<本実施の形態のフラックスの一例>
本実施の形態のフラックスは、チキソ剤と、アゾール類と、ロジンと、有機酸と、溶剤とを含有する。チキソ剤は、環状アミド化合物と非環状アミド化合物からなる。
環状アミド化合物は、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸と、ジアミン及び/またはトリアミンが環状に重縮合した分子量が3000以下、とりわけ分子量が1000以下の低分子系アミド化合物である。また、非環状アミド化合物は、モノカルボン酸、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸と、モノアミン、ジアミン及び/またはトリアミンが非環状に重縮合した分子量が3000以下の非環状アミドオリゴマーや、分子量が3000超の非環状高分子系アミドポリマーである。
図1は、ジカルボン酸の分子構造の概要を示す模式図、図2は、ジアミンの分子構造の概要を示す模式図、図3は、非環状アミド化合物の分子構造の概要を示す模式図である。図1に示すジカルボン酸と、図2に示すジアミンを重縮合(脱水縮合)させることで、図3に示すように、非環状アミド化合物が合成される。
図3に示す非環状アミド化合物からなるチキソ剤は、図1に示すジカルボン酸のカルボキシル基(COOH)と、図2に示すジアミンのアミノ基(NH2)が重縮合によりアミド結合し、アミド基C(=O)−NHの水素(H)と酸素(O)が分子内、分子間で水素結合することでネットワークが形成される。アミド結合箇所を(A)で示し、水素結合箇所を(B)で示す。
図4は、非環状アミド化合物の分子構造の概要を示す模式図である。非環状アミド化合物が高分子化した場合、図4に示すように、分子内で水素結合(B)が進行するため、フラックス中で非常に溶解性(相溶性)が悪くなり、フラックス中で粗大な析出を発生してしまう場合があり、チキソ性が悪くなる。また、このようなフラックスと金属粉が混合されたソルダペーストでは、印刷性が悪く、また、印刷ダレ、加熱ダレが発生する。
そこで、環状アミド化合物を非環状アミド化合物と併用することで、環状アミド化合物で非環状アミド化合物を非共有結合性の相互作用にて架橋し、比較的均一なチキソ剤成分のネットワークを構築して、過度のチキソ剤析出を抑制する。
図5は、環状アミド化合物の分子構造の概要を示す模式図である。さて、図1に示すジカルボン酸と、図2に示すジアミンを重縮合させることで、図5に示すように、低分子系アミドとして環状アミド化合物が合成される。
環状アミド化合物は、非環状アミド化合物よりも対称性が高いため、非環状の低分子系アミドと比較して、結晶化しやすいという性質を持つ。一方、非環状の低分子系アミドは、極性の末端基を有するため、フラックス中に相溶しやすく、結晶化しにくいことからネットワーク形成によるチキソ性を付与しにくい。これに対し、環状アミド化合物は、極性の末端基を有さないため、フラックス中に相溶しにくく、ネットワーク形成によるチキソ性を付与しやすい。
これにより、環状アミド化合物と非環状アミド化合物からなるチキソ剤では、環状アミド化合物と非環状アミド化合物との分子間での水素結合が促進され、非環状アミド化合物の分子内での水素結合が阻害されると考えられる。
図6は、環状アミド化合物で非環状アミド化合物を架橋した分子構造の概要を示す模式図である。環状アミド化合物と非環状アミド化合物からなるチキソ剤では、図6に示すように、環状アミド化合物と非環状アミド化合物が水素結合(B)されることで、環状アミド化合物で非環状アミド化合物が非共有結合性の相互作用にて架橋された比較的均一な成分のネットワークが構築されると考えられる。
従って、環状アミド化合物と非環状アミド化合物からなるチキソ剤を含むフラックスでは、非環状アミド化合物からなるチキソ剤と比較して、チキソ剤の過度な析出が抑制され、かつ、チキソ性に優れる。また、環状アミド化合物と非環状アミド化合物からなるチキソ剤を含むフラックスと金属粉からなるソルダペーストでは、印刷性に優れ、また、印刷ダレが抑制され、更に加熱ダレが抑制される。
環状アミド化合物と非環状アミド化合物は、カルボン酸の数をn、アミンの数をnとしたとき、[n+n]型と表される。環状アミド化合物は、[1+1]型から[n+n]型が構築されるが、好ましくは、[1+1]型〜[3+3]型、特に好ましくは[2+2]型である。図5は、ジカルボン酸とジアミンが環状に重縮合した[2+2]型の一例であり、環状アミド化合物は、ジカルボン酸とジアミンが環状に重縮合した[2+2]型が好ましい。
なお、環状アミド化合物は、トリカルボン酸とジアミンが環状に重縮合し、トリカルボン酸の官能基の1つが他の化合物と未結合なフリーの状態となっている[2+2]型、トリカルボン酸とジアミンが環状に重縮合してかご型構造をなす[2+3]型、ジカルボン酸とトリアミンが環状に重縮合してかご型構造をなす[3+2]型等も含まれる。
これにより、環状アミド化合物は、ジカルボン酸とジアミンが環状に重縮合したアミドオリゴマー、トリカルボン酸とジアミンが環状に重縮合したアミドオリゴマー、ジカルボン酸とトリアミンが環状に重縮合したアミドオリゴマー、トリカルボン酸とトリアミンが環状に重縮合したアミドオリゴマー、ジカルボン酸及びトリカルボン酸とジアミンが環状に重縮合したアミドオリゴマー、ジカルボン酸及びトリカルボン酸とトリアミンが環状に重縮合したアミドオリゴマー、ジカルボン酸とジアミン及びトリアミンが環状に重縮合したアミドオリゴマー、トリカルボン酸とジアミン及びトリアミンが環状に重縮合したアミドオリゴマー、ジカルボン酸及びトリカルボン酸とジアミン及びトリアミンが環状に重縮合したアミドオリゴマーの何れでも良い。
また、非環状アミド化合物は、モノカルボン酸とジアミン及び/またはトリアミンが非環状に重縮合したアミド化合物である場合、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸とモノアミンが非環状に重縮合したアミド化合物である場合等、モノカルボン酸またはモノアミンを含むアミド化合物であると、モノカルボン酸、モノアミンがターミナル分子(terminal molecules)として機能し、分子量を小さくした非環状アミドオリゴマーとなる。また、非環状アミド化合物は、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸と、ジアミン及び/またはトリアミンが非環状に重縮合したアミド化合部である場合、非環状高分子系アミドポリマーとなる。更に、非環状アミド化合物は、モノカルボン酸とモノアミンが非環状に縮合したアミド化合物も含まれる。
以下に、モノカルボン酸とモノアミンが非環状に縮合したアミド化合物がネットワークを形成できる理由を説明する。
図7は、モノカルボン酸の分子構造の概要を示す模式図、図8は、モノアミンの分子構造の概要を示す模式図、図9は、モノカルボン酸とモノアミンが縮合した非環状アミド化合物の分子構造の概要を示す模式図である。
図7に示すモノカルボン酸のカルボキシル基(COOH)と、図8に示すモノアミンのアミノ基(NH2)が縮合によりアミド結合することで、図9に示す非環状アミド化合物が形成される。また、非環状アミド化合物のアミド基C(=O)−NHの水素(H)と酸素(O)が、分子間で水素結合することでつながる。非環状アミド化合物の分子内のアミド結合箇所を(A)で示し、非環状アミド化合物の分子間の水素結合箇所を(B)で示す。
このように、分子内に1つのアミド基を持つモノアミド(モノアマイド)は、水素結合によりつながっていく。この水素結合によるモノアミドの集合体は超分子として取り扱われる。超分子とは、水素結合、疎水性相互作用等の非共有結合性の相互作用から構築された分子の集合体を指す。水素結合は強い相互作用を示し、安定した構造となる。
モノカルボン酸とモノアミンが縮合したモノアミドである非環状アミド化合物は、アミド結合に由来する水素結合による相互作用でつながり、加えて、水素結合による相互作用でつながった分子鎖、とりわけ、主鎖のアミド結合に由来する水素結合や、側鎖による疎水性相互作用等による分子鎖間の相互作用によって架橋部位を形成し3次元ネットワークへと成長する。
