JP2019112472A - 網膜症治療剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】グルコースに起因する網膜症を治療及び/又は改善する治療剤を提供すること。【解決手段】ナトリウム/グルコース共輸送体2阻害物質(SGLT2阻害物質)を有効成分とすることを特徴とするグルコースに起因する網膜症の治療剤であり、通常投与量や、それ以下の血糖降下が認められない低用量で用いられる。【選択図】図1
Description
本発明は、グルコースに起因する網膜症を治療する治療剤に関する。
糖尿病性網膜症は、後天的失明の第2位の原因疾患であり、この網膜症の様々なステージから発症する黄班浮腫などによる視力低下は、多くの患者のQOLを著しく低下させる原因となっている。網膜症に対する眼科的治療法としては、網膜症重症例では光凝固療法や硝子体手術が行われており、この治療は、失明予防という観点からは有効な処置である。また、黄班浮腫に対しては、ステロイドや抗VEGF抗体の眼内注射が行われており、この治療は一時的には有効な処置である。
しかしながら、網膜症の進展増悪を抑制する特異的経口治療薬や、黄班浮腫を改善する経口治療薬は現在存在しておらず、その開発が強く望まれている。
一方、SGLT2阻害薬は、腎近位尿細管に特異的に存在し、グルコースの再吸収を行っているナトリウム/グルコース共輸送体2(sodium/glucose co−transporter2:SGLT2)を阻害して、尿からのグルコース排泄を促進することにより血糖降下作用を示す糖尿病治療薬であり、既に6種のSGLT2阻害薬の臨床応用が行われている(例えば、非特許文献1,2参照)。しかしながら、このSGLT2阻害薬が、網膜機能異常に対して直接的改善効果を有することは知られていない。
Bailey CJ. Renal glucose reabsorption inhibitors to treat diabetes. Trends Pharmacil Sci 2011; 32:63-71
Zaccadi F, Webb DR, Htike ZZ, Youssef D, Khunti K, Davies MJ. Efficacy and safety of sodium-glucose co-transporter-2 inhibitors in type 2 diabetes mellitus: systematic review and network meta-analysis. Diab Obes Metab 2016; 18:783-94
本発明の課題は、グルコースに起因する網膜症を治療及び/又は改善する治療剤を提供することにある。
本発明者らは、血糖降下作用を示す糖尿病治療薬としてのSGLT2阻害薬の作用効果について研究する中で、まず、SGLT2阻害薬の実際の投与量に対して、SGLT2阻害薬が作用する近位尿細管にはごく少量しか届いていないことに着目した。本発明者らは、さらに研究を進めた結果、既存のSGLT2阻害薬が、通常投与量のみならず、血糖降下作用を示さないような低用量投与においても、グルコースに起因する網膜機能異常に対する改善効果をもつことを見いだした。
すなわち、SGLT2阻害剤が、血糖降下作用を全く介さない機序で、グルコースに起因する網膜機能異常を改善できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]ナトリウム/グルコース共輸送体2阻害物質(SGLT2阻害物質)を有効成分とすることを特徴とするグルコースに起因する網膜症の治療剤。
[2]血糖降下が認められない低用量で投与されるよう用いられることを特徴とする上記[1]記載の治療剤。
[3]SGLT2阻害物質が、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エンパグリフロジン及びトホグリフロジンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の治療剤。
[4]グルコースに起因する網膜症が、糖尿病性網膜症及び/又は糖尿病性黄班浮腫であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか記載の治療剤。
[1]ナトリウム/グルコース共輸送体2阻害物質(SGLT2阻害物質)を有効成分とすることを特徴とするグルコースに起因する網膜症の治療剤。
[2]血糖降下が認められない低用量で投与されるよう用いられることを特徴とする上記[1]記載の治療剤。
[3]SGLT2阻害物質が、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エンパグリフロジン及びトホグリフロジンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の治療剤。
[4]グルコースに起因する網膜症が、糖尿病性網膜症及び/又は糖尿病性黄班浮腫であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか記載の治療剤。
