水性多孔膜を透過する水蒸気の量(ml/分)を、水蒸気改質に必要な改質水の量(ml/分)よりも多くすることができる。
疎水性多孔膜3としては、流通経路16を流通する水の少なくとも一部を水蒸気として透過させる膜、すなわち、膜蒸留が可能な膜であれば特に限定されない。疎水性多孔膜3としては、例えば、フッ素系樹脂製の膜を用いてもよく、好ましくは、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)などのフッ素系樹脂製の膜を用いてもよい。また、前述の非特許文献に記載の疎水性多孔膜を用いてもよい。なお、膜蒸留とは、疎水性多孔膜を介した際に生じる蒸気圧差を駆動力として水と溶質とを分離する技術のことである。
また、透過側の水蒸気分圧を下げる方法としては、(1)透過側に低温水を流す方法(DCMD;Direct Contact Membrane Distillation)、(2)透過側を間接的に冷却する(AGMD;Air Gap Membrane Distillation)、(3)透過側を真空にする(VMD;Vacuum Membrane Distillation)、(4)透過側にスイープガスを流す(SGMD;Sweep Gas Membrane Distillation)が挙げられるが、本実施形態では(1)の方法を用いている。(1)の方法は、各種方法の中でも透過流束が高く、さらに、貯留タンク4に貯留された凝縮水を利用できるため、有用である。また、(1)の方法を採用する上では、循環経路15が主に必要となるだけであり、(2)〜(4)よりも必要な構成が少なく、システムを簡略化することができる。
さらに、本実施形態に係る燃料電池システム10では、疎水性多孔膜3は水蒸気を選択的に透過させ、流通経路16を流通する水中の不純物の透過が抑制されるため、例えば、水道水を貯留タンク4に直接供給して水蒸気改質に用いる場合よりも水処理装置の負担が軽減される。また、疎水性多孔膜3を透過した水蒸気が凝縮した凝縮水は、水処理装置による処理が特に不要であるため、改質水供給経路14に水処理装置が設けられていなくてもよい。
また、疎水性多孔膜を用いた場合、逆浸透膜(RO膜)を用いた場合よりも透過側にて純度の高い水を得ることができ、逆浸透膜と同程度の透過流束が得られる。また、逆浸透膜を用いた場合、塩濃度(浸透圧)の増加に伴い、透過流束が低下するが、疎水性多孔膜を用いた場合、塩濃度が増加しても透過流束が低下しない点で有用である。さらに、逆浸透膜のように給水圧が駆動力ではないため、加圧の必要がなく、補機電力が低減できる。
本実施形態に係る燃料電池システム10は、循環経路15を流通する水を放熱させる放熱部をさらに備えることが好ましい。循環経路15における放熱部の設置場所は特に限定されないが、例えば、疎水性多孔膜3の透過側の下流(図1中のB1)に放熱部を設けてもよい。
流通経路16を流通する水は、循環経路15を流通する水よりも高温であるため、循環経路15を流通する水は疎水性多孔膜3を介して間接的に温められる。循環経路15を流通する水の温度が上昇すると、水が流通する流通経路16と水が流通する循環経路15との間の蒸気圧差が低下し、疎水性多孔膜3における水蒸気の透過流束が低下するおそれがある。
一方、本実施形態に係る燃料電池システム10は、循環経路15を流通する水を放熱させる放熱部を有するため、温められた水が放熱により冷却される。その結果、疎水性多孔膜3における水蒸気の透過流束が好適に維持される。
放熱部としては、循環経路15を流通する水を放熱させる構成であれば特に限定されないが、スパイラル管、金属配管、脱炭酸塔のように大気との接触面積を増やす構造、換気ファンに近接させた構造、筐体と接触させた構造などが挙げられる。
例えば、業務用・産業用の燃料電池システムでは、燃料電池モジュールにおける燃料電池の出力が家庭用の燃料電池システムよりも大きくなる。そのため、業務用・産業用の燃料電池システムでは、循環経路15、流通経路16及び疎水性多孔膜3のサイズが大型化し、また、循環経路15及び流通経路16を流通させる水の量並びに疎水性多孔膜を透過する水蒸気の量も増加する。そのため、特に業務用・産業用の燃料電池システムでは、循環経路15を流通する水を放熱させる放熱部を設けることで、積極的に循環経路15を流通する水を放熱し、疎水性多孔膜3における水蒸気の透過流束の低下を抑制し、疎水性多孔膜3にて多くの水蒸気を透過させることが好ましい。