以上のように、モノカルボン酸とモノアミンが縮合した非環状アミド化合物は、アミド基を1つしか持たないものの、水素結合による非共有性相互作用により結合することで、ネットワークを形成できることが判る。
なお、チキソ剤として含有する環状アミド化合物は、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸と、ジアミン及び/またはトリアミンが環状に重縮合したアミド化合物で、アミド基を2つ以上持つ。
これにより、環状アミド化合物がチキソ剤に加わることで、水素結合による相互作用でつながったモノアミドの集合体である非環状アミド化合物が、環状アミド化合物を介してつながる。
チキソ剤が環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含むフラックスを用いたソルダペーストでは、環状アミド化合物と非環状アミド化合物がネットワークを形成することで、チキソ性が付与されると考えられる。
しかし、環状アミド化合物と非環状アミド化合物の含有量が過少であると、十分なネットワークが形成できないため、チキソ性が付与されない。
一方、環状アミド化合物を含まない、または、環状アミド化合物の含有量が本願発明で規定される量より少ないチキソ剤では、非環状アミド化合物が過剰になると、非環状アミド化合物の分子内、分子間で過度に相互作用してしまい、凝集・析出が発生しやすくなる。
これにより、フラックスとしてのレオロジー特性が損なわれる(結晶析出による印刷性が悪い)ことや、凝集体が形成されていない部分でチキソ剤密度が少なく、実質的に上記のようなチキソ剤不足の状態となり効果を発揮できなくなると考えられる。
これに対して、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸と、ジアミン及び/またはトリアミンが環状に重縮合した環状アミド化合物と、モノカルボン酸、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸と、モノアミン、ジアミン及び/またはトリアミンが非環状に縮合した非環状アミド化合物を、本願発明で規定される含有量で併用することにより、環状アミド化合物で非環状アミド化合物を非共有結合性の相互作用にて架橋し、比較的均一なチキソ剤成分のネットワークを構築して、過度のチキソ剤析出を抑制することができる。この環状アミド化合物と非環状アミド化合物を併用することによる効果は、環状アミド化合物と非環状アミド化合物の含有量が本願発明で規定される範囲であれば、非環状アミド化合物の分子量が3000以下でも、3000超でも発揮される。
また、非環状アミド化合物は、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸のカルボキシル基の合計モル数と、ジアミン及び/またはトリアミンのアミノ基の合計モル数の比が1:1であれば、分子量が最大になる。これに対し、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸のカルボキシル基の合計モル数と、ジアミン及び/またはトリアミンのアミノ基の合計モル数の比が1:mまたはm:1(m>1)であれば、分子量を小さくした非環状アミドオリゴマーとなる。好ましくは1:2〜2:1である。
環状アミド化合物は、ジカルボン酸及びトリカルボン酸の炭素数が3以上10以下であり、ジカルボン酸及びトリカルボン酸の炭素数が6以上10以下であることがより好ましい。
また、環状アミド化合物は、ジアミン及びトリアミンの炭素数が2以上54以下であり、ジアミン及びトリアミンの炭素数が6であることがより好ましい。
更に、非環状アミド化合物は、モノカルボン酸、ジカルボン酸及びトリカルボン酸の炭素数が2以上28以下であることが好ましく、モノカルボン酸、ジカルボン酸及びトリカルボン酸の炭素数は、より好ましくは2以上18以下、更に好ましくは2以上10以下、より更に好ましくは6以上10以下である。非環状アミド化合物は、モノアミン、ジアミン及びトリアミンの炭素数が0以上54以下であることが好ましく、モノアミン、ジアミン及びトリアミンの炭素数は、より好ましくは0以上18以下、更に好ましくは0以上10以下、より更に好ましくは6以上10以下である。
環状アミド化合物、非環状アミド化合物におけるジカルボン酸は、炭素数が6のアジピン酸、炭素数が10のセバシン酸等が挙げられる。
また、環状アミド化合物、非環状アミド化合物におけるジカルボン酸は、炭素数3のマロン酸、炭素数4のコハク酸、炭素数5のグルタル酸、炭素数7のピメリン酸、炭素数8のスベリン酸、炭素数9のアゼライン酸、炭素数8のシクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、及び、炭素数6のフタル酸、炭素数6のテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
更に、環状アミド化合物、非環状アミド化合物におけるトリカルボン酸は、炭素数9のシクロヘキサントリカルボン酸、炭素数9のベンゼントリカルボン酸等が挙げられる。
また、非環状アミド化合物におけるモノカルボン酸は、炭素数2の酢酸、炭素数16のパルミチン酸、炭素数18のステアリン酸、炭素数18の12−ヒドロキシステアリン酸、炭素数22のベヘン酸、炭素数28のモンタン酸等が挙げられる。
環状アミド化合物、非環状アミド化合物におけるジアミンは、1,6−ヘキサンジアミン等が挙げられる。
また、環状アミド化合物、非環状アミド化合物におけるジアミンは、炭素数2のエチレンジアミン、炭素数3の1,3−ジアミノプロパン、炭素数4の1,4−ジアミノブタン、炭素数36のダイマージアミン、炭素数6のフェニレンジアミン、炭素数8のメタキシリレンジアミン、炭素数8のパラキシリレンジアミン、炭素数8の2,4−ジアミノトルエン等が挙げられる。
更に、環状アミド化合物、非環状アミド化合物におけるトリアミンは、炭素数6のトリアミノシクロヘキサン、炭素数54のトリマートリアミン等が挙げられる。
また、非環状アミド化合物におけるモノアミンは、炭素数0のアンモニア、炭素数2のエチルアミン、炭素数6のヘキシルアミン、炭素数8のオクチルアミン、炭素数18のステアリルアミン等が挙げられる。
モノカルボン酸とモノアミンが縮合した[1+1]型の非環状アミド化合物としては、ステアリン酸アミド(分子量283.49)、p−トルアミド(分子量135.17)等が挙げられる。また、モノカルボン酸とジアミンが縮合した[1+1]型の非環状アミド化合物としては、エチレンジアミンモノステアリン酸アミド(分子量326.56)等が挙げられる。
モノカルボン酸とジアミンが縮合した[2+1]型の非環状アミド化合物としては、エチレンジアミンビスステアリン酸アミド(分子量593.02)、エチレンジアミンビスパルミチン酸アミド(分子量536.9)、メタキシリレンジアミンビスステアリン酸アミド(分子量669.11)等が挙げられる。
ジカルボン酸とモノアミンが縮合した[1+2]型の非環状アミド化合物としては、コハク酸ビスステアリルアミド(分子量621.07)、アジピン酸ビスステアリルアミド(分子量649.12)、セバシン酸ビスステアリルアミド(分子量705.27)等が挙げられる。
なお、非環状アミド化合物は、ラクタムを開環重合したものでも置換でき、例えば、ε−カプロラクタムを開環重合した6−ナイロン、ラウリルラクタムを開環重合した12−ナイロン等が挙げられる。
本実施の形態のフラックスは、チキソ剤として上述した環状アミド化合物を0.1wt%以上8.0wt%以下、より好ましくは、環状アミド化合物を0.1wt%以上1.5wt%以下、非環状アミド化合物を0.5wt%以上8.0wt%以下、より好ましくは、非環状アミド化合物を0.5wt%以上4.0wt%以下含み、かつ、環状アミド化合物と非環状アミド化合物の合計が1.5wt%以上10.0wt%以下である。
