図1は、本発明の実施形態である重作業用アシストスーツ100の外観を示す正面図であり、図2は、重作業用アシストスーツ100の外観を示す側面図である。図1および図2では、装着者によって装着された状態を図示している。図3は、パワーアシスト用電動モータ1が取り付けられたメインフレームの断面図であり、図2における切断面線A−Aから見た断面を示している。なお、図1では、ベルト18を省略して図示している。
パワーアシストロボット装置である重作業用アシストスーツ100は、重作業用のアシストスーツである。重作業用アシストスーツ100は、パワーアシスト用電動モータ1と、腰フレーム4と、背面フレーム5と、フレーム2,3,6〜9,20〜22と、バックプレート16と、受動回転軸10〜13,24,35と、受け部14と、ベルト15,18,26〜28,32と、ベルトホルダ17,25,30と、ユニバーサルジョイント23と、胸部ガイド29と、腰サポートベルト19と、コントロールボックス33と、ドライバ収容ボックス34と、横倒れ防止スプリング36と、角度調整機構37と、バッテリ収容ボックス38と、クッション39とを含んで構成される。
なお、パワーアシスト用電動モータ1、腰フレーム4、フレーム2,3,6〜9、受動回転軸10〜13、受け部14、ベルト15,18,26〜28,32、ベルトホルダ17,25,30、ユニバーサルジョイント23、横倒れ防止スプリング36、および、ドライバ収容ボックス34は、装着者の左右両側にそれぞれ1つずつ設けられている。
回転駆動部であるパワーアシスト用電動モータ1は、たとえば電動サーボモータによって構成される。パワーアシスト用電動モータ1は、上体および大腿部のパワーアシスト用、つまり上体および大腿部の動きを補助するための動力源として用いられる電動モータである。換言すると、パワーアシスト用電動モータ1は、股関節付近を支点とする上体および大腿部の回転をアシストするための動力を発生する。
2つのパワーアシスト用電動モータ1は、装着者の左右両側であって、装着者の第3〜第5腰椎付近の高さ位置に、その回転軸が、装着者の左右方向に延びる軸線(以下、「左右軸線」と称する)まわりに回転するように、次のようにしてそれぞれ取り付けられている。なお、重作業用アシストスーツ100の各部位と装着者との位置関係は、装着者が重作業用アシストスーツ100を装着したときの装着者に対する位置である。
パワーアシスト用電動モータ1の回転軸は、腰部フレームであるメインフレームに対して、受動関節軸などを介することなく直接連結されている。ここで、メインフレームとは、腰椎周囲の背部である腰部における左右方向の中央部分を覆うように設けられる1つの背面フレーム5と、装着者における左右の両側部にそれぞれ設けられるフレーム2、フレーム3、および腰フレーム4とを含んで構成される部分であり、各パワーアシスト用電動モータ1の回転軸は、フレーム2,3を介して、腰フレーム4の後述する他端部に対してそれぞれ固定されている。
メインフレームは左右対称に構成されるため、以下では、一方側についてのみ説明することとする。腰フレーム4は、その一端部から他端部にわたって湾曲しながら、大略的にL字状を成すように延びる長尺の板状部材であり、その一端部が、装着者の第3〜第5腰椎付近の高さ位置で、背面フレーム5の下端部に連結され、このとき、他端部が、装着者の腰部の側方に配置されるように形成されている。
腰フレーム4の一端部には、その長手方向に沿って複数の調整穴が設けられ、同様に、背面フレーム5の下端部にも、左右方向に沿って複数の調整穴が設けられており、これらの調整穴を介して、腰フレーム4の一端部と背面フレーム5の下端部とが連結されるように構成されている。すなわち、メインフレームは、腰フレーム4および背面フレーム5それぞれに設けられた複数の調整穴による調整機構によって、左右方向の幅が調整可能であり、これにより、左右方向におけるメインフレームの幅を装着者の体型に合わせることができるようになっている。腰フレーム4および背面フレーム5に設けられた調整穴による調整機構は、腰部調整機構である。
本実施形態では、腰フレーム4は、図1に示すように、背面フレーム5の下端部から上側へ傾斜して延びるように、背面フレーム5の下端部に取り付けられている。腰フレーム4の延在方向の水平方向に対する傾斜角度は、たとえば5度程度に設定されている。このように傾斜させることによって、メインフレームを装着者の腰部に装着させたときに、腰フレーム4を、装着者の骨盤の形状に沿うように設けることができる。
上記のように腰フレーム4を傾斜させた場合、装着者の腰部の側方に配置される腰フレーム4の他端部では、その外側の表面が、下端よりも上端が内側、すなわち装着者側に位置するように、上下方向に対して傾斜した状態となる。したがって、腰フレーム4の他端部に対して、パワーアシスト用電動モータ1の回転軸を直接取り付けた場合、その回転軸は、腰フレーム4の他端部の外側の表面に対して垂直な方向に延びるため、水平方向に対して傾斜してしまうこととなる。
そこで、本実施形態では、腰フレーム4の他端部の外側の表面に、楔状に形成されたフレーム2を取り付けている。このフレーム2は、腰フレーム4の他端部に取り付けられたときに、腰フレーム4の他端部の外側の表面と面接触する傾斜面とは反対側の表面が、水平方向に対して垂直となるように形成されている。
そして、パワーアシスト用電動モータ1の回転軸は、腰フレーム4の他端部との間にフレーム2を挟むようにして、フレーム2に固定された平板状のフレーム3に対して固定されている。これにより、パワーアシスト用電動モータ1を、その回転軸が左右方向に沿って延びる姿勢で、腰フレーム4の他端部に対して取り付けることができる。
なお、各フレーム2の上端部には、ベルトホルダ30がそれぞれ取り付けられている。また、各腰フレーム4の他端部には、ベルトホルダ17がそれぞれ取り付けられ、各ベルトホルダ17には、ベルト18がそれぞれ取り付けられている。各ベルト18には、プラスチックバックルを構成する係脱可能な一対のバックル部の一方または他方が連結されており、さらに、各ベルト18は、ベルトホルダ17とバックル部との間のベルト長を調節可能に構成されている。
メインフレームは、適当なベルト長に調節された各ベルト18のバックル部同士を腹部の前方で係合させることによって、装着者の腰部に装着される。
本実施形態では、上記の構成を有するメインフレームの内側に、腰サポートベルト19が取り付けられている。腰サポートベルト19は、メインフレームの長手方向の寸法、すなわち一方の腰フレーム4の他端部から他方の腰フレーム4の他端部までの寸法よりも若干長尺に形成された、腰フレーム4よりも幅広の帯状の部材であり、メインフレームに沿って延びるように湾曲して形成された例えば樹脂材料から成る板状の芯材を、ウレタンフォーム等から成るクッション材で全体的に包囲することによって構成されている。
このような腰サポートベルト19が設けられることにより、各ベルト18のバックル部同士を係合させてメインフレームを装着者の腰部に装着したときに、クッション材が装着者の腰部にフィットすることで、腰サポートベルト19と装着者の腰部とが広い範囲で密着し、メインフレームを装着者の腰部に確実に固定することができる。これにより、重作業用アシストスーツ100を装着して作業を行う際に、重作業用アシストスーツ100が装着者の腰部からずり落ちることよって、装着者の肩付近に配置されるベルト26により肩付近が圧迫されることを防止することができる。
