JP6563375B2 - 腎症治療剤 - Google Patents

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Description

本発明は、グルコースに起因する腎症を治療する治療剤に関する。
糖尿病性腎症は、血液透析の第一位の原因疾患であり、特異的治療薬の開発が望まれている。
一方、SGLT2阻害薬は、腎近位尿細管に特異的に存在し、グルコースの再吸収を行っているナトリウム/グルコース共輸送体2(sodium/glucose co−transporter2:SGLT2)を阻害して、尿からのグルコース排泄を促進することにより血糖降下作用を示す糖尿病治療薬であり、既に6種のSGLT2阻害薬の臨床応用が行われている(例えば、非特許文献1,2参照)。現在、このSGLT2阻害薬は、血糖降下作用を示す糖尿病治療薬としてのみ認可されている。
ところで、このSGLT2阻害薬は、近年、通常投与量で腎症改善効果をもつ可能性が報告され注目されているが、腎症治療薬として用いるには、本薬剤の血糖降下作用の機序である尿糖排泄増加に基づく副作用として、低血糖、多尿・頻尿、脱水、尿路感染症・性器感染症、ケトン体の増加などの問題がある。また、SGLT2阻害薬による腎症改善効果については、血糖効果作用の機序である近位尿細管のSGLT2抑制効果を介した機序(近位尿細管のSGLT2阻害を介したナトリウムの尿排泄促進による効果)が推定されており、腎不全など中等度以上の腎機能低下例では、SGLT2阻害薬の尿への排泄が低下するため、血糖降下の効果は得られないと考えられ、その使用は推奨されていない。
Bailey CJ. Renal glucose reabsorption inhibitors to treat diabetes. Trends Pharmacil Sci 2011; 32:63-71 Zaccadi F, Webb DR, Htike ZZ, Youssef D, Khunti K, Davies MJ. Efficacy and safety of sodium-glucose co-transporter-2 inhibitors in type 2 diabetes mellitus: systematic review and network meta-analysis. Diab Obes Metab 2016; 18:783-94
本発明の課題は、グルコースに起因する腎症を治療及び/又は改善する治療剤を提供することにある。
本発明者らは、血糖降下作用を示す糖尿病治療薬としてのSGLT2阻害薬の作用効果について研究する中で、まず、SGLT2阻害薬の実際の投与量に対して、SGLT2阻害薬が作用する近位尿細管にはごく少量しか届いていないことに着目した。本発明者らは、さらに研究を進めた結果、既存のSGLT2阻害薬が、血糖降下作用を示さないような低用量投与において、グルコースに起因する腎症に対する改善効果を発揮することを見いだした。
すなわち、SGLT2阻害薬が、血糖降下作用を示さないような低用量投与であっても、従来の尿細管に作用する尿糖排泄促進の機序とは全く異なる、腎糸球体構成細胞内へのグルコースの過剰流入の抑制といった機序で、グルコースに起因する腎症の改善効果を発揮することを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]ナトリウム/グルコース共輸送体2阻害物質(SGLT2阻害物質)を有効成分とし、血糖降下が認められない低用量で投与されるよう用いられることを特徴とするグルコースに起因する腎症の治療剤。
[2]SGLT2阻害物質が、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エンパグリフロジン及びトホグリフロジンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記[1]記載の治療剤。
[3]グルコースに起因する腎症が、糖尿病性腎症であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の治療剤。
本発明の治療剤によれば、血糖降下作用のない低用量の投与で、グルコースに起因する腎症を治療することができる。本発明の治療剤は、低用量の投与で効果が表れることから、既存のSGLT2阻害薬の尿糖排泄促進作用に起因する主な副作用である低血糖、多尿・頻尿、脱水、尿路感染症・性器感染症、ケトン体の増加といった問題がなく、また安全性も極めて高い。また、本発明の治療剤は、尿排出低下の影響を受けないため、腎不全等の腎機能が低下した患者に対しても有効である。本発明の治療剤は、腎症治療薬としての新たな適応拡大を可能とするものである。