また、本実施形態に係る燃料電池システム10は、循環経路15における疎水性多孔膜3の下流に、循環経路15を流通する水を熱交換により冷却する熱交換器をさらに備えていてもよい。熱交換器を循環経路15に配置することで、循環経路15を流通する水を冷却して疎水性多孔膜3における水蒸気の透過流束を好適に維持するとともに、水との熱交換により熱を有効利用することができる。なお、この熱交換器は、前述の放熱部として循環経路15に配置してもよく、放熱部とともに循環経路15に配置してもよい。
熱交換器を循環経路15における疎水性多孔膜3の下流に配置する場合、循環経路15を流通する水を、例えば、燃料電池モジュール1に供給される空気、原料ガス、改質水の予熱に利用してもよく、水との熱交換による温水供給など、外部への熱供給に利用してもよい。
本実施形態に係る燃料電池システム10は、疎水性多孔膜3の上流に流通経路16を流通する水中の塩素を除去する脱塩素部(図示せず)をさらに備えることが好ましい。
前述のように脱塩素部を配置することで、流通経路16を流通する水中の塩素が除去されるため、耐塩素性でない疎水性多孔膜3も好適に用いることができ、疎水性多孔膜3の選択肢を広げることができる。
本実施形態に係る燃料電池システム10は、貯留タンク4と燃料電池モジュール1との間に設けられた改質水供給経路14に水処理装置を有していてもよい。
例えば、疎水性多孔膜3が劣化により破損した場合、流通経路16を流通する水が直接循環経路15に供給され、貯留タンク4に貯留される。このとき、水処理装置が配置されていないと、流通経路16を流通する水中に含まれている不純物が除去されることなく、燃料電池モジュール1に供給されることになり、モジュール内の各構成(例えば改質器)に悪影響を及ぼす。
一方、貯留タンク4と燃料電池モジュール1との間に水処理装置を有している場合、疎水性多孔膜3が劣化により破損した場合であっても、流通経路16を流通する水中に含まれている不純物が、水処理装置にて除去されるため、モジュール内の各構成に悪影響を及ぼすことが抑制される。なお、疎水性多孔膜3が破損していない場合には、疎水性多孔膜3は水蒸気を選択的に透過させ、流通経路16を流通する水中の不純物の透過が抑制されるため、疎水性多孔膜3を設けずに水道水等を直接供給する場合よりも水処理装置における水処理の負担が大きく軽減される。
水処理装置としては、例えば、交換や薬品による再生処理が必要なイオン交換樹脂を有する水処理装置、イオン交換樹脂を電気的に再生可能な電気脱イオン式の水処理装置などが挙げられる。
<第二実施形態>
以下、本発明の第二実施形態に係る燃料電池システムについて図2を用いて説明する。図2は、本発明の第二実施形態に係る燃料電池システムを示す概略構成図である。本実施形態に係る燃料電池システム20は、バッファタンク5の代わりに、流通経路16を流通する水を貯留し、かつ排気経路13を流通する排ガスと貯留された水との間で熱交換を行なう貯湯タンク6(排ガス熱交換器)を備えている点で、前述の第一実施形態に係る燃料電池システム10と主に相違する。なお、本実施形態において、第一実施形態と同様の構成については、同じ番号を付し、その説明を省略する。
本実施形態に係る燃料電池システム20では、貯湯タンク6にて、流通経路16を流通する水を貯留し、かつ排気経路13を流通する排ガスと貯留された水との間で熱交換を行なう。これにより、排気経路13を流通する排ガスは冷却されると共に、貯湯タンク6に貯留され、流通経路16を流通する水は熱を回収する。
貯湯タンク6は、流通経路16と接続しており、流通経路16には、上流側から順に、ポンプ25、疎水性多孔膜3が設けられている。そのため、貯湯タンク6に貯留された水は、流通経路16に設けられたポンプ25を駆動させることで、流通経路16を流通し、疎水性多孔膜3に供給される。疎水性多孔膜3にて水蒸気として透過しなかった水は、流通経路16を通じて貯湯タンク6に貯留される。
貯湯タンク6は、水を貯留する機能及び排気経路13を流通する排ガスと貯留された水との間で熱交換を行なう機能を有するものであれば特に限定されない。