また、メインフレームと装着者との間に腰サポートベルト19が存在することにより、装着者の腰部とメインフレームとが直接接触することがなくなり、重作業用アシストスーツ100を装着したときの違和感を軽減させることができる。
なお、腰サポートベルト19における装着者側の表面部には、メッシュ材を設けることが好ましい。これにより、通気性が良好となり、汗を素早く蒸発させることができるので、発汗による不快感を軽減させることができる。
図2に示すように、背面フレーム5の外側の表面には、後述する制御ユニット110が収容されるコントロールボックス33が取り付けられている。また、背面フレーム5の下端部には、その下端部から下方に延びるようにバックプレート16が取り付けられている。このバックプレート16の下部の外側の表面には、電源を供給するバッテリユニット160が収容されるバッテリ収容ボックス38が取り付けられている。一方、バックプレート16の下部の内側の表面には、クッション39が取り付けられ、これにより、バックプレート16と装着者の臀部付近とが直接接触することを防止している。
また、バックプレート16の下部は、背面フレーム5の下端部に連結される上部に対して、装着者から離反する側へ屈曲して設けられ、これにより、バックプレート16が、上体を反らせる動作を阻害することを防止している。バックプレート16の屈曲角度は、たとえば20度程度に設定される。
各パワーアシスト用電動モータ1は、上記のように、その回転軸がメインフレームにおける各腰フレーム4の他端部に固定されているのに対し、その回転軸を軸線まわりに回転させるモータ本体が設けられる固定端側には、大腿部フレームである下肢アシストアームがそれぞれ連結されている。ここで、下肢アシストアームは、フレーム6〜9および受動回転軸10〜12を含んで構成される部分であり、各パワーアシスト用電動モータ1の固定端側は、この下肢アシストアームにおける各フレーム6の上部に対してそれぞれ固定されている。
フレーム6は、装着者の側部に沿って上下方向に延びるように設けられ、その上部には、前記のようにパワーアシスト用電動モータ1の固定端側が締結固定され、その下端部には、受動回転軸10を介して、短尺のフレーム7の上端部が装着者の前後方向に延びる軸線(以下、「前後軸線」と称する)まわりに回転自在に連結されている。また、フレーム7の下端部には、受動回転軸11を介して、短尺のフレーム8の上端部が前後軸線まわりに回転自在に連結され、さらに、フレーム8の下端部には、受動回転軸12を介して、フレーム9の上端部が前後軸線まわりに回転自在に連結されている。
すなわち、下肢アシストアームは、前後軸線まわりの回転自由度を有する3つの受動関節と4つのフレーム6〜9とが交互に連結された多関節体から成っており、このような構成によって、装着者の股関節における下肢の前後軸線まわりの回転の自由度に対応している。
図4は、重作業用アシストスーツ100の装着者による開脚動作時の下肢アシストアームの作動状態を示す図である。図4に示すように、重作業用アシストスーツ100の装着者が開脚動作を行った場合、下肢アシストアームにおいて、フレーム7〜9により構成される部分が、受動回転軸10を中心に、装着者の大腿部へ沿うようにフレーム6に対して回動する。このとき、その回動に伴ってフレーム6の下端部とフレーム9の上端部との間の距離が短縮する分を吸収するように、フレーム8が、受動回転軸11を中心にフレーム7に対して回動する。これにより、装着者の開脚動作が阻害されることを防止することができる。
なお、本実施形態では、下肢アシストアームとして、3つの受動関節と4つのフレームとが交互に連結された多関節体を用いているが、このような構成に限らず、4つ以上の受動関節を有する多関節体を用いてもよい。
下肢アシストアームにおいて最も下方に配置されるフレーム9の中央部には、後述するモータドライバユニット120が収容されたドライバ収容ボックス34が外方に突出するように取り付けられる。
また、フレーム9の上部には、装着者の大腿部の付け根辺りに巻き付けるためのベルト32が取り付けられている。このベルト32を、装着者の大腿部の付け根辺りに巻き付けて締め付けることによって、装着者が開脚動作を行った際に、下肢アシストアームが装着者の大腿部から離れてしまうことによって、アシスト効果が減少してしまうことを防止することができる。
さらに、フレーム9の下部には、装着者の大腿部を前方から部分的に覆う半円筒状の受け面を有する受け部14が、左右軸線まわりの回転の自由度に対応するための受動回転軸13を介して取り付けられている。大腿部連結部である受動回転軸13によって、腿当て片である受け部14が左右軸線まわりに回転動作することによって、装着者の大腿部の動作に対応して、適切な受け部14の角度を与えることができる。また、受け部14には、その両端部間にわたって、ベルト15が取り付けられており、このベルト15を大腿部の背部に巻き付けて締め付けることによって、受け部14を装着者の大腿部に固定するようになっている。
この受け部14は、可撓性を有するように構成されている。ここで、可撓性とは、物体が柔軟であり、折り曲げることが可能である性質のことであり、伸縮性能を殆ど有していないものとする。本実施形態では、このような受け部14として、天然皮革および人工皮革を含む皮革材料によって形成されたものが用いられている。
このように、受け部14を、可撓性を有するように構成することで、装着時における受け部14の、装着者の大腿部への密着性を高めることができ、これにより、装着感が良くなり、また、大腿部の動きを補助するための補助力を大腿部に面で作用させることができるので、重作業用アシストスーツ100と装着者との親和性を向上させることができる。また、受け部14を皮革材料で構成することにより、装置全体の重量を軽量化することができ、故に、装着時の身体への負担を軽減することができる。
また、本実施形態では、受け部14における下端部に、円弧状に切り欠かれた切欠部14aが設けられている。このような切欠部14aを設けることによって、装着者が膝を曲げたときに、膝と受け部14とが干渉してしまうことを防止することができる。したがって、装着者は、違和感や不快感を感じることなく、膝を曲げ伸ばしすることができる。また、そのような干渉による密着性の低下を防止することができる。このような切欠部14aは、たとえば半径70mm程度の円弧で、受け部14における下端部を切欠くことによって形成される。
また、本実施形態では、上記のように、モータドライバユニット120を、コントロールボックス33ではなく、ドライバ収容ボックス34に収容して下肢アシストアームに設けるように構成しているので、メインフレームに取り付けられるコントロールボックス33のサイズを小さくすることができ、コントロールボックス33のメインフレームから背面側への突出量を低減することができる。これにより、重作業用アシストスーツ100を装着したまま椅子などに腰をかける場合に、コントロールボックス33が外部の物体と接触しにくくすることができ、装着者は、コントロールボックス33の存在を気にすることなく腰をかけることができる。また、外部の物体との接触によるコントロールボックス33の損傷を防止することができる。