本発明の治療剤によれば、通常投与量のみならず、血糖降下作用のない低用量の投与であっても、グルコースに起因する網膜症を治療することができる。本発明の治療剤は、低用量の投与で効果が表れることから、既存のSGLT2阻害薬の尿糖排泄促進作用に起因する主な副作用である低血糖、多尿・頻尿、脱水、尿路感染症・性器感染症、ケトン体の増加といった問題がなく、また安全性も極めて高い。本発明の治療剤は、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄班浮腫等の治療薬としての新たな適応拡大を可能とするものである。
本発明の治療剤は、グルコースに起因する網膜症の治療剤であって、SGLT2阻害物質を有効成分とすることを特徴とする。
本発明は、腎臓をターゲットとした血糖降下薬であるSGLT2阻害薬が、直接作用しないと考えられている網膜機能異常に対する改善作用をもつことを見いだしたものである。血糖降下作用を全く認めない低用量投与においても、網膜機能異常の改善作用を示すことは、この効果が血糖降下作用を介していないことを示している。
本発明の治療剤の対象となるグルコースに起因する網膜症としては、グルコースの網膜構成細胞への過剰流入に伴う網膜の疾患であれば特に制限されるものではなく、例えば、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄班浮腫、老人性黄斑変性症等を挙げることができる。
本発明の治療剤におけるSGLT2阻害物質としては、SGLT2に結合しSGLT2を介したグルコース取り込みに対して拮抗的な阻害作用を示すものであれば特に制限されるものではなく、例えば、近位尿細管に存在するSGLT2を阻害して血糖を降下させる作用を有する物質である。
SGLT2阻害物質としては、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エンパグリフロジン、トホグリフロジン等を例示することができ、具体的には、既存のSGLT2阻害薬の有効成分である、カナグリフロジン水和物(C24H25FO5S・1/2H2O)、イプラグリフロジン L−プロリン(C21H21FO5S・C5H9NO2)、ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(C21H25ClO6・C3H8O2・H2O)、ルセオグリフロジン水和物(C23H30O6S・xH2O)、エンパグリフロジン(C23H27ClO7)、トホグリフロジン水和物(C22H26O6・H2O)等を例示することができる。
なお、上記のように、本発明においては、例えば「カナグリフロジン」という用語は、下記のカナグリフロジン構造を備えたものを意味し、医薬上許容される水和物、アルコール付加物、アミノ酸付加物等を含むものである。その他の「イプラグリフロジン」等のSGLT2阻害物質も同様である。
本発明の治療剤の投与量としては、血糖降下作用が示される量であってもよいし、それより少ない低用量であってもよい。すなわち、本発明の治療剤は、血糖降下が認められない低用量で投与されるよう用いられてもよく、このような本発明の治療剤の態様としては、例えば、1回に投与される製剤中に、血糖降下が認められない低用量の有効成分が含有されている態様を挙げることができる。
本発明の治療剤は、血糖降下作用を全く介さない機序で網膜機能異常を改善できるものであり、血糖降下作用が示されない低用量であっても、その効果を発揮することができる。すなわち、本発明の治療剤は、SGLT2抑制の尿中有効濃度に達しない低用量の投与でも、血中または網膜組織において網膜構成細胞のSGLT2を阻害する有効濃度に達して網膜機能異常の改善効果を示すものである。
本発明において血糖降下作用が示されない低用量としては、血糖が有意に降下しない量であり、例えば、SGLT2阻害物質が認可されている血糖降下薬の有効成分の場合には、認可された最小投与量よりも少ない用量を意味する。その下限は、効果が奏される範囲で適宜決定すればよいが、例えば、カナグリフロジン水和物は、認可された最小投与量の1/100程度である。イプラグリフロジン L−プロリンは、最小投与量における最高血中濃度(Cmax)がカナグリフロジンと類似し、阻害活性を示すIC50値も類似することから、同様に、認可された最小投与量の1/100程度である。ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物、ルセオグリフロジン水和物、エンパグリフロジン、トホグリフロジン水和物の場合は、最小投与量における最高血中濃度(Cmax)がカナグリフロジンの約1/10程度であり、IC50値は類似することから、1/10程度である。
具体的には、血糖降下薬として認可されているカナグリフロジン水和物では、成人1日当たり(カナグリフロジンとして)100mg未満であり、90mg以下であってもよく、70mg以下であってもよく、50mg以下であってもよく、30mg以下であってもよく、10mg以下であってもよく、5mg以下であってもよく、その下限は、1mg程度である。
