JP6563306B2 - 四重極型質量分析計及び質量分析方法 - Google Patents
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Description
選択イオン検出測定手法は、ターゲットとなる複数の質量数に対応して段階的に変化する電圧を四重極質量フィルタに印加して、そのターゲットとなる質量数のイオン強度を検出するものである。以下の説明では、選択イオン検出測定は、SIM(Selected Ion Monitoring)測定と称する。
SIM測定は、例えば麻薬の検査やドーピング検査のように、既知であるターゲット物質がどの程度混入しているかを検査する定量分析に適している。
図8Aの横軸は時間、縦軸は四重極質量フィルタに印加する電圧を示す。
図8Aの例は、四重極質量フィルタに、ターゲットになる4つの質量数に対応した4つの電圧VsA,VsB,VsC,VsDを順に印加するものである。すなわち、四重極質量フィルタには、タイミングT1に電圧VsAを印加し、タイミングT1からの一定時間が経過する毎のタイミングT2に電圧VsBを印加し、タイミングT3に電圧VsCを印加し、タイミングT4に電圧VsDを印加する。そして、電圧VsDを印加した後、一定時間が経過すると、セトリングタイムの期間に、四重極質量フィルタに印加する電圧を電圧VsAに戻す。
この4つの電圧VsA,VsB,VsC,VsDを順に設定する期間を1サイクルとした電圧を四重極質量フィルタに印加して、四重極型質量分析計が繰り返し測定を行う。
スキャン測定は、未知のサンプルに対して、どのような物質が存在するかを判断する定性分析に適している。
図8Bの横軸は時間、縦軸は四重極質量フィルタの印加電圧を示す。
スキャン測定手法の場合には、四重極質量フィルタに印加する電圧は、電圧Vsaから電圧Vsbまでほぼ一定の増加率で変化する電圧とする。そして、印加電圧が電圧Vsbになった後には、セトリングタイムの期間に、電圧Vsaに戻す。この電圧Vsaから電圧Vsbまで変化させて、電圧Vsaに戻るまでの期間を1サイクルとし、繰り返し測定を行う。
なお、スキャン測定手法で電圧Vsaから電圧Vsbまで電圧値を変化させる処理としては、例えばアナログ的に連続的に直線上に電圧値を変化させる処理の他、デジタル的に微小な電圧幅でステップ状に電圧を変化させる処理でもよい。
ところで、SIM測定を行った際には、試料にターゲット物質数以外の未知の物質が混入していた場合には、その未知の物質を検出することができない。このため、通常は、SIM測定後に、同じ試料に対して別途スキャン測定を行い、未知の物質が検出されるか否かを判断するようにしていた。
四重極型質量分析計は、この時間t1から時間t2までのSIM測定と、時間t2から時間t3までのスキャン測定を1サイクルとし、複数サイクル繰り返して測定を行う。
例えば、電圧VsAとしたとき、m/z値がm1のイオン強度α1が検出される。また、電圧VsBとしたとき、m/z値がm2のイオン強度α2が検出される。また、電圧VsCとしたとき、m/z値がm3のイオン強度α3が検出される。さらに、電圧VsDとしたとき、m/z値がm4のイオン強度α4が検出される。
制御部は、四重極質量フィルタの印加電圧をターゲットとなる複数の質量数に対応した複数段階に設定して、検出器でイオンを検出させる選択イオン検出測定と、四重極質量フィルタの印加電圧を開始電圧から終了電圧までほぼ連続的に変化させて、検出器でイオンを検出させるスキャン測定とを、交互に実行させる。
ここで、ターゲットとなる複数の質量数に対応した選択イオン検出測定時の四重極質量フィルタの複数段の印加電圧は、試料の分析に先立って行われた予備スキャンの結果に基づいて設定されると共に、スキャン測定時の四重極質量フィルタの印加電圧の開始電圧と終了電圧は、選択イオン検出測定時に設定した複数段の印加電圧で得られるイオンの強度が変化する範囲のほぼ全体が含まれるようにした。
また、スキャン測定時の四重極質量フィルタの印加電圧の開始電圧及び終了電圧は、少なくとも、選択イオン検出測定時の複数段の印加電圧の内の最も低い電圧及び最も高い電圧よりも、検出される質量数の分解能を決める半値全幅に対応した電圧だけシフトさせて、印加電圧が変化する範囲を拡張するようにした。
[1.四重極型質量分析計の構成例]
図1は、本例の四重極型質量分析計100の構成例を示す図である。
四重極型質量分析計100は、イオン源120を備え、試料前処理装置200で前処理された試料がインターフェース110を介してイオン源120に供給される。インターフェース110を配置するのは1つの例であり、試料前処理装置200とイオン源120とが直接接続された構成としてもよい。