メインフレームにおける背面フレーム5の上端部には、上体連結部である上下連結ユニットが連結されている。ここで、上下連結ユニットは、第1連結片であるフレーム20と、第2連結片であるフレーム21とを含んで構成される部分である。
フレーム20は、装着者の上下方向に延びる軸線(以下、「上下軸線」と称する)まわりの上体の回転の自由度に対応するための受動回転軸35を介して、背面フレーム5の上端部に連結されている。すなわち、フレーム20は、受動回転軸35によって、上下軸線まわりに回転自在に、背面フレーム5の上端部に連結されている。
フレーム21は、上体の前後軸線まわりの回転の自由度に対応するための受動回転軸24を介して、フレーム20に連結されている。すなわち、フレーム21は、受動回転軸24によって、前後軸線まわりに回転自在に、フレーム21に連結されている。
このような受動回転軸24,35を設けることによって、重作業用アシストスーツ100の装着者の上体の旋回運動と上体を左右方向に傾ける回転運動とが妨げられることを防止することができる。
また、フレーム20とフレーム21とは、一対の横倒れ防止スプリング36によって連結されている。この一対の横倒れ防止スプリング36は、受動回転軸24を介してフレーム20に連結されている部分、具体的には、フレーム21およびそれに連結される後述する上体アシストアームによって構成される部分が、受動回転軸24の軸線まわりに容易に回転してしまうことを防止する機能を有している。本実施形態では、このような一対の横倒れ防止スプリング36を設けることによって、装着者が単独で重作業用アシストスーツ100を装着する場合であっても、容易に装着できるようにしている。なお、この一対の横倒れ防止スプリング36は、重作業用アシストスーツ100の装着者によって行われる上体を左右方向に傾ける回転運動を妨げることがないように設計されている。
本実施形態では、上下連結ユニットは、フレーム20とフレーム21との連結部が、背面フレーム5の上端部とフレーム20との連結部よりも装着者からより離れた位置に設けられるように構成されている。これにより、重作業用アシストスーツ100を装着して作業を行う際に、フレーム20とフレーム21との連結部が、装着者の背中に当たってしまうことを確実に防止することができる。
上下連結ユニットにおけるフレーム21には、上体アシストアームが連結される。ここで、上体アシストアームは、フレーム22と、ユニバーサルジョイント23と、ベルトホルダ25と、ベルト26〜28と、胸部ガイド29とを含んで構成される部分であり、上下連結ユニットにおけるフレーム21には、上体アシストアームにおけるフレーム22が連結されている。
上体フレームであるフレーム22は、円柱状の金属材を略U字状と成るように曲げ加工して形成される部材であり、直線状に延びる第1直線部分と、第1直線部分における各端部に連なり、円弧状に湾曲しながら延びる一対の湾曲部分と、各湾曲部分において、第1直線部分に連なる側とは反対側の端部にそれぞれ連なり、互いに平行に、直線状に延びる一対の第2直線部分とを有し、第1直線部分の長手方向の中心を含み、その軸線に垂直な仮想平面に関して、面対称に形成されている。また、各湾曲部分は、第1直線部分の軸線と、第2直線部分の軸線とが略垂直に交わるように延設されている。
上下連結ユニットにおけるフレーム21には、フレーム22における第1直線部分の中心部が連結される。そして、この連結部には、第1直線部分をフレーム21に対して締結固定するためのクランプ機構を有する角度調整機構37が設けられている。なお、このクランプ機構は、手動操作可能に構成されている。
これにより、重作業用アシストスーツ100を装着しようとする者は、この角度調整機構37を手動操作することによって、第1直線部分の軸線を回転中心として、装着時における上体アシストアームの上下方向に対する傾斜角度γ(図2参照)を、自身の体型に合わせて調整して固定できるようになっている。
フレーム22における一対の第2直線部分は、装着時に、装着者の胸部の側方において、背中側から前方へ延設される部分であり、湾曲部分に連なる側とは反対側の各端部には、ユニバーサルジョイント23を介して、ベルトホルダ25がそれぞれ取り付けられている。
胸当て片である胸部ガイド29は、大略的に横長の矩形状に形成され、可撓性を有するように構成されている。ここで、可撓性とは、物体が柔軟であり、折り曲げることが可能である性質のことであり、伸縮性能を殆ど有していないものとする。本実施形態では、このような胸部ガイド29として、天然皮革および人工皮革を含む皮革材料によって形成されたものが用いられている。胸部ガイド29のサイズは、標準的な体型の成人男性および女性の体型に合わせるために、たとえば、縦方向寸法(上下方向寸法)が170mm、横方向寸法(左右方向寸法)が200mmに設定されている。
なお、本実施形態では、胸部ガイド29および前記受け部14は、皮革材料によって形成されているが、可撓性を有するように構成可能な材料であればよく、たとえばFRPや0.5mm厚未満のアルミニウムあるいはステンレス等から成る金属薄板が用いられてもよい。しかしながら、FRPの場合には、割れてしまうおそれがあり、金属薄板の場合には、胸部の凹凸に充分に追従させることができないおそれがあることから、皮革材料を用いるのが好ましい。
この胸部ガイド29は、装着状態において、装着者の胸部に取り付けられる部材であり、図1および図2に示すように、一対のベルト27を介してフレーム22に連結される。詳細には、胸部ガイド29における横方向の一方側の2つの隅部に、ベルトホルダ25に形成されたベルト通し孔を挿通された一方のベルト27の一端部および他端部が、たとえば縫着により、それぞれ固定される。他方のベルト27についても、胸部ガイド29における横方向の他方側の2つの隅部に、同様の方法で固定される。これにより、装着状態において、各ベルト27は、胸部ガイド29の横方向の一方側あるいは他方側の一の隅部から装着者の脇の下を通して延び、ベルトホルダ25で折り返されて、再び装着者の脇の下を通して、胸部ガイド29の他の隅部まで延設されることとなる。なお、各ベルト27には、その一端部から他端部までのベルト長を調整するための図示しない伸縮調整機構が設けられている。
本実施形態では、上記のように、ベルトホルダ25が、ユニバーサルジョイント23を介して、フレーム22の端部に連結されているので、ベルト27を、適当なベルト長に調節することによって、装着者の胸部に沿って隙間なくフィットさせることができる。
胸部ガイド29における4つの隅部のうちの上側に配置される2つの隅部には、一対のベルト26の各一端部が、たとえば縫着により、それぞれ固定される。一対のベルト26の各他端部は、フレーム22における第1の直線部分と各湾曲部分との連接部にそれぞれ突設されたベルト固定部に、それぞれ固定される。これにより、装着状態において、各ベルト26は、胸部ガイド29における上側の一方あるいは他方の隅部から装着者の肩を通して背中側へ向かい、フレーム22の前記ベルト固定部まで延設されることとなる。なお、各ベルト26は、その一端部とベルト固定部との間のベルト長を調整するための図示しない伸縮調整機構が設けられている。