環状アミド化合物の量が0.1wt%未満であると、チキソ性が悪くなる。また、印刷ダレ、加熱ダレを抑制できない。一方、環状アミド化合物の量が8.0wt%超であると、アミド系チキソ剤の合計量が多くなることで、フラックス中で析出が発生し、印刷性が悪くなる。
また、本実施の形態のフラックスは、チキソ剤としてエステル化合物を含むことが好ましく、エステル化合物を0wt%以上8.0wt%以下、より好ましくは、エステル化合物を0wt%以上4.0wt%以下含む。
エステル化合物としては、例えば、ヒマシ硬化油等が挙げられる。
本実施の形態のフラックスは、アゾール類を含有する。
ここでいう「アゾール類」とは、窒素原子を1つ以上含む複素5員環構造を有する化合物を意味し、当該複素5員環構造と他の環構造との縮合環も包含する。
アゾール類としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、エポキシ−イミダゾールアダクト、2−メチルベンゾイミダゾール、2−オクチルベンゾイミダゾール、2−ペンチルベンゾイミダゾール、2−(1−エチルペンチル)ベンゾイミダゾール、2−ノニルベンゾイミダゾール、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール]、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、2,2’−[[(メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル]イミノ]ビスエタノール、1−(1’,2’−ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1−(2,3−ジカルボキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1−[(2−エチルヘキシルアミノ)メチル]ベンゾトリアゾール、2,6−ビス[(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル]−4−メチルフェノール、5−メチルベンゾトリアゾール、5−フェニルテトラゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、6−(2−ベンゾトリアゾリル)−4−tert−オクチル−6’−tert−ブチル−4’−メチル−2,2’−メチレンビスフェノール等が挙げられる。
アゾール類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
アゾール類は、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、ベンゾイミダゾール及び2−オクチルベンゾイミダゾールからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、2−フェニルイミダゾールを含むものがより好ましい。
本実施の形態のフラックスは、アゾール類を0.1wt%以上10wt%以下含むことが好ましく、より好ましくは、アゾール類を0.5wt%以上5.0wt%以下含む。
ロジンとしては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン及びトール油ロジン等の原料ロジン、並びに該原料ロジンから得られる誘導体が挙げられる。該誘導体としては、例えば、精製ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、酸変性ロジン、フェノール変性ロジン及びα,β不飽和カルボン酸変性物(アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン等)、並びに該重合ロジンの精製物、水素化物及び不均化物、並びに該α,β不飽和カルボン酸変性物の精製物、水素化物及び不均化物等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
本実施の形態のフラックスは、ロジンを30wt%以上60wt%以下含むことが好ましく、より好ましくは、ロジンを35wt%以上60wt%以下含む。
有機酸としては、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、エイコサン二酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、サリチル酸、ジグリコール酸、ジピコリン酸、ジブチルアニリンジグリコール酸、スベリン酸、セバシン酸、チオグリコール酸、テレフタル酸、ドデカン二酸、パラヒドロキシフェニル酢酸、ピコリン酸、フェニルコハク酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、ラウリン酸、安息香酸、酒石酸、イソシアヌル酸トリス(2−カルボキシエチル)、グリシン、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジエチルグルタル酸、2−キノリンカルボン酸、3−ヒドロキシ安息香酸、リンゴ酸、p−アニス酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
また、有機酸としては、ダイマー酸、トリマー酸、ダイマー酸に水素を添加した水添物である水添ダイマー酸、トリマー酸に水素を添加した水添物である水添トリマー酸が挙げられる。
例えば、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とメタクリル酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とメタクリル酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸の反応物であるトリマー酸、リノール酸の反応物であるダイマー酸、リノール酸の反応物であるトリマー酸、リノレン酸の反応物であるダイマー酸、リノレン酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とオレイン酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とオレイン酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸とオレイン酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸とオレイン酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、リノール酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、リノール酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、上述した各ダイマー酸の水添物である水添ダイマー酸、上述した各トリマー酸の水添物である水添トリマー酸等が挙げられる。
有機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本実施の形態のフラックスは、有機酸を0.5wt%以上20wt%以下含むことが好ましく、3wt%以上18wt%以下含むことがより好ましい。
本実施の形態のフラックスにおいて、有機酸の含有量と、アゾール類の含有量との比率は、有機酸の含有量/アゾール類の含有量で表される質量比として、0.5以上10以下が好ましく、1以上9以下がより好ましい。この質量比が前記の好ましい範囲内であれば、接合対象物の金属表面(例えば銅板)の腐食抑制性がより高められやすくなる。