イオン源120は、試料前処理装置200から供給された試料をイオン化する。イオン源120で得られたイオンiは、イオン光学系130を介して分析部140に供給され、分析部140を通過したイオンiの強度が検出器150で検出される。
したがって、検出器150は、四重極質量フィルタ141に印加した電圧に対応した質量数のイオン強度を出力する。
制御ボード160は、制御部162とRAM163と通信コントローラ164を備え、これらの各部がバスラインで接続されている。そして、アナログ/デジタル変換機161で変換されたイオン強度のデータは、RAM163に供給されて記憶される。制御部162は、四重極質量フィルタ141に供給した電圧とRAM163に記憶されたイオン強度のデータとから、質量分析結果のデータを作成し、RAM163に質量分析結果のデータを記憶する。
ここで、四重極質量フィルタ141の印加電圧について説明すると、四重極質量フィルタ141の印加電圧Vsは、次式により定義される。
Vs=±(V+Ucosωt)
ここで、Vは直流電圧、Ucosωtは高周波交流電圧の最大値である。ωは、ω=2π×fで定義される角周波数である(fは高周波の周波数)。制御部162の印加電圧Vsを可変する際には、高周波交流電圧Uと直流電圧Vの比率を一定に保つようにする。なお、高周波交流電圧Uと直流電圧Vの比率を調整することで、検出データの分解能を適正に設定することができる。
また、印加電圧Vsの高周波交流電圧成分(Ucosωt)は、制御部162の制御に基づいて信号発生機167で生成された直流電圧と、信号発生器168で生成された高周波成分が乗算機169で乗算されRF増幅器171により増幅されることにより生成される。印加電圧Vsは、これらふたつの直流電圧(V)と高周波交流電圧成分(Ucosωt)が加算機172により加算されることにより生成され、四重極質量フィルタ141に供給される。具体的には、四重極質量フィルタ141を構成する4つの電極の内の一方の2つの電極に、−(V+Ucosωt)の電圧が印加され、他方の2つの電極に、+(V+Ucosωt)の電圧が印加される。
ここで、本例の場合には、SIM測定手法とスキャン測定手法とを組み合わせた測定を行う。
図2は、本例の四重極型質量分析計100による測定処理の流れの例を示すフローチャートである。ここでは、SIM測定手法とスキャン測定手法とを組み合わせた測定を行う。
まず、四重極型質量分析計100は、制御部162で、予備スキャンとしてキャリブレーション測定を実施する(ステップS11)。このキャリブレーション測定では、試料として標準サンプルを用意してスキャンを行い、その標準サンプルの測定結果で得られた波形の半値全幅を用いて分解能の調整を行うと共に、四重極質量フィルタ141の印加電圧と検出値(m/z値)との対応が適正となるように調整する。半値全幅と分解能との関係については後述する。
キャリブレーション測定を行うことで、ターゲットとなる複数の質量数を検出するための四重極質量フィルタ141の印加電圧が定まる。
そして、制御部162は、この測定の実施により得られた測定データを、制御ボード160からユーザインターフェースPC300に転送する(ステップS15)。そして、制御部162は、測定動作を停止する(ステップS16)。
図3は、本例の四重極型質量分析計100が、SIM測定手法とスキャン測定手法とを組み合わせて測定を行う際の、四重極質量フィルタ141の印加電圧の設定例を示す。
図3において、横軸は時間を示し、縦軸は四重極質量フィルタ141の印加電圧を示す。
この例では、時間t11から時間t12までの期間に、四重極質量フィルタ141に、ターゲットになる4つの質量数に対応した4つの電圧Vs1,Vs2,Vs3,Vs4を順に印加する。この4つの電圧Vs1,Vs2,Vs3,Vs4を順に印加する期間に、四重極型質量分析計はSIM測定を行う。ここでは、SIM測定時に印加する4つの電圧Vs1,Vs2,Vs3,Vs4の内で、最初に設定する電圧Vs1を開始印加電圧とし、最後に設定する電圧Vs4を終了印加電圧とする。
例えば、印加電圧Vs1としたとき、m/z値がm1のイオン強度α11が検出される。また、印加電圧Vs2としたとき、m/z値がm2のイオン強度α12が検出される。また、印加電圧Vs3としたとき、m/z値がm3のイオン強度α13が検出される。さらに、印加電圧Vs4としたとき、m/z値がm4のイオン強度α14が検出される。
次に、図5〜図7を参照して、スキャン測定時に電圧幅を拡張する際の条件である、測定可能な質量数の分解能を決める半値全幅について説明する。