また、胸部ガイド29における4つの隅部のうちの下側に配置される2つの隅部には、一対のベルト28の各一端部が、たとえば縫着により、それぞれ固定される。一対のベルト26の各他端部は、各フレーム2の上端部に設けられたベルトホルダ30にそれぞれ取り付けられる。なお、各ベルト28は、その一端部とベルトホルダ30との間のベルト長を調整するための図示しない伸縮調整機構が設けられている。
各ベルト26〜28に設けられた伸縮調整機構を手動操作することによって、各ベルト26〜28のベルト長を装着者の体型に合わせて調整することにより、胸部ガイド29を装着者の胸部における適所に密着させることができる。
このように、本実施形態では、一対のベルト26と、胸部ガイド29と、一対のベルト28とによって、腰フレーム4の各一端部とフレーム22における各ベルト固定部との間にループがそれぞれ形成されることとなり、装着する際には、その各ループに両腕をそれぞれ通すことにより、一対のベルト26が両肩にそれぞれ掛けられる。これにより、装着状態では、重作業用アシストスーツ100は、装着者の肩に吊下げられた状態で保持されることとなる。すなわち、吊りベルトの構造を呈することとなる。本実施形態では、このような吊りベルトの構造を採用することにより、装着者が様々な動作を行った場合であっても、重作業用アシストスーツ100がずり落ちてしまわないようにされている。
本実施形態によれば、胸部ガイド29を、可撓性を有するように構成することで、装着時における胸部ガイド29の、装着者の胸部への密着性を高めることができる。これにより、装着感が良くなり、また、上体の動きを補助するための補助力を胸部に面で作用させることができるので、重作業用アシストスーツ100と装着者との親和性を向上させることができる。また、胸部ガイド29を皮革材料で構成することにより、装置全体の重量を軽量化することができ、故に、装着時の身体への負担を軽減することができる。
また、本実施形態では、胸部ガイド29の4つの隅部において、ベルト26〜28が固定されているので、上体の動きを補助するための補助力を、胸部ガイド29を介して装着者の胸部に均等に付与させることができる。
なお、本実施形態では、図1に示すように、胸部ガイド29は、その横方向の中央部に、縦方向に沿ってファスナ31が取り付けられ、左右に分離可能な構造になっている。したがって、このファスナ31を操作することにより、一対のベルト26〜28と、胸部ガイド29とによって構成される部分が、左右に分割され、これにより、着脱性を向上させることができる。すなわち、前開きの衣類を着脱する場合と同様に、重作業用アシストスーツ100を容易に着脱することが可能となる。なお、胸部ガイド29を分離・結合するための部材としては、胸部ガイド29の可撓性を維持できるものであればよく、たとえば面ファスナが用いられてもよい。
また、本実施形態では、図1に示すように、胸部ガイド29における上端部および下端部に、円弧状に切り欠かれた切欠部29a,29bが設けられている。このような切欠部29a,29bを設けることによって、装着者が上体を曲げた姿勢を取ったときに、首元と胸部ガイド29とが、および、みぞおちと胸部ガイド29とが干渉してしまうことを防止することができる。したがって、装着者は、違和感や不快感を感じることなく、上体を曲げ伸ばしすることができる。また、そのような干渉による密着性の低下を防止することができる。このような切欠部29aは、たとえば半径65mm程度の円弧で、胸部ガイド29における上端部を切欠くことによって形成され、切欠部29bは、たとえば半径75mm程度の円弧で、胸部ガイド29における下端部を切欠くことによって形成される。
図5は、重作業用アシストスーツ100に含まれる制御機器の構成を示す図である。重作業用アシストスーツ100に含まれる制御機器は、制御ユニット110と、2つのモータドライバユニット120と、右足底ユニット130と、左足底ユニット140と、ハンディ端末装置(以下「ハンディ端末」という)150と、バッテリユニット160と、右手スイッチユニット170と、左手スイッチユニット180とを含んで構成される。
右足底ユニット130は、装着者の右側の靴底に装着され、左足底ユニット140は、装着者の左側の靴底に装着される。パラメータ入力部であるハンディ端末150は、携帯型の端末装置であり、装着者の右手あるいは左手によって保持されて操作される。ハンディ端末150は、たとえばスマートフォンによって実現される。右手スイッチユニット170は、手袋型に構成され、装着者の右手に装着される。また、左手スイッチユニット180は、手袋型に構成され、装着者の左手に装着される。
制御ユニット110は、第1無線通信部111と、第2無線通信部112と、中央制御部113と、電源制御部114とを含んで構成される。第1無線通信部111は、無線による通信によって、右足底ユニット130、左足底ユニット140、右手スイッチユニット170、および左手スイッチユニット180と通信可能に構成され、これらのユニットと中央制御部113との情報の中継を行っている。第2無線通信部112は、無線による通信によって、ハンディ端末150と通信可能に構成され、ハンディ端末150と中央制御部113との情報の中継を行っている。中央制御部113は、有線による通信によって、各モータドライバユニット120と通信するように構成されている。電源制御部114は、バッテリユニット160を制御する。なお、中央制御部113および電源制御部114は、CPUを含むコンピュータによって実現される。
一方のモータドライバユニット120は、装着者の右側に装着されるパワーアシスト用電動モータ1を制御する右モータドライバ121を含んで構成され、他方のモータドライバユニット120は、装着者の左側に装着されるパワーアシスト用電動モータ1を制御する右モータドライバ122を含んで構成される。各モータドライバ121,122は、有線による通信によって、中央制御部113と通信し、中央制御部113からアシストに必要な出力トルク指令などの指令を受けるとともに、モータの位置情報などの情報を中央制御部113へ送っている。モータの位置情報は、パワーアシスト用電動モータ1の回転軸の回転角度を表す情報である。
右足底ユニット130は、無線通信部131、電池132、爪先スイッチ(以下「SW」ともいう)133および踵SW134を含んで構成される。電池132は、充電可能な蓄電池であり、無線通信部131、爪先SW133および踵SW134に電力を供給する。無線通信部131は、爪先SW133および踵SW134の状態、すなわち、爪先SW133および踵SW134によって検出された検出結果を、第1無線通信部111を介して中央制御部113に送っている。
爪先SW133は、装着者が装着する右側の靴の靴底部における爪先部分に配置され、予め定める値以上の荷重が爪先部に作用しているか否かを検出する。踵SW134は、装着者が装着する右側の靴の靴底部における踵部分に配置され、予め定める値以上の荷重が踵部に作用しているか否かを検出する。