イプラグリフロジン L−プロリンでは、成人1日当たり(イプラグリフロジンとして)50mg未満であり、40mg以下であってもよく、30mg以下であってもよく、20mg以下であってもよく、10mg以下であってもよく、5mg以下であってもよく、1mg以下であってもよく、その下限は、0.5mg程度である。
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物では、成人1日当たり(ダパグリフロジンとして)5mg未満であり、4mg以下であってもよく、3mg以下であってもよく、2mg以下であってもよく、1mg以下であってもよく、その下限は、0.5mg程度である。
ルセオグリフロジン水和物では、成人1日当たり(ルセオグリフロジンとして)2.5mg未満であり、2mg以下であってもよく、1.5mg以下であってもよく、1mg以下であってもよく、0.5mg以下であってもよく、その下限は、0.25mg程度である。
エンパグリフロジンでは、成人1日当たり10mg未満であり、9mg以下であってもよく、6mg以下であってもよく、4mg以下であってもよく、2mg以下であってもよく、その下限は、0.1mg程度である。
トホグリフロジン水和物では、成人1日当たり(トホグリフロジンとして)20mg未満であり、18mg以下であってもよく、15mg以下であってもよく、10mg以下であってもよく、5mg以下であってもよく、その下限は、2mg程度である。
本発明の治療剤の投与形態としては、経口用、注射用、点眼用、眼内注射用等が挙げられるが、既存のSGLT2阻害薬(血糖降下薬)同様、経口用であることが好ましい。また、本発明の治療剤の形態としては、錠状、顆粒状、粉末状、カプセル状、液状等、各種形態を挙げることができる。
また、本発明の治療剤を用いたグルコースに起因する網膜症の治療方法としては、SGLT2阻害物質を有効成分とする本発明の治療剤を患者に投与する方法であれば特に制限されるものではなく、好ましくは血糖降下が認められない用量で投与する方法であり、上記のように、その投与方法としては、経口投与、注射投与、点眼投与、眼内注射等を例示することができる。本発明の治療剤の詳細及びその投与量、並びに治療対象の腎症の具体例等については上記のとおりである。
従来のステロイドや抗VEGF抗体の眼内注射治療が無効であった黄班浮腫を有する糖尿病網膜症症例4症例に対して、本発明の治療剤(既存のSGLT2阻害薬)を通常投与量又はそれ以下の投与量で投与し、その効果を確認した。具体的には、ダパグリフロジンを用いた3症例、カナグリフロジンを用いた1症例について、光干渉断層計(OCT)における評価により、その効果を確認した。
[症例1]
60歳、女性。2型糖尿病で、両眼増殖性網膜症と両眼黄斑浮腫を併発していた。頻回のステロイドテノン嚢下注射を行ったが治療抵抗性であった。
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を通常投与量の1/2の用量(ダパグリフロジンとして2.5mg/日)で投与した。
60歳、女性。2型糖尿病で、両眼増殖性網膜症と両眼黄斑浮腫を併発していた。頻回のステロイドテノン嚢下注射を行ったが治療抵抗性であった。
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を通常投与量の1/2の用量(ダパグリフロジンとして2.5mg/日)で投与した。
[症例2]
74歳、男性。2型糖尿病で、両眼増殖性網膜症と両眼黄斑浮腫を併発していた。ステロイドテノン嚢下注射を行ったが治療抵抗性であった。
カナグリフロジン水和物錠を通常投与量(カナグリフロジンとして100mg/日)で投与した。
74歳、男性。2型糖尿病で、両眼増殖性網膜症と両眼黄斑浮腫を併発していた。ステロイドテノン嚢下注射を行ったが治療抵抗性であった。
カナグリフロジン水和物錠を通常投与量(カナグリフロジンとして100mg/日)で投与した。
[症例3]
68歳、女性。2型糖尿病で、両糖尿病性単純網膜症、右黄斑浮腫であった。
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を通常投与量の1/2の用量(ダパグリフロジンとして2.5mg/日)で投与した。
68歳、女性。2型糖尿病で、両糖尿病性単純網膜症、右黄斑浮腫であった。
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を通常投与量の1/2の用量(ダパグリフロジンとして2.5mg/日)で投与した。
[症例4]
78歳、男性。2型糖尿病で、両糖尿病性増殖前網膜症、右黄斑浮腫であった。右黄斑浮腫に対してステロイド眼内注射施行したが抵抗性であった。
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を通常投与量の1/2の用量(ダパグリフロジンとして2.5mg/日)で投与した。
78歳、男性。2型糖尿病で、両糖尿病性増殖前網膜症、右黄斑浮腫であった。右黄斑浮腫に対してステロイド眼内注射施行したが抵抗性であった。
ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を通常投与量の1/2の用量(ダパグリフロジンとして2.5mg/日)で投与した。