溶剤としては、水、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、テルピネオール類等が挙げられる。アルコール系溶剤としてはイソプロピルアルコール、1,2−ブタンジオール、イソボルニルシクロヘキサノール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2,2’−オキシビス(メチレン)ビス(2−エチル−1,3−プロパンジオール)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,6−トリヒドロキシヘキサン、ビス[2,2,2−トリス(ヒドロキシメチル)エチル]エーテル、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、エリトリトール、トレイトール、グアヤコールグリセロールエーテル、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール等が挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、ヘキシルジグリコール、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
本実施の形態のフラックスは、さらに、アミン(アゾール類を除く)、ハロゲン(有機ハロゲン化合物、アミンハロゲン化水素酸塩)を含んでもよい。本実施の形態のフラックスは、アミン(アゾール類を除く)を0wt%以上20wt%以下含むことが好ましく、より好ましくは、アミンを0wt%以上5wt%以下含む。本実施の形態のフラックスは、ハロゲンとして有機ハロゲン化合物を0wt%以上5wt%以下含むことが好ましく、アミンハロゲン化水素酸塩を0wt%以上2wt%以下含むことが好ましい。
アミンとしては、モノエタノールアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン等が挙げられる。
有機ハロゲン化合物としては、trans−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、トリアリルイソシアヌレート6臭化物、1−ブロモ−2−ブタノール、1−ブロモ−2−プロパノール、3−ブロモ−1−プロパノール、3−ブロモ−1,2−プロパンジオール、1,4−ジブロモ−2−ブタノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、2,3−ジブロモ−1−プロパノール、2,3−ジブロモ−1,4−ブタンジオール、2,3−ジブロモ−1,4−ブタンジオール、2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、イソシアヌル酸トリス(2,3−ジブロモプロピル)、無水クロレンド酸等が挙げられる。
アミンハロゲン化水素酸塩は、アミンとハロゲン化水素を反応させた化合物である。
アミンハロゲン化水素酸塩のアミンとしては、上述したアミンを用いることができ、エチルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、ジフェニルグアニジン、ジトリルグアニジン、メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等が挙げられる。ハロゲン化水素としては、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素の水素化物(塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、フッ化水素)が挙げられる。また、アミンハロゲン化水素酸塩に代えて、あるいはアミンハロゲン化水素酸塩と合わせてホウフッ化物を含んでもよく、ホウフッ化物としてホウフッ化水素酸等が挙げられる。
アミンハロゲン化水素酸塩としては、アニリン塩化水素、シクロヘキシルアミン塩化水素、アニリン臭化水素、ジフェニルグアニジン臭化水素、ジトリルグアニジン臭化水素、エチルアミン臭化水素等が挙げられる。
本実施の形態のフラックスは、更に、酸化防止剤を含んでもよく、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられ、酸化防止剤を0wt%以上5wt%以下含むことが好ましい。本実施の形態のフラックスは、残部が溶剤である。
<本実施の形態のソルダペーストの一例>
本実施の形態のソルダペーストは、上述したフラックスと、金属粉とを含有する。
金属粉は、Pbを含まないはんだであることが好ましく、Sn単体のはんだの粉体、または、Sn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Bi系、Sn−In系等、あるいは、これらの合金にSb、Bi、In、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Fe、Ni、Co、Au、Ge、P等を添加したはんだ合金の粉体で構成される。
はんだ合金は、As:25質量ppm以上300質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超3000質量ppm以下、Bi:0質量ppm超10000質量ppm以下、及びPb:0質量ppm超5100質量ppm以下のうちの少なくとも1種と、残部(Bal)がSnとからなる合金組成を有することが好ましい。はんだ合金は、Ag:0質量%以上4質量%以下及びCu:0質量%以上0.9質量%以下のうちの少なくとも1種を更に含有していてもよい。
Asは、ソルダペーストの粘度の経時変化を抑制することができる元素である。Asは、フラックスとの反応性が低く、また、Snに対して貴な元素であるために増粘抑制効果を発揮することができると推察される。As含有量の下限は、例えば25質量ppm以上であり、好ましくは50質量ppm以上であり、より好ましくは100質量ppm以上である。一方、Asが多すぎると、はんだ合金の濡れ性が劣化する。As含有量の上限は、例えば300質量ppm以下であり、好ましくは250質量ppm以下であり、より好ましくは200質量ppm以下である。
Sbは、フラックスとの反応性が低く増粘抑制効果を示す元素である。はんだ合金がSbを含有する場合、Sb含有量の下限は、例えば0質量ppm超であり、好ましくは25質量ppm以上であり、より好ましくは50質量ppm以上であり、さらに好ましくは100質量ppm以上であり、特に好ましくは300質量ppm以上である。一方、Sb含有量が多すぎると、はんだ合金の濡れ性が劣化するため、適度な含有量にする必要がある。Sb含有量の上限は、例えば3000質量ppm以下であり、好ましくは1150質量ppm以下であり、より好ましくは500質量ppm以下である。
Bi及びPbは、Sbと同様に、フラックスとの反応性が低く増粘抑制効果を示す元素である。また、Bi及びPbは、はんだ合金の液相線温度を下げるとともに、溶融はんだの粘性を低減させるため、Asによるはんだ合金の濡れ性の劣化を抑えることができる元素である。
Sb、Bi及びPbのうちの少なくとも1元素が存在すれば、Asによるはんだ合金の濡れ性の劣化を抑えることができる。はんだ合金がBiを含有する場合、Bi含有量の下限は、例えば0質量ppm超であり、好ましくは25質量ppm以上であり、より好ましくは50質量ppm以上であり、さらに好ましくは75質量ppm以上であり、特に好ましくは100質量ppm以上であり、最も好ましくは250質量ppm以上である。はんだ合金がPbを含有する場合、Pb含有量の下限は、例えば0質量ppm超であり、好ましくは25質量ppm以上であり、より好ましくは50質量ppm以上であり、さらに好ましくは75質量ppm以上であり、特に好ましくは100質量ppm以上であり、最も好ましくは250質量ppm以上である。
一方、これらの元素の含有量が多すぎると、固相線温度が著しく低下するため、液相線温度と固相線温度との温度差であるΔTが広くなりすぎる。ΔTが広すぎると、溶融はんだの凝固過程において、BiやPbの含有量が少ない高融点の結晶相が析出するために液相のBiやPbが濃縮される。その後、さらに溶融はんだの温度が低下すると、BiやPbの濃度が高い低融点の結晶相が偏析してしまう。このため、はんだ合金の機械的強度等が劣化し、信頼性が劣ることになる。特に、Bi濃度が高い結晶相は硬くて脆いため、はんだ合金中で偏析すると信頼性が著しく低下する。