左足底ユニット40は、無線通信部141、電池142、爪先SW143および踵SW144を含んで構成される。無線通信部141、電池142、爪先SW143および踵SW144は、それぞれ無線通信部131、電池132、爪先SW133および踵SW134と同じ構成であり、重複を避けるために説明は省略する。爪先SW133、踵SW134、爪先SW143および踵SW144は、床反力検出部である。
右手スイッチユニット170は、無線通信部171、電池172および手袋SW173を含んで構成される。電池172は、充電可能な蓄電池であり、無線通信部171および手袋SW173に電力を供給する。無線通信部171は、手袋SW173の状態、すなわち、手袋SW173によって検出された検出結果を、第1無線通信部111を介して中央制御部113に送っている。手袋SW173は、装着者が装着する右側の手袋の指の掌側の部分に配置され、予め定める値以上の荷重がその部分に作用しているか否かを検出する。
左手スイッチユニット180は、無線通信部181、電池182および手袋SW183を含んで構成される。無線通信部181、電池182および手袋SW183は、それぞれ無線通信部171、電池172および手袋SW173と同じ構成であり、重複を避けるために説明は省略する。手袋SW173および手袋SW183は、手指反力検出部である。
ハンディ端末150は、重作業用アシストスーツ100の動作に必要な後述するパラメータを設定するために使用される。バッテリユニット160は、バッテリ161を含んで構成される。バッテリユニット160は、バッテリ161からの電力を制御ユニット110および各モータドライバユニット120に供給している。
駆動制御部である中央制御部113は、第1無線通信部111から与えられる各スイッチの情報と、各モータドライバ121,122から与えられるモータの位置情報とに基づいて、アシストに必要な駆動トルクを計算し、各モータドライバ121,122へ出力トルク指令を送る。
本実施形態では、図5に示すように、制御ユニット110に、2つの無線通信部、すなわち、右足底ユニット130、左足底ユニット140、右手スイッチユニット170、および左手スイッチユニット180と通信を行う第1無線通信部111と、ハンディ端末150と通信を行う第2無線通信部112とを備えることにより、通信速度が向上され、並列処理を行うことができる。
図6は、回転トルクTの算出を説明するための図である。中央制御部113は、装着者の様々な作業姿勢にて体を動かすのに必要な回転トルクTを、パワーアシスト用電動モータ1の回転軸の回転角度を用いて力学的に算出することによって、アシストトルクを算出する。アシストトルクは、パワーアシスト用電動モータ1によって生成される駆動トルクである。
中央制御部113は、まず股関節角度βを取得する。股関節角度βは、大腿部の回転角度、すなわち、鉛直線を基準とする角度である。中央制御部113は、各モータドライバ121,122から、左右の股関節角度βを取得する。
脚部の質量をmF[kg]、パワーアシスト用電動モータ1の回転軸から受動回転軸13までの距離をLF[m]とすると、質量mFの脚部を動作させるのに必要な回転トルクTF[N・m]は、計算式「TF=LF・mF・g・sin(β)」によって計算することができる。
ただし、gは、重力加速度である。LFおよびmFは、比例定数であり、装着者によって決まる固定値である。中央制御部113は、これらの値をパラメータとして予め設定しておくことによって、アシストトルクを算出している。パラメータは、ハンディ端末150を使用して設定することができる。
このように、本実施形態に係る重作業用アシストスーツ100は、装着者の様々な作業姿勢で体を動かすのに必要な回転トルクTを、筋肉を動かそうとした時に筋肉に流れる微弱な表面筋電位信号を用いることなく、股関節角度βから力学的に算出することによってアシストトルクを算出するので、表面筋電位センサを装着する煩わしさをなくすことができる。
また、重作業用アシストスーツ100は、予め設定された動作パターンの再生方式ではなく、装着者の様々な作業姿勢で体を動かすのに必要な回転トルクTを力学的に算出し、アシストする比率を乗じてアシストトルクを算出するので、動作の切り替わり時に不連続になることがない。
ここで、ハンディ端末150を使用して設定されるパラメータを下記の表1に示す。パラメータNo「01」〜「07」は、遊脚側の歩行制御パラメータであり、パラメータNo「11」〜「13」は、保持脚側の歩行制御パラメータである。遊脚は、地に着いていない方の脚であり、保持脚は、地に着いている方の脚である。歩行制御パラメータは、歩行動作をアシストするためのパラメータである。
パラメータNo「21」〜「25」は、上体制御パラメータである。上体制御パラメータは、上体の動作をアシストするためのパラメータである。パラメータNo「31」〜「35」は、中腰制御パラメータである。中腰制御パラメータは、中腰の動作をアシストするためのパラメータである。パラメータNo「41」〜「45」は、ティーチングパラメータである。ハンディ端末150は、これらのパラメータを記憶する記憶領域を有している。
図7は、重作業用アシストスーツ100で実行されるアシストスーツ制御処理の処理手順を示すフローチャートである。アシストスーツ制御処理は、電源起動シーケンス処理、パラメータ書換えシーケンス処理、姿勢情報入力シーケンス処理および股関節制御シーケンス処理の4つの処理で構成されている。中央制御部113は、重作業用アシストスーツ100の電源が投入されてパワーアシスト用電動モータ1を除く部位への電力の供給が開始され、動作可能状態になると、ステップA11に移る。
ステップA11では、中央制御部113は、電源起動シーケンス処理を実行する。具体的には、中央制御部113は、ハンディ端末150から送信されるアシストに必要なパラメータの受信完了を待っている。中央制御部113は、アシストに必要なパラメータの受信完了後、装着者が直立している直立状態での各大腿部の回転角度の初期化を行い、パワーアシスト用電動モータ1用の電源をオンする。
ただし、アシストに必要なパラメータが既に受信されている場合は、ハンディ端末150からの送信を待たずに、一定時間経過後受信済みのパラメータを使って装着者が直立している直立状態での各大腿部の回転角度の初期化を行い、パワーアシスト用電動モータ1用の電源をオンする。このことにより、ハンディ端末150が無くても電源起動を可能としている。
ステップA12では、中央制御部113は、パラメータ書換えシーケンス処理を実行する。アシストに必要なパラメータは、装着者の持っているハンディ端末150から適宜送られてくる。アシストスーツ制御処理は、このパラメータの更新を常時実行できるようにするために、パラメータ書換えシーケンス処理をメインループ内で行っている。メインループは、ステップA12〜A14によって形成される処理手順のループである。
ステップA13では、中央制御部113は、姿勢情報入力シーケンス処理を実行する。姿勢情報入力シーケンス処理は、装着者の姿勢に関するデータを取得する処理である。
ステップA14では、中央制御部113は、股関節制御シーケンス処理を実行して、ステップA12に戻る。股関節制御シーケンス処理は、ステップA13で取得されたデータに基づいて、歩行動作、上体動作および中腰動作の各動作に対するパワーアシスト用電動モータ1による駆動に必要なアシストトルクを計算して出力する処理である。