2型糖尿病モデルdb/dbマウスの空腹時血糖に対するカナグリフロジン投与の効果を示す図である。 「db/+」は、対照db/+マウス(n=10)を表し、「db/db」は、自然発症2型糖尿病マウスを表す。「db/db 0」は、カナグリフロジン非投与のdb/dbマウス(n=10)を表し、「db/db 0.01」は、カナグリフロジン0.01mg/kg/日投与のdb/dbマウス(n=10)を表し、「db/db 3」は、カナグリフロジン3mg/kg/日投与のdb/dbマウス(n=10)を表す。「*」は、P<0.001 vs db/+マウスを表し、「n.s.」は、有意差なしを表す。 2型糖尿病モデルdb/dbマウスのフルクトサミンに対するカナグリフロジン投与の効果を示す図である。 「db/+」は、対照db/+マウス(n=10)を表し、「db/db」は、自然発症2型糖尿病マウスを表す。「db/db 0」は、カナグリフロジン非投与のdb/dbマウス(n=10)を表し、「db/db 0.01」は、カナグリフロジン0.01mg/kg/日投与のdb/dbマウス(n=10)を表し、「db/db 3」は、カナグリフロジン3mg/kg/日投与のdb/dbマウス(n=10)を表す。「*」は、P<0.001 vs db/+マウスを表し、「**」は、P<0.01 vs db/+マウスを表し、「n.s.」は、有意差なしを表す。 2型糖尿病モデルマウスのアルブミン尿に対するカナグリフロジン投与の改善効果(1日尿中アルブミン排泄量での評価結果)を示す図である。 「db/+」は、対照db/+マウス(n=10)を表し、「db/db」は、自然発症2型糖尿病マウスを表す。「db/db 0」は、カナグリフロジン非投与のdb/dbマウス(n=10)を表し、「db/db 0.01」は、カナグリフロジン0.01mg/kg/日投与のdb/dbマウス(n=10)を表し、「db/db 3」は、カナグリフロジン3mg/kg/日投与のdb/dbマウス(n=10)を表す。「*」は、P<0.001 vs db/+マウスを表す。 2型糖尿病モデルマウスのアルブミン尿に対するカナグリフロジン投与の改善効果(クレアチニン補正尿中アルブミン排泄率での評価結果)を示す図である。 「db/+」は、対照db/+マウス(n=10)を表し、「db/db」は、自然発症2型糖尿病マウスを表す。「db/db 0」は、カナグリフロジン非投与のdb/dbマウス(n=10)を表し、「db/db 0.01」は、カナグリフロジン0.01mg/kg/日投与のdb/dbマウス(n=10)を表し、「db/db 3」は、カナグリフロジン3mg/kg/日投与のdb/dbマウス(n=10)を表す。「*」は、P<0.001 vs db/+マウスを表す。 培養腎メサンジウム細胞(n=6)のグルコース取り込みに対するカナグリフロジン投与の抑制効果を示す図である。
本発明の治療剤は、グルコースに起因する腎症の治療剤であって、SGLT2阻害物質を有効成分とし、血糖降下が認められない低用量で投与されるよう用いられることを特徴とする。本発明の治療剤としては、例えば、1回に投与される製剤中に、血糖降下が認められない低用量の有効成分が含有されている態様を挙げることができる。
本発明は、SGLT2阻害物質が、血糖降下作用を認めない低用量投与において、尿細管SGLT2抑制とは全く異なった機序で、腎保護効果をもつことを見出したものである。すなわち、本発明では、SGLT2が、腎メサンギウム細胞にも存在することを確認し、さらにSGLT2阻害物質が、低用量投与で、メサンギウム細胞内へのグルコースの取り込みを抑制することを見いだしたものである。
本発明の治療剤によれば、高血糖による腎メサンギウム細胞などの腎構成細胞内へのグルコース過剰流入を抑制し、高血糖由来の細胞内の様々な代謝異常を改善すると考えられる。実際、実施例2に示されるように、SGLT2阻害物質は、糖尿病マウス腎組織で亢進した活性酸素産生を、尿細管のみならず糸球体においても改善した。
本発明の治療剤の対象となるグルコースに起因する腎症としては、グルコースの腎構成細胞への過剰流入に伴う腎の疾患であれば特に制限されるものではなく、例えば、糖尿病性腎症、慢性腎臓病(Chronic kidney disease; CKD)、急性腎障害(Acute kidney injury; AKI)等を挙げることができる。また、本発明の治療剤は、尿排出低下の影響を受けないため、腎不全等の腎機能が低下した患者(例えば、第4期(腎不全期)の患者)に対しても有効である。
本発明の治療剤におけるSGLT2阻害物質としては、SGLT2に結合しSGLT2を介したグルコース取り込みに対して拮抗的な阻害作用を示すものであれば特に制限されるものではなく、例えば、近位尿細管に存在するSGLT2を阻害して血糖を降下させる作用を有する物質である。