このような観点から、はんだ合金がBiを含有する場合、Bi含有量の上限は、例えば10000質量ppm以下であり、好ましくは1000質量ppm以下であり、より好ましくは600質量ppm以下であり、さらに好ましくは500質量ppm以下である。はんだ合金がPbを含有する場合、Pb含有量の上限は、例えば5100質量ppm以下であり、好ましくは5000質量ppm以下であり、より好ましくは1000質量ppm以下であり、さらに好ましくは850質量ppm以下であり、特に好ましくは500質量ppm以下である。
はんだ合金は、下記の数式(1)を満たすことが好ましい。
275≦2As+Sb+Bi+Pb・・・(1)
上記の数式(1)中、As、Sb、Bi及びPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
As、Sb、Bi及びPbは、いずれも増粘抑制効果を示す元素である。これらの合計が275質量ppm以上であることが好ましい。数式(1)中、As含有量を2倍にしたのは、AsがSbやBiやPbと比較して増粘抑制効果が高いためである。
数式(1)の下限は、好ましくは350以上であり、より好ましくは1200以上である。一方、数式(1)の上限は、増粘抑制効果の観点では特に限定されることはないが、ΔTを適した範囲にする観点から、好ましくは25200以下であり、より好ましくは10200以下であり、さらに好ましくは5300以下であり、特に好ましくは3800以下である。
上記好ましい態様の中から上限及び下限を適宜選択したものが、下記の数式(1a)及び数式(1b)である。
275≦2As+Sb+Bi+Pb≦25200・・・(1a)
275≦2As+Sb+Bi+Pb≦5300・・・(1b)
上記の数式(1a)及び数式(1b)中、As、Sb、Bi及びPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
また、はんだ合金は、下記の数式(2)を満たすことが好ましい。
0.01≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00・・・(2)
上記の数式(2)中、As、Sb、Bi及びPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
As及びSbは、その含有量が多いと、はんだ合金の濡れ性が劣化する。一方、Bi及びPbは、Asを含有することによるはんだ合金の濡れ性の劣化を抑制するが、含有量が多すぎると、ΔTが上昇してしまう。特に、Bi及びPbを同時に含有する合金組成では、ΔTが上昇しやすい。これらを鑑みると、Bi及びPbの含有量を増加させて過度にはんだ合金の濡れ性を向上させようとすると、ΔTが広がってしまう。一方、AsやSbの含有量を増加させて増粘抑制効果を向上させようとすると、はんだ合金の濡れ性が劣化してしまう。そこで、As及びSbのグループ、Bi及びPbのグループに分け、両グループの合計量が適正な所定の範囲内である場合に、増粘抑制効果、ΔTの狭窄化、及びはんだ合金の濡れ性のすべてが同時に満たされるのである。
数式(2)が0.01未満であると、Bi及びPbの含有量の合計がAs及びPbの含有量の合計と比較して相対的に多くなるため、ΔTが広がってしまう。数式(2)の下限は、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.41以上であり、さらに好ましくは0.90以上であり、特に好ましくは1.00以上であり、最も好ましくは1.40以上である。一方、数式(2)が10.00を超えると、As及びSbの含有量の合計がBi及びPbの含有量の合計より相対的に多くなるため、はんだ合金の濡れ性が劣化してしまう。数式(2)の上限は、好ましくは5.33以下であり、より好ましくは4.50以下であり、さらに好ましくは2.67以下であり、特に好ましくは2.30以下である。
なお、数式(2)の分母は「Bi+Pb」であり、これらを含有しないと数式(2)が成立しない。そのため、はんだ合金は、Bi及びPbのうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。Bi及びPbを含有しない合金組成は、前述のように、はんだ合金の濡れ性が劣る。
上記好ましい態様の中から上限及び下限を適宜選択したものが、下記の数式(2a)である。
0.31≦(2As+Sb)/(Bi+Pb)≦10.00・・・(2a)
上記の数式(2a)中、As、Sb、Bi及びPbは各々合金組成での含有量(質量ppm)を表す。
Agは、結晶界面にAg3Snを形成してはんだ合金の信頼性を向上させることができる任意元素である。また、Agはイオン化係数がSnに対して貴な元素であり、As、Pb及びBiと共存することにより、これらの増粘抑制効果を助長する。Ag含有量は、好ましくは0質量%以上4質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上3.5質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上3.0質量%以下である。
Cuは、はんだ継手の接合強度を向上させることができる任意元素である。また、Cuはイオン化係数がSnに対して貴な元素であり、As、Pb及びBiと共存することにより、これらの増粘抑制効果を助長する。Cu含有量は、好ましくは0質量%以上0.9質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上0.7質量%以下である。
はんだ合金の残部(Bal)は、Snであることが好ましい。はんだ合金は、前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。不可避的不純物を含有する場合であっても、前述の効果に影響することはない。Inは、含有量が多すぎるとΔTが広がるため、1000質量ppm以下であれば、前述の効果に影響することはない。
<本実施の形態のフラックス及びソルダペーストの作用効果例>
チキソ剤と、アゾール類と、ロジンと、溶剤とを含有し、チキソ剤が、環状アミド化合物及び非環状アミド化合物を含むフラックスでは、チキソ剤が非環状アミド化合物からなる場合と比較して、非環状アミド化合物の含有量を増やすことなく、チキソ性を向上させることができ、チキソ剤の析出を抑制することができる。加えて、接合対象物の金属表面(例えば銅板)に対し、高い腐食抑制性を発現することができる。このフラックスを用いたソルダペーストでは、にじみ、かすれ等が抑制された良好な印刷性を得ることができ、また、印刷後のソルダペーストが流れる印刷ダレを抑制することができる。更に、はんだ付け時の加熱によるソルダペーストの加熱ダレを抑制することができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
以下の表1、表2、表3、表4、表5、表6、表7、表8に示す組成で実施例と比較例のフラックスを調合し、このフラックスを使用してソルダペーストを調合して、フラックスのチキソ性、ソルダペーストの印刷ダレの抑制能、印刷性、加熱ダレの抑制能、銅板腐食抑制能について検証した。
なお、表1、表2、表3、表4、表5、表6、表7、表8における組成率は、フラックスの全量を100とした場合のwt(質量)%である。
ソルダペーストは、フラックスが11wt%、金属粉が89wt%である。また、ソルダペースト中の金属粉は、Agが3.0wt%、Cuが0.5wt%、残部がSnであるSn−Ag−Cu系のはんだ合金であり、金属粉の粒径の平均はφ20μmである。
<フラックスのチキソ性の評価>
(1)検証方法
チキソ性の評価は、JIS Z3284−3 4.2に準拠し、スパイラル方式粘度計を用いて行った。粘度計の回転速度を3rpmと30rpmに設定し、所定時間回転後の粘度を読み取ってチキソ比を算出した。
(2)判定基準
〇〇:チキソ比が0.60以上
〇:チキソ比が0.30以上0.60未満
×:チキソ比が0.30未満
<ソルダペーストの印刷ダレ抑制能の評価>
(1)検証方法