中央制御部113は、メインループを20mS間隔で実行しており、重作業用アシストスーツ100は、装着者へのスムーズなアシストを実現している。中央制御部113は、アシストを開始する前、数秒間で装着者の動作を判断し、判断後アシストトルクを出力する。重作業用アシストスーツ100は、健常者のアシストを目的としており、動作の開始時に数秒間アシストがなくても、実用上支障はない。
図8は、パラメータ書換えシーケンス処理の処理手順を示すフローチャートである。パラメータの更新には、手動での入力による更新と、ティーチングモードでの入力による更新とがある。中央制御部113は、図7に示したステップA12が実行されると、ステップB11に移る。
ステップB11では、中央制御部113は、ハンディ端末150から受信した情報に基づいてティーチングモードであるか否かを判定している。中央制御部113は、ティーチングモードであるとき、ステップB12に進み、ティーチングモードでないとき、ステップB15に進む。
ステップB12では、中央制御部113は、アシストをオフする。中央制御部113は、アシストがオフの間、パワーアシスト用電動モータ1によるアシストを停止し、図7に示したステップA13の姿勢情報入力シーケンス処理およびステップA14の股関節制御シーケンス処理を実行することなく、ステップA12に戻る。
ステップB13では、中央制御部113は、各モータドライバ121,122から送られてくる左右の股関節角度β、右足底ユニット130から送られてくる爪先SW133および踵SW134による検出結果、および左足底ユニット140から送られてくる爪先SW143および踵SW144による検出結果に基づいて、装着者による歩行動作、上体動作および中腰動作の各動作を解析することによって、装着者が意図する動作を判断するために必要なパラメータを生成する。生成されたパラメータのうち、ティーチングパラメータのパラメータNo「41」〜「45」は、この動作解析によって得られる。
ステップB14では、中央制御部113は、生成したパラメータをハンディ端末150に送信して、パラメータ書換えシーケンス処理を終了する。ハンディ端末150に送信されたパラメータは、ハンディ端末150で装着者によって確認される。確認されたパラメータは、ハンディ端末150に再送信することによって有効になる。
ステップB15では、中央制御部113は、ハンディ端末150からパラメータを受信し、受信したパラメータを設定する。ステップB16では、中央制御部113は、アシストをオンして、パラメータ書換えシーケンス処理を終了する。パラメータを更新した後にアシストをオンしているのは、装着者の安全を確保するためである。
図9は、姿勢情報入力シーケンス処理の処理手順を示すフローチャートである。中央制御部113は、図7に示したステップA13が実行されると、ステップC11に移る。
ステップC11では、中央制御部113は、床反力スイッチを読込み、床反力の有無を検出する。床反力スイッチは、右足底ユニット130の爪先SW133および踵SW134、ならびに、左足底ユニット140の爪先SW143および踵SW144である。具体的には、中央制御部113は、爪先SW133および踵SW134の検出結果を右足底ユニット130から受信し、爪先SW143および踵SW144の検出結果を左足底ユニット140から受信する。
ステップC12では、中央制御部113は、モータエンコーダの角度を読込む。具体的には、中央制御部113は、パワーアシスト用電動モータ1に含まれるエンコーダから、パワーアシスト用電動モータ1の回転軸の回転角度、つまり股関節角度βを、各モータドライバ121,122を介して読込む。ステップC13では、中央制御部113は、股関節角速度、つまりパワーアシスト用電動モータ1の回転軸の回転角度の角速度を計算して、姿勢情報入力シーケンス処理を終了する。パワーアシスト用電動モータ1に含まれるエンコーダは、角度検出部である。
図10は、股関節制御シーケンス処理の処理手順を示すフローチャートである。ステップD11,D12は、歩行動作に対する処理である。ステップD13,D14は、上体動作に対する処理である。ステップD15,D16は、中腰動作に対する処理である。歩行動作に対する処理、上体動作に対する処理および中腰動作に対する処理は、並列に処理される。中央制御部113は、図7に示したステップA14が実行されると、ステップD11,D13,D15に移る。
ステップD11では、中央制御部113は、歩行判断を行う。具体的には、中央制御部113は、股関節角度βおよび床反力に基づいて、歩行動作を行っているか否かを判断する。ステップD12では、中央制御部113は、歩行制御を行う。具体的には、中央制御部113は、歩行動作を行っているとき、時々刻々変化する股関節角度βおよび床反力に基づいて、歩行動作をアシストするための遊脚側のアシストトルクおよび保持脚側のアシストトルクを計算する。
ステップD13では、中央制御部113は、上体判断を行う。具体的には、中央制御部113は、股関節角度βおよび床反力に基づいて、上体動作を行っているか否かを判断する。上体動作は、上体を曲げ、次に上体を起こす動作である。ステップD14では、中央制御部113は、上体制御を行う。具体的には、中央制御部113は、上体動作を行っているとき、上体動作をアシストするためのアシストトルクを計算する。中央制御部113は、両脚に必要な、股関節角度βに比例したアシストトルクを算出する。
ステップD15では、中央制御部113は、中腰判断を行う。具体的には、中央制御部113は、股関節角度βおよび床反力に基づいて、中腰動作を行っているか否かを判断する。中腰動作は、中腰姿勢での動作である。ステップD16では、中央制御部113は、中腰制御を行う。具体的には、中央制御部113は、中腰動作を行っているとき、中腰動作をアシストするためのアシストトルクを計算する。中央制御部113は、両脚に必要な、股関節角度βに比例したアシストトルクを算出する。ステップD11〜D16は、算出ステップである。
ステップD17では、中央制御部113は、歩行制御、上体制御および中腰制御に関して予め設定された優先順位に従って判定を行い、駆動ステップであるステップD18で、中央制御部113は、前記優先順位に従って、算出したアシストトルクを出力するように、各モータドライバ121,122を制御して、パワーアシスト用電動モータ1を駆動させて、股関節制御シーケンス処理を終了する。
なお、本実施形態では、上体制御の優先度が最も高く、中腰制御の優先度がそれに続き、歩行制御の優先度が最も低くなるように予め設定されている。この優先順位は、特に農作業をアシストするために定められたものであるが、歩行制御、上体制御および中腰制御の優先順位は、必要に応じて、適宜設定変更することができる。
このように、本実施形態では、歩行制御、上体制御および中腰制御に関して優先順位を予め設定しておくことにより、装着者側ではなく、中央制御部113において動作を推定して、歩行制御、上体制御および中腰制御が混ざらないように明確に切り分けられている。