上記症例1〜4の4症例についての結果をそれぞれ図1〜4に示す。
[症例1]
図1に示すように、ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を投与開始して約1か月後、OCTにて黄斑部網膜厚の減少、嚢胞の縮小、層構造の改善が認められた。投与前後のHbA1cは6.7から6.6と血糖コントロールの変化はなかった。視力は、右眼が0.7から0.8まで改善し、左眼は1.2と保たれており変化はなかった。
図1に示すように、ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を投与開始して約1か月後、OCTにて黄斑部網膜厚の減少、嚢胞の縮小、層構造の改善が認められた。投与前後のHbA1cは6.7から6.6と血糖コントロールの変化はなかった。視力は、右眼が0.7から0.8まで改善し、左眼は1.2と保たれており変化はなかった。
[症例2]
図2に示すように、カナグリフロジン水和物錠を投与開始して約5か月後、OCTにて黄斑部網膜厚の減少、嚢胞の縮小、層構造の著明な改善が認められた。HbA1cは投与前8.0から経過8.4、8.1、7.8と血糖コントロールの変化はなかった。視力は、右眼が0.4から0.5まで改善し、左眼が0.7から1.2まで改善した。
図2に示すように、カナグリフロジン水和物錠を投与開始して約5か月後、OCTにて黄斑部網膜厚の減少、嚢胞の縮小、層構造の著明な改善が認められた。HbA1cは投与前8.0から経過8.4、8.1、7.8と血糖コントロールの変化はなかった。視力は、右眼が0.4から0.5まで改善し、左眼が0.7から1.2まで改善した。
[症例3]
図3に示すように、ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を投与開始後4週間で、OCTにて黄斑部網膜厚の減少、嚢胞の縮小が認められた。HbA1cは8.7から8.0へ改善した。視力は0.15から0.2へ改善した。
図3に示すように、ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を投与開始後4週間で、OCTにて黄斑部網膜厚の減少、嚢胞の縮小が認められた。HbA1cは8.7から8.0へ改善した。視力は0.15から0.2へ改善した。
[症例4]
図4に示すように、ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を投与開始後4週間で、OCTにて嚢胞の縮小を認めた。HbA1cは5.9から6.1%と不変であった。視力は重症網膜症のため0.1で不変であった。
図4に示すように、ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠を投与開始後4週間で、OCTにて嚢胞の縮小を認めた。HbA1cは5.9から6.1%と不変であった。視力は重症網膜症のため0.1で不変であった。
上記のように、4症例で著明な黄班浮腫の改善効果が認められた。4症例のうち3例は投与前後において、血糖コントロール状態の変化は全く認められず(血糖降下は認められず)、黄班浮腫の改善効果は、血糖コントロールの改善によるものでないことが確認された。
続いて、本発明の治療剤(既存のSGLT2阻害薬)による糖尿病網膜機能に対する改善効果(糖尿病網膜血管の代表的異常である透過性亢進に対する改善効果)を自然発症2型糖尿病モデルマウスdb/dbを用いて確認した。
[通常用量(ルセオグリフロジン)]
自然発症2型糖尿病モデルdb/dbマウスの生後第8週より、既存のSGLT2阻害薬であるルセオグリフロジン水和物をマウスでの血糖降下作用が確認されている投与量(ルセオグリフロジンとして10mg/kg/日)で経口投与した。SGLT2阻害薬投与2週後マウスを安楽死させ、10mlのリン酸緩衝液(PBS)を用いて全血管内を十分に還流後、眼球を摘出し、網膜を単離後、血管より漏出した網膜組織内のアルブミン量をウエスタンブロット法により測定することにより血管透過性亢進を評価した。網膜内アルブミン量はβアクチンで補正後、対照db/+マウスを基準として%コントロールで表した。その結果を図5に示す。
自然発症2型糖尿病モデルdb/dbマウスの生後第8週より、既存のSGLT2阻害薬であるルセオグリフロジン水和物をマウスでの血糖降下作用が確認されている投与量(ルセオグリフロジンとして10mg/kg/日)で経口投与した。SGLT2阻害薬投与2週後マウスを安楽死させ、10mlのリン酸緩衝液(PBS)を用いて全血管内を十分に還流後、眼球を摘出し、網膜を単離後、血管より漏出した網膜組織内のアルブミン量をウエスタンブロット法により測定することにより血管透過性亢進を評価した。網膜内アルブミン量はβアクチンで補正後、対照db/+マウスを基準として%コントロールで表した。その結果を図5に示す。
図5に示されるように、2型糖尿病モデルdb/dbマウス網膜のアルブミン量は、対照群に比較し有意に増加しており網膜血管透過性の亢進が示された。また、マウスでの血糖降下作用が確認されているルセオグリフロジン10mg/kg/日の投与量においては、血糖db/dbマウスの網膜アルブミン量の増加は有意に対照群レベルまで改善し、網膜血管透過性亢進の機能改善効果が示された。