流通経路16に水を流通させることにより、疎水性多孔膜3にて水蒸気が循環経路15の透過側へ透過するため、流通経路16に給水を行わない場合、流通経路16を流通する水の量が徐々に減少する。ここで、貯湯タンク6から流通経路16に供給される水の給水圧を一定とするため、給水により一定量の水を貯湯タンク6に供給すればよい。これにより、貯湯タンク6から流通経路16に供給される水の量を一定にすることができ、一定量の水が、流通経路16を流通して疎水性多孔膜3に供給される。
<第三実施形態>
以下、本発明の第三実施形態に係る燃料電池システムについて図4を用いて説明する。図4は、本発明の第三実施形態に係る燃料電池システムを示す概略構成図である。本実施形態に係る燃料電池システム30は、流通経路16における排ガス熱交換器2の上流側と排ガス熱交換器2の下流側とを接続するように設けられ、流通経路16から分岐するバイパス経路33(分岐経路)を有し、水が流通する経路を切り替える切り替え部として三方弁26を有している。
さらに、本実施形態に係る燃料電池システム30は、流通経路16における所定の位置及びバッファタンク5の所定の位置の少なくとも一方に温度検出手段をさらに備えている。
温度検出手段は、流通経路16における任意の場所に設けることができ、例えば、流通経路16において、バッファタンク5の供給口付近、バッファタンク5と排ガス熱交換器2との間、排ガス熱交換器2と疎水性多孔膜3との間、疎水性多孔膜3とバッファタンク5との間などが挙げられる。また、温度検出手段は、バッファタンク5の任意の場所に設けることができ、例えば、流通経路16と接続している供給口付近が挙げられる。なお、以下では、バッファタンク5と排ガス熱交換器2との間に温度検出手段27を配置した構成について説明する。
例えば、燃料電池モジュール1から排出される排ガスの温度が100℃以上のときに燃料電池システム30を連続運転させると、流通経路16を循環する水が排ガスより継続的に熱を回収するため、流通経路16を循環する水及びバッファタンク5に貯留されている水の温度が上昇して100℃以上となり、沸騰するおそれがある。
本実施形態に係る燃料電池システム30では、温度検出手段27にて検出された水の温度が第1の閾値(例えば、90℃)以上となった際に、三方弁26により、流通経路16を流通する水がバイパス経路33に供給され、かつ水が排ガス熱交換器2に供給されないように水が流通する経路を切り替え可能となっている。そのため、流通経路16を循環する水の温度又はバッファタンク5に貯留されている水の温度が一定以上となった際に、排ガス熱交換器2への水の供給が停止されて排ガス熱交換器2にて排ガスからの熱回収が行われないように水が流通する経路を切り替え可能であり、水の沸騰を防止できる。
疎水性多孔膜3は、バイパス経路33の下流側に配置されており、バイパス経路33に供給された水は疎水性多孔膜3に供給される。そのため、三方弁26により、流通経路16を流通する水がバイパス経路33に供給され、かつ水が排ガス熱交換器2に供給されないように水が流通する経路を切り替えた際であっても、疎水性多孔膜3を通じて水蒸気が循環経路15側に透過する。
なお、切り替え部の構成は、三方弁に限定されず、例えば、2つの電磁弁を流通経路16及びバイパス経路33にそれぞれ配置し、電磁弁の開閉をそれぞれ調整することで排ガス熱交換器2に水を供給するか、バイパス経路33に水を供給するかを切り替えてもよい。
温度検出手段27は、流通経路16におけるバイパス経路33の上流側に配置されている。これにより、バイパス経路33に水が供給され、排ガス熱交換器2に水が供給されていない場合であっても、温度検出手段27は水の温度を測定することが可能である。なお、温度検出手段は、流通経路16におけるバイパス経路33の下流側の所定の位置、又はバッファタンク5の所定の位置に配置されていてもよい。
このとき、切り替え部である三方弁26は、温度検出手段27により検出された水の温度が第2の閾値(例えば、60〜70℃)以下になった際、流通経路16を流通する水が排ガス熱交換器2に供給され、流通経路16を流通する水がバイパス経路33に供給されないように水が流通する経路を切り替え可能となっていてもよい。これにより、再度、流通経路16を循環する水に排ガスの熱を回収させることができ、流通経路16を循環する水を疎水性多孔膜3での水蒸気の透過に適した温度にすることができる。