図11は、歩行判断処理の処理手順を示すフローチャートである。歩行判断処理では、ステップE11〜E20の手順によって、装着者の姿勢情報のうち、股関節角度βと床反力スイッチの変化に基づいて、停止状態から歩行への移行割合を算出している。中央制御部113は、図10に示したステップD11が実行されると、ステップE11,E15に移る。
ステップE11では、中央制御部113は、股関節角度βを微分する。ステップE12では、中央制御部113は、その角速度を計算する。つまり、中央制御部113は、ステップE11で股関節角度βを微分した値を股関節角速度とする。ステップE13では、中央制御部113は、歩行判断ポイントを左右の足について検出し、ステップE14では、中央制御部113は、股関節角速度が歩行状態になっているか否かを判断し、股関節角速度が歩行状態になっているとき、その股関節角速度の発生点を歩行判断ポイントとする。具体的には、股関節角速度が、「屈曲側」のパラメータ41を越えた点を「屈曲開始点」、「伸展側」のパラメータ42を越えた点を「伸展開始点」とし、越えた時点で歩行状態になったと判断している。
また、ステップE15では、中央制御部113は、装着者の床反力データに基づいて足の接地状態を計算し、ステップE16では、中央制御部113は、接地状態の変化点を求め、ステップE17では、中央制御部113は、接地状態が歩行状態になっているかを判断し、接地判断ポイントとしている。屈曲判断ポイントと接地判断ポイントを合わせて歩行判断ポイントとする。
ステップE18では、中央制御部113は、歩行判断ポイントで時間積算タイマをクリアする。時間積算タイマは、中央制御部113に内蔵されるタイマであり、電源オンから、クリアされるまで積算を続けるタイマである。時間積算タイマは、歩行判断ポイントでクリアされるので、時間積算タイマの積算値は一定値以上に大きくならないことになる。
したがって、中央制御部113は、時間積算タイマの積算値に基づいて、歩行しているか否かの判断が可能となる。
ステップE19では、中央制御部113は、時間積算タイマ値、つまり時間積算タイマの積算値に基づいて歩行継続を判断する。すなわち、中央制御部113は、歩行判断ポイントから再び歩行判断ポイントに戻るまでの時間積算タイマ値によって、歩行が継続しているか否かを判断する。ステップE20では、中央制御部113は、歩行判断割合を計算して、歩行判断処理を終了する。
歩行割合(%)は、前記一定値をパラメータNo「43」の「一定時間」とし、積算値の上限をパラメータNo「44」の「増加」とすると、式(1)によって、歩行判断の度合いを「歩行割合」として求めることができる。
(数1)
歩行割合(%)=(時間積算タイマの積算値)÷(「増加」44)×100
歩行割合(%)は、パラメータNo「44」の「増加」の時間で0%から100%へ変化することになる。
歩行ポイントの無い状態が続くと、積算値がパラメータNo「43」の「一定時間」以上になる。このときは、歩行していないと判断することができる。このときは「歩行割合」を減少させて、歩行の判断度合いを0%に移行させる。パラメータNo「45」の「減少」の時間で100%から0%へ変化することになる。
図12は、歩行制御処理の処理手順を示すフローチャートである。歩行制御処理では、装着者の姿勢情報の内、時々刻々変化する股関節角度βと床反力の有無を基に、歩行時に必要とされる遊脚側トルクと保持脚側トルクを計算している。中央制御部113は、図10に示したステップD12が実行されると、ステップF11に移る。
ステップF11では、中央制御部113は、アシスト開始を検出する。具体的には、中央制御部113は、遊脚側の脚が歩行判断ポイントに位置付いたことを検出する。ステップF12では、中央制御部113は、遊脚側のアシストトルクを計算する。ステップF13では、中央制御部113は、保持脚側のアシストトルクを計算する。ステップF14では、中央制御部113は、歩行割合による補正を行うことで、歩行アシストトルクを算出する。
図13は、遊脚側のアシストトルクの計算処理の処理手順を示すフローチャートである。中央制御部113は、図12に示したステップF12が実行されると、ステップF21に移る。
ステップF21では、中央制御部113は、遊脚であるか否かを判断し、遊脚であると判断された場合には、ステップF22に進み、股関節角度βを読み込む。遊脚でないと判断された場合には、当該計算処理を終了する。遊脚であると判断された場合には、歩行シーケンスが、「振上開始」→「振上中」→「振下開始」→「振下中」と順次実行され、振下完了で終了する。
踵SWが足の浮きを検出すると足の「振上開始」と判断され、パラメータNo「01」の「保持最大」トルクが、ステップF23にて振上側にパラメータNo「03」の「加速時間」出力される。加速時間経過後も振上げ動作が続く場合は「振上中」と判断され、パラメータNo「01」の「保持最大」・パラメータNo「02」の「比例範囲」を基に、ステップF22にて読み込んだ股関節角度βに比例した振上側へのアシストトルクが出力
される(ステップF24)。股関節角度βがパラメータNo「04」の「戻り角度」以上に到達すると「振下開始」と判断され、「振下中」も含めて、振下方向にパラメータNo「04」の「戻り角度」・パラメータNo「05」の「戻り出力」を基に、股関節角度βに比例したアシストトルクが出力される(ステップF25)。ただし、パラメータNo「13」の「不感帯」内ではトルクを切っている。また、急激なトルク変化が装着者の負担とならないよう、ステップF26にてパラメータNo「07」の「増加割合」によって出力トルクの出方を加減している。
図14は、保持脚側のアシストトルクの計算処理の処理手順を示すフローチャートである。中央制御部113は、図12に示したステップF13が実行されると、ステップF31に移る。
ステップF31では、中央制御部113は、保持脚であるか否かを判断し、保持脚であると判断された場合には、ステップF32に進み、保持脚でないと判断された場合には、当該計算処理を終了する。保持脚であると判断された場合には、直立姿勢を保持するためのトルクを出力する。
ステップF32で、中央制御部113は、股関節角度βを読み込み、ステップF33で、中央制御部113は、パラメータNo「11」の「保持最大」・パラメータNo「12」の「比例範囲」を基に、股関節角度βに比例した保持トルクを計算する。ただし、パラメータNo「13」の「不感帯」内ではトルクを切っている。また、急激なトルク変化が装着者の負担とならないよう、ステップF34にてパラメータNo「07」の「増加割合」によるトルクの加減を行って出力している。
図15は、上体判断処理の処理手順を示すフローチャートである。上体判断処理では、装着者の姿勢情報を使って、股関節を曲げ、次に上体を起こそうとしているかどうかを判断している。中央制御部113は、図10に示したステップD13が実行されると、ステップG11に移る。
ステップG11で、中央制御部113は、股関節角速度を読込む。ステップG12で、中央制御部113は、上体曲げ動作開始ポイントを検出する。具体的には、ステップG11で計算した股関節角速度がパラメータNo「41」の「屈曲側」を越えた位置を検出し、その位置を上体曲げ動作開始ポイントとする。ステップG13で、中央制御部113は、開始スイッチの検出を待ち、スイッチのONが検出されると上体制御出力を開始し、パラメータNo「24」の「不感帯」内に戻った段階で上体制御を終了している(ステップG14〜G16)。