まず、四重極型質量分析計100で得られる検出データの分解能について説明する。分解能とは、隣り合う2つのピークを識別できる能力であり、2つのピークを識別可能な距離を示す。
図7の例は、ピーク強度が同じ成分Aと成分Bを、半値全幅ΔMだけ離した場合の検出波形を示す。すなわち、図7に示すように、各成分A,Bのイオン強度(高さ)がhであるとき、そのイオン強度の半分の高さ(h/2)で、2つの成分A,Bの値が交叉するようにした。ここでは、2つの成分A,Bの半値全幅ΔMA,ΔMBは同じであり、2つの成分A,Bの距離(半値全幅ΔM)は、ΔMA及びΔMBと等しくなる。
なお、上述した各実施の形態例で説明した構成や処理は、あくまでも好適な一例を示すものであり、本発明はここで説明した実施の形態例に限定されるものではない。
例えば、上述した実施の形態例では、SIM測定とスキャン測定を組み合わせて測定を行う際に、スキャン測定時の測定電圧範囲を、半値全幅に相当する電圧だけ拡張するようにした。これに対して、四重極型質量分析計100として、少なくとも半値全幅に相当する電圧以上拡張したものであれば、より広い範囲でスキャン測定を行うようにしてもよい。但し、スキャン測定を行う範囲が広すぎると、スキャン測定に時間がかかるため、半値全幅に相当する電圧か、その電圧よりも若干広い程度の範囲に拡張するのが好ましい。
また、図3や図4の測定例では、SIM測定で4つの質量数をターゲットとした場合を示した。これに対して、4つ以外の複数の質量数のターゲットをSIM測定で測定するようにしてもよい。
Claims (4)
- 試料をイオン化するイオン源と、
前記イオン源で発生したイオンが供給される四重極質量フィルタと、
前記四重極質量フィルタを通過したイオンを検出する検出器と、
前記四重極質量フィルタの印加電圧をターゲットとなる複数の質量数に対応した複数段階に設定して、前記検出器でイオンを検出させる選択イオン検出測定と、前記四重極質量フィルタの印加電圧を開始電圧から終了電圧までほぼ連続的に変化させて、前記検出器でイオンを検出させるスキャン測定とを、交互に実行させる制御部とを備え、
ターゲットとなる複数の質量数に対応した前記選択イオン検出測定時の前記四重極質量フィルタの複数段の印加電圧は、前記試料の分析に先立って行われた予備スキャンの結果に基づいて設定されると共に、前記スキャン測定時の前記四重極質量フィルタの印加電圧の開始電圧と終了電圧は、前記選択イオン検出測定時に設定した複数段の印加電圧で得られるイオンの強度が変化する範囲のほぼ全体が含まれるようにし、
前記スキャン測定時の前記四重極質量フィルタの印加電圧の開始電圧及び終了電圧は、少なくとも、前記選択イオン検出測定時の複数段の印加電圧の内の最も低い電圧及び最も高い電圧よりも、検出される質量数の分解能を決める半値全幅に対応した電圧だけシフトさせて、印加電圧が変化する範囲を拡張するようにした
四重極型質量分析計。 - 前記予備スキャンは、キャリブレーション用のスキャンである
請求項1に記載の四重極型質量分析計。 - イオン源によりイオン化された試料を四重極質量フィルタに供給し、前記四重極質量フィルタを通過したイオンを検出器で検出して質量分析を行う質量分析方法において、
前記四重極質量フィルタの印加電圧をターゲットとなる複数の質量数に対応した複数段階に設定して、前記検出器でイオンを検出させる選択イオン検出測定と、前記四重極質量フィルタの印加電圧を開始電圧から終了電圧までほぼ連続的に変化させて、前記検出器でイオンを検出させるスキャン測定とを、交互に実行させ、
ターゲットとなる複数の質量数に対応した前記選択イオン検出測定時の前記四重極質量フィルタの複数段の印加電圧が、前記試料の分析に先立って行われた予備スキャンの結果に基づいて設定されると共に、前記スキャン測定時の前記四重極質量フィルタの印加電圧の開始電圧と終了電圧は、前記選択イオン検出測定時に設定した複数段の印加電圧で得られるイオンの強度が変化する範囲のほぼ全体が含まれるように設定し、
前記スキャン測定時の前記四重極質量フィルタの印加電圧の開始電圧及び終了電圧は、少なくとも、前記選択イオン検出測定時の複数段の印加電圧の内の最も低い電圧及び最も高い電圧よりも、検出される質量数の分解能を決める半値全幅に対応した電圧だけシフトさせて、印加電圧が変化する範囲を拡張するようにした
質量分析方法。 - 前記予備スキャンは、キャリブレーション用のスキャンである
請求項3に記載の質量分析方法。
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