ソルダペーストの印刷ダレ抑制能の評価は、JIS Z3284−3 4.3に準拠し、所定のパターンでソルダペースト印刷部が形成されたステンレス製メタルマスクを使用して銅板にソルダペーストを印刷し、メタルマスクを取り除いた後、室温25±5℃、相対湿度50±10%で10〜20分間保管し、印刷された各パターンのうち、印刷されたソルダペースト全てが一体にならない最小間隔を目視により確認した。メタルマスクの厚みは0.2mm、ソルダペースト印刷部は四角形の開口で、大きさは3.0×1.5mmとなっている。ソルダペースト印刷部は、同じ大きさの複数の開口が間隔を異ならせて並び、開口の間隔Lは0.2−0.3−0.4−0.5−0.6−0.7−0.8−0.9−1.0−1.1−1.2mmとなっている。
(2)判定基準
〇:印刷後、一体にならない最小間隔が0.2mm以下
×:印刷後、一体にならない最小間隔が0.2mm超
<ソルダペーストの印刷性の評価>
(1)検証方法
ソルダペーストの印刷性の評価は、JIS Z3284−3 4.1に準拠し、所定のパターンでソルダペースト印刷部が形成されたステンレス製メタルマスクを使用して銅板にソルダペーストを印刷し、印刷初期及び連続印刷時において、にじみ、かすれがないかを目視により確認した。
(2)判定基準
〇:印刷後、にじみ・かすれがない
×:印刷後、にじみ・かすれがある
<ソルダペーストの加熱ダレ抑制能の評価>
(1)検証方法
ソルダペーストの加熱ダレ抑制能の評価は、JIS Z3284−3 4.4に準拠し、所定のパターンでソルダペースト印刷部が形成されたステンレス製メタルマスクを使用して銅板にソルダペーストを印刷し、メタルマスクを取り除いた後、150±10℃にて10分間加熱を行い、印刷された各パターンのうち、印刷されたソルダペースト全てが一体にならない最小間隔を目視により確認した。メタルマスクの厚みは0.2mm、ソルダペースト印刷部は四角形の開口で、大きさは3.0×1.5mmとなっている。ソルダペースト印刷部は、同じ大きさの複数の開口が間隔を異ならせて並び、開口の間隔Lは0.2−0.3−0.4−0.5−0.6−0.7−0.8−0.9−1.0−1.1−1.2mmとなっている。
(2)判定基準
〇:一体にならない最小間隔が1.0mm以下
×:一体にならない最小間隔が1.0mm超
<銅板腐食抑制能の評価>
(1)検証方法
銅板腐食抑制能の評価は、JIS Z 3197:2012 8.4.1に準拠し、下記の銅板腐食試験により行った。
試験銅板の作製:寸法50mm×50mm×0.5mmのりん脱酸銅板の中央に直径20mmの鋼球で深さ3mmのくぼみを作って試験片とした。試験片は、アセトンで脱脂後、65℃の硫酸に1分間浸漬して表面の酸化被膜等を除去した。次に、20℃の過硫酸アンモニウム溶液に1分間浸漬した後、精製水で洗浄し、乾燥させて試験銅板とした。
各例のフラックスの固形分含有量を、JIS Z 3197:2012 8.1.3に規定する方法を用いて測定し、その固形分として0.035〜0.040gを含有する適量のフラックスを、前記試験銅板中央のくぼみに加えた。
次に、温度40℃、相対湿度90%の加湿条件に設定した恒温恒湿槽中に試験銅板を投入し、槽内に72時間放置した。各例のフラックスごとに、試験銅板を2個とし、1個のブランクを加えた。
槽内に96時間放置した後、恒温恒湿槽から取り出し、30倍の顕微鏡で腐食の跡をブランクと比較した。以下に示す判定基準に基づき、銅板腐食抑制能を評価した。
(2)判定基準
○:変色なし
×:変色がある
<総合評価>
○:フラックスのチキソ性、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、ソルダペーストの印刷性、ソルダペーストの加熱ダレ抑制能、銅板腐食抑制能の各評価が、〇又は○○である。
×:フラックスのチキソ性、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、ソルダペーストの印刷性、ソルダペーストの加熱ダレ抑制能、銅板腐食抑制能の各評価のうち、少なくとも1つが×である。
本発明では、実施例1に示すように、チキソ剤として、炭素数が10のジカルボン酸であるセバシン酸と、炭素数が6のジアミンである1,6−ヘキサンジアミンが環状に重縮合した環状アミド化合物と、炭素数が10のジカルボン酸であるセバシン酸と、炭素数が6のジアミンである1,6−ヘキサンジアミンが非環状に重縮合した非環状アミド化合物を本発明で規定された範囲内で含有することで、フラックスのチキソ性を向上させることができ、チキソ剤の析出を抑制することができた。また、アゾール類として2−フェニルイミダゾールを採用したことで、銅板腐食抑制性を高めることができた。また、このフラックスを用いたソルダペーストでは、にじみ、かすれ等が抑制された良好な印刷性を得ることができ、印刷後のソルダペーストが流れる印刷ダレを抑制することができた。更に、はんだ付け時の加熱によるソルダペーストの加熱ダレを抑制することができた。
実施例2のように、アゾール類を10wt%含有しても、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレの抑制能が阻害されず、これらに対して十分な効果が得られた。
実施例3のように、アゾール類を0.1wt%含有し、有機酸を併用することで、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレの抑制能が阻害されず、これらに対して十分な効果が得られた。
実施例4〜7に示すように、アゾール類の種類を変えることでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレの抑制能が阻害されず、これらに対して十分な効果が得られた。
実施例8に示すように、本発明で規定された範囲内でアゾール類を複数種類と、モノエタノールアミンとを併有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有することで、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例9〜実施例11に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有することで、本発明で規定された範囲内で環状アミド化合物と非環状アミド化合物の種類又は量を変えることでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例12〜実施例16に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有することで、本発明で規定された範囲内で有機酸の種類を変える、複数種類の有機酸を組み合わせる、有機酸の量を変えることでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例17〜実施例20に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有することで、本発明で規定された範囲内でロジンの種類を変える、複数種類のロジンを組み合わせることでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例21に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有し、さらに、アミンとしてモノエタノールを併有することでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例22〜実施例23に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有し、さらに、本発明で規定された範囲内でハロゲンを含有することでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例24に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有し、さらに、本発明で規定された範囲内で酸化防止剤を含有することでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