図16は、上体制御処理の処理手順を示すフローチャートである。中央制御部113は、図10に示したステップD14が実行されると、ステップH11に移る。ステップH11では、中央制御部113は、両脚に必要な、股関節角度βに比例したアシストトルクを算出している。上体制御開始直後のパラメータNo「23」の「加速時間」内では、パラメータNo「21」の「保持最大」・パラメータNo「22」の「比例範囲」を基に、開始時の股関節角度βに比例した最大トルクを出力し(ステップH12)、加速時間後は股関節角度βに応じたトルクを設定している(ステップH13)。ただし、急激なトルク変化が装着者の負担とならないよう、ステップH14でパラメータNo「25」の「増加割合」によって出力トルクの出方を加減している。
図17は、中腰判断処理の処理手順を示すフローチャートである。中腰判断処理では、装着者の姿勢情報を使って中腰姿勢を判断している。中央制御部113は、図10に示したステップD15が実行されると、ステップK11に移る。
ステップK11で、中央制御部113は、股関節角速度を読み込む。ステップK12で、中央制御部113は、中腰動作開始ポイントを検出する。具体的には、ステップK11で計算した股関節角速度がパラメータNo「41」の「屈曲側」を越えた位置を検出し、その位置を中腰動作開始ポイントとする。パラメータNo「33」の「待ち時間」経過後も「上体制御」が始まらない場合を中腰制御開始と判断し、パラメータNo「34」の「不感帯」が検出されるまで、中腰制御をおこなっている(ステップK13〜K15)。
図18は、中腰制御処理の処理手順を示すフローチャートである。中央制御部113は、図10に示したステップD16が実行されると、ステップL11に移る。ステップL11では、両脚に必要な、股関節角度βに比例したアシストトルクを算出している。
中腰開始後は、パラメータNo「31」の「保持最大」・パラメータNo「32」の「比例範囲」を基に、ステップL11で開始時の股関節角度βから中腰保持に必要なトルクを計算している。ただし、急激なトルク変化が装着者の負担とならないよう、ステップL12でパラメータNo「35」の「増加割合」によって出力トルクの出方を加減している。
重作業用アシストスーツ100は、腰椎についてパワーアシストするために、パワーアシスト用電動モータ1を股関節の左右両サイドに配置されている。パワーアシスト用電動モータ1は、バックドライアブルとするため、すなわち、装着者側から駆動機器を動かすことができるようにするため、パワーアシスト用電動モータ1に付加される減速機の減速比を1/100程度の減速比にして、装着者が出せる以上の力を出せないようにパワーアシスト用電動モータ1の出力を制限し、抗重力方向に十分なアシスト力を確保している。
このように、重作業用アシストスーツ100は、使用しているパワーアシスト用電動モータ1をバックドライアブルとするため、パワーアシスト用電動モータ1に付加する減速機の減速比を1/100程度の低減速比にして、装着者が出せる以上の力を出せないようにパワーアシスト用電動モータ1の出力を制限しているので、装着者の安全を確保することができる。
重作業用アシストスーツ100は、パワーアシスト用電動モータ1を取り付けているアシスト機構として、アシスト方向以外の装着者の動作を妨げないように受動回転軸10〜13,24,35、すなわち駆動機器を取りつけていない回転軸を、対象とする装着者の関節の外側周囲に配置している。
このように、重作業用アシストスーツ100は、アシスト方向以外の装着者の動作を妨げないように受動回転軸10〜13,24,35を、対象とする装着者の関節の外側周囲に配置しているので、装着者の動作を拘束することがない。
また、重作業用アシストスーツ100は、重量物を持ち上げて運搬する作業において、腰椎と股関節とを同時にパワーアシストすることができる機構および制御となっている。重作業用アシストスーツ100は、腰痛を防ぐために、腰椎をパワーアシストし、かつ歩行を補助するために、股関節をパワーアシストする。このように、重作業用アシストスーツ100は、腰痛を防ぎつつ歩行を補助するために、腰椎と股関節とを同時にパワーアシストすることができる。
また、重作業用アシストスーツ100は、筋肉を動かそうとしたときに筋肉に流れる微弱な表面筋電位信号を用いずに、装着者の様々な作業姿勢で体を動かすのに必要な回転トルクなどを力学的に算出することによって、アシストトルクを算出するので、表面筋電位
センサを装着するという煩わしさがない。このように、重作業用アシストスーツ100は、表面筋電位センサを装着するという煩わしさがなく、実用的である。
また、重作業用アシストスーツ100は、動作パターンの再生方式ではなく、装着者の様々な作業姿勢で体を動かすのに必要なトルクなどを力学的に算出することによって、アシストトルクを算出するので、動作の切り換わり時に不連続になることがない。このように、重作業用アシストスーツ100は、数多くの動作パターンをデータベース化しておく必要がなく、動作の切り換わり時に不連続になることがない。
また、バネ式やゴム式のパッシブ方式では、一方向にしかパワーアシストできないが、重作業用アシストスーツ100は、パワーアシスト用電動モータ1を用いたアクティブ方式であるで、双方向にアシストすることができる。
このように、2つのパワーアシスト用電動モータ1は、装着者の股関節の左右方向両側近傍にそれぞれ配置され、装着者の上体および大腿部の動きに追従する方向に、上体および大腿部の動きを補助するための駆動トルクを発生する。上体フレームは、装着者の胸部および腰部に装着され、前記2つのパワーアシスト用電動モータ1を保持する。そして、2つの下肢アシストアームは、一端部がパワーアシスト用電動モータ1の固定側に固定され、他端部が大腿部の側部に装着される。したがって、重作業用アシストスーツ100は、少ない駆動源、すなわち腰部両側に設けられる2つのパワーアシスト用電動モータ1で重量物の持ち上げ動作および歩行動作を補助することができる。
さらに、前記上体フレームは、上体アシストアームと、メインフレームと、上下連結ユニットとを含む。上体アシストアームは、装着者の胸部に装着される。メインフレームは、前記2つのパワーアシスト用電動モータ1を両端部でそれぞれ保持し、前記2つのパワーアシスト用電動モータ1間を装着者の腰部の背面に沿って延び、装着者の腰部に装着される。そして、上下連結ユニットは、上体アシストアームとメインフレームとを前後軸線および上下軸線まわりに回転自在に連結する。したがって、重作業用アシストスーツ100は、上体アシストアームとメインフレームとをそれぞれの端部の2箇所で連結する場合よりも、上体の左右方向の動作および上体の回転動作を拘束することなく、重量物の持ち上げ動作および歩行動作を補助することができる。
さらに、中央制御部113は、前記算出した駆動トルクを、装着者が前記2つのパワーアシスト用電動モータ1を逆方向に駆動することができる減速比以下の減速比に減少させて、前記2つのパワーアシスト用電動モータ1に発生させる。したがって、重作業用アシストスーツ100は、装着者の安全を確保することができる。