SGLT2阻害物質としては、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エンパグリフロジン、トホグリフロジン等を例示することができ、具体的には、既存のSGLT2阻害薬の有効成分である、カナグリフロジン水和物(C2425FOS・1/2HO)、イプラグリフロジン L−プロリン(C2121FOS・CNO)、ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(C2125ClO・C・HO)、ルセオグリフロジン水和物(C2330S・xHO)、エンパグリフロジン(C2327ClO)、トホグリフロジン水和物(C2226・HO)等を例示することができる。
なお、上記のように、本発明においては、例えば「カナグリフロジン」という用語は、下記のカナグリフロジン構造を備えたものを意味し、医薬上許容される水和物、アルコール付加物、アミノ酸付加物等を含むものである。その他の「イプラグリフロジン」等のSGLT2阻害物質も同様である。
本発明の治療剤は、近位尿細管のSGLT2抑制による尿糖排泄促進の機序とは全く異なった機序で腎症を改善するものであり、その投与量としては、上記のように、血糖降下が認められない用量で、腎症改善効果を発揮する。すなわち、本発明の治療剤は、SGLT2抑制の尿中有効濃度に達しない低用量の投与でも、血中または腎組織において腎メサンギウム細胞などの腎構成細胞のSGLT2を阻害する有効濃度に達して腎保護的に作用するものである。
本発明において血糖降下作用が示されない低用量としては、血糖が有意に降下しない量であり、SGLT2阻害物質が認可されている血糖降下薬の有効成分の場合には、認可された最小投与量よりも少ない用量を意味する。その下限は、効果が奏される範囲で適宜決定すればよいが、例えば、カナグリフロジン水和物は、認可された最小投与量の1/100程度である。イプラグリフロジン L−プロリンは、最小投与量における最高血中濃度(Cmax)がカナグリフロジンと類似し、阻害活性を示すIC50値も類似することから、同様に、認可された最小投与量の1/100程度である。ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物、ルセオグリフロジン水和物、エンパグリフロジン、トホグリフロジン水和物の場合は、最小投与量における最高血中濃度(Cmax)がカナグリフロジンの約1/10程度であり、IC50値は類似することから、1/10程度である。
具体的には、血糖降下薬として認可されているカナグリフロジン水和物では、成人1日当たり(カナグリフロジンとして)100mg未満であり、90mg以下であってもよく、70mg以下であってもよく、50mg以下であってもよく、30mg以下であってもよく、10mg以下であってもよく、5mg以下であってもよく、その下限は、1mg程度である。
イプラグリフロジン L−プロリンでは、成人1日当たり(イプラグリフロジンとして)50mg未満であり、40mg以下であってもよく、30mg以下であってもよく、20mg以下であってもよく、10mg以下であってもよく、5mg以下であってもよく、1mg以下であってもよく、その下限は、0.5mg程度である。
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物では、成人1日当たり(ダパグリフロジンとして)5mg未満であり、4mg以下であってもよく、3mg以下であってもよく、2mg以下であってもよく、1mg以下であってもよく、その下限は、0.5mg程度である。
ルセオグリフロジン水和物では、成人1日当たり(ルセオグリフロジンとして)2.5mg未満であり、2mg以下であってもよく、1.5mg以下であってもよく、1mg以下であってもよく、0.5mg以下であってもよく、その下限は、0.25mg程度である。
エンパグリフロジンでは、成人1日当たり10mg未満であり、9mg以下であってもよく、6mg以下であってもよく、4mg以下であってもよく、2mg以下であってもよく、その下限は、0.1mg程度である。
トホグリフロジン水和物では、成人1日当たり(トホグリフロジンとして)20mg未満であり、18mg以下であってもよく、15mg以下であってもよく、10mg以下であってもよく、5mg以下であってもよく、その下限は、2mg程度である。
本発明の治療剤の投与形態としては、経口用、注射用等が挙げられるが、既存のSGLT2阻害薬(血糖降下薬)同様、経口用であることが好ましい。また、本発明の治療剤の形態としては、錠状、顆粒状、粉末状、カプセル状、液状等、各種形態を挙げることができる。
また、本発明の治療剤を用いたグルコースに起因する腎症の治療方法としては、SGLT2阻害物質を有効成分とする本発明の治療剤を、血糖降下が認められない用量で患者に投与する方法であれば特に制限されるものではなく、上記のように、その投与方法としては、経口投与、注射投与等を例示することができる。本発明の治療剤の詳細及びその投与量、並びに治療対象の腎症の具体例等については上記のとおりである。