[通常用量及び低用量(カナグリフロジン)]
次に、ルセオグリフロジンと同様に、カナグリフロジンを用いて網膜血管透過性亢進に対する機能改善を評価した。既存のSGLT2阻害薬であるカナグリフロジン水和物をマウスでの血糖降下作用が確認されている投与量(カナグリフロジンとして3mg/kg/日)と、血糖降下作用がない低用量(カナグリフロジンとして0.01mg/kg/日)で2週間経口投与した。
次に、ルセオグリフロジンと同様に、カナグリフロジンを用いて網膜血管透過性亢進に対する機能改善を評価した。既存のSGLT2阻害薬であるカナグリフロジン水和物をマウスでの血糖降下作用が確認されている投与量(カナグリフロジンとして3mg/kg/日)と、血糖降下作用がない低用量(カナグリフロジンとして0.01mg/kg/日)で2週間経口投与した。
なお、上記血糖降下作用がない低用量(カナグリフロジンとして0.01mg/kg/日)は、以下の方法により確認した。
自然発症2型糖尿病モデルdb/dbマウスの生後第12週より、既存のSGLT2阻害薬カナグリフロジン水和物を、カナグリフロジンとして3,1,0.1,0.01,0.001mg/kg/日の量で2週間経口投与して、体重、摂取量、尿量、血糖に対する効果を確認した。
自然発症2型糖尿病モデルdb/dbマウスの生後第12週より、既存のSGLT2阻害薬カナグリフロジン水和物を、カナグリフロジンとして3,1,0.1,0.01,0.001mg/kg/日の量で2週間経口投与して、体重、摂取量、尿量、血糖に対する効果を確認した。
その結果、カナグリフロジン水和物のいずれの投与量においても、体重、摂餌量および尿量には大きな変化は認められなかった。3,1mg/kg/日の投与では、空腹時血糖および平均血糖の指標であるフルクトサミン値は、非投与群に比較し有意な低下が認められたが、0.1、0.01、0.001mg/kg/日の投与では有意な血糖降下は認められなかった。
図6及び図7に、カナグリフロジン水和物3mg/kg/日および0.01mg/kg/日の投与の場合の空腹時血糖および平均血糖の指標であるフルクトサミン値の結果を示す。
図6及び7に示すように、空腹時血糖および平均血糖の指標であるフルクトサミン値は、非投与群に比較し、3mg/kg/日投与群において有意な低下が認められ、0.01mg/kg/日では有意な血糖降下は認められなかったが、図8に示すように、網膜アルブミン量の増加は、カナグリフロジン水和物3mg/kg/日、及び0.01mg/kg/日投与のいずれの群においても有意に対照群レベルまで改善しており、網膜血管透過性亢進の機能改善効果が確認された。
網膜症の成因として、高血糖による網膜構成細胞内への過剰なグルコースの流入とそれによって引き起こされる細胞内での様々な代謝異常(プロテインキナーゼ活性化、酸化ストレス亢進、終末糖化産物AGEの蓄積など)が推定されている。特に、高血糖よるペリサイト(周皮細胞)の機能異常は網膜症の初期病態としてみられ、網膜血管の血流調節、血管新生、血管内皮細胞の透過性の異常を惹起して、網膜症の成因として重要と考えられている。また、血管透過性の亢進は黄班浮腫の成因としても考えられている。上記結果は、SGLT2阻害薬が、糖尿病網膜の血管透過性の亢進を改善することを示しており、高血糖による網膜ペリサイトへのグルコース過剰流入を抑制し、高血糖由来のペリサイト機能異常を改善したと考えられる。
以上のように、本発明の治療剤(既存のSGLT2阻害薬)は、血糖降下作用のある通常投与量と血糖降下を認めない低用量投与の両方において糖尿病網膜機能異常を改善する効果をもつことが明らかとなった。
本発明の治療剤は、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄班浮腫等の治療薬としての新たな適応拡大を可能とするものであり、産業上の有用性は高い。
Claims (3)
- 糖尿病治療薬として使用可能なナトリウム/グルコース共輸送体2阻害物質(SGLT2阻害物質)を有効成分とし、血糖降下が認められない低用量で投与されるよう用いられることを特徴とするグルコースに起因する網膜症の治療剤。
- SGLT2阻害物質が、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エンパグリフロジン及びトホグリフロジンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の治療剤。
- グルコースに起因する網膜症が、糖尿病性網膜症及び/又は糖尿病性黄班浮腫であることを特徴とする請求項1又は2記載の治療剤。
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CN116370638A (zh) * | 2023-03-21 | 2023-07-04 | 深圳市第二人民医院(深圳市转化医学研究院) | Sirt5抑制剂在制备糖尿病视网膜病变治疗药物中的应用 |
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