例25に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有し、さらに、本発明で規定された範囲内でハロゲン、酸化防止剤を含有することで、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例26〜実施例27に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有することで、本発明で規定された範囲内でロジンの量を変えることでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例28〜実施例32に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物の量を少なく変え、さらに、本発明で規定された範囲内で有機酸の種類を変える、複数種類の有機酸を組み合わせる、有機酸の量を変えることでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例33〜実施例36に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物の量を少なく変え、さらに、本発明で規定された範囲内でロジンの種類を変える、複数種類のロジンを組み合わせることでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例37〜実施例38に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを2wt%、2−オクチルベンゾイミダゾールを5wt%それぞれ含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物1.5wt%と非環状アミド化合物2.5wt%を含有し、さらに、有機酸3wt%を含有することでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例39〜実施例40に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物の量を少なく変え、さらに、本発明で規定された範囲内でハロゲンを含有することでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例41に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物の量を少なく変え、さらに、本発明で規定された範囲内で酸化防止剤を含有することでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例42に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物の量を少なく変え、さらに、本発明で規定された範囲内でハロゲン、酸化防止剤を含有することで、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例43〜実施例44に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物の量を少なく変え、さらに、本発明で規定された範囲内でロジンの量を変えることでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例45〜実施例46に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、さらに、本発明で規定された範囲内でチキソ剤としてエステル化合物を含有すること、また、エステル化合物の量を変えることでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例47〜実施例49に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有し、さらに、環状アミド化合物及び非環状アミド化合物を減らしても、これらの合計が本発明で規定された範囲内であることにより、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例50に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、環状アミド化合物を本発明で規定された範囲内の下限値で0.1wt%含有し、非環状アミド化合物を本発明で規定された範囲内で2.5wt%含有し、環状アミド化合物と非環状アミド化合物の合計が本発明で規定された範囲内であり、さらに、本発明で規定された範囲内でチキソ剤としてエステル化合物を含有することでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例51に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、環状アミド化合物を本発明で規定された範囲内の下限値から増やして0.3wt%含有し、非環状アミド化合物を実施例50と同じ2.5wt%含有し、環状アミド化合物と非環状アミド化合物の合計が本発明で規定された範囲内であることで、実施例50と比較してエステル化合物の含有量を減らしても、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
実施例52のように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、環状アミド化合物を実施例51と同じ0.3wt%含み、非環状アミド化合物を本発明で規定された範囲内で8wt%含有し、環状アミド化合物と非環状アミド化合物の合計が本発明で規定された範囲内であることでも、チキソ剤としてエステル化合物を含有せずに、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
これに対し、比較例1に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物を含有しても、非環状アミド化合物の含有量が本発明で規定された範囲外で、環状アミド化合物と非環状アミド化合物の合計が本発明で規定された範囲外であると、フラックスの銅板腐食抑制能に対しては効果が得られたが、フラックスのチキソ性、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して効果が得られなかった。
また、比較例2に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、本発明で規定された範囲内でチキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含有しても、環状アミド化合物と非環状アミド化合物の合計が本発明で規定された範囲外であると、フラックスの銅板腐食抑制能に対しては効果が得られたが、フラックスのチキソ性、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して効果が得られなかった。
更に、比較例3に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、チキソ剤として環状アミド化合物は含まず、本発明で規定された範囲外で非環状アミド化合物を含有すると、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、加熱ダレ抑制能に対しては効果が得られたが、印刷性に対しては効果が得られなかった。
また、比較例4に示すように、本発明で規定されたアゾール類として2−フェニルイミダゾールを含有し、チキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物は含有せず、本発明で規定された範囲内でエステル化合物を含有すると、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性に対しては効果が得られたが、加熱ダレ抑制能に対しては効果が得られなかった。