[予備試験]
自然発症2型糖尿病モデルdb/dbマウスの生後第12週より、既存のSGLT2阻害薬カナグリフロジン水和物を、カナグリフロジンとして3,1,0.1,0.01,0.001mg/kg/日の量で2週間経口投与して、体重、摂取量、尿量、血糖に対する効果を確認した。
その結果、カナグリフロジン水和物のいずれの投与量においても、体重、摂餌量および尿量には大きな変化は認められなかった。3,1mg/kg/日の投与では、空腹時血糖および平均血糖の指標であるフルクトサミン値は、非投与群に比較し有意な低下が認められたが、0.1、0.01、0.001mg/kg/日の投与では有意な血糖降下は認められなかった。
図1及び図2に、下記実施例1(尿中アルブミン排泄量に対する改善効果の確認)で用いた3mg/kg/日および0.01mg/kg/日の投与の場合の空腹時血糖および平均血糖の指標であるフルクトサミン値の結果を示す。
[実施例1]
カナグリフロジン水和物の血糖降下を認める通常投与量(3mg/kg/日)と血糖降下を認めない低用量(0.01mg/kg/日)におけるdb/dbマウス尿中アルブミン排泄量に対する改善効果を確認した。その結果を図3及び図4に示す。図3は、1日尿中アルブミン排泄量(μg/日)での評価結果を示し、図4は、クレアチニン補正尿中アルブミン排泄率(mg/g・Cre)での評価結果を示す。なお、蓄尿は、マウスごとに蓄尿ケージを用いて連続2日間蓄尿して行い、2日間の測定値の平均値を用いた。
図1及び図2に示すように、空腹時血糖および平均血糖の指標であるフルクトサミン値は、非投与群に比較し、3mg投与群において有意な低下が認められ、0.01mgでは有意な血糖降下は認められなかったが、図3及び図4に示すように、db/dbマウスで増加した尿中アルブミン排泄量は、カナグリフロジン3mg/kg/日および0.01mg/kg/日ともに有意な改善が認められた。尿中アルブミン排泄量の増加は、腎症発症の早期の特徴的な病態であり、その減少は、腎症の改善を意味する。
[実施例2]
腎の活性酸素(ROS)産生状態をジヒドロエチジウム(DHE)染色により確認した。db/dbマウスの腎組織では、糸球体および尿細管いずれもROS産生は対照群に比較し有意に増加していた。カナグリフロジン水和物3mg/kg/日および0.01mg/kg/日投与ではともに、尿細管のみならず糸球体においてもROS産生の増加が有意に改善され、同時に糸球体の組織学異常も改善した。ROS産生の増加は、腎症の進展増悪因子であり、糸球体でのROS産生の改善は、糸球体における進展増悪因子の改善を意味する。
[実施例3]
マウス糸球体より単離した培養腎メサンギウム細胞を用い、SGLT2発現の存在確認とグルコース取り込みに対するカナグリフロジン添加の効果を確認した。
SGLT2発現の存在確認において、培養腎メサンギウム細胞は、継代第4代から6代を実験に用いた。PCR法によりSGLT2RNAの発現を、ウエスタンブロット法によりSGLT2蛋白の発現を確認した。
次に、培養腎メサンギウム細胞へのグルコース取り込みに対するカナグリフロジン添加(+)および非添加(−)の効果について2デオキシグルコース法(2DG法)を用いて確認した。培養腎メサンギウム細胞は、継代第6代の細胞を用いた。その結果を図5に示す。
カナグリフロジンは、濃度依存性に2DGの細胞内への取り込みを阻害した。終濃度1μM添加で最大効果を認め、その場合、図5に示すように、約50%の糖の取り込みを抑制した。すなわち、SGLT2は、特異的に存在すると考えられている腎近位尿細管細胞のみならず、腎糸球体のメサンギウム細胞にも発現し、細胞内へのグルコースの取り込みに関与していることが確認された。
以上のように、本発明の治療剤(既存のSGLT2阻害薬)は、血糖降下を認めない低用量投与において糖尿病腎症を改善する効果をもつことが明らかとなった。
本発明の治療剤は、糖尿病性腎症等の治療薬としての新たな適応拡大を可能とするものであり、産業上の有用性は高い。

Claims (2)

  1. カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エンパグリフロジン及びトホグリフロジンから選ばれる少なくとも1種のナトリウム/グルコース共輸送体2阻害物質(SGLT2阻害物質)を有効成分とし、血糖降下が認められない低用量で投与されるよう用いられることを特徴とするグルコースに起因する腎症の治療剤。
  2. グルコースに起因する腎症が、糖尿病性腎症であることを特徴とする請求項記載の治療剤。
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