[実施の一例]
以下、本発明の燃料電池システムの実施の一例について説明する。図1で示される燃料電池システム10として、燃料電池モジュール1が固体酸化物形燃料電池を備えるシステムを想定し、このシステムが以下の前提条件を満たすときのシミュレーション結果を以下に示す。
<前提条件>
〔燃料電池モジュールに供給される都市ガス、空気、改質水〕
都市ガス(原料ガス)・・・温度15℃、消費量1.6kW、
都市ガス成分(数値は各成分の割合を表す)・・・メタン0.90、エタン0.056、プロパン0.034、n−ブタン0.014
空気・・・温度15℃
改質水・・・温度15℃
スチームカーボン比S/C・・・2.5
〔燃料電池の各条件〕
燃料利用率・・・75%
空気利用率・・・50%
〔電池出力、放熱、燃焼排ガスの熱量〕
DC出力(直流出力)・・・0.77kW
放熱(筐体から放出される熱量)・・・0.27kW
燃焼排ガス・・・0.56kW
上述の前提条件から、必要となる改質水量及び燃焼排ガスの体積が算出され、燃焼排ガスの体積から燃焼排ガスの温度が求められる。必要となる改質水量は、5.0g/min、燃焼排ガスの温度は、289℃である。
図3は、熱交換水量及び凝縮水量と、燃料電池システムの排ガス温度と、の関係を示すグラフである。より詳細には、熱交換水(給水)を15℃から80℃まで上昇させることを想定した際の、熱交換水量及び凝縮水量と、燃料電池システムの排ガス温度と、の関係を示すグラフである。なお、貯湯温度及び膜蒸留に好適な温度として給水を80℃まで上昇させることを想定している。
まず、図3では、システム排ガスの温度と凝縮水量との関係が示されており、システム排ガスの温度を低下させ、約70℃よりも低い温度とすることでシステム排ガスに含まれる水蒸気が凝縮し始めることが示されている。さらに、図3では、システム排ガスの温度と熱交換水量との関係が示されており、システム排ガスの温度をより低い温度に冷却するためには、より多くの熱交換水量が必要となることが示されている。
以下、燃料電池モジュールから排出されるシステム排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて燃料電池モジュールにて必要となる水蒸気をまかなう従来のシステムと、本発明の一例である、疎水性多孔膜を用いて燃料電池モジュールにて必要となる水蒸気を供給するシステムと、で必要となる熱交換水量についてそれぞれ説明する。
まず、システム排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて燃料電池モジュールにて必要となる水蒸気をまかなう場合、燃料電池モジュールにて必要となる改質水量は5.0g/minである。そのため、図3に示されるように、システム排ガスの温度を50℃程度まで低下させる必要がある。
そして、図3に示されるように、システム排ガスの温度を50℃程度まで低下させるために必要となる熱交換水量は約99g/minである。よって、システム排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて燃料電池モジュールにて必要となる水蒸気をまかなう場合、排ガス熱交換器に約99g/minの水(15℃)を供給する必要がある。
次に、本発明の一例である、疎水性多孔膜を用いて燃料電池モジュールにて必要となる水蒸気を供給する場合、燃料電池モジュールにて必要となる改質水量分の水5.0g/minを80℃まで昇温すればよい。このとき、図3に示す熱交換水量は5.0g/minであるため、システム排ガスの温度は約266℃となる。
したがって、システム排ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて燃料電池モジュールにて必要となる水蒸気をまかなう場合には、システム排ガスの温度が約50℃まで低下する一方、本発明の一例である、疎水性多孔膜を用いて燃料電池モジュールにて必要となる水蒸気を供給する場合には、システム排ガスの温度が約266℃までしか低下せず、高温のシステム排ガスが得られる。
実施形態を挙げて本発明の実施の形態及び実施の一例を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。