また、比較例5に示すように、アゾール類を含有せず、チキソ剤として環状アミド化合物と非環状アミド化合物とを含有しても、フラックスのチキソ性、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、加熱ダレ抑制能、印刷性に対しては効果が得られたが、フラックスの銅板腐食抑制能に対しては効果が得られなかった。
なお、チキソ剤が、ジカルボン酸としてマロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸またはテレフタル酸等を使用した環状アミド化合物、非環状アミド化合物を含むことでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
また、チキソ剤が、トリカルボン酸としてシクロヘキサントリカルボン酸、ベンゼントリカルボン酸等を使用した環状アミド化合物、非環状アミド化合物を含むことでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
更に、チキソ剤が、ジアミンとしてエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ダイマージアミン、フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン等を使用した環状アミド化合物、非環状アミド化合物を含むことでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
また、チキソ剤が、トリアミンとしてトリアミノシクロヘキサン、トリマートリアミン等を使用した環状アミド化合物、非環状アミド化合物を含むことでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
更に、チキソ剤が、モノカルボン酸として酢酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等を使用した非環状アミド化合物を含むことでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
また、チキソ剤が、モノアミンとしてアンモニア、エチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ステアリルアミン等を使用した非環状アミド化合物を含むことでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
更に、チキソ剤が、ラクタムを開環重合した非環状アミド化合物を含むことでも、フラックスのチキソ性、銅板腐食抑制能、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能に対して十分な効果が得られた。
<ソルダペーストの増粘抑制効果の評価>
上述した各実施例のフラックスと、以下の表9に示す組成のはんだ合金とを使用して調合したソルダペーストの増粘抑制効果についても検証した。
(1)検証方法
得られたソルダペーストについて、JIS Z 3284−3の「4.2粘度特性試験」に記載された方法に従って、回転粘度計(PCU−205、株式会社マルコム製)を用い、回転数:10rpm、測定温度:25℃にて、粘度を12時間測定し続けた。そして、初期粘度(撹拌30分後の粘度)と12時間後の粘度とを比較し、以下の基準に基づいて増粘抑制効果の評価を行った。
(2)判定基準
〇:13時間後の粘度≦初期粘度×1.2:経時での粘度上昇が小さく良好
×:13時間後の粘度>初期粘度×1.2:経時での粘度上昇が大きく不良
表1から表7に示す各実施例のフラックスと、上記の数式(1)及び数式(2)を満たす表9に示す各試験例A1〜A6のはんだ合金とを使用したソルダペーストでは、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能、銅板腐食抑制能に加えて、増粘抑制効果に対して十分な効果が得られた。
これに対し、表1から表7に示す各実施例のフラックスと、上記の数式(1)及び数式(2)を満たさない表9に示す各試験例B1〜B6のはんだ合金とを使用したソルダペーストでは、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレ抑制能、銅板腐食抑制能に対して効果が得られたが、増粘抑制効果に対して効果が得られなかった。
以上のことから、チキソ剤とアゾール類とロジンと有機酸と溶剤とを含有し、チキソ剤は、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸とジアミン及び/またはトリアミンが環状に重縮合した環状アミド化合物と、モノカルボン酸、ジカルボン酸及び/またはトリカルボン酸とモノアミン、ジアミン及び/またはトリアミンが非環状に重縮合した非環状アミド化合物、または、ラクタムを開環重合した非環状アミド化合物からなり、環状アミド化合物は、ジカルボン酸及びトリカルボン酸の炭素数が3以上10以下、ジアミン及びトリアミンの炭素数が2以上54以下であり、非環状アミド化合物は、モノカルボン酸、ジカルボン酸及びトリカルボン酸の炭素数が2以上28以下、モノアミン、ジアミン及びトリアミンの炭素数が0以上54以下であり、環状アミド化合物を0.1wt%以上8.0wt%以下、より好ましくは、環状アミド化合物を0.1wt%以上1.5wt%以下、非環状アミド化合物を0.5wt%以上8.0wt%以下、より好ましくは、非環状アミド化合物を0.5wt%以上4.0wt%以下含み、かつ、環状アミド化合物と非環状アミド化合物の合計が1.5wt%以上10.0wt%以下である本発明に係るフラックスでは、チキソ剤が非環状アミド化合物からなる場合と比較して、非環状アミド化合物の含有量を増やすことなく、チキソ性を向上させることができ、チキソ剤の析出を抑制することができ、加えて、銅板の腐食抑制性を高めることができた。
このフラックスを用いたソルダペーストでは、にじみ、かすれ等が抑制された良好な印刷性を得ることができ、また、印刷後のソルダペーストが流れる印刷ダレを抑制することができた。更に、はんだ付け時の加熱によるソルダペーストの加熱ダレを抑制することができた。
さらに、本発明に係るフラックスは、チキソ剤としてエステル化合物を0wt%以上8.0wt%以下、より好ましくは、エステル化合物を0wt%以上4.0wt%以下、ロジンを30wt%以上60wt%以下、より好ましくは、ロジンを35wt%以上60wt%以下、有機酸を0.5wt%以上20wt%以下、アミンを0wt%以上20wt%以下、より好ましくは、アミンを0wt%以上5wt%以下、有機ハロゲン化合物を0wt%以上5wt%以下、アミンハロゲン化水素酸塩を0wt%以上2wt%以下、酸化防止剤を0wt%以上5wt%以下で含み、残部が溶剤である。このような組成とすることで、チキソ剤に環状アミド化合物と非環状アミド化合物を含むことによるフラックスのチキソ性、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレの抑制能、及びアゾール類を含むことによる腐食抑制効果が阻害されず、これらに対して十分な効果が得られた。
さらに、このフラックスと、As:25質量ppm以上300質量ppm以下、並びにSb:0質量ppm超3000質量ppm以下、Bi:0質量ppm超10000質量ppm以下、及びPb:0質量ppm超5100質量ppm以下のうちの少なくとも1種と、Ag:0質量%以上4質量%以下及びCu:0質量%以上0.9質量%以下のうちの少なくとも1種と、残部(Bal)がSnとからなり、かつ、上記の数式(1)及び数式(2)を満たすはんだ合金を用いたソルダペーストでは、チキソ剤に環状アミド化合物及び非環状アミド化合物を含むことによるフラックスのチキソ性、ソルダペーストの印刷ダレ抑制能、印刷性、加熱ダレの抑制能、アゾール類を含むことによる腐食抑制効果が阻害されず、増粘抑制効果に対して十分な効